(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027618
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】抗原非特異的IgA分泌増強剤、及び抗原非特異的IgA分泌増強用組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/785 20060101AFI20240222BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240222BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240222BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240222BHJP
A01K 67/00 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
A61K31/785
A61P43/00 111
A61P37/04
A23L33/18
A01K67/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130550
(22)【出願日】2022-08-18
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度「農林水産研究推進事業委託プロジェクト研究」(健康寿命延伸に向けた食品・食生活実現プロジェクト)産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】若木 学
(72)【発明者】
【氏名】後藤 真生
(72)【発明者】
【氏名】田村 基
【テーマコード(参考)】
4B018
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD20
4B018ME14
4C086AA01
4C086AA02
4C086FA03
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA05
4C086NA14
4C086ZB09
4C086ZC41
(57)【要約】
【課題】抗原非特異的IgA分泌増強剤、及び前記抗原非特異的IgA分泌増強剤を含有する抗原非特異的IgA分泌増強用組成物を提供する。
【解決手段】ポリグルタミン酸又はその塩を有効成分として含む、抗原非特異的IgA分泌増強剤。また、前記抗原非特異的IgA分泌増強剤を含有する、抗原非特異的IgA分泌増強用組成物、又は加齢に伴う免疫機能の低下抑制用組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ-ポリグルタミン酸又はその塩を有効成分として含む、抗原非特異的IgA分泌増強剤。
【請求項2】
請求項1に記載の抗原非特異的IgA分泌増強剤と、薬学的に許容される担体とを含有する、抗原非特異的IgA分泌増強用組成物。
【請求項3】
加齢に伴う免疫機能の低下を抑制するために用いられる、請求項2に記載の抗原非特異的IgA分泌増強用組成物。
【請求項4】
医薬組成物、食品、飼料又はペットフードである、請求項2又は3に記載の抗原非特異的IgA分泌増強用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗原非特異的IgA分泌増強剤、及び抗原非特異的IgA分泌増強用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢やストレスにより、免疫機能が毀損されることが知られている。現在、免疫機能にかかる機能性表示が認められた食材としては、プラズマ乳酸菌がある。プラズマ乳酸菌を添加した飲料及び菓子等の売上は拡大しており、免疫機能に訴求する機能性食品のニーズは高い。
【0003】
粘膜面に定常的に分泌される免疫グロブリンA(IgA)は、粘膜面のバリアとして機能し、細菌やウイルス等の異物の侵入を阻止し、感染防御に重要である。分泌型IgAは、T細胞依存的経路により産生される抗原特異的分泌型IgA(T細胞依存性分泌型IgA:TD-SIgA)と、T細胞非依存的経路により産生される抗原特異的分泌型IgA(T細胞非依存性分泌型IgA:TI-SIgA)とに大別される。TD-SIgAは、獲得免疫により制御され、抗原に応答して産生される。一方、TI-SIgAは、自然免疫により制御され、抗原の有無に関わらず恒常的に産生される。TI-SIgAは、初期免疫や腸内細菌叢の恒常性に寄与すると考えられる。
