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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025286
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】植物保護システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20240216BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G06Q50/02
A01G7/00 603
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128623
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川北 哲史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達也
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC01
(57)【要約】
【課題】作物の種類や作物の生育ステージに応じた病害虫や雑草による被害リスクを予測する植物保護システムを提供する。
【解決手段】植物保護システムS1は、ユーザーにより営農データが入力され且つ被害リスクが表示される端末装置Tと、それにネットワークを介して接続されたサーバーC1とを備える。サーバーC1は、端末装置Tに入力された営農データ及び対象地点における気象データを含む生育予測用データに基づいて対象作物の生育ステージを予測する作物生育予測部1と、対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量を予測する病害虫発生予測部2と、作物生育予測部2での生育予測結果と病害虫発生予測部3での発生予測結果とに基づいて被害リスクを予測する被害リスク予測部3とを備える。被害リスク予測部3において、被害リスクは対象作物の生育ステージに応じて病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとに予測される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種による被害リスクを予測する植物保護システムであって、
ユーザーにより営農データが入力され、且つ前記被害リスクが表示される端末装置と、
前記端末装置にネットワークを介して接続されたサーバーとを備え、
前記サーバーは、
前記端末装置に入力された前記営農データ及び前記対象地点における気象データを含む生育予測用データに基づいて、前記対象作物の生育ステージを予測する作物生育予測部と、
前記対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量を予測する病害虫発生予測部と、
前記作物生育予測部での生育予測結果と、前記病害虫発生予測部での発生予測結果とに基づいて、前記被害リスクを予測する被害リスク予測部とを備え、
前記被害リスク予測部において、前記被害リスクは前記対象作物の生育ステージに応じて病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとに予測されることを特徴とする、植物保護システム。
【請求項2】
前記病害虫発生予測部において、前記対象地点と該対象地点とは異なる少なくとも1つの他地点とを含む複数地点における病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量に基づいて、前記対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量が予測されることを特徴とする、請求項1に記載の植物保護システム。
【請求項3】
前記作物生育予測部において、予測された対象作物の生育ステージに基づいて、該生育ステージに応じた病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとの防除の重要性を示す防除重要性データが特定されることを特徴とする、請求項1に記載の植物保護システム。
【請求項4】
前記病害虫発生予測部において、予測された対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量と、前記作物生育予測部で予測された対象作物の生育ステージとに基づいて、該生育ステージに応じた病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとの発生の緊急性を示す発生緊急性データが特定されることを特徴とする、請求項3に記載の植物保護システム。
【請求項5】
前記防除重要性データ及び前記発生緊急性データは、それぞれ、数値化されたパラメータデータで特定されており、
前記被害リスク予測部において、対象作物の生育ステージと病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類とに対応する、前記防除重要性データを示すパラメータと前記発生緊急性データを示すパラメータとを組み合わせて計算することにより、前記被害リスクが予測されることを特徴とする、請求項4に記載の植物保護システム。
【請求項6】
前記サーバーは、前記病害虫発生予測部で予測された対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量、並びに/又は前記被害リスク予測部で予測された前記被害リスクに紐付けられた病害虫防除計画及び必要資材の少なくとも1つを含む病害虫防除情報を特定する特定部をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の植物保護システム。
【請求項7】
前記端末装置には、ユーザーにより使用資材データが入力され、
前記サーバーは、前記使用資材データと、対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量並びに/又は対象作物の生育情報とに基づいて、前記使用資材による防除の効果を予測する防除効果予測部をさらに備えており、
前記特定部において、前記防除効果予測部での防除効果予測結果に基づいて、前記病害虫防除情報が逐次更新されることを特徴とする、請求項6に記載の植物保護システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、植物保護システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、農作物などにとって、どこに、いつ、どのような病害虫や雑草がどれくらい存在するかという情報は、病害虫の防除やその動態把握のための基盤的情報である。当該情報が得られれば、病害虫の生態把握や病害の原因となる病原菌やウイルスの伝播状況の把握し、その防除適期を見極めることができ、また当該情報を害虫に関する警戒情報発令の意思決定にも活用できる。
