(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002439
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】エンドリボヌクレアーゼ、タンパク質、ポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換体、複合体、RNA分解物の製造方法、RNAの切断方法及び細胞制御方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/55 20060101AFI20231228BHJP
C12N 9/16 20060101ALI20231228BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20231228BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20231228BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20231228BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231228BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20231228BHJP
C12P 19/34 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C12N15/55
C12N9/16 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P19/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101605
(22)【出願日】2022-06-24
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り アドレス:https//www.tci-f.or.jp/category/news/page/2、https://www.tci-f.or.jp/wp-content/uploads/2021/04/%E6%88%90%E6%9E%9C%E5%A0%B1%E5%91%8A%E6%9B%B8%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%96%E3%82%B5%E3%82%A4%E3%83%88_%E6%9D%B1%E4%BA%AC%E5%8C%96%E6%88%90%E5%8C%96%E5%AD%A6%E6%8C%AF%E8%88%88%E8%B2%A1%E5%9B%A3-_%E5%B8%B8%E7%94%B0%E8%81%A1%E5%85%88%E7%94%9F.pdf、掲載日:令和3年6月28日
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TRITON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100177149
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 浩義
(74)【代理人】
【識別番号】100197701
【弁理士】
【氏名又は名称】長野 正
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】野田 尚宏
(72)【発明者】
【氏名】横田 亜紀子
(72)【発明者】
【氏名】岡部 拓真
(72)【発明者】
【氏名】葵 理恵
(72)【発明者】
【氏名】石塚 寛子
(72)【発明者】
【氏名】江 雨濃
(72)【発明者】
【氏名】常田 聡
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050LL05
4B064AF23
4B064CA21
4B064CB04
4B064DA20
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AA57X
4B065AA57Y
4B065AA72X
4B065AA72Y
4B065AA83X
4B065AA83Y
4B065AA90X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配列特異的にRNAを切断することができる新規のエンドリボヌクレアーゼを提供する。
【解決手段】エンドリボヌクレアーゼは、以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなり、RNAに含まれる5’-UACU-3’又は5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解する。
(a)特定の配列からなるアミノ酸配列
(b)前記アミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなり、RNAに含まれる5’-UACU-3’又は5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解する、エンドリボヌクレアーゼ。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【請求項2】
以下の(a)、(b)、(c)及び(d)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、請求項1に記載のエンドリボヌクレアーゼに結合し、エンドリボヌクレアーゼ活性を抑制する、タンパク質。
(a)配列番号3に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号4に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【請求項3】
請求項1に記載のエンドリボヌクレアーゼをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項2に記載のタンパク質をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項7】
請求項5及び6に記載の発現ベクターの少なくとも一方を含む、形質転換体。
【請求項8】
請求項3に記載のポリヌクレオチドと、
請求項4に記載のポリヌクレオチドと、
を含む、発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターを含む、形質転換体。
【請求項10】
請求項5に記載の発現ベクターと、
発現誘導剤の存在下で発現し、前記ポリヌクレオチドにコードされる前記エンドリボヌクレアーゼを発現させるRNAポリメラーゼをコードする遺伝子と、
前記発現誘導剤の非存在下で発現した前記RNAポリメラーゼを阻害するリゾチームをコードする遺伝子と、
