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特開2024-26969ワニスの製造方法、プリプレグの製造方法、樹脂フィルムの製造方法及び積層板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024026969
(43)【公開日】2024-02-29
(54)【発明の名称】ワニスの製造方法、プリプレグの製造方法、樹脂フィルムの製造方法及び積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240221BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240221BHJP
   C08G 73/00 20060101ALI20240221BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20240221BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20240221BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/013
C08G73/00
C08J5/24
B32B15/08 105Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129578
(22)【出願日】2022-08-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大治 雅史
(72)【発明者】
【氏名】島山 裕一
(72)【発明者】
【氏名】金子 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】平山 雄祥
(72)【発明者】
【氏名】山口 真樹
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
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4F072AF06
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4F100AA34B
4F100AA34C
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4F100BA06
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(57)【要約】
【課題】高誘電率材料のスラリー化を可能とする方法で再分散性の良好なスラリーを調製し、当該スラリーを用いることによって、凝集物の発生を抑制し得るワニスの製造方法を提供すること、並びに、当該製造方法を利用した、プリプレグの製造方法、樹脂フィルムの製造方法及び積層板の製造方法を提供すること。
【解決手段】(A)熱硬化性樹脂100質量部、(B)チタン系無機充填材及びジルコン系無機充填材からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材50~400質量部、(C)前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子20~300質量部、及び有機溶媒を含むワニスの製造方法であって、前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製した後に、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの80質量部以上と混合してワニスにすること、を含む、ワニスの製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)熱硬化性樹脂100質量部、(B)チタン系無機充填材及びジルコン系無機充填材からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材50~400質量部、(C)前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子20~300質量部、及び有機溶媒を含むワニスの製造方法であって、
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製した後に、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの80質量部以上と混合してワニスにすること、
を含む、ワニスの製造方法。
【請求項2】
前記(C)成分の平均粒子径が前記(B)成分の平均粒子径よりも0.3μm以上小さい、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項3】
前記(B)成分の平均粒子径が0.1~4.0μmである、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項4】
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製する際に、前記(C)成分が分散したスラリーへ前記(B)成分を添加して混合することを含む、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項5】
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製する際に、前記(B)成分及び前記(C)成分の総量100質量部に対して、(A)熱硬化性樹脂及び(D)熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種1~10質量部を前記(B)成分及び前記(C)成分と共に液体へ分散させることを含む、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項6】
前記チタン系無機充填材が、二酸化チタン及びチタン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項7】
前記チタン酸金属塩が、チタン酸アルカリ金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩及びチタン酸鉛からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載のワニスの製造方法。
【請求項8】
前記ジルコン系無機充填材がジルコン酸アルカリ金属塩である、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項9】
前記(C)成分が、無機充填材及び難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項10】
前記液体がケトン系溶媒を含む、請求項1に記載のワニスの製造方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法で得られるワニスをシート状繊維基材に含浸又は塗工してから乾燥することを含む、プリプレグの製造方法。
【請求項12】
請求項1~10のいずれか1項に記載の製造方法で得られるワニスを支持体へ塗布してから乾燥することを含む、樹脂フィルムの製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載の製造方法で得られるプリプレグを2枚以上重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置するか、又は、当該プリプレグと他のプリプレグとを合計2枚以上重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置し、次いで加熱加圧成形することを含む、積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワニスの製造方法、プリプレグの製造方法、樹脂フィルムの製造方法及び積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン等の携帯端末が普及しており、さらにはIoT(Internet of Things)等の技術革新が進んだ結果、無線通信機能を有する家電製品及び電子機器が増加している。これによって無線ネットワークの通信トラフィックが増大し、通信速度及び通信品質が低下することが懸念されている。
当該問題を解決するため、第5世代移動通信システム(以下、「5G」と称することがある。)の開発が進められており、現在、既に利用されつつある。5Gにおいては、複数のアンテナ素子を用いて高度なビームフォーミング及び空間多重を行なうと共に、従来から使用されている6GHz帯の周波数の信号に加えて、数十GHzといった、より高い周波数のミリ波帯の信号を使用する。それによって、通信速度の高速化及び通信品質の向上が期待されている。以下、10GHz以上を高周波数と称する。
【0003】
このように、5Gではアンテナモジュールが高周波数の信号に対応できる必要があり、そのためには、積層板の高周波数帯における誘電正接(Df)が低いことが求められる。
高周波数の電波は直線性が高いため、高周波数の電波に載せた信号は、建物等の障害物によって容易に遮断される傾向がある。それゆえ、当該遮断を回避するために、アンテナ装置はアンテナモジュールに複数個搭載される。基板材料の比誘電率(Dk)を高くすることでアンテナ装置を小型化できるため、比誘電率(Dk)を高くすることはアンテナ装置の複数搭載に有効であり、且つ、アンテナモジュールの小型化、ひいては通信装置の小型化にも繋がる。そのため、高周波数の信号に対応できるアンテナモジュールに用いられる積層板は、所定の高さの比誘電率(Dk)を有し、且つ、誘電正接(Df)が低いことが求められる。
【0004】
ここで、基板材料の比誘電率(Dk)を高くする方法の1つとしては、高誘電率材料を用いる方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の小型アンテナは、低誘電率材料からなる第1の誘電体層を高誘電率材料からなる第2及び第3の誘電体層で挟んで積層形成して製造したものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2005/101574号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者等が高誘電率材料を含有する熱硬化性樹脂組成物のワニスの調製を試みたところ、ワニス中に凝集物が発生し易く、その結果、硬化物の外観を損ねる場合があることが判明した。そこで、本発明者等は、前記凝集物が高誘電率材料に起因するものであると推測し、高誘電率材料については液体に分散させてスラリー化してからその他の成分と混合するという手順でワニスを調製してみたところ、そもそも高誘電率材料のスラリー化自体が困難であり、ワニス中の凝集物の問題を解決することが容易ではないことが判明した。ここで、本開示において、液体中に固体粒子が分散又は懸濁した状態にすることを「スラリー化」と称し、当該状態となったものを「スラリー」と称する。なお、ワニス中に凝集物が発生すると、硬化物の外観不良となる上、絶縁信頼性の低下につながり得る。
