(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026359
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】統合高調波終端を備えたドハティ増幅器回路
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20240220BHJP
H03F 3/68 20060101ALI20240220BHJP
【FI】
H03F1/02 188
H03F3/68 220
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023210120
(22)【出願日】2023-12-13
(62)【分割の表示】P 2021569988の分割
【原出願日】2020-05-21
(31)【優先権主張番号】16/421,999
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】592054856
【氏名又は名称】ウルフスピード インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】WOLFSPEED,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】キム ジャンホン
(72)【発明者】
【氏名】アリスタッド ソノコ
(72)【発明者】
【氏名】ワッツ マイケル イー
(72)【発明者】
【氏名】ボカティウス マリオ
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高調波終端によって高い電力利得および効率を達成できるドハティ増幅器を提供する。
【解決手段】ドハティ増幅器30は、主トランジスタ18a及びピークトランジスタ18bの出力端同士が、合体インピーダンスインバータ・高調波終端回路36によって接続される。高調波終端回路40は、インピーダンスインバータ38の所定の部分を取り込み、目標高調波周波数(例えば2次高調波)において高調波負荷インピーダンスを提供する。高調波負荷インピーダンスの振幅と位相を制御することで、基本周波数において良好な負荷変調を維持しながら、利得及び効率を最大にするためにドレイン電流波形及びドレイン電圧波形の成形が容易になる。特に、GaN等のIII族窒化物半導体で、高調波制御回路と出力インピーダンス整合回路の両方を各トランジスタの出力端から削除でき、高集積化及び低電力消費のために増幅器回路フットプリントを低減させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器(30)であって、
並列に配置された第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)と、
前記第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)の出力端間に結合されており、前記基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供するように動作する、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)とを備える、増幅器(30)。
【請求項2】
前記目標高調波負荷インピーダンスの位相は、インピーダンスインバータ(38)に沿った、前記高調波終端回路(40)が接続される位置に依存する、請求項1に記載の増幅器(30)。
【請求項3】
前記高調波終端回路(40)が、前記目標高調波周波数においてRF信号グランドへの低インピーダンス経路を提供する、請求項2に記載の増幅器(30)。
【請求項4】
前記高調波終端回路(40)が、前記基本周波数においてRF信号グランドへの高インピーダンス経路を提供する、請求項2に記載の増幅器(30)。
【請求項5】
前記高調波終端回路(40)が、RF信号グランドに接続されたデカップリングコンデンサと直列に、前記インピーダンスインバータ(38)の一部分を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の増幅器(30)。
【請求項6】
前記高調波終端回路(40)が、前記インピーダンスインバータ(38)と前記デカップリングコンデンサとの間に介在する伝送線路をさらに含む、請求項5に記載の増幅器(30)。
【請求項7】
前記高調波終端回路(40)が、前記インピーダンスインバータ(38)と前記デカップリングコンデンサとの間に介在する直列接続のインダクタおよびLC共振回路をさらに含む、請求項5に記載の増幅器(30)。
【請求項8】
前記LC共振回路が、並列に接続されたコンデンサおよびインダクタを含む、請求項7に記載の増幅器(30)。
【請求項9】
各増幅器(18)の出力端と前記合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)との間に介在するDC阻止コンデンサ(34)をさらに備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の増幅器(30)。
【請求項10】
各増幅器(18)の出力端とRF信号グランドとの間に接続されたRFチョーク回路(32)をさらに備える、請求項9の増幅器(30)。
【請求項11】
各RFチョーク回路(32)が、直列に接続されたインダクタおよびコンデンサを含む、請求項10に記載の増幅器(30)。
【請求項12】
前記目標高調波負荷インピーダンスの大きさおよび位相が、増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を制御する、請求項1~11のいずれか1項に記載の増幅器(30)。
【請求項13】
合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)を有しており、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する、増幅器(30)を製造する方法(100)であって、
並列に配置された第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)を提供するステップと、
前記第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)の出力端間にインピーダンスインバータ(38)を結合するステップと、
前記インピーダンスインバータ(38)の一部分とRF信号グランドとの間に高調波終端回路(40)を接続するステップとを含む、方法(100)。
【請求項14】
前記高調波終端回路(40)に組み込まれた前記インピーダンスインバータ(38)の部分が、前記基本周波数の目標高調波において前記高調波終端回路(40)によって提供される負荷インピーダンスの位相を制御する、請求項13に記載の方法(100)。
【請求項15】
