IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 琉球大学の特許一覧 ▶ 日本ケミファ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図1
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図2
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図3
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図4
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図5
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図6
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図7
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図8
  • 特開-内臓脂肪蓄積減少剤 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026781
(43)【公開日】2024-02-28
(54)【発明の名称】内臓脂肪蓄積減少剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/194 20060101AFI20240220BHJP
   A61K 33/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 3/04 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 19/06 20060101ALI20240220BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20240220BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20240220BHJP
【FI】
A61K31/194
A61K33/00
A61P3/04
A61P3/06
A61P43/00 111
A61P9/12
A61P19/06
A61P3/10
A23L33/10
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024004532
(22)【出願日】2024-01-16
(62)【分割の表示】P 2020144868の分割
【原出願日】2019-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018100549
(32)【優先日】2018-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(71)【出願人】
【識別番号】000228590
【氏名又は名称】日本ケミファ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】益崎 裕章
(72)【発明者】
【氏名】中村 英生
(72)【発明者】
【氏名】平井 利武
(72)【発明者】
【氏名】原 薫
(72)【発明者】
【氏名】神田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】山崎 里美
(72)【発明者】
【氏名】小林 正
(72)【発明者】
【氏名】西岡 浩一郎
(57)【要約】
【解決手段】 クエン酸塩又は重炭酸ナトリウムなどのアルカリ化剤を有効成分として含みタンパク質過剰摂取に起因する内臓脂肪蓄積の減少剤。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ化剤を有効成分として含む内臓脂肪蓄積減少剤。
【請求項2】
アルカリ化剤がクエン酸塩、又は重炭酸ナトリウムである請求項1に記載の剤。
【請求項3】
アルカリ化剤がクエン酸塩、又は2種以上のクエン酸塩の混合物である請求項1に記載の剤。
【請求項4】
内臓脂肪蓄積がタンパク質過剰摂取に起因する内臓脂肪蓄積である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項5】
内臓脂肪蓄積がタンパク質過剰摂取に起因する肥満における内臓脂肪蓄積である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
内臓脂肪蓄積がメタボリックシンドロームにおける内臓脂肪蓄積である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
内臓脂肪蓄積が代謝性アシドーシスにおける内臓脂肪蓄積である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の剤。
【請求項8】
タンパク質過剰摂取に起因する肥満における内臓脂肪蓄積減少により肥満の予防及び/又は治療のために用いる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の剤。
【請求項9】
内臓脂肪蓄積減少剤が、さらにインスリン抵抗性改善剤、体液酸性化抑制剤、血糖低下剤又は血中中性脂肪量低下剤である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の剤。
【請求項10】
内臓脂肪蓄積減少剤が、血中ACTHの増加抑制剤又は血中及び/又は尿中グルココルチコイドの増加抑制剤である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の剤。
【請求項11】
内臓脂肪蓄積減少剤が、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化剤である、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の剤。
【請求項12】
視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化が、副腎皮質からのグルココルチコイドの分泌抑制;血中グルココルチコイド量に対する、血中ACTH量/血中グルココルチコイド量(血中グルココルチコイド量に対する血中ACTH量の比)の増加;又は血中グルココルチコイド量/血中ACTH量(血中ACTH量に対する血中グルココルチコイド量の比)に対する、血中グルココルチコイド量の低下である、請求項11に記載の剤。
【請求項13】
食品である、請求項1ないし12のいずれかに記載の剤。
【請求項14】
内臓脂肪レベルの高いヒト、酸性尿であるヒト、血圧が高いヒト、血糖値が高いヒト、血中尿酸値が高いヒト又は血中中性脂肪値が高いヒトに投与又は摂取される、請求項1ないし13のいずれかに記載の剤。
【請求項15】
