IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧 ▶ 独立行政法人放射線医学総合研究所の特許一覧 ▶ 国立大学法人北海道大学の特許一覧 ▶ 公立大学法人福島県立医科大学の特許一覧

特開2024-25023放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法
<>
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図1
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図2
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図3
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図4
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図5
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図6
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図7
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図8
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図9
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図10
  • 特開-放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025023
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 59/26 20060101AFI20240216BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20240216BHJP
   B01J 20/34 20060101ALI20240216BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
B01D59/26
B01J20/26 E
B01J20/34 G
B01D15/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128110
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(71)【出願人】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(71)【出願人】
【識別番号】509013703
【氏名又は名称】公立大学法人福島県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】染 佳梨子
(72)【発明者】
【氏名】上野 悟史
(72)【発明者】
【氏名】小田 敬
(72)【発明者】
【氏名】樋口 博紀
(72)【発明者】
【氏名】ゲラゴメズ フランシスコ
(72)【発明者】
【氏名】永津 弘太郎
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 克行
(72)【発明者】
【氏名】久下 裕司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和弘
(72)【発明者】
【氏名】西嶋 剣一
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
【Fターム(参考)】
4D017AA01
4D017BA13
4D017BA15
4D017CA13
4D017DA01
4D017DB10
4G066AA34D
4G066AB19B
4G066AC22B
4G066CA12
4G066CA46
4G066GA11
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不純物が少ない放射性同位体を精製できる放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法を提供できる。
【解決手段】保持離脱部3は、放射性同位体を第1の樹脂材料にて保持する。これにより、放射性同位体は、放射性同位体含有溶液に含まれる不純物から分離される。次に、流体供給部1は、保持離脱部3へ保持された放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する。これにより、放射性同位体は、不純物を除去された状態にて、保持離脱部3から離脱して回収可能となる。保持離脱部3は、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させる。第1の樹脂材料がリン-酸素結合を有する化合物を含むことで、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製装置であって、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、前記放射性同位体を保持及び離脱させる保持離脱部を備え、
前記保持離脱部へ前記放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を前記保持離脱部へ供給し、前記保持離脱部へ保持された前記放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する、放射性同位体精製装置。
【請求項2】
前記第1の樹脂材料は、「(RO)(RO)(RO)PO」の化合物を有し、R,R,Rが、炭素数2~8の直鎖アルキル基、炭素数3~8の分岐アルキル基、不飽和結合を有する炭素数3~8の炭化水素基、または芳香族基である、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項3】
前記第1の樹脂材料は、リン酸トリブチル(TBP)、ジアミルアミルホスホン酸(DA[AP])、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)(HDEHP)、2-エチルヘキシルホスホン酸-2-エチルヘキシル(HEH[EHP])、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(H[DTMPP])の何れかの化合物を有する、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項4】