を有する、形質転換体。
【請求項11】
トキシンとアンチトキシンとの複合体であって、
前記トキシンが請求項1に記載のエンドリボヌクレアーゼであって、
前記アンチトキシンが請求項2に記載のタンパク質である、複合体。
【請求項12】
請求項1に記載のエンドリボヌクレアーゼを生体外でRNAに作用させて前記RNAを分解する分解ステップを含む、
RNA分解物の製造方法。
【請求項13】
前記エンドリボヌクレアーゼに、請求項2に記載のタンパク質を結合させて前記RNAの分解を停止させる停止ステップをさらに含む、
請求項12に記載のRNA分解物の製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載のエンドリボヌクレアーゼを生体外で用いて、RNAに含まれる5’-UACU-3’又は5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解する切断ステップを含む、
RNAの切断方法。
【請求項15】
請求項1に記載のエンドリボヌクレアーゼを、ベクターを用いて生体外の細胞で発現させ、前記エンドリボヌクレアーゼによる前記細胞内のRNA分解反応を促進させ、前記細胞の増殖を阻害する阻害ステップを含む、
細胞制御方法。
【請求項16】
請求項2に記載のタンパク質を、ベクターを用いて前記細胞で発現させ、前記エンドリボヌクレアーゼによる前記細胞の増殖の阻害を停止する停止ステップをさらに含む、
請求項15に記載の細胞制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドリボヌクレアーゼ、タンパク質、ポリヌクレオチド、発現ベクター、形質転換体、複合体、RNA分解物の製造方法、RNAの切断方法及び細胞制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境ストレス条件下でDNA複製反応及びタンパク質合成反応等を抑制し、自らの増殖を抑えるトキシン-アンチトキシン機構(TA機構)を有する微生物が知られている。通常、アンチトキシンがトキシンの発現又は機能を抑制している。環境の変化等によってアンチトキシンが分解されるとトキシンが活性化する。活性化したトキシンは微生物の増殖阻害及び細胞の休眠等を引き起こす。TA機構は、アンチトキシンの中和メカニズムに基づきI型からVI型に分類される。トキシンとアンチトキシンとがともにタンパク質であるII型では、トキシン-アンチトキシン複合体が形成される。
【0003】
II型のTA機構におけるトキシンの多くはエンドリボヌクレアーゼとして機能する。このようなトキシンとしてMazF及びPemK等がある。MazFによるRNAの開裂様式は、MazFが認識する塩基配列(切断配列)の長さ及び切断箇所によって異なり多様である。
【0004】
非特許文献1では、大腸菌が有するMazFが一本鎖RNAの塩基配列“ACA”を認識し切断することが報告されている。非特許文献2では、黄色ブドウ球菌が有するMazFが一本鎖RNAの塩基配列“UACAU”を切断することが報告されている。非特許文献3には、Xylella fastidiosa(X.fastidiosa)が有するPemKが一本鎖RNAの塩基配列“UACU”及び“UACG”を認識し切断することが開示されている。
【0005】
上述のような一本鎖RNAを配列特異的に切断する酵素はRNA版の制限酵素として遺伝子工学の分野で使用され得る。また、RNAワクチン及びRNAアプタマー等としてのRNAの品質の確認に利用されることが期待される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Yonglong Zhang,外5名,“MazF Cleaves Cellular mRNAs Specifically at ACA to Block Protein Synthesis in Escherichia coli”,Molecular Cell,Vol.12,913-923,2003年
【非特許文献2】Ling Zhu,外8名,“Staphylococcus aureus MazF Specifically Cleaves a Pentad Sequence,UACAU,Which Is Unusually Abundant in the mRNA for Pathogenic Adhesive Factor SraP”,Journal of Bacteriology,Vol.191,No.10,3248-3255,2009年
【非特許文献3】Min Woo Lee,外2名,“Xylella fastidiosa Plasmid-Encoded PemK Toxin Is an Endoribonuclease”,Phytopathology,Vol.102,No.1,32-40,2012年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
配列特異的にRNAを切断できるエンドリボヌクレアーゼは、RNAの切断技術といった遺伝子工学の他、RNAの切断を介した細胞制御技術等の基盤構築に有用である。エンドリボヌクレアーゼが認識する塩基配列が重複しても、酵素の活性にはエンドリボヌクレアーゼそれぞれで異なる特性がある。利用可能なエンドリボヌクレアーゼの多様性を確保することで、基盤技術としての汎用性を高めることができる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、配列特異的にRNAを切断することができる新規のエンドリボヌクレアーゼ、当該エンドリボヌクレアーゼの活性を阻害するタンパク質、当該エンドリボヌクレアーゼ及びタンパク質を発現させるのに有用なポリヌクレオチド、発現ベクター並びに形質転換体を提供することを目的とする。また、当該エンドリボヌクレアーゼ及び当該タンパク質を、それぞれトキシン及びアンチトキシンとする複合体を提供することを目的とする。さらに、配列特異的にRNAを切断することができるRNA分解物の製造方法及びRNAの切断方法、並びに当該エンドリボヌクレアーゼを利用した細胞制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、食中毒の原因菌として知られるサルモネラ菌(Salmonella enterica)が有するRNA干渉酵素であるMazF-SEA及びその阻害物質であるMazE-SEAを発現させ、RNAの切断活性及び配列特異性を検討し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼは、
以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなり、RNAに含まれる5’-UACU-3’又は5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解する。
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【0011】
