(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026504
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】黒色焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/488 20060101AFI20240220BHJP
【FI】
C04B35/488
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023218096
(22)【出願日】2023-12-25
(62)【分割の表示】P 2019140940の分割
【原出願日】2019-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2018145694
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】山内 正一
(72)【発明者】
【氏名】山下 勲
(57)【要約】
【課題】
従来の焼結体と比べて着色剤の含有量を低減した焼結体であって、色味を帯びていない黒色として視認される色調を呈するものを提供する。
【解決手段】
コバルトと鉄を含有する固溶体を含み、残部がジルコニアからなり、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満であり、なおかつ、電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める5.5μm2を超えるコバルトの領域の割合が25%以下であることを特徴とする焼結体。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルトと鉄を含有する固溶体を含み、残部がジルコニアからなり、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満であり、電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める5.5μm2を超えるコバルトの領域の割合が25%以下であり、なおかつ、L*a*b*表色系において、明度L*が10以下であり、なおかつ、色相a*が-2.00以上2.00以下、及び、色相b*が-2.00以上5.00以下である色調を有することを特徴とする焼結体。
【請求項2】
アルミニウム酸化物を含有する請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記ジルコニアが、イットリア、カルシア、マグネシア、バナジア及びチタニアの群から選ばれる少なくとも1種を含有するジルコニアである請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記ジルコニアが、チタニア及びイットリアを含有するジルコニアである請求項1乃至3のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項5】
前記ジルコニアが、1.0mol%以上6.0mol%以下のチタニア及び2.0mol%以上4.0mol%以下のイットリアを含有するジルコニアである請求項1乃至4のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項6】
ジルコニアの単斜晶率が10%以下である請求項1乃至5のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項7】
ジルコニアの結晶粒子の平均径が3.0μm以下である請求項1乃至6のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項8】
コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計に対するコバルトをCoOとして換算した含有量が0.10以上0.98以下である請求項1乃至7のいずれか一項に記載の焼結体。
【請求項9】
コバルトをCoOとして換算した含有量が1.32重量%以下である請求項1乃至8のいずれか一項に記載の焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は着色剤とジルコニアを含む焼結体に関する。特に、着色剤とジルコニアを含み黒色を呈する焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、焼結体の着色、すなわちジルコニア焼結体の色調をジルコニア本来の色調と異なる色調とすることが検討されている。黒色を呈する焼結体を得るため、クロム(Cr)を含む化合物を着色剤とし、これとジルコニアとを混合及び焼結して得られる焼結体が報告されている(例えば、特許文献1)。特許文献1では、コバルト(Co)や鉄(Fe)を着色剤とし、これらとジルコニアとを混合及び焼結することによって、黒色を呈する焼結体が得られることが併せて開示されている。
【0003】
ところで、クロムは取扱いの難しい元素であるため、クロムを使用せずに焼結体を着色することが検討されている(特許文献2及び3)。例えば、酸化コバルトと酸化鉄を着色剤とし、これを空気中で焼成して得られる焼結体や(特許文献2)、Co-Zn-Fe-Al系複合酸化物からなる新規の着色剤を含有する焼結体(特許文献3)が、黒色を呈するジルコニア焼結体として報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-342036号公報
【特許文献2】特開平07-291630号公報
【特許文献3】特開2007-308338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の焼結体は、多量の着色剤を使用すること又は新規の着色剤を使用することによって、黒色を呈していた。これに対し、本発明は、従来の焼結体と比べて着色剤の含有量を低減した焼結体であって、色味を帯びていない黒色として視認される色調(以下、「漆黒色」ともいう。)を呈するものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、焼結体中の着色剤の分布状態を制御することによって、少量の着色剤であっても焼結体が漆黒色を呈することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] コバルトと鉄を含有する固溶体を含み、残部がジルコニアからなり、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満であり、なおかつ、電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める5.5μm2を超えるコバルトの領域の割合が25%以下であることを特徴とする焼結体。
[2] 電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める6.5μm2を超える鉄の領域の割合が30%以下である上記[1]に記載の焼結体。
[3] 電子線マイクロアナライザーによる元素マッピングに占める5.0μm2を超える鉄の領域の割合が50%以下である上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] アルミニウム酸化物を含有する上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[5] 前記ジルコニアが、イットリア、カルシア、マグネシア、バナジア及びチタニアの群から選ばれる少なくとも1種を含有するジルコニアである上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[6] 前記ジルコニアが、チタニア及びイットリアを含有するジルコニアである上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[7] 前記ジルコニアが、1.0mol%以上6.0mol%以下のチタニア及び2.0mol%以上4.0mol%以下のイットリアを含有するジルコニアである上記[1]乃至[6]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[8] ジルコニアの単斜晶率が10%以下である上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[9] ジルコニアの結晶粒子の平均径は3.0μm以下である上記[1]乃至[8]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[10] コバルト化合物及び鉄化合物を含み、残部がジルコニアからなり、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満である成形体を還元雰囲気で焼結する焼結工程、を有する上記[1]乃至[9]のいずれかひとつに記載の焼結体の製造方法。
