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特開2024-2518臨床能力評価装置、臨床能力評価方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002518
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】臨床能力評価装置、臨床能力評価方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 10/00 20180101AFI20231228BHJP
【FI】
G16H10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101749
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】520354795
【氏名又は名称】株式会社ビーライズ
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100196380
【弁理士】
【氏名又は名称】森 匡輝
(72)【発明者】
【氏名】服部 稔
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 勇
(72)【発明者】
【氏名】蓮沼 直子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信也
(72)【発明者】
【氏名】粟井 和夫
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA15
(57)【要約】
【課題】医療面接と身体診察とを含む臨床能力を、多様な症例について容易に評価することができる臨床能力評価装置、臨床能力評価方法及びプログラムを提供する。
【解決手段】臨床能力評価装置11は、患者の症例を表すシナリオデータを記憶する記憶部31と、シナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る被験者の選択項目及び患者の応答を含む情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって被験者に提示する提示部32と、被験者の臨床能力を評価する評価部202と、を備える。シナリオデータは、被験者が選択すべき選択項目を表すキーポイント情報と、選択順序を表す順序情報とを含む面接シナリオデータ及び診察シナリオデータとを含む。評価部202は、制限時間内に選択すべき選択項目が選択されたか、所定の順序に従って選択されたかを判定することにより、被験者の臨床能力を評価する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の症例を表すシナリオデータを記憶する記憶部と、
前記シナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対する患者の応答を含む情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部と、
前記被験者の臨床能力を評価する評価部と、を備え、
前記シナリオデータは、
医療面接に係る面接シナリオデータと身体診察に係る診察シナリオデータとを含み、
前記面接シナリオデータ及び前記診察シナリオデータは、前記被験者が選択すべき前記選択項目を表すキーポイント情報と、前記被験者が選択すべき前記選択項目の選択順序を表す順序情報とを含み、
前記評価部は、
前記キーポイント情報に基づいて、予め設定された制限時間内に、選択すべき前記選択項目が選択されたか否かを判定するとともに、
前記順序情報に基づいて、前記被験者が選択すべき前記選択項目が所定の順序に従って選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する、
臨床能力評価装置。
【請求項2】
前記評価部は、
前記キーポイント情報に基づいて、選択すべきでない前記選択項目が選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する、
請求項1に記載の臨床能力評価装置。
【請求項3】
前記シナリオデータは、難易度の異なる複数のサブシナリオを含み、
前記評価部は、
所定の経過時間における選択すべき前記選択項目の選択状況に基づいて、実施するサブシナリオを選択する、
請求項1に記載の臨床能力評価装置。
【請求項4】
前記評価部は、
前記被験者の臨床能力の評価結果とともに、前記被験者が次回実施すべき前記シナリオデータを提示する、
請求項1に記載の臨床能力評価装置。
【請求項5】
患者の症例を表し、医療面接に係る面接シナリオデータと身体診察に係る診察シナリオデータとを含むシナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対する患者の応答を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示し、