前記第1の樹脂材料は、リン酸トリブチルの化合物を有する、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項5】
前記保持離脱部から離脱された前記放射性同位体を含む前記抽出溶液の酸性度を調整する酸性度調整部を更に備える、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項6】
前記放射性同位体含有溶液は、前記抽出溶液よりも酸の濃度が高い、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項7】
前記保持離脱部へ前記抽出溶液を供給する前に、前記抽出溶液よりも酸の濃度が高い洗浄液を供給する、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項8】
前記放射性同位体含有溶液、及び前記抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、前記放射性同位体含有溶液は、3M~12Mの濃度を有する、請求項4に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項9】
前記放射性同位体含有溶液、及び前記抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、前記抽出溶液は、0.1M~2Mの濃度を有する、請求項4に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項10】
前記第1の樹脂材料は0.1mL~2.0mLの容量を有すると共にリン酸トリブチルの化合物を有し、前記洗浄液は3~10Mの濃度を有する塩酸溶液であり、前記洗浄液の量は10mL以上である、請求項7に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項11】
前記放射性同位体溶液に含有される前記放射性同位体は、加速器を用いて製造された、請求項1に記載の放射性同位体精製装置。
【請求項12】
放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製方法であって、
リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、前記放射性同位体を保持及び離脱させ、
前記放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を前記第1の樹脂材料へ供給し、
前記第1の樹脂材料で保持された前記放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する、
放射性同位体精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、病院等でのPET検査(ポジトロン断層撮影検査)等に使用される放射性同位体標識化合物が用いられる。このような標識化合物に用いられる放射性同位体としてGa-68が採用される(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-529115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Ga-68は、例えば、サイクロトロンにて固体ターゲットに粒子線を照射して、68Zn(p,n)68Gaの核反応により製造される。従って、この固体ターゲットを溶解したGa-68を含有する溶液の中には、ターゲット材料(Zn-68)や環境中からの金属イオン(代表的にはFeイオン)が混入する可能性がある。製造されたGa-68の物質量は非常に少ないため、他の金属イオンが混入することにより後の工程に悪影響を及ぼす懸念がある。
【0005】
従って、本発明は、不純物が少ない放射性同位体を精製できる放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係る放射性同位体精製装置は、放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製装置であって、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させる保持離脱部を備え、保持離脱部へ放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を保持離脱部へ供給し、保持離脱部へ保持された放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する。
【0007】
放射性同位体精製装置は、保持離脱部へ放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を保持離脱部へ供給する。これにより、保持離脱部は、放射性同位体を第1の樹脂材料にて保持する。これにより、放射性同位体は、放射性同位体含有溶液に含まれる不純物から分離される。次に、放射性同位体精製装置は、保持離脱部へ保持された放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する。これにより、放射性同位体は、不純物を除去された状態にて、保持離脱部から離脱して回収可能となる。ここで、保持離脱部は、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させる。第1の樹脂材料がリン-酸素結合を有する化合物を含むことで、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。以上より、不純物が少ない放射性同位体を精製できる。
【0008】
第1の樹脂材料は、「(RO)(RO)(RO)PO」の化合物を有し、R,R,Rが、炭素数2~8の直鎖アルキル基、炭素数3~8の分岐アルキル基、不飽和結合を有する炭素数3~8の炭化水素基、または芳香族基であってよい。この場合、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【0009】
第1の樹脂材料は、リン酸トリブチル(TBP)、ジアミルアミルホスホン酸(DA[AP])、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)(HDEHP)、2-エチルヘキシルホスホン酸-2-エチルヘキシル(HEH[EHP])、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(H[DTMPP])の何れかの化合物を有してよい。この場合、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【0010】
第1の樹脂材料は、リン酸トリブチル(TBP)の化合物を有してよい。この場合、保持離脱部として特に好ましい化合物を採用することで、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【0011】