前記高調波終端回路(40)が、前記基本周波数の前記目標高調波においてRF信号への低インピーダンス経路を提供する、請求項13または14に記載の方法(100)。
【請求項16】
前記高調波終端回路(40)が、前記基本周波数においてRF信号グランドへの高インピーダンス経路を提供する、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法(100)。
【請求項17】
前記高調波終端回路(40)が、RF信号グランドに接続されたデカップリングコンデンサと直列に、前記インピーダンスインバータ(38)の一部分を含む、請求項14に記載の方法(100)。
【請求項18】
前記高調波終端回路(40)が、前記インピーダンスインバータ(38)と前記デカップリングコンデンサとの間に介在する伝送線路をさらに含む、請求項17に記載の方法(100)。
【請求項19】
前記高調波終端回路(40)が、前記インピーダンスインバータ(38)と前記デカップリングコンデンサとの間に介在する直列接続のインダクタおよびLC共振回路をさらに含む、請求項17に記載の方法(100)。
【請求項20】
前記LC共振回路が、並列に接続されたコンデンサおよびインダクタを含む、請求項19に記載の方法(100)。
【請求項21】
各増幅器(18)の出力端と前記合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)との間にDC阻止コンデンサ(34)を介在させるステップをさらに含む、請求項13~20のいずれか1項に記載の方法(100)。
【請求項22】
各増幅器(18)の出力端とRF信号グランドとの間にRFチョーク回路(32)を接続するステップをさらに含む、請求項21に記載の方法(100)。
【請求項23】
各RFチョーク回路(32)が、直列に接続されたインダクタおよびコンデンサを含む、請求項22に記載の方法(100)。
【請求項24】
前記増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を、前記高調波終端回路(40)に組み込まれた前記インピーダンスインバータ(38)の所定の部分を選択することによって制御するステップをさらに含む、請求項13~23のいずれか1項に記載の方法(100)。
【請求項25】
前記増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を制御するステップが、時間領域において電流波形と電圧波形との間の離隔を増大させることを含む、請求項24に記載の方法(100)。
【請求項26】
前記増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を制御するステップが、前記電圧波形のピークを増大させることを含む、請求項24に記載の方法(100)。
【請求項27】
基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器(30)であって、
並列に配置された第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)と、
合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)であり、
前記第1のトランジスタ(18a)および前記第2のトランジスタ(18b)の出力端同士を接続するインピーダンスインバータ(38)、ならびに
前記インピーダンスインバータ(38)の少なくとも一部分を取り込み、前記基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供するように動作する、高調波終端回路(40)を含む合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)と
を備える、増幅器(30)。
【請求項28】
基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器(30)であって、
並列に配置された第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)と、
合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)であり、
前記第1のトランジスタ(18a)および前記第2のトランジスタ(18b)の出力端同士を接続するインピーダンスインバータ(38)、ならびに
前記インピーダンスインバータ(38)上のある位置とRF信号グランドとの間に接続された、高調波終端回路(40)を含む合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)と
を備える、増幅器(30)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2019年5月24日に出願された米国特許出願第16/421,999号の優先権を主張し、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、一般に高周波増幅器回路に関し、詳細には、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路を備えたRFドハティ増幅器構成に関する。
【背景技術】
【0003】
現代の無線通信ネットワークは、一般に固定アクセスポイント(基地局、eNB、gNBなどとして知られる)と多数のモバイル端末(ユーザ機器すなわちUE、タブレット、ラップトップなど)との間で、高周波(RF)信号に変調された音声およびデータコンテンツを送信することによって機能する。双方向の信号伝送には、RF電力増幅器が必要とされる。どちらの場合も、効率(出力電力を直流電力で割ったもの)が重要な考慮事項である。効率の悪い増幅器は、消費される電力の多くを単に熱に変えることによって運用コストが高くなり、また、熱を放出するための物理的な設計が必要になるので、アクセスポイントには効率のよい電力増幅器が望まれる。モバイル端末の電力増幅器は、バッテリ電力を消費する主たるものであり、1回の充電あたりの有効なデバイス寿命を延ばすために高い効率が望まれる。
【0004】
増幅器は、圧縮で、またはほぼ圧縮で、すなわち増幅器が常にオンになっているか強く導通している点で、最も効率的に動作する。圧縮点より下で動作する増幅器は線形範囲で動作し、出力信号は入力信号が増幅されたものになる。部分的または全面的に圧縮で動作する増幅器は、周波数/位相変調信号、またはオンオフキーイング変調信号(たとえば、モールス符号)を高出力、高効率で送信することができる。これらの用途では、線形性が必要とされない。すなわち、増幅器は信号の振幅を歪ませてもよく、信号に変調された情報に影響を及ぼすことがない。しかし、搬送波信号の振幅を変調することによって情報を一部でも符号化する通信信号では、電力増幅器が、AM情報を保存するために高い直線性で動作する必要がある。
【0005】
