IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクノロジーズの特許一覧

<>
  • 特開-細胞分析用樹脂プレート 図1A
  • 特開-細胞分析用樹脂プレート 図1B
  • 特開-細胞分析用樹脂プレート 図2A
  • 特開-細胞分析用樹脂プレート 図2B
  • 特開-細胞分析用樹脂プレート 図3
  • 特開-細胞分析用樹脂プレート 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024024862
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】細胞分析用樹脂プレート
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20240216BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N1/28 J
G01N1/28 U
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022127801
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】梶原 ゆり
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 宗郎
(72)【発明者】
【氏名】安居 晃啓
(72)【発明者】
【氏名】上野 沙季
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓
(72)【発明者】
【氏名】信木 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 洋
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052FA02
2G052GA32
2G052JA16
4B029AA07
4B029AA08
4B029BB02
4B029BB06
4B029BB11
4B029BB12
4B029CC02
4B029CC08
4B029GB06
(57)【要約】
【課題】
スライドグラスに代えて樹脂を用い、細胞の変形を抑制し、細胞の特性や状態の正しい評価が可能となる細胞分析用樹脂プレートを提供することを目的とする。
【解決手段】
本発明の細胞基材1と、基材1の表面に設けられた親水膜4とを有し、親水膜4は、バインダー2と、バインダー2に分散された無機酸化物粒子3とを含み、バインダー2と無機酸化物粒子3との間に空隙5を有することを特徴とする。
【選択図】図1B
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面に設けられた親水膜とを有し、
前記親水膜は、バインダーと、前記バインダーに分散された無機酸化物粒子とを含み、
前記親水膜中の前記バインダーと前記無機酸化物粒子との界面に空隙を有することを特徴とする細胞分析用樹脂プレート。
【請求項2】
前記空隙は、前記親水膜の観察対象試料が設置される表面に露出している部分を有することを特徴とする請求項1に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項3】
前記親水膜の表面に観察対象試料を設置した際に、前記細胞の液体成分が毛管現象によって前記空隙に浸透することを特徴とする請求項2に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項4】
前記無機酸化物粒子の平均粒径が10~100nmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項5】
前記親水膜における前記無機酸化物粒子の配合率が20質量%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項6】
前記無機酸化物粒子の平均粒径の半径r(nm)と、前記無機酸化物粒子の前記親水膜における配合率X(質量%)と、前記無機酸化物粒子の密度d(g/cm)が、前記親水膜の質量1gにおいて下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【数1】
【請求項7】
前記無機酸化物粒子がシリカナノ粒子であり、前記バインダーがシリカゾルであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項8】
前記親水膜の純水に対する接触角が25~40°であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項9】
前記親水膜の表面の抵抗値が1.0×1011~1.0×1013Ωであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項10】
前記親水膜の表面のRaが20~200nmであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項11】
前記基材がアクリルポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート、シクロオレフィンポリマーまたは環状オレフィンコポリマーのいずれかであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項12】
