(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024815
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む抗ウイルス剤組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 65/08 20090101AFI20240216BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20240216BHJP
A01N 37/36 20060101ALI20240216BHJP
A01N 43/16 20060101ALI20240216BHJP
A01N 65/34 20090101ALI20240216BHJP
A01N 65/20 20090101ALI20240216BHJP
【FI】
A01N65/08
A01N37/02
A01N37/36
A01N43/16 C
A01N65/34
A01N65/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127724
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】397056042
【氏名又は名称】セッツ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西谷 巧太
(72)【発明者】
【氏名】國武 広一郎
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA04
4H011BA05
4H011BA06
4H011BB06
4H011BB08
4H011BB22
4H011BC03
4H011BC06
4H011BC19
4H011DA02
4H011DA13
4H011DF04
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、ノン・低アルコールタイプであっても、濡れ性が良好であり、かつ、抗ウイルス効果が高い、抗ウイルス剤組成物を提供することである。
【解決手段】プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む液体抗ウイルス剤組成物であって、前記プロアントシアニジンの含有量が、0.0005質量%以上5質量%以下であり、前記界面活性剤は、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤であり、前記液体抗ウイルス剤組成物中の界面活性剤の含有量が、0.01質量%以上3質量%以下であり、水、又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液を含有する、液体抗ウイルス剤組成物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む液体抗ウイルス剤組成物であって、前記プロアントシアニジンの含有量が、0.0005質量%以上5質量%以下であり、前記界面活性剤は、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤であり、前記液体抗ウイルス剤組成物中の界面活性剤の含有量が、0.01質量%以上3質量%以下であり、水、又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液を含有する、液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項2】
前記界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びアルキルグリコシドからなる群から選ばれる1種または2種である、請求項1に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項3】
前記液体抗ウイルス剤組成物中の有機酸の含有量が、0質量%以上1質量%以下である、請求項1に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項4】
前記液体抗ウイルス剤組成物中の有機酸塩の含有量が、0質量%以上1質量%以下である、請求項1に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項5】
前記液体抗ウイルス剤組成物のpHが、2.0以上8.0以下である、請求項1に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項6】
ネコカリシウイルスの感染価を対数減少値(LR)が2.0以上で減少させる、請求項1に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項7】
前記プロアントシアニジンが、ブドウ種子抽出物由来、リンゴ抽出物由来、及びピーナッツ種皮抽出物由来のものからなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項1に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の液体抗ウイルス剤組成物を含侵させた抗ウイルス基材。
【請求項9】
請求項1~7のいずれか1項に記載の液体抗ウイルス剤組成物を用いた環境表面、手、又は肌の抗ウイルス方法。
【請求項10】
プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む固体抗ウイルス剤組成物であって、前記プロアントシアニジンの含有量が、0.02質量%以上85質量%以下であり、前記界面活性剤は、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤であり、前記固体抗ウイルス剤組成物中の界面活性剤の含有量が、0.2質量%以上98質量%以下である、固体抗ウイルス剤組成物。
【請求項11】
前記界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステルである、請求項10に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【請求項12】
前記固体抗ウイルス剤組成物中の有機酸の含有量が、0質量%以上95質量%以下である、請求項10に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【請求項13】
前記固体抗ウイルス剤組成物中の有機酸塩の含有量が、0質量%以上95質量%以下である、請求項10に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【請求項14】
前記固体抗ウイルス剤組成物を、水又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させた場合、その溶液のpHが、2.0以上8.0以下となる、請求項10に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【請求項15】
前記プロアントシアニジンが、ブドウ種子抽出物由来、リンゴ抽出物由来、及びピーナッツ種皮抽出物由来のものからなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、請求項10に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【請求項16】
さらに、賦形剤を含む、請求項10~15のいずれか1項に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む抗ウイルス剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細菌やウイルスによる新興感染症および再興感染症が問題になっており、感染症対策として環境表面や手指を殺菌や抗ウイルス処理する機会が顕著に増えてきている。そのため感染症対策に使用する抗ウイルス剤においては手肌荒れがしない、お子様からお年寄りまで安心して使える等のニーズが高まっている。
【0003】