さらに無水クエン酸を含む、請求項1ないし14のいずれかに記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインスリン抵抗性の改善、脳下垂体や副腎機能の改善、及び内臓脂肪蓄積の減少などの作用を有する代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食の欧米化による肥満と内臓脂肪の増加、及びそれに伴うと考えられる生活習慣病(高血圧症、高脂血症、糖尿病、高尿酸血症など)やそれらが集積したメタボリックシンドロームの増加が社会問題となっており、医療面での財政負担を急増させている。
【0003】
ヒトの食による肥満は主として脂肪とタンパク質の過剰摂取を原因とするが、それぞれ内臓脂肪蓄積に至るメカニズムは異なるものと考えられており、実際の肥満病態ではこの両者が複雑に絡み合っているものと想像されている。
【0004】
例えば、脂肪の過剰摂取により内臓脂肪蓄積に至る場合には体液酸性化(アシドーシス、酸性尿)が認められず、体重増加と脂肪重量増加は同時であることから、脂肪の過剰摂取により行き場所を失った脂肪が内臓に蓄積される受動的プロセスを経るものと考えられる。
【0005】
一方、タンパク質の過剰摂取による内臓脂肪の蓄積は、野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取量増加の結果としての動物性タンパク質の過剰摂取により引き起こされ、体液酸性化(アシドーシス、酸性尿)が認められるとともに、体重増加の前に脂肪重量が増加するという特徴がある。その際にグルココルチコイドが増加することから、生存のために脂肪をため込もうとする生体の仕組みにスイッチが入った能動的なプロセスを経るものと考えられている。
【0006】
従来、高脂肪食による肥満及びメタボリックシンドロームの悪化のメカニズムについては多くのモデルで研究がなされている。しかしながら、高タンパク質食による内臓脂肪蓄積を再現できる食餌性モデルは提案されておらず、タンパク質摂取過剰に起因する内臓脂肪蓄積に関しての研究は進んでいない。動物性タンパク質であるカゼインの高負荷による食餌性モデル(Ann. Nutr. Metab., 50, p.299, 2006)が知られており、カゼイン量とカリウム量が異なる4種類の餌(13LK: 13% casein + Low(0.3%) K; 13HK: 13% casein + High(2%) K; 26LK: 26% casein + Low(0.3%) K; 及び26HK: 26% casein + High(2%) K)が提案されている。しかしながら、このモデルはアシドーシスの研究のために提案されたものであり、内臓脂肪蓄積に至るメカニズムの解析やそれを抑制するメカニズム及び医薬の評価には利用されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Ann. Nutr. Metab., 50, p.299, 2006
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、インスリン抵抗性の改善、脳下垂体や副腎機能の改善、内臓脂肪蓄積の減少(例えば、腸間膜脂肪組織の重量増加の抑制、腸間膜脂肪細胞の大型化抑制)、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下、血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下、血中の尿酸値低下及び視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化などの作用を有する代謝改善剤を提供することにあり、より具体的には、肉食中心のタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常に対して改善作用を有する医薬及び食品を提供することが本発明の課題である。
【0009】
また、本発明の別の課題は、タンパク質過剰摂取による内臓脂肪増加及びメタボリックシンドロームの悪化のメカニズムの解析などに利用可能な高タンパク質負荷による内臓脂肪蓄積を再現できる実験モデル動物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく、アシドーシス病態を再現するモデルとして提案されている高タンパク質食の食餌性モデルであるカゼイン高負荷ラットモデル(Ann. Nutr. Metab., 50, p.299, 2006)において用いられている餌のうち、13%カゼインと低カリウム(0.3%)とを組み合わせた餌(13LK)を摂餌させたラットが、野菜不足と肉食中心の動物性タンパク質過剰摂取に起因する内臓脂肪蓄積を再現できる食餌性のモデルラットとして利用できることを見出した。このモデルラットでは、一週間の摂餌により、腸間膜脂肪細胞が普通食(植物性の大豆タンパク質中心の食餌)に比べて有意に大型化する。
【0011】
さらに、本発明者らは、上記のモデルラットを用いてインスリン抵抗性の改善、脳下垂体や副腎機能の改善、及び内臓脂肪組織の減少などの作用を有する代謝改善剤を提供すべく鋭意研究を行ったところ、アルカリ化剤、好ましくはクエン酸塩がインスリン抵抗性の改善、脳下垂体や副腎機能の改善、内臓脂肪蓄積の減少(例えば、腸間膜脂肪組織の重量増加の抑制、腸間膜脂肪細胞の大型化抑制)、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下、血中の尿酸値低下、血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下及び視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化などの代謝異常の改善作用を有しており代謝改善剤として有用であること、並びに上記の代謝改善剤が特に肉食を中心とした動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常の改善、例えばメタボリックシンドロームの改善に有効であることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明により、アルカリ化剤(例えば、アシドーシス改善剤、尿アルカリ化剤)を有効成分として含む代謝改善剤が提供される。
【0013】
本発明の好ましい態様によれば、アルカリ化剤がクエン酸塩である上記の代謝改善剤;クエン酸塩を有効成分として含む上記の代謝改善剤;クエン酸ナトリウムとクエン酸カリウムの混合物を有効成分として含む上記の代謝改善剤;クエン酸ナトリウム水和物とクエン酸カリウムの混合物を有効成分として含む上記の代謝改善剤が提供される。
【0014】
