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特開2024-27309アンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027309
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】アンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
   H01Q 1/12 20060101AFI20240222BHJP
   H01Q 1/42 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H01Q1/12 Z
H01Q1/42
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130004
(22)【出願日】2022-08-17
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 翔
(72)【発明者】
【氏名】岩上 健一
(72)【発明者】
【氏名】茂木 健
【テーマコード(参考)】
5J046
5J047
【Fターム(参考)】
5J046AA15
5J046AB04
5J046AB08
5J046AB11
5J046RA03
5J046RA06
5J047AA15
5J047AB04
5J047AB08
5J047AB11
5J047BG01
5J047BG05
5J047BG08
5J047BG10
(57)【要約】
【課題】アンテナ部の破損を抑制可能で、取付対象物に容易に取り付け可能なアンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置は、取付対象物の湾曲した取付面に取り付けられる第1筐体と、前記第1筐体内に収容される第2筐体と、前記第2筐体内に収容されるアンテナ部とを含み、前記第1筐体は、中空円柱体の周方向における一部分に相当する湾曲形状を有し、前記第2筐体は、可撓性を有する板状体であり、前記第1筐体の前記湾曲形状に応じて撓んだ状態で前記第1筐体内に収容される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付対象物の湾曲した取付面に取り付けられる第1筐体と、
前記第1筐体内に収容される第2筐体と、
前記第2筐体内に収容されるアンテナ部と
を含み、
前記第1筐体は、中空円柱体の周方向における一部分に相当する湾曲形状を有し、
前記第2筐体は、可撓性を有する板状体であり、前記第1筐体の前記湾曲形状に応じて撓んだ状態で前記第1筐体内に収容される、アンテナ装置。
【請求項2】
前記第1筐体の径方向における外側部分は、熱可塑性樹脂製である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記第2筐体は、エラストマー樹脂製または熱硬化性ゴム製である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記第1筐体の径方向における内側部分は、金属製である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記第1筐体内で、前記第2筐体よりも前記第1筐体の径方向における内側に配置される反射部をさらに含む、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項6】
前記第2筐体は、第1開口部を有する第1箱体と、第2開口部を有する第2箱体とを有し、前記第2箱体の前記第2開口部側が前記第1開口部から前記第1箱体の内部に入れ子式に入り込む筐体である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
【請求項7】
前記アンテナ部は、前記第2筐体の内表面との間に間隔を設けた状態で、前記第2筐体内に収容されている、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項8】
前記アンテナ部と前記第2筐体の前記第1筐体の径方向における外側の部分との間の前記径方向における第1距離に対する、前記第2筐体の前記径方向における外側の部分と前記第1筐体との間の前記径方向における第2距離の比は、1以上、50以下である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項9】
前記アンテナ部の共振周波数は、Sub-6帯域又はミリ波帯域である、請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項10】
請求項1に記載のアンテナ装置と、
前記取付対象物としての電柱と
を含む、電柱アンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、筒体を周方向所定間隔で分割してできる複数の立体を各々の外形として有するとともに、収容空間部を内部に有する複数のカバーと、前記複数のカバーが全体として筒体となるように配置された状態で、前記複数のカバーの内周面に囲まれるように位置する柱に対して、前記複数のカバーを取り付けるための取付機構とを備えるアンテナカバー組立体がある。アンテナカバー組立体は、電柱等の柱に取り付けられ、アンテナ部を収容する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-019345号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアンテナカバー組立体は、柱の側面を覆う複数のカバーを組み合わせ、内部空間にアンテナ部を配置する構造であるため、複数のカバーの合わせ目等から、水や埃等が内部空間に入り込む可能性があり、アンテナ部が破損するおそれがある。
【0005】
そこで、アンテナ部の破損を抑制可能で、取付対象物に容易に取り付け可能なアンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の実施形態のアンテナ装置は、取付対象物の湾曲した取付面に取り付けられる第1筐体と、前記第1筐体内に収容される第2筐体と、前記第2筐体内に収容されるアンテナ部とを含み、前記第1筐体は、中空円柱体の周方向における一部分に相当する湾曲形状を有し、前記第2筐体は、可撓性を有する板状体であり、前記第1筐体の前記湾曲形状に応じて撓んだ状態で前記第1筐体内に収容される。
【発明の効果】
【0007】
アンテナ部の破損を抑制可能で、取付対象物に容易に取り付け可能なアンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態のアンテナ装置100を含む電柱アンテナ装置200の一例を示す図である。
図2】筐体120を分解し、アンテナ部110及び筐体130の配置の一例を示す図である。
図3】アンテナ部110を収容する筐体130の構成の一例を示す図である。
図4】アンテナ部110と分解した状態の筐体130との構成の一例を示す図である。
図5】アンテナ部110の構成の一例を示す図である。
図6】アンテナ部110の断面構成の一例を示す図である。
図7】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sと各部の間隔の一例を説明する図である。
図8】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100SにおけるVSWRの計算結果の一例を示す図である。
図9A】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの給電点FP1から見たインピーダンス特性を示すスミスチャートのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図9B】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの給電点FP1から見たインピーダンス特性を示すスミスチャートのシミュレーション結果の一例を示す図である。
図10A】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターンの一例を示す図である。
図10B】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターンの一例を示す図である。
図11A】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターンの一例を示す図である。
図11B】アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターンの一例を示す図である。
図12図10A図10B図11A、及び図11Bの計算結果をまとめて示す表形式の図である。
図13】筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)におけるVSWRの計算結果の一例を示す図である。
図14A】筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデルの放射パターンの一例を示す図である。
図14B】筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデルの放射パターンの一例を示す図である。
図15図14A及び図14Bの計算結果をまとめて示す表形式の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示のアンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置を適用した実施形態について説明する。以下では、同一の要素に同一の号を付して、重複する説明を省略する場合がある。