本発明の第2の観点に係るタンパク質は、
以下の(a)、(b)、(c)及び(d)からなる群から選択されるアミノ酸配列からなり、上記本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼに結合し、エンドリボヌクレアーゼ活性を抑制する。
(a)配列番号3に示されるアミノ酸配列
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
(c)配列番号4に示されるアミノ酸配列
(d)配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列
【0012】
本発明の第3の観点に係るポリヌクレオチドは、
上記本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼをコードする塩基配列からなる。
【0013】
本発明の第4の観点に係るポリヌクレオチドは、
上記本発明の第2の観点に係るタンパク質をコードする塩基配列からなる。
【0014】
本発明の第5の観点に係る発現ベクターは、
本発明の第3の観点に係るポリヌクレオチドを含む。
【0015】
本発明の第6の観点に係る発現ベクターは、
本発明の第4の観点に係るポリヌクレオチドを含む。
【0016】
本発明の第7の観点に係る形質転換体は、
上記本発明の第5の観点に係る発現ベクター及び上記本発明の第6の観点に係る発現ベクターの少なくとも一方を含む。
【0017】
本発明の第8の観点に係る発現ベクターは、
上記本発明の第3の観点に係るポリヌクレオチドと、
上記本発明の第4の観点に係るポリヌクレオチドと、
を含む。
【0018】
本発明の第9の観点に係る形質転換体は、
上記本発明の第8の観点に係る発現ベクターを含む。
【0019】
本発明の第10の観点に係る形質転換体は、
上記本発明の第5の観点に係る発現ベクターと、
発現誘導剤の存在下で発現し、前記ポリヌクレオチドにコードされる前記エンドリボヌクレアーゼを発現させるRNAポリメラーゼをコードする遺伝子と、
前記発現誘導剤の非存在下で発現した前記RNAポリメラーゼを阻害するリゾチームをコードする遺伝子と、
を有する。
【0020】
本発明の第11の観点に係る複合体は、
トキシンとアンチトキシンとの複合体であって、
前記トキシンが上記本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼであって、
前記アンチトキシンが上記本発明の第2の観点に係るタンパク質である。
【0021】
本発明の第12の観点に係るRNA分解物の製造方法は、
上記本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼを生体外でRNAに作用させて前記RNAを分解する分解ステップを含む。
【0022】
上記本発明の第12の観点に係るRNA分解物の製造方法は、
前記エンドリボヌクレアーゼに、上記本発明の第2の観点に係るタンパク質を結合させて前記RNAの分解を停止させる停止ステップをさらに含む、
こととしてもよい。
【0023】
本発明の第13の観点に係るRNAの切断方法は、
上記本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼを生体外で用いて、RNAに含まれる5’-UACU-3’又は5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解する切断ステップを含む。
【0024】
本発明の第14の観点に係る細胞制御方法は、
上記本発明の第1の観点に係るエンドリボヌクレアーゼを、ベクターを用いて生体外の細胞で発現させ、前記エンドリボヌクレアーゼによる前記細胞内のRNA分解反応を促進させ、前記細胞の増殖を阻害する阻害ステップを含む。
【0025】
上記本発明の第14の観点に係る細胞制御方法は、
上記本発明の第2の観点に係るタンパク質を、ベクターを用いて前記細胞で発現させ、前記エンドリボヌクレアーゼによる前記細胞の増殖の阻害を停止する停止ステップをさらに含む、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るエンドリボヌクレアーゼ、RNA分解物の製造方法及びRNAの切断方法によれば、配列特異的にRNAを切断することができる。また、本発明に係るタンパク質によれば、当該エンドリボヌクレアーゼの活性を阻害することができる。また、本発明に係るポリヌクレオチド、発現ベクター及び形質転換体は、当該エンドリボヌクレアーゼ及び当該タンパク質を発現させるのに有用である。さらに、本発明によれば、当該エンドリボヌクレアーゼ及び当該タンパク質を、それぞれトキシン及びアンチトキシンとする複合体が提供される。また、本発明によれば、当該エンドリボヌクレアーゼを利用した細胞制御方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例2に係るMazF-SEAのエンドリボヌクレアーゼ活性及びMazE-SEA longによるエンドリボヌクレアーゼ活性の抑制を示す図である。
【
図2】実施例2に係るMazF-SEAのエンドリボヌクレアーゼ活性及びMazE-SEA shortによるエンドリボヌクレアーゼ活性の抑制を示す図である。
【
図3】実施例3に係る切断箇所周辺の塩基配列の出現頻度を示す図である。
【
図4】実施例4に係る各蛍光プローブの相対蛍光強度を示す図である。
【
図5】実施例5に係るエンドリボヌクレアーゼと他の微生物由来のエンドリボヌクレアーゼとのアミノ酸配列の比較を示す図である。AはX.fastidiosaが有するエンドリボヌクレアーゼに対するアライメントを示す図である。BはPseudomonas putida(P.putida)が有するエンドリボヌクレアーゼに対するアライメントを示す図である。CはDeinococcus radiodurans(D.radiodurans)が有するエンドリボヌクレアーゼに対するアライメントを示す図である。Dは大腸菌(Escherichia coli;E.coli)が有するエンドリボヌクレアーゼに対するアライメントを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本発明は下記の実施の形態及び図面によって限定されるものではない。なお、下記の実施の形態において、“有する”、“含む”又は“含有する”といった表現は、“からなる”又は“から構成される”という意味も包含する。
【0029】
(実施の形態1)
本実施の形態に係るエンドリボヌクレアーゼは、配列番号1に示されるアミノ酸配列又は配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる。当該エンドリボヌクレアーゼは、RNAに含まれる5’-UACU-3’及び5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解するエンドリボヌクレアーゼ活性を有する。アミノ酸配列が配列番号1に示されるエンドリボヌクレアーゼは、Salmonella enterica subsp.arizonaeのゲノムにおいて同定された。