特許文献1には、腸管におけるTI-SIgA量が加齢に伴い減少することが示されており、加齢に伴うTI-SIgA量の評価方法が提案されている。
【0004】
一方、特許文献2には、γ-ポリグルタミン酸(γ-PGA)を含有する獲得免疫に係る細胞性免疫増進用組成物が提案されている。特許文献2には、γ-PGAがTLR4受容体を介したTh1細胞性免疫の増進効果を有すること、及びγ-PGAが抗原提示活性を増加させる効果を有することが示されている。しかしながら、特許文献2には、γ-PGAが液性免疫に影響することは記載されていない。特許文献3には、納豆抽出物がIgA産生を増加させることが示されている。しかしながら、その作用機序に関する記載はなく、パイエル板細胞を用いた試験管内試験の結果であり、生体内で同様の効果が得られるかは不明である。また、パイエル板細胞により産生されるIgAはTD―SIgAである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-001827号公報
【特許文献2】特表2011-500554号公報
【特許文献3】特開2003-327540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
TI-SIgAは、腸内細菌叢の恒常性維持に寄与し、腸管免疫の維持に関与するとされる。また、加齢に伴い免疫機能は低下すると知られるところであるが、発明者らはTI-SIgAも加齢に伴い分泌量が低下することを明らかとしている。すなわち、加齢に伴うTI-SIgA分泌量低下の抑制は、加齢に伴う免疫機能の低下の抑制につながる。
【0007】
そこで、本発明は、抗原非特異的IgA分泌増強剤、及び前記抗原非特異的IgA分泌増強剤を含有する抗原非特異的IgA分泌増強用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は以下の態様を含む。
[1]γ-ポリグルタミン酸又はその塩を有効成分として含む、抗原非特異的IgA分泌増強剤。
[2][1]に記載の抗原非特異的IgA分泌増強剤と、薬学的に許容される担体とを含有する、抗原非特異的IgA分泌増強用組成物。
[3]加齢に伴う免疫機能の低下を抑制するために用いられる、[2]に記載の抗原非特異的IgA分泌増強用組成物。
[4]医薬組成物、食品、飼料又はペットフードである、[2]又は[3]に記載の抗原非特異的IgA分泌増強用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、抗原非特異的IgA分泌増強剤、及び前記抗原非特異的IgA分泌増強剤を含有する抗原非特異的IgA分泌増強用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】DO11.10マウスの雌を用いた、γ-PGA投与試験の結果を示す。縦軸は糞便100mg中の分泌型IgA(SIgA)量を、投与開始時(16週齢)の値を100%として示す。横軸は、投与開始(16週齢)からの期間を示す。
【
図2】
図1と同じγ-PGA投与試験における、投与試験前後の糞便100mg中のSIgA量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<抗原非特異的IgA分泌増強剤>
一態様において、本発明は、γ-ポリグルタミン酸又はその塩を有効成分として含む、抗原非特異的IgA分泌増強剤を提供する。
【0012】
「抗原非特異的IgA」とは、抗原の有無に関わらず分泌されるIgAを意味する。抗原非特異的IgAは、T細胞非依存性の経路で産生され、抗原特異性が低く、恒常的に産生される。本明細書において、抗原非特異的IgAは、「T細胞非依存性分泌型IgA」又は「TI-SIgA」とも表記する。
【0013】
「抗原非特異的IgA分泌増強剤」(以下、「TI-SIgA分泌増強剤」ともいう)とは、TI-SIgAの分泌量を増強する作用を有する薬剤を意味する。TI-SIgA分泌増強剤は、特に、腸管粘膜におけるTI-SIgAの分泌を増強する。TI-SIgA分泌増強剤は、加齢に伴うTI-SIgA分泌量の低下を抑制し、TI-SIgA分泌量を維持する作用を有する。TI-SIgA分泌増強剤は、加齢に伴うTI-SIgA分泌量の低下抑制剤であってもよい。
【0014】
本実施形態のTI-SIgA分泌増強剤は、γ-ポリグルタミン酸を有効成分として含む。γ-ポリグルタミン酸は、グルタミン酸を重合単位とするポリペプチドであり、γ位のカルボキシ基とα位のアミノ基がペプチド結合を形成している。γ-ポリグルタミン酸の構造を以下に示す(nは繰り返し数)。本明細書において、γ-ポリグルタミン酸は、「γ-PGA」とも表記する。
