IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人東邦大学の特許一覧

特開2024-27573スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法
<>
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図1
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図2
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図3
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図4
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図5
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図6
  • 特開-スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027573
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/24 20060101AFI20240222BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20240222BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C12Q1/24
C12N5/0775 ZNA
C12N15/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130461
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【弁理士】
【氏名又は名称】中 正道
(74)【代理人】
【識別番号】100201558
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 恵二郎
(72)【発明者】
【氏名】金木 達朗
(72)【発明者】
【氏名】堀川 雅人
(72)【発明者】
【氏名】武城 英明
(72)【発明者】
【氏名】林 明照
(72)【発明者】
【氏名】姜 美子
【テーマコード(参考)】
4B063
4B065
【Fターム(参考)】
4B063QA20
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QR41
4B063QS40
4B063QX01
4B065AA90X
4B065AC20
4B065BB04
4B065BC50
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】簡便且つ安価で、細胞選別の精度が高い新規選別方法の提供。
【解決手段】以下の工程を含む、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法:
(1)スフェア形成能及び遊走能を有する細胞を含む細胞集団を、ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した細胞を回収する工程。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法:
(1)スフェア形成能及び遊走能を有する細胞を含む細胞集団を、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した細胞を回収する工程。
【請求項2】
キチンナノファイバーがビトロネクチンを担持することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
(1)における液体培地が、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞に対する専用培地である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
細胞集団が生体組織由来である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
スフェア形成能及び遊走能を有する細胞が、間葉系幹細胞、線維芽細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、毛乳頭細胞、又はがん幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
スフェア形成能及び遊走能を有する細胞が、間葉系幹細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
請求項6項記載の方法で選別された間葉系幹細胞を含む、生体移植用剤。
【請求項8】
以下の工程を含む、間葉系幹細胞の製造方法:
(1)間葉系幹細胞を含む細胞集団を、ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該間葉系幹細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した間葉系幹細胞を回収する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法、及び当該選別方法で得られた細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療の分野では、iPS細胞やES細胞等の多能性幹細胞を用いての臓器再生手段の構築が鋭意検討されている。しかし、ES細胞の樹立には倫理的な問題を伴い、また、iPS細胞は癌化リスクや培養期間の長さが問題として認識されている。そのため、再生医療の治療や研究目的の細胞源としては、間葉系幹細胞(MSC: Mesenchymal stem cell)や前駆細胞など広く用いられている。
【0003】
例えば、間葉系幹細胞は骨髄に存在することが指摘された体性幹細胞であり、プラスティックディッシュに付着し3次元的なスフェアを形成する細胞として同定された。また幹細胞として、骨、軟骨及び脂肪に分化する能力を有するため、細胞治療における有望な細胞ソースとして注目されている。最近では、脂肪組織、骨髄、歯髄の他胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物の間葉系幹細胞に同等の機能を有する細胞が存在することが知られている。また肝臓などの組織にも同等の機能を有する細胞が存在することも報告されている。間葉系幹細胞は、分化能以外に様々な機能を有することも注目されており、骨髄由来間葉系幹細胞を用い、造血幹細胞移植における急性移植片対宿主病(GVHD)、炎症性腸疾患のCrohn病、急性心筋梗塞、肝線維化症、虚血性、脳梗塞、心不全及び新型コロナウイルス感染による肺疾患に対する試験が進んでいる。
【0004】
近年、生体組織から間葉系幹細胞を含む細胞集団から間葉系幹細胞を回収する方法の構築が進められている。例えば、歯髄から間葉系幹細胞を回収する方法は、非特許文献1や非特許文献2等に報告されている。また、脂肪組織から間葉系幹細胞を回収する方法は、特許文献1に報告されている。特許文献1に記載される方法では、間葉系幹細胞の接着性細胞としての特性を利用して、脂肪細胞から間葉系幹細胞を回収する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,777,231号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】S. Gronthos et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2000 Dec 5;97(25):13625-30.
【非特許文献2】M. Miura., Proc Natl Acad Sci U S A. 2003 May 13;100(10):5807-12.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の通り、生体組織から間葉系細胞を選別し、回収する方法は複数報告されている。これらの方法は、比較的簡便且つ安価ではあるが、細胞の選別の精度が低い方法か、細胞の選別の精度は高いが、工程が複雑で、高コストの方法に大別される。従って、かかる状況下、簡便、安価、且つ、精度の高い細胞選別方法の構築が求められている。
【0008】
また、間葉系幹細胞の選別に関して、間葉系幹細胞を2次元培養(以下、「2D培養」と称することがある)すると、細胞のサイズが大きくなり、増殖性や機能が低下した細胞(いわゆる「老化細胞」)に変質することが報告されている。増殖性や機能が高い若い間葉系幹細胞と増殖性や機能が低い老化した間葉系幹細胞は、同一の細胞表面抗原を有することから抗体などを利用したとしても精度の高い選別は困難である。かかる背景から、高品質の間葉系幹細胞を効率よく選別するための方法の構築もまた強く求められている。
【0009】
かかる背景から、本発明は、簡便且つ安価で、細胞選別の精度が高い新規選別方法の提供を課題とする。また、間葉系幹細胞の選別においては、簡便且つ安価に、高品質の間葉系幹細胞を選別できる選別方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討した結果、
(1)ビトロネクチンを担持させたキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを特定の比率において液体培地に配合し、当該液体培地中で生体組織から採取した細胞集団を3次元培養(以下、「3D培養」又は「浮遊培養」等と称することがある)することにより、当該細胞集団中のスフェア形成能を有する細胞が効率よくスフェアを形成しながら増殖し、一方で、スフェア形成能を有さない細胞が増殖しないこと;
(2)当該液体培地中で形成したスフェアは、遠心分離やFACS等の特殊な操作を行うことなく、沈降速度の違いのみで簡便に分離・回収できること;
