(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002566
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】抗ウイルス材料の製造方法、抗ウイルス材料
(51)【国際特許分類】
B01J 23/888 20060101AFI20231228BHJP
B01J 35/39 20240101ALI20231228BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B01J23/888 M
B01J35/02 J
B01J23/30 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101830
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】小西 由也
(72)【発明者】
【氏名】佐山 和弘
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA48A
4G169BB04A
4G169BB04B
4G169BC31A
4G169BC31B
4G169BC60A
4G169BC60B
4G169CA11
4G169DA05
4G169EA08
4G169FB23
4G169FB29
4G169FC07
4G169HA02
4G169HB06
4G169HC02
4G169HC29
4G169HD05
4G169HD10
4G169HE07
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】光照射がない状態(暗所)においても高活性な抗ウイルス材料が得られる抗ウイルス材料の製造方法、およびその製造方法により製造された抗ウイルス材料を提供する。
【解決手段】酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料を製造する、抗ウイルス材料の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料を製造する、抗ウイルス材料の製造方法。
【請求項2】
対象物の表面に前記酸化タングステンの前駆体を含む前駆体溶液を塗布して、前記対象物の表面に前記前駆体溶液からなる塗膜を形成し、前記塗膜に含まれる前記酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、前記酸化タングステンを含む抗ウイルス材料からなる膜を形成する、請求項1に記載の抗ウイルス材料の製造方法。
【請求項3】
前記抗ウイルス材料に助触媒を添加する、請求項1または2に記載の抗ウイルス材料の製造方法。
【請求項4】
酸化タングステンを含む抗ウイルス材料であって、
JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」で光照射がない状態(暗所)における抗ウイルス活性値が4以上である、抗ウイルス材料。
【請求項5】
助触媒を含む、請求項4に記載の抗ウイルス材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗ウイルス材料の製造方法、およびその製造方法により製造された抗ウイルス材料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化タングステンは、ウイルスが表面に付着したときに感染力があるウイルスの量を減少させる効果(抗ウイルス効果)を示す抗ウイルス材料として機能することが知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、酸化タングステンは、いくつかの菌種に対して光照射がない状態(暗所)においても、強い抗菌性を示すことが報告されている。抗菌性に優れた酸化タングステン粒子の製造方法として、昇華工程と熱処理工程を組み合わせる方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。熱処理工程を実施する場合には、熱処理温度は400℃~700℃がより好ましいとされている。酸化タングステンの抗菌性は、光照射を必要としないため、光触媒作用によるものではい。酸化タングステンの抗菌性は、酸化タングステンの固有の特異的な作用によるものである。
【0004】
抗菌性材料と抗ウイルス性材料は、感染症の予防を目的として用いられるため、まとめて扱われることがある。しかし、抗菌材料と抗ウイルス材料は、作用機構が異なっている。抗菌性は、当該材料の表面における生菌数を抑制する作用であって、細菌類が対象である。一方、抗ウイルス性は、当該材料表面における感染性のあるウイルスの量を抑制する作用であって、ウイルスが対象である。細菌類は、取り込む物質(栄養)・水分・温度等の環境が適していれば代謝により増殖する。そのため、細菌類は、代謝機構を阻害することなどにより、増加が抑制される。ウイルスは、それ自体が代謝により増殖することがなく宿主細胞に感染することで増殖する。そのため、ウイルスは、その表面を変性させるなどして宿主細胞への感染力を失わせることで、増加が抑制される。すなわち、ある材料が抗菌性に優れていても、必ずしも抗ウイルス性に優れていない。