【0010】
以下では、XYZ座標系を定義して説明する。X軸に平行な方向(X方向)、Y軸に平行な方向(Y方向)、Z軸に平行な方向(Z方向)は、互いに直交する。また、以下では、Z方向は鉛直方向表し、XY平面は水平面に平行な平面である。このため、以下では、説明の便宜上、-Z方向側を下側又は下、+Z方向側を上側又は上と称す場合がある。また、平面視とはXY面視することをいう。また、以下では構成が分かりやすくなるように各部の長さ、太さ、厚さ等を誇張して示す場合がある。また、平行、直角、直交、水平、垂直、上下等の文言は、実施形態の効果を損なわない程度のずれを許容するものとする。
【0011】
また、以下の説明で、「電波」とは電磁波の一種であり、一般的に、3THz以下の電磁波は電波と呼ばれている。以下では、屋外の基地局又は中継局から放射された電磁波を「電波」と呼び、電磁波一般について言及するときは「電磁波」と呼ぶ。また、以下では、「ミリ波」又は「ミリ波帯」というときは、30GHz~300GHzの周波数帯域に加えて、24GHz~30GHzの準ミリ波帯も含むものとする。
【0012】
実施形態のアンテナ装置が送信又は受信(送受信)する電波は、第五世代移動通信システム(5G)等のミリ波帯や、Sub-6を含む1GHz~30GHzの周波数帯域の電波であると好適である。また、実施形態のアンテナ装置が送受信する電波は、LTE(Long Term Evolution)、LTE-A(LTE-Advanced)、又はUMB(Ultra Mobile Broadband)であってもよい。また、実施形態のアンテナ装置が送受信する電波は、IEEE802.11(Wi-Fi(登録商標))、IEEE802.16(WiMAX(登録商標))、IEEE802.20、UWB(Ultra-Wideband)、Bluetooth(登録商標)、又はLPWA(Low Power Wide Area)等であってもよい。以下では、特に断らない限り、一例としてミリ波帯とSub-6の電波を用いて説明する。また、特に断らない限り、アンテナ装置が電波を放射する場合について説明するが、電波を受信する場合も同様である。
【0013】
<実施形態>
図1は、実施形態のアンテナ装置100を含む電柱アンテナ装置200の一例を示す図である。電柱アンテナ装置200は、電柱10と、アンテナ装置100とを含む。アンテナ装置100は、Sub-6の電波を用いた通信における基地局のアンテナとして利用可能な装置である。電柱10には、図示しない基地局用の通信装置が取り付けられるとともにアンテナ装置100に接続される。電柱アンテナ装置200は、基地局を設けた電柱として、地面等に設置可能である。
【0014】
電柱10は、アンテナ装置100が取り付けられる取付対象物の一例である。電柱10は、例えば、電力会社が送電又は配電を行う電線を支持する電力柱、通信会社が電話回線又は光ケーブルを各家庭に届けるために用いる電信柱、又は、電力柱と電信柱の両方の役割を果たす共用柱、又は、電車の架線の支持に用いられる架線柱等であってもよい。また、電柱10は、電信柱又は電信棒等と呼ばれる場合もある。このような電柱10の長さ及び口径等については、例えば、JIS(日本産業規格)等に定められている。
【0015】
電柱10は、例えば、鉄骨をコンクリートで覆った円柱型の部材であるが、このような形態に限られない。電柱10は、木製や樹脂製等でもよい。電柱10は、電柱10を地面に設置する際に、上端になる端部と、下端になる端部とが決まっている。以下では、特に断らない限り、一例として電柱10が円柱型であり、電柱10の上端側の部分の直径が190mmであり、地中に埋設されない部分における下端側の部分の直径が250mmである。以下では、電柱10の地中に埋設されない部分を除いて、上端部と下端部があるものとして説明する。電柱10は、下端側から上端側に向かって線形的に直径が細くなる円柱型である。
【0016】
アンテナ装置100は、直径が190mmの上端側の部分と、電柱10の直径が250mmの下端側の部分と、上端側及び下端側の間の部分とのどの位置にも取り付け可能である。しかしながら、特に断らない限り、以下では、図面に電柱10の直径が190mmの部分を示し、電柱10の直径が190mmの部分にアンテナ装置100を取り付ける場合について説明する。なお、電柱10には、作業者等が足場として利用する足場ボルト11が取り付けられている。
【0017】
また、アンテナ装置100は、円柱型の電柱10の外周面に取り付けられるため、中空円柱体を平面視で半分にしたような円弧状に湾曲した形状を有する。電柱10の外周面は、アンテナ装置100が取り付けられる取付面の一例である。アンテナ装置100の各部は円弧状に湾曲しており、各部の湾曲形状は略揃えられている。このため、以下で各部を説明する際において、径方向とは、各部の円弧状の湾曲形状の径方向をいう。径方向は、一例として、中空円柱体の周方向の一部分に相当する形状を有する筐体120の径方向を基準としている。また、以下で各部を説明する際において、周方向とは、アンテナ装置100の各部の湾曲形状の周方向をいう。周方向についても、一例として、中空円柱体の周方向の一部分に相当する形状を有する筐体120の周方向を基準としている。
【0018】
<アンテナ装置100の構成>
ここでは、図1に加えて、図2を用いて説明する。図2は、筐体120を分解し、アンテナ部110及び筐体130の配置の一例を示す図である。筐体120は、第1筐体の一例である。筐体130は、第2筐体の一例である。アンテナ部110は、筐体130の内部に収容されている。
【0019】
ここで、XYZ座標のX方向は、平面視における筐体120の両端を結ぶ方向である。また、Y方向は、平面視でX方向に直交する方向である。
【0020】
アンテナ装置100は、アンテナ部110(図2参照)、筐体120、筐体130、及び固定バンド140A、140B(図1参照)を含む。上側の固定バンド140Aは、第1固定部材の一例であり、下側の固定バンド140Bは、第2固定部材の一例である。
【0021】
<アンテナ部110及び筐体130の概略的な構成>
アンテナ部110は、図2に示すように、筐体130の内部に収容されており、筐体130は、筐体120の背面カバー120Bに設けられている。一例として、1個ずつのアンテナ部110及び筐体130が組となり、1個の筐体130の内部に1個のアンテナ部110が収容されている。アンテナ装置100は、一例として2組のアンテナ部110及び筐体130を含むが、少なくとも1組のアンテナ部110を含めばよい。また、1個の筐体130の内部に複数のアンテナ部110が収容されていてもよい。
【0022】
アンテナ部110は、一例として、フレキシブル基板にループスロットアンテナを形成したアンテナ部であり、可撓性を有する。筐体130は、可撓性を有する樹脂製のケースであり、アンテナ部110を収容する。アンテナ部110が放射する電波は、筐体130を透過する。可撓性とは、物体が折れることなく外観で分かる程度に撓む性質である。撓むとは、弓なりに曲がることである。アンテナ部110及び筐体130は、人間が外部から手で力を加えることで弓なりに曲げることができる程度の可撓性を有する。
【0023】
アンテナ部110及び筐体130は、筐体120の湾曲形状に応じて撓んだ状態で筐体120内に収容される。アンテナ部110は、図示を省くケーブルを介して、筐体120の下部に設けられるコネクタ128に接続され、コネクタ128を介して、筐体120の外部の通信装置等に接続される。
【0024】
アンテナ部110は、Sub-6の電波を送受信可能な放射素子を内蔵し、ビーム状の電波を放射する。アンテナ装置100の利用状態においては、アンテナ装置100の周りには、スマートフォン、タブレットコンピュータ、又はゲーム機等の携帯型の無線通信装置を利用する利用者が存在することになるため、アンテナ装置100が放射する電波は、電柱10の円柱形状の径方向における外側方向で、かつ、水平方向から下向きの範囲に伝搬することが好ましい。以下では、アンテナ部110から見て電柱10の円柱形状の径方向における外側をアンテナ部110の前面側と称し、アンテナ部110から見て電柱10の円柱形状の径方向における内側をアンテナ部110の背面側と称す。また、アンテナ部110を収容する筐体130についても、アンテナ部110と同様に、筐体130の前面側又は背面側と称す。なお、アンテナ部110及び筐体130の構成の詳細については、図3乃至図6を用いて後述する。
【0025】
<筐体120の構成>
筐体120は、図1に示すように電柱10に取り付けられるため、電柱10の円柱形状に合わせて湾曲している。筐体120は、一例として、電柱10の直径が190mmの部分の外周面の周囲の約180度の部分を囲むように湾曲しており、上下方向に延在している。このため、筐体120は、中空円柱体を周方向において半分にした湾曲形状を有する。筐体120の上側は、第1側の一例であり、筐体120の下側は、第2側の一例である。中空円柱体とは、パイプ状の物体であり、円柱の中心軸を含む中心部分を円柱状にくり抜いた形状である。中空円柱体は、中空円柱体の外径の位置にある外側の側面(外側面)と、中空円柱体の内径の位置にある内側の側面(内側面)とを有する。
【0026】
ここでは、筐体120が中空円柱体を周方向において半分にした形状を有し、電柱10の外周面の周囲の約180度の部分を囲むように湾曲する形態について説明するが、筐体120が電柱10の外周面の周囲を囲む角度は180度よりも小さくてもよい。例えば、90度や120度程度であってもよい。また、筐体120を電柱10に対して取り付け可能であれば、筐体120が電柱10の外周面の周囲を囲む角度は180度よりも大きくてもよい。筐体120は、中空円柱体の周方向における一部分に相当する湾曲形状を有していればよい。
【0027】
