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特開2024-24684反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、および反射型マスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024684
(43)【公開日】2024-02-22
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、および反射型マスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/24 20120101AFI20240215BHJP
   G03F 1/32 20120101ALI20240215BHJP
   G03F 1/54 20120101ALI20240215BHJP
   G03F 1/80 20120101ALI20240215BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/32
G03F1/54
G03F1/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023220380
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2023551682の分割
【原出願日】2023-06-26
(31)【優先権主張番号】P 2022108643
(32)【優先日】2022-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023078399
(32)【優先日】2023-05-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】永田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】赤木 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 健一
(72)【発明者】
【氏名】岩岡 啓明
(57)【要約】
【課題】位相シフト膜がIrを主成分として含む場合に、位相シフト膜と保護膜のエッチング選択比を向上する、技術を提供すること。
【解決手段】反射型マスクブランクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。前記位相シフト膜はIrを主成分とするIr系材料からなり、前記保護膜はRhを主成分とするRh系材料からなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する、反射型マスクブランクであって、
前記位相シフト膜はIrを主成分とするIr系材料からなり、前記保護膜はRhを主成分とするRh系材料からなる、反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記位相シフト膜と前記保護膜は、前記保護膜のエッチング速度ER1に対する前記位相シフト膜のエッチング速度ER2の比(ER2/ER1)が5.0以上である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記位相シフト膜は、金属元素としてIrのみを含有するか、金属元素としてIrに加えてRu、Ta、Cr、Re、W、VおよびMnから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記位相シフト膜は、Ir化合物を有し、前記Ir化合物は、非金属元素としてO、C、N、BおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項3に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記Ir化合物は、Oを0at%超25at%以下含有する、請求項4に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記Ir化合物は、Nを0at%超、10at%以下含有する、請求項4に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記位相シフト膜の膜厚は、20nm以上、60nm以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記保護膜は、Rhのみを含むか、Rhに加えてRu、Pd、Y、Al、NbおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記保護膜は、Rhを50at%以上、100at%以下含有する、請求項8に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
前記保護膜の膜厚は、0.5nm以上4.0nm以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項11】
前記位相シフト膜の膜厚t1と、前記保護膜を構成するRh含有層の厚みt2との比(t1/t2)が25以下である、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項12】
前記位相シフト膜を基準として前記保護膜とは反対側に、エッチングマスク膜を有し、
前記エッチングマスク膜は、Al、Hf、Y、Cr、Nb、Ti、Mo、TaおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項13】
前記エッチングマスク膜は、さらにO、NおよびBから選択される少なくとも1つの元素を含有する、請求項12に記載の反射型マスクブランク。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクを備え、
前記位相シフト膜に開口パターンを含む、反射型マスク。
【請求項15】
基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する、反射型マスクブランクの製造方法であって、
前記基板の上に前記多層反射膜と前記保護膜と前記位相シフト膜をこの順番で成膜することを有し、
前記位相シフト膜はIrを主成分とするIr系材料からなり、前記保護膜はRhを主成分とするRh系材料からなる、反射型マスクブランクの製造方法。
【請求項16】
請求項1~13のいずれか1項に記載の反射型マスクブランクを準備することと、