【0015】
【0016】
γ-PGAの分子量は、特に限定されない。後述の実施例に用いたγ-PGAの分子量は1000kDaであるが、例えば、50kDa~20,000kDa、あるいは、100kDa~15,000kDaであってもよく、1,000~kDa~15,000kDaであってもよい。
【0017】
γ-PGAは、L体のグルタミン酸のみから構成されてもよく、D体のグルタミン酸のみから構成されてもよく、L体及びD体のグルタミン酸から構成されてもよい。
【0018】
γ-PGAは、塩の形態であってもよい。γ-PGAの塩としては、γ-PGAの薬学的に許容される塩が挙げられる。「薬学的に許容される塩」とは、γ-PGAと同等の薬理作用を有する塩を意味する。γ-PGAの塩としては、γ-PGAが含むカルボキシ基の一部又は全部が塩の形態であるものが挙げられる。γ-PGAの塩としては、例えば、アルカリ金属(例えば、ナトリウム、カリウム等)との塩、アルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カリウム等)との塩等が挙げられる。
【0019】
本実施形態のTI-SIgA分泌増強剤は、TI-SIgAの分泌量を増強するために、対象に投与することができる。TI-SIgA分泌増強剤の投与対象は、特に限定されない。TI-SIgA分泌増強剤の投与対象としては、哺乳類が挙げられ、ヒト、ヒト以外の霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラ、マーモセット等)、家畜類(ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等)、ペット(ネコ、イヌ、ウサギ等)、げっ歯類(マウス、モルモット、ラット等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
本実施形態のTI-SIgA分泌増強剤は、後述するTI-SIgA分泌増強用組成物と同様の方法で対象に投与することができる。投与経路は、経口投与でもよく、非経口投与でもよい。非経口投与としては、特に限定されないが、例えば、経皮投与、直腸内投与、動脈投与、静脈投与、皮内投与、皮下投与等が挙げられる。
【0021】
本実施形態のTI-SIgA分泌増強剤は、医薬品や食品等に配合し、それらの製品にTI-SIgA分泌増強機能を付与するために用いられてもよい。本実施形態のTI-SIgA分泌増強剤が添加された製品は、後述の抗原非特異的IgA分泌増強用組成物として用いることができる。
【0022】
本実施形態のTI-SIgA分泌増強剤によれば、TI-SIgAの分泌量を増強することができるため、老化によるTI-SIgA分泌量の低下を抑制することができる。そのため、老化による免疫機能の低下を抑制することができる。
また、γ-PGAは、納豆等の食品にも含まれる成分であり、安全性が高く、副作用のリスクが低い。そのため、老齢になる前から予防的に投与されることで、老齢時のTI-SIgA分泌量の低下を抑制できると考えられる。
【0023】
<抗原非特異的IgA分泌増強用組成物>
一態様において、本発明は、上述の抗原非特異的IgA分泌増強剤と、薬学的に許容される担体とを含有する、抗原非特異的IgA分泌増強用組成物(以下、「TI-SIgA分泌増強用組成物」ともいう)を提供する。
【0024】
「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、かつ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。薬学的に許容される担体としては、特に限定されないが、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、油性基剤、増粘剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、溶媒等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
TI-SIgA分泌増強用組成物は、上記成分に加えて、他の成分を含んでいてもよい。他の成分は、特に限定されず、組成物の用途に応じて、適宜選択することができる。他の成分としては、例えば、保存剤(例えば、酸化防止剤)、キレート剤、矯味矯臭剤、甘味剤、増粘剤、緩衝剤、着色剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
