(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024586
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】鳥獣害対策装置
(51)【国際特許分類】
A01M 29/10 20110101AFI20240215BHJP
【FI】
A01M29/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096478
(22)【出願日】2023-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2022127353
(32)【優先日】2022-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼永 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】岡本 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】益子 美由希
【テーマコード(参考)】
2B121
【Fターム(参考)】
2B121AA01
2B121AA07
2B121DA33
2B121DA62
2B121DA63
2B121EA26
2B121FA13
(57)【要約】
【課題】対象物に対して加害する加害種の鳥獣をより効率的に追払うことのできる鳥獣害対策装置を提供する。
【解決手段】鳥獣害対策装置(10)は、対象領域において集音する集音部(1)が出力する音声データと、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器とを用いて、前記集音部が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別し、集音部(1)が集音した音に上記鳴き声が含まれる場合、光照射部を制御して対象領域に対し光を照射させる音声識別・光照射部(2)と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域において集音する集音部が出力する音声データと、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器とを用いて、前記集音部が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する判別部と、
前記集音部が集音した音に前記鳴き声が含まれる場合、光照射部を制御して前記対象領域に対し光を照射させる照射制御部と、
を有する鳥獣害対策装置。
【請求項2】
前記照射制御部は、前記光の照射方向を所定の速度又は所定の角速度で変更する、
請求項1に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項3】
前記照射制御部は、前記鳴き声の音源の方向を推定し、前記光の照射方向を、前記光の照射位置が前記音源に近づく方向に移動させる、
請求項2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項4】
自立電源を含む電源部、を更に有し、
前記判別部、及び前記照射制御部は、前記電源部が供給する電力により動作する、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項5】
前記集音部が集音した音声と前記光照射部が前記光を照射した日時とを記録する記録部、を更に有する、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項6】
前記対象領域は、レンコンが栽培されるハス田である、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項7】
前記加害種の鳥獣は、前記対象領域において夜間に採食を行う種の少なくともいずれかを含む、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項8】
前記対象領域は、レンコンが栽培されるハス田であり、
前記加害種の鳥獣は、マガモ及びオオバンの少なくともいずれか一方を含む、
請求項7に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項9】
前記判別部は、前記音声データを分析して当該音声データの特徴量を表す複数のパラメータを生成し、
生成した複数のパラメータが示す特徴量空間内の位置に基づき、前記判別を行う、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項10】
前記複数のパラメータは、線形予測符号化(linear predictive coding,LPC)により算出される線形予測係数を含む、
請求項9に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項11】
前記複数のパラメータは、前記音声データの自己相関係数を含む、
請求項10に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項12】
前記判別部は、前記複数のパラメータを入力として判別結果を出力する機械学習モデルを用いて前記判別を行う、
請求項9に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項13】
前記機械学習モデルは、ランダムフォレストの学習により構築されるモデルである、
請求項12に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項14】
前記機械学習モデルは、前記環境音を表す音声データに加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声を埋め込んだ教師データを用いて機械学習された学習済みモデルである、
請求項12に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項15】
前記集音部と、
前記光照射部と、
を更に有する請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項16】
前記光照射部は、レーザー光を照射する、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項17】
加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声データを、環境音を表す音声データに埋め込んだ学習用音声データを生成する生成部と、
前記生成部が生成した学習用音声データを音声分析して特徴量を表す複数のパラメータを生成するパラメータ生成部と、
前記パラメータ生成部が生成した複数のパラメータと前記加害種の鳴き声を含むか否かを示すラベルとを含む学習用データを用いて、音声データの特徴量を表す複数のパラメータを入力として当該音声データに加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する機械学習モデルを生成する学習部と、
を含む学習装置。
【請求項18】
コンピュータを、
対象領域において集音する集音部が出力する音声データと、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器とを用いて、前記集音部が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する判別部と、
前記集音部が集音した音に前記鳴き声が含まれる場合、光照射部を制御して前記対象領域に対し光を照射させる照射制御部と、
として機能させるためのプログラム。
【請求項19】
前記光の照射方向を撮影し、撮影画像を表す画像データを出力する撮影装置、を更に有している、
請求項1又は2に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項20】
前記判別部は、前記集音部が出力する音声データに加えて前記撮影装置が撮影する撮影画像の画像データを用いて前記加害種が前記対象領域に飛来したかを判別する、
請求項19に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項21】
前記機械学習モデルは、環境音を表す音声データのセットで事前訓練された後、前記加害種の鳴き声を含む音声データから生成されたパラメータを含む教師データを用いて再訓練された学習済モデルである、
請求項12に記載の鳥獣害対策装置。
【請求項22】
前記機械学習モデルは、量子化及び圧縮の少なくともいずれか一方により軽量化されたモデルである、
請求項12に記載の鳥獣害対策装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鳥獣害対策の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
