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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024851
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】リグニン由来の発光材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 97/00 20060101AFI20240216BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240216BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240216BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C08L97/00
C08K3/013
C08K3/34
C09K11/06
C09K11/06 680
【審査請求】未請求
【請求項の数】26
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127785
(22)【出願日】2022-08-10
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「植物をきれいに使って還す~植物循環型利用」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人イイダアンドパートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100141771
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 宏和
(72)【発明者】
【氏名】敷中 一洋
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AH001
4J002DE076
4J002DE146
4J002DE236
4J002DE286
4J002DJ006
4J002DJ016
4J002FD206
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】リグニン由来の発光材料を製造できる、リグニンの処理方法を提供する。
【解決手段】リグニンを無機粒子で処理する、リグニンの処理方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リグニンを無機粒子で処理する、リグニンの処理方法。
【請求項2】
前記リグニンは脱色処理が施されている、請求項1に記載のリグニンの処理方法。
【請求項3】
前記リグニンは糖化処理が施されている、請求項1又は2に記載のリグニンの処理方法。
【請求項4】
前記無機粒子が膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子である、請求項1又は2に記載のリグニンの処理方法。
【請求項5】
前記無機粒子の粒径が10nm以上100nm以下である、請求項1又は2に記載のリグニンの処理方法。
【請求項6】
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、請求項1に記載のリグニンの処理方法。
【請求項7】
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理と乾燥処理を行い、得られた乾燥粉体に対して熱プレス処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、請求項1に記載のリグニンの処理方法。
【請求項8】
前記リグニン前記無機粒子を重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5で混合する、請求項6又は7に記載のリグニンの処理方法。
【請求項9】
リグニンを無機粒子で処理し、リグニンを含む発光材料を得る、発光材料の製造方法。
【請求項10】
前記リグニンは脱色処理が施されている、請求項9に記載の発光材料の製造方法。
【請求項11】
前記リグニンは糖化処理が施されている、請求項9又は10に記載の発光材料の製造方法。
【請求項12】
前記無機粒子が膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子である、請求項9又は10に記載の発光材料の製造方法。
【請求項13】
前記無機粒子の粒径が10nm以上100nm以下である、請求項9又は10に記載の発光材料の製造方法。
【請求項14】
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、請求項9に記載の発光材料の製造方法。
【請求項15】
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理と乾燥処理を行い、得られた乾燥粉体に対して熱プレス処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、請求項9に記載の発光材料の製造方法。
【請求項16】
前記リグニン前記無機粒子を重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5で混合する、請求項14又は15に記載の発光材料の製造方法。
【請求項17】
前記発光材料が、紫外光を照射することにより紫外光を吸収して発光する材料である、請求項9~16のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
【請求項18】
無機粒子で処理されているリグニンを含有する発光材料。
【請求項19】
前記リグニンは脱色処理が施されている、請求項18に記載の発光材料。
【請求項20】
前記リグニンは糖化処理が施されている、請求項18又は19に記載の発光材料。
【請求項21】
