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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002646
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】1,3-ブタンジオールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 29/132 20060101AFI20231228BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20231228BHJP
   C07C 29/80 20060101ALI20231228BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231228BHJP
【FI】
C07C29/132
C07C31/20 B
C07C29/80
C07B61/00 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022101974
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】森脇 拓也
【テーマコード(参考)】
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC41
4H006AD11
4H006BA21
4H006BE20
4H006FE11
4H006FG28
4H039CA60
4H039CH70
4H039CL00
(57)【要約】
【課題】化粧品用途に好適な、臭気が少ない1,3-ブタンジオール製品を安定的に提供すること。
【解決手段】アセトアルドール類の水素化反応によって得られた1,3-ブタンジオール反応粗液の精製工程が、1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に塩基性アルカリ金属化合物を添加して加熱するアルカリ反応工程を含み、前記アルカリ反応工程に供給するプロセス液中の、1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計の含有量が1000質量ppm以下であり、かつ添加する塩基性アルカリ金属化合物が炭酸水素ナトリウムであり、その添加量が1000~2000質量ppmの範囲である1,3-ブタンジオールの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アセトアルドール類の水素化反応によって得られた1,3-ブタンジオール反応粗液の精製工程が、1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に塩基性アルカリ金属化合物を添加して加熱するアルカリ反応工程を含み、前記アルカリ反応工程に供給するプロセス液中の、1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計の含有量が1000質量ppm以下であり、かつ添加する塩基性アルカリ金属化合物が炭酸水素ナトリウムであり、その添加量が1000~2000質量ppmの範囲である1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項2】
前記アルカリ反応工程に続いて脱アルカリ工程を行う請求項1に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項3】
前記脱アルカリ工程が蒸留分離である請求項2に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項4】
前記精製工程が、低沸点成分を蒸留により除去する低沸点成分除去工程、高沸点成分を蒸留により除去する高沸点成分除去工程、及びプロセス液に水を添加して1,3-ブタンジオールを塔底より抜き出す脱水蒸留工程の少なくとも1つを含む請求項1又は2に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ反応工程の反応温度が、100~160℃である請求項1又は2に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧品用途に好適な臭気が少ない1,3-ブタンジオールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3-ブタンジオールは沸点207℃の粘稠な無色透明及び無臭の水溶性液体であり、様々な誘導体の原料として用いられている。具体的には、長鎖のカルボン酸と1,3-ブタンジオールのエステルは可塑剤として利用されている。1,3-ブタンジオールは、生体毒性の低さ及び安定性から、化粧品原料にも用いられる。1,3-ブタンジオールは、化粧品原料としては、保湿効果、抗菌性、べたつきが少ない等の特徴を有しているため、シャンプー、乳液、保湿剤などの幅広い製品に用いられる。保湿剤等の化粧料用途の場合、臭気が少ない1,3-ブタンジオールが求められる。1,3-ブタンジオール自体はほとんど無臭であるが、製造過程で生じた副生物や不純物に起因して臭気が生じている。