鳥獣による被害が種々報告されている。例えば、鳥類による農作物被害は全国で約30.2億円(2020年度)が報告されている。鳥の種類別では、カラス類(約13.8億円)が最多で、次いでカモ類(約5.1億円)が多くなっている(非特許文献1)。
【0003】
農耕地や養魚場等への鳥の侵入と食害を防ぐため、鳥と対象物を物理的に遮断する防鳥網が最も有効な方策として広く使用されている。しかし、圃場等の対象となる領域が広い場合には全体を覆う防鳥網の設置は容易でない。また、目合いの大きな網の使用や、一部が破損、又は継ぎ目や地面との間に隙間があるまま網を敷設しているなど、不適切な管理状況となる例も散見され、防鳥網での野鳥の羅網死が多発し問題化している地域もある(非特許文献2)。
【0004】
防鳥網以外に、鳥獣を威嚇することで農耕地等の特定の領域から排除する装置やシステムが考案されている。光を用いるものとして、種レンコンの植え付け時、夜間のカモの食害から守るため、レーザー光線を圃場に照射する有害鳥獣追払い装置が提案されている(特許文献1)。また、有害鳥獣が接近した時を狙って、発砲音を鳴らしたり、レーザー光線を照射したりして効果的、効率的に威嚇し追払う装置が提案されている(特許文献2)。特許文献2には、カメラが撮影した映像に基づき有害鳥獣の接近と判断したときに、威嚇装置を発動することが記載されている。
【0005】
さらに、既存の害鳥獣駆逐装置を補助し効果の減衰しづらい駆逐装置を実現するものとして、害鳥獣の侵入、飛来を特定の固定周波数の音声により察知認識しうる音源認識識別装置が考案されている(特許文献3)。ほかに、鳥獣被害対策以外の分野において、動物等の鳴き声から当該動物等の種類の特定を行う装置・システムが考案されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3217837号公報
【特許文献2】実用新案登録第3213836号公報
【特許文献3】実用新案登録第3219134号公報
【特許文献4】特開2002-304191号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】農林水産省「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和2年度)」農村振興局農村政策部鳥獣対策・農村環境課,2021(オンライン)https: //www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/index.html
【非特許文献2】明日香治彦・池野 進・渡辺朝一「茨城県下のハス田における防鳥ネットによる野鳥羅網被害の状況」Strix Vol.27,113-124,2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、加害種の鳥だけでなく加害しない他の野鳥等も追払いの対象となってしまうという問題がある。また、特許文献2に記載の技術では、映像に基づき有害鳥獣の接近を判断するため、夜間等では加害種であるかの判断が困難であるという問題がある。また、特許文献3に記載の技術では、感知した周辺の音声のうち環境音がノイズとなり、対象となる加害種の鳥獣の音声を感知しにくいという問題がある。このように、上記のような従来技術は、加害種の鳥獣をより効率的に追払うという観点において改善の余地がある。
【0009】
本発明の一態様は、対象物に対して加害する加害種の鳥獣をより効率的に追払うことのできる鳥獣害対策装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係る鳥獣害対策装置は、対象領域において集音する集音部が出力する音声データと、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器とを用いて、前記集音部が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する判別部と、前記集音部が集音した音に前記鳴き声が含まれる場合、光照射部を制御して前記対象領域に対し光を照射させる照射制御部と、を有する。
【0011】
上記の構成によれば、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器を用いて集音された音声に加害種の鳴き声が含まれるかを判別し、集音された音声に加害種の鳴き声が含まれる場合に対象領域に光を照射する。これにより、加害種の鳥獣をより効率的に追払うことができる。
【0012】
本発明の態様2に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1において、前記照射制御部は、前記光の照射方向を所定の速度又は所定の角速度で変更してもよい。上記の構成によれば、対象領域に侵入した加害種をより効果的に追払うことができる。
【0013】
本発明の態様3に係る鳥獣害対策装置は、前記態様2において、前記照射制御部は、前記鳴き声の音源の方向を推定し、前記光の照射方向を、前記光の照射位置が前記音源に近づく方向に移動させてもよい。照射位置を音源、すなわち対象領域に侵入した加害種の位置に近づけていくことにより、対象領域に侵入した加害種をより効果的に追払うことができる。
【0014】
本発明の態様4に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から3のいずれかにおいて、自立電源を含む電源部、を更に有し、前記判別部、及び前記照射制御部は、前記電源部が供給する電力により動作してもよい。
【0015】
自立電源を含む電源部を備えることにより、電源のない耕作地等にも設置することができる。また設置や持運びが容易であり、対象領域内において農水産物の収穫が終了するなど追払いの必要が無くなった際には、取り外して他の対象領域に移設し使用することができる。
【0016】
本発明の態様5に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から4のいずれかにおいて、前記集音部が集音した音声と前記光照射部が前記光を照射した日時とを記録する記録部、を更に有してもよい。上記の構成によれば、記録されたデータを用いた効果の検証、分析及び分類器23の再学習等が可能になる。
【0017】
本発明の態様6に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から5のいずれかにおいて、前記対象領域は、レンコンが栽培されるハス田であってもよい。上記の構成によれば、ハス田に侵入して加害する加害種をより効果的に追払うことができる。
【0018】
本発明の態様7に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から6のいずれかにおいて、前記加害種の鳥獣は、前記対象領域において夜間に採食を行う種(オカヨシガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、マガモ、カルガモ、ハシビロガモ、オナガガモ、コガモ、ホシハジロ、オオバン、アオサギ、ゴイサギ、及びタシギ等)の少なくともいずれかを含んでもよい。上記の構成によれば、上記の鳥による加害を効果的に抑制することができる。
【0019】
本発明の態様8に係る鳥獣害対策装置は、前記態様7において、前記対象領域は、レンコンが栽培されるハス田であり、前記加害種の鳥獣は、マガモ及びオオバンの少なくともいずれか一方を含んでもよい。上記の構成によれば、ハス田に侵入するマガモ及びオオバンの少なくともいずれか一方をより効果的に追払うことができる。
【0020】
本発明の態様9に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から8のいずれかにおいて、前記判別部は、前記音声データを分析して当該音声データの特徴量を表す複数のパラメータを生成し、生成した複数のパラメータが示す特徴量空間内の位置に基づき、前記判別を行ってもよい。上記の構成によれば、音声データの分析結果である複数のパラメータを用いて上記判別を行うことにより、加害種であるかを精度よく判別することができる。
【0021】
本発明の態様10に係る鳥獣害対策装置は、前記態様9において、前記複数のパラメータは、線形予測符号化(linear predictive coding,LPC)により算出される線形予測係数を含んでもよい。
【0022】
LPCの係数を算出するための演算量は、例えば畳み込みニューラルネット(convolutional neural network,CNN)の演算量と比較すると小さいため、ハードウェアを簡易な構成とすることができる。そのため、本実施形態によれば、簡易な構成で、鳥獣害の対策を効果的に行うことができる。
【0023】
本発明の態様11に係る鳥獣害対策装置は、前記態様10において、前記複数のパラメータは、前記音声データの自己相関係数を含んでもよい。LPCのパラメータだけでなく自己相関係数を分類器23の入力に含めることにより、簡易な構成で、加害種の判別をより精度よく行うことができる。