現代の無線通信ネットワークで使用するために標準化されている、たとえば様々なレベルの直交振幅変調(16-QAM、64-QAM、256-QAM)などの信号変調方式の多くでは、増幅器が圧縮で動作した場合に起こるであろう振幅変調情報の喪失を避けるために、線形増幅器を必要とする。多くのこのような信号の特徴は、平均信号電力は相対的に低いが、信号の断続的なピークでは平均と比較して電力が大きいことである。この特徴は、ピーク対平均電力比(PAPR)として定量化される。高PAPRの信号を送信する単独の電力増幅器は、まれに発生する信号ピークに合わせてサイズ設定しなければならないので低い効率を示し、平均すると非常に低い電力で動作する。すなわち、電力増幅器は、概して使用されない大きい「ヘッドルーム」を持たせて設計されなければならない。増幅器の動作点は圧縮点よりもはるかに下にあるので、効率がよくない。これは、増幅器が消費する(モバイル端末の場合ではバッテリからの)電力の多くが熱として浪費されることを意味する。
【0006】
ウィリアム・ドハティは、1936年にこの問題を解決して、高いPAPRのAMラジオ信号を送信しながら効率が改善されている電力増幅器を設計した。
図1にブロック図の形で表されたRFドハティ増幅器10は、「主」または「搬送波」増幅段と呼ばれることが多い、ほとんどの信号増幅に使用される第1のトランジスタ18aと、「補助」または「ピーク」増幅段と呼ばれることが多い、信号ピークを増幅するために使用される第2のトランジスタ18bとを備える。本明細書では、より一般的な「第1」および「第2」のトランジスタという用語を使用する。第1の増幅器段にはAB級バイアス増幅器が使用されることが多く、この増幅器は、線形範囲内で平均信号を増幅するようにバイアスすることができるが、圧縮に近い(すなわち、ヘッドルームが小さい)。信号ピークは、第2の増幅段として、たとえばC級バイアス増幅器によって増幅され、この増幅器は、ほとんどの時間が非活動状態であり、入力信号導通角のほんの一部分にわたってのみ線形であればよい。
【0007】
ドハティ増幅器の特徴は、第1のトランジスタ18aと第2のトランジスタ18bとの出力接続であり、この接続はインピーダンスインバータ22を介して行われ、1/4波長伝送線路を使用して実施されることが多く、また90度の位相シフトがあることが多い。低入力信号電力レベルでは、第2のトランジスタ18bは非活動状態であり、実質的に開回路である。システムインピーダンス(たとえば、50Ω)は、出力整合ネットワーク24により、第2のトランジスタ18bの出力端で低減される。このインピーダンスは、インピーダンスインバータ22によって非常に高いインピーダンスに反転され、高い出力インピーダンスが第1のトランジスタ18aに提供されて、その効率が向上する。第2のトランジスタ18bが信号ピークを増幅し始めると、その増加する出力電流(第1のトランジスタ18aの出力電流と合計される)は、負荷インピーダンスの両端の電圧を増加させ、この負荷インピーダンスをインピーダンスインバータ22は、低下するインピーダンスとして第1のトランジスタ18aに提供する。この低いインピーダンスにより第1のトランジスタ18aの出力電力は、入力信号の電力が増加するにつれて増加することが可能になる。これは負荷変調として知られており、これによりドハティ増幅器10が入力信号電力の全範囲にわたって高い効率を提供することになる。
【0008】
言い換えると、負荷変調が行われる。その理由は、ドハティ増幅器10の出力電圧が、第1のトランジスタ18aの出力電流と第2の18bトランジスタの出力電流との和に負荷インピーダンスを掛けたもので決定されるからである。それに応じて、第1のトランジスタ18aの出力インピーダンスは、第2のトランジスタ18bから送出される負荷電流によって変化する。
【0009】
インピーダンスインバータ22では、90度の位相シフトを実施することが多いが、このことは必ずしもドハティ増幅器の負荷変調が行われるための要件ではないことに留意されたい。たとえば、90度以外の位相遅れが、たとえば第2のトランジスタ18bの経路に導入されてもよく、インピーダンスインバータ22は、2つのトランジスタ18aと18bの経路間の全位相差が90度またはその近くになるように、対応する位相シフトを導入する。
【0010】
図1を参照すると、電力分割器回路12は、RF入力信号をその瞬間的な電力レベルに応じて第1のトランジスタ18aと第2のトランジスタ18bの間で分割する。移相器14は、出力インピーダンスインバータ22が第1のトランジスタ18aの出力に加える、多くの場合90度である遅延を一致させることによって、第2のトランジスタ18bの入力の位相を遅延させる。いくつかの実施形態では、電力分割器12と移相器14は、直交電力分割器として合体されてもよく、この分割器は、入力信号を分割することも第2のトランジスタ18bの入力に90度の位相シフトを加えることもする。入力整合回路16a、16bは、インピーダンス整合を行い、たとえば、標準的な50Ωのシステムインピーダンスを第1のトランジスタ18aおよび第2のトランジスタ18bの低い入力インピーダンスに整合させることを行う。同様に、出力インピーダンス整合回路20a、20bは、トランジスタ18a、18bの低い出力インピーダンスを50Ωなどの標準的なシステムインピーダンスに整合させる。
【0011】
上述のように、ドハティ構成10の第1のトランジスタ18aの出力と第2のトランジスタ18bの出力とは、90度の位相遅延を有するインピーダンスインバータ22によって接続される。インピーダンスインバータ22は、1/4波長伝送線路を使用して実施されることが多い。ドハティ増幅器10の出力は、通常ではインピーダンスインバータ22の第2のトランジスタ18b側の、いわゆる加算ノードで取り出される。インピーダンス変換器24は、ドハティ増幅器回路10から見た負荷インピーダンスZloadを標準的な50Ωのシステムインピーダンスに変換する。
【0012】
ドハティ増幅器の用途では、システムサイズを低減するにもバッテリ寿命を増加させるにも、より高い効率が求められる。F級、逆F級、J級などの高調波制御を用いる高効率電力増幅器トポロジが広く採用されている。電力増幅器の効率を上げる1つの方法は、デバイス自体で消散される電力を最小限にすることである。デバイスの電力消散を低減させる1つの方法は、増幅される信号の電圧波形と電流波形の重なりを最小限にすることである。すなわち、消散される電力は電圧と電流の加算であるので、最大出力電圧が、理想的には低い(またはゼロの)電流レベルのときに生じるべきであり、最大電流が低電圧に対応すべきである。電流波形および電圧波形を形成する方法の1つは、増幅される信号の高調波成分の大きさおよび位相を制御することによるものである。2次高調波の操作が他の、より高い高調波成分よりも比較的簡単であるので、2次高調波成分が通常では、適切な電流波形または電圧波形を作るために操作される。この手法は、Paolo Colantoni, et al.の論文“Multiharmonic Manipulation for Highly Efficient Microwave Power Amplifiers,” John Wiley & Sons, 2001に詳細に記載されており、その開示は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0013】