また、本発明者等がさらに検討を行ったところ、凝集物の発生が抑制されたスラリーであっても、数日間放置したときに凝集物が発生し得ることがわかった。工業的な実施においては、前記スラリーを数日静置してから利用する実施形態がある。そのため、スラリーを数日静置した後の固形分の分散性(以下、再分散性と称する。)が良好であることが求められる。
【0007】
本開示は、このような現状に鑑み、高誘電率材料のスラリー化を可能とする方法で再分散性の良好なスラリーを調製し、当該スラリーを用いることによって、凝集物の発生を抑制し得るワニスの製造方法を提供すること、並びに、当該製造方法を利用した、プリプレグの製造方法、樹脂フィルムの製造方法及び積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、本開示の製造方法であれば、前記目的を達成できることを見出した。
【0009】
本開示は、下記[1]~[13]の実施形態を含むものである。
[1](A)熱硬化性樹脂100質量部、(B)チタン系無機充填材及びジルコン系無機充填材からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材50~400質量部、(C)前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子20~300質量部、及び有機溶媒を含むワニスの製造方法であって、
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製した後に、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの80質量部以上と混合してワニスにすること、
を含む、ワニスの製造方法。
[2]前記(C)成分の平均粒子径が前記(B)成分の平均粒子径よりも0.3μm以上小さい、上記[1]に記載のワニスの製造方法。
[3]前記(B)成分の平均粒子径が0.1~4.0μmである、上記[1]又は[2]に記載のワニスの製造方法。
[4]前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製する際に、前記(C)成分が分散したスラリーへ前記(B)成分を添加して混合することを含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載のワニスの製造方法。
[5]前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製する際に、前記(B)成分及び前記(C)成分の総量100質量部に対して、(A)熱硬化性樹脂及び(D)熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種1~10質量部を前記(B)成分及び前記(C)成分と共に液体へ分散させることを含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載のワニスの製造方法。
[6]前記チタン系無機充填材が、二酸化チタン及びチタン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[5]のいずれかに記載のワニスの製造方法。
[7]前記チタン酸金属塩が、チタン酸アルカリ金属塩、チタン酸アルカリ土類金属塩及びチタン酸鉛からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[6]に記載のワニスの製造方法。
[8]前記ジルコン系無機充填材がジルコン酸アルカリ金属塩である、上記[1]~[7]のいずれかに記載のワニスの製造方法。
[9]前記(C)成分が、無機充填材及び難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[8]のいずれかに記載のワニスの製造方法。
[10]前記液体がケトン系溶媒を含む、上記[1]~[9]のいずれかに記載のワニスの製造方法。
[11]上記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法で得られるワニスをシート状繊維基材に含浸又は塗工してから乾燥することを含む、プリプレグの製造方法。
[12]上記[1]~[10]のいずれかに記載の製造方法で得られるワニスを支持体へ塗布してから乾燥することを含む、樹脂フィルムの製造方法。
[13]上記[11]に記載の製造方法で得られるプリプレグを2枚以上重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置するか、又は、当該プリプレグと他のプリプレグとを合計2枚以上重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置し、次いで加熱加圧成形することを含む、積層板の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示により、高誘電率材料のスラリー化を可能とする方法で再分散性の良好なスラリーを調製し、当該スラリーを用いることによって、凝集物の発生を抑制し得るワニスの製造方法を提供すること、並びに、当該製造方法を利用した、プリプレグの製造方法、樹脂フィルムの製造方法及び積層板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。また、数値範囲の下限値及び上限値は、それぞれ他の数値範囲の下限値又は上限値と任意に組み合わせられる。数値範囲「AA~BB」という表記においては、両端の数値AA及びBBがそれぞれ下限値及び上限値として数値範囲に含まれる。
本開示において、例えば、「10以上」という記載は、10及び10を超える数値を意味し、数値が異なる場合もこれに準ずる。また、例えば、「10以下」という記載は、10及び10未満の数値を意味し、数値が異なる場合もこれに準ずる。
また、本開示で例示する各成分及び材料は、特に断らない限り、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。本開示において、組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0012】
本開示において、「樹脂成分」とは、樹脂組成物を構成する固形分のうち、後述する無機充填材等の無機化合物を除く、全ての成分のことをいう。
本開示において、「固形分」とは、樹脂組成物中の有機溶媒以外の成分のことをいう。すなわち、固形分は、25℃付近の室温で固体状のもののほか、25℃付近の室温で液状、水飴状又はワックス状のものも含む。
本開示中の「XXを含有する」という表現は、XXが反応し得る場合にはXXが反応した状態で含有していてもよいし、単にXXをそのまま含有していてもよいし、これら両方の態様が含まれていてもよい。
本開示における記載事項を任意に組み合わせた態様も本開示及び本実施形態に含まれる。
【0013】
[ワニスの製造方法]
本実施形態のワニスの製造方法は以下の通りである。
(A)熱硬化性樹脂100質量部、(B)チタン系無機充填材及びジルコン系無機充填材からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材50~400質量部、(C)前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子20~300質量部、及び有機溶媒を含むワニスの製造方法であって、
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製した後に、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの80質量部以上と混合してワニスにすること、
を含む、ワニスの製造方法。
本開示において、ワニスとは、樹脂成分の濃度が40質量%以上の、有機溶媒を含有する熱硬化性樹脂組成物のことである。一方、前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによって調製されるスラリー中の樹脂成分の濃度は0~10質量%であり、好ましくは0~8質量%、より好ましくは0~6質量%である。当該スラリー中の樹脂成分の前記濃度の下限値は0.1質量%であってもよいし、0.5質量%であってもよいし、1.5質量%であってもよし、3質量%であってもよい。
なお、前記(B)成分は、前述の高誘電率材料に相当する。
【0014】
前述の通り、ワニス中における前記(B)成分の凝集を抑制するために、ワニスを調製する前の段階で前記(B)成分をスラリー化しておきたいと考えたとしても、前記(B)成分単独のスラリー化は困難である。これは、一般的に前記(B)成分が表面処理の困難な物質であることが原因の1つとして考えられる。このことを踏まえて、本実施形態では、前記(B)成分を、(C)成分である「前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子」と一緒にスラリー化する手法を採る。単独のスラリー化が困難な(B)成分が(C)成分と一緒であればスラリー化が可能となった正確な理由は不明であるが、(B)成分が、それよりも平均粒子径の小さい(C)成分中に入り込むことで(B)成分の分散性が大幅に高まったものと推察する。前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーを前記(A)成分並びに必要に応じて後述の有機溶媒及びその他の成分等と混合することで、ワニス中における(B)成分の分散性が良好となり、その結果、所定量以上の熱硬化性樹脂と混合したワニス中における凝集物の発生を効果的に抑制することに繋がったものと推察する。
但し、前記推察が必ずしも正しくなかったとしても、そのことは本実施形態の範囲に影響を及ぼすものではない。
【0015】
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリー化する際に用いる液体としては、特に制限されるものではないが、ワニスが含有し得る後述の有機溶媒が挙げられる。前記液体は、(B)成分及び(C)成分の分散性の観点からは、ケトン系溶媒を含むことが好ましく、メチルイソブチルケトンを含むことがより好ましい。
前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーの固形分濃度[(B)成分と(C)成分に限定されず、スラリーが含有し得るその他の固形分も含む固形分濃度]は、特に制限されるものではないが、主に前記(B)成分及び前記(C)成分の分散性及びスラリーの流動性の観点から、好ましくは55~80質量%、より好ましくは60~75質量%、さらに好ましくは65~72質量%である。
また、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーにおける前記(B)成分と前記(C)成分の含有比率[(B)/(C)]は、特に制限されるものではないが、前記(B)成分の分散性の観点から、質量比で、好ましくは90/10~50/50、より好ましくは85/15~55/45、さらに好ましくは80/20~60/40である。
【0016】