放射性同位体精製装置は、保持離脱部から離脱された放射性同位体を含む前記抽出溶液の酸性度を調整する酸性度調整部を更に備えてよい。この場合、酸性度調整部にて、放射性同位体の酸性度をGa標識化合物の合成に適したものとすることができる。
【0012】
放射性同位体含有溶液は、抽出溶液よりも酸の濃度が高くてよい。放射性同位体含有溶液の酸の濃度は、第1の樹脂材料に対して放射性同位体を保持可能な濃度であり、抽出溶液の濃度は、第1の樹脂材料から放射性同位体を溶離可能な濃度である。これにより、放射性同位体含有溶液を第1の樹脂材料へ供給する際、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が良好に保持されつつ、不純物が分離され、その後、第1樹脂材料に保持されている放射性同位体を良好に精製できる。
【0013】
保持離脱部へ抽出溶液を供給する前に、抽出溶液よりも酸の濃度が高い洗浄液を供給してよい。洗浄液の酸の濃度は、第1の樹脂材料から放射性同位体を保持可能な酸の濃度であり、抽出溶液の濃度は、第1の樹脂材料から放射性同位体を溶離可能な濃度である。これにより、洗浄液で第1の樹脂材料を洗浄する際、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が良好に保持されつつ、放射性同位体含有溶液由来の不純物を除去し、その後、第1樹脂材料に保持されている放射性同位体を良好に精製できる。
【0014】
放射性同位体含有溶液、及び抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、放射性同位体含有溶液は、3M~12Mの濃度を有してよい。これにより、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が良好に保持される。
【0015】
放射性同位体含有溶液、及び抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、抽出溶液は、0.1M~2Mの濃度を有してよい。これにより、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して保持された放射性同位体を良好に離脱させることができる。
【0016】
第1の樹脂材料は0.1mL~2.0mLの容量を有すると共にリン酸トリブチルの化合物を有し、洗浄液は3~10Mの濃度を有する塩酸溶液であり、洗浄液の量は10mL以上であってよい。この場合、第1の樹脂材料から良好に不純物を除去できる。
【0017】
放射性同位体溶液に含有される放射性同位体は、加速器を用いて製造されてよい。この場合、高い収量にて必要な時に必要量の放射性同位体を得ることができる。
【0018】
本発明の一側面に係る放射性同位体精製方法は、放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製方法であって、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させ、放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を第1の樹脂材料へ供給し、第1の樹脂材料で保持された放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する。
【0019】
この放射性同位体精製方法によれば、上述の放射性同位体精製装置と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、不純物が少ない放射性同位体を精製できる放射性同位体精製装置、及び放射性同位体精製方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係る放射性同位体精製装置を示す概略構成図である。
図2】放射性同位体精製装置による精製方法を示す図である。
図3】各工程における放射性同位体精製装置での流体の流れを示す概略構成図である。
図4】各工程における放射性同位体精製装置での流体の流れを示す概略構成図である。
図5】各工程における放射性同位体精製装置での流体の流れを示す概略構成図である。
図6】各工程における放射性同位体精製装置での流体の流れを示す概略構成図である。
図7】各工程における放射性同位体精製装置での流体の流れを示す概略構成図である。
図8】第1の樹脂材料の化合物の化学構造の一例を示す図である。
図9】実験結果を示すグラフである。
図10】加速器を用いた放射性同位体精製システムを含む放射性薬剤生成システムの概念図である。
図11】ジェネレータを用いた放射性薬剤生成システムの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態に係る放射性同位体精製装置について説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係る放射性同位体精製装置100を示す概略構成図である。放射性同位体精製装置100は、放射性同位体としてGa-68を精製する装置である。放射性同位体精製装置100は、流体供給部1と、流体制御部2と、保持離脱部3と、廃液回収部4と、酸性度調整部6と、溶液回収部7と、を備える。なお、放射性同位体精製装置には、合成装置に設けられた放射性同位体精製機能を有する装置も含まれる。
【0024】
流体供給部1は、流体制御部2を介して、保持離脱部3及び酸性度調整部6へ流体を供給する。流体供給部1は、第1の供給部11、第2の供給部12、第3の供給部13、第4の供給部14、及び第5の供給部15を備える。
【0025】
第1の供給部11は、放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を保持離脱部3へ供給する。第1の供給部11は、放射性同位体含有溶液を収容するバイアルによって構成される。また、第1の供給部11には、窒素などの圧送ガスが供給されるラインL1が接続される。第1の供給部11には、上流側のサイクロトロン(固体ターゲット)から回収した放射性同位体含有溶液を輸送するラインL2が接続される。第1の供給部11には、流体制御部2へ放射性同位体含有溶液を供給するラインL3が接続される。放射性同位体含有溶液は、酸を含む水溶液であり、酸は、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、等から選択される。
【0026】
第2の供給部12は、洗浄液を保持離脱部3へ供給する。第2の供給部12は、洗浄液を収容するバイアルによって構成される。洗浄液として、例えば濃塩酸(6M塩酸)などが採用される。また、第2の供給部12には、流体制御部2へ洗浄液を供給するラインL4が接続される。第3の供給部13は、抽出溶液を保持離脱部3へ供給する。第3の供給部13は、抽出溶液を収容するバイアルによって構成される。抽出溶液として、例えば希塩酸(0.5M塩酸)などが採用される。また、第3の供給部13には、流体制御部2へ抽出溶液を供給するラインL5が接続される。