さらに本発明の好ましい態様によれば、代謝改善がインスリン抵抗性の改善である上記の代謝改善剤;代謝改善が脳下垂体機能改善(例えば、血中ACTHの増加抑制)である上記の代謝改善剤;代謝改善が副腎機能改善(例えば、血中及び/又は尿中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)増加抑制)である上記の代謝改善剤;代謝改善が視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化である上記代謝改善剤(例えば、副腎皮質からのグルココルチコイド(例えば、コルチゾール)の分泌の抑制;血中ACTH量に対する血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の比(血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量/血中ACTH量)に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の低下;血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する血中ACTH量の比(血中ACTH量/血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量)の増加);代謝改善が内臓脂肪蓄積の減少(例えば、腸間膜脂肪組織の重量増加の抑制、腸間膜脂肪細胞の大型化抑制)である上記の代謝改善剤;代謝改善が体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制である上記代謝改善剤;代謝改善が血糖値低下である上記代謝改善剤;代謝改善が血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下である上記代謝改善剤;代謝改善が血中の尿酸値低下である上記代謝改善剤;代謝改善がタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常の改善である上記の代謝改善剤;代謝改善がタンパク質過剰摂取に起因する肥満における代謝異常の改善である上記の代謝改善剤;代謝改善がメタボリックシンドロームの予防及び/又は改善である上記の代謝改善剤;代謝改善が代謝性アシドーシスの予防及び/又は改善である上記の代謝改善剤;タンパク質過剰摂取に起因する肥満における代謝異常の改善により肥満の予防及び/又は治療のために用いる上記の代謝改善剤;医薬である上記の代謝改善剤;食品である上記の代謝改善剤が提供される。
【0015】
別の観点からは、本発明により、上記の代謝改善剤の製造のためのアルカリ化剤、好ましくはクエン酸塩の使用;ヒトを含む哺乳類動物において代謝を改善する方法であって、有効量のクエン酸塩をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。
【0016】
さらに別の観点からは、本発明により、野菜の摂取不足と動物性タンパク質の過剰摂取による内臓脂肪蓄積を伴うモデル動物の作製方法であって、13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた食餌をラットに摂餌させる方法が提供される。この発明の好ましい態様では、動物がラットであり、摂餌を好ましくは1ないし4週間継続することができる。
【0017】
さらに本発明により、上記のモデル動物、好ましくはモデルラットを用いてタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善剤をスクリーニングする方法;上記のモデル動物、好ましくはモデルラットを用いてメタボリックシンドロームに対する予防及び/又は治療作用を有する医薬をスクリーニングする方法、及び、上記のモデル動物、好ましくはモデルラットを用いてタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善剤又はメタボリックシンドロームに対する予防及び/又は治療作用を有する医薬の有効性を判定する方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の代謝改善剤は、インスリン抵抗性の改善、脳下垂体機能改善(例えば、血中ACTH量の増加抑制又は低下)、副腎機能の改善(例えば、血中及び/又は尿中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の増加抑制又は低下)、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化(例えば、副腎皮質からのグルココルチコイド(例えば、コルチゾール)の分泌抑制;血中ACTH量に対する血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の比(血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量/血中ACTH量)に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の低下;血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する血中ACTH量の比(血中ACTH量/血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量)の増加)、内臓脂肪蓄積の減少(例えば、腸間膜脂肪組織の重量増加の抑制、腸間膜脂肪細胞の大型化抑制)、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下又は増加抑制、血中インスリン量の増加抑制又は低下、血中の尿酸値の増加抑制又は低下、及び血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下などの代謝異常の改善作用を有しており、例えば、タンパク質の過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善剤として有用であり、特に、野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常の改善やメタボリックシンドロームの予防及び/又は治療に有効である。また、本発明の代謝改善剤は、タンパク質の過剰摂取、好ましくは野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常を改善することやメタボリックシンドロームの予防及び/又は治療に有用である。
【0019】
また、本発明により提供されるモデル動物、好ましくはモデルラットは、代謝異常、例えば、内臓脂肪の増加(例えば、腸間膜脂肪組織の重量の増加、腸間膜脂肪組織のサイズの増加)による肥満を再現することができるモデル動物であり、インスリン抵抗性を惹起することができるモデル動物であり、脳下垂体機能異常(例えば、血中ACTHの増加)を惹起することができるモデル動物であり、副腎機能の異常(例えば、血中及び/又は尿中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)増加)を惹起することができるモデル動物であり、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進(例えば、副腎皮質からのグルココルチコイド(例えば、コルチゾール)の分泌増加;血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する血中ACTH量の比(血中ACTH量/血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量)に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の低下;血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する、血中ACTH量に対する血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の比(血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量/血中ACTH量)の増加)を惹起することができるモデル動物であり、体液(例えば、血液、尿)の酸性化を惹起することができるモデル動物であり、血中インスリン量の増加を惹起することができるモデル動物であり、血中レプチン量の増加を惹起することができるモデル動物であり、血中尿酸値増加を惹起することができるモデル動物であり、及び/又は血糖値異常を惹起することができるモデル動物である。