(3)回収したスフェアをさらに2D培養に供し、スフェアから遊走し、増殖した細胞を回収することで、細胞とナノファイバーを簡便に分離させることができ、且つ、スフェア形成能と遊走能の両方を備える細胞を回収できること;
(4)本発明の方法を用いて生体組織から調製された間葉系幹細胞は、HOXB7、bFGF、NANOG、OCT4およびSOX2の遺伝子発現量が亢進されており、品質が非常に良いこと;等を見出した。かかる知見に基づいてさらに研究を進めることによって本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0011】
[1]
以下の工程を含む、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法:
(1)スフェア形成能及び遊走能を有する細胞を含む細胞集団を、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した細胞を回収する工程。
[2]
キチンナノファイバーがビトロネクチンを担持することを特徴とする、[1]記載の方法。
[3]
(1)における液体培地が、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞に対する専用培地である、[1]又は[2]記載の方法。
[4]
細胞集団が生体組織由来である、[1]~[3]のいずれか記載の方法。
[5]
スフェア形成能及び遊走能を有する細胞が、間葉系幹細胞、線維芽細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、毛乳頭細胞、又はがん幹細胞である、[1]~[4]のいずれか記載の方法。
[6]
スフェア形成能及び遊走能を有する細胞が、間葉系幹細胞である、[1]~[4]のいずれか記載の方法。
[7]
[6]項記載の方法で選別された間葉系幹細胞を含む、生体移植用剤。
[8]
以下の工程を含む、間葉系幹細胞の製造方法:
(1)間葉系幹細胞を含む細胞集団を、ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該間葉系幹細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した間葉系幹細胞を回収する工程。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、細胞集団に含まれるスフェア形成能及び遊走能を有する細胞を、遠心分離や細胞表面抗原を利用した分離操作を行うことなく、分離・選別できる。また、本発明によれば、若く、且つ、未分化性を良好に維持した高品質の間葉系幹細胞を効率よく調製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、試験例1および2において、間葉系幹細胞、気管支上皮細胞および腎上皮細胞が、ナノファイバー基材を含む液体培地中でスフェアを形成するかを確認した写真である。
図2図2は、本発明の方法の概要を示す図である。
図3図3は、試験例3において、本発明の方法を用いて、ヒト脂肪組織由来のSVF画分に由来する細胞群から選別された間葉系幹細胞を2D培養したときの、間葉系幹細胞の遊走及び増殖の状態を示す図である。
図4図4は、試験例3において、本発明の方法を用いて、ヒト脂肪組織由来の浮遊画分に由来する細胞群から選別された間葉系幹細胞を2D培養したときの、間葉系幹細胞の遊走及び増殖の状態を示す図である。
図5図5は、試験例4で検討される、3D培養によるスフェア形成と2D培養による遊走を通した細胞選別プロセスを繰り返し行う態様の概要を示す図である。
図6図6は、試験例4において、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞が2回目のスフィア形成(図6左)および2回目の遊走、増殖(図6右)を行うことを示す図である。
図7図7は、試験例5において、マウスの骨髄由来間葉系幹細胞が、本発明の方法における3D培養でスフェアを形成し、2D培養で遊走、増殖することを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
1.スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法
本発明は、以下の工程を含む、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞の選別方法(以下、「本発明の方法」と称することがある)を提供する:
(1)スフェア形成能及び遊走能を有する細胞を含む細胞集団を、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した細胞を回収する工程。
【0016】
本発明の方法においては、スフェア形成能と遊走能を有する細胞を含む細胞集団から、スフェア形成能と遊走能を有する細胞を選別する。本発明において細胞集団は、生体組織由来のものでもよく、生体組織由来のものでなくてもよい。細胞集団が生体組織由来である場合、生体はいかなる生物由来であってもよいが、好ましくは哺乳動物の生体組織由来であり、より好ましくはヒトの生体組織由来である。本発明の方法の一態様において、ヒトの脂肪組織から間葉系幹細胞を選別する場合、細胞集団は、ヒトの脂肪組織由来の細胞集団であり得、より好ましくは、ヒトの脂肪組織由来の間質血管細胞群(SVF(stromal vascular fraction))であり得る。尚、SVFとは、ヒトの皮下脂肪組織から酵素処理により脂肪細胞を取り除いたものであって、マクロファージや好中球などの末梢血由来の細胞群と、血管内皮細胞や脂肪由来の間葉系幹細胞などの細胞群から構成される細胞集団である。
【0017】
本明細書において、細胞の「スフェア(スフェロイドとも称される)」とは、細胞が、シングルセルの状態ではなく、集合して立体的な細胞塊を形成している状態を言う。本明細書において、スフェアは細胞の集合体、又はキチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)とキトサンナノファイバーの混合物を含む、細胞の集合体であり得る。細胞がスフェア形成能を有するか否かは、自体公知の方法を用いて確認することができる。
【0018】
本明細書において細胞の「遊走」とは、細胞が自発的に移動することを言う。細胞が遊走能を有するか否かは自体公知の方法(例えば、cell migration assay等)を用いて確認することができる。
【0019】
本発明における、「スフェア形成能及び遊走能を有する細胞」は、スフェア形成能と遊走能とを両方有する細胞であれば特に限定されないが、例えば、間葉系幹細胞、線維芽細胞、神経幹細胞、神経前駆細胞、毛乳頭細胞、又はがん幹細胞等が含まれる。本発明の好ましい一態様において「スフェア形成能及び遊走能を有する細胞」は、間葉系幹細胞である。
【0020】
本発明において、間葉系幹細胞は、骨髄、臍帯、臍帯血、胎盤、脂肪、歯髄、又は滑膜由来の間葉系幹細胞であり得る。好ましくは、間葉系幹細胞は脂肪由来である。
【0021】
(第1工程)
本発明の方法の第1工程では、スフェア形成能及び遊走能を有する細胞を含む細胞集団を、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する液体培地で3次元培養する。
【0022】
本明細書において、「3次元(3D)培養」とは、培養プレート上で細胞を単層培養する2次元(2D)培養と比較して、縦方向の厚みを持たせて細胞を培養する手法を言う。3D培養は「浮遊培養」と言い換えることもできる。本発明の方法の第1工程においては、キチンナノファイバーと、キトサンナノファイバーとの混合物を足場として用いることにより、3D培養を行うことを特徴とする。
【0023】
本明細書において、ナノファイバーとは、平均繊維径(D)が、0.001乃至1.00μmの繊維をいう。本発明において使用するナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは、0.005乃至0.50μm、より好ましくは0.01乃至0.05μm、更に好ましくは0.01乃至0.02μmである。
【0024】
本発明の方法において、使用するナノファイバーのアスペクト比(L/D)は、平均繊維長/平均繊維径より得られ、特に限定されないが、通常2~500であり、好ましくは5~300であり、より好ましくは10~250である。
【0025】
本明細書において、ナノファイバーの平均繊維径(D)は以下のようにして求める。まず応研商事(株)製コロジオン支持膜を日本電子(株)製イオンクリーナ(JIC-410)で3分間親水化処理を施し、評価対象のナノファイバー分散液(超純水にて希釈)を数滴滴下し、室温乾燥する。これを(株)日立製作所製透過型電子顕微鏡(TEM、H-8000)(10,000倍)にて加速電圧200kVで観察し、得られた画像を用いて、標本数:200~250本のナノファイバーについて一本一本の繊維径を計測し、その数平均値を平均繊維径(D)とする。
【0026】
また、平均繊維長(L)は、以下のようにして求める。評価対象ナノファイバー分散液を純水により100ppmとなるように希釈し、超音波洗浄機を用いてナノファイバーを均一に分散させる。このナノファイバー分散液を予め濃硫酸を用いて表面を親水化処理したシリコンウェハー上へキャストし、110℃にて1時間乾燥させて試料とする。得られた試料の日本電子(株)製走査型電子顕微鏡(SEM、JSM-7400F)(2,000倍)で観察した画像を用いて、標本数:150~250本のナノファイバーについて一本一本の繊維長を計測し、その数平均値を平均繊維長(L)とする。
【0027】
好ましい態様において、ナノファイバーは、液体培地と混合した際、一次繊維径を保ちながら当該ナノファイバーが当該液体中で均一に分散し、当該液体の粘度を実質的に高めること無く、ナノファイバーに付着した細胞を実質的に保持し、その沈降を防ぐ効果を有する。
【0028】
本発明の方法において用いられるナノファイバーは、キチンナノファイバー及びキトサンナノファイバーである。キチンナノファイバーは、キチンから構成されるナノファイバーであり、キトサンナノファイバーはキトサンから構成されるナノファイバーである。
【0029】
