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特開2024-25474マイクロプラスチック分離器およびマイクロプラスチック分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024025474
(43)【公開日】2024-02-26
(54)【発明の名称】マイクロプラスチック分離器およびマイクロプラスチック分離方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/04 20060101AFI20240216BHJP
   B03B 5/30 20060101ALI20240216BHJP
   B01D 36/00 20060101ALI20240216BHJP
   B01D 29/01 20060101ALI20240216BHJP
   G01N 1/08 20060101ALI20240216BHJP
【FI】
G01N1/04 W
B03B5/30
B01D36/00
B01D29/04 510E
B01D29/04 510F
B01D29/04 510C
B01D29/04 510D
B01D29/04 530A
G01N1/08 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022128949
(22)【出願日】2022-08-12
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】横田 賢史
(72)【発明者】
【氏名】田野入 開
【テーマコード(参考)】
2G052
4D071
4D116
【Fターム(参考)】
2G052AA04
2G052AA18
2G052AD55
2G052DA27
2G052EA04
2G052FD09
2G052GA09
2G052HA03
2G052JA08
2G052JA16
4D071AA43
4D071AB12
4D071AB23
4D071AB63
4D071DA20
4D116AA27
4D116BB01
4D116BB10
4D116BC06
4D116DD01
4D116EE03
4D116EE12
4D116FF12B
4D116FF13B
4D116FF16B
4D116GG02
4D116GG12
4D116GG13
4D116KK01
4D116KK06
4D116QA21A
4D116QA21D
4D116QA21G
4D116QA51A
4D116QA51D
4D116QA51G
4D116QA60A
4D116QA60E
4D116QA60G
4D116UU01
4D116UU19
4D116VV30
(57)【要約】
【課題】客観性に優れた測定結果が得られるマイクロプラスチック分離器およびマイクロプラスチック分離方法を提供する。
【解決手段】マイクロプラスチック分離器10は、比重が1.4を越える筒状の容器本体1と、容器本体1の第1端1bに着脱自在に装着されて第1端1bの開口を開閉可能に閉止する第1栓体2と、容器本体1の第1端1bとは反対の第2端1cの開口を開閉可能に閉止する第2栓体3と、容器本体1内に設けられて試料Sを保持する保持容器4と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
比重が1.4を越える筒状の容器本体と、
前記容器本体の第1端に着脱自在に装着されて前記第1端の開口を開閉可能に閉止する第1栓体と、
前記容器本体の前記第1端とは反対の第2端の開口を開閉可能に閉止する第2栓体と、
前記容器本体内に設けられて試料を保持する保持容器と、
を備える、マイクロプラスチック分離器。
【請求項2】
前記容器本体はフッ素樹脂からなる、請求項1記載のマイクロプラスチック分離器。
【請求項3】
前記容器本体は透明である、請求項1記載のマイクロプラスチック分離器。
【請求項4】
前記第2栓体は、空気が流通する流通路を有する栓体本体と、前記流通路の開度を無段階で調整する開閉弁とを備える、請求項1記載のマイクロプラスチック分離器。
【請求項5】
請求項1~4のうちいずれか1項に記載のマイクロプラスチック分離器を用いたマイクロプラスチック分離方法であって、