【0005】
また、酸化タングステンは、可視光応答型光触媒として知られている。酸化タングステンや、助触媒として銅化合物を添加した酸化タングステンは、可視光照射下における光触媒作用による抗ウイルス効果も知られている。可視光照射下における光触媒作用による抗ウイルス効果が得られる酸化タングステン粒子の製造方法としては、例えば、昇華工程と熱処理工程を組み合わせる方法が知られている(例えば、特許文献4参照)。この酸化タングステン粒子の製造方法では、熱処理工程を実施する場合には、熱処理温度は400℃~700℃がより好ましいとされている。
【0006】
また、可視光照射下における光触媒作用による抗ウイルス効果を示す酸化タングステンの製造方法としては、例えば、650℃で焼成する前処理を行う方法が知られている(例えば、特許文献5参照)。光触媒作用を得るためには、結晶性が高いことが好ましいため、400℃~700℃での熱処理や、650℃での焼成よって、酸化タングステンの結晶性を高めている。そのため、一般に光触媒作用による抗ウイルス効果を得るには、結晶性を高めるために、酸化タングステンを400℃以上の温度で熱処理することが好ましいとされている。
【0007】
また、酸化タングステンの光触媒活性は、銅化合物のような助触媒の添加で促進されることが知られている(例えば、特許文献6参照)。酸化タングステンは、銅化合物等の助触媒の添加により可視光照射下で吸着した有機物を二酸化炭素にまで完全分解することができる優れた可視光応答型光触媒材料である。さらに、酸化タングステンは、可視光照射での親水化によってセルフクリーニング材料としても機能する。
【0008】
さらに、ビスマスを添加した酸化タングステンが優れた抗かび性および抗菌性を示すことが知られている(例えば、特許文献7参照)。抗かび性および抗菌性に関しては、ビスマスの添加過程で焼成を経る場合には焼成温度が低い方が望ましい傾向にあり、常温でビスマスを吸着させる方法がより望ましいとされている。特許文献7には、酸化タングステンの製造過程そのものではなく、ビスマスを添加するときの工程に関して望ましい条件が記載されている。また、特許文献7には、抗かび性および抗菌性に言及されているだけであり、抗ウイルス性に関する情報が記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2007/093808号
【特許文献2】国際公開第2009/022100号
【特許文献3】特許第5957175号公報
【特許文献4】国際公開第2011/018899号
【特許文献5】国際公開第2011/049068号
【特許文献6】特開2008-149312号公報
【特許文献7】国際公開第2015/083831号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
世界的なCovid-19の拡大によって、ウイルスの感染防止に活用することができる抗ウイルス材料への関心が高まっている。抗ウイルス材料の実用化のためには、より高活性な材料が求められている。飛沫や接触によりウイルスが付着した表面や、ウイルスを含むエアロゾルを捕集した空調機器等では、速やかにウイルスの感染力を失わせるためには、十分に高い抗ウイルス活性が必要となる。抗ウイルス材料の活性は、その製造プロセスに大きく依存する。そこで、本発明者等は、上記のような従来技術について検討し、従来よりも高活性な抗ウイルス材料が得られる製造方法を探索してきた。
【0011】
光触媒作用による抗ウイルス効果を得るためには、光照射環境が必要である。しかしながら、抗ウイルス材料を活用する環境で必ずしも光照射を期待できるとは限らない。そのため、光照射がない状態(暗所)においても、高活性な抗ウイルス材料が求められる。一方、表面が汚れに覆われると、抗ウイルス材料の活性が失われるため、光照射がある状態(明所)においては、光触媒による有機物分解機能やセルフクリーニング機能が作用して、表面が汚れていない状態に保持されることも望ましい。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、光照射がない状態(暗所)においても高活性な抗ウイルス材料が得られる抗ウイルス材料の製造方法、およびその製造方法により製造された抗ウイルス材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これまでに光触媒・光電極材料として酸化タングステンを含む様々な金属酸化物を得るために、基板に金属酸化物の前駆体溶液を塗布して焼成することにより、金属酸化物を製造する技術が蓄積されてきた。本発明者等は、前記の技術を基にして、上記課題を解決するために種々の条件で実験を進めて検討した結果、酸化タングステンの前駆体を425℃未満の低温領域で乾燥・焼成するなどして反応させることにより、光照射がない状態(暗所)における抗ウイルス効果に優れた酸化タングステンを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。さらに、酸化タングステンの光触媒活性を促進するために、銅化合物等の助触媒を添加しても、光照射がない状態(暗所)における抗ウイルス活性が低下しないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料を製造する、抗ウイルス材料の製造方法。
