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特開2024-27222生成装置、生成方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027222
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】生成装置、生成方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10K 11/178 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
G10K11/178 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022129835
(22)【出願日】2022-08-17
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)発行日 予稿集公開 2022年2月23日、発明を発表した日 2022年3月9日(開催日 2022年3月9日~3月11日) 刊行物 日本音響学会2022春季研究発表会(予稿集) https://acoustics.jp/annualmeeting/program/
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【弁理士】
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 弘章
(72)【発明者】
【氏名】村田 伸
(72)【発明者】
【氏名】鎌土 記良
(72)【発明者】
【氏名】小塚 詩穂里
(72)【発明者】
【氏名】信夫 直樹
(72)【発明者】
【氏名】羽田 陽一
(72)【発明者】
【氏名】吉松 亨真
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061FF02
(57)【要約】
【課題】実際のエラーマイクから離れたユーザの耳元でも高い抑圧性能を実現する生成装置等を提供する。
【解決手段】生成装置は、騒音の抑圧量が最大となる地点が、複数のエラーマイクの設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号を生成し、複数のエラーマイクは、ユーザの頭部に近接した球面上に配置され、球面調和関数展開係数を利用して、複数のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号x(v)を得る音圧推定部と、抑圧対象の騒音を収音した収音信号x(r)と推定収音信号x(v)とを用いて、仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する生成装置であって、
騒音の抑圧量が最大となる地点が、複数のエラーマイクの設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号を生成し、
前記複数のエラーマイクは、前記ユーザの頭部に近接した球面上に配置され、
球面調和関数展開係数を利用して、前記複数のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号x(v)を得る音圧推定部と、
抑圧対象の騒音を収音した収音信号x(r)と前記推定収音信号x(v)とを用いて、前記仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、
前記仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである、
生成装置。
【請求項2】
請求項1の生成装置であって、
前記複数のエラーマイクは、前記ユーザの頭部に近接した仮想的な球の球面上に配置され、かつ、前記仮想的な球の中心が前記ユーザの頭部の外側に位置するように配置され、
前記エラーマイクの個数Lと、前記球面調和関数の展開次数Nとは、(N+1)2≦Lを満たし、
前記仮想マイクの位置は、前記ユーザの耳の位置とし、かつ、前記仮想的な球の表面または外側とする、
生成装置。
【請求項3】
請求項2の生成装置であって、
前記仮想マイクの位置は、前記ユーザの耳の位置とし、かつ、前記仮想的な球の表面とする、
生成装置。
【請求項4】
請求項1の生成装置であって、
前記複数のエラーマイクは、前記ユーザの頭部に近接した仮想的な球の球面上に等間隔に配置され、かつ、前記仮想的な球の中心が前記ユーザの頭部の外側に位置するように配置され、
前記エラーマイクの個数Lと、前記球面調和関数の展開次数Nとは、(N+1)2≦Lを満たし、
前記仮想マイクの位置は、前記仮想的な球の内側とする、
生成装置。
【請求項5】
請求項1の生成装置であって、
前記エラーマイクの個数は3であり、
3個の前記エラーマイクは、前記ユーザの頭部に近接した仮想的な球の球面上に配置され、かつ、前記仮想的な球の中心が前記ユーザの頭部の外側に位置するように配置され、
前記仮想マイクの位置は、前記ユーザの耳の位置とし、かつ、前記仮想的な球の表面または外側とし、