【0030】
ある2つのアミノ酸配列一致度が最大となるようにアラインメントしたときに、両方のアミノ酸配列において同一のアミノ酸が存在する部位の個数の、全長のアミノ酸の個数に対する割合を配列同一性という。また、同一のアミノ酸が存在する部位及び類似のアミノ酸が存在する部位の個数の、全長のアミノ酸の個数に対する割合を配列類似性という。
【0031】
“類似のアミノ酸”とは、物理化学的に類似の側鎖を有する別のアミノ酸である(保存的なアミノ酸置換)。物理化学的に類似する側鎖を有するアミノ酸は、例えば次のように分類される。
脂肪族側鎖:グリシン(G)、アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)
脂肪族-ヒドロキシル側鎖:セリン(S)及びスレオニン(T)
アミド含有側鎖:アスパラギン(N)及びグルタミン(Q)
芳香族側鎖:フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)及びトリプトファン(W)
塩基性側鎖:リシン(K)、アルギニン(R)及びヒスチジン(H)
酸性側鎖:アスパラギン酸(D)及びグルタミン酸(E)
硫黄含有側鎖:システイン(C)及びメチオニン(M)
【0032】
また、類似のアミノ酸は、例えば、ClustalW等の配列解析ツールで用いられるPAM250等の類似性を定義した行列に基づくスコアが所定の閾値より大きいアミノ酸同士であってもよい。PAM250を使用した場合、類似性が強いアミノ酸は、例えばアミノ酸間のスコアが0.5より大きいアミノ酸同士であって、下記のグループ1~9において同一のグループに分類されるアミノ酸同士である。
グループ1 S、T及びA
グループ2 N、E、Q及びK
グループ3 N、H、Q及びK
グループ4 N、D、E及びQ
グループ5 Q、H、R及びK
グループ6 M、I、L及びV
グループ7 M、I、L及びF
グループ8 H及びY
グループ9 F、Y及びW
【0033】
なお、類似性を定義した行列は、公知の行列を用いればよく、PAMの他にBLOSUM等を使用してもよい。
【0034】
アミノ酸配列に関する“50%以上の配列同一性”とは、少なくとも50%の配列同一性を意味する。当該エンドリボヌクレアーゼのアミノ酸配列は、上記エンドリボヌクレアーゼ活性を有する限り、配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有してもよい。
【0035】
本実施の形態に係るエンドリボヌクレアーゼが配列番号1に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる場合、当該エンドリボヌクレアーゼは、上記エンドリボヌクレアーゼ活性を有する限り、翻訳の効率を向上させるためのアミノ酸配列の他、当該エンドリボヌクレアーゼの精製に利用するアミノ酸配列及びシャペロン等の発現効率を向上させるアミノ酸配列等を有してもよい。エンドリボヌクレアーゼの精製に利用するアミノ酸配列としては、例えば、ヒスチジンタグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ及びマルトース結合タンパク質等が挙げられる。翻訳の効率を向上させるためのアミノ酸配列、精製に利用するアミノ酸配列及び発現効率を向上させるアミノ酸配列は、N末端及びC末端の少なくとも一方に付加される。N末端又はC末端に付加されるアミノ酸は、例えば数個であって、好ましくは1~9個である。
【0036】
続いて、本実施の形態に係るエンドリボヌクレアーゼの製造方法について説明する。エンドリボヌクレアーゼは、そのアミノ酸配列にしたがって、固相法及び液相法等の公知の方法で化学合成できる。エンドリボヌクレアーゼは、次のように遺伝子工学及び分子生物学を利用した方法により製造するのが好ましい。
【0037】
まず、エンドリボヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を決定する。塩基配列は、アミノ酸に対応するコドンによって決定される。アミノ酸とコドンとの対応関係に基づいて、1つのアミノ酸配列から、そのアミノ酸配列をコードする多数の塩基配列が決定される。塩基配列の決定ではコンピュータを用いてもよい。当該アミノ酸配列をコードする遺伝子を発現させる際に用いる宿主のコドン使用頻度等を考慮すれば、エンドリボヌクレアーゼをコードする好適な塩基配列を決定することができる。エンドリボヌクレアーゼをコードする塩基配列として、例えば配列番号2に示される塩基配列が挙げられる。ポリヌクレオチドは、塩基配列に従って公知の方法で合成することができる。また、Salmonella enterica subsp.arizonaeのcDNAをテンプレートとしたPCR(Polymerase Chain Reaction)によって得られる増幅産物としてポリヌクレオチドを取得してもよい。
【0038】
次に、エンドリボヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターを調製する。発現ベクターは、当該ポリヌクレオチドを発現させることができれば特に限定されない。好ましくは、発現ベクターは、組み入れたポリヌクレオチドを発現させるRNAポリメラーゼが結合するプロモーター配列、オペレーター配列及びリボソーム結合サイト(RBS)等を含む。発現ベクターでは、プロモーター配列の制御下に上記ポリヌクレオチドを配置すればよい。プロモーター配列としては、T7プロモーター等の公知のプロモーター配列が利用できる。必要に応じて、エンドリボヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドの5’末端及び3’末端にクローニングのための制限酵素サイトを付加してもよいし、さらに、制限酵素サイトの3’末端にヒスチジンタグをコードする塩基配列を付加してもよい。制限酵素を用いる場合、エンドリボヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチド内に含まれる制限酵素サイトの塩基配列を同義置換してもよい。
【0039】
上記の発現ベクターを、例えば、発現誘導剤等の存在下で上述のプロモーター配列に結合するRNAポリメラーゼを発現可能な宿主に導入することによって、上記エンドリボヌクレアーゼを宿主において発現させることができる。宿主は、特に限定はされないが、原核細胞であることが好ましい。具体的には、大腸菌、枯草菌、乳酸菌、酵母、糸状菌、植物細胞及び動物細胞等が挙げられるが、上述のポリヌクレオチドを効率的に発現させることを勘案すれば、大腸菌であることが好ましい。
【0040】
