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特開2024-243903Dフードプリンタ用ペースト状組成物、その作製方法および造形方法、並びに造形された経口摂取用組成物
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  • 特開-3Dフードプリンタ用ペースト状組成物、その作製方法および造形方法、並びに造形された経口摂取用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024390
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】3Dフードプリンタ用ペースト状組成物、その作製方法および造形方法、並びに造形された経口摂取用組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20240215BHJP
【FI】
A23L5/00 A
A23L5/00 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127185
(22)【出願日】2022-08-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100212509
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 知子
(72)【発明者】
【氏名】小林 功
(72)【発明者】
【氏名】梅田 拓洋
【テーマコード(参考)】
4B035
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE02
4B035LG12
4B035LG20
4B035LG21
4B035LG27
4B035LG32
4B035LG33
4B035LG34
4B035LG35
4B035LG41
4B035LK04
4B035LP21
4B035LP32
4B035LT11
(57)【要約】
【課題】本発明は、3Dプリント食品に適したペースト状食材の組成、作製法、および造形法を提供することを目的としている。
【解決手段】本発明のペースト状食材は、食材の粉粒体と、顆粒状増粘剤と、水とを含む、吐出式3Dフードプリンタによる三次元造形に適したペースト状組成物である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを含む、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物。
【請求項2】
食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを含み、6×103N/m2から7×104N/m2の硬さ、及び、1.3×103J/m3から13×103J/m3の付着エネルギーを有する、ペースト状組成物。
【請求項3】
前記組成物の総質量に対して、前記増粘剤を10質量%未満含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記増粘剤が、増粘性多糖類を含み、及び/又は、
前記顆粒が、前記増粘剤をデキストリン又はシクロデキストリンと一緒に顆粒化したものであり、及び/又は、キサンタンガムとデキストリンの複合体である、
請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記食材が、農作物及び/又は食用昆虫を含み、及び/又は、
前記粉粒体が、おから粉、コオロギ粉、小豆粉、マッシュポテトフレーク、カボチャフレーク、ポテト粉、きな粉、キャベツ粉、乾燥あん、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉、小麦粉、澱粉粉、サツマイモ粉、オオムギ粉、カボチャ粉、トマト粉、ブロッコリー粉、大根粉、タマネギ粉、ニンジン粉、リンゴ粉、温州ミカン粉、オレンジ粉、柿粉、及び、パイナップル粉から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記粉粒体が、フレーク状である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
粉末化脂質をさらに含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物であって、食材の粉粒体と、粉末化脂質と、水とを含む、組成物。
【請求項9】
前記粉末化脂質中の脂質成分が、中鎖脂肪酸油(MCT)を含む、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物の総質量に対して、前記粉末化脂質中の脂質成分を50質量%以下含む、請求項8又は9に記載の組成物。
【請求項11】
吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を調製する方法であって、食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを混合する工程を含む、方法。
【請求項12】
ペースト状組成物を三次元造形する方法であって、
(A)食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを含むペースト状組成物を用意する工程、及び、
