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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024683
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】揚げ物用バッターミックス
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20240215BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240215BHJP
   A23L 17/00 20160101ALN20240215BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L17/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023219970
(22)【出願日】2023-12-26
(62)【分割の表示】P 2023545730の分割
【原出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】P 2022057923
(32)【優先日】2022-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 周平
(72)【発明者】
【氏名】辻 章人
(72)【発明者】
【氏名】田上 祐二
(57)【要約】
【課題】調理後の揚げ物を、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境に保存した場合であっても、衣が硬くねばついた食感にならず、サクミを維持できる揚げ物用バッターミックスを提供すること。
【解決手段】食物繊維含有量80質量%以上の食物繊維高含有難消化性澱粉を1~15質量%及び酸化澱粉を2~30質量%含有する揚げ物用バッターミックス。該揚げ物用バッターミックスは、さらに熱処理小麦粉を2~20質量%含有することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物繊維含有量80質量%以上の食物繊維高含有難消化性澱粉を1~15質量%及び酸化澱粉を2~30質量%含有する揚げ物用バッターミックス。
【請求項2】
前記食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量と前記酸化澱粉の含有量との質量比が1:1.3~1:6である請求項1に記載の揚げ物用バッターミックス。
【請求項3】
さらに熱処理小麦粉を2~20質量%含有する請求項1又は2に記載の揚げ物用バッターミックス。
【請求項4】
前記熱処理小麦粉が乾熱処理小麦粉及び湿熱処理小麦粉の両者を含む請求項3に記載の揚げ物用バッターミックス。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の揚げ物用バッターミックス100質量部と液体80~1000質量部とを含むバッター液。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の揚げ物用バッターミックス100質量部と液体80~1000質量部とを含むバッター液を具材に付着させ、加熱調理する工程を有する揚げ物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、揚げ物の製造時に衣の材料として使用される揚げ物用バッターミックスに関する。
【背景技術】
【0002】
揚げ物は、各種具材を油ちょうにより加熱調理することで得られる食品である。揚げ物には、具材に衣材を付着させずにそのまま油ちょうして得られる素揚げなどもあるが、その多くは、表面に衣材が付着した具材を加熱調理することで得られ、具材の表面に衣材からなる衣が付着している。表面に衣材を付着させた具材を高温の油中で加熱することより、油に直接触れる衣は、サクミのある独特の食感と風味を有し、一方で中身の具材は、衣の内側で蒸されたように火が通って旨味が凝縮されたものとなる。揚げ物には数えきれないほどのバリエーションがあり、非常に人気がある食品である。
【0003】
揚げ物の製造に使用される衣材は通常、常温常圧において粉末状であるが、具材に付着させる際の形態によっていくつかのタイプに分類され、典型的なタイプとして、具材表面に粉末状のまままぶして使用するまぶしタイプと、液体に溶かして液状の衣材(いわゆるバッター液)としてから具材表面に付着させるバッタータイプとがある。また、バッタータイプを使用する場合、具材表面にバッター液を付着させた後、該バッター液の上からさらにパン粉等の粉末を付着させる場合がある。揚げ物を製造するに当たっては、このような衣材のタイプの選択の他、衣の厚みや付着量、衣と具材とのバランス等、工夫すべき点が数多くある。
【0004】