本実施形態では、特に制限されるものではないが、前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させることによってスラリーを調製する際に、つまり前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーの調製の際に、前記(C)成分が分散したスラリーへ前記(B)成分を添加して混合することが好ましい。この場合、前記(C)成分が分散したスラリーの固形分濃度は、(C)成分の分散性及び(C)成分を含むスラリーの流動性の観点から、好ましくは55~90質量%、より好ましくは60~85質量%、さらに好ましくは65~75質量%である。
前記(C)成分が分散したスラリーへ前記(B)成分を添加して混合する方法としては、前記(C)成分が分散したスラリーへ前記(B)成分を一度に全て添加して混合してもよいし、2回以上に分けて添加しながら混合してもよい。
前記混合方法としては、特に制限されるものではないが、撹拌機及び混合機からなる群から選択される少なくとも1種を用いて(B)成分と(C)成分とを混合する方法が挙げられる。撹拌機又は混合機としては、モーター撹拌機、エアー撹拌機、プラネタリーミキサー、サニタリーミキサー、自公転ミキサー等が挙げられる。
【0017】
なお、前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させる際に、前記(B)成分及び前記(C)成分の総量100質量部に対して、(A)熱硬化性樹脂及び(D)熱可塑性樹脂からなる群から選択される少なくとも1種1~10質量部を前記(B)成分及び前記(C)成分と共に液体へ分散させることが好ましい。このように、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに前記量の熱硬化性樹脂又は前記量の熱可塑性樹脂を含有させることで、スラリーの再分散性が良好となる傾向がある。スラリーの再分散性が良好となることで、数日静置後のスラリーにおける(B)成分等を再分散させてからスラリーを利用することができるため、前記実施形態を採用可能となる点が工業的に有益である。
前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに含有させる熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の含有量は、具体的には、前記(B)成分及び前記(C)成分の総和100質量部に対して1~10質量部であり、好ましくは2~8質量部、より好ましくは3~7質量部である。
前記量の熱硬化性樹脂又は前記量の熱可塑性樹脂は、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーの調製後に添加して混合してもよいし、前記(C)成分が分散したスラリーへ前記(B)成分を添加して混合する際に(B)成分と一緒に前記量の(A)熱硬化性樹脂又は前記量の(D)熱可塑性樹脂を添加して混合してもよい。
また、前記(C)成分が分散したスラリーに前記量の(A)熱硬化性樹脂又は前記量の(D)熱可塑性樹脂を添加して混合しておき、そこへ前記(B)成分を添加して混合する態様であってもよく、その後、さらに別の(C)成分を添加して混合する態様であってもよい。
【0018】
さらに、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに、後述する(E)表面処理剤を含有させてもよい。前記スラリーに(E)表面処理剤を含有させることによって、スラリーの再分散性が向上することがある。前記スラリーに含有させる(E)表面処理剤としては後述の通りであるが、スラリーの再分散性の観点からは、特に、第三級アミノ基を有さないシランカップリング剤、第三級アミノ基を有さないチタネートカップリング剤が好ましい。第三級アミノ基を有さないシランカップリング剤は、特に制限されるものではないが、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等の、第三級アミノ基を有さないトリアルコキシシランであることが好ましい。第三級アミノ基を有さないチタネートカップリング剤は、第三級アミノ基を有さないリン酸変性チタネート、第三級アミノ基を有さない末端長鎖アルキル脂肪酸変性チタネートであることが好ましい。第三級アミノ基を有さない末端長鎖アルキル脂肪酸変性チタネートの長鎖アルキル脂肪酸は、炭素数8以上の脂肪酸であることが好ましく、炭素数12~30の脂肪酸であることがより好ましく、炭素数14~24の脂肪酸であることがさらに好ましく、炭素数14~20の脂肪酸であることが特に好ましい。第三級アミノ基を有さない末端長鎖アルキル脂肪酸変性チタネートの長鎖アルキル脂肪酸としては、具体的には、-O-(C=O)-C1735等が挙げられる。
前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに含有させる(E)表面処理剤の含有量は、スラリーの再分散性の観点から、前記(B)成分及び前記(C)成分の総和100質量部に対して0.05~5質量部であり、好ましくは0.1~3質量部、より好ましくは0.5~2質量部である。
【0019】
以下、本実施形態の製造方法で使用する各成分について順に詳述する。
((A)熱硬化性樹脂)
(A)成分としては、エポキシ樹脂、マレイミド化合物、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、シアネート樹脂、イソシアネート樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、オキセタン樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アリル樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、シリコーン樹脂、トリアジン樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、ワニスの製造に用いる(A)成分は、エポキシ樹脂、マレイミド化合物、変性ポリフェニレンエーテル樹脂であることが好ましく、低熱膨張性、耐熱性の観点からは、エポキシ樹脂、マレイミド化合物であることがより好ましく、低熱膨張性、誘電正接(Df)等の観点からは、マレイミド化合物、変性ポリフェニレンエーテル樹脂であることがより好ましい。なお、前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させてスラリー化する際に含有させる(A)熱硬化性樹脂は、再分散性の観点から、エポキシ樹脂、マレイミド化合物であることが好ましく、エポキシ樹脂であることがより好ましい。
(A)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。ここで、エポキシ樹脂は、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂、グリシジルアミンタイプのエポキシ樹脂、グリシジルエステルタイプのエポキシ樹脂等に分類される。これらの中でも、グリシジルエーテルタイプのエポキシ樹脂が好ましい。
エポキシ樹脂は、主骨格の違いによっても種々のエポキシ樹脂に分類され、上記それぞれのタイプのエポキシ樹脂において、さらに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂等の脂環式エポキシ樹脂;脂肪族鎖状エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキルノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキルノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂等のナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂;ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂;キシリレン型エポキシ樹脂;ジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂などに分類される。
なお、ワニスの製造に用いる(A)成分がエポキシ樹脂である場合は、高弾性率、高ガラス転移温度及び低吸水率とする観点から、当該エポキシ樹脂は、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂であることが好ましい。前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させてスラリー化する際に含有させる(A)成分がエポキシ樹脂である場合は、再分散性の観点から、当該エポキシ樹脂は、ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂であることが好ましい。
【0021】
前記マレイミド化合物は、N-置換マレイミド基を1個以上(好ましくは2個以上)有するマレイミド化合物及びその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、N-置換マレイミド基を1個以上(好ましくは2個以上)有するマレイミド化合物の誘導体を含むことがより好ましい。
N-置換マレイミド基を1個以上有するマレイミド化合物としては、特に制限されるものではないが、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-(2-メトキシフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド等の好ましくは芳香環に結合する1つのN-置換マレイミド基を有する芳香族マレイミド化合物;ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(4-マレイミドフェニル)エーテル、ビス(4-マレイミドフェニル)スルホン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、インダン環含有ビスマレイミド等の好ましくは芳香環に結合する2つのN-置換マレイミド基を有する芳香族ビスマレイミド化合物;ポリフェニルメタンマレイミド、ビフェニルアラルキル型マレイミド等の好ましくは芳香環に結合する3つ以上のN-置換マレイミド基を有する芳香族ポリマレイミド化合物;N-ドデシルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、1,6-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、ピロリロン酸バインダ型長鎖アルキルビスマレイミド等の脂肪族マレイミド化合物などが挙げられる。これらの中でも、他の樹脂との相容性、導体との接着性、耐熱性、低熱膨張性及び機械特性の観点から、好ましくは芳香環に結合する2つのN-置換マレイミド基を有する芳香族ビスマレイミド化合物がより好ましく、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパンがさらに好ましい。
【0022】