前記面接シナリオデータ及び前記診察シナリオデータに含まれ、前記被験者が選択すべき前記選択項目を表すキーポイント情報に基づいて、予め設定された制限時間内に、選択すべき前記選択項目が選択されたか否かを判定するとともに、
前記面接シナリオデータ及び前記診察シナリオデータに含まれ、前記被験者が選択すべき前記選択項目の選択順序を表す順序情報に基づいて、前記被験者が選択すべき前記選択項目が所定の順序に従って選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する、
臨床能力評価方法。
【請求項6】
コンピュータを、
患者の症例を表し、被験者が選択すべき選択項目を表すキーポイント情報及び前記被験者が選択すべき前記選択項目の選択順序を表す順序情報が含まれる医療面接に係る面接シナリオデータ及び身体診察に係る診察シナリオデータを含むシナリオデータを記憶する記憶部、
前記シナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る前記被験者の前記選択項目及び前記選択項目に対する患者の応答を含む情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部、
前記キーポイント情報に基づいて、予め設定された制限時間内に、選択すべき前記選択項目が選択されたか否かを判定するとともに、前記順序情報に基づいて、前記被験者が選択すべき前記選択項目が所定の順序に従って選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する評価部、
として機能させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臨床能力評価装置等に関し、より詳細にはコンピュータ装置を用いて仮想的に症例を提示して被験者の臨床能力を評価する臨床能力評価装置、臨床能力評価方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、医療行為に係る能力の向上を目的としたシミュレーション技術が種々開発されている。例えば、特許文献1では、身体診察、手技等を行うための患者のシミュレータが提案されている。また、特許文献2では、医療面接におけるモデル患者の心理学的な変化をシミュレートするシミュレーションシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-305101号公報
【特許文献2】国際公開第2007/026715号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、医学、看護学、薬学等の分野において、学生が実際の臨床現場で患者に対して医療行為等を行う能力を有しているか否か評価するものとしてOSCE(Objective Structured Clinical Examination:客観的臨床能力試験)の活用が拡がっている。例えば、医学系のOSCEでは、模擬患者に対して医療面接、身体診察等を行い、これらの行為の内容、診断報告の内容等に基づいて臨床能力が評価される。しかしながら、臨床実習前で、医師免許を持たない学生が模擬患者に対して医療行為を行うには制限がある。また、臨床実習中の学生、医師免許を持つ医師が未知の症例に接する機会を得ることは難しく、医師と患者との都合を合わせる必要があるなど、効率的に臨床能力を向上させることは難しい。
【0005】
このような、臨床能力向上のための研修等にシミュレーション技術を活用し、効率的に臨床能力評価を行うことが考えられる。実際の臨床現場では、医療面接と身体診察とにおいて、患者の症状によって適切な質問、診察を、適切な手順で行うこと、また、なるべく不要な身体診察を行わずスムーズに診察を進めること等、医療面接と身体診察とに係る行為が適切に組み合わされていることが求められる。しかしながら、特許文献1の方法は身体診察を対象としており、特許文献2の方法は医療面接を対象としているので、適切な臨床能力の評価を行うことは難しい。
【0006】
また、人間を模擬患者としたり、実体のある患者人形を用いたりする従来の方法では、多様な症例に対して、これら医療面接と身体診察とを含む総合的な臨床能力を評価することは難しい。また、従来の方法では、被験者が自己の臨床能力に適した症例に接して経験を積み、効率よく臨床能力を向上させることは難しい。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、医療面接と身体診察とを含む臨床能力を、多様な症例について容易に評価することができる臨床能力評価装置、臨床能力評価方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、この発明の第1の観点に係る臨床能力評価装置は、
患者の症例を表すシナリオデータを記憶する記憶部と、