前記音圧推定部は、最小二乗法により球面調和関数展開係数を推定し、推定した球面調和関数展開係数を利用して、前記推定収音信号x(v)を得る、
生成装置。
【請求項6】
請求項1の生成装置であって、
前記複数のエラーマイクは、前記ユーザの頭部に近接した音を反射する剛球の球面上に配置され、
前記エラーマイクの個数Lと、前記球面調和関数の展開次数Nとは、(N+1)2≦Lを満たし、
前記仮想マイクの位置は、前記ユーザの耳の位置とし、かつ、前記剛球の外側とする、
生成装置。
【請求項7】
アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する生成方法であって、
騒音の抑圧量が最大となる地点が、複数のエラーマイクの設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号を生成し、
前記複数のエラーマイクは、前記ユーザの頭部に近接した球面上に配置され、
球面調和関数展開係数を利用して、前記複数のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号x(v)を得る音圧推定ステップと、
抑圧対象の騒音を収音した収音信号x(r)と前記推定収音信号x(v)とを用いて、前記仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成ステップとを含み、
前記仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである、
生成方法。
【請求項8】
請求項1から請求項6の何れかの生成装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の位置での外部の騒音を抑圧する能動的騒音抑圧(ANC:Active Noise Control)の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の能動的騒音抑圧技術として非特許文献1が知られている。能動的騒音抑制では、参照マイク、エラーマイク、キャンセルスピーカを一般的に用いる。図1は従来の騒音抑圧装置の構成例を示す。参照マイク91で騒音源の発する騒音を収音する。キャンセルスピーカ92は、抑圧信号生成装置90で生成されたキャンセル信号を再生して、騒音を相殺するキャンセル音を発する。さらに、エラーマイク93で騒音の消し残しを収音し、フィードバックする。抑圧信号生成装置90は、参照マイク91の収音信号とエラーマイク93の収音信号とを用いて、騒音の消し残しが小さくなるようにキャンセル信号を能動的に制御し、生成する。エラーマイク93の設置位置において、騒音の消し残しが小さくなるように、キャンセルスピーカ92がキャンセル音を発するため、キャンセル音はエラーマイク93の設置位置で最も効率よく騒音を抑圧する。そのため、エラーマイク93はユーザの耳元近くに設置される。
【0003】
しかしながら、実際の利用に際しては、エラーマイク93をユーザの耳元近くに設置できない場合もあり、エラーマイク93の設置位置とユーザの耳元との距離が大きくなると、前述の通り、エラーマイク93の設置位置で最も効率よく騒音を抑圧し、ユーザの耳元では騒音の消し残しが大きくなり、抑圧性能が低下し、ユーザが騒音抑圧の恩恵を十分に得られない場合がある。例えば、騒音源から耳元までの距離が100mmであり、エラーマイク93をユーザの耳元(0mm)に設置した場合の抑圧性能は-∞dBであり、エラーマイク93を騒音源と耳元との中間地点に設置した場合の抑圧性能は-7.38dBであることをシミュレーションにて確認した。図2は、従来技術の抑圧可能領域(スイートスポット)Sと所望のスイートスポットSとの違いを説明するための図である。
【0004】
非特許文献2では、図3に示すように頭部周辺に頭部を覆うように複数のエラーマイク93を設置し、エラーマイク93で得られた信号から内部の音圧を推定することで耳元音圧を予測する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】梶川, 「アクティブノイズコントロールの最近の話題と応用」, 研究報告音楽情報科学(MUS), vol. 2015-MUS-107, no. 3, pp. 1-6, 5月 2015.
【非特許文献2】信夫他, 「剛球を仮定した頭部近傍複数マイクによる耳元音圧予測型ANCの検討」,日本音響学会講演論文集(春), pp. 433-434, 3月 2022.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、公共機関の座席等での利用を考えると、複数のエラーマイクの設置条件が現実的ではないという課題がある。
