(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026958
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】皮膚状態改善剤のスクリーニング方法、および皮膚状態改善剤
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240221BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240221BHJP
C12Q 1/686 20180101ALI20240221BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240221BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240221BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
A61Q19/00
A61K45/00
A61P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129551
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】金海 俊
(72)【発明者】
【氏名】本間 俊之
【テーマコード(参考)】
4B063
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA05
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ53
4B063QR06
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR56
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
4C083BB51
4C083CC02
4C083EE12
4C083EE16
4C084AA17
4C084MA63
4C084NA14
4C084ZA891
(57)【要約】
【課題】Cryj2による皮膚ダメージを抑制する皮膚状態改善剤のスクリーニング方法、および上記スクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤を提供すること。
【解決手段】細胞を、花粉抗原Cryj2の存在下において培養すること、細胞を、被験物質の存在下において培養すること、および細胞について皮膚状態に関連する指標を測定し、得られた測定結果に基づいて被験物質の中から皮膚状態改善剤を選択すること、を含む、皮膚状態改善剤のスクリーニング方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を、花粉抗原Cryj2の存在下において培養すること、
細胞を、被験物質の存在下において培養すること、および
細胞について皮膚状態に関連する指標を測定し、得られた測定結果に基づいて被験物質の中から皮膚状態改善剤を選択すること、
を含む、皮膚状態改善剤のスクリーニング方法。
【請求項2】
細胞が、皮膚細胞である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
被験物質が、植物抽出物、天然化合物、又は合成化合物である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
皮膚状態に関連する指標が、皮膚関連因子の発現量である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
皮膚関連因子の発現量を、mRNAの発現量として測定する、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
皮膚関連因子が、バリア機能関連因子又は色素沈着関連因子である、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
皮膚関連因子が、インボルクリン及び幹細胞因子から選択される一種以上である、請求項4に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
被験物質の非存在下および花粉抗原Cryj2の存在下と比較して、前記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が減少することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