前記シナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対する患者の応答を含む情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部と、
前記被験者の臨床能力を評価する評価部と、を備え、
前記シナリオデータは、
医療面接に係る面接シナリオデータと身体診察に係る診察シナリオデータとを含み、
前記面接シナリオデータ及び前記診察シナリオデータは、前記被験者が選択すべき前記選択項目を表すキーポイント情報と、前記被験者が選択すべき前記選択項目の選択順序を表す順序情報とを含み、
前記評価部は、
前記キーポイント情報に基づいて、予め設定された制限時間内に、選択すべき前記選択項目が選択されたか否かを判定するとともに、
前記順序情報に基づいて、前記被験者が選択すべき前記選択項目が所定の順序に従って選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する。
【0009】
また、前記評価部は、
前記キーポイント情報に基づいて、選択すべきでない前記選択項目が選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する、
こととしてもよい。
【0010】
また、前記シナリオデータは、難易度の異なる複数のサブシナリオを含み、
前記評価部は、
所定の経過時間における選択すべき前記選択項目の選択状況に基づいて、実施するサブシナリオを選択する、
こととしてもよい。
【0011】
また、前記評価部は、
前記被験者の臨床能力の評価結果とともに、前記被験者が次回実施すべき前記シナリオデータを提示する、
こととしてもよい。
【0012】
この発明の第2の観点に係る臨床能力評価方法では、
患者の症例を表し、医療面接に係る面接シナリオデータと身体診察に係る診察シナリオデータとを含むシナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る被験者の選択項目及び前記選択項目に対する患者の応答を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示し、
前記面接シナリオデータ及び前記診察シナリオデータに含まれ、前記被験者が選択すべき前記選択項目を表すキーポイント情報に基づいて、予め設定された制限時間内に、選択すべき前記選択項目が選択されたか否かを判定するとともに、
前記面接シナリオデータ及び前記診察シナリオデータに含まれ、前記被験者が選択すべき前記選択項目の選択順序を表す順序情報に基づいて、前記被験者が選択すべき前記選択項目が所定の順序に従って選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する。
【0013】
この発明の第3の観点に係るプログラムは、
コンピュータを、
患者の症例を表し、被験者が選択すべき選択項目を表すキーポイント情報及び前記被験者が選択すべき前記選択項目の選択順序を表す順序情報が含まれる医療面接に係る面接シナリオデータ及び身体診察に係る診察シナリオデータを含むシナリオデータを記憶する記憶部、
前記シナリオデータに基づいて、医療面接及び身体診察に係る前記被験者の前記選択項目及び前記選択項目に対する患者の応答を含む情報を、画像情報及び音声情報の少なくともいずれかによって前記被験者に提示する提示部、
前記キーポイント情報に基づいて、予め設定された制限時間内に、選択すべき前記選択項目が選択されたか否かを判定するとともに、前記順序情報に基づいて、前記被験者が選択すべき前記選択項目が所定の順序に従って選択されたか否かを判定することにより、前記被験者の臨床能力を評価する評価部、
として機能させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、医療面接及び身体診察に係る症例ごとのシナリオを仮想的な患者によって示し、被験者が制限時間内に選択すべき選択項目を選択しているか否か、及び選択項目の順序が適切であるか否かに基づいて臨床能力を評価するので、医療面接と身体診察とを含む臨床能力を、多様な症例について容易に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態1に係る臨床能力評価装置の機能ブロック図である。
図2】実施の形態1に係る臨床能力評価装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
図3】実施の形態1に係る臨床能力評価処理の流れを示すフローチャートである。
図4】VR空間上に提示される患者及び選択項目の例を示す図である。
図5】実施の形態1に係るシナリオデータベースの構造を示す概念図である。
図6】実施の形態1に係る面接シナリオデータ及び診察シナリオデータの構造を示す概念図である。
図7】実施の形態2に係る臨床能力評価装置の機能ブロック図である。
図8】実施の形態2に係るシナリオデータベースの構造を示す概念図である。