【0003】
例えば、サバクトビバッタの大量発生による農作物被害が世界的に問題となっている。日本でもトビイロウンカの大発生によって水稲作に大きな被害がもたらされている。特に、近年の気候変動などにより、ツマジロクサヨトウなどの新たな移動性害虫の発生も問題視されている。そのため、これら害虫の発生を正確にモニタリングし、適切な防除につなげることが農業技術上重要な技術課題である。
【0004】
また、モニタリングされた現在又は過去の病害虫発生データや気象データを含む環境データなどを説明変数にして機械学習や統計モデルによって将来の病害虫の発生を予測する研究が世界各国で行われている。本出願人も、これまでの検討により、害虫モニタリング装置に関する省力的な害虫発生情報を収集する技術だけではなく、害虫の発生や移動を予測する技術を種々提案している(例えば、非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】大塚彰ら、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/narc/2003/common03-14.html、「イネウンカ類の長距離移動シミュレーションモデル」(中央農業総合研究センター 2003年の成果情報)
【非特許文献2】田渕ら、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、https://www.naro.go.jp/project/results/4th_laboratory/tarc/2017/tarc17_s03.html、「土地利用情報を用いた被害予測モデルによる斑点米被害ハザードマップ」(東北農業研究センター 2017年の成果情報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、農作物には様々な病害虫があるが、作物の種類や生育段階(ステージ)によって、病害虫に罹患した場合の作物側が受ける被害の程度(大きさ)が異なる。例えば、コムギの場合、赤かび病というかび毒の被害リスクは開花期から乳熟期(成熟期)付近に雨が降るときに最も高く、それ以前では当該被害リスクがほとんどない又は低いと予想される。なお、赤かび病原である胞子は風雨によって飛散するため、当該被害リスクと気象要因との関連が高いと想定される。別の例として、ダイズの場合、莢伸長期から子実肥大期付近はカメムシ類による子実吸汁害を受けやすい時期である。この時期にカメムシの発生が多いと予測されると、カメムシに対するダイズの被害リスクは高くなると予想される。一方、当該時期以外にカメムシの発生が多いと予測されても、ダイズにはそれほど被害が出ないため、当該被害リスクは低いと予想される。このように、作物においては病害虫の発生に敏感なときとそうでないときがあるため、適切な防除を効果的に行うために、作物の生育に合わせて、その生育ステージに応じた病害虫による被害リスクを予測することが望まれる。
【0007】
本開示は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、作物の種類や作物の生育ステージに応じた病害虫や雑草による被害リスクを予測する植物保護システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、この開示技術では、病害虫の発生予測データに作物の生育予測データを加味して、作物の生育ステージに応じた病害虫による被害リスクを予測する構成とした。
【0009】
具体的には、本開示は、対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種による被害リスクを予測する植物保護システムに係る。このシステムは、ユーザーにより営農データが入力され、且つ前記被害リスクが表示される端末装置と、前記端末装置にネットワークを介して接続されたサーバーとを備え、前記サーバーは、前記端末装置に入力された前記営農データ及び前記対象地点における気象データを含む生育予測用データに基づいて、前記対象作物の生育ステージを予測する作物生育予測部と、前記対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量を予測する病害虫発生予測部と、前記作物生育予測部での生育予測結果と、前記病害虫発生予測部での発生予測結果とに基づいて、前記被害リスクを予測する被害リスク予測部とを備え、前記被害リスク予測部において、前記被害リスクは前記対象作物の生育ステージに応じて病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとに予測されることを特徴とする。
【0010】
本開示の植物保護システムでは、当該システムを利用するユーザーが対象作物の種類や播種日などの営農データを端末装置に入力すると、作物生育予測部で予測された対象作物の生育ステージと、病害虫発生予測部で予測された対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量とに基づいて、対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種による被害リスクが被害リスク予測部で予測され、その予測結果が端末装置に表示される。予測結果として表示される被害リスクは対象作物の生育ステージに照らし合わせた(加味した)情報であるため、ユーザーは、対象作物の生育において、いつ・どのような病害虫及び雑草の少なくとも一種による被害リスクがどの程度発生するのかという被害リスク情報が得られ、それに基づいて病害虫の防除計画や必要資材などを予め準備することができる。
【0011】
前記病害虫発生予測部において、前記対象地点と該対象地点とは異なる少なくとも1つの他地点とを含む複数地点における病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量に基づいて、前記対象地点における対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量が予測される構成としてもよい。他地点を含む複数地点における病害虫発生データ(好ましくは環境データ)を用いる構成では、単地点(対象地点のみ)における病害虫発生データを用いる構成と比較して、精度良く病害虫の発生予測を行えることが期待される。
【0012】
前記作物生育予測部において、予測された対象作物の生育ステージに基づいて、該生育ステージに応じた病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとの防除の重要性を示す防除重要性データが特定される構成としてもよい。この構成では、生育予測結果の1つとして、対象作物の生育ステージに応じた病害虫の防除重要性データが特定される。
【0013】
