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特開2024-2617半月板再生促進剤、半月板再生用材料及び半月板再生用材料の作製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002617
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】半月板再生促進剤、半月板再生用材料及び半月板再生用材料の作製方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/29 20060101AFI20231228BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20231228BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20231228BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20231228BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231228BHJP
   C07K 14/635 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K38/29
A61P19/08 ZNA
A61L27/36 312
A61L27/54
A61L27/36 410
C12N15/12
C07K14/635
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101933
(22)【出願日】2022-06-24
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 祐介
【テーマコード(参考)】
4C081
4C084
4H045
【Fターム(参考)】
4C081AB02
4C081BA12
4C081CD26
4C081CD34
4C081CE02
4C084AA01
4C084AA02
4C084BA01
4C084BA08
4C084BA19
4C084BA20
4C084BA23
4C084CA18
4C084DB32
4C084MA67
4C084NA14
4C084ZA961
4C084ZA962
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA18
4H045BA19
4H045CA42
4H045DA30
4H045EA28
4H045EA34
(57)【要約】
【課題】半月板再建術において有用な半月板再生促進剤の提供。
【解決手段】副甲状腺ホルモン及びそのN末端フラグメントからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする半月板再生促進剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
副甲状腺ホルモン及びそのN末端フラグメントからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする半月板再生促進剤。
【請求項2】
ヒト副甲状腺ホルモン又はそのN末端から32~36番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドを有効成分とする、請求項1に記載の半月板再生促進剤。
【請求項3】
配列番号1(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF)で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを有効成分とする半月板再生促進剤。
【請求項4】
配列番号2(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNFVALGAPLAPRDAGSQRPRKKEDNVLVESHEKSLGEADKADVNVLTKAKSQ)で表されるアミノ酸配列のN末端側1~34番目のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末側1~84番目のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを有効成分とする半月板再生促進剤。
【請求項5】
膝関節の半月板の少なくとも一部を再生するため、前記膝関節内に移植するように用いられる半月板再生用材料であって、
提供者から提供された半腱様筋腱組織と、
前記半腱様筋腱組織に注入された請求項1~4のいずれか1項に記載の半月板再生促進剤と、
を含む、半月板再生用材料。
【請求項6】
膝関節の半月板の少なくとも一部を再生するため、前記膝関節内に移植するように用いられる半月板再生用材料の作製方法であって、
提供者から提供された半腱様筋腱組織に請求項1~4のいずれか1項に記載の半月板再生促進剤を生体外で注入する工程と、
を含む半月板再生用材料の作製方法。
【請求項7】
半腱様筋腱組織を用いる半月板再建方法において、前記半腱様筋腱組織と請求項1~4のいずれか1項に記載の半月板再生促進剤とを接触させる、半月板再建方法。