図2は、高調波制御回路26a、26bを備えたドハティ増幅器トポロジ11を示す。高調波制御回路26a、26bは、個々の基本波と高調波が効果的に整合するように、トランジスタ18a、18bに近接して配置されている。この高調波制御ドハティ増幅器11は、負荷変調中の電流と電圧の重なりを最小限にすることができ、入力信号電力の全範囲にわたって従来のドハティ増幅器トポロジ10よりも優れた効率を達成することができる。
【0014】
現代の無線通信ネットワークにおける1つの重要な進歩は、空間ダイバーシティおよび/または空間多重化を使用することである。空間ダイバーシティとは、同じ信号を異なる伝搬路(たとえば、異なる送信/受信アンテナ)で送信することを指し、フェージング、同一チャネル干渉、その他のRF信号伝送の悪影響に対する堅牢性を高めるものである。空間多重化ではまた、多数の送信アンテナおよび受信アンテナを使用し、空間多重化とは、時空間符号化を用いてデータの異なる部分を異なる伝搬路で伝送してデータ転送速度を高めることも指す。これらの技法は多入力多出力、すなわち「MIMO」と総称される。すべてのMIMO技法の鍵は、エアインターフェースチャネルの少なくとも片側、好ましくは両側に複数のアンテナを配置することである。第4世代(4G)ネットワーク規格では、トランシーバー1台あたり2本、4本、または8本のアンテナが企図されているが、現在規定されている第5世代(5G)ネットワークでは、トランシーバー1台あたり最大128本のアンテナが想定されている。RF信号を送信するために使用される各アンテナは、電力増幅器を必要とする。それゆえに、小型化設計と、可能な限り多くの構成要素を同一の集積回路パッケージに集積化することが、RF電力増幅器の重要な設計考慮事項になる。加えて、多数のトランシーバーが1つのシステムに含まれるので、RF電力増幅器の効率改善が必要とされる。したがって、ドハティ電力増幅器の設計では、高調波制御トポロジを用いた高効率の電力増幅器トポロジが必要とされる。
【0015】
残念ながら、高調波制御回路26a、26bは、各ドハティ増幅器11のサイズを増大させ、コンパクト設計および高集積化という目標が妨げられる。
【0016】
本明細書の「背景技術」の項は、本発明の実施形態を技術的および運用的な文脈に入れて、その範囲および有用性を当業者が理解することを助けるために提供されている。「背景技術」の項に記載された手法は、追求することができても、必ずしも以前に考案または追求された手法ではない。特にそのように明示されていない限り、本明細書に記載されていることは、「背景技術」の項に含まれていることだけで従来技術であるとは認められない。
【発明の概要】
【0017】
以下では、当業者に基本的な理解が得られるようにするために、本開示の簡略化した概要を提供する。この概要は、本開示の広範な概説ではなく、本発明の実施形態の主要な/重要な要素を特定または本発明の範囲を描写するものではない。この概要の唯一の目的は、本明細書に開示されるいくつかの概念を、後に提供されるより詳細な説明の前置きとして簡略化した形で提供することである。
【0018】
本明細書に記載および特許請求されている1つまたは複数の実施形態によれば、ドハティ増幅器構成の第1の(主)トランジスタおよび第2の(ピーク)トランジスタの出力端同士が、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路によって接続される。高調波終端回路は、所定の位置でインピーダンスインバータに結合され、インピーダンスインバータの少なくとも一部を取り込み、基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供する。高調波負荷インピーダンスの大きさおよび位相などの特性が、増幅されたRF信号の高調波制御された電圧波形および電流波形を生成するように制御される。高調波終端回路は、所望の量の目標高調波成分(たとえば、2次高調波)をグランドに分路するように機能する低インピーダンス経路を含む。インピーダンスインバータとの選択された重なりが、目標高調波周波数における高調波負荷インピーダンスの位相の制御を実現する。高調波終端は、負荷インピーダンスが全く変化することなく基本周波数でインピーダンスインバータの良好な負荷変調を機能させるために、目標高調波周波数における低インピーダンス経路と同じノードで、基本信号成分における高インピーダンス経路をグランドに提供する。特に、GaNなどのIII族窒化物半導体では、従来の高調波抑制回路と出力インピーダンス整合回路の両方を各増幅器の出力部から除去することができる。
【0019】
1つの実施形態は、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器に関する。この増幅器は、並列に配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタと、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路とを含む。合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路は、第1のトランジスタおよび第2のトランジスタの出力端間に結合されており、基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供するように動作する。
【0020】
別の実施形態は、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路を有しており、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器を製造する方法に関する。並列に配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタが提供される。インピーダンスインバータが第1のトランジスタおよび第2のトランジスタの出力端間に結合される。高調波終端回路がインピーダンスインバータの一部分とRF信号グランドとの間に接続される。
【0021】
さらに別の実施形態は、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器に関する。この増幅器は、並列に配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタと、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路とを含む。この合体回路は、第1のトランジスタおよび第2のトランジスタの出力端同士を接続するインピーダンスインバータと、インピーダンスインバータの少なくとも一部分を取り込む高調波終端回路とを含む。高調波終端回路は、基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供するように動作する。