[2]対象物の表面に前記酸化タングステンの前駆体を含む前駆体溶液を塗布して、前記対象物の表面に前記前駆体溶液からなる塗膜を形成し、前記塗膜に含まれる前記酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、前記酸化タングステンを含む抗ウイルス材料からなる膜を形成する、[1]に記載の抗ウイルス材料の製造方法。
[3]前記抗ウイルス材料に助触媒を添加する、[1]または[2]に記載の抗ウイルス材料の製造方法。
[4]酸化タングステンを含む抗ウイルス材料であって、
JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」で光照射がない状態(暗所)における抗ウイルス活性値が4以上である、抗ウイルス材料。
[5]助触媒を含む、[4]に記載の抗ウイルス材料。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、光照射がない状態(暗所)においても高活性な抗ウイルス材料が得られる抗ウイルス材料の製造方法、およびその製造方法により製造された抗ウイルス材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】参考例において、ガラス基板に形成した酸化タングステンからなる膜の乾燥・焼成温度による抗ウイルス活性値の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の抗ウイルス材料の製造方法、およびその製造方法により製造された抗ウイルス材料の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
[抗ウイルス材料の製造方法]
本発明の一実施形態に係る抗ウイルス材料の製造方法は、酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料を製造する方法である。
【0019】
酸化タングステンの前駆体としては、425℃未満で反応させることによって、酸化タングステンを生成する物質であれば特に限定されないが、例えば、塩化タングステン(WCl6)、タングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)、過酸化タングステン酸(Peroxo-tungstic Acid (PA))等が挙げられる。
【0020】
本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、酸化タングステンの前駆体を溶媒に溶解して、酸化タングステンの前駆体を含む前駆体溶液を調製し、その前駆体溶液を425℃未満で反応させることによって、酸化タングステンを製造することが好ましい。
【0021】
前駆体溶液の溶媒としては、酸化タングステンの前駆体を溶解することができる物質であれば特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、エタノール、酢酸ブチル、水等が挙げられる。
【0022】
前駆体溶液における酸化タングステンの前駆体の濃度は、0.01mol/L以上1.0mol/L以下であることが好ましく、0.05mol/L以上0.5mol/L以下であることがより好ましい。酸化タングステンの前駆体の濃度が前記範囲内であると、目的とする酸化タングステンを含む抗ウイルス材料がより好ましく得られる。
【0023】
本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、酸化タングステンの前駆体単体または前駆体溶液を425℃未満で反応させる(以下、「反応処理」と言うこともある。)。本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、反応処理とは、酸化タングステンの前駆体を乾燥する処理(前駆体溶液に含まれる溶媒を蒸発する処理。以下、「乾燥処理」と言うこともある。)と、酸化タングステンの前駆体を焼成する処理(以下、「焼成処理」と言うこともある。)の過程も含む。反応処理では、酸化タングステンの前駆体単体または前駆体溶液を、加熱せずに室温で酸化反応させるか、または425℃未満で熱処理により反応させる。この反応処理により、酸化タングステンの前駆体を425℃以上で熱処理する場合と比較して、光照射がない状態(暗所)において、抗ウイルス活性が高い酸化タングステンが得られる。
【0024】
また、本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、反応処理を、乾燥処理と焼成処理との2段階の処理で行ってもよく、乾燥処理と焼成処理とを一纏めにした1段階の処理で行ってもよい。熱処理を、乾燥処理と焼成処理との2段階の処理で行う場合、乾燥処理における乾燥温度を、酸化タングステンの前駆体単体に吸着した液分または前駆体溶液に含まれる溶媒の沸点以上とし、焼成処理における焼成温度を、前記乾燥温度よりもさらに100℃以上高くすることにより好ましく実施することができる。