【0027】
第4の供給部14は、洗浄液を酸性度調整部6へ供給する。第4の供給部14は、洗浄液を収容するバイアルによって構成される。洗浄液として、例えば希塩酸(0.5M塩酸)などが採用される。また、第4の供給部14には、流体制御部2へ洗浄液を供給するラインL6が接続される。第5の供給部15は、抽出溶液を酸性度調整部6へ供給する。第5の供給部15は、抽出溶液を収容するバイアルによって構成される。抽出溶液として、例えば希塩酸(0.1M塩酸)などが採用される。また、第5の供給部15には、流体制御部2へ抽出溶液を供給するラインL7が接続される。
【0028】
保持離脱部3は、第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させる。保持離脱部3は、第1の樹脂材料をカラムに収容することによって構成される。保持離脱部3の入口部には、流体制御部2からのラインL8が接続され、出口部には、流体制御部2へ延びるラインL9が接続される。
【0029】
保持離脱部3は、流体供給部1の第1の供給部11から供給された放射性同位体含有溶液を供給されることで、当該放射性同位体含有溶液に含まれる放射性同位体を、第1の樹脂材料に保持する。保持離脱部3は、放射性同位体含有溶液に含まれる不純物(ターゲット材に含まれるZn等の不純物)を溶液と共に通過させてラインL9へ流す。保持離脱部3は、流体供給部1の第2の供給部12から供給された洗浄液を供給されることで、残存している不純物を離脱させて、洗浄液と共にラインL9へ流す。保持離脱部3から流れた不純物は、流体制御部2を介して廃液回収部4にて回収される。
【0030】
また、保持離脱部3は、流体供給部1の第3の供給部13から供給された抽出溶液を供給されることで、保持している放射性同位体を離脱させて、抽出溶液と共にラインL9へ流す。保持離脱部3から離脱した放射性同位体は、流体制御部2を介して酸性度調整部6へ供給される。
【0031】
第1の供給部11から供給される放射性同位体含有溶液、及び第2の供給部12から供給される洗浄液は、第3の供給部13から供給される抽出溶液よりも酸の濃度が高い。放射性同位体含有溶液および洗浄液は、放射性同位体を第1の樹脂材料に保持させるために、高い酸の濃度を有する。一方、抽出溶液は、保持離脱部3から放射性同位体を離脱させるため、比較的低い酸の濃度を有する。
【0032】
放射性同位体含有溶液、洗浄液、および抽出溶液がそれぞれ塩酸溶液である場合、放射性同位体含有溶液、および洗浄液は、例えば、3~12M、好ましくは6~10Mの濃度を有する。3M以上であることにより、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が保持される。抽出溶液は、例えば、0.1~2M、好ましくは0.1~0.5Mの濃度を有する。これにより、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して保持された放射性同位体を離脱させることができる。
【0033】
保持離脱部3に使用される第1の樹脂材料は0.1mL~2.0mLの容量を有し、好ましくは0.3mLの容量を有する。この保持離脱部3の洗浄に使用する洗浄液の濃度は3~10Mであり、好ましくは6Mである。0.3mLの容量の第1の樹脂材料を使用し、洗浄液を6Mの塩酸とした時、その洗浄液量は10mL以上が必要であり、好ましくは10mLである。
【0034】
酸性度調整部6は、保持離脱部3から離脱された放射性同位体を含む抽出溶液の酸性度を調整する。例えば、本実施形態における放射性同位体の精製後の放射性同位体溶液が、薬剤合成するのに好適な反応溶液の水素イオン濃度(pH)となるように、酸性度調整部6を用いて調整が行うことができる。酸性度調整部6は、第2の樹脂をカラムに収容することによって構成される。酸性度調整部6の入口部には、流体制御部2からのラインL11が接続され、出口部には、流体制御部2へ延びるラインL12が接続される。
【0035】
酸性度調整部6は、保持離脱部3から供給された放射性同位体を含む抽出溶液を供給されることで、当該抽出溶液に含まれる放射性同位体を、第2の樹脂材料に保持する。酸性度調整部6は、抽出溶液に含まれる不純物を抽出溶液と共に通過させてラインL12へ流す。酸性度調整部6は、流体供給部1の第4の供給部14から供給された洗浄液を供給されることで、残存している不純物を離脱させて、洗浄液と共にラインL12へ流す。酸性度調整部6から流れた不純物は、流体制御部2を介して廃液回収部4にて回収される。
【0036】
また、酸性度調整部6は、流体供給部1の第5の供給部15から供給された抽出溶液を供給されることで、目的物である放射性同位体であるGa-68を標識反応に適した酸性度のGa-68塩酸溶液としてラインL12へ流す。酸性度調整部6から溶出した放射性同位体の溶液は、流体制御部2を介して溶液回収部7へ供給される。
【0037】
廃液回収部4は、保持離脱部3からの廃液、及び酸性度調整部6からの廃液を回収する。廃液回収部4は、廃液を収容するバイアルによって構成される。廃液回収部4には、流体制御部2から延びて、保持離脱部3の廃水が供給されるラインL13と、酸性度調整部6の廃水が供給されるラインL14と、が接続される。また、廃液回収部4を減圧するラインL16が接続される。
【0038】
溶液回収部7は、酸性度調整部6からの放射性同位体の溶液を回収する。溶液回収部7は、溶液を収容するバイアルによって構成される。溶液回収部7には、流体制御部2から延びて、酸性度調整部6からの溶液が供給されるラインL17が接続される。また、廃液回収部4を減圧するラインL18が接続される。
【0039】
流体制御部2は、放射性同位体精製装置100の中における各流体の流れを制御するための装置である。流体制御部2は、複数の弁と、複数のラインを備えており、複数の弁を制御することによって、各ラインにおける流体の流れを制御する。
【0040】
流体制御部2は、第1の供給部11からのラインL3と、保持離脱部3に接続されるラインL8と、に接続されるラインL20を有する。ラインL20は、ラインL3側から順に、弁VP3,VP1,VP33,VP34に接続される。ラインL20のうち、弁VP1とVP33との間からラインL21、及びラインL22が延びる。ラインL21は、弁VP17,VP18に接続される。ラインL22は、弁VP20,VP21,VP24に接続され、ラインL21に合流する。
【0041】