キチン及びキトサンを構成する主要な糖単位は、それぞれ、N-アセチルグルコサミン及びグルコサミンであり、一般的に、N-アセチルグルコサミンの含有量が多く酸性水溶液に対し難溶性であるものがキチン、グルコサミンの含有量が多く酸性水溶液に対し可溶性であるものがキトサンとされる。本明細書においては、便宜上、構成糖に占めるN-アセチルグルコサミンの割合が50%以上のものをキチン、50%未満のものをキトサンと呼ぶ。
【0030】
キチンの原料としては、例えば、エビ、カニ、昆虫、貝、キノコなど、多くの生物資源を用いることができる。本発明に用いるキチンは、カニ殻やエビ殻由来のキチンなどのα型の結晶構造を有するキチンであってもよく、イカの甲由来のキチンなどのβ型の結晶構造を有するキチンであってもよい。カニやエビの外殻は産業廃棄物として扱われることが多く、入手容易でしかも有効利用の観点から原料として好ましいが、不純物として含まれるタンパク質や灰分等の除去のために脱タンパク工程および脱灰工程が必要となる。そこで、本発明においては、既に脱マトリクス処理が施された精製キチンを用いることが好ましい。精製キチンは、市販されている。本発明に用いられるキチンナノファイバーの原料としては、α型およびβ型のいずれの結晶構造を有するキチンであってもよいが、α型キチンが好ましい。
【0031】
上述のキチンやキトサンを粉砕することにより、キチンナノファイバーやキトサンナノファイバーを得ることができる。粉砕方法は限定されないが、本発明の目的に合う繊維径・繊維長にまで微細化するには、高圧ホモジナイザー、グラインダー(石臼)、あるいはビーズミルなどの媒体撹拌ミルといった、強いせん断力が得られる方法が好ましい。
【0032】
これらの中でも高圧ホモジナイザーを用いて微細化することが好ましく、例えば特開2005-270891号公報や特許第5232976号に開示されるような湿式粉砕法を用いて微細化(粉砕化)することが望ましい。具体的には、原料を分散させた分散液を、一対のノズルから高圧でそれぞれ噴射して衝突させることにより、原料を粉砕するものであって、例えばスターバーストシステム((株)スギノマシン製の高圧粉砕装置)やナノヴェイタ(吉田機械興業(株)の高圧粉砕装置)を用いることにより実施できる。
【0033】
前述の高圧ホモジナイザーを用いて原料を微細化(粉砕化)する際、微細化や均質化の程度は、高圧ホモジナイザーの超高圧チャンバーへ圧送する圧力と、超高圧チャンバーに通過させる回数(処理回数)、及び水分散液中の原料の濃度に依存することとなる。圧送圧力(処理圧力)は、特に限定されないが、通常50~250MPaであり、好ましくは100~200MPaである。
【0034】
また、微細化処理時の水分散液中の原料の濃度は、特に限定されないが、通常0.1質量%~30質量%、好ましくは1質量%~10質量%である。微細化(粉砕化)の処理回数は、特に限定されず、前記水分散液中の原料の濃度にもよるが、原料の濃度が0.1~1質量%の場合には処理回数は10~100回程度で充分に微細化されるが、1~10質量%では10~1000回程度必要となる場合がある。
【0035】
前記微細化処理時の水分散液の粘度は特に制限されないが、例えば、αキチンの場合、該水分散液の粘度の範囲は、1~100mPa・S、好ましくは1~85mPa・S(25℃条件下での音叉振動式粘度測定(SV-1A、A&D Company Ltd.)による)である。また、キトサンの場合、該水分散液の粘度の範囲は、0.7~30mPa・S、好ましくは0.7~10mPa・S(25℃条件下での音叉振動式粘度測定(SV-1A、A&D Company Ltd.)による)である。
【0036】
ナノファイバーの調製方法については、WO2015/111686等に記載されている。
【0037】
本発明の方法の一態様において、キチンナノファイバーに細胞外マトリクスの1つであるビトロネクチンを担持させることが好ましい。本明細書において、キチンナノファイバーがビトロネクチンを「担持する」とは、キチンナノファイバーとビトロネクチンが、化学的な共有結合を介さずに付着または吸着している状態を意味する。キチンナノファイバーによるビトロネクチンの担持は、分子間力や静電相互作用、水素結合、疎水性相互作用等により達成され得るが、これらに限定されるものではない。また、キチンナノファイバーがビトロネクチンを担持している状態とは、キチンナノファイバーとビトロネクチンが、化学的な共有結合を介さずに、接した状態で留まっている状態、或いは、キチンナノファイバーとビトロネクチン、化学的な共有結合を介さずに、複合体を形成している状態と言い換えることができる。理論に拘束されることを望むものではないが、ビトロネクチンをキチンナノファイバーに担持させることによりスフェアの形成が促進され得る。従って、本態様によれば、スフェア形成能が低下している細胞(例えば、健康状態の悪いドナー由来の細胞)でさえも、効率よくスフェアを形成させることができる。また、理論に拘束されることを望むものではないが、ビトロネクチンの生物学的機能と類似する機能を有する、ビトロネクチン以外の細胞外マトリクスも本発明の方法に使用し得る。そのような細胞外マトリクスとしては、コラーゲン(コラーゲンI乃至XIX)、フィブロネクチン、ラミニン(ラミニン-1乃至12)、RGD配列、カドヘリン、プロテオグリカン、エラスチン、フィブリン、ヒアルロン酸、セレクチン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0038】
本発明の方法において、キチンナノファイバーに担持させるビトロネクチンは、所望の効果が得られる限り特に限定されない。ビトロネクチンの由来は特に限定されない。ビトロネクチンは完全長のものであってもよく、機能的断片であってもよい。本発明の方法において用いられるビトロネクチンとしては、一般的に市販されているヒト由来のビトロネクチン断片を用いることができる。ヒト由来のビトロネクチンの機能的断片としては、例えば、62-478(配列番号1)、20-398(配列番号2)、又は20-478(配列番号3)等のビトロネクチン断片が好適に用いられ得る。本発明の方法の一態様において、配列番号1または2のビトロネクチンがより好ましい。
【0039】
本発明の方法において、キチンナノファイバーが担持するビトロネクチンの量は、キチンナノファイバー1g当たり、ビトロネクチンが、通常0.001~50mg、好ましくは0.01~10mg、より好ましくは0.1~10mg、さらに好ましくは0.3~10mg、よりさらに好ましくは、1~10mg、特に好ましくは2~10mgであるが、これらに限定されない。
【0040】
本発明の方法において、ビトロネクチンを担持するキチンナノファイバーの調製は、キチンナノファイバーを水性溶媒に分散させた分散液とビトロネクチンの水溶液を混合し、必要に応じて一定時間静置することで調製することができる。キチンナノファイバーを分散させる水性溶媒の例としては、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられるが、これらに限定されない。水性溶媒としては、水が好ましい。水性溶媒中には、適切な緩衝剤や塩が含まれていてもよい。ビトロネクチンを均一にキチンナノファイバーと接触させるために、ピペッティング操作等により十分に混合することが好ましい。また、静置する時間としては、キチンナノファイバーの分散液とビトロネクチンの水溶液の混合液を、通常30分以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは6時間以上、よりさらに好ましくは9時間以上、特に好ましくは12時間以上、静置することができる。静置時間に特に上限は無いが、例えば、上限として48時間以下(例、36時間以下、24時間以下、または16時間以下等)を設定し得る。静置時の温度としては、特に限定されないが、通常1~30℃、好ましくは1~15℃、より好ましくは2~10℃、特に好ましくは2~5℃(例、4℃)とすることができる。
【0041】
キチンナノファイバーとビトロネクチンの混合比は、使用するこれらの物質の種類に応じて異なるが、固形分重量換算で例えば、100:0.1~1、好ましくは、100:0.4~0.6とすることができるが、これらに限定されない。
【0042】
キチンナノファイバーに担持されたビトロネクチンの量については、例えば、Micro BCA法、酵素免疫測定法(ELISA法)等によって測定することができるが、これらに限定されない。
【0043】
本発明の方法の第1工程では、ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーに加えて、キトサンナノファイバーがさらに液体培地に配合される。ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを含有する液体培地を用いて細胞集団を浮遊培養することにより、スフェア形成能を有する細胞のスフェア形成を促進させることができる。
【0044】
一態様において、本発明の方法の第1工程で使用される液体培地中のビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーの濃度は、次の条件を満たす:
(1)液体培地中に含有される総ナノファイバー(ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.0001~1.0%(w/v)であり、且つ、該液体培地中に含有されるビトロネクチンを担持したキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6);
(2)液体培地中に含有される総ナノファイバー(ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.001~0.5%(w/v)であり、且つ、該液体培地中に含有されるビトロネクチンを担持したキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6);
(3)液体培地中に含有される総ナノファイバー(ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.005~0.3%(w/v)であり、且つ、該液体培地中に含有されるビトロネクチンを担持したキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6);
