(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024462
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】中和工程のpH制御法
(51)【国際特許分類】
C22B 3/44 20060101AFI20240215BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20240215BHJP
C22B 23/00 20060101ALI20240215BHJP
【FI】
C22B3/44 101A
C22B3/08
C22B23/00 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127297
(22)【出願日】2022-08-09
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】若松 貴文
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA02
4K001AA07
4K001AA10
4K001AA19
4K001AA38
4K001BA02
4K001CA05
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】オートクレーブへの硫酸添加開始時の予備中和工程への石灰石添加タイミングを制御し、より早く目標pHへ到達するための制御法を提供する。
【解決手段】高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た浸出液に行われる中和工程のpH制御法であって、前記硫酸浸出の硫酸添加の開始後、80~100分の間に、前記中和工程での前記浸出液へのpH調整剤の添加を開始し、前記pH調整剤の添加が、前記硫酸添加がオートクレーブで行われたあとの前記浸出液に行われ、且つ前記硫酸添加の開始後80~100分経過した時点から、前記浸出液が中和工程に到達する時点までの間に添加されるpH調整剤の添加量を、前記オートクレーブ内の鉱石スラリーへの硫酸添加開始後30分間に添加された硫酸の総量を中和するに等しいpH調整剤当量とすることを特徴とする高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法であって、
前記中和工程におけるpH制御が、前記硫酸浸出の硫酸添加の開始後、80~100分の間に、前記中和工程での前記浸出液へのpH調整剤の添加を開始し、前記pH調整剤の添加が、前記硫酸添加がオートクレーブで行われたあとの前記浸出液に行われ、且つ前記硫酸添加の開始後80~100分経過した時点から、前記浸出液が中和工程に到達する時点までの間に添加されるpH調整剤の添加量を、前記オートクレーブ内の鉱石スラリーへの硫酸添加開始後30分間に添加された硫酸の総量を中和するに等しいpH調整剤当量とすることを特徴とする高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法。
【請求項2】
少なくとも30分に1回は前記中和工程後のpHを測定し、得られた前記pHの測定値により、前記中和工程における前記pH調整剤の添加量を調整することを特徴とする請求項1に記載の高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法。
【請求項3】
前記pH調整剤が、石灰石であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法。
【請求項4】
前記中和工程が、原料の鉱石スラリーを貯留するオートクレーブ内の圧力を高めながら、前記オートクレーブ内の鉱石スラリーへの硫酸添加による硫酸浸出により得られた前記浸出液に対して行われる予備中和工程であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニッケル鉱石の高圧酸浸出技術に関する。より詳しくは、高圧酸浸出工程の操業立ち上げ時の中和工程におけるpH制御法に関し、具体的には、pH調整剤である石灰石の供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石を原料とするニッケル湿式製錬の分野においては、高温高圧下で酸浸出する高圧酸浸出(HPAL:High Pressure Acid Leach)法による、低ニッケル品位鉱石からの有価金属の回収が実用化されている。そして、HPAL法によってニッケル酸化鉱石より浸出されたニッケル、コバルト等の有価金属の回収については、加圧下で有価金属を含む硫酸浴に硫化水素ガス等の硫化剤を添加することにより、硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)として回収する方法が一般的に行われている。
【0003】
この高圧酸浸出法では、高温・高圧条件としたオートクレーブへ供給する鉱石スラリーに対して適切に硫酸を添加することにより、ニッケル酸化鉱石に含まれる種々の金属元素(主にニッケル、マグネシウム、鉄、アルミニウム)成分を酸浸出することが行われている。
【0004】
その高圧での硫酸による浸出工程(高圧硫酸浸出工程とも称す)後、硫化ニッケルを得るまでのニッケルのプロセスフローを含めた高圧酸浸出法(HPAL法)の代表的なプロセスフローを
図1(特許文献1参照)に示す。
【0005】
この