前記無機粒子が膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子である、請求項18又は19に記載の発光材料。
【請求項22】
前記無機粒子の粒径が10nm以上100nm以下である、請求項18又は19に記載の発光材料。
【請求項23】
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理を行うことで、前記リグニンが無機粒子で処理されている、請求項18に記載の発光材料。
【請求項24】
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理と乾燥処理を行い、得られた乾燥粉体に対して熱プレス処理を行うことで、前記リグニンが無機粒子で処理されている、請求項18に記載の発光材料。
【請求項25】
前記分散液において、前記リグニン前記無機粒子を重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5で混合されている、請求項23又は24に記載の発光材料。
【請求項26】
外光を照射することにより紫外光を吸収して発光する材料である、請求項18又は19に記載の発光材料。





【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグニン由来の発光材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材の90%以上は細胞壁成分で構成され、細胞壁は主成分として、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されている。前記主成分のうちリグニンは、木材中に通常20~30%程度存在し、細胞膜同士を接着して中間層を構成する。また木材中のリグニンの一部は、細胞膜にも存在する。
リグニンは、ヒドロキシフェニルプロパンを基本単位とし、縮合して生成した高分子化合物である。リグニンはπ共役が連なっており、芳香族の主鎖構造と有機ラジカルとなり得るフェノール性水酸基を有する。このような構造を有するリグニンは、耐熱フィラー、紫外線吸収剤、抗酸化剤としての機能を有し、エンジニアリングプラスチックなど高機能樹脂素材としての利用が期待される。また、リグニンなどの植物由来の高分子化合物は、環境循環型素材としての機能も期待される。
【0003】
しかし、一般的なリグニンは、茶色ないし黒色に着色している。そのため、リグニンが添加される媒体の色変化を引き起こしたり、リグニンが添加された媒体の光透過性が低いなどの理由から、リグニンの用途は限定されている。
そのため、リグニンを材料用途への展開を拡大させる観点から、本発明者らは、着色しているリグニンの脱色方法を開発し、公開している(特許文献1及び2参照)。さらに、紫外光を吸収し発光を示すリグニン由来素材が研究されており(非特許文献1参照)、紫外線センサや誘起発光素材などへの用途が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-017582号公報
【特許文献2】特開2022-103080号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ACS Sustainable Chem. Eng., 2018, vol. 6, No. 3, p. 3169-3175
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、リグニンは機能性物質として期待されており、茶色ないし黒色を呈しているリグニンを脱色することで、リグニンを各種用途に適用することが可能となる。このような脱色リグニンを発光させることができれば、リグニンを適用できる装置や物品の種類・範囲が拡大し、紫外線センサや誘起発光素材などとしての有用性を高めることができる。
そこで本発明は、リグニン由来の発光材料を製造できる、リグニンの処理方法と、発光材料の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み、検討を行った。その結果、ケイ酸塩などの無機物質の粒子でリグニンを処理することで、リグニンを発光させることができ、リグニン由来の発光材料を製造できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0008】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
(1)
リグニンを無機粒子で処理する、リグニンの処理方法。
(2)
前記リグニンは脱色処理が施されている、前記(1)項に記載のリグニンの処理方法。
(3)
前記リグニンは糖化処理が施されている、前記(1)又は(2)項に記載のリグニンの処理方法。
(4)
前記無機粒子が膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子である、前記(1)~(3)のいずれか1項に記載のリグニンの処理方法。
(5)
前記無機粒子の粒径が10nm以上100nm以下である、前記(1)~(4)のいずれか1項に記載のリグニンの処理方法。
(6)
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載のリグニンの処理方法。
(7)
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理と乾燥処理を行い、得られた乾燥粉体に対して熱プレス処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、前記(1)~(5)のいずれか1項に記載のリグニンの処理方法。
(8)
前記リグニン前記無機粒子を重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5で混合する、前記(6)又は(7)項に記載のリグニンの処理方法。
【0009】
(9)
リグニンを無機粒子で処理し、リグニンを含む発光材料を得る、発光材料の製造方法。