【0003】
1,3-ブタンジオールの主たる製造方法の一つは、アセトアルデヒドを縮合させてアセトアルドール(3-ヒドロキシブタナール)を得、これを水素化する方法である。しかし、アセトアルドール自身は不安定であり、単一物質としての取扱いが困難である。
【0004】
そこで、実際には、アセトアルデヒドを塩基性触媒の存在下で縮合させてアルドキサン(2,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-4-オールの慣用名)を取得し、アルドキサンを加熱分解して生じるアセトアルデヒドを留去することで、アセトアルドールの二量体であるパラアルドール(4-ヒドロキシ-α,6-ジメチル-1,3-ジオキサン-2-エタノールの慣用名)を得る(特許文献1)。
【0005】
このパラアルドールを水素化反応の原料として、1,3-ブタンジオールを製造する。更にアルドキサンを水素化反応の原料とした場合でも、エタノールが副生するものの1,3-ブタンジオールを製造することができる。したがって、本開示ではパラアルドール、及びアルドキサンもアセトアルドールの等価体であるとみなし、これらを含めて「アセトアルドール類」と総称する。アセトアルドール類の水素化反応の触媒としては、一般的にスポンジニッケル触媒が用いられる。反応型式としては流動床である、連続懸濁気泡塔などが用いられている。
【0006】
臭気の少ない1,3-ブタンジオール製品を得る手法として、例えば、特開平7-258129号公報(特許文献2)は、高沸点物を除去するための蒸留を行う際に、苛性ソーダ等の化合物を添加して蒸留する方法を開示している。国際公開第2000/007969号(特許文献3)は、高沸点物を除いた粗1,3-ブタンジオールに、アルカリ金属化合物を塩基として添加して加熱処理した後、1,3-ブタンジオールを留出させアルカリ金属化合物及び高沸点物を蒸留残渣として分離し、続いて1,3-ブタンジオール留分から低沸点物を留去する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62-212384号公報
【特許文献2】特開平7-258129号公報
【特許文献3】国際公開第2000/007969号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの方法から得られる1,3-ブタンジオール製品も、依然として臭気を有し、どの程度精製する必要があるのか定量化できていなかった。特に、アルカリ金属化合物を塩基として添加する場合、添加する量によっては別の不純物が増加し、かえって臭気を悪化させることもあり、化粧品原料として不適であった。本発明の課題は、臭気が少ない1,3-ブタンジオール製品を安定的に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、1,3-ブタンジオール反応粗液を精製するための、塩基性アルカリ金属化合物を添加して加熱処理するアルカリ反応工程での処理条件が臭気に影響することを見いだし、本発明に至った。
即ち、本発明は、以下の[1]~[5]を包含する。
[1]
アセトアルドール類の水素化反応によって得られた1,3-ブタンジオール反応粗液の精製工程が、1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に塩基性アルカリ金属化合物を添加して加熱するアルカリ反応工程を含み、前記アルカリ反応工程に供給するプロセス液中の、1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計の含有量が1000質量ppm以下であり、かつ添加する塩基性アルカリ金属化合物が炭酸水素ナトリウムであり、その添加量が1000~2000質量ppmの範囲である1,3-ブタンジオールの製造方法。
[2]
前記アルカリ反応工程に続いて脱アルカリ工程を行う[1]に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
[3]
前記脱アルカリ工程が蒸留分離である[2]に記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
[4]
前記精製工程が、低沸点成分を蒸留により除去する低沸点成分除去工程、高沸点成分を蒸留により除去する高沸点成分除去工程、及びプロセス液に水を添加して1,3-ブタンジオールを塔底より抜き出す脱水蒸留工程の少なくとも1つを含む[1]~[3]のいずれかに記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