(B)前記ペースト状組成物を、吐出式3Dフードプリンタの吐出口から吐出して三次元に造形する工程を含み、
(C)前記工程(B)で得られた造形物の上に、前記ペースト状組成物を1層以上積層する工程を含んでもよい、
方法。
【請求項13】
前記(A)工程が、前記粉粒体と、前記顆粒と、前記水とを混合する工程を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記吐出式3Dフードプリンタが、スクリュー式3Dフードプリンタである、請求項12に記載の方法
【請求項15】
前記工程(C)を含み、前記ペースト状組成物が合計3層以上に積層される、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
請求項12~15のいずれか1項に記載の方法で造形された、経口摂取用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dプリント食品の造形に適したペースト状食材の組成、その作製方法及び造形法に関する。特に、積層三次元造形に適したペースト状食材の組成に関する。また、本発明は、三次元造形された経口摂取用組成物にも関している。
【背景技術】
【0002】
近年、食の領域においても、デジタル技術の活用による新たな価値の創出が関心を集めている。とりわけ、これまでは難しかった個々の消費者へのパーソナライズ化が容易となる可能性に注目が集まっており、キーデバイスとして3Dプリンタの活用が検討されている。
3Dプリンタは、樹脂の三次元造形に端を発する技術である。最も知られている3Dプリンタは、加熱により融解した樹脂をノズルから吐出して造形していく熱融解積層法である。他にも複数の方式の3Dプリンタが開発されるとともに、3Dプリンタを用いた金属、木材(樹脂と混合)、およびゲルなどの造形も可能になってきている。3Dプリンタ技術の食品分野への応用も検討されている。一般的な3Dフードプリンタは、食材のペースト状組成物を用いた吐出式であり、シリンジ式とスクリュー式が存在する(非特許文献1)。
世代別個人に対応した食品のデザインに対する関心は、年々高まっており、3Dフードプリンタの利用により、形状、食感、味、および栄養成分などがカスタマイズされた食品の作製が期待されている。食品産業において、3Dプリント食品に適したペースト状組成物の組成、作製法、および造形法に対するニーズは高い。
【0003】
吐出式3Dフードプリンタにおいて、ペースト状組成物の性状は、吐出口からの吐出性および三次元造形性に大いに影響を及ぼす因子である。例えば、食材粉末の粒度と3Dプリント特性との関係については種々の研究が報告されている(非特許文献2~4)。また、当該食材粉末と増粘性多糖類の粉末又は水溶液とを混合して、3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を調製することも知られている(非特許文献3~5及び特許文献1)。
【0004】
特許文献2には、顆粒状増粘性多糖類は、液体への分散性が優れており、ダマの発生も少ない旨が記載されている。特許文献3には、特定の顆粒状増粘性多糖類が、粘度の高い液体にダマを生じることなくとろみを付与することができ、嚥下困難者用食品などのとろみ付与用組成物として利用できる旨が記載されている。他方、特許文献2及び3には、顆粒状増粘性多糖類を3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に利用することは記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2022-47234号公報
【特許文献2】国際公開第2018/174207号
【特許文献3】国際公開第2020/218467号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】相磯孝輔ら,日本食品科学工学会誌, 69(4), 149-153 (2022).
【非特許文献2】Daisuke Nei, et al., Food Science and Technology Research, doi: 10.3136/fstr.FSTR-D-21-00283
【非特許文献3】Jang Ho Lee, et al., Journal of Food Engineering, 256, 1-9 (2019)
【非特許文献4】Hyun Woo Kim, et al., Journal of Food Science, 83, 2923-2932 (2018)