前記基材および前記親水膜の表面に凹部を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【請求項13】
フィルム形状を有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の細胞分析用樹脂プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞分析用樹脂プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
現在の再生医療等製品の製造工程において、安定的に製造が行われているかを判断する工程内管理がある。例えば、細胞の増殖度合いや細胞分化の度合いといった管理では、形態的・数量的特徴や挙動を用いた指標が有効な場面が多くある。これらの指標は、顕微鏡を用いた作業者の目視によって判断されている。細胞の形態を指標とした細胞の特性や状態の評価は非破壊検査であり、少量の細胞を扱うことが多い再生医療等製品の製造工程において、貴重な細胞をロスすることなく分析することは重要である。そのため、顕微鏡観察において、細胞の形状を維持することも重要となる。
【0003】
一方、従来の細胞検体や生体試料の観察は、検体をスライドガラスに接着させ、目的に合わせた染色操作を行った後に顕微鏡下で観察することが一般的であった。スライドガラスは平面性に優れており、光学的性質にも優れているが、割れやすく、分厚くかさばるうえ、重いといった問題点があった。具体的には、スライドガラスは本質的に割れやすいため貴重な試料を破損する可能性があり、また厚みが約1mm、重さが約4.77gあるため、多量の標本を保存する際には広い場所と重さに耐える丈夫な容器や棚が必要であった。また、取り扱い中の破損による怪我の危険もあり、安全上にも懸念点があった。これらの欠点は、貴重な標本や大量の標本を保存する際には大きな問題点となり、また取り扱いの安全上の問題ともなっていた。そこで、スライドグラスに替えて、破損の危険が少なく上記の欠点の無い顕微鏡観察用の材料を提供することが考えられる。
【0004】
特許文献1には、生体試料又は細胞をその表面に接着させ、生体試料又は細胞を染色した後、顕微鏡観察を行うために用いる、吸水性の低い薄膜状の高分子支持体が開示されている。高分子支持体の構成は、主成分がポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートであり、片側又は両側の表面が親水化処理されていることが記載されている。高分子支持体の表面に親水化処理を施すことで、生体試料又は細胞等の観察対象試料と高分子支持体との接着性を確保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-215181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂等の高分子からなる基材に親水膜を設けたものは、静電的な細胞の吸着(例えば、医機学Vol.85,No.4(2015)参照。)による細胞の変形や、飛躍的な親水化をもたらす毛細管現象が細胞内水溶液を流出させ、細胞の収縮を発生させる場合があることが知られている。このような場合、再生医療等製品の製造工程において、細胞の形態を指標とした細胞の特性や状態の正しい評価は不可能で、さらには貴重な細胞のロスにつながる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、スライドグラスに代えて樹脂を用い、細胞の変形を抑制し、細胞の特性や状態の正しい評価が可能となる細胞分析用樹脂プレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、基材と、基材の表面に設けられた親水膜とを有し、親水膜は、バインダーと、バインダーに分散された無機酸化物粒子とを含み、親水膜中のバインダーと無機酸化物粒子との界面に空隙を有することを特徴とする細胞分析用樹脂プレートを提供する。
【0009】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スライドグラスに代えて樹脂を用い、細胞の変形を抑制し、細胞の特性や状態の正しい評価が可能となる細胞分析用樹脂プレートを提供できる。
【0011】
上述した以外の課題、構成及び効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の細胞分析用樹脂プレートの断面図
図1B】本発明の細胞分析用樹脂プレートに観察対象試料を設置した断面図
図2A】本発明の細胞分析用樹脂プレートの第1の例の上面図
図2B】本発明の細胞分析用樹脂プレートの第2の例の側面図
図3】本発明の細胞分析用樹脂プレートの第2の例の斜視図
図4】本発明の細胞分析用樹脂プレートの断面観察写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
図1Aは本発明の細胞分析用樹脂プレートの断面図であり、図1Bは本発明の細胞分析用樹脂プレートに観察対象試料を設置した断面図である。図1Aおよび図1Bに示すように、本発明の細胞分析用樹脂プレート10は、透明樹脂で構成される基材1と、基材1の表面に設けられた親水膜4を有する。親水膜4は、バインダー2と、バインダー2に分散された無機酸化物粒子3を有し、バインダー2と無機酸化物粒子3の界面との間に空隙5を有している。この空隙5は、親水膜4の少なくとも観察対象試料6が設置される方の表面(基材1と反対側の表面)に露出している部分があり、観察対象試料6が毛細管現象によりこの空間5に浸透するように構成されている。本発明の細胞分析用樹脂プレート10は、このバインダー2と無機酸化物粒子3の界面との間に空隙5を有することによって、観察対象試料6が毛細管現象によって基材1に向かって浸透し、細胞分析用樹脂プレート10と観察対象試料6との高い接着性を実現している。