[11] 前記還元雰囲気が還元性気体又は還元性発熱体の少なくともいずれかひとつを使用する雰囲気である上記[10]に記載の製造方法。
[12] 前記焼結工程における焼結方法が加圧焼結である上記[10]又は[11]に記載の製造方法。
[13] 成形体を非還元雰囲気で焼結して予備焼結体を得る予備焼結工程、を有する上記[10]乃至[12]のいずれかひとつに記載の製造方法。
[14] 酸化雰囲気下、650℃以上1100℃以下で、焼結体を熱処理する熱処理工程、を有する上記[10]乃至[13]のいずれかひとつに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来の焼結体と比べて着色剤の含有量を低減した焼結体であって、漆黒色を呈するものを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例3の元素マッピング ((a)反射電子像、(b)Fe、(c)Co)
【
図2】実施例17の元素マッピング ((a)Coの元素マッピング、(b)二値化処理後の元素マッピング)
【
図3】実施例17の元素マッピング ((a)Y、(b)Ti)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施態様について説明する。
【0011】
本実施態様の焼結体はコバルトと鉄を含有する固溶体(以下、「Co-Fe固溶体」ともいう。)を含む。Co-Fe固溶体は黒色を呈する着色剤として機能する。Co-Fe固溶体を含まず、鉄のみを含む又はコバルトのみを含む焼結体は、その色調が本実施態様の焼結体とは異なる、又は、欠陥が生じやすくなる、等の理由により本実施態様の焼結体が得られない。
【0012】
本実施態様の焼結体におけるCo-Fe固溶体は、電子線マイクロアナライザーによる元素マッピング(以下、単に「元素マッピング」ともいう。)によって、確認することができる。
【0013】
図1は本実施態様の焼結体の元素マッピングの一例を示す図である。
図1(a)乃至(c)は、同一視野における、焼結体の反射電子像(
図1(a))、鉄のマッピング(
図1(b)、及び、コバルトのマッピング(
図1(c))である。反射電子像において、母材であるジルコニア及びCo-Fe固溶体は、薄い色の領域(
図1(a)中 破線丸部)及び濃い色の領域(
図1(a)中 矢印)として、それぞれ、確認される。
図1(a)では、Co-Fe固溶体が主に直径0.1μm以上3.5μm未満の略球状の領域として分布していること、が確認できる。
【0014】
鉄及びコバルトのマッピングにおいて、
図1(a)のCo-Fe固溶体の領域と同じ場所に、コバルト及び鉄が分布していることが確認できる(
図1(a)乃至(c)中 矢印)。
図1(b)及び(c)では、反射電子像における略球状の領域にコバルト及び鉄が含まれることから、Co-Fe固溶体の粒子はCo及びFeが均質に固溶していることが確認できる。
図1(a)乃至(c)から、Co-Fe固溶体は粒子、さらには略球状の粒子、更には直径0.1μm以上3.5μm未満の略球状の粒子、として焼結体に含まれていること、が確認できる。
【0015】
本実施態様の焼結体がCo-Fe固溶体をこのような分布状態で含む理由の一つとして、コバルト及び鉄がジルコニアに取り込まれながら固溶化し、これが微細な粒子としてジルコニア粒子から再析出することが考えられる。
【0016】
本実施態様の焼結体は、元素マッピングに占める5.5μm2を超えるコバルトの領域の割合(以下、「Co分布(5.5)ともいう。」が25%以下であり、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが特に好ましい。Co分布(5.5)は、本実施態様の焼結体におけるCo-Fe固溶体の分布状態を示す指標の一つである。コバルト及び鉄を含有し、なおかつ、このようなCo分布(5.5)を示すことにより、本実施態様の焼結体は色味を帯びていない黒色として視認される色調(漆黒色)を呈する。
【0017】
本実施態様において、元素マッピングに占めるXμm2を超える元素Mの領域の割合を以下、「M分布(X)」ともいい、M分布(X1)、M分布(X2)、・・・、M分布(Xn)をまとめて単に「M分布」ともいう。
【0018】
Co-Fe固溶体の粗大粒子の存在、又は、Co-Fe固溶体の粒子の偏在など、視認される色調に影響を及ぼす程度のCo-Fe固溶体の不均一な分布がある場合、Co分布(5.5)が25%を超える。すなわち、粗大粒子の存在や粒子の偏在が多くなることにより、焼結体がムラのある不均一な色調や、漆黒色とは異なる色調を示しやすくなる。また、粗大粒子の存在や粒子の偏在により、製造時の欠陥が生じやすくなる。
【0019】
同様な理由により、Fe分布(6.5)が30%以下であることが好ましく、さらには25%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
【0020】
本実施態様の焼結体はCo-Fe固溶体がより均一に分布することが好ましく、以下に示すCo分布又はFe分布の少なくともいずれかを満たすことが好ましい。
【0021】
Co分布(5.0):30%以下、好ましくは25%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下
Co分布(4.5):35%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下
Co分布(3.5):55%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは35%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは8%以下
Fe分布(5.5):45%以下、好ましくは35%以下、より好ましくは25%以下、さらに好ましくは15%以下、更により好ましくは5%以下、特に好ましくは3.5%以下
Fe分布(5.0):50%以下、好ましくは45%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは20%以下、特に好ましくは5%以下
Fe分布(4.5):60%以下、好ましくは50%以下、より好ましくは15%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下
Fe分布(3.5):70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは15%以下、特に好ましくは10%以下
本実施態様の焼結体は、元素マッピングにおけるコバルトの領域に占める0μm2を超え2.0μm2未満の領域(以下、「最頻Co領域」ともいう。)の割合が40%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましい。
【0022】
本実施態様の焼結体は、元素マッピングにおける鉄の領域に占める0μm2を超え2.0μm2未満の鉄の領域の割合(以下、「最頻Fe領域」ともいう。)が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。
【0023】
本実施態様における元素マッピングは、表面粗さ(Ra)が0.02μm以下の焼結体を測定試料として使用し、以下に示す条件で各元素について元素マッピングを測定することが挙げられる。
【0024】
測定方式 : 波長分散型
加速電圧 : 15kV
照射電流 : 300nA
分析面積 : 51.2μm×51.2μm
視野数 : 3視野~5視野
M分布、最頻Co領域及び最頻Fe領域は、それぞれ、得られた各元素の元素マッピングから、以下の方法で求めることができる。
【0025】
図2は元素マッピングの一例を示す図である。各元素の元素マッピング(
図2(a))を二値化して得られる元素マッピング(
図2(b))において観測された特性X線の強度の最低値をバックグラウンド強度とみなし、バックグラウンド強度に対する特性X線の強度が1.5倍以上である領域(以下、「検出領域」ともいう;例えば、
図2(b)中 矢印)の個数、及び、対象となる面積に相当する領域(以下、「対象領域」ともいう。)の個数を計測する。対象領域は、例えば、Co(5.5)であれば5.5μm
2を超える領域であり、最頻Co領域であれば0μm
2を超え2.0μm
2未満の領域である。
【0026】