または、
(4)液体培地中に含有される総ナノファイバー(ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーおよびキトサンナノファイバー)の濃度が、0.01~0.1%(w/v)であり、且つ、該液体培地中に含有されるビトロネクチンを担持したキチンナノファイバー:キトサンナノファイバーの重量比が1:0.5~20(好ましくは、1:0.5~10、1:0.7~9、1:1~8、1:2~7、または1:3~6)。
【0045】
本発明の方法の第1工程における、キチンナノファイバーとキトサンナノファイバーを添加する液体培地の種類は、選別の対象となる細胞の種類により適宜選択することが可能であり、例えば、哺乳類細胞の選別を目的とする場合、哺乳類細胞の培養に一般的に使用される培地を使用することができる。哺乳類細胞用の培地としては、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium;DMEM)、ハムF12培地(Ham’s Nutrient Mixture F12)、DMEM/F12培地、マッコイ5A培地(McCoy’s 5A medium)、イーグルMEM培地(Eagle’s Minimum Essential Medium;EMEM)、αMEM培地(alpha Modified Eagle’s Minimum Essential Medium;αMEM)、MEM培地(Minimum Essential Medium)、RPMI1640培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;IMDM)、MCDB131培地、ウィリアム培地E、IPL41培地、Fischer’s培地、StemPro34(インビトロジェン社製)、X-VIVO 10(ケンブレックス社製)、X-VIVO 15(ケンブレックス社製)、HPGM(ケンブレックス社製)、StemSpan H3000(ステムセルテクノロジー社製)、StemSpanSFEM(ステムセルテクノロジー社製)、StemlineII(シグマアルドリッチ社製)、QBSF-60(クオリティバイオロジカル社製)、StemProhESCSFM(インビトロジェン社製)、mTeSR1或いは2培地(ステムセルテクノロジー社製)、Sf-900II(インビトロジェン社製)、Opti-Pro(インビトロジェン社製)、などが挙げられる。
【0046】
上記の培地には、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リン、塩素、各種アミノ酸、各種ビタミン、抗生物質、血清、脂肪酸、糖などを当業者は目的に応じて自由に添加してもよい。哺乳類細胞の培養の際には、当業者は目的に応じてその他の化学成分あるいは生体成分を一種類以上組み合わせて添加することもできる。哺乳類細胞用の培地に添加され得る成分としては、ウシ胎児血清、ヒト血清、ウマ血清、インシュリン、トランスフェリン、ラクトフェリン、コレステロール、エタノールアミン、亜セレン酸ナトリウム、モノチオグリセロール、2-メルカプトエタノール、ウシ血清アルブミン、ピルビン酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、各種ビタミン、各種アミノ酸、寒天、アガロース、コラーゲン、メチルセルロース、各種サイトカイン、各種ホルモン、各種増殖因子、各種細胞外マトリクスや各種細胞接着分子などが挙げられる。培地に添加され得るサイトカインとしては、例えばインターロイキン-1(IL-1)、インターロイキン-2(IL-2)、インターロイキン-3(IL-3)、インターロイキン-4(IL-4)、インターロイキン-5(IL-5)、インターロイキン-6(IL-6)、インターロイキン-7(IL-7)、インターロイキン-8(IL-8)、インターロイキン-9(IL-9)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-11(IL-11)、インターロイキン-12(IL-12)、インターロイキン-13(IL-13)、インターロイキン-14(IL-14)、インターロイキン-15(IL-15)、インターロイキン-18(IL-18)、インターロイキン-21(IL-21)、インターフェロン-α(IFN-α)、インターフェロン-β(IFN-β)、インターフェロン-γ(IFN-γ)、顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)、単球コロニー刺激因子(M-CSF)、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、幹細胞因子(SCF)、flk2/flt3リガンド(FL)、白血病細胞阻害因子(LIF)、オンコスタチンM(OM)、エリスロポエチン(EPO)、トロンボポエチン(TPO)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0047】
培地に添加され得るホルモンとしては、メラトニン、セロトニン、チロキシン、トリヨードチロニン、エピネフリン、ノルエピネフリン、ドーパミン、抗ミュラー管ホルモン、アディポネクチン、副腎皮質刺激ホルモン、アンギオテンシノゲン及びアンギオテンシン、抗利尿ホルモン、心房ナトリウム利尿性ペプチド、カルシトニン、コレシストキニン、コルチコトロピン放出ホルモン、エリスロポエチン、卵胞刺激ホルモン、ガストリン、グレリン、グルカゴン、ゴナドトロピン放出ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ヒト胎盤性ラクトーゲン、成長ホルモン、インヒビン、インスリン、インスリン様成長因子、レプチン、黄体形成ホルモン、メラニン細胞刺激ホルモン、オキシトシン、副甲状腺ホルモン、プロラクチン、セクレチン、ソマトスタチン、トロンボポイエチン、甲状腺刺激ホルモン、チロトロピン放出ホルモン、コルチゾール、アルドステロン、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、アンドロステンジオン、ジヒドロテストステロン、エストラジオール、エストロン、エストリオール、プロゲステロン、カルシトリオール、カルシジオール、プロスタグランジン、ロイコトリエン、プロスタサイクリン、トロンボキサン、プロラクチン放出ホルモン、リポトロピン、脳ナトリウム利尿ペプチド、神経ペプチドY、ヒスタミン、エンドセリン、膵臓ポリペプチド、レニン、及びエンケファリンが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0048】
培地に添加され得る増殖因子としては、トランスフォーミング成長因子-α(TGF-α)、トランスフォーミング成長因子-β(TGF-β)、マクロファージ炎症蛋白質-1α(MIP-1α)、上皮細胞増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子-1、2、3、4、5、6、7、8、又は9(FGF-1、2、3、4、5、6、7、8、9)、神経細胞増殖因子(NGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、白血病阻止因子(LIF)、プロテアーゼネキシンI、プロテアーゼネキシンII、血小板由来成長因子(PDGF)、コリン作動性分化因子(CDF)、ケモカイン、Notchリガンド(Delta1など)、Wnt蛋白質、アンジオポエチン様蛋白質2、3、5または7(Angpt2、3、5、7)、インスリン様成長因子(IGF)、インスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)、プレイオトロフィン(Pleiotrophin)などが挙げられるが、これらに限られるわけではない。
【0049】
また、遺伝子組替え技術によりこれらのサイトカインや増殖因子のアミノ酸配列を人為的に改変させたものも添加させることもできる。その例としては、IL-6/可溶性IL-6受容体複合体あるいはHyper IL-6(IL-6と可溶性IL-6受容体との融合タンパク質)などが挙げられる。
【0050】
培地に添加され得る抗生物質の例としては、サルファ製剤、ペニシリン、フェネチシリン、メチシリン、オキサシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルクロキサシリン、ナフシリン、アンピシリン、ペニシリン、アモキシシリン、シクラシリン、カルベニシリン、チカルシリン、ピペラシリン、アズロシリン、メクズロシリン、メシリナム、アンジノシリン、セファロスポリン及びその誘導体、オキソリン酸、アミフロキサシン、テマフロキサシン、ナリジクス酸、ピロミド酸、シプロフロキサン、シノキサシン、ノルフロキサシン、パーフロキサシン、ロザキサシン、オフロキサシン、エノキサシン、ピペミド酸、スルバクタム、クラブリン酸、β-ブロモペニシラン酸、β-クロロペニシラン酸、6-アセチルメチレン-ペニシラン酸、セフォキサゾール、スルタンピシリン、アディノシリン及びスルバクタムのホルムアルデヒド・フードラートエステル、タゾバクタム、アズトレオナム、スルファゼチン、イソスルファゼチン、ノカルディシン、フェニルアセトアミドホスホン酸メチル、クロルテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、メタサイクリン、並びにミノサイクリンが挙げられる。
【0051】
本発明の好ましい一態様において、第1工程において用いられる液体培地は、選別しようとするスフェア形成能及び遊走能を有する細胞の維持及び増殖に適した培地、即ち、「選別しようとするスフェア形成能及び遊走能を有する細胞に対する専用培地」である。多くの細胞に対して専用培地は公知であり、市販されているものを用いればよい。具体的には、例えば、選別しようとする細胞が間葉系幹細胞である場合、専用培地として「間葉系幹細胞増殖培地」を用いることができ、当該培地は市販されているものを用いればよい。
【0052】