【非特許文献5】Ken Tokuyasu, et al., Journal of Applied Glycoscience, doi:10.5458/jag.jag.JAG-2021_0009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物においては、安定的な吐出あるいは造形が困難な原料が存在している。例えば、昆虫粉末、小豆粉末、又はおから粉末を用いた3Dプリント食品は知られていない。また、公知の吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に使用されている粉末状増粘剤の濃度は10質量%と非常に高く、食品用途としては現実的ではない濃度であるうえ、当該粉末状増粘剤を水に添加して均質に分散させることも容易ではない。そこで、本発明は、幅広い原料に適用でき、吐出性および造形性の優れた吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を提供することを目的としている。また、本発明は、新規な組成を有する吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に増粘剤を含む顆粒(以下「顆粒状増粘剤」ということもある。)を使用することで、たとえ少量の添加であっても、種々の食材の粉粒体を含むペースト状組成物の性状を調整し、安定的な吐出あるいは造形が可能となること、及び、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に粉末化脂質を使用することで、当該ペースト状組成物から調製される造形物に艶を付与できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下に示す吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物、同ペースト状組成物を調製する方法、同ペースト状組成物を三次元造形する方法、並びに造形された経口摂取用組成物を提供するものである。
〔1〕食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを含む、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物。
〔2〕食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを含み、6×103N/m2から7×104N/m2の硬さ、及び、1.3×103J/m3から13×103J/m3の付着エネルギーを有する、ペースト状組成物。
〔3〕前記組成物の総質量に対して、前記増粘剤を10質量%未満含む、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕前記増粘剤が、増粘性多糖類を含み、及び/又は、
前記顆粒が、前記増粘剤をデキストリン又はシクロデキストリンと一緒に顆粒化したものであり、及び/又は、キサンタンガムとデキストリンの複合体である、
前記〔1〕から〔3〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔5〕前記食材が、農作物及び/又は食用昆虫を含み、及び/又は、
前記粉粒体が、おから粉、コオロギ粉、小豆粉、マッシュポテトフレーク、カボチャフレーク、ポテト粉、きな粉、キャベツ粉、乾燥あん、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉、小麦粉、澱粉粉、サツマイモ粉、オオムギ粉、カボチャ粉、トマト粉、ブロッコリー粉、大根粉、タマネギ粉、ニンジン粉、リンゴ粉、温州ミカン粉、オレンジ粉、柿粉、及び、パイナップル粉から選択される少なくとも1種を含む、前記〔1〕から〔4〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔6〕前記粉粒体が、フレーク状である、前記〔1〕から〔5〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔7〕粉末化脂質をさらに含む、前記〔1〕から〔6〕のいずれか1項に記載の組成物。
〔8〕吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物であって、食材の粉粒体と、粉末化脂質と、水とを含む、組成物。
〔9〕前記粉末化脂質中の脂質成分が、中鎖脂肪酸油(MCT)を含む、前記〔8〕に記載の組成物。
〔10〕前記組成物の総質量に対して、前記粉末化脂質中の脂質成分を50質量%以下含む、前記〔8〕又は〔9〕に記載の組成物。
〔11〕吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を調製する方法であって、食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを混合する工程を含む、方法。
〔12〕ペースト状組成物を三次元造形する方法であって、
(A)食材の粉粒体と、増粘剤を含む顆粒と、水とを含むペースト状組成物を用意する工程、及び、
(B)前記ペースト状組成物を、吐出式3Dフードプリンタの吐出口から吐出して三次元に造形する工程を含み、
(C)前記工程(B)で得られた造形物の上に、前記ペースト状組成物を1層以上積層する工程を含んでもよい、
方法。
〔13〕前記(A)工程が、前記粉粒体と、前記顆粒と、前記水とを混合する工程を含む、前記〔12〕に記載の方法。
〔14〕前記吐出式3Dフードプリンタが、スクリュー式3Dフードプリンタである、前記〔12〕又は〔13〕に記載の方法
〔15〕前記工程(C)を含み、前記ペースト状組成物が合計3層以上に積層される、前記〔12〕から〔14〕のいずれか1項に記載の方法。