なお、マレイミド化合物の誘導体としては、前記N-置換マレイミド基を1個以上(好ましくは2個以上)有するマレイミド化合物と、モノアミン化合物、ジアミン化合物等のアミン化合物との付加反応物(以下、「変性マレイミド化合物」と称することがある。)などが挙げられる。
前記モノアミン化合物としては、o-アミノフェノール、m-アミノフェノール、p-アミノフェノール、o-アミノ安息香酸、m-アミノ安息香酸、p-アミノ安息香酸、o-アミノベンゼンスルホン酸、m-アミノベンゼンスルホン酸、p-アミノベンゼンスルホン酸、3,5-ジヒドロキシアニリン、3,5-ジカルボキシアニリン等の、酸性置換基を有するモノアミン化合物が挙げられる。前記ジアミン化合物としては、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、2,2’-ビス(4,4’-ジアミノジフェニル)プロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルチオエーテル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2’,6,6’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジブロモ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2’,6,6’-テトラクロロ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、2,2’,6,6’-テトラブロモ-4,4’-ジアミノジフェニルメタン等の、アミノ基が芳香族炭化水素基に結合している芳香族ジアミン;シロキサンジアミンなどが挙げられる。
前記マレイミド化合物は、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物とアミン化合物との付加反応物を含むことが好ましく、N-置換マレイミド基を2個以上有するマレイミド化合物と、シロキサンジアミンを含むジアミン化合物との付加反応物を含むことがより好ましい。
前記マレイミド化合物の重量平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、好ましくは400~10,000、より好ましくは1,000~5,000、さらに好ましくは1,500~4,000である。本開示において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によってポリスチレン換算で測定される値を意味する。
【0023】
前記変性ポリフェニレンエーテル樹脂は、末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル樹脂であってもよい。末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル樹脂は、両末端にエチレン性不飽和結合含有基を有するポリフェニレンエーテル樹脂であることが好ましい。ここで、「エチレン性不飽和結合含有基」とは、付加反応が可能な炭素-炭素二重結合を含有する置換基を意味し、芳香環の二重結合は含まないものとする。当該エチレン性不飽和結合含有基としては、ビニル基、アリル基、1-メチルアリル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、スチリル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;マレイミド基、(メタ)アクリロイル基等のヘテロ原子とエチレン性不飽和結合とを含む基などが挙げられる。エチレン性不飽和結合含有基は、ヘテロ原子とエチレン性不飽和結合とを含む基であることが好ましく、(メタ)アクリロイル基であることがより好ましく、メタクリロイル基であることがさらに好ましい。
なお、本開示において、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基又はメタクリロイル基を意味する。
【0024】
(スラリー化した後のワニス調製時に混合する(A)成分の使用量)
本実施形態の製造方法では、前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させてスラリー化した後に、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの80質量部以上(100質量部を含む。)と混合することによってワニスを調製する。スラリー化した後のワニス調製時に混合する前記(A)熱硬化性樹脂の使用量は、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに(A)熱硬化性樹脂を含有させた場合には、その使用量を差し引いた量に相当する。つまり、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに(A)熱硬化性樹脂を含有させなかった場合には、ワニスの調製時に前記(A)熱硬化性樹脂を100質量部使用することになり、例えば前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに(A)熱硬化性樹脂を5質量部含有させた場合には、ワニスの調製時に前記(A)熱硬化性樹脂を95質量部使用することになる。
前記(B)成分を前記(C)成分と共に液体へ分散させてスラリー化した後に、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの85質量部以上(100質量部を含む。)と混合してワニスを調製することが好ましく、前記(A)熱硬化性樹脂100質量部のうちの90質量部以上(100質量部を含む。)と混合してワニスを調製することがより好ましい。
【0025】
((B)チタン系無機充填材及びジルコン系無機充填材からなる群から選択される少なくとも1種の無機充填材)
前記チタン系無機充填材は、比誘電率(Dk)の観点から、二酸化チタン及びチタン酸金属塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。前記チタン酸金属塩としては、比誘電率(Dk)の観点から、チタン酸カリウム等のチタン酸アルカリ金属塩;チタン酸バリウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム等のチタン酸アルカリ土類金属塩;チタン酸鉛等が挙げられる。前記チタン酸金属塩は、これらの例示から選択される少なくとも1種であることが好ましく、比誘電率(Dk)の観点から、チタン酸アルカリ土類金属塩であることがより好ましく、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウムであることがさらに好ましく、チタン酸カルシウムであることが特に好ましい。
前記ジルコン系無機充填材は、比誘電率(Dk)の観点から、ジルコン酸アルカリ金属塩であることが好ましい。前記ジルコン酸アルカリ金属塩は、比誘電率(Dk)の観点から、ジルコン酸カルシウム及びジルコン酸ストロンチウムからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
(B)成分は、誘電正接(Df)及び比重の観点から、チタン系無機充填材であることが好ましく、より好ましいものは前述の通りである。
【0026】
(B)成分の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、0.1μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましく、耐熱性の観点から、1.0μm以上であることがさらに好ましく、1.5μm以上であることが特に好ましい。(B)成分の平均粒子径の上限値は、絶縁不良の原因となり得る粗大粒子を排除する観点から、4.0μm以下であることが好ましく、3.5μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましく、2.5μm以下であることが特に好ましい。
以上から、(B)成分の平均粒子径は、0.1~4.0μmであることが好ましく、当該数値範囲における下限値及び上限値は上述の記載を基にして変更できる。
ここで、本開示において、平均粒子径とは平均一次粒子径のことをいう。
なお、平均粒子径の異なる2種類の(B)成分を用いることによって、一方の(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する他方の(B)成分が(C)成分の代替成分にならないかについて検討したところ、この場合、スラリーの再分散性が極めて悪くなることが判明した(比較例4及び5参照)。
本開示において、平均粒子径は、粒子径分布測定装置によって測定して得られる粒度分布におけるd50の値(体積分布のメジアン径)である。平均粒子径の測定方法及び測定条件は、詳細には、実施例に記載の方法に従えばよい。
【0027】
(B)成分の形状に特に制限はないが、工業的に入手可能なものは一般的に不定形状であることが多いため、不定形状であってもよいが、球状等の他の形状であってもよい。
【0028】
(ワニス中の(B)成分の含有量)
本実施形態の製造方法において、ワニス中の(B)成分の含有量は、特に制限されるものではないが、比誘電率(Dk)の観点から、(A)成分100質量部に対して、50~400質量部であるが、70~350質量部であることが好ましく、100~300質量部であることがより好ましく、110~290質量部であることがさらに好ましく、120~280質量部であってもよいし、130~270質量部であってもよいし、140~260質量部であってもよいし、150~250質量部であってもよいし、また、120~140質量部であってもよいし、160~180質量部であってもよいし、270~290質量部であってもよい。ここで、ワニス中の(B)成分の含有量には、前記スラリー中の(B)成分の量も含まれる。
前記(B)成分の使用量が前記下限値以上であれば、比誘電率(Dk)を十分に高めることができる傾向にあり、前記上限値以下であれば、誘電正接(Df)までが高まり過ぎることを抑制できる傾向にある。
【0029】
((C)前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子)
本実施形態の製造方法では、前述の通り、(C)成分として、前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子を使用する。(C)成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、(B)成分の分散性の観点からは、2種以上を併用することが好ましい。
前記(C)成分の平均粒子径は、前記(B)成分の分散性の観点から、前記(B)成分の平均粒子径よりも0.3μm以上小さいことが好ましく、0.5μm以上小さいことがより好ましく、1.0μm以上小さいことがさらに好ましく、1.3μm以上小さいことが特に好ましい。
【0030】