従来から揚げ物には、調理直後から時間が経過すると、具材の水分が衣に移行することで衣が柔らかくなって、サクミのある食感が失われやすいという問題がある。一方で近年は、食料品店において調理済みの食品を陳列販売するケースが増加してきており、その際、ウォーマー等の保温設備を兼ねた陳列設備(以下、単に「保温設備」ともいう)に調理済みの食品を陳列して販売される場合が少なくない。このような保温設備に揚げ物を陳列すると、油分を含む衣が常温よりも高温環境に置かれることになり、そのような環境では衣が硬くねばついた食感になるという新たな問題が生じている。
【0005】
従来、衣材の改良技術として、難消化性澱粉を利用する提案がなされている。例えば特許文献1には、食物繊維含有量60質量%以上の食物繊維高含有難消化性澱粉を20質量%以上含有する揚げ物用バッターミックスが記載されている。このミックスは、低糖質で健康食品素材として有用でありながらも、ネトつきが無く歯脆いサクミのある衣を有する揚げ物を製造することができ、しかもその衣の優れた食感が、製造後ある程度の時間が経過した場合や電子レンジ等で再加熱した場合でも維持され得るとされている。また特許文献2には、アミロース含量が30重量%以上の澱粉を湿熱処理することによって得られた、食物繊維含量が30重量%以上である食物繊維高含有澱粉素材が記載されており、これを揚げ物に用いると、口どけ、サクミが向上し、しかも食物繊維の生理活性効果が期待できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/193655号
【特許文献2】特開平10-195104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これらの従来技術に示されているように、難消化性澱粉を揚げ物の衣材に用いることで、揚げ物のサクミが向上することが期待できる。しかしながら、揚げ物が高温環境におかれることにより、衣が硬くねばついた食感になりやすいという上述の問題点は、近年生じているものであり、特許文献1及び2においては考慮されておらず、しかも難消化性澱粉を使用しても改善効果は限定的であった。特に、天ぷらのような、バッタータイプの衣材を表面に有する揚げ物においては、衣の厚みが大きいことから、この傾向はより顕著なものであった。
【0008】
本発明の課題は、調理後の揚げ物を、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存した場合であっても、衣が硬くねばついた食感にならず、サクミを維持できる揚げ物用バッターミックスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、食物繊維含有量80質量%以上の食物繊維高含有難消化性澱粉を1~15質量%及び酸化澱粉を2~30質量%含有する揚げ物用バッターミックスである。
また本発明は、前記揚げ物用バッターミックス100質量部と液体80~1000質量部とを含むバッター液である。
また本発明は、前記揚げ物用バッターミックス100質量部と液体80~1000質量部とを含むバッター液を具材に付着させ、加熱調理する工程を有する揚げ物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の揚げ物用バッターミックスを用いて揚げ物を調理すれば、調理後の揚げ物を、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存した場合であっても、衣が硬くねばついた食感にならず、サクミを維持できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の揚げ物用バッターミックスは食物繊維高含有難消化性澱粉を含有する。難消化性澱粉は、レジスタントスターチとも呼ばれる、不溶性食物繊維の1種である。難消化性澱粉は、消化酵素に抵抗性を示し、健常人の消化管で消化吸収されず、大腸で腸内細菌に資化され腸内菌叢に良好な影響を及ぼすことが知られている。
【0012】
後述するように、難消化性澱粉には、天然物と人工物(天然の澱粉に何らかの処理をして得られた加工澱粉)とがある。天然物及び人工物のいずれの場合も通常、純粋な難消化性澱粉を単離ないし入手することは困難であり、不純物が含まれている。一般に、「難消化性澱粉」と称して市販されている食品素材が存在するが、それらは、上述のように不純物を含んでおり、厳密には「難消化性澱粉を主体とする食品素材」であると言える。本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉としては、そのような市販の難消化性澱粉(但し、食物繊維含有量が80質量%以上であるもの)を用いることができ、つまり、本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉も、厳密には「難消化性澱粉を主体とする食品素材」であると言える。前記不純物としては、消化性澱粉、水溶性食物繊維、難消化性澱粉以外の不溶性食物繊維、脂質、灰分等が挙げられ、本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉も、難消化性澱粉の他に、これらの不純物を含み得る。
【0013】