本発明は、公共機関の座席等での利用に適した設置条件に基づき設置したエラーマイクで収音した収音信号から、ユーザの耳元で収音した場合に得られる収音信号を推定し、キャンセル信号を能動的に制御するために、実際のエラーマイクの配置位置で収音した収音信号の代わりに推定により得られた収音信号を使用することで、実際のエラーマイクから離れたユーザの耳元でも高い抑圧性能を実現する生成装置、生成方法、そのプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様によれば、生成装置は、アクティブノイズコントロールに用いるキャンセル信号を生成する。生成装置は、騒音の抑圧量が最大となる地点が、複数のエラーマイクの設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号を生成し、複数のエラーマイクは、ユーザの頭部に近接した球面上に配置され、球面調和関数展開係数を利用して、複数のエラーマイクよりも観測点に近い位置に仮想マイクを設置した場合に収音される収音信号を推定し、推定収音信号x(v)を得る音圧推定部と、抑圧対象の騒音を収音した収音信号x(r)と推定収音信号x(v)とを用いて、仮想マイクの設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号を生成する抑圧信号生成部とを含み、仮想マイクは、実際には設置されずに仮想的に設置されるマイクである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に、ユーザの頭部周辺に頭部を覆うように複数のエラーマイクを設置することなく、高い抑圧性能を実現することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】従来のアクティブノイズコントロールを説明するための図。
図2】従来技術の抑圧可能領域を説明するための図。
図3】従来技術のエラーマイクの設置位置を説明するための図。
図4】第一実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図。
図5】第一実施形態に係る騒音抑圧システムの処理フローの例を示す図。
図6】推定方法1を説明するための図。
図7】推定方法1を説明するための図。
図8】推定方法2を説明するための図。
図9】推定方法3を説明するための図。
図10】推定方法4を説明するための図。
図11】推定方法4を説明するための図。
図12】推定方法5を説明するための図。
図13】推定方法7を説明するための図。
図14】本手法を適用するコンピュータの構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、説明する。なお、以下の説明に用いる図面では、同じ機能を持つ構成部や同じ処理を行うステップには同一の符号を記し、重複説明を省略する。以下の説明において、ベクトルや行列の各要素単位で行われる処理は、特に断りが無い限り、そのベクトルやその行列の全ての要素に対して適用されるものとする。
【0011】
<第一実施形態のポイント>
本実施形態では、ユーザの頭部に近接した球面上に位置に設置された複数のエラーマイクの収音信号から耳元での観測音圧を推定する。例えば、実際の複数のエラーマイクの収音信号から、耳元に配置された仮想的なエラーマイクの収音信号を推定し、ANCにおいて、仮想的なエラーマイクの収音信号を従来のエラーマイクの収音信号として用いる。このような構成とすることで、スイートスポットの位置をエラーマイクの設置位置から仮想的なエラーマイクの位置に変更し、耳元での消し残りをキャンセルする音を出すことができる。
【0012】
仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する方法としては様々な方法が考えられる。例えば、ユーザの頭部に近接した球面上に配置した実際の複数のエラーマイクから、球面調和関数を用いて耳元の音圧を推定する。
なお、複数のエラーマイクが配置される球面の中心がユーザの頭部の外側に位置するように、複数のエラーマイクを配置する。
【0013】
<第一実施形態>
図4は第一実施形態に係る騒音抑圧システムの機能ブロック図を、図5はその処理フローを示す。
【0014】
騒音抑圧システムは、参照マイク91、キャンセルスピーカ92、L個のエラーマイク93-iからなるマイクアレー、抑圧信号生成部110および音圧推定部120を含む。i=1,2,…,Lとする。抑圧信号生成部110および音圧推定部120からなる装置を抑圧信号生成装置ともいう。
【0015】
抑圧信号生成装置は、参照マイク91の収音信号x(r)と、L個のエラーマイク93-iの収音信号x(e)とを入力とし、騒音の抑圧量が最大となる地点が、エラーマイク93-iの設置位置よりもユーザ側に位置するようにキャンセル信号(以下、「抑圧信号」ともいう)yを生成して、キャンセルスピーカ92に出力する。
【0016】