図9】実施の形態2に係る臨床能力評価処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しつつ、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態では、仮想現実(VR:Virtual Reality)技術を用いて、被験者である医学生、研修医等に、仮想的に所定の症例の患者を医療面接及び身体診察させ、被験者の臨床能力評価を行う臨床能力評価装置11について説明する。
【0018】
図1のブロック図に示すように、臨床能力評価装置11は、記憶部31、提示部32、操作部33、制御部20を備えている。
【0019】
記憶部31は、症例ごとの被験者の行為と患者の応答とを含むシナリオデータSD、被験者の臨床能力の評価結果、臨床能力評価装置11の動作プログラム等を記憶する。シナリオデータSDは、医療面接において被験者が患者に対して行う質問の選択肢である選択項目、質問に対する患者の応答、身体診察に係る被験者の行為の選択肢である選択項目、診察行為に対する患者の応答、診察行為によって得られる身体情報、被験者が選択すべき選択項目を示すキーポイント情報等を含む。シナリオデータSDは、これらの情報を症例ごとにまとめたものであり、記憶部31のシナリオデータベース311に予め格納されている。
【0020】
提示部32は、被験者に対して患者の姿、医療面接及び身体診察における選択項目等を画像情報(視覚情報)として提示する。また、提示部32は、被験者の診察行為に係る項目選択に対する応答を画像情報及び音声情報(聴覚情報)の少なくともいずれかで被験者に提示する。
【0021】
操作部33は、シナリオデータSDに基づいて提示部32に提示される選択項目から、被験者の選択入力を受け付け、選択入力に係る情報を制御部20へ送信する。
【0022】
制御部20は、臨床能力評価装置11の全体を制御するものであり、出力制御部201、評価部202を備える。
【0023】
出力制御部201は、シナリオデータSDに基づいて、被験者の選択項目に対応する患者の応答に係る出力情報(画像情報、音声情報)を提示部32へ送信するとともに、提示部32を制御して、出力情報を被験者に提示する。
【0024】
評価部202は、被験者が操作部33を操作して選択した選択項目、選択項目の選択順序等に基づいて、被験者の臨床能力を評価する。
【0025】
臨床能力評価装置11は、例えば、図2に示すハードウエア構成を有する。具体的には、臨床能力評価装置11は、装置全体の制御を司るCPU(Central Processing Unit)61と、CPU61の作業領域等として動作する主記憶部62と、CPU61の動作プログラム、シナリオデータSD等を記憶する外部記憶部63と、被験者の臨床能力の評価結果等を出力するヘッドマウントディスプレイ64と、被験者からの入力を受け付ける操作部65と、これらを接続するバス66から構成される。
【0026】
主記憶部62は、RAM(Random Access Memory)等から構成されている。主記憶部62には、外部記憶部63に記憶されておりCPU61を制御部20として動作させるための動作プログラム及びシナリオデータSD等がロードされる。また、主記憶部62は、CPU61の作業領域(データの一時記憶領域)としても用いられる。
【0027】
外部記憶部63は、フラッシュメモリ、ハードディスク等の不揮発性メモリから構成される。外部記憶部63には、CPU61に実行させるための動作プログラム及びシナリオデータSDが予め記憶されている。主記憶部62及び外部記憶部63は、図1に示す記憶部31として機能する。
【0028】
ヘッドマウントディスプレイ64は、被験者に画像情報を提示する液晶パネル、有機EL(Electro-Luminescence)等の表示用デバイスと、被験者に音声情報を提示するスピーカとを備え、被験者の頭部に装着されて、図1に示す提示部32として機能する。
【0029】
操作部65は、ヘッドマウントディスプレイ64に画像情報として提示される3次元空間上で入力項目の選択等を行うハンドコントローラであり、インタフェースを介してバス66に接続され、図1に示す操作部33として機能する。本実施の形態では、ハンドコントローラを操作部65として用いることにより、VR空間の中で被験者自身の手と同じ位置に仮想的な手を表示する。これにより、被験者は自身の手を動かすように患者に対して聴診、打診等の身体診察に係る操作を直感的に行うことができる。
【0030】
続いて、図3のフローチャートに基づいて臨床能力評価装置11を用いた臨床能力評価方法について説明する。本実施の形態では、VR技術を用いたOSCEによる臨床能力評価処理を行う場合を例として説明する。
【0031】
まず、準備ステップとして、被験者は、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64を装着するとともに、操作部33であるハンドコントローラを保持して、臨床能力評価処理を開始する(ステップS11)。
【0032】