前記病害虫発生予測部において、予測された対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量と、前記作物生育予測部で予測された対象作物の生育ステージとに基づいて、該生育ステージに応じた病害虫及び雑草の少なくとも一種ごとの発生の緊急性を示す発生緊急性データが特定される構成としてもよい。この構成では、発生予測結果の1つとして、対象作物の生育ステージに応じた病害虫の発生緊急性データが特定される。
【0014】
前記防除重要性データ及び前記発生緊急性データは、それぞれ、数値化されたパラメータデータで特定されており、前記被害リスク予測部において、対象作物の生育ステージと病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類とに対応する、前記防除重要性データを示すパラメータと前記発生緊急性データを示すパラメータとを組み合わせて計算することにより、前記被害リスクが予測される構成としてもよい。この構成では、被害リスクを予測する方法が具体化される。
【0015】
前記サーバーは、前記病害虫発生予測部で予測された対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量、並びに/又は前記被害リスク予測部で予測された前記被害リスクに紐付けられた病害虫防除計画及び必要資材の少なくとも1つを含む病害虫防除情報を特定する特定部をさらに備える構成としてもよい。この構成では、被害リスクに基づく病害虫防除計画や必要資材などの病害虫防除情報が端末装置に表示される。これにより、ユーザーは、効果的な農薬の種類や使用方法などの情報が得られる。
【0016】
前記端末装置には、ユーザーにより使用資材データが入力され、前記サーバーは、前記使用資材データと、対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量並びに/又は対象作物の生育情報とに基づいて、前記使用資材による防除の効果を予測する防除効果予測部をさらに備えており、前記特定部において、前記防除効果予測部での防除効果予測結果に基づいて、前記病害虫防除情報が逐次更新される構成としてもよい。この構成では、防除効果予測部での予測結果に基づいて、病害虫防除情報が逐次更新されるため、ユーザーは最適な病害虫防除情報が得られる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本開示によると、作物の種類や作物の生育ステージに応じた病害虫や雑草による被害リスクを予測する植物保護システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本開示の第1の実施形態に係る植物保護システムの概略構成を示す図である。
図2図2は、第1の実施形態に係る植物保護システムを構成する病害虫発生予測部が複数地点における病害虫発生データを用いて病害虫の発生を予測する方法の一例を示す図である。
図3図3は、第1の実施形態に係る植物保護システムを構成する被害リスク予測部が防除重要性データと発生緊急性データとを用いて対象作物の病害虫による被害リスクを予測する方法の一例を示す図である。
図4図4は、第1の実施形態に係る植物保護システムが出力する被害リスクの予測結果の一例を示す図である。
図5図5は、第1の実施形態に係る植物保護システムが出力する病害虫データの一例を示す図である。
図6図6は、本開示の第2の実施形態に係る植物保護システムの概略構成を示す図であり、図1に相当する図である。
図7図7は、第2の実施形態に係る植物保護システムを構成する特定部が病害虫防除情報を特定する方法の一例を示す図である。
図8図8は、本開示の第3の実施形態に係る植物保護システムの概略構成を示す図であり、図1に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0020】
(第1の実施形態)
図1図5は本実施の形態に係る植物保護システムS1を示す。図1に示すように、植物保護システムS1は、対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種による被害リスクを予測するシステムであり、端末装置Tと、サーバーC1とを備える。端末装置TとサーバーC1とは、ネットワークを介して接続される。
【0021】
<端末装置>
端末装置Tは、植物保護システムS1を利用する例えば営農者(システムS1のユーザー)が必要情報(データ)を入力し、且つサーバーC1から出力された被害リスク情報を表示するものである。そのため、端末装置Tは、ユーザーに入力された入力データをサーバーC1に送信し、サーバーC1から受信した被害リスク情報などの予測結果を出力表示する機能を有する。なお、端末装置Tは、サーバーC1と送受信可能、且つ被害リスク情報などを表示可能なものであれば特に限定されず、例えば、携帯電話(スマートフォン)、タブレット端末、パソコンなどの一般に市販されている電子機器などを使用できる。
【0022】
入力データは、農作物(対象作物)の病害虫による被害リスクを予測するために必要な情報であり、例えば、対象地点における営農データ、病害虫や雑草の発生データなどが挙げられる。営農データとしては、例えば、作物の種類、その播種日データ(営農作業データ)、位置データ(営農地(対象地点)の位置情報、作物の生育情報)などが挙げられる。対象地点の位置データは、例えば、植物保護システムS1を利用(アクセス)している端末装置TのIPアドレスからアクセスポイントが属する地域(対象地点)を判別してもよく、端末装置Tから直接入力してもよい。病害虫の発生データとしては、例えば、対象地点で現在発生している病害虫の種類、その発生量などが挙げられる。病害虫の発生データや作物の生育情報は、例えばカメラやドローンなどで撮影された画像、衛星画像などでもよい。
【0023】
<サーバー>
サーバーC1は、植物保護システムS1を全体管理するコンピューターであり、図1に示すように、作物生育予測部1と、病害虫発生予測部2と、被害リスク予測部3とを備える。また、サーバーC1は、必要に応じて、各種データを読み書き可能に管理するデータベース4と、端末装置T(必要に応じて、後述する、環境データなどを測定する測定装置や害虫モニタリング装置Mなど)との間で各種データを送受信する機能を有する通信部5とを備える。
【0024】
〔作物生育予測部〕
作物の生育は、主に温度や日長などの気象要因、土壌の地力などの環境条件、散布した肥料の種類や量などの栽培管理などで決まる。そのため、作物生育予測部1は、ユーザーが端末装置Tに入力した作物の種類と播種日に応じて、播種日以降の気象データや環境条件、栽培管理条件に基づいて作物の生育段階(ステージ)を予測する。具体的には、作物生育予測部1は、作物生育予測部1に入力される生育予測用データに基づいて、対象作物の生育ステージを予測する。また、作物生育予測部1は、予測された生育ステージに応じた病害虫の防除の重要性を示すデータ(以下「防除重要性データ」とも称する、図3参照)を特定する。
【0025】
