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特開2024-27660バイオセンサ、バイオセンサ用電極、及び、バイオセンサ用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027660
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】バイオセンサ、バイオセンサ用電極、及び、バイオセンサ用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240222BHJP
   G01N 27/414 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
G01N27/30 F
G01N27/414 301P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130628
(22)【出願日】2022-08-18
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2022s/subject/24a-E105-8/advanced、令和4年2月25日 第69回応用物理学会春季学術講演会(2022年)、青山学院大学相模原キャンパス(神奈川県相模原市中央区淵野辺5-10-1)、及びオンライン会場:Zoom、令和4年3月24日(開催期間:令和4年3月22日~令和4年3月26日) 国立大学法人東京大学マテリアル工学専攻大学院演習研究中間発表会(オンライン)、Zoom会議室(https://u-tokyo-ac-jp.zoom.us/j/81976202942?pwd=UmkxVmNnWW44VzRoUEhvQW5hWjgyZz09)、令和4年7月20日(開催期間:令和4年7月19日~令和4年7月20日)
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂田 利弥
(72)【発明者】
【氏名】野口 大河
(72)【発明者】
【氏名】西谷 象一
(57)【要約】
【課題】検出対象物質を従来よりも高感度で検出することができるバイオセンサ、バイオセンサ用電極、及び、バイオセンサ用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】バイオセンサ10では、試料20a内に浸漬する電極をナノ多孔質構造からなるナノ多孔質電極16とし、試料20a内に含まれる検出対象物質がナノ多孔質電極16に結合することにより生じるナノ多孔質電極16の電荷密度の変化を検出する。バイオセンサ10は、試料20a内に浸漬させる電極をナノ多孔質電極16とすることにより、試料20a内に浸漬する電極表面において、試料20a内に含まれる夾雑物の、ナノ多孔質電極16に対する非特異吸着が抑制され、検出対象物質を従来よりも高感度で検出することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料内に浸漬される電極を備え、前記試料内に含まれる検出対象物質が前記電極に結合することにより生じる前記電極の電荷密度の変化を検出するバイオセンサであって、
前記電極は、ナノ多孔質構造を表面に有するナノ多孔質電極である、バイオセンサ。
【請求項2】
前記ナノ多孔質電極は、ナノ多孔質構造とすることにより、前記試料内に含まれる夾雑物の非特異吸着が抑制されている、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項3】
前記ナノ多孔質電極は、基板と、前記基板上に形成された平板状の電極層と、前記電極層上に導電性部材によって形成されたナノ多孔質層とで構成されている、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項4】
前記ナノ多孔