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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026967
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】土壌センサ装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20240221BHJP
【FI】
G01N27/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129576
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】白石 直規
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AA14
2G060AB12
2G060AC01
2G060AE16
2G060BA07
2G060BB11
2G060BC03
2G060DA06
2G060DA09
2G060DA14
2G060HC02
2G060HC04
(57)【要約】
【課題】例えば硝酸イオン等の特定のイオンの濃度を含水率の低い乾燥した土壌においてもセンシングすることを可能とする土壌センサ装置を提供する。
【解決手段】土壌中の水蒸気に含まれる特定のイオンを検出する土壌センサ装置は、開口が設けられた部分を土壌に接触または侵入させて配置可能な筐体と、筐体の内部に配置された、特定のイオンのセンサ素子としてのグラフェン電界効果トランジスタと、筐体における、グラフェン電界効果トランジスタより開口側に配置され、特定のイオンを含む水蒸気を透過させるフィルタと、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌中に含まれる特定の物質を気相で検出する土壌センサ装置であって、
開口が設けられた部分を前記土壌に接触または侵入させて配置可能な筐体と、
前記筐体の内部に配置された、前記特定の物質のセンサ素子としてのグラフェン電界効果トランジスタと、
前記筐体における、前記グラフェン電界効果トランジスタより前記開口側に配置され、前記特定の物質を前記気相で透過させるフィルタと、
を備えることを特徴とする、土壌センサ装置。
【請求項2】
前記グラフェン電界効果トランジスタに所定のゲート電圧を印加した場合におけるドレイン-ソース電流の値に基づいて、前記特定の物質の量に対応する信号を出力する計測部をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項3】
前記グラフェン電界効果トランジスタにおけるグラフェンチャネルは、単層のグラフェン層からなることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項4】
前記筐体は略筒状の形状を有し、
前記筐体の最大幅は1cm以上10cm以下であり、前記筐体の長さは3cm以上20cm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項5】
前記フィルタは前記筐体に交換可能に取り付けられたことを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項6】
前記筐体の内部に、温度及び湿度を検知する温湿度センサと、圧力を検知する圧力センサと、をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項7】
前記筐体の内部に、少なくとも前記グラフェン電界効果トランジスタに電力を供給する自立電源をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項8】
前記特定の物質を、前記気相で前記フィルタを透過させて、前記グラフェン電界効果トランジスタにおけるグラフェンチャネルに導く吸引機をさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項9】
前記筐体の内部に、前記気相で前記フィルタを透過する前記特定の物質を含む流体の流量を測定するフローセンサをさらに備えることを特徴とする、請求項8に記載の土壌センサ装置。
【請求項10】
前記土壌中の水分量を測定する水分センサをさらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【請求項11】