【0025】
熱処理時間は、1段階の処理の場合、30分以上4時間以下であることが好ましい。
熱処理時間は、2段階の処理の場合、乾燥処理が30分以上2時間以下であることが好ましく、焼成処理が30分以上2時間以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、対象物の表面に酸化タングステンの前駆体を含む前駆体溶液を塗布して、対象物の表面に前駆体溶液からなる塗膜を形成し、その塗膜に含まれる酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料からなる膜を形成することが好ましい。
【0027】
対象物とは、抗ウイルス活性を付与するもののことである。対象物としては、種々の基材、建材、フィルタ―材料、航空機・船舶・列車・自動車などの部材、家電製品やその他の日用品の部材等が挙げられる。基材の材質や形状は、用途に応じて適宜選択することができる。基材の材質は、前駆体溶液からなる塗膜を形成することができ、その塗膜に含まれる酸化タングステンの前駆体を425℃未満で反応させて、抗ウイルス材料からなる膜を形成することができるものであれば特に限定されない。基材の材質は、例えば、ガラス、金属、セラミックス、樹脂等が挙げられる。基材としては、スピンコート等により精密な塗膜を形成しやすく、抗ウイルス活性が高い抗ウイルス材料からなる膜を容易に製造することができることから、ガラス板等の平板状のものは好ましい。
【0028】
塗膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば、対象物の表面に前駆体溶液を吹き付ける方法、刷毛塗りする方法、対象物の表面に前駆体溶液を滴下する方法、対象物の表面に前駆体溶液をスピンコートする方法等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、抗ウイルス材料に助触媒を添加することが好ましい。抗ウイルス材料に助触媒を添加する方法としては、例えば、抗ウイルス材料単体の表面、または抗ウイルス材料からなる膜の表面に、助触媒もしくはその前駆体を含む溶液(以下、「助触媒溶液」と言うこともある。)を塗布して塗膜を形成し、その塗膜を熱処理する方法が挙げられる。
【0030】
助触媒としては、酸化タングステンの光触媒作用を促進するものであれば、特に限定されないが、例えば、酸化銅(CuO)、硝酸銅(Cu(NO3)2)、酢酸銅(Cu(CO2CH3)2)、塩化銅(CuCl2)等が挙げられる。さらに、白金(Pt)やパラジウム(Pd)等も用いることもできる。
【0031】
助触媒溶液の溶媒としては、助触媒もしくはその前駆体を溶解することができる物質であれば特に限定されないが、例えば、エタノール、水、希硝酸等が挙げられる。
【0032】
助触媒溶液における助触媒の濃度は、0.005mol/L以上0.05mol/L以下であることが好ましく、0.01mol/L以上0.03mol/L以下であることがより好ましい。助触媒の濃度が前記範囲内であると、目的とする光触媒作用を示す、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料がより好ましく得られる。
【0033】
本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、助触媒の添加過程で熱処理を行う場合には助触媒溶液を塗布した抗ウイルス材料または抗ウイルス材料からなる膜を425℃未満で熱処理する。本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、助触媒溶液の熱処理とは、助触媒もしくはその前駆体を乾燥する処理(助触媒溶液に含まれる溶媒を蒸発する処理。以下、「乾燥処理」と言うこともある。)と、助触媒もしくはその前駆体を焼成する処理(以下、「焼成処理」と言うこともある。)の過程も含む。助触媒溶液の熱処理では、熱処理温度は、400℃以下であることが好ましく、300℃以下であることがより好ましい。425℃未満で熱処理することにより、425℃以上で熱処理する場合と比較して、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)において、抗ウイルス活性が高い酸化タングステンが得られる。
【0034】
また、本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法では、助触媒溶液の熱処理を、乾燥処理と焼成処理との2段階の処理で行ってもよく、乾燥処理と焼成処理とを一纏めにした1段階の処理で行ってもよい。熱処理を、乾燥処理と焼成処理との2段階の処理で行う場合、乾燥処理における乾燥温度を溶媒の沸点以上とし、焼成処理における焼成温度を、前記乾燥温度よりも100℃以上高くすることにより好ましく実施することができる。
【0035】
熱処理時間は、1段階の処理の場合、30分以上4時間以下であることが好ましい。
熱処理時間は、2段階の処理の場合、乾燥処理が30分以上2時間以下であることが好ましく、焼成処理が30分以上2時間以下であることが好ましい。
【0036】