(10)
前記リグニンは脱色処理が施されている、前記(9)項に記載の発光材料の製造方法。
(11)
前記リグニンは糖化処理が施されている、前記(9)又は(10)項に記載の発光材料の製造方法。
(12)
前記無機粒子が膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子である、前記(9)~(11)のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
(13)
前記無機粒子の粒径が10nm以上100nm以下である、前記(9)~(12)のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
(14)
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、前記(9)~(13)のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
(15)
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理と乾燥処理を行い、得られた乾燥粉体に対して熱プレス処理を行うことで、リグニンを無機粒子で処理する、前記(9)~(13)のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
(16)
前記リグニン前記無機粒子を重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5で混合する、前記(14)又は(15)項に記載の発光材料の製造方法。
(17)
前記発光材料が、紫外光を照射することにより紫外光を吸収して発光する材料である、前記(9)~(16)のいずれか1項に記載の発光材料の製造方法。
【0010】
(18)
無機粒子で処理されているリグニンを含有する発光材料。
(19)
前記リグニンは脱色処理が施されている、前記(18)項に記載の発光材料。
(20)
前記リグニンは糖化処理が施されている、前記(18)又は(19)項に記載の発光材料。
(21)
前記無機粒子が膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子である、前記(18)~(20)のいずれか1項に記載の発光材料。
(22)
前記無機粒子の粒径が10nm以上100nm以下である、前記(18)~(21)のいずれか1項に記載の発光材料。
(23)
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理を行うことで、前記リグニンが無機粒子で処理されている、前記(18)~(22)のいずれか1項に記載の発光材料。
(24)
前記リグニンと前記無機粒子を溶媒中で混合して分散液を調製し、超音波拡散による分散液の均質化処理と乾燥処理を行い、得られた乾燥粉体に対して熱プレス処理を行うことで、前記リグニンが無機粒子で処理されている、前記(18)~(22)のいずれか1項に記載の発光材料。
(25)
前記分散液において、前記リグニン前記無機粒子を重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5で混合されている、前記(23)又は(24)項に記載の発光材料。
(26)
外光を照射することにより紫外光を吸収して発光する材料である、前記(18)~(25)のいずれか1項に記載の発光材料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、リグニン由来の発光材料を製造できる。本発明により得ることができるリグニンを含有する発光材料は、機能性物質として、樹脂組成物、高分子素材、コーティング材、化粧料組成物、自動車部材、建材、接着剤、耐熱性フィラー等の各種媒体に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1(A)は、実施例1で調製した白色リグニンエタノール分散液を撮像した図面代用写真であり、図1(B)は、UV光照射前の白色リグニンエタノール分散液の発光挙動を示す図面代用写真であり、図1(C)は、UV光照射後の白色リグニンエタノール分散液の発光挙動を示す図面代用写真である。
図2図2(A)は、UV光照射前の白色リグニンの粉末と熱溶融物の発光挙動を示す図面代用写真であり、図2(B)は、UV光照射後の白色リグニンの粉末と熱溶融物の発光挙動を示す図面代用写真である。
図3図3(A)は、異なる濃度条件における白色リグニンエタノール分散液の蛍光スペクトルであり、図3(B)は、異なる励起波長条件における白色リグニンエタノール分散液の蛍光スペクトルである。
図4】白色リグニンエタノール溶液の紫外可視吸収スペクトルである。
図5図5(A)は、実施例2で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末を撮像した図面代用写真であり、図5(B)は、UV光照射前の白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末の発光挙動を示す図面代用写真であり、図5(C)は、UV光照射後の白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末の発光挙動を示す図面代用写真である。
図6図6(A)は、熱処理履歴の異なる白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末のUV光照射前の発光挙動を示す図面代用写真であり、図6(B)は、熱処理履歴の異なる白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末のUV光照射後の発光挙動を示す図面代用写真である。
図7図7(A)は、実施例4で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末のUV光照射前の発光挙動を示す図面代用写真であり、図7(B)は、実施例4で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末のUV光照射後の発光挙動を示す図面代用写真である。