検出領域の個数に占める対象領域の個数の割合を求め、これを各元素の分布とすればよい。例えば、コバルトの特性X線の強度がバックグラウンド強度の1.5倍である領域の個数に対する、5.5μm2以上を占める領域の個数の割合が、Co分布(5.5)となり、5.0μm2以上を占める領域の個数の割合が、Co分布(5.0)となる。
【0027】
二値化、検出領域及び対象領域の検出、並びに、それらの個数の計測は、汎用的な電子線マイクロアナライザーに付属されたソフト(例えば、島津製作所社製 EPMAシステム Ver.2.14)により解析することができる。電子線マイクロアナライザーとしては、例えば、島津製作所製 EPMA1610が挙げられる。測定の処理法が異なるため、検出領域や対象領域と、反射電子像や元素マッピングで確認されるCo-Fe固溶体は大きさが一致しなくてもよい。
【0028】
本実施態様の焼結体は、Co-Fe固溶体に加え、コバルト酸化物又は鉄酸化物の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0029】
本実施態様の焼結体は、コバルトをCoOとして換算した含有量(以下、「コバルト含有量」ともいう。)及び鉄をFe2O3として換算した含有量(以下、「鉄含有量」ともいう。)の合計(以下、「着色剤含有量」ともいう。)が0.1重量%を超え3.0重量%未満であり、0.1重量%を超え2.5重量%以下であることが好ましく、0.12重量%以上2.5重量%以下であることがより好ましく、0.2重量%以上1.5重量%以下であることが更に好ましい。着色剤含有量が0.1重量%以下では焼結体の色調が灰色系統の色調になる。着色剤含有量が3.0重量%以上であると、製造時の欠陥や、個体ごとの色調のばらつきが生じやすくなるため、本実施態様の焼結体を安定的に製造することが困難になる。
【0030】
本実施態様の焼結体の特に好ましい着色剤含有量として、0.1重量%以上1.0重量%未満、更には0.2重量%以上1.0重量%未満を挙げられる。
【0031】
本実施態様の焼結体は、着色剤含有量に対するコバルト含有量が0.10以上0.98以下であることが好ましく、0.10以上0.50以下であることがより好ましい。
【0032】
本実施態様の焼結体はアルミニウム酸化物を含有してもよく、アルミナ(Al2O3)を含有することが好ましい。アルミニウム酸化物を含有する場合、アルミニウムをAl2O3として換算した含有量(以下、「アルミナ含有量」ともいう。)は0.1重量%以上3.0重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上2.5重量%以下であることがより好ましく、0.2重量%以上2.5重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以上2.0重量%以下であることがさらに好ましく、0.2重量%以上2.0重量%以下であることがさらに好ましく、0.1重量%以上1.0重量%以下であることが更により好ましく、0.2重量%以上1.0重量%以下であることが特に好ましい。アルミニウム酸化物の含有量が3.0重量%以下であれば、アルミナが本実施態様の焼結体の色調に影響をほとんど及ぼすことなく、なおかつ、着色剤含有量が多い場合であっても、単斜晶ジルコニアの生成が抑制される傾向がある。アルミニウム酸化物を含有する場合、本実施態様の焼結体がAlとCoとの複合酸化物、例えばコバルトアルミネート(CoAl2O4)、を含む場合がある。本実施態様の焼結体の効果が損なわれない範囲において、焼結体にコバルトアルミネート等の複合酸化物が含まれていてもよい。
【0033】
本実施態様の焼結体はハフニウム(Hf)等の不可避不純物以外の不純物を含まないことが好ましく、亜鉛(Zn)及びクロム(Cr)を含まないこと(すなわち、0重量%)が特に好ましい。本実施態様の焼結体は、亜鉛をZnOとして換算した含有量(以下、「亜鉛含有量」ともいう。)、及び、クロムをCr2O3として換算した含有量(以下、「クロム含有量」ともいう。)が、それぞれ、0.1重量%未満であることが好ましく、0.05重量%以下であることがより好ましく、一般的な組成分析における検出限界以下(例えば、0.005重量%以下)であることが特に好ましい。
【0034】
本実施態様の焼結体は、残部がジルコニアからなる。本実施態様の焼結体はジルコニアをZrO2として換算した含有量(以下、「ジルコニア含有量」ともいう。)が94.0重量%以上であることが例示でき、95.0重量%以上であることが好ましく、97.0重量%以上であることがより好ましい。
【0035】
本実施態様において、コバルト含有量、鉄含有量、着色剤含有量、アルミナ含有量、ジルコニア含有量、亜鉛含有量及びクロム含有量は、それぞれ、本実施態様の焼結体の重量に対する各成分の重量割合である。
【0036】
本実施態様の焼結体に含まれるジルコニア(ZrO2)は、イットリア(Y2O3)、カルシア(CaO)、マグネシア(MgO)、バナジア(BaO)及びチタニア(TiO2)の群から選ばれる少なくとも1種(以下、「固溶成分」ともいう。)を含有するジルコニアであることが好ましく、イットリアを含有するジルコニアであることがより好ましい。焼結体中のCo-Fe固溶体の粒子が微細になる傾向があるため、ジルコニアは、カルシア、マグネシア、バナジア及びチタニアの群から選ばれる少なくとも1種と、イットリアとを含有するジルコニアであることが好ましく、チタニア及びイットリアを含有するジルコニアであることがより好ましい。また、焼結体中のCo-Fe固溶体の粒子が特に微細になる傾向があるため、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え0.4重量%以下、好ましくは0.1重量%を超え0.3重量%以下であり、かつ、チタニア及びイットリアを含有するジルコニアであることが特に好ましい。本実施態様において、焼結体中のCo-Fe固溶体の粒子が微細になるほど、焼結体がより均一な色調として視認されやすくなる。
【0037】
固溶成分の含有量はジルコニアに固溶できる量であればよく、各固溶成分の含有量として、それぞれ、2.0mol%以上10.0mol%以下であることが例示できる。
【0038】
本実施態様において、固溶成分の含有量は、ジルコニアと各固溶成分との合計に対する、各固溶成分の割合(mol%)であり、[各固溶成分(mol)]/[各固溶成分(mol)+ZrO2(mol)]×100から求まる値である。例えば、イットリア及びチタニアを含有するジルコニアにおいて、イットリア含有量(mol%)は[Y2O3(mol)]/[Y2O3(mol)+ZrO2(mol)]×100から求まる値であり、チタニア含有量(mol%)は[TiO2(mol)]/[TiO2(mol)+ZrO2(mol)]×100から求まる値、である。
【0039】
例えば、各固溶成分の好ましい含有量として、以下の少なくともいずれかが例示できる。
【0040】
イットリア含有量 : 2.0mol%以上4.0mol%以下、好ましくは2.5mol%以上3.5mol%以下
チタニア含有量 : 1.0mol%以上6.0mol%以下、好ましくは1.5mol%以上4.8mol%以下
本実施態様の焼結体は、ジルコニアに固溶する元素であって、固溶によって焼結体の色調を大きく変化させるもの、例えばエルビア(Er2O3)又はセリア(CeO2)の少なくとも1種、を含まないことが好ましい。これらの含有量は検出限界以下であることが好ましく、測定誤差等を考慮すると、それぞれ、0mol%以上1mol%未満であることが例示できる。
【0041】
本実施態様の焼結体は、アルミナ含有量が0.1重量%以上2.0重量%以下、さらには0.1重量%以上1.5重量%以下、さらには0.1重量%以上1.0重量%以下、さらには0.1重量%以上0.5重量%以下であり、かつ、チタニア含有量1.0重量%以上4.0重量%以下、さらには1.0重量%以上3.5重量%以下、さらには1.2重量%以上3.2重量%以下、さらには1.5重量%以上3.0重量%以下であることが好ましい。
【0042】
本実施態様の焼結体に含まれるジルコニアの結晶相は正方晶を主相としていればよく、正方晶及び立方晶であってもよい。本実施態様の焼結体に含まれるジルコニアの結晶相の主相とは、以下の条件で測定される粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンにおけるジルコニアの結晶相中に占める割合が最も多い相である。
【0043】
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
ステップ幅 : 0.02°
スキャン速度 : 5°/分
測定範囲 : 2θ=20°から80°