前記位相シフト膜に開口パターンを形成することと、
を有する、反射型マスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、および反射型マスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの微細化に伴い、極端紫外線(Extreme Ultra-Violet:EUV)を用いた露光技術であるEUVリソグラフィー(EUVL)が開発されている。EUVとは、軟X線および真空紫外線を含み、具体的には波長が0.2nm~100nm程度の光のことである。現時点では、13.5nm程度の波長のEUVが主に検討されている。
【0003】
EUVLでは、反射型マスクが用いられる。反射型マスクは、ガラス基板などの基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、多層反射膜を保護する保護膜と、EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。位相シフト膜には、開口パターンが形成される。EUVLでは、位相シフト膜の開口パターンを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。
【0004】
特許文献1の位相シフト膜は、位相シフト膜の膜厚の変動による位相差の変動を抑制すべく、A群から選ばれる元素とB群から選ばれる元素とを有する合金からなる。A群は、Pd、Ag、Pt、Au、Ir、W、Cr、Mn、Sn、Ta、V、FeおよびHfからなる。B群は、Rh、Ru、Mo、Nb、ZrおよびYからなる。
【0005】
特許文献1の保護膜は、Ruを主成分として含むRu系材料からなる。Ru系材料は、Ru金属単体、Ruに加えてNb、Zr、Y、B、Ti、La、Mo、Co及び/又はReなどの金属を含有するRu合金、又はこれらの材料にN(窒素)が含まれる窒素化合物である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】日本国特開2018-146945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
位相シフト膜として、Ir系材料からなるものが考えられる。Ir系材料は、Irを主成分として含む材料である。Irは、EUV光に対する屈折率が小さく、且つEUV光に対する消衰係数が大きい。従って、位相シフト膜の材料としてIr系材料を用いることで、所望の位相差を確保しつつ位相シフト膜を薄化できる。
【0008】
しかし、位相シフト膜がIr系材料からなる場合、位相シフト膜のエッチング速度が遅い。また、位相シフト膜を構成するIr系材料と、保護膜を構成するRu系材料とは、エッチング速度の比が小さい。それゆえ、位相シフト膜に開口パターンを形成する際に、多層反射膜がエッチングされる恐れがあった。
【0009】
本開示の一態様は、位相シフト膜がIrを主成分として含む場合に、位相シフト膜と保護膜のエッチング選択比を向上する、技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の一態様に係る反射型マスクブランクは、基板と、EUV光を反射する多層反射膜と、前記多層反射膜を保護する保護膜と、前記EUV光の位相をシフトさせる位相シフト膜と、をこの順で有する。前記位相シフト膜はIrを主成分とするIr系材料からなり、前記保護膜はRhを主成分とするRh系材料からなる。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様によれば、位相シフト膜がIrを主成分として含む場合に、位相シフト膜と保護膜のエッチング選択比を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、一実施形態に係る反射型マスクブランクを示す断面図である。
図2図2は、一実施形態に係る反射型マスクを示す断面図である。
図3図3は、図2の反射型マスクで反射されるEUV光の一例を示す断面図である。
図4図4は、一実施形態に係る反射型マスクブランクの製造方法を示すフローチャートである。
図5図5は、一実施形態に係る反射型マスクの製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示を実施するための形態について図面を参照して説明する。各図面において同一のまたは対応する構成には同一の符号を付し、説明を省略することがある。明細書中、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0014】
図1図3において、X軸方向とY軸方向とZ軸方向は互いに直交する方向である。Z軸方向は、基板10の第1主面10aに対して垂直な方向である。X軸方向は、EUV光の入射面(入射光線と反射光線を含む面)に直交する方向である。図3に示すように、X軸方向から見たときに、入射光線はZ軸負方向に向かうほどY軸正方向に傾斜し、反射光線はZ軸正方向に向かうほどY軸正方向に傾斜する。
【0015】
図1を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1について説明する。反射型マスクブランク1は、例えば、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、エッチングマスク膜14と、をこの順番で有する。多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、エッチングマスク膜14とは、この順番で、基板10の第1主面10aに形成される。なお、反射型マスクブランク1は、少なくとも、基板10と、多層反射膜11と、保護膜12と、位相シフト膜13と、を有していればよい。
【0016】
反射型マスクブランク1は、図1には図示しない機能膜を更に有してもよい。例えば、反射型マスクブランク1は、基板10を基準として、多層反射膜11とは反対側に、導電膜を有してもよい。導電膜は、基板10の第2主面10bに形成される。第2主面10bは、第1主面10aとは反対向きの面である。導電膜は、例えば反射型マスク2を露光装置の静電チャックに吸着するのに用いられる。
【0017】
反射型マスクブランク1は、図示しないが、保護膜12と位相シフト膜13の間にバッファ膜を有してもよい。バッファ膜は、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成するエッチングガスから、保護膜12を保護する。バッファ膜は、位相シフト膜13よりも緩やかにエッチングされる。バッファ膜は、保護膜12とは異なり、最終的に位相シフト膜13の開口パターン13aと同一の開口パターンを有することになる。