生育予測用データは、例えば、営農データ、気象データ、対象作物の生育ステージデータ、防除重要性データなどを含む。図1に示すように、生育予測用データは、必要に応じて生育予測用データベース41で管理される。生育予測用データベース41は、例えば、営農データベース、環境データベース、生育ステージデータベース、防除重要性データベースなどを含んでいてもよい。
【0026】
気象データは、ユーザーが端末装置Tに入力した播種日データと位置データとに基づいて計算してもよく、外部システムを利用してもよく、気象庁や各種ウェブサイトから取得してもよい。気象データとしては、例えば、栽培している作物の対象地点及び/又はその周辺環境(例えば、同一又は近隣の国、都道府県、区市町村など)における気温、温度、降水量、風(風量、風速、風向)などが挙げられる。気象データは必要に応じて環境データベースに記憶され、適宜変更可能に構成されていてもよい。
【0027】
対象作物の生育ステージデータは、作物に応じた生育アルゴリズムを示し、作物の生育ステージを予測する際に基準となるデータをいう。生育ステージデータは、例えば、作物ごとに管理された数式や数値化されたパラメータデータ(表、行列)などが挙げられる。なお、生育ステージデータは、必要に応じて生育ステージデータベースに記憶され、学術情報などに基づいて予め決定されていてもよく、適宜変更可能に構成されていてもよい。
【0028】
防除重要性データは、対象作物の生育ステージに応じた病害虫ごとの防除の重要性を示すデータをいう。図3に示すように、防除重要性データとしては、例えば、作物の生育ステージごとに発生する病害虫の種類に応じて、その発生量が0~5の6段階評価に数値化されたパラメータデータ(表、行列)や数式などが挙げられる。なお、防除重要性データの点数(病害虫防除の重要性の程度を示すパラメータ)は、必要に応じて防除重要性データベースに記憶され、学術情報などに基づいて予め決定されていてもよく、適宜変更可能に構成されていてもよい。
【0029】
作物の生育ステージを予測する方法としては、例えば、作物の種類、播種日、気象データなどを入力データとして、生育アルゴリズム(対象作物の生育ステージデータ)に基づいて1日ごとの生育量を計算し、ある一定の値になったときに所定の生育ステージに達すると仮定して、個々の生育ステージに至る日を計算・予測する方法などが挙げられる。
【0030】
また、作物生育予測部1は、上述のとおり、予測された対象作物の生育ステージに応じて、防除重要性データベースで管理される防除重要性データの中から1つを特定する。
【0031】
なお、図1に示すように、予測された対象作物の生育ステージデータ、特定された防除重要性データは、必要に応じて、例えば、生育ステージ予測データベース、特定防除重要性データベースなどを含む生育予測結果データベース42でそれぞれ管理される。
【0032】
上記の演算処理を終えた作物生育予測部1は、図1に示すように、予測された対象作物の生育ステージデータ、特定された防除重要性データなどを含む生育予測結果を被害リスク予測部3、必要に応じて病害虫発生予測部2に出力(送信)する。
【0033】
〔病害虫発生予測部〕
病害虫発生予測部2は、対象地点・対象作物における将来の病害虫及び雑草の少なくとも一種の発生量を予測する。病害虫の種類は対象作物に応じて適宜決定され特に限定されないが、植物保護システムS1では、移動性害虫も予測対象になる。飛来性(移動性)害虫としては、例えば、鱗翅目(蛾類など)、カメムシ目(カメムシ類・アブラムシ類など)、コウチュウ目(カミキリムシ類・コガネムシ類)、アザミウマ目、双翅目(ハエなど)、直翅目(バッタなど)の害虫などが挙げられる。植物保護システムS1では、雑草も予測対象になる。雑草は、病害虫と同様に他地点へ伝播する性質を持ち、病害虫と同様に防除する必要があるため、その種類や発生量を予測することが好ましい。雑草の種類は対象作物や、その営農地(対象地点)生育地及びその周囲に生える草に応じて適宜決定され特に限定されない。病害虫発生予測部2は、病害虫発生予測部2に入力される病害虫発生予測用データに基づいて、将来の病害虫及び雑草の少なくとも一種の発生量を予測する。
【0034】
病害虫発生予測用データは、例えば、病害虫発生データ(必要に応じて雑草データを含む);環境データ;病害虫データなどを含む。図1に示すように、病害虫発生予測用データは、必要に応じて発生予測用データベース43で管理される。発生予測用データベース43は、例えば、病害虫発生データベース、環境データベース、病害虫データベースなどを含んでいてもよい。
【0035】
病害虫発生データは、例えば、ユーザーが端末装置Tに入力した病害虫発生データ及び必要に応じて雑草データ;独自に収集した病害虫発生データなどの現在の病害虫発生データ;対象地点・対象作物においてこれまでに観察された過去の病害虫発生データなどを含む。病害虫発生データは必要に応じて病害虫発生データベースに記憶される。なお、病害虫発生データは、栽培している作物の周辺地域・環境(例えば、同一又は近隣の国、都道府県、区市町村など)における公設試験場などが個別に収集している病害虫発生予察データなどを取得して使用することも可能である。
【0036】
ここで、虫害であれば、多くの害虫は移動性であり、移動性害虫の移動元との関係性(移動元の情報)を把握することで一定の飛来パターンが分かる。また、病害の発生であれば類似環境での発生状況が発生リスクの参考になる。そのため、病害虫発生データは、図2に示すように、対象地点xと、対象地点xとは異なる少なくとも1つの地点(他地点)a,b,c…とを含む複数地点における病害虫発生データを用いることが好ましい。すなわち、病害虫発生予測部2は、病害虫発生の予測精度を向上する観点から、複数地点における病害虫発生データに基づいて、対象地点・対象作物における将来の病害虫の発生量を予測することが好ましい。他地点a,b,c…としては、例えば、対象地点xに隣接する地点、病害虫の生育範囲内にある地点、移動性害虫の移動距離の範囲内にある地点などが挙げられる。他地点a,b,c…は、気象データや環境データなどをふまえて適宜決定してもよい。
【0037】
独自に収集した病害虫発生データとは、例えば、害虫を誘引する誘引手段として、特定の害虫の雄を特異的に誘引する効果があるフェロモン剤(性フェロモン剤)を利用したフェロモントラップ、誘引灯を利用したライトトラップ、害虫を一般的(非特異的)に又は特異的に誘引する効果がある色を利用したカラートラップなどを利用して害虫を誘引及び捕殺し、害虫の捕虫数を計測する害虫モニタリング装置M(図1参照)を用いた病害虫のモニタリングデータなどをいう。害虫モニタリング装置Mは、対象地点xに、好ましくは対象地点xと少なくとも1つの他地点a,b,c…とを含む複数地点に設置すればよい。なお、図1に示すように、害虫モニタリング装置Mは、ネットワークを介して、モニタリング結果(害虫の画像や捕虫数等の各種データ)をサーバーC1に送信可能な無線通信手段を備えるものが好ましい。
【0038】