【0024】
本発明の態様12に係る鳥獣害対策装置は、前記態様9から11のいずれかにおいて、前記判別部は、前記複数のパラメータを入力として判別結果を出力する機械学習モデルを用いて前記判別を行ってもよい。上記の構成によれば、機械学習モデルを用いて上記判別を行うことにより、加害種の判別を精度よく行うことができる。
【0025】
本発明の態様13に係る鳥獣害対策装置は、前記態様12において、前記機械学習モデルは、ランダムフォレストの学習により構築されるモデルであってもよい。上記の構成によれば、ランダムフォレストの学習により構築されるモデルを用いて上記判別を行うことにより、加害種の判別を精度よく行うことができる。
【0026】
本発明の態様14に係る鳥獣害対策装置は、前記態様12又は13において、前記機械学習モデルは、前記環境音を表す音声データに加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声を埋め込んだ教師データを用いて機械学習された学習済みモデルであってもよい。
【0027】
上記の構成によれば、環境音を表す音声データに加害種の鳴き声を埋め込んだ教師データを用いることにより、対象領域で集音される音声に環境音(ノイズ)が含まれる場合であっても、加害種の鳴き声をより精度よく判別できる。
【0028】
本発明の態様15に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から14のいずれかにおいて、前記集音部と、前記光照射部と、を更に有してもよい。上記の構成によれば、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器を用いて集音された音声に加害種の鳴き声が含まれるかを判別し、集音された音声に加害種の鳴き声が含まれる場合に対象領域に光を照射する。これにより、加害種の鳥獣をより効率的に追払うことができる。
【0029】
本発明の態様16に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1から15のいずれかにおいて、前記光照射部は、レーザー光を照射してもよい。
【0030】
レーザー光は特に夜間において鳥獣の追払いに効果的である。そのため、レーザー光を照射することにより、対象領域に侵入した加害種をより効果的に追払うことができる。
【0031】
本発明の態様17に係る学習装置は、加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声データを、環境音を表す音声データに埋め込んだ学習用音声データを生成する生成部と、前記生成部が生成した学習用音声データを音声分析して特徴量を表す複数のパラメータを生成するパラメータ生成部と、前記パラメータ生成部が生成した複数のパラメータと前記加害種の鳴き声を含むか否かを示すラベルとを含む学習用データを用いて、音声データの特徴量を表す複数のパラメータを入力として当該音声データに加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する機械学習モデルを生成する学習部と、を含む。
【0032】
上記学習装置が生成した機械学習モデルを用いることで、加害種の鳴き声を精度よく判別することができる。
【0033】
本発明の態様18に係るプログラムは、コンピュータを、対象領域において集音する集音部が出力する音声データと、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器とを用いて、前記集音部が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する判別部と、前記集音部が集音した音に前記鳴き声が含まれる場合、光照射部を制御して前記対象領域に対し光を照射させる照射制御部と、として機能させるためのプログラムである。
【0034】
本発明の態様19に係る鳥獣害対策装置は、前記態様1又は2において、前記光の照射方向を撮影し、撮影画像を表す画像データを出力する撮影装置、を更に有してもよい。上記の構成によれば、撮影画像を鳥獣害対策装置による鳥獣の追払いの効果の検証等に用いることができる。
【0035】
本発明の態様20に係る鳥獣害対策装置は、前記態様19において、前記判別部は、前記集音部が出力する音声データに加えて前記撮影装置が撮影する撮影画像の画像データを用いて前記加害種が前記対象領域に飛来したかを判別してもよい。上記の構成によれば、音声による加害種の検知に加えて画像データを用いた検知を行うことにより、検知精度をより高くすることができる。
【0036】
本発明の態様21に係る鳥獣害対策装置は、前記態様12において、前記機械学習モデルは、環境音を表す音声データのセットで事前訓練された後、前記加害種の鳴き声を含む音声データから生成されたパラメータを含む教師データを用いて再訓練された学習済モデルであってもよい。上記の構成によれば、大規模な環境音データセットで判別モデルを事前訓練した後、加害種の鳴き声を判別するためのデータセットで判別モデルを再訓練(ファインチューニング)することにより、少ない教師データ(加害種の鳴き声を含む音声データ)で判別精度の高い判別モデルを生成することができる。
【0037】
本発明の態様22に係る鳥獣害対策装置は、前記態様12において、前記機械学習モデルは、量子化、及び圧縮、の少なくともいずれか一方により軽量化されたモデルであってもよい。上記の構成によれば、量子化及び圧縮の少なくともいずれか一方により判別モデルを軽量化することにより、モデル実行に要する計算量を小さくすることができる。
【0038】
本発明の各態様に係る鳥獣害対策装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記鳥獣害対策装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記鳥獣害対策装置をコンピュータにて実現させる鳥獣害対策装置の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【発明の効果】
【0039】
本発明の一態様によれば、対象物に対して加害する加害種の鳥獣をより効果的に追払うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】実施形態1に係る鳥獣害対策装置の設置状態を概略的に示す図である。
【
図2】実施形態1に係る集音部を下面から見た外観図である。
【
図3】実施形態1に係る音声識別・光照射部のケース外部を下面から見た外観図である。
【
図4】実施形態1に係る音声識別・光照射部のケース内部を上面から見た図である。
【
図5】実施形態1に係る音声識別・光照射部のケース内部に収容される部品の接続の様子を示す図である。
【
図6】実施形態1に係る音声識別・光照射部を上面から見た模式図である。
【
図7】実施形態1に係る音声識別・光照射部を側面から見た模式図である。
【
図8】実施形態1に係る電源部の構成を示す図である。
【
図9】実施形態1に係る音声識別・光照射部の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図10】定点カメラに映った加害種の個体数の推移を示すグラフである。
【
図11】実施形態1に係る学習装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】実施形態1に係る教師データの生成処理の具体例を説明するための図である。
【
図13】変形例に係る鳥獣害対策装置の構成の一例を示す図である。
【
図14】変形例に係る音声識別・光照射部の構成を示す図である。
【
図15】変形例に係る鳥獣害対策装置の構成を示す図である。
【
図16】変形例に係る鳥獣害対策装置の構成を示す図である。
【
図17】変形例に係る判別モデルの訓練に用いる教師データの具体例を示す図である。
【
図18】変形例に係る判別モデルの生成及びコンピュータへの実装の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。
【0042】
<鳥獣害対策装置の構成>
本実施形態に係る鳥獣害対策装置10は、対象領域における鳥獣害の対策を行うための装置である。鳥獣害対策装置10は、本明細書に係る鳥獣害対策システムの一例である。以下では、鳥獣害対策装置10をカモ類等による夜間のレンコン食害の対策に用いる態様について説明する。本実施形態において、対象領域は、レンコンが栽培されるハス田である。対象領域は特に、湛水された収穫前のハス田である。例えば、全国のレンコン出荷量の54%(2020年度)を生産する茨城県下のハス田では、夜間に採食する鳥類は少なくとも13種類確認されており(オカヨシガモ、ヨシガモ、ヒドリガモ、マガモ、カルガモ、ハシビロガモ、オナガガモ、コガモ、ホシハジロ、オオバン、アオサギ、ゴイサギ、タシギ)、種ごとに特徴のある声で鳴く。これらのうち、泥中に着生するレンコンを食害することが確かめられている加害種は2種(マガモ、オオバン)である(益子美由希・山口恭弘・吉田保志子,「泥中のレンコンはカモ類等の食害を受ける:実地試験による確認」日本鳥学会誌71,(2), 153-169,2022)。本実施形態において、鳥獣害の対策の対象である加害種は、マガモ及びオオバンの少なくともいずれか一方を含む。