図8図8(A)は、実施例4及び5で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末のUV光照射前の発光挙動を示す図面代用写真であり、図8(B)は、実施例4及び5で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末のUV光照射後の発光挙動を示す図面代用写真である。
図9】実施例4及び5で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト複合粉末のX線回折挙動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、リグニンを含む発光材料を得るために、リグニンを所定量の無機粒子で処理する。以下、本発明について好ましい態様に基づいて説明する。しかし本発明は、これらに制限するものではない。
【0014】
本発明の処理対象であるリグニンは、植物の細胞壁や細胞膜に存在する高分子化合物である。リグニンは、ヒドロキシフェニルプロパンを基本単位として構成される。リグニンは、針葉樹、広葉樹、イネ科植物などの植物種により、その構成単位である置換芳香族物質の種類や組成を異にする。本発明で処理対象として用いるリグニンは、リグニンを含むものであれば、いずれの植物から得られたものであってもよい。
また本発明で処理対象は、リグニンを含有すれば特に制限されず、セルロースやヘミセルロースなど、細胞壁や細胞膜を構成する成分が含まれていてもよい。
【0015】
無機粒子で処理することでリグニンが発光する理由(メカニズム)は明らかではない。しかし、リグニンが無機粒子に分散することでリグニン内ヘキシル基の結晶化が抑制されリグニンが均一に分散し、修飾されたヘキシル基に分子内回転・振動が抑制され分子の運動性が低下し放射失活が優位になり蛍光強度が増強したグアイアシル基・シリンギル基などから成るリグニン芳香族主鎖がUV光を吸収して発光すると考えられる。
【0016】
本発明の方法において、無機粒子で処理する出発物質として、市販のリグニンを用いてもよいし、リグニンを含む植物ないし植物処理物を用いてもよい。
【0017】
リグニンを含む植物については、常法に従いリグニン量を定量し、リグニンを含む植物原料を使用することができる。あるいは、坂志朗ら著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志朗監修, 第1章『バイオマスの分類と化学組成』などを参照し、リグニンを含む植物原料を適宜選択し、本発明で用いることもできる。本発明で用いることができる、リグニンを含む植物の具体例としては、スギ、ブナ、マツ属植物、バルサ、オオフサモ、モウソウチク、イネ(好ましくは、イネワラ、籾殻)、パンコムギ、トウモロコシ、エリアンサス、ミスカンサス、サトウキビ(好ましくは、バガス(Bagasse、サトウキビ搾汁後の残渣)、ヨシ、ジャイアントリード、アブラヤシ、ニッパヤシ、サトウヤシ、ホテイアオイ、センニンモ、オオカナダモ、クロモ、コナカダモ、アカモク、ホンダワラ、アオサ、イチイジタ、ウミブドウ、及びキリンサイ属植物が挙げられる。このうち、スギ、ブナ、マツ属植物、バルサ、モウソウチク、イネ、パンコムギ、トウモロコシ、エリアンサス、ミスカンサス、サトウキビ、ヨシ、ジャイアントリード、アブラヤシ、ニッパヤシ、サトウヤシは、リグニンの含有量が多く、本発明で好ましく用いることができる。
本発明で用いる植物の原料としては、前記植物の任意の部分が使用可能であり、全草、根、塊根、根茎、幹、枝、茎、葉(葉身、葉柄等)、樹皮、樹液、樹脂、花(花弁、子房等)、果実、種子等を用いることができる。また、これらの部位を複数組み合わせて用いてもよい。これらの部位のうち、前記植物の根茎、幹、枝、茎、葉(葉身、葉柄等)、樹皮を用いることが好ましい。
【0018】
本発明において、前述の植物をそのまま用いてもよいし、所定の処理を前記植物に施した植物処理物を用いてもよい。所定の処理を前記植物に施すことで、植物原料に含まれるリグニンの量を高めることができる。
前記植物に施す処理としては、坂志朗ら著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志朗監修, 第1章『バイオマスの分類と化学組成』を参考に、本発明の効果を損なわない範囲で適宜選択することができる。例えば、チッパー処理、乾式粉砕処理、湿式粉砕処理、磨砕処理、糖化処理、発酵処理、蒸解処理、爆砕処理、亜臨界水処理、イオン液体による分解処理、酸処理、塩基処理及びマイクロ波処理が挙げられる。本発明で用いるリグニンは、セルラーゼなどを用いた糖化処理(単糖化処理ないし低糖化処理)が施されていることが好ましい。
【0019】
リグニンは、芳香族化合物残基の骨格内で、フェノール性水酸基のパラ位のビニル基が電子共役を失っているため、紫外線発色団を有すると言われている(Green Chem., 2016, vol. 18, p. 1175-1200;高部圭司著(2013)『リグニン利用の最新動向』坂志郎監修, 第2章『バイオマス細胞でのリグニン分布と構造の多様性』など参照)。リグニンにこのような紫外線発色団が存在するため、茶色ないし黒色に着色していると推察される。
本発明により得ることができるリグニンを含有する発光材料は、機能性物質として、樹脂組成物、高分子素材、コーティング材、化粧料組成物、自動車部材、建材、接着剤、耐熱性フィラー等の各種媒体に適用することが好ましい。本発明により得られる発光材料を各種媒体に適用することを考慮すると、茶色ないし黒色に着色しているリグニンは脱色処理が施されていることが好ましい。
リグニンを脱色する方法に特に制限はなく、特開2021-017582号公報や特開2022-103080号公報に記載の方法を参照することができる。
【0020】