〔16〕前記〔12〕~〔15〕のいずれか1項に記載の方法で造形された、経口摂取用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明に従えば、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に顆粒状増粘剤を使用することで、たとえ少量の添加であっても、種々の食材の粉粒体を含むペースト状組成物の吐出性又は造形性を向上することができる。また、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に粉末化脂質を使用することで、当該ペースト状組成物から調製される造形物に艶を付与することができる。したがって、吐出式3Dフードプリンタにおいて高精度かつ安定的な吐出及び/または三次元造形、並びに造形物への艶の付与が可能となり、簡単に三次元造形された経口摂取用組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】顆粒状増粘剤なし(A)又は顆粒状増粘剤あり(B)で調製したおから粉を含むペースト状組成物を用いて3D造形した食品の写真を示す。
図2】食材の粉末の粒度分布を示す。
図3】食材の粉末の粒度分布を示す。
図4】3Dプリント食品の重量減少率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(定義)
本明細書において、以下の用語及び表現は、使用される場合には、以下に与えられる意味を有する。
「吐出式3Dフードプリンタ」とは、吐出口からペーストを吐出して造形する3Dフードプリンタを意味し、シリンジ式、ディスペンサー式、スクリュー式の各方式が知られている(非特許文献1)。吐出口としては、ノズルや先端が突出していない面に設けられた1つ又は複数の孔を含む。
「吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物」とは、吐出式3Dフードプリンタにおいて造形用材料として使用される組成物である。
「吐出性」とは、ペースト状組成物が吐出口から出る際、および吐出口から出た後の挙動をいう。吐出式3Dフードプリンタの吐出口からペースト状組成物が吐出される際、当該吐出口からの吐出の連続性、及び、吐出物の形状の持続性によって評価され得る。例えば、ペースト状組成物が吐出口から吐出されなかったり、吐出されても途中で途切れてしまったり、連続的に吐出されてもすぐに(秒単位で)潰れてしまったりした場合には、吐出性は悪い又は低いと判断される。積層時に上層で吐出物が途切れてしまうといった経時的な吐出性の悪化も、吐出性が悪い又は低いと判断される場合に含まれる。
「造形性」とは、吐出されたペーストが1次元(線)から3次元(立体)の構造体を形成する際の挙動をいう。吐出物の積層の容易性、及び、吐出物を積層した造形物の形状の持続性により評価され得る。例えば、積層の直後又は数分以内に下層が潰れてしまったり(扁平化してしまったり)した場合には、造形性は悪い又は低いと判断される。吐出性と造形性とを合わせて、プリンタビリティともいう。
「3Dプリント食品」とは、3Dフードプリンタによって三次元造形された経口摂取用組成物のうち、特に食用に供されるものをいう。
【0012】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物は、食材の粉粒体と、顆粒状増粘剤と、水とを含む。食材の粉粒体と水のみを混合して作製したペースト状組成物では、吐出口からの吐出・造形が困難な場合がある。また、ペースト状組成物の性状を調整するために粉末状増粘剤を使用すると、食品としては適さない高濃度の添加が必要になることがある。他方、驚くべきことに、顆粒状増粘剤を使用してペースト状組成物を作製することで、種々の食材の粉粒体を含むペースト状組成物の吐出性および造形性の両方が向上し、その添加量も少なくて済む。
【0013】
別の態様において、本発明のペースト状組成物は、食材の粉粒体と、顆粒状増粘剤と、水とを含み、約6×103N/m2から約7×104N/m2の硬さ、及び、約1.3×103J/m3から約13×103J/m3の付着エネルギーを有する。本発明のペースト状組成物は、吐出式3Dフードプリンタにおいて造形用材料として使用するために適した結着性を有するものである。例えば、本発明のペースト状組成物は、約1×104N/m2以上、約1.5×104N/m2以上、若しくは約2×104N/m2超の硬さ、又は、約6.5×104N/m2以下、若しくは約5×104N/m2以下の硬さを有してもよい。例えば、本発明のペースト状組成物は、約1.5×103J/m3超、約2×103J/m3以上、約5×103J/m3以上、又は、8×103J/m3以下、11×103J/m3以下、13×103J/m3以下の付着エネルギーを有してもよい。
本発明における硬さ及び付着エネルギーは、一般的な物性測定器で測定することができる。例えば、卓上型物性測定器((株)山電社製、TPU-2C)を使用する場合、ペースト状組成物を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し(1サンプル30g程度)、直径16mmのプランジャーを用い、低速圧縮法により圧縮速度10mm/s、クリアランス5mmで圧縮試験を2回実施して、得られた記録曲線より算出することができる。
【0014】