そこで、手肌荒れが少ない、ノン・低アルコールタイプの抗ウイルス剤に注目が集まっているが、ノン・低アルコールタイプでは、アルコールによる抗ウイルス効果が期待できないため、十分に満足のいく抗ウイルス効果が得られにくいという課題があった。
【0004】
他方、液体状の抗ウイルス剤は輸送コストが高く、固体状の抗ウイルス剤を使用現場で液体に溶いて使いたいというニーズも高まっている。そして、ノン・低アルコールタイプの液体状の抗ウイルス剤は常温で腐敗しやすいため、ノン・低アルコールタイプでは、特に固体状の抗ウイルス剤に対するニーズが高まっている。さらに、固体状の抗ウイルス剤は購入と消費の間にストック期間を設けることができ、自然災害に備えることができるというメリットもある。
【0005】
これまでの報告では、ノン・低アルコールタイプの除菌剤として、1価の低級アルコールを用いなくても、殺菌力及びウイルス不活化効果に優れる消毒剤を提供することを目的とした、(a)クロルヘキシジンまたはその塩を0.01~1質量%、(b)パラオキシ安息香酸エステルを0.001~0.5質量%、(c)炭素数2~6のカルボン酸を0.1~10質量%、(d)炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコールを0.1~30質量%含有し、pHが2~5であり、1価の低級アルコールを含まない消毒剤、が知られている(特許文献1)。また、エタノールを使わずとも、誰でも手触り感よく使用できる食品用殺菌剤を提供することを目的とした、焼成カルシウム、多価アルコール(糖アルコールを除く)、および乳酸ナトリウムが配合されてなる水溶液または水分散体であってエタノールを含まないことを特徴とする食品用殺菌剤、が知られている(特許文献2)。
【0006】
さらに、抗ウイルス剤ではないが、液体に溶いて使用する固体状の除菌剤として、水に対する分散溶解性が高く、食材などの除菌処理に際して、水に添加、混合するだけの簡単な操作で短時間に水中に均一に分散溶解して安定な処理液を調製することができ、作業性がよく、かつ持ち運びや取り扱いが容易で、しかも、次亜塩素酸ナトリウムや酢酸のように食材の風味に影響を与えることがなく、また有機物の存在下でも除菌効果の低下が少なく、処理液が有機物により汚れやすく、次亜塩素酸ナトリウムによる除菌効果が低い魚介類や肉類などの除菌をも効果的に行うことが可能な食品用除菌洗浄剤を提供することを目的とした、粉体状フマル酸の粒子をHLB14~16の親水性ノニオン系界面活性剤で被覆してなり、前記フマル酸を95.0~99.9重量%、HLB14~16の親水性ノニオン系界面活性剤を5.0~0.1重量%を含有することを特徴とする親水性食品用除菌洗浄剤、が知られている(特許文献3)。また、殺菌成分であるサリチル酸の水に対する配合量を抑えて刺激性を低減しつつ、十分な殺菌効力も維持可能な水性殺菌組成物を提供することを目的とした、サリチル酸と、HLB値が15以上のノニオン系界面活性剤、及び/又は香料成分としてリナロール、メントール、テルピネオール、チモール、カルバクロール、及びカルベオールから選ばれた1種以上と、を水に溶解させて成り、前記サリチル酸の配合量が0.1質量%以下であることを特徴とする水性殺菌組成物、が知られている(特許文献4)。
【0007】
また、抗ウイルス剤の例として、プロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物を0.001質量%以上、酸を0.06質量%以上含む、ノロウイルス感染抑制剤が知られている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-063210号公報
【特許文献2】特開2021-166490号公報
【特許文献3】特許第3937810号公報
【特許文献4】特開2018-016620号公報
【特許文献5】特開2020-180082号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、ノン・低アルコールタイプであっても、濡れ性が良好であり、かつ、抗ウイルス効果が高い、抗ウイルス剤組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、プロアントシアニジンを有効成分とする抗ウイルス剤について、ノン・低アルコールタイプの開発を目指したところ、環境表面に対する濡れ性が十分でなく、使用感が悪いことが分かった。そこで、界面活性剤を添加して、濡れ性を高めようとしたところ、今度は、プロアントシアニジンによる抗ウイルス効果が低下してしまう現象がみられた。そこで、本発明者らは、様々な界面活性剤について鋭意研究を行ったところ、驚くべきことに、界面活性剤として、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤を用いると、本発明の課題が解決されることを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
すなわち、本発明は以下の態様を含むものである。
〔1〕プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む液体抗ウイルス剤組成物であって、前記プロアントシアニジンの含有量が、0.0005質量%以上5質量%以下であり、前記界面活性剤は、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤であり、前記液体抗ウイルス剤組成物中の界面活性剤の含有量が、0.01質量%以上3質量%以下であり、水、又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液を含有する、液体抗ウイルス剤組成物。
〔2〕
前記界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステル及びアルキルグリコシドからなる群から選ばれる1種または2種である、〔1〕に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
〔3〕
前記液体抗ウイルス剤組成物中の有機酸の含有量が、0質量%以上1質量%以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の液体抗ウイルス剤組成物。
〔4〕
前記液体抗ウイルス剤組成物中の有機酸塩の含有量が、0質量%以上1質量%以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか1つに記載の液体抗ウイルス剤組成物。
〔5〕
前記液体抗ウイルス剤組成物のpHが、2.0以上8.0以下である、〔1〕~〔4〕のいずれか1つに記載の液体抗ウイルス剤組成物。
〔6〕
ネコカリシウイルスの感染価を対数減少値(LR)が2.0以上で減少させる、〔1〕~〔5〕のいずれか1つに記載の液体抗ウイルス剤組成物。
〔7〕
前記プロアントシアニジンが、ブドウ種子抽出物由来、リンゴ抽出物由来、及びピーナッツ種皮抽出物由来のものからなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、〔1〕~〔6〕のいずれか1つに記載の液体抗ウイルス剤組成物。
〔8〕
〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の液体抗ウイルス剤組成物を含侵させた抗ウイルス基材。
〔9〕
〔1〕~〔7〕のいずれか1つに記載の液体抗ウイルス剤組成物を用いた環境表面、手、又は肌の抗ウイルス方法。
〔10〕
プロアントシアニジン、および界面活性剤を含む固体抗ウイルス剤組成物であって、前記プロアントシアニジンの含有量が、0.02質量%以上85質量%以下であり、前記界面活性剤は、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤であり、前記固体抗ウイルス剤組成物中の界面活性剤の含有量が、0.2質量%以上98質量%以下である、固体抗ウイルス剤組成物。
〔11〕
前記界面活性剤が、ショ糖脂肪酸エステルである、〔10〕に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
〔12〕
前記固体抗ウイルス剤組成物中の有機酸の含有量が、0質量%以上95質量%以下である、〔10〕又は〔11〕に記載の固体抗ウイルス剤組成物。