前記水分センサは、前記筐体において前記土壌に接触しまたは侵入する部分に設置されたことを特徴とする、請求項10に記載の土壌センサ装置。
【請求項12】
前記特定の物質は、硝酸イオンであることを特徴とする、請求項1に記載の土壌センサ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌中に含まれる特定のイオンを検出する土壌センサ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業従事者の高齢化等により、農業生産の持続性を確保し、将来にわたり食料を安定的に供給することが難しくなりつつある。こうした情勢を踏まえてスマート農機等の活用実証が進んでいるが、収量の向上と収益性の改善が不十分な状況にあり、その原因の多くは土壌管理に起因する。そこで、土壌の健全性に係る指標をセンシングしてリアルタイムで制御できるようなプレシジョン・ファーミング(精密農業)の実現が望まれている。その実現を目的として、例えば作物の生育に即応する土壌中の物質の濃度や物性をリアルタイムでセンシング可能な最先端のセンサ類の開発が求められる。
【0003】
従来、センサ類の一例として、イオン選択性が高く、臨床分析や環境分析の分野において、前処理の必要なく、特定イオンの濃度を定量的に測定することができるイオンセンサが公知である。当該イオンセンサは、作用電極と参照電極とポテンショメータを有し、作用電極が特定の物質を補足することにより生じる参照電極との電位差をポテンショメータで測定する。この構成のイオンセンサは、溶液中に含まれる物質に応じて作用電極を変えることにより種々の物質を分析対象とすることができる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、上記のイオンセンサは、作用電極が溶液に接触することで電位を測定する構成を有し、含水率の低い土壌では特定のイオンの濃度をセンシングできず、濃度の測定ができない虞があった。
【0005】
また、ソース電極と、ドレイン電極と、該ソース電極及び該ドレイン電極の間に設けられたカーボンナノチューブで形成されたn型のチャネルと、該チャネル上に熱CVD法により直接形成された窒素化合物の膜とを備え、該チャネルが窒素化合物膜形成時にp型からn型に転換されたチャネルであり、検出対象を該チャネルを流れる電流の変化として検知するためのn型トランジスタセンサも公知である(例えば、特許文献2参照)。他に、ガスセンサーを利用して気相の揮発性成分濃度を測定した後に液体中の揮発性成分濃度を推定する手法において、気液平衡状態に達するまで待たなくとも液体中の揮発性成分濃度を測定可能なシステムも公知である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
しかしながら、上記のn型トランジスタセンサやガスセンサーについても、含水率の低い土壌では特定のイオンの濃度をセンシングできず、濃度の測定ができない虞があった。すなわち、特許文献1乃至3に記載の技術を、農業等の分野において、土壌管理に有効活用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4195938号公報
【特許文献2】特許第4891550号公報
【特許文献3】特許第4977087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本件開示の技術は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、例えば硝酸イオン等の特定のイオンの濃度を含水率の低い乾燥した土壌においてもセンシン
グすることを可能とする土壌センサ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するための本開示は、土壌中に含まれる特定の物質を気相で検出する土壌センサ装置であって、
開口が設けられた部分を前記土壌に接触または侵入させて配置可能な筐体と、
前記筐体の内部に配置された、前記特定の物質のセンサ素子としてのグラフェン電界効果トランジスタと、
前記筐体における、前記グラフェン電界効果トランジスタより前記開口側に配置され、前記特定の物質を前記気相で透過させるフィルタと、
を備えることを特徴とする、土壌センサ装置である。
【0010】
