(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025233
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】β-Ga2O3系単結晶膜の成長方法
(51)【国際特許分類】
C30B 29/16 20060101AFI20240216BHJP
C30B 25/18 20060101ALI20240216BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20240216BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
C30B29/16
C30B25/18
C23C16/40
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128500
(22)【出願日】2022-08-10
(71)【出願人】
【識別番号】515277942
【氏名又は名称】株式会社ノベルクリスタルテクノロジー
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江間 研太郎
(72)【発明者】
【氏名】林 家弘
(72)【発明者】
【氏名】タンガラジャ アムタ
(72)【発明者】
【氏名】村上 尚
(72)【発明者】
【氏名】長野 理紗
【テーマコード(参考)】
4G077
4K030
5F045
【Fターム(参考)】
4G077AA03
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(57)【要約】
【課題】粉降りの発生を抑えつつ高い成膜速度でβ-Ga
2O
3系単結晶膜を成長させることのできる、β-Ga
2O
3系単結晶膜の成長方法を提供する。
【解決手段】一実施の形態として、HVPE法によるβ-Ga
2O
3系単結晶膜の成長方法であって、基板10を原料ガスであるGaClガス及び酸素含有ガス、並びにCl含有ガスに曝し、基板10の主面11上にβ-Ga
2O
3系単結晶膜12を成長させる工程を含み、前記Cl含有ガスが、HClガス、Cl
2ガス、又はHClガスとCl
2ガスの混合ガスである、β-Ga
2O
3系単結晶膜の成長方法を提供する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
HVPE法によるβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法であって、
基板を原料ガスであるGaClガス及び酸素含有ガス、並びにCl含有ガスに曝し、前記基板の主面上にβ-Ga2O3系単結晶膜を成長させる工程を含み、
前記Cl含有ガスが、HClガス、Cl2ガス、又はHClガスとCl2ガスの混合ガスである、
β-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
【請求項2】
前記GaClガスの分圧PGaClに対する前記Cl含有ガスの分圧の比の値であるRが、187.57×PGaCl以上である、
請求項1に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
【請求項3】
前記GaClガスの分圧PGaClに対する前記Cl含有ガスの分圧の比の値であるRが、357.13×PGaCl以上である、
請求項1に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
【請求項4】
前記Rが、562.7×PGaCl以下である、
請求項2又は3に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β-Ga2O3系単結晶膜の成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法によるβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法が知られている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法においては、Ga2O3系基板をGaの原料ガスとしての塩化ガリウム系ガス及び酸素の原料ガスである酸素含有ガスに曝し、Ga2O3系基板の主面上にβ-Ga2O3系単結晶膜を成長させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法などの、従来のHVPE法によるβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法によれば、β-Ga2O3系単結晶膜の成膜速度を大きくすると、成膜中に原料ガスが気相反応することによりGa酸化物の粉が気相中で生成されて基板に付着する粉降りと呼ばれる現象が生じる。
【0005】
粉降りが生じると、基板に付着したGa酸化物の粉を起点とする、β-Ga2O3系単結晶の三次元的な異常成長が生じ、エッチピットとして現れる結晶欠陥の密度が5×104cm-3以上に増加してしまう。このため、従来のHVPE法によるβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法によれば、粉降りの発生を抑えるために、成膜速度を5μm/h未満に抑えなければならない。
【0006】