【0018】
次に、図2および図3を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2について説明する。反射型マスク2は、例えば、図1に示す反射型マスクブランク1を用いて作製され、位相シフト膜13に開口パターン13aを含む。なお、図1に示すエッチングマスク膜14は、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成した後に除去される。
【0019】
EUVLでは、位相シフト膜13の開口パターン13aを半導体基板などの対象基板に転写する。転写することは、縮小して転写することを含む。以下、基板10、多層反射膜11、保護膜12、位相シフト膜13、およびエッチングマスク膜14について、この順番で説明する。
【0020】
基板10は、例えばガラス基板である。基板10の材質は、TiOを含有する石英ガラスが好ましい。石英ガラスは、一般的なソーダライムガラスに比べて、線膨張係数が小さく、温度変化による寸法変化が小さい。石英ガラスは、SiOを80質量%~95質量%、TiOを4質量%~17質量%含んでよい。TiO含有量が4質量%~17質量%であると、室温付近での線膨張係数が略ゼロであり、室温付近での寸法変化がほとんど生じない。石英ガラスは、SiOおよびTiO以外の第三成分または不純物を含んでもよい。なお、基板10の材質は、β石英固溶体を析出した結晶化ガラス、シリコン、または金属等であってもよい。
【0021】
基板10は、第1主面10aと、第1主面10aとは反対向きの第2主面10bと、を有する。第1主面10aには、多層反射膜11などが形成される。平面視(Z軸方向視)にて基板10のサイズは、例えば縦152mm、横152mmである。縦寸法および横寸法は、152mm以上であってもよい。第1主面10aと第2主面10bは、各々の中央に、例えば正方形の品質保証領域を有する。品質保証領域のサイズは、例えば縦142mm、横142mmである。第1主面10aの品質保証領域は、0.150nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有することが好ましい。また、第1主面10aの品質保証領域は、位相欠陥を生じさせる欠点を有しないことが好ましい。
【0022】
多層反射膜11は、EUV光を反射する。多層反射膜11は、例えば高屈折率層と低屈折率層とを交互に積層したものである。高屈折率層の材質は例えばシリコン(Si)であり、低屈折率層の材質は例えばモリブデン(Mo)であり、Mo/Si多層反射膜が用いられる。なお、Ru/Si多層反射膜、Mo/Be多層反射膜、Mo化合物/Si化合物多層反射膜、Si/Mo/Ru多層反射膜、Si/Mo/Ru/Mo多層反射膜、Si/Ru/Mo/Ru多層反射膜、MoRu/Si多層反射膜、Si/Ru/Mo多層反射膜なども、多層反射膜11として使用可能である。
【0023】
多層反射膜11を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、各層の材質、およびEUV光に対する反射率に応じて適宜選択できる。多層反射膜11は、Mo/Si多層反射膜である場合、入射角θ(図3参照)が6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を達成するには、膜厚2.3±0.1nmのMo膜と、膜厚4.5±0.1nmのSi膜とを繰り返し単位数が30以上60以下になるように積層すればよい。多層反射膜11は、入射角θが6°であるEUV光に対して60%以上の反射率を有することが好ましい。反射率は、より好ましくは65%以上である。
【0024】
多層反射膜11を構成する各層の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、またはイオンビームスパッタリング法などである。イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、Mo膜とSi膜の各々の成膜条件の一例は下記の通りである。
<Si膜の成膜条件>
ターゲット:Siターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:0.013Pa~0.027Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Si膜の膜厚:4.5±0.1nm、
<Mo膜の成膜条件>
ターゲット:Moターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:0.013Pa~0.027Pa、
イオン加速電圧:300V~1500V、
成膜速度:0.030nm/sec~0.300nm/sec、
Mo膜の膜厚:2.3±0.1nm、
<Si膜とMo膜の繰り返し単位>
繰り返し単位数:30~60(好ましくは40~50)。
【0025】
保護膜12は、多層反射膜11と位相シフト膜13の間に形成され、多層反射膜11を保護する。保護膜12は、位相シフト膜13に開口パターン13a(図2参照)を形成するエッチングガスから多層反射膜11を保護する。保護膜12は、エッチングガスに曝されても除去されずに、多層反射膜11の上に残る。
【0026】
エッチングガスは、例えばハロゲン系ガス、酸素系ガス、またはこれらの混合ガスである。ハロゲン系ガスとしては、塩素系ガスと、フッ素系ガスと、が挙げられる。塩素系ガスは、例えばClガス、SiClガス、CHClガス、CClガス、BClガスまたはこれらの混合ガスである。フッ素系ガスは、例えばCFガス、CHFガス、SFガス、BFガス、XeFガスまたはこれらの混合ガスである。酸素系ガスは、Oガス、Oガスまたはこれらの混合ガスである。
【0027】
保護膜12のエッチング速度ER1に対する、位相シフト膜13のエッチング速度ER2の比(ER2/ER1)を、選択比(ER2/ER1)とも呼ぶ。選択比(ER2/ER1)が大きいほど、位相シフト膜13の加工性が良い。選択比(ER2/ER1)は、好ましくは5.0以上であり、より好ましくは10以上であり、さらに好ましくは30以上である。選択比(ER2/ER1)は、好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下である。
【0028】