【0015】
この空隙5(毛細管)の数は、無機酸化物ナノ粒子とバインダー成分との界面の面積、すなわち無機酸化物ナノ粒子とバインダー成分の配合率で決まる。
【0016】
毛細管が多くなれば、毛細管現象がより顕著となり、飛躍的な親水化を発現する。また、毛細管が少なくなれば、毛細管現象は抑制され、親水化の効果も低減する。
【0017】
本発明の発明者らは、この毛細管現象による親水化が顕著となる無機酸化物粒子3とバインダー2の配合率の親水膜を基材の表面に施した場合、細胞内水溶液を流出させ、細胞の収縮を誘起することを確認した。そこで、細胞の変形に影響を与えない、ある程度の毛細管現象を生じる親水膜の構造として、最適な無機酸化物粒子3とバインダー2の配合率を見出した。
【0018】
本実施形態の親水膜4において、ある程度の毛細管現象を生じる構造として、親水膜4における無機酸化物粒子3の配合率が20質量%以下であることが好ましい。親水膜4における無機酸化物粒子3の配合率が20質量%より大きい場合、毛細管として機能する無機酸化物粒子3とバインダー2との界面の微小な空隙3が多くなり過ぎ、観察対象とする細胞の変形へ影響が出る程度の親水化を発現してしまう。
【0019】
本実施形態の親水膜において、親水膜4の構成成分の無機酸化物粒子3の平均粒径の半径rと親水膜4の構成成分に対する無機酸化物粒子3の配合率X質量%、無機酸化物粒子3の密度(g/cm)の関係として、親水膜4の質量1gにおいて、下記式(1)を満たすことを特徴とする。ただし、X≦20である。(1)式の左辺は、親水膜質量1gにおける平均粒径の半径rの無機酸化物粒子3の表面積の総和を示す。無機酸化物粒子3の表面積は、バインダー2との界面となる面積にほぼ等しい値となる。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
本実施形態の親水膜4では、無機酸化物粒子3として、平均粒径10~100nmの球状の無機酸化物ナノ粒子を用いることができる。平均粒径が小さい無機酸化物ナノ粒子を用いた場合、重量を一定にして比較した場合、バインダー2との界面の面積が増加するため、毛細管として機能する微小な空隙が増加し、親水化の効果が大きくなる。
【0023】
本実施形態の親水膜4では、観察対象の細胞の変形に影響を与えないある程度の毛細管現象を生じる親水膜4の構造を有することを特徴とする。前述した通り、本発明では、平均粒径10~100nmの球状の無機酸化物ナノ粒子を用いることができる。無機酸化物ナノ粒子の平均粒径に依存する無機酸化物ナノ粒子とバインダー成分との界面の面積を最適化するための指標が上記式(1)となる。すなわち、平均粒径10~100nmの範囲で任意の平均粒径の無機酸化物ナノ粒子を用いても、式(1)に基づき配合率を決定すれば、細胞の変形に影響を与えない程度の毛細管現象を生じる親水膜構造を実現できる。
【0024】
本実施形態の親水膜4において、無機酸化物ナノ粒子3は親水性シリカナノ粒子でありバインダー2はシリカゾルであることが好ましい。汎用の親水材料としてはポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の有機高分子材料や親水性アルミナ粒子や親水性シリカ粒子といった無機の材料が挙げられる。この中で長期間水に浸漬しても溶け出さないものが親水性を長く保てるという観点で、無機酸化物であるアルミナ粒子や親水性シリカナノ粒等の無機の材料が優れている。これら無機酸化物の微粒子は水に分散されている場合が多い。水に分散されている塗料タイプの場合、水の含有率が多いため、樹脂製の基材表面に塗布すると、乾燥時に基材表面で弾かれる可能性がある。これは水の表面張力が72mN/mと汎用の有機溶媒に比べて大きいためである。そのため、樹脂製の基板表面へ塗布する本発明においては、分散する溶媒は水よりも表面張力が20~30mN/mと小さいアルコール、エチルメチルケトン等の有機溶媒を使用した方が成膜性に優れる。
【0025】
本発明で用いる親水材料としてはアルコール、エチルメチルケトン等の有機溶媒に分散できる点で親水性シリカナノ粒子が特に好ましい。具体的には日産化学社製のコロイダルシリカIPA-ST(平均粒径約12nm)、IPA-ST-L(平均粒径約45nm)、IPA-ST-ZL(平均粒径約80nm)等が挙げられる。
【0026】
バインダー2としては、ポリエチレングリコールやポリビニルアルコール等の有機高分子材料やアクリルアミドのように加熱により重合しバインダーとなる有機材料、シリカゾルのように加熱により無機のバインダーとなる材料等が挙げられる。この中で長期間水に浸漬しても溶け出さないものが親水性を長く保てるという点でアクリルアミド、シリカゾル等の材料優れている。本実施形態の親水膜においては、前期記載の親水性シリカナノ粒子を保持する際の相性から、無機材料であるシリカゾルが特に好適である。
【0027】