本発明の目的は、粉降りの発生を抑えつつ高い成膜速度でβ-Ga2O3系単結晶膜を成長させることのできる、β-Ga2O3系単結晶膜の成長方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法を提供する。
【0008】
[1]HVPE法によるβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法であって、基板を原料ガスであるGaClガス及び酸素含有ガス、並びにCl含有ガスに曝し、前記基板の主面上にβ-Ga2O3系単結晶膜を成長させる工程を含み、前記Cl含有ガスが、HClガス、Cl2ガス、又はHClガスとCl2ガスの混合ガスである、β-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
[2]前記GaClガスの分圧PGaClに対する前記Cl含有ガスの分圧の比の値であるRが、187.57×PGaCl以上である、上記[1]に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
[3]前記GaClガスの分圧PGaClに対する前記Cl含有ガスの分圧の比の値であるRが、357.13×PGaCl以上である、上記[1]に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
[4]前記Rが、562.7×PGaCl以下である、上記[2]又は[3]に記載のβ-Ga2O3系単結晶膜の成長方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粉降りの発生を抑えつつ高い成膜速度でβ-Ga2O3系単結晶膜を成長させることのできる、β-Ga2O3系単結晶膜の成長方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る結晶積層構造体の垂直断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置の垂直断面図である。
【
図3】
図3は、HClガスの供給量とβ-Ga
2O
3系単結晶膜の状態の関係を示す表である。
【
図4】
図4は、GaClガスの分圧P
GaClが1.3×10
-3atm、2.7×10
-3atmであるときのR
HClとβ-Ga
2O
3系単結晶膜の成膜速度との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、R
HClの好ましい範囲を示すグラフである。
【
図6】
図6は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、結晶積層構造体中の不純物濃度を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(結晶積層構造体の構成)
図1は、本発明の実施の形態に係る結晶積層構造体1の垂直断面図である。結晶積層構造体1は、基板10と、基板10の主面11上にエピタキシャル結晶成長により形成されたβ-Ga
2O
3系単結晶膜12を有する。
【0012】
β-Ga2O3系単結晶膜12は、β型の結晶構造を有するGa2O3系単結晶からなる膜である。ここで、Ga2O3系単結晶とは、Ga2O3単結晶、又は、Al、In等の元素が添加されたGa2O3単結晶をいう。例えば、Al及びInが添加されたGa2O3単結晶である(GaxAlyIn(1-x-y))2O3(0<x≦1、0≦y≦1、0<x+y≦1)単結晶であってもよい。Alを添加した場合にはバンドギャップが広がり、Inを添加した場合にはバンドギャップが狭くなる。また、β-Ga2O3系単結晶膜12は、Si等の導電型不純物を含んでもよい。また、β-Ga2O3系単結晶膜12は、Clが含まれるガスを原料ガスとして用いるHVPE法により形成されるため、1×1015cm-3以上の濃度のClを含む。
【0013】
基板10は、サファイア基板、Ga2O3系単結晶からなるGa2O3系単結晶基板などの、β-Ga2O3系単結晶膜12のエピタキシャル成長の下地基板として用いることのできる基板である。基板10は、導電型不純物を含んでいてもよい。
【0014】
(気相成長装置の構造)
以下に、本実施の形態に係るβ-Ga2O3系単結晶膜12の成長に用いる気相成長装置の構造の一例について説明する。
【0015】
図2は、本発明の実施の形態に係る気相成長装置2の垂直断面図である。気相成長装置2は、HVPE(Halide Vapor Phase Epitaxy)法用の気相成長装置であり、第1のガス導入ポート21、第2のガス導入ポート22、第3のガス導入ポート23、及び排気ポート24を有する反応炉20と、反応炉20の周囲に設置され、反応炉20の内部を加熱する加熱手段26を有する。
【0016】
反応炉20は、Ga原料が収容された反応容器25が配置され、ガリウムの原料ガスが生成される原料反応領域R1と、基板10が配置され、β-Ga2O3系単結晶膜12の成長が行われる結晶成長領域R2を有する。反応炉20は、例えば、石英ガラスからなる。
【0017】
反応容器25は、例えば、石英ガラスであり、反応容器25に収容されるGa原料は金属ガリウムである。
【0018】
加熱手段26は、反応炉20の原料反応領域R1と結晶成長領域R2を加熱することができる。加熱手段26は、例えば、抵抗加熱式や輻射加熱式の加熱装置である。
【0019】