【0043】
図1は、鳥獣害対策装置10の設置状態を概略的に示す図である。
図1において、鳥獣害対策装置10は、被害を防ぎたい耕作地(収穫前のハス田)付近に設置される。なお、ハス田内は湛水され、泥中にはレンコンが栽培されており立ち入りできないため、立入可能な周囲の畦畔や農道沿いに存在する既設の柱(電柱、過去に防鳥網を設置していた際の支柱となっていた単管パイプ等)に取り付ける。その際、鳥獣害対策装置10の光線照射により追払われた加害種が飛去する際に羅網することを避けるため、防鳥網の無い場所を選定し、農家等と調整の上で設置を行う。
【0044】
鳥獣害対策装置10は、基本構成として、
図1に示すように集音部1と、音声識別・光照射部2と、これらに電力を供給する電源部3とを備える。電源部3は、家庭用電源を用いてもよいが、電源が無い耕作地等においては太陽光パネル31と、この太陽光パネル31で発電した電力を蓄えるバッテリ等を収納するプラスチック製のケース33を備える。以下、
図1の矢印に示すように、鳥獣害対策装置10の上下方向を定義する。
【0045】
(集音部)
図2は、集音部1を下面から見た外観図である。集音部1は、対象領域において集音する。
図2の例で、マイクロフォンアレイ11の上部に、マイクロフォンアレイ11よりも直径が2倍以上ある大きさの雨除け皿12を下向きに取り付けて雨避けを設ける。雨除け皿は、例えばプラスチック製の皿であり、より具体的には、一例として、植木鉢用台皿である。さらに、マイクロフォンアレイ11及び雨除け皿12をカバー13で覆う。カバー13は、防雨・防風用の布製のカバーである。カバー13は、伸縮性と吸水速乾性に優れたナイロン又はポリウレタン素材の薄いものが好ましい。マイクロフォンアレイ11は、USBケーブル14により音声識別・光照射部2へ接続する。これらを集音部支持棒15に固定した上で、集音部固定具16を用いて、地面と水平になるよう集音部1を柱に固定する。
【0046】
マイクロフォンアレイ11は、音のした方向を4方向から推定可能な4つのマイクロフォンアレイを備える。マイクロフォンアレイ11は、周囲約100mの範囲内における音を集音する。マイクロフォンアレイ11の4つのマイクの穴は通気性のある防水シールで覆う。単独マイクを使用した場合には、集音した音が背景の長波ダイナミクスにより大幅に改変されることにより、加害種の鳴き声検知精度が大きく低下する。それに対し本実施形態によれば、マイクロフォンアレイ11では制御チップによってノイズ低減、及びエコーが削除された音が得られるため、鳴き声検知の精度向上が可能となる。
【0047】
(音声識別・光照射部)
図3は、音声識別・光照射部2のケース外部を下面から見た外観図である。音声識別・光照射部2は、本明細書に係る鳥獣害対策装置の一例である。ケース211は、プラスチック製の防水のケースである。ケース211の下部に、アクリル製の半球状のドーム212が設けられている。ドーム212は、音声識別・光照射部2の部品を収容する透明の部材である。ケース211の下部からドーム212が飛び出た形状であり、ドーム212内にレーザーハウジング221と接続線222、223が収納されている。ケース211を支持棒213に固定した上で、固定具214を用いて、音声識別・光照射部2を音声識別・光照射部2の下面が地面と水平になるよう柱に固定する。
【0048】
図4は、ケース211の内部を上面からみた図であり、
図5は、ケース211の内部に収容される部品の接続の様子を示す図である。鳴き声検出には、コンピュータ227を用いる。コンピュータ227は、例えばシングルボードコンピュータであり、一例として、CPU(central processing unit)等のプロセッサと、メモリとを備える。コンピュータ227は、例えば0.5秒毎の音声入力の処理に十分なCPUの処理能力を持ち、入力音を信号雑音比などを使って断片化した上で、断片化された音を対象に鳴き声検出を行う。拡張ボード228は、ステッピングモーター・レーザー制御用の拡張ボードである。コンピュータ227に付加した拡張ボード228により、汎用入出力を介して音声識別・光照射部2を制御できる。なお、コンピュータ227は、プロセッサとメモリとを備えるコンピュータに限定されるものではなく、例えばマイクロコントローラであってもよい。
【0049】
また、効果検証を効率化するには、加害種の鳴き声を検知した日時、及び光照射の実施日時を正しく取得・保存する必要がある。コンピュータ227が自ら時刻補正を行うにはインターネット接続を要するため、代わりにGPS受信機224を設けることにより、インターネット接続のない場所においても随時時刻補正が行われ、正しい時刻を記録することができる。加えて、加害種の鳴き声を検知した際に集音された音声は、コンピュータ227に保存することができる。換言すると、鳥獣害対策装置10は、集音部1が集音した音声と、音声識別・光照射部2が光を照射した日時とを記録するコンピュータ227を有する。コンピュータ227は、本明細書に係る記録部の一例である。
【0050】
図6は、音声識別・光照射部2を上面から見た模式図であり、
図7は、音声識別・光照射部2を側面(上面と垂直な面)から見た模式図である。光線は、緑色のレーザー光線を約90°の扇状に照射するマーキングレーザーを備えたレーザーモジュール226より、ドーム212を通って発せられる。レーザーモジュール226は、本明細書に係る光照射部の一例である。レーザーモジュール226が照射する光線は、例えばクラス1、クラス1M、クラス2、又はクラス2Mである。レーザーモジュール226が照射する光線は、夜間に約50m先まで到達する。また、レーザーモジュール226を動かすためのパン機能を備えたステッピングモーター225をケース211の内部に取り付けておくことで、光線を360°旋回させることができる。レーザーモジュール226は、アルミニウム素材からなるレーザーハウジング221で覆い、その熱を放出しやすくすることができる。
【0051】
ただし、レーザーモジュール226が照射するレーザー光は緑色に限られず、レーザーモジュール226は他の波長のレーザー光を照射してもよい。また、レーザーモジュール226が照射するレーザー光の形状は扇状に限られず、レーザーモジュール226はレーザー光を他の形状で照射してもよい。
【0052】
点状のレーザー光線を用いて対象領域の全面へ照射する場合にはパン・チルト制御を要し、プラスチック製のパン・チルトユニットでは高熱となり損傷しやすいのに対して、扇状のレーザー光線を垂直方向へ照射するように設定することでチルト機能の必要がなくなるため、安価なステッピングモーター225を用いたパン機能のみで対応でき、消費電力を削減し長期間の安定した動作が可能となる。
【0053】
ステッピングモーター225はモータードライバ229に、モータードライバ229は拡張ボード228に、それぞれ接続線で接続し、拡張ボード228はコンピュータ227の適切な汎用入出力へ接続する。
【0054】
(電源部)
図8は、電源部3の構成を示す図である。電源部3は、電源が無い耕作地等において鳥獣害対策装置10へ給電する。太陽光パネル31により発電した電力は、ソーラー充電コントローラー35を介してバッテリ32に蓄えられ、DC/DCコンバータ36を介して音声識別・光照射部2へ接続線34より給電される。換言すると、鳥獣害対策装置10は、太陽電池を含む電源部3を有し、音声識別・光照射部2は、電源部3が供給する電力により動作する。
【0055】
(音声識別・光照射部の機能的構成)
図9は、音声識別・光照射部2の機能構成の一例を示すブロック図である。図において、音声識別・光照射部2は、判別部21及び照射制御部22を備える。判別部21及び照射制御部22は、一例として、コンピュータ227のプロセッサがメモリに記憶されたコンピュータプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0056】
(判別部)
判別部21は、集音部1が出力する音声データ、並びに、分類器23_1及び分類器23_2を用いて、集音部1が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する。判別部21が一度の判別処理において判別の対象とする音声データは、一例として0.5秒の時間長の音声データである。この場合、判別部21は、0.5秒の時間長の音声データに対する判別処理を、鳥獣害対策装置10の稼働期間に亘って繰り返し実行する。
【0057】
(分類器)