ラインL23は、第2の供給部12からのラインL4に接続され、弁VP4に接続され、ラインL20の弁VP3,VP1間に接続される。ラインL24は、第3の供給部13からのラインL5に接続され、弁VP5,VP2に接続され、ラインL21に合流する。ラインL26は、第4の供給部14からのラインL6に接続され、弁VP6に接続され、ラインL24の弁VP5,VP2間に接続される。ラインL27は、外部のラインL10に接続され、弁VP8,VP19に接続され、ラインL21の弁VP18とラインL22の合流部との間に接続される。ラインL28は、第5の供給部15からのラインL7に接続され、弁VP7に接続され、ラインL27の弁VP8,VP19間に接続される。
【0042】
ラインL31は、ラインL22の弁VP20,VP21間に接続され、弁VP22,VP36に接続され、保持離脱部3からのラインL9に接続される。ラインL32は、ラインL31の弁VP22,VP36間に接続され、弁VP35に接続され、廃液回収部4へのラインL13に接続される。ラインL33は、ラインL22の弁VP21,VP24間に接続され、弁VP23,VP39に接続され、酸性度調整部6へのラインL11に接続される。
【0043】
ラインL36は、酸性度調整部6からのラインL12に接続され、弁VP41,VP40に接続され、廃液回収部4へのラインL14に接続される。ラインL37は、ラインL36の弁VP41,VP40間に接続され、弁VP30,VP28,VP31,VP42に接続され、溶液回収部7へのラインL17に接続される。
【0044】
図2を参照して、放射性同位体精製装置100による放射性同位体精製方法について説明する。図2に示すように、まず、保持離脱部3へ放射性同位体含有溶液を充填する(ステップS10)。この場合、図3に示すように、第1の供給部11が、ラインL3、ラインL20、ラインL8を介して、放射性同位体含有溶液を保持離脱部3へ供給する(流れF1)。放射性同位体溶液中の放射性同位体は保持離脱部3の第1の樹脂材料に保持される。また、不純物を含む溶液は、保持離脱部3を通過して、ラインL9、ラインL31、ラインL32、ラインL13を介して、廃液回収部4へ回収される(流れF2)。ここでは、第1の供給部11に窒素を圧送し、廃液回収部4を減圧することで、放射性同位体含有溶液及び廃液を流す。
【0045】
次に、洗浄液で保持離脱部3を洗浄する(ステップS20)。この場合、図4に示すように、第2の供給部12が、ラインL4、ラインL23、ラインL20、ラインL8を介して、洗浄液を保持離脱部3へ供給する(流れF3)。洗浄液は、保持離脱部3の第1の樹脂材料に保持された不純物を、ラインL9、ラインL31、ラインL32、ラインL13を介して、廃液回収部4へ回収される(流れF4)。ここでは、廃液回収部4を減圧することで、洗浄液及び廃液を流す。
【0046】
次に、保持離脱部3へ抽出溶液を流して放射性同位体を離脱させて抽出する(ステップS30)と共に、酸性度調整部6へ充填する(ステップS40)。この場合、図5に示すように、第3の供給部13が、ラインL5、ラインL24、ラインL21、ラインL20、ラインL8を介して、抽出溶液を保持離脱部3へ供給する(流れF5)。抽出溶液は、保持離脱部3の第1の樹脂に保持された放射性同位体を抽出して、ラインL9、ラインL31、ラインL22、ラインL33、ラインL11を介して、酸性度調整部6へ供給される(流れF6)。放射性同位体は酸性度調整部6で保持されて、不純物は、ラインL12、ラインL36、ラインL14を介して、廃液回収部4へ回収される(流れF7)。ここでは、廃液回収部4を減圧することで、抽出溶液及び廃液を流す。
【0047】
次に、洗浄液で酸性度調整部6を洗浄する(ステップS50)。この場合、図6に示すように、第4の供給部14が、ラインL6、ラインL26、ラインL24、ラインL21、ラインL20、ラインL22、ラインL33、ラインL11を介して、洗浄液を酸性度調整部6へ供給する(流れF8)。洗浄液は、酸性度調整部6の第2の樹脂に保持された不純物を、ラインL12、ラインL36、ラインL14を介して、廃液回収部4へ回収される(流れF9)。ここでは、廃液回収部4を減圧することで、洗浄液及び廃液を流す。
【0048】
次に、酸性度調整部6へ抽出溶液を流して酸性度を調整して放射性同位体を抽出する(ステップS60)。この場合、図7に示すように、第5の供給部15が、ラインL7、ラインL28、ラインL27、ラインL21、ラインL22、ラインL33、ラインL11を介して、抽出溶液を酸性度調整部6へ供給する(流れF10)。抽出溶液は、酸性度調整部6の第2の樹脂に保持された放射性同位体を、ラインL12、ラインL36、ラインL37、ラインL17を介して、溶液回収部7へ回収される(流れF11)。ここでは、溶液回収部7を減圧することで、抽出溶液を流す。
【0049】
次に、第1の樹脂材料について説明する。第1の樹脂材料は、リン-酸素結合を有する化合物を含む。第1の樹脂材料は、不活性支持体にこのような化合物を含浸させたものである。当該化合物は、「(RO)(RO)(RO)PO」と示したときに、R,R,Rが以下のいずれかの基である化合物であってよい。

(i)炭素数2~8の直鎖アルキル基であってよく、より好ましくは、エチル基(炭素数2の直鎖アルキル基)、プロピル基(炭素数3の直鎖アルキル基)、ペンチル基(炭素数5の直鎖アルキル基)、ヘキシル基(炭素数6の直鎖アルキル基)、オクチル基(炭素数8の直鎖アルキル基)を採用してよい。

(ii)炭素数3~8の分岐アルキル基であってよく、より好ましくは、イソプロピル基(炭素数3の分岐アルキル基)、イソブチル基(炭素数4の分岐アルキル基)を採用してよい。

(iV)不飽和結合を有する炭素数3~8の炭化水素基であってよい。

(V)芳香族基であってよく、より好ましくはフェニル基、トリル基であってよい。
【0050】
また、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料は、図8(a)に示す化学構造を有するリン酸トリブチル(TBP)の化合物を含んでよい。第1の樹脂材料は、図8(b)に示す化学構造を有するジアミルアミルホスホン酸(DA[AP])の化合物を有してよい。第1の樹脂材料は、図8(c)に示す化学構造を有するトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)の化合物を含んでよい。第1の樹脂材料は、図8(d)に示す化学構造を有するリン酸ビス(2-エチルヘキシル)(HDEHP)の化合物を含んでよい。第1の樹脂材料は、図8(e)に示す化学構造を有する2-エチルヘキシルホスホン酸-2-エチルヘキシル(HEH[EHP])の化合物を含んでよい。第1の樹脂材料は、図8(f)に示す化学構造を有するビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(H[DTMPP])の化合物を含んでよい。図8に示すRはブチル基である。
【0051】
上述の化合物の内、図8(a)に示すリン酸トリブチル(TBP)の化合物を含むものを採用することが好ましい。リン酸トリブチルは、「(RO)(RO)(RO)PO」と示したときに、R,R,Rが「CHCHCHCH-」である。
【0052】