〔13〕
前記固体抗ウイルス剤組成物中の有機酸塩の含有量が、0質量%以上95質量%以下である、〔10〕~〔12〕のいずれか1つに記載の固体抗ウイルス剤組成物。
〔14〕
前記固体抗ウイルス剤組成物を、水又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させた場合、その溶液のpHが、2.0以上8.0以下となる、〔10〕~〔13〕のいずれか1つに記載の固体抗ウイルス剤組成物。
〔15〕
前記プロアントシアニジンが、ブドウ種子抽出物由来、リンゴ抽出物由来、及びピーナッツ種皮抽出物由来のものからなる群から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする、〔10〕~〔14〕のいずれか1つに記載の固体抗ウイルス剤組成物。
〔16〕
さらに、賦形剤を含む、〔10〕~〔15〕のいずれか1つに記載の固体抗ウイルス剤組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、有効成分であるプロアントシアニジンを含む、ノン・低アルコールタイプの抗ウイルス剤組成物を提供することができる。構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤を用いると、濡れ性を良くするとともに、前記プロアントシアニジンの抗ウイルス効果を十分に発揮させることができる。さらに、プロアントシアニジンの抗ウイルス効果を高める成分として、有機酸を添加することもできる。その際、pHを調節するため、有機酸塩を添加することもできる。また、pHが2.0以上8.0以下に調整することにより、ノン・低アルコールタイプであっても、より抗ウイルス効果の高い抗ウイルス剤組成物を製造することができる。
本発明の抗ウイルス剤組成物は、ノン・低アルコールタイプであるので、手肌荒れが少なく、お子様からお年寄りまで安心して使える等のニーズに応えることができる。また、固体抗ウイルス剤組成物とすれば、使用現場で液体に溶いて使用することもできるため、輸送コストを抑制したいというニーズ、あるいは、購入と使用との間にストック期間を設け、自然災害に備えたいというニーズにも応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1~10の液体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図2】実施例11~19の液体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図3】比較例1~8の液体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図4】比較例9~16の液体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図5】実施例20~27の固体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図6】実施例28~34の固体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図7】比較例17~24の固体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図8】比較例25~32の固体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図9】実施例35~38、比較例33の液体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【
図10】実施例39~42の固体抗ウイルス剤組成物の配合割合と評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の抗ウイルス剤組成物について順を追って記述する。
本発明において「抗ウイルス剤組成物」とは、ノン・低アルコールタイプの抗ウイルス剤組成物を指す。
ここで、「ノン・低アルコールタイプ」とは、ノンアルコールタイプ、又は低アルコールタイプの両方のことを示す造語で、抗ウイルス剤組成物の水溶液部分に、濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液を使用したタイプのものを意味し、好ましくは9質量%以下のアルコール含有水溶液を使用したタイプのものを意味し、より好ましくはアルコールを含まない水を使用したタイプのものを意味する。
したがって、本発明の「抗ウイルス剤組成物」に含まれるアルコール濃度は0質量%又は10質量%以下と低いので、本明細書中では、本発明の「抗ウイルス剤組成物」を「ノン・低アルコールタイプの抗ウイルス剤組成物」とも呼ぶこととする。
なお、後述する比較例にも示すが、抗ウイルス剤組成物の水溶液部分に使用する濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液は、それだけでは抗ウイルス効果はない。
また、このようにアルコール濃度が低いため、本発明の「抗ウイルス剤組成物」は食品など口に入るものにも適用することができる。この場合、後述する「有機酸」や「界面活性剤」は食品グレード品(食品添加物として認可されているもの)を用いる。
本発明における「アルコール」とは、抗ウイルス剤組成物において一般的なすべてのアルコール、例えば、エタノールやイソプロパノールを意味する。
【0015】
本発明の抗ウイルス剤組成物においては、有効成分として、プロアントシアニジンが含まれている。プロアントシアニジンは、様々なウイルスに対して優れた感染抑制効果を発揮することが知られている成分である。
【0016】
本発明の抗ウイルス剤組成物では、有効成分であるプロアントシアニジンがウイルスに直接作用し、そのカプシドタンパク質、スパイクタンパク質、膜タンパク質の構造に影響を与えること等により、ウイルスの感染能力を低下又は消失させる効果を発揮すると考えられる。
【0017】
本発明の抗ウイルス剤組成物は、例えば、ノロウイルス属に属するウイルスに対して感染能力低下又は消失させる作用を示し、その他のカリシウイルス科ウイルス、ピコルナウイルス科ウイルス、パルボウイルス科ウイルス、パピローマウイルス科ウイルス、ポリオーマウイルス科ウイルス、アデノウイルス科ウイルス等、ノロウイルス以外の非エンベロープウイルスに対しても良好な感染能力低下又は消失させる作用を示し得る。本発明の「抗ウイルス剤組成物」は、非エンベロープウイルスに対して好ましく用いられ、ノロウイルスに対してより好ましく用いられる。
【0018】
本発明の抗ウイルス剤組成物は、エンベロープを有するウイルスに対しても良好な感染能力低下又は消失させる作用を示し得る。例えば、オルトミクソウイルス科のA型インフルエンザウイルス属に属するA型インフルエンザウイルス、ヘパドナウイルス科のオルトヘパドナウイルス属に属するB型肝炎ウイルス、コロナウイルス科のオルトコロナウイルス亜科、ベータコロナウイルス属に属するSARSコロナウイルス2に対して良好な感染能力低下又は消失させる作用を示し得る。
【0019】
本発明の「プロアントシアニジン」は、フラバノール(カテキン、エピカテキンなど)の重合体(縮合型タンニン)である。プロアントシアニジンは、様々な植物の葉、果実、樹皮などに存在している。例えば、ブドウ種子抽出物、リンゴ抽出物、ピーナッツ種皮抽出物、柿抽出物に存在する。したがって、本発明の抗ウイルス剤組成物の製造の原料には、ブドウ種子抽出物、リンゴ抽出物、ピーナッツ種皮抽出物、柿抽出物等のプロアントシアニジンを含有する物質を使用すれば良い。
天然に存在するプロアントシアニジンの大部分は、プロシアニジンである。例えば、ブドウ種子の抽出物に含まれるプロアントシアニジンは、主として下記化学式で表されるプロシアニジン少量体及びその没食子酸エステルである。なお、下記化学式において、nは、1~12程度(すなわち、2量体から13量体程度)であることが好ましい。また、13C-NMR分析により測定される平均重合度は7~9程度が好ましい。また、各重合度のプロアントシアニジンにつき、約1つの割合で没食子酸エステル構造を有していることが好ましい。
本発明において、プロアントシアニジンは、ブドウ種子抽出物に含まれるプロアントシアニジン、すなわち、ブドウ種子抽出物由来のプロアントシアニジンを用いることが好ましい。
