IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 出光興産株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-正極合材及びリチウムイオン電池 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026930
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】正極合材及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240221BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240221BHJP
   H01M 4/136 20100101ALI20240221BHJP
   H01M 4/1397 20100101ALI20240221BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/62 Z
H01M4/136
H01M4/1397
H01M4/38 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129480
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 悠
(72)【発明者】
【氏名】樋口 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】藤井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】羽二生 大和
(72)【発明者】
【氏名】山口 展史
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA13
5H050EA08
5H050FA13
5H050FA16
5H050GA02
5H050GA10
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン電池のレート特性を向上できる正極合材を提供する。
【解決手段】硫化物固体電解質と、平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、ラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、材料Aの細孔内の少なくとも一部に存在する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の少なくとも一方と、を含み、材料A及びBの合計質量(A+B)に対する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計質量(S)の比[S/(A+B)]が、2.5以上である、正極合材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫化物固体電解質と、
平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、
ラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、
前記材料Aの細孔内の少なくとも一部に存在する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の少なくとも一方と、を含み、
前記材料A及びBの合計質量(A+B)に対する、前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計質量(S)の比[S/(A+B)]が、2.5以上である、正極合材。
【請求項2】
前記材料Aと、前記材料Bと、前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計質量の比(A:B:S)が、5~15:1~10:30~50である、請求項1に記載の正極合材。
【請求項3】
前記材料Aの平均細孔半径が5nm未満である、請求項1又は2に記載の正極合材。
【請求項4】
前記材料Aが多孔質炭素材料である、請求項1~3のいずれかに記載の正極合材。
【請求項5】
前記材料Bのミクロ細孔量が0.1cc/g以下である、請求項1~4のいずれかに記載の正極合材。
【請求項6】
前記材料Bが炭素繊維である、請求項1~5のいずれかに記載の正極合材。
【請求項7】
前記材料Aのラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6未満である、請求項1~6のいずれかに記載の正極合材。
【請求項8】
前記材料Aと前記材料Bの合計細孔体積が1.0cc/g以上である、請求項1~7のいずれかに記載の正極合材。
【請求項9】
前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計含有量が、前記材料Aと前記材料Bの合計質量1gに対し1.0cc以上である、請求項1~8のいずれかに記載の正極合材。
【請求項10】
前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計含有量が、前記材料Aと前記材料Bの全細孔体積の70%以上である、請求項1~9のいずれかに記載の正極合材。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の正極合材を含む、リチウムイオン電池用正極。
【請求項12】
請求項11に記載のリチウムイオン電池用正極を含む、リチウムイオン電池。
【請求項13】
平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、単体硫黄とを、前記単体硫黄の融点以上の温度で加熱して、材料A-単体硫黄複合粉末とする工程と、
前記材料A-単体硫黄複合粉末と、ラマン測定におけるGバンドの面積/Dバンドの面積が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、硫化物固体電解質と、を混合して、正極合材とする工程を含む、正極合材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極合材及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体リチウムイオン電池の電気容量について、理論容量が大きいことから、硫黄を正極に用いる方法が検討されている。しかしながら、硫黄は電子伝導性及びリチウムイオン伝導性が低いため、高電流密度における放電容量が小さい(レート特性)という課題がある。