本開示による土壌センサ装置は、内部にセンサ素子としてのグラフェン電界効果トランジスタを備えている。このグラフェン電界効果トランジスタは、ドレイン電極及びソース電極の間に形成されたグラフェンチャネルに特定の物質が吸着または吸収されることで、ドレイン―ソース電流が変化することを利用して、特定の物質を検出または、特定の物質の量を測定するセンサである。なお、特定の物質とは、例えば硝酸イオンである。また、気相は、特定の物質(例えば硝酸イオン)を含む水が気化して硝酸イオンを含む水蒸気となった状態である。
【0011】
そして、本開示による土壌センサ装置によれば、筐体において開口が設けられた部分を土壌に接触または侵入させて配置し、当該開口から筐体の内部に導入された物質のうち、特定の物質が気相でフィルタを透過して、グラフェン電界効果トランジスタに到達し、グラフェンチャネルに吸着または吸収されることで、特定の物質が検出されまたは、特定の物質の量(濃度を含む)が測定される。
【0012】
これによれば、筐体の開口を土壌に接触または侵入させて、土壌センサ装置を配置するだけで、土壌から特定の物質を気相でグラフェン電界効果トランジスタのグラフェンチャネルに吸着または吸収させることができ、より容易に、含水率の少ない土壌に対しても、特定の物質を検出または、特定の物質の量を測定することが可能である。
【0013】
また、本開示においては、前記グラフェン電界効果トランジスタに所定のゲート電圧を印加した場合におけるドレイン-ソース電流の値に基づいて、前記特定の物質の量に対応する信号を出力する計測部をさらに備えることとしてもよい。
【0014】
これによれば、本開示に記載の土壌センサ装置だけで、特定の物質を検出または特定の物質の量を測定することが可能である。なお、計測部は、筐体の内部に配置されてもよいし、筐体の外部に配置されてもよい。また、計測部は、出力した結果を記憶する記憶部をさらに備えていてもよいし、出力した結果を外部に設けられた機器に通信により送信する通信部をさらに備えていてもよい。
【0015】
また、本開示においては、前記グラフェン電界効果トランジスタにおけるグラフェンチャネルは、単層のグラフェン層からなることとしてもよい。これによれば、特定の物質が気相で吸着または吸収されるグラフェンチャネルの単位体積当たりの表面積を相対的に増加させることができ、特定の物質に対する感度をさらに向上させることが可能である。
【0016】
また、本開示においては、前記筐体は略筒状の形状を有し、前記筐体の最大幅は1cm以上10cm以下であり、前記筐体の長さは3cm以上20cm以下であることとしてもよい。これによれば、土壌センサ装置を、良好に持ち運び可能な形態にすることができ、利便性を高めることが可能である。
【0017】
また、本開示においては、前記フィルタは前記筐体に交換可能に取り付けられたこととしてもよい。ここで前述の、特定の物質を気相で透過させるフィルタは、使用により目詰まり等の機能の低下が生じる場合がある。従って、フィルタを筐体に交換可能に取り付けることにより、定点測定等を行った場合にも、定期的または不定期にフィルタのみを交換することで、土壌センサ装置全体を交換する必要がなくなり、測定作業の効率化を図ることが可能である。
【0018】
また、本開示においては、前記筐体の内部に、温度及び湿度を検知する温湿度センサと、圧力を検知する圧力センサと、をさらに備えることとしてもよい。これによれば、特定の物質の検出または物質の量の測定に加えて、温湿度や気圧など、関連する環境データを同時に取得することが可能となり、より有用な計測を行うことが可能となる。また、検出される物質の量の測定値が、温湿度や圧力の影響を受ける場合には、温湿度センサや圧力センサの測定値で、物質の量の測定値を補正することができ、より高精度な測定が可能となる。
【0019】
また、本開示においては、前記筐体の内部に、少なくとも前記グラフェン電界効果トランジスタに電力を供給する自立電源をさらに備えることとしてもよい。これによれば、本開示に係る土壌センサ装置単体で、より容易に定点測定や継続的な測定を行うことが可能となる。
【0020】
また、本開示においては、前記特定の物質を、前記気相で前記フィルタを透過させて、前記グラフェン電界効果トランジスタにおけるグラフェンチャネルに導く吸引機をさらに備えることとしてもよい。これによれば、吸引機の作動により筐体の開口から強制的に、特定の物質を気相で吸入し、フィルタを透過させてグラフェン電界効果トランジスタにおけるグラフェンチャネルに導くことが可能である。その結果、より効率的に特定の物質の検出または特定の物質の量の測定を行うことが可能である。
【0021】