【0020】
【0021】
ブドウ種子の具体例としては、ヨーロッパブドウ(ヴィニフェラ種 Vitis vinifera)、アメリカブドウ(ラブルスカ種 Vitis labrusca)、アムールブドウ(アムレンシス種 Vitis amurensis)等、ブドウ科(Vitaceae)ブドウ属(Vitis)植物、マスカダイン(ロトゥンディフォリア種 Muscadinia rotundifolia)等のマスカダイン属植物などの種子が挙げられる。また、ブドウ種子抽出物は、これらブドウ種子を、水溶性有機溶媒(例えばエタノールなど)または水溶性有機溶媒と水との混合液で、加熱還流させながら抽出するといった、特開平11-80148号公報に記載の方法等により調製することができる。
【0022】
ブドウ種子抽出物は、プロアントシアニジンを含むものであれば、白ブドウ、赤ブドウ、黒ブドウ等のいずれの品種のブドウの種子より抽出されたものを用いてもよく、たとえば、シャルドネ種、リースリング種、甲州種、ナイアガラ種、ネオ・マスカット種、巨峰種、デラウェア種、マスカットベリーA種、白羽種(リカチテリ種)、セレサ種、ミラトルガウ種等、ヴィニフェラ種、ヴィニフェラ系交雑種、非ヴィニフェラ系交雑種など種々の品種のブドウ種子から、有機溶媒抽出等の方法により得られたものが好ましく用いられる。プロアントシアニジンを含むブドウ種子抽出物としては、市販品も容易に入手が可能であり、例えば、キッコーマンバイオケミファ株式会社の商品名「グラヴィノールSE」(プロアントシアニジン含有量83質量%以上)、「グラヴィノールF」(プロアントシアニジン含有量14質量%以上)、ベーガン通商株式会社の商品名「PPBHQ」(プロアントシアニジン含有量70質量%以上)、Indena社の商品名「エノビータ」(プロアントシアニジン含有量95質量%以上)、株式会社常磐薬品植物化学研究所の商品名「ビノフェロン」(プロアントシアニジン含有率90質量%以上)、株式会社龍泉堂の商品名「GrapeSorac P-600」(ポリフェノール含有率60.0質量%)等が挙げられる。
【0023】
ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有量としては、特に制限されないが、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上が挙げられる。なお、ブドウ種子抽出物におけるプロアントシアニジンの含有量の上限は、例えば、95質量%程度である。
【0024】
リンゴ抽出物は例えばリンゴ(Malus pumila Mill.)の果皮、果実、又はこれらの混合物の抽出物(ポリフェノール画分)である。本発明の抗ウイルス剤組成物において、リンゴ抽出物はプロアントシアニジンを含有する物質として好適に含有することができる。
【0025】
リンゴ抽出物の抽出溶媒としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、グリセリン等の多価アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケト類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル類;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ピリジン類等の有機溶媒が挙げられる。これらの抽出溶媒は1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの中でも、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。したがって、リンゴ抽出物は、リンゴの水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。リンゴ抽出物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0026】
リンゴ抽出物は、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、BGGJapan株式会社の商品名「ApplePhenon(登録商標)アップルプロシアニジン」(プロアントシアニジン含有率18.4質量%以上)、株式会社アクセスワンの商品名「リンゴポリフェノール」(ポリフェノール含有率98.0質量%)等が挙げられる。
【0027】
ピーナツ種皮抽出物は落花生(Arachis hypogaea L.)の種皮の抽出物である。ピーナツ種皮抽出物の抽出溶媒としては、水、アルコール(例えばエタノール)、含水アルコール(例えば含水エタノール)などが有効である。したがって、ピーナツ種皮抽出物は、落花生の種皮の水抽出物、アルコール抽出物、又は含水アルコール抽出物であることが好ましい。ピーナツ種皮抽出物は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0028】
ピーナツ種皮抽出物は、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、株式会社常磐薬品植物化学研究所の商品名「ピーナツ種皮エキス末」(プロアントシアニジン含有率38.0質量%以上)等が挙げられる。
【0029】
本発明の液体抗ウイルス剤組成物において、プロアントシアニジンの含有量は、0.0005質量%以上であり、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上である。また、本発明の抗ウイルス剤組成物を溶液形態とした場合の溶解状態の安定性の観点からは、本発明の液体抗ウイルス剤組成物におけるプロアントシアニジンの含有量の上限としては、5質量%以下、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0030】
本発明の固体抗ウイルス剤組成物において、プロアントシアニジンの含有量は、0.02質量%以上であり、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上である。また、本発明の固体抗ウイルス剤組成物におけるプロアントシアニジンの含有量の上限としては、85質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0031】
また、本発明の「ノン・低アルコールタイプ」の抗ウイルス剤組成物では、単にプロアントシアニジンを加えるだけでは、濡れ性が悪い。そこで、濡れ性を高めるため、界面活性剤を使用する。本発明に使用する界面活性剤として、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤の例としては、例えば、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグリコシド、ソルビタンモノエステルなどが挙げられる。
ここで、プロアントシアニジンは、界面活性剤の親水基に影響を受ける可能性がある。例えば、親水基としてポリオキシエチレン鎖およびポリグリセリンなどの重合体を有する場合、それらがプロトアントシアニジンに作用し、その抗ウイルス効果に悪い影響を与える可能性がある(ただし、これは考察であり、本明細書はこのような理論に拘束されない。)。実際、多くの界面活性剤は、プロアントシアニジンの抗ウイルス効果を減退させてしまうことが本発明により初めて見出された。そこで、本発明の液体抗ウイルス剤組成物においては、界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステル及びアルキルグリコシドからなる群から選ばれる1種または2種を用いることがより好ましい。なお、界面活性剤のうち、アルキルグリコシドは液体であり、固体抗ウイルス剤組成物とするには不向きであるため、固体抗ウイルス剤組成物で用いる界面活性剤の選択肢からは除外される。したがって、固体抗ウイルス剤組成物に用いる界面活性剤としては、ショ糖脂肪酸エステルが好ましい。
【0032】
これらの界面活性剤においては、高HLB(親水性)であることが好ましく、例えば、HLBが13以上、19以下であることが好ましく、14以上、19以下であることがより好ましく、15以上、19以下であることが特に好ましい。