筐体120は、前面カバー120Aと背面カバー120Bとを有する。前面カバー120Aは、アンテナ装置100の径方向において、背面カバー120Bよりも外側に位置する部分であり、主に筐体130の前面側に位置する部分である。
【0028】
背面カバー120Bは、アンテナ装置100の径方向において、前面カバー120Aよりも内側に位置する部分であり、主に筐体130の背面側に位置する部分である。前面カバー120A及び背面カバー120Bは、位置を合わせて組み合わせた状態で、内部を封止する封止構造を有する。
【0029】
前面カバー120Aは、筐体130が設けられた背面カバー120Bの径方向の外側(アンテナ部110及び筐体130の前面側)を覆う。前面カバー120Aは、熱可塑性樹脂製である。このため、アンテナ部110から放射された電波は、前面カバー120Aを前面側に透過可能である。熱可塑性樹脂製としては、PC(polycarbonate)/ASA(Acrylate Styrene Acrylonitrile)、ASA、又はAES(Acrylonitrile Ethylene Styrene)等を用いることができる。
【0030】
前面カバー120Aは、基部121Aと、上カバー部122Aと、下カバー部123Aとを有する。基部121Aは、平面視において、電柱10の外周面に対応して湾曲した板状の部分であり、基部121Aの径方向における外側の側面は、中空円柱体の外側面の周方向の一部に相当する部分である。より具体的には、一例として、基部121Aは、平面視において、電柱10の外周面と、同心状に配置可能な曲率で湾曲している。
【0031】
基部121Aの上端と下端には、XY平面と略平行に径方向の内側に突出する上カバー部122Aと下カバー部123Aが設けられている。上カバー部122Aと下カバー部123Aは、筐体120の上端及び下端において、基部121Aと背面カバー120Bとの間を繋ぐように、平面視で円弧状に設けられている。なお、下カバー部123Aは、コネクタ128等を避けるように切り欠かれている。また、前面カバー120Aの上カバー部122Aから下カバー部123AまでのZ方向の長さは、一例として288mmである。また、前面カバー120Aの基部121Aの曲率は、一例として158mm~163mmである。
【0032】
背面カバー120Bは、アンテナ部110を収容する筐体130を保持し、電柱10に取り付けられる部分である。背面カバー120Bは、主にアンテナ部110の背面側に位置するため、金属製である。このため、背面カバー120Bは、反射部として機能する。
【0033】
背面カバー120Bは、図2に示すように、基部121B、突出部122B、脚部123B、ガイド孔124B、折曲部125Bを有する。背面カバー120Bは、一例として、1枚の薄い金属板に対して、切断及び折り曲げ等の加工を行うことによって作製可能である。脚部123Bは、当接部の一例であるとともに、脚部の一例である。なお、ここでは一例として、背面カバー120Bが1枚の薄い金属板から作製される形態について説明するが、基部121B、突出部122B、脚部123B、ガイド孔124B、及び折曲部125Bのすべて、又は、一部は、別部品で構成されてネジ留め等によって組み立てられる構成であってもよい。
【0034】
基部121Bは、アンテナ装置100が電柱10に取り付けられた状態で、電柱10の外周面に沿って延在する薄い板状の部分である。基部121Bは、平面視において、電柱10の外周面に対応して、電柱10の外周面と同心状に配置可能な曲率で湾曲した板状の部分である。基部121Bの径方向における内側の側面は、中空円柱体の内側面の周方向の一部に相当する部分である。基部121Bの曲率は、一例として129mmである。基部121Bは、アンテナ部110を収容する筐体130の背面側に位置し、筐体130を保持する。筐体130は、基部121Bに接着剤等で貼り付けられている。基部121Bは、アンテナ部110が背面側に放射する電波を前面側に反射する反射部の一例である。すなわち、背面カバー120Bは、反射部としての基部121Bを有する。なお、筐体130は、基部121Bにネジ留め等で固定されてもよい。
【0035】
基部121Bの上下における湾曲する方向(湾曲方向)の中央部には、基部121Bから上下に突出する突出部122Bが設けられている。基部121Bの湾曲方向とは、平面視で円弧状に湾曲する基部121Bの円弧に沿った方向である。突出部122Bは、基部121Bの上下に1個ずつある。
【0036】
突出部122Bは、基部121Bの上下に1個ずつ設けられており、基部121Bの上下に突出する部分である。突出部122Bは、基部121Bと同様に薄い板状の部分である。各突出部122Bには、2個の脚部123Bと、2個のガイド孔124Bとが設けられている。基部121Bの上側の突出部122B、脚部123B、及びガイド孔124Bと、基部121Bの下側の突出部122B、脚部123B、及びガイド孔124Bとの構成は同様であるため、上側の突出部122B、脚部123B、及びガイド孔124Bについて説明する。
【0037】
突出部122Bは、基部121Bの曲率と同一の曲率で湾曲している。突出部122Bの湾曲する方向(湾曲方向)における両端には、脚部123Bが1個ずつ設けられている。突出部122Bの湾曲方向は、基部121Bの湾曲方向と同様に、平面視で円弧状に湾曲する突出部122Bの円弧に沿った方向である。
【0038】
脚部123Bは、突出部122Bの両端から+Y方向に折り曲げられた部分であり、YZ平面に平行な薄い板状の部分であり、Z方向に延在している。脚部123Bは、アンテナ装置100が電柱10に取り付けられた状態で、筐体120に含まれる部分の中で、電柱10に当接する唯一の部分である。背面カバー120Bは、上下に2個ずつの合計4つの脚部123Bを有する。上側の2個の脚部123Bは、電柱10の外周面の湾曲方向において間隔を空けて配置される。換言すれば、上側の2個の脚部123Bは、X方向に間隔を空けて配置される。上側の2個の脚部123BのY方向及びZ方向における位置は等しい。また、下側の2個の脚部123Bは、上側の2個の脚部123Bと同様に、X方向に間隔を空けて配置される。
【0039】
このため、筐体120は、4つの脚部123Bで電柱10の外周面に当接する。なお、脚部123BのY方向の長さは、電柱10の下の方の直径が太い部分にアンテナ装置100が取り付けられても、基部121Bの湾曲方向における両端が、電柱10の外周面に接触しないように、電柱10の太さに合わせて設定されている。なお、上側及び下側の2個の脚部123BのX方向の距離をD(図2参照)とする。距離Dは、-X方向側の脚部123Bの-X方向側の表面と、+X方向側の脚部123Bの+X方向側の表面との間の距離である。
【0040】
ガイド孔124Bは、脚部123Bの+Y方向側の端部に設けられる貫通孔である。基部121Bの上側の2個の脚部123Bの各々に、ガイド孔124Bが1個ずつ設けられている。上側のガイド孔124Bには、固定バンド140Aが通される。また、同様に、基部121Bの下側の2個の脚部123Bの各々に、ガイド孔124Bが1個ずつ設けられている。下側の2個のガイド孔124Bには、固定バンド140Bが通される。
【0041】
折曲部125Bは、基部121Bの湾曲方向における両端から、アンテナ装置100の径方向の外側に折り曲げられた部分である。背面カバー120Bは、2個の折曲部125Bを有する。2個の折曲部125Bは、筐体120の湾曲方向における両端において、基部121Bと前面カバー120Aとの間を繋ぐように径方向外側に折り曲げられた部分である。
【0042】
以上のような前面カバー120Aと、筐体130が取り付けられた背面カバー120Bとを組み合わせた状態で、筐体120は、内部を封止する封止構造を有する。このため、アンテナ装置100を取り付けた電柱10が屋外で風雨に晒されても、長期間にわたってアンテナ部110を収容する筐体130を雨、塵埃、又は、風で飛ばされた飛来物等から保護できる。また、アンテナ部110は、筐体120内に収容される筐体130の内部に収容されるので、例えば筐体120の前面カバー120A及び背面カバー120Bの合わせ目等から筐体120の内部に水や塵埃等の異物が入り込んだような場合においても、長期間にわたって雨や塵埃等からアンテナ部110を保護できる。また、人間等がアンテナ部110を直接的に触れることがない構造を実現できる。なお、下側の突出部122Bの下端から上側の突出部122Bの上端までの背面カバー120Bの長さは、一例として362mmである。
【0043】
<固定バンド140A、140B>
固定バンド140A、140Bは、略円環状のバンドであり、互いに同様の構成を有する。固定バンド140Aは、バンド141及び締結金具142を有し、締結金具142でバンド141を締結する位置を自在に変更可能である。これは、固定バンド140Bも同様である。このような固定バンド140A及び140Bとしては、一例として、イワブチ株式会社が販売するステンレスバンドや自在バンド等を用いることができる。なお、固定バンド140A及び140Bは、このようなステンレスバンドや自在バンドに限られず、様々なものを用いることができる。
【0044】
<アンテナ部110及び筐体130の構成の詳細>
図3は、アンテナ部110を収容する筐体130の構成の一例を示す図である。図3には、筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませる前の状態を示す。このため、図3では、筐体130は平板状である。なお、図3には、筐体130の外形と、内部に収容されるアンテナ部110の形状とを示し、筐体130の内側の構造の詳細は図4に示す。
【0045】