また、本開示においては、前記筐体の内部に、前記気相で前記フィルタを透過する前記特定の物質を含む流体の流量を測定するフローセンサをさらに備えることとしてもよい。これによれば、吸引機を用いて筐体の内部に特定の物質の流れを生成した場合に、流量を測定することで、グラフェン電界効果トランジスタにおけるグラフェンチャネルに気相で導かれた特定の物質の量をより正確に取得することが可能となる。その結果、特定の物質の濃度をより精度よく測定することが可能である。
【0022】
また、本開示においては、前記土壌中の水分量を測定する水分センサをさらに備えることとしてもよい。これによれば、特定の物質の量の測定値に影響を及ぼしやすい土壌中の水分の量(体積含水率を含む)を、同時に取得することができ、特定の物質の検出または特定の物質の量の測定の精度を向上させることが可能である。
【0023】
また、本開示においては、前記水分センサは、前記筐体において前記土壌に接触しまたは侵入する部分に設置されるようにしてもよい。これによれば、水分センサを直接土壌に接触させまたは侵入させて水分の量を取得することが可能である。その結果、水分の量の測定精度を向上させることが可能である。ここで、前記筐体において前記土壌に接触しまたは侵入する部分とは、筐体に設けられた開口の周囲または近傍であってもよい。また、水分センサは、単数または複数の棒状の差込みセンサ部を挿入する形態のものとしてもよい。これによれば、水分センサの差込みセンサ部を地面に挿入させることで、筐体の開口が設けられた部分を土壌に接触または侵入させることができ、土壌中の水分量と、特定の物質の検出または物質の量の測定準備を同時に行うことが可能である。また、土壌センサ装置をより安定的に土壌に固定することが可能である。
【0024】
また、本開示においては、前記特定の物質は、硝酸イオンであることとしてもよい。これによれば、作物を育成する上で重要な硝酸イオンの検出または硝酸イオンの量の測定を、より容易に高精度に行うことが可能で、作物の収量増加に必要な情報をより効率的に取得することが可能である。
【0025】
なお、上記の課題を解決するための手段は、可能な限り互いに組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0026】
本件開示の技術によれば、例えば硝酸イオン等の特定のイオンの濃度を含水率の低い乾燥した土壌においてもセンシングすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1Aは、実施例1に係る土壌イオン検出装置の使用例を説明するための概略図である。図1B及び図1Cは、図1Aをより詳細に説明するための概略図である。
図2図2A乃至図2Cは、実施例1に係る土壌イオン検出装置の構成の一例をより詳細に説明するための模式図である。
図3図3は、実施例1に係る土壌イオン検出装置における、ゲート電極の電圧の値に対する、ドレイン電極及びソース電極の間の電流の値の関係を示すグラフである。
図4図4は、実施例2に係る土壌イオン検出装置の構成の一例を説明するための模式図である。
図5図5は、実施例3に係る土壌イオン検出装置の構成の一例を説明するための模式図である。
図6図6は、実施例4に係る土壌イオン検出装置の構成の一例を説明するための模式図である。
図7図7は、実施例5に係る土壌イオン検出装置の構成の一例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
〔実施例1〕
以下、本開示の実施例について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、本開示の一態様であり、本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0029】
<装置構成>
図1Aは、実施例1に係る土壌イオン検出装置1の使用例を説明するための概略図である。実施例1に係る土壌イオン検出装置1は例えば農業等の分野において使用されるものであり、図1Aに示すように畑土壌2の表面に接触させて、あるいは一部を畑土壌2の中に侵入させて使用される。畑土壌2の中の土21の隙間、あるいは土の内部には、水分が存在し、この水分の一部は水蒸気22の状態となっている。この水蒸気22には、例えば硝酸イオン等、水溶性の高いイオンが含まれる場合がある。なお、以下では、水蒸気22は、一定量の硝酸イオンを含むこととし、硝酸イオンは、本開示における特定の物質に相当するが、特定の物質は硝酸イオン以外であってもよい。また、土壌イオン検出装置1は、本開示における土壌センサ装置に相当する。