【0003】
上記課題に対し、活性炭に硫黄を含浸させたのち、固体電解質と複合化した硫黄正極合材が検討されている(例えば、特許文献1、2参照)。また、気相成長カーボンファイバ(VGCF)のような繊維状の導電助剤と、硫黄を含む化合物を混合した正極合材が開示されている(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、リチウムイオン電池のレート特性のさらなる向上が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6243103号
【特許文献2】特開2020-161288号公報
【特許文献3】特開2021-26838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、リチウムイオン電池のレート特性を向上できる正極合材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の正極合材等が提供される。
1.硫化物固体電解質と、
平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、
ラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、
前記材料Aの細孔内の少なくとも一部に存在する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の少なくとも一方と、を含み、
前記材料A及びBの合計質量(A+B)に対する、前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計質量(S)の比[S/(A+B)]が、2.5以上である、正極合材。
2.前記材料Aと、前記材料Bと、前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計質量の比(A:B:S)が、5~15:1~10:30~50である、1に記載の正極合材。
3.前記材料Aの平均細孔半径が5nm未満である、1又は2に記載の正極合材。
4.前記材料Aが多孔質炭素材料である、1~3のいずれかに記載の正極合材。
5.前記材料Bのミクロ細孔量が0.1cc/g以下である、1~4のいずれかに記載の正極合材。
6.前記材料Bが炭素繊維である、1~5のいずれかに記載の正極合材。
7.前記材料Aのラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6未満である、1~6のいずれかに記載の正極合材。
8.前記材料Aと前記材料Bの合計細孔体積が1.0cc/g以上である、1~7のいずれかに記載の正極合材。
9.前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計含有量が、前記材料Aと前記材料Bの合計質量1gに対し1.0cc以上である、1~8のいずれかに記載の正極合材。
10.前記単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄の合計含有量が、前記材料Aと前記材料Bの全細孔体積の70%以上である、1~9のいずれかに記載の正極合材。
11.1~10のいずれかに記載の正極合材を含む、リチウムイオン電池用正極。
12.11に記載のリチウムイオン電池用正極を含む、リチウムイオン電池。
13.平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、単体硫黄とを、前記単体硫黄の融点以上の温度で加熱して、材料A-単体硫黄複合粉末とする工程と、
前記材料A-単体硫黄複合粉末と、ラマン測定におけるGバンドの面積/Dバンドの面積が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、硫化物固体電解質と、を混合して、正極合材とする工程を含む、正極合材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、リチウムイオン電池のレート特性を向上できる正極合材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で作製した正極合材の断面のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.正極合材
本発明の一実施形態に係る正極合材は、硫化物固体電解質と、平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、ラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、を含む。そして、材料Aの細孔内の少なくとも一部に存在する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の少なくとも一方と、を含み、かつ、材料A及びBの合計質量(A+B)に対する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計質量(S)の比(S/A+B)が、2.5以上である。
【0010】
本実施形態において、材料Aは単体硫黄や単体硫黄の放電生成物を保持するとともに、これらの粒径を小さく保つことで、電子及びイオンをスムーズに供給する機能を有すると推定される。一方、材料Bは高い黒鉛化度に起因する高い電子伝導性により、正極全体への電子伝導性を容易にするため、レート特性の向上に寄与すると推定される。
【0011】
また、本実施形態では材料Aの細孔内の一部に存在する単体硫黄又は単体硫黄の放電生成物と、を含み、かつ、材料A及びBの合計質量(A+B)に対する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計質量(S)の比(S/A+B)が、2.5以上である。本要件は、正極合材に含まれる単体硫黄の量が多いことを意味し、エネルギー密度の高い電池が得られる。
【0012】