図4は、アンテナ部110と分解した状態の筐体130との構成の一例を示す図である。図5は、アンテナ部110の構成の一例を示す図である。図6は、アンテナ部110の断面構成の一例を示す図である。図4には、筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませる前の状態における、アンテナ部110及び筐体130を示す。図5及び図6には、筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませる前の状態における、アンテナ部110を示す。
【0046】
アンテナ部110は、図3及び図4に示すように筐体130内に収容される。なお、図3乃至図6では、筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませる前の状態における構成を説明するために、小文字で記すxyz座標系を定義して説明する。x軸に平行な方向(x方向)、y軸に平行な方向(y方向)、z軸に平行な方向(z方向)は、互いに直交する。また、以下では、説明の便宜上、-z方向側を下側又は下、+z方向側を上側又は上と称す場合があるが、普遍的な上下関係を表すものではない。また、平面視とはxy面視することをいう。
【0047】
筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませた状態では、z方向は筐体120の径方向に相当し、+z方向が径方向の外側である。x方向は筐体120の周方向に相当する。y方向は、図1及び図2におけるZ方向に相当し、+y方向が+Z方向に相当する。
【0048】
<アンテナ部110の詳細な構成>
アンテナ部110は、図4に示すように、筐体130の前面ケース130Aと、背面ケース130Bとの間に配置され、前面ケース130Aと、背面ケース130Bとを閉じると、図3に示すように、筐体130の内部に収容される。アンテナ部110は、基板111、金属層112、及び、2個のループスロットアンテナ113を含む。
【0049】
アンテナ部110は、各ループスロットアンテナ113の2個の給電点FP1及びFP2で給電することにより、偏波方向が90度異なる2種類の電波を放射可能な偏波共用型のアンテナ装置である。
【0050】
基板111は、一例として、平面視で矩形状の基板である。基板111は、一例として、平面視における四隅に孔部111Aを有する。4個の孔部111Aは、基板111を筐体130にネジ留めする際に、ネジ136Bが通される貫通孔である。基板111が筐体130にネジ留めされることで、アンテナ部110は筐体130に固定される。
【0051】
基板111は、一例として、可撓性を有する、樹脂製で薄いフィルム状のフレキシブル基板である。可撓性とは、物体が折れることなく外観で分かる程度に撓む性質である。基板111は、人間が外部から手で力を加えることで弓なりに曲げることができる程度の可撓性を有する。
【0052】
基板111は、例えば、ABS(Acrylonitrile, Butadiene, Styrene)樹脂、フッ素樹脂、COP(Cyclo-Olefin Polymer)、PET(Polyethylene terephthalate)、PEN(polyethylene naphthalate)、ポリイミド、Peek(polyether ether ketone)、LCP(Liquid Crystal Polymer)、その他の複合材等の、可撓性を有する樹脂素材で形成可能である。
【0053】
金属層112は、一例として基板111の上面に設けられており、一例として、平面視で八角形の薄い導体製である。金属層112は、グランド電位に保持される。金属層112の中央部には、平面視でx方向及びy方向に対して±45度の方向に延在する4つの直線状の部分を有する正方形状のループスロットアンテナ113が2個形成されている。2個のループスロットアンテナ113は、y方向に配列されている。2個のループスロットアンテナ113の中心を中心C1、C2とする。中心C1、C2を特に区別しない場合には、単に中心Cと称す。また、中心C1、C2の中心を中心CCと称す。中心CCは、2個のループスロットアンテナ113の中心C1、C2同士の中心である。
【0054】
金属層112の平面視における外縁(8つの辺)のうちの4つの辺は、ループスロットアンテナ113の4つの直線状の部分と平行ではない辺である。金属層112の平面視における外縁(8つの辺)のうちの残りの4つの辺は、ループスロットアンテナ113の4つの直線状の部分と平行な辺である。ループスロットアンテナ113の4つの直線状の部分と平行な辺を設けることにより、交差成分を低減できる。
【0055】
金属層112は、ループスロットアンテナ113によって、ループスロットアンテナ113の内側の金属部と、外側の金属部とに分断される。内側の金属部と、外側の金属部とは、ともにグランド電位に保持される。
【0056】
金属層112は、基板111が電波に対して透明な任意の材料で形成されていない場合には、例えば、銅、ニッケル、又は金等の金属薄膜で形成可能である。また、金属層112は、基板111が電波に対して透明な任意の材料で形成されている場合には、例えば、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化インジウム・酸化スズ(IZO)等の透明導電膜、窒化チタン(TiN)や窒化クロム(CrN)等の金属窒化物、又はLow-e(low emissivity)ガラス用のLow-e膜で形成されるのが望ましい。また、金属層112は、基板111が電波に対して透明な任意の材料で形成されている場合には、例えば、銅、ニッケル、又は金等のメッシュ状の金属薄膜で形成されていてもよい。
【0057】
ループスロットアンテナ113は、一例として平面視で正方形状のループ状のスロットアンテナである。ループスロットアンテナ113は、一例としてx方向及びy方向に対して45度の角度を有する4つの直線状のスロットをループ状に繋げた構成を有する。ループスロットアンテナ113のループ長(4つの直線状の部分の長さ)は、一例として、ループスロットアンテナ113の共振周波数における波長の電気長λeに設定される。ここでは、一例として、ループスロットアンテナ113の共振周波数が3.85GHzである形態について説明する。
【0058】
ループスロットアンテナ113は、2個の給電点FP1及びFP2を有する。給電点FP1は、ループスロットアンテナ113の中心Cの+x方向側かつ+y方向側に位置する直線状の部分の長さの中心において、一例としてループスロットアンテナ113の外側に位置する。給電点FP2は、ループスロットアンテナ113の中心Cの-x方向側かつ+y方向側に位置する直線状の部分の長さの中心において、一例としてループスロットアンテナ113の外側に位置する。なお、給電点FP1及びFP2は、ループスロットアンテナ113の内側に位置していてもよい。また、給電点FP1及びFP2は、ループスロットアンテナ113の中心Cに対して対称な位置にあってもよい。
【0059】
給電点FP1及びFP2は、例えば金属層112の下面側に金属層112とは絶縁されて設けられた配線等によって、図示しない電源から給電される。このような配線は、例えば、金属層112をグランド層としてマイクロストリップライン(MSL)を構成する。また、例えば、給電点FP1及びFP2に同軸ケーブルの芯線を接続するとともに、金属層112に同軸ケーブルのシールド線を接続することで、電源から給電してもよい。また、コプレーナウェイブガイド(CPW)を用いて給電してもよい。
【0060】
ループスロットアンテナ113は、給電点FP1及びFP2で同時に給電することにより、偏波方向が平面視で90度異なる2種類の電波を放射する。なお、ループスロットアンテナ113は、偏波方向は平面視で90度異なる2個の電波を放射可能であればよいため、平面視で正方形状に限らず、八角形や十二角形等の多角形状であってもよい。
【0061】
なお、給電点FP1でループスロットアンテナ113に給電すると、主成分の偏波とは偏波方向が90度異なる交差成分の偏波が生じる。給電点FP1で給電した場合の主成分の偏波の方向は、ループスロットアンテナ113の中心Cの+x方向側かつ+y方向側に位置する直線状の部分を平面視で垂直に跨ぐ方向であり、直線状の部分の延在方向である。このような主成分の偏波と交差成分の偏波は、給電点FP2でループスロットアンテナ113に給電した場合にも同様に生じる。金属層112にループスロットアンテナ113の4つの直線状の部分と平行な辺を設けることにより、交差成分を低減できる。
【0062】
このようなアンテナ部110の断面構造は、一例として図6に示すように、基板111の上に金属層112が積層され、金属層112の上にカバーレイ(保護層)115Aが積層されている。ループスロットアンテナ113は、金属層112に形成されるが、図6の断面には示さない。また、基板111の下には金属層114が積層され、金属層114の下にはカバーレイ(保護層)115Aが積層されている。金属層114は、給電点FP1及びFP2に接続される配線等が形成される層である。一例として、基板111の厚さは100μm、金属層112及び金属層114の厚さは12μm、カバーレイ115A及び115Bの厚さは13μmである。なお、一例として、金属層112とカバーレイ115Aの間は、厚さが25μmの接着層によって接着されており、金属層114とカバーレイ115Bの間は、厚さが25μmの接着層によって接着されている。このため、アンテナ部110の厚さは、一例として、0.2mmである。
【0063】
<筐体130の詳細な構成>
筐体130は、図4に示すように、前面ケース130Aと、背面ケース130Bとを有する。前面ケース130Aは、第1箱体の一例であり、背面ケース130Bは、第2箱体の一例である。筐体130が図2に示すように湾曲した状態で、前面ケース130Aはアンテナ部110の前面側を覆い、背面ケース130Bはアンテナ部110の背面側を覆う。
【0064】