シリカゾルはアルコキシシランを希塩酸、希硝酸、または希リン酸で酸性となった水中、または水とアルコール混合液中で加熱することにより自己重合し、分子量数千になった材料ことである。アルコキシシランとしては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等が挙げられる。なお液性や溶媒が重合条件として適切であれは、アルコキシシランの代わりにアルコキシチタンを用いても良い。アルコキシチタンとしてはテトラ-i-プロピルチタネート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラステアリルチタネート、トリエタノールアミンチタネート、チタニウムアセチルアセトネート、チタニウムエチルアセトアセテート、チタニウムラクテート、テトラオクチレングリコールチタネート等が挙げられる。またこれらの化合物が数分子重合したものも用いることが可能である。
【0028】
本実施形態の親水膜において、親水膜4の塗布方法は特に限定されず、いなかる方法を用いてもよい。例えば、スピンコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法等が挙げられる。これらの方法で塗布された親水膜4の膜厚は、特に限定は無いものの、無機酸化物粒子3の平均粒径、すなわち100nmより厚い膜厚は必須となる。
【0029】
本実施形態の親水膜4を施した表面において、純水に対する接触角は25~40°となる。本発明では、細胞の変形に影響を与えない、ある程度の毛細管現象を生じる親水膜4の構造が重要である。この親水膜の構造の場合、純水に対する接触角は、結果として25~40°となる。
【0030】
本実施形態の親水膜4を施した表面において、抵抗値は1.0×1011~1.0×1013Ωとなる。汎用の顕微鏡観察用スライドガラスの表面の抵抗値は、おおよそ1.0×1011~1.0×1013Ωの範囲にある。この範囲の抵抗値を有する顕微鏡観察用スライドガラスでは、細胞の形状が保持され易い。本発明の細胞分析用樹脂プレート10は、顕微鏡観察用スライドガラスと類似した電気的表面特性を有しており、静電的な細胞の吸着を抑制することで、細胞の変形も抑制できる。
【0031】
本実施形態の親水膜4を施した表面において、Raは20~200nmとなる。本発明では、細胞の変形に影響を与えない、ある程度の毛細管現象を生じる親水膜4の構造が重要である。親水膜4の構成成分に対し無機酸化物粒子3の配合率が20質量%以下となる親水膜4の構造において、表層に存在する平均粒径10~100nmの球状の無機酸化物粒子3が、Ra:20~200nmの表面構造を形成する。
【0032】
本実施形態の細胞分析用樹脂プレート10の基材1を構成する透明樹脂として、アクリルポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタラート、シクロオレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー等を適用できる。顕微鏡観察において、蛍光染色法を用いる場合は、自家蛍光の懸念のないアクリルポリマーやシクロオレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマーが望ましい。これらの透明樹脂の平均分子量(Mw)は、5000~1000000以下が好ましく、10000~300000以下がより好ましい。
【0033】
図2Aは本発明の細胞分析用樹脂プレートの第1の例の上面図であり、図2Bは本発明の細胞分析用樹脂プレートの第1の例の側面図である。図2Aおよび図2Bに示すように、本実施形態の親水膜4を施した表面を有する透明樹脂より成ることを特徴とする細胞分析用樹脂プレート10は、細胞を含む溶液を滴下するエリアに凹面7を有していても良い。本発明の課題は、細胞の変形を抑制することであり、本実施形態の親水膜を施した表面の機能単独において、その課題を解決できるものの、例えば、図2Aおよび図2Bに示すような凹部7を有する細胞分析用樹脂プレート10では、観察時の操作による外部刺激から細胞を保護することが可能であり、細胞の形状をより効果的に保持できる。また、凹部7の溝の深さを様々な細胞のサイズに合わせて作製することで、細胞の重なりを避けた観察も可能である。細胞を含む溶液を滴下するエリアに凹面を有する別方式としては、図2Aおよび図2Bに示すようなウェル・シャーレ式でもよく、プレート形状、凹部の溝の深さや形状に限定は無い。
【0034】
図3は本発明の細胞分析用樹脂プレートの第2の例の斜視図である。図3に示す細胞分析プレートは、1つの基材に多数の凹部8を有している。凹部8には、図示していないが、上述した本発明にかかる親水膜を有している。
【0035】
本実施形態の親水膜を施した表面を有する透明樹脂より構成される基材1を有する細胞分析用樹脂プレート10は、フィルム形状とすることもできる。
【0036】
図4は本発明の細胞分析用樹脂プレートの断面観察写真(STEMによる観察写真)である。図4の観察写真において、本発明の細胞分析用プレートが、図1Aに示す構成を有することが実証されている。
【実施例0037】
以下、実施例及び比較例を用いて、本実施形態の親水膜を施した細胞分析用樹脂プレートの効果を説明する。実施例及び比較例における親水塗料の材料組成と評価結果について、後述する表1に記載する。
【実施例0038】
本実施形態の実施例1として、環状シクロオレフィンコポリマーの板材への親水膜形成方法と、その方法により親水膜を施した細胞分析用樹脂プレートの接触角と細胞変形への影響を評価した結果を示す。
【0039】
(1)親水塗料塗布の前処理