分類器23_1は、判別部21で得られた音声データにオオバンの鳴き声が含まれているかを判別するための分類器であり、分類器23_2は、判別部21で得られた音声データにマガモの鳴き声が含まれているかを判別するための分類器である。以下では、分類器23_1と分類器23_2とを各々区別する必要がない場合には、これらを「分類器23」と称する。分類器23は、教師あり機械学習により構築された学習済モデルである。本実施形態において、分類器23は、ランダムフォレストの手法により構築された学習済モデルである。分類器23の学習に用いられる学習用データは、環境音を表すノイズデータを含む。換言すると、分類器23は、環境音を表すノイズデータと対象種の音声データを用いて生成された分類器である。
【0058】
(分類器の入力)
分類器23の入力は一例として、音声データの特徴量を表す複数のパラメータを含む。ここで、複数のパラメータは、一例として、線形予測符号化(linear predictive coding,LPC)により算出される16個の線形予測係数と、自己相関係数と、の17個の係数を含む。LPCによれば、ひとつの音声データを多項式として表現できるため、音声データから複数のパラメータが得られる。ただし、特徴量を表す複数のパラメータはこれらに限られず、音声データの特徴量を表す他のパラメータを含んでもよい。
【0059】
(分類器の出力)
また、分類器の出力は、一例として、音声データに加害種の鳴き声が含まれるか否かの判別結果を含む。換言すると、判別部21は、複数のパラメータを入力として判別結果を出力する機械学習モデルを用いて上記判別を行う。
【0060】
(判別部による判別処理の具体例)
判別部21は、一例として、以下の手順により判別処理を行う。まず、判別部21は、0.5秒の時間長の音声データのうち、ノイズ以外の音を含むデータを分析して当該音声データの特徴量を表す複数のパラメータを生成する。より具体的には、判別部21は、LPCにより音声データから16個の線形予測係数を算出する。また、判別部21は、音声データの自己相関係数を算出する。
【0061】
判別部21は、算出した17個のパラメータ(16個の線形予測関数と1個の自己相関係数)とを分類器23に入力して分類器23の出力を得ることにより、判別対象である音声データに加害種の鳴き声が含まれているかを判別する。
【0062】
(照射制御部)
照射制御部22は、判別部21の判別結果に基づき、レーザー光の照射制御を行う。すなわち、照射制御部22は、集音部1が集音した音に上記鳴き声が含まれる場合、レーザーモジュール226を制御して上記対象領域に対し光を照射させる。本実施形態においては、照射制御部22は方角を定めず光線照射を行う。音声識別・光照射部2は、一例として、ステッピングモーター225を制御して光の照射方向を所定の速度又は所定の角速度で変更し、対象領域において光の照射位置を徐々に移動させる。
【0063】
音声識別・光照射部2が照射するレーザー光は、対象領域においてゆっくり移動し、対象領域で栽培される農作物の枯れ茎や枯れ葉、及び水面等を照らす。対象領域に侵入した加害種の鳥獣は、照射されるレーザー光、レーザー光により照らされる水面の揺れ、及びレーザー光の照射により発生する農作物の影等により、周囲を警戒し、対象領域の外に移動する。これにより、対象領域に侵入してきた加害種を追払うことができる。
【0064】
このとき、音声識別・光照射部2は、光の照射位置を加害種に近づく方向に徐々に移動させてもよい。この場合、音声識別・光照射部2は、マイクロフォンアレイ11が出力する信号に基づき、加害種の方向(鳴き声の音源の方向)を推定し、光の照射方向を、光の照射位置が音源に近づく方向に移動させてもよい。
【0065】
また、音声識別・光照射部2は、集音部1が集音した音声と、音声識別・光照射部2が光を照射した日時とを記録する。記録されたデータは、一例として、鳥獣害対策装置10による追払い効果の検証、分析、及び分類器23の再学習等に用いられる。
【0066】
本出願人は、本実施形態に係る鳥獣害対策装置10をハス田に設置して実際に観測を行った。
図10は、対象領域を撮影する定点カメラに映った加害種(マガモ)の個体数の推移を示すグラフである。
図10のグラフにおいて、横軸は日付を示し、定点カメラに映った加害種の個体数を示す。この例で、日時t11において対象領域に鳥獣害対策装置10を設置した。設置前と設置後とを比較すると明らかなように、鳥獣害対策装置10の設置後、定点カメラに映った加害種の個体数が減少した。
【0067】
<鳥獣害対策装置10の効果>
以上説明したように本実施形態に係る鳥獣害対策装置10は、対象領域において集音する集音部1が出力する音声データと、環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器23とを用いて、集音部1が集音した音に加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する判別部21と、集音部1が集音した音に上記鳴き声が含まれる場合、上記対象領域に対し光を照射させる照射制御部22と、を有する。環境音を表すノイズデータを用いて生成された分類器23を用いることにより、加害種の判別をより精度よく行うことができ、これにより、加害種をより効率よく追払うことができる。
【0068】
また、本実施形態に係る鳥獣害対策装置10は、対象領域に飛来する加害種を鳴き声(音声)で判別し、加害種の存在を検知した時にのみ一時的に光線を照射する。これにより、加害種に対象を絞った効率的な追払いが可能である。加害種に対象を絞ることができるため、耕作地等を生息場とする他の鳥類との共存を図りつつ加害種による被害を軽減することができる。
【0069】
また、本実施形態に係る鳥獣害対策装置10は、加害種を追払うための光線を常時照射したり周期的に照射したりするのではなく、加害種の鳴き声を検出したタイミングで光線を照射する。これにより、加害種の威嚇への慣れを回避できるため、追払い効果を長期間持続させることができる。
【0070】
また、鳥獣害対策装置10が照射する光線は、夜間に約50m先まで到達し、360°水平方向へ旋回可能である。そのため、被害を防ぎたい対象領域の中央に設置することで、その半径約50m内を追払い有効範囲とすることができる。また、鳥獣害対策装置10は、集音部1に用いるマイクロフォンアレイ11にて周囲約100mの範囲内における鳴き声を集音し、自動識別することができる。上述の光線照射による追払い有効範囲の外側において加害種の飛来又は存在を検知した場合にも光線を一時的に照射することで、追払い有効範囲内への侵入を防ぐ効果を有する。
【0071】
また、鳥獣害対策装置10は、家庭用電源により安定動作するが、稼働時間は夜間の一時であり電力消費量は1日あたり100Wh程度と少なく、太陽電池からの給電でも動作可能であるため、電源のない耕作地等に設置することができる。また設置や持運びが容易であり、対象領域内において収穫が終了するなど追払いの必要が無くなった際には、取り外して他の対象領域に移設し使用することができる。
【0072】
また、鳥獣害対策装置10の判別部21は、音声データを分析して当該音声データの特徴量を表す複数のパラメータを生成し、生成した複数のパラメータが示す特徴量空間内の位置に基づき、上記判別を行う。音声データから加害種を判別する手法として、例えば畳み込みニューラルネットワーク(convolutional neural network;CNN)用いる手法が考えられる。より具体的には、例えば、音声のスペクトログラムの図を教師データに用いてトレーニングを行って分類器を生成することが考えられる。しかしながら、CNNを用いる手法は計算量が多くなってしまい処理負荷が大きくなってしまうという問題がある。また、計算量が多いことにより装置が高温になってしまうという問題もある。
【0073】
それに対し本実施形態によれば、LPCのパラメータ及び自己相関係数等のパラメータを用いて判別を行うことにより、計算量を小さくすることができ、処理負荷を小さくできるという効果が得られる。また、鳥獣害対策装置10の構成を簡易にすることができ、装置を安価にすることができる。
【0074】
<学習装置の構成>
次いで、上記分類器23_1及び23_2を構築する学習装置4について、図面を参照しつつ説明する。学習部413は、オオバンとマガモそれぞれに対して1つずつランダムフォレストにより分類器23_1、23_2を作成する。
【0075】
図11は、学習装置4の構成を示すブロック図である。学習装置4は、一例として汎用コンピュータである。学習装置4は、制御部41、記憶部42、通信部43及び入出力部44を備える。学習装置4は、鳥獣害対策装置10と異なる装置であってもよく、また、学習装置4と鳥獣害対策装置10とが一体の装置として構成されていてもよい。
【0076】
(通信部)
通信部43は、学習装置4の外部の装置と通信回線を介して通信する。通信回線の具体的構成は本例示的実施形態を限定するものではないが、通信回線は一例として、無線LAN(local area network)、有線LAN、WAN(wide area network)、公衆回線網、モバイルデータ通信網、又は、これらの組み合わせである。通信部43は、制御部41から供給されたデータを他の装置に送信したり、他の装置から受信したデータを制御部41に供給したりする。なお、本明細書に係る学習装置4において通信部43は必須の構成ではなく、学習装置4は通信部43を備えない構成であってもよい。