【0030】
畑土壌2の中に含まれる硝酸イオンは、窒素同化によって有機性含窒素化合物に合成される。この有機性含窒素化合物は、畑土壌2に植えられた植物3の肥料となる。また、硝酸イオンは、脱窒菌の還元作用によって窒素ガスに還元され、大気中に放出される。この窒素ガスは、畑土壌2の中に取り込まれ、マメ科植物に共生する根粒菌等の細菌が窒素固定を行うことによって、生物が利用可能な窒素化合物が合成される。また別に、この窒素
ガスは、畑土壌2の中に取り込まれ、アンモニウムと亜硝酸を経て硝酸イオンに酸化される。すなわち、硝酸イオンは、植物3の成育や窒素循環にとって重要な物質であり、水蒸気22に含まれる硝酸イオンの濃度をセンシングすることは、畑土壌2のビッグデータを解析し、畑土壌2の健全性を管理することにつながる。
【0031】
図1Bは、図1Aをより詳細に説明するための概略図である。土壌イオン検出装置1は、構成要素の一部として、上端が閉塞された略円筒の形状を有する筐体11と、筐体11の開口が設けられた部分に近い位置であり、図1においては畑土壌2の表面に接触している面に設けられたフィルタ12を有する。フィルタ12は透湿性を有し、畑土壌2の中の水蒸気22を透過させて筐体11の内部に導入する。また、フィルタ12は、土21及び土21に含まれる液体としての水分は透過させないため、これらが筐体11の内部に導入されることはない。なお、筐体11のうち、フィルタ12が設けられている開口が設けられた部分と反対側の端面は、使用状態に応じて開口させてもよい。
【0032】
筐体11の形状は略円筒でなくてもよく、断面が多角形の筒状の形状を有していてもよい。また、図1Cに示すように、筐体11は、例えば直方体の形状を有していてもよい。また、フィルタ12を筐体11の複数箇所(図1Cでは2箇所)に設けてもよい。この場合には、直方体の6面のうち、対向する2面に開口及びフィルタ12を備え、2つのフィルタ12の間に硝酸イオンを含む水蒸気の流路が形成されるようにするとよい。また、土壌イオン検出装置1全体を畑土壌2の中に留置して使用してもよい。
【0033】
筐体11のサイズについて、例えば上底面の最大径Dは1cm以上10cm以下であり、全長Lは3cm以上20cm以下であってもよい。これによって、土壌イオン検出装置1を持ち運ぶことが可能となり、自動車等による機材の搬入が困難な場所においても容易に使用することが可能である。また、フィルタ12は筐体11に交換可能に取り付けられていてもよい。これによって、フィルタ12が長期の使用による目詰まり等で機能低下した場合にも、土壌イオン検出装置1全体の交換が不要となり、一つの土壌イオン検出装置1を繰り返し使用することが可能である。
【0034】
図2Aは、実施例1に係る土壌イオン検出装置1の構成の一例をより詳細に説明するための模式図である。実施例1に係る土壌イオン検出装置1は、上記の筐体11とフィルタ12の他、筐体11の内部にグラフェン電界効果トランジスタ13(以下、GFET13ともいう。)を有する。GFET13は、図2Aに示すように、基板15上に絶縁膜14を介して形成されたドレイン電極131、ソース電極132及びゲート電極133と、ドレイン電極131及びソース電極132の間に形成されたグラフェンチャネル134とを有する。また、ゲート電極133とグラフェンチャネル134の間には絶縁層135が設けられている。図2Aにおいては、ドレイン電極131、ソース電極132から取得したドレイン-ソース電流Asdや、ゲート電極133の電位であるゲート電圧Vgに基づいて、硝酸イオンの量を計測する計測部16と、計測した結果を表示する表示部17をさらに示している。この計測部16及び表示部17は、土壌イオン検出装置1の一部として一体的に設けられていてもよいし、土壌イオン検出装置1とは別に、外部PC等の外部装置を用いて構成してもよい。なお、図2において、GFET13は、筐体11の内部の側面に不図示の取り付け部材を用いて固定されている。
【0035】
グラフェンチャネル134は、炭素原子同士が単結合または二重結合によって結合した構造を有する単層のグラフェン層からなるチャネルである。これによって、水蒸気22が吸着または吸収されるグラフェンチャネル134の単位体積当たりの表面積を相対的に増加させることができる。上記の通りに水蒸気22がフィルタ12に吸収されて筐体11の内部に導入された後に、水蒸気22に含まれる硝酸イオンがグラフェンチャネル134によって高感度に吸着または吸収される。これによって、ドレイン電極131及びソース電