縦76mm、横26mm、厚さ1mmの透明な環状オレフィンコポリマーの板材(ポリプラスチックス社製)を基材とし、プラズマドライクリーナーPDC210(ヤマト科学社製)を用いて、100W、照射時間1分の条件でプラズマ処理を行った。透明樹脂材の中には、疎水性が大きいことから、水溶媒やアルコール溶媒を含む親水処理剤を弾く、あるいは親水膜成分との密着性が悪いこと等により,均一に塗布できない懸念があるため前処理を行う。特に、環状オレフィンコポリマーやシクロオレフィンポリマーを透明樹脂材として用いた場合、これらの樹脂は水酸基等の極性基を持たないため、前処理が必須となる。
【0040】
なお、前処理の手法としては、プラズマ処理の他に、UVランプ等を用いた紫外線照射処理も適用できる。
【0041】
(2)親水塗料の組成
無機酸化物粒子を構成する親水性シリカナノ粒子として、酸化ケイ素からなるコロイダルシリカIPA-ST(日産化学社製、溶液中の固形成分は30質量%):0.065gと、シリカゾル溶液としてコルコートPX(コルコート社製、溶液中の固形成分は2質量%):49.9gを混合することで親水塗料が調整される。親水膜構成成分となるコロイダルシリカIPA-STの固形成分とコルコートPXの固形成分の総量を100質量%とすると、実施例1の組成において、コロイダルシリカIPA-STの固形成分、すなわち親水性シリカナノ粒子の配合比は1.9質量%となる。また、(1)式の値は、5.2×1018nmとなった。
【0042】
(3)親水処理
この塗料を前処理済の環状オレフィンコポリマー板材にスピンコートで塗布する。調整された塗料の大部分は、アルコールやエチルメチルケトンからなる溶媒であるため、常温の板材に塗料をスピンコートすると、溶媒成分の気化熱で塗膜表面の温度が低下し、空気中の素性基が塗膜表面に吸着することで白く曇り、透明な塗膜が得られないことがある。これを防ぐため、スピンコート前には、70℃に加熱したホットプレートで板材を加温する。なおスピンコート条件は回転数2000rpm、回転時間30秒間である。
【0043】
(4)熱硬化
スピンコート後、板材を70℃に制御した恒温槽中にいれ、60分間加熱する。これによりシリカゾルがSiO(無機酸化物)に変化し、熱硬化が完了する。以上の工程により、基材の表面に親水膜が形成された細胞分析用樹脂プレートが完成する。
【0044】
(5)評価実験
実施例1の細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角を測定したところ33°であった。表面の抵抗値(装置:日東精工アナリテック社製、ハイレスタUP・MCP-HT450型)は、3.3×1012Ωとなり、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した。表面のRa(装置:Veeco社製、DEKTAK8)は、50nmであった。細胞変形の評価には、球形細胞の形状変化の様子が分かり易い血球を含む生体液(Cedarlane Laboratories Ltd.社製、ラット赤血球CLD58)を用いた。細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡(装置;オリンパス社製、偏光顕微鏡BX51)で観察したところ、球形細胞は収縮などの変形が無いことを確認した。評価結果を後述する表2に記載する。
【実施例0045】
表1に示すように、実施例2の親水塗料の組成では、親水性シリカナノ粒子の種類をコロイダルシリカIPA-ST-L(日産化学社製、溶液中の固形成分は30質量%)に変更した。IPA-ST-L:0.21gと、コルコートPX:49.8gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は6.0質量%、(1)式の値は、3.2×1018nmとなる。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、実施例2における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は32°、抵抗値は顕微鏡観察用スライドガラス同等の5.5×1011Ω、表面のRaは60nmであった。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、球形細胞は収縮などの変形が無いことを確認した。
【実施例0046】
表1に示すように、実施例3の親水塗料の組成では、実施例2と同じコロイダルシリカIPA-ST-Lを用いた。IPA-ST-L:0.36gと、コルコートPX:49.6gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は9.8質量%、(1)式の値は、4.5×1018nmとなる。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、実施例3における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は27°、抵抗値は顕微鏡観察用スライドガラス同等の8.6×1011Ω、表面のRaは160nmであった。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、球形細胞は収縮などの変形が無いことを確認した。
【実施例0047】