一実施形態において、材料Bのアスペクト比は5以上である。形状の異なる2種の材料A及びBを使用することにより、電子伝導性及びイオン伝導性を有さない硫黄に、少量の材料A及びBの添加であっても、均一に電子伝導を付与することができる。また、硫黄をリチウムイオンが供給されやすい微粒化状態に維持できるため、正極合材における硫黄の含有率を高めつつ、電池のレート特性を向上できる。
【0013】
材料Aは細孔を有するため、単体硫黄を高度に分散させることができると推定する。一方、単体硫黄は絶縁性であるため、含有量が多いと正極内の電子移動を阻害する。材料Bのアスペクト比が大きい場合、単体硫黄の含有量が多くても、材料Aと比べて長い距離の電子移動を実現できる。以上の効果から、本実施形態の正極合材を正極に使用したリチウムイオン電池では、レート特性が向上すると推定する。
以下、本実施形態の構成部材について説明する。
【0014】
[材料A]
材料Aは電子伝導性を有し、平均細孔半径が10nm以下である細孔を有する材料であれば特に限定されない。
一実施形態において、材料Aが有する細孔の平均細孔半径は、7nm以下であることが好ましく、5nm未満であることがより好ましく、4nm以下であることがさらに好ましい。平均細孔半径は小さい方がレート特性の向上効果は大きい傾向にある。材料Aが有する細孔の平均細孔半径の下限は特に限定しないが、通常、0.1nm以上である。
【0015】
一実施形態において、材料Aは多孔質炭素材料が好ましい。
多孔質炭素材料の例として、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック、活性炭、クノーベル(登録商標)等が好ましく挙げられる。なかでも、活性炭が好ましい。これらは単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0016】
一実施形態において、材料Aの細孔体積は1.0cc(mL)/g以上であることが好ましい。これにより、保持することが可能な硫黄の量が多くなり、電池のエネルギー密度の向上につながる。材料Aの細孔体積は1.5cc/g以上がより好ましく、さらに2.0cc/g以上が好ましい。電子伝導性材料Aの細孔体積は通常10cc/g以下である。
【0017】
本発明において、平均細孔半径及び細孔体積は、Brenauer-Emmet-Telle(BET)法、BJH法(Barrett- Joyner-Halenda法)により測定することができる。
具体的に、電子伝導性材料Aを液体窒素温度下において、電子伝導性材料Aに窒素ガスを吸着して得られる窒素吸着等温線を用いて求めることができる。
測定装置としては、例えば、Quantacrome社製の比表面積・細孔分布測定装置(Autosorb-3)を用いて測定できる。
【0018】
[単体硫黄]
単体硫黄(硫黄)としては、特に限定はないが、好ましくは純度が95質量%以上であり、より好ましくは96質量%以上であり、特に好ましくは97質量%以上である。
単体硫黄の結晶系としては、α硫黄(斜方晶系)、β硫黄(単斜晶系)、γ硫黄(単斜晶系)、無定形硫黄等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。単体硫黄は、加熱により融液となる。
【0019】
単体硫黄は、電池反応時には一部又は全部が放電生成物に変化する。したがって、一実施形態の正極合材(正極)内においては、単体硫黄の放電生成物が存在する。放電生成物が存在する場合は、正極合材に含まれる硫黄は、単体硫黄と放電生成物に含まれる硫黄の合計量とする。
単体硫黄の放電生成物としては、完全放電状態であるLiS及びその途中段階の多硫化リチウムとしてLi、Li、Li、Li等が挙げられる。
【0020】
正極合材において、単体硫黄の一部又は全部が材料Aの細孔内に含浸している。該細孔内に含浸されない単体硫黄は、材料A及びBの一部又は全体を被覆するようにして存在している。材料Aの細孔内に硫黄が含浸されているかどうかは、材料Aの粒子断面をSEM-DESやTEM-EDX等の元素マッピング可能な分析手法を用いて分析し、材料A由来の元素及び硫黄元素の重なりを評価することで確認できる。
一実施形態では、正極合材における単体硫黄の含有量が多いため、材料Aの細孔外にも単体硫黄が存在している。この場合、単体硫黄と材料Aを複合化したものは、ペレットのような塊となるが、機械的に粉砕することで粉末化することが可能である。
【0021】
[材料B]
材料Bは導電性炭素であり、炭素材料の黒鉛化の度合を示す、ラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)が0.6以上である。
上記Gバンドの面積は、1800cm-1~1475cm-1にあるピークの面積であり、Dバンドの面積は1475cm-1~700cm-1にあるピークの面積である。Dバンドの面積は、炭素材料の欠陥部の量を示す。上記比(G/D)が0.6以上である炭素材料は、黒鉛化が進行しているため、高い電気伝導度を有することが期待できる。比(G/D)は0.7以上であることがより好ましく、1.0以上、1.5以上、さらには2.0以上であることがより好ましい。また、比(G/D)は全く欠陥のない黒鉛ではDバンドがないため無限大となるが、通常100以下であり、10以下であることが好ましい。
ラマン測定におけるGバンドの面積及びDバンドの面積は、実施例に記載の方法で測定する。
【0022】
一実施形態において、材料Aのラマン測定における比(G/D)は0.6未満であり、0.55未満が好ましい。0.6未満であることは、材料Aが適度な欠陥構造を有することを意味し、欠陥部を通した材料内のLiイオン伝導が期待できる。また、欠陥部等から硫黄が含浸されやすくなることも期待できる。
例えば、ダイヤモンド等の黒鉛構造を持たない炭素材料では、Gバンドが出ないため、比(G/D)は0になるが、導電性材料としては0.1以上が好ましく、0.2以上がより好ましい。0.1以上であることで、適度に発達した黒鉛構造が材料Aに含まれ、好適な電子伝導性が得られる。
【0023】
一実施形態において、材料Bのアスペクト比が5以上であり、好ましくは10以上であり、さらに好ましくは15以上である。アスペクト比が高いほど少量の材料で電極全体に電子伝導性を付与することができる。材料Bのアスペクト比は、好ましくは5000以下であり、より好ましくは3000以下であり、さらに好ましくは2000以下である。アスペクト比が高すぎると粉体のかさ密度の低下につながり、運送コストが高くなり、また、混合性の低下にもつながる。
【0024】
材料Bのアスペクト比は以下の式により計算される。
材料Bのアスペクト比=材料Bの平均繊維長/材料Bの平均繊維径