極132の間の電流に変化が生じる。具体的には、図3のグラフに示すように、ゲート電極133の電圧(ゲート電圧)とドレイン電極131及びソース電極132の間の電流(ドレイン―ソース電流)との間の関係が変化する。例えば、図3中の補助線で示したゲート電圧に関しては、ドレイン-ソース電流の値が(1)の位置から(2)の位置に低下する。
【0036】
ゲート電極133はグラフェンチャネル134の上部に設けなくてもよい。図2Bに示すように、ゲート電極133は基板15の裏面(絶縁膜14が設けられている面と反対の面)に設けてもよい。また、図2Cに示すように、ゲート電極133と、グラフェンチャネル134が感応膜136を介して接続されてもよい。
【0037】
図2Aの説明に戻る。上記の通りにグラフェンチャネル134が硝酸イオンを吸着または吸収することによってドレイン-ソース電流に変化が生じる。この変化に基づいて、計測部16は、硝酸イオンの量を計測する。硝酸イオンの量から硝酸イオンの濃度を算出することも可能である。
【0038】
上記の通りにグラフェンチャネル134が高感度に硝酸イオンを吸着または吸収するため、土壌イオン検出装置1においては、高精度に硝酸イオンの量を計測することが可能である。すなわち、実施例1に係る土壌イオン検出装置1によれば、含水率が例えば25%以下の乾燥した畑土壌2においても硝酸イオンをセンシングすることが可能である。その結果、上記の通り畑土壌2の健全性をより高精度に管理することが可能である。
【0039】
〔実施例2〕
次に、図4を用いて、本開示の実施例2に係る土壌イオン検出装置1aについて説明する。土壌イオン検出装置1aは、実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1と多くの構成を共通にしているため、同一の構成については同一の符号を付し、改めての説明は省略する。なお、実施例2以下では、水蒸気22については図示を省略する。実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1との相違点として、実施例2の図4に示す土壌イオン検出装置1aは、温湿度センサ4と圧力センサ5を備えている。
【0040】
<装置構成>
実施例2においては、温湿度センサ4と圧力センサ5が、GFET13と共通の基板15a上に設けられている。温湿度センサ4によって温度及び湿度を検知することが可能であり、圧力センサ5によって圧力を検知することが可能である。硝酸イオンの量の計測値が、温湿度や圧力の影響を受ける場合には、温湿度センサ4と圧力センサ5によって検知された値を用いて、計測部16が硝酸イオンの量を計測する際に計測値が補正し、信頼性の高い計測値を取得することができる。また、例えば定点観測においては、温湿度、圧力という、付随的な情報を得ることで、土壌に関するより多くの知見を得ることが可能である。
【0041】
〔実施例3〕
次に、図5を用いて、本開示の実施例3に係る土壌イオン検出装置1bについて説明する。土壌イオン検出装置1bは、実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1と多くの構成を共通にしているため、同一の構成については同一の符号を付し、改めての説明は省略する。実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1との相違点として、実施例3の図5に示す土壌イオン検出装置1bは、自立電源6を備えている。
【0042】
<装置構成>
実施例3においては、自立電源6が基板15a上に設けられている。自立電源6は、少なくともGFET13に電力を供給する。外部電源からの電力供給が困難な広大な畑土壌
2においても、自立電源6によって土壌イオン検出装置1bを単体で使用することが可能である。土壌イオン検出装置1bは、持ち運び可能なサイズであるため、土壌イオン検出装置1bが備える自立電源6は、例えば小型かつ軽量であって大容量の電気を蓄積可能なリチウムイオン電池であってもよい。なお、実施例3の図5に示す土壌イオン検出装置1bと、実施例2の図4に示す土壌イオン検出装置1aを組み合わせてもよい。すなわち、図5に示す土壌イオン検出装置1bが自立電源6に加えて温湿度センサ4と圧力センサ5を備えていてもよく、この場合には、自立電源6から温湿度センサ4や圧力センサ5にも電力を供給可能であり、外部電源を設けることなく、土壌イオン検出装置1bを長期間、畑土壌2に設置可能となる。