抗ウイルス材料単体の表面、または抗ウイルス材料からなる膜の表面への助触媒の塗膜の形成方法は、特に限定されないが、例えば、前記の表面に助触媒溶液を吹き付ける方法、刷毛塗りする方法、前記の表面に前駆体溶液を滴下する方法、前記の表面に前駆体溶液をスピンコートする方法等が挙げられる。
【0037】
本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法によれば、酸化タングステンの前駆体を含む前駆体溶液を、加熱せずに室温で反応させるか、もしくは425℃未満で反応させて、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料を製造することによって、酸化タングステンの前駆体を425℃以上で熱処理する場合と比較して、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)において、高活性な抗ウイルス材料が得られる。酸化タングステンの前駆体から酸化タングステンが生成する過程、およびその後の過程の温度が425℃未満であることにより、抗ウイルス材料の抗ウイルス活性が向上する。酸化タングステンの前駆体を、その種類に応じて適切な溶媒に溶解して前駆体溶液を調製し、前駆体溶液からの溶媒の乾燥工程や、425℃未満での焼成工程を経ることで、抗ウイルス活性が高い酸化タングステンを含む抗ウイルス材料が得られる。その場合の溶媒の乾燥工程は、加熱を行わずに室温において、もしくは加熱を行ったとしても室温に近い温度領域において実施することができ、さらなる焼成工程を経なくても酸化タングステンを形成できれば、抗ウイルス活性が高い酸化タングステンを得ることができる。また、乾燥工程に続いて、425℃未満の焼成工程を経る場合も、抗ウイルス活性が高い酸化タングステンを得ることができる。酸化タングステンの前駆体を溶媒に溶解して、前駆体溶液を調製し、その前駆体溶液を反応させることにより、生成した酸化タングステンの表面がより抗ウイルス活性に優れたものとなる。なお、従来の酸化タングステンの製造方法では、酸化タングステンの光触媒活性や抗菌性を向上するためには、酸化タングステンやその前駆体の熱処理温度は400℃以上が好ましいとされている。本実施形態の抗ウイルス材料の製造方法は、酸化タングステンやその前駆体の前駆体を含む前駆体溶液を425℃未満で反応させるため、従来の酸化タングステンの製造方法とは技術思想が異なっている。
【0038】
[抗ウイルス材料]
本発明の一実施形態に係る抗ウイルス材料は、本発明の一実施形態に係る抗ウイルス材料の製造方法によって製造されたものである。
本発明の一実施形態に係る抗ウイルス材料は、酸化タングステンを含む抗ウイルス材料であって、JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」で光照射がない状態(暗所)における抗ウイルス活性値が4以上である。
【0039】
本実施形態の抗ウイルス材料は、上記の抗ウイルス活性値が4以上であり、5以上であることが好ましい。抗ウイルス活性値が4以上とは、その材料の表面上では一定時間経過後に感染性をもつウイルスの量がカラス基板などの抗ウイルス性を持たない表面上に比較して1/10,000以下(4桁以上の減少)となることであり、著しい感染リスクの低減を意味する。
【0040】
なお、本実施形態の抗ウイルス材料において、光照射がない状態(暗所)において発現する抗ウイルス活性は、光触媒作用によるもではなく、酸化タングステンに固有の特異的なものである。また、本実施形態の抗ウイルス材料が助触媒を含む場合、光照射がある状態(明所)における抗ウイルス活性が高くなるときにも、前記の抗ウイルス活性が寄与している。
【0041】
JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」は、試験対象とする抗ウイルス材料(可視光応答形光触媒材料)のバクテリオファージQβに対する抗ウイルス効果を評価する試験方法である。バクテリオファージQβに対する抗ウイルス効果は、インフルエンザウイルスやネコカリシウイルス(ノロウイルス代替)等の他のウイルスに対する抗ウイルス効果との相関が知られている。そのため、バクテリオファージQβへの効果をもって、一般的な抗ウイルス効果の指標としてJIS R 1756:2020に採用されている。
【0042】
JIS R 1756:2020の可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法では、光照射がない状態(暗所)と光照射がある状態(明所)のそれぞれについて、一定時間経過後(標準4時間)における光触媒抗ウイルス加工試験片表面上の感染性をもつウイルスの量に対するガラス基板のような無加工試験片の表面上の感染性を持つウイルスの量の比の常用対数値として抗ウイルス活性値が求められる。抗ウイルス活性値の1は、無加工試験片上と比較して光触媒抗ウイルス加工試験片上の感染性をもつウイルスの量が1/10になることを示す。抗ウイルス活性値への光照射の効果(光照射がない状態(暗所)と光照射がある状態(明所)の活性値の差)が、抗ウイルス効果における光触媒作用の寄与分を示す。光照射がない状態(暗所)の抗ウイルス活性値は、光触媒作用ではない抗ウイルス効果の寄与分を示す。