環境データは、対象地点、好ましくは周辺環境を含む複数地点における気象データ(害虫の移動や成長に係るパラメータ、特に風や気温);病害虫の種類、栽培作物、雑草、地形、標高、都市部・山間部などの地理的要件;当該栽培作物に応じた作業の種類などのデータが挙げられる。以下、これらデータをまとめて(気象データを含めて)単に「環境データ」ともいう。なお、環境データは、例えば、一般に市販されている測定装置を対象地点、好ましくは複数地点に設置してモニタリングしてもよく、気象庁や各種ウェブサイトから取得してもよい。環境データは必要に応じて環境データベースに記憶される。
【0039】
病害虫データとは、病害虫の種類に応じた移動(飛来)に係るデータをいい、具体的には、移動性害虫の種類、体・羽の大きさなどが数値化されたパラメータデータをいう。移動性害虫の生物学上の分類や羽の大きさなどを病害虫発生予測用データの一つとすることで、単位日あたりの飛行(移動)可能距離などが計算・予測できる。病害虫データは必要に応じて病害虫データベースに記憶される。
【0040】
対象地点・対象作物における将来の病害虫の発生量を予測する方法としては、例えば、図2に示すように、複数地点(対象地点x、他地点a,b,c…)ごと、所定期間ごと(例えば1日ごと)、所定日数(例えば1週間)における害虫量、環境データ、必要に応じて過去の害虫発生データなどを統合して(組み合わせて)、例えば、公知の統計モデル、機械学習などのAI技術を活用して生成された予測モデルを用いて、対象地点xにおける将来の害虫発生量を解析する方法などが挙げられる。また、図7に示すように、種々のモデル(算出アルゴリズム)を用いて算出される害虫発生量に、複数地点(対象地点x、他地点a,b,c…)ごと又は複数地点における栽培作物A,B…や栽培作物A,B…に応じた作業α,β…などの環境条件を組み合わせて、対象地点xにおける将来の害虫発生量を予測する構成でもよい。
【0041】
また、病害虫発生予測部2は、予測された病害虫発生予測データと、作物生育予測部2で予測された対象作物の生育ステージデータとに基づいて(これらデータを組み合わせて)、対象作物の生育ステージに応じた病害虫ごとの発生の緊急性を予測する。具体的には、病害虫発生予測部2は、発生予測された病害虫の種類ごとに、生育ステージに応じた病害虫の予測発生量を、病害虫発生の緊急性を示すデータ(以下「発生緊急性データ」とも称する、図3参照)として特定する。
【0042】
発生緊急性データとしては、図3に示すように、例えば、対象作物の予測された生育ステージごとに、発生が予測された病害虫の種類に応じて、その予測発生量が0~50の51段階に数値化されたパラメータデータ(表、行列)や数式などが挙げられる。予測された病害虫の発生量に基づいて発生緊急性データを計算する方法としては、例えば、過去の気象データや病害虫発生データ(以下まとめて「過去データ」とも称する)を用いて計算する方法などが挙げられる。具体例としては、図3に示すように、対象作物の生育ステージとして「栄養成長前期」と予測された「6月30日」時点の病害虫発生量を予測する際は、前日(6月29日)から10日前まで(6月29日~6月20日)の過去データを用いる。同様に、翌日の「7月1日」時点の病害虫発生量を予測する際は、前日(6月30日)から10日前まで(6月30日~6月21日)の過去データを用いる。病害虫の発生量は過去の発生量と自己相関することが予測されるため、このように逐次的に過去データ(あるいは予測されたデータ)を用いることで、将来の病害虫の発生量が予測される。この予測された将来の病害虫の発生量(数値)を発生緊急性データとしてそのまま出力してもよく(用いてもよく)、当該発生量(数値)に予め決定された所定係数を組み合わせた(乗算・加算した)数値を発生緊急性データとしてもよい。これら数値が高いほど、病害虫の飛来数・出現数が多いことが予測される。なお、発生緊急性データの点数(病害虫発生の緊急性の程度を示すパラメータ)は、必要に応じて発生緊急性データベースに記憶され、学術情報などに基づいて予め決定されていてもよく、適宜変更可能に構成されていてもよい。
【0043】
なお、図1に示すように、予測された病害虫発生予測データ、特定された発生緊急性データは、必要に応じて、例えば、病害虫発生予測データベース、発生緊急性データベースなどを含む発生予測結果データベース44でそれぞれ管理される。
【0044】
上記の演算処理を終えた病害虫発生予測部2は、図1に示すように、予測された対象地点・対象作物における将来の病害虫発生予測データ、特定された発生緊急性データなどを含む発生予測結果を被害リスク予測部3に出力(送信)する。
【0045】
〔被害リスク予測部〕
被害リスク予測部3は、作物生育予測部1で計算・予測された対象作物の生育予測結果と、病害虫発生予測部2で計算・予測された病害虫の将来の発生量とを加味して、作物の生育において、いつ・どのような病害虫による被害リスクがどの程度発生するのかを予測する。そのため、被害リスク予測部3において、被害リスクは、対象作物の生育ステージに対応して病害虫ごとに予測される。具体的には、図1に示すように、被害リスク予測部3は、作物生育予測部1から入力された生育ステージ予測データ(特に防除重要性データ)と、病害虫発生予測部2から入力された病害虫発生予測データ(特に発生緊急性データ)とに基づいて、対象作物の病害虫における被害リスクの程度を予測する。
【0046】
被害リスクを予測する方法としては、例えば、対象作物の生育ステージ(行)と病害虫の種類(列)とに対応する、作物生育予測部1で特定された防除重要性データの各パラメータ(行列の成分)と、病害虫発生予測部2で特定された発生緊急性データの各パラメータ(行列の成分)とを組み合わせて計算する方法などが挙げられる。これらパラメータを組み合わせて計算する方法としては、複数のパラメータを乗算、加算する方法などが挙げられる。例えば、図3に示す例では、生育ステージ:「開花・莢数決定期」、病害虫:「ハスモンヨトウ」(以下単に「ヨトウ」とも称する)の場合、防除重要性パラメータ:「3」と発生緊急性パラメータ:「42」との乗算値:「126」を被害リスクのパラメータ(被害リスク量)に特定する。被害リスク量は、生育ステージに応じた害虫による被害の程度・度合の大きさを示す。なお、図3に示すように、被害リスク量Xは、数値で表示(出力)してもよいが、例えば、所定の基準に基づいてアルファベット等の文字で表示してもよい。図3に示す例では、例えば、被害リスク量X<10:「E」、10≦X<30:「D」、30≦X<50:「C」、50≦X<100:「B」、100≦X:「A」で示される。この場合、E~Aの順に被害リスクが高いと予測される。なお、図1に示すように、予測・特定された被害リスクデータは、必要に応じて、被害リスクデータベース45に記憶・管理される。
【0047】
図1に示すように、被害リスク予測部3が上記の演算処理を終えた後、通信部5は、予測された病害虫による被害リスクデータ、必要に応じて上記の各種データを含む出力データを端末装置Tに出力(送信)する。端末装置Tは、ユーザーの入力操作に応じて、出力データを表示する。