被験物質の非存在下および花粉抗原Cryj2の存在下と比較して、前記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が1.2倍以上に増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が0.8倍以下に低下することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項10】
被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下と比較して、前記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が減少することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項11】
被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下におけるインボルクリンの発現量と比較して、被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下におけるインボルクリンの発現量が、1.2倍以上に増加し、及び/又は被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下における幹細胞因子の発現量と比較して、被験物質と花粉抗原Cryj2の存在下における幹細胞因子の発現量が、0.8倍以下に低下することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項12】
前記皮膚状態改善剤が、バリア機能改善剤および色素沈着改善剤から選択される一種以上である、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のスクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を花粉抗原Cryj2の存在下において培養することを含む皮膚状態改善剤のスクリーニング方法に関する。本発明はさらに、上記スクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症を引き起こすスギ花粉は、粘膜を介して作用して、花粉症特有の呼吸器症状や咽頭症状を引き起こすほかに、皮膚への接触によりスギ花粉皮膚炎を引き起こす。花粉粒子は、表皮細胞において様々な炎症性因子やかゆみ関連因子を増強し、肌に影響を与えることが知られている(非特許文献1)。
【0003】
花粉表面に局在するユービッシュ小体に含まれるペクチンリアーゼ活性を持つ花粉抗原Cryj1は、トロンビンによる細胞作用を伝達する受容体として知られるPAR-1(protease-activated receptor-1)を介し、細胞内Ca2+濃度を増大させ、バリア機能低下させることが報告されている(特許文献1)。特許文献1には、トロンビンの抑制作用を指標とした、皮膚状態改善剤のスクリーニング方法が記載されている。
【0004】
一方、特許文献2には、フィラグリン産生促進剤、ロリクリン産生促進剤、またはコルネオデスモシン産生促進剤を有効成分として含む、花粉症などのI型アレルギー疾患の予防・治療剤が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-110845号公報
【特許文献2】特許第6244140号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】T.Iwanaga et al.International Journal of Cosmetic Science,2020,42,229-236
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
花粉粒は20~100μmの粒子であるが、花粉喘息の発症には、大気中でアレルゲンが微小粒子へ移行し、鼻腔より深部の気管支や肺胞などの下気道への侵入が生じていると考えられている。例えば、スギ花粉ではアレルゲンは大気中で1.1μm以下の粒子範囲に存在し、都市部では山間部よりも多くのアレルゲンが1.1μm以下に存在することなどが報告されている。アレルゲンの微小粒径への移行要因としては、花粉粒の表面に付着しているオービクル(Cryj1抗原含有)が剥離すること、並びに花粉粒が湿度や降雨によって水分を吸収し膨潤破裂することで花粉内部抗原(Cryj2)が大気中へ放出されることなどが原因と考えらえている(Earozoru Kenkyu,29(S1) 197-206(2014))。上記の通り花粉爆発により花粉粒子からCryj1あるいはCryj2を含む微粒子が浮遊し、花粉症を悪化させることが知られている。花粉表面抗原Cryj1による皮膚バリア低下の影響に関する報告(特許文献1)はあるが、花粉内部のデンプン粒を含む色素体に局在し、ポリガラクツロナーゼ活性を持つ花粉抗原Cryj2による皮膚バリアへの影響や、シミ又はくすみに関した報告例はない。