保護膜12は、例えばRh系材料からなる。Rh系材料は、Rhを主成分とする材料であり、Rhを50at~100at%含有する材料である。Rh系材料からなる保護膜12と、後述するIr系材料からなる位相シフト膜13とを組み合わせることで、選択比(ER2/ER1)を5.0以上にすることができる。Rh系材料は、Rhを50at%以上100at%以下含有することが好ましく、Rhを50at%超100at%以下含有することがより好ましく、Rhを50at%超100at%未満含有することがさらに好ましい。Rh系材料は、Rh単体であってもよいが、Rh化合物であることが好ましい。
【0029】
保護膜12は、Rhのみを含有してもよいが、Rh化合物を含有することが好ましい。Rh化合物は、Rhに加えてRu、Pd、Y、Al、NbおよびSiから選択される少なくとも1つの元素Z1を含有してもよい。RhにPd、Y、またはAlを添加することで、保護膜12のエッチング速度ER1を小さくでき、選択比(ER2/ER1)を大きくできる。また、RhにRu、NbまたはSiを添加することで、反射型マスク2の反射率を向上できる。
【0030】
Z1(全てのZ1)とRhの元素比(Z1:Rh)は、好ましくは1:99~1:1である。本明細書において、元素比とは、モル比のことである。比の値(Z1/Rh)が1/99以上であれば、EUV光に対する反射率が良好である。比の値(Z1/Rh)が1以下であれば、保護膜12のエッチングガスに対する耐久性が良好である。Z1とRhの元素比(Z1:Rh)は、より好ましくは3:10~1:1である。
【0031】
Rh化合物は、Rhに加えて、N、O、CおよびBからなる群から選択される少なくとも1つの元素Z2を含有してもよい。元素Z2は、保護膜12のエッチングガスに対する耐久性を低下させてしまう反面、保護膜12の結晶化を抑制でき、保護膜12の表面を平滑に形成できる。元素Z2を含有するRh化合物は、非結晶構造または微結晶構造を有する。Rh化合物が非結晶構造または微結晶構造を有する場合、Rh化合物のX線回折プロファイルは明瞭なピークを有しない。
【0032】
Rh化合物がRhに加えてZ2を含有する場合、Rhの含有量またはRhとZ1の合計の含有量は40at%~99at%であって且つZ2の合計の含有量は1.0at%~60at%であることが好ましい。Rh化合物がRhに加えてZ2を含有する場合、Rhの含有量またはRhとZ1の合計の含有量は80at%~99at%であって且つZ2の合計の含有量は1.0at%~20at%であることがより好ましい。
【0033】
Rh化合物は、Rhを90at%以上含有し、Z1とZ2の少なくとも1つを含有し、且つ10.0g/cm~14.0g/cmの密度を有する場合、非結晶構造または微結晶構造を有する。Rh化合物の密度は、好ましくは11.0g/cm~13.0g/cmである。なお、保護膜12は、Rhを100at%含有し、且つ11.0g/cm~12.0g/cmの密度を有する場合、非結晶構造または微結晶構造を有する。なお、保護膜12の密度は、X線反射率法を用いて測定する。
【0034】
保護膜12は、本実施形態では単層であるが、複数層であってもよい。つまり、保護膜12は、下層及び上層を有する多層膜であってもよい。保護膜12の下層は、多層反射膜11の最上面に接触して形成された層である。保護膜12の上層は、位相シフト膜13の最下面に接触している。このように、保護膜12を複数層構造とすることで、所定の機能に優れた材料を各層に使用できるので、保護膜12全体の多機能化を図ることができる。保護膜12は、全体としてRhを50at%以上含有すればよく、Rhを含有しない層を有してもよい。
【0035】
保護膜12の上層は、Rhを含むことが好ましく、Rh化合物を含むことがより好ましい。保護膜12の下層は、Ru、Nb、Mo、Zr、Y、C及びBからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含むことが好ましく、Ruを含むことがより好ましい。保護膜12の下層は、Rhを含まなくてもよい。また、保護膜12が多層膜である場合、下記の保護膜12の厚みとは多層膜の合計膜厚を意味する。
【0036】
保護膜12の厚みは、好ましくは1.0nm以上4.0nm以下であり、好ましくは1.5nm以上4.0nm以下であり、より好ましくは2.0nm以上3.8nm以下であり、さらに好ましくは2.0nm以上3.5nm以下である。保護膜12の厚みが1.0nm以上であれば、エッチング耐性が良い。また、保護膜12の厚みが4.0nm以下であれば、EUV光に対する反射率の低下を抑制できる。
【0037】
保護膜12の密度は、好ましくは10.0g/cm以上14.0g/cm以下である。保護膜12の密度が10.0g/cm以上であれば、エッチング耐性が良い。また、保護膜12の密度が14.0g/cm以下であれば、EUV光に対する反射率の低下を抑制できる。
【0038】
保護膜12の上面、すなわち保護膜12の位相シフト膜13が形成される表面は、二乗平均平方根粗さ(Rq)が好ましくは0.300nm以下であり、より好ましくは0.150nm以下である。二乗平均平方根粗さ(Rq)が0.300nm以下であれば、保護膜12の上に位相シフト膜13などを平滑に形成できる。また、EUV光の散乱を抑制でき、EUV光に対する反射率を向上できる。二乗平均平方根粗さ(Rq)は、好ましくは0.050nm以上である。
【0039】
保護膜12の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法またはイオンビームスパッタリング法などである。DCスパッタリング法を用いてRh膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<Rh膜の成膜条件>
ターゲット:Rhターゲット、
スパッタガス:Arガス、
ガス圧:1.0×10-2Pa~1.0×10Pa、
ターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
成膜速度:0.020nm/sec~1.000nm/sec、
Rh膜の膜厚:1nm~10nm。
【0040】
なお、Rh膜を形成する場合、スパッタガスとして、NガスまたはArガスとNの混合ガスを使用してもよい。スパッタガス中のNガスの体積比(N/(Ar+N))は0.05以上1.0以下である。
【0041】
位相シフト膜13は、開口パターン13aが形成される膜である。開口パターン13aは、反射型マスクブランク1の製造工程では形成されずに、反射型マスク2の製造工程で形成される。位相シフト膜13は、EUV光を吸収するだけではなく、EUV光の位相をシフトさせる。位相シフト膜は、図3に示す第1EUV光L1に対して、第2EUV光L2の位相をシフトさせる。
【0042】