【0077】
(入出力部)
入出力部44には、キーボード、マウス、ディスプレイ、プリンタ、タッチパネル等の入出力機器が接続される。入出力部40Aは、接続された入力機器から学習装置4に対する各種の情報の入力を受け付ける。また、入出力部44は、制御部41の制御の下、接続された出力機器に各種の情報を出力する。入出力部44としては、例えばUSB(universal serial bus)などのインタフェースが挙げられる。
【0078】
(制御部・教師データ生成部)
制御部41は、教師データ生成部411、パラメータ生成部412、及び学習部413を備える。教師データ生成部411は、本明細書に係る生成部の一例である。教師データ生成部411は、分類器23の学習のための音声データを生成する。なお、分類器23の学習には、音声データそのものではなく音声データから算出された複数のパラメータのセットが用いられる。
【0079】
教師データ生成部411は、サンプル音データから、オオバンとマガモの2種の鳴き声を含む音声データを抽出する。ここで、サンプル音データは、0.5秒の時間長の音声データであり、一例として、ハス田で実際に録音した鳴き声のデータ、又は、ウェブ上で公開されているオオバン又はマガモの鳴き声の音データである。オオバンとマガモの両種とも、複数パターンの鳴き声が知られているが、本実施形態では、教師データ生成部411は、一例として、冬のハス田で最も頻繁に聞かれる典型的な鳴き声パターンを抽出する。典型的な鳴き声とは、マガモは「グェーグェーグェーグェー」と繰り返しのあるものであり、オオバンは「クッ」と短いひと声である。ここで、マガモでは繰り返しフレーズを分解した「グェー」の1回が約0.3秒であり、オオバンでは「クッ」の1回はマガモの1回のフレーズよりもはるかに短い。よって、特徴ある声のフレーズ全体又は一部分を感知できるようにするため、抽出する音の長さを0.5秒とし、教師データ生成部411は、0.5秒間のサンプルを連続的に行う。
【0080】
教師データ生成部411は、サンプル音データから抽出した音声データを用いて、加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声データを、環境音を表す音声データに埋め込んだ教師データを生成する。教師データは、本明細書に係る学習用音声データの一例である。
【0081】
図12は、教師データ生成部411が行う教師データの生成処理の具体例を説明するための図である。教師データ生成部411は、シグナル(加害種の鳴き声)とノイズ(環境音)との両方を含む音声データ、及び、シグナルを含まないノイズのみの音声データ、を教師データとして生成する。以下では、シグナルを含む音声データを「シグナルデータ」ともいう。また、シグナルを含まない音声データを「ノイズデータ」ともいう。
【0082】
図12の例で、教師データ生成部411は以下の(i)~(iv)の処理を行う。(i)まず、教師データ生成部411は、サンプル音データの中で、シグナル・ノイズ比の閾値を5として、シグナルの音節(加害種の鳴き声を含む音節)を検出する。なお、シグナル・ノイズ比の閾値は任意であり、他の値であってもよい。
【0083】
教師データ生成部411は、検出した音節を、それぞれwav形式のファイルに保存する。1つのサンプル音から複数のシグナル音節が検出された場合は、教師データ生成部411は、複数のシグナル音節をそれぞれ1つのwavファイルに保存する。今回はマガモとオオバンを対象としているので、シグナルの長さは最長でも0.3秒である。教師データ生成部411は、1つのサンプルにシグナルが複数回入っていた場合、その回数分のwavファイルを保存する。
図12の例では、教師データ生成部411は、サンプル音データs1、s2から、シグナル音節のwavファイルであるシグナルデータs11、s12、s21を生成する。ここで、保存されたwavファイルの音声を鳥獣害対策装置10の管理者等が確認し、加害種の鳴き声が含まれていないものは破棄する。
【0084】
(ii)次いで、教師データ生成部411は、サンプル音データのうち残りの領域(シグナルの音節を含んでいない部分)を寄り集めて連結し、ノイズ(環境音)を表すノイズデータとする。
図12の例では、教師データ生成部411は、サンプル音データs1、s2からノイズデータn11、n12を生成する。
【0085】
(iii)次いで、教師データ生成部411は、上記(i)で生成したシグナルデータの時間長を測定する。なお、上述したとおり、1つのシグナルは最長でも0.3秒である。
【0086】
(iv)教師データ生成部411は、上記(ii)で生成した複数のノイズデータからいずれか1つをランダムに選択し、選択したノイズデータのコピーデータを2つ作成する。教師データ生成部411は、生成した2つのコピーデータのうち、一方はそのままノイズの教師データとする。また、教師データは、もう一方のコピーデータから(iii)で測定した時間分のデータを任意の位置から除いたノイズデータを生成する。
【0087】
(v)また、教師データ生成部411は、上記(iv)で生成したノイズデータの任意の位置に、上記(iii)のシグナルデータを埋め込むことにより、シグナル(加害種の鳴き声)を含む教師データを生成する。教師データ生成部411が生成した教師データは、分類器23の学習のために用いられる。換言すると、分類器23は、環境音を表す音声データに加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声を埋め込んだ教師データを用いて機械学習されたモデルであると言うこともできる。
【0088】
図12の例では、上記(iv)及び(v)において、教師データ生成部411は、ノイズデータn11のコピーデータn11_1及びn11_2を生成する。また、教師データ生成部411は、ノイズデータn21のコピーデータn21_1及びn21_2を生成する。コピーデータn11_2、n21_2は、ノイズの教師データとなる。一方、コピーデータn11_1とn21_2にはそれぞれ、シグナルデータs21、s11が任意の位置に埋め込まれ、シグナルの教師データとなる。以上のようにして、教師データ生成部411は、シグナルを含む教師データと、シグナルを含まない教師データとが生成する。
【0089】
(パラメータ生成部)
パラメータ生成部412は、教師データ生成部411が生成した教師データを音声分析し、音声の特徴量を表す複数のパラメータを生成する。本実施形態では、画像ではなく、時系列を備えた数値データとして音声解析を行うための方策として、発声システムの物理的特徴に基づいて人の声を識別するために用いられた古典的な方法を適用する。そのひとつがLPCである。LPCは、ひとつの音を多項式として表現できるため、複数のパラメータが得られる。得られたパラメータの数と同数の次元に張られた超空間において、ランダムフォレストを用いることによって、シグナルとノイズを区別することができる。
【0090】
また、パラメータ生成部412は、教師データのうち、ノイズデータに対しても、同じ手順で音節を抽出する。パラメータ生成部412は、音節の抽出、及び上記17個の係数の算出に成功した場合は、ノイズとしてラベルする。
【0091】
(学習部)
学習部413は、パラメータ生成部412が生成した複数のパラメータと上記加害種の鳴き声を含むか否かを示すラベルとを含む教師データを用いて、音声データの特徴量を表す複数のパラメータを入力として当該音声データに加害種の鳥獣の鳴き声が含まれるかを判別する分類器23_1、23_2を生成する。
【0092】
<学習装置の効果>
以上説明したように本実施形態に係る学習装置4は、加害種の鳥獣の鳴き声を表す音声データを、環境音を表す音声データに埋め込んだ学習用音声データを生成する教師データ生成部411と、教師データ生成部411が生成した学習用音声データを音声分析して特徴量を表す複数のパラメータを生成するパラメータ生成部412と、パラメータ生成部412が生成した複数のパラメータと前記加害種を示すラベルとを含む学習用データを用いて分類器23を学習させる学習部413と、を備える。学習装置4が生成した分類器23を用いることで、加害種の鳴き声をより精度よく判別できる。
【0093】
〔変形例〕
(鳥獣害)
上述の実施形態では、鳥獣害対策装置10をレンコンが栽培されるハス田におけるレンコン食害の対策に用いる場合について説明した。本明細書に係る鳥獣害対策装置10の鳥獣害対策の対象は、上述した例に限られない。鳥獣害対策装置10の鳥獣害対策の対象は、レンコン以外の農水産物に対する食害、鳥獣の鳴き声による騒音、又は、鳥獣のフンによる衛生面の被害、等を含む。すなわち、本明細書に係る鳥獣害対策装置10は、農水産物の食害の軽減だけでなく、住宅地におけるハト類やムクドリなど糞や鳴き声による生活被害が生じている鳥類への追払い対策にも応用可能である。
【0094】
(対象領域)