前記保持容器に保持させた前記試料を前記容器本体に入れて前記試料に含まれる有機物を分解させる第1化学的処理工程と、
前記第1化学的処理工程を経た処理液に、比重が1.4以上、1.6以下となるように液体を加えて混合し、前記第1栓体を前記容器本体から外して混合液中の沈殿物を前記容器本体から排出する密度分離工程と、
前記密度分離工程で残った液をろ過するろ過工程と、
を有する、マイクロプラスチック分離方法。
【請求項6】
前記第1化学的処理工程は、前記試料を酸化性液で処理する酸化分解工程を含む、請求項5記載のマイクロプラスチック分離方法。
【請求項7】
前記ろ過工程の後に、有機物を除去する第2化学処理工程を有する、請求項5記載のマイクロプラスチック分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプラスチック分離器およびマイクロプラスチック分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロプラスチックによる環境汚染は世界中で確認されている。海洋生態系への影響、公衆衛生上の観点などから、マイクロプラスチックによる海洋汚染の全容の把握が求められている。マイクロプラスチックの調査を行うには、マイクロプラスチックの試料を採取し、試料の分析を行う(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3232893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、マイクロプラスチックの分離効率の低さ、外部からのマイクロプラスチックの混入、マイクロプラスチックの損失などにより、信頼性の高い測定結果が得られない場合があった。そのため、環境中のマイクロプラスチックの実態を客観的に把握するのが難しくなる可能性があった。
【0005】
本発明の一態様は、客観性に優れた測定結果が得られるマイクロプラスチック分離器およびマイクロプラスチック分離方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]比重が1.4を越える筒状の容器本体と、前記容器本体の第1端に着脱自在に装着されて前記第1端の開口を開閉可能に閉止する第1栓体と、前記容器本体の前記第1端とは反対の第2端の開口を開閉可能に閉止する第2栓体と、前記容器本体内に設けられて試料を保持する保持容器と、を備える、マイクロプラスチック分離器。
[2]前記容器本体はフッ素樹脂からなる、[1]記載のマイクロプラスチック分離器。
[3]前記容器本体は透明である、[1]記載のマイクロプラスチック分離器。
[4]前記第2栓体は、空気が流通する流通路を有する栓体本体と、前記流通路の開度を無段階で調整する開閉弁とを備える、[1]記載のマイクロプラスチック分離器。
[5][1]~[4]のうちいずれか1つに記載のマイクロプラスチック分離器を用いたマイクロプラスチック分離方法であって、前記保持容器に保持させた前記試料を前記容器本体に入れて前記試料に含まれる有機物を分解させる第1化学的処理工程と、前記第1化学的処理工程を経た処理液に、比重が1.4以上、1.6以下となるように液体を加えて混合し、前記第1栓体を前記容器本体から外して混合液中の沈殿物を前記容器本体から排出する密度分離工程と、前記密度分離工程で残った液をろ過するろ過工程と、を有する、マイクロプラスチック分離方法。
[6]前記第1化学的処理工程は、前記試料を酸化性液で処理する酸化分解工程を含む、[5]記載のマイクロプラスチック分離方法。
[7]前記ろ過工程の後に、有機物を除去する第2化学処理工程を有する、[5]記載のマイクロプラスチック分離方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、客観性に優れた測定結果が得られるマイクロプラスチック分離器およびマイクロプラスチック分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態に係るマイクロプラスチック分離器の斜視図である。
図2】実施形態に係るマイクロプラスチック分離方法の工程図である。
図3】実施形態に係るマイクロプラスチック分離方法の工程図である。
図4】実施形態に係るマイクロプラスチック分離方法の工程図である。