【0020】
好ましくは、野菜の摂取不足と肉食中心の動物性タンパク質摂取量の増加に起因する代謝異常の状態を再現できる食餌性のモデル動物であり、野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常を伴う内臓脂肪の増加(例えば、腸間膜脂肪組織の重量の増加、腸間膜脂肪細胞の大型化)を再現することができるモデル動物であり、メタボリックシンドロームの状態を再現できるモデル動物であり、タンパク質の過剰摂取に起因する代謝異常、特には野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常に対して改善作用を有する医薬のスクリーニングや上記医薬の有効性確認のほか、動物性タンパク質過剰摂取に起因する内臓脂肪蓄積(例えば、腸間膜脂肪組織の重量の増加、腸間膜脂肪細胞の大型化)のメカニズムの解明、メタボリックシンドロームの発症メカニズムの解明などのために使用することができるモデル動物である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】ヒト副腎皮質癌細胞株を用い、培養液pHを調節して細胞周囲の環境を酸性側にすることで、グルココルチコイド(コルチゾール)の放出が増加することを確認した結果を示した図である。Mean±SD (n=9), *p<0.05, **p<0.01, ***p<0.001 vs pH 7.3, NS: not significant (1-way ANOVA, Dunnett)
図2】13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた肉食野菜不足を模倣した食餌(13LK)をラットに自由摂餌させた際の体重変化及びエネルギー摂取変化を示した図である。CRF-1(標準飼料群)、Mean±SD, *p<0.05, ***p<0.001 vs CRF-1 (2-way ANOVA with repeated measurement, Bonferroni)
図3】13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた肉食野菜食を模倣した食餌(13LK)をラットに自由摂餌させた際の(a)体重、脂肪組織重量、脂肪細胞サイズ、(b)脂肪細胞遺伝子発現、(c)尿pH、(d)血液pH、(e)血液HCO3 -、及びBase excessの変化を示した図である。CRF-1(標準飼料群)、Mean±SD, *p<0.05, ***p<0.001 vs CRF-1 (1-way ANOVA, Dunnett), §p<0.05 vs CRF-1 (Mann-Whitney U)
図4】13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた肉食野菜不足を模倣した食餌(13LK)をラットに自由摂餌させた際の(e)尿中グルココルチコイド(コルチコステロン)一日排泄量の変化及び尿中pH変化との相間を示した図である。CRF-1(標準飼料群)、Mean±SD, **p<0.01 vs CRF-1 (1-way ANOVA, Dunnett)
図5】13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた肉食野菜不足を模倣した食餌(13LK)をラットに自由摂餌させた際の血中グルココルチコイド(コルチコステロン)及び血中ACTHの変化を両パラメータの日内変動を考慮してMorning(非活動期)とEvening(活動期)で比較した図である。CRF-1(標準飼料群)、Mean±SD, *p<0.05, ***p<0.001 vs CRF-1, §§§p<0.001 vs Morning (1-way ANOVA, Dunnett)
図6】本発明のモデルラット(飼料として13LKを一週間にわたり自由摂餌)を用いて、クエン酸塩の作用を確認した結果を示した図である。13LK(薬物非投与群)、13LK+K/NaCit(クエン酸塩投与群)、Mean±SD, #p<0.05, ##p<0.01, ###p<0.001 vs 13LK (1-way ANOVA, Dunnett)
図7】本発明のモデルラット(飼料として13LKを一週間にわたり自由摂餌)を用いて、クエン酸塩の作用を確認した結果を示した図である。13LK(薬物非投与群)、13LK+K/Na Cit (クエン酸塩投与群)、Mean±SD, #p<0.05, ###p<0.001 vs 13LK, §§§p<0.001 vs Morning (1-way ANOVA, Dunnett)
図8】本発明のモデルラット(飼料として13LKを一週間にわたり自由摂餌)、本発明のモデルラットにクエン酸塩を投与したラット、及び標準飼料を飼料として一週間自由摂取させたラットにおける血中のグルココルチコイド(コルチコステロン:CORT)濃度と血中のACTH濃度の比(CORT/ACTH及びACTH/CORT)をMorning(非活動期)とEvening(活動期)で比較した図である。CRF-1(標準飼料群)、13LK(薬物非投与群)、13LK+K/Na Cit (クエン酸塩投与群)、Mean±SD,§p<0.05 vs Morning (1-way ANOVA, Dunnett)
図9】本発明のモデルラット(飼料として13LKを一週間にわたり自由摂餌)、本発明のモデルラットにクエン酸塩を投与したラット、及び標準飼料を飼料として一週間自由摂取させたラットにおける血中のグルココルチコイド(コルチコステロン:CORT)濃度及び血中のACTH濃度の比(CORT/ACTH及びACTH/CORT)とコルチコステロンの相関を示した図である。CRF-1(標準飼料群)、13LK(薬物非投与群)、13LK+K/Na Cit (クエン酸塩投与群)
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の代謝改善剤は、有効成分としてアルカリ化剤を含むことを特徴としている。アルカリ化剤としては、例えば、クエン酸塩、重炭酸ナトリウムなどを使用することができるがこれらに限定されることはない。2種以上のアルカリ化剤の混合物を用いてもよい。クエン酸の塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム(例えば、C6H5Na3O7・2H2O)又はクエン酸カリウム(例えば、C6H5K3O7・H2O)などを用いることができるが、これらに限定されることはない。クエン酸塩は任意の水和物又は溶媒和物であってもよい。
【0023】