【請求項8】
前記半腱様筋腱組織を提供者から採取した後、かつ前記半腱様筋腱組織を移植者に移植する前に、前記半腱様筋腱組織と前記半月板再生促進剤とを接触させる、請求項7に記載の半月板再建方法。
【請求項9】
前記半腱様筋腱組織を提供者から採取する前に、前記半腱様筋腱組織と前記半月板再生促進剤とを接触させる、請求項7に記載の半月板再建方法。
【請求項10】
前記半腱様筋腱組織がアキレス腱組織である、請求項7に記載の半月板再建方法。
【請求項11】
前記半腱様筋腱組織の提供者及び移植者が同一である、請求項7に記載の半月板再建方法。
【請求項12】
前記半腱様筋腱組織の提供者及び移植者がいずれもヒトである、請求項7に記載の半月板再建方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半月板再生促進剤、半月板再生用材料及び半月板再生用材料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膝半月板は、荷重に対する力学分散としての役割を担う一方で、生物学的治癒能力の低さから、一旦受傷すると修復が困難である。そのため、半月板はいったん損傷されるとADL(Activities of Daily Living:日常生活動作)の低下をもたらす。
半月板修復には血流の関与が重要であると言われており、血行野(関節包側)での損傷は治癒する可能性が高いとされている。しかし、無血行野での損傷は半月板の切除を余儀なくされており、縫合後の再手術率も20%以上と少なくない(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Paxton,E.S.、外2名、Meniscal Repair Versus Partial Meniscectomy: A Systematic Review Comparing Reoperation Rates and Clinical Outcomes、The Journal of Arthroscopic and Related Surgery、2011年9月、第27巻、第9号、p.1275-1288
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
縫合術時に付加的処置として骨髄刺激、ラスピングがあるが、その効果は限定的である。海外では人工半月板が認められているが、日本では認められておらず、半月板の再建手術は難しい。
半月板切除後欠損に対する手術としては、自家組織(半腱様筋腱)を用いた半月板再建術が行われている。しかし、治療成績を向上させるため、自家腱の軟骨化を促す追加処置が求められている。
【0005】
本発明は、半腱様筋腱組織を用いた半月板再建術において有用な半月板再生促進剤を提供することを目的のひとつとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、半腱様筋腱組織に副甲状腺ホルモン(PTH)を注入することで、半月板組織を再生できることを知得し、本発明を完成させた。
【0007】
[1] 副甲状腺ホルモン及びそのN末端フラグメントからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする半月板再生促進剤。
[2] ヒト副甲状腺ホルモン又はそのN末端から32~36番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドを有効成分とする、[1]に記載の半月板再生促進剤。
[3] 配列番号1(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF)で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを有効成分とする半月板再生促進剤。
[4] 配列番号2(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNFVALGAPLAPRDAGSQRPRKKEDNVLVESHEKSLGEADKADVNVLTKAKSQ)で表されるアミノ酸配列のN末端側1~34番目のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末側1~84番目のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを有効成分とする半月板再生促進剤。
[5] 膝関節の半月板の少なくとも一部を再生するため、前記膝関節内に移植するように用いられる半月板再生用材料であって、
提供者から提供された半腱様筋腱組織と、
前記半腱様筋腱組織に注入された[1]~[4]のいずれかに記載の半月板再生促進剤と、
を含む、半月板再生用材料。
[6] 膝関節の半月板の少なくとも一部を再生するため、前記膝関節内に移植するように用いられる半月板再生用材料の作製方法であって、
提供者から提供された半腱様筋腱組織に[1]~[4]のいずれかに記載の半月板再生促進剤を生体外で注入する工程と、
を含む半月板再生用材料の作製方法。
[7] 半腱様筋腱組織を用いる半月板再建方法において、前記半腱様筋腱組織と[1]~[4]のいずれかに記載の半月板再生促進剤とを接触させる、半月板再建方法。