[5]
前記アルカリ反応工程の反応温度が、100~160℃である[1]~[4]のいずれかに記載の1,3-ブタンジオールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、臭気が少ない1,3-ブタンジオール製品が安定的に提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0012】
(1,3-ブタンジオール反応粗液の製造)
一実施形態では、1,3-ブタンジオール反応粗液を精製することにより1,3-ブタンジオールを得ることができる。1,3-ブタンジオール反応粗液は、例えば、公知の方法(特公平3-80139号公報、特開平7-258129号公報等参照)により製造することができる。
具体的な1,3-ブタンジオール反応粗液の製造方法を以下に示す。1,3-ブタンジオールは、下記反応式に示すようにアセトアルデヒドを出発原料とし、パラアルドール又はアルドキサンを水素化することにより得ることができる。
【0013】
1.縮合工程
【化1】
【0014】
2.熱分解工程
【化2】
【0015】
3.水素化工程
【化3】
【0016】
1.縮合工程
アセトアルデヒドからアセトアルドール、又は更にアルドキサンを得る工程である。水素化反応の原料であるアセトアルドール類の製造方法は特に限定されないが、例えば以下の方法により調製される。
【0017】
アセトアルデヒドに触媒量の塩基を作用させることで、アセトアルデヒド2分子が反応し、アセトアルドール1分子を得る。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが用いられる。生成したアセトアルドールは不安定であるため、速やかにアセトアルドール1分子とアセトアルデヒド1分子が反応してアルドキサン1分子を生ずる。このようなアセトアルデヒドからアセトアルドールを、更にはアルドキサンを得る反応のことを本開示では縮合反応と呼び、縮合反応を行う工程を縮合工程と称することとする。
【0018】
縮合反応は平衡反応であるため、平衡組成に近付くと反応の進行が遅くなる。その状態で塩基が存在すると、アセトアルドールから更に縮合が進んだ三量体などの高沸成分が生成したり、アセトアルドールが脱水してクロトンアルデヒドが生成したりする。そこで必要に応じて酸を加えて塩基を中和し、反応を停止する。酸としては主に有機酸が用いられ、取り扱い性及び経済性の観点からカルボン酸を使用することが好ましく、炭素原子数1~4のカルボン酸を使用することがより好ましい。カルボン酸は液体と固体のどちらでもよい。カルボン酸を水又は有機溶媒に溶解させて供給してもよいし、溶解させずに供給してもよい。炭素原子数1~4のカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、クロトン酸、2-メチルプロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、及びフマル酸が挙げられる。
【0019】
縮合反応は液相にて、温度20~50℃、圧力0.1~0.2MPaG(ゲージ圧)、反応時間2~20分で行うことができる。反応雰囲気は、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガス下であることが好ましい。縮合反応に用いる反応器に制限はなく、例えば槽型反応器が用いられる。
【0020】
2.熱分解工程
縮合工程で得られたアルドキサンを水素化することでも1,3-ブタンジオールを得ることはできるが、アルドキサン1分子からは1,3-ブタンジオール1分子とともにエタノール1分子が生ずる。エタノールの併産が好ましくない場合は、必要に応じてアルドキサンの熱分解反応によりアルドキサンをパラアルドールに変換し、得られたパラアルドールを水素化することで、エタノールの副生なしで1,3-ブタンジオールを得ることができる。
【0021】
アルドキサンを加熱すると、平衡反応によりアルドキサン1分子はアセトアルドール1分子とアセトアルデヒド1分子に分解する。ある温度及び圧力条件下ではアセトアルデヒドは気化し、系内から除去され、このとき残ったアセトアルドール2分子が会合することでパラアルドール1分子が生成する。副生したアセトアルデヒドは、出発原料として再利用することができる。このようなアルドキサンからパラアルドールとアセトアルデヒドを得る反応のことを本開示では熱分解反応と呼び、熱分解反応を行う工程を熱分解工程と称することとする。
【0022】