【0048】
<まとめ>
以上のように構成される植物保護システムS1では、ユーザーが例えば端末装置Tに、対象作物の種類、播種日、対象地点などの営農データを入力することで、システムS1を構成する作物生育予測部1により、対象作物の将来の生育ステージが予測され、その予測結果に基づいて病害虫の防除重要性が特定される。また、システムS1を構成する病害虫発生予測部2により、対象作物・対象地点における病害虫発生が予測され、その予測結果に基づいて病害虫の発生緊急性が特定される。そして、システムS1を構成する被害リスク予測部3により、作物生育予測部1及び病害虫発生予測部2で予測・特定されたデータに基づいて、対象作物の生育ステージに応じた病害虫の被害リスクが予測される。予測された被害リスクは端末装置Tに表示される。
【0049】
植物保護システムS1が出力する被害リスクの予測結果の一例(端末装置Tでの表示例)としては、図4に示すように、予測された「サチユタカ」(対象作物)の生育ステージと、生育ステージに応じた病害虫の被害リスクの程度を示すA~Eの文字が表示される(なおE~Aの順に被害リスクが高い)。「サチユタカ」の生育予測結果と病害虫リスクをみたユーザーは、例えば、生育ステージとして、栄養成長中期と予測された7月25日頃には念のため「ヨトウ」及び「カメムシ」、開花・莢数決定期と予測された8月14日頃には「ヨトウ」、「カメムシ」及び「紫斑病」(特に「ヨトウ」)、子実肥大期と予測された9月13日頃には「ヨトウ」、「カメムシ」及び「コガネムシ」、最後の成熟期と予測された10月23日頃には「カメムシ」に対する防除の必要情報が得られる。これにより、ユーザーは、予め、病害虫の防除計画を立てる、必要資材を購入するなど、病害虫の防除に備えることができる。
【0050】
植物保護システムS1では、図2に示すように、病害虫発生予測部2により、対象地点x及び他地点a,b,c…を含む複数地点における害虫量及び環境データを用いて、対象地点xにおける将来の害虫発生量が予測される。これにより、特定の単地点(対象地点xのみ)における害虫量では、風に乗って移動するため予測が困難な飛来性(移動性)害虫の発生予測にも適用でき、また気候変動も考慮した発生予測が可能になる。特に、飛来性害虫は一定の移動パターンがあるため、飛来元となる地点の害虫量及び環境データを利用することで、発生予測の高精度化が期待できる。このように、植物保護システムS1では、地点間の害虫の移動ネットワーク構造(地点間の害虫発生に関する関係性)を考慮した発生予測を行うことができ、その結果、被害リスク予測部3における対象作物の生育ステージに応じた病害虫の被害リスク予測の精度向上を図ることができる。また、複数地点における害虫の発生予測が可能であるため、広域防除も期待できる。
【0051】
また、植物保護システムS1では、予測された被害リスクから、いつ頃・どの作物を栽培(播種)すれば、最も病害虫による被害リスクが低く、作物を栽培可能なのかを提示する構成としてもよい。この構成では、ユーザーは、栽培(播種)前に、栽培を希望する作物の最適な栽培時期の情報を予め得ることができる。この場合、ユーザーは、例えば、播種前に、営農データとして対象作物の種類、対象地点などを端末装置Tに入力すればよい。
【0052】
また、植物保護システムS1は、図5に示すように、ユーザーの入力操作に応じて、病害虫データベースに記憶された病害虫データを端末装置Tに出力して表示する構成としてもよい。この構成では、ユーザーは農作物の病害虫情報がすぐに確認できるため、システムS1の利用価値が高まる。
【0053】
(第2の実施形態)
図6及び図7は第2の実施形態に係る植物保護システムS2を示す。この植物保護システムS2では、図6に示すように、病害虫防除情報を端末装置Tに出力表示するための構成をさらに備える点で、上述の第1の実施形態に係る植物保護システムS1とは異なる。その他の点については、上述の第1の実施形態と同様の構成であるため、ここでは詳しい説明を省略する。また、第1の実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。なお、第1の実施形態の構成は、植物保護システムS2にもすべて適用可能である。
【0054】
病害虫防除情報は、例えば、病害虫防除計画、病害虫の防除に必要な資材(必要資材)などが挙げられる。病害虫防除計画は、例えば、病害虫被害に備えるための施策などの情報を含む。必要資材は、例えば、農薬の種類、使用量、使用タイミングなどの情報を含む。病害虫防除情報は、これら少なくとも1つの情報を含んでいればよく、上記以外の情報を含んでいてもよい。
【0055】
<サーバー>
サーバーC2は、植物保護システムS2を全体管理するコンピューターであり、図6に示すように、作物生育予測部1と、病害虫発生予測部2と、被害リスク予測部3と、データベース4と、通信部5と共に、さらに特定部6を備える。
【0056】
〔データベース〕
データベース4は、図6に示すように、上記した各種データベース41~45と共に、病害虫防除計画データを記憶する計画データベース46及び必要資材データを記憶する資材データベース47をさらに備える。病害虫防除計画データ及び必要資材データは、発生予測結果データベース44に記憶される病害虫発生予測データ及び/又は被害リスクデータベース45に記憶される被害リスクデータに紐付けられている。ここで、「紐付けられ」とは、例えば、病害虫発生予測及び/又は被害リスクに対応する防除計画や必要資材などを意味する。
【0057】
〔特定部〕
特定部6は、計画データベース46及び資材データベース47の中から、好ましい防除計画や必要資材を特定する。これら防除計画や必要資材を特定する方法としては、例えば、病害虫発生予測部2で予測された対象作物の病害虫の種類及びその発生量に基づく解析により、防除計画や必要資材を特定する方法などが挙げられる。図7に示す例では、病害虫発生予測部2において、種々のモデル(算出アルゴリズム)を用いて算出される害虫発生量に、複数地点(対象地点x、他地点a,b,c…)ごと又は複数地点xにおける栽培作物A,B…や栽培作物A,B…に応じた作業α,β…などの環境条件を組み合わせて、対象地点xにおける将来の害虫発生量を予測する。続いて、特定部6において、将来の害虫発生量の予測ごとに、対応する農薬資材P,Q…の要否(使用量)や種類などの病害虫防除情報を特定する。
【0058】
また、別の方法として、被害リスク予測部3で予測された被害リスクに基づく解析により、防除計画や必要資材を特定してもよい。例えば、被害リスクの程度を示す数値やアルファベットなどのパラメータに応じた防除計画や必要資材などが各データベース46,47に複数記憶される構成でもよく、当該パラメータに基づいて防除計画や必要資材などが解析される構成でもよい。なお、病害虫発生予測データと被害リスクデータとを組み合わせて、防除計画や必要資材を特定してもよい。
【0059】