図5】実施形態に係るマイクロプラスチック分離方法の工程図である。
図6】実施形態に係るマイクロプラスチック分離方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[マイクロプラスチック分離器]
図1は、実施形態に係るマイクロプラスチック分離器の斜視図である。
図1に示すように、マイクロプラスチック分離器10は、容器本体1と、第1栓体2と、第2栓体3と、保持容器4とを備える。
【0010】
容器本体1は、筒状に形成されている。容器本体1は、例えば、中心軸Cを有する円筒状に形成されている。容器本体1は、柱状(例えば、円柱状)の内部空間1aを有する。容器本体1の内周面は、中心軸Cに沿う平滑面である。そのため、容器本体1は、内部空間1aにおける軸方向(中心軸Cに沿う方向)の物体の移動を妨げない。
【0011】
容器本体1は、透明であることが好ましい。例えば、容器本体1は、可視光(波長380nm~780nm)を全波長範囲で厚さ方向に50%以上透過させることが好ましい。容器本体1が透明であると、容器本体1の内部の状態を目視で確認しやすくなる。
【0012】
容器本体1は、第1化学的処理工程などにおける耐久性などの観点から、フッ素樹脂で形成されていることが望ましい。フッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)などが挙げられる。PFAの比重は約2.15である。PTFEの比重は約2.17である。PCTFEの比重は約2.13である。
【0013】
容器本体1の比重は1.4を越える。容器本体1の比重が1.4を越えると、容器本体1の一部がマイクロプラスチックとなって容器本体1内に放出された場合でも、これを密度分離工程で沈殿させて分離しやすくなる。そのため、マイクロプラスチックの測定を精度よく行うことができる。容器本体1の比重は1.6を越えることが望ましい。容器本体1の比重は2以上であってもよい。容器本体1の比重は、例えば、2.5以下である。なお、容器本体1の構成材料は、比重が前述の範囲にある材料であれば、フッ素樹脂に限らない。
【0014】
第1栓体2は、容器本体1の下端(第1端)1bの開口を開閉可能に閉止する。第1栓体2の少なくとも上部は容器本体1の形状に応じた柱状(例えば、円柱状)とされている。第1栓体2の上部は下端1bから容器本体1内に挿入されている。第1栓体2は、容器本体1の下端1bに着脱自在に装着できる。
【0015】
第1栓体2が挿入された部分の容器本体1の外周面には、ベルト状のクランプ11が設けられている。クランプ11は、容器本体1を第1栓体2に対して締め付けることによって、容器本体1と第1栓体2とを固定する。
【0016】
第2栓体3は、容器本体1の上端(第2端)1cの開口を開閉可能に閉止する。第2栓体3の少なくとも下部は容器本体1の形状に応じた柱状(例えば、円柱状)とされている。第2栓体3の下部は上端1cから容器本体1内に挿入されている。上端1cは、下端1bとは反対の端である。第2栓体3は、容器本体1の上端1cに着脱自在に装着できる。
【0017】
第2栓体3は、栓体本体12と、開閉弁13とを備える。栓体本体12は、空気が流通する流通路(図示略)を有する。開閉弁13は、バルブ(図示略)と、操作部14とを備える。開閉弁13は、操作部14の回動操作によってバルブを動作させ、栓体本体12の流通路を開放および閉止できる。開閉弁13は、流通路の開度を無段階で調整できる。
【0018】
第1栓体2および第2栓体3は、樹脂、ゴムなどで形成されている。第1栓体2および第2栓体3は、例えば、PTFE、PFA、PCTFEなどのフッ素樹脂によって形成することができる。フッ素樹脂を使用すると、第1化学的処理工程などにおける耐久性の点で好ましい。第1栓体2および第2栓体3は、フッ素ゴムで形成してもよい。第1栓体2および第2栓体3の比重は1.4を越える(好ましくは1.6を越える)ことが望ましい。
【0019】
保持容器4は、試料を保持する容器である。保持容器4は、透明であることが好ましい。保持容器4が透明であると、保持容器4内の試料を目視で確認しやすくなる。保持容器4は、容器本体1内に収容可能である。保持容器4は、例えば、容器本体1の下部に配置される。保持容器4は、例えば、第1栓体2の上端面に載置される。