本発明で用いる無機粒子としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、アルミナ水和物、炭酸塩、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム・酸化アルミニウム固溶体、ハイドロタルサイト、及びヒドロキシアパタイトからなるより選ばれる少なくとも1種の無機物質からなる粒子であることが好ましい。本発明で用いる無機粒子は、1種類のみであってもよく、2種類以上を混合して用いてもよい。
このうち、ケイ酸塩、コロイダルシリカ、及びアルミナ水和物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物質からなる粒子が好ましく、ケイ酸塩からなる粒子がより好ましい。ケイ酸塩からなる粒子の中でも、膨潤性層状ケイ酸塩からなる粒子が特に好ましい。
【0021】
本発明で用いることができる「ケイ酸塩」とは、1個又は数個のケイ素原子を中心とし、電気陰性な配位子がこれを取り囲んだ構造を持つアニオンを含む化合物を指す。大多数のケイ酸塩では、ケイ素原子は4個の酸素原子によって囲まれた四面体構造をとる。ケイ酸塩の種類によって、この四面体が連なる度合いが異なり、四面体が連なる方式によって、対、クラスター、環状、鎖状、二本鎖状、層状、3次元網目状など構造は多岐にわたる。
前記ケイ酸塩のうち、本発明において特に好ましく用いることができる「膨潤性層状ケイ酸塩」とは、水膨潤性を示し、かつ、二次元的な単位層が多数積層した層構造を有し、その層構造が少なくともケイ素原子と電気的に陰性な配位子とから構成される化合物を指す。層状ケイ酸塩は、四面体シート及び/若しくは八面体シートの単独層、又はこれらの混合シートを有してもよい。四面体シートは標準元素としてケイ素イオン(Si4+)を4つの酸素イオン(O2-)が囲んだ構造をとり、3つの頂点を隣の四面体と共有しその構造がヘキサゴナルネットワークをとり、シート状に連なっている。八面体シートはマグネシウムイオン(Mg2+)、またはアルミニウムイオン(Al3+)を6つの酸素イオン(O2-)、または水酸化物イオン(OH-)が囲んだ八面体が稜を共有して2次元的に広がったものである。四面体シートと八面体シートと組み合うときは四面体シートの頂点の酸素イオンが共有される。さらに四面体シートでは一部がアルミニウムイオン、八面体シートでは一部がアルミニウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン(Fe2+、Fe3+)、あるいはリチウムイオン(Li+)などに同型置換されることにより、負電荷が発生する。あるいは、四面体シート及び八面体シートの一部に空隙が存在することによっても、負電荷が発生する。これらの負電荷を中和する形で、層間に陽イオンが存在する。
膨潤性層状ケイ酸塩は、膨潤性、増粘性、チクソトロピー性、陽イオン交換性など、様々な特性を有している。さらに、膨潤性層状ケイ酸塩は無機物質であるため、微生物による分解や変質作用をほとんど受けず、人体にも優しい素材である。さらに、本発明で用いることができる層状ケイ酸塩は水膨潤性を有するため、懸濁液中であっても自然沈降しにくい。従って、均一分散性に優れ、リグニンの均一な分散状態を長時間安定的に保持できる。
【0022】
本発明で用いることができる膨潤性層状ケイ酸塩は、スメクタイト族に属する鉱物由来であることが好ましい。スメクタイト族に属する鉱物は、2:1型の層構造を有している。スメクタイトの一次粒子は厚さ1nmであり、広がりが20nm~2μmの板状結晶である。前述のように、水分散液中では、スメクタイトの結晶層自体が有する永久負電荷を補う形で、ナトリウムイオンなどの陽イオンが結晶層に取り込まれる(「粘土ハンドブック」、第三版、日本粘土学会編、2009年5月、p.65参照)。
本発明で用いることができる膨潤性層状ケイ酸塩の具体例として、モンモリロナイト、ヘクトライト、スティーブンサイト、サポナイト、バイデライト、ノントライト、ソーコナイト及び膨潤性マイカが挙げられる。
【0023】
本発明で用いることができる膨潤性層状ケイ酸塩は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の陽イオン交換容量を有してよい。膨潤性層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量は、10meq/100g以上が好ましく、30meq/100g以上がより好ましい。好適な範囲の陽イオン交換容量は、タンパク質(血清成分)の吸着に好適な負電荷を膨潤性層状ケイ酸塩に付与する。本発明で用いることができる膨潤性層状ケイ酸塩は、優れた膨潤性と分散安定性を実現する観点から、ナトリウムなどの1価の陽イオン型のケイ酸塩が好ましく、優れた膨潤性と分散安定性を実現する観点から、ナトリウムなどの1価の陽イオン型の膨潤性層状ケイ酸塩がより好ましい。なお、膨潤性層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量の測定方法は、Schollenberger法(粘土ハンドブック第三版、日本粘土学会編、2009年5月、p.453-454)に準じた方法で測定することができる。より具体的には、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法で測定することができる。例えば、モンモリロナイトの浸出陽イオン量は、モンモリロナイトの層間陽イオンをモンモリロナイト0.5gに対して100mLの1M酢酸アンモニウム水溶液を用いて4時間以上かけて浸出させ、得られた溶液中の各種陽イオンの濃度を、ICP発光分析や原子吸光分析等により測定し、算出することができる。また、本発明で用いることができる膨潤性層状ケイ酸塩の陽イオン交換容量の上限値に特に制限はないが、120meq/100g以下が実際的である。
【0024】