ここで、HLBとは、界面活性剤中の親水基と親油基のバランスを表しており、公知の測定方法により求めた数値である。例えば、前記界面活性剤のHLB値の算出はアトラス法の算出法を用いることができる。
アトラス法の算出法は、以下の式からHLB値を算出する方法である。
HLB=20×(1-S/A)
S:ケン化価
A:エステル中の脂肪酸の中和価
【0033】
ショ糖脂肪酸エステルとして、具体的には、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル等が挙げられる。親水性の点から、ショ糖ラウリン酸エステルが特に好ましい。
アルキルグリコシドとして、具体的には、カプリルグリコシド、ラウリルグリコシド、ミリスチルグリコシド、パルミチルグリコシド、ステアリルコシド等が挙げられる。親水性の点から、ラウリルグリコシドが特に好ましい。
【0034】
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」では、界面活性剤の含有量は、0.01質量%以上3質量%以下、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下である。0.01質量%以上であれば、十分な濡れ性効果が得られ、また、3質量%以下であると、使用感が悪くならず、跡残りなどのおそれが少ない。
【0035】
本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」中の界面活性剤の含有量は、0.2質量%以上98質量%以下、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは5質量%以上35質量%以下である。界面活性剤の含有量が98質量%以下であると、固体抗ウイルス剤組成物を、水又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液への溶解する際の溶解性が良好となる。
【0036】
本発明の「抗ウイルス剤組成物」には、例えば、水もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液で溶解した液体抗ウイルス剤組成物や、水もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液で溶解されていない固体抗ウイルス剤組成物が含まれる。
前記「液体」とは常温(25℃)で液体の状態を指し、前記「固体」とは常温(25℃)で固体(例えば、粉末、顆粒等)の状態を指す。
また、詳細については後述するが、液体抗ウイルス剤組成物のpHは、2.0以上8.0以下であることが好ましく、2.5以上7.0以下であることがより好ましく、3.0以上6.0以下であることがさらに好ましい。
【0037】
次に、本発明の抗ウイルス剤組成物、及び液体抗ウイルス剤組成物の製造方法について説明をする。
本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」の製造方法は、通常の固体抗ウイルス剤製造時に使用される方法と同様でよく、例えば、上述した有効成分であるプロアントシアニジンを含有する物質と、後述する各種添加剤を適宜混合する方法が挙げられる。
混合は、乳鉢を使って行っても良いが、ミルミキサー、V型混合機やリボンミキサー等の混合機を使用することができる。このようにして得られた粉末状の固体抗ウイルス剤組成物は、用途に応じて、造粒したり、固形化したりしても良い。
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」の製造方法は、固体抗ウイルス剤組成物を、水もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させる方法により製造することができる。溶解は、機械で撹拌して行うのが好ましく、撹拌方法は特に制限されないが、マグネチックスターラー、ミキサー、コロイドル、パドルミキサー、アジテーター、ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
また、「液体抗ウイルス剤組成物」の製造方法としては、前記のような「固体抗ウイルス剤組成物」を介さずに、水もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に対して、直接、有効成分であるプロアントシアニジンを含有する物質と後述する各種添加剤を添加して撹拌する方法も挙げられる。撹拌は、機械で撹拌して行うのが好ましく、撹拌方法は特に制限されないが、マグネチックスターラー、ミキサー、コロイドル、パドルミキサー、アジテーター、ホモジナイザーなどを用いて行うことができる。
【0038】
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」において、プロアントシアニジンを含有する物質及び界面活性剤を除く残部は、水、もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液、好ましくは、水、もしくは濃度が9質量%以下のアルコール含有水溶液、より好ましくは、水とすることができるが、残部には、後述する各種添加剤を配合することもできる。
水は、任意のものでよく、例えば、水道水、蒸留水、イオン交換水などを用いることができる。適宜、溶解性を高めるため、加熱して、温水などにしても良い。
なお、本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」においては、軽量化や保存性を高めるため、水もしくはアルコール含有水溶液は実質的に含まれない。
【0039】
ところで、本発明の「抗ウイルス剤組成物」においては、さらに有機酸を加えて抗ウイルス効果を増強することができる。ノン・低アルコールタイプの液体の抗ウイルス剤組成物に使用できる有機酸として、例えば、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸、グルコン酸、酢酸、乳酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
また、本発明の「抗ウイルス剤組成物」は、ノン・低アルコールタイプの固体抗ウイルス剤組成物にも関する。ノン・低アルコールタイプの固体抗ウイルス剤組成物に使用できる有機酸は、20℃で固体の有機酸であり、例えば、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。なお、液体の抗ウイルス剤組成物に使用できる有機酸のうち、グルコン酸、酢酸、及び乳酸は、20℃で液体であるから、これらを使用すると固体抗ウイルス剤組成物の固体製剤化が困難になるため、固体抗ウイルス剤組成物に使用できる有機酸の選択肢からは除外される。
【0040】
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」は、有機酸を含有させることもできる。液体抗ウイルス剤組成物中の有機酸の含有量は、0質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上0.8質量%以下であることがさらに好ましく、0.1質量%以上0.5質量%以下であることがさらにより好ましい。有機酸の含有量が1質量%以下であると、使用感が悪くならず、跡残りなどのおそれが少ない。
本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」は、有機酸を含有させることもできる。固体抗ウイルス剤組成物中の有機酸の含有量は、0質量%以上95質量%以下であることが好ましく、1質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、10質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。また、95質量%以下であると、溶媒への溶解時の溶解性が良好である。
【0041】
本発明の「抗ウイルス剤組成物」は、抗ウイルス効果を高めるため、使用する際の溶液のpHを、2.0以上8.0以下に調節することが好ましい。2.5以上7.0以下であることが好ましく、3.0以上6.0以下であることがより好ましい。