また、上述の実施形態では、対象領域が湛水された収穫前のハス田である場合を説明したが、対象領域は上述した例に限られず、例えば、他の農水産物が栽培される畑、養殖場、駅等の施設の周辺、であってもよい。
【0095】
(加害種)
また、上述の実施形態では、加害種がマガモとオオバンである場合について説明したが、加害種は上述の実施形態で示した例に限られない。対象領域において調査を行い、新たな種による食害が明らかとなった場合は、鳥獣害の対策の対象である加害種に追加してもよい。また、加害種は鳥に限られず、例えばイノシシ等の動物であってもよい。
【0096】
(照射光の波長・照射方向)
上述の実施形態では、音声識別・光照射部2が緑色のレーザー光を照射する場合を例示したが、音声識別・光照射部2が照射する光は、上述した例に限られない。音声識別・光照射部2は、他の波長の光を照射してもよい。また、上述の実施形態では、音声識別・光照射部2は、光線の照射方向を所定の速度又は所定の角速度で変更したが、照射方向を変更する手法は上述した例に限られない。例えば、音声識別・光照射部2は、光の照射方向を変更しない構成であってもよい。この場合、音声識別・光照射部2は例えば、シグナルの音源の方向を推定して、音源の方向に対して光照射を行ってもよい。また、上述の実施形態では、音声識別・光照射部2がレーザー光を照射する場合を例示したが、音声識別・光照射部2が照射する光はレーザー光に限られず、レーザー光以外の光であってもよい。
【0097】
(照射パターン)
また、上述の実施形態において、音声識別・光照射部2は、レーザー光を照射したにも関わらず加害種が逃げ出さない場合に、加害種を追払うための別の処理を行ってもよい。例えば、音声識別・光照射部2は、レーザー光を照射した後も加害種の鳴き声が検出された場合、レーザー光の照射パターンを変更する制御を行ってもよい。ここで、照射パターンは一例として、レーザー光の照射方向、照射位置、レーザー光の色、強さ、点滅パターン、照射方向の移動速度、角速度、の少なくともいずれかひとつを含む。様々な照射パターンでレーザー光を照射することにより、加害種がレーザー光に慣れてしまうことを防ぐことができる。
【0098】
(電源部)
上述の実施形態では、電源部3は太陽電池を含んでいたが、これに限られない。電源部3は、太陽電池以外の自立電源を含んでいてもよい。ここで、自立電源とは、自立して電力供給が可能な電源であり、一例として、太陽電池、蓄電池、動力発電機若しくは風力発電機等の発電機、空間伝送無線給電、または熱電変換素子を用いた電源、等を含む。また、鳥獣害対策装置10は、自立電源を備える装置に限られず、例えば家庭用電源を用いて動作する構成であってもよい。
【0099】
(分類器)
上述の実施形態では、分類器23として、ランダムフォレストの手法により構築される学習済モデルを用いた。分類器23は、上述した実施形態で示した例に限定される。分類器23は、一例として、サポートベクターマシン(support vector machine,SVM)の手法により学習された学習済みモデルであってもよい。ランダムフォレスト又はサポートベクターマシンの場合、判別部21は、複数のパラメータが示す特徴量空間内の位置に基づき、加害種の鳴き声が音声データに含まれるかの判定を行う、と言うこともできる。
【0100】
(データの記録)
上述の実施形態では、鳥獣害対策装置10は、対象領域において集音された音声と光の照射日時とを記録した。これに加えて、赤外線カメラにより対象領域を撮像し、撮像により得られた画像を、音声及び照射日時と紐付けて記録する構成としてもよい。
【0101】
(再学習)
また、鳥獣害対策装置10が記録したデータを分類器23の再学習に用いてもよい。例えば、判別部21は、音声データに加害種の鳴き声が含まれていると判別した場合、その音声データにシグナルのラベルを付与し、分類器23を再学習させるための学習用データとする。一方、判別部21は、音声データに加害種の鳴き声が含まれていないと判別した場合、その音声データにノイズのラベルを付与し、分類器23を再学習させるための学習用データとする。また、判別部21は、加害種の鳴き声が検出された場合であっても、上記17個の係数を算出する関数の戻り値のいずれかがnullだった場合、ノイズのラベル付けを行って、分類器23を再学習させるための学習用データを生成してもよい。
【0102】
学習部413は、生成された学習用データを用いて、分類器23の再学習を行う。分類器23の再学習を行うことにより、鳥獣害対策装置10を使用しながら、分類器23の分類に係る精度を高くすることができる。
【0103】
(集音部について)
上述の実施形態では集音部1がマイクロフォンアレイ11を備える構成について説明したが、集音部1は、マイクロフォンアレイ11に代えて小型の防水のモノラルマイクを備えてもよい。
図13は本変形例に係る鳥獣害対策装置10Aの構成の一例を示す図である。
図13の例で、鳥獣害対策装置10Aは、上述の実施形態に係る鳥獣害対策装置10が備える集音部1に代えて、集音部1Aを備える。集音部1Aは、小型で防水のモノラルマイクを含み、音声識別・光照射部2に備え付けられている。
図13の例では、集音部1Aと音声識別・光照射部2とが一体化したものを柱等に取り付ければよく、集音部1Aを音声識別・光照射部2とは別に柱等に固定する必要がない。このため、資材コスト及び設営の際の労力を抑えることができる。
【0104】
ところで、マイクロフォンアレイは音源定位でき、かつノイズ除去機能を副次的に有するため音質がよい一方、小型のモノラルマイクはノイズ除去機能がなく音質が悪い。そこで、小型のモノラルマイクを備える集音部1Aを用いる場合、学習部413は、集音される音声の音質が悪いことを加味した再学習を分類器23に対して行ってもよい。一例として、学習部413は、分類器23を、小型のモノラルマイクで録音した音声データを用いて再学習させてもよい。この場合、再学習に用いられる教師データは、一例として、小型のモノラルマイクにより集音された音声データから得られる複数のパラメータと、加害種の鳴き声が含まれるか否かを示すラベルとを含む。この場合、分類器23(機械学習モデル)は、事前に訓練された学習済モデルを、モノラルマイクで集音された音声データから生成されたパラメータを含む教師データを用いて再訓練された学習済モデルである、ということもできる。
【0105】
音質の悪いマイクで録音した音声データを用いて分類器23を再学習させることにより、音質のよいマイクを使った場合と同等程度の鳴き声識別能力を保つことができる。これにより、本変形例に係る構成によれば、鳥獣害対策装置に安価で音質に劣るモノラルマイクを用いることができ、鳥獣害対策装置の汎用性を拡大できる。
【0106】
(音声識別・光照射部の電源制御について)
上述の実施形態において、鳥獣害対策装置10が、判別部21及び照射制御部22の電源を制御する電源制御部、を更に有してもよい。
図14は本変形例に係る音声識別・光照射部2Aの構成の一例を示す図である。
図14の例で、音声識別・光照射部2Aは、上述した実施形態の音声識別・光照射部2が備える判別部21、照射制御部22、分類器23_1、分類器23_2に加えて、電源制御部24を備える。電源制御部24は、音声識別・光照射部2の電源を昼間はOFFにし、対策が必要となる夜間にのみ起動する。この構成によれば、音声識別・光照射部2の電源制御を行わない場合に比べて消費電力を抑制でき、例えば30Wのソーラーパネルで安定して長期稼動できる。
【0107】
(画像取得部の追加)
上述の実施形態において、追払い効果の検証等に用いる画像を収集するため、音声識別・光照射部2を撮影装置(ネットワークカメラ等)と連動させてもよい。すなわち、鳥獣害対策装置が、光の照射方向を撮影し、撮影した撮影画像を表す画像データを出力する撮影装置を更に有してもよい。本開示において撮像画像とは動画及び静止画を含む。また、本開示において静止画は、1回の光照射に対応して撮像された1枚の静止画であってもよいし、1回の光照射を含む所定の時間内において連続的に撮像された複数の静止画であってもよい。この複数の静止画は、各静止画が時系列に連なる静止画列である。撮像画像として動画及び静止画の何れを選択するかは、鳥獣害対策装置10Aが設置されているネットワークにおける帯域あるいは通信速度や、撮像画像の用途などに応じて、適宜選択することができる。撮影装置が撮影した撮影画像は、追払い効果の検証等に用いられてもよく、また、加害種の飛来の検知に用いられてもよい。後者の場合、判別部21は、集音部1が出力する音声データに加えて撮影装置5が撮影する撮影画像の画像データを用いて、加害種が対象領域に飛来したかを判別する。前者の場合、照射された光に対する加害種の反応を把握する必要があり、且つ、撮影画像をリアルタイムで処理する必要がないため、撮像画像として動画を用いることが好ましい。後者の場合、光に対する加害種の反応を把握する必要はないため、撮像画像として静止画を採用してもよい。ただし、プログラムを実行することにより判別部21を実現するコンピュータ227の処理能力に余裕がある場合には、撮像画像として動画を採用してもよい。