続いて診察ステップとして、選択されているシナリオデータSDに基づいて、患者の氏名、年齢、性別、主訴、制限時間等の基本情報が被験者に提示される(ステップS12)。これらの基本情報は、提示部32に文字情報として表示される。本実施の形態に係るシナリオデータSDは、記憶部31のシナリオデータベース311から、評価者としての医師等によって予め選択されている。尚、被験者自身がシナリオデータSDを選択し、トレーニングを目的として臨床能力評価装置11を使用することとしてもよい。
【0033】
被験者は、基本情報を確認した後、提示部32に表示された項目から患者の呼び込みを選択して、診察を開始する(ステップS13)。患者がVR空間上の診察室に呼び込まれると、図4に示すように、被験者の行為に係る選択項目が、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64に表示される。以下、被験者の行為に係る選択項目は、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64に表示され、被験者は表示された項目を操作部33であるハンドコントローラを用いて選択入力することにより、自身の行為を選択する。
【0034】
ここで、シナリオデータベース311に格納されているシナリオデータSDについて説明する。シナリオデータSDは、図5に示すように、医療面接に係る面接シナリオデータISと、身体診察に係る診察シナリオデータPSとを含む。図6は、シナリオデータSDに含まれる面接シナリオデータIS及び診察シナリオデータPSの具体例の一部である。図6に示すように、面接シナリオデータIS及び診察シナリオデータPSは、被験者の選択項目、選択項目に対する患者の応答、当該シナリオデータSDの症例において選択すべき選択項目であるか否かを示すキーポイント情報、キーポイントに係る選択項目について選択されるべき順序を示す順序情報等を含む。
【0035】
選択項目は、被験者の取り得る行為をカテゴリごとにまとめた階層構造となっている。これにより、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64に選択項目を表示した際、被験者が選択項目を選択し易くなっている。
【0036】
選択項目に対応する患者の応答は、内容によってテキスト、画像、音声等で提示される。これにより、診察の臨場感を高めるとともに、症例に係る詳細な情報を提示することができる。
【0037】
一般的に、被験者は、医療面接を行うことによって患者の症状等の情報を取得し、取得された情報に基づいて身体診察を行う。そして、身体診察によって患者の状態を確認して、診断を行う。すなわち、適切な診断を行うためには、症例ごとに適切な方法で、適切な部位に係る身体診察を行うことが求められ、適切な身体診察を行うためには、医療面接において問診により必要な情報を取得しておくことが求められる。したがって、被験者が選択すべきキーポイントとなる選択項目には、選択されるべき順序が存在する。具体的には、医療面接におけるキーポイントを選択した後に、身体診察におけるキーポイントの選択項目を選択することが、正しい手順として求められる。
【0038】
図6に示すように、本実施の形態に係る順序情報は、各選択項目について厳密な順序を規定するものではなく、グループとして順序を設定する。具体的には、医療面接における複数の選択項目が、キーポイントとして順序グループ1及び2として設定されており、関連する所定の身体診察に係る選択項目が順序グループ3として設定されている。これにより、ある程度の範囲で選択項目の選択順序が入れ替わることを許容しつつ、遵守されるべき選択順序を規定することが可能となる。
【0039】
上述したシナリオデータSDにしたがって、提示部32に被験者の取り得る選択肢が表示される。被験者は、表示された選択項目から1つの項目を選択する(ステップS14)。制御部20は、シナリオデータSDにしたがって、被験者がステップS14で選択した項目に対応する応答を、画像情報、音声情報等として提示部32に出力し、被験者に提示する(ステップS15)。応答は、画像情報で提示されても、音声情報で提示されてもよく、画像情報と音声情報の両方で提示されてもよい。
【0040】
評価部202は、被験者によって選択された選択項目が予め設定されたキーポイントに係る選択項目である場合(ステップS16のYES)、得点を加算する(ステップS17)。ここで、評価部202は、選択されたキーポイントの順序情報を参照し、選択されたキーポイントの順序グループより前の順序グループの選択項目が選択済みであるか否か確認する。そして、前の順序グループの選択項目が適切に選択されている場合に、評価部202は得点を加算する。また、前の順序グループの選択項目が選択されていない場合、評価部202は得点を加算しない。これにより、診察行為の順序を考慮した評価を行うことができる。
【0041】
加算される得点は、シナリオデータSDごとに設定された当該選択項目の重要度によって定められた得点としてもよいし、一律に与えられるものとしてもよい。また、キーポイントごとに設定された得点は、マイナスの得点であってもよい。これにより、例えば、設定されているシナリオデータSDに係る症例と無関係の選択項目を被験者が選択した場合に、得点を減算して評価を下げることができる。