本発明で用いる無機粒子の粒径は測定条件などにより異なるが、水を分散媒とした粒度分布測定により決定するのが一般的であり、本発明の効果を損なわない範囲で任意に設定できる。無機粒子のメディアン径は、効率よくリグニンを均一に分散させる観点から、10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましく、100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。本発明で用いる無機粒子は、粉砕など常法により粒径を所望の範囲に調整することができる。例えば乾式粉砕などのジェットミル、湿式粉砕などのビーズミル、加圧湿式粉砕装置などを適宜用いて、市販の無機粒子の粒径をさらに小さくすることができる。
無機粒子のメディアン径の測定においては、分散粒度がナノスケールである場合、光子相関法による測定が好ましく、拡散係数相当径として得られる粒度分布においてのメディアン径を用いて示すことができる。測定においては無機粒子を水にて分散させた後、0.1質量%程度に希釈したものを用いて測定できる。測定装置としては市販されている光子相関法を用いた装置であればよい。例えば、堀場製作所製SZ-100シリーズが挙げられる。その他、マルバーン社製Zetasizer Nanoシリーズ、大塚電子社製DLS-6500シリーズなどが挙げられる。
無機粒子がマイクロスケールの場合、メディアン径はレーザー回折・散乱法を用いて測定できる。測定装置としては、例えば堀場製作所製LA-960シリーズ、マルバーン社製Mastersizerシリーズ、大塚電子社製ELSZシリーズが挙げられる。
【0025】
本発明で用いる無機粒子としては、天然物であってもよいし、常法に従い合成することもできる。
無機粒子として天然物を用いる場合、天然物は夾雑物や不純物を含んでよいが、夾雑物や不純物は除去されていることが好ましい。
膨潤性層状ケイ酸塩の合成方法としては、例えば、水熱合成法、溶融合成法、高圧合成法、固体反応法、火炎溶融法及び変質法が挙げられる。膨潤性層状ケイ酸塩の合成方法は、特開2008-13401号公報に記載の方法を参照できる。コロイダルシリカの主な合成法として、四塩化珪素の熱分解によるアエロジル合成のような気相合成法に、水ガラスを原料とする方法、アルコキシドの加水分解といった液相合成法が代表的である。アルミナ水和物は、一般にボーキサイトを水酸化ナトリウムに高温で溶解するバイヤー法によって生成される。
【0026】
また本発明では、市販の無機粒子を用いることもできる。例えば、クニピア-F(メディアン径:347.4nm、BSA吸着量:222μg/mg、陽イオン交換容量:108meq/100g、25℃における1質量%水分散液の粘度:4mPa・s)、スメクトン-SA(メディアン径:85.7nm、BSA吸着量:437μg/mg、陽イオン交換容量:70meq/100g、25℃における1質量%水分散液の粘度:5mPa・s)、スメクトン-SWN(メディアン径:64.4nm、BSA吸着量:485μg/mg、陽イオン交換容量:49meq/100g、25℃における1質量%水分散液の粘度:6mPa・s)、スメクトン-SWF(メディアン径:69.8nm、BSA吸着量:388μg/mg、陽イオン交換容量:73meq/100g、25℃における1質量%水分散液の粘度:16mPa・s)、スメクトン-ST(メディアン径:42.4nm、BSA吸着量:474μg/mg、陽イオン交換容量:30meq/100g、25℃における1質量%水分散液の粘度:2mPa・s)(商品名、クニミネ工業社製)、ソマシフME、ソマシフMEB-3(いずれも商品名、片倉コープアグリ社製)、PDM-5B、PDM-800(いずれも商品名、トピー工業社製)などが挙げられる。
【0027】
発光材料が得られる限り、無機粒子でリグニンを処理する条件に特に制限はなく、常法で実施されている条件を適宜選択することができる。
以下に、本発明におけるリグニンの処理条件について、好ましい実施形態に基づき以下に説明する。しかし、本発明はこれらに制限するものではない
【0028】
例えば、水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n-ブタノールなどのアルコール、ギ酸、酢酸などのカルボン酸、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどから溶媒を適宜選択し、選択した溶媒をリグニン及び無機粒子と混合し、リグニンと無機粒子を含む分散液を調製する。本発明で用いる溶媒は、発光材料の製造効率の観点からエタノールが好ましい。
【0029】
分散液中のリグニン及び無機粒子の濃度は、適宜設定することができる。例えば、分散液中のリグニン濃度は0.1質量%以上とすることが実際的であり、0.2質量%以上が好ましく、0.6質量%以上がより好ましい。リグニン濃度の上限値は1.2質量%以下とすることが実際的であり、1.0質量%以下が好ましく、0.8質量%以下がより好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.6質量%以下がさらに好ましい。分散液中の無機粒子の固形分濃度は0.8質量%以上とすることが実際的であり、1.0質量%以上が好ましく、1.4質量%以上がより好ましい。固形分濃度の上限値は1.9質量%以下とすることが実際的であり、1.8質量%以下が好ましく、1.6量%以下がより好ましく、1.5質量%以下がより好ましく、1.4質量%以下がさらに好ましい。
また、リグニンと無機粒子との混合割合も適宜選択することができ、発光材料を得るために、リグニン重量に対する無機粒子の混合割合を調製することが好ましい。例えば、リグニンと無機粒子の混合割合は重量比で(リグニン):(無機粒子)=0.5:9.5~6.5:3.5が好ましく、1:9~6:4がより好ましい。
【0030】
本発明において、発光材料の製造に通常行われる処理を適宜選択することで、発光材料を製造することができる。本発明において採用することができる処理としては、均質化処理、沈殿物の乾燥、再分散などが挙げられる。