【0020】
保持容器4は、化学処理に対する耐久性に優れた材料からなることが望ましい。保持容器4の材料としては、ガラス、樹脂(フッ素樹脂など)が挙げられる。保持容器4の比重は1.4を越える(好ましくは1.6を越える)ことが望ましい。
第1栓体2、第2栓体3、保持容器4の比重は、2以上であってもよい。第1栓体2、第2栓体3、保持容器4の比重は、例えば、2.5以下である。
【0021】
マイクロプラスチック分離器10は、例えば、容器本体1が上下方向(鉛直方向)に沿う姿勢で使用される。
【0022】
[マイクロプラスチック分離方法]
次に、実施形態のマイクロプラスチック分離方法の一例を説明する。
実施形態のマイクロプラスチック分離方法の試料としては、例えば、海洋、河川などに存在する物質が挙げられる。マイクロプラスチックは、例えば、生物の体内、水中、水底の堆積物、海岸等の土壌、浮遊物などに存在する。そのため、環境汚染の実態を把握するためには、海洋生物などの生物、水(海水等)、水底堆積物、海岸土壌、浮遊物などを試料とするのが好適である。
【0023】
試料となる海洋生物としては、海洋動物、海洋植物が挙げられる。海洋生物の具体例としては、魚類、貝類(二枚貝、巻貝)、甲殻類、軟体動物、海藻類などが挙げられる。試料は海洋生物の一部(内臓、筋肉部など)のみであってもよいし、生物体の全体であってもよい。
【0024】
実施形態のマイクロプラスチック分離方法の対象として好適なマイクロプラスチックを以下に例示する。
低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、エチレン酢酸ビニル(EVA)、アクリロニトリルスチレン(SAN)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリレートスチレンアクリロニトリル(ASA)、ポリアセタール(POM)、ポリカーボネート(PC)、アルキド(Alkyd)、不飽和ポリエステル(UPR)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアリルアミン-アクリロニトリルブタジエンスチレン-ポリメタクリルイミド(PAA-MABS-PMI)、ポリアミド(PA)、尿素樹脂(UF)、ポリウレタン(PUR)。
【0025】
次に示すマイクロプラスチックも、実施形態のマイクロプラスチック分離方法の対象となり得る。
エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、フェノール樹脂(PF)、シリコン樹脂(SI)。
【0026】
実施形態のマイクロプラスチック分離方法の対象となるマイクロプラスチックの比重は、例えば、1.6以下(好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.4以下)である。マイクロプラスチックの粒径は5mm以下である。マイクロプラスチックの粒径は、例えば、10μm~5mmである。マイクロプラスチックは、粒径が20μm~5mmであると、顕微鏡型赤外分光光度計を用いた赤外分光法によって測定しやすい。
【0027】
実施形態のマイクロプラスチック分離方法は、第1化学的処理工程と、密度分離工程と、ろ過工程と、第2化学処理工程とを有する。
【0028】
(第1化学的処理工程)
図2に示すように、試料Sを保持容器4に保持させる。試料Sは、例えば、保持容器4内に収容されることによって保持される。図2では、試料Sとして海洋生物を例示する。試料Sを保持した保持容器4を分析天秤21に載せ、試料Sの質量を測定する。
【0029】
図3(A)に示すように、試料Sを保持した保持容器4を容器本体1の内部に配置する。容器本体1の下端1bに第1栓体2を装着する。
【0030】
第1化学的処理工程は、例えば、酸処理工程と、酸化分解工程と、アルカリ処理工程と、を有する。
酸処理工程は、酸処理液で試料Sを処理する工程である。酸処理工程では、酸を含む酸処理液を容器本体1内に供給し、試料Sに接触させる。酸処理液に含まれる酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、塩酸、硫酸、硝酸などが挙げられる。