パラアルドール1分子を水素化すると、1,3-ブタンジオール2分子を得ることができる。熱分解反応を進めてアルドキサンを完全にパラアルドールに転化してから水素化反応を行えば、エタノールは全く副生しない。しかしながらアルドキサンをパラアルドールに転化する過程では、アセトアルドールの脱水によるクロトンアルデヒドの生成や、アセトアルドール、クロトンアルデヒド等の重合による高沸成分の生成が起こる。そのため、実際にはアルドキサンの熱分解反応は適当な転化率で止められ、熱分解反応液としてアルドキサンとパラアルドールの混合物を取得する。
【0023】
熱分解反応は、液相にて温度60~80℃、圧力0.01~0.1MPaG、反応時間20~90分で行うことができる。反応雰囲気は、窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガス下であることが好ましい。
【0024】
熱分解反応液中のパラアルドールとアルドキサンを分離したのち、パラアルドールのみを水素化反応の原料として用いてもよい。あるいは、蒸留などの一般的な分離法では両者の分離は困難であるため、分離せずに混合物のまま水素化反応の原料として用いてもよい。水素化反応の原料は、前工程で生成したクロトンアルデヒド又は高沸成分だけでなく、縮合工程で使用した塩基の中和によって生成した塩を含んでいてもよい。
【0025】
3.水素化工程
熱分解工程で得られたパラアルドールは、水素ガス(H)の存在下にて水素化触媒と接触させることで水素化され、1,3-ブタンジオールに転化される。熱分解工程の原料であり、未反応であったアルドキサンを同時に水素化して1,3-ブタンジオールを得ることもできる。本開示では、パラアルドール、アルドキサンを含むアセトアルドール類の水素化反応を行う工程を水素化工程と呼ぶ。
【0026】
水素化反応を実施する温度は50~150℃とすることができ、好ましくは70~130℃である。温度を50℃以上とすることで水素化反応を確実に進行させることができ、150℃以下とすることで水素化分解反応などの副反応を抑制して、目的生成物である1,3-ブタンジオールの収率を高めることができる。
【0027】
水素化反応を実施する圧力は5~15MPaGとすることができ、好ましくは7~12MPaGである。圧力が5MPaG以上とすることで水素化反応を促進することができ、15MPaG以下とすることで水素の昇圧にかかるコスト及び設備コストを低減することができる。
【0028】
水素化触媒としては任意のものが使用されるが、一般的に有効な水素化触媒はニッケル系の触媒である。特に、アルミナ、シリカなどの担体にニッケルを担持させた安定化ニッケル、及びニッケルとアルミとの合金からアルミを溶出させたスポンジニッケルが有効である。
【0029】
水素化反応を行うための反応器に特に制限はなく、例えば槽型反応器が用いられる。
【0030】
水素化工程で得られた反応液(本開示において「1,3-ブタンジオール反応粗液」という。)には、目的物である1,3-ブタンジオール以外に種々の副生物及び不純物が含まれる。これらの副生物及び不純物の中の低沸分(低沸点成分)としては、例えば、主にはアルドキサンを水素化することによって生じるエタノール、アセトアルドール類を水素化する際に副生する1-ブタノール、2-ブタノール、及び2-プロパノールが挙げられる。低沸分は、縮合工程又は熱分解工程から持ち込まれた水、有機酸又は塩を含んでもよい。
【0031】
(1,3-ブタンジオール反応粗液の精製工程)
前記製造方法によって得られた1,3-ブタンジオール反応粗液は、精製工程にて副生物及び不純物が除去されて1,3-ブタンジオール製品となる。精製工程は、少なくとも、1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に塩基性アルカリ金属化合物を添加して加熱するアルカリ反応工程を含む。更に、アルカリ反応工程に続いて、残留した塩基性アルカリ金属化合物を除去する脱アルカリ工程を含むことが好ましい。アルカリ反応工程では、反応器(「アルカリ反応器」)を用いる。脱アルカリ工程では、残留した塩基性アルカリ金属化合物を例えば蒸留塔(「脱アルカリ塔」という。)にて分離する。
【0032】
副生物及び不純物には1,3-ブタンジオールよりも低沸点な化合物(低沸点成分)と高沸点な化合物(高沸点成分)とがあり、その沸点に応じた蒸留操作により1,3-ブタンジオール反応粗液を蒸留精製することが好ましい。精製工程は、例えば、副生する低沸点成分を蒸留により除去する低沸点成分除去工程、副生する高沸点成分を蒸留により除去する高沸点成分除去工程、及びプロセス液に水を添加して1,3-ブタンジオールを塔底より抜き出す脱水蒸留工程の少なくとも1つを含んでもよい。低沸点成分除去工程、高沸点成分除去工程、及び脱水蒸留工程では、それぞれ、低沸点成分除去蒸留塔(単に「低沸除去塔」ともいう。)、高沸点成分除去蒸留塔(単に「高沸除去塔」ともいう。)及び脱水蒸留塔を用いる。低沸除去塔では、低沸点成分が留去され、1,3-ブタンジオールを主成分とする液が塔底液として得られる。高沸除去塔では、1,3-ブタンジオールを主成分とする留出液が塔頂より得られ、高沸点成分は塔底液として排出される。脱水蒸留塔では、水が塔頂液として留去され、1,3-ブタンジオールを主成分とする液が塔底液として得られる。