前面ケース130A及び背面ケース130Bは、可撓性を有する材料製のケースである。前面ケース130A及び背面ケース130Bは、可撓性を有していて、筐体120の湾曲形状に応じて撓むことができればよい。可撓性を有する材料としては、エラストマー樹脂などの可撓性を有する樹脂や熱硬化性ゴムが挙げられる。
【0065】
可撓性とは、物体が折れることなく外観で分かる程度に撓む性質である。筐体130は、筐体120内に取り付けられる際に、人間が外部から手で力を加えることで筐体120の湾曲形状に応じて弓なりに曲げることができる程度の可撓性を有する。
【0066】
筐体130のサイズは、一例として、x方向の長さが162mm、y方向の長さが157mm、z方向の厚さが15mmである。
【0067】
前面ケース130Aは、基部131A、側壁132A、開口部133A、及び収容部134Aを有する。開口部133Aは、第1開口部の一例である。基部131Aは、アンテナ部110の+z方向側に位置する平面視で矩形状の板状の部分である。側壁132Aは、基部131Aの外縁から-z方向に延在する壁部であり、平面視で矩形環状である。開口部133Aは、側壁132Aの-z方向側の端部に設けられている。収容部134Aは、基部131A及び側壁132Aによって5面が囲まれた直方体状の空間であり、開口部133Aに連通している。
【0068】
背面ケース130Bは、基部131B、側壁132B、開口部133B、収容部134B、及び保持部135Bを有する。開口部133Bは、第2開口部の一例である。基部131Bは、アンテナ部110の-z方向側に位置する平面視で矩形状の板状の部分である。側壁132Bは、基部131Bの外縁から+z方向に延在する壁部であり、平面視で矩形環状である。開口部133Bは、側壁132Bの+z方向側の端部に設けられている。収容部134Bは、基部131B及び側壁132Bによって5面が囲まれた直方体状の空間であり、開口部133Bに連通している。また、背面ケース130Bのz方向の寸法は、前面ケース130Aの収容部134Aのz方向の寸法と略等しい。
【0069】
保持部135Bは、一例として基部131Bの+z方向側の内表面から+z方向に突出する凸部であり、+z方向側の端部から-z方向に向かってネジ穴が設けられている。このような保持部135Bは、一例として、アンテナ部110の基板111の四隅をネジ留めできるように4個設けられている。基部131Bの内表面とは、基部131Bの表面のうち、収容部134Bに面する表面である。
【0070】
4個の保持部135Bに対して、アンテナ部110の四隅の孔部111Aの位置を合わせた状態で、4個の孔部111Aに通した4本のネジ136Bでネジ留めすることによって、アンテナ部110は、背面ケース130Bの収容部134B内に固定される。
【0071】
前面ケース130Aの開口部133Aの開口サイズは、背面ケース130Bの開口部133Bの開口サイズよりも大きい。開口サイズとは、開口部133A及び133Bのx方向及びy方向の長さである。前面ケース130Aの開口部133Aの開口サイズは、背面ケース130Bの平面視での外形サイズに合わせられている。背面ケース130Bの平面視での外形サイズとは、背面ケース130Bの平面視でのx方向及びy方向の長さである。
【0072】
また、背面ケース130Bの開口部133Bの開口サイズは、アンテナ部110の平面視でのサイズよりも大きく、収容部134Bのz方向の寸法(深さ)は、アンテナ部110のz方向の寸法(厚さ)よりも十分に大きい。このため、背面ケース130Bの収容部134B内にアンテナ部110を収容可能である。
【0073】
背面ケース130Bの収容部134Bにアンテナ部110を収容した状態で、アンテナ部110は、背面ケース130Bの基部131B及び側壁132Bの内表面に接触しないように、かつ、開口部133Bよりも-z方向側に位置するように、アンテナ部110の外縁、+z方向側の表面、及び、-z方向側の表面に対して位置決めされている。基部131B及び側壁132Bの内表面とは、基部131B及び側壁132Bの表面のうち、収容部134Bに面する表面である。
【0074】
このような筐体130において、アンテナ部110を収容部134B内で背面ケース130Bに対して固定した状態で、背面ケース130Bの開口部133B側の部分が開口部133Aから前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込むことで、図3に示すように、筐体130内にアンテナ部110を収容できる。背面ケース130Bが前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込むと、側壁132Aと側壁132Bとは密着した状態になる。背面ケース130Bのz方向の寸法は、前面ケース130Aの収容部134Aのz方向の寸法と略等しいからである。
【0075】
また、背面ケース130Bが前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込むと、前面ケース130Aの側壁132Aの-z方向側の端部と、背面ケース130Bの基部131Bの-z方向側の表面とのz方向における位置は略等しくなる。換言すれば、背面ケース130Bが前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込むと、-z方向側からの平面視において、開口部133Aは、背面ケース130Bの基部131Bの-z方向側の表面を囲み、開口部133Aと、背面ケース130Bの基部131Bの-z方向側の表面とのz方向における位置は略等しくなる。
【0076】
このため、背面ケース130Bが前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込むと、前面ケース130Aの収容部134Aと、背面ケース130Bの収容部134Bとは封止された空間になり、アンテナ部110を密封できる。
【0077】
また、アンテナ部110は、背面ケース130Bの基部131B及び側壁132Bの内表面に接触せず、かつ、開口部133Bよりも-z方向側に位置しているので、背面ケース130Bが前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込んだ状態で、アンテナ部110と、前面ケース130Aの基部131Aの内表面とは接触しない。すなわち、アンテナ部110は、筐体130の内表面との間に間隔を設けた状態で、筐体130内に収容されている。なお、前面ケース130Aの基部131Aの内表面とは、基部131Aの表面のうち、収容部134Aに面する表面である。
【0078】
また、このようにアンテナ部110を収容する筐体130は、筐体120の湾曲形状に応じて撓んだ状態で基部121Bの径方向外側の表面に接着されても、前面ケース130Aと背面ケース130Bとが密着した状態を保持し、筐体130の内部空間にアンテナ部110を密封できる。
【0079】
このため、アンテナ部110を収容した筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませて基部121Bに取り付けた状態で、例えば筐体120の前面カバー120A及び背面カバー120Bの合わせ目等から筐体120の内部に水や塵埃等の異物が入り込んだような場合においても、筐体130で長期間にわたって雨や塵埃等からアンテナ部110を保護できる。また、人間等がアンテナ部110を直接的に触れることがない構造を実現できる。
【0080】
また、アンテナ部110が筐体130の内表面とは接触していない状態は、筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませても、保持されるように構成されている。
【0081】
このため、アンテナ部110を収容した筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませて基部121Bに取り付けた状態で、万一、前面ケース130Aと背面ケース130Bとの間に隙間が生じて、筐体130の内部に水や塵埃等の異物が入り込んでも、アンテナ部110に異物が付着し難い。筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませても、アンテナ部110は、筐体130の内表面とは接触しないためである。したがって、アンテナ部110を収容した筐体130を筐体120の湾曲形状に応じて撓ませて基部121Bに取り付けた状態で、万一、前面ケース130Aと背面ケース130Bとの間に隙間が生じて、筐体130の内部に水や塵埃等の異物が入り込んでも、アンテナ部110が動作可能な状態を確保できる。
【0082】
なお、本実施形態では、前面ケース130Aの開口部133Aの開口サイズが、背面ケース130Bの開口部133Bの開口サイズよりも大きく、背面ケース130Bの開口部133B側の部分が開口部133Aから前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込む形態について説明するが、逆の構成であってもよい。すなわち、前面ケース130Aの開口部133Aの開口サイズが、背面ケース130Bの開口部133Bの開口サイズよりも小さく、前面ケース130Aの開口部133A側の部分が開口部133Bから背面ケース130Bの内部に入れ子式に入り込む構成であってもよい。
【0083】
また、本実施形態では、保持部135Bが背面ケース130B側に設けられる構成について説明するが、保持部は前面ケース130A側に設けられていてもよい。また、保持部135Bは、アンテナ部110を収容部134Bに収容した状態で、アンテナ部110が基部131B及び側壁132Bの内表面に接触せず、かつ、開口部133Bよりも-z方向側に位置するようにアンテナ部110を保持できればよいため、基部131Bから+z方向に突出する凸部以外の構成であってもよい。
【0084】
<アンテナ装置100についてのシミュレーション>