【0108】
図15は、本変形例に係る鳥獣害対策装置の構成例を示す図である。
図15に例示する鳥獣害対策装置10Bは、上述の実施形態1の鳥獣害対策装置10に係る集音部1、音声識別・光照射部2、及び電源部3に加えて、撮影装置5を備える。撮影装置5は例えばネットワークカメラである。この例で、音声識別・光照射部2と撮影装置5とは別体であり、それぞれ別に柱6に取り付けられる。撮影装置5は、音声識別・光照射部2の首振り・光照射と連動して首振りし、音声識別・光照射部2による照射の前後を録画する。録画された画像により、追払いシーンを効率よく確認できる。また、鳥獣害対策装置10Bのユーザとなる農家の方にとって効果検証は必須でない。そのため、鳥獣害対策装置10Bの効果を検証することよりも、鳥獣害対策装置10Bの製造コストを抑制することを重視する場合には、撮影装置5を省略した鳥獣害対策装置10の構成が好ましい。なお、本発明の一態様においては、鳥獣害対策装置10Bの代わりに
図13に示す鳥獣害対策装置10Aに撮影装置5を追加することもできる。
【0109】
また、
図16は、本変形例に係る鳥獣害対策装置の他の構成例を示す図である。
図16に例示する鳥獣害対策装置10Cは、撮影装置5Cにレーザーハウジング221Cが取り付けられている。レーザーハウジング221Cは上述の実施形態で説明したレーザーハウジング221と同様である。この場合、撮影装置5Cの首振り機能を用いてレーザーハウジング221Cも首振りし光照射を行う。これにより、レーザーハウジング221Cの首振りに必要な部品を割愛でき、資材コストが削減される。
【0110】
撮影画像を加害種の飛来の検知に用いる場合、音声識別・光照射部2は、例えば、分類器23を用いた音声による加害種の検出結果と、撮影装置5が撮影した撮像画像の画像データを解析することにより得られる検出結果と、の両方を用いて加害種が飛来したかの判別を行ってもよい。より具体的には、例えば、音声識別・光照射部2は、分類器23を用いて音声による加害種が検出され、かつ、画像解析により加害種の飛来が検出された場合に、対象領域にレーザー光を照射してもよい。
【0111】
また、音声識別・光照射部2は一例として、集音部1が集音した音声データから得られるパラメータと、撮影装置5が撮影した画像データと、を分類器23(機械学習モデル)に入力して得られる出力に基づき、加害種が飛来したかの判別を行ってもよい。この場合、分類器23の学習に用いられる教師データは一例として、音声データから得られるパラメータと、撮影装置が撮影した画像データと、加害種が飛来したかを示すラベルと、を含む。また、分類器23の入力は一例として、集音部1が集音した音声データから得られるパラメータと、撮影装置5が撮影した画像データとを含み、分類器23の出力は一例として、加害種が対象領域に飛来したか否かを示す情報を含む。
【0112】
加害種の飛来(存在)の検知に際し、音声による検知に加えて画像を用いた検知を行うことにより、検知精度を高くすることができる。
【0113】
(判別部について)
集音した音に加害種の鳴き声が含まれるかを判別する判別部21のアルゴリズムについて、AI(Artificial Intelligence)の手法を用いてもよい。AIを用いた判別モデルの一例として、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network(CNN))を用いて生成される学習済モデルを分類器23として用いる例を説明する。
【0114】
図17は、本変形例に係る判別モデルの訓練に用いる教師データの具体例を示す図である。
図17の例で、判別モデルである分類器23Cは、メルスペクトログラムに変換された0.96秒の音声断片を入力とし、その音声が加害種の鳴き声であるかの推論結果を出力する学習済モデルである。CNNのアーキテクチャには、例えばYAMNetが使用されるが、これに限定されない。この例で、分類器23Cの学習に用いられる教師データは、音声データを分析することにより得られる、音声データの特徴を現すパラメータと、加害種の鳴き声が含まれるか否かを示すラベル(例えば、「オオバン」)とを含む。学習フェーズにおいて、学習部413は、教師データに含まれるパラメータを分類器23Cに入力し(S101)、分類器23Cはラベルを推論する(S102)。学習部413は、分類器23Cによる推論の誤差を小さくするように分類器23Cのモデルパラメータを更新することにより分類器23Cを訓練する。
【0115】
図17に例示したような判別モデルを加害種の鳴き声の判別に用いる場合、(i)少ない教師データでの訓練の難しさ、(ii)モデル実行に要する計算量の多さ、が課題として挙げられる。本変形例では、(i)大規模環境音データセットでの事前訓練、(ii)量子化と圧縮によるモデルの軽量化、を用いることで上記課題を解決する。
【0116】
図18は、本変形例に係る判別モデルの生成及びコンピュータ227への実装の具体例を示す図である。まず、少ない教師データで良い性能を得るために、学習部413は、判別モデルを既存の大規模な環境音のデータセットで事前訓練する(S201)。事前訓練には、例えばAudioSet-YouTube(登録商標)コーパスが用いられる。その後、学習部413は、加害種の鳴き声を判別するためのデータセットで学習済モデルを再訓練(ファインチューニング)する(S202)。再訓練に用いられる教師データは一例として、加害種の鳴き声が含まれる音声データを分析することにより得られる複数のパラメータと、加害種の鳴き声が含まれるか否かを示すラベルとを含む。換言すると、判別部21が用いる機械学習モデルは、環境音を表す音声データのセットで事前訓練された後、加害種の鳴き声を含む音声データから生成されたパラメータを含む教師データを用いて再訓練された学習済モデルである。
【0117】
次に、訓練の終わったモデルを計算能力の低いコンピュータ227に実装するために、学習部413は、量子化と圧縮を行う(S203)。量子化では、学習部413は、計算精度を落とすことでモデルを軽量化する。圧縮では、学習部413は、モデルをより軽量な形式に変換する。このような形式の一例として、TensorFlowLite(tflite)形式が挙げられる。換言すると、判別部21が用いる機械学習モデルは、量子化、及び圧縮、の少なくともいずれか一方により軽量化されたモデルである。圧縮により得られた軽量なモデルファイルが、コンピュータ等に実装される(S204)。
【0118】
本変形例に係る構成によれば、ノイズや歪みの大きいマイクを用いた実環境においても誤判別を大きく減らし、ランダムフォレストを用いた判別モデルと比較しても少ない計算量での実行が可能になる。また、圧縮された判別モデルはマイクロコントローラへの実装も可能なため、本装置の小型化や可搬性の向上につながる。
【0119】
このように、判別部21のアルゴリズムにAIの手法を用いることにより、判別部21の判別の精度を高くすることができる。また、上記構成によれば、マイコン(小型集積回路)上で動作可能な言語でも実装できるため、本装置の小型化や可搬性の向上につながる。本発明者が上述の手法によりCNNを再学習させた後に量子化及び圧縮して分類器23を生成し、生成した分類器23を用いて判別率の計測を行った結果、誤判別率は20%程度となり、従来の手法を用いた場合よりも誤判別の割合が大幅に低下した。
【0120】
〔ソフトウェアによる実現例〕
鳥獣害対策装置10、及び学習装置4(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0121】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0122】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0123】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。
【0124】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0125】
10,10A,10B,10C 鳥獣害対策装置
1,1A 集音部
11 マイクロフォンアレイ
12 雨除け皿
13 カバー
14 USBケーブル
15 集音部支持棒
16 集音部固定具
2,2A 音声識別・光照射部
21 判別部
22 照射制御部
23,23_1,23_2,23C 分類器
24 電源制御部
211 ケース
212 ドーム
213 支持棒
214 固定具
221,221C レーザーハウジング
222 接続線(ステッピングモーター225)
223 接続線(レーザーモジュール226)
224 GPS受信機
225 ステッピングモーター
226 レーザーモジュール
227 コンピュータ
228 拡張ボード
229 モータードライバ
3 電源部
31 太陽光パネル
32 バッテリ
33 ケース
34 接続線
35 ソーラー充電コントローラー
36 DC/DCコンバータ
5,5C 撮影装置