当該(C)成分の材質は、前記(B)成分の材質とは異なるものである。(C)成分は、特に制限されるものではないが、無機充填材及び難燃剤からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、無機充填材及び難燃剤を含むことがより好ましい。前記無機充填材は、チタン系無機充填材及びジルコン系無機充填材以外の無機充填材であることが好ましく、そのような無機充填材としては、シリカ、アルミナ、マイカ、ベリリア、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー等のクレー、モリブデン酸亜鉛等のモリブデン酸化合物、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等が挙げられる。これらの中でも、低熱膨張性、弾性率、耐熱性及び難燃性の観点から、シリカ、アルミナ、マイカ、タルクが好ましく、シリカ、アルミナがより好ましく、シリカがさらに好ましい。シリカとしては、破砕シリカ、フュームドシリカ、溶融シリカ等が挙げられる。これらの中でも、溶融シリカが好ましく、溶融球状シリカがより好ましい。
前記無機充填材の平均粒子径は、0.1~5μmが好ましく、0.1~1.5μmがより好ましく、0.2~1.0μmがさらに好ましく、0.3~0.8μmが特に好ましい。
【0031】
また、前記難燃剤は、(C)成分のスラリー中の液体に溶解しない難燃剤であることが好ましい。前記液体に溶解するか否かは、液体100質量部へ難燃剤50質量部を入れて25℃で30分間撹拌したときの様子を、目視で確認して判断する。沈殿物が発生しない場合には「溶解する」と判断し、沈殿物が発生する場合には「溶解しない」と判断する。(C)成分のスラリー中の液体に溶解しない難燃剤としては、(C)成分のスラリー中の液体に溶解しない限りにおいて特に制限はなく、公知の難燃剤を使用することができる。当該難燃剤は、(C1)ホスフェート化合物、(C2)ホスフィンオキシド化合物及び(C3)ホスファフェナントレン化合物、(C4)ホスフィン酸の金属塩及び(C5)有機系含窒素リン化合物からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、(C1)ホスフェート化合物を含むことがより好ましい。
前記難燃剤の平均粒子径は、0.1~5μmが好ましく、0.5~3.5μmがより好ましく、1.0~2.5μmがさらに好ましく、1.0~2.0μmが特に好ましい。
【0032】
((C1)ホスフェート化合物)
前記ホスフェート化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ホスフェート化合物は、市販品を使用することができる。
(C1)成分は、ホスフェート基を分子内に2個以上有していることが好ましく、ホスフェート基を分子内に2個有していることがより好ましい。ここで、ホスフェート基は、下記式で表される基である。
【化1】

(*は結合位置を示す。)
【0033】
ホスフェート基を分子中に2個以上有するホスフェート化合物は、2個以上のホスフェート基を連結する連結基を有することが好ましい。連結基としては、特に限定されるものではないが、フェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、エチレン基等が挙げられる。(C1)成分が高融点になるという観点から、連結基は、フェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基及びナフチレン基からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、フェニレン基を含むことがより好ましい。
【0034】
難燃性の観点から、ホスフェート基が有する酸素原子は、前記芳香族環に置換していてもよい。
(C1)成分は、難燃性の観点から、下記一般式(C1-1)で表される化合物であることが好ましい。
【0035】
【化2】

(式中、Rc1~Rc4は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基を示す。Zc1は、下記一般式(C1-2)で表される2価の基又は2価の縮合多環式芳香族炭化水素基を示す。nc1~nc4は、各々独立に、0~5の整数を示し、nc5は、0~5の整数を示す。)
【0036】
【化3】

(式中、Rc5及びRc6は、各々独立に、炭素数1~5の脂肪族炭化水素基又はハロゲン原子を示す。Zc2は、炭素数1~5のアルキレン基、炭素数2~5のアルキリデン基、-O-、-S-、スルホニル基、カルボニルオキシ基、ケト基又は単結合を示す。nc6及びnc7は、各々独立に、0~4の整数を示す。nc8は、1~3の整数を示す。)
【0037】
前記一般式(C1-1)中のRc1~Rc4が示す炭素数1~5の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。当該脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~3の脂肪族炭化水素基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
c1~nc4は、0~5の整数を示し、0~2の整数が好ましく、0又は2であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。nc1~nc4が2以上の整数である場合、複数のRc1同士、Rc2同士、Rc3同士又はRc4同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
c5は0~5の整数を示し、1~3の整数が好ましく、1又は2であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。nc5が2以上の整数である場合、複数のZc1同士及び複数のnc4同士は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
前記一般式(C1-2)中の各基の定義は前述の通りである。
【0039】
前記一般式(C1-1)中のZc1が示す2価の縮合多環式芳香族炭化水素基としては、ナフタレン、アントラセン、ピレン等の縮合多環式芳香族炭化水素から2個の水素原子を除いてなる2価の基が挙げられる。当該縮合多環式芳香族炭化水素基は、置換基によって置換されていてもよく、置換されていなくてもよい。縮合多環式芳香族炭化水素基の置換基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等の炭素数1~5の脂肪族炭化水素基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子などが挙げられる。
【0040】
ホスフェート化合物(C1)の具体例としては、1,3-フェニレン-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート)、1,3-フェニレン-ビス(ジフェニルホスフェート)、ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)、1,4-フェニレン-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート)、4,4’-ビフェニレン-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート)、ビスフェノールA-ポリフェニルホスフェート、4,4’-ビフェノール-ポリクレジルホスフェート、ビスフェノールA-ポリクレジルホスフェート、4,4’-ビフェノール-ポリ(2,6-キシレニルホスフェート)、ビスフェノールA-ポリ(2,6-キシレニルホスフェート)等が挙げられる。ホスフェート化合物(C1)としては、4,4’-ビフェニレン-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート)が好ましい。
なお、上記ホスフェート化合物の具体例における「ポリ」とは、ホスフェート化合物を構成する2価のフェノール化合物由来の構造とリン酸由来構造とからなる繰り返し単位数が2以上である化合物を意味し、当該化合物を含有することで前記繰り返し単位の平均値が1を超えるものを意味する場合もある。ここで、前記「繰り返し単位」とは、例えば、前記一般式(C1-1)中で説明すると、鍵括弧内の構造単位のことである。
【0041】
((C2)ホスフィンオキシド化合物)
ホスフィンオキシド化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ホスフィンオキシド化合物は、市販品を使用することができる。
(C2)成分は、ジフェニルホスフィンオキシド基を分子中に2個以上有することが好ましく、ジフェニルホスフィンオキシド基を分子中に2個有することがより好ましい。ここで、ジフェニルホスフィンオキシド基は、下記式で表される基である。
【化4】

(*は結合位置を示す。)
【0042】
ジフェニルホスフィンオキシド基を分子中に2個以上有するホスフィンオキシド化合物は、2個以上のジフェニルホスフィンオキシド基を連結する連結基を有することが好ましい。連結基としては、特に限定されるものではないが、フェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基、ナフチレン基、メチレン基、エチレン基等が挙げられる。(C2)成分が高融点になるという観点から、連結基は、フェニレン基、キシリレン基、ビフェニレン基及びナフチレン基からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、フェニレン基を含むことがより好ましい。
【0043】
((C3)ホスファフェナントレン化合物)
ホスファフェナントレン化合物は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。ホスファフェナントレン化合物は、市販品を使用することができる。
(C3)成分としては、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン10-オキシド、9,10-ジヒドロ-10-(2,5-ジヒドロキシフェニル)-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン10-オキシド等が挙げられる。
【0044】
((C4)ホスフィン酸の金属塩)
(C4)成分は、ジアルキルホスフィン酸の金属塩であることが好ましい。ここで、「金属塩」としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アルミニウム塩、チタン塩、亜鉛塩等が挙げられる。これらの中でも、前記金属塩は、アルミニウム塩であることが好ましい。
また、ジアルキルホスフィン酸が有するアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基が挙げられる。アルキル基としては、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~4のアルキル基がより好ましく、エチル基がさらに好ましい
【0045】
((C5)有機系含窒素リン化合物)
(C5)成分としては、ホスファゼン化合物が挙げられる。ホスファゼン化合物は、市販品を使用することができる。
ホスファゼン化合物は、鎖状ホスファゼン化合物であってもよいし、環状ホスファゼン化合物であってもよいが、環状ホスファゼン化合物であることが好ましい。