試料Sに含まれる、骨格構造(骨、殻など)由来の物質は、酸処理液の作用によって溶解または分離する。そのため、密度分離工程およびろ過工程において、骨格構造(骨、殻など)由来の物質を除去できる。
【0031】
図3(B)に示すように、酸化分解工程は、酸化性液(酸化剤)で試料Sを処理する工程である。酸化分解工程では、酸化性物質を含む酸化性液を容器本体1内に供給し、試料Sに接触させる。酸化性液に含まれる酸化性物質としては、過酸化水素、次亜塩素酸塩などが挙げられる。
試料Sに含まれる有機物等の一部は、酸化性液の作用によって酸化分解する。分解物は、密度分離工程およびろ過工程において除去することができる。酸化分解工程では、硫酸鉄などの触媒を使用してもよい。この触媒は、有機物等の酸化分解反応を促進させる。
【0032】
図3(C)に示すように、アルカリ処理工程は、アルカリ処理液で試料Sを処理する工程である。アルカリ処理工程では、アルカリを含むアルカリ処理液を容器本体1内に供給し、試料Sに接触させる。アルカリ処理液に含まれるアルカリとしては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムなどが挙げられる。
試料Sに含まれる有機物の一部は、アルカリ処理液の作用によって分解する。分解物は、密度分離工程およびろ過工程において除去することができる。
【0033】
(密度分離工程)
図4(A)に示すように、第1化学的処理工程を経た処理液に、密度分離用液体を添加して混合液を得る。密度分離用液体は、混合液の比重が1.4以上、1.6以下(すなわち、密度1.4g/cm以上、1.6g/cm以下)となるように調製された液体である。混合液の比重は1.5以上、1.6以下であってもよい。混合液の比重は、対象とするマイクロプラスチックの比重より大きいことが望ましい。密度分離用液体は、混合液の比重が1.2以上、1.4以下となるような比重を有する液体であってもよい。
【0034】
密度分離用液体は、例えば、塩の水溶液である。密度分離用液体の比重は、例えば、1.8以上(すなわち、密度1.8g/cm以上)である。塩としては、ヨウ化塩、塩化亜鉛、塩化ナトリウムなどが挙げられるが、ヨウ化塩が好ましい。ヨウ化塩としては、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムなどがある。
【0035】
混合液には、炭酸カルシウム(CaCO)を添加してもよい。炭酸カルシウムの添加によって、有機物のコロイドを凝集、沈殿させることができる。
【0036】
混合液を十分な時間、静置する。これにより、混合液は、上澄み層L1と、中間層L2と、沈殿物層L3とに分離する。
【0037】
上澄み層L1は、浮上物を含む最上層である。上澄み層L1には、混合液より比重が小さい成分が含まれる。ほとんどのマイクロプラスチックは混合液より比重が小さいため、上澄み層L1に含まれる。沈殿物層L3は、沈殿物を含む最下層である。沈殿物層L3には、混合液より比重が大きい固形物などが含まれる。中間層L2は、上澄み層L1と沈殿物層L3との間の層である。
【0038】
図4(B)に示すように、混合液と同じ比重の密度分離用液体(例えば、ヨウ化塩の水溶液)を貯留した貯留槽22を用意する。容器本体1の上端1cに第2栓体3を装着する。第2栓体3の流通路は開閉弁13(図1参照)によって閉止しておく。マイクロプラスチック分離器10の下部を貯留槽22内の密度分離用液体に浸漬する。
【0039】
図4(C)に示すように、第1栓体2を容器本体1から外す。開閉弁13の操作によって第2栓体3の流通路を開放すると、外気は流通孔を通して容器本体1内に流入可能となる。容器本体1の沈殿物層L3を含む部分の液は下端1bから貯留槽22内に排出される。併せて、保持容器4も容器本体1から排出される。
第2栓体3の流通路を開放する際には、開閉弁13の操作によって流通路の開度を調整することによって、容器本体1からの液排出量を適切な量に抑えることができる。
【0040】
図4(D)に示すように、容器本体1の下端1bに第1栓体2を装着する。
【0041】
必要に応じて、密度分離用液体(例えば、ヨウ化塩の水溶液)を容器本体1内に追加して沈殿物を排出する工程を繰り返してもよい。すなわち、混合液と同じ比重の密度分離用液体を容器本体1内に追加し、沈殿物層L3を容器本体1から排出する操作(図4(A)および図4(B)参照)を1または複数回行ってもよい。
