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特開2024-2641発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法
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  • 特開-発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002641
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/08 20060101AFI20231228BHJP
   C30B 29/38 20060101ALI20231228BHJP
   C30B 31/06 20060101ALI20231228BHJP
   H01L 33/08 20100101ALI20231228BHJP
   C09K 11/62 20060101ALI20231228BHJP
   C09K 11/64 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C09K11/08 B
C30B29/38 D
C30B31/06
H01L33/08
C09K11/62
C09K11/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101968
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】貞持 豪
【テーマコード(参考)】
4G077
4H001
5F241
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077AB01
4G077BE15
4G077EB04
4G077FC10
4G077FE20
4G077HA02
4H001CF02
4H001XA07
4H001XA13
4H001XA31
4H001XA49
4H001YA63
5F241CA05
5F241CA40
5F241CA65
5F241CB11
5F241CB28
(57)【要約】
【課題】発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法において、希土類元素を含む気体を得るための原料の選択肢の多い製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】窒化物の結晶を含む前駆体を準備することと、希土類元素を含む気体を、前記前駆体に接触させて、前記希土類元素を前記前駆体に添加することと、を含む発光体の製造方法である。

【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物の結晶を含む前駆体を準備することと、
希土類元素を含む気体を、前記前駆体に接触させて、前記希土類元素を前記前駆体に添加することと、
を含む発光体の製造方法。
【請求項2】
前記希土類元素を前記前駆体に添加する工程は、希土類元素を含む酸化物、フッ化物、窒化物、ハロゲン化物、有機金属、または希土類元素の単体金属からなる群から選ばれた少なくとも1種の原料を準備する工程を含み、
前記希土類元素を含む気体は、前記原料から得る、
請求項1に記載の発光体の製造方法。
【請求項3】
前記希土類元素を含む気体は、前記希土類元素を含む酸化物を還元することで得る、請求項2に記載の発光体の製造方法。
【請求項4】
前記希土類元素を含む酸化物は、酸化ユウロピウムである、請求項3に記載の発光体の製造方法。
【請求項5】
前記前駆体の組成は、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)である、請求項1から4のいずれか1項に記載の発光体の製造方法。
【請求項6】
前記希土類元素を含む気体を前記前駆体に添加する工程において、前記前駆体を、前記前駆体を作製する際の熱処理温度以上2000℃以下の温度範囲で熱処理することを含む請求項1から4のいずれか1項に記載の発光体の製造方法。
【請求項7】
前記希土類元素を含む気体を前記前駆体に添加する工程において、前記希土類元素を含む気体は、前記前駆体が収容される炉と同じ炉内で、前記前駆体と直接接触しないように配置された前記原料を熱処理することで得る、
請求項2から4のいずれか1項に記載の発光体の製造方法。
【請求項8】