宿主として用いる大腸菌は、公知の大腸菌を採用すればよく、特に限定はされないが、発現誘導剤の存在下において、上記ポリヌクレオチドにコードされるエンドリボヌクレアーゼの発現を誘導できることが望ましい。発現誘導剤としては、例えばIPTG、ラムノース又はこれらの組み合わせ等が挙げられる。このような大腸菌として、例えば、発現誘導剤の存在下で当該エンドリボヌクレアーゼを発現させるRNAポリメラーゼ遺伝子を有するバクテリオファージλDE3の溶原菌であるBL21(DE3)株等がある。発現ベクターは、発現誘導剤の存在下において発現するRNAポリメラーゼによって、上述のポリヌクレオチドの発現を誘導できることが好ましい。発現ベクターとして、例えば、pETベクター(例えばpET-21a(+)及びpET-24a(+)等)及びpGEXベクター等が挙げられる。
【0041】
続いて、上記で調製した発現ベクターを宿主に導入した形質転換体を調製する。発現ベクターを宿主に導入する方法は特には限定されず、塩化カルシウム法及び塩化ルビジウム法で調製したコンピテントセルを用いる方法、エレクトロポレーション法、並びにプロトプラスト法等がある。
【0042】
なお、上述の発現ベクターがpET-21a(+)の場合、大腸菌株BL21(DE3)を形質転換体として用いるのが好ましい。形質転換体のコロニーを、ダイレクトPCRにより、又はそのDNAの塩基配列を決定して確認することで目的とする形質転換体を得ることができる。
【0043】
なお、本実施の形態に係るエンドリボヌクレアーゼはトキシンとして機能するため、エンドリボヌクレアーゼの発現によって宿主の増殖が阻害されることがある。宿主のコロニーが得られない場合、発現ベクターとして、上述の発現誘導剤の存在下でエンドリボヌクレアーゼを発現させるRNAポリメラーゼが結合するプロモーター配列に加えて、当該RNAポリメラーゼをコードする遺伝子と、発現誘導剤の非存在下で発現したRNAポリメラーゼを阻害するリゾチームをコードする遺伝子をさらに有する発現ベクターを使用してもよい。RNAポリメラーゼをコードする遺伝子及びリゾチームをコードする遺伝子は発現ベクターに含まれていなくてもよく、形質転換される宿主が有していてもよい。この場合、発現誘導剤の存在下で発現するRNAポリメラーゼをコードする遺伝子と、発現誘導剤の非存在下で発現したRNAポリメラーゼを阻害するリゾチームをコードする遺伝子を有する宿主に発現ベクターが導入されてもよい。このような宿主として、上記リゾチームをコードする遺伝子を有するプラスミドを導入した宿主、例えばBL21(DE3) pLysS株等が用いられる。すなわち、形質転換体は、上記のエンドリボヌクレアーゼをコードするポリヌクレオチドと当該ポリヌクレオチドにコードされるエンドリボヌクレアーゼを発現させるRNAポリメラーゼが結合するプロモーター配列とを有する発現ベクター、発現誘導剤の存在下で発現するRNAポリメラーゼをコードする遺伝子、及び発現誘導剤の非存在下で発現したRNAポリメラーゼを阻害するリゾチームをコードする遺伝子を有する。
【0044】
次に、調製した形質転換体を培養する。形質転換体の培養方法は、形質転換体に適合した公知の培養方法を採用すればよい。大腸菌を形質転換体として用いる場合、例えば、LB寒天培地等において培養すればよい。
【0045】
そして、培養によって得られた形質転換体からエンドリボヌクレアーゼを回収する。回収の方法は、特に限定されず、公知の界面活性剤を用いる方法、超音波処理によって破砕する方法、液体窒素等の冷媒及び特定の機器を用いて細胞膜、細胞壁等を破砕する凍結融解法、ガラスビーズ法、ザイモリエース等のような細胞壁を消化する酵素を用いたスフェロプラスト法及び高圧化にて処理を行うフレンチプレス法等である。なお、界面活性剤としては、Triton-X、Tween及びNP40等が例示される。これらの方法を形質転換体に適用した後に、遠心分離処理で得られる液相分画を回収すればよい。なお、これらの回収の方法は、単独であっても、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0046】
回収した液相分画からエンドリボヌクレアーゼを精製する方法としては、公知のタンパク質の精製法を用いればよい。精製法としては、沈殿法(硫安塩析等)による分画及び各種クロマトグラフィー、あるいはこれらの組み合わせが挙げられる。エンドリボヌクレアーゼの精製には、その他の公知のタンパク質の精製法が利用でき、例えば、塩化セシウム、スクロース、グリセロール、OptiPrep又はPercol等の成分を各種濃度又は線形グラジエント濃度勾配にて含有する緩衝液に上述の液相分画を加え、超遠心分離処理を行う密度勾配遠心分離法、上述の液相分画に熱処理を与えて、夾雑タンパク質等を変性させてエンドリボヌクレアーゼ以外の成分を除去する方法等である。
【0047】
上記のクロマトグラフィーの種類は、特に限定されないが、陽イオン交換クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、サイズ排除ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー等である。これらクロマトグラフィーは単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。特に、ヒスチジンタグが付加されエンドリボヌクレアーゼを精製する場合、金属イオンが配位した担体を利用したアフィニティクロマトグラフィー等を用いて精製するのが好ましい。
【0048】
本実施の形態に係るエンドリボヌクレアーゼは、下記実施例に示すように、RNAに含まれる5’-UACU-3’及び5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解するエンドリボヌクレアーゼ活性を有する。
【0049】
当該エンドリボヌクレアーゼによる配列特異的なRNAの切断によって、所定のタンパク質の合成を抑制することができる。このため、エンドリボヌクレアーゼは、組織の形成異常、化生、炎症性状態及び自己免疫疾患等の過剰増殖障害患者並びに細菌感染症患者の症状を緩和する医薬組成物の有効成分として使用できる。また、宿主におけるタンパク質の製造の効率化にも利用できる。例えば、宿主内で発現させたい目的タンパク質をコードする遺伝子における、当該エンドリボヌクレアーゼの切断配列、すなわち5’-UACU-3’及び5’-UACG-3’を異なる塩基配列に置換し、当該エンドリボヌクレアーゼと共発現させて、目的タンパク質を製造する方法である。mRNAが切断配列を有するとエンドリボヌクレアーゼにより分解され発現が抑制されるが、切断配列を含まない目的タンパク質をコードする遺伝子のmRNAは切断されず、目的タンパク質のみを効率的に発現させることができる。
【0050】
本実施の形態で用いる様々な技術は、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学及び分子生物学的技術であれば、Sambrook and Russell,“Molecular Cloning A LABORATORY MANUAL”,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York,2001年; Ausubel,F.M.et al.“Current Protocols in Molecular Biology”,John Wiley&Sons,New York等の文献を参照すればよい。