【0042】
また、キーポイントに係る選択項目の選択による得点の加算は、各選択項目で一度に制限される。具体的には、評価部202は、キーポイントに係る選択項目が選択された場合、当該選択項目が、それ以前に選択されているか否か確認し、既に選択されている場合には、得点を加算しないこととする。これにより、誤って同じ行為を複数回選択した場合に得点が高くなることを防ぐことができる。
【0043】
被験者によって選択された選択項目が予め設定されたキーポイントに係る選択項目でない場合(ステップS16のNO)、評価部202は得点を加減算せず、制御部20は次の処理へ進む。
【0044】
被験者が選択項目から診察終了を選択するか、予め設定された制限時間が経過し、終了条件を充足した場合(ステップS18のYES)、診察ステップを終了する。
【0045】
制限時間が経過しておらず、被験者が診察終了以外の選択項目を選択した場合(ステップS18のNO)、ステップS14に戻り、制御部20は、選択された項目に対応する応答を提示部32に提示する。そして、終了条件を充足するまで、ステップS14からS17の処理を繰り返す。
【0046】
診察ステップが終了すると評価ステップに移行し、評価部202は、それまでに演算された得点に基づいて、被験者の臨床能力を評価する(ステップS19)。評価は、例えばシナリオデータSDごとに設定された得点範囲に基づいて、A~Dの4段階で評価する。そして、制御部20は、評価結果を提示部32に表示させる(ステップS20)とともに、記憶部31へ記憶させて、臨床能力評価処理を終了する。医師等の評価者は、記憶部31に記憶された評価結果を参照し、被験者の臨床能力を把握することができる。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態に係る臨床能力評価装置11によれば、症例ごとのシナリオデータSDに基づいて、医療面接及び身体診察において被験者が選択した項目が、選択されるべき項目であるか否か、選択されるべき行為の順序にしたがっているか否か、所定の経過時間内に選択されているか否かに基づいて、被験者の臨床能力を評価するので、被験者の臨床能力を容易かつ適切に評価することができる。
【0048】
また、症例ごとのシナリオデータSDに、キーポイント情報、順序情報及び制限時間の情報等の評価に係る情報を含めることにより、多くの症例に係るシナリオデータSDを容易に作成することができる。したがって、被験者が多くの症例にあたることができるとともに、容易かつ公平に臨床能力を評価することができる。
【0049】
また、本実施の形態に係る臨床能力評価装置11は、VR技術を用いて仮想的に診察を行うこととしている。これにより、被験者は、時間、場所等に拘束されず、臨場感のある診察シミュレーションを行うことが可能となる。
【0050】
本実施の形態では、キーポイントごとに得点を加減して、制限時間が経過した場合には、処理を終了することとしたが、これに限られない。例えば、キーポイントごとに経過時間を判断し、所定の経過時間内に当該項目が選択された場合にのみ得点を加算することとしてもよい。これにより、診察の流れの中で適切なタイミングで所定の診察行為が選択されているか否かを判定することができる。
【0051】
(実施の形態2)
続いて、実施の形態2に係る臨床能力評価装置12について説明する。本実施の形態では、図7に示すように、臨床能力評価装置12の制御部20がサブシナリオ選択部203を備えている点で、上記実施の形態1と異なる。その他の構成は上記実施の形態1と同様であるので同じ符号を付して説明を省略する。
【0052】
図8に示すように、本実施の形態に係るシナリオデータSDは、難易度の異なる複数のサブシナリオSSn(nはサブシナリオの番号を示す数である。)を含む。サブシナリオSSnは、例えば症状が似ていて、有症率が異なる疾患に係る複数のシナリオとして構成される。本実施の形態では、シナリオデータSDが、有症率が極めて低く比較的難易度の高いサブシナリオSS1と有症率が高く比較的難易度の低いサブシナリオSS2とを含むこととする。サブシナリオSS1とサブシナリオSS2とでは、例えば患者の応答がそれぞれの症例を示唆するように異なるものとなっている。サブシナリオSS1及びサブシナリオSS2は、それぞれ面接シナリオデータISと診察シナリオデータPSとを含み、面接シナリオデータIS及び診察シナリオデータPSには、被験者が選択すべき選択項目を示すキーポイント情報が含まれる。
【0053】
本実施の形態に係る臨床能力評価処理の流れを図9のフローチャートに示す。準備ステップは、実施の形態1に係る準備ステップ(ステップS11)と同様であり、被験者は、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64を装着するとともに、操作部33であるハンドコントローラを保持して、診察ステップを開始する(ステップS31)。