前記前駆体の形状はリング形状、ディスク形状、または多角形である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の発光体の製造方法。
【請求項9】
前記発光体をリング形状、ディスク形状、または多角形に加工する工程をさらに含む、
請求項1から4のいずれか1項に記載の発光体の製造方法。
【請求項10】
請求項1から4のいずれか1項に記載の製造方法により製造された発光体を準備することと、
励起源を準備することと、
前記励起源が発する光が照射される位置に前記発光体を配置することと、を含む、発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物に希土類元素をドープする方法として、例えば、有機金属化学気相成長(MOCVD)法、分子線エピタキシー法が知られている。例えば、特許文献1は、MOCVD法でユウロピウムをドープしたGaNを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-175482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
MOCVD法に用いることが可能な希土類元素の原料は選択肢が多くない。したがって、希土類元素を含む原料の選択肢の多い製造方法が求められている。
【0005】
本開示の一態様は、希土類元素を含む原料の選択肢の多い発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第一態様は、窒化物の結晶を含む前駆体を準備することと、希土類元素を含む気体を、前記前駆体に接触させて、前記希土類元素を前記前駆体に添加することと、を含む発光体の製造方法である。
【0007】
第二態様は、当該発光体を準備することと、励起源を準備することと、前記励起源が発する光が照射される位置に前記発光体を配置することと、を含む、発光素子の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法において、希土類元素を含む気体を得るための原料の選択肢の多い製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】発光素子の一例を表す模式断面図である。
図2A】共振器を含む光回路の一例を表す模式平面図である。
図2B】共振器を含む光回路の他の一例を表す模式平面図である。
図2C】共振器を含む光回路の他の一例を表す模式平面図である。
図3】発光体の製造方法の一例を表すフローチャートである。
図4】希土類元素を前駆体に添加する工程の一例を表すフローチャートである。
図5】発光体の製造方法の他の例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
本明細書において、赤色光とは、発光ピーク波長が600nm以上750nm以下の光である。黄色光とは、発光ピーク波長が570nm以上600nm未満の光である。また、緑色光とは、発光ピーク波長が500nm以上570nm未満の光である。また、青色光とは、発光ピーク波長が410nm以上500nm未満の光である。また、紫色光とは、発光ピーク波長が380nm以上410nm未満である。紫外光とは、発光ピーク波長が200nm以上380nm未満の光である。
【0012】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、発光体及びその製造方法を例示するものであって、本発明は、以下に示す発光体及びその製造方法に限定されない。
【0013】
<発光体>
発光体は、窒化物の結晶であり、希土類元素を含む。これにより、所望の色で発光することができる。
【0014】
窒化物の結晶は、多結晶または単結晶であってよい。窒化物の結晶が多結晶または単結晶であることは、X線回折により確認することができる。
【0015】
発光体の母材は、窒化ガリウムの2元、3元、または4元混晶であってよい。また、発光体の母材は、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、または窒化インジウムであってよい。発光体の組成は、例えば、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)であってよい。発光体の組成は、好ましくは、AlGa1-xN(0≦x<1)または、AlNである。これらの材料はエネルギーギャップが比較的大きいので、発光体から生じる光を、発光体自体が吸収することを低減し、光取り出し効率を高めることができる。なお、発光体の母材として窒化ホウ素を利用するときは、窒化ホウ素の結晶構造は、立方晶、六方晶であってよい。なお、本明細書において、「母材」とは、対象となる材料の全体量に対して、例えば体積で、90%以上100%未満の範囲を占める材料を指す。