図1に示す湿式製錬法では、所定の粒度を有するニッケル酸化鉱石を含んだ鉱石スラリーの調製を行う鉱石前処理工程S0と、その鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施すことで浸出スラリーを生成する浸出工程S1(高圧硫酸浸出工程と称す)と、その浸出スラリーにpH調整剤を添加してpHを所定範囲内に調整する予備中和工程S2と、そのpH調整された浸出スラリーを多段洗浄することでニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を浸出残渣から分離する固液分離工程S3と、その浸出液に中和剤を添加することで不純物元素を含む中和澱物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S4と、得られた中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成し、これを分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S5と、そのニッケル回収用母液に硫化剤として硫化水素と水流化ナトリウムを添加することでニッケル及びコバルトを含むNiCo混合硫化物を生成した後、固液分離により、そのNiCo混合硫化物を回収するニッケル回収工程S6と、ニッケル回収工程S6の固液分離により液相側に排出されるニッケル回収終液に酸化性スラリーを所定量添加して硫化剤の分解処理を行う硫化剤除去工程S7と、その分解処理により排出される貧液を上記固液分離工程S3から排出される浸出残渣と共に無害化処理する最終中和工程S8とを有している。
【0006】
ここで、高圧での硫酸による浸出後のプロセス液は強酸性(pH0.5~1.0)であり、予備中和工程、洗浄(向流多段洗浄法)による浸出残渣を分離した浸出液を得る固液分離工程を経た後、不純物を分離する中和工程(固液分離を含む)を経ることで、所定のpHに調整したのち、脱亜鉛工程および硫化反応工程において硫化水素ガスと硫酸ニッケルを反応させることで、硫化ニッケルを得ている。
【0007】
この脱亜鉛工程以後に供するプロセス液は、硫化反応の進行を促進させるため所定のpHである必要があり、主に予備中和工程においてpHを精密に制御(例えばpH2.8~3.2)している。
この予備中和工程においては、石灰石を用いた中和処理を行っており、pHを上昇させて主に遊離酸(金属成分と未反応の硫酸)を中和しているが、硫酸イオンは石灰石のカルシウムと反応し、石膏として沈降する(反応式1参照)。
【0008】
【0009】
予備中和工程のpH制御においては、反応槽へpH計を常設することで、pH見合いにより石灰石添加量を制御する方式が理想ではあるものの、予備中和工程は高温かつ強酸性、スラリー性という過酷な環境にあり、pH計の誤指示や故障頻度が高く、常設のpH計を設置することは難しい。
従って、予備中和工程後のプロセス液を採取し、別途pHを測定することでpHを監視し、測定値に応じて石灰石添加量を変化させる管理体制を取っている。
【0010】
このような特別なpH管理体制は、高圧硫酸浸出後のプロセス液のpHが安定している通常操業状態においては、石灰石添加量も概ね安定させることができ、予備中和工程後のpH測定値に応じて石灰石添加量を調整する方式で問題無い。一方、例えばオートクレーブへの硫酸添加開始時など操業変動が大きい場合においては、硫酸添加前後で浸出液のpHが7~8(硫酸添加開始前)から0.5~1.0(硫酸添加開始後)へ大きく変動するため、これに追従するように予備中和工程での石灰石添加量を変動させて調整する必要がある。
【0011】
オートクレーブへの硫酸添加開始時、予備中和工程におけるpH目標値(2.8~3.2)への制御が難しく、一度pHが目標値に対して大きく外れてしまうと、プロセス液の流量が大きいことやpHの分布を掴みづらいこともあってpH調整に時間が大幅にかかる。結果として、後工程への液供給が遅れ生産量が減産となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
オートクレーブへの硫酸添加開始時における、予備中和工程への石灰石添加タイミングを制御することで、より早く目標pHへ到達するための制御法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このような状況に鑑み、本発明の第一の実施態様は、高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和(操作)工程のpH制御法であって、前記中和工程におけるpH制御が、前記硫酸浸出の硫酸添加の開始後、80~100分の間に、前記中和工程での前記浸出液へのpH調整剤の添加を開始し、前記pH調整剤の添加が、前記硫酸添加がオートクレーブで行われたあとの前記浸出液に行われ、且つ前記硫酸添加の開始後80~100分経過した時点から、前記浸出液が中和工程に到達する時点までの間に添加されるpH調整剤の添加量を、前記オートクレーブ内の鉱石スラリーへの硫酸添加開始後30分間に添加された硫酸の総量を中和するに等しいpH調整剤当量とすることを特徴とする高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法である。
【0015】
本発明の第二の実施態様は、第一の実施態様において、少なくとも30分に1回は前記中和工程後のpHを測定し、得られた前記pHの測定値により、前記中和工程における前記pH調整剤の添加量を調整することを特徴とする高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法である。
【0016】
本発明の第三の実施態様は、第一及び第二の実施態様におけるpH調整剤が、石灰石であることを特徴とする高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法である。
【0017】
本発明の第四の実施態様は、第一から第三の実施態様における中和工程が、原料の鉱石スラリーを貯留するオートクレーブ内の圧力を高めながら、前記オートクレーブ内の鉱石スラリーへの硫酸添加による硫酸浸出により得られた前記浸出液に対して行われる予備中和工程であることを特徴とする高圧酸浸出法の適用開始時における硫酸浸出を経た酸性プロセス液である浸出液に対して行われる中和工程のpH制御法である。