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」では、pHが2.0以上8.0以下となるように調節することが好ましく、2.5以上7.0以下であることがより好ましく、3.0以上6.0以下であることがさらに好ましい。
本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」では、水もしくは低濃度アルコール水溶液に溶解させた場合のpHが、2.0以上8.0以下となるように調節することが好ましく、2.5以上7.0以下であることがより好ましく、3.0以上6.0以下であることがさらに好ましい。
なお、当業者であれば、本発明の「抗ウイルス剤組成物」のpHは、主に有機酸の量(濃度)と後述する有機酸塩をはじめとする塩基性物質の量(濃度)によって調節可能である。強塩基性を示す水酸化物であっても調節は可能であるが、有機酸塩を用いることでより安全にpHを調節することができる。
【0042】
本発明の「抗ウイルス剤組成物」においては、プロアントシアニジン、界面活性剤、有機酸と、水もしくは低濃度アルコール水溶液以外に、さらにpH等を調節するため、有機酸塩を含有させることが好ましい。
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」に使用できる有機酸塩として、例えば、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、酢酸塩、乳酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましい。本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」に使用できる具体的な有機酸塩として、例えば、コハク酸二ナトリウム、フマル酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の液体抗ウイルス剤組成物中の有機酸塩の含有量は、0質量%以上1質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以上0.7質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.01質量%以上0.5質量%以下であることがさらにより好ましい。
有機酸塩をさらに含ませることで、抗ウイルス剤組成物のpHをより安定化し、抗ウイルス効果をより高めることができる。
また、本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」は、水もしくは低濃度アルコール水溶液に溶解したときのpHを調整するために、有機酸塩を含有させるのが好ましい。有機酸塩として、例えば、フマル酸塩、コハク酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、酢酸塩、乳酸塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用することができる。
塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられるが、ナトリウム塩が好ましい。本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」に使用できる具体的な有機酸塩として、例えば、コハク酸二ナトリウム、フマル酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、リンゴ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等が挙げられる。
本発明の固体抗ウイルス剤組成物中の有機酸塩の含有量は、0質量%以上95質量%以下であることが好ましく、1質量%以上95質量%以下であることがより好ましく、5質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。かかる範囲の含有量とすることで、固体抗ウイルス剤組成物を、水もしくは低濃度アルコール水溶液に溶解して得られた液体抗ウイルス剤組成物のpHをより安定化し、抗ウイルス効果をより高めることができる。
また、本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」には、賦形剤を配合することができる。賦形剤としては、澱粉、デキストリン、糖類等が挙げられ、これらの1種または2種以上を配合することができる。また、賦形剤としては、デキストリンの1種であるサイクロデキストリンを使用するのが好ましい。
本発明の固体抗ウイルス剤組成物中の賦形剤の含有量は、0質量%以上60質量%以下であることが好ましく、0質量%以上55質量%以下であることがより好ましく、0質量%以上50質量%以下であることがさらに好ましい。
また、本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」を、水又は濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させて、「液体抗ウイルス剤組成物」とすることもできる。この場合、前記液体抗ウイルス剤組成物中の界面活性剤の含有量は、0.01質量%以上5質量%以下、好ましくは0.05質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上0.3質量%以下である。
【0043】
また、本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」又は「固体抗ウイルス剤組成物」において、本発明の所望の効果に影響を与えない範囲で、防腐剤、着色料、酵素、殺菌剤、抗ウイルス剤、キレート剤、消臭剤、漂白剤、撥水剤、無機酸塩、上述した以外のpH調整剤、上述した以外の界面活性剤、増粘剤、ゲル化剤、成形性向上剤、緩衝剤、消泡剤、滑沢剤、コーティング剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0044】
本発明の「抗ウイルス剤組成物」は、ノン・低アルコールタイプであるにも関わらず、十分な抗ウイルス効果を有する。ここで、十分な抗ウイルス効果とは、ネコカリシウイルスに対し対数減少値(LR)2.0以上の抗ウイルス効果を有することを意味する。微生物やウイルスを用いた試験は試験誤差が大きいが一般的に対数減少値LR2.0以上(ウイルスが99%以上減少)であれば有意に効果があると考えられることから評価基準として用いられる。また、より高い抗ウイルス効果を有する抗ウイルス組成物では対数減少値LR3.0以上(ウイルスが99.9%以上減少)となる。食品製造施設など、一般的な居住環境に比べてより高度に衛生的な環境を維持する必要がある場面では、対数減少値LR3.0以上が好ましいといわれている。
例えば、本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」は、これを被検体に接触させた際に、ネコカリシウイルスの対数減少値(LR)2.0以上の抗ウイルス効果を持ち、好ましくは3.0以上の抗ウイルス効果を持つ。また、本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」は、これを水もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させた場合、溶解させたものを被検体に接触させた際に、ネコカリシウイルスの対数減少値(LR)2.0以上の抗ウイルス効果をもち、好ましくは3.0以上の抗ウイルス効果をもつ。
【0045】
また、本発明の「抗ウイルス剤組成物」は、ノン・低アルコールタイプであるにも関わらず、環境表面や皮膚表面等に対して使用した場合に十分な濡れ性(液の広がり性)を有する。ここで十分な濡れ性(液の広がり性)とは、懸滴法等により測定した表面張力が40mN/m以下であることを意味する。表面張力が40mN/m以下である場合、一般的な環境表面および皮膚表面の上で十分な濡れ性(液の広がり性)を有し、塗り広げる等の操作における使用感が高いこと、および使用対象の表面上で液滴がはじかれることがなく、傷や凹凸等に対しても液がいきわたることにより十分な抗ウイルス効果を発揮することが考えられる。