本発明の各ペースト状組成物に用いられる増粘剤は、顆粒状の増粘剤(「顆粒状増粘剤」という)である。前記顆粒状増粘剤は、増粘剤を常法により造粒して顆粒化したものであり、公知の又は市販されている顆粒状増粘剤を特に制限されることなく採用することができる。特定の理論に拘束されるものではないが、従来法で用いられている粉末状の増粘剤ではなく、顆粒状増粘剤を用いることで、水への分散・溶解性が向上し、主原料(粉末)との混合性も向上して、前記ペースト状組成物の吐出性及び造形性の改善に有利に寄与すると考えられる。
【0015】
前記顆粒状増粘剤に含まれる増粘剤としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記増粘剤は増粘多糖類を1種以上含んでもよい。前記増粘多糖類としては、特に限定されないが、キサンタンガム、グアーガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、プルラン、カルボキシメチルセルロース又はそのナトリウム塩、ゼラチン、寒天、及びペクチン等が挙げられ、好ましくはキサンタンガムである。
【0016】
前記顆粒状増粘剤は、周知の賦形剤を含んでもよい。前記賦形剤は、特に限定されないが、デキストリン及び/又はシクロデキストリンであってもよい。すなわち、前記顆粒状増粘剤は、前記増粘剤をデキストリン及び/又はシクロデキストリンと一緒に顆粒化したものであってもよい。具体的な態様では、前記顆粒状増粘剤は、キサンタンガムとデキストリンの複合体を含んでもよい。
【0017】
前記顆粒状増粘剤に含まれる増粘剤の配合量は、吐出式3Dフードプリンタの造形材料として使用できる限り特に制限されないが、例えば、本発明のペースト状組成物の総質量に対して、約10質量%未満、約2質量%以下、又は約0.5質量%以下であってもよく、約0.3質量%以上、約0.5質量%以上、又は約1質量%以上であってもよい。前記増粘剤の量がこのような範囲であると、特に食品などの経口摂取用組成物として受容可能な範囲で、吐出式3Dフードプリンタ用のペースト状組成物として好適な性状を達成することができる。
【0018】
3Dプリント食品などの造形物の質量は、食品表面からの水分蒸発により作製直後から少しずつ減少していく。驚くべきことに、本発明のペースト状組成物を用いることにより、3Dプリント食品の表面などの造形物からの水分蒸発による質量減少を抑制できる。当該造形物の作製後における温湿度の管理に加え、ペースト状組成物の作製時における顆粒状増粘剤の添加も、3Dプリント食品の質量変化を抑制することが可能な手法であることが明らかになった。
【0019】
本明細書に記載の「食材」としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、農作物または食用昆虫を含んでもよい。食材としては、1種以上の食材を含んでもよい。食材の粉粒体としては、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、おから粉、コオロギ粉、小豆粉、マッシュポテトフレーク、カボチャフレーク、ポテト粉、きな粉、キャベツ粉、乾燥あん(さらしあん、白さらしあん等)、トウモロコシ粉、大豆粉、米粉、小麦粉、澱粉粉、サツマイモ粉、オオムギ粉、カボチャ粉、トマト粉、ブロッコリー粉、大根粉、タマネギ粉、ニンジン粉、リンゴ粉、温州ミカン粉、オレンジ粉、柿粉、及び、パイナップル粉から選択される食材の粉粒体であってもよい。
【0020】
本明細書に記載の「粉粒体」とは、食材を粉状、粒状、フレーク状等に細かく粉砕、摩砕及び/又は破砕したものを意味し、特定の形状に限定されない。前記粉粒体の形状は、吐出式3Dフードプリンタの造形材料として使用できる限り特に制限されないが、例えば、粉、粒、フレーク等の形状であってもよい。
前記粉粒体の粒径は、吐出式3Dフードプリンタの造形材料として使用できる限り特に制限されないが、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて、ドライパウダーモジュール(乾式測定)で測定した体積平均径が約60μm以上、約80μm以上、約90μm以上、約100μm以上、約200μm以上、あるいは約250μm以下、約100μm以下、約90μm以下、約70μm以下、約60μm以下であってよく、及び/または、中位径が約30μm以上、約50μm以上、約70μm以上、約80μm以上、約100μm以上、及び/または約210μm以下、約150μm以下、約100μm以下、約70μm以下、約50μm以下であってもよい。
【0021】
本明細書に記載の「粉末化脂質」とは、一般に魚油や植物油脂などの液状の脂質を常法により粉末化したものをいうが、粉末状の脂質であれば、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができる。粉末化脂質としては、例えば、中鎖脂肪酸油(MCT)を粉末状に加工したものを含んでもよい。
脂質含量は、3Dプリント食品のエネルギー値に大いに影響を及ぼす因子である。一般に常温で液体の脂質を粉末化した粉末化脂質を用いることにより、ペースト状食材の作製時における油の分離を抑制することができる。ペースト状食材に含まれる粉末化脂質中の脂質成分(例:MCT)の量を調節すれば、3Dプリント食品のエネルギー値を制御することが可能である。
ペースト状食材中の脂質含量は、また食材および3Dプリント食品の艶にも影響する。驚くべきことに、粉末化脂質の添加により、ペースト状食材および3Dプリント食材の艶を有意に向上させることができる。