ここでは、アンテナ装置100について行ったシミュレーションの結果について説明する。まず、図7を用いて、アンテナ装置100の各部の間隔について説明する。
【0085】
<アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sと各部の間隔>
図7は、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sと各部の間隔の一例を説明する図である。図7には、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sのうちのアンテナ部110、基部121A、基部121B、基部131A、及び基部131Bを示す。実際のアンテナ装置100では、アンテナ部110、基部121A、基部121B、基部131A、及び基部131Bの径方向の間隔は、周方向において一定である。また、実際のアンテナ装置100では、アンテナ部110、基部121A、基部121B、基部131A、及び基部131Bの径方向の間隔は、図7に示すy方向(図1及び図2におけるZ方向)においても一定である。
【0086】
このため、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sでは、図7に示すように、アンテナ部110、基部121A、基部121B、基部131A、及び基部131Bを互いに平行な平板状の部材として取り扱って計算を行う。アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sでは、図3乃至図6に小文字で示すxyz座標系を用いる。
【0087】
図7には、アンテナ部110、基部121A、基部121B、基部131A、及び基部131Bの間隔G1、G2、G3を示す。間隔G1、G2、G3は、実際のアンテナ装置100では、径方向の間隔に相当する。図7における+z方向は、実際のアンテナ装置100における径方向外側に相当し、-z方向は、実際のアンテナ装置100における径方向内側に相当する。また、x方向は、実際のアンテナ装置100における周方向に相当する。また、+y方向は、実際のアンテナ装置100における上方向(図1及び図2における+Z方向)に相当し、-y方向は、実際のアンテナ装置100における下方向(図1及び図2における-Z方向)に相当する。
【0088】
間隔G1は、基部131Bとアンテナ部110とのz方向の間隔である。間隔G2は、アンテナ部110と基部131Aとのz方向の間隔である。間隔G3は、基部131Aと基部121Aとのz方向の間隔である。
【0089】
実際のアンテナ装置100では、間隔G1~G3は、周方向において一定である。間隔G1~G3を周方向において一定にすることで、アンテナ部110、基部121A、基部121B、基部131A、及び基部131Bの径方向の間隔が周方向において一定になり、アンテナ部110の良好なインピーダンス特性が得られる。
【0090】
アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sでは、一例として間隔G1を8mm、間隔G2を5mmに設定し、間隔G3を0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmに設定した。間隔G3を0mmであることは、基部131Aと基部121Aが接触していることを表す。また、筐体120の前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)についてもシミュレーションを行った。比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)は、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sから前面カバー120Aを取り除いた構成であり、背面カバー120Bは含んでいる。なお、基部131A及び131Bの径方向の厚さは、1mmに設定した。
【0091】
間隔G2は、アンテナ部110と筐体130との間の第1距離の一例である。間隔G3は、筐体130と筐体120との間の第2距離の一例である。間隔G2に対する間隔G3の比は、1以上、50以下であることが好ましい。
【0092】
また、アンテナ部110のカバーレイ115A及び115BをABS樹脂製とし、比誘電率を3.0、誘電正接を0に設定した。アンテナ部110の厚さを0.2mmに設定した。また、基部131A及び131Bの比誘電率を4.8、誘電正接を0.005に設定した。
【0093】
<VSWRの計算結果>
図8は、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100SにおけるVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)の計算結果の一例を示す図である。図8において、横軸は周波数(GHz)を表し、縦軸はVSWRを表す。
【0094】
ここでは、間隔G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sと、前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)とについて、VSWRの周波数特性を求め、3.6GHzから4.1GHzの周波数帯域で評価を行った。
【0095】
VSWRが2.0以下であればアンテナ装置100として利用可能という評価基準で評価したところ、間隔G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのいずれのシミュレーションモデルにおいても、1.733以下の良好な数値が得られた。
【0096】
より具体的には、前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)のVSWRは約1.5以下であった。間隔G3が0mm、40mm、80mmの場合に比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)よりも良好な値を示し、G3が20mm、60mm、100mmの場合には、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)よりも高い値を示した。間隔G3の値によって、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)よりも低い値を示す場合と、高い値を示す場合とがあるのは、波長と間隔G3の関係によるものと考えられる。より具体的には、3.85GHzにおける波長λは約78mmであることから、間隔G3が0mm、40mm、80mmであることは、それぞれ、0×λ、λ/2、λに相当するため、反射が抑えられたと考えられる。
【0097】
<スミスチャート>
図9A及び図9Bは、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの給電点FP1から見たインピーダンス特性を示すスミスチャートのシミュレーション結果の一例を示す図である。図9A及び図9Bには、判断基準の一例としてVSWRが1.5になるインピーダンスを示す破線の円を示す。
【0098】
間隔G3が0mm、40mm、80mmの場合に、破線の円の内側で渦を巻く良好なインピーダンス特性が得られた。間隔G3が20mm、60mm、100mmのインピーダンス特性は、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)のインピーダンス特性よりも大きな周期的な渦であった。波長と間隔G3の関係によって良好な結果が得られる場合と、良好な得られない場合とに分かれたものと考えられる。
【0099】
<アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターン(指向性)>
図10A及び図10Bは、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターン(指向性)の一例を示す図である。図10A及び図10Bには、2個のループスロットアンテナ113の中心C1、C2同士の中心CCを通るxz平面に平行な平面における、3.85GHzの主成分と交差成分の放射パターン(動作利得(dBi)の分布)を示す。図10Aにおいて、0度は-z方向、90度は+x方向、270度は-x方向、180度は+z方向に相当する。
【0100】
図10A及び図10Bにおいて、実線は、主成分の放射パターンを示し、破線は、交差成分の放射パターンを示す。図10A及び図10Bに示すように、間隔G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのいずれのシミュレーションモデルにおいても、約150度から約210度の範囲で、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)と同等の主成分の放射パターンが得られ、動作利得も同等であった。このことから、前面カバー120Aを設けてもアンテナ装置100の放射パターン(指向性)及び動作利得が劣化しないことが分かった。
【0101】
図11A及び図11Bは、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの放射パターン(指向性)の一例を示す図である。図11A及び図11Bには、2個のループスロットアンテナ113の中心C1、C2同士の中心CCを通るyz平面に平行な平面における、3.85GHzの主成分と交差成分の放射パターン(動作利得(dBi)の分布)を示す。図11Aにおいて、0度は-z方向、90度は+y方向、270度は-y方向、180度は+z方向に相当する。
【0102】