本実施態様の焼結体におけるCo-Fe固溶体等の含有量では、XRDパターンにおいて、そのXRDピークが検出されない。そのため、本実施態様の焼結体のXRDパターンは、焼結体に含まれるジルコニアの結晶相と同じXRDパターンとなる。
【0044】
本実施態様の焼結体は、ジルコニアの単斜晶率が10%以下であることが好ましく、6.5%以下であることがより好ましく、2%以下であることが更に好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0045】
ジルコニアの単斜晶率は、上述の条件で測定される本実施態様の焼結体の表面のXRDパターンから、以下の式により求められる値である。
【0046】
単斜晶率(%)=[Im(111)+Im(11-1)]×100
/[Im(111)+Im(11-1)+It(111)+Ic(111)]
上式において、Im(111)は単斜晶ジルコニアの(111)面の面積強度、Im(11-1)は単斜晶ジルコニアの(11-1)面の面積強度、It(111)は正方晶ジルコニアの(111)面の面積強度、及び、Ic(111)は立方晶ジルコニアの(111)面の面積強度である。
【0047】
本実施態様の焼結体に含まれるジルコニアの結晶粒子の平均径(以下、「平均結晶粒径」ともいう。)は3.0μm以下であることが好ましく、は2.5μm以下であることがより好ましい。特に好ましい平均結晶粒径として0.3μm以上2.5μm以下、更には0.5μm以上1.3μm以下を挙げることができる。
【0048】
本実施態様において、平均結晶粒径は、走査型顕微鏡を使用し、15,000倍の倍率で本実施態様の焼結体の表面を観察し、得られるSEM観察図から無作為に200個以上、好ましくは250±50個、のジルコニアの結晶粒子を抽出し、その結晶粒径をインターセプト法(k=1.78)によって測定し、その平均をもって求めることができる。本実施態様の焼結体のSEM観察図において、ジルコニアの結晶粒子と、Co-Fe固溶体の粒子などのジルコニアの結晶粒子以外の粒子や気孔とは、濃淡の違いから区別できる。
【0049】
本実施態様の焼結体は、L*a*b*表色系において、明度L*が10以下であり、なおかつ、色相a*が-2.00以上2.00以下、及び、色相b*が-2.00以上5.00以下である色調を有することが好ましい。
【0050】
本実施態様の焼結体の特に好ましい色調として、以下に示す明度L*、色相a*及びb*のいずれかの組合せが挙げられる。
【0051】
明度L* : 0以上9.0以下、好ましくは0以上5.5以下、
より好ましくは0以上3.0未満
色相a* : -3.00以上2.00以下、
好ましくは-0.50以上0.50以下
色相b* : -2.00以上4.00以下、
好ましくは-1.00以上1.00以下
L*a*b*表色系の色調はJIS Z 8722に準じた方法により、表面粗さ(Ra)が0.02nm以下である焼結体を測定することで得られる。色調は、正反射光を除去し、拡散反射光を測定するSCE方式で求めることで、より目視に近い色調として評価することができる。
【0052】
本実施態様の焼結体は、ISO/DIS 6872に準じ、なおかつ、試料厚みを1mmとして測定される二軸曲げ強度(以下、単に「二軸曲げ強度」ともいう。)が1400MPa以上であることが好ましく、1700MPa以上であることがより好ましい。加工性の観点から、二軸曲げ強度は3000MPa以下であることが好ましく、2500MPa以下であることがより好ましい。
【0053】
本実施態様の焼結体は、色味を帯びていない黒色として視認される色調を呈する焼結体であり、高級感のある宝飾品、装飾部材等の部材、例えば、時計部品、携帯用電子機器の外装部品等の様々な部材へ利用することができる。
【0054】
次に、本実施態様の焼結体の製造方法について説明する。
【0055】
本実施態様の焼結体の製造方法は、コバルト化合物及び鉄化合物を含み、残部がジルコニアからなり、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満である成形体を還元雰囲気で焼結する焼結工程、を有する製造方法、である。これにより、漆黒色を呈する焼結体を製造することができる。
【0056】
焼結工程では、コバルト化合物及び鉄化合物を含み、残部がジルコニアからなり、コバルトをCoOとして換算した含有量及び鉄をFe2O3として換算した含有量の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満である成形体を焼結することで、焼結体を得る。
【0057】
焼結工程に供する成形体はコバルト化合物及び鉄化合物を含み、残部がジルコニアからなる。成形体は不可避不純物以外の不純物を含まないことが好ましい。成形体は、亜鉛及びクロムを含まないこと(すなわち、亜鉛含有量及びクロム含有量が、それぞれ、0重量%)が好ましく、それぞれ、0.1重量%未満であることが好ましい。
【0058】
コバルト化合物は、コバルト(Co)を含む化合物であり、四酸化三コバルト(Co3O4)、酸化コバルト(III)(Co2O3)、酸化コバルト(II)(CoO)、オキシ水酸化コバルト(CoOOH)、水酸化コバルト(Co(OH)2)、硝酸コバルト(Co(NO3)2)、塩化コバルト(CoCl2)及び硫酸コバルト(CoSO4)の群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、Co3O4、Co2O3、CoO及びCoOOHの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0059】
鉄化合物は、鉄(Fe)を含む化合物であり、酸化鉄(III、II)(Fe3O4)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、酸化鉄(II)(FeO)、オキシ水酸化鉄(FeOOH)、水酸化鉄(FeOH)、硝酸鉄(Fe(NO3)2)、塩化鉄(FeCl)及び硫酸鉄(FeSO4)の群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、Fe3O4、Fe2O3、FeO及びFeOOHの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0060】
成形体は、アルミニウム化合物を含んでいてもよい。アルミニウム化合物は、アルミニウム(Al)を含む化合物であり、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、塩化アルミニウム(AlCl3)、アルミニウムイソプロポキシド(C9H21O3Al)及び硝酸アルミニウム(Al(NO3)3)の群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、アルミナ又は水酸化アルミニウムの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0061】
コバルト化合物、鉄化合物及びアルミニウム化合物は、コバルト、鉄及びアルミニウムの群から選ばれる2種以上を含む複合酸化物であってもよい。複合酸化物としてCoFe2O4(コバルトフェライト)、CoAl2O4(コバルトアルミネート)、FeAl2O4及びFeAlO3の群から選ばれる1種以上が例示でき、CoAl2O4が好ましい。
【0062】
ジルコニア(ZrO2)は、イットリア、カルシア、マグネシア、バナジア及びチタニアの群から選ばれる少なくとも1種を含むジルコニアであってもよく、イットリア含有ジルコニアであることが好ましく、イットリア含有量が2mol%以上4mol%以下であるイットリア含有ジルコニアであることがより好ましく、イットリア含有量が2.5mol%以上2.5mol%以下であるイットリア含有ジルコニアであることがより好ましい。
【0063】
成形体は、固溶成分又はその前駆体を含有する化合物(以下、「固溶成分源」ともいう。)を含んでいてもよい。このような化合物として、イットリウム化合物、カルシウム化合物、マグネシウム化合物、バナジウム化合物及びチタン化合物の群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、イットリウム化合物又はチタン化合物の少なくともいずれかであることが好ましく、チタン化合物であることがより好ましい。
【0064】