【0016】
発光体中に含まれる希土類元素は、例えば、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、またはイッテルビウムであってよい。希土類元素は、所望の色に応じて、適宜選択される。発光体中に含まれる希土類元素の含有量は、例えば、50ppm以下であってよく、30ppm以下であってよく、10ppm以下であってよい。ここで、ppmとは、(質量)/(質量)により求められる質量百万分率を表す。発光体中に含まれる希土類元素の含有量は、例えば、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光装置による微量分析により見積もることができる。
【0017】
発光体は、例えば、励起光を受けてピーク波長が350nm以上800nm以下の光を発する。例えば、ユウロピウムがドープされたGaNは赤色に発光する。この場合に得られる赤色は、3価のユウロピウムイオンの4f殻内遷移に起因するため、半値幅は狭く、色再現性に優れている。ただし、実施形態における発光体は、上記のように4f殻内遷移に由来するものだけに限られない。また、希土類元素がとりうる価数は、3価に限られない。例えば、2価のユウロピウムが添加されてもよい。
【0018】
<発光素子>
次に、上述した発光体を含む発光素子について、説明する。図1は、発光素子の一例を表す模式断面図である。図1に示すように、発光素子100は、発光体1と、発光体1を励起する励起源30と、を備える。発光体1は励起源30が発する光が照射される位置に配置されている。発光素子100は、発光体1と、発光体1の上に設けられたn側窒化物半導体層2と、p側窒化物半導体層4と、n側窒化物半導体層2とp側窒化物半導体層4の間に配置された活性層3を備えてもよい。この例において、励起源30は、n側窒化物半導体層2と、p側窒化物半導体層4と、n側窒化物半導体層2とp側窒化物半導体層4の間に配置された活性層3をからなる半導体部である。n側窒化物半導体層2は、例えば、Si等のn型不純物をドープした窒化物半導体層を有する。p側窒化物半導体層4は、例えば、Mg等のp型不純物をドープした窒化物半導体層を有する。活性層3は、複数の井戸層と、複数の障壁層とを備えている。障壁層は、Gaを含む窒化物半導体層、またはAlおよびGaを含む窒化物半導体層を含んでよい。障壁層の組成は、例えば、AlGa1-aN(0≦a≦1)である。障壁層のAl混晶比は、好ましくは0.05≦a≦0.15である。井戸層は、窒化物半導体層であり、例えば、赤色、黄色、緑色、青色、紫色光、または紫外光を発する。井戸層は、好ましくは、窒化物半導体層であり、紫色光または紫外光を発してよい。実施例において、紫色光および紫外光において、励起されることが確認できている。窒化物半導体層は、例えば3元化合物である。井戸層の組成は、例えば、InGa1-bN(0≦b<1)である。In混晶比は、好ましくは0≦b≦0.09である。また、発光素子100は、n側窒化物半導体層2と電気的に接続される負電極5と、p側窒化物半導体層4と電気的に接続される正電極6と、をさらに備える。発光体1は、例えば350nm以上800nm以下の光を発してよい。活性層3から発せられる光が照射される位置に発光体1が配置されているので、活性層3から発せられる光を励起光として使用することができる。図1に示す発光素子100において、発光体1は波長変換部材であり、また、n側窒化物半導体層2の成長基板の一部であってよい。発光素子100は、n側窒化物半導体層2が配置された面とは反対側の発光体1の面に、基板7を配置してもよい。基板7は、例えば、発光体1の母材の成長基板であってよい。基板7の材料は、例えば、サファイア、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、または窒化ホウ素などであってよい。
【0019】
他の例において、発光素子100は、発光体1と、基板7と、励起源30と、を順に備えてよい。すなわち、発光体1の母材が成長した基板7の面とは反対側の面にn側窒化物半導体層2を成長させてもよい。また、他の例において、発光素子100は、発光体1と、励起源30と、を順に備えてよい。発光体1は、窒化ガリウム基板に希土類元素が添加されていてもよく、発光体1を形成したあとで基板7を除去したものであってもよい。