第1EUV光L1は、位相シフト膜13を透過することなく開口パターン13aを通過し、多層反射膜11で反射され、再び位相シフト膜13を透過することなく開口パターン13aを通過した光である。第2EUV光L2は、位相シフト膜13に吸収されながら位相シフト膜13を透過し、多層反射膜11で反射され、再び位相シフト膜13に吸収されながら位相シフト膜13を透過した光である。
【0043】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差(≧0)は、例えば170°~250°である。第1EUV光L1の位相が、第2EUV光L2の位相よりも、進んでいてもよいし、遅れていてもよい。位相シフト膜13は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の干渉を利用して、転写像のコントラストを向上する。転写像は、位相シフト膜13の開口パターン13aを対象基板に転写した像である。
【0044】
EUVLでは、いわゆる射影効果(シャドーイング効果)が生じる。シャドーイング効果とは、EUV光の入射角θが0°ではない(例えば6°である)ことに起因して、開口パターン13aの側壁付近に、側壁によってEUV光を遮る領域が生じ、転写像の位置ずれまたは寸法ずれが生じることをいう。シャドーイング効果を低減するには、開口パターン13aの側壁の高さを低くすることが有効であり、位相シフト膜13の薄化が有効である。
【0045】
位相シフト膜13の膜厚は、シャドーイング効果を低減すべく、例えば60nm以下であり、好ましくは50nm以下である。位相シフト膜13の膜厚は、第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保すべく、好ましくは20nm以上であり、より好ましくは30nm以上である。
【0046】
第1EUV光L1と第2EUV光L2の位相差を確保しつつ、シャドーイング効果を低減すべく位相シフト膜13の膜厚を小さくするには、位相シフト膜13の屈折率nを小さくすることが有効である。そこで、本実施形態の位相シフト膜13は、Ir系材料からなる。Ir系材料は、Irを主成分とする材料であり、Irを50at%~100at%含有する材料である。つまり、位相シフト膜13は、Irを50at%~100at%含有する。
【0047】
Ir系材料は、屈折率nが小さく、且つ消衰係数kが大きい。従って、所望の位相差を確保しつつ位相シフト膜13を薄化できる。Ir含有量が大きいほど、屈折率nが小さく、消衰係数kが大きい。Ir含有量は、好ましくは70at%以上であり、より好ましくは80at%以上である。
【0048】
位相シフト膜13の屈折率nは、好ましくは0.935以下であり、より好ましくは0.920以下であり、さらに好ましくは0.910以下であり、特に好ましくは0.90以下である。位相シフト膜13の屈折率nが小さいほど、位相シフト膜13を薄化できる。なお、位相シフト膜13の屈折率nは、好ましくは0.885以上である。本明細書において、屈折率は、EUV光(例えば波長13.5nmの光)に対する屈折率である。
【0049】
位相シフト膜13の消衰係数kは、好ましくは0.030以上であり、より好ましくは0.032以上であり、さらに好ましくは0.035以上であり、特に好ましくは0.037以上である。位相シフト膜13の消衰係数kが大きいほど、薄い膜厚で所望の反射率を得ることが容易である。なお、位相シフト膜13の消衰係数kは、好ましくは0.065以下である。本明細書において、消衰係数は、EUV光(例えば波長13.5nmの光)に対する消衰係数である。
【0050】
位相シフト膜13は、Irを含むことが好ましく、Ir化合物を含むことがより好ましい。Ir化合物は、金属元素としてIrのみを含有するか、金属元素としてIrに加えてRu、Ta、Cr、Re、W、VおよびMnから選択される少なくとも1つの第1元素X1を含有することが好ましい。IrにRuを添加することで、光学特性を調整できる。IrにTa、Cr、Re、W、VまたはMnを添加することで、エッチング特性を向上できる。第1元素X1の合計含有量は、好ましくは1.0at%~49at%である。
【0051】
Ir化合物は、Irに加えて、非金属元素として、O、B、C、NおよびSiから選択される少なくとも1つの第2元素X2を含むことが好ましい。Irに第2元素X2を添加することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。第2元素X2は、酸素を含むことが好ましく、酸素と窒素を含むことがより好ましい。酸素は、少ない添加量で、Ir化合物の結晶化を抑制でき、Ir化合物の光学特性の低下を抑制できる。第2元素X2の合計含有量は、好ましくは1.0at%~49at%であり、より好ましくは5.0at%~30at%であり、さらに好ましくは15at%~25at%である。
【0052】
Ir化合物は、Irに加えて、非金属元素としてOを、0at%超25at%以下含有することが好ましく、1at%以上20at%以下含有することがより好ましく、1at%以上15at%以下含有することがさらに好ましく、1at%以上10at%以下含有することが特に好ましい。Oを含有することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。
【0053】
Ir化合物は、Irに加えて、非金属元素としてCを、0at%超15at%以下含有することが好ましく、1at%以上10at%以下含有することがより好ましい。Cを含有することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。
【0054】
Ir化合物は、Irに加えて、非金属元素としてBを、0at%超15at%以下含有することが好ましく、1at%以上10at%以下含有することがより好ましい。Bを含有することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。
【0055】
Ir化合物は、Irに加えて、非金属元素としてSiを、0at%超15at%以下含有することが好ましく、1at%以上10at%以下含有することがより好ましい。Siを含有することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。
【0056】
Ir化合物は、Irに加えて、非金属元素としてNを、0at%超10at%以下含有することが好ましく、1at%以上8at%以下含有することがより好ましく、1.5at%以上6at%以下含有することがさらに好ましく、1.8at%以上5at%以下含有することが特に好ましい。Nを含有することで、光学特性の低下を抑制しつつ結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。またNを含有することで、少ないO含有量でもIr化合物の結晶性を抑制できる。