イットリウム化合物は、イットリア、塩化イットリウム及び水酸化イットリウムの群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、イットリア又は塩化イットリウムの少なくともいずれかであることが好ましい。カルシウム化合物は、カルシア、塩化カルシウム及び水酸化カルシウムの群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、カルシア又は塩化カルシウムの少なくともいずれかであることが好ましい。マグネシウム化合物は、マグネシア、塩化マグネシウム及び水酸化マグネシウムの群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、マグネシア又は塩化マグネシウムの少なくともいずれかであることが好ましい。バナジウム化合物は、バナジア、塩化バナジウム及び水酸化バナジウムの群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、バナジア又は塩化バナジウムの少なくともいずれかであることが好ましい。チタン化合物は、チタニア、塩化チタン、水酸化チタン及びチタンテトライソプロポキシドの群から選ばれる少なくとも1種が例示でき、チタニア又は水酸化チタンの少なくともいずれかであることが好ましい。
【0065】
成形体は、成形体中のコバルトをCoOとして換算した含有量(コバルト含有量)及び鉄をFe2O3として換算した含有量(鉄含有量)の合計が0.1重量%を超え3.0重量%未満であり、0.1重量%を超え2.5重量%以下であることが好ましく、0.12重量%以上2.5重量%以下であることがより好ましく、0.2重量%以上1.5重量%以下であることが特に好ましい。
【0066】
コバルト化合物と鉄化合物との割合は任意であるが、成形体中のコバルト及び鉄をそれぞれCoO及びFe2O3とて換算した場合の重量比が、CoO/(CoO+Fe2O3)が0.10以上0.99以下、好ましくは0.10以上0.50以下となる割合であることが好ましい。
【0067】
成形体がアルミニウム化合物を含む場合、成形体中のアルミニウムをAl2O3として換算した含有量が0.1重量%以上3.0重量%以下であることが好ましく、0.1重量%以上2.5重量%以下であることがより好ましく、0.2重量%以上2.5重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以上2.0重量%以下であることがさらに好ましく、0.2重量%以上2.0重量%以下であることがさらに好ましく、0.1重量%以上1.0重量%以下であることが更により好ましく、0.2重量%以上1.0重量%以下であることが特に好ましい。
【0068】
固溶成分源の含有量は、2.0mol%以上10.0mol%以下であることが例示できる。固溶成分源の含有量は、ジルコニアと酸化物換算した各固溶成分源との合計に対する、酸化物換算した各固溶成分源の割合(mol%)であり、[各固溶成分源(mol)]/[各固溶成分源(mol)+ZrO2(mol)]×100から求まる値である。例えば、成形体がイットリウム化合物及びチタン化合物を含有する場合、イットリウム化合物の含有量(mol%)は[Y2O3(mol)]/[Y2O3(mol)+ZrO2(mol)]×100から求まる値であり、チタン化合物の含有量(mol%)は[TiO2(mol)]/[TiO2(mol)+ZrO2(mol)]×100から求まる値、である。
【0069】
例えば、各固溶成分源の好ましい含有量として、以下の少なくともいずれかが例示できる。
【0070】
イットリア含有量 : 2.0mol%以上4.0mol%以下、好ましくは2.5mol%以上3.5mol%以下
チタニア含有量 : 1.0mol%以上6.0mol%以下、好ましくは1.5mol%以上4.8mol%以下
一方、成形体はエルビア(Er2O3)又はセリア(CeO2)並びにこれらの前駆体の少なくとも1種、を含まないことが好ましく、これらの含有量は検出限界以下(0mol%)であること好ましく、測定誤差等を考慮すると、それぞれ、1mol%未満であることが挙げられる。
【0071】
成形体は任意の方法で得られたものであればよく、例えば、原料化合物を混合し、成形する工程、により得られる成形体が好ましい。
【0072】
混合は、原料化合物が均一になる方法であれば任意の混合方法であればよい。好ましい混合法として原料化合物の各粉末を湿式混合することが挙げられる。具体的な湿式混合として、ボールミル、ビーズミル、及び撹拌ミルの群から選ばれる少なくとも1種による混合を例示することができ、ボールミル及びビーズミルの少なくともいずれかによる混合が好ましく、直径1.0mm以上10.0mm以下のジルコニアボールを粉砕媒体とするボールミルによる混合がより好ましい。本実施態様では、原料化合物の各粉末を湿式混合する際に粉砕することが好ましい。
【0073】
成形は、目的とする形状の成形体が得られる方法であれば任意の成形方法を適用することができる。成形方法として、一軸加圧、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及びインジェクションモールディングの群から選ばれる少なくとも1種を例示することができる。好ましい成形方法として一軸加圧又は冷間静水圧プレスの少なくともいずれかが挙げられ、一軸加圧した後に冷間静水圧プレスする成形方法がより好ましい。一軸加圧の条件として、20MPa以上70MPa以下が例示でき、冷間静水圧プレスの条件として150MPa以上250MPa以下が例示できる。
【0074】
成形体の形状は目的に応じた任意形状であればよく、円板状、柱状、立方体状、直方体状、多面体状、略多面体状、板状、球状及び略球状の群から選ばれる少なくとも1種が例示できる。
【0075】
焼結工程では、成形体を還元雰囲気で焼結して焼結体を得る。これにより、コバルトと鉄との固溶体を含む焼結体が得られる。
【0076】
焼結工程では成形体を還元雰囲気で焼結する。還元雰囲気で焼結することにより、コバルト及び鉄の固溶体化と析出が共に進行する。酸化雰囲気のみの焼結では、焼結体の色調が異なる又は色調にムラが生じるなどが生じ、本実施態様の焼結体が安定して得られない。
【0077】
本実施態様における還元雰囲気として、還元性気体又は還元性発熱体の少なくともいずれかを使用する雰囲気が例示できる。還元性気体は、水素又は一酸化炭素の少なくともいずれかを含有する気体が例示できる。還元性発熱体としてカーボン製発熱体が例示できる。
【0078】
本実施態様の好ましい還元雰囲気として、不活性気体中で還元性発熱体を使用する雰囲気が挙げられ、更にはアルゴン又は窒素の雰囲気でカーボン製発熱体を使用する雰囲気が挙げられる。
【0079】
焼結工程において、焼結方法は任意であり、常圧焼結又は加圧焼結のいずれかであることが好ましく、加圧焼結であることがより好ましい。加熱焼結は、ホットプレス法又は熱間静水圧プレス(以下、「HIP」ともいう。)処理であることが好ましく、HIP処理であることが更に好ましい。本実施態様において、常圧焼結とは、焼結時に成形体に対して外的な力を加えず単に加熱することにより焼結する方法であり、加圧焼結とは、焼結時に成形体に対して外的な力を加えて加熱することにより焼結する方法である。
【0080】
焼結工程における焼結温度は、1300℃以上1700℃以下、好ましくは1300℃以上1675℃以下、より好ましくは1450℃以上1675℃以下が挙げられる。
【0081】
好ましい焼結条件として、以下の条件が例示できる。
【0082】
焼結方法 :HIP処理
焼結雰囲気 :アルゴン又は窒素の少なくともいずれか、好ましくはアルゴン
焼結温度 :1300℃以上1675℃以下、
好ましくは1450℃以上1675℃以下
焼結時間 :0.5時間以上5時間以下
焼結圧力 :50MPa以上200MPa以下、
好ましくは100MPa以上175MPa以下
発熱体 :カーボンヒーター
本実施態様の製造方法は、焼結工程の前に、成形体を非還元雰囲気で焼結して予備焼結体を得る予備焼結工程、を有していてもよい。
【0083】
予備焼結工程の焼結雰囲気は非還元雰囲気であればよく、酸化雰囲気又は不活性雰囲気のいずれかであればよく、酸化雰囲気、更には大気雰囲気であることが好ましい。
【0084】
焼結が進行すれば予備焼結方法は任意であるが、予備焼結の焼結方法は常圧焼結であることが好ましく、大気雰囲気での常圧焼結であることがより好ましい。
【0085】
予備焼結の条件として以下の条件が例示できる。
【0086】
予備焼結方法 :常圧焼結
予備焼結雰囲気:大気雰囲気
予備焼結温度 :1300℃以上1500℃以下、
好ましくは1300℃以上1450℃以下、
より好ましくは1300℃以上1400℃以下
予備焼結時間 :30分以上5時間以下
本実施態様の製造方法が予備焼結工程を有する場合、成形体の代わりに予備焼結体を焼結工程に供すればよい。
【0087】
本実施態様の製造方法では、酸化雰囲気下、650℃以上1100℃以下で、焼結体を熱処理する熱処理工程を有していてもよい。
【0088】