【0051】
なお、別の実施の形態では、上記エンドリボヌクレアーゼをコードする塩基配列からなる上述のポリヌクレオチドが提供される。また、他の実施の形態では、上述の発現ベクターが提供される。別の実施の形態では、上記発現ベクターを含む形質転換体が提供される。
【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態では、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼに結合し、エンドリボヌクレアーゼ活性を抑制するタンパク質について説明する。なお、特に言及しない限り、本実施の形態に係るタンパク質についての詳細は、エンドリボヌクレアーゼを当該タンパク質に置き換えた上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼについての説明を参照できる。下記では、本実施の形態に係るタンパク質について、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼと異なる部分を主に説明する。
【0053】
本実施の形態に係るタンパク質は、配列番号3若しくは配列番号4に示されるアミノ酸配列、又は配列番号3若しくは配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなる。アミノ酸配列が配列番号3又は配列番号4に示されるタンパク質は、Salmonella enterica subsp.arizonaeのゲノムにおいて同定された。当該タンパク質は、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼとTA機構を構成する。当該タンパク質をコードする塩基配列として、例えば配列番号5及び配列番号6に示される塩基配列が挙げられる。
【0054】
当該タンパク質のアミノ酸配列は、上記エンドリボヌクレアーゼ活性を抑制する活性を有する限り、配列番号3又は配列番号4に示されるアミノ酸配列に対して、50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、さらにより好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上の配列同一性を有してもよい。
【0055】
本実施の形態に係るタンパク質はアンチトキシンとして機能する。このため、別の実施の形態では、当該タンパク質を含む、エンドリボヌクレアーゼ阻害物質又は阻害剤が提供される。
【0056】
なお、本実施の形態に係るタンパク質は、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼに対してアンチトキシンとして機能するため、当該エンドリボヌクレアーゼの毒性を抑制できる。そこで、上記エンドリボヌクレアーゼと本実施の形態に係るタンパク質とを共発現させれば、宿主にリゾチームをコードする遺伝子を有するプラスミドを導入しなくても上記エンドリボヌクレアーゼを得ることができる。共発現させる場合、例えば、発現ベクターは、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼをコードする塩基配列からなる第1のポリヌクレオチドと、本実施の形態に係るタンパク質をコードする塩基配列からなる第2のポリヌクレオチドと、を含む。共発現の場合、発現ベクターにおいて、第1のポリヌクレオチド及び第2のポリヌクレオチドが1つのプロモーター配列で発現制御されてもよいし、第1のポリヌクレオチド及び第2のポリヌクレオチドがそれぞれ別個のプロモーター配列で発現制御されてもよい。また、第1のポリヌクレオチドを含み、第1のポリヌクレオチドを発現させる第1の発現ベクターと、第2のポリヌクレオチドを含み、第2のポリヌクレオチドを発現させる第2の発現ベクターと、を宿主に導入してもよい。さらに別の実施の形態では、共発現させるための第1のポリヌクレオチド及び第2のポリヌクレオチドを含む上記の発現ベクターを含む形質転換体、又は上記第1の発現ベクター及び第2の発現ベクターを含む形質転換体が提供される。
【0057】
また、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼ及び上記実施の形態2に係るタンパク質を、無細胞タンパク質合成系で合成してもよい。無細胞タンパク質合成系としては、小麦胚芽又はウサギ網状赤血球等の抽出液を使用する無細胞タンパク質合成系及び大腸菌のリボソームを用いる無細胞タンパク質合成系で転写、翻訳に必要な因子をそれぞれ精製して混ぜ合わせた再構成型の無細胞タンパク質合成系等が挙げられる。再構成型の無細胞タンパク質合成系とは、主に大腸菌抽出液を使用する無細胞タンパク質合成系を細分化し、各因子を再構成することにより、転写及び翻訳に関係のない成分が除かれたシステムである。好ましい無細胞タンパク質合成系として、PURE system等が挙げられる。別の実施の形態では、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼをコードする塩基配列を含むポリヌクレオチド又は本実施の形態に係るタンパク質をコードする塩基配列を含むポリヌクレオチドの、無細胞タンパク質合成系における鋳型DNAとしての使用が提供される。
【0058】
(実施の形態3)
本実施の形態に係るRNA分解物の製造方法は、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼを生体外でRNAに作用させて当該RNAを分解する分解ステップを含む。エンドリボヌクレアーゼの基質となるRNAは、塩基としてリボヌクレオチドを含有する核酸である。RNAは、リボヌクレオチドを有する核酸であれば特に限定されず、例えばRNA、デオキシリボヌクレオチドを含有するRNA、リボヌクレオチドを含有するDNA等が例示される。RNAは、エンドリボヌクレアーゼの活性が維持される限り、例えばデオキシイノシン、デオキシウリジン及びヒドロキシメチルデオキシウリジン等を含有していてもよい。
【0059】
分解ステップでは、上記エンドリボヌクレアーゼを一本鎖RNAに作用させることで、RNAに含まれる5’-UACU-3’及び5’-UACG-3’におけるUとAとの間のリン酸ジエステル結合を加水分解して切断する。これにより、3’末端がUのRNAと、5’末端が5’-ACU-3’又は5’-ACG-3’のRNAと、が生成する。
【0060】
本実施の形態に係るRNA分解物の製造方法は、エンドリボヌクレアーゼに、上記実施の形態2に係るタンパク質を結合させてRNAの分解を停止させる停止ステップをさらに含んでもよい。TA機構では、トキシンにアンチトキシンが結合して複合体を形成するとトキシンの作用が抑制され、アンチトキシンの分解によってトキシンが遊離するとトキシンの作用が発揮される。上記エンドリボヌクレアーゼとタンパク質も、典型的なTA機構と同様の相互作用を有し、タンパク質がエンドリボヌクレアーゼと結合するとエンドリボヌクレアーゼ活性が抑制される。