【0057】
Ir化合物は、好ましくは、第1元素X1の合計含有量が5.0at%~49at%であるか、または第2元素X2の合計含有量が1.0at%~45at%である。Ir化合物は、第1元素X1の合計含有量が5.0at%未満であって且つ第2元素X2の合計含有量が45at%よりも大きい場合、水素に対して不安定な化合物である酸化イリジウムが生じ、反射型マスクブランク1の水素耐性は悪くなる。
【0058】
位相シフト膜13は、第2元素X2がTaの場合、Ta含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/Ta)は、例えば1~190である。Ta含有量に対するIr含有量の比(Ir/Ta)が1以上であれば、位相シフト膜13の光学特性が良い。Ta含有量に対するIr含有量の比(Ir/Ta)が190以下であれば、位相シフト膜13の加工性が良い。Ta含有量に対するIr含有量の比(Ir/Ta)は、好ましくは1~100であり、より好ましくは1~40であり、さらに好ましくは2~30であり、特に好ましくは2~25であり、最も好ましくは2~15である。
【0059】
位相シフト膜13は、第2元素X2がCrの場合、Cr含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/Cr)は、例えば1~105である。Cr含有量に対するIr含有量の比(Ir/Cr)が1以上であれば、位相シフト膜13の光学特性が良い。Cr含有量に対するIr含有量の比(Ir/Cr)が105以下であれば、選択比(ER2/ER1)が大きく、位相シフト膜13の加工性が良い。Cr含有量に対するIr含有量の比(Ir/Cr)は、好ましくは1~105であり、より好ましくは2~105であり、さらに好ましくは3~105であり、特に好ましくは4~105である。
【0060】
位相シフト膜13は、第2元素X2がWの場合、W含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/W)は、例えば1~100である。W含有量に対するIr含有量の比(Ir/W)が1以上であれば、位相シフト膜13の光学特性が良い。W含有量に対するIr含有量の比(Ir/W)が100以下であれば、選択比(ER2/ER1)が大きく、位相シフト膜13の加工性が良い。W含有量に対するIr含有量の比(Ir/W)は、好ましくは1~90であり、より好ましくは2~80であり、さらに好ましくは3~70であり、特に好ましくは4~30である。
【0061】
位相シフト膜13は、第1元素X1がOを含有する場合、O含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/O)は、例えば1~40である。O含有量に対するIr含有量の比(Ir/O)が1以上であれば、位相シフト膜13の耐水素性が向上できる。O含有量に対するIr含有量の比(Ir/O)が40以下であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。O含有量に対するIr含有量の比(Ir/O)は、好ましくは1~40であり、より好ましくは2~35であり、さらに好ましくは2~30であり、特に好ましくは2~20であり、最も好ましくは3~15である。
【0062】
位相シフト膜13は、第1元素X1がNを含有する場合、N含有量(at%)に対するIr含有量(at%)の比(Ir/N)は、例えば10~105である。N含有量に対するIr含有量の比(Ir/N)が10以上であれば、位相シフト膜13の耐水素性が向上できる。結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁のラフネスを小さくできる。N含有量に対するIr含有量の比(Ir/N)が105以下であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁ラフネスを小さくできる。N含有量に対するIr含有量の比(Ir/N)は、好ましくは10~105であり、より好ましくは10~80であり、さらに好ましくは15~70であり、特に好ましくは20~68であり、最も好ましくは20~45である。
【0063】
位相シフト膜13は、第1元素X1がOとNを含有する場合、O含有量(at%)とN含有量(at%)の合計に対するIr含有量(at%)の比(Ir/(O+N))は、例えば1~45である。O含有量とN含有量の合計に対するIr含有量の比(Ir/(O+N))が1以上であれば、位相シフト膜13の耐水素性を向上できる。O含有量とN含有量の合計に対するIr含有量の比(Ir/(O+N))が45以下であれば、位相シフト膜13の結晶化を抑制でき、開口パターン13aの側壁ラフネスを小さくできる。O含有量とN含有量の合計に対するIr含有量の比(Ir/(O+N))は、好ましくは1~45であり、より好ましくは2~30であり、さらに好ましくは2.5~20であり、特に好ましくは3~15であり、最も好ましくは3~10である。
【0064】
位相シフト膜13は、硫酸過水によるエッチング速度が0nm/min~0.05nm/minである。硫酸過水は、後述するレジスト膜の除去、又は反射型マスク2の洗浄などに用いられる。位相シフト膜13の硫酸過水によるエッチング速度が0.05nm/min以下であれば、洗浄時に位相シフト膜13の損傷を抑制できる。
【0065】
位相シフト膜13の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、又はイオンビームスパッタリング法などである。スパッタガス中のOガスの含有量で、位相シフト膜13の酸素含有量を制御可能である。また、スパッタガス中のNガスの含有量で、位相シフト膜13の窒素含有量を制御可能である。
【0066】
反応性スパッタリング法を用いてIrTaON膜を形成する場合、成膜条件の一例は下記の通りである。
<IrTaON膜の成膜条件>
ターゲット:IrターゲットおよびTaターゲット(またはIrTaターゲット)、
Irターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
Taターゲットの出力密度:1.0W/cm~8.5W/cm
スパッタガス:ArガスとOガスとNガスの混合ガス、
スパッタガス中のOガスの体積比(O/(Ar+O+N)):0.01~0.25、
スパッタガス中のNガスの体積比(N/(Ar+O+N)):0.01~0.25、