第1のガス導入ポート21は、Cl2ガス又はHClガスであるCl含有ガスを不活性ガスであるキャリアガス(N2ガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応炉20の原料反応領域R1内に導入するためのポートである。第2のガス導入ポート22は、酸素の原料ガスであるO2ガスやH2Oガス等の酸素含有ガスを不活性ガスであるキャリアガス(N2ガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応炉20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。第3のガス導入ポート23は、粉降りの発生を抑えるためのHClガス、Cl2ガス、又はHClガスとCl2ガスの混合ガスであるCl含有ガス、及びβ-Ga2O3系単結晶膜12にSi等のドーパントを添加するための塩化物系ガス(例えば、四塩化ケイ素等)を不活性ガスであるキャリアガス(N2ガス、Arガス又はHeガス)を用いて反応炉20の結晶成長領域R2へ導入するためのポートである。
【0020】
(β-Ga2O3系単結晶膜の成長)
以下に、本実施の形態に係るβ-Ga2O3系単結晶膜12の成長工程の一例について説明する。
【0021】
まず、加熱手段26を用いて反応炉20の原料反応領域R1の雰囲気温度を所定の温度、例えば500~900℃に保った状態で、第1のガス導入ポート21からキャリアガスを用いてCl含有ガスを導入し、原料反応領域R1において、上記の雰囲気温度下で反応容器25内の金属ガリウムとCl含有ガスを反応させ、GaClガスを生成する。
【0022】
なお、β-Ga2O3系単結晶膜12の原料ガスであるGaClガスの生成においては、水素を含まないCl2ガスをCl含有ガスとして用いることが好ましい。
【0023】
また、金属ガリウムとCl含有ガスの反応から、GaClガス以外の塩化ガリウム系ガスであるGaCl2ガス、GaCl3ガス、及び(GaCl3)2ガスも生成されるが、これらの塩化ガリウム系ガスのうちでGaClガスの分圧が圧倒的に高くなるため、GaClガス以外のガスはGa2O3系単結晶の成長にほとんど寄与しない。
【0024】
次に、加熱手段26を用いて反応炉20の結晶成長領域R2の雰囲気温度を所定の温度、例えば800~1100℃に保った状態で、結晶成長領域R2において、原料反応領域R1で生成されたGaClガスと、第2のガス導入ポート22から導入された酸素含有ガスと、第3のガス導入ポート23から導入されたHClガス等のCl含有ガスとを混合させ、その混合ガスに基板10を曝し、基板10の主面11上にβ-Ga2O3系単結晶膜12をエピタキシャル成長させる。このとき、反応炉20を収容する炉内の結晶成長領域R2における圧力を、例えば、1atmに保つ。
【0025】
ここで、Si等の添加元素を含むβ-Ga2O3系単結晶膜12を形成する場合には、原料ガスであるGaClガス、酸素含有ガス、及び粉降りの発生を抑える為のHClガス等のCl含有ガスに加えて、第3のガス導入ポート23より、添加元素の原料ガス(例えば、四塩化ケイ素(SiCl4)等の塩化物系ガス)も結晶成長領域R2に導入する。
【0026】
なお、β-Ga2O3系単結晶膜12を成長させる際は、酸素含有ガスとして水素を含まないO2ガスを用いることが好ましい。
【0027】
第1のガス導入ポート21から原料反応領域R1内に導入された、GaClガスを生成するためのCl含有ガスが、β-Ga2O3系単結晶膜12を成膜する工程において結晶成長領域R2へ流れ込む可能性があるが、その結晶成長領域R2へ流れ込む量は、第3のガス導入ポート23から結晶成長領域R2に導入される、粉降りの発生を抑えるためのCl含有ガスの量と比較して十分に少なく、無視できる量である。すなわち、原料反応領域R1から結晶成長領域R2へ流れ込むGaClガスを生成するためのCl含有ガスは、粉降りの発生の抑制に寄与しない。
【0028】
図3は、粉降りの発生を抑制するためのHClガスの供給量とβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の状態の関係を示す表である。
図3には、HClガスの供給量が異なる条件で成膜された複数種のβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の断面のSEM(走査電子顕微鏡)観察画像が含まれている。
図3のSEM観察画像に含まれるβ-Ga
2O
3系単結晶膜12は、いずれも基板10としてのサファイア基板上に成膜されたβ-Ga
2O
3単結晶膜である。
【0029】
図3に含まれるR
HClは、反応炉20内のGaClガスの分圧P
GaClに対するHClガスの分圧P
HClの比の値である。すなわち、R
HCl=P
HCl/P
GaClである。
【0030】
HVPE法による成膜中に原料ガスであるGaClガスと酸素含有ガスが気相反応することによりGa酸化物の粉が気相中で生成されて基板に付着する現象、すなわち粉降りが発生すると、β-Ga2O3系単結晶膜12が三次元的に異常成長し、その断面のSEM観察画像では空隙が多く密度の低いような膜として観察される。
【0031】
図3によれば、R
HCl=0、すなわちβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜の際にHClガスを供給しない場合は、β-Ga
2O
3系単結晶膜12が粉降りにより異常成長している。
【0032】
また、
図3によれば、GaClガスの分圧P
GaClが1.3×10