抑圧信号生成装置は、例えば、中央演算処理装置(CPU: Central Processing Unit)、主記憶装置(RAM: Random Access Memory)などを有する公知又は専用のコンピュータに特別なプログラムが読み込まれて構成された特別な装置である。抑圧信号生成装置は、例えば、中央演算処理装置の制御のもとで各処理を実行する。抑圧信号生成装置に入力されたデータや各処理で得られたデータは、例えば、主記憶装置に格納され、主記憶装置に格納されたデータは必要に応じて中央演算処理装置へ読み出されて他の処理に利用される。抑圧信号生成装置の各処理部は、少なくとも一部が集積回路等のハードウェアによって構成されていてもよい。抑圧信号生成装置が備える各記憶部は、例えば、RAM(Random Access Memory)などの主記憶装置、またはリレーショナルデータベースやキーバリューストアなどのミドルウェアにより構成することができる。ただし、各記憶部は、必ずしも抑圧信号生成装置がその内部に備える必要はなく、ハードディスクや光ディスクもしくはフラッシュメモリ(Flash Memory)のような半導体メモリ素子により構成される補助記憶装置により構成し、抑圧信号生成装置の外部に備える構成としてもよい。
【0017】
以下、各部について説明する。
【0018】
<参照マイク91>
参照マイク91は、抑圧対象の音を収音し(S91)、収音信号x(r)を出力する。参照マイク91で収音した抑圧対象の音を、以下「騒音」と記載する。
【0019】
<キャンセルスピーカ92>
キャンセルスピーカ92は、キャンセル信号yを入力とし、キャンセル信号yを再生する(S92)。キャンセルスピーカ92から再生される再生音と抑圧対象の騒音とが完全な逆位相となる場合、再生音と抑圧対象の騒音とが重なる、すなわち、音波同士が重畳する、と波が打ち消し合うため、騒音が抑圧される。
【0020】
<エラーマイク93-i>
エラーマイク93-iは、騒音の消し残しを含む、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音を収音し(S93)、収音信号x(e)を出力する。エラーマイク93-iは、観測点(例えば、ユーザの耳元)よりも騒音源に近い位置に配置される。L個のエラーマイク93-iの位置は、音圧の推定方法と関係するため、後述する音圧推定部120と合わせて説明する。
【0021】
<音圧推定部120>
音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)を入力とし、L個のエラーマイク93-iよりも観測点に近い位置にマイク130を設置した場合に収音されると推定される信号である、推定収音信号x(v)を算出し、出力する。すなわち、音圧推定部120は、キャンセルスピーカ92から再生される再生音で抑圧されなかった音がマイク130の設置位置で収音される場合に得られる収音信号を推定し(S120)、推定した収音信号を推定収音信号x(v)として出力する。以下、推定収音信号x(v)の推定方法を7つ例示する。ここで、マイク130は実際には設置せず仮想的に設置されるものであり、以下仮想マイク130と記載する。
【0022】
(推定方法1)
本推定方法では、ユーザの頭部に近接した球面上に配置した複数のエラーマイクの収音信号から、球面調和関数展開係数を利用して仮想的なエラーマイクの収音信号を推定する。以下、推定方法1の条件について説明する。
【0023】
(条件1)
複数のエラーマイクは、ユーザの頭部に近接した仮想的な球(以下、仮想球Bともいう)の球面上に配置される。仮想球は、物理的に存在する球ではない。さらに、複数のエラーマイクは、仮想球Bの中心がユーザの頭部の外側に位置するように配置される。
【0024】
(条件2)
球面調和関数展開係数を利用するために、エラーマイクの個数Lと、球面調和関数の展開次数Nとは、(N+1)2≦Lを満たす。
【0025】
(条件3)
仮想マイクの位置は、ユーザの耳の位置とし、かつ、仮想球の表面または外側とする。なお、仮想球の表面または外側に位置する点の音圧を推定することを音圧の外挿に基づく推定と呼ぶ。
【0026】
図6および図7は、ユーザの頭部に近接した仮想球Bの球面上の複数のエラーマイク93-iの位置関係を説明するための図である。
【0027】
本推定方法では、受聴者の耳の位置からあらかじめ決めた距離の位置に原点O'をおき、原点O'の位置から等間隔の位置(同じ半径の位置)に複数のエラーマイクを配置する。すなわち、仮想球Bの表面上にエラーマイクを配置する。半径aの仮想球Bの球面上にエラーマイクを配置し、半径rの球面上の音圧を推定する。例えば、中心(原点O')からエラーマイクまでの距離をa=7.5cmとし、4個のエラーマイクを半径aの仮想球に内接する三角錐の頂点に配置する。このとき、4個のエラーマイクはテトラ型のマイクアレーとなる。例えば、中心(原点O')から観測点(仮想マイク130の位置)までの距離をr=8cmとして推定する。
【0028】
球面調和関数展開を利用することで、ある球面上での観測音圧から、任意の球面上における観測音圧を推定することが可能である。
【0029】
半径aの球の表面上のある角度Ωo=(θoo)で観測される音圧p(a,Ωo)は、その球の外側からのみ雑音が到来する場合、
【数1】

と表せる。ここでkは波数であり、βn,mはその雑音場に固有な音場係数であり、jnはn次の球ベッセル関数であり、Ym n(・)は球面調和関数である。
【0030】
音場係数βn,mは、球面調和関数展開を利用して
【数2】

として計算できる。
【0031】
よって、雑音源を含まない半径rの任意の角度Ωの音圧p(r,Ω)は、
【数3】