[8] 前記半腱様筋腱組織を提供者から採取した後、かつ前記半腱様筋腱組織を移植者に移植する前に、前記半腱様筋腱組織と前記半月板再生促進剤とを接触させる、[7]に記載の半月板再建方法。
[9] 前記半腱様筋腱組織を提供者から採取する前に、前記半腱様筋腱組織と前記半月板再生促進剤とを接触させる、[7]に記載の半月板再建方法。
[10] 前記半腱様筋腱組織がアキレス腱組織である、[7]~[9]のいずれかに記載の半月板再建方法。
[11] 前記半腱様筋腱組織の提供者及び移植者が同一である、[7]~[10]のいずれかに記載の半月板再建方法。
[12] 前記半腱様筋腱組織の提供者及び移植者がいずれもヒトである、[7]~[11]のいずれかに記載の半月板再建方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、半腱様筋腱組織を用いた半月板再建術において有用な半月板再生促進剤を提供する。本発明は。また、半月板再生用材料及び半月板再生用材料の作製方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1の結果を示す図である。
図2】実施例1の結果を示す図である。
図3】実施例1の結果を示す図である。
図4】実施例2の結果を示す図である。
図5】実施例3の結果を示す図である。
図6】実施例3の結果を示す図である。
図7】実施例3の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の半月板再生促進剤、半月板再生用材料及び半月板再生用材料の作製方法について、詳細に説明する。
【0011】
本発明において、「~」又は「-」を用いて数値範囲を表す場合、その両側の数値をその数値範囲内に含むものとする。
【0012】
[半月板再生促進剤]
本発明の半月板再生促進剤の一実施形態は、副甲状腺ホルモン及びそのN末端フラグメントからなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする半月板再生促進剤である。
【0013】
副甲状腺とは、甲状腺に隣接して存在する内分泌腺の1種である。動物のなかでも四足動物である哺乳類、鳥類、爬虫類及び両生類には存在するが、魚類には存在しない。ヒトでは副甲状腺は2対計4個が存在するが、動物種によっては3対や4対有することもある。
副甲状腺は、血液中のカルシウムイオン濃度を一定に保つための内分泌器官である。細胞外(血液中)のカルシウムは、筋肉の収縮、神経刺激の伝達、血液の凝固、ホルモンの分泌など、多くの重要な生理機能を調節している。特に細胞外から細胞内へのカルシウムの流入は、多くの現象のシグナルとして働くので、血液中のカルシウム濃度は一定に保たれていなければならない。四足動物はカルシウムを食餌からしか得ることができないので、骨にカルシウムを蓄積し、濃度が低下する度に血液中に適量溶かし出す必要がある。副甲状腺は、血液中のカルシウム濃度を監視し、副甲状腺ホルモンを血液中に分泌して全身の骨からカルシウムを溶かし出し、血液中のカルシウム濃度を一定に機能を担っている。
【0014】
副甲状腺ホルモンは副甲状腺から分泌されるペプチドホルモンであり、パラトルモン(parathormone,PTH)とも呼ばれる。PTHは、血液のカルシウムの濃度を増加させるように働き、逆に甲状腺から分泌されるカルシトニンはカルシウムを減少させるように働く。PTHは、血中のカルシウム濃度を増加させるが、パラトルモン受容体(PTH受容体)は骨、腸、腎臓の3箇所の臓器に発現が見られる。
ヒト副甲状腺ホルモンは84アミノ酸残基からなるポリペプチド(配列番号2)であり、PTH(1-84)とも表記される。ヒトPTHのN末端34アミノ酸残基からなるポリペプチド(PTH(1-34);配列番号1)は、骨粗鬆症治療薬テリパラチドとして臨床応用されている。上述のとおりPTHには骨吸収促進作用があり、副甲状腺機能亢進症で見られるように持続的なPTH投与は骨密度を低下させるが、間欠的投与では逆に骨形成を促進し、骨折リスクを低下させることが知られている。
副甲状腺ホルモンとしては、哺乳類、鳥類、爬虫類又は両生類のいずれの副甲状腺ホルモンでもよいが、哺乳類の副甲状腺ホルモンが好ましく、霊長類の副甲状腺ホルモンがより好ましく、ヒトの副甲状腺ホルモンがさらに好ましい。
【0015】
副甲状腺ホルモンのN末端フラグメントは、上述した副甲状腺ホルモンのN末端を含むフラグメントであれば特に限定されないが、副甲状腺ホルモンのN末端から32~36番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドが好ましく、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH(1-84))のN末端から32~36番目までのアミノ酸残基からなるポリペプチドがより好ましく、ヒト副甲状腺ホルモン(PTH(1-84))のN末端から34アミノ酸残基のポリペプチド(PTH(1-34))がさらに好ましい。
PTH(1-34)としては、テリパラチド(遺伝子組換え)(一般名)、フォルテオ(商品名、イーライ リリー社製、登録商標)、テリボン(商品名、旭化成ファーマ社製、登録商標))など市販品を使用してもよい。