【0043】
JIS R 1756:2020の可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法における光照射は、400nmより短波長をカットするTypeAのシャープカットフィルター、もしくは380nmより短波長をカットするTypeBのシャープカットフィルターを用いて、照明光に対応している可視光領域で適切な照度に設定して行う。照度に関しては、直接的な照明光が照射されている作業環境である1000lx、一般的な住環境・職場環境である500lx、間接的に照明があたる場所である200lx等、試験対象が設置される環境に期待できる条件を選択する。本実施形態の抗ウイルス材料は、光照射に依存せず、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)に、抗ウイルス活性が高く、光照度とは無関係である。
【0044】
なお、抗菌性・抗かび性と抗ウイルス性は全く異なる作用であるため、それぞれに異なる活性評価の試験方法が標準化されている。
抗菌性試験方法は、JIS R 1702:2020「ファインセラミックス-光触媒抗菌加工材料の抗菌性試験方法及び抗菌効果」、およびJIS R 1752:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒抗菌加工材料の抗菌性試験方法及び抗菌効果」に規定されている。
抗かび性試験方法は、JIS R 1705:2016「ファインセラミックス-光照射下での光触媒抗かび加工製品の抗かび性試験方法」に規定されている。
抗ウイルス性試験方法は、JIS R 1706:2020「ファインセラミックス-光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」、およびJIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」に規定されている。
【0045】
本実施形態の抗ウイルス材料は、助触媒を含むことが好ましい。
本実施形態の抗ウイルス材料が助触媒を含む場合、抗ウイルス材料の全質量に対する助触媒の含有量は、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることがより好ましい。助触媒の含有量が前記範囲内であると、抗ウイルス材料は、光照射がある状態(明所)において発現する光触媒作用をより好ましく促進することができる。
【0046】
助触媒により促進される光触媒作用としては、直接的な抗ウイルス効果の他にも、有機物の分解作用やセルフクリーニング作用等が挙げられ、抗ウイルス材料の表面の汚れを抑制することに寄与する。抗ウイルス効果を持続させるためには、抗ウイルス材料の表面が汚れに覆われないようにする必要がある。室内であっても、セルフクリーニング作用によって室内照明光と水洗(水拭き)だけで、抗ウイルス材料の表面が清浄になって強力な抗ウイルス効果が保持できれば、アルコールや他の薬剤等を用いることなくウイルスの活性を抑制することができる。また、ウイルス感染を予防するための定期的な清掃作業コストも抑えられる。
【実施例0047】
以下、参考例、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0048】
[参考例]
塩化タングステン(WCl
6)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.5mol/L)をガラス基板にスピンコートで塗布して、塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して、ガラス基板上に酸化タングステン膜を形成した。
得られた酸化タングステン膜と、その膜を乾燥した後、さらにおよそ30分間昇温、30分間保持の手順で各温度(焼成温度)において焼成した酸化タングステン膜について、JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」に準拠して、抗ウイルス活性値を測定した。各焼成温度における抗ウイルス活性値の変化を
図1に示す。
抗ウイルス活性値の測定において、光照射条件を、TypeAのシャープカットフィルター(400nmより短波長をカット)を用いた500lxの可視光の照射、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)とし、それぞれの状態の保持時間を4時間とした。
【0049】
図1に示す結果から、誤差によるばらつきがあるものの、425℃以上で焼成した場合には、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに抗ウイルス活性値が3程度であった。これに対して、425℃未満で乾燥・焼成した場合には、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに抗ウイルス活性値がほぼ5以上に達していた。また、