アスペクト比は材料のサイズにより適切な手法で評価する。例えば、走査電子顕微鏡(SEM)を用いることができる。
【0025】
材料Bとしては、炭素繊維が好ましい。炭素繊維としては、カーボンナノチューブ、気相法炭素繊維(VGCF)等が挙げられる。また、ストラクチャー構造を有し、実質的にアスペクト比の高い導電助剤として機能する、アセチレンブラック、デンカブラック(登録商標)、サーマルブラック、チャンネルブラック等や、平板上の電子伝導体であるグラフェン、還元グラフェン、鱗片状黒鉛等も、材料Bとして用いることができる。
これらは単独で用いてもよく、また、2種以上を併用してもよい。
【0026】
材料Bの平均繊維長は好ましくは3μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。また、材料Bの平均繊維長は、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは100μm以下である。平均繊維長をこのように調整することにより、少量の材料で電極全体に電子伝導性を付与できる。
【0027】
材料Bの平均繊維径は好ましくは2nm以上であり、より好ましくは5nm以上である。また、材料Bの平均繊維径は、好ましくは1000nm以下であり、より好ましくは300nm以下である。平均繊維径をこのように調整することにより、電子伝導を十分に保ちつつ、少ない混合量でも電極全体に電子伝導性が付与できる。
【0028】
一実施形態において、材料Bのミクロ細孔量は0.1cc/g以下である。ここで、ミクロ細孔とは一般に、細孔直径が2nm以下の細孔を意味する。ミクロ細孔量が0.1cc/gであるとき、材料Bは実質的にミクロ細孔を持たないとする。材料Bのミクロ細孔量は0.05cc/g以下であることがより好ましい。内部に細孔を持たないことから、材料Bは高い電子伝導を有するため、少ない添加量で正極全体に電子伝導性を付与できる。
ミクロ細孔量は材料Bの窒素吸着等温線からt-plotを用いて解析できる。また、硫黄を含有するミクロ細孔を持たないことは、SEM-EDSやTEM-EDX等の元素マッピング可能な分析手法を用いて、CとSの重なりのない粒子の有無を評価することでも分析できる。
【0029】
[硫化物固体電解質]
硫化物固体電解質は、少なくとも硫黄原子を含み、かつ含まれる金属原子に起因するイオン伝導度を発現する固体電解質であり、硫黄原子の他、好ましくはリチウム原子、リン原子を含み、より好ましくはリチウム原子、リン原子及びハロゲン原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質である。
硫化物固体電解質としては、非晶性硫化物固体電解質であってもよいし、結晶性硫化物固体電解質であってもよい。
【0030】
(非晶性硫化物固体電解質)
非晶性硫化物固体電解質としては、少なくとも硫黄原子を含み、含まれる金属原子に起因するイオン伝導度を発現するものであれば特に制限なく採用することができ、代表的なものとしては、例えば、LiS-P等の硫化リチウムと硫化リンとから構成される、硫黄原子、リチウム原子及びリン原子を含む固体電解質;LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素元素、珪素元素等の他の元素を含む、例えば、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましい。
非晶性硫化物固体電解質を構成する元素の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0031】
非晶性硫化物固体電解質が、少なくともLiS-Pを有するものである場合、LiSとPとのモル比は、化学的安定性が高く、より高いイオン伝導度を得る観点から、30~85:15~70が好ましく、40~80:20~60がより好ましく、45~78:22~55が更に好ましい。
非晶性硫化物固体電解質が、例えば、LiS-P-LiI-LiBrである場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量の合計は、30~95モル%が好ましく、35~90モル%がより好ましく、40~85モル%が更に好ましい。また、臭化リチウムとヨウ化リチウムとの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、40~80モル%が更に好ましく、50~70モル%が特に好ましい。
【0032】
非晶性硫化物固体電解質において、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む場合、これらの原子の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.6が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.05~0.5がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.08~0.4が更に好ましい。
また、ハロゲン原子として、臭素及びヨウ素を併用する場合、リチウム原子、硫黄原子、リン原子、臭素原子、及びヨウ素原子の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.3:0.01~0.3が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.02~0.25:0.02~0.25がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.03~0.2:0.03~0.2がより好ましく、1.35~1.45:1.4~1.7:0.3~0.45:0.04~0.18:0.04~0.18が更に好ましい。リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)を上記範囲内とすることにより、後述するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、より高いイオン伝導度の固体電解質が得られやすくなる。
【0033】
また、非晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の非晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。