成膜速度:0.020nm/sec~0.060nm/sec、
膜厚:20nm~60nm。
【0067】
位相シフト膜13は、本実施形態では単層であるが、複数層であってもよい。位相シフト膜13は、Irを含まない層を有してもよい。いずれにしろ、位相シフト膜13を構成する少なくとも一層がIr系材料からなることが好ましい。Ir系材料は、Irを主成分として含む材料である。Ir系材料は、Ir単体であってもよいが、Ir化合物であることが好ましい。位相シフト膜13は、全体としてIrを50at%以上含有すればよい。
【0068】
位相シフト膜13の厚みt1(nm)と、保護膜12を構成するRh含有層の厚みt2(nm)の比(t1/t2)が25以下であることが好ましい。t1/t2が25以下であることで、エッチング時間の延長による保護膜12の表面粗さの増加を抑制できる。t1/t2は、25以下が好ましく、22以下がよりこのましく、20以下がさらに好ましく、18以下が特に好ましい。
【0069】
位相シフト膜13の厚みt1(nm)と、保護膜12の厚みt3(nm)の比(t1/t3)が15以下であることが好ましい。t1/t3が15以下であることで、エッチング時間の延長による保護膜12の表面粗さの増加を抑制できる。t1/t3は、15以下が好ましく、12以下がよりこのましく、11以下がさらに好ましい。
【0070】
エッチングマスク膜14は、位相シフト膜13を基準として保護膜12とは反対側に形成され、位相シフト膜13に開口パターン13aを形成するのに用いられる。エッチングマスク膜14の上には、不図示のレジスト膜が設けられる。反射型マスク2の製造工程では、先ずレジスト膜に第1開口パターンを形成し、次に第1開口パターンを用いてエッチングマスク膜14に第2開口パターンを形成し、次に第2開口パターンを用いて位相シフト膜13に第3開口パターン13aを形成する。第1開口パターンと第2開口パターンと第3開口パターン13aは、平面視(Z軸方向視)で同一の寸法および同一の形状を有する。エッチングマスク膜14は、レジスト膜の薄膜化を可能にする。
【0071】
エッチングマスク膜14は、好ましくはAl、Hf、Y、Cr、Nb、Ti、Mo、TaおよびSiから選択される少なくとも1つの元素を含有する。エッチングマスク膜14は、さらにO、NおよびBから選択される少なくとも1つの元素を含有してもよい。
【0072】
エッチングマスク膜14の膜厚は、好ましくは2nm以上30nm以下であり、より好ましくは2nm以上25nm以下であり、更に好ましくは2nm以上10nm以下である。
【0073】
エッチングマスク膜14の成膜方法は、例えば、DCスパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、またはイオンビームスパッタリング法などである。
【0074】
次に、図4を参照して、一実施形態に係る反射型マスクブランク1の製造方法について説明する。反射型マスクブランク1の製造方法は、例えば、図4に示すステップS101~S105を有する。ステップS101では、基板10を準備する。ステップS102では、基板10の第1主面10aに多層反射膜11を形成する。ステップS103では、多層反射膜11の上に保護膜12を形成する。ステップS104では、保護膜12の上に位相シフト膜13を形成する。ステップS105では、位相シフト膜13の上にエッチングマスク膜14を形成する。
【0075】
なお、反射型マスクブランク1の製造方法は、少なくとも、ステップS101~S104を有していればよい。反射型マスクブランク1の製造方法は、図4には図示しない機能膜を形成するステップを更に有してもよい。
【0076】
次に、図5を参照して、一実施形態に係る反射型マスク2の製造方法について説明する。反射型マスク2の製造方法は、図5に示すステップS201~S204を有する。ステップS201では、反射型マスクブランク1を準備する。ステップS202では、エッチングマスク膜14を加工する。エッチングマスク膜14の上には、不図示のレジスト膜が設けられる。先ずレジスト膜に第1開口パターンを形成し、次に第1開口パターンを用いてエッチングマスク膜14に第2開口パターンを形成する。ステップS203では、第2開口パターンを用いて位相シフト膜13に第3開口パターン13aを形成する。ステップS203では、エッチングガスを用いて位相シフト膜13をエッチングする。ステップS204では、レジスト膜およびエッチングマスク膜14を除去する。レジスト膜の除去には、例えば硫酸過水が用いられる。エッチングマスク膜14の除去には、例えばエッチングガスが用いられる。ステップS204(エッチングマスク膜14の除去)で用いられるエッチングガスは、ステップS202(エッチングマスク膜14の加工)で用いられるエッチングガスと同種であってもよい。なお、反射型マスク2の製造方法は、少なくとも、ステップS201およびS203を有していればよい。
【実施例0077】
以下、実験データについて説明する。
【0078】
<例1~例5>
例1~例5では、位相シフト膜の膜種とその成膜条件を除き、同じ条件でEUVL用反射型マスクブランクを作製した。各反射型マスクブランクは、基板と多層反射膜と保護膜と位相シフト膜で構成した。例1~例5は、実施例である。
【0079】
基板としては、SiO-TiO系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を準備した。このガラス基板は、20℃における熱膨張係数が0.02×10-7/℃であり、ヤング率が67GPaであり、ポアソン比が0.17であり、比剛性は3.07×10/sであった。基板の第1主面の品質保証領域は、研磨によって0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有していた。基板の第2主面には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜した。Cr膜のシート抵抗は100Ω/□であった。
【0080】
多層反射膜としては、Mo/Si多層反射膜を形成した。Mo/Si多層反射膜は、イオンビームスパッタリング法を用いてSi層(膜厚4.5nm)とMo層(膜厚2.3nm)を成膜することを40回繰り返すことにより形成した。Mo/Si多層反射膜の合計膜厚は272nm((4.5nm+2.3nm)×40)であった。
【0081】
保護膜としては、Rh膜(膜厚2.5nm)を形成した。Rh膜は、DCスパッタリング法を用いて形成した。
【0082】