【0061】
なお、別の実施の形態では、トキシンとアンチトキシンとの複合体が提供される。トキシンは、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼである。アンチトキシンは、実施の形態2に係るタンパク質である。複合体は、当該エンドリボヌクレアーゼ及び当該タンパク質を共発現させる等して形成させることができる。
【0062】
なお、別の実施の形態では、上記実施の形態1に係るエンドリボヌクレアーゼ及び上記実施の形態2に係るタンパク質を使用する細胞制御方法が提供される。当該細胞制御方法は、上記エンドリボヌクレアーゼを、プラスミドベクター及びウイルスベクター等のベクターを用いて生体外の細胞で発現させ、当該エンドリボヌクレアーゼによる細胞内のRNA分解反応を促進させ、当該細胞の増殖を阻害する阻害ステップを含む。これにより、エンドリボヌクレアーゼの切断配列を含む転写産物はエンドリボヌクレアーゼにより切断され、その翻訳が阻害されるため、細胞の増殖を制御することができる。また、翻訳阻害の結果、細胞の休眠等を誘起することもできる。
【0063】
細胞制御方法は、上記実施の形態2に係るタンパク質を、ベクターを用いて上記細胞で発現させ、エンドリボヌクレアーゼによる当該細胞の増殖の阻害を停止する停止ステップをさらに含んでもよい。停止ステップでは、エンドリボヌクレアーゼと当該タンパク質とが結合して複合体を形成することで、エンドリボヌクレアーゼの作用が抑制される。この結果、細胞の増殖抑制を制御することができる。なお、阻害ステップで用いる上記ベクターと、停止ステップで用いる上記ベクターとは、1つの同じベクターであってもよいし、それぞれ別のベクターであってもよい。
【0064】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0065】
[実施例1:発現プラスミドの構築並びにMazF-SEA及びMazE-SEAの調製]
配列番号2に示される塩基配列において、対応するアミノ酸を変えずにトリプレットを変更し、5’末端及び3’末端にクローニングのための制限酵素サイトを付加したDNA断片を化学合成した。当該DNA断片の塩基配列を配列番号7に示す。当該DNA断片を発現ベクターpET-21a(+)に組み込んだ。この発現ベクターにはヒスチジンタグに対応するコドンが含まれているため、当該発現ベクターを用いて発現させたタンパク質のアミノ酸配列は、C末端にヒスチジンタグを有する配列番号8に示されるアミノ酸配列である。この発現ベクターpET-21a(+)を用いて、1%グルコースを含むLB寒天培地上で大腸菌BL21(DE3) pLysS株を形質転換した。なお、比較のために、当該発現ベクターpET-21a(+)を用いて、pLysSを含まない大腸菌BL21(DE3)株も形質転換したところ、pLysSを含まない大腸菌BL21(DE3)株ではコロニーがまったく形成されなかった。
【0066】
形質転換した大腸菌を大量に培養し、IPTGを加えることでMazF-SEAの発現を誘導した。しかし、野生型MazF-SEAの大腸菌に対する毒性が高いため、一部の大腸菌が保持するプラスミド(発現ベクター)において、MazF-SEAのORF上に切断活性が弱くなる変異の導入が観察された。そこで、変異が導入されていない野生型発現ベクターを保持する大腸菌と変異が導入された変異型発現ベクターを保持する大腸菌とを分離するため、両大腸菌が混在した菌体懸濁液を寒天培地上で再培養した。分離培養で得られた野生型発現ベクターを保持する大腸菌のみを大量培養することで、発現タンパク質への変異導入を防ぐことができた。以下では、MazF-SEAタンパク質の取得に際して、野生型発現ベクターを保持する大腸菌を使用した。
【0067】
形質転換した大腸菌を100μg/mLのアンピシリン及び34μg/mLのクロラムフェニコールを含む1LのLB培地中、37℃で培養し、IPTGを終濃度1mMになるように添加して発現を誘導した。誘導開始3時間後に大腸菌の培養を終了し、菌体を遠心分離により回収した。菌体をバインディングバッファー(20mM リン酸バッファー、40mM イミダゾール、300mM NaCl、5mM β-メルカプトエタノール、pH8.0)に懸濁した後、菌体懸濁液をHandy Sonic UR-20P(トミーセイコ社製)で20分間超音波破砕し、5100gで10分間遠心分離した。上清を0.45μmのメンブランフィルター(Millex製)でろ過した。ろ過済みの上清を、AKTA pure 25(Cytiva社製)に取り付けた1mLのHis-Trap FF crudeカラム(Cytiva社製)へアプライした。非特異タンパク質をカラム45倍容のバインディングバッファーで洗浄、除去し、目的タンパク質を、イミダゾール濃度を漸増させて抽出した。その一部をSDS-PAGEに供して予想されるサイズのタンパク質(MazF-SEA)の存在を確認した。
【0068】
配列番号5に示される塩基配列において、対応するアミノ酸を変えずにトリプレットを変更し、5’末端及び3’末端にクローニングのための制限酵素サイトを付加したDNA断片を化学合成した。当該DNA断片の塩基配列を配列番号9に示す。当該DNA断片を発現ベクターpET-21a(+)に組み込んだ。この発現ベクターにはヒスチジンタグに対応するコドンが含まれているため、当該発現ベクターを用いて発現させたタンパク質(“Maz-E SEA long”とする)のアミノ酸配列は、C末端にヒスチジンタグを有する配列番号10に示されるアミノ酸配列である。この発現ベクターpET-21a(+)を用いて、LB寒天培地上で大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。
【0069】
配列番号6に示される塩基配列についても同様に対応するアミノ酸を変えずにトリプレットを変更した、塩基配列を配列番号11に示すDNA断片を化学合成し、当該DNA断片を発現ベクターpET-21a(+)に組み込んだ。当該発現ベクターを用いて発現させたタンパク質(“Maz-E SEA short”とする)のアミノ酸配列は、C末端にヒスチジンタグを有する配列番号12に示されるアミノ酸配列である。この発現ベクターpET-21a(+)を用いて、LB寒天培地上で大腸菌BL21(DE3)を形質転換した。
【0070】
形質転換した大腸菌を100μg/mLのアンピシリンを含む1LのLB培地中、37℃で培養し、IPTGを終濃度1mMになるように添加して発現を誘導した。誘導開始3時間後に培養を終了し、菌体を遠心分離により回収した。MazF-SEAと同様の操作によって得られたろ過済みの上清を、His-Trap FF crudeカラム(Cytiva社製)へアプライした。非特異タンパク質をカラム45倍容のバインディングバッファーで洗浄、除去し、目的タンパク質を、イミダゾール濃度を漸増させて抽出した。その一部をSDS-PAGEに供して予想されるサイズのMazE-SEA long及びMaz-E SEA shortの存在を確認した。