本明細書において、細胞(またはスフェア)の浮遊とは、培養容器に対して細胞(またはスフェア)が接着しない状態(非接着)であることをいい、細胞が沈降しているか否かは問わない。さらに、本明細書において、細胞を培養する際、液体培地に対する外部からの圧力や振動或いは当該液体培地中での振とう、回転操作等を伴わずに細胞が当該液体培地中で分散し尚且つ浮遊状態にある状態を「浮遊静置」といい、当該状態で細胞及び/又は組織を培養することを「浮遊静置培養」という。「浮遊静置」において浮遊させることのできる期間としては、少なくとも5分以上、好ましくは、1時間以上、24時間以上、48時間以上、6日以上、21日以上であるが、浮遊状態を保つ限りこれらの期間に限定されない。
【0053】
好ましい態様において、本発明の方法の第1工程において用いられる液体培地は、細胞の培養が可能な温度範囲(例えば、0~40℃)の少なくとも1点において、細胞の浮遊静置が可能である。該液体培地は、好ましくは25~37℃の温度範囲の少なくとも1点において、最も好ましくは37℃において、細胞の浮遊静置が可能である。
【0054】
細胞を、キチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)とキトサンナノファイバーの混合物に付着した状態で培養することにより、細胞を浮遊培養することができる。キチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)とキトサンナノファイバーの使用により、細胞を液体培地中で浮遊させることができ、且つ、スフェア形成を促進することができる。キチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)およびキトサンナノファイバーは、液体培地中で溶解することも、培養容器に付着することもなく分散するので、該液体培地組中でスフェア形成能を有する細胞を培養すると、当該細胞はナノファイバーに付着し、該液体培地中に浮遊し、スフェア形成が促進される。
【0055】
キチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)とキトサンナノファイバーを用いてスフェア形成能および遊走能を有する細胞を含む細胞集団を浮遊培養(3D培養)する場合、キチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)とキトサンナノファイバーを含有する液体培地に対して、別途調製したスフェア形成能および遊走能を有する細胞を含む細胞集団を添加し、均一に混合すればよい。その際の混合方法は特に制限はなく、例えばピペッティング等の手動での混合、スターラー、ヴォルテックスミキサー、マイクロプレートミキサー、振とう機等の機器を用いた混合が挙げられる。混合後は、得られた細胞懸濁液を静置状態にて培養してもよいし、必要に応じて回転、振とう或いは撹拌しながら培養してもよい。その回転数と頻度は、当業者の目的に合わせて適宜設定すればよい。例えば、生体組織から細胞集団を回収し、適切な細胞解離液を用いて単一細胞、又はこれに近い状態にまで分散し、分散された細胞を、液体培地中に懸濁し、これを浮遊培養(好ましくは、浮遊静置培養)に付す。
【0056】
第1工程において、細胞を浮遊培養する際の培養温度は、通常25乃至39℃、好ましくは33乃至39℃(例、37℃)である。CO濃度は、通常、培養の雰囲気中、4乃至10体積%であり、4乃至6体積%が好ましい。培養期間は、培養の目的に合わせて適宜設定すればよい。
【0057】
本発明の方法の第1工程において、細胞の3D培養は、細胞の培養に一般的に用いられるフラスコ、プラスチックバック、テフロン(登録商標)バック、ディッシュ、ペトリデッシュ、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウエルプレート、マルチプレート、マルチウエルプレート、チャンバースライド、チューブ、トレイ、培養バック、ローラーボトル等の培養容器を用いて実施することができる。キチンナノファイバー(ビトロネクチンを担持していてもよく、担持していなくてもよい)とキトサンナノファイバーに付着した細胞が、培養容器へ接着しないよう、これらの培養容器は細胞低接着性であることが望ましい。細胞低接着性の培養容器としては、培養容器の表面が、細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理(例えば、細胞外マトリクス等によるコーティング処理)されていないもの、あるいは培養容器の表面が、細胞との接着性を低減させる目的で人工的に処理されているものを使用できる。
【0058】
本発明の第1工程において、3D培養を行う期間は、スフェアの形成が達成されている限り特に限定されないが、通常、1日以上、好ましくは2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上、10日以上、11日以上、12日以上、13日以上又は14日以上であり得る。また、培養期間の上限は、特に限定されないが、通常30日以下、好ましくは29日以下、28日以下、27日以下、26日以下、25日以下、24日以下、23日以下、22日以下、21日以下、20日以下、19日以下、18日以下、又は17日以下であり得る。一態様において、培養期間は、1日~30日、2日~29日、3日~28日、4日~27日、5日~26日、6日~25日、7日~24日、8日~23日、9日~22日、10日~21日、11日~20日、12日~19日、13日~18日、14日~17日であり得るが、これらに限定されない。
【0059】
スフェアの形成に比較的長い時間(例えば、2日以上)を要する場合は、必要に応じて、培地交換を行ってもよい。培地交換の方法は特に限定されないが、例えば、培養容器を遠心してスフェアやキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーを容器底面に沈降させた後に、上清部分の古くなった液体培地をピペットを用いて除去し、新鮮な液体培地を容器に添加することで行うことができる。培地の交換頻度や1回の培地交換時の培地交換の量は、適宜設定すればよい。
【0060】
(第2工程)
本発明の第2工程では、第1工程で得られたスフェアを培養容器底面に沈降させることを特徴とする。シングルセルやスフェアが接着していないフリーの状態で存在するキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーと比較して、スフェアは沈降速度が速い。この沈降速度の差を利用することにより、サンプルを静置するだけで、スフェアをシングルセルやフリーの状態で存在するキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーから簡便に分離することができる。
【0061】
スフェアを沈降させる工程は、沈降速度の差が顕著となるように、スフェアが含まれる液体培地に対してさらに緩衝液などの液体を大量に添加することで行うことが好ましい。第2工程において添加され得る液体は、細胞の生存に対して悪影響がないものであれば特に限定されず、新鮮な液体培地やPBS等の緩衝液を用いることができる。添加される液体の添加量も、スフェアのみが沈降し、シングルセルやフリーの状態で存在するキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーが浮遊した状態を生じさせることができる量であれば特に限定されないが、例えば、第1工程における液体培地の量の通常1.5倍以上、好ましくは2倍以上、3倍以上、4倍以上又は5倍以上であり得る。また、条件は特に限定されないが、通常10倍以下、好ましくは9倍以下、8倍以下、7倍以下又は6倍以下であり得る。
【0062】
スフェアを沈降させるためにサンプルを静置する時間は、スフェアのみが沈降し、シングルセルやキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーが浮遊している状態を実現できる限り特に限定されない。サンプルの静置時間は、例えば、通常1分以上、好ましくは2分以上、3分以上、4分以上又は5分以上であり得る。静置時間の上限は、特に限定されないが、通常1時間以下、好ましくは50分以下、40分以下、30分以下、20分以下又は10分以下であり得る。
【0063】
スフェアを沈降させるためにサンプルを静置する際の温度条件も、細胞の生存に悪影響がない限り特に限定されない。サンプルを静置する際の温度条件としては、例えば、通常25℃以上、30℃以上、35℃以上、又は37℃以上である。また、温度条件の上限は、特に限定されないが、通常42℃以下、好ましくは41℃以下、40℃以下、39℃以下又は38℃以下である。
【0064】
本発明の方法の第2工程においては、沈降速度の差を利用してスフェアとその他の成分を分離する。換言すれば、スフェアと、シングルセルやフリーの状態で存在するキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーとの分離は、遠心分離や細胞表面抗原を利用した分離操作(例えば、FACS)等の分離操作を伴わない。即ち、本発明の方法の第2工程においては、沈降速度の差を利用した静置での分離操作のみによって、スフェアとそれ以外の成分とを分離することを特徴とする。
【0065】
(第3工程)
本発明の方法の第3工程においては、第2工程で沈降させたスフェアを回収する。
【0066】
スフェアの回収は自体公知の方法を用いて行えばよい。例えば、スフェアが培養容器底面に沈降し、且つ、液体培地中にシングルセルやキチンナノファイバー/キトサンナノファイバーが浮遊している状態において、当該液体培地をピペット等を用いて除去することで、スフェアのみを回収することができる。回収したスフェアに対して、必要に応じて新鮮な液体培地(専用培地が好ましい)を添加してもよいし、しなくてもよい。
【0067】
(第4工程)
本発明の方法の第4工程では、第3工程で回収したスフェアを2次元培養(2D培養)に供する。スフェアを2D培養に供することにより、スフェアを構成する細胞をスフェアから遊走させる。
【0068】
2次元培養(接着培養)は、選別しようとする細胞が生存し、且つ増殖できる条件を有する限り特に限定されず、自体公知の方法を用いることができる。
【0069】
第4工程における2D培養において用いられる培地は、スフェアを構成する細胞が増殖し得るものであれば特に限定されない。用い得る培地の例としては、上述の(第1工程)で説明した培地が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施態様において、第4工程における2D培養において用いられる培地は、選別しようとするスフェア形成能及び遊走能を有する細胞に対する専用培地である。