そして、本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉は、食物繊維含有量が80質量%以上である点で特徴付けられる。本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉に含まれる食物繊維のほとんどは難消化性澱粉であるが、食物繊維高含有難消化性澱粉に含まれる食物繊維には、不純物としての、水溶性食物繊維や、難消化性澱粉以外の不溶性食物繊維が微量に含まれる場合がある。食物繊維高含有難消化性澱粉における食物繊維含有量は、好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、多いほど好ましい。
【0014】
以上から明らかなように、本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉は、その純度を食物繊維含有量で規定したものであり、つまり、純度の高い難消化性澱粉であると言える。
本明細書において、難消化性澱粉の食物繊維含有量は、AOAC985.29をベースとした酵素-重量法(プロスキー法)によって定量される値であり、例えば市販の測定キット(例えば、和光純薬工業製の食物繊維測定キット)を用いて測定できる。
【0015】
本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉としては、「難消化性澱粉」と称して市販されている食品素材のうち、食物繊維含有量が80質量%以上であるものを用いればよい。あるいは、天然の澱粉に、食物繊維含有量が80質量%以上となるように、後述の架橋処理等の処理をして得られた加工澱粉を用いてもよい。
【0016】
本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉について、難消化性澱粉の種類に基づいて以下にさらに詳述する。
難消化性澱粉は、下記RS1~RS4の4種類に分類される。
RS1は、それ自体は消化されやすいものの、外皮等により物理的に保護されているために、消化酵素が作用できずに消化抵抗性を示す難消化性澱粉であり、主に全粒粉、種子、マメ類等に含まれる。
RS2は、澱粉粒の特殊な結晶構造に起因して消化抵抗性を示す未加工の難消化性澱粉(生澱粉)であり、馬鈴薯澱粉、未熟バナナ澱粉を例示できる。ハイアミロース澱粉も、直鎖構造のアミロースが多く、RS2に分類される。ここでいうハイアミロース澱粉とは、澱粉中のアミロース含量が50質量%以上の澱粉である。
RS3は、澱粉の老化により消化酵素が作用しにくい構造に変化したために消化抵抗性を示す難消化性澱粉であり、加熱により一旦糊化(α化)させた後、冷却して得られる老化澱粉(β化澱粉)を例示できる。
RS4は、高度に化学修飾されたことにより消化抵抗性を示す難消化性澱粉であり、強い架橋処理が施された澱粉、エーテル化及び/又はエステル化された澱粉を例示できる。
【0017】
本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉としては、食物繊維含有量80質量%以上であって、RS2~RS4のいずれかである食物繊維高含有難消化性澱粉から選択される1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。特にRS4の食物繊維高含有難消化性澱粉が好ましい。RS2及びRS3の食物繊維高含有難消化性澱粉は、これを含む揚げ物用バッターミックスを用いて得られた揚げ物の衣の食感が硬くなることがあるが、RS4の食物繊維高含有難消化性澱粉を使用した場合にはそのような不都合が生じ難い。尚、R1は、上述の通り、全粒粉、種子、マメ類等に含まれており、食物繊維高含有難消化性澱粉、すなわち、食物繊維を80質量%以上含有する、難消化性澱粉を主体とする食品素材として分離することは現実的にはできず、さらには、その構造上、本発明が意図する効果に寄与しないと考えられるため、本発明では用い得ない。
【0018】
また本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉は、食物繊維含有量が80質量%以上であれば、天然の澱粉(未加工の澱粉)でも加工澱粉でも構わない。尤も、一般に、入手が容易な天然の難消化性澱粉は、食物繊維含有量が高くても30質量%未満に留まるものがほとんどであり、天然の食物繊維高含有難消化性澱粉は入手が困難である。これに対し例えば、RS4の難消化性澱粉であって、加工処理の1種である架橋処理を特定の条件で施されたものは、澱粉の分子構造を変化させることで食物繊維含有量が高められており、しかも比較的入手しやすい場合が多く、本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉として適している。
【0019】
従って、本発明で用いる食物繊維高含有難消化性澱粉としては、RS4に該当する架橋澱粉が好ましい。架橋澱粉としては、用いる架橋剤や架橋の程度により食物繊維含有量が変わりうるが、食用に供することができ、且つ食物繊維含有量が80質量%以上のものであれば、特に制限なく使用することができる。架橋澱粉としては、リン酸架橋澱粉やアジピン酸架橋澱粉が、安全性が高く、また市販されている種類も多く、好ましい。
【0020】