酸化雰囲気での熱処理であれば熱処理方法は任意である。簡便であるため、熱処理は、熱処理時に焼結体に対して外的な力を加えず単に加熱する方法(以下、「常圧焼成」ともいう。)であることが好ましく、大気雰囲気での常圧焼成であることがより好ましい。
【0089】
熱処理温度は650℃以上1100℃以下であることが好ましく、700℃以上950℃以下であることがより好ましい。ジルコニアが2以上の固溶成分を含む場合、特にジルコニアがイットリア及びチタニアを含有するジルコニアである場合、熱処理温度は700℃以上950℃以下であることが好ましい。
【0090】
熱処理時間は上記の熱処理温度において1時間以上48時間以下であればよい。
【0091】
特に好ましい熱処理工程として以下の条件が例示できる。
【0092】
熱処理方法 :常圧焼成
熱処理雰囲気:大気雰囲気
熱処理温度 :700℃以上1050℃以下、
好ましくは800℃以上950℃以下
熱処理時間 :1時間以上10時間以下
【実施例0093】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0094】
本実施態様の焼結体及び粉末の特性測定方法を以下に説明する。
【0095】
(実測密度)
焼結体試料の実測密度はアルキメデス法により測定した。前処理として、焼結体試料を煮沸処理し、焼結体試料表面の残存気泡を除去した。
【0096】
(結晶相及び単斜晶率)
粉末X線解析装置(装置名:RINT Ultima III、リガク社製)を用い、焼結体試料の表面のXRDパターンを測定した。測定条件を以下に示す。
【0097】
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : 連続スキャン
ステップ幅 : 0.02°
スキャン速度 : 5°/分
測定範囲 : 2θ=20°から80°
得られたXRDパターンから結晶相を求め、なおかつ、以下の式により、ジルコニアの単斜晶率を測定した。
【0098】
単斜晶率(%)=[Im(111)+Im(11-1)]×100
/[Im(111)+Im(11-1)+It(111)+Ic(111)]
上式において、Im(111)は単斜晶ジルコニアの(111)面の面積強度、Im(11-1)は単斜晶ジルコニアの(11-1)面の面積強度、It(111)は正方晶ジルコニアの(111)面の面積強度、及び、Ic(111)は立方晶ジルコニアの(111)面の面積強度である。
【0099】
(色調及び反射率)
JIS Z 8722に準じた方法により、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な色差計(装置名:Spectrophotometer SD 3000、日本電色工業社製)を用いた。測定条件は以下のとおりとし、正反射光を除去し、拡散反射光を測定するSCE方式で色調及び反射率を求めた。
【0100】
光源 : D65光源
視野角 : 10°
焼結体試料には、表面粗さRa=0.02μm以下とした厚み1mm、直径16mmの円板状の焼結体を用いた。
【0101】
(二軸曲げ強度)
ISO/DIS6872に準拠した方法により、焼結体試料の二軸曲げ強度を測定した。測定には、直径16mm、厚さ1mmの円板状の焼結体試料を用いた。測定は同一の条件で作製された焼結体試料について3回行い、その平均値をもって二軸曲げ強度とした。
【0102】
(平均結晶粒径)
焼結体試料のジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径はインターセプト法により測定した。
【0103】
前処理として、焼結体試料の表面粗さRaが0.02μm以下となるように鏡面研磨した後に、熱エッチングしたものを使用した。SEMを使用し、15,000倍の倍率で焼結体試料の表面を観察しSEM観察図を得た。得られたSEM観察図から無作為に200個以上(250±50個)、のジルコニアの結晶粒子を抽出し、その結晶粒径をインターセプト法(k=1.78)によって測定し、その平均をもってジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径とした。
【0104】
(EPMA測定及びCo分布等の測定)
EPMA装置(装置名:EPMA1610、島津製作所社製)を使用し、以下の条件で下反射電子像の観察及び元素マッピングを求めた。
【0105】
測定方式 : 波長分散型
加速電圧 : 15kV
照射電流 : 300nA
分析面積 : 51.2μm×51.2μm
視野数 : 3視野
EPMA1610の付属の解析ソフト(製品名:EPMAシステム Ver.2.14、島津製作所社製)を使用し、得られた元素マッピングを二値化し、バックグラウンドにおけるコバルト又は鉄の特性X線の強度が1.5倍以上である領域の個数を計測した。ここで、コバルトについてはマッピング結果の強度を120カウントにしたとき、粒子が確認されない場所をバックグラウンドとし、その平均値の1.5倍を閾値として二値化処理を行い、鉄についてはマッピング結果の強度を110カウントにしたとき、粒子が確認されない場所をバックグラウンドとし、その平均値の1.5倍を閾値として二値化処理を行った。計測された領域の個数に占める各領域の個数の割合をもってCo分布、Fe分布、最頻Co分布及び最頻Fe分布を求めた。
【0106】
焼結体試料は、表面粗さRa=0.02μm以下とした厚み1mm、直径16mmの円板状の焼結体を用いた。
【0107】
実施例1
酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、及び、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末と、エタノールとをジルコニア製ボールを使用したボールミルで湿式混合して、0.04重量%の酸化鉄及び0.16重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアを含む混合粉末を得た。混合粉末を大気中、110℃で乾燥した後、篩分けし、凝集粒径500μm以下の凝集粉末とした。
【0108】
当該凝集粉末を圧力50MPaの金型プレスによる一軸加圧成形後、圧力200MPaの冷間静水圧プレスで処理することで、直径20mm、厚さ3mmの円板状の成形体を得た。当該成形体を大気雰囲気、1350℃で2時間焼結することで一次焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.98g/cm3であった。
【0109】
一次焼結体をアルゴン雰囲気、1500℃、150MPa及び1時間でHIP処理して焼結体を得た。焼結体を、大気雰囲気、900℃及び8時間で常圧焼成して本実施例の焼結体とした。
【0110】
本実施例の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0111】
【表1】
本実施例の焼結体は漆黒色を呈しており、Co分布(5.5)は0%であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子は確認できなかった。また、Co分布に比べ、Fe分布はより小さい分布としていることが分かる。
【0112】
最頻Co領域及び最頻Fe領域は、それぞれ、42.4%及び65.4%であった。
【0113】
実施例2
0.40重量%の酸化鉄及び0.10重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.05g/cm3であった。
【0114】
実施例3
0.25重量%の酸化鉄及び0.25重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.02g/cm3であった。
【0115】
図1に本実施例の焼結体の反射電子像(
図1(a))、鉄の元素マッピング(
図1(b))及びコバルトの元素マッピング(
図1(c))を示す。
図1より、本実施例の焼結体はCo-Fe固溶体を含み、当該Co-Fe固溶体は0.1~3.5μmの粒子として焼結体に含まれることが確認できる。
【0116】
さらに、ジルコニアの結晶粒子(
図1(a)中の破線丸部)の元素マッピングの結果、ジルコニアの結晶粒子のコバルト及び鉄の含有量が測定限界以下であった。
【0117】
実施例4
0.10重量%の酸化鉄及び0.40重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.95g/cm3であった。
【0118】
本実施例の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0119】
【表2】
本実施例の焼結体は漆黒色を呈しており、Co分布(5.5)は18.6%であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子は確認できなかった。また、Co分布に比べ、Fe分布はより小さい分布としていることが分かる。