TI-SIgA分泌増強用組成物は、医薬組成物、医薬部外品、食品、機能性食品、飼料等であってもよい。TI-SIgA分泌増強用組成物は、TI-SIgAの分泌量を増強するために、対象に投与することができる。TI-SIgAの分泌量は、16週齢以降、加齢に伴い低下する傾向にあり、加齢に伴う免疫機能の低下の一部を構成していると考えられる。そのため、TI-SIgA分泌増強用組成物は、加齢に伴う免疫機能の低下を抑制するために用いられてもよい。
【0027】
(医薬組成物)
TI-SIgA分泌増強用組成物は、医薬組成物であってもよい。医薬組成物である場合、薬学的に許容される担体として、医薬分野において常用されるものを特に制限なく使用することができる。医薬品添加剤としては、例えば、保存剤(例えば、酸化防止剤)、キレート剤、矯味矯臭剤、甘味剤、増粘剤、緩衝剤、着色剤等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
医薬組成物の剤型は、特に制限されず、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。本実施形態の医薬組成物は、経口製剤であってもよく、非経口製剤であってもよいが、経口製剤が好ましい。経口製剤としては、例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、細粒剤、液剤、ドロップ愛、乳剤等が挙げられる。非経口製剤としては、例えば、注射剤、坐剤、点鼻剤、経腸剤、吸入剤等が挙げられる。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0029】
本実施形態の医薬組成物の投与経路は、特に限定されず、経口又は非経口経路で投与することができるが、経口投与が好ましい。非経口投与の投与経路としては、非経口投与としては、経皮投与、静脈投与、鼻腔内投与、皮下投与、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経腸投与等が挙げられる。
【0030】
医薬組成物は、上述のTI-SIgA分泌増強剤の治療的有効量を投与することができる。「治療的有効量」とは、対象疾患の治療又は予防のために有効な薬剤の量を意味する。例えば、前記TI-SIgA分泌増強剤の治療的有効量は、TI-SIgA分泌増強に有効な量であり得る。治療的有効量は、投与対象の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。例えば、医薬組成物は、γ-PGAの1回の投与量として、投与対象の体重1kgあたり、0.001~1000mgとすることができる。前記投与量は、0.005~500mg/kgであってもよく、0.01~300mg/kgであってもよく、0.02~200mg/kgであってもよく、0.03~100mg/kgであってもよい。
【0031】
医薬組成物は、単回投与であってもよく、反復投与であってもよい。反復投与である場合、投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。投与間隔は、例えば、数時間毎、1日2~3回、1日1回、2~3日に1回、1週間に1回、1月に1回、数カ月に1回等とすることができる。
【0032】
医薬組成物の投与対象は、特に限定されない。医薬組成物の投与対象としては、上述のTI-SIgA分泌増強剤と同様のものが挙げられる。
【0033】
(食品)
本実施形態のTI-SIgA分泌増強用組成物は、食品であってもよい。TI-SIgA分泌増強用組成物が食品である場合、上述のTI-SIgA分泌増強剤は、食品添加剤として、食品に添加されてもよい。TI-SIgA分泌増強剤を食品に添加することにより、TI-SIgA分泌増強機能が付与された食品(以下、「TI-SIgA分泌増強剤機能付与食品」ともいう)を調製することができる。TI-SIgA分泌増強剤機能付与食品は、上述のTI-SIgA分泌増強剤を食品原料に添加し、適宜他の食品添加物を添加して、食品の種類に応じた既知の方法に従って、製造することができる。
【0034】