図11A及び図11Bにおいて、実線は、主成分の放射パターンを示し、破線は、交差成分の放射パターンを示す。図11A及び図11Bに示すように、間隔G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのいずれのシミュレーションモデルにおいても、約160度から約200度の範囲で、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)と同等の主成分の放射パターンが得られ、動作利得も同等であった。前面カバー120Aを設けてもアンテナ装置100の放射パターン(指向性)及び動作利得が劣化しないことが分かった。
【0103】
図12は、図10A図10B図11A、及び図11Bの計算結果をまとめて示す表形式の図である。図12には、主成分の動作利得(dBi)の最大値、xz平面でのビーム幅(度)、yz平面でのビーム幅(度)、180度方向(正面方向)のXPD(dB)を示す。XPDは、主偏波と交差偏波の差である。
【0104】
G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのシミュレーションモデルについての主成分の動作利得(dBi)の最大値は、9.6dBi~10.9dBiであった。また、前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)についての主成分の動作利得(dBi)の最大値は、10.6dBiであった。
【0105】
G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのシミュレーションモデルについてのxz平面でのビーム幅は、48.7度~67.5度であった。また、前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)についてのxz平面でのビーム幅は、53.8度であった。
【0106】
G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのシミュレーションモデルについてのyz平面でのビーム幅は、30.4度~34.4度であった。また、前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)についてのyz平面でのビーム幅は、33.3度であった。
【0107】
G3が0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのシミュレーションモデルについての180度方向(正面方向)のXPDは、11.6dB~16.0dBであり、間隔G3が大きくなると11dBi程度の値であった。また、前面カバー120Aを含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)についての180度方向(正面方向)のXPDは、12.8dBであった。
【0108】
以上の結果より、主成分の動作利得(dBi)の最大値が大きい場合には、xz平面でのビーム幅が狭くなる傾向があり、主成分の動作利得(dBi)の最大値と、xz平面でのビーム幅とは、トレードオフの傾向があることが分かった。すなわち、G3が20mm、60mm、100mmのアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sでは、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)よりも高利得でxz平面でのビーム幅が狭いことが分かった。
【0109】
また、yz平面でのビーム幅については、主成分の動作利得(dBi)の最大値による変化は少ないことが分かった。また、G3が0mmのシミュレーションモデルについての180度方向(正面方向)のXPDは16.0dBであり、15dB以上の良好な値が得られたが、間隔G3が大きくなると、比較用のシミュレーションモデル(w/o cover 120A)よりもXPDが僅かながら低下することが分かった。ただし、G3が20mm、40mm、60mm、80mm、100mmのシミュレーションモデルについての180度方向(正面方向)のXPDは、すべて11dB以上であり、問題のない値である。
【0110】
<比較用のシミュレーション>
ここでは、比較用に筐体130を含まないシミュレーションモデル(w/o case 130)について、図8(VSWRの周波数特性)、図10A図11B(xz平面及びyz平面における主成分と交差成分の放射パターン(指向性))と同様のシミュレーションを行った結果について、図13図14A、及び図14Bを用いて説明する。
【0111】
比較用に筐体130を含まないシミュレーションモデル(w/o case 130)は、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sから、筐体130を省いた構成を有し、シミュレーションの条件は、筐体130が存在しないこと以外は、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの条件と等しい。
【0112】
図13は、筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)におけるVSWR(Voltage Standing Wave Ratio)の計算結果の一例を示す図である。図13において、横軸は周波数(GHz)を表し、縦軸はVSWRを表す。
【0113】
ここでは、筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)において、間隔G3を0mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmに設定してVSWRの周波数特性を求め、3.6GHzから4.1GHzの周波数帯域で評価を行った。
【0114】
間隔G3が0mm、40mm、80mmのシミュレーションモデル(w/o case 130)では、VSWRが約1.7以下であったが、間隔G3が0mm、40mm、80mmのアンテナ装置100のシミュレーションモデル100SのVSWRよりも値がそれぞれ大きかった。また、間隔G3が20mm、60mm、100mmのシミュレーションモデル(w/o case 130)では、VSWRが2以上になる帯域があった。
【0115】
このため、筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)のVSWRは、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sよりも悪化することが分かった。これは、エラストマー樹脂製の筐体130がなくなったことによるインピーダンス整合のずれの影響が生じたものと考えられる。
【0116】
<筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)の放射パターン(指向性)>
図14Aは、筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)の放射パターン(指向性)の一例を示す図である。図14Aには、2個のループスロットアンテナ113の中心C1、C2同士の中心CCを通るxz平面に平行な平面における、3.85GHzの主成分と交差成分の放射パターン(動作利得(dBi)の分布)を示す。図10Aにおいて、0度は-z方向、90度は+x方向、270度は-x方向、180度は+z方向に相当する。
【0117】
図14Aにおいて、実線は、主成分の放射パターンを示し、破線は、交差成分の放射パターンを示す。図14Aに示すように、間隔G3が0mm、20mm、40mmのいずれのシミュレーションモデルにおいても、約150度から約210度の範囲で、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sと同等の主成分の放射パターンが得られ、動作利得も同等であった。このことから、筐体130を設けてもアンテナ装置100の放射パターン(指向性)及び動作利得が劣化しないことが分かった。
【0118】
図14Bは、筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)の放射パターン(指向性)の一例を示す図である。図14Bには、2個のループスロットアンテナ113の中心C1、C2同士の中心CCを通るyz平面に平行な平面における、3.85GHzの主成分と交差成分の放射パターン(動作利得(dBi)の分布)を示す。図11Aにおいて、0度は-z方向、90度は+y方向、270度は-y方向、180度は+z方向に相当する。
【0119】
図14Bにおいて、実線は、主成分の放射パターンを示し、破線は、交差成分の放射パターンを示す。図14Bに示すように、間隔G3が0mm、20mm、40mmのいずれのシミュレーションモデルにおいても、約160度から約200度の範囲で、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sと同等の主成分の放射パターンが得られ、動作利得も同等であった。このことから、前面カバー120Aを設けてもアンテナ装置100の放射パターン(指向性)及び動作利得が劣化しないことが分かった。
【0120】
図15は、図14A及び図14Bの計算結果をまとめて示す表形式の図である。図15には、主成分の動作利得(dBi)の最大値、xz平面でのビーム幅(度)、yz平面でのビーム幅(度)、180度方向(正面方向)のXPD(dB)を示す。XPDは、主偏波と交差偏波の差である。
【0121】
G3が0mm、20mm、40mmのシミュレーションモデルについての主成分の動作利得(dBi)の最大値は、10.3dBi~11.0dBiであり、図12に示すアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの結果と比べると、殆ど差がない値であった。
【0122】