【0070】
第4工程における2D培養を実施するための培養条件は、スフェアを構成する細胞がスフェアから遊走し、その後増殖する限り特に限定されない。例えば、第4工程における2D培養の培養期間は、通常1日常、好ましくは2日以上、3日以上、4日以上、5日以上、6日以上、7日以上、8日以上、9日以上又は10日以上である。また、期間の上限は、特に限定されないが、通常30日以下、好ましくは29日以下、28日以下、27日以下、26日以下、25日以下、24日以下、23日以下、22日以下又は21日以下である。培養温度は、特に限定されないが、通常25℃以上、30℃以上、35℃以上、又は37℃以上である。また、温度条件の上限は、特に限定されないが、通常42℃以下、好ましくは41℃以下、40℃以下、39℃以下又は38℃以下である。
【0071】
(第5工程)
本発明の方法の第5工程では、第4工程におけるスフェアの2D培養の結果、スフェアから遊走し、増殖した細胞を回収する。
【0072】
増殖した細胞を回収する方法は自体公知の方法を用いて回収すればよい。回収の対象となる、スフェアから遊走し増殖した細胞は、培養容器の表面に接着していることから、トリプシンなどの細胞剥離剤を用いて容器表面から剥離することで容易に回収することができる。
【0073】
本発明の方法の一態様において、上述の第5工程を経て選別された細胞を、再度、本発明の第1工程~第5工程に供し、繰り返し細胞の選別を行うことで、選別の精度を高めることもできる。
【0074】
尚、選別しようとする細胞が間葉系幹細胞である場合、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞は、若く、未分化性を良好に維持した高品質の間葉系幹細胞であり得る。本明細書において「高品質の間葉系幹細胞」は、以下のように定義される:
(1)CD73、CD90、及びCD105(間葉系幹細胞マーカー)の少なくとも1つ(好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは3つすべて)の高発現、
(2)NANOG、OCT4、及びSOX2(間葉系幹細胞の未分化性マーカー)の少なくとも1つ(好ましくは、少なくとも2つ、より好ましくは3つすべて)の高発現、
(3)bFGF(間葉系幹細胞の未分化性維持因子)の高発現、及び、
(4)HOXB7(間葉系幹細胞の老化抑制因子)の高発現。
尚、「高発現」とは、従来の2D培養(或いはExplant培養)によって得られた間葉系幹細胞におけるこれらの遺伝子の発現量よりも高いことを意味する。
(間葉系幹細胞の品質の基準となる遺伝子については、Olivia Candini et al. Stem Cells. 2015 Mar;33(3):939-50及びElisabetta Manuela Foppiani et al. Stem Cell Res Ther. 2019 Mar 19;10(1):101等を参照。)
【0075】
2.生体移植用剤
本発明はまた、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞を有効成分として含む、生体移植用剤(以下、「本発明の剤」と称することがある)を提供する。
【0076】
上述した通り、本発明の方法を用いて選別した間葉系幹細胞は、若く、未分化性を良好に維持した高品質の間葉系幹細胞である。従って、これを有効成分として含む生体移植用剤は、通常の間葉系幹細胞よりも高い治療効果を有し得る。
【0077】
本発明の剤に配合される間葉系幹細胞の量は、治療有効量であれば特に限定されない。
【0078】
本発明の剤は、間葉系幹細胞以外の成分を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。間葉系幹細胞以外の成分としては、例えば、DMEMやRPMI1640等の間葉系幹細胞の生存を維持し得る培地や、ヒト血清アルブミン、ジメチルスルホキシド、デキストラン、塩化カルシウム水和物、塩化カリウム、塩化ナトリウム、L-乳酸ナトリウム、投与対象由来の血清などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本発明の剤を適用する対象は、特に限定されないが、間葉系幹細胞の由来する種と本発明の剤を適用する対象の種が同一であることが好ましい。具体的には、本発明の剤に配合される間葉系幹細胞がヒト由来である場合は、本発明の剤は、ヒトに適用されることが好ましい。
【0080】
本発明の剤の対象への投与量は、対象の種、年齢、性別、体重、治療しようとする疾患の種類等を考慮して、適宜決定すればよい。また、本発明の剤の対象への投与経路も、治療効果が得られる限り特に限定されないが、非経口投与が好ましい。一態様において、本発明の剤は治療部位に対してシリンジ等により局所投与され得る。
【0081】
本発明の剤の剤型は、有効成分である間葉系幹細胞の生存が保たれる限り特に限定されないが液体状が好ましい。また、本発明の剤は、液体状で調製したのちに適切な凍結保存剤を添加して凍結保存されたものでもよい。
【0082】
3.間葉系幹細胞の製造方法
本発明はまた、以下の工程を含む、間葉系幹細胞の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称することがある)を提供する:
(1)間葉系幹細胞を含む細胞集団を、ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含む液体培地中で3次元培養し、該間葉系幹細胞のスフェアを形成させる工程、
(2)(1)において形成されたスフェアを沈降させる工程、
(3)沈降したスフェアを回収する工程、
(4)回収したスフェアを2次元培養する工程、及び
(5)2次元培養においてスフェアから遊走した間葉系幹細胞を回収する工程。
【0083】
本発明の製造方法は、本発明の方法において、間葉系幹細胞を選別する態様と同義である。従って、本発明の製造方法における、間葉系幹細胞や、それを含む細胞集団、その由来、使用するナノファイバー等は、本発明の方法において説明したものと同様である。
【0084】
尚、本発明の製造方法において製造された間葉系幹細胞もまた、本発明の剤の有効成分とすることができる。
【0085】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例0086】
[調製例1]
(キチンナノファイバーを含んだ水分散液の調製)
WO2015/111686の記載に準じて調製した2質量%キチンナノファイバー水分散液を、121℃で20分間オートクレーブ滅菌処理を行った。その後、この水分散液を1%(w/v)となるように無菌蒸留水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)に混合し懸濁させることで、無菌のキチンナノファイバーを含んだ水分散液を作製した。
【0087】
[調製例2]
(キトサンナノファイバーを含んだ水分散液の調製)
WO2015/111686の記載に準じて調製した2質量%キトサンナノファイバー水分散液を、121℃で20分間オートクレーブ滅菌処理を行った。その後、この水分散液を1%(w/v)となるように無菌蒸留水(大塚蒸留水、株式会社大塚製薬工場製)に混合し懸濁させることで、無菌のキトサンナノファイバーを含んだ水分散液を作製した。
【0088】
[調製例3]
(ビトロネクチン担持キチンナノファイバーを含んだ水分散液の調製)
調製例1で作製した1%(w/v)キチンナノファイバー水分散液に、500μg/mLビトロネクチン水溶液(Gibco Vitronectin(VTN-N) Recombinant Human Protein, Truncated、Thermo Fisher Scientific社製)を加え、ピペッティングにより混合後、4℃で一晩静置保管することで、ビトロネクチン担持キチンナノファイバーを含んだ水分散液を作製した。作製したビトロネクチン担持キチンナノファイバーを含んだ水分散液の組成を以下に示す。
【0089】
1%(w/v)キチンナノファイバー水分散液(5mL)
500μg/mLビトロネクチン水溶液(0.5mL)
【0090】
[調製例4]
(ビトロネクチン担持キチンナノファイバーキチンナノファイバーとキトサンナノファイバーとを含んだ水分散液の調製)
調製例3で作製したビトロネクチン担持キチンナノファイバー水分散液(2mL)に、調製例2で作製したキトサンナノファイバー水分散液(8mL)を加え、ピペッティングにより混合することで、ビトロネクチンを担持したキチンナノファイバーと、キトサンナノファイバーとの混合物(以下、単に「ナノファイバー基材(the nanofiber material)」と称することがある)を含んだ水分散液(10mL)を作製した。
【0091】
[試験例1]3D培養による細胞の選別1(専用培地)
間葉系幹細胞、気管支上皮細胞、及び腎上皮細胞の3種類の細胞を、ナノファイバー基材を含有する各細胞の専用培地を用いて3D培養したときの、各細胞の増殖性および形態を評価した。
(1)間葉系幹細胞
間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製、血清培地)にナノファイバー基材を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加し、間葉系幹細胞用の3D培養培地を調製した。引き続き、前培養したヒト脂肪由来間葉系幹細胞(C-12977、タカラバイオ社製)を、10000細胞/mLとなるように当該3D培養培地に懸濁し、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に1mL/ウェルで播種した。
(2)気管支上皮細胞
気道上皮細胞増殖培地(C-21160、タカラバイオ社製)にナノファイバー基材を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加し、気管支上皮細胞用の3D培養培地を調製した。引き続き、前培養したヒト気管支上皮細胞(C-12640、タカラバイオ社製)を、10000細胞/mLとなるように当該3D培養培地に懸濁し、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に1mL/ウェルで播種した。