第2の樹脂材料として、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)などが採用されてよい。多くの樹脂において、Ga-68は、1~2Mの塩酸では保持されないが、このトリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)は、塩酸濃度が1~2Mの場合でも樹脂中に十分保持されるという特徴を有する。
【0053】
次に、本実施形態に係る放射性同位体精製装置100の作用・効果について説明する。
【0054】
放射性同位体精製装置100は、保持離脱部3へ放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を保持離脱部3へ供給する。これにより、保持離脱部3は、放射性同位体を第1の樹脂材料にて保持する。これにより、放射性同位体は、放射性同位体含有溶液に含まれる不純物から分離される。次に、放射性同位体精製装置100は、保持離脱部3へ保持された放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する。これにより、放射性同位体は、不純物を除去された状態にて、保持離脱部3から離脱して回収可能となる。ここで、保持離脱部3は、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させる。第1の樹脂材料がリン-酸素結合を有する化合物を含むことで、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。以上より、不純物が少ない放射性同位体を精製できる。
【0055】
第1の樹脂材料は、「(RO)(RO)(RO)PO」の化合物を有し、R,R,Rが、炭素数2~8の直鎖アルキル基、炭素数3~8の分岐アルキル基、不飽和結合を有する炭素数4~8の炭化水素基、または芳香族基であってよい。この場合、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【0056】
第1の樹脂材料は、リン酸トリブチル(TBP)、ジアミルアミルホスホン酸(DA[AP])、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)(HDEHP)、2-エチルヘキシルホスホン酸-2-エチルヘキシル(HEH[EHP])、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(H[DTMPP])の何れかの化合物を有してよい。この場合、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【0057】
第1の樹脂材料は、リン酸トリブチル(TBP)の化合物を有してよい。この場合、保持離脱部3として特に好ましい化合物を採用することで、放射性同位体に混入する不純物を低減して、少ない抽出溶液の量で放射性同位体を抽出することが可能となる。
【0058】
放射性同位体精製装置100は、保持離脱部3から離脱された放射性同位体を含む抽出溶液の酸性度を調整する酸性度調整部6を更に備えてよい。この場合、酸性度調整部6にて、放射性同位体の酸性度をGa標識化合物の合成に適したものとすることができる。
【0059】
放射性同位体含有溶液は、抽出溶液よりも酸の濃度が高くてよい。放射性同位体含有溶液の酸の濃度は、第1の樹脂材料に対して放射性同位体を保持可能な濃度であり、抽出溶液の濃度は、第1の樹脂材料から放射性同位体を溶離可能な濃度である。これにより、放射性同位体含有溶液を第1の樹脂材料へ供給する際、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が良好に保持されつつ、不純物が分離され、その後、第1樹脂材料に保持されている放射性同位体を良好に精製できる。
【0060】
保持離脱部3へ抽出溶液を供給する前に、抽出溶液よりも酸の濃度が高い洗浄液を供給してよい。洗浄液の酸の濃度は、第1の樹脂材料から放射性同位体を保持可能な酸の濃度であり、抽出溶液の濃度は、第1の樹脂材料から放射性同位体を溶離可能な濃度である。これにより、洗浄液で第1の樹脂材料を洗浄する際、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が良好に保持されつつ、放射性同位体含有溶液由来の不純物を除去し、その後、第1樹脂材料に保持されている放射性同位体を良好に精製できる。
【0061】
放射性同位体含有溶液、及び抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、放射性同位体含有溶液は、3M~12Mの濃度を有してよい。これにより、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して放射性同位体が良好に保持される。
【0062】
放射性同位体含有溶液、及び抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、抽出溶液は、0.1M~2Mの濃度を有してよい。これにより、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料に対して保持された放射性同位体を良好に離脱させることができる。
【0063】
第1の樹脂材料は0.1mL~2.0mLの容量を有すると共にリン酸トリブチルの化合物を有し、洗浄液は3~10Mの濃度を有する塩酸溶液であり、洗浄液の量は10mL以上であってよい。この場合、第1の樹脂材料から良好に不純物を除去できる。
【0064】
放射性同位体溶液に含有される放射性同位体は、加速器を用いて製造されてよい。この場合、高い収量にて必要な時に必要量の放射性同位体を得ることができる。
【0065】
本発明の一側面に係る放射性同位体精製方法は、放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製方法であって、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、放射性同位体を保持及び離脱させ、放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を第1の樹脂材料へ供給し、第1の樹脂材料で保持された放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する。
【0066】
この放射性同位体精製方法によれば、上述の放射性同位体精製装置100と同趣旨の作用・効果を得ることができる。
【0067】