【0042】
(ろ過工程)
図5示すように、ろ過装置23を用意する。ろ過装置23は、漏斗24と、第1フィルタ25と、減圧ろ過用フィルタホルダ26と、第2フィルタ27と、減圧ろ過容器28と、を備える。
第1フィルタ25としては、例えば、メッシュ状の金属フィルタ、紙フィルタ、布フィルタなどが使用できる。減圧ろ過用フィルタホルダ26は、被ろ過液を受ける受け容器29と、第2フィルタ27を保持する保持部30とを備える。減圧ろ過容器28は、減圧ポンプによって内部を減圧できる。
【0043】
第2フィルタ27としては、フッ素樹脂からなるフィルタを使用できる。第2フィルタ27は、例えば、PTFEで形成されている。第2フィルタ27は、PFA、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などで形成されていてもよい。
【0044】
容器本体1内に残った液(密度分離工程で残った液)を、被ろ過液として、漏斗24を通して第1フィルタ25に供給する。第1フィルタ25で大きな固形物が取り除かれた後、被ろ過液は、減圧ろ過用フィルタホルダ26の受け容器29に供給される。受け容器29内の被ろ過液は、第2フィルタ27に供給される。第1フィルタ25上の分離物は、マイクロプラスチックを含む。
【0045】
減圧ろ過容器28内を減圧することによって、被ろ過液を吸引し、第2フィルタ27を透過させる。被ろ過液に含まれる固形物は第2フィルタ27によって分離されて回収される。第2フィルタ27上の分離物は、マイクロプラスチックを含む。
【0046】
(第2化学処理工程)
図6に示すように、減圧ろ過用フィルタホルダ26の受け容器29に、有機物除去性の処理液31を供給し、第2フィルタ27を透過させる。有機物除去性の処理液31は、例えば、尿素と、チオ尿素と、アルカリ剤とを含む。有機物除去性の処理液31は、例えば、界面活性剤(ドデシル硫酸ナトリウムなど)の水溶液であってもよい。
【0047】
第2フィルタ27上の分離物に含まれる有機物の一部は、処理液31の作用によって除去されやすくなる。例えば、グリコシド結合をもつ天然高分子(セルロース、キチンなど)は、尿素と、チオ尿素と、アルカリ剤とを含む処理液31によって除去されやすい形態となる。分離物に含まれる有機物(脂質)の一部は、界面活性剤によって乳化され、処理液31によって除去されやすくなる。
【0048】
天然高分子、脂質などの有機物は、赤外分光法などを用いたマイクロプラスチックの測定においてノイズとなりやすいが、これらの有機物を除去することによって、マイクロプラスチックの測定の精度を高めることができる。
【0049】
第2フィルタ27上の分離物は、分析天秤21(図2参照)を用いて質量を測定することができる。
【0050】
分離したマイクロプラスチックは、例えば、顕微鏡型赤外分光光度計を用いた赤外分光法などによって同定することができる。
【0051】
[実施形態のマイクロプラスチック分離器および分離方法によって得られる効果]
(1)分離効率
マイクロプラスチック分離器10は、第1化学的処理工程、密度分離工程およびろ過工程によって、マイクロプラスチックの分離効率を高めることができる。マイクロプラスチック分離器10は、マイクロプラスチックの分離効率を高めることができるため、測定時間を短くできる。
【0052】
(2)試験の再現性、測定の定量性
マイクロプラスチック分離器10は、比重が1.4を越える容器本体1を備えるため、容器本体1の一部がマイクロプラスチックとなって容器本体1内に放出された場合でも、これを密度分離工程で沈殿させて分離することができる。そのため、マイクロプラスチックの測定の精度を高めることができる。
マイクロプラスチック分離器10は、試料Sを外に出すことなく第1化学的処理工程および密度分離工程を実施できるため、外部からの不純物(マイクロプラスチック)の混入は起こりにくい。マイクロプラスチック分離器10は、試料Sを外に出さずに第1化学的処理工程および密度分離工程を実施できるため、これらの工程を異なる試験系で行う場合に比べ、試料Sの損失は生じにくい。