【0033】
なお、本開示における「プロセス液」とはアルカリ反応器、脱アルカリ塔、低沸除去塔、高沸除去塔、脱水蒸留塔などの装置に供給される原料液を意味し、1,3-ブタンジオールの他に反応副生物、不純物、プロセス液に混入した水、脱水蒸留のためにプロセス液に添加した水などを含有することがある。
【0034】
精製工程におけるアルカリ反応器、脱アルカリ塔、低沸除去塔、高沸除去塔、及び脱水蒸留塔の順番は、アルカリ反応器の後段に脱アルカリ塔が配置されることを除けば、特に限定されないが、アルカリ反応器は低沸除去塔の後に設置することが好ましい。低沸点成分が存在している状態で塩基性アルカリ金属化合物を添加すると副反応が進行することがある。脱アルカリ塔はアルカリ反応器の直後に設置することが好ましい。アルカリ反応器、脱アルカリ塔、低沸除去塔、高沸除去塔、及び脱水蒸留塔以外の精製方法を追加してもよい。例えば、公知の方法(特開2003-96006号公報等参照)により、有機溶媒(例えば、ペンタン、ヘキサン、トルエン等)で不純物を抽出する工程、活性炭等の吸着剤を用いて不純物を除去する工程、又はこれらの組み合わせを1,3-ブタンジオール反応粗液の精製方法として追加してもよく、これらの工程を繰り返し用いてもよい。
【0035】
低沸除去塔、高沸除去塔、脱水蒸留塔に用いる蒸留塔としては、例えば、多孔板塔、泡鐘塔、充填塔等があげられる。
【0036】
低沸除去塔は、理論段数が5~40段の充填塔が好ましく、10~20段がより好ましい。塔底部圧力は絶対圧で1~20kPaが好ましく、5~10kPaがより好ましい。塔底部温度は圧力に依存するが、100~160℃が好ましく、110~150℃がより好ましい。還流比は0.1~10.0が好ましく、0.5~3.0がより好ましい。
【0037】
高沸除去塔は、理論段数が5~40段の充填塔が好ましく、10~20段がより好ましい。塔底部圧力は絶対圧で1~20kPaが好ましく、5~10kPaがより好ましい。塔底部温度は圧力に依存するが、100~160℃が好ましく、110~150℃がより好ましい。還流比は0.1~10.0が好ましく、0.5~3.0がより好ましい。
【0038】
脱水蒸留塔は、理論段数が5~20段の充填塔が好ましく、5~10段がより好ましい。塔底部圧力は絶対圧で1~20kPaが好ましく、5~10kPaがより好ましい。塔底部温度は圧力に依存するが、100~160℃が好ましく、110~150℃がより好ましい。還流比は0.1~5.0が好ましく、0.1~2.0がより好ましい。添加する水は純水(イオン交換水)、又は蒸留水が好ましい。水の添加量は1,3-ブタンジオール100質量部に対し、1~200質量部が好ましく、10~100質量部がより好ましい。
【0039】
アルカリ反応工程ではアルカリ反応器中で、1,3-ブタンジオール又は副生するアルコール類と、副生する酸との反応物であるエステル化合物を加水分解する。エステル化合物が1,3-ブタンジオール製品中に含有されると臭気の原因物質として悪影響を及ぼす。加えて、1,3-ブタンジオールの用途である化粧品では、1,3-ブタンジオール製品を水で希釈して使用することが多く、上記のエステル化合物が加水分解し、酸が遊離することで臭気が悪化する場合がある。したがって、1,3-ブタンジオール製品に含まれるエステル化合物は少ないほどよい。しかし、アルカリ反応器での反応条件を厳しくしすぎると、エステル化合物は減少するものの、塩基性アルカリ金属化合物がエステル化合物以外の物質と反応し、他の臭気原因物質が増加し、製品臭気が悪化することがある。反対に、アルカリ反応器での反応条件を緩やかにするとエステル化合物が残留し、製品臭気が悪化する。したがってアルカリ反応器での最適な運転条件が必要となる。
【0040】
一実施形態におけるエステル化合物とは、1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物である。1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物は、2種のモノエステル化合物(3-ヒドロキシブチルアセテート、3-ヒドロキシ-1-メチルプロピルアセテート)及びジエステル化合物を含む。1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物も同様に3種のエステル化合物を含む。ただし、ジエステル化合物はほとんど生成しない。
【0041】
アルカリ反応器に用いる反応器としては、例えば、流通式管型反応器、バッチ式又は連続式の撹拌槽型反応器が挙げられる。
【0042】