TI-SIgA分泌増強剤機能付与食品において、食品の種類は特に限定されない。食品としては、例えば、そば、うどん、はるさめ、中華麺、即席麺、カップ麺などの各種の麺類;パン、小麦粉、米粉、ホットケーキ、マッシュポテトなどの炭水化物類;青汁、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、野菜飲料、乳酸飲料、乳飲料、スポーツ飲料、茶、コーヒーなどの飲料;豆腐、おから、納豆などの豆製品;カレールー、シチュールー、インスタントスープなどの各種スープ類;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷などの冷菓類;飴、クッキー、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、その他の焼き菓子などの菓子類;かまぼこ、はんぺん、ハム、ソーセージなどの水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳、バター、チーズ、ヨーグルトなどの乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシングなどの油脂及び油脂加工食品;ソース、ドレッシング、味噌、醤油、たれなどの調味料;各種レトルト食品、ふりかけ、漬物などのその他加工食品、等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0035】
TI-SIgA分泌増強剤機能付与食品において、TI-SIgA分泌増強剤の含有量は特に限定されず、食品の種類に応じて適宜含有量を設定することができる。例えば、食品の風味等を考慮し、食品におけるTI-SIgA分泌増強剤は、γ-PGAの含有量として、0.001~30質量%が挙げられる。食品におけるγ-PGAの含有量は、例えば、食品の風味等の観点から、0.005~20質量%であってもよく、0.01~15質量%であってもよく、0.1~10質量%であってもよく、0.1~5質量%であってもよい。
【0036】
TI-SIgA分泌増強剤機能付与食品は、機能性食品又は栄養補助食品であってもよい。機能性食品又は栄養補助食品は、上述のような一般的な食品の形態であってもよく、乾燥粉末、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、ドリンク剤等の形態であってもよい。この場合、TI-SIgA分泌増強剤と、適宜他の成分とを混合して、定法に従って、乾燥粉末、顆粒剤、錠剤、ゼリー剤、ドリンク剤等の形態とすることができる。他の成分としては、特に限定されず、例えば、薬学的に許容される担体等が例示される。薬学的に許容される担体としては、上記で挙げたものと同様のものが挙げられる。また、風味等を改善するために、甘味剤、矯味剤、各種調味料、香料、油脂類、その他の食品添加物等を他の成分として用いてもよい。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
機能性食品又は栄養補助食品において、TI-SIgA分泌増強剤の含有量は特に限定されず、機能性食品又は栄養補助食品の種類に応じて適宜含有量を設定すればよい。例えば、機能性食品又は栄養補助食品が乾燥粉末、顆粒剤、錠剤等の形態である場合、機能性食品又は栄養補助食品におけるγ-PGAの含有量は、γ-PGAの含有量として、0.01~99質量%が挙げられる。機能性食品又は栄養補助食品におけるγ-PGAの含有量は、0.1~90質量%であってもよく、0.5~85質量%であってもよく、1~85質量%であってもよく、1~85質量%であってもよい。機能性食品又は栄養補助食品がゼリー剤、ドリンク剤等の形態である場合、機能性食品又は栄養補助食品におけるTI-SIgA分泌増強剤の含有量は、γ-PGAの含有量として、0.05~80質量%が挙げられる。機能性食品又は栄養補助食品におけるTI-SIgA分泌増強剤の含有量は、0.1~75質量%であってもよく、0.5~70質量%であってもよく、1~60質量%であってもよく、1~50質量%であってもよい。
【0038】
(飼料、ペットフード)
本実施形態のTI-SIgA分泌増強用組成物は、飼料又はペットフードであってもよい。本実施形態のTI-SIgA分泌増強用組成物が飼料又はペットフードである場合、TI-SIgA分泌増強剤は、飼料添加剤又はペットフード添加剤として、飼料又はペットフードに添加されてもよい。TI-SIgA分泌増強剤を飼料又はペットフードに添加することにより、TI-SIgA分泌増強機能が付与された飼料又はペットフード(以下、「TI-SIgA分泌増強機能付与飼料等」ともいう)を調製することができる。
【0039】
TI-SIgA分泌増強機能付与飼料等は、TI-SIgA分泌増強剤を飼料原料又はペットフード原料に添加し、適宜他の飼料添加物又はペットフード添加物を添加して、飼料原料又はペットフードの種類に応じた既知の方法に従って、製造することができる。
【0040】