【0022】
さらに別の実施形態は、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器に関する。この増幅器は、並列に配置された第1のトランジスタおよび第2のトランジスタと、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路とを含む。この合体回路は、第1のトランジスタおよび第2のトランジスタの出力端同士を接続するインピーダンスインバータと、インピーダンスインバータ上のある位置とRF信号グランドとの間に接続された高調波終端回路とを含む。
【0023】
次に、本発明の実施形態が示されている添付の図面を参照して、以下で本発明をより完全に説明する。しかし、本発明は、本明細書に記載された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が完璧かつ完全になるように、また本発明の範囲を当業者に十分に伝えるように提供されている。全体を通して、同じ番号は同じ要素を指す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】従来技術のドハティ増幅器のブロック図である。
【
図2】高調波制御を含む従来技術のドハティ増幅器のブロック図である。
【
図3】合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路を有するドハティ増幅器のブロック図である。
【
図4】インピーダンスインバータと高調波終端回路の1つの実施態様を示すドハティ増幅器のブロック図である。
【
図5】インピーダンスインバータと高調波終端回路の別の実施態様を示すドハティ増幅器のブロック図である。
【
図6(a)-(b)】
図6(a)は、正弦波の基本波成分および2次高調波成分のグラフである。
図6(b)は、
図6(a)の基本波成分と2次高調波成分の干渉により生じた波形のグラフである。
【
図7(a)】高調波制御なしの場合の増幅器出力信号の電圧波形および電流波形のグラフである。
【
図7(b)】2次高調波制御ありの場合の増幅器出力信号の電圧波形および電流波形のグラフである。
【
図8】増幅器を製造する方法を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、当然ながら、本発明の本質的な特徴から逸脱することなく、本明細書に具体的に記載されたもの以外の方法でも実施することができる。本実施形態は、すべての点において制限的なものではなく例示的なものであると考えられるべきであり、添付の特許請求の範囲の意味および等価物の範囲に入るすべての変更は、本実施形態に包含されるものである。
【0026】
簡略化および説明のために、本発明は、その例示的な実施形態を主に参照して説明される。以下の説明では、本発明の完全な理解が得られるようにするために、多くの具体的な細部が記述される。しかし、本発明がこれらの具体的な細部に限定されずに実施されてもよいことは、当業者には容易に明らかになろう。本明細書では、本発明を不必要に不明瞭にしないように、よく知られている方法および構造体については詳細に説明していない。
【0027】
現代の無線通信ネットワークにおける電力増幅器の重要な考慮事項は、RF信号を高周波数において高電力で増幅する能力である。たとえば、5Gネットワークは、GHz帯で動作することが予想されている。これらの要件に適合した半導体技術として、マイクロ波周波数において低雑音指数を有する電界効果トランジスタ(FET)の一種の、高電子移動度トランジスタ(HEMT)がある。無線通信送信機の電力増幅器として使用するのに特に適しているのは、III族窒化物材料から製作されたHEMTである。III族窒化物とは、窒素と、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、およびインジウム(In)などの、周期表の従来のIII族(国際純正および応用化学連合、すなわちIUPACの命名法では13族)の元素との間で形成される半導体合金を指す。特に、窒化ガリウム(GaN)HEMTは、無線通信電力増幅器の用途に適合している。
【0028】
GaN HEMTの特徴は、高い固有出力インピーダンス(たとえば、約20Ω)であり、横形二重拡散金属酸化膜半導体(LDMOS)などの他の増幅器技術(たとえば、約4Ω)と比較して高い。この相対的に高い出力インピーダンスにより、
図3を参照して説明するように、革新的な回路構成が増幅器18a、18bの出力端において可能になる。
【0029】
図3は、1つの実施形態による、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路を有するドハティ増幅器回路30のブロック図を示す。ドハティ増幅器30は、電力分割器12、移相器14、入力インピーダンス整合回路16a、16b、ならびに第1の(主)トランジスタ18aおよび第2の(ピーク)トランジスタ18bを含み、すべて
図1および
図2を参照して上述したのと同様である。
図3の実施形態では、出力インピーダンス整合回路20a、20bが、無線周波数チョーク(RFC)32a、32bを使用することによって最小化されている。RFC 32a、32bはそれぞれ、それぞれの増幅器18a、18bの出力端とRF信号のグランドとの間で直列に接続されたインダクタおよびコンデンサを含む。RFC32a、32bのインダクタおよびコンデンサは、複素増幅器18a、18bの出力インピーダンスの虚部を共振させるようにサイズ設定されている。RFC 32a、32bを使用することと、GaNトランジスタ18a、18bの相対的に高い出力インピーダンスとにより、相対的に高い、実部の出力インピーダンスが得られる。これにより、大規模な出力インピーダンス整合回路20a、20b(
図1、2)が不要になって、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36が、(動作周波数において)トランジスタ18a、18bの出力端に電気的に直接接続できるようになる。
【0030】
トランジスタ18a、18bの出力端と直列のDC阻止コンデンサ34a、34bは、動作周波数においてトランジスタ18a、18bの出力信号に対して低インピーダンス(すなわち、実質的に短絡)を提供する。DC阻止コンデンサ34a、34bは、いくつかの利点を提供する。第1に、DC阻止コンデンサ34aは、ドハティ増幅器30の負荷変調機能を補助する。第2に、DC遮断コンデンサ34bは、加算ノードにおいて第2のトランジスタ18bに大きいインピーダンスを提供することを補助する。当業者であれば、DC阻止コンデンサ34a、34bが、
図3に示されたものと異なる位置に配置されてもよく、たとえば、インピーダンスインバータ38に組み込まれてもよいことが理解されよう。