【0054】
診察ステップが開始されると、選択されているシナリオデータSD及びサブシナリオSSnに基づいて、被験者に対して患者の氏名、年齢、性別、主訴、制限時間等の基本情報が提示される(ステップS32)。これらの基本情報は、提示部32に文字情報として表示される。また、基本情報は、シナリオデータSD内の各サブシナリオSSnで共通するように設定されている。本実施の形態に係るシナリオデータSD及びサブシナリオSSnは、記憶部31のシナリオデータベース311から、評価者としての医師等によって予め選択されている。本実施の形態では、シナリオデータSDに含まれるサブシナリオSSnのうち最も難易度の高いサブシナリオSS1が選択されていることとする。
【0055】
被験者は、基本情報を確認した後、提示部32に表示された項目から患者の呼び込みを選択して、診察を開始する(ステップS33)。患者がVR空間上の診察室に呼び込まれると、図4に示すように、被験者の行為に係る選択項目が、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64に表示される。以下、被験者の行為に係る選択項目は、提示部32であるヘッドマウントディスプレイ64に表示され、被験者は表示された項目を操作部33であるハンドコントローラを用いて選択入力することにより、自身の行為を選択する。
【0056】
上述したサブシナリオSS1にしたがって、提示部32に被験者が取り得る選択肢が表示される。被験者は、表示された選択項目から1つの項目を選択する(ステップS34)。制御部20は、サブシナリオSS1にしたがって、被験者が選択した項目に対応する応答を、画像情報、音声情報等によって被験者に提示する(ステップS35)。応答は、画像情報で提示されても、音声情報で提示されてもよく、画像情報と音声情報の両方で提示されてもよい。
【0057】
評価部202は、被験者によって選択された選択項目が予め設定されたキーポイントに係る選択項目である場合(ステップS36のYES)、得点を加算する(ステップS37)。ここで、評価部202は、選択されたキーポイントの順序情報を参照し、選択されたキーポイントの順序グループより前の順序グループの選択項目が選択済みであるか否か確認する。そして、前の順序グループの選択項目が適切に選択されている場合に、評価部202は得点を加算する。また、前の順序グループの選択項目が選択されていない場合、評価部202は得点を加算しない。これにより、診察行為の順序を考慮した評価を行うことができる。
【0058】
加算される得点は、サブシナリオSSnごとに設定された当該選択項目の重要度によって定められた得点としてもよいし、一律に与えられるものとしてもよい。また、キーポイントごとに設定された得点はマイナスの得点であってもよい。これにより、例えば、設定されているサブシナリオSSnに係る症例と無関係の選択項目を被験者が選択した場合に、得点を減算し評価を下げることができる。
【0059】
また、キーポイントに係る選択項目の選択による得点の加算は、各選択項目で一度に制限される。具体的には、評価部202は、キーポイントに係る選択項目が選択された場合、当該選択項目が、それ以前に選択されているか否か確認し、既に選択されている場合には、得点を加算しないこととする。これにより、誤って同じ行為を複数回選択した場合に得点が高くなることを防ぐことができる。
【0060】
被験者によって選択された選択項目が予め設定されたキーポイントに係る選択項目でない場合(ステップS36のNO)、評価部202は得点を加減算せず、制御部20は次の処理へ進む。
【0061】
また、本実施の形態では、予め設定された所定の経過時間ごとに、実行中のサブシナリオSSnの難易度が被験者にとって適切であるか否かを、サブシナリオ選択部203が判定することとしている(ステップS38)。
【0062】
より具体的には、サブシナリオ選択部203は、予め設定された経過時間、例えば3分が経過した時点で、当該経過時間までに選択されているべきキーポイントが選択済みであるか否かを判定する。そして、サブシナリオ選択部203は、選択されるべきキーポイントが選択されていない場合(ステップS38のNO)、サブシナリオSSnを、難易度の低いサブシナリオSSnに変更する(ステップS39)。また、サブシナリオ選択部203は、選択されるべきキーポイントが選択されている場合(ステップS38のYES)、サブシナリオSSnを変更せず、継続する。これにより、被験者の臨床レベルに合った難易度の症例に係るシナリオを自動的に選択することができる。したがって、効率的に被験者の臨床能力の向上を図ることができる。
【0063】
被験者が選択項目から診察終了を選択するか、予め設定された制限時間が経過し、終了条件を充足した場合(ステップS40のYES)、診察ステップを終了する。
【0064】
制限時間が経過しておらず、被験者が診察終了以外の選択項目を選択した場合(ステップS40のNO)、ステップS34に戻り、制御部20は、選択された項目に対応する応答を提示部32に提示する。そして、終了条件を充足するまで、ステップS34からS39の処理を繰り返す。