本発明の揚げ物用バッターミックスにおける食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量は、該ミックスの全質量に対して1~15質量%である。揚げ物用バッターミックス中の食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量が上記範囲外であると、該ミックスを用いて得られた揚げ物を、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存した場合、衣が硬くねばついた食感になりやすい。食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量はミックスの全質量に対して、好ましくは2質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上、より好ましくは4質量%以上であり、好ましくは13質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。
【0021】
本発明の揚げ物用バッターミックスには、食物繊維高含有難消化性澱粉に加えて、酸化澱粉を配合する。酸化澱粉は、原料澱粉を酸化剤により酸化処理した加工澱粉である。本発明で用いる酸化澱粉は、食用に供しうるものであれば特に制限なく使用することができ、常法により原料澱粉を酸化処理して調製したものや、市販のものを用いることができる。酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム等を挙げることができる。酸化澱粉の原料澱粉としては、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等を挙げることができる。
【0022】
本発明の揚げ物用バッターミックスにおける酸化澱粉の含有量は、該ミックスの全質量に対して2~30質量%である。揚げ物用バッターミックス中の酸化澱粉の含有量が上記範囲外であると、該ミックスを用いて得られた揚げ物を、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存した場合、衣が硬くねばついた食感になりやすい。酸化澱粉の含有量は、ミックスの全質量に対して、好ましくは4質量%以上、さらに好ましくは6質量%以上、より好ましくは8質量%以上であり、好ましくは26質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。
【0023】
本発明の揚げ物用バッターミックスにおいて、前記食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量に比較して酸化澱粉の含有量が高いことが好ましく、質量基準で、前者が後者の1.3倍以上であることがさらに好ましく、1.5倍以上がより好ましく、1.7倍以上がより一層好ましく、2倍以上が最も好ましく、また、6倍以下であることが好ましく、4倍以下であることがより好ましい。とりわけ、前記食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量と前記酸化澱粉の含有量との質量比(前者:後者)は、好ましくは1:1.7~1:4、より好ましくは1:2~1:3である。前記食物繊維高含有難消化性澱粉の含有量と前記酸化澱粉の含有量との質量比がこのような範囲を満たすと、該ミックスを用いて得られた揚げ物は製造直後に一層良好な食感を呈し、しかもウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存しても良好な食感を高いレベルで維持することができる。
【0024】
本発明の揚げ物用バッターミックスは、前記食物繊維高含有難消化性澱粉及び前記酸化澱粉に加えて、さらに熱処理小麦粉を含有すると、本発明の効果がさらに高まるため好ましい。熱処理小麦粉としては、原料小麦粉として強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉等の通常の小麦粉を用いて、乾熱処理及び湿熱処理から選択される1種以上を行ったものを制限なく利用することができる。熱処理小麦粉が、乾熱処理小麦粉及び湿熱処理小麦粉の両者を含むことが好ましい。また、乾熱処理小麦粉の含有量と湿熱処理小麦粉の含有量との質量比は、好ましくは5:1~1:5、より好ましくは1:3~3:1である。
【0025】
本発明の揚げ物用バッターミックスにおける熱処理小麦粉の含有量は、乾熱処理小麦粉及び湿熱処理小麦粉の合計量として、該ミックスの全質量に対して好ましくは2~20質量%であり、さらに好ましくは3~17質量%、より好ましくは4~15質量%である。揚げ物用バッターミックス中の熱処理小麦粉の含有量が20質量%を超えると、該ミックスを用いて得られた揚げ物を、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存した場合、衣が硬くねばついた食感になる場合がある。
【0026】