【0046】
(ワニス中の(C)成分の含有量)
本実施形態の製造方法において、ワニス中の(C)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して20~300質量部であり、好ましくは50~250質量部、より好ましくは75~225質量部、さらに好ましくは80~220質量部、特に好ましくは85~215質量部であり、85~180質量部であってもよいし、85~150質量部であってもよいし、85~120質量部であってもよい。なお、当該数値範囲の上限値は、いずれの場合も、200質量部以下であってもよいし、170質量部以下であってもよいし、130質量部以下であってもよいし、110質量部以下であってもよい。ここで、ワニス中の(C)成分の含有量には、前記スラリー中の(C)成分の量も含まれる。
前記使用量の範囲であれば、(C)成分が前記無機充填材を含む場合には良好な低熱膨張性、耐熱性が得られる傾向にあり、(C)成分が前記難燃剤を含む場合には良好な難燃性が得られる傾向にある。
【0047】
本実施形態の製造方法において、ワニスには、さらに他の成分を含有させてもよい。他の成分としては、特に制限されるものではないが、(D)熱可塑性樹脂、(E)表面処理剤、(F)硬化促進剤、難燃助剤、酸化防止剤、密着性向上剤、熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、顔料、着色剤及び滑剤からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましい。
【0048】
((D)熱可塑性樹脂)
本実施形態の製造方法では、特に制限されるものではないが、ワニス中へ(D)熱可塑性樹脂を含有させることも好ましい。
前記(D)熱可塑性樹脂としては、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、アクリル系熱可塑性エラストマー、シリコーン系熱可塑性エラストマー等の熱可塑性エラストマー;ポリフェニレンエーテル系樹脂等が挙げられる。ここで、前記熱可塑性エラストマーは、ハードセグメント成分とソフトセグメント成分から成り立っており、一般的に、ハードセグメント成分が耐熱性及び強度に寄与しており、ソフトセグメント成分が柔軟性、強靭性に寄与している。
(D)熱可塑性樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記(D)熱可塑性樹脂は、誘電正接(Df)の観点から、スチレン系熱可塑性エラストマーであることが好ましい。ここで、本開示において、スチレン系熱可塑性エラストマーは、水添スチレン系熱可塑性エラストマーを含む。スチレン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン系化合物由来の構造単位を有していればよく、誘電正接(Df)、導体との接着性、耐熱性及び低熱膨張性の観点からは、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS又はSBBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)及びスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群から選択される1種以上が好ましく、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)及びスチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA)からなる群から選択される1種以上がより好ましい。
なお、スチレン系熱可塑性エラストマー(ここでは、前記SMAを除く。)は、無水マレイン酸等の酸無水物で変性されたものであってもよく、例えば、無水マレイン酸等の酸無水物で変性されたSEBS、無水マレイン酸等の酸無水物で変性されたSEPS等が挙げられる。酸変性されたスチレン系熱可塑性エラストマー(ここでは、前記SMAを除く。)の酸価は、特に限定されないが、2~20mgCHONa/gが好ましく、5~15mgCHONa/gがより好ましく、7~13mgCHONa/gがさらに好ましい。
【0050】
スチレン系熱可塑性エラストマー(ここでは、前記SMAを除く。)において、スチレン由来の構造単位の含有率[以下、「スチレン含有率」と称する場合がある。]は、特に限定されないが、誘電正接(Df)、導体との接着性、耐熱性及び低熱膨張性の観点から、5~80質量%であることが好ましく、10~75質量%であることがより好ましく、15~60質量%であることがさらに好ましく、20~45質量%であることが特に好ましい。
また、前記SMAにおいて、スチレン由来の構造単位と無水マレイン酸由来の構造単位のモル比率[スチレン/無水マレイン酸]は、好ましくは5~11、より好ましくは6~10、さらに好ましくは7~9である。
スチレン系熱可塑性エラストマーの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されるものではないが、12,000~1,000,000であることが好ましく、30,000~500,000であることがより好ましく、50,000~120,000であることがさらに好ましく、70,000~100,000であることが特に好ましい。
【0051】
(ワニス中の(D)成分の含有量)
本実施形態の製造方法において、ワニス中の(D)成分の含有量は、特に限定されるものではないが(A)成分100質量部に対して、1~100質量部が好ましく、5~70質量部がより好ましく、10~60質量部がさらに好ましく、25~55質量部が特に好ましい。なお、ワニス中の前記(D)成分の含有量には、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに(D)成分を含有させた場合には、前記スラリー中の(D)成分の量も含まれる。(D)成分の使用量が前記下限値以上であると、誘電正接(Df)が低減する傾向にあり、前記上限値以下であると、良好な耐熱性、成形性、加工性及び難燃性が得られる傾向にある。
【0052】
((E)表面処理剤)
本実施形態の製造方法では、ワニスに(E)表面処理剤を含有させてもよい。(E)成分として、カップリング剤を使用することができる。カップリング剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等が挙げられる。カップリング剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
表面処理剤を用いる場合、その処理方式は、ワニス中にカップリング剤を添加する、いわゆるインテグラルブレンド処理方式であってもよいが、予め乾式又は湿式で表面処理剤によって表面処理した無機充填材を使用する方式が好ましい。これらの処理方式を採用することで、より効果的に無機充填材の特長を発現させることができる。
【0053】
(ワニス中の(E)成分の含有量)
本実施形態の製造方法において、ワニス中の(E)成分の含有量は、特に限定されるものではないが、スラリーの再分散性の観点から、(A)成分100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。なお、ワニス中の前記(E)成分の含有量には、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに(E)成分を含有させた場合には、前記スラリー中の(E)成分の量も含まれる。
【0054】
((F)硬化促進剤)
本実施形態の製造方法では、ワニスに(F)硬化促進剤を含有させてもよい。
前記(F)硬化促進剤としては、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、リン系硬化促進剤、有機金属塩、酸性触媒、有機過酸化物等が挙げられる。なお、本実施形態において、イミダゾール系硬化促進剤は、アミン系硬化促進剤に分類しないものとする。(F)硬化促進剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。(F)硬化促進剤は、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、リン系硬化促進剤であることが好ましく、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤であることがより好ましい。
前記アミン系硬化促進剤としては、トリエチルアミン、4-アミノピリジン、トリブチルアミン、ジシアンジアミド等の第1級~第3級アミノ基を有するアミン化合物;第4級アンモニウム化合物などが挙げられる。
前記イミダゾール系硬化促進剤としては、メチルイミダゾール、フェニルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、イソシアネートマスクイミダゾール(例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート樹脂と2-エチル-4-メチルイミダゾールの付加反応物等)等のイミダゾール化合物が挙げられる。
前記リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン等の第3級ホスフィン;p-ベンゾキノンのトリ-n-ブチルホスフィン付加反応物等の第4級ホスホニウム化合物などが挙げられる。
【0055】
(ワニス中の(F)成分の含有量)
本実施形態の製造方法において、ワニス中の(F)成分の含有量は、特に限定されるものではないが、ワニスの保存安定性及び積層板の物性の観点から、(A)成分100質量部に対して、0.1~10質量部が好ましく、0.1~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部がさらに好ましい。なお、ワニス中の前記(F)成分の含有量には、前記(B)成分及び前記(C)成分を含むスラリーに(F)成分を含有させた場合には、前記スラリー中の(D)成分の量も含まれる。
【0056】
(有機溶媒)
本実施形態の製造方法で得られるワニスは、有機溶媒を含有する。
前記有機溶媒としては、特に制限されるものではないが、エタノール、プロパノール、ブタノール、メチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;トルエン、キシレン、メシチレン等の芳香族系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の窒素原子含有溶媒;ジメチルスルホキシド等の硫黄原子含有溶媒;γ-ブチロラクトン等のエステル系溶媒などが挙げられる。溶解性の観点から、ケトン系溶媒、芳香族系溶媒が好ましく、ケトン系溶媒がより好ましく、メチルイソブチルケトンがさらに好ましい。有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0057】
本実施形態において、ワニスの固形分濃度は40~90質量%とすることが好ましく、50~80質量%とすることがより好ましく、55~70質量%とすることがさらに好ましい。ワニスの固形分濃度が前記範囲内であると、ワニスの取り扱い性が容易となり、基材への含浸性及び製造されるプリプレグの外観が良好となり、樹脂フィルムにするときの塗工性も良好となる。