図6に示すように、特定部6が上記の演算処理を終えた後、通信部5は、特定された防除計画や必要資材などを含む病害虫防除情報を端末装置Tに出力(送信)する。すなわち、端末装置Tの出力データは、上記の予測された病害虫による被害リスクデータなどの他に、病害虫防除情報を含む。端末装置Tは、ユーザーの入力操作に応じて、出力データを表示する。
【0060】
<まとめ>
以上のように構成される植物保護システムS2では、システムS2を構成する特定部6により、病害虫発生予測及び被害リスクの少なくとも1つのデータに基づく防除計画、必要資材などの病害虫防除情報が特定され、端末装置Tに提示(表示)される。ユーザーは、使用すべき農薬や使用方法などの情報の広告・提示により、適した害虫防除を図ることができる。また、システムS2では、ユーザーに対して必要資材の購買・使用意欲向上を図ることができる。
【0061】
(第3の実施形態)
図8は第3の実施形態に係る植物保護システムS3を示す。この植物保護システムS3では、図8に示すように、サーバーC3が防除効果予測部7をさらに備える点で、上述の第2の実施形態に係る植物保護システムS2とは異なる。その他の点については、上述の第2の実施形態と同様の構成であるため、ここでは詳しい説明を省略する。また、第2の実施形態と同様の構成部分については同一の符号を付してその説明を省略する。なお、第1及び第2の実施形態の構成は、植物保護システムS3にもすべて適用可能である。
【0062】
病害虫や雑草の出現状況などに基づいて農薬資材を生産者(ユーザー)が散布するという病害虫の防除方法では、実際のところ、個々の地域レベルではどの農薬資材がどの程度効果があるのか客観的に判断し難い。そのため、生産者自身のこれまでの経験と勘に頼った防除(例えば薬剤の選択など)が行われているのが現状である。これに対して、植物保護システムS3を利用すれば、害虫量、雑草、これらに起因する病原菌などの発生量をモニタリングできるので、生産者が端末装置Tに入力した農薬散布情報と、害虫モニタリング装置M等によって得た病害虫の発生量(または病害や雑草の発生量)並びに/又は作物の生育情報とに基づいて、農薬資材による防除の効果が予測される。
【0063】
<端末装置>
植物保護システムS3では、端末装置Tに、入力データの一つとして、ユーザーにより使用資材データが入力される。使用資材データは、ユーザーが実際に使用した資材の情報をいい、例えば、使用された農薬の種類、使用量、使用タイミングなどの情報を含む。入力された使用資材データは、必要に応じて後述する使用資材データベース48で管理される。
【0064】
<サーバー>
サーバーC3は、植物保護システムS3を全体管理するコンピューターであり、図8に示すように、作物生育予測部1と、病害虫発生予測部2と、被害リスク予測部3と、データベース4と、通信部5と、特定部6と共に、さらに防除効果予測部7を備える。
【0065】
〔データベース〕
データベース4は、図8に示すように、上記した各種データベース41~47と共に、使用資材データを記憶する使用資材データベース48と、防除効果予測部7での予測結果を記憶する防除効果予測結果データベース49とをさらに備える。
【0066】
〔防除効果予測部〕
防除効果予測部7は、植物保護システムS3のユーザーが使用した農薬資材に関する情報と、ユーザーの栽培している作物周辺で発生した病害虫量に関する情報並びに/又は作物の生育情報とを組み合わせて、農薬資材の効き目を予測する。具体的には、図8に示すように、防除効果予測部7は、端末措置Tに入力された使用資材データと、発生予測用データベース43または発生予測結果データベース44に管理された対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量(必要に応じて病害虫発生予測部2から受信してもよい)並びに/又は生育予測用データベース41または生育予測結果データベース42に管理された対象作物の生育予測情報(必要に応じて作物生育予測部1から受信してもよい)とに基づいて、資材による防除の効果の程度を予測する。換言すると、防除効果予測部7において資材防除効果を予測するための入力データは、使用資材データと対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量とを組み合わせてもよく(例えば、資材の使用前後における病害虫や雑草の発生量の増減から資材防除効果を予測する);使用資材データと対象作物の生育予測情報とを組み合わせてもよく(例えば、資材の使用前後における作物の生育状況から資材防除効果を予測する);使用資材データと、対象作物の病害虫及び雑草の少なくとも一種の種類及びその発生量と、対象作物の生育予測情報とを組み合わせてもよい(資材の使用前後における病害虫や雑草の発生量の増減及び作物の生育状況という両方のデータを使用して資材防除効果を複合的に予測する)。資材による防除の効果を予測する方法としては、例えば、作物生育予測部1で予測された対象作物の生育ステージ(基準日、作物の生育情報)において、「病害虫発生予測部2で予測された病害虫や雑草の種類及びその発生量」(予測値)に対する、「病害虫発生予測部2で当該基準日にモニタリングされた(実際に発生している)病害虫や雑草の種類及びその発生量」(実測値)の割合を計算する方法;「作物生育予測部1で予測された対象作物の生育ステージの予測結果」(予測値)に対する、「実際の作物の生育情報」(実測値)の割合を計算する方法;これら両方を組み合わせて計算する方法などが挙げられる。入力データに作物の生育予測情報を使用する場合、使用資材による作物の生育への影響も予測することができる。なお、「実際の作物の生育情報」は、例えば、端末装置Tに、入力データの一つとして、ユーザーにより入力される。なお、予測された防除効果(防除効果予測結果)は、例えば、パーセンテージなどの数値で表示(出力)してもよいが、例えば、所定の基準に基づいてアルファベット等の文字で表示してもよい。防除効果予測結果は、必要に応じて、防除効果予測結果データベース49に記憶・管理される。
【0067】
上記の演算処理を終えた防除効果予測部7は、図8に示すように、予測された防除効果予測結果を特定部6に出力(送信)する。なお、防除効果予測部7は、防除効果予測結果を、必要に応じて端末装置Tに出力(送信)してもよい。この場合、通信部5は、防除効果予測結果を端末装置Tに出力(送信)する。すなわち、端末装置Tの出力データは、上記の予測された病害虫による被害リスクデータや病害虫防除情報などの他に、防除効果予測結果を含む。端末装置Tは、ユーザーの入力操作に応じて、出力データを表示する。
【0068】
〔特定部〕
植物保護システムS3では、特定部6において、防除効果予測部7での防除効果予測結果に基づいて、病害虫防除情報が逐次更新される。具体的には、特定部6は、防除効果予測結果を受けて、計画データベース46及び資材データベース47の少なくとも1つを自動的に逐次更新する機能を有する。これにより、特定部6により特定される防除計画や必要資材が最適化される。例えば、防除効果予測結果が不良(防除効果が低い又はなし)の場合、農薬の種類、使用量、使用タイミングなどの必要資材を最適化し、それにより病害虫防除計画も修正する。一方、防除効果予測結果が良好(防除効果あり)であれば、病害虫防除情報はそのまま維持されていてもよい。