【0020】
<共振器>
発光体は、共振器として利用してもよい。図2Aから図2Cは共振器1Rと光導波路8を含む光回路200の模式平面図の例を表す。共振器1Rは、例えば、リング形状(図2A)、ディスク形状(図2B)、または多角形(図2C)など、種々の形状をとることができる。ただし、多角形は六角形に限られない。図2Aはリング共振器である場合を表し、図2Bおよび図2Cは、ウィスパリングギャラリーモード共振器である場合を表す。共振器1Rを構成する発光体の発光波長が共振条件を満たすように共振器1Rのサイズを設定することで、共振器1Rにおいて効率よく光を共振させることができる。共振器1Rで共振される光は、共振器1Rと光結合する光導波路8を介して取り出すことができる。共振器1Rと光導波路8は、エバネッセント波が生じる程度離れている。すなわち、共振器1Rで増幅される光の波長よりも短い長さ以下だけ離れている。共振器1Rは、外部からの光を受けて励起されてもよく、また、光導波路8を導波する光によって励起されてもよい。図2Aから図2Cにおいて、励起源9が発する光が照射される位置に共振器1Rが配置されている。矢印は励起光を表している。
【0021】
<発光体の製造方法>
発光体の製造方法は、窒化物の結晶を含む前駆体を準備することと、希土類元素を含む気体を、前記前駆体に接触させて、前記希土類元素を前記前駆体に添加することと、を含む。
【0022】
これにより、発光体の製造方法、及び発光体を備える発光素子の製造方法において、希土類元素を含む気体を得るための原料の選択肢の多い製造方法を提供することができる。
【0023】
(前駆体を準備する工程S1)
まず、前駆体を準備する。前駆体は、窒化物の結晶であってよい。窒化物の結晶は、窒化物の単結晶であってよい。窒化物の結晶は、例えば、ハライド気相成長法、トリハライド気相成長法、アモノサーマル法、フラックス法、MOCVD法、分子線エピタキシー法、またはスパッタ法などにより得てもよい。前駆体の組成は、AlInGa1-c-dN(0≦c≦1、0≦d≦1、0≦c+d≦1)であってよい。前駆体の組成は、好ましくは、AlGa1-cN(0≦c≦1)である。これにより、後述する希土類元素を前駆体に添加する工程において、材料の分解が低減され、発光体を得る効率が向上し得る。
【0024】
前駆体の形状は、例えば、リング形状、ディスク形状、または多角形であってもよい。これにより、後述する希土類元素を前駆体に添加する工程により得られる発光体を共振器として使用することができる。前駆体の形状は、窒化物の結晶を成長させるときに選択成長により得てもよく、成長後の前駆体を加工して得てもよい。前駆体は、例えば、フォトリソグラフィまたは電子線リソグラフィによってパターンニングしたあとで、ドライエッチングにより所望の形状を得てもよい。
【0025】
前駆体として窒化物の結晶を使用する場合、例えば、次のような工程で前駆体を準備してもよい。すなわち、MOCVD法、分子線エピタキシー法、またはスパッタ法で成長基板上に前駆体である窒化物の結晶を形成してもよい。成長基板は、例えば、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、サファイアであってよい。
【0026】
(前駆体に希土類元素を添加する工程S2)
次に、希土類元素を含む気体を、準備した前駆体に接触させて、希土類元素を前駆体に添加する。これにより、発光体が得られる。実施形態の製造方法では、希土類元素を含む気体を、予め準備した前駆体に対して接触させる。本実施形態の製造方法において、希土類元素を含む気体が得られればよいため、希土類元素を含む原料の選択肢の多い。希土類元素を前駆体に添加する工程は、例えば、図4に示すように、希土類元素を含む原料を準備する工程S20aおよび希土類元素を含む気体を前駆体に接触させる工程S20bを含んでよい。
【0027】
(希土類元素を含む原料を準備する工程S20a)