本発明における好ましい製造工程について具体的に説明する。例えば、リグニンと無機粒子の分散液を調製し、150W15分の超音波拡散により、均質化処理を行う。その後乾燥処理を行い、乾燥粉体に対する150℃10MPaの熱プレス処理によりリグニンの溶融を行う。このような工程を経ることで、リグニンを無機粒子で処理し、本発明の発光材料を製造することができる。しかし本発明はこれに制限するものではない。
【0031】
上述の工程を経ることで、無機粒子で処理されているリグニンを含有する発光材料を得ることができる。具体的には、紫外光を照射することにより紫外光を吸収して発光する発光材料を製造することができる。
なお、本発明により得られる発光材料を紫外線センサや誘起発光素材等の各種媒体に適用するため、出発物質として用いるリグニンの白色度が高いことが好ましく、L*a*b*色空間におけるL*値が80以上である白色リグニンがより好ましい。L*a*b*色空間は補色空間の1種で、明度を示す次元L*と、補色次元のa*及びb*を持ち、CIE XYZ色空間の座標を非線形に圧縮したものに基づいている。本明細書において「白色」とは、L*a*b*色空間におけるL*値が80以上と定義する。L*値、a*値、b*値は、JIS Z 8781-4:2013に従い測定することができる。リグニンの白色度(L*値)は、原材料の調製方法を適宜選択することで調整することができる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0033】
実施例1
<リグニンの調製>
スギをカッターミル又はジェットミルにより0.02~5mm程度の大きさに粉砕し、植物粉を得た。得られた植物粉500gを100mMリン酸緩衝液(pH=4~6)4.5Lに一晩浸し、湿式粉砕装置(アシザワ・ファインテック社製LMZ4)に緩衝液とともに投入した。デュポンジェネンコア社製のセルラーゼ・ヘミセルラーゼ混合液(OptimashXL及びOptimashBGそれぞれ50mL)をさらに添加し、50℃に保ちながら、ジルコニア製の0.5mm径のビーズを用いて湿式粉砕を行った。
前記湿式粉砕において適宜植物粉の平均粒度を測定し、平均粒度が10μmとなった時点で、前記ビーズをジルコニア製の0.1mm径のビーズに交換した。
上記湿式粉砕は、合計4時間行った。湿式粉砕を進めるにつれ、植物粉懸濁液の粘度は減少した。懸濁液中粒子の平均一次粒径は30~40nmであった。
【0034】
粉砕終了後、遠心分離により上清と残渣とを分離し、残渣を水で洗浄した後、残渣に再度セルラーゼ・ヘミセルラーゼ混合液及びリン酸緩衝液1Lを添加し、50℃で12時間攪拌することにより糖化反応を行った。反応終了後、遠心分離により上清と残渣に分離し、残渣として茶色のリグニンを得た。
【0035】
<リグニン分散液の調製>
回収したリグニン残渣に対し、水分量計(エー・アンド・デイ製MS-70)で濃度を測定した後、水とエタノールとの混合比が1:1(重量比)となるように、超純水とエタノールをリグニン残渣に滴下し、1質量%リグニン分散液を調製した。
【0036】
<白色リグニンの合成>
得られたリグニン分散液1mLに対して、リグニンに対する重量比が約9倍量(100μL)のヘキシルイソシアネート(東京化成工業社製)を滴下し、混合物を50℃で5時間撹拌し、ウレタン結合形成反応を通じたリグニンの白色化を行った。
撹拌後、エタノール約10mLを加えて混合物を洗浄し、ろ紙(桐山製作所社製No5B(21φmm))を用いて未反応物をろ過し、ろ紙上の残渣を真空乾燥し、白色リグニン粉体を回収した。
【0037】
<白色リグニンエタノール分散液の調製>
白色リグニンの濃度が4.9×10-3mg/mLとなるように、所定量の白色リグニンをエタノール10mLと混合・溶解し、白色リグニンエタノール分散液を調製した。
【0038】
実施例2
<イミダゾリウム修飾粘土の調製>
合成サポナイト(スメクトンSA;平均粒径:20nm、クニミネ工業社製)2.0gを超純水98gと混合後、ホモジナイザー(IKA社製ウルトラタックスT50)で6000rpm10分、超音波ホモジナイザー(BRANSON社製Sonifier, Model450A)で75W10分それぞれ処理し、1-エチル-3-メチルイミダゾリウム=メタンスルホン酸塩(東京化成工業社製)1gと超純水74gを添加した。その後試料をホモジナイザーで2000rpm30分処理、10000rpmで10分間遠心分離し沈殿物を回収した。沈殿物について水150mLと混合、超音波ホモジナイザーで75W15分処理し、得られた試料を16000rpmで30分間遠心分離を行い洗浄した。本操作を一度繰り返しゲル状のイミダゾリウム修飾合成サポナイト(30.2wt%)を得た。
【0039】
<イミダゾリウム修飾粘土エタノール分散液の調製>
イミダゾリウム修飾合成サポナイトゲル(固形分で0.5g分)をエタノール18mLと混合した。超音波拡散(チンキー社製ナノプレミキサーPR-1)を150Wで15分行い、試料を10000rpmで15分間遠心分離し沈殿物を回収した。同様の操作を一度繰り返しイミダゾリウム修飾合成サポナイトエタノール分散液(10.8wt%)を得た。
【0040】
<白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末の調製>
イミダゾリウム修飾合成サポナイトエタノール分散液(10.8wt%)1.3gをエタノール8.0gと混合、超音波拡散(チンキー社製ナノプレミキサーPR-1)を150W15分で行った。その後、実施例1で調製した白色リグニン0.06gとエタノール5.94gから成る分散液を上記試料に混合、150Wで15分超音波拡散後、乾燥により溶媒を揮発させた。一部の乾燥試料に対し150℃10MPaで熱プレスを行い白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末を得た。白色リグニンとイミダゾリウム修飾合成サポナイトの重量比は白色リグニン30%イミダゾリウム修飾合成サポナイト70%とした。
【0041】
実施例3
白色リグニンに代えて未処理の茶色のリグニンを用いたこと以外は実施例2と同様にして、未処理リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末を調製した。