【0008】
本発明は、Cryj2による皮膚ダメージを抑制する皮膚状態改善剤のスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とする。本発明はさらに、上記スクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、細胞を、花粉抗原Cryj2の存在下において培養すること、細胞を、被験物質の存在下において培養すること、および細胞について皮膚状態に関連する指標を測定し、得られた測定結果に基づいて被験物質の中から皮膚状態改善剤を選択することによって、Cryj2による皮膚ダメージを抑制する皮膚状態改善剤をスクリーニングできることを見出した。本発明は、上記知見に基づいて完成したものである。
【0010】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 細胞を、花粉抗原Cryj2の存在下において培養すること、
細胞を、被験物質の存在下において培養すること、および
細胞について皮膚状態に関連する指標を測定し、得られた測定結果に基づいて被験物質の中から皮膚状態改善剤を選択すること、
を含む、皮膚状態改善剤のスクリーニング方法。
<2> 細胞が、皮膚細胞である、<1>に記載のスクリーニング方法。
<3> 被験物質が、植物抽出物、天然化合物、又は合成化合物である、<1>又は<2>に記載のスクリーニング方法。
<4> 皮膚状態に関連する指標が、皮膚関連因子の発現量である、<1>から<3>の何れか一に記載のスクリーニング方法。
<5> 皮膚関連因子の発現量を、mRNAの発現量として測定する、<4>に記載のスクリーニング方法。
<6> 皮膚関連因子が、バリア機能関連因子又は色素沈着関連因子である、<4>又は<5>に記載のスクリーニング方法。
<7> 皮膚関連因子が、インボルクリン及び幹細胞因子から選択される一種以上である、<4>から<6>の何れか一に記載のスクリーニング方法。
<8> 被験物質の非存在下および花粉抗原Cryj2の存在下と比較して、上記の被験物質および花粉抗原の存在下において、インボルクリンの発現量が増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が減少することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、<7>に記載のスクリーニング方法。
<9> 被験物質の非存在下および花粉抗原Cryj2の存在下と比較して、上記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が1.2倍以上に増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が0.8倍以下に低下することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、<7>に記載のスクリーニング方法。
<10> 被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下と比較して、上記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が減少することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、<7>に記載のスクリーニング方法。
<11> 被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下におけるインボルクリンの発現量と比較して、被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下におけるインボルクリンの発現量が、1.2倍以上に増加し、及び/又は被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下における幹細胞因子の発現量と比較して、被験物質と花粉抗原Cryj2の存在下における幹細胞因子の発現量が、0.8倍以下に低下することを指標として、皮膚状態改善剤を選択する、<7>に記載のスクリーニング方法。
<12> 上記皮膚状態改善剤が、バリア機能改善剤および色素沈着改善剤から選択される一種以上である、<1>から<11>の何れか一に記載のスクリーニング方法。