【0031】
本発明の実施形態によれば、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36は、第1のトランジスタ18aおよび第2のトランジスタ18bの出力端同士を接続する。この回路36は、インピーダンスインバータ38と高調波終端回路40の両方を含む。これらの回路の実施形態については、
図4および
図5を参照されたい。高調波終端回路をインピーダンスインバータと合体すると、構成要素数が劇的に低減し、複数のドハティ増幅器30を小型パッケージに密に集積することが容易になる。
【0032】
合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36内で、インピーダンスインバータ38は、
図1および
図2のインピーダンスインバータ22と実質的に同様である。ドハティ増幅器ではよく知られているように、インピーダンスインバータは、増幅されたRF信号の基本周波数で負荷変調を行い、たとえば、1/4波長伝送線路として実現することができる。高調波終端回路40は、たとえば2次高調波などの、基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供する。目標高調波の負荷インピーダンスの、その大きさおよび位相などの特性は、高調波終端回路40のパラメータによって決定され、それゆえに、設計者が制御することができる。
【0033】
特に、目標高調波負荷インピーダンスの大きさは、本明細書で
図4および
図5を参照してより詳細に説明するように、目標高調波成分の一部(実質的に全部まで)をRF信号グランドへ分路することによって制御される。高調波終端回路40はこの制御を、RF信号グランドへの低インピーダンス経路を目標高調波周波数において形成することによって達成する。同時に、高調波終端回路40は、グランドへの高インピーダンス経路(すなわち、実質的に開回路)を基本周波数において形成する。それゆえに、高調波終端回路40は、インピーダンスインバータ38の負荷変調機能を基本周波数において実質的に妨げない。
【0034】
目標高調波負荷インピーダンスの位相は、インピーダンスインバータ38の一部を高調波終端回路40に組み込むことによって制御される。
図4および
図5に示されるように、インピーダンスインバータ38に沿った、高調波終端回路40が接続される位置が位相を決める。この接続点を変更することによって、設計者は、目標高調波負荷インピーダンスの位相を制御することができ、それによって、明細書で
図6(a)および
図6(b)を参照してより詳細に説明するように、波形エンジニアリングが可能になる。別の言い方をすると、高調波終端回路40は、インピーダンスインバータ38の選択可能な部分を組み込み、その部分は、インピーダンスインバータ38の長手方向のその接続点によって決まる。
【0035】
1つの実施形態では(図示せず)、2つ以上の高調波終端回路40が、インピーダンスインバータ38に沿った異なる位置として配置されてもよく、それぞれが、高調波終端回路をインピーダンスインバータ38から切り離すように動作する直列トランジスタスイッチを有する。これらのスイッチのうちの選択された1つだけを閉じることによって、事前に選択された複数の高調波負荷インピーダンス位相値のうちの1つを、動作中に動的に選択することができる。1つの実施形態では、高調波終端回路40は、増幅されたRF信号の目標高調波成分の異なる減衰度が得られる、異なる構成要素値を含み得る。
【0036】
同様に、別の実施形態(図示せず)では、別個にイネーブルされた2つ以上の高調波終端回路40が、増幅されたRF信号の3次以上の高調波などの異なる高調波成分を目標とする構成要素値を含み得る。他の実施形態では、1つまたは複数の高調波終端回路40は、調整可能コンデンサなどの調整可能な構成要素を含むことができ、それによって製造後の高調波終端回路の調整が可能になる。実際、両方の態様(所与の高調波負荷インピーダンスに対する複数の位相および/または減衰度、ならびに複数の高調波成分を目標にすること)のための高調波終端回路40が、いくつかの実施形態では実施され得る。当業者であれば、本開示の教示を前提として、そのような選択肢を容易に実施することができる。
【0037】
図4は、
図3のドハティ増幅器30の1つの実施形態を示す。インピーダンスインバータ38(たとえば、1/4波長伝送線路を含み得る)は、第1のトランジスタ18aおよび第2のトランジスタ18bの出力端同士を接続して、ドハティ増幅器の特徴である負荷変調を実現する。高調波終端回路40は、インピーダンスインバータ38の所定の部分と、別の伝送線路と、RF信号グランドに分路されたデカップリングコンデンサとを含む。伝送線路およびコンデンサのパラメータは、動作周波数において、高調波終端回路40を経由してグランドに至る経路が、基本周波数では高いインピーダンスを有するが(すなわち、実質的に開回路のように見える)、2次(または他の)高調波周波数では低いインピーダンスを有するように(短絡のように見えるまで)、選択される。高調波終端回路40はインピーダンスインバータ38に、その長手方向のどの位置でも接続できることに留意されたい。この重なりの度合いを調整することによって、高調波終端回路によって提供される目標(たとえば、2次)高調波負荷インピーダンスの位相を設計することができる。高調波負荷インピーダンスの位相を制御する機能は、本明細書でさらに説明するように、高調波制御された電圧波形および電流波形を成形するのに重要である。
【0038】
図5は、
図3のドハティ増幅器30の別の実施形態を示す。この実施形態では、高調波終端回路40はまた、目標(たとえば、2次)高調波負荷インピーダンスの位相を決定する所定の量だけ、インピーダンスインバータ38に重なる。しかし、高調波終端回路40はこの場合、伝送線路ではなく、インダクタを、RF信号グランドに接続されたデカップリングコンデンサと直列の、LC並列共振器(LCタンク回路としても知られる)と直列に含む。インダクタおよびコンデンサの構成要素値は、動作周波数において、基本周波数では実質的に開回路になり、たとえば2次高調波周波数では低いインピーダンス(実質的に短絡まで)になるように、選択される。
【0039】
図6aおよび
図6bは、高調波成分を制御することによる波形エンジニアリングの原理を示す。
図6aは、たとえば増幅された信号(この場合は正弦波)の電圧波形の基本波成分および2次高調波成分を表している。一般に、これらの曲線が揃っていない場合、強め合う干渉および弱め合う干渉が無秩序に発生して、望ましくない歪みが基本周波数の波形に導入される。それゆえに、多くの技術的努力が通常、高調波成分を完全に抑制しようとして費やされる。しかし、
図6aおよび
図6bが示すように、高調波を適切に制御することにより、所望の波形特性を改善することができる。
【0040】