表1に示すように、実施例4の親水塗料の組成では、親水性シリカナノ粒子の種類をコロイダルシリカIPA-ST-ZL(日産化学社製、溶液中の固形成分は30質量%)に変更し、IPA-ST-ZL:0.35gと、コルコートPX:49.6gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は9.6質量%、(1)式の値は、2.6×1018nmとなる。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、実施例4における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は26°、抵抗値は顕微鏡観察用スライドガラス同等の9.8×1011Ω、表面のRaは150nmであった。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、球形細胞は収縮などの変形が無いことを確認した。
【実施例0048】
表1に示すように、実施例5の親水塗料の組成では、実施例4と同じコロイダルシリカIPA-ST-ZLを用いた。IPA-ST-ZL:0.8gと、コルコートPX:49.2gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は19.6wt%、(1)式の値は、5.3×1018nm2となる。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、実施例5における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は25°、抵抗値は顕微鏡観察用スライドガラス同等の4.8×1012Ω、表面のRaは190nmであった。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、球形細胞は収縮などの変形が無いことを確認した。
【実施例0049】
表1に示すように、実施例6の親水塗料の組成では、親水性シリカナノ粒子の添加量を0gとした。この組成において、(1)式の値は、0nmとなる。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、実施例6における細胞分析用樹脂プレート材表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は39°、抵抗値は顕微鏡観察用スライドガラス同等の4.8×1012Ω、表面のRaは30nmであった。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、球形細胞は収縮などの変形が無いことを確認した。
【実施例0050】
実施例7では、図2Aおよび図2Bに示す細胞分析用プレートとして、汎用のスライドガラスと同等サイズ(b:76mm、c:26mm、d:1.1mm)の透明樹脂へ、凹部7としてa:20mm角の深さ20μmの溝(符号6)を加工した。凹面のエリア面積(a×a)や溝深さ(e)は、任意に変更できる。この凹面の溝により、観察時の操作による外部刺激から細胞を保護することが可能であり、細胞の形状をより効果的に保持できる。また、凹部の溝の深さを様々な細胞のサイズに合わせて作製することで、細胞の重なりを避けた観察も可能である。
【実施例0051】
実施例8では、図3に示す細胞分析用プレートとして、透明樹脂基材1(b:85.5mm、c:22.6mm、d:127.8mm)へ、凹部として、穴径a:22.1mm、穴深さe:17.4mmの凹部(符号7)を加工した。これは、汎用のウェル・シャーレと同等仕様である。細胞分析用樹脂プレートにおいて、プレート形状、凹部の溝の深さや形状に限定は無い。
【0052】
[比較例1]
表1に示すように、比較例1の親水塗料の組成では、親水性シリカナノ粒子の種類をコロイダルシリカIPA-STに変更し、IPA-ST:2.5gと、コルコートPX:47.5gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は44.1wt%、(1)式の値は、1.2×1020nm2となり、本実施形態の範囲から逸脱する。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、比較例1における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は13°、抵抗値は6.3×1012Ω、表面のRaは390nmであった。抵抗値は、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した一方で、接触角及びRaは、本実施形態の範囲から逸脱した。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、一部の細胞の細胞膜の損傷や収縮などが観察され、細胞の変形が有ることを確認した。
【0053】
[比較例2]
表1に示すように、比較例2の親水塗料の組成では、比較例2と同じコロイダルシリカIPA-STを用いた。IPA-ST:4gと、コルコートPX:46gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は56.6質量%、(1)式の値は、1.5×1020nmとなり、本実施形態の範囲から逸脱する。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、比較例2における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は10°、抵抗値は4.7×1012Ω、表面のRaは440nmであった。抵抗値は、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した一方で、接触角及びRaは、本実施形態の範囲から逸脱した。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、一部の細胞の細胞膜の損傷や収縮などが観察され、細胞の変形が有ることを確認した。