【0016】
本発明の半月板再生促進剤の別の一実施形態は、配列番号1(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNF)で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを有効成分とする半月板再生促進剤である。
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、PTH(1-34)のアミノ酸配列である。
配列番号1のアミノ酸配列とあるアミノ酸配列との配列同一性は、配列番号1のアミノ酸配列と前記あるアミノ酸配列とでペアワイズにアラインメントを行い、比較可能な全ポジションについて、一致(マッチ)及び不一致(アンマッチ)を判定し、比較可能な全ポジション中の一致ポジションの割合(百分率)を配列同一性とする。対応するポジションが無い場合はギャップを挿入して長さを揃えるが、配列番号1のアミノ酸配列のN末端よりも左側及びC末端よりも右側は比較可能な全ポジションにカウントしない。
【0017】
本発明の半月板再生促進剤のまた別の一実施形態は、配列番号2(SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKKLQDVHNFVALGAPLAPRDAGSQRPRKKEDNVLVESHEKSLGEADKADVNVLTKAKSQ)で表されるアミノ酸配列のN末端側1~34番目のアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ前記配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末側1~84番目のアミノ酸配列と70%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドを有効成分とする半月板再生促進剤である。
配列番号1で表されるアミノ酸配列は、PTH(1-84)のアミノ酸配列である。
配列同一性の計算方法は上述したとおりである。
【0018】
上述した有効成分は、その製薬学上許容しうる塩又はエステルであってもよい。例えば、グルタミン酸残基(E)又はアスパラギン酸残基(D)の側鎖カルボキシ基は、塩又はエステルの形態であってもよい。また、例えば、リシン(K),アルギニン(R)、ヒスチジン(H)又はトリプトファン(W)の側鎖アミノ基(イミノ基)は、塩の形態であってもよい。
【0019】
本発明の半月板再生促進剤は、上述した有効成分の他に、水及び製剤添加剤を含んでもよい。前記製剤添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤及び滑沢剤が挙げられるがこれらに限定されない。
【0020】
本発明の半月板再生促進剤の投与方法は、特に限定されないが、一期的で簡便な方法であることが望まれることから、半腱様筋腱組織を用いる半月板再建方法において、前記半腱様筋腱組織を提供者から採取した後、かつ前記半腱様筋腱組織を移植者に移植する前に、前記半腱様筋腱組織と本発明の半月板再生促進剤とを接触させること、又は、前記半腱様筋腱組織を提供者から採取する前に、前記半腱様筋腱組織と本発明の半月板再生促進剤とを接触させること、が好ましい。前記半腱様筋腱組織と本発明の半月板再生促進剤とを接触させる方法としては、例えば、本発明の半月板再生促進剤を前記半腱様筋腱組織に注入する方法が挙げられる。
本発明の半月板再生促進剤を前記半腱様筋腱組織に注入する場合の注入量は、特に限定されないが、前記半腱様筋腱組織の10gあたり、本発明の半月板再生促進剤の有効成分量として、10~120μgが好ましく、25~100μgがより好ましく、50~70μgがさらに好ましい。
【0021】
本発明の半月板再生促進剤を用いる対象は、副甲状腺及び半月板を有する動物であれば特に限定されないが、ヒト又は非ヒト哺乳動物が好ましく、ヒトがより好ましい。非ヒト哺乳動物としては、ゴリラ,サル、チンパンジー、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0022】
[半月板再生用材料及び半月板再生用材料の作製方法]
本発明の半月板再生用材料は、膝関節の半月板の少なくとも一部を再生するため、前記膝関節内に移植するように用いられる半月板再生用材料であって、提供者から提供された半腱様筋腱組織と、前記半腱様筋腱組織に注入された本発明の半月板再生促進剤と、を含む、半月板再生用材料である。
前記半腱様筋腱組織としては、骨格筋である半腱様筋(紡錘筋)が骨に付着する部分の筋肉主体部にある結合組織であれば特に限定されないが、アキレス腱が好ましい。なお、半腱様筋腱組織を採取した後、腱は再生し、再生腱はほぼ正常な機能を果たすと考えられている。
【0023】
本発明の半月板再生用材料の作製方法は、膝関節の半月板の少なくとも一部を再生するため、前記膝関節内に移植するように用いられる半月板再生用材料の作製方法であって、提供者から提供された半腱様筋腱組織に本発明の半月板再生促進剤を生体外で注入する工程と、を含む半月板再生用材料の作製方法である。
半腱様筋腱組織に本発明の半月板再生促進剤を生体外で注入する方法は、特に限定されず、例えば、注射器等を用いて注入することができる。