【0065】
診察ステップが終了すると評価ステップに移行し、評価部202は、それまでに演算された得点に基づいて、被験者の臨床能力を評価する(ステップS41)。評価は、例えばシナリオデータSDごとに設定された得点範囲に基づいて、A~Dの4段階で評価する。そして、制御部20は、評価結果を提示部32に提示する(ステップS42)とともに、記憶部31へ記憶させて、臨床能力評価処理を終了する。医師等の評価者は、記憶部31に記憶された評価結果を参照し、被験者の臨床能力を把握することができる。
【0066】
以上説明したように、本実施の形態では、診察中に被験者の臨床能力を評価して、被験者のレベルに合わせたサブシナリオSSnを選択し、提示する。したがって、被験者は自己の臨床能力に適した症例について診察を行うことができるので、効率的に被験者の臨床能力の向上を図ることができる。
【0067】
本実施の形態では、サブシナリオSSnの切替判定は、予め設定された所定の時間が経過した時点で行うこととしたが、これに限られない。例えば、サブシナリオ選択部203は、被験者による選択項目の選択入力ごとに行うこととしてもよい。これにより、被験者の臨床能力を、診察の進行度合いに基づいて詳細に行うことができるので、より適切なサブシナリオSSnを提示することができる。
【0068】
また、本実施の形態では、予め高い難易度のサブシナリオSSnが設定されており、被験者のレベルに合わせて難易度の低いサブシナリオSSnへ移行することとしたが、これに限られない。例えば、予め低い難易度のサブシナリオSSnが設定されており、サブシナリオ選択部203は、被験者のレベルに合わせて難易度の高いサブシナリオSSnへ移行することとしてもよい。
【0069】
また、本実施の形態では、サブシナリオSSnの難易度を、症例の有症率に基づいて設定することとしたが、これに限られない。例えば、患者の応答に曖昧さが大きく、被験者が正確な情報を得にくい、被験者の質問に対する応答と身体的な症状とが食い違う、といった要素によって難易度に変化を付けることとしてもよい。これにより、より実際の臨床場面に近い診察シミュレーションに基づいて被験者の臨床能力を評価することが可能となる。
【0070】
また、評価部202は、被験者の臨床能力の評価結果とともに、次回実施すべきシナリオデータSDを提示することとしてもよい。この場合、評価部202は、シナリオデータSD又はサブシナリオSSnに予め難易度のランクが与えられており、今回実施したシナリオデータSD(サブシナリオSSn)の難易度と評価結果とに基づいて、次回実施すべきシナリオデータSD(サブシナリオSSn)を提示すればよい。例えば、評価が高かった場合、今回実施したシナリオデータSDより高い難易度のシナリオデータSDを提示する。また、今回の評価が低かった場合、今回実施したシナリオデータSDより低い難易度のシナリオデータSDを提示する。これにより、より効率的に被験者の臨床能力の向上を図ることができる。
【0071】
本発明の実施の形態に係る臨床能力評価装置11,12のハードウエア構成やソフトウエア構成は一例であり、任意に変更及び修正が可能である。制御部20、記憶部31、提示部32及び操作部33などから構成される臨床能力評価装置11,12は、専用の装置によらず、通常のコンピュータシステムを用いて実現可能である。例えば、上記の動作を実行するためのコンピュータプログラムを、USBメモリ、DVD-ROM等のコンピュータが読み取り可能な記録媒体に格納して配布し、当該コンピュータプログラムをコンピュータにインストールすることにより、上記の処理を実行する臨床能力評価装置11,12を構成することができる。
【0072】
また、インターネット等の通信ネットワーク上のサーバ装置が有する記憶装置に当該コンピュータプログラムを格納しておき、通常のコンピュータシステムがダウンロード等することで臨床能力評価装置11,12を構成してもよい。
【0073】
本発明は上述した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される種々の変更によって得られる実施の形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、医学分野における臨床能力評価に好適である。特に、医師免許取得前の医学生、臨床経験の少ない研修医等の臨床能力評価に好適である。
【符号の説明】
【0075】
11,12 臨床能力評価装置、20 制御部、201 出力制御部、202 評価部、203 サブシナリオ選択部、31 記憶部、311 シナリオデータベース、32 提示部、33 操作部、61 CPU、62 主記憶部、63 外部記憶部、64 ヘッドマウントディスプレイ、65 操作部、66 バス、SD シナリオデータ、IS 面接シナリオデータ、PS 診察シナリオデータ、SSn サブシナリオ
図1
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