図6aでは、基本波成分と2次高調波成分が揃っているので、曲線が足し合わされて、基本周波数波形の正の信号ピークの大きさが増加している。さらに、2次高調波成分が負になる場合では曲線が引き算されることにより、基本周波数の正の半周期の幅が狭くなる。基本周波数成分の負のピークと一致する2次高調波成分の正の半周期には、負のピークをクリップして、半正弦波信号が得られることに留意されたい。電圧ピークを大きくすることによって、最大利得が増大される(トランジスタの電力能力を超えない限りは)。さらに、波形を「狭くする」ことによって、電流波形と電圧波形を分離することが容易になって、デバイスで消散される電力が少なくなり、それゆえに効率が高くなる。
【0041】
図7(a)および
図7(b)は、
図3~5に表されているような合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36が、増幅された信号の2次高調波成分の振幅および位相を制御するのに有効であり、高調波制御された波形が得られるということを明示している。
図7(a)は、従来のドハティ増幅器構成10(たとえば、
図1)を用いてシミュレーションされた、例示的な増幅RF信号(たとえば、正弦波)の電圧波形および電流波形のグラフである。
図7(b)は、
図4の本発明のドハティ増幅器実施形態30を用いて増幅された同じ信号の波形のグラフであり、構成要素値が、提供された2次高調波負荷インピーダンスの大きさを制御するように選択され、インピーダンスインバータとの接続が、その位相を制御するように選択されている。どちらの場合も、増幅器は、第1の(主)トランジスタ18aにおいて約P4dBの電力レベルで動作した。グラフに示されるように、2次高調波成分の制御により、電圧波形と電流波形の両方が改善すると共に、これらの分離が改善する。特に、電流波形の異質のローブおよびリンギングが抑制され、電圧波形は、示す広がりが少なく、高いピークを持つ。具体的な数値が以下の表1に提示されており、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36が、高い基本波成分およびドレイン効率を達成することを示している。
【0042】
【表1】
表1:P4dB付近でシミュレーションされた電圧振幅、電流振幅、およびドレイン効率
【0043】
さらに、2つのドハティ増幅器構成は、P4dBから8dBバックオフ電力レベルでシミュレーションされた。これらのデータは表2に示されている。
【表2】
表2:8dBバックオフにおいてシミュレーションされたドレイン効率および電力利得
【0044】
これらのシミュレーション結果は、本発明の実施形態が、高調波終端によって高い電力利得および効率を達成し、コンパクトなフォームファクタが高集積化を容易にすることを実証した。
【0045】
本発明の実施形態による合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36を有するドハティ増幅器30は、様々な方法でパッケージすることができる。このような1つまたは複数の増幅器は、知られている技法および技術を用いて集積回路上に製作することができる。さらに、または代わりに、当技術分野で知られているように、複数の既製のドハティ増幅器回路が、電力増幅器モジュール(PAM)、マルチチップモジュール(MCM)、プリント回路基板(PCB)、または他の基板の上に組み合わされてもよい。いかなるレベルの集積化でも、本発明の実施形態によるドハティ増幅器構成30は、増幅されたRF信号の高調波成分を、基本波信号成分を出力しながら制御することによって、また、小さなフォームファクタでそうして、それゆえに高い集積化レベルを実現することによって、優れた性能を提供する。たとえば、多数のこのようなドハティ増幅器30を組み合わせて無線通信ネットワーク機器に配置することができる。非限定的な例として、このような機器には、4G小セル基地局の最終段、4Gマクロ基地局のドライバ段、および/または、5G新無線(NR)もしくは大規模多入力多出力(MIMO)システムの最終段が含まれ得る。本発明の実施形態は同様に、「スマートフォン」、セルラを装備したタブレット、およびラップトップコンピュータなどの、ユーザ機器(UE)に有利に配置することができる。
【0046】
図8は、合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路36を有しており、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する、増幅器30を製造する方法100のステップを示す。増幅器30は、基板上に製造することができ、この基板には、集積回路ダイの基板、マルチチップモジュールの基板、プリント回路基板などが含まれ得る。第1のトランジスタ18aおよび第2のトランジスタ18bが提供され、並列に配置される(ブロック102)。インピーダンスインバータ38が、第1のトランジスタ18aの出力端と第2のトランジスタ18bの出力端との間に結合される(ブロック104)。高調波終端回路40が、インピーダンスインバータ38の可変部分とRF信号グランドとの間に接続される。高調波終端回路40とインピーダンスインバータ38との接続が、基本周波数の目標高調波において高調波終端回路40によって提供される負荷インピーダンスの位相を制御するように調整される。目標高調波は、たとえば2次高調波とすることができる。
【0047】
本発明の実施形態は、従来技術で知られているドハティ増幅器に比べて多数の利点を提供する。RF信号の高調波成分を制御することの利点は知られているが、従来技術の高調波制御回路はかさばり、電力を消費する。さらに、従来技術の高調波制御回路は出力インピーダンス整合を必要とする。特に、相対的に高い固有出力インピーダンスを有するIII族窒化物材料の電力増幅器では、本発明の実施形態によれば、出力インピーダンス整合と従来の高調波制御回路の両方が削除される。増幅器の出力端においてRFチョーク回路とDCブロッキングコンデンサを組み合わせること、および合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路を使用することにより、高調波制御が、減少した構成要素数および小さい回路フットプリントで達成されて、高集積化が容易になり、総電力消費が低減する。
【0048】
「直接電気的に接続されている」または「電気的に接続されている」または単に「接続されている」という用語は、電気的に接続された要素間の恒久的な低オーム接続、たとえば関係している要素間のワイヤ接続、を表す。このような接続は、ボンドワイヤの寄生インダクタンスなどの寄生効果を持つことがあるが、接続された要素間には構成要素または要素が介在しない。対照的に、「電気的に結合されている」または単に「結合されている」という用語は、何か明確に電気信号に影響を与えるように構成された1つまたは複数の介在要素または構成要素が、電気的に結合された要素間に(必ずというわけではないが)設けられ得ることを意味する。これらの介在要素には、トランジスタまたはスイッチなどの能動要素、ならびにインダクタ、コンデンサ、ダイオード、抵抗などの受動要素が含まれ得る。