【0120】
最頻Co領域及び最頻Fe領域は、それぞれ、38.4%及び59.9%であった。
【0121】
実施例5
0.65重量%の酸化鉄及び0.35重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.96g/cm3であった。
【0122】
比較例1
0.02重量%の酸化鉄及び0.08重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.76g/cm3であった。
【0123】
本比較例の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0124】
【表3】
本比較例の焼結体はCo分布(5.5)が0%であるが、鉄を含まない焼結体であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子は確認できなかった。しかしながら、薄い灰色であり、漆黒色を呈してなかった。
【0125】
比較例2
0.50重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。得られた焼結体はクラックが発生していた。
【0126】
比較例3
0.50重量%の酸化鉄を含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.02g/cm3であった。
【0127】
比較例4
1.95重量%の酸化鉄及び1.05重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.95g/cm3であった。得られた焼結体はクラックが発生していた。
【0128】
本比較例の焼結体のクラック等の欠陥を含まない表面について元素マッピングを行った。結果を下表に示す。
【0129】
【表4】
本比較例の焼結体は、Co分布(5.5)が35.3%、コバルト及び鉄の含有量が3.0質量%以上であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子が確認された。焼結体は、濃い灰色及び濃い茶色を呈する部分を有する不均一な色調であった。
【0130】
比較例5
0.25重量%の酸化鉄及び0.25重量%の酸化コバルトを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと、並びに、HIP処理及びHIP処理後の焼成を行わなかったこと以外は実施例1と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.02g/cm3であった。
【0131】
実施例1~5及び比較例1~5の評価結果を下表に示す。
【0132】
【0133】
【表6】
実施例の焼結体はいずれも漆黒色を呈し、なおかつ、主相が正方晶であった。これに対し、着色剤含有量が0.1重量%である焼結体(比較例1)及びコバルトを含有しない焼結体(比較例3)は、それぞれ、濃い灰色及び濃い茶色を呈し、色味を帯び、なおかつ、黒系統ではない色調であった。
【0134】
また、還元雰囲気下での焼結を経ていない焼結体(比較例5)は薄い灰色を呈し、なおかつ、焼結体に斑点が点在し、均一な色調でなかった。
【0135】
鉄を含有しない焼結体(比較例2)及び着色剤含有量が3.0重量%である焼結体(比較例4)は、いずれも、クラックが発生し、欠陥のない焼結体として得られなかった。
【0136】
実施例6
酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化アルミニウム(Al2O3)粉末及び3mol%イットリア含有ジルコニア粉末を使用し、0.10重量%の酸化鉄、0.40重量%の酸化コバルト及び0.25重量%のアルミナを含み、残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.04g/cm3であった。
【0137】
実施例7
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが0.25重量%(内、Al2O3が0.14重量%及びCoOが0.11重量%)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアとなるように、酸化鉄(Fe2O3)粉末(純度99%以上)、コバルトアルミネート(CoAl2O4)粉末(純度99%以上)、及び、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末(純度99.8%以上)である混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.05g/cm3であった。
【0138】
実施例8
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが0.50重量%(内、Al2O3が0.28重量%及びCoOが0.22重量%)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.05g/cm3であった。
【0139】
実施例9
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが1.00重量%(内、Al2O3が0.56重量%及びCoOが0.44重量%)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.04g/cm3であった。
【0140】
実施例10
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが2.00重量%(内、Al2O3が1.12重量%及びCoOが0.88重量%)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.01g/cm3であった。
【0141】
実施例11
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが3.00重量%(内、Al2O3が1.68重量%及びCoOが1.32重量%)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.99g/cm3であった。
【0142】
本実施例の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0143】
【表7】
本実施例の焼結体は漆黒色を呈しており、Co分布(5.5)は23.7%であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子は確認できなかった。また、Co分布に比べ、Fe分布はより小さい分布としていることが分かる。
【0144】
実施例12
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが5.00重量%(内、Al2O3が2.8重量%及びCoOが2.2重量%)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.86g/cm3であった。
【0145】
実施例6~12の物性値について、下表に示す。
【0146】
【表8】
実施例6~12の二軸曲げ強度及び色調について、下表に示す。
【0147】
【表9】
着色剤含有量が0.50重量%であり、アルミナを含まない焼結体(実施例3)は、単斜晶率が1%を超えていたが、アルミナを含有する焼結体は、着色剤含有量が0.21重量%以上2.22重量%以下であっても単斜晶率が0%であることが分かる。
【0148】
さらに、実施例の焼結体はいずれも漆黒色を呈していることより、アルミナ含有量がこのような範囲(例えば、0.2重量%以上2.5重量%以下)であることで、焼結体の色調に影響を与えることなく、ジルコニア単斜晶の生成が抑制されることがわかる。
【0149】
実施例13
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが5.00重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと、及び、HIP処理温度を1650℃としたこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.84g/cm3であった。本実施例の焼結体の色調は漆黒色であった。結果を下表に示す。
【0150】
【表10】
実施例14