本発明の半月板再生促進剤の注入量は、特に限定されないが、前記半腱様筋腱組織の10gあたり、本発明の半月板再生促進剤の有効成分量として、10~120μgが好ましく、25~100μgがより好ましく、50~70μgがさらに好ましい。
【0024】
[半月板再建方法]
本発明の半月板再建方法は、半腱様筋腱組織を用いる半月板再建方法において、前記半腱様筋腱組織と本発明の半月板再生促進剤とを接触させる、半月板再建方法である。
半腱様筋腱組織は上述したとおりである。
半腱様筋腱組織と本発明の半月板再生促進剤とを接触させる方法としては、本発明の半月板再生促進剤を前記半腱様筋腱組織に注入する方法が挙げられる。この場合の本発明の半月板再生促進剤の注入量は、特に限定されないが、前記半腱様筋腱組織の10gあたり、本発明の半月板再生促進剤の有効成分量として、10~120μgが好ましく、25~100μgがより好ましく、50~70μgがさらに好ましい。
【0025】
半腱様筋腱組織と本発明の半月板再生促進剤とを接触させるタイミングは、前記半腱様筋腱組織を提供者から採取した後、かつ前記半腱様筋腱組織を移植者に移植する前、又は、前記半腱様筋腱組織を提供者から採取する前、が好ましい。
【0026】
前記半腱様筋腱組織の提供者及び前記半腱様筋腱組織の移植者は、同一個体であってもよいし、異なる個体であってもよい。前記提供者及び前記移植者はいずれもヒトであることが好ましい。
【0027】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は後述する実施例によって限定されるものではない。
【実施例0028】
以下の実施例では、腱組織に副甲状腺ホルモン(PTH(1-34))を注入し、半月板切除部位へ移植することで、正常半月板に近い軟骨様組織を再現した。
【0029】
[実施例1]
野生型Lewis ラット(8~10週齢、オス)12匹よりアキレス腱を採取、PBS wash後1mm角にカットしコラゲナーゼ処理を行い、培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium + Fetal bovine serum + penicillin/streptomycin)で培養、接着した細胞を腱細胞として用いた。
1回継代ののちに12wellプレートに1×10/wellの濃度で播種し、PTH(1-34)を(テリボン、旭化成ファーマ社製)0、1、10、100nMの濃度で4群に分けて添加処理後、28日でアルシアンブルー染色を行ったところ、10nMで最も染色性がよく、軟骨基質産生が見られた(図1)。
PTH(1-34)を10nM/ml添加した腱細胞を14日、28日で回収し、PT-PCRを行ったところ、軟骨基質を示すCol2、Sox9、Runx2遺伝子の発現増強がみられ、PTHレセプターの発現増加もみられた(図2図3)。
【0030】
[実施例2]
アキレス腱へのPTH(1-34)注入(in vivo実験)
ラットアキレス腱部にPTH(1-34)(テリボン、旭化成ファーマ社製)を0μg、9、22.5、45mg/15μL注入し、術後4週、8週で犠牲死させ、腱組織を評価した。
PTHを注入したアキレス腱組織はいずれの濃度においても術後4週よりトルイジンブルー染色にて異染性を認めたが、22.5mg以上では術後8週の組織で一部骨化がみられた(図4)。
9μg/15μLの投与量で半月板が再生された。
【0031】
[実施例3]
PTH(1-34)注入アキレス腱を用いた半月板再建(in vivo実験)
ラットの内側半月板部分欠損モデルを作成し、PTH(1-34)(テリボン、旭化成ファーマ社製)を9μg/15μL注入したアキレス腱を採取し半月板欠損部に縫合することで半月板再建モデルとした。対称群としてPBSを15μL注入したアキレス腱による再建モデルを作成した。4週、8週で犠牲死させ組織を評価した。
PTH注入腱を用いた半月板再建モデルでは対称群と比較してmeniscus cover ratioが高く、脛骨関節面India ink stainでの染色率が低かった。半月板組織のトルイジンブルー染色ではPTH注入腱で異染性を認め、modified Pauli scoreで4週、8週共にPTH群が優位に高い結果となった。脛骨関節面組織のmodified Wakitani scoreでは術後8週においてPTH群のほうが有位に高かった。
マクロ評価の結果を図5、半月板組織評価の結果を図6に、脛骨組織評価の結果を図7に示す。
図5図7から、より正常半月板に近い組織形態と、高い半月板被覆率、軟骨保護作用が認められた。
【0032】
以上より、アキレス腱組織にPTHを注入することで腱組織内に軟骨基質が産生され、PTH注入腱を用いた半月再建モデルにおいても軟骨基質が同様に確認された。また、PTH注入モデルの方が再建半月板の被覆率が高く、関節軟骨の保護作用が高かった。PTH(1-34)は、軟骨細胞や未分化間葉系細胞に対しては軟骨の後期分化を抑制させる働きが報告されている。腱細胞あるいは腱内の未分化間葉系細胞に対してPTHが作用し、軟骨分化維持させ、半月板様組織が得られる可能性が示唆された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024002617000001.app