まず、希土類元素を含む原料を準備する。希土類元素は、例えば、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユウロピウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、またはイッテルビウムであってよく、適宜選択される。希土類元素を含む原料は、例えば、希土類元素を含む酸化物、フッ化物、窒化物、ハロゲン化物、または希土類元素を含む有機金属、または希土類の単体金属からなる群から選ばれた少なくとも1種であってよい。このように、本実施形態によれば、希土類元素を含む気体を得るための原料の選択肢の多い。また、原料は、好ましくは希土類元素を含む酸化物、フッ化物、窒化物、またはハロゲン化物であってよく、より好ましくは、希土類元素を含む酸化物である。これにより、後述する希土類元素を前駆体に接触させる工程において、容易に希土類元素を含むガスを得ることができる。例えば、ユウロピウムを前駆体に添加するとき、原料は、酸化ユウロピウム、フッ化ユウロピウム、窒化ユウロピウム、塩化ユウロピウム、Eu[C(CH、Eu[C(CHH]、Eu{N[Si(CH、Eu(C、Eu(C1119、またはユウロピウムの単体金属であってよく、好ましくは酸化ユウロピウム、フッ化ユウロピウム、窒化ユウロピウム、塩化ユウロピウムであってよく、より好ましくは酸化ユウロピウムである。これにより、後述する希土類元素を前駆体に接触させる工程において、容易にユウロピウムを含む気体を得ることができる。
【0028】
(希土類元素を含む気体を前駆体に接触させる工程S20b)
希土類元素を含む気体は、希土類元素を含む酸化物、フッ化物、窒化物、ハロゲン化物、または希土類元素を含む有機金属、または希土類の単体金属からなる群から選ばれた少なくとも1種の原料から得ることができる。このように種々の原料から希土類元素を含む気体を得ることができるので、希土類元素を含む気体を得るための原料の選択肢の多い。希土類元素を含む気体は、希土類元素を含む酸化物を還元することで得てもよい。これにより、容易に希土類元素を含む気体を得ることができる。例えば、ユウロピウムを前駆体に添加するとき、希土類元素を含む酸化物は酸化ユウロピウムであってよい。
【0029】
希土類元素を含む気体を前駆体に接触させる工程において、前駆体を、前駆体を作製する際の熱処理温度以上2000℃以下で熱処理してもよく、好ましくは、前駆体を、所望の希土類元素を含む単体金属の沸点以上2000℃以下の温度範囲で熱処理してもよい。これにより、希土類元素を前駆体に添加して、発光体を得ることができる。例えば、希土類元素がユウロピウムであるとき、1529℃以上2000℃以下の温度範囲で熱処理してもよく、好ましくは1600℃以上2000℃以下であってよく、より好ましくは1700℃以上2000℃以下であってよい。
【0030】
また、希土類元素を含む気体を前駆体に接触させる工程において、希土類元素を含む気体は、前駆体が収容される炉と同じ炉内で、前駆体と接触しないように配置された希土類元素を含む原料を熱処理することで得てもよい。これにより、前駆体と希土類元素を含む原料を同時に熱処理して、希土類元素を前駆体に添加することができるので、効率よく発光体を得ることができる。
【0031】
前駆体および/または希土類元素を含む原料の熱処理を行うときの雰囲気は、窒素雰囲気であることが好ましい。窒素雰囲気は、80体積%以上100体積%以下であってよく、90体積%以上100体積%以下であってよく、また、95体積%以上100体積%以下であってよい。窒素雰囲気中の酸素の含有量は0.01体積%以上20体積%以下であり、0.1体積%以上10体積%以下であってもよい。また、前駆体および/または希土類元素を含む原料の熱処理を行うときの雰囲気はアルゴン雰囲気であってもよい。アルゴン雰囲気は、80体積%以上100体積%以下であってよく、90体積%以上100体積%以下であってよい。アルゴン雰囲気中の酸素の含有量は0.01体積%以上20体積%以下であり、0.1体積%以上10体積%以下であってもよい。
【0032】
前駆体および/または希土類元素を含む原料の熱処理は、例えば常圧で行ってもよく、加圧環境で行ってもよい。加圧環境下で熱処理が行われる場合には、雰囲気圧力は、ゲージ圧で0.01MPa以上0.5MPa以下の範囲内であってよく、ゲージ圧で0.01MPa以上0.1MPa以下の範囲内でもよく、ゲージ圧で0.01MPa以上0.08MPa以下の範囲内でもよい。
【0033】
前駆体の熱処理を行う時間は、希土類元素が窒化物の結晶を含む前駆体に添加される時間であればよく、適宜設定される。例えば0.1時間以上20時間以内であり、0.5時間以上10時間以内であってもよい。
【0034】