アルカリ反応器へ導入される1,3-ブタンジオールを含むプロセス液中の、1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計の含有量は1000質量ppm以下であり、500質量ppm以下が好ましい。上記合計の含有量が1000質量ppmより多いと、添加する塩基性アルカリ金属化合物の量を増やしたり、加熱温度、滞留時間を厳しい条件で行う必要があり、他の臭気原因物質が増加し、製品臭気が悪化する。上記合計の含有量の下限は、特に限定されないが、例えば、10質量ppm、又は50質量ppmとしてよい。上記合計の含有量は、例えば、低沸除去塔、脱水蒸留塔、若しくは高沸除去塔の、還流比及び/又は理論段数を変化させることにより調整することができる。上記合計の含有量は、ガスクロマトグラフィー分析により決定することができる。
【0043】
アルカリ反応器にて添加される塩基性アルカリ金属化合物は、炭酸水素ナトリウムである。類似の塩基性アルカリ金属化合物としては、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウムが挙げられるが、これらは塩基性が強いため、副反応が起こりやすく、他の臭気原因物質が増加する原因となる。炭酸水素ナトリウムは固体状のものをそのまま加えてもよいが、操作のしやすさ及び対象液との接触の促進の観点から水溶液として添加することが望ましい。
【0044】
炭酸水素ナトリウムの添加量は、アルカリ反応器へ導入される1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に対して1000~2000質量ppmであり、1000~1500質量ppmが好ましい。添加量が1000質量ppmより少ないと、反応後の1,3-ブタンジオール中に含まれるエステル量が多くなり、2000質量ppmより多いと、他の臭気原因物質が増加し、製品臭気が悪化する。
【0045】
アルカリ反応器での反応温度は100~160℃が好ましく、110~150℃がより好ましい。滞留時間は3~60分が好ましく、5~20分がより好ましい。アルカリ反応器での反応圧力は特に限定されない。設備面、操作面で常圧にて行うことが好ましい。
【0046】
アルカリ反応器を出た後、反応液は脱アルカリ工程へ供される。すなわち、反応液は脱アルカリ塔へ導入され、塩基性アルカリ金属化合物及び高沸点成分を蒸留残渣とし、塔頂より1,3-ブタンジオールを留出させる。
【0047】
脱アルカリ塔に用いる蒸留設備としては、例えば、多孔板塔、泡鐘塔、充填塔、単蒸留塔等があげられる。経済的な観点から、単蒸留塔を用いることが好ましい。
【0048】
脱アルカリ塔での運転条件は、塔頂部圧力は絶対圧で1~20kPaが好ましく、5~10kPaがより好ましい。塔底部温度は圧力に依存するが、100~160℃が好ましく、110~150℃がより好ましい。
【0049】
本実施形態により得られる1,3-ブタンジオール製品は低臭気であり、保湿剤等の化粧料用途の原料として好適である。
【実施例0050】
以下において本発明の実施の形態を具体的な形で記載するが、本発明は実施例のみに限定されない。
【0051】
1.臭気評点:
評価試料として臭いを感じない1,3-ブタンジオールを0とし、ほとんど無臭の1,3-ブタンジオールを1とし、僅かに臭気の感じられるものを2とし、その相対評価で点数を付ける。評価試料は共栓広口試薬瓶に入れ、密栓し室温に24時間静置した後、大気中で速やかに臭いをかぎ、比較して点数をつけた。評価は成人3名で実施し、その点数の平均値を臭気評点として採用した。
【0052】
2.ガスクロマトグラフィー分析:
以下の条件で、対象となる1,3-ブタンジオールのガスクロマトグラフィー分析を行った。
分析装置:株式会社島津製作所製 GC2010型ガスクロマトグラフィー装置
分析カラム:Agilent J&W GC カラム - DB-WAX(膜厚0.32μm×長さ30m×内径0.25mm、アジレント・テクノロジー株式会社製)
昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。
試料導入及び温度:スプリット試料導入法、250℃
スプリットのガス流量及びキャリアガス:23mL/分、ヘリウム
カラムのガス流量及びキャリアガス:1mL/分、ヘリウム
検出器及び温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃
注入試料:1.0μLの50質量%1,3-ブタンジオール水溶液
【0053】
<実施例1>