【0034】
(結晶性硫化物固体電解質)
結晶性硫化物固体電解質としては、例えば上記の非晶性硫化物固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスであってもよく、以下の結晶構造を有する硫化物固体電解質を採用し得る。
リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む結晶性硫化物固体電解質が有し得る結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。
【0035】
また、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む結晶性硫化物固体電解質が有し得る結晶構造としては、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照))等が挙げられる。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。
【0036】
CuKα線を用いたX線回折測定において、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.5°、18.3°、26.1°、27.3°、30.0°付近に現れ、Li結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=16.9°、27.1°、32.5°付近に現れ、LiPS結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、25.2°、29.6°、31.0°付近に現れ、Li11結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=17.8°、18.5°、19.7°、21.8°、23.7°、25.9°、29.6°、30.0°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2°、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0037】
また、結晶性の硫化物固体電解質の結晶構造としては、アルジロダイト型結晶構造も挙げられる。アルジロダイト型結晶構造としては、例えば、LiPS結晶構造;LiPSの構造骨格を有する組成式Li7-x1-ySi及びLi7+x1-ySi(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造;Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)で示される結晶構造;Li7-xPS6-xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)で示される結晶構造が挙げられる。
【0038】
上記の結晶構造の中でも、結晶性硫化物固体電解質が有する結晶構造としては、LiPS結晶構造、チオリシコンリージョンII型結晶構造、アルジロダイト型結晶構造が好ましい。
【0039】
結晶性硫化物固体電解質の形状としては、特に制限はないが、例えば、粒子状を挙げることができる。粒子状の結晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、既述の非晶性硫化物固体電解質の平均粒径(D50)と同様に、例えば、0.01μm~500μm、0.1~200μmの範囲内を例示できる。
【0040】
[配合比]
本実施形態の正極合材において、材料Bの含有量は、材料Aを100質量部としたときに、20~200質量部であることが好ましく、30~100質量部であることがより好ましい。上記範囲を満たすことにより、正極合材内の導電性を高く維持でき、レート特性が向上しやすい。
【0041】
また、材料A及びBの合計質量(A+B)に対する、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計質量(S)の比[S/(A+B)]が、2.5以上である。比[S/(A+B)]は3以上が好ましい。正極合材内において、単体硫黄の比率が高い程、硫黄の利用率が同じであれば、電池のエネルギー密度の向上が期待できる。一方で、正極内の電子伝導を十分に付与することが難しくなるため、比[S/(A+B)]は10以下が好ましく、5以下がさらに好ましい。
【0042】
材料Aと、材料Bと、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計質量(S)との質量比(A:B:S)は、5~15:1~10:30~50が好ましく、さらに好ましくは5~10:2~8:35~45がよく、7~10:3~8:35~45が特に好ましい。これにより、材料Aの細孔に硫黄が充填され小さな粒子として保持されることによるイオン伝導及び電子伝導の効率が向上する効果と、材料Bの電極全体への電子伝導性付与効果が、バランスよく機能し、良好な電池特性が得られる。
【0043】
硫化物固体電解質の含有量は、材料A、材料B及び単体硫黄の合計を100質量部としたときに、5~200質量部であることが好ましく、10~120質量部であることがより好ましい。固体電解質の含有量が5質量部以下ではイオン伝導を十分に得ることが困難になり、200質量部以上の固体電解質を含む場合活物質の含有率が低下し、エネルギー密度の向上が困難になる。
【0044】
一実施形態において、正極合材における単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計含有量は、材料A及びBの合計1gに対し1.0cc以上が好ましく、1.5cc以上がより好ましく、2.0cc以上がさらに好ましい。また、単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計含有量は、上記材料A及びBの合計1gに対し10cc以下が好ましく、5.0cc以下がより好ましく、4.0cc以下がさらに好ましい。上記範囲とすることにより、単体硫黄の含有量が十分となり、レート特性が向上しやすい。
なお、換算する場合、単体硫黄の密度は2g/ccとする。
【0045】