【0071】
[実施例2:MazF-SEAのRNA切断活性の確認]
MazF-SEAの活性を確認するため、取得したMazF-SEA(0.1pmol)を含むサンプルに、配列番号13に示す人工合成RNA2000-1の5’末端にGGG、3’末端に30ntのポリA配列を付加した2033ntのRNA(0.45pmol)を混合し、37℃で10分間インキュベーションした。MazE-SEA long及びMaz-E SEA shortのエンドリボヌクレアーゼ活性抑制を確認するため、MazE-SEA long又はMaz-E SEA short(0.1~0.4pmol)をさらに加えたサンプルについても同様にインキュベーションした。切断反応後のRNAを、10%変性アクリルアミドゲルに供して電気泳動を実施した。電気泳動後のゲルをSYBR-Goldで染色した。染色したゲルについて、Typhoon 9210 imager(Cytiva社製)を用いて蛍光画像を解析した。なお、サンプルと混合した上記人工合成RNAは、上述の塩基配列をインサートしたプラスミドを制限酵素処理して線形化し、QIAquick PCR purification kit(QIAGEN社製)を用いて精製した後、MEGAscript(商標) T7 Transcription Kit Megasript T7 kit(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて、in vitro転写を行って取得した。
【0072】
(結果)
MazE-SEA longを加えた場合のゲルの蛍光画像を
図1に示す。MazE-SEA shortを加えた場合のゲルの蛍光画像を
図2に示す。MazF-SEAを加えていないサンプルでは一本のバンドのみが確認され、RNAは切断されていないことが確認された。MazF-SEAを加えるとバンドがラダー状になり、RNAが切断されていることが示された。さらに、MazE-SEA long又はMazE-SEA shortを加えると、MazF-SEAの切断反応によって現れたラダー状の多数のバンドが、MazE-SEA long又はMazE-SEA shortの濃度依存的に一本のバンドに収束した。このことから、MazE-SEA long又はMazE-SEA shortによってMazF-SEAのRNA切断活性が抑制されたことが示された。
【0073】
[実施例3:人工合成RNAを用いたMazF-SEAのRNA配列特異性の推定]
取得したMazF-SEA(0.5pmol)及び人工合成RNA(1500-1、L1500-1、H1500-1、2000-1、L2000-1及びH2000-1、各0.7pmol)を混合し、インキュベートした。人工合成RNA1500-1、L1500-1、H1500-1、L2000-1及びH2000-1の塩基配列をそれぞれ配列番号14~18に示す。人工合成RNAの調製については、上記実施例2と同様である。MazF-SEAによって切断され、断片化したRNAの5’末端に、バーコードRNAを特異的に結合させ、逆転写酵素を用いてcDNAを合成した。合成されたcDNAについて、次世代シーケンサーIllumina Miseqを用いて配列情報を解析し、得られた配列情報をCLC Genomics Workbenchで基質として用いた人工合成RNAに対してマッピングした。カバレッジが有意に上昇した塩基とその周辺配列を抽出し、各位置における塩基の出現頻度をWeblogoにより可視化した。
【0074】
(結果)
図3に示すように、MazF-SEAは、主に5’-UACG-3’配列と5’-UACU-3’配列を特異的に認識してUとAとの間を切断する可能性が示唆された。
【0075】
[実施例4:蛍光修飾オリゴプローブを用いたMazF-SEAのRNA切断配列特異性の検証]
表1に示すDNA/RNAハイブリット蛍光プローブ(DR-14-UACG、DR-14-UACU、DR-14-UACC及びDR-14-UACA)を用いて、MazF-SEAが切断する塩基配列を再確認した。当該蛍光プローブの5’末端及び3’末端は、それぞれ6-FAM及びBHQ1で修飾されている。蛍光プローブ(各20pmol)に対して、MazF-SEA(0.02pmol)を加え、30秒ごとに蛍光強度を測定した。MazF-SEAの代わりにRNaseを加え、同様に蛍光強度を測定した。各蛍光プローブについて、RNaseを加えて測定したときの蛍光強度を100%として、MazF-SEAを加えて測定したときの蛍光強度の相対値を求めた。
【0076】
【0077】
(結果)
図4に各蛍光プローブについて、RNaseを加えたときの蛍光強度に対する、MazF-SEAを加えて測定したときの相対蛍光強度を示す。MazF-SEAはUACNの中でも、UACG及びUACUを特異的に認識し、切断することが明らかになった。
【0078】
[実施例5:他の微生物由来のMazFホモログとのアミノ酸配列の比較]
EMBOSS Needle(https://www.ebi.ac.uk/Tools/psa/emboss_needle/)を用いて、MazF-SEAと異なるエンドリボヌクレアーゼとの間でアミノ酸配列を比較した。
【0079】
(結果)
他の微生物由来のエンドリボヌクレアーゼの切断配列、並びにMazF-SEAとのアミノ酸配列の配列同一性及び配列類似性を表2に示す。なお、表2の切断配列における“/”は切断位置を示す。
【0080】
【0081】
MazF-SEAは、切断配列がMazF-SEAと同じであるX.fastidiosa由来エンドリボヌクレアーゼPemKのアミノ酸配列と約65%の配列類似性を有する。また、MazF-SEAは、切断配列がMasF-SEAの切断配列の5’末端側の3塩基と同じであるP.putida由来エンドリボヌクレアーゼMazF-ppとは、約70%のアミノ酸配列の配列類似性を有する。MazF-SEAとPemK(配列番号23)とのアミノ酸配列のアライメント及びMazF-SEAとMazF-pp(配列番号24)とのアミノ酸配列のアライメントをそれぞれ
図5A及び
図5Bに示す。MazF-SEAの切断配列と4塩基目の1塩基のみが異なるUACA配列を切断するD.radioduransが有するMazF-DR0417とのアミノ酸配列の配列類似性は約50%であった。MazF-SEAとMazF-DR0417(配列番号25)とのアミノ酸配列のアライメントを
図5Cに示す。MazF-SEAとまったく異なる塩基配列ACAを切断する、E.coli由来エンドリボヌクレアーゼMazF-ecとMazF-SEAとのアミノ酸配列の配列類似性は45%であった。MazF-SEAとMazF-ec(配列番号26)とのアミノ酸配列のアライメントを
図5Dに示す。
【0082】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。