<13> <1>から<12>の何れか一に記載のスクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、Cryj2による皮膚ダメージを抑制する皮膚状態改善剤をスクリーニングすることができる。本発明の皮膚状態改善剤によれば、Cryj2による皮膚ダメージを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、花粉粒子、Cryj1およびCryj2刺激後のSCF(Stem cell factor)の発現量の測定結果を示す。
【
図2】
図2は、Cryj1およびCryj2刺激後のIVL(インボルクリン)の発現量の測定結果を示す。
【
図3】
図3は、皮膚状態改善剤のスクリーニングの結果を示す。
【
図4】
図4は、皮膚状態改善剤のスクリーニングの結果を示す。
【
図5】
図5は、皮膚状態改善剤のスクリーニングの結果を示す。
【
図6】
図6は、皮膚状態改善剤のスクリーニングの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施形態の一例について説明する。但し、本開示は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の目的の範囲内において、適宜、変更を加えて実施することができる。本明細書において「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明による皮膚状態改善剤のスクリーニング方法は、
細胞を、花粉抗原Cryj2の存在下において培養すること、
細胞を、被験物質の存在下において培養すること、および
細胞について皮膚状態に関連する指標を測定し、得られた測定結果に基づいて被験物質の中から皮膚状態改善剤を選択すること、
を含む。
【0015】
本発明のスクリーニング方法は、細胞を花粉抗原Cryj2の存在下において培養することを含むことを特徴とするものであり、上記の培養後に細胞について皮膚状態に関連する指標を測定することにより得た測定結果に基づいて、皮膚状態の改善剤を選択する方法である。スクリーニングとは、皮膚状態の改善成分又はその候補を探索することである。
【0016】
本発明のスクリーニング方法は、従来、一般的に皮膚が影響を受ける原因として考えられている花粉粒子の曝露とは異なる、花粉抗原Cryj2刺激による遺伝子変化を与える物質を評価できる方法である。
【0017】
細胞を花粉抗原Cryj2の存在下において培養することと、細胞を被験物質の存在下において培養することとは、同時に行ってもよいし、別々に行ってもよい。
【0018】
細胞を花粉抗原Cryj2の存在下において培養することと、細胞を被験物質の存在下において培養することとを別々に行う場合には、細胞を、花粉抗原Cryj2の存在下において培養し、その後に、細胞を、被験物質の存在下において培養することが好ましい。Cryj2による刺激後に、被験物質存在下において細胞を培養することにより、細胞に対してCryj2による刺激が介在する皮膚への影響を促すことが可能になる。
【0019】
本発明において使用する細胞は、特に限定されないが、好ましくは皮膚細胞であり、より好ましくは表皮細胞である。細胞としては、培養細胞を使用することができ、特に好ましくは培養表皮細胞を使用することができる。培養表皮細胞としては、分化誘導を行って得られた3次元表皮モデルを使用してもよく、真皮層と表皮層を含む3次元皮膚モデルを使用してもよい。
【0020】
表皮細胞としては、ケラチノサイト、ランゲルハンス細胞、メルケル細胞、メラノサイト、表皮基底細胞を含むことができ、さらに、表皮幹細胞を含んでいてもよい。
【0021】
細胞の一例としては、ケラチノサイトを使用することができる。ケラチノサイトは、特に限定されないが、例えば、マウスのケラチノサイト、ヒトの新生児由来ケラチノサイト、ヒト成人由来ケラチノサイト、ヒト不死化ケラチノサイト、マウス不死化ケラチノサイトなどが挙げられる。なかでも、ヒト皮膚への類似性および刺激応答性の観点より、ケラチノサイトは、好ましくは、初代細胞である、ヒト成人ケラチノサイト、ヒト新生児由来ケラチノサイトなどが挙げられ、ヒト新生児由来ケラチノサイトが最も好ましい。
【0022】
スクリーニングに用いる細胞数としては特に限定されないが、10000/cm2~100000/cm2が好ましく、20000/cm2~40000/cm2がより好ましい。
【0023】
花粉抗原Cryj2は、日本スギ(Cryotomeria japonica)の花粉内部抗原である。
花粉抗原Cryj2による刺激は、細胞を所定時間Cryj2存在下で培養させることにより行うことができる。Cryj2刺激は、皮膚における作用および培養可能条件の観点から、好ましくは、1分~1週間行われることが好ましく、1時間~48時間行われることがより好ましく、16時間~32時間行われることが最も好ましい
【0024】