一実施形態において、正極合材における単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計含有量は、材料Aと材料Bの合計全細孔体積の70%以上が好ましく、100%以上がより好ましく、120%以上がさらに好ましい。これにより、単体硫黄の含有量が十分となり、高いエネルギー密度が得られる。単体硫黄及び単体硫黄の放電生成物の硫黄換算の合計含有量は、材料Aと材料Bの合計全細孔体積の300%以下が好ましく、200%以下がより好ましく、170%以下がさらに好ましい。
材料Aと材料Bの全細孔体積は、材料A及びBの仕込量(g)と、上記細孔体積(cc/g)から計算できる。
【0046】
一実施形態において、正極合材は、硫黄系活物質、固体電解質及び導電助剤以外の他の成分を含んでもよく、また、含まなくてもよい。他の成分は特に限定されないが、例えば、バインダー、溶剤、分散剤が挙げられる。
本実施形態の正極合材は、例えば、以下に説明する本発明の製造方法で製造できる。
【0047】
2.正極合材の製造方法
本発明の一実施形態に係る正極合材の製造方法は、下記工程(1)及び(2)を有する。
工程(1):平均細孔半径が10nm以下である電子伝導性を有する材料Aと、単体硫黄とを、前記単体硫黄の融点以上の温度で加熱して、材料A-単体硫黄複合粉末とする工程
工程(2):材料A-単体硫黄複合粉末と、ラマン測定におけるGバンドの面積/Dバンドの面積が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、硫化物固体電解質と、を混合して、正極合材とする工程
【0048】
[工程(1)]
工程(1)では、例えば、材料Aと単体硫黄を混合し、封止した後、混合物を加熱して単体硫黄を融解させて細孔に単体硫黄を含浸させることにより、材料A-単体硫黄複合粉末を製造する。
【0049】
工程(1)において、材料Aと単体硫黄との混合比は、使用する材料に合わせて適宜調整することができる。
一実施形態において、上述した通り単体硫黄の含有量を、1gの材料Aに対し1.0cc以上とすることが好ましい。また、単体硫黄の含有量を、1gの材料Aに対し10cc以下とすることが好ましい。
また、一実施形態において、単体硫黄の含有量を、材料Aの全細孔体積の70%以上とすることが好ましい。また、全細孔体積の300%以下とすることが好ましい。
【0050】
材料Aと単体硫黄の混合物を、単体硫黄の融点(約115℃)以上の温度で加熱する。加熱温度は材料A及び単体硫黄に合わせて調整するが、好ましくは130℃以上であり、より好ましくは150℃以上である。加熱温度の上限は、単体硫黄の沸点(約445℃)以下の温度である。加熱時間は0.1~24時間が好ましい。
加熱後冷却することにより、材料A-単体硫黄複合粉末が得られる。必要に応じて冷却後に粉砕工程を実施してもよい。
【0051】
[工程(2)]
工程(2)では、材料A-単体硫黄複合粉末と、ラマン測定におけるGバンドの面積/Dバンドの面積が0.6以上の導電性炭素である材料Bと、硫化物固体電解質と、を混合して、正極合材とする。
例えば、上記工程(1)の後に、材料A-単体硫黄複合粉末及び材料Bに機械的応力を加えて混合し、正極合材とする。ここで、「機械的応力を加える」とは、機械的にせん断力や衝撃力等を加えることである。機械的応力を加える手段としては、例えば、遊星ボールミル、振動ミル、転動ミル等の粉砕機や、混練機等を挙げることができる。
本工程により、材料A及びBの一部が粉砕していてもよい。
【0052】
一実施形態において、材料Bの配合量は上述したとおり、材料A100質量部に対し、20~200質量部であることが好ましい。
また、硫化物固体電解質の配合量は、材料A、材料B及び単体硫黄の合計100質量部に対し、5~200質量部であることが好ましい。
【0053】
混合の条件としては、例えば、遊星ボールミル機を使用した場合、回転速度を数十~数百回転/分とし、0.5時間~100時間処理すればよい。より具体的に、本願実施例で使用した遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P-5)の場合、遊星型ボールミルの回転数は100rpm以上600rpm以下が好ましく、150rpm以上400rpm以下がより好ましい。
粉砕メディアであるボールは、例えば、ジルコニア製ボールを使用した場合、その直径は0.2~20mmが好ましい。
【0054】
一実施形態において、正極合材は上記材料A-単体硫黄複合粉末と、材料Bを混合する工程の後に、硫化物固体電解質を加えて再度混合することにより、製造することができる。
【0055】
一実施形態において、正極合材は上記材料A-単体硫黄複合粉末と、材料Bを混合する工程の後に加熱を行うこともできる。混合工程で結晶性が低下した固体電解質を再度結晶化もしくは加熱による界面形成の効果により、イオン伝導性を向上せることで電池特性を向上させることが可能である。
【0056】
加熱温度及び時間は固体電解質の種類によって適時調整できるが、例えば固体電解質の結晶化温度が200℃以下の場合、固体電解質の結晶化温度に合わせて加熱処理を行う。固体電解質の結晶間温度が300℃以上のような高温である場合、硫黄の蒸散が過度に起こらない200℃程度で加熱することで、結晶化には至らないものの界面の再形成等を行うことはできる。
【0057】
加熱温度は前記の通り固体電解質の種類によって異なるため制限されないが、例えば250℃以下であり、200℃以下が好ましい。温度が低温であるほど、硫黄の蒸散を抑制できる。加熱温度は50℃以上であり、100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。加熱時間は特に制限されないが、例えば1分から99時間、好ましくは10分から10時間、特に好ましくは30分から3時間である。
【0058】
また、加熱のタイミングは合材化直後でもよく、また、溶媒を用いたスラリーキャストや静電塗布等の方法で、合材を電極シートに加工した後に加熱することもできる。スラリーキャストによる製造の場合、溶媒の除去と同時に結晶化の加熱を行うことで工程の削減を行うことも可能である。
【0059】
3.リチウムイオン電池
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン電池は、上述した本発明の正極合材を含む。例えば、液体の電解質に替えて固体電解質を使用することにより、全固体リチウムイオン電池を製造できる。本発明の正極合材を使用することにより、レート特性のよい全固体リチウムイオン電池が作製できる。
【0060】