本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」は、懸滴法により測定した表面張力が40mN/m以下であり、十分な濡れ性(液の広がり性)を有する。また、本発明の「固体抗ウイルス剤組成物」は、これを水もしくは濃度が10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させた場合、懸滴法により測定した表面張力が40mN/m以下であり、十分な濡れ性(液の広がり性)を有する。
【0046】
ところで、以上述べたように、本発明の「液体抗ウイルス剤組成物」を被検体に接触させると、ノン・低アルコールタイプであるにも関わらず、十分な抗ウイルス効果を発揮する「抗ウイルス用基材」にも関する。このような抗ウイルス用基材の態様としては、例えば、おしぼり、ウェットテッシュ、ウェットシート等が挙げられる。
また、抗ウイルス用基材は基材と液体抗ウイルス剤組成物とからなり、液体抗ウイルス剤組成物の割合は、基材の質量に対して、100質量%以上とすることが好ましく、200質量%以上とすることが更に好ましく、500質量%以下とすることが好ましく、400質量%以下とすることが更に好ましい。
さらに、基材としては、例えば、不織布、織布、編み物地等が挙げられる。基材として不織布を用いる場合、スパンレース不織布、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、エアスルー不織布、レジンボンド不織布、ニードルパンチ不織布などを用いることができる。また、これらの不織布の複合体を用いても良い。
【0047】
本発明の液体抗ウイルス剤組成物、又は本発明の固体抗ウイルス剤組成物を水又は濃度10質量%以下のアルコール含有水溶液に溶解させた液体抗ウイルス剤組成物は、直接、環境表面、手や肌に付けて抗ウイルス処理することができる。すなわち、本発明は、液体抗ウイルス剤組成物を用いた環境表面、手、又は肌指の抗ウイルス処理方法を提供する。ここで、「環境表面」とは、抗ウイルス剤組成物を適用する環境にある表面のすべてを意味し、例えば、テーブルや机の表面を意味する。
また、環境表面、手や肌を、上述した液体抗ウイルス剤組成物を含侵させた抗ウイルス用基材で拭くことで、環境表面、手や肌に対し抗ウイルス処理をすることができる。すなわち、本発明は、液体抗ウイルス剤組成物を含侵させた抗ウイルス用基材を用いた、環境表面、手、又は肌の抗ウイルス方法を提供する。
【実施例0048】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。また、以下において「%」とは、特別な記載がない場合、質量%を示す。
【0049】
<原料>
〔コハク酸〕:扶桑化学工業株式会社製、商品名:コハク酸
〔フマル酸〕:扶桑化学工業株式会社製、商品名:フマル酸
〔クエン酸〕:富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:くえん酸(和光特級)
〔酢酸〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:酢酸(和光一級)
〔アジピン酸〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:アジピン酸(和光特級)
〔酒石酸〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:DL-酒石酸(和光特級)
〔リンゴ酸〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:DL-リンゴ酸(和光特級)
〔コハク酸二ナトリウム〕:富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:こはく酸二ナトリウム(和光特級)
〔フマル酸二ナトリウム〕:富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:フマル酸二ナトリウム
〔クエン酸三ナトリウム〕:富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:くえん酸三ナトリウム(和光特級)
〔酢酸ナトリウム〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:酢酸ナトリウム(試薬特級)
〔酒石酸ナトリウム〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:(+)-酒石酸ナトリウム二水和物(試薬特級)
〔リンゴ酸ナトリウム〕純正化学株式会社製、商品名:DL-りんご酸二ナトリウム三水和物(純正特級)
〔グルコン酸ナトリウム〕扶桑化学工業株式会社製、商品名:ヘルシャスA
〔ポリグリセリン脂肪酸エステル〕:太陽化学株式会社製、商品名:サンソフトM-12J
〔ショ糖脂肪酸エステル〕:三菱ケミカル株式会社製、商品名:リョ―トーシュガーエステルL-1695
〔サイクロデキストリン〕:塩水港製糖株式会社製、商品名:イソエリートP
〔ポリソルベート1〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:ポリソルベート80, 植物由来
〔ポリソルベート2〕富士フイルム和光純薬株式会社製、商品名:ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート
〔ラウリルグリコシド〕:花王株式会社製、商品名:マイドール 12(有効成分濃度40%)
〔ポリオキシエチレンアルキルエーテル1〕:青木油脂工業株式会社製、商品名:ブラウノンEL1512P
〔ポリオキシエチレンアルキルエーテル2〕:青木油脂工業株式会社製、商品名:ブラウノンEL1521
〔ブドウ種子抽出物〕:キッコーマンバイオケミファ株式会社製、商品名:グラヴィノールSE、プロアントシアニジン含有量=86.5質量%
〔リンゴ抽出物〕:BGGJapan株式会社製、商品名:ApplePhenonアップルプロシアニジン、プロアントシアニジン含有量=20.7質量%
〔ピーナッツ種皮抽出物〕:株式会社常磐薬品植物化学研究所製、商品名:ピーナツ種皮エキス末、プロアントシアニジン含有量=38.8質量%
【0050】
<成分溶解性>
図1~
図4、
図9に示す液体抗ウイルス剤組成物を調製したときに目視で確認した結果、プロアントシアニジンを含有する物質および界面活性剤の沈殿が生じることなく溶解したものを○とし、それ以外のものを×とした。
また、
図5~
図8、
図10に示す固体抗ウイルス剤組成物から液体抗ウイルス剤組成物を調製したしたときに目視で確認した結果、プロアントシアニジンを含有する物質および界面活性剤の沈殿が生じることなく溶解したものを○とし、それ以外のものを×とした。
【0051】
<固体抗ウイルス剤組成物の溶解性>
図5~
図8、
図10に示す固体抗ウイルス剤組成物を溶媒に添加後、マグネチックスターラーで撹拌をし、完全に溶解するまでの時間が10分以内であった場合を〇とし、10分より長くかかった場合を×とした。
【0052】
<濡れ性(液の広がり性)>
図1~
図4、
図9に示す液体抗ウイルス剤組成物および
図5~
図8、
図10に示す固体抗ウイルス剤組成物から液体抗ウイルス剤組成物を調製したものについて、懸滴法による表面張力測定を行った。懸滴が静止した状態で測定開始し、測定開始から2秒後の表面張力を記録した。5回の記録の平均値を測定結果とした。表面張力が40mN/m以下の場合○評価、41~60mN/mの場合△評価、61mN/m以上の場合×評価とした。一般的な環境表面および皮膚を対象とした抗ウイルス剤は十分な抗ウイルス効果を発揮し、高い使用感を得るためにある程度の濡れ性(液の広がり性)を有することが求められる。液体の濡れ性は固体表面に対する接触角および表面張力により判断することができ、接触角が小さい場合または表面張力が低い場合に濡れ性(液の広がり性)が高い。本発明においては表面張力を指標とし、40mN/m以下であることが好ましいとした。
【0053】
<抗ウイルス効果測定方法>