また、本発明の医薬の有効成分であるアルカリ化剤として、2種以上のクエン酸塩の任意の混合物を用いることも可能である。例えば、クエン酸ナトリウムとクエン酸カリウムの混合物を用いることもできる。この場合に、例えば、クエン酸ナトリウム水和物とクエン酸カリウムとの組み合わせを用いてもよい。このような有効成分を含む医薬としては、1錠中にクエン酸カリウムを231.5mg、クエン酸ナトリウム水和物を195.0mg含む錠剤を本発明の代謝改善剤として使用することもできる。
一つの実施態様において、本発明が提供する代謝改善剤は、クエン酸塩(例えば、クエン酸ナトリウム及び/又はクエン酸カリウム)に加えて、クエン酸(例えば、無水クエン酸)を含んでもよい。
【0024】
本発明の代謝改善剤は、インスリン抵抗性の改善、脳下垂体機能改善、副腎機能の改善、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化、内臓脂肪蓄積の減少、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下、血中の尿酸値低下及び血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下など代謝改善作用を有している。本発明の代謝改善剤の作用は、例えば、本明細書の実施例に具体的に示した方法により確認することができる。より具体的には、野菜摂取量の低下と肉食中心の動物性タンパク質摂取量の増加に起因する内臓脂肪増加の状態を再現できる本発明のモデル動物、好ましくはモデルラットを用いて、インスリン抵抗性の改善、脳下垂体機能改善、副腎機能の改善、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化、内臓脂肪蓄積の減少、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下、血中インスリン量の低下、血中レプチン量の低下、血中の尿酸値低下及び血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下などを確認することができる。
【0025】
本発明の代謝改善剤は、例えば、タンパク質の過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善剤として使用することができる。好ましくは、野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常の改善やメタボリックシンドロームの予防及び/又は治療に有効である。メタボリックシンドロームは、内臓脂肪蓄積に加え、以下のi)~iii):i)血清脂質異常、ii)血圧高値、iii)高血糖のうちの2つの症状を呈する病態である。また、本発明の代謝改善剤は、タンパク質の過剰摂取、好ましくは野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常を改善することにより、タンパク質の過剰摂取に起因する肥満に対する予防及び/又は治療のために使用することもできる。
【0026】
本発明の代謝改善剤の投与対象は、メタボリックシンドロームに罹患しているヒト、内臓脂肪の蓄積が認められるヒト、内臓脂肪レベルが高いヒト又は代謝性アシドーシスに罹患しているヒトであり得る。例えば、本発明の代謝改善剤の投与対象は、尿が酸性化されたヒト(例えば、尿のpHが4.0以上6.2未満のヒト)、尿酸値が高いヒト(例えば、血中尿酸値が6.0~7.0mg/dLのヒト、血中尿酸値が7.0mg/dL以上のヒト)、血圧が高いヒト(例えば、収縮期血圧が130~180mmHg又は拡張期血圧が85~109mmHgのヒト)、血糖値が高いヒト(例えば、空腹時血糖値が100mg/dL~126mg/dL又は126mg/dL以上のヒト)、又は血中中性脂肪値が高いヒト(例えば、血中中性脂肪量が100mg/dL~149mg/dL又は150mg/dL以上のヒト)であり得る。本発明の代謝改善剤を投与した結果、本発明の代謝改善剤は、インスリン抵抗性の改善又はインスリン抵抗性の増悪の抑制、脳下垂体機能改善、副腎機能の改善、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化、内臓脂肪蓄積の減少、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下又は血糖値増加の抑制、血中の尿酸値低下又は血中の尿酸値増加の抑制、及び血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下など代謝改善作用を発揮することができる。内臓脂肪レベルは、当業者により適切に判断され得、例えば、オムロン社製の体重体組成計を用いて、同社の判断基準により判断できる。
【0027】
本発明の医薬の投与方法は特に限定されないが、一般的には錠剤、カプセル剤などの固形製剤、あるいは溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などを用いて経口投与により投与することができる。必要に応じて静脈内投与製剤などの非経口投与製剤とすることも可能である。錠剤は、アルカリ化剤の他に薬学的に許容される添加剤(例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤)を含んでもよく、製薬分野において公知の方法により製造することができる。例えば、錠剤は、アルカリ化剤を、賦形剤(例えば、乳糖、D-マンニトール、結晶セルロース、ブドウ糖)、崩壊剤(例えば、デンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム(CMC-Ca))、結合剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP))、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク)、及び/又は安定剤(無水クエン酸)等と混合する工程、混合物を打錠する工程を含む方法により製造してもよい。錠剤は素錠であってもフィルムコーティング錠であってもよい。
【0028】
本発明の医薬の投与量も特に限定されないが、タンパク質過剰摂取により尿の酸性化が進行することが知られており、尿の酸性化はタンパク質過剰摂取による代謝異常を示す指標となる可能性が示唆されているので、尿の酸性化の改善、好ましくは尿のアルカリ化(例えば尿検査でpH6.5以上の範囲に入る尿pH)に必要な投与量を選択することが一般的には好ましい。例えば、尿アルカリ化剤としてクエン酸塩を用いる場合には、クエン酸カリウム・クエン酸ナトリウム水和物配合剤として一日あたり1~10g(例えば、1~6g)、好ましくは一日あたり3~6g程度の投与量とすることができるが、この投与量に限定されることはなく、改善すべき代謝異常の種類や患者の体重や年齢などに応じて適宜増減することができる。
【0029】
本発明の代謝改善剤の有効成分は、食品としても使用してもよい。本発明が提供する食品は、例えば、タンパク質の過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善作用を有する食品として、又は体液酸性化に起因する代謝異常に対する改善作用を有する食品として有用である。
【0030】