【0043】
〔実施例4〕
次に、図6を用いて、本開示の実施例4に係る土壌イオン検出装置1cについて説明する。土壌イオン検出装置1cは、実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1と多くの構成を共通にしているため、同一の構成については同一の符号を付し、改めての説明は省略する。実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1との相違点として、実施例4の図6に示す土壌イオン検出装置1cは、吸引機7とフローセンサ8を備えている。
【0044】
<装置構成>
実施例4においては、ポンプやファンを備える吸引機7が筐体11におけるフィルタ12が設けられた開口部分と反対側の一端に設けられている。吸引機7の作動によって、フィルタ12は、水蒸気22を強制的に透過させ、グラフェンチャネル134に導くことが可能である。結果的に、水蒸気22がグラフェンチャネル134に吸着または吸収されやすくなり、計測部16が硝酸イオンの量を計測する精度が向上する。また、フローセンサ8によって、フィルタ12を透過する水蒸気22を含む流体の流量を測定することが可能である。流量の測定値を用いることにより、GFET13のグラフェンチャネル134に導かれた水蒸気量をより精度よく推測することができ、硝酸イオンの量の計測精度が向上する。なお、実施例4の図6に示す土壌イオン検出装置1cは、実施例2の図4に示す土壌イオン検出装置1aや実施例3の図5に示す土壌イオン検出装置1bと組み合わせてもよい。
【0045】
なお、本実施例で説明したとおり、吸引機7を用いることで、筐体11を、フィルタ12を有する第1筐体(不図示)と、GFET13を有する第2筐体(不図示)に分離し、両者をチューブで連結するような構成が可能となる。これによれば、水蒸気の取り込み口としてのフィルタ12を有する第1筐体を土壌に接触または侵入させ、水蒸気を農業機械に備えられた第2筐体に導き、硝酸イオンの量を計測するといった計測形態を実現することが可能である。
【0046】
〔実施例5〕
次に、図7を用いて、本開示の実施例5に係る土壌イオン検出装置1dについて説明する。土壌イオン検出装置1dは、実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1と多くの構成を共通にしているため、同一の構成については同一の符号を付し、改めての説明は省略する。実施例1の図2Aに示す土壌イオン検出装置1との相違点として、実施例5の図7に示す土壌イオン検出装置1dは、水分センサ9を備えている。
【0047】
<装置構成>
実施例5においては、フィルタ12が設けられた筐体11の開口付近から、先端側(GFET13とは反対側)の外部に延伸するように、棒状の水分センサ9が設けられている。この水分センサ9は単数設けられてもよいし、複数設けられていてもよい。水分センサ9によって、硝酸イオンの量の測定値に影響を及ぼしやすい畑土壌2の中の水分の量を、同時に取得することが可能である。畑土壌2の中の水分の量を取得することで、計測部1
6が硝酸イオンの量を計測する際に計測値が補正され、より高精度な計測値を取得することができる。また、土壌イオン検出装置1dを使用する方法は、図1に示す方法と同様、水分センサ9を畑土壌2の表面に接触させて、あるいは一部を畑土壌2の中に侵入させて使用する。これによって、水分の量をより確実に取得することができる。なお、実施例5の図7に示す土壌イオン検出装置1dは、実施例2の図4に示す土壌イオン検出装置1aや実施例3の図5に示す土壌イオン検出装置1bや実施例4の図6に示す土壌イオン検出装置1cと組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1、1a、1b、1c、1d・・・土壌イオン検出装置
11・・・筐体
12・・・フィルタ
13・・・GFET
131・・・ドレイン電極
132・・・ソース電極
133・・・ゲート電極
134・・・グラフェンチャネル
135・・・絶縁層
136・・・感応膜
14・・・絶縁膜
15、15a・・・基板
16・・・計測部
17・・・表示部
2・・・畑土壌
21・・・土
22・・・水蒸気
3・・・植物
4・・・温湿度センサ
5・・・圧力センサ
6・・・自立電源
7・・・吸引機
8・・・フローセンサ
9・・・水分センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7