【0069】
図8に示すように、特定部6が上記の演算処理を終えた後、通信部5は、更新された防除計画や必要資材などを含む病害虫防除情報を端末装置Tに出力(送信)する。
【0070】
<まとめ>
以上のように構成される植物保護システムS3では、ユーザーが例えば端末装置Tに、実際に使用した農薬の種類、使用量、使用タイミングなどの使用資材データ、必要に応じて作物の生育情報などを入力することで、システムS3を構成する防除効果予測部7により、対象作物のある生育ステージにおいて、実際に使用された農薬資材の効果の程度が予測される。また、システムS3を構成する特定部6により、防除効果予測部7での防除効果予測結果に応じて、端末装置Tに提示(表示)する病害虫防除情報が逐次更新される。これらより、ユーザーは、逐次更新される病害虫防除情報により、常に、最適な害虫防除を図ることができる。また、ユーザーは、使用資材の効果の程度を知ることができる。さらに、ユーザーは、使用資材による作物の生育への影響の程度を知ることができる。
【0071】
<植物保護システムの用途>
本開示の植物保護システムS1,S2,S3の用途(利用)として、以下が想定される。研究資材用の利用としては、例えば、移動性害虫の詳細な移動経路やその大量発生のメカニズムの解明;移動性害虫の生態把握やその発生予測;被害リスク予測などに活用可能である。また、社会的利用としては、例えば、畑作物、野菜、果樹、花き、樹木などの害虫のモニタリングやその発生予察;感染症を媒介する害虫の防除や監視;植物防疫における基盤技術としての利用;害虫の発生データに基づく農薬散布の意思決定支援(スマート農業技術);高分解能発生データを利用した害虫発生及びそれによる被害リスク予測などに活用可能である。
【実施例0072】
以下に、本開示を実施例に基づいて説明する。なお、本開示は、以下の実施例に限定されるものではなく、以下の実施例を本開示の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本開示の範囲から除外するものではない。
【0073】
(実施例1)
実施例1では、本開示の植物保護システムを構成する病害虫発生予測部において、ある任意の地点(対象地点)のハスモンヨトウ(害虫)の発生量を過去の発生履歴から予測する際に、対象地点と共に他地点の発生情報を加味した「複数地点予測」と、対象地点のみの「単地点予測」の2つの害虫発生予測方法を開発し、両者の予測精度を比較した。解析には、広島県の3地点の圃場(北西部のK町、南部のM市及び南東部のF市。K町の圃場から最も離れているF市の圃場までの直線距離は約70~80kmである。)で2008年から2018年の間に収集したハスモンヨトウの雄成虫の捕獲データのうち6月から9月の4ヵ月間に収集した害虫量データを使用した。この害虫量データは、フェロモン剤を使用してハスモンヨトウの雄成虫を誘引するトラップを圃場に仕掛け、1月あたり計6回、約5日おきに集計した。つまり、解析に用いた害虫量データは、一年につき24時点分の発生量を記録したデータ数を含む(6 records/per month × 4 months/per year)。解析においては、10、20、30、40日前(4時点)の害虫量データを使用し、さらに「複数地点予測」では、同様の4時点における他地点の害虫量データも説明変数に加えた。つまり、「複数地点予測」では、3地点の害虫量データを使用し、1つの地点(対象地点)におけるハスモンヨトウの発生量を予測する際は、他の2地点の害虫量データ(4時点の過去の発生データ×他の2地点)も使用した。なお、解析に使用したハスモンヨトウの害虫量データに対しては対数変換を行ったうえで、すべての説明変数を標準化した。
【0074】
また、実施例1では、ハスモンヨトウの発生量を推定するモデルの例として、機械学習の一手法であるサポートベクター回帰(SVR)、一般回帰モデル(OLS)、Lasso回帰、Ridge回帰の4種類のモデルを用いた。モデルのキャリブレーションのために、2008年から2016年にかけて収集した害虫量データを使用した。一方、モデルの外挿性を評価するために、2017年から2018年にかけて収集した害虫量データをテストデータとして使用した。
【0075】
そして、他地点の害虫量データの有無により、モデルの予測精度が向上するかどうかを見極めるため、他地点の害虫量データをモデルの説明変数に入れた場合の「複数地点予測」と、入れなかった場合の「単地点予測」において、上記のテストデータに対する予測精度を比較した。なお、評価手法として絶対値誤差平均(MAE:Mean Absolute Error)を用いた。つまり、MAE値が小さいほど、予測精度が高いことを意味する。
【0076】
以上の方法により、4種類の異なるハスモンヨトウの発生量予測モデルの予測精度(MAE)の解析結果を表1に示す。また、3地点における予測精度(MAE)の平均値を表2に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
表1の結果から、4種類すべてのモデルにおいて、他地点の害虫量データを説明変数に有する「複数地点予測」は、他地点の害虫量データを説明変数に有しない「単地点予測」と比較して、高い精度でハスモンヨトウの発生量を予測することができた。また、表2の結果から、3地点における予測精度の平均値を見ると、「単地点予測」では、MAEが各モデル間で0.74~0.76程度であるのに対して、「複数地点予測」においては、MAEが0.70~0.71程度であり、MAE値換算で0.03~0.06程度、予測精度が改善することが分かった。この結果より、複数地点における害虫量を考慮した発生予測手法は、害虫の発生予測の高精度化に貢献できる可能性が高い。そして、病害虫発生予測部において複数地点における害虫量を考慮した発生予測手法を適用することで、被害リスク予測部における被害リスクの予測精度の向上が期待される。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示は、病害虫による農作物の被害リスクを予測するシステムに適用できる。
【符号の説明】
【0081】
S1,S2,S3 植物保護システム
C1,C2,C3 サーバー
T 端末装置
M 害虫モニタリング装置
1 作物生育予測部
2 病害虫発生予測部
3 被害リスク予測部
4 データベース
41 生育予測用データベース
42 生育予測結果データベース
43 発生予測用データベース
44 発生予測結果データベース
45 被害リスクデータベース
46 計画データベース
47 資材データベース
48 使用資材データベース
49 防除効果予測結果データベース適宜
5 通信部
6 特定部
7 防除効果予測部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8