図1に示すように、425℃で抗ウイルス活性値の急激な変化がみられ、温度領域において、抗ウイルス活性値が高くなる温度領域と、抗ウイルス活性値が低くなる温度領域とに分かれていた。個別の試験の実施によっては、抗ウイルス活性値が5付近となると感染力を持つウイルスの量が極端に小さくなって、JIS R 1756:2020による可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法の測定限界に達するため、得られるのは下限値である。そのような場合には、実際の抗ウイルス活性値はさらに大きな値である。焼成温度がほぼ425℃に達した段階で急激に活性値が小さくなるため、425℃未満の乾燥・焼成により、抗ウイルス活性が高い酸化タングステンが得られる。光触媒材料は、高温で焼成することで結晶性が高いほど光触媒活性が向上するのが一般的である。本発明の抗ウイルス材料は、425℃未満で焼成されたものであり、光触媒としての活性はより高温で焼成されて結晶性が高い場合と比較すると低いと考えられる。
【0050】
[実施例1~実施例5]
塩化タングステン(WCl6)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.5mol/L)をガラス基板にスピンコートで塗布して塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して、ガラス基板上に酸化タングステン膜を形成した。ここまでに得られた酸化タングステン膜を実施例1とした。
得られた酸化タングステン膜を乾燥した後、さらにおよそ30分間昇温、30分間保持の手順で200℃、300℃、350℃、400℃で焼成した。200℃で焼成した酸化タングステン膜を実施例2、300℃で焼成した酸化タングステン膜を実施例3、350℃で焼成した酸化タングステン膜を実施例4、400℃で焼成した酸化タングステン膜を実施例5とした。
なお、塩化タングステン(WCl6)は、塗膜を形成して空気中で乾燥するだけでも反応して酸化タングステン膜を形成する。
実施例1~実施例5について、光照射条件を、TypeAのシャープカットフィルター(400nmより短波長をカット)を用いた500lxの可視光の照射、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)とし、それぞれの状態の保持時間を4時間とし、JIS R 1756:2020「ファインセラミックス-可視光応答形光触媒材料の抗ウイルス性試験方法-バクテリオファージQβを用いる方法」に準拠して、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1~比較例4]
実施例1と同様にして得られた酸化タングステン膜を乾燥した後、さらにおよそ30分間昇温、30分間保持の手順で425℃、450℃、500℃、550℃で焼成した。425℃で焼成した酸化タングステン膜を比較例1、450℃で焼成した酸化タングステン膜を比較例2、500℃で焼成した酸化タングステン膜を比較例3、550℃で焼成した酸化タングステン膜を比較例4とした。
比較例1~比較例4について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
【0053】
表1に示す結果から、実施例1~実施例5では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が4を超え、ほとんどが5以上に達しており、その多くは測定限界を超えていた。
これに対して、比較例1~比較例4では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が3程度にとどまり、4には達しなかった。
以上の結果から、425℃未満で乾燥・焼成した実施例1~実施例5は、425℃以上で焼成した比較例1~比較例4よりも明らかに活性値で2程度は活性が高くなっていた。
【0054】
[実施例6]
タングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液(0.1mol/L)をガラス基板にスピンコートで塗布して塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して、ガラス基板上の膜を形成した。
得られた膜を乾燥した後、さらにおよそ30分間昇温、30分間保持の手順で400℃焼成して、実施例6の酸化タングステン膜を得た。
実施例6について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表2に示す。
【0055】
[比較例5]
焼成温度を550℃としたこと以外は実施例6と同様にして、比較例5の酸化タングステン膜を得た。
比較例5について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表2に示す。
【0056】
[実施例7]
過酸化タングステン酸(Peroxo-tungstic Acid (PA))のエタノール溶液(0.1mol/L)をガラス基板にスピンコートで塗布して塗膜を形成し、90℃で1時間乾燥して、ガラス基板上の膜を形成した。
得られた膜を乾燥した後、さらにおよそ30分間昇温、30分間保持の手順で400℃焼成して、実施例7の酸化タングステン膜を得た。