本発明における3Dプリント食品の艶の度合いについては、一般的な物性測定器を用いて白色度を算出することにより評価することができる。例えば、分光測色計(CM-5, KONICA MINOLTA)を用いて、ペーストを充填させた透明シャーレをφ=3 mmのターゲットマスクの上に乗せ、透過光測定を実施することにより、明度(L*値)、赤色度(a*値)及び黄色度(b*値)を測定し、下記式(1)により白色度を算出することができる。
白色度=100-〔(100-L*2+a*2+b*21/2 (1)
〔式中、L*は明度、a*とb*は色度(a*は赤方向、-a*は緑方向、b*は黄方向、-b*は青方向)を示す。〕
すなわち、本発明の別の態様は、3Dフードプリンタにおいて造形用材料として使用するペースト状食材の脂質含量と造形された3Dプリント食品の艶を簡便に制御できる素材や手法の提供にも関している。
前記粉末化脂質中の脂質成分の含有量は、吐出式3Dフードプリンタの造形材料として使用できる限り特に制限されないが、例えば、本発明の吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物の総質量に対して、約50質量%以下、約35未満、又は約25質量%未満であってもよく、約0.7質量%超、約1質量%以上、又は約3質量%以上であってもよい。
【0022】
本発明のペースト状組成物は、本発明の目的を損わない限り、当技術分野で通常使用される任意の食品原料又は任意の添加剤をさらに含んでもよいし、吐出性や造形性の向上に有効な他の添加剤をさらに含んでもよい。
【0023】
本発明の吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を調製する方法は、食材の粉粒体と、顆粒状増粘剤と、水とを混合する工程を含む。
前記食材の粉粒体と、顆粒状増粘剤と、水とを混合する工程は、食材の粉粒体と顆粒状増粘剤とを混合するに先立って、顆粒状増粘剤を加温した水(25℃から70℃)に添加、攪拌して、前記顆粒状増粘剤の溶液を調整し、当該溶液を食材の粉粒体と水と混合してもよい。食材の粉粒体と水と混合する際、前記顆粒状増粘剤の溶液の温度は25℃以上であってよい。
本発明の吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物を調製する方法は、食材の粉粒体と顆粒状増粘剤と水との混合物をふるいで裏ごしする工程を含んでよい。前記ふるいは、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、目開き約0.5mmから約2mmであってよく、好ましくは目開き約1.18mmである。
【0024】
本発明のペースト状組成物を三次元造形する方法は、
(A)食材の粉粒体と、顆粒状増粘剤と、水とを含むペースト状組成物を用意する工程、及び、
(B)前記ペースト状組成物を、吐出式3Dフードプリンタの吐出口から吐出して三次元に造形する工程を含み、
(C)前記工程(B)で得られた造形物の上に、前記ペースト状組成物を1層以上積層する工程を含んでもよい。
前記(A)工程は、前記粉粒体と、前記顆粒状増粘剤と、前記水とを混合する工程を含む。
前記(C)工程において、前記ペースト状組成物は合計3層以上、合計5層以上に積層されてもよい。
前記吐出式3Dフードプリンタは、当技術分野で通常使用されるものを特に制限されることなく採用することができるが、例えば、シリンジ式、ディスペンサー式、スクリュー式の3Dフードプリンタであってよい。特にスクリュー式3Dフードプリンタが好ましい。
【0025】
また別の態様において、本発明は、本発明の態様として上述した三次元造形する方法を含む方法で造形された、経口摂取用組成物にも関している。
本願明細書において「経口摂取用組成物」とは、経口摂取される組成物であり、形状、食感、素材、味、栄養成分等を制御し、飲食可能なものであれば、特に限定されない。本発明の経口摂取用組成物としては、飲食、医療、介護、畜産、又は酪農等の場で通常供される形態を特に制限されることなく採用することができるが、例えば、前記経口摂取用組成物は、人工肉、病院食、介護食、嚥下困難者食用栄養補給食品、エネルギー補給食、食事療法食、医療用飲食品、医薬品、医薬部外品、特別用途食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調製食品、サプリメント、粗飼料、又は濃厚飼料等の形態であってもよい。
【0026】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0027】
(3D造形方法)
(1)ペースト状組成物の作製
計量した粉末状の食材に、浄水(又は顆粒状増粘剤を含む溶液)を2回以上に分けて投入する。ゴムベラを用いて、だまができないように混ぜ合わせる。
調製されたペースト状組成物はすべて目開き1.18mmのふるいで裏ごしする(以下、当該裏ごししたペースト状組成物を「サンプル」という)。サンプルは25℃に設定したインキュベータを用いて25℃の状態でスクリュー式3Dフードプリンタ(FP2500)の材料タンクに充填する。
(2)造形
3D CADソフト「FreeCAD」および3Dプリンタ用スライサソフト「Slic3r」を用いて造形挙動を制御し、g-code(3Dプリンタを動かすプログラム言語)を生成する。造形に係る主要な設定は次のとおりである。
・設計モデル:円筒(外径:32mm,内径10mm,高さ10mm)