本発明において、小麦粉に施す乾熱処理は、小麦粉を容器に収容して、水分を加えずに、該容器の外から該小麦粉を加熱する処理であり、小麦粉中の水分の蒸発を積極的に行う加熱処理である。乾熱処理において小麦粉を収容する容器は、熱伝導性を有する必要はあるが、密閉可能でなくてもよい。即ち、本発明において小麦粉に施す乾熱処理は、小麦粉を、熱伝導障壁を介して熱媒体で間接的に加熱する処理であり、該乾熱処理には、小麦粉を直接火炎で炙る処理、小麦粉に直接熱風を吹き付けて加熱する処理、小麦粉を電磁波で加熱する処理等の、直接加熱手段による処理は含まれない。乾熱処理における熱媒体としては、例えば、過熱水蒸気、熱水、熱油等を用いることができる。尚、乾熱処理が施された小麦粉に対し、必要に応じ、乾燥処理及び/又は粉砕処理を施しても良い。
【0027】
乾熱処理の好ましい一例として、小麦粉を収容した容器を外部から加熱し、小麦粉の品温80~150℃で1秒~120分間間接加熱する処理が挙げられ、このとき、小麦粉が均一に加熱されることが好ましく、具体的には、容器に小麦粉を薄く平らに収容して加熱すること、あるいは、容器を密閉容器とし、該密閉容器内で小麦粉を攪拌しつつ容器を外部から加熱することが好ましい。後者の場合、例えば、加熱手段を有する回転シャフトからなる攪拌装置を有する密閉容器内において小麦粉を攪拌しながらこれを間接的に加熱することにより行うことができる。より好ましくは、中空構造の回転シャフトからなる攪拌装置を有する密閉系円筒状容器を用い、加熱蒸気を該回転シャフト内に供給することにより行う。このような乾熱処理(間接加熱処理)に使用し得る容器の例として、例えば特開2004-9022号公報に記載された熱処理攪拌装置が挙げられる。
【0028】
本発明において、小麦粉に施す湿熱処理は、小麦粉が通常有する平衡水分量を維持しながら、又は小麦粉に水分を加えた後若しくは加えながら、小麦粉を加熱する処理である。小麦粉に加える水分としては、水、飽和水蒸気を用いることができる。小麦粉に加える水分量は、小麦粉100質量部に対して、好ましくは0~30質量部、さらに好ましくは1~20質量部である。小麦粉の加熱は、熱媒体を直接小麦粉に接触させて行っても良く、あるいは小麦粉を高湿度雰囲気下において間接加熱して行っても良い。湿熱処理は、これらに限定するものではないが、オートクレーブ、スチームオーブン等の公知の装置で実施可能である。湿熱処理の具体例としては、1)密閉容器内に加水した小麦粉を収容した後、飽和水蒸気を用いて加圧下で小麦粉を加熱する処理、2)一軸又は二軸型エクストルーダーを用いて小麦粉を加水・加熱混練する処理が挙げられる。
【0029】
湿熱処理の好ましい一例として、小麦粉を密閉容器内に収容し、必要に応じて水分を加え、該密閉容器内の雰囲気温度を100~130℃とし且つその雰囲気温度を3~360秒間維持する処理が挙げられる。このとき、小麦粉が均一に加熱されることが好ましい。密閉容器内に水分を加える方法としては、小麦粉に霧吹き等で加水する方法、密閉容器内に飽和水蒸気を導入する等の方法が挙げられる。この好ましい湿熱処理の一例は、例えば、小麦粉に加水したものをアルミパウチ等の密閉容器に薄く平らに封入密閉し、オイルヒーター、オイルバス等で加熱することにより行うことができ、あるいは、小麦粉に加水したものを密閉容器内に導入した後、必要に応じて該小麦粉を攪拌しつつ、該容器内に飽和水蒸気を導入して加圧下で加熱することにより行うことができる。
【0030】
本発明の揚げ物用バッターミックスは、上述の必須成分である食物繊維高含有難消化性澱粉及び酸化澱粉並びに好ましい任意成分である熱処理小麦粉に加えて、ベースとしての穀粉類を含む。穀粉類としては、この種の揚げ物用バッターミックスの製造に通常用いられ得るものを用いることができ、例えば、非加熱の小麦粉、大麦粉、米粉等の穀粉;食物繊維高含有難消化性澱粉及び酸化澱粉以外の澱粉、例えば、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の未加工澱粉、及びこれら未加工澱粉に油脂加工、α化、エーテル化、エステル化処理等の1つ以上の処理を施した加工澱粉が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の揚げ物用バッターミックスにおける穀粉類の含有量は、該ミックスの全質量に対して好ましくは70~95質量%であり、より好ましくは80~90質量%である。
【0031】
本発明の揚げ物用バッターミックスは、さらに必要に応じて、この種の揚げ物用バッターミックスの製造に通常用いられ得る他の原料を含んでいてもよい。そのような他の原料としては、糖類、食塩や粉末醤油等の調味料、油脂、粉末乳化剤、増粘剤、蛋白質、膨張剤等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の揚げ物用バッターミックスにおける前記他の原料の含有量は、該ミックスの全質量に対して、好ましくは30質量%以下、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0032】