実施例7について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例6]
焼成温度を550℃としたこと以外は実施例7と同様にして、比較例6の酸化タングステン膜を得た。
比較例6について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
表2に示す結果から、実施例6では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が4を超えて、5付近に達した。
比較例5では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が2程度であった。
実施例7では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が4を超えて、5付近に達した。
比較例6では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が3程度であった。
実施例1~実施例7の結果から、酸化タングステンの前駆体として、塩化タングステン(WCl6)、タングステン酸アンモニウム((NH4)2WO4)、過酸化タングステン酸(Peroxo-tungstic Acid (PA))を用いた場合、酸化タングステンの前駆体の種類によらず、焼成温度の制御により、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が4以上である抗ウイルス材料が得られることが確認された。
【0060】
[実施例8]
実施例5と同様にして、酸化タングステン膜を形成した。
次に、硝酸銅(Cu(NO3)2)のエタノール溶液(0.01mol/L)を酸化タングステン膜にスピンコートで塗布して塗膜を形成し、60℃で30分間乾燥し、さらに30分間昇温、30分間保持の手順で、300℃で焼成して、酸化タングステン膜に銅化合物助触媒(酸化銅)を添加して、実施例8の酸化タングステン膜を得た。
実施例8について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表3に示す。
【0061】
[比較例7]
酸化タングステン膜の形成時における焼成温度を450℃としたこと以外は、実施例8と同様にして、酸化タングステン膜に銅化合物助触媒(酸化銅)を添加して、比較例7の酸化タングステン膜を得た。
比較例7について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表3に示す。
【0062】
[比較例8]
ガラス基板上に硝酸銅(Cu(NO3)2)のエタノール溶液(0.3mol/L)をスピンコートで塗布して塗膜を形成し、60℃で30分間乾燥し、さらに30分間昇温、30分間保持の手順で、300℃で焼成して、ガラス基板上に酸化銅(CuO)のみからなる膜を形成し、比較例8とした。
比較例8について、実施例1~実施例5と同様にして、抗ウイルス活性値を測定した。結果を表3に示す。
【0063】
【0064】
表3に示す結果から、実施例8では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が5を超えて、測定限界に達した。
比較例7では、光照射がない状態(暗所)では抗ウイルス活性値は3に達していないのに対して、光照射がある状態(明所)では抗ウイルス活性値が5を超えて、測定限界に達した。抗ウイルス活性に光照射の効果があることからすると、光照射がある状態(明所)における強い抗ウイルス効果は、助触媒によって促進された光触媒作用によるものであると考えられる。
比較例8では、光照射がない状態(暗所)および光照射がある状態(明所)ともに、抗ウイルス活性値が1程度であり、酸化銅だけでは強い抗ウイルス活性を示さなかった。
【0065】
焼成温度が400℃である実施例8では、酸化タングステン膜の形成時における焼成温度が450℃である比較例7に対して、光照射がない状態(暗所)で抗ウイルス活性値が2以上増加しており、著しく抗ウイルス活性が高くなった。本発明による光照射がない状態(暗所)の抗ウイルス活性の高活性化は、銅化合物のような助触媒が添加されても低下しないことが分かった。
また、実施例8と比較例7に関しては、ともに光照射がある状態(明所)の抗ウイルス活性値が5以上で測定限界に達しており、直接的な比較ができない。しかしながら、比較例7では、明らかに光触媒作用が助触媒で促進されており、実施例8においても光触媒作用は助触媒により促進されると思われる。なお、助触媒として添加した酸化銅(CuO)に関しては、比較例8に示すように強い抗ウイルス活性はなく、添加された酸化銅(CuO)単体での抗ウイルス活性への寄与はないと考えられる。
本発明の抗ウイルス材料の製造方法によって得られた抗ウイルス材料は、テーブルやドアノブ、手すり、タッチパネル等の人が手を触れるものに飛沫や接触によって付着したウイルスを速やかに不活性化させる表面材料やウイルスを含むエアロゾルを速やかに浄化する空調機器等に活用でき、ウイルス感染症の拡大防止に有用である。さらに、本発明の抗ウイルス材料の製造方法によって得られた抗ウイルス材料は、光触媒作用と組み合わせることで、抗ウイルス活性を保持するための清掃コストを削減することができる。