・ノズル内径2mm
・吐出速度:20mm/s
・押し出し乗数:2
・Infill:concentric
3Dプリンタ制御ソフト「pronterface」を用いてノズル先端部までペースト状組成物を充填させた状態で造形する。
【0028】
(試験例1)顆粒状増粘剤を添加したペースト状組成物を用いた3Dプリント食品の造形
水を添加したペーストとするだけでは3D造形できない食材の粉粒体について、3D造形が可能となる方法を検討した。
ア)材料:後掲の表1に記載のとおり。顆粒状増粘剤としては、キサンタンガムを30質量%含み、賦形剤としてデキストリンを含むもの(株式会社クリニコ製、つるりんこQuickly)を使用した。
イ)方法
50℃のお湯をホモミキサーで攪拌させながら顆粒状増粘剤を溶解させた。作製した溶液は25℃に設定した。
上記「3D造形方法」に記載の方法で、ペースト状組成物を作製し、3D造形を行った。
ウ)結果
結果を表1に示す。顆粒状増粘剤を添加していないおから粉(比較例1-1)のペースト状組成物は、3層目で途切れたが(図1(A)参照)、顆粒状増粘剤を添加したおから粉(実施例1-1)のペースト状組成物の場合、安定的な5層造形が可能であった(図1(B)参照)。また、コオロギ粉、さらしあんの場合、顆粒状増粘剤を添加していないペースト状組成物(比較例1-2及び1-3)は吐出不可であったが、顆粒状増粘剤を添加したペースト状組成物の場合(実施例1-2及び1-3)、安定的な5層造形が可能であった。食材の粉粒体を複数種類含むペースト状組成物(実施例1-4)や、別の食材の粉粒体を含むペースト状組成物(実施例1-5)についても、同様に安定的な5層造形が可能であった。
【0029】
【表1】

〇:安定的に5層造形 △:積層時に上層で吐出物が途切れ
×:吐出不可
【0030】
(試験例2)フレーク状食材を含むペースト状組成物の3D造形
水を添加したペーストとするだけでは3D造形できないフレーク状食材について、3D造形が可能となる方法を検討した。
ア)材料・方法
試験例1と同様にして以下のペースト状組成物を調製し、3D造形を行った。
実施例2-1:マッシュポテトフレーク 20質量%、顆粒状増粘剤 1.7質量%、水 残部
比較例2-1:マッシュポテトフレーク 20質量%、水 残部
イ)結果
顆粒状増粘剤を添加していない比較例2-1のペースト状組成物は吐出不可であったが、顆粒状増粘剤を添加した実施例2-1のペースト状組成物の場合、安定的な5層造形が可能であった。
【0031】
(試験例3)粉末化脂質含有ペースト状組成物を用いた3D造形
ア)材料
マッシュポテトフレーク、粉末化脂質(日清オイリオグループ株式会社、日清MCTパウダーHCを使用(MCTを約70質量%含有))、水
イ)方法
食材に粉末化油脂を添加する試験群を設けた以外は上記「3D造形方法」に記載の方法と同様にして、以下のペースト状組成物を作製し、3D造形を行った。そして、造形物のz白色度を、分光測色計(CM-5, KONICA MINOLTA)を用いて、ペーストを充填させた透明シャーレをφ=3 mmのターゲットマスクの上に乗せ、透過光測定を実施することにより、明度(L*値)、赤色度(a*値)及び黄色度(b*値)を測定し、白色度を算出した。また、原料の熱量(エネルギー)に基づいて、各ペースト状組成物の熱量(エネルギー)を計算した。
実施例3-1:マッシュポテトフレーク 15.9質量%、粉末化脂質 4.8質量%、水 残部
比較例3-1:マッシュポテトフレーク 15.9質量%、水 残部
ウ)結果
粉末化脂質を添加していない比較例3-1のペースト状組成物を用いた3Dプリント食品に比較して、粉末化脂質を添加した実施例3-1のペースト状組成物を用いた3Dプリント食品の場合、粉末化脂質添加による栄養成分の強化に加え、白色度が有意に高く、艶出し効果も認められた。
【0032】
【表2】

*z白色度=100-{(100-L*)2+a*2+b*2}1/2:値が大きいほどより白い
**t検定の結果、実施例3-1の白色度と比較例3-1の白色度の間に、有意な差が認められた(有意水準5%)。
【0033】
(試験例4)溶解試験
顆粒状増粘剤と粉末状増粘剤の溶解性を比較した。
ア)材料
実施例4-1:顆粒状増粘剤 1.7質量%(株式会社クリニコ製、つるりんこQuickly、キサンタンガム30%含有、デキストリンとの複合体)
比較例4-2:粉末状増粘剤 0.5質量%(キサンタンガム試薬)
イ)方法
ホモミキサーで攪拌されたお湯(70℃)に増粘剤を添加し、継続的に攪拌した。攪拌開始5分後の溶解状況を確認し、完全に溶解するまでに要する時間を測定した。
ウ)結果
攪拌開始5分後に、顆粒状増粘剤の場合は完全に溶解していたのに対し、粉末状増粘剤はダマが残っていた。顆粒状増粘剤が完全に溶解するまでの時間は3分以内であったが、粉末状増粘剤が完全に溶解するまでには12分を要した。特定の理論に縛られるものではないが、増粘剤を顆粒状とすることにより、増粘剤の分散性が向上し、あわせて溶解性も向上するものと考えられ、このことが吐出性3Dプリンタ用ペースト状組成物の性状の改善に寄与していたと考えられる。また、増粘剤を顆粒状とする造粒過程において、水溶性の高い粉末と一緒に顆粒化すると、更に分散性が高まり、溶解性が増すと考えられる。
【0034】
(試験例5)粉末の粒度分布測定
試験例1で使用した食材の粉粒体(粉末食材)について、その粒度分布を測定した。