-3atmであるときには、R
HClがおよそ0.25以上でβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の異常成長が効果的に抑えられ、R
HClがおよそ0.50以上でほぼ完全に抑えられることがわかる。また、GaClガスの分圧P
GaClが2.7×10
-3atmであるときには、R
HClがおよそ0.50以上でβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の異常成長が効果的に抑えられ、R
HClがおよそ1.0以上でほぼ完全に抑えられることがわかる。
【0033】
さらに、GaClガスの分圧PGaClが5.3×10-3atmであるときには、RHClがおよそ1.0以上でβ-Ga2O3系単結晶膜12の異常成長が効果的に抑えられ、RHClがおよそ2.0以上でほぼ完全に抑えられることが確認されている。
【0034】
これらの結果から、β-Ga2O3系単結晶膜12の成膜の際にHClガスを供給することにより、粉降りの発生によるβ-Ga2O3系単結晶膜12の異常成長を抑えることができ、また、HClガスの供給量を増やす、すなわちRHClを増加させることにより、より効果的に異常成長が抑えられることがわかった。HClガスの供給により粉降りの発生が抑えられるのは、HClガスが気相中で生成されるGa酸化物の粉を分解するためであると考えられる。
【0035】
また、異常成長がほぼ完全に抑えられるときのRHClの下限値を100%としたときに、RHClをおよそ50%以上とすることにより、ある程度効果的に異常成長を抑えられることがわかった。
【0036】
また、β-Ga2O3系単結晶膜12の成膜の際にHClガスを供給することにより、GaClガスの分圧PGaClが1.3×10-3atm、2.7×10-3atm、5.3×10-3atmのいずれである場合にも、粉降りを抑えるためのβ-Ga2O3系単結晶膜12の成膜速度が、成膜時にHClガスを供給しない従来の方法における成膜速度(5μm/h未満)よりも格段に大きくなることがわかった。
【0037】
なお、HClガスの供給量とβ-Ga2O3系単結晶膜12の状態の関係及びHClガスの供給量とβ-Ga2O3系単結晶膜12の成膜速度の関係は、β-Ga2O3系単結晶膜12がβ-Ga2O3単結晶膜以外のβ-Ga2O3系単結晶膜である場合にも同様に成り立つ。また、粉降りの発生を抑えるためにHClガスの代わりにCl2ガスを用いる場合であっても、上記のHClガスを用いる場合の結果と同様の結果が得られる。すなわち、Cl2ガスの供給量とβ-Ga2O3系単結晶膜12の状態の関係及びCl2ガスの供給量とβ-Ga2O3系単結晶膜12の成膜速度の関係は、上記のHClガスの供給量とβ-Ga2O3系単結晶膜12の状態の関係及びHClガスの供給量とβ-Ga2O3系単結晶膜12の成膜速度の関係とほぼ同じになる。さらに、粉降りの発生を抑えるためにHClガスの代わりにHClガスとCl2ガスの混合ガスを用いる場合であっても同様である。ただし、HClガスを用いる場合、Cl2ガスやHClガスとCl2ガスの混合ガスを用いる場合よりも粉降りの発生を抑制する効果が大きくなる傾向がある。
【0038】
図4は、GaClガスの分圧P
GaClが1.3×10
-3atm、2.7×10
-3atmであるときのR
HClとβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜速度との関係を示すグラフである。
【0039】
図4は、R
HClが大きい、すなわち成膜時のHClガスの供給量が大きいほど、β-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜速度が低下することを示している。すなわち、β-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜の際にHClガスを供給することにより、粉降りの発生によるβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の異常成長を抑えることができるが、HClガスの供給量が大きすぎると、β-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜速度が小さくなってしまう。
【0040】
HClガスの供給量の増加に伴うβ-Ga2O3系単結晶膜12の成膜速度の低下を抑えるためには、異常成長がほぼ完全に抑えられるときのRHClの下限値を100%としたときに、RHClをおよそ150%以下とすることが好ましい。
【0041】
図5は、R
HClの好ましい範囲を示すグラフである。
図5の実線R
HCl=357.13×P
GaClは、GaClガスの分圧P
GaClが1.3×10
-3atm、2.7×10
-3atm、5.3×10
-3atmであるときの、異常成長がほぼ完全に抑えられるときのR
HClの下限値に基づいて引かれた近似直線である。
【0042】
図5の下側の点線R
HCl=187.57×P
GaClは、実線R
HCl=357.13×P
GaClのR
HClを50%にした直線である。また、
図5の上側の点線R
HCl=562.7×P
GaClは、実線R
HCl=357.13×P
GaClのR
HClを150%にした直線である。
【0043】
このため、粉降りの発生によるβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の異常成長を抑えるためには、R