【0058】
本実施形態において、ワニスは、(B)成分及び(C)成分を含むスラリーと前記成分とを混合することで製造することができる。この際、各成分は、前記有機溶媒中で撹拌しながら溶解又は分散させてもよい。混合順序、温度、時間等の条件は、特に限定されず、任意に設定することができる。
本実施形態の製造方法で得られるワニスは、高い比誘電率(Dk)及び低い誘電正接(Df)を発現し得るため、アンテナモジュール用、特に第5世代移動通信システム(5G)に対応した小型化アンテナモジュール用として有用である。
【0059】
[プリプレグの製造方法]
本実施形態の1つは、本実施形態の前記製造方法で得られるワニスをシート状繊維基材に含浸又は塗工してから乾燥することを含む、プリプレグの製造方法である。
具体的には、本実施形態の前記製造方法で得られるワニスを、シート状繊維基材に含浸又は塗工し、乾燥して必要に応じて半硬化(Bステージ化)させることによってプリプレグを得ることができる。前記乾燥の方法としては、より具体的には、例えば、乾燥炉中で80~200℃の温度で、1~30分間加熱乾燥して半硬化(Bステージ化)させることによってプリプレグを製造することができる。ここで、本開示においてB-ステージ化とは、JIS K6900(1994年)において定義されるB-ステージの状態にすることである。
乾燥後のプリプレグは、ワニス由来の固形分濃度が30~90質量%であることが好ましい。ワニス由来の固形分濃度を前記範囲とすることで、積層板とした際により良好な成形性が得られる傾向にある。
【0060】
前記シート状繊維基材としては、各種の電気絶縁材料用積層板に用いられている公知のものが用いられる。シート状繊維基材の材質としては、Eガラス、Dガラス、Sガラス、Qガラス等の無機物繊維;ポリイミド、ポリエステル、テトラフルオロエチレン等の有機繊維;これらの混合物などが挙げられる。これらのシート状繊維基材は、例えば、織布、不織布、ロービンク、チョップドストランドマット又はサーフェシングマット等の形状を有する。
プリプレグの厚みは、特に制限されるものではなく、10~170μmであってもよく、20~150μmであってもよく、30~120μmであってもよい。
【0061】
本実施形態の製造方法で得られるプリプレグは、高い比誘電率(Dk)及び低い誘電正接(Df)を発現し得るため、アンテナモジュール用、特に5Gに対応した小型化アンテナモジュール用として有用である。
【0062】
[樹脂フィルムの製造方法]
本実施形態の1つは、本実施形態の製造方法で得られるワニスを支持体へ塗布してから乾燥することを含む、樹脂フィルムの製造方法である。
具体的には、ワニスを支持体へ塗布してから乾燥し、必要に応じて半硬化(B-ステージ化)させることによって樹脂フィルムを製造することができる。
前記支持体としては、プラスチックフィルム、金属箔、離型紙などが挙げられる。
乾燥温度及び乾燥時間は、有機溶媒の使用量、及び使用する有機溶媒の沸点等に応じて適宜決定すればよいが、50~200℃で1~10分間程度加熱乾燥させることによって、樹脂フィルムを好適に形成することができる。
本実施形態の製造方法で得られる樹脂フィルムは、高い比誘電率(Dk)及び低い誘電正接(Df)を発現し得るため、アンテナモジュール用、特に5Gに対応した小型化アンテナモジュール用として有用である。
【0063】
[積層板の製造方法]
本実施形態の1つは、本実施形態の製造方法で得られるプリプレグを2枚以上重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置するか、又は、当該プリプレグと他のプリプレグとを合計2枚以上重ねて得られるプリプレグの片面もしくは両面に金属箔を配置し、次いで加熱加圧成形することを含む、積層板の製造方法である。当該製造方法により得られる積層板中のプリプレグはC-ステージ化されている。本開示においてC-ステージ化とは、JIS K6900(1994年)において定義されるC-ステージの状態にすることである。なお、金属箔を有する積層板は、金属張積層板と称されることもある。
金属箔の金属としては、特に限定されないが、導電性の観点から、銅、金、銀、ニッケル、白金、モリブデン、ルテニウム、アルミニウム、タングステン、鉄、チタン、クロム、又はこれらの金属元素を1種以上含有する合金であってもよく、銅、アルミニウムが好ましく、銅がより好ましい。
加熱加圧成形の条件は、特に限定されないが、例えば、温度が100~300℃、圧力が0.2~10MPa、時間が0.1~5時間の範囲で実施することができる。また、加熱加圧成形は、真空プレス等を用いて真空状態を0.5~5時間保持する方法を採用できる。
【0064】
積層板をアンテナモジュール用として利用することを考慮すると、本実施形態の積層板の製造方法では、積層板に給電用導体パターン、接地用導体パターン及び短絡用導体等の導体パターンを形成することが好ましい。短絡用導体は、給電用導体パターンと接地用導体パターンとを短絡する導体であり、後述のビアホール部位に設けられる。
導体パターンは、銅、アルミニウム、金、銀、及びこれらの合金、を主成分とする金属で形成することが好ましい。
【0065】
本実施形態の積層板の製造方法では、積層板にビアホールを形成することが好ましい。ビアホールにより、前記短絡用導体の形成が可能となり、給電用導体パターンと接地用導体パターンとを導通させることが可能となる。
ビアホールの形成方法に特に制限はなく、レーザー、プラズマ、又はこれらの組み合わせ等の方法を利用することができる。レーザーとしては、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー、UVレーザー、エキシマレーザー等を使用できる。
また、ビアホールの形成後、酸化剤を用いてデスミア処理してもよい。酸化剤は、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸ナトリウム等の過マンガン酸塩;重クロム酸塩;オゾン;過酸化水素-硫酸;硝酸であることが好ましく、過マンガン酸塩であることがより好ましく、過マンガン酸塩の水酸化ナトリウム水溶液、いわゆるアルカリ性過マンガン酸水溶液であることがさらに好ましい。
【0066】
本実施形態の積層板の製造方法は、ビアホールの形成後、ビアホールに短絡用導体を形成することが好ましい。ここで使用する導体は、前記導体パターンを形成する金属と同じ金属で形成することが好ましい。
【0067】
本実施形態の製造方法で得られる積層板は、高い比誘電率(Dk)を有し、且つ低い誘電正接(Df)を有するため、アンテナモジュール用、特に5Gに対応した小型化アンテナモジュール用として有用である。
【0068】
(プリント配線板)
本実施形態の製造方法で得られるプリプレグ、本実施形態の製造方法で得られる樹脂フィルム及び本実施形態の製造方法で得られる積層板からなる群から選択される1種以上を用いて、公知の方法によって、穴開け加工、金属めっき加工、金属箔のエッチング等による回路形成加工を行うことで、プリント配線板を製造することができる。また、必要に応じてさらに多層化接着加工を行うことによって多層プリント配線板を製造することができる。
【0069】
(アンテナ装置)
本開示は、本実施形態の製造方法によって得られる積層板を用いて、アンテナ装置を製造することができる。アンテナ装置は、前記積層板を1つ設置したものであってもよいし、前記積層板を複数設置したものであってもよい。複数のアンテナ素子の設置の仕方に特に制限はないが、例えば、二次元のアレイ状に配置することが好ましい。アンテナ装置の構成については、特に制限されるものではないが、例えば、特許第6777273号公報等を参照することができる。
【0070】
(アンテナモジュール)
給電回路と、前記アンテナ装置とを用いて、アンテナモジュールを製造することができる。給電回路としては、特に制限されるものではないが、RFIC(Radio Frequency Integrated Circuit)等を使用することができる。RFICは、スイッチ、パワーアンプ、ローノイズアンプ、減衰機、移相機、信号合成-分波機、ミキサ、増幅回路等を備えるものである。
RFICから供給される高周波信号は、アンテナモジュール用積層板のビアに形成した短絡用導体を経由して、前記給電用導体の給電点に伝達される。
アンテナモジュールの構成については、特に制限されるものではないが、例えば、特許第6777273号公報等を参照することができる。
【0071】
(通信装置)
さらに、ベースバンド信号処理回路と、前記アンテナモジュールと、を用いて、通信装置を製造することができる。
通信装置は、ベースバンド信号処理回路からアンテナモジュールへ伝達された信号を高周波信号にアップコンバートしてアンテナ装置から放射すると共に、アンテナ装置で受信した高周波信号をダウンコンバートして前記ベースバンド信号処理回路において信号を処理することができる。
【0072】
以上、好適な実施形態を説明したが、これらは本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をこれらの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本開示は、その要旨を逸脱しない範囲で、前記実施形態とは異なる種々の態様も含まれる。
【実施例0073】
以下、実施例を挙げて本実施形態を具体的に説明する。ただし、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
なお、各例において、重量平均分子量(Mw)は以下の方法によって測定した。
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により、標準ポリスチレンを用いた検量線から換算した。検量線は、標準ポリスチレン:TSKstandard POLYSTYRENE(Type;A-2500、A-5000、F-1、F-2、F-4、F-10、F-20、F-40)[東ソー株式会社製、商品名]を用いて3次式で近似した。GPCの測定条件を、以下に示す。
装置:
ポンプ:L-6200型[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
検出器:L-3300型RI[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラムオーブン:L-655A-52[株式会社日立ハイテクノロジーズ製]
カラム:ガードカラム;TSK Guardcolumn HHR-L+カラム;TSKgel G4000HHR+TSKgel G2000HHR(全て東ソー株式会社製、商品名)
カラムサイズ:6.0×40mm(ガードカラム)、7.8×300mm(カラム)
溶離液:テトラヒドロフラン
試料濃度:30mg/5mL
注入量:20μL
流量:1.00mL/分
測定温度:40℃
【0075】
また、各例において使用した(B)成分及び(C)成分について、平均粒子径は以下の方法によって測定した。
(平均粒子径の測定方法)
粒子径分布測定装置「マイクロトラック MT3300EXII」(マイクロトラック・ベル株式会社製)によって粒度分布を測定し、平均粒子径(d50)を求めた。なお、測定溶媒としては水(但し、ヘキサメタリン酸ナトリウムを0.1質量%含有する。)を用い、測定モードは透過として、測定時間30秒の条件で測定した。