TI-SIgA分泌増強機能付与飼料等が与えられる動物の種類は特に限定されない。例えば、ヒト以外の哺乳類が挙げられる。具体例としては、ヒト以外の霊長類(サル、チンパンジー、ゴリラ、マーモセット等)、家畜類(ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ウマ等)、ペット(ネコ、イヌ、ウサギ等)、げっ歯類(マウス、モルモット、ラット等)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
TI-SIgA分泌増強機能付与飼料等において、TI-SIgA分泌増強剤の含有量は特に限定されず、飼料又はペットフードの種類に応じて適宜含有量を設定することができる。例えば、TI-SIgA分泌増強機能付与飼料等におけるTI-SIgA分泌増強剤の含有量は、γ-PGAの含有量として、0.001~90質量%が挙げられる。TI-SIgA分泌増強機能付与飼料等におけるTI-SIgA分泌増強剤の含有量は、γ-PGAの含有量として、0.005~20質量%であってもよく、0.01~15質量%であってもよく、0.1~10質量%であってもよく、0.1~5質量%であってもよい。
【実施例0042】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
<試験方法>
試験は、特開2021-001827号公報に記載の方法に基づいて行った。具体的には、16週齢の時点で、糞便中のIgA量が78μg/100mg糞便以上であるTCRトランスジェニックマウスの雌を選択し、16~28週齢の間に被験物質投与試験を行った。16週齢の時点で糞便中のIgA量が高いマウスの雌は、16~28週齢の間に高確率で糞便中IgA量の低下が観察される。そのため、より少ない個体数で精度よく、試験物質のIgA分泌量の増強能を評価できると考えられる。
【0044】
(試験動物)
試験動物として、T細胞のほとんどが卵白アルブミン(OVA)に応答するTCRを発現するマウスである、DO11.10マウス(Jackson laboratories)の雌を用いた。D011.10マウスを、定法通りSPF環境下で1ケージあたり3~4匹で飼育した。飼料には市販標準飼料(NMF;オリエンタル酵母工業)を用い、自由摂取させた。水は自由摂取とした。
【0045】
16週齢のマウスの糞便を採取し、糞便中のIgA量をELISA法により測定した。ELISA用試料の調製のために、採取した糞便1mgあたり、10μLの抽出バッファー(cOmplete(登録商標), EDTA-free(Roche Diagnostics)を添加したELISA Diluent(Thermo Fisher scientific))に懸濁し、4℃環境で10分間、15000gで遠心分離を行った。遠心後、上清を回収し、ELISA用試料とした。ELISAは、Mouse IgA ELISA構築キット(Bethyl Laboratories, Inc)を用いて行った。
【0046】
上記測定の結果から、糞便中のIgA量が78μg/100mg糞便以上であるマウスを選択し、下記投与試験用の試験動物として用いた。
【0047】
(投与試験)
試験物質として、γ-PGA(分子量100万Da程度、株式会社明治フードマテリア)を用いた。γ-PGA投与群(13匹)では、16週齢から28週齢の間、1質量%のγ-PGAを含む水を自由摂取させた。水投与群(12匹)では、16週齢から28週齢の間、水を自由摂取させた。その他の飼育条件は、上記と同様とした。
16~28週齢の間、2週間毎に試験動物から糞便を採取し、IgA抽出まで-30℃で凍結保存し、糞便中のIgA量をELISA法により測定した。
【0048】
<結果>
結果を
図1及び
図2に示す。
図1は、投与試験開始後の糞便中IgA量(SIgA量)の推移を示す。2週目、4週目、10週目で、γ-PGA投与群の糞便中IgA量は、水投与群と比較して、有意に高かった。
図2は、投与試験開始前後の糞便中IgA量(SIgA量)を比較した図である。「前」投与試験開始前(16週齢時)を示し、「後」は投与試験開始後(28週齢時)を示す。「全体」は、γ-PGA投与群及び水投与群を合わせた試験個体群全体を示す。水投与群では、投与試験開始前と比較して、投与試験開始後に糞便中IgA量の有意な低下が確認された。これは、加齢に伴い、抗原非特異的IgA分泌量が低下したためと考えられた。一方、γ-PGA投与群では、投与試験開始前tp比較して、投与試験開始後に糞便中IgA量の有意な低下は確認されなかった。そのため、γ-PGAの投与により、加齢に伴う抗原非特異的IgA分泌量の低下が抑制されたことが示唆された。