このように、マイクロプラスチック分離器10は、不純物の混入が少なく、かつ試料の損失も少ないため、信頼性の高い測定結果が得られる。よって、マイクロプラスチック分離器10は、試験の再現性、測定の定量性などの点で優れている。
【0053】
(3)当該技術分野における統一的な規格の提供
従来のマイクロプラスチック分離器および分離方法は汎用性に欠けるため、統一的な規格としては使用できなかった。これに対し、マイクロプラスチック分離器10は、前述のように、マイクロプラスチックの分離効率が高く、しかも試験の再現性、測定の定量性などの点で優れている。そのため、試料の種類などの制約が少なく、試験装置として汎用性が高い。マイクロプラスチック分離器10は、試験装置として広く用いることができるため、客観性のある測定結果が得られることから、測定結果相互の比較が容易である。よって、マイクロプラスチック分離器10は、当該技術分野における統一的な規格として有用である。そのため、環境中のマイクロプラスチックの実態を客観的に把握するのが容易となる。
【0054】
実施形態のマイクロプラスチック分離方法は、(1)~(3)と同様の効果を奏する。
【実施例0055】
(実施例1)
図1に示すマイクロプラスチック分離器10を作製した。容器本体1は円筒状(外径28mm、内径25mm、長さ330mm)とされている。容器本体1はPFA製である。第1栓体2は、円柱状(外径25mm、長さ70mm)とされている。第2栓体3の下部は、円柱状(外径25mm)とされている。栓体本体12は貫通孔を有する。開閉弁13は、貫通孔に挿入される二方バルブ(図示略)と、操作部14とを備える。保持容器4は半球状の底部を有する円筒状である(外径24mm、高さ30mm)。保持容器4はガラス製である。
【0056】
試料Sを収容した保持容器4を容器本体1内に配置した。容器本体1の下端1bに第1栓体2を装着した。試料Sとしては、魚類の脂肪、および、海岸に漂着した木片を用いた。
【0057】
(第1化学的処理工程)
酸処理工程:図3(A)に示すように、ギ酸(20質量%)とポリジメチルシロキサンとを含む水溶液を酸処理液として使用した。酸処理液を容器本体1内に供給して、室温で1時間放置した。
酸化分解工程:図3(B)に示すように、過酸化水素(30質量%)と硫酸鉄・7水和物とを含む水溶液を酸化性液として使用した。酸化性液を容器本体1内に供給して7日間置いた。
アルカリ処理工程:図3(C)に示すように、水酸化カリウム(50質量%)を含む水溶液をアルカリ処理液として使用した。アルカリ処理液と容器本体1内に供給して、50℃で2日間置いた。
【0058】
(密度分離工程)
図4(A)に示すように、第1化学的処理工程を経た処理液に、この処理液の約3倍の量の密度分離用液体を添加して、ほぼ容器本体1を満たす量の混合液を得た。密度分離用液体は、ヨウ化ナトリウム水溶液(比重1.8)である。混合液の比重は約1.6となった。混合液に、10質量%炭酸カルシウム(CaCO)水溶液を少量(0.1mL)添加した。
【0059】
混合液を6時間静置した。これにより、混合液は、上澄み層L1と、中間層L2と、沈殿物層L3とに分離した。
【0060】
図4(B)に示すように、ヨウ化ナトリウム水溶液(比重1.6)を貯留した貯留槽22を用意した。マイクロプラスチック分離器10の下部を貯留槽22内のヨウ化ナトリウム水溶液に浸漬した。
【0061】
図4(C)に示すように、第1栓体2を容器本体1から外した。開閉弁13の操作によって第2栓体3の流通路を開放した。容器本体1の沈殿物層L3を含む部分の液は下端1bから貯留槽22内に排出された。これにより、沈殿物層L3は容器本体1から排出された。併せて、保持容器4も容器本体1から排出された。
【0062】
図4(D)に示すように、容器本体1の下端1bに第1栓体2を装着した。
【0063】
(ろ過工程)
図5示すように、ろ過装置23を用意した。第1フィルタ25は、メッシュ状のステンレスフィルタである。第2フィルタ27は、PTFEで形成されている。
容器本体1内に残った液(密度分離工程で残った液)を、被ろ過液として、漏斗24を通して第1フィルタ25に供給した。第1フィルタ25で大きな固形物が取り除いた後、被ろ過液を受け容器29から第2フィルタ27に供給した。
減圧ろ過容器28内を減圧することによって、被ろ過液を吸引し、第2フィルタ27を透過させた。被ろ過液に含まれる固形物を第2フィルタ27によって分離した。