図9(a)は、保持離脱部3の第1の樹脂材料としてヒドロキサム酸樹脂(代表的な市販品としてTrisKem社ZRレジン)を用いた比較例に係る放射性同位体精製装置に係るGa-68の精製実験を行った結果を示すグラフである。図9(b)は、実施例1に係る放射性同位体精製装置に係るGa-68の精製実験を行った結果を示すグラフである。実施例1の精製条件について説明する。実施例1では、保持離脱部3の第1の樹脂材料としてTBPの化合物を有する樹脂材料を用いた。保持離脱部3への充填時には、6Mの塩酸を10mLの液量で供給した。保持離脱部3の洗浄時には6Mの塩酸を30mLの液量で供給した。保持離脱部3からの抽出(酸性度調整部6への充填)時には0.1Mの塩酸を20mLの液量で供給した。
【0068】
図9の横軸において前半のフラクションNoでは、保持離脱部3に対して放射性同位体含有容器を供給し、洗浄液としての塩酸を供給している。図9(a)では、フラクションNо30~40のタイミングで、図9(b)では、フラクションNo40~50のタイミングで、保持離脱部3に対して抽出溶液としての塩酸を供給している。一回のフラクションで供給される溶液の量は一定とされている。図9の縦軸は、保持離脱部3から出てくる金属イオンの量を示す。図9(a)及び図9(b)に示すように、実施例1においては、比較例よりも少ないフラクションNоにて、Fe及びZnの抽出が完了している。また、図9(a)の比較例では3~4フラクションにてGa-68の抽出が完了しているのに比して、図9(b)の実施例1では1フラクションにてGa-68の抽出が完了している。このように、本実施例1では、少量の溶液で不純物の除去が可能であり、少量の抽出溶液にてGa-68の抽出が可能であることが確認できる。少ない溶液で不純物の除去やGa-68の抽出をできる場合、Ga-68の濃度調整等を制御し易くなる。
【0069】
(実施例2)
次に、実施例2について説明する。実施例2においては、手技での精製効率の確認を行った。ここでは、少量のGa-68を加速器で生産して、手技での分離精製試験をおこなった。実施例2の精製条件について説明する。保持離脱部3の第1の樹脂材料として、TBPの化合物を有する樹脂材料を0.3mLの樹脂容量にて採用した。酸性度調整部6の第2の樹脂材料として、TOPOの化合物を有する樹脂材料を2.0mLの樹脂容量にて採用した。保持離脱部3への充填時には、10Mの塩酸を6mLの液量で供給した。保持離脱部3の洗浄時には、6Mの塩酸を5mLの液量で供給した。保持離脱部3からの抽出(酸性度調整部6への充填)時には、0.5Mの塩酸を5mLの液量で供給した。酸性度調整部6の洗浄時には、0.5Mの塩酸を5mLの液量で供給した。酸性度調整部6からの抽出時には、0.1Mの塩酸を3mLの液量で供給した。
【0070】
試験結果について説明する。放射性同位体の保持率は、保持離脱部3への充填時が98.7%、保持離脱部3の洗浄時が99.9%、酸性度調整部6への充填時が96.0%、酸性度調整部6の洗浄時が96.7%となった。放射性同位体の脱離率(抽出率)は、保持離脱部3からの抽出時が91.0%、酸性度調整部6からの抽出時が99.4%となった。全効率は82.8%となった。
【0071】
保持率の確認方法について説明する。保持離脱部3への充填時については、樹脂材料に充填される前の溶液の放射線量Aを測定し、樹脂材料にその溶液を全量充填した後の樹脂材料の放射線量Bを測定し、放射線量Aに対する放射線量Bの割合を計算した。保持離脱部3の洗浄時については、樹脂材料にその溶液を全量充填した後の樹脂材料の放射線量Bを測定し、洗浄した後の樹脂材料の放射線量Cを測定し、放射線量Bに対する放射線量Cの割合を計算した。保持離脱部3からの抽出については、洗浄した後の樹脂材料の放射線量Cを測定し、保持離脱部3から抽出した溶液の放射線量Dを測定し、放射線量Cに対する放射線量Dの割合を計算した。酸性度調整部6に関する保持率の確認方法は、保持離脱部3の方法と同様に行われた。なお、上記各放射線量は、同時刻における放射線量となるように、実測値が減衰補正されたものである。
【0072】
(実施例3)
実施例3について説明する。この精製では、実際に薬剤製造に使用するスケールのGa-68を加速器で製造し、欧州薬局方に記載されているZnとFeの金属混入量を基準値以下とするための液量の条件決めを行った。
【0073】
実施例3の精製条件について説明する。保持離脱部3の第1の樹脂材料として、TBPの化合物を有する樹脂材料を0.3mLの樹脂容量にて採用した。酸性度調整部6の第2の樹脂材料として、TOPOの化合物を有する樹脂材料を2.0mLの樹脂容量にて採用した。保持離脱部3への充填時には、10Mの塩酸を10mLの液量で供給した。保持離脱部3の洗浄時には、6Mの塩酸を10mLの液量で供給した。保持離脱部3からの抽出(酸性度調整部6への充填)時には、0.5Mの塩酸を5mLの液量で供給した。酸性度調整部6の洗浄時には、0.5Mの塩酸を5mLの液量で供給した。酸性度調整部6からの抽出時には、0.1Mの塩酸を3mLの液量で供給した。
【0074】
試験結果について説明する。酸性度調整部6からの抽出液の金属イオン混入量を測定したところ、Fe混入量は0.38(μg/GBq)となり、欧州薬局方基準である10(μg/GBq)より少ないという条件を満たしていた。Zn混入量は0.75(μg/GBq)となり、欧州薬局方基準である10(μg/GBq)より少ないという条件を満たしていた。このように、欧州薬局方に記される金属イオンの混入量基準を満たす結果が得られた。
【0075】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0076】
上述の実施形態において、サイクロトロンを用いて製造された放射性同位体を含有する放射性同位体含有溶液が用いられているが、放射性同位体含有溶液に含有される放射性同位体の製造方法はこれに限定されるものではない。例えば、サイクロトロン、シンクロトロン、シンクロサイクロトロン等、加速器を用いて製造された放射性同位体であればよい。
【0077】
図10は、加速器を用いた放射性同位体精製システムを含む放射性薬剤生成システムの概念図である。サイクロトロンなど、粒子線を用いた放射性同位体の製造において、原料としてZn-68が用いられる。Zn-68のターゲットに、粒子線が照射されることにより、Ga-68が生成される一方で、不純物としてのZnがGa-68と混在した状態となる。この不純物を除去するために、本発明の放射性同位体精製装置100を用いる。
【0078】
図10に示すように、放射性同位体精製システム200は、加速器101と、溶解装置102と、放射性同位体精製装置100と、を備える。放射性薬剤生成システム301は、放射性同位体精製システム200と、標識合成装置103とを備える。加速器101は、当該加速器101で加速したプロトンを固体のZn-68に照射し、核反応でGa-68を生産する。加速器101から溶解装置102へ向かう経路では、機械式、あるいは作業員搬送で照射済みターゲットを運搬し、溶解装置102に投入(設置)される。溶解装置102は、照射済みのZn-68を塩酸で溶解し、塩酸溶液とする。当該溶解液は、放射性同位体精製装置100へ液送される。放射性同位体精製装置100は、前述の実施形態に係る構成を用いて、Ga-68の分離精製を行う。精製されたGa-68の溶液は、標識合成装置103へ液送される。標識合成装置103は、精製されたGa-68の溶液を用いて、標識薬剤合成を行う。