(3)腎上皮細胞
腎上皮細胞増殖培地(C-26130、タカラバイオ社製)にナノファイバー基材を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加し、腎上皮細胞用の3D培養培地を調製した。引き続き、前培養したヒト腎上皮細胞(C-12665、タカラバイオ社製)を、10000細胞/mLとなるように懸濁し、24ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3473)に1mL/ウェルで播種した。
【0092】
各細胞は、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で14日間、3D培養した。
【0093】
播種時(0日)と播種後7日および14日の時点の培養液(100μL)に対してATP試薬100μL(CellTiter-GloTM Luminescent Cell Viability Assay、Promega社製)を添加して懸濁させた。混合物を約10分間室温で静置した後、FlexStation3(Molecular Devices社製)にて発光強度(RLU値)を測定し、当該測定値から培地のみの発光値を差し引くことで、生細胞量(2点の平均値)を算出した。各細胞における換算RLU値(ATP測定、発光強度)を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示される通り、ナノファイバー基材と各細胞の専用培地とを用いた3D培養において、間葉系幹細胞は効率よく増殖した。一方で、2種類の上皮細胞は増殖せず、細胞数が減少した。
【0096】
また、各細胞の形態を観察したところ、間葉系幹細胞はスフェアを形成したが、2種類の上皮細胞はスフェアを形成しなかった(図1上段)。
【0097】
[試験例2]3D培養による細胞の選別2(非専用培地)
培地を10%FBS含有IMDM培地(12440053、Thermo Fisher社製)を用いること以外は試験例1と同様の条件で、各細胞の増殖性および形態を評価した。結果を表2および図1下段に示す。
【0098】
【表2】
【0099】
表2に示される通り、ナノファイバー基材と非専用培地(即ち、10%FBS含有IMDM培地)とを用いた3D培養において、間葉系幹細胞は増殖した。一方で、2種類の上皮細胞は増殖せず、細胞数が減少した。
【0100】
また、各細胞の形態を観察したところ、間葉系幹細胞はスフェアを形成したが、2種類の上皮細胞はスフェアを形成しなかった(図1下段)。
【0101】
試験例1と2の結果から、ナノファイバー基材を含む培地を用いて3D培養を行うことで、スフェア形成能を有する細胞は増殖させることができ、一方で、スフェア形成能を有さない細胞は増殖を抑制できることが示された。
【0102】
[試験例3]脂肪組織に含まれる間葉系幹細胞の選別
ナノファイバー基材を含有する培地を用いて3D培養を行うことにより、生体組織から間葉系幹細胞を選別できるかを検討した。尚、本研究プロトコールは、東邦大学医療センター佐倉病院倫理委員会に承認され、人を対象とする医学系研究に関する倫理指針を遵守したうえで行われた。本研究において用いられたヒト検体は、形成外科手術において生じた皮下脂肪組織の残余を用いた。当該皮下脂肪組織の残余の研究への使用について予め患者より同意を得た。
【0103】
皮下脂肪組織(#1;男性46歳、#2;女性71歳、#3;男性41歳)は、PBS液(富士フイルム和光純薬株式会社製、045-2979)で洗浄した。皮下脂肪組織をハサミで細断し50mLの遠沈管に移した。これに4mg/mLのコラゲナーゼ(Collagenase NB 4G Proved Grade S1746501 Nordmark Biochemicals社製)(溶媒はHBSS液(H9269、SIGMA社製))を添加し、37℃で1時間振とうさせることで細胞外基質を破壊し、細胞をシングルセルへ分散させた。続いて、このシングルセルを含んだコラゲナーゼ/HBSS液に20%FBS含有DMEM-HAM培地(GIBCO 11330-032)を加え、400gで1分間、遠心分離して、上清を除去し沈殿したペレットを回収した。これらの操作を3回繰り返した後で間質血管細胞群(SVF(stromal vascular fraction))を含むペレットを得て、ペレットを20%FBS含有DMEM-HAM培地に懸濁し沈殿分画液とした。続いて500μmメッシュ(CORNING 2211007)を新しい50mLの遠沈管に載せ、沈殿分画液を濾過し濾液1を回収した(SVF画分)。さらにそのままの状態で20%FBS含有DMEM-HAM培地のみをメッシュに添加し、再び濾過を行い、濾過された液は濾液1と混合させた。混合した濾液は10cmシャーレに播種し、その後20%FBS含有DMEM-HAM培地あるいは間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製)で37℃、5%CO2条件下で平均4日間培養した。4日後に培養物をPBS液(045-2979、富士フイルム和光純薬株式会社製)で洗浄して、培養液中に含まれていた血球や脂肪組織の残存等を除去し、プラスチック容器に接着している脂肪組織SVF画分由来の細胞集団を得た。また検体#1に関してはプラスチック容器に接着せず、残存した脂肪組織ともに浮遊しているヒト脂肪組織浮遊画分由来の細胞集団も得た。
【0104】
間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製、血清培地)にナノファイバー基材を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加し、3D培養培地を調製した。引き続き、脂肪組織由来のSVF画分に由来する細胞集団(#1;男性46歳、#2;女性71歳、#3;男性41歳)および脂肪組織由来の浮遊画分に由来する細胞集団(#1;男性46歳)を上記の当該3D培養培地にそれぞれ懸濁した後、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3471)に5mL/ウェルで播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内に静置して最大26日間培養した。培地交換の頻度は1週間に1回とした。培地交換は、ウェル中の培養液の上半分(約2.5mL)を除去し、新鮮な間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバー基材を含まない)を2.5mLを添加することで行った。新鮮な培地を添加した後、ピペッティングにより培地をよく混合し、静置状態での3D培養を継続した。
【0105】
培養14日の時点において、検体#1~3のいずれにおいても、ナノファイバー基材上に細胞スフェアが形成されていることを確認した。
【0106】
形成したスフェアのみを、図2に示されるプロセスで回収した。以下に回収プロセスを簡潔に説明する。スフェア等を含む培養液をウェルから15mLチューブに移し、これに約7.5mLのPBS(045-2979、富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加してピペッティングにより良く混合した。PBSは、スフェア、シングルセル、及び本ナノファイバー基材を含有するが、これらは自重が異なるため沈降速度が異なる。スフェアは比較的自重が重く沈降速度が速いが、シングルセルやナノファイバー基材は自重が軽く沈降速度が遅い。この沈降速度の差を利用することにより、遠心分離やFACS等の分離操作を行うことなく、数分間静置するだけでスフェアをシングルセル及び基材から分離することができる。数分間程度の静置によりスフェアのみをチューブ底面に沈降させた後、PBSの上清部分をパスツールピペットを用いて除去することで、スフェアのみを回収した。回収したスフェアに間葉系幹細胞増殖培地を添加した。
【0107】
一般的に、間葉系幹細胞は2D培養を行うと遊走し増殖することが知られている。そこで、回収されたスフェアに間葉系幹細胞が含まれることを確認するために、2D培養を実施した。具体的には、回収したスフェアをシャーレに播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で最大10日間2D培養した。培地交換の頻度は3~4日に1回とした。培地交換は、新鮮な間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバー基材を含有しない)で行った。スフェアから遊走し、増殖した細胞のみをトリプシン処理により回収した。
【0108】
ヒト脂肪組織由来のSVF画分に由来する細胞集団の遊走及び増殖の結果を図3に、ヒト脂肪組織由来の浮遊画分に由来する細胞集団の遊走及び増殖の結果を図4にそれぞれ示す。
【0109】
すべての検体のSVF画分において、ナノファイバー基材を用いた3D培養でスフェアの形成が確認された。また、2D培養により、スフェアから細胞が遊走、増殖することが確認された。また、浮遊画分由来の細胞集団(検体#1)をナノファイバー基材を用いた3D培養に供することによっても、スフェアが形成された。また、2D培養により、スフェアから細胞が遊走、増殖することが確認された。以上の結果から、ナノファイバー基材を用いた3D培養と2D培養とを組み合わせることで、生体組織を構成する細胞集団から、間葉系幹細胞を選別し、回収できることが示された。
【0110】
[試験例4]3D培養及び2D培養の繰り返しによる間葉系幹細胞の選別
3D培養によるスフェア形成と2D培養による遊走による細胞選別プロセスが繰り返し可能かどうかを検討した。本試験の概要を図5に示す。
【0111】
間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製、血清培地)にナノファイバー基材を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加し、間葉系幹細胞用の3D培養培地を調製した。引き続き、試験例3で得られた脂肪組織由来のSVF画分に由来する間葉系幹細胞(#1;男性46歳)を、間葉系幹細胞用の3D培養培地に懸濁し、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(#3471、コーニング社製)に5mL/ウェルで播種した。