位相シフト膜としては、Ir膜、IrTaON膜またはIrCrON膜を形成した。例1では、DCスパッタリング法を用いてIr膜を形成した。例2~例4では、反応性スパッタリング法を用いてIrTaON膜を形成した。例5では、反応性スパッタリング法を用いてIrCrON膜を形成した。
【0083】
例1~例5で得た位相シフト膜の膜種とその特性を表1に示す。
【0084】
【表1】
【0085】
位相シフト膜の組成は、アルバックファイ社製X線光電子分光装置(PHI 5000 VersaProbe)を用いて測定した。
【0086】
位相シフト膜の光学特性(屈折率nと消衰係数k)は、Center for X-Ray Optics,Lawrence Berkeley National Laboratoryのデータベースの値、または後述する反射率の「入射角の依存性」から算出した値を用いた。
【0087】
EUV光の入射角θと、EUV光に対する反射率Rと、位相シフト膜の屈折率nと、位相シフト膜の消衰係数kとは、下記の式(1)を満たす。
R=|(sinθ-((n+ik)-cosθ)1/2)/(sinθ+((n+ik)-cosθ)1/2)|・・・(1)
入射角θと反射率Rの組み合わせを複数測定し、複数の測定データと式(1)との誤差が最小になるように、最小二乗法で屈折率nと消衰係数kを算出した。
【0088】
保護膜のエッチング速度ER1、ER1´と、位相シフト膜のエッチング速度ER2は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)エッチング装置を用いて測定した。ER1は、Rh金属単体のエッチング速度である。ER1´は、Ru金属単体のエッチング速度である。エッチングガスとしては、CFガスとOガスの混合ガスを用いた。誘導結合プラズマエッチングの具体的な条件は、下記の通りであった。
ICPアンテナバイアス:1650W、
基板バイアス:50W、
エッチング圧力:4.0×10-1Pa、
エッチングガス:CFガスとOガスの混合ガス、
CFガスの流量:80sccm、
ガスの流量:20sccm。
【0089】
例1~例5では、Rh系材料(詳細にはRh金属単体)からなる保護膜とIr系材料からなる位相シフト膜とを組み合わせたので、表1に示すように選択比(ER2/ER1)を5.0以上にすることができた。なお、Ru系材料(詳細にはRu金属単体)からなる保護膜とIr系材料からなる位相シフト膜とを組み合わせた場合、表1に示すように選択比(ER2/ER1´)は5.0未満であった。
【0090】
<例6>
例6のEUVL用反射型マスクブランクは以下の条件で作製した。基板としては、SiO-TiO系のガラス基板(外形6インチ(152mm)角、厚さが6.3mm)を準備した。このガラス基板は、20℃における熱膨張係数が0.02×10-7/℃であり、ヤング率が67GPaであり、ポアソン比が0.17であり、比剛性は3.07×10/sであった。基板の第1主面の品質保証領域は、研磨によって0.15nm以下の二乗平均平方根粗さ(Rq)と、100nm以下の平坦度と、を有していた。基板の第2主面には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜した。Cr膜のシート抵抗は100Ω/□であった。
【0091】
多層反射膜としては、Mo/Si多層反射膜を形成した。Mo/Si多層反射膜は、イオンビームスパッタリング法を用いてSi層(膜厚4.5nm)とMo層(膜厚2.3nm)を成膜することを40回繰り返すことにより形成した。Mo/Si多層反射膜の合計膜厚は272nm((4.5nm+2.3nm)×40)であった。
【0092】
保護膜としては、Ru膜(膜厚1.0nm)と、Rh膜(膜厚1.5nm)をこの順番で形成した。Ru膜及びRh膜は、イオンビームスパッタリング法を用いて形成した。
【0093】
位相シフト膜としては、IrTaON膜(膜厚38nm、Ir:Ta:O:N=69.1at%:22.9at%:3.1at%:4.9at%)を反応性スパッタリング法を用いて形成した。
【0094】
<例7>
保護膜を構成するRh膜の膜厚を2.5nmとした以外は、例6と同様の条件でEUVL用反射型マスクブランクを作製した。
【0095】
作製した例6、例7のEUVL用反射型マスクブランクに対して下記条件でエッチング試験を実施した。エッチング試験は、誘導結合プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)エッチング装置を用いて行った。エッチングガスとしては、CFガスとOガスの混合ガスを用いた。誘導結合プラズマエッチングの具体的な条件は、下記の通りであった。
ICPアンテナバイアス:1200W、
基板バイアス:50W、
エッチング圧力:4.0×10-1Pa、
エッチングガス:CFガスとOガスの混合ガス、
CFガスの流量:48sccm、
ガスの流量:12sccm
エッチング時間:317秒又は346秒。
【0096】
エッチング試験後の保護膜(詳細にはRh膜)の表面粗さRaは、原子間力顕微鏡を用いて測定した。表面粗さRaは、JIS-B0601:2013に記載の算術平均粗さのことである。表面粗さRaの測定結果を表2に示す。表2において、Raの増加率(%)は、下記式(2)から算出する。
増加率=(Ra1-Ra0)/Ra0×100・・・(2)
上記式(2)において、Ra0はエッチング時間317秒で測定したRaであり、Ra1はエッチング時間346秒で測定したRaである。
【0097】
表2に示すように、例7は、例6とは異なり、t1/t2が25以下であったので、エッチング時間の延長による保護膜の表面粗さRaの増加を抑制できた。
【0098】
【表2】
【0099】
以上、本開示に係る反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクブランクの製造方法、および反射型マスクの製造方法について説明したが、本開示は上記実施形態などに限定されない。特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更、修正、置換、付加、削除、および組み合わせが可能である。それらについても当然に本開示の技術的範囲に属する。
【0100】
本出願は、2022年7月5日に日本国特許庁に出願した特願2022-108643号と2023年5月11日に日本国特許庁に出願した特願2023-078399号に基づく優先権を主張するものであり、特願2022-108643号と特願2023-078399号の全内容を本出願に援用する。
【符号の説明】
【0101】
1 反射型マスクブランク
2 反射型マスク
10 基板
11 多層反射膜
12 保護膜
13 位相シフト膜
図1
図2
図3
図4
図5