により、推定することができる。
【0032】
従って、音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて、式(2)により音場係数βn,mを求め、音場係数βn,mを用いて式(3)により仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を推定する。なお、計算量を減らすために、予め様々な音圧の観測値に対応する音場係数βn,mを求めておき、音圧の観測値と音場係数βn,mとの組み合わせを図示しない記憶部に予め記憶しておき、音圧推定時には、記憶部からL個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]に対応する音場係数βn,mを取り出し、式(3)により仮想マイクにおける音圧を推定する構成としてもよい。さらに、仮想マイクの位置(r,Ω)が予め決まっている場合には、予め様々な音圧の観測値に対応する仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を求めておき、音圧の観測値x[e]=[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]と仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)との組み合わせを図示しない記憶部に予め記憶しておき、音圧推定時には、記憶部からL個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]に対応する仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を取り出し、演算処理を行わずに仮想マイクにおける音圧を推定する構成としてもよい。
【0033】
なお、L=4の場合、(N+1)2≦Lを満たすためにNは1次に制限される。
一方、球面調和関数展開を使って音場を表現するときには、kr<Nまでの範囲における周波数と半径までは精度良く表現できることが知られている。ここで、rは半径(仮想マイクまでの距離)、k=2πf/c(cは音速=340m/s, fは周波数)なので,例えば,N=1の場合,半径(仮想マイクまでの距離)7.5cm内の範囲であれば,721Hzまでの周波数であれば表現可能であり,予測できることが分かる。騒音は低周波数域に集中しているため、721Hzまでの周波数を予測できれば、十分利用価値がある。
【0034】
(推定方法2)
まず、推定方法2の条件について説明する。
推定方法2も、推定方法1で説明した条件1,2を満たす必要がある。推定方法2では、条件3に代えて、以下の条件4を満たす必要がある。
【0035】
(条件4)
仮想マイクの位置は、ユーザの耳の位置とし、かつ、仮想球の表面とする。
【0036】
よって、本推定方法では、推定方法1と同じように、受聴者の耳位置からあらかじめ決めた距離の位置に原点O’をおき、原点位置から等間隔の位置(同じ半径の位置)に複数のエラーマイクを配置する。すなわち、仮想球表面上にエラーマイクを配置する。さらに、原点O’からユーザの耳元までの距離と仮想球Bの半径が同じになるように複数のエラーマイクを配置する(図8参照)。このとき、式(3)に式(2)を代入する際に、rとaが同じになるので、予測式から球ベッセル関数jn(・)の割り算が消えて、次式で推定音圧を求めることができる。
【0037】
【数4】

【数5】
【0038】
音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて式(4)により音場係数Pn,mを求め、音場係数Pn,mを用いて式(5)により仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を推定する。なお、音場係数βn,mに代えて音場係数Pn,mを用いて、推定方法1で説明した計算量を減らすための構成を採用してもよい。
【0039】
(推定方法3)
まず、推定方法3の条件について説明する。
推定方法3も、推定方法1で説明した条件2を満たす必要がある。推定方法3では、条件1,3に代えて、以下の条件5,6を満たす必要がある。
【0040】
(条件5)
複数のエラーマイクは、ユーザの頭部に近接した仮想球Bの球面上に等間隔に配置される。
【0041】
(条件6)
仮想マイクの位置は、ユーザの耳の位置よりも仮想球の中心側とし、仮想球の内側とする。なお、仮想球の内側に位置する点の音圧を推定することを音圧の内挿に基づく推定と呼ぶ。
【0042】
よって、本推定方法では、推定方法1と同じように、受聴者の耳位置からあらかじめ決めた距離の位置に原点をおき、原点位置から等間隔の位置(同じ半径の位置)に複数のエラーマイクを配置する。さらに、複数のエラーマイクを仮想球Bの球面上に等間隔に配置する。例えば、正多面体とその外接球面(外半径a)との接点(正多面体の各頂点)や、正多面体とその内接球面(内接半径a)との接点(正多面体の各面の中心)にエラーマイクを配置することで、等間隔にエラーマイクを配置することができる。例えば、仮想球に内接する正四面体の各頂点にエラーマイクを配置する。