【0054】
[比較例3]
表1に示すように、比較例3の親水塗料の組成では、親水性シリカナノ粒子の種類をコロイダルシリカIPA-ST-Lに変更し、IPA-ST-L:2.5gと、コルコートPX:47.5gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は44.1質量%、(1)式の値は、2.9×1019nmとなり、本実施形態の範囲から逸脱する。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、比較例2における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は12°、抵抗値は8.4×1012Ω、表面のRaは580nmであった。抵抗値は、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した一方で、接触角及びRaは、本実施形態の範囲から逸脱した。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、一部の細胞の細胞膜の損傷や収縮などが観察され、細胞の変形が有ることを確認した。
【0055】
[比較例4] 表1に示すように、比較例4の親水塗料の組成では、比較例3と同じコロイダルシリカIPA-ST-Lを用いた。IPA-ST-L:12gと、コルコートPX:38gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は82.6質量%、(1)式の値は、4.3×1019nmとなり、本実施形態の範囲から逸脱する。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、比較例4における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は6°、抵抗値は3.3×1011Ω、表面のRaは850nmであった。抵抗値は、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した一方で、接触角及びRaは、本実施形態の範囲から逸脱した。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、一部の細胞の細胞膜の損傷や収縮などが観察され、細胞の変形が有ることを確認した。
【0056】
[比較例5]
表1に示すように、比較例5の親水塗料の組成では、親水性シリカナノ粒子の種類をコロイダルシリカIPA-ST-ZLに変更し、IPA-ST-ZL:6.5gと、コルコートPX:43.5gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は69.1wt%、(1)式の値は、1.8×1019nmとなり、本実施形態の範囲から逸脱する。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、比較例5における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は15°、抵抗値は5.6×1012Ω、表面のRaは610nmであった。抵抗値は、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した一方で、接触角及びRaは、本実施形態の範囲から逸脱した。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、一部の細胞の細胞膜の損傷や収縮などが観察され、細胞の変形が有ることを確認した。
[比較例6]
表1に示すように、比較例6の親水塗料の組成では、比較例5と同じコロイダルシリカIPA-ST-ZLを用いた。IPA-ST-ZL:20gと、コルコートPX:30gを混合することで親水塗料が調整される。この組成において、親水膜構成成分に対する親水性シリカナノ粒子の配合比は90.9質量%、(1)式の値は、2.3×1019nmとなり、本実施形態の範囲から逸脱する。親水塗料塗布の前処理、親水処理、評価実験は実施例1と同様に実施した。その結果、比較例6における細胞分析用樹脂プレート表面に形成された親水膜に対する純水との接触角は9°、抵抗値は4.8×1012Ω、表面のRaは780nmであった。抵抗値は、顕微鏡観察用スライドガラス同等の値を示した一方で、接触角及びRaは、本実施形態の範囲から逸脱した。また、細胞分析用樹脂プレートに生体液を滴下し、顕微鏡で観察したところ、一部の細胞の細胞膜の損傷や収縮などが観察され、細胞の変形が有ることを確認した。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
以上、説明した通り、本発明によれば、スライドグラスに代えて樹脂を用い、細胞の変形を抑制し、細胞の特性や状態の正しい評価が可能となる細胞分析用樹脂プレートを提供できることが示された。
【0060】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1…基材、2…バインダー、3…無機酸化物粒子、4…親水膜、5…親水膜中の空隙、6…観察対象試料、7…凹部、10…細胞分析用樹脂プレート。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4