120mLのSUS316L製オートクレーブに、アセトアルドール類としてパラアルドール10g、エタノール40g、及びスポンジニッケル触媒(日興リカ株式会社製R-201)1gを加えた。オートクレーブを水素ガスにて8MPaGに加圧し、撹拌を開始した。30℃から120℃まで1℃/分の速度で昇温し、120℃に達した瞬間にオートクレーブを直ちに冷却して反応を停止し、1,3-ブタンジオール反応粗液を得た。反応中は圧力が7MPaGまで低下するごとに、圧力8MPaGまで水素ガスを供給した。触媒を濾別した後、1,3-ブタンジオール反応粗液中の低沸点成分を蒸留(理論段数20段の蒸留塔(低沸除去塔)を用い、塔底部圧力が絶対圧で10kPaの減圧下、塔底部温度が150℃、還流比が1.0で蒸留)することにより留去、分離した。続いて低沸除去塔の塔底液である1,3-ブタンジオール100質量部と水100質量部を混合して溶液とし、これを蒸留(理論段数10段の蒸留塔(脱水蒸留塔)を用い、塔底部圧力が絶対圧で10kPaの減圧下、塔底部温度が150℃、還流比が1.0で蒸留)して低沸点成分である水を留去した。脱水蒸留塔の塔底液である1,3-ブタンジオールを含むプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は483質量ppmであった。続いて流通式管型反応器(アルカリ反応器)にて、20質量%炭酸水素ナトリウム水溶液を、脱水蒸留後の1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に対する、炭酸水素ナトリウムの濃度が1500質量ppmとなるように混合し、150℃で、10分加熱処理した。アルカリ反応後のプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は、55質量ppmであった。このプロセス液を脱アルカリ塔で蒸留(単蒸留設備を用い、塔頂部圧力が絶対圧で10kPaの減圧下、塔底部温度が150℃で蒸留)して、残留した炭酸水素ナトリウムを塔底液として除去した。塔頂から留出した1,3-ブタンジオールを含むプロセス液を高沸除去塔(理論段数20段の蒸留塔)へ供給し、蒸留(塔底部圧力:絶対圧で10kPa以下の減圧、塔底部温度:150℃)を行った。高沸点成分を高沸除去塔の塔底液として除去し、留出分である精製1,3-ブタンジオールを得た。得られた1,3-ブタンジオール製品(1,3-BD製品)の臭気評点は0であった。
【0054】
<実施例2>
低沸除去塔の理論段数が10段であること以外は実施例1と同じ条件で脱水蒸留塔の塔底液である1,3-ブタンジオールを含むプロセス液を得た。脱水蒸留塔の塔底液である1,3-ブタンジオールを含むプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は892質量ppmであった。得られた1,3-ブタンジオールを含むプロセス液を用い、アルカリ反応器にて、添加する炭酸水素ナトリウムの濃度が1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に対し2000質量ppmであること以外は実施例1と同じ条件で精製1,3-ブタンジオールを得た。アルカリ反応後の1,3-ブタンジオールプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は、67質量ppmであった。得られた1,3-ブタンジオール製品の臭気評点は0であった。
【0055】
<比較例1>
アルカリ反応器にて、添加する炭酸水素ナトリウムの濃度が1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に対し3000質量ppmであること以外は実施例1と同じ条件で精製1,3-ブタンジオールを得た。アルカリ反応後の1,3-ブタンジオールプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は、12質量ppmであった。得られた1,3-ブタンジオール製品の臭気評点は2であった。
【0056】
<比較例2>
低沸除去塔の理論段数が10段、還流比が0.5、脱水蒸留塔の還流比が0.5であること以外は実施例1と同じ条件で脱水蒸留塔の塔底液である1,3-ブタンジオールを含むプロセス液を得た。脱水蒸留塔の塔底液である1,3-ブタンジオールを含むプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は1490質量ppmであった。得られた1,3-ブタンジオールを含むプロセス液を用い、アルカリ反応器にて、添加する炭酸水素ナトリウムの濃度が1,3-ブタンジオールを含むプロセス液に対し2000質量ppmであること以外は実施例1と同じ条件で精製1,3-ブタンジオールを得た。アルカリ反応後の1,3-ブタンジオールプロセス液中の1,3-ブタンジオールと酢酸のエステル化合物、及び1,3-ブタンジオールとクロトン酸のエステル化合物の合計濃度は、374質量ppmであった。得られた1,3-ブタンジオール製品の臭気評点は2であった。
【0057】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は臭気のない極めて高品質である1,3-ブタンジオールを提供する。