【0043】
エラーマイクの数がL個で、かつ、L個のエラーマイクを仮想球面上に等間隔に配置した場合は,nの最大次数Nが(N+1)2≦Lとなり,積分が和となる以下の式で音場係数βn,mが求められる。
【0044】
【数6】
【0045】
この音場係数βn,mを使って耳位置での音圧を予測する際に、仮想球の原点から耳位置までの距離rを使わずに、それよりも内側の距離rd<rを使って音圧を推定する。
【数7】

図9は、ユーザの耳位置と、仮想球とエラーマイク、仮想マイクの位置との関係を示す。推定方法1,2ではユーザの耳位置と仮想マイクの位置とが一致するが、本推定方法ではユーザの耳位置と仮想マイクの位置とは異なる。
【0046】
音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて、式(6)により音場係数βn,mを求め、音場係数βn,mを用いて式(7)により仮想マイクにおける音圧p(rd,Ω)を推定する。なお、推定方法1で説明した計算量を減らすための構成を採用してもよい。ただし、音圧p(r,Ω)に代えて音圧p(rd,Ω)を推定する。
【0047】
例えば、本推定方法と推定方法2とを組み合わせて、条件6を以下のように条件6Aに変更してもよい。
【0048】
(条件6A)
ユーザの耳の位置を仮想球の表面とし、仮想マイクの位置は、ユーザの耳の位置よりも仮想球の中心側とし、仮想球の内側とする。
【0049】
ユーザの耳の位置より、(r-rd)分、仮想マイクの位置を仮想球の内側に配置する。仮想球の半径aが7.5cmのときに0<r-rd≦6(仮想球の半径aとの比率でいうと、0<r-rd≦0.8a)とすることで、推定方法1と同等以上の予測精度となり、特にr-rd=3(仮想球の半径aとの比率でいうと、r-rd=0.4a)のときに最も予測精度が高かった。
【0050】
(推定方法4)
まず、推定方法4の条件について説明する。
推定方法4も、推定方法1で説明した条件1,3を満たす必要がある。推定方法4では、条件2を満たさなくともよい。
【0051】
本推定方法では、球表面上にあるマイクのうち,耳に近いマイク3つだけを利用する(図10,11参照)。この場合、条件2を満たさず、音場係数は解析的に求まらないため、最小二乗法などを用いて推定する。
【0052】
本推定方法では、半径aの球面上に非等間隔にエラーマイクを配置し、半径rの球面上の音圧を推定する。本推定方法では、球面調和関数展開を直接利用できないので、最小二乗法により球面調和関数展開係数を推定し、半径rの球面上の音圧を得る。
【0053】
音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて、最小二乗法により球面調和関数展開係数を推定し、球面調和関数展開係数を用いて仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を推定する。なお、音場係数βn,mに代えて球面調和関数展開係数を用いて、推定方法1で説明した計算量を減らすための構成を採用してもよい。
【0054】
(推定方法5)
まず、推定方法5の条件について説明する。
推定方法5も、推定方法1で説明した条件2を満たす必要がある。推定方法5では、条件1,3に代えて条件7,8を満たす。
【0055】
(条件7)
複数のエラーマイクは、ユーザの頭部に近接した剛球B'の球面上に配置される。剛球B'は、物理的に存在し、音を反射する物体である(図12参照)。
【0056】
(条件8)
仮想マイクの位置は、ユーザの耳の位置とし、かつ、仮想球の外側とする。
【0057】
本推定方法では、球を仮想球ではなく音を反射する剛球として、音圧を推定する。
複数のエラーマイクを剛球B'の球面上に配置することで、球の半径を小さくすることができる。例えば、推定方法1において、仮想球Bの半径aが7.5cmだった場合には、剛球B'の半径a'を3cm以上7.5cm未満(仮想球の半径aとの比率でいうと、0.4a≦a'<1)とすることで、推定方法1と同程度以上の予測精度を実現することができる。この場合の予測式は,以下となる。
【0058】
【数8】

【数9】

aは剛球の半径とし、jn'はjnの微分であり、hn (2)は第二種球ハンケル関数であり、hn'(2)はhn (2)の微分である。
【0059】
音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて、式(9)により音場係数Bn,mを求め、音場係数Bn,mを用いて式(8)により仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を推定する。なお、音場係数βn,mに代えて音場係数Bn,mを用いて、推定方法1で説明した計算量を減らすための構成を採用してもよい。また、本推定方法と推定方法3とを組合わせてもよい。
【0060】
(推定方法6)
まず、推定方法6の条件について説明する。
推定方法6は推定方法1~5の何れかと組み合わせることができ、推定方法6は推定方法1~5の何れかの条件を満たす必要がある。さらに、推定方法6では、以下の条件9を満たす。