食品は疾病の治療又は予防を目的としない範囲において、ヒト又はその他の哺乳動物(例えば、健常なヒト、健常な哺乳動物)に摂取され得る。本発明が提供する食品を摂取する対象の例としては、野菜の摂取が不足しがちな健常人、タンパク質の多い食事を摂りがちな健常人、タンパク質の摂取が多くなりがちの健常人、野菜の摂取が不足しがちで、タンパク質の多い食事を摂りがちな健常人、野菜の摂取が不足しがちで、タンパク質の摂取が多くなりがちの健常人、野菜の摂取が不足している健常人、動物性タンパク質の摂取が過剰である健常人、野菜の摂取が不足しており、動物性タンパク質の摂取が過剰である健常人、内臓脂肪レベルが高い健常人、内臓脂肪の蓄積が認められる健常人、肥満気味のヒト(例えば、BMIが23~30のヒト、又はBMIが25~30のヒト)、内臓脂肪型肥満である健常人、体液が酸性化している健常人(例えば、尿が酸性化している健常人(例えば、尿のpHが4.5~6.0、5.0~6.0又は5.5~6.0の健常人))、血圧が高めの健常人(例えば、収縮期血圧130mmHg~139mmHg又は拡張期血圧85mmHg~89mmHgである健常人)、血糖値が高めの健常人(例えば、空腹時血糖値が正常高値(例えば、100mg/dL~110mg/dL)の健常人)、血中中性脂肪値が高めの健常人(例えば、血中中性脂肪量が100mg/dL~149mg/dLの健常人)、及び尿酸値が高めの健常人(例えば、血中尿酸値が6.0~7.0mg/dLの健常人)が挙げられる。本発明が提供する食品を摂取する対象の更なる例としては、以下のi)~xi):i)タンパク質(例えば、動物性タンパク質)の摂取が過剰である、ii)内臓脂肪レベルが高い、iii)内臓脂肪の蓄積が認められる、iv)肥満気味(例えば、BMIが23~30、又はBMIが25~30)、v)内臓脂肪型肥満、vi)体液が酸性化している(例えば、尿のpHが4.5~6.0、5.0~6.0又は5.5~6.0)、vii)血圧が高め(例えば、収縮期血圧130mmHg~139mmHg又は拡張期血圧85mmHg~89mmHgである)、viii)血糖値が高め(例えば、空腹時血糖値が正常高値(例えば、100mg/dL~110mg/dL))、ix)血中中性脂肪値が高め(例えば、血中中性脂肪量が100mg/dL~149mg/dL)、x)尿酸値が高め(例えば、血中尿酸値が6.0~7.0mg/dL)、及びxi)野菜の摂取が不足している、からなる特性の少なくとも1つを有するヒト(例えば、健常人)が挙げられる。なお、タンパク質の摂取量が多いか否かは、例えば、日本人の食事摂取基準(2015年版)(厚生労働省)を参考にしてもよい。
【0031】
本発明が提供する食品を摂取することにより、本発明の代謝改善剤と同じ効果を得ることができる。本発明が提供する食品を摂取することにより得られる効果の例としては、インスリン抵抗性の改善又はインスリン抵抗性の増悪の抑制、脳下垂体機能改善(例えば、血中ACTH量の増加抑制又は低下)、副腎機能の改善(例えば、血中及び/又は尿中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の増加抑制又は低下)、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化(例えば、副腎皮質からのグルココルチコイド(例えば、コルチゾール)の分泌抑制;血中ACTH量に対する血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の比(血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量/血中ACTH量)に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量の低下;血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する、血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量に対する血中ACTH量の比(血中ACTH量/血中グルココルチコイド(例えば、コルチゾール)量)の増加)、内臓脂肪蓄積の減少(例えば、腸間膜脂肪組織の重量増加の抑制、腸間膜脂肪細胞の大型化抑制)、体液(例えば、血液、尿)の酸性化の抑制、血糖値低下又は血糖値増加の抑制、血中の尿酸値低下又は血中の尿酸値増加抑制、血中のインスリン量の低下又は血中のインスリン量の増加抑制、血中のレプチン量低下又は血中のレプチン量増加抑制、血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下、及びそれらの組み合わせが挙げられる。
【0032】
食品の形態としては、経口的に摂取可能な形態であれば特に限定されず、サプリメントであっても、一般の食品の形態であってもよい。一般の食品の例としては、飲料(例えば、ジュース等の果汁又は野菜エキスを含む飲料、紅茶飲料、スポーツ飲料、ニアウォーター、ダイエット飲料)、飴、ゼリー、グミ、及びガムが挙げられる。本発明が提供する食品は、食品の種類により当業者が適宜製造でき、例えば、食品素材にアルカリ化剤を配合することにより製造してもよい。食品に含まれるアルカリ化剤の含量についても、当業者が適宜設定でき、例えば、アルカリ化剤としてクエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウム水和物の混合物を使用する場合、クエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウム水和物を合計で1日当たり1~10g(例えば、1~6g)、好ましくは1日当たり1~3g摂取するように食品中にクエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウム水和物を含ませてもよい。本発明が提供する食品が錠剤のサプリメントである場合、例えば、1錠当たり、300mg~600mgの錠剤に、70~80重量%のアルカリ化剤(例えば、クエン酸カリウム及びクエン酸ナトリウム水和物)を含むように、上記医薬における錠剤の製造方法に準じて製造してもよい。アルカリ化剤が、クエン酸カリウム及び/又はクエン酸ナトリウム水和物である場合、本発明が提供する食品は、更にクエン酸(例えば、無水クエン酸)を含んでもよい。
【0033】
本発明が提供する実施態様の例としては、以下が挙げられる。
(1)アルカリ化剤を有効成分として含む代謝改善剤。
(2)アルカリ化剤がクエン酸塩、又は重炭酸ナトリウムである(1)に記載の代謝改善剤。
(3)アルカリ化剤がクエン酸塩、又は2種以上のクエン酸塩の混合物である(1)に記載の代謝改善剤。
(4)代謝改善がタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常の改善である(1)ないし(3)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(5)代謝改善がタンパク質過剰摂取に起因する肥満における代謝異常の改善である(1)ないし(3)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(6)代謝改善がメタボリックシンドロームにおける代謝異常の改善である(1)ない