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが5.00重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと、及び、常圧焼成の温度を800℃としたこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。
【0151】
一次焼結体の密度は5.84g/cm3であった。本実施例の焼結体は高密度で、曲げ強度が高く、色調は漆黒色であった。
【0152】
実施例15
酸化鉄が0.10重量%、コバルトアルミネートが5.00重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと、及び、常圧焼成の温度を1000℃としたこと以外は実施例7と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。
【0153】
一次焼結体の密度は5.84g/cm3であった。本実施例の焼結体は高密度で、曲げ強度が高く、色調は漆黒色であった。
【0154】
実施例14及び15の結果を下表に示す。
【0155】
【表11】
常圧焼成の温度が800℃又は1000℃のいずれの場合であっても、得られる焼結体は漆黒色を呈していた。また、1000℃で常圧焼成に比べ、800℃の常圧焼成は、得られる焼結体の色調の値がいずれも高くなることが分かる。
【0156】
実施例16
酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、アルミナ粉末及び、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末と、エタノールとをジルコニア製ビーズを使用したビーズミルで湿式混合して、酸化鉄が0.16重量%、酸化コバルトが0.04重量%、酸化チタンが3.0重量%(チタニア含有量として4.69mol%に相当)、酸化アルミニウムが0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.08g/cm3であった。
【0157】
実施例17
酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、アルミナ粉末及び、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末と、エタノールとをジルコニア製ボールを使用したボールミルで湿式混合したこと以外は実施例16と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.94g/cm3であった。
【0158】
実施例16及び17の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0159】
【表12】
実施例16及び17は、いずれも、鉄含有量とコバルト含有量の合計が0.2重量%である。これらの実施例と鉄含有量とコバルト含有量の合計が等しい実施例1と比べ、実施例16及び17は、Co分布及びFe分布の値が小さいことが確認できる。また、実施例16の焼結体は、最頻Co領域及び最頻Fe領域が、それぞれ、87.0%及び74.4%であり、ジルコニアがイットリア及びチタニアを含有することで、元素マッピングにより確認されるCo-Fe固溶体がより微細になる傾向が観察された。
【0160】
実施例18
酸化鉄粉末、酸化コバルト粉末、酸化チタン粉末、アルミナ粉末及び、3mol%イットリア含有ジルコニア粉末と、エタノールとをジルコニア製ボールを使用したボールミルで湿式混合しして、酸化鉄が0.4重量%、酸化コバルトが0.1重量%、酸化チタンが1.0重量%(チタニア含有量として1.59mol%に相当)、酸化アルミニウムが0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以以外は実施例1と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.02g/cm3であった。
【0161】
実施例19
酸化鉄が0.4重量%、酸化コバルトが0.1重量%、酸化チタンが2.0重量%(チタニア含有量として3.15mol%に相当)、酸化アルミニウム0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.00g/cm3であった。
【0162】
実施例20
酸化鉄が0.4重量%、酸化コバルトが0.1重量%、酸化チタンが3.0重量%(チタニア含有量として4.70mol%に相当)、酸化アルミニウム0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.96g/cm3であった。
【0163】
実施例21
酸化鉄が0.24重量%、酸化コバルトが0.06重量%、酸化チタンが3.0重量%(チタニア含有量として4.69mol%に相当)、酸化アルミニウム0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.00g/cm3であった。
【0164】
実施例22
酸化鉄が0.4重量%、酸化コバルトが0.1重量%、酸化チタンが1.0重量%(チタニア含有量として1.58mol%に相当)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.06g/cm3であった。
【0165】
実施例23
酸化鉄が0.4重量%、酸化コバルトが0.1重量%、酸化チタンが2.0重量%(チタニア含有量として3.14mol%に相当)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.02g/cm3であった。
【0166】
実施例24
酸化鉄が0.4重量%、酸化コバルトが0.1重量%、酸化チタンが3.0重量%(チタニア含有量として4.69mol%に相当)及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本実施例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5.99g/cm3であった。
【0167】
実施例18~24の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0168】
【表13】
比較例6
酸化鉄が0.08重量%、酸化コバルトが0.02重量%、酸化チタンが3.0重量%(チタニア含有量として4.68mol%に相当)、酸化アルミニウム0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は6.01g/cm
3であった。
【0169】
本比較例の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0170】
【表14】
本比較例の焼結体はCo分布(5.5)が0%であるが、コバルト及び鉄の含有量の合計が0.1重量%以下であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子は確認できなかった。しかしながら、薄い灰色であり、漆黒色を呈してなかった。
【0171】
実施例16~24、及び比較例6の物性値について、下表に示す。
【0172】
【表15】
実施例16~24、及び比較例6の二軸曲げ強度及び色調について、下表に示す。
【0173】
【表16】
いずれの実施例の焼結体も漆黒色を呈していたのに対し、着色剤含有量が0.10重量%である比較例6は灰色を呈しており、特に明度L
*が9を超え、かつ、色相b
*が5を超えていた。
【0174】
また、
図3に実施例17の焼結体のチタン及びイットリウムの元素マッピングを示す。
【0175】
図3から、チタン及びイットリウムは同様な分布を示しており、いずれも同一の粒子から検出されている。これより、チタニア及びイットリアはジルコニアに固溶しており、当該ジルコニアはチタニア及びイットリアを含有するジルコニアであることが分かる。
【0176】
比較例7
酸化鉄が1.2重量%、酸化コバルトが0.3重量%、酸化チタンが3.0重量%(チタニア含有量として4.68mol%に相当)、酸化アルミニウム0.25重量%及び残部が3mol%イットリア含有ジルコニアである混合粉末を使用したこと以外は実施例18と同様な方法で本比較例の焼結体を得た。一次焼結体の密度は5,97g/cm3であった。得られた焼結体はクラックが発生していた。
【0177】
本比較例の焼結体の元素マッピングの結果を下表に示す。
【0178】
【表17】
本比較例の焼結体は、コバルト及び鉄の含有量が3.0重量%未満であるが、Co分布(5.5)が29.0%であり、コバルトの元素マッピングにおいて粗大な粒子が確認された。焼結体は、濃い灰色及び濃い茶色を呈する部分を有し不均一な色調であった。