(1)測定機器
レーザー回折式粒度分布測定装置(LS13 320 Beckman Coulter)
(2)測定方法
ドライパウダーモジュール
(3)測定試料
試料1:ジャガイモ粉
試料2:きな粉
試料3:キャベツ粉
試料4:おから粉
試料5:コオロギ粉
(4)結果
結果を図2及び図3並びに表3に示す。
ジャガイモ粉、きな粉、及びキャベツ粉は、顆粒状増粘剤を添加しなくても3D造形が可能であったが、これらの粉体(図2)に比較して、顆粒状増粘剤を添加して初めて3D造形が可能となった粉粒体(おから粉、コオロギ粉)(図3)は、いずれも中位径及び/又は体積平均径が大きく異なる。ジャガイモ粉、きな粉、キャベツ粉に比べ、おから粉は中位径が小さく、粒度分布全体も小さい粒度に偏っているのに対し、コオロギ粉は体積平均径、中位径ともに大きい粒度を中心として粒度分布が認められた。顆粒状増粘剤を添加することで、種々の粒度分布を有する粉末食材について、粒度が小さい場合あるいは粒度が大きい場合のいずれの場合についても、3D造形が可能となる効果が認められた。
【0035】
【表3】
【0036】
(試験例6)ペースト状組成物の硬さ及び付着性と3D造形可否との関係
カボチャフレークを用いて、ぺースト状組成物の硬さ及び付着性(付着エネルギーとして表される)と3D造形が可能か否かとの関係を検討した。
(1)測定機器
卓上型物性測定器TPU-2C(株式会社山電)
(2)ペーストの作製
後掲の表4に記載のカボチャフレークと水を常法により混合してペースト状組成物(試料1~7)を作製し、各試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填した(1サンプル30g程度)。試験以外のサンプルはラップをかけて乾燥を防止した。
(3)測定方法
厚生労働省が示した高齢者用食品の試験方法(えん下困難者用食品の試験方法、平成21年2月12日付け食安発第0212001号)を一部改変した。すなわち試料を直径40mm、高さ15mmの容器に充填し直径16mmのプランジャーを用い定速圧縮法により圧縮速度10mm/s,クリアランス5mm,測定回数2回、測定温度は約25℃で圧縮試験を実施し、得られた記録曲線より硬さ(N/m2)及び付着エネルギー(J/m3)を算出した(n=7)。また、上記「3D造形方法」に従って3D造形を行い、造形の可否を判断した。
結果を表4に示す。
【0037】
【表4】

〇:造形可能
△:積層時につぶれ、途切れが発生
×:造形不可(吐出直後に形状を維持できず、つぶれが発生)
【0038】
(試験例7)ペースト状組成物の硬さ測定
水を添加しただけでは3D造形できない食材の粉粒体を用いたペースト状組成物の物性を測定した。具体的には、硬さ及び付着性については、試験例6と同じ測定機器、測定方法を用い、試験例6と同様にペーストを作製し、測定した。また、上記「3D造形方法」に従って3D造形を行い、造形の可否を判断した。測定試料は以下のとおりである。
実施例6-1:おから粉 16.7質量%、顆粒状増粘剤 1.7質量%、水 残部
実施例6-2:コオロギ粉 41.7質量%、顆粒状増粘剤 1.7%質量、水 残部
(5)結果
結果を表5に示す。顆粒状増粘剤の添加によって造形可能となったおから粉及びコウロギ粉を含むペースト状組成物においては、ペーストの硬さ及び付着性が向上し、どちらも試験例6で造形可能と判断された範囲内の数値となることが確認された。
【0039】
【表5】

〇:造形可能
【0040】
(試験例8)3Dプリント食品の重量減少
カボチャフレークを食材として使用した3Dプリント食品について、3Dプリント食品の時間に対する重量減少率を検討した。
ア)材料・方法
試験例1と同様にして以下のペースト状組成物を調製し、温度25℃に設定したインキュベータ内で3D造形を行った。3D造形により得られた3Dプリント食品をインキュベータ内に静置し、3Dプリント食品の重量を1分おきに60分間測定した。測定時のインキュベータ内の湿度は35±5%RHであった。
実施例8-1:カボチャフレーク 22.2質量%、顆粒状増粘剤 1.7質量%、水 残部
比較例8-2:カボチャフレーク 22.2質量%、水 残部
イ)結果
結果を図4に示す。驚くべきことに、実施例8-1の顆粒状増粘剤を添加したペースト状組成物の場合、60分後の重量減少率が、2.3%に抑えられる(比較例8-2の重量減少率は4.5%)という顕著な効果が認められた。
【0041】
具体的に示してきたように、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に顆粒状増粘剤を使用することで、たとえ少量の添加であっても、当該ペースト状組成物の吐出性及び/又は造形性を向上できることが分かった。また、吐出式3Dフードプリンタ用ペースト状組成物に粉末化脂質を使用することで、当該ペースト状組成物から調製される造形物に艶を付与できることが分かった。したがって、吐出式3Dフードプリンタにおいて高精度かつ安定的な吐出及び/または三次元造形、並びに造形物への艶の付与が可能となり、簡単に三次元造形された経口摂取用組成物を得ることができて、例えば、形状、食感、味、および栄養成分などがカスタマイズされた食品の作製が可能となる。
【0042】
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
図1
図2
図3
図4