【0112】
細胞は、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で最大14日間、3D培養した。培地交換の頻度は1週間に1回とした。培地交換は、ウェル中の培養液の上半分(約2.5mL)を除去し、新鮮な間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバー基材を含まない)を2.5mLを添加することで行った。新鮮な培地を添加した後、ピペッティングにより培地をよく混合し、静置状態での3D培養を継続した。2回目の3D培養に供された間葉系幹細胞はスフェアを形成した(図6左)。
【0113】
3D培養により形成されたスフェアを試験例3で用いたプロセスと同様のプロセスで回収した。
【0114】
回収したスフェアを、試験例3と同様の条件で2D培養に供した。2D培養に供されたスフェアから、再度、間葉系幹細胞が遊走、増殖した(図6右)。これらの結果から、本発明の選別方法は、選別工程を繰り返し実施できることが示された。
【0115】
[試験例5]マウス骨髄由来細胞集団からの間葉系幹細胞の選別
C57BL/6Jマウス(雌)の大腿骨から骨髄を回収することで、骨髄由来の細胞集団を得た。ACKバッファー(150mM NH4CI、10mM KHCO3、0.1mM Na2EDTA、pH7.2~7.4)を用いて骨髄由来の細胞集団中の赤血球を溶血させた。この細胞集団を細胞凍結保存液(ステムセルバンカー(登録商標)(CB061、タカラバイオ社製)を用いて-80℃で凍結保存した。
【0116】
間葉系幹細胞増殖培地(Y-50200、タカラバイオ社製、血清培地)にナノファイバー基材を0.05%(w/v)の終濃度となるように添加し、間葉系幹細胞用の3D培養培地を調製した。引き続き、凍結融解したマウス骨髄由来の細胞集団(約2x106 cells)を、当該3D培養培地に懸濁し、6ウェル平底超低接着表面マイクロプレート(コーニング社製、#3471)に、5mL/ウェルで播種した。
【0117】
細胞は、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で最大16日間、3D培養した。
【0118】
培地交換の頻度は、最初の1週間は行わず、その後1週間に1回の頻度で行った。培地交換は、ウェル中の培養液の上半分(約2.5mL)を除去し、新鮮な間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバー基材を含まない)を2.5mLを添加することで行った。新鮮な培地を添加した後、ピペッティングにより培地をよく混合し、静置状態での3D培養を継続した。
【0119】
培養16日の時点において、スフェアが形成されていることを確認した(図7左)。
【0120】
形成されたスフェアは、次のようにして回収した。スフェアを含む3D培養物(約2.5mL)を、ウェルから15mLチューブに移し、これに約7.5mLのPBS(045-2979、富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加してピペッティングにより良く混合した。数分間程度の静置によりスフェアのみをチューブ底面に沈降させた後、PBSの上清部分をパスツールピペットを用いて除去することで、スフェアのみを回収した。回収したスフェアに間葉系幹細胞増殖培地を添加した。
【0121】
さらに、回収されたスフェアを2D培養に供した。具体的には、回収したスフェアをシャーレに播種し、COインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で2日間、2D培養した。培地交換の頻度は3~4日に1回とした。培地交換は、新鮮な間葉系幹細胞増殖培地(ナノファイバー基材を含有しない)で行った。2D培養に供されたスフェアから、間葉系幹細胞が遊走、増殖した(図7右)。スフェアから遊走し、増殖した細胞のみをトリプシン処理により回収した。
【0122】
以上の結果から、ナノファイバー基材を用いた3D培養と2D培養とを組み合わせることで、マウス骨髄由来の細胞集団から、間葉系幹細胞を選別し、回収できることが示された。
【0123】
[試験例6]本発明の選別方法により得られる間葉系幹細胞と従来法で得られる間葉系幹細胞の特性の比較
本発明の選別方法により得られる間葉系幹細胞が従来法(2D培養)で得られる間葉系幹細胞と比較して優れているかどうかを検討した。
【0124】
(1)従来法を用いた間葉系幹細胞の調製
ドナー(#2;女性71歳、#3;男性41歳)から得られた皮下脂肪組織を酵素処理することで脂肪細胞を除去し、間質血管細胞群(SVF)を得た。得られたSVFを2D培養に供して、遊走、増殖した細胞のみをトリプシン処理することで間葉系幹細胞を含む細胞集団を回収した。回収された細胞集団を間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製、血清培地)に懸濁し、細胞接着性のシャーレに播種した。細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で5日間、2D培養した。5日目の時点で、単層で増殖する間葉系幹細胞を得た(従来法で得られたMSC)。
【0125】
(2)本発明の方法を用いた間葉系幹細胞の調製
上述の試験例3で得られた間葉系幹細胞のうち、#2及び#3のドナーから得られた間葉系幹細胞を用いた。
【0126】
(3)培養
従来法で得られた間葉系幹細胞と本発明の方法で得られた間葉系幹細胞を、間葉系幹細胞増殖培地(C-28009、タカラバイオ社製、血清培地)に懸濁し、細胞接着性のシャーレに播種した。各細胞をCOインキュベーター(37℃、5%CO)内にて静置状態で6日間、2D培養した。
【0127】
6日目の時点で各細胞の一部を回収し、ヒト脂肪細胞分化培地(#CAS11D250、東洋紡社製)を用いて2D培養で脂肪細胞へ分化誘導した。分化誘導は14日間行った。
【0128】
6日目の時点の分化誘導を行わなかった細胞と、分化誘導を14日間行った細胞から総RNAを抽出した。総RNAの抽出は、RNeasy Mini kit(QIAGEN社製)を用いた。PrimeScriptTM RT Master Mix(タカラバイオ社製)を用いて、GeneAmp PCR System 9700(Applied Biosystems社製)上で逆転写反応を行い、抽出した総RNAからcDNAを合成した。得られたcDNAサンプルを滅菌水で1/10に希釈したものをリアルタイムPCRのテンプレートとして用いた。また、すべてのcDNAサンプルから一部を回収して混合したcDNAサンプルを作成し、検量線を作成するためのサンプルとして使用した。検量線は、3倍公比で1/3から1/243の希釈までの定量範囲で設定した。リアルタイムPCRは、各cDNAサンプル、検量サンプル、Premix Ex TaqTM(タカラバイオ社製)及び各種Taqmanプローブ(Applied Biosystems社製)を使用し、7500 Real Time PCR System(Applied Biosystems社製)により実施した。用いたプローブ(Applied Biosystems社製)を以下に示す。
【0129】
18s rRNA:Applied Biosystems REF 4319413E
HOXB7 :Hs04187556
bFGF :Hs00266645
NANOG :Hs04399610
OCT4 :Hs04260367
SOX2 :Hs04234836
CD73 :Hs00159686
CD90 :Hs06633377
CD105 :Hs00923996
【0130】
2D培養を開始から6日目の時点におけるリアルタイムPCRの結果を表3(ドナー#2)及び表4(ドナー#3)に示す。
【0131】
【表3】
【0132】
【表4】
【0133】
表3及び表4に示される通り、#2および#3ともに、間葉系幹細胞の表面抗原マーカー(CD73、CD90、CD105)の発現は、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞のほう高かった。また、未分化性マーカー(NANOG、OCT4、SOX2)の発現、未分化性を維持するbFGFの発現、間葉系幹細胞の老化の抑制に寄与し、bFGFの発現を制御するHOXB7の発現についても、#2および#3ともに、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞のほう高かった。従って、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞は、従来法により選別された間葉系幹細胞と比較して、品質が良いことが示された。
【0134】
また、脂肪細胞への分化誘導開始から14日目の時点におけるリアルタイムPCRの結果を表5(ドナー#2)及び表6(ドナー#3)に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
【表6】
【0137】
表5及び6に示される通り、本発明の方法により選別された間葉系幹細胞と従来法により選別された間葉系幹細胞のいずれも、14日間の分化誘導に供された後では、間葉系幹細胞マーカー(CD73、CD90、CD105)、未分化性マーカー(NANOG、OCT4、SOX2)、bFGF、及びHOXB7のmRNAの発現量が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明によれば、細胞集団に含まれるスフェア形成能及び遊走能を有する細胞を、遠心分離や細胞表面抗原を利用した分離操作を行うことなく、分離・選別できる。また、本発明によれば、若く、且つ、未分化性を良好に維持した高品質の間葉系幹細胞を効率よく調製することができる。従って、本発明は、例えば、再生医療の分野において非常に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
2024027573000001.xml