希土類元素を含む気体を前駆体に接触させる工程において、希土類元素を含む気体は、希土類酸化物を還元して得られる希土類元素を含む気体であることが好ましい。希土類酸化物を還元する方法としては、例えば、前駆体と希土類酸化物をカーボン炉に配置して、希土類元素を含む単体金属の沸点以上2000℃以下の範囲で焼成することによって希土類酸化物を還元して、希土類元素を含む気体とする方法が挙げられる。この工程において、希土類酸化物が還元され希土類の単体と変化し、当該希土類が気化して、希土類元素を含む気体を生成される。その他、前駆体と希土類酸化物を配置した炉の中に、カーボン等の還元剤を配置し、希土類元素を含む単体金属の沸点以上2000℃以下の範囲で焼成することによって、希土類酸化物を還元して、希土類元素を含む気体を得てもよい。
【0035】
発光体の製造方法は、上記方法のみに限られない。発光体を得たあとで、例えば図5に示すように、さらに付着物を除去する工程S3、発光体を加工する工程S4、および発光体を個片化する工程S5の少なくとも1つを実行してもよい。また、これらの工程を行う順序は変更してもよい。
【0036】
(付着物を除去する工程S3)
熱処理を施したあとで、発光体の表面の付着物を除去することができる。この付着物は、例えば、添加される希土類元素の金属成分、または前駆体中の金属成分であり得る。付着物を除去することで、光取り出し効率を向上させることができる。発光体の表面の付着物を除去する方法は、例えば、機械研磨および化学機械研磨を含む研磨のほか、ウェットエッチングなどであってもよい。
【0037】
(発光体を加工する工程S4)
発光体を加工して、所定の形状を得てもよい。例えば、発光体をリング形状、ディスク形状、または多角形に加工する工程をさらに含んでもよい。これにより、発光体を共振器として使用することができる。発光体は、例えば、フォトリソグラフィまたは電子線リソグラフィによってパターンニングしたあとで、ドライエッチングにより所望の形状を得てもよい。
【0038】
(個片化する工程S5)
得られた発光体を個片化してもよい。所望の大きさとなるように発光体を個片化してもよい。発光体の個片化は、例えば、ダイシング、レーザスクライブなどにより実行することができる。
【0039】
(変形例1)
発光体の製造方法の変形例を説明する。説明しない事項については、他の例と同じである。希土類元素を含む気体を前駆体に接触させる工程において、希土類元素を含む気体は、前駆体が収容される炉と同じ炉内で、前駆体と直接接触するように配置された原料を熱処理することで得てもよい。これにより、前駆体と、希土類元素を含む原料を同時に熱処理することで、希土類元素を前駆体に添加することができるので、効率よく発光体を得ることができる。
【0040】
(変形例2)
希土類元素を含む気体は、前駆体が収容される炉とは異なる炉内で、熱処理することにより得てもよい。これにより、前駆体と、希土類元素を含む原料と、をそれぞれ異なる条件で熱処理することができる。例えば、熱処理の条件として、それぞれ異なる温度で熱処理することができるので、効率よく前駆体に希土類元素を添加することができる。例えば、所定の温度範囲において、前駆体の熱処理温度を、希土類元素を含む原料の熱処理温度よりも高くしてもよいし、低くしてもよい。所定の温度範囲は、例えば、前駆体を作製する際の熱処理温度以上2000℃以下としてもよく、好ましくは、希土類元素を含む単体金属の沸点以上2000℃以下としてもよい。例えば、希土類元素がユウロピウムであるとき、所定の温度範囲は、1529℃以上2000℃以下、1600℃以上2000℃以下、または1700℃以上2000℃以下であってもよい。
【0041】
<発光素子の製造方法>
発光素子は、実施形態の発光体を準備することと、発光体の励起源を準備することと、励起源が発する光が照射される位置に発光体を配置することを含む。発光素子は、例えば、図1で示す発光素子100であってよい。
【実施例0042】
以下、本発明を、実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0043】
<実施例1>
まず、前駆体を準備した。前駆体は、窒化アルミニウム基板上にMOCVD法で形成されたAl0.6Ga0.4N結晶であった。前駆体を形成したあと、窒化アルミニウム基板と、前駆体と、をそれぞれ鏡面研磨した。鏡面研磨後の窒化アルミニウム基板と前駆体を合せた寸法は、10mm×10mm×0.8mmであった。次に、酸化ユウロピウムの粉末を0.3g準備した。次に、窒化アルミニウム基板上に形成された前駆体を、窒化ホウ素製のるつぼ内に設置された窒化ホウ素セッター上に配置した。同るつぼ内に酸化ユウロピウムの粉末を配置した。同るつぼをカーボン炉に導入し、前駆体および酸化ユウロピウムの粉末を熱処理した。熱処理は、窒素雰囲気中において、ゲージ圧で30kPa、および1900℃の条件で、2時間行われた。熱処理により、発光体を得た。熱処理された発光体の表面および裏面を研磨して、発光体表面の付着物を除去した。付着物は、光沢を有しており、ユウロピウム、ガリウム、またはアルミニウムいずれかの金属成分であると、推測された。