全固体リチウムイオン電池は、主に正極層、負極層及び電解質層からなるが、本発明の正極合材は正極層の構成材料として好適である。負極層及び電解質層は公知の方法により製造できる。また、正極層、負極層、電解質層の他に、集電体が用いられていることが好ましく、集電体も公知のものが用いられる。
固体電解質は特に限定されないが、例えば、上述した硫化物固体電解質が挙げられる。
【実施例0061】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。本発明は、実施例に限定されない。
材料A及びBのラマン測定におけるGバンドの面積とDバンドの面積の比(G/D)は下記の条件で決定した。
<測定条件>
装置:DXR2(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)
露光時間:10秒
積算回数:20回
バックグラウンド:20回
レーザー波長:532nm
レーザーパワー:3.0mW
ピンホール:25μmピンホール
分解能:HIGH RES GRATING
測定範囲:50~1800cm-1
測定倍率:対物レンズ50倍
【0062】
700及び1800cm-1近傍の構造由来のピークがない2点を通る直線をベースラインとした。上記波数にピークがある場合、近傍のピークを有さない波数をベースラインの開始点にできる。
GバンドとDバンドを分ける1475cm-1は1400~1550cm-1の各ラマンスペクトルの極小値をとる波数を算出し、その平均値として採用した。
【0063】
(実施例1)
(1)活性炭-単体硫黄複合粉末の作製
ガラス瓶に、材料Aとして活性炭(関西熱化学株式会社製、MSC-30、細孔体積1.67cc/g、平均細孔半径1.12nm、)と、単体硫黄を1:5の質量比で入れ、SUS管容器内に封入した。電気炉にて150℃で6時間、300℃で2.75時間加熱し、活性炭-単体硫黄複合粉末を得た。
活性炭の細孔体積は1.67cc/gであり、単体硫黄の密度を2g/ccとして計算すると、活性炭1gに対する単体硫黄の含有量は2.5ccである。以上から、単体硫黄の含有量(仕込量)は活性炭の全細孔体積の150%(体積)である。
活性炭-単体硫黄複合粉末について、イオンミリングによって粒子断面を形成し、断面をSEM-EDSで観察した結果、硫黄元素が炭素内に観察されたことから、活性炭の細孔内に単体硫黄が含浸していることが確認できた。
活性炭の平均細孔半径及び細孔体積はQuantacrome社製の細孔分布測定装置(Autosorb-3)を用いて測定した。
【0064】
(2)固体電解質の作製
硫化リチウム 0.4127g、五硫化二リン 0.6655g、ヨウ化リチウム 0.2137g、臭化リチウム 0.2080gと、直径10mmのジルコニア製ボール10個を、45mLのジルコニア製ポットに投入し密閉した。遊星型ボールミル装置(フリッチュ社製、型番P-7)を用いて、回転速度370rpmで40時間混合(メカニカルミリング)して粉末を得た。得られた粉末を195℃で3時間加熱し、固体電解質を得た。
【0065】
(3)正極合材の作製
上記(1)で得た活性炭-単体硫黄複合粉末0.45gと、上記(2)で得た固体電解質0.5gと、気相成長多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標)、昭和電工株式会社製、平均繊維長6μm、平均繊維径150nm、アスペクト比40、t-plot法によるミクロ細孔量0cc/g)0.05gを、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、45mLのジルコニア製ポットに投入し、密閉した(材料A+材料B:硫黄=1:3(質量比)、材料A:材料B:硫黄=7.5:5:37.5(質量比))。
遊星型ボールミル装置(フリッチュ社製、型番P-7)を用いて、回転速度370rpm、20時間、室温の条件で混合処理を行い、正極合材の粉末を得た。
【0066】
(4)全固体リチウムイオン電池の作製
直径10mmのマコール(登録商標)製の円筒に、上記(2)で作製した固体電解質100mgを投入し、加圧成型した。加圧面に、上記(3)で作製した正極合材粉末を、単体硫黄の含有量が1.75mgになるよう投入し、再度加圧成型した。正極合材と反対の加圧面に、インジウム箔とリチウム箔を投入し、加圧することで、全固体電池を作製した。
【0067】
(実施例2)
実施例1における活性炭(MSC-30)を多孔質炭素材料(CNovel(登録商標)、東洋炭素株式会社製、細孔体積3.09cc/g、平均細孔半径4.27nm)に変更した以外は実施例1と同様にして、正極合材粉末を得た。
単体硫黄の含有量は全細孔体積の81%である。
多孔質炭素材料-単体硫黄複合粉末について、実施例1と同様に断面をSEM-EDSで観察した結果、多孔質炭素材料の細孔内に単体硫黄が含浸していることが確認できた。
得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0068】
(実施例3)
実施例1における活性炭(MSC-30)をカーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)、KB、細孔体積4.33cc/g、平均細孔半径6.64nm)に変更した以外は実施例1と同様にして、正極合材粉末を得た。単体硫黄の含有量は細孔体積の58%である。
カーボンブラック-単体硫黄複合粉末について、実施例1と同様に断面をSEM-EDSで観察した結果、カーボンブラックの細孔内に単体硫黄が含浸していることが確認できた。
得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0069】
(比較例1)
実施例1(3)において、気相成長多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標))を添加せずに、活性炭-単体硫黄複合粉末を0.5g、固体電解質を0.5g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は実施例1と同様にして、正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:5(質量比)、材料A:材料B:硫黄=8.3:0:41.7(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0070】
(比較例2)