花粉抗原Cryj2の濃度としては、皮膚作用の可能性および調整可能条件の観点から好ましくは0.01μg/mL~1000μg/mLであり、より好ましくは0.1μg/mL~100μg/mLであり、さらに好ましくは1μg/mL~10μg/mLであり、特に好ましくは1μg/mL~5μg/mLである。
【0025】
被験物質としては、特に限定されないが、例えば、植物抽出物、天然化合物、合成化合物、タンパク質、ペプチド、微生物培養物、細胞抽出物、動物組織抽出物などが挙げられ、上記の中でも植物抽出物、天然化合物、又は合成化合物が好ましい。被験物質は新規物質または公知物質のいずれでもよい。また、被験物質としては、化粧品や医薬品の任意のライブラリーに含まれる物質を使用してもよい。ライブラリーとしては、化合物ライブラリー、または抽出物ライブラリーなどを使用することができる。
【0026】
被験物質の添加時間は、皮膚における作用および培養可能条件の観点から、好ましくは1分~1週間であり、より好ましくは1時間~48時間であり、さらに好ましくは16時間~32時間である。
【0027】
被験物質濃度は、皮膚作用の可能性および調整可能条件の観点から好ましくは0.01μg/mL~1000μg/mLであり、より好ましくは0.1μg/mL~100μg/mLであり、さらに好ましくは1μg/mL~10μg/mLである。
【0028】
細胞の培養は、細胞の培養に用いる通常の条件下で行うことができる。一例としては、37℃、5%CO雰囲気下のインキュベーター内で培養することができるが、特に限定されない。
【0029】
本発明においては、細胞について皮膚状態に関連する指標を測定する。
細胞について皮膚状態に関連する指標としては、皮膚関連因子の発現量、細胞の形態、細胞の増殖速度、酸化ストレス、脂質産生量、メラニン産生量、分化度などが挙げられる。
細胞について皮膚状態に関連する指標としては、好ましくは、皮膚関連因子の発現量である。
【0030】
皮膚関連因子の発現量の測定は、常法により行うことができる。例えば、皮膚関連因子を認識する抗体を用いてウエスタンブロットや免疫染色法などにより測定してもよい。または、皮膚関連因子の発現量は、mRNAの発現量として測定することもできる。mRNAの発現量は、例えば、ノーザンブロットやRT-PCRなどにより測定することができる。
【0031】
皮膚関連因子としては、バリア機能関連因子又は色素沈着関連因子であることが好ましい。
【0032】
バリア機能関連因子としては、セリンパルミトイルトランスフェラーゼ(SPTLC1~3)、セラミドシンターゼ(CERS1~6)、ガラクトシルセラミド(GALC)、ATP結合カセットサブファミリーAメンバー12(ABCA12)、グルコセレブロシダーゼ(GBA)、アルカリ性セラミダーゼ-2(ACER2)、スフィンゴミエリナーゼ(SMPD)、クローディン(CLDN1)、オクルディン(OCLN)、デスモコリン(DSC1)、デスモグレイン(DSG1)、インテグリン(ITGA1,2)、カリクレイン(KLK)、セリンプロテアーゼインヒビター(SPINK5)、カスパーゼ(caspase14)、フィラグリン(FLG)、ケラチン(KRT)、トランスグルタミンナーゼ(TGM1)、インボルクリン(IVL)、ロリクリン(LOR)、およびスモールプロリンリッチ蛋白(SPRR)が好ましい。
【0033】
上記の中でも、バリア機能関連因子としては、ABCA12、インボルクリン(IVL)、LOR、およびSPRRがより好ましく、インボルクリン(IVL)が最も好ましい。
【0034】
色素沈着関連因子としては、インターフェロン1アルファ(IL-1α)、シクロオキシゲナーゼ2(COX2)、エンドセリン(EDN1)、幹細胞因子(SCF)、プロテアーゼ活性化受容体(PAR-2)、メラニン細胞刺激ホルモン放出抑制因子(MIF)が好ましい。
上記の中でも、色素沈着関連因子としては、EDN1、幹細胞因子(SCF)、およびPAR-2がより好ましく、幹細胞因子(SCF)が最も好ましい。
【0035】
皮膚関連因子としては、インボルクリン及び幹細胞因子から選択される一種以上であることが好ましい。
【0036】
本発明においては、皮膚状態に関連する指標を測定することにより得られた測定結果に基づいて被験物質の中から皮膚状態改善剤を選択する。
【0037】
一例としては、被験物質の非存在下および花粉抗原Cryj2の存在下と比較して、上記の被験物質および花粉抗原の存在下において、インボルクリンの発現量が増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が減少することを指標として、皮膚状態改善剤を選択することが好ましい。皮膚状態改善剤を選択する上で、コーニファイドエンベロープを構成する主要タンパクの一つであるとの理由でバリア機能関連因子のインボルクリン(IVL)と、表皮細胞による色素細胞のメラニン産生促進に関与するとの理由で色素沈着関連因子の幹細胞因子(SCF)を指標することが好ましい。