ネコカリシウイルス(FCV、ATCC:VR―782)を5%(w/v)の血清を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium)で培養したCRFK細胞(ネコ腎由来株化細胞、ATCC:CCL―94)に接種後、細胞変性効果(Cytopathic effect:CPE)が見られるまで培養し、遠心分離後の培養液の上清をウイルス液とした。
図1~
図4、
図9に示す液体抗ウイルス剤組成物および
図5~
図8、
図10に示す固体抗ウイルス剤組成物から液体抗ウイルス剤組成物を調製したものを試験液とし、試験液とウイルス液が9:1の比になるように混合、攪拌して処理を行った。処理開始から60秒経過後、処理液をDMEMで10倍段階希釈することにより試験液の作用を停止させるとともに希釈系列を作製した。CRFK細胞を単層培養した96wellマイクロプレートの培地を除去し、作製した希釈系列を100μLずつ加え、37℃5%CO
2の条件で5日間培養を行った。培養したCRFK細胞のCPEを指標にReed―Muench法を用いて感染価(TCID50:Tissue Culture Infectious Dose 50%)を算出した。対照として、試験液の代わりに滅菌したリン酸緩衝生理食塩水を用いて処理を行い、対照の感染価と各試験液で処理した場合の感染価の対数値差を対数減少値(LR)とした。抗ウイルス効果の評価として対数減少値(LR)3以上のとき+++、3未満2以上のとき++、2未満0より大きいとき+、0のとき-とした。
【0054】
[実施例]
(1)液体抗ウイルス剤組成物
図1~4、
図9に示す配合で液体抗ウイルス剤組成物(実施例1~19、実施例35~38、比較例1~16、比較例33)を調製した。なお、図に表示された原料以外の残部には、水もしくは9質量%エタノール水溶液を用いた。
具体的には、水もしくは9質量%エタノール水溶液に各種原料を添加後、マグネチックスターラーで撹拌して原料を溶解し、液体抗ウイルス剤組成物を調製した。調製時の成分溶解性について、上述した評価方法で評価をした。
また、得られた液体抗ウイルス剤組成物について、pHを測定し、濡れ性(液の広がり性)を評価した。
さらに、上述した抗ウイルス効果測定方法により、ネコカリシウイルスについて対数減少値(LR)を求め、抗ウイルス効果を評価した。これらの結果を
図1~
図4、
図9にまとめた。
【0055】
本発明の液体抗ウイルス剤組成物について評価を行ったところ、プロアントシアニジンの含有量が、0.0005質量%以上5質量%以下であり、界面活性剤が、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤であり、該界面活性剤の含有量が、0.01質量%以上3質量%以下である場合に、ネコカリシウイルスにおいて、対数減少値(LR)が2.0以上、すなわち、十分な抗ウイルス効果を発揮できることがわかった。
さらに、溶媒として水を使用した場合には、特定の有機酸を0.01質量%以上1.0質量%以下加えた場合や、特定の有機酸0.01質量%以上1.0質量%以下及び有機酸塩0.01質量%以上1質量%以下を加えた場合に、さらに抗ウイルス効果は増強され、ネコカリシウイルスにおいて、対数減少値(LR)が3.0以上となることがわかった。
また、実施例37、41の結果からは、溶媒として9質量%エタノール水溶液を使用した場合には、溶媒に水を使用した場合とは違って、特定の有機酸や有機酸塩を加えなくても、抗ウイルス効果が増強され、ネコカリシウイルスにおいて、対数減少値(LR)が3.0以上となることがわかった。
【0056】
他方、界面活性剤を加えず、有機酸や有機酸塩のみを加えた場合は、溶解性や抗ウイルス効果は良いが、濡れ性(液の広がり性)が悪く、抗ウイルス剤組成物として使用に堪えないことがわかった(比較例1~4)。また、濡れ性を高めるために、界面活性剤を加えるとしても、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤でない界面活性剤を加えると、ブドウ種子抽出物中のプロアントシアニジンが抗ウイルス効果を十分に発揮しなくなった。例えば、ポリソルベート1の場合は、濡れ性はやや改善したものの、溶解性が悪くなり、抗ウイルス効果が悪くなった(比較例7、8)。また、ポリソルベート2、ポリオキシエチレンアルキルエーテル1、ポリグリセリン脂肪酸エステルの場合は、濡れ性は改善したものの、溶解性が悪くなり、抗ウイルス効果も悪くなった(比較例9~12)。さらに、ポリオキシエチレンアルキルエーテル2の場合は、濡れ性はやや改善され、溶解性も改善されたが、抗ウイルス効果は悪くなった(比較例13、14)。
このように、プロアントシアニジンを含有する物質、及び界面活性剤を配合した液体抗ウイルス剤組成物を調製する場合には、プロアントシアニジンの抗ウイルス効果を十分に発揮させるために、界面活性剤には、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤を用いる必要があることが、本発明によってはじめて判明した。
【0057】
(2)固体抗ウイルス剤組成物
図5~8、
図10に示す配合で、固体抗ウイルス剤組成物(実施例20~34、実施例39~42、比較例17~32)を調製した。賦形剤として、サイクロデキストリンを用いた。
具体的には、乳鉢に各種原料を添加後、成分が均一になるように混合し、固体抗ウイルス剤組成物を調製した。固体抗ウイルス剤組成物の調製において、粉末状になった配合のものは、固体製剤化評価を○とした。他方、粉末状にならず、液体のものは固体製剤化評価を×とした。そして、×評価の配合のものは、それ以降の試験・評価は行わなかった。
また、固体製剤化評価が○であった固体抗ウイルス剤組成物については、プロアントシアニジンの含有量が、0.0005質量%以上5質量%以下で、かつ、非イオン界面活性剤の含有量が0.01質量%以上3質量%以下となるように溶媒を添加後、マグネチックスターラーで撹拌して溶解し、液体抗ウイルス剤組成物を調製した。調製時の成分溶解性、及び固体抗ウイルス剤組成物の溶解速度について、上述した評価方法で評価をした。
また、得られた液体抗ウイルス剤組成物について、pHを測定し、濡れ性(液の広がり性)を評価した。
さらに、上述した抗ウイルス効果測定方法により、ネコカリシウイルスについて対数減少値(LR)を求め、抗ウイルス効果を評価した。これらの結果を
図5~
図8、
図10にまとめた。
【0058】
図5~
図8、
図10の結果から明らかであるように、本発明の固体抗ウイルス剤組成物は、プロアントシアニジンの含有量が、0.0005質量%以上5質量%以下で、かつ、非イオン界面活性剤の含有量が0.01質量%以上3質量%以下となるように溶媒を添加して溶解し、得られた液体抗ウイルス剤組成物のpHが、2.0以上8.0以下である場合に、ネコカリシウイルスの感染価において、対数減少値(LR)が2.0以上となることがわかった。さらに、特定の有機酸を1質量%以上95質量%以下加えた場合や、特定の有機酸を1質量%以上95質量%以下加え、かつ、特定の有機酸塩1質量%以上95質量%以下を加えた場合には、さらに抗ウイルス効果は増強され、ネコカリシウイルスにおいて、対数減少値(LR)が3.0以上となることがわかった。
【0059】
他方、界面活性剤を加えず、有機酸や有機酸塩のみを加えた場合は、溶解性や抗ウイルス効果は良いが、濡れ性(液の広がり性)が悪く、抗ウイルス剤組成物として使用に堪えないことがわかった。また、プロアントシアニジンを含有する物質を加えない組成では、界面活性剤を加えても、抗ウイルス効果は発揮しないことがわかった。また、濡れ性を高めるために、界面活性剤を加えるとしても、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤ではない界面活性剤を加えると、プロアントシアニジンが抗ウイルス効果を十分に発揮しなくなった。例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルの場合は、濡れ性は十分であったものの、溶解性が低下し、抗ウイルス効果も悪くなった(比較例31~32)。
このように、プロアントシアニジンを含有するブドウ種子抽出物、及び界面活性剤を配合した固体抗ウイルス剤組成物を調製する場合には、プロアントシアニジンの抗ウイルス効果を十分に発揮させるために、界面活性剤には、構造中にポリオキシエチレン鎖、及びポリグリセリン骨格を有さない非イオン界面活性剤を用いる必要があることが、本発明によってはじめて判明した。