【発明の効果】
【0018】
オートクレーブへの硫酸添加開始時の予備中和工程への石灰石添加タイミングを制御することで、以下の効果を得ている。
・予備中和工程後のpHを短時間で目標値に到達させることができる。
・この時間短縮により、脱亜鉛工程など後工程へのプロセス液供給も早く開始することができ、プロセス全体で見た操業立ち上げに要する時間が短縮できるために生産性の向上が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法(HPAL法)のプロセスフロー図である。
【
図2】オートクレーブへの硫酸添加開始後の経過時間による「オートクレーブへの鉱石スラリー流量と中和工程への石灰石スラリー流量との比」の推移を示す図である。
【
図3】オートクレーブへの硫酸添加開始後の経過時間による「中和工程後のpH」の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
具体的には、オートクレーブへの硫酸添加開始後、80から100分の間に予備中和工程への石灰石添加を開始し、かつ石灰石添加量はオートクレーブへの硫酸添加量見合いにて調整し、かつ少なくとも30分に1回は予備中和工程後のpHを測定することで、石灰石添加量を調整する方法を開発した。
以下、実施例に相当するRUN1、3、4と、比較例に相当するRUN2を対比しながら詳細に説明する。
【0021】
{石灰石の添加開始タイミングについて}
図2に、オートクレーブへの硫酸添加開始後の経過時間を横軸とし、縦軸にオートクレーブへの鉱石スラリー流量負荷{m
3/H}と予備中和工程への石灰石スラリー流量{m
3/H}の比を示す。
RUN1、3、4は、硫酸添加開始後80~100分にて石灰石の添加を開始しており、RUN2のみ硫酸添加開始と同時に石灰石添加を開始した場合を示している。つまり、RUN2はオートクレーブからの酸性プロセス液が予備中和工程へ到達し始める前に石灰石の添加を開始しており、予備中和工程反応槽内に余剰の石灰石が存在する状態である。
【0022】
これらの場合における予備中和工程後のpHの推移を
図3に示す。
RUN1、3、4は初期pH2近傍から始まり、オートクレーブ酸添加開始後200~300分後には目標pH2.8~3.2に到達している。
一方、RUN2は余剰石灰石の影響を受けて初期pH7より始まり、100~200分の間に石灰石添加量を減らしながら目標pHへの到達を試みたものの、硫酸浸出後の酸性プロセス液の到達時間{130~200分}と重なっており調整が非常に困難であり、400~500分においてpH1.2~1.3まで低下してしまった。その結果、目標pHへの復帰は800分後となり、RUN1、3、4{200~300分後}に比べ大幅に調整時間を要している。
【0023】
もし仮に、石灰石の添加を80~100分よりも遅くした場合、酸性プロセス液の予備中和反応槽への到達を待ってからpHの調整を開始するということになる。その調整が遅れると、予備中和工程のpHが目標値よりも低pH側に大きく振れ、予備中和工程などの反応槽の滞留時間からするとpHを回復させるために数時間を要する。このことから、石灰石の添加タイミングは80~100分よりも遅らせることには適切ではない。
また、浸出工程S1では、ニッケル酸化鉱石の隅々にまで硫酸を行き渡らせ反応を進めるために相応の時間を要する。硫酸を添加するオートクレーブ内の反応条件を220℃~280℃、圧力3,000~4,500kPaGなどの高温高圧にすることで、この時間はいくらか短縮することができているものの、オートクレーブへの硫酸添加を開始してから反応を終えて予備中和工程を始めるまで少なくとも80分は必要である。
【0024】
すなわち、石灰石添加量は80から100分の間に予備中和工程への石灰石添加を開始することで中和反応槽への余剰石灰石量を最低限に抑えつつ、オートクレーブからの酸性プロセス液到達に応じて石灰石添加量を増加方向へ徐々に調整する方法が望ましい。
【0025】
{石灰石の添加量について}
石灰石添加開始後{80~100分}から、酸性プロセス液の予備中和工程到達{130~200分}の間に添加する石灰石の添加量は、オートクレーブへの硫酸添加開始後30分間の硫酸総量を中和するに等しい石灰石当量であることが望ましい。
【0026】
このような制御を行うことで、予備中和工程後のpH測定間隔30分にてpHの変化が十分に検知可能であり、急激なpH検知にも気づける状態を作ることができる。仮にこの基準を下回る量の石灰石を添加した場合、30分以内にpHが急激に低下する可能性があるため適切ではない。この基準を上回る量の石灰石を添加した場合、
図2のRUN2が示す様に、初期pHが上昇する状況を作り出してしまう為、適切ではない。
【0027】
上記本発明に係る条件のRUN1、3、4と、従来の条件であるRUN2との「pH調整所要時間」を比べると、以下に示すような大きな所要時間の低減が図れていることが判る。
(1).RUN2
・オートクレーブへの硫酸添加と同時に予備中和工程へ石灰石を供給した場合のpH調整所要時間 =800分。
(2).RUN1、3、4
・オートクレーブへの硫酸添加後、80~100分にて石灰石を供給した場合のpH調整所要時間=200~300分。
上記(1)、(2)の比較における所要時間短縮効果は、800-200分=600分であり、約10時間の時間短縮を図ることが可能となっている。この時間短縮により、脱亜鉛工程へのプロセス液供給開始も600分短縮することができ、後工程の操業立ち上げも短縮できるために生産性の向上が可能になる。
【符号の説明】
【0028】
S01 選別工程
S02 濃縮工程
S0 鉱石前処理工程
S1 浸出工程
S2 予備中和工程
S3 固液分離工程
S4 中和工程
S5 脱亜鉛工程
S6 ニッケル回収工程
S7 硫化剤除去工程
S8 最終中和工程