【0038】
より好ましくは、被験物質の非存在下および花粉抗原Cryj2の存在下と比較して、上記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が1.2倍以上(好ましくは1.3倍以上、より好ましくは1.5倍以上、さらに好ましくは2.0倍以上)に増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が0.8倍以下(好ましくは0.7倍以下)に低下することを指標として、皮膚状態改善剤を選択することができる。
【0039】
別の例としては、被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下と比較して、上記の被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下において、インボルクリンの発現量が増加すること、及び/又は、幹細胞因子の発現量が減少することを指標として、皮膚状態改善剤を選択することが好ましい。
【0040】
より好ましくは、被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下におけるインボルクリン(IVL)の発現量と比較して、被験物質および花粉抗原Cryj2の存在下におけるインボルクリン(IVL)の発現量が、1.2倍以上(好ましくは1.3倍以上、より好ましくは1.5倍以上、特に好ましくは2倍以上)に増加し、及び/又は被験物質の存在下および花粉抗原Cryj2の非存在下における幹細胞因子(SCF)の発現量と比較して、被験物質と花粉抗原Cryj2の存在下における幹細胞因子(SCF)の発現量が、0.8倍以下(好ましくは0.7倍以下)に低下することを指標として、皮膚状態改善剤を選択することができる。
【0041】
本発明における皮膚状態改善剤とは、皮膚状態を改善するためのものであれば特に限定されないが、好ましくは、バリア機能改善剤および色素沈着改善剤から選択される一種以上である。
【0042】
バリア機能とは、生体内の水分が外界へと損失することを防ぐ機能や、外界から生体内への異物やウイルスの侵入を防ぐ機能である。このバリア機能が低下すると、外界物質の刺激により、かぶれや発赤といった皮膚炎を引き起こしやすくなる。また、皮膚からの水分蒸散量が増加することで皮膚内の水分が不足し、かさつきやつっぱり感を生じる乾燥肌となり、皮膚トラブルが生じやすくなる。
【0043】
色素沈着改善剤としては、シミ状態又はクスミ状態の改善剤などが挙げられるが、特に限定されない。色素沈着改善剤は、美白剤と同義である。
【0044】
本発明のスクリーニング方法は、以下に記載する工程を所望により含んでいてもよい。
(a)細胞を花粉抗原Cryj2の存在下において培養することの前に行われる前培養工程、
(b)細胞を被験物質の存在下において培養することの後に行う、被験物質を含まない培養培地で培養される後培養工程、
(c)細胞を回収する回収工程、
(d)回収された細胞、または回収された細胞から抽出したmRNA又はmRNAから逆転写されたcDNAを貯蔵する工程などの工程。
【0045】
本発明によれば、本発明のスクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤が提供される。本発明のスクリーニング方法によれば、Cryj2による皮膚ダメージを抑制する改善剤を得ることができ、花粉だけでなく花粉爆発によって生じる微粒子に対する皮膚改善効果を発揮する皮膚状態改善剤を提供することができる。
【0046】
皮膚状態改善剤としては、好ましくは、下記から選定することができる。
オオバナサルスベリ葉エキス、ワレモコウエキス、チャカテキン、チャ葉エキス、ザクロエキス、ザクロ種子油、オリーブ葉エキス、トリペプチド-1、アスコフィルムノドスムエキス、加水分解シロバナルーピンタンパク、ビワ葉エキス、ジオウ根エキス、マヨラナ葉エキス、カンゾウ葉エキス、アシタバ葉/茎エキス、オリゴペプチド-6、カカオエキス、シソ葉エキス、ローヤルゼリーエキス、カンゾウ根エキス、アマチャエキス、ヒキオコシ葉/茎エキス、セイヨウオトギリソウ花/葉/茎エキス、モスビーン種子エキス、セイヨウトチノキ種子エキス、アンマロク果実エキス、フユボダイジュ花エキス、コンフリー葉エキス、ボタンエキス、アロエベラ葉汁、イガイグリコーゲン、ピロリドンカルボン酸(PCA)、豆乳発酵液、アマモエキス、アッケシソウエキス、アセンヤクエキス、アルニカ花エキス、カワラヨモギ花エキス、ウイキョウ果実エキス、チャ葉エキス、ウコン根茎エキス、オウゴン根エキス、オリーブ葉エキス、ヒバマタエキス、ヨモギ葉エキス、セージ葉エキス、セージ葉エキス、ヨーロッパシラカバ樹皮エキス、セイヨウノコギリソウエキス、ツボクサエキス、マグワ根皮エキス、チョウジエキス、トウキンセンカ花エキス、スイカズラ葉エキス、ビワ葉エキス、セイヨウハッカ葉エキス、ホップ花エキス、ユーカリ葉エキス、ラベンダー花エキス、およびワイルドタイムエキス。