G3が0mm、20mm、40mmのシミュレーションモデルについてのxz平面でのビーム幅は、48.7度~56.6度であり、図12に示すアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの結果と比べると、殆ど差がない値であった。
【0123】
G3が0mm、20mm、40mmのシミュレーションモデルについてのyz平面でのビーム幅は、30.5度~34.5度であり、図12に示すアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの結果と比べると、殆ど差がない値であった。
【0124】
G3が0mm、20mm、40mmのシミュレーションモデルについての180度方向(正面方向)のXPDは、12.5dB~13.9dBであり、図12に示すアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sの結果と比べると、殆ど差がない値であった。
【0125】
図13乃至図15に示す結果より、筐体130を含まない比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)と、アンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sとの結果とを比べると、放射パターン(指向性)と動作利得に大きな違いはないことを確認できた。また、図13では、筐体130がないことによって、VSWRが高くなり、反射が増えることが分かった。図8に示すVSWRの特性は、筐体130を含むアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sにおいて、インピーダンスを最適化して得た値であり、図13に示すVSWRの特性は、インピーダンスが最適化されたアンテナ装置100のシミュレーションモデル100Sから筐体130を省いた比較用のシミュレーションモデル(w/o case 130)によって得られた特性である。
【0126】
これは、筐体130の有無によって、VSWRの特性に変化が生じることを示している。このため、筐体130を考慮してインピーダンスを調整することが必要であることが分かった。
【0127】
<効果>
アンテナ装置100は、取付対象物の湾曲した取付面に取り付けられる筐体120と、筐体120内に収容される筐体130と、筐体130内に収容されるアンテナ部110とを含み、筐体120は、中空円柱体の周方向における一部分に相当する湾曲形状を有し、筐体130は、可撓性を有する板状体であり、筐体120の湾曲形状に応じて撓んだ状態で筐体120内に収容される。このため、例えば筐体120の合わせ目等から筐体120の内部に水や塵埃等の異物が入り込んだような場合においても、筐体130で長期間にわたって雨や塵埃等からアンテナ部110を保護できる。
【0128】
したがって、アンテナ部110の破損を抑制可能で、取付対象物に容易に取り付け可能なアンテナ装置100を提供できる。また、人間等がアンテナ部110を直接的に触れることがない構造を実現できる。
【0129】
また、筐体120の径方向における外側部分は、熱可塑性樹脂製である。このため、筐体120の径方向における外側部分を熱可塑性樹脂で容易に作製可能である。
【0130】
また、筐体130は、エラストマー樹脂製である。このため、筐体130を筐体120の湾曲形状に応じた形状に撓ませることができ、筐体130を湾曲させて筐体120内に確実に収容できる。
【0131】
また、筐体120の径方向における内側部分は、金属製であるので、アンテナ部110が径方向内側に放射する電波を筐体120の径方向における内側部分によって径方向外側に反射でき、電波を径方向外側に効率的に放射できる。
【0132】
また、筐体120内で、筐体130よりも筐体120の径方向における内側に配置される反射部としての基部121Bをさらに含むので、アンテナ部110が径方向内側に放射する電波を基部121Bによって径方向外側に反射でき、電波を径方向外側に効率的に放射できる。
【0133】
また、筐体130は、開口部133Aを有する前面ケース130Aと、開口部133Bを有する背面ケース130Bとを有し、背面ケース130Bの開口部133B側が開口部133Aから前面ケース130Aの内部に入れ子式に入り込む筐体である。このように、背面ケース130Bが前面ケース130Aに入れ子式に入り込む筐体130によってアンテナ部110を確実に封止でき、例えば筐体120の合わせ目等から筐体120の内部に水や塵埃等の異物が入り込んだような場合においても、筐体130で長期間にわたって雨や塵埃等からアンテナ部110をより確実に保護できる。
【0134】
また、アンテナ部110は、筐体130の内表面との間に間隔を設けた状態で、筐体130内に収容されているので、万一、筐体130に隙間が生じて内部に水や塵埃等の異物が入り込んでも、アンテナ部110に異物が付着し難い。したがって、筐体130の内部に水や塵埃等の異物が入り込んでも、アンテナ部110が動作可能な状態を確保できる。
【0135】
また、アンテナ部110と筐体130の筐体120の径方向における外側の部分との間の径方向における間隔G2に対する、筐体130の径方向における外側の部分と筐体120との間の径方向における間隔G3の比(G3/G2)は、1以上、50以下である。このため、アンテナ部110のインピーダンス特性を良好にでき、放射特性の良好なアンテナ装置100を提供できる。
【0136】
また、アンテナ部110の共振周波数は、Sub-6帯域又はミリ波帯域であるので、Sub-6帯域又はミリ波帯域の電波を放射するアンテナ部110の破損を抑制可能で、取付対象物に容易に取り付け可能なアンテナ装置100を提供できる。
【0137】
電柱アンテナ装置200は、アンテナ装置100と、取付対象物としての電柱10とを含む。したがって、アンテナ部110の破損を抑制可能で、取付対象物に容易に取り付け可能なアンテナ装置100を含む電柱アンテナ装置200を提供できる。
【0138】
以上、本開示の例示的なアンテナ装置、及び、電柱アンテナ装置について説明したが、本開示は、具体的に開示された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。
【0139】
以上の実施形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)
取付対象物の湾曲した取付面に取り付けられる第1筐体と、
前記第1筐体内に収容される第2筐体と、
前記第2筐体内に収容されるアンテナ部と
を含み、
前記第1筐体は、中空円柱体の周方向における一部分に相当する湾曲形状を有し、
前記第2筐体は、可撓性を有する板状体であり、前記第1筐体の前記湾曲形状に応じて撓んだ状態で前記第1筐体内に収容される、アンテナ装置。
(付記2)
前記第1筐体の径方向における外側部分は、熱可塑性樹脂製である、付記1に記載のアンテナ装置。
(付記3)
前記第2筐体は、エラストマー樹脂製または熱硬化性ゴム製である、付記1に記載のアンテナ装置。
(付記4)
前記第1筐体の径方向における内側部分は、金属製である、付記1乃至3のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
(付記5)
前記第1筐体内で、前記第2筐体よりも前記第1筐体の径方向における内側に配置される反射部をさらに含む、付記1乃至4のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
(付記6)
前記第2筐体は、第1開口部を有する第1箱体と、第2開口部を有する第2箱体とを有し、前記第2箱体の前記第2開口部側が前記第1開口部から前記第1箱体の内部に入れ子式に入り込む筐体である、付記1乃至5のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
(付記7)
前記アンテナ部は、前記第2筐体の内表面との間に間隔を設けた状態で、前記第2筐体内に収容されている、付記1乃至6のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
(付記8)
前記アンテナ部と前記第2筐体の前記第1筐体の径方向における外側の部分との間の前記径方向における第1距離に対する、前記第2筐体の前記径方向における外側の部分と前記第1筐体との間の前記径方向における第2距離の比は、1以上、50以下である、付記1乃至7のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
(付記9)
前記アンテナ部の共振周波数は、Sub-6帯域又はミリ波帯域である、付記1乃至8のいずれか1項に記載のアンテナ装置。
(付記10)
付記1乃至9のいずれか1項に記載のアンテナ装置と、
前記取付対象物としての電柱と
を含む、電柱アンテナ装置。
【符号の説明】
【0140】
10 電柱(取付対象物の一例)
100、100A、100B アンテナ装置
110 アンテナ部
120 筐体(第1筐体の一例)
120A 前面カバー
121A 基部
122A 上カバー部
123A 下カバー部
120B 背面カバー
121B 基部(反射部の一例)
122B 突出部
123B 脚部
124B ガイド孔(第1ガイド部の一例)
125B 折曲部
130 筐体(第2筐体の一例)
130A 前面ケース(第1箱体の一例)
131A 基部
132A 側壁
133A 開口部(第1開口部の一例)
134A 収容部
130B 背面ケース(第2箱体の一例)
131B 基部
132B 側壁
133B 開口部(第2開口部の一例)
134B 収容部
135B 保持部
140A 固定バンド(第1固定部材の一例)
140B 固定バンド(第2固定部材の一例)
200 電柱アンテナ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12
図13
図14A
図14B
図15