HClが187.57×P
GaCl以上、すなわちP
GaClとR
HClをプロットした点が
図5の点線R
HCl=187.57×P
GaClの線上又は上側に位置することが好ましく、R
HClが357.13×P
GaCl以上、すなわちP
GaClとR
HClをプロットした点が
図5の実線R
HCl=357.13×P
GaClの線上又は上側に位置することがより好ましい。
【0044】
また、HClガスの供給量の増加に伴うβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜速度の低下を抑えるためには、R
HClが562.7×P
GaCl以下、すなわちP
GaClとR
HClをプロットした点が
図5の点線R
HCl=562.7×P
GaClの線上又は下側に位置することが好ましい。
【0045】
上述のように、粉降りの発生を抑えるためにHClガスの代わりにCl2ガスやHClガスとCl2ガスの混合ガスを用いる場合であっても、上記のHClガスを用いる場合の結果と同様の結果が得られるため、PGaClに対するCl2ガスの分圧PCl2の比の値RCl2やPGaClに対するCl2ガスとCl2ガスの混合ガスの分圧Pmixの比の値Rmixの好ましい値は、RHClの好ましい値と同様である。すなわち、粉降りの発生によるβ-Ga2O3系単結晶膜12の異常成長を抑えるためには、RCl2やRmixが187.57×PGaCl以上であることが好ましく、357.13×PGaCl以上であることがより好ましい。また、Cl2ガスやHClガスとCl2ガスの混合ガスの供給量の増加に伴うβ-Ga2O3系単結晶膜12の成膜速度の低下を抑えるためには、RCl2やRmixが562.7×PGaCl以下であることが好ましい。
【0046】
また、粉降りはβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜中に原料ガスが気相反応することにより生じる現象であるため、上記のHClガスなどのCl含有ガスにより粉降りの発生を抑制する効果は、基板の材料に依らず同様に得られる。例えば、
図3~5に示される結果は、基板10としてサファイア基板を用いた実験により得られたものであるが、基板10としてサファイア基板の代わりにβ-Ga
2O
3系単結晶などの他の材料からなる基板を用いた場合であっても、同様の結果が得られる。
【0047】
図6は、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した、結晶積層構造体1中の不純物濃度を表すグラフである。
図6に係る結晶積層構造体1の基板10はβ-Ga
2O
3単結晶基板であり、β-Ga
2O
3系単結晶膜12は粉降りの発生を抑えるためにHClガスを用いて成膜されたβ-Ga
2O
3単結晶膜である。
【0048】
図6の横軸は結晶積層構造体1のβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の表面13からの深さ(μm)を表し、縦軸は各不純物の濃度(cm
-3)を表す。なお、結晶積層構造体1の基板10とβ-Ga
2O
3系単結晶膜12の界面の深さはおよそ15μmであり、
図6のグラフに示される不純物の濃度は、β-Ga
2O
3系単結晶膜12中の不純物の濃度である。
【0049】
図6は、H、C、Cl、N、Siの結晶積層構造体1中の濃度を表す。
図6によれば、H、C、N、Siについては、β-Ga
2O
3系単結晶膜12中の濃度が測定可能な下限値に近く、Clについては、β-Ga
2O
3系単結晶膜の成膜の際にHClガスを供給しない従来の成長手法と同等の濃度である。このことは、β-Ga
2O
3系単結晶膜12が純度の高い膜であることを示している。また、
図6に示されるHの濃度から、β-Ga
2O
3系単結晶膜12の成膜時に供給されるHClに由来するHのβ-Ga
2O
3系単結晶膜12への混入がないことが確認された。また、
図6に示されるSiの濃度から、石英からなる反応炉20からβ-Ga
2O
3系単結晶膜12へのSiの混入がないことが確認された。
【0050】
図6によれば、β-Ga
2O
3系単結晶膜12中におよそ1.5×10
16(cm
-3)以下のClが含まれている。これは、β-Ga
2O
3系単結晶膜12がCl含有ガスを用いるHVPE法により形成されることに起因する。通常、HVPE法以外の方法によりβ-Ga
2O
3系単結晶膜を形成する場合には、Cl含有ガスを用いないため、β-Ga
2O
3系単結晶膜中にClが含まれることはなく、少なくとも、1×10
15cm
-3以上のClが含まれることはない。
【0051】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、β-Ga2O3系単結晶膜の成膜の際にHClガス、Cl2ガス、又はHClガスとCl2ガスの混合ガスを供給することにより、粉降りの発生を抑えつつ高い成膜速度でβ-Ga2O3系単結晶膜を成長させることができる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0053】
1…結晶積層構造体、 10…基板、 11…主面、 12…β-Ga2O3系単結晶膜、 2…気相成長装置、 20…反応炉、 21…第1のガス導入ポート、 22…第2のガス導入ポート、 23…第3のガス導入ポート、 24…排気ポート、 25…反応容器、 26…加熱手段