【0047】
皮膚状態改善剤としては、アマモエキス、スイカズラエキス、ワイルドタイムエキス、フユボダイジュ花エキス、コンフリー葉エキス、ボタンエキス、カカオエキス、マグワ根皮エキスがより好ましく、マグワ根皮エキスが最も好ましい。
【0048】
本発明のスクリーニング方法により選択された皮膚状態改善剤は、例えば、化粧品素材として化粧料に配合することができる。本発明の皮膚状態改善剤が配合された化粧料は、皮膚状態改善作用を発揮することができる。化粧料としては、特に限定されないが、例えば美容液、化粧水、乳液、クリーム、ボディミルク、入浴剤、日焼け止め、化粧下地、メークアップ商品、ローション、アフターシェービングクリームなどに使用することができる。また、本発明の皮膚状態改善剤は、医薬品または医薬部外品に配合することもできる。医薬品または医薬部外品は、経皮、筋肉内、経口、静脈内など、任意の経路で投与することができるが、皮膚に直接作用される観点からは、経皮投与が好ましい。経皮投与のための剤型としては、皮膚外用剤または皮膚パッチなどが好ましい。上記した化粧品、医薬品および医薬部外品には、例えば保湿剤、美白剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、着色剤、香料、水、溶媒、防腐剤、保存剤、pH調整剤、ゲル化剤、その他の活性成分などを配合することができる。
【0049】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例0050】
実施例1:花粉粒子、Cryj1およびCryj2刺激後の幹細胞因子(SCF)(Stem cell factor)の発現量
ヒト新生児ケラチノサイト(Thermo Fisher社)を26000/cm2にて培養し、常法に従って培養開始した。24時間後、細胞に、花粉粒子あるいは花粉抗原(Cryj1(BioDynamics Laboratory Inc.),Cryj2( BioDynamics Laboratory Inc.))を添加し、さらに24時間培養した。
【0051】
花粉粒子および花粉抗原の濃度は以下の通りである。Cryj1およびCryj2は花粉粒子中に約0.1%存在することから設定した(アレルギー 56 (10), 1262-1269 2007)。
花粉粒子(1000μg/mL,5000μg/mL,10000μg/mL)
Cryj1(1μg/mL,5μg/mL,10μg/mL)
Cryj2(1μg/mL,5μg/mL,10μg/mL)
【0052】
上記に加えて、何も添加しないモデルをコントロールとして同様に培養した。
【0053】
培養終了後、それぞれの試験水準の細胞をRNeasy(登録商標)Plus Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて回収し、totalRNAの沈殿物を得た。
回収したtotalRNAを所定のキット(One Step SYBR(登録商標)PrimeScript
TMRT-PCR Kit II((タカラバイオ社製))及び、QuantStudio3(Applied Biosystems社製)、及びOne step TB Green(タカラバイオ社製)を用いて、SCF遺伝子の発現と、内部標準物質GAPDH遺伝子の発現の検出を行った。ここで、GAPDHは、ハウスキーピング遺伝子(多くの組織や細胞中に共通して一定量発現する遺伝子であって、常に発現され,細胞の維持,増殖に不可欠な遺伝子である)の一つであり、発現量が常に一定とされていることから、PCRの実験では内部標準として用いられるものである。試験結果について、GAPDH遺伝子の発現量を一定とした場合の、それぞれの試験水準でのSCF遺伝子の発現量を比較した。本試験系においては、コントロールのSCF遺伝子の発現量を1.0とした時の各添加群でのSCF遺伝子の発現量の相対値を求めた。
結果を
図1に示す。
図1より、Cryj2は花粉粒子やCryj1と比較して、低濃度でもSCF遺伝子の発現を上昇させることがわかった。
【0054】
実施例2:Cryj1およびCryj2刺激後のIVL(インボルクリン)の発現量
ヒト新生児ケラチノサイト(Thermo Fisher社)を常法に従って培養開始した。24時間後、細胞に、花粉抗原(Cryj1,Cryj2)を添加し、さらに24時間培養した。
【0055】
花粉抗原の濃度は以下の通りである。
Cryj1(1μg/mL,5μg/mL,10μg/mL)
Cryj2(1μg/mL,5μg/mL,10μg/mL)
【0056】