し(3)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(7)代謝改善が代謝性アシドーシスにおける代謝異常の改善である(1)ないし(3)のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0034】
(8)タンパク質過剰摂取に起因する肥満における代謝異常の改善により肥満の予防及び/又は治療のために用いる(1)ないし(7)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(9)代謝改善剤が、インスリン抵抗性改善剤、体液酸性化抑制剤、血糖低下剤、内臓脂肪蓄積の減少剤、及び/又は血中中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量低下剤である、(1)ないし(8)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(10)代謝改善剤が、血中ACTHの増加抑制剤又は血中及び/又は尿中グルココルチコイドの増加抑制剤である、(1)ないし(9)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(11)代謝改善剤が、血中ACTHの低下剤又は血中及び/又は尿中グルココルチコイドの低下剤である、(1)ないし(9)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(12)代謝改善剤が、視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化剤である、(1)ないし(11)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(13)視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進の正常化が、副腎皮質からのグルココルチコイドの分泌抑制;血中グルココルチコイド量に対する、血中グルココルチコイド量に対する血中ACTH量の比(血中ACTH量/血中グルココルチコイド量)の増加;又は血中ACTH量に対する血中グルココルチコイド量の比(血中グルココルチコイド量/血中ACTH量)に対する、血中グルココルチコイド量の低下である、(12)に記載の代謝改善剤。
(14)代謝改善剤が哺乳動物(例えば、ヒト)に投与又は摂取された結果、血中のインスリン量が低下する、血中の尿酸値が低下する及び/又は血中のレプチン量が低下する、(1)ないし(13)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(15)食品である、(1)ないし(14)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(16)内臓脂肪レベルが高いヒトに投与又は摂取される、(1)ないし(15)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(17)下記i)~vi):i)BMIが23以上30以下、ii)血糖値が高め、iii)血圧が高め、iv)血中中性脂肪量が高め、v)血中尿酸値が高め、又はvi)i)~v)の組み合わせ、である特性を有する人に投与又は摂取される、(1)ないし(16)のいずれかに記載の代謝改善剤。
(18)体液が酸性化しているヒト(例えば、動物性タンパク質の過剰摂取により体液(例えば、尿)が酸性化しているヒト)に投与又は摂取される、(1)ないし(17)のいずれかに記載の代謝改善剤。
【0035】
(19)動物性タンパク質の過剰摂取と野菜の摂取不足(低カリウム負荷)による内臓脂肪蓄積を伴うモデル動物の作製方法であって、13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた食餌をラットに摂餌させる方法。
(20)(19)に記載のモデル動物を用いてタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善剤をスクリーニングする方法。
(21)(19)に記載のモデル動物を用いてタンパク質過剰摂取に起因する代謝異常に対する改善剤の有効性を判定する方法。
【0036】
本発明により提供されるモデル動物は、野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常を伴う内臓脂肪の蓄積を再現したモデル動物として、例えば、タンパク質の過剰摂取に起因する代謝異常、特には野菜の摂取不足と動物性タンパク質の摂取過剰に起因する代謝異常に対して改善作用を有する医薬や、メタボリックシンドロームに対して予防及び/又は治療作用を有する医薬のスクリーニングや上記医薬の有効性確認のために使用することができるが、本発明のモデル動物の用途は上記の特定の用途に限定されることはない。本発明のモデル動物としては、好ましくはモデルラットを用いることができる。ラットを用いる場合、13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた食餌を通常は1~4週間にわたり自由摂餌させることにより、本発明のモデルラットを作製することができるが、摂餌の方法や期間は目的とする内臓脂肪組織量、体液(例えば血液、尿)の酸性度、血糖値および血中の中性脂肪(例えば、トリグリセリド)量の程度などの要因に応じて適宜変更することができる。
【0037】
本発明により提供される上記のモデル動物は、従来の肥満研究のモデル動物である高脂肪食負荷モデル動物やトランスジェニックモデル動物が肥満発症までに1~数か月を要するのに比べて、短期間で内臓脂肪組織に変化が生じるという特徴がある。本発明のモデル動物では、1週間程度の摂餌後において、体重では対照群との間に差がない状況であっても、内臓脂肪組織では11βHSD-1 mRNA発現が増加し、内臓脂肪組織の重量増加と細胞サイズの増大が観察され、さらに2週間程度で明確なインスリン抵抗性などのメタボリックシンドロームの諸症状が認められる。いかなる特定の理論に拘泥するわけではないが、本発明のモデル動物の病態発症機序は、生体環境の酸性側への偏りに起因した副腎皮質からのグルココルチコイド過剰分泌であると考えられ、肥満形成の初期段階においてはこの副腎皮質からのグルココルチコイド過剰分泌がトリガーとなって内臓脂肪が蓄積し肥満発症に繋がるものと考えられる。また、クエン酸塩などのアルカリ化剤の投与により、本発明のモデル動物におけるメタボリックシンドロームの進行が抑制されることも上記の肥満発症メカニズムをサポートするものと理解される。
【実施例0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例により限定されることはない。
【0039】
例1
アシドーシス病態を再現できる高タンパク質食の食餌性モデルであるカゼイン高負荷ラットモデル(Ann. Nutr. Metab., 50, p.299, 2006)の食餌を改良することにより肥満モデルを製造できるか否かを以下の方法により検討した。
【0040】