【0079】
一方、比較実施形態として、ジェネレータを用いた放射性薬剤生成システム302について説明する。図11は、ジェネレータを用いた放射性薬剤生成システムの概念図である。ジェネレータを用いた放射性同位体溶液の製造において、原料としてカラムに保持されたGe-68が用いられる。時間の経過により、Ge-68はGa-68へと壊変する。この生成したGa-68は上記カラムへの保持力は低いため、例えば、0.1M塩酸で容易に単離抽出ができる。ジェネレータで製造されたGa-68溶液には、通常の使用法において後工程で問題となるような不純物の混入が生じにくいため、後工程で、得られたGa-68ついて新たな精製工程を行わなくてもよい。
【0080】
図11に示すように、放射性薬剤生成システム302は、ジェネレータ201と、標識合成装置203と、を備える。ジェネレータ201は、ジェネレータ201内のカラムに保持されたGe-68が、時間経過で、Ga-68に壊変する。ジェネレータ201の樹脂に希塩酸(0.1M塩酸)を流すことで、Ga-68が溶出して、標識合成装置203へ液送される。標識合成装置203は、精製されたGa-68の溶液を用いて、標識薬剤合成を行う。
【0081】
加速器を用いて放射性同位体を製造する場合、高収量(放射線量:数GBq~数十GBq)で放射性同位体を得ることができ、必要な時に必要量を製造できるというメリットがある。なお、毎回の精製作業が必要となるが、本発明により効率よく、純度の高い精製が可能になった。
【0082】
ジェネレータを用いて放射性同位体を製造する場合、院内サイクロトロンが不要となり、特別な化学操作なしに、希塩酸を流すだけで標識に使える溶液を得られるというメリットがある。一方、低収量(数百MBq~1GBq強)であり、1日のミルキング(ジェネレータから放射性同位体を取り出す)の回数の制限があるとうデメリットがある。また、使用しない時もGe-68は減衰し続けるというデメリットがある。加速器を用いる場合、これらのデメリットを回避できる。
【0083】
放射性同位体含有溶液、洗浄液、および抽出液を送液する配管は、限定されるものではないが、放射性同位体含有溶液に対して耐性を有する樹脂で形成されることが好ましい。「耐性」は、放射性同位体含有溶液が接触することにより、樹脂の持っている物理的性質を保てなくなることがないことである。溶液に含まれる溶媒が塩酸の場合は、配管の材料として、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂、ポリフェニレンサルファイド (PPS)、等を好適に用いることができる。
【0084】
図10の放射性同位体精製システム200において、Zn-68の固体ターゲットを用いてGa-68を生成しているが、例えば液体ターゲットを用いて放射性同位体を生成してもよい。また、例えば、図1に示す放射性同位体精製装置の構造は一例にすぎず、適宜変更してもよい。
【0085】
[形態1]
放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製装置であって、リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、前記放射性同位体を保持及び離脱させる保持離脱部を備え、
前記保持離脱部へ前記放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を前記保持離脱部へ供給し、前記保持離脱部へ保持された前記放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する、放射性同位体精製装置。
[形態2]
前記第1の樹脂材料は、「(RO)(RO)(RO)PO」の化合物を有し、R,R,Rが、炭素数2~8の直鎖アルキル基、炭素数3~8の分岐アルキル基、不飽和結合を有する炭素数3~8の炭化水素基、または芳香族基である、形態1に記載の放射性同位体精製装置。
[形態3]
前記第1の樹脂材料は、リン酸トリブチル(TBP)、ジアミルアミルホスホン酸(DA[AP])、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO)、リン酸ビス(2-エチルヘキシル)(HDEHP)、2-エチルヘキシルホスホン酸-2-エチルヘキシル(HEH[EHP])、ビス(2,4,4-トリメチルペンチル)ホスフィン酸(H[DTMPP])の何れかの化合物を有する、形態1に記載の放射性同位体精製装置。
[形態4]
前記第1の樹脂材料は、リン酸トリブチルの化合物を有する、形態1に記載の放射性同位体精製装置。
[形態5]
前記保持離脱部から離脱された前記放射性同位体を含む前記抽出溶液の酸性度を調整する酸性度調整部を更に備える、形態1~4の何れか一項に記載の放射性同位体精製装置。
[形態6]
前記放射性同位体含有溶液は、前記抽出溶液よりも酸の濃度が高い、形態1~5の何れか一項に記載の放射性同位体精製装置。
[形態7]
前記保持離脱部へ前記抽出溶液を供給する前に、前記抽出溶液よりも酸の濃度が高い洗浄液を供給する、形態1~6の何れか一項に記載の放射性同位体精製装置。
[形態8]
前記放射性同位体含有溶液、及び前記抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、前記放射性同位体含有溶液は、3M~12Mの濃度を有する、形態4に記載の放射性同位体精製装置。
[形態9]
前記放射性同位体含有溶液、及び前記抽出溶液はそれぞれ塩酸溶液であり、前記抽出溶液は、0.1M~2Mの濃度を有する、形態4又は8に記載の放射性同位体精製装置。
[形態10]
前記第1の樹脂材料は0.1mL~2.0mLの容量を有すると共にリン酸トリブチルの化合物を有し、前記洗浄液は3~10Mの濃度を有する塩酸溶液であり、前記洗浄液の量は10mL以上である、形態7に記載の放射性同位体精製装置。
[形態11]
前記放射性同位体溶液に含有される前記放射性同位体は、加速器を用いて製造された、形態1~10の何れか一項に記載の放射性同位体精製装置。
[形態12]
放射性同位体としてGa-68を精製する放射性同位体精製方法であって、
リン-酸素結合を有する化合物を含む第1の樹脂材料によって、前記放射性同位体を保持及び離脱させ、
前記放射性同位体を含む放射性同位体含有溶液を前記第1の樹脂材料へ供給し、
前記第1の樹脂材料で保持された前記放射性同位体を抽出する抽出溶液を供給する、
放射性同位体精製方法。
【符号の説明】
【0086】
1…流体供給部、2…流体制御部、3…保持離脱部、6…酸性度調整部、100…放射性同位体精製装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11