【0076】
[製造例1:変性マレイミド化合物の製造]
温度計、撹拌装置、還流冷却管付き水分定量器の付いた加熱及び冷却可能な容積5Lの反応容器に、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン100質量部と、両末端にアミノ基を有するシロキサン化合物(官能基当量750g/mol)5.6質量部と、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン7.9質量部と、プロピレングリコールモノメチルエーテル171質量部と、を投入し、還流させながら2時間反応させた。これを還流温度で3時間かけて濃縮し、固形分濃度が65質量%の変性マレイミド化合物溶液を製造した。得られた変性マレイミド化合物の重量平均分子量(Mw)は2,700であった。
【0077】
[実施例1]
(スラリーの調製)
表1上段に記載の使用量で、(C-1)成分とメチルイソブチルケトンの混合液に(B-1)成分を加えてから、モーター撹拌機によって25℃で6時間撹拌することによってスラリーを得た。
(ワニスの調製)
上記で得たスラリーを表1下段に記載の各成分及び使用量で混合することによって、表1下段に記載の配合組成比のワニスを調製した。
(プリプレグの作製)
上記で得た樹脂ワニスをIPC規格#3313のガラスクロス(厚さ:0.08mm)に含浸させた後、150℃で5分間乾燥することによってプリプレグを得た。
(両面銅張積層板の作製)
上記で得たプリプレグの上下それぞれに、厚さ18μmのロープロファイル銅箔(BF-ANP18、M面のRz:1.5μm、CIRCUIT FOIL社製)を、M面(マット面)がプリプレグに接するように1枚ずつ配置した後、温度230℃、圧力3.0MPa、時間90分間の条件で加熱加圧成形することによって、両面銅張積層板(厚さ:0.10mm)を作製した。
得られたスラリー、ワニス、両面銅張積層板を用いて、下記方法に従って各評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
[スラリーの評価]
(1.スラリーの調製可否)
スラリーの調製の際に、目視によって、下記評価基準に従って評価した。
A:スラリーの調製が可能であった。
B:液状にならず、スラリーの調製が困難であった。
C:ゲル化してしまい、スラリーの調製はできなかった。
(2.スラリーの再分散性)
スラリーをポリビンに導入し、1日静置した後、手でポリビンを振ることによって撹拌した。目視によってポリビン中の様子を観察し、下記評価基準に従って評価した。
A:撹拌前はスラリー中に沈殿が見られたが、手でポリビンを軽く振るだけで、スラリー中の成分が再分散した。
B:撹拌前はスラリー中に沈殿が見られたが、手でポリビンを強めに振ることによって、スラリー中の成分が再分散した。
C:撹拌前はスラリー中に沈殿が見られたが、手でポリビンを激しく振ることによって、スラリー中の成分が再分散した。
D:撹拌前は液相と固相に分離していたが、手でポリビンを激しく振ることによって、スラリー中の成分が再分散した。
E:撹拌前は液相と固相に分離しており、手でポリビンを激しく振ったが、スラリー中の成分の再分散は不可能であった。
【0079】
[ワニスの評価]
(3.ワニス中の凝集物の有無)
各例で得たワニス0.1mLをメチルイソブチルケトン3mLに加えた混合物を、ワニスの評価サンプルとした。上記で調製した評価サンプル1~2mLを用いて、粒子径分布測定装置「マイクロトラック MT3300EXII」(マイクロトラック・ベル株式会社製)によって粒度分布を測定し、下記評価基準に従って評価した。なお、測定溶媒としてはメチルイソブチルケトンを用い、測定モードは透過として、測定時間30秒の条件で測定した。測定は2回実施して、2回の平均値を評価用サンプル中に含まれる物質の粒度分布として採用した。
A:ワニス中にサイズ100μm以上の凝集物が存在しなかった。
C:ワニス中にサイズ100μm以上の凝集物が存在した。
【0080】
[硬化物の評価]
(4.外観)
各例で得た両面銅張積層板を、銅エッチング液である過硫酸アンモニウム10質量%溶液に浸漬することにより銅箔を取り除いた評価基板を作製し、目視によって評価基板の表面を観察し、下記評価基準に従って評価した。
A:表面に凝集物は観察されなかった。
C:表面に凝集物が観察された。
【0081】
[実施例2]
(スラリーの調製)
表1上段に記載の使用量で、(C-1)成分とメチルイソブチルケトンの混合液に(B-1)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で3時間撹拌した後、さらに(C-2)成分を加え、次いでモーター撹拌機によって25℃で3時間撹拌することによってスラリーを得た。
(ワニスの調製、プリプレグの作製、銅張積層板の作製)
上記スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行うことによって、ワニスを調製し、プリプレグを作製し、そして銅張積層板を作製した。
得られたスラリー、ワニス、両面銅張積層板を用いて、前記方法に従って各評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例3~4]
(スラリーの調製)
表1上段に記載の使用量で、(C-1)成分とメチルイソブチルケトンの混合液に(A-2)成分又は(D-2)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で1時間撹拌することによって(A-2)成分又は(D-2)成分を溶解させた。その後、さらに(B-1)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で3時間撹拌し、最後に(C-2)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃でさらに3時間撹拌することによってスラリーを得た。
(ワニスの調製、プリプレグの作製、銅張積層板の作製)
上記スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行うことによって、ワニスを調製し、プリプレグを作製し、そして銅張積層板を作製した。
得られたスラリー、ワニス、両面銅張積層板を用いて、前記方法に従って各評価を行った。結果を表1に示す。
【0083】
[実施例5~6]
(スラリーの調製)
表1上段に記載の使用量で、(C-1)成分とメチルイソブチルケトンの混合液に(A-2)成分又は(D-2)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で1時間撹拌することによって(A-2)成分又は(D-2)成分を溶解させた。その後、さらに(B-1)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で3時間撹拌し、続いて(C-2)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で3時間撹拌した。その後、さらに(E-1)成分を加えてからモーター撹拌機によって25℃で1時間撹拌することによってスラリーを得た。
(ワニスの調製、プリプレグの作製、銅張積層板の作製)
上記スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行うことによって、ワニスを調製し、プリプレグを作製し、そして銅張積層板を作製した。
得られたスラリー、ワニス、両面銅張積層板を用いて、前記方法に従って各評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
[比較例1~5]
(スラリーの調製)
表1上段に記載の使用量で、メチルイソブチルケトンへ、(B-1)、(B-2)及び(B-3)成分からなる群から選択される1種以上を加えてモーター撹拌機によって25℃で6時間撹拌することによってスラリーを得た。
(ワニスの調製、プリプレグの作製、銅張積層板の作製)
上記スラリーを用いたこと以外は実施例1と同様の操作を行うことによって、ワニスを調製し、プリプレグを作製し、そして銅張積層板を作製した。
得られたスラリー、ワニス、両面銅張積層板を用いて、前記方法に従って各評価を行った。結果を表1に示す。
なお、比較例4及び5では、スラリーの再分散性の評価試験後のスラリーを用いてワニス及び銅張積層板を作製し、これらについても前記方法に従って各評価を行った。その結果を表1に併せて示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1中に記載の各成分について以下に説明する。
[(A)熱硬化性樹脂]
・(A-1):製造例1で得た変性マレイミド化合物
・(A-2):ナフタレン骨格含有型エポキシ樹脂「NC-7000L」(日本化薬株式会社製、エポキシ当量:230g/eq)
【0087】
[(B)無機充填材]
・(B-1):チタン酸カルシウム、平均粒子径(d50);2.0μm
・(B-2):チタン酸カルシウム、平均粒子径(d50);0.3μm
・(B-3):チタン酸カルシウム、平均粒子径(d50);0.5μm
【0088】
[(C)前記(B)成分の平均粒子径よりも小さい平均粒子径を有する粒子]
・(C-1):球状溶融シリカ(フェニルアミノシランカップリング剤による表面処理品)、平均粒子径;0.5μm、固形分濃度70質量%のスラリー(メチルイソブチルケトン分散液)、無機充填材
・(C-2):4,4’-ビスフェノール-ビス(ジ-2,6-ジメチルフェニルホスフェート)、平均粒子径;1.5μm、難燃剤
【0089】
[(D)熱可塑性樹脂]
・(D-1):無水マレイン酸変性スチレン系熱可塑性エラストマー(無水マレイン酸変性SEBS)、酸価10mgCHONa/g、スチレン含有率30質量%
・(D-2):スチレンと無水マレイン酸との共重合体、スチレン/無水マレイン酸(モル比)=8
【0090】
[(E)表面処理剤]
・(E-1):末端長鎖アルキル脂肪酸変性チタネート「KR-TTS」(味の素ファインテクノ株式会社製)、第三級アミノ基を有さない表面処理剤。
【0091】
[(F)硬化促進剤]
・(F-1):イソシアネートマスクイミダゾール「G8009-L」(第一工業製薬株式会社製)
・(F-2):ジシアンジアミド
【0092】
表1より、実施例1~6の方法によれば、(B)成分を含むスラリーの調製が容易であり、且つ、スラリーの再分散性も良好であるか又は優れていることがわかる。そして、ワニス中に凝集物が発生するのを抑制できており、そのため、硬化物にも凝集物が観察されなかった。
一方、比較例1~3の方法では、ゲル化が原因で、(B)成分を含むスラリーの調製自体が困難であった。また、比較例1~3の方法において、(B)成分を含むゲル化物を用いて調製したワニスには凝集物が存在しており、当該ワニスの硬化物の表面にも凝集物が観察された。
また、比較例4及び5の方法では、スラリーの調製自体は容易であったが、スラリーの再分散性に乏しかった。そのため、再分散性の評価試験後のスラリーを用いて調製したワニスには凝集物が存在しており、当該ワニスの硬化物の表面にも凝集物が観察された。