それに先立ち、McCarty(McCarty MF. Acid-base balance may influence risk for insulin resistance syndrome by modulating cortisol output. Med. Hypotheses 64: 380-384, 2005)は、アシドーシスがグルココルチコイドの産生を促進すること、クッシング症候群では内臓肥満が認められること、及びグルココルチコイド活性体への変換酵素11β-HSD1が内臓脂肪蓄積に関与することを報告していることから、作用点を明らかにすべく、イン・ビトロ系でグルココルチコイド(コルチゾール)放出のターゲット細胞であるヒト副腎皮質癌細胞株を用い、培養液pHを調節して細胞周囲の環境を酸性側にすることで、コルチコイドの放出が増加することを確認した(図1)。
【0041】
ラット(Wistar、雄性、n=9、5週齢、Charles River Laboratories Japan, Inc.)に13%カゼインと0.3%カリウムとを組み合わせた食餌(13LK)を4週間にわたり自由摂餌させた。対照群として植物性タンパク質中心の標準飼料(CFR-1、オリエンタル酵母株式会社製)を同様に摂餌させた。1週間後の体重に変化は認められなかったが(図2)、1週間後の尿pH、血液pH、HCO3 -、及びBase excess (BE)の低下が観察された(図3の(c)及び(d))。一方、尿中グルココルチコイド(コルチコステロン)は増加し、尿pHとの間には負相関がみられた(図4の(e))。この結果は、生体内pHの変化が生体内グルココルチコイド動態に影響を及ぼしていることを示している。
【0042】
また、血中コルチコステロンにも増加がみられ、血中ACTH増加も観察された(活動期、図5)。内臓脂肪(腸間膜脂肪)は対照群と比べて重量が増加し、細胞サイズも増大した(図3の(a))。腸間膜脂肪における11β-HSD1 mRNA発現も上昇した(図3の(b))。さらに、血中レプチンがCRF-1群(n=10):0.38±0.19ng/mL、13LK群(n=10):2.13±0.31ng/mLと有意に増加しており、血中インスリン、血糖値、及びHOMA-R値の上昇もみられ、メタボリックシンドロームの症状が認められた(表1)。血中尿酸値の上昇も認められた。
【0043】
【表1】
【0044】
この結果は、グルココロチコイドがサバイバルホルモンと呼ばれており、氷河期(飢餓状態)を生き抜くために授かった脂肪蓄積(=飢餓の回避)に関与するという仮定にも一致する。以上のように、13LKを飼料として調製した本発明のモデルラットが新たなメタボリックシンドロームモデル動物として、特に野菜不足と動物性タンパク質の過剰摂取により生じる内臓脂肪蓄積のモデル動物として有用であることが証明された。また、生体酸性化とそれに伴う副腎皮質からの過剰なグルココルチコイド分泌に端を発して内臓肥満やメタボリックシンドロームへと進展する一連の流れや病態機序が解明された。
【0045】
例2
例1で調製した本発明のモデルラット(飼料として13LKを一週間にわたり自由摂餌)を用いて、クエン酸塩の代謝改善作用を以下の方法により確認した。クエン酸塩を含む水溶液(100mL中に370mgのクエン酸カリウム及び312mgのクエン酸ナトリウム水和物を含む水溶液)を調製して上記モデルラットに一週間の飲水投与を行い(薬物投与群:13LK+K/Na Cit)、薬物非投与群(13LK)との比較を行った。一週間で投与群と非投与群との間に体重変化は認められなかった(図6(a))。
【0046】
例1と同様にして各生化学パラメータの変化を確認したところ、薬物投与群において尿pH、血液pHの上昇とともに血液HCO3 - 及びBEの上昇が観察された(図6(c)及び(d))。さらに、薬物投与群では尿中グルココルチコイド(コルチコステロン)の低下のみならず、血中グルココルチコイド(コルチコステロン)も低下し、血中ACTHも低下した(Evening:活動期、図6(e)及び図7)。腸間膜脂肪は薬物非投与群と比べて重量に変化はみられなかったが、細胞サイズには増大抑制が観察された(図6(a))。腸間膜脂肪での11β-HSD1 mRNA発現に影響は及ぼさなかった。また、血中インスリン及びHOMA-R値は低下し、血中レプチンは13LK群(n=10):2.13±0.31ng/mL、K/Na Cit群(n=9):1.20±0.77ng/mLであり、薬物投与群は薬物非投与群群に比較して有意に低下した。薬物非投与群に比較し薬物投与群では、血中トリグリセリドの低下、血糖の低下及び尿酸値の低下が示された。以上の結果から、クエン酸塩はメタボリックシンドロームの諸症状において代謝改善作用を示した。
【0047】
また、コルチコステロン(CORT)分泌能(CORT/ACTH比,一定のACTH分泌に必要なCORT濃度)、ACTH分泌能(ACTH/CORT比,一定のCORT分泌に必要なACTH濃度)を3群で比較した(図8)。先ず、CORT/ACTH比は、朝(9:30-10:30)に比較して夕方(16:30-17:30)でかなりの高値を示し、ACTH/CORT比は、朝に比較して夕方では安定した低値を示した(図8)。ここで、例えば、クエン酸塩投与群(13LK+K/Na Cit群)が脳下垂体からのACTH分泌を抑制したとすると、同じACTH量を分泌させるためのCORT濃度は増加する必要があるのでCORT/ACTH比は増加し、一方、クエン酸塩投与群(13LK+K/Na Cit群)が副腎皮質からのCORT分泌を抑制したとすると、同じCORT量を分泌させるためのACTH濃度は増加する必要があるので、ACTH/CORT比は増加すると考えられる。実際のところ、CORT/ACTH比は朝夕ともに3群間に違いはないこと、ACTH/CORT比は、夕方は3群間に違いはないが、朝では、13LK群に比較して13LK+K/Na Cit群、CRF-1群では明らかに高値を示した(高値を示す個体が多くみられた)(図8)。このことから、クエン酸塩投与が脳下垂体からのACTH分泌を抑制する可能性は少なく、副腎皮質からのCORT分泌を抑制した結果であると考えられる。
【0048】
実際に3群間で、「実際のCORT分泌量とCORT分泌能」、「実際のCORT分泌量とACTH分泌能」を解析すると、図9の上段(A)では、直線の傾きが異なり、「13LK群ではCORT分泌能が低くても、実際のCORT分泌量は高く、クエン酸塩投与によるCORT分泌の低下により、正常群レベルに復すること」が理解できる。また、図9の下段(B)では、群によってplot分布が異なり、「13LKでは、実際のCORT分泌量が低値を示す個体は存在しないが、クエン酸塩投与によるCORT分泌の低下により、ACTH分泌能が上昇する個体が出現し、正常群レベルに復したこと」が理解できる(図9)。クエン酸塩の投与により、13LK群で見られる視床下部-下垂体-副腎皮質系(HPA axis)の亢進が正常化したと理解できる。
【0049】
【表2】
【0050】
例3
例1で調製した本発明のモデルラット(飼料として13LKを一週間にわたり自由摂餌)を用いて、アルカリ化剤としてクエン酸塩又は重炭酸ナトリウムを投与し、尿pH及び尿中グルココルチコイド(コルチコステロン)排泄量を確認した結果を表3に示す。対照群に比べてクエン酸塩投与群及び重炭酸ナトリウム投与群のいずれにおいても尿pHが上昇し、コルチコステロン排泄量が低下した。
【0051】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9