【0044】
<評価>
(光励起による発光の確認)
前駆体、研磨前の発光体、および研磨後の発光体のそれぞれに対して、光を照射し、発光の有無を確認した。照射した光は、白色蛍光灯の光、ピーク波長が254nmの光、およびピーク波長が365nmの光であった。前駆体は、いずれの光を照射しても発光が確認できなかった。研磨前の発光体および研磨後の発光体は、白色蛍光灯の光を照射しても発光が確認できなかった。一方で、研磨前の発光体および研磨後の発光体は、ピーク波長が254nmの光およびピーク波長が365nmの光を照射したときに緑色に発光することが目視で確認できた。
【0045】
また、研磨前の発光体および研磨後の発光体に対して、窒化アルミニウム基板側から380nmの光を照射した。いずれの発光体においても、光が照射された面とは反対側の面から緑色の発光が目視で確認できた。
【0046】
<EDX分析>
表面を研磨したあとの発光体に対して、エネルギー分散型X線分光(EDX)分析を行った。EDX分析の結果、ユウロピウム、アルミニウム、窒素、酸素、ホウ素が検出された。ガリウムは、ユウロピウムと特性X線のエネルギーが重なるが、研磨したあとでもガリウムの特性X線のエネルギーの位置で信号が検出されることから、ガリウムを含む可能性が示唆された。ホウ素は、焼成時のるつぼ、またはセッター等の材料に起因すると予想された。
【0047】
以上、本開示の発光体に関する実施形態、および実施例等について説明したが、本開示は以下のような構成をとることもできる。
(項1)
窒化物の結晶を含む前駆体を準備することと、
希土類元素を含む気体を、前記前駆体に接触させて、前記希土類元素を前記前駆体に添加することと、
を含む発光体の製造方法。
(項2)
前記希土類元素を前記前駆体に添加する工程は、前記希土類元素を含む酸化物、フッ化物、窒化物、ハロゲン化物、有機金属、または前記希土類元素の単体金属からなる群から選ばれた少なくとも1種の原料を準備する工程を含み、
前記希土類元素を含む気体は、前記原料から得る、
項1に記載の発光体の製造方法。
(項3)
前記希土類元素を含む気体は、前記希土類元素を含む酸化物を還元することで得る、項1または2に記載の発光体の製造方法。
(項4)
前記希土類元素を含む酸化物は、酸化ユウロピウムである、項2または3に記載の発光体の製造方法。
(項5)
前記前駆体の組成は、AlInGa1-x-yN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦x+y≦1)である、項1から4のいずれか1つに記載の発光体の製造方法。
(項6)
前記希土類元素を含む気体を前記前駆体に添加する工程において、前記前駆体を、前記前駆体を作製する際の熱処理温度以上2000℃以下の温度範囲で熱処理することを含む項1から5のいずれか1つに記載の発光体の製造方法。
(項7)
前記希土類元素を含む気体を前記前駆体に添加する工程において、前記希土類元素を含む気体は、前記前駆体が収容される炉と同じ炉内で、前記前駆体と直接接触しないように配置された前記原料を熱処理することで得る、
項1から6のいずれか1つに記載の発光体の製造方法。
(項8)
前記前駆体の形状はリング形状、ディスク形状、または多角形である、
項1から7のいずれか1つに記載の発光体の製造方法。
(項9)
前記発光体をリング形状、ディスク形状、または多角形に加工する工程をさらに含む、
項1から7のいずれか1つに記載の発光体の製造方法。
(項10)
項1から9のいずれか1つに記載の製造方法により製造された発光体を準備することと、
励起源を準備することと、
前記励起源が発する光が照射される位置に前記発光体を配置することと、を含む、発光素子の製造方法。
【符号の説明】
【0048】
1 発光体
1R 共振器
2 n側窒化物半導体層
3 活性層
4 p側窒化物半導体層
5 負電極
6 正電極
7 基板
8 光導波路
9 励起源
30 励起源
100 発光素子
200 光回路
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5