【0049】
「下に(under)」、「下に(below)」、「下方の(lower)」、「上に(over)」、「上方の(upper)」などの空間的に相対的な用語が、1つの要素と他の要素との相対的な配置の説明を記述しやすくするために使用される。これらの用語は、図に表されたものとは異なる向きに加えて、デバイスの様々な向きを包含するものである。さらに、「第1の」、「第2の」などの用語もまた、様々な要素、領域、区域などを説明するために使用されており、これらの用語もまた限定するものではない。同じ用語は、本明細書全体を通して同じ要素を指す。
【0050】
本明細書では、「有している(having)」、「包含している(containing)」、「含んでいる(including)」、「備えている(comprising)」などの用語は、記載された要素または特徴が存在することを示す制限のない用語であるが、追加の要素または特徴を排除しない。冠詞の「a」、「an」、および「the」は、文脈から明らかにそれ以外の指示がない限り、単数形と同様に複数形を含むものである。
【0051】
本発明は、当然ながら、本発明の本質的な特徴から逸脱することなく、本明細書に具体的に記載されたもの以外の方法でも実施することができる。本実施形態は、すべての点において制限的なものではなく例示的なものであると考えられるべきであり、添付の特許請求の範囲の意味および等価物の範囲に入るすべての変更は、本実施形態に包含されるものである。
【手続補正書】
【提出日】2023-12-21
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する増幅器(30)であって、
並列に配置された第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)と、
合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)であって、
前記第1のトランジスタ(18a)および前記第2のトランジスタ(18b)の出力端同士を接続するインピーダンスインバータ(38)と、
前記インピーダンスインバータ(38)の少なくとも一部分を取り込み、前記基本周波数の目標高調波において負荷インピーダンスを提供するように動作する、高調波終端回路(40)と、
を含む合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)と、
を備え、
これにより、前記基本周波数および前記基本周波数の前記目標高調波におけるRF信号成分の合計は、前記高調波終端回路(40)によって提供される前記負荷インピーダンスの無い動作と比較して、電力消費を低減させ、前記増幅器(30)の効率を改善させる、
増幅器(30)。
【請求項2】
目標高調波負荷インピーダンスの位相は、前記インピーダンスインバータ(38)に沿った、前記高調波終端回路(40)が接続される位置に依存する、請求項1に記載の増幅器(30)。
【請求項3】
前記高調波終端回路(40)が、目標高調波周波数におけるRF信号グランドへの低インピーダンス経路および前記基本周波数におけるRF信号グランドへの高インピーダンス経路を提供する、請求項2に記載の増幅器(30)。
【請求項4】
前記高調波終端回路(40)が、伝送経路の1つと直列のインピーダンスインバータ(38)の一部分と、インダクタの直列接続と、並列に接続されたコンデンサおよびインダクタを含むLC共振回路と、RF信号グランドに接続されたデカップリングコンデンサと、を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の増幅器(30)。
【請求項5】
前記目標高調波負荷インピーダンスの大きさおよび位相が、増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を制御する、請求項1~4のいずれか1項に記載の増幅器(30)。
【請求項6】
合体インピーダンスインバータおよび高調波終端回路(36)を有しており、基本周波数を有するRF信号を増幅するように動作する、増幅器(30)を製造する方法(100)であって、
並列に配置された第1のトランジスタ(18a)および第2のトランジスタ(18b)を提供するステップと、
前記第1のトランジスタ(18a)および前記第2のトランジスタ(18b)の出力端間にインピーダンスインバータ(38)を結合するステップと、
前記インピーダンスインバータ(38)の一部分とRF信号グランドとの間に高調波終端回路(40)を接続することによって負荷インピーダンスを生成するステップと、
前記高調波終端回路(40)によって提供される前記負荷インピーダンスの無い動作と比較して、電力消費を低減させ、前記増幅器(30)の効率を改善させるように、前記基本周波数および前記基本周波数の前記目標高調波におけるRF信号成分を合計するステップと、
を含む、方法(100)。
【請求項7】
前記高調波終端回路(40)に取り込まれた前記インピーダンスインバータ(38)の部分が、前記基本周波数の目標高調波において前記高調波終端回路(40)により提供される負荷インピーダンスの位相を制御する、請求項6に記載の方法(100)。
【請求項8】
前記高調波終端回路(40)が、前記基本周波数の目標高調波におけるRF信号への低インピーダンス経路および前記基本周波数におけるRF信号グランドへの高インピーダンス経路を提供する、請求項6~7のいずれか1項に記載の方法(100)。
【請求項9】
前記高調波終端回路(40)が、伝送経路の1つと直列のインピーダンスインバータ(38)の一部分と、インダクタの直列接続と、並列に接続されたコンデンサおよびインダクタを含むLC共振回路と、RF信号グランドに接続されたデカップリングコンデンサと、を含む、請求項6に記載の方法(100)。
【請求項10】
前記増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を、前記高調波終端回路(40)に組み込まれた前記インピーダンスインバータ(38)の所定の部分を選択することによって制御するステップをさらに含み、前記増幅されたRF信号のドレイン電流波形およびドレイン電圧波形を制御するステップが、時間領域において電流波形と電圧波形との間の離隔を増大させること、および前記電圧波形のピークを増大させること、のうち1つを含む、請求項6~9のいずれか1項に記載の方法(100)。
【請求項11】
前記第1のトランジスタ(18a)および前記第2のトランジスタ(18b)の複素出力インピーダンスの虚部を共振させるようにサイズ設定された無線周波数チョーク(32a、32b)をさらに含む、請求項1に記載の増幅器(30)。
【請求項12】
無線周波数チョーク(32a、32b)を用いて、前記第1のトランジスタ(18a)および前記第2のトランジスタ(18b)の複素出力インピーダンスの虚部を共振させるステップをさらに含む、請求項6に記載の方法(100)。
【外国語明細書】