上記に加えて、何も添加しないモデルをコントロールとして同様に培養した。
【0057】
培養終了後、それぞれの試験水準の細胞をRNeasy(登録商標)Plus Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて回収し、totalRNAの沈殿物を得た。
【0058】
回収したtotalRNAを用いて、実施例1と同様にして、コントロールのIVL遺伝子の発現量を1.0とした時の各添加群でのIVL遺伝子の発現量の相対値を求めた。
結果を
図2に示す。
図2の通り、Cryj1とCryj2はIVL遺伝子発現量を低下させることが示された。
【0059】
実施例3:皮膚状態改善剤のスクリーニング1
ヒト新生児ケラチノサイト(Thermo Fisher社)を常法に従って培養開始した。24時間後、細胞に、花粉抗原Cryj2 1μg/mLを添加し、さらに24時間後、培地交換を行い候補物質10μg/mLにて培養した。候補物質としては、フィトブレンドTIPS(一丸ファルコス株式会社)、アマモエキス((株)テクノーブル)、スイカズラ葉エキス(丸善製薬株式会社)、ワイルドタイムエキス(丸善製薬株式会社)、カカオエキス((株)ムムシキ(NAOLYS))およびマグワ根皮エキス(丸善製薬株式会社)を使用した。なお、フィトブレンドTIPSはボタンエキスとフユボダイジュ花エキス、コンフリー葉エキスの混合エキスである。また、候補物質を添加していない群をコントロールとして、同様に培養した。培養終了後、それぞれの試験水準の細胞をRNeasy(登録商標)Plus Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて回収し、totalRNAの沈殿物を得た。
【0060】
回収したtotalRNAを用いて、実施例1と同様にして、コントロールのIVL遺伝子またはSCF遺伝子の発現量を1.0とした時の候補物質の添加群でのIVL遺伝子またはSCF遺伝子の発現量の相対値を求めた。
【0061】
結果を
図3および
図4に示す。
図3および
図4より、Cryj2のみを添加した群と比較して、マグワ根皮エキスとCryj2を添加した群ではIVL遺伝子の発現量が上昇し、SCF遺伝子の発現量が低下することが確認された。
【0062】
実施例4:皮膚状態改善剤のスクリーニング2
ヒト新生児ケラチノサイト(Thermo Fisher社)を常法に従って培養開始した。24時間後、細胞に、花粉抗原Cryj2 1μg/mLを添加し(コントロールとして、花粉抗原Cryj2を添加しないものも行った)、さらに24時間後、培地交換を行い候補物質10μg/mLにて培養した。候補物質としては、フィトブレンドTIPS(一丸ファルコス株式会社)、アマモエキス((株)テクノーブル)、スイカズラ葉エキス(丸善製薬株式会社)、ワイルドタイムエキス(丸善製薬株式会社)、カカオエキス((株)ムムシキ(NAOLYS))およびマグワ根皮エキス(丸善製薬株式会社)を使用した。なお、フィトブレンドTIPSはボタンエキスとフユボダイジュ花エキス、コンフリー葉エキスの混合エキスである。培養終了後、それぞれの試験水準の細胞をRNeasy(登録商標)Plus Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて回収し、totalRNAの沈殿物を得た。
【0063】
回収したtotalRNAを用いて、実施例1と同様にして、花粉抗原Cryj2を添加しない場合(コントロール)のIVL遺伝子またはSCF遺伝子の発現量を1.0とした時の候補物質の添加群でのIVL遺伝子またはSCF遺伝子の発現量の相対値を求めた。
【0064】
図5および
図6より、候補物質のみの添加した場合と比較して、Cryj2と候補物質を添加した場合では候補物質のうちマグワ根皮エキスではIVL遺伝子発現量が上昇し、SCF遺伝子発現量は減少することが確認された。
【0065】
実施例3および実施例4の結果より、Cryj2刺激した際、IVLおよびSCFを改善する効果がマグワ根皮エキスにあることを確認した。
【0066】
実施例5:遺伝子発現解析
ヒト新生児ケラチノサイトに、Cryj2(1μg/mLまたは10μg/mL)を添加し、24時間後に回収した。培養終了後、それぞれの試験水準の細胞をRNeasy(登録商標)Plus Mini Kit(QIAGEN社製)を用いて回収し、totalRNAの沈殿物を得た。Clariom S Assay Humanマイクロアレイ解析にて、遺伝子発現解析を行い、クラスタリング解析を行った。
【0067】
Cryj2で発現が増加した遺伝子(上位20種)と、Cryj2で発現が低下した遺伝子(上位20種)をそれぞれ以下の表1及び表2に示す。表1及び表2には、無刺激の発現量を1.0とした際のCryj2刺激した際の発現量を示す。
【0068】
【0069】