【0061】
(条件9)
エラーマイクとして無指向性マイクではなく指向性マイクを用いる。
【0062】
指向性マイクを用いることで、仮想球Bの半径を極力小さくすることができ、アンビソニックスに従って直接音場係数を求めて外挿することができる。
【0063】
音圧推定部120は、L個のエラーマイク(ただし指向性マイク)から音圧の観測値x[e]=[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて、アンビソニックスに従って音場係数βn,mを求め、音場係数βn,mを用いて仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を推定する。なお、推定方法1~5で説明した計算量を減らすための構成を採用してもよい。
【0064】
(推定方法7)
まず、推定方法7の条件について説明する。
推定方法7、推定方法5の条件を満たす必要がある。さらに、推定方法7では、以下の条件10を満たす。
【0065】
(条件10)
剛球B'に少なくとも1つ以上のスピーカを埋め込む。
【0066】
1つ以上のスピーカ94-mを用いることで、耳元音圧予測によるANCと局所再生を単一のデバイスで実現することができる(図13参照)。m=1,2,…,Mであり、Mは、剛球B'に埋め込むスピーカの個数である。
【0067】
剛球B'内にスピーカを具備することで、音圧予測式を導出する上でキルヒホッフの積分方程式の要求(外挿したい半径より内側に音源があってほしくない)を満たすことができ、音圧の外挿精度を上げる効果が期待できる。
【0068】
音圧推定部120は、L個のエラーマイク93-iの出力信号(収音信号)x(e)から得られる音圧の観測値[p(a,Ω1),p(a,Ω2),…,p(a,ΩL)]を用いて、式(9)により音場係数βn,mを求め、音場係数βn,mを用いて式(8)により仮想マイクにおける音圧p(r,Ω)を推定する。なお、推定方法1で説明した計算量を減らすための構成を採用してもよい。
【0069】
<抑圧信号生成部110>
抑圧信号生成部110は、収音信号x(r)と推定収音信号x(v)とを入力とし、仮想マイク130の設置位置における騒音を抑圧するためのキャンセル信号yを生成し(S110)、出力する。
【0070】
キャンセル信号の生成方法としては、従来技術を用いることができる。例えば、非特許文献1の方法を用いることができる。本実施形態では、収音信号x(r)、推定収音信号x(v)とキャンセル信号yによってフィードフォワード型ANCを実現する。騒音源からの騒音とキャンセル信号yの再生音との干渉音を仮想マイク130で検出した際に得られるだろう収音信号を推定するとともに、騒音源からの騒音を参照マイク91で検出し、適応ディジタルフィルタによって実現されている騒音制御フィルタに入力することでキャンセル信号yを生成し、キャンセルスピーカ92で再生する。キャンセル信号yの再生音は、キャンセルスピーカ92から仮想マイク130までの一連の伝達系である二次経路を伝播すると仮定する。そして、仮想マイク130の入力が最小となるように騒音制御フィルタの係数を適応アルゴリズムにより更新する。騒音制御フィルタの係数の更新方法としては従来の更新方法を用いることができるため、説明を省略する。フィードフォワード型ANCにおいては、二次経路を推定した二次経路モデルが二次経路の影響を適応アルゴリズムにおいて補償するため利用される。
【0071】
<効果>
以上の構成により、、ユーザの耳元にエラーマイクを配置できない場合に、ユーザの頭部周辺に頭部を覆うように複数のエラーマイクを設置することなく、高い抑圧性能を実現することができる。
【0072】
<その他の変形例>
本発明は上記の実施形態及び変形例に限定されるものではない。例えば、上述の各種の処理は、記載に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【0073】
<プログラム及び記録媒体>
上述の各種の処理は、図14に示すコンピュータ2000の記録部2020に、上記方法の各ステップを実行させるプログラムを読み込ませ、制御部2010、入力部2030、出力部2040、表示部2050などに動作させることで実施できる。
【0074】
この処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、例えば、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等どのようなものでもよい。
【0075】
また、このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。
【0076】
このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記録媒体に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0077】
また、この形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14