【0042】
実施例4
合成サポナイトに代えて合成スメクタイト(スティーブンサイトST;平均粒径:約50nm、クニミネ工業社製)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末を調製した。
【0043】
実施例5
合成サポナイトに代えて合成スメクタイト(スティーブンサイトST;平均粒径:約50nm、クニミネ工業社製)を用いて、白色リグニン:粘土の比を60%:40%、50%:50%、40%:60%、20%:80%または10%:90%と変更したこと以外は実施例2と同様にして、白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末を調製した。
【0044】
<試験例1>白色リグニンエタノール分散液の発光挙動
(1)UV照射実験
実施例1で調製した白色リグニンエタノール分散液の発光挙動について、ハンディーUVランプ(アズワン製;LUV-4)を用いて評価した。その結果を図1に示す。
実施例1で調製した白色リグニンエタノール分散液は透明であるが(図1(A))、4WのUV光(330-380nm)の照射により青色発光を示した(図1(B)及び(C))。
なお、対照物質であるエタノールは、UV光を照射しても青色発光を示さなかった。また、図2に示す通り、白色リグニン単体についてはUV照射による発光を示さなかったことから、媒体への分散が白色リグニンの発光に必要なことが確認された。
【0045】
(2)蛍光スペクトル測定実験
実施例1で調製した白色リグニンエタノール分散液を、エタノールで所定の濃度で希釈し、蛍光分光光度計(JASCO社製;F-4500)を用いて蛍光スペクトル測定を行った。その結果を図3に示す。
図3(A)で示す通り、波長340nmの励起光照射により、波長390-560nmの領域での発光ピークが確認された。本ピークの強度は白色リグニンの濃度に比例することから白色リグニン由来の発光ピークであることが示唆された。また図3(B)に示す通り、励起波長300-380nmで明確な発光ピークが確認された。
【0046】
(3)紫外可視吸収スペクトル測定実験
実施例1で調製した白色リグニンエタノール分散液を、エタノールで所定の濃度で希釈し、分光光度計(日立ハイテクノロジーズ社製;U-2910)を用いて紫外可視吸収スペクトル測定を行った。その結果を図4に示す。
波長250~290nm付近に白色リグニンの濃度に応じた強度を持つリグニンのモノマー(グアイアシル基・シリンギル基)由来の吸収が確認され、発光現象は当該モノマーによる光吸収に由来すると考察された。また本スペクトルにおいてリグニン分子鎖の凝集(例:芳香環π-πスタック)を示す波長320nm付近における吸収が確認されなかった。
以上の結果から、白色リグニン内のヘキシル基によりリグニン芳香族主鎖が拘束、分子内回転・振動が抑制され分子の運動性が低下し、放射失活が優位になるため蛍光強度が増強し、白色リグニンは発光を示す(参考:Int. J. Biol. Macromol., 2020, 154, 981)と考察される。
【0047】
<試験例2>白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末の発光挙動
(1)UV照射実験
実施例2で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾合成サポナイト(SA)複合粉末についてハンディーUVランプ(アズワン製;LUV-4)を用いて発光挙動を評価した。その結果を図5に示す。
図5(A)に示す試料の内、白色リグニン-SA複合粉末のみ4WのUV光(330-380nm)の照射により青色発光を示した(図5(C)参照)。対照物質であるSA単体ないし実施例3で調製した未処理リグニン-SA複合粉末青色発光を示さなかった(図5(C)参照)。
【0048】
実施例2で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末において、図6の通り熱プレスにより熱処理をした試料のみUV光(330-380nm)の照射による青色発光を示した。白色リグニンは熱溶融を示すため、白色リグニン溶融の有無に伴う白色リグニンと粘土の混合均一性が発光の有無に影響することが示唆される。
【0049】
実施例4で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末についても同様に発光挙動を評価したところ、合成スメクタイトと白色リグニンの混合物は青色発光を示した(図7参照)。
さらに、実施例4及び5で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末は、図8に示す通り、白色リグニン:合成粘土=60:40~10:90(%)の配合比の範囲で青色発光を示した(図8参照)。目視で白色リグニンと合成粘土の配合比が30:70(%)で発光強度が最も強くなる傾向が確認された。
【0050】
(2)X線回折実験
実施例2ないし5で調製した白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末において、X線回折装置(リガク社製;SmartLab)を用いてX線回折測定を行った。その結果を図9に示す。
合成サポナイトから成る白色リグニン-イミダゾリウム修飾粘土複合粉末については粘土に由来する回折ピークのみが確認され、白色リグニン内ヘキシル基結晶化に伴うピークは存在しなかった。合成粘土は粒径が小さくかつ均一である(参考:US Pat. 5763345, 1998)ため、白色リグニンを微細かつ均一に分散させることができ、白色リグニン内のヘキシル基結晶化を抑制し、白色リグニン内における分子同士の相互作用を小さくするため、固体状態での発光が実現できたと考えられる。
【0051】
以上のように、無機物質の粒子でリグニンを処理することで、リグニン由来の発光材料を製造できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9