実施例1(3)において、活性炭-単体硫黄複合粉末を使用せずに、VGCFを0.125g、硫黄を0.375g、固体電解質を0.5g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は実施例1と同様にして、正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:3(質量比)、材料A:材料B:硫黄=0:12.5:37.5(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0071】
(比較例3)
実施例1(3)において、活性炭-単体硫黄複合粉末を使用せずに、アセチレンブラック(AB、細孔を持たない炭素材料、デンカ株式会社製デンカブラック粒状)を0.075g、VGCFを0.050g、硫黄を0.375g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は実施例1と同様にして正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:3(質量比)、材料A:材料B:硫黄=0:12.5:37.5(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0072】
(比較例4)
実施例1(1)において、活性炭(MSC-30)をカーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)、KB、細孔体積4.33cc/g、平均細孔半径6.64nm)に変更した他は、同様にしてカーボンブラック-硫黄複合粉末を作製した。単体硫黄の含有量は全細孔体積の58%である。
実施例1(3)において、気相成長多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標))を添加せずに、カーボンブラック-単体硫黄複合粉末を0.5g、固体電解質を0.5g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は、同様にして正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:5(質量比)、材料A:材料B:硫黄=8.3:0:41.7(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0073】
(実施例4)
実施例1(3)において、気相成長多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標))の代わりに、アセチレンブラック(AB、細孔を持たない炭素材料、デンカ株式会社製デンカブラック粒状、t-plot法でのミクロ細孔量0cc/g)を0.05g、活性炭-単体硫黄複合粉末を0.45g、固体電解質を0.5g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は、同様にして正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:3(質量比)、材料A:材料B:硫黄=7.5:5:37.5(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。アセチレンブラックは細孔を持たない炭素粒子が連なってストラクチャー構造を持つと言われており、実質的にアスペクト比の高い炭素を加えることと同じ効果が期待できる。
【0074】
(実施例5)
実施例1(3)において、気相成長多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標))の代わりに、カーボンナノファイバー(メルク株式会社製、Carbon nanofibers、幅100nm、長さ20-200μm、公称アスペクト比200~2000、PR-25-XT-HHT、t-plot法でのミクロ細孔量0cc/g)を0.05g、活性炭-単体硫黄複合粉末を0.45g、固体電解質を0.5g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は、同様にして正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:3(質量比)、材料A:材料B:硫黄=7.5:5:37.5(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0075】
(実施例6)
実施例1(3)において、気相成長多層カーボンナノチューブ(VGCF(登録商標))を0.025g、活性炭-単体硫黄複合粉末を0.475g、固体電解質を0.5g、直径10mmのジルコニア製ボール10個と共に、ジルコニア製ポットに投入した他は、同様にして正極合材粉末を得た(材料A+材料B:硫黄=1:3.2(質量比)、材料A:材料B:硫黄=9.5:2.5:38(質量比))。得られた正極合材粉末を使用した他は、実施例1と同様にして全固体電池を作製した。
【0076】
(評価)
[走査型顕微鏡(SEM)]
図1は実施例1(3)で得られた正極合材のSEM像である。正極合材中にVGCFが良好に分散していることが確認できた。
【0077】
[電池特性の評価]
各例で作製した全固体電池の定電流充放電試験を行った。定電流試験のカットオフ電位は0.8-2.2V vs. Li-Inに設定し、電流密度は表1に示す条件とした。
【0078】
【表1】
【0079】
表2に材料A及びBの物性を示す。また、表3に実施例1~6と比較例1~4の、2サイクル目(放電時の電流密度:0.147mA)、及び5サイクル目(放電時の電流密度:0.586mA)の硫黄1g当たりの放電容量(mAh/g)を示す。
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表3から、実施例のように材料A及びBを組み合わせて使用した場合に、放電容量が大きくレート特性が優れていることが確認できる。また、材料Aの細孔の有無がレート特性に影響することが確認できる。また、材料Bの種類や含有量を変更しても、比較例1及び2より放電容量が大きく、レート特性が優れていることが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の正極合材は、リチウムイオン電池の正極に好適である。また、本発明のリチウムイオン電池は、例えば、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器、電気自動車等の車両に用いられる電池等に好適に用いられる。
図1