本発明の揚げ物用バッターミックスは、常温常圧下で粉末状であり、これを用いて揚げ物を製造する際には、液体と混合してバッター液とし、これを具材表面に付着させて使用する。バッター液を調製する際に使用される液体としては水が一般的であるが、水以外の水性液体、例えば、牛乳、出し汁、煮汁等を用いることもでき、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。本発明の揚げ物用バッターミックスを用いてバッター液を調製する場合、該ミックスと混合される液体の分量は、具材の種類等に応じて適宜調整すればよいが、該揚げ物用バッターミックス100質量部に対して、好ましくは80~1000質量部、さらに好ましくは90~500質量部、より好ましくは100~350質量部である。本発明には、前述した本発明の揚げ物用バッターミックス100質量部と液体80~1000質量部とを含むバッター液、及び、該バッター液を具材に付着させ、加熱調理する工程を有する揚げ物の製造方法が包含される。
【0033】
本発明の揚げ物用バッターミックスを用いた揚げ物の製造方法においては、本発明の揚げ物用バッターミックスを用いる点以外は常法に準じればよく、例えば、上記のように調製したバッター液を、具材の表面の少なくとも一部に付着させ、必要に応じてさらにパン粉やブレッダー等を付着させた後、油ちょうすることで、揚げ物を製造することができる。本発明は、種々の揚げ物の製造に適用することができるが、特に、天ぷら、フリッター、フライ、から揚げに好適であり、とりわけ、パン粉やブレッダーを用いずに製造され、衣の厚みが大きい揚げ物、具体的には、天ぷら、フリッター等に好適である。揚げ物の具材としては、特に限定されず、例えば、鶏、豚、牛、羊、ヤギ等の畜肉類、イカ、エビ、アジ等の魚介類、野菜類等の種々のものを使用することができる。具材には、バッター液を付着させる前に、必要に応じて、下味を付けてもよく、打ち粉をまぶしてもよい。
【0034】
以上のようにして本発明の揚げ物用バッターミックスを用いて製造された揚げ物は、ウォーマー等の保温設備で常温よりも高温環境において保存した場合であっても、より具体的には、例えば40~70℃において3~6時間保存した場合であっても、衣が硬くねばついた食感にならず、サクミを維持できる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0036】
〔実施例1~20及び比較例1~13〕
下記表1~3の配合で各原料を混合し、揚げ物用バッターミックスを製造した。使用した原料は下記の通り。
・難消化性澱粉A(RS4;食物繊維含有量85質量%):ノベロースW(イングレディオン製)
・難消化性澱粉B(RS4;食物繊維含有量90質量%):ノベロース3490(イングレディオン製)
・難消化性澱粉C(RS4;食物繊維含有量75質量%):パインスターチRT(松谷化学工業製)
・難消化性デキストリン(食物繊維含有量90質量%):ファイバーソル2(松谷化学工業製)
・未加工澱粉(食物繊維含量0質量%):タピオカ澱粉
・酸化澱粉: ラスターゲンFO(日澱化學製)
・リン酸架橋澱粉:パインベークCC(松谷化学工業製;食物繊維高含有難消化性澱粉には該当しない)
・アセチル化澱粉:銀鱗L(J-オイルミルズ製;食物繊維高含有難消化性澱粉には該当しない)
・薄力小麦粉:フラワー(日清製粉ウェルナ製)
【0037】
〔試験例1〕
各揚げ物用バッターミックス100質量部に対して水160質量部を混合し、軽くかき混ぜて天ぷら用衣液(バッター液)を製造した。尾付き海老(20g/1尾)の殻を剥いて水気を取り、打ち粉をしてから衣液を海老の身全体に絡めた。170℃の油槽に投入して2分半油ちょうして、揚げ物の一種である海老天ぷらを製造した。揚げたての海老天ぷらを10名のパネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準で評価してもらった。また、製造後に60℃に調節したホットウォーマーで4時間保管後、再度10名のパネラーに食してもらい、その際の食感を下記評価基準で評価してもらった。結果を下記表1~3に示す。
【0038】
(天ぷらの食感の評価基準)
5点:衣が硬すぎずねばつかず、歯脆いサクミが非常にあり、極めて良好。
4点:衣が硬すぎずねばつかず、歯脆いサクミがあり、良好。
3点:衣に硬さやねばつきは少ないが、歯脆いサクミがやや物足りない。
2点:衣に硬さ又はねばつきが感じられ、歯脆いサクミに乏しく不良。
1点:衣が硬すぎる又は衣にねばつきが多く、歯脆いサクミも感じられず極めて不良。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
〔製造例〕
以下の手順により熱処理小麦粉を調製した。
・乾熱処理小麦粉:薄力小麦粉(「フラワー」日清製粉ウェルナ製)を耐熱性のパウチ袋に厚さ5mmになるよう詰めた。パウチ袋を恒温装置に入れて、130℃で60分間加熱処理した。
・湿熱処理小麦粉:薄力小麦粉(「フラワー」日清製粉ウェルナ製)100質量部に対して、20質量部の水を霧吹きで全体に吹きかけ、よく攪拌した。この加水した小麦粉を耐熱性のパウチ袋に厚さ5mmになるよう詰め、投入口を密封した。パウチ袋を130℃のオイルバスに沈めて60秒間加熱処理した。
【0043】
〔試験例2〕
製造例で調製した熱処理小麦粉を用いて表4のように配合した以外は、実施例1と同様にして揚げ物用バッターミックスを製造した。該揚げ物用バッターミックスを用いて、試験例1と同様にして、海老天ぷらを製造し評価した。その結果を表4に示す。
【0044】
【表4】