【0064】
(第2化学処理工程)
図6に示すように、減圧ろ過用フィルタホルダ26の受け容器29に、有機物除去性の処理液31を供給し、第2フィルタ27を透過させた。有機物除去性の処理液31は、尿素(8質量%)と、チオ尿素(6.5質量%)と、水酸化ナトリウム(8質量%)とを含む水溶液である。
【0065】
第2フィルタ27によって分離された分離物(処理後の試料)と、処理前の試料Sとの有機物量を、ガスクロマトグラフ分析および乾燥重量法によって測定した。処理前および処理後の試料の有機物量から、有機物の除去率を算出した。表1に結果を示す。
【0066】
(比較例1)
試料は下水である。過酸化水素水(30質量%)で試料を処理した。処理前および処理後の試料の有機物量を乾燥重量法によって測定した。処理前および処理後の試料の有機物量から、有機物の除去率を算出した。表1に結果を示す。
【0067】
(比較例2)
試料は生物体である。過酸化水素水(30質量%)で試料を処理した。処理前および処理後の試料の有機物量を面積法によって測定した。処理前および処理後の試料の有機物量から、有機物の除去率を算出した。表1に結果を示す。
【0068】
(比較例3)
試料はミジンコ、クルミ破片、およびウキクサである。フェントン試薬で試料を処理した。処理前および処理後の試料の有機物量を乾燥重量法によって測定した。処理前および処理後の試料の有機物量から、有機物の除去率を算出した。表1に結果を示す。
【0069】
(比較例4)
試料は径200μm以上の動物プランクトンである。プロテイナーゼKで試料を処理した。処理前および処理後の試料の有機物量を乾燥重量法によって測定した。処理前および処理後の試料の有機物量から、有機物の除去率を算出した。表1に結果を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
表1に示すように、実施例1は、比較例に比べ、有機物の除去率が高かった。このことから、実施例1では、マイクロプラスチックの分離効率を高めることができることがわかる。
【0072】
(実施例2)
人為的にマイクロプラスチックを添加した試料Sを、実施例1と同様のマイクロプラスチック分離方法に供した。第2フィルタ27によって回収したマイクロプラスチックを計数し、マイクロプラスチックの回収率を算出した。表2に結果を示す。表2ではマイクロプラスチックを「MPs」とする。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示す結果を総合すると、MPsの回収率は約84.2%である。
Way et al.による文献(Way, C., Hudson, M.D., Williams, I.D., Langley, G.J., 2022. Evidence of underestimation in microplastic research: A meta-analysis of recovery rate studies. Sci. Total Environ. 805, 150227.)によれば、MPsの回収率は81~88%の範囲にある。
このように、実施例2では、前述の文献に示す従来例と比べ、MPsの損失は従来例と同等であった。実施例2では、MPsの混入は従来例より少なかった。
【0075】
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
例えば、実施形態では、第1化学的処理工程は、酸処理工程と、酸化分解工程と、アルカリ処理工程とを有するが、第1化学的処理工程はこれに限らない。第1化学的処理工程は、少なくとも酸化分解工程を含んでいればよい。第1化学的処理工程は、酸化分解工程のみでもよい。第1化学的処理工程は、酸処理工程と、酸化分解工程とを含む工程であってもよい。第1化学的処理工程は、酸化分解工程と、アルカリ処理工程とを含む工程であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
1…容器本体、1b…下端(第1端)、1c…上端(第2端)、2…第1栓体、3…第2栓体、4…保持容器、10…マイクロプラスチック分離器、12…栓体本体、13…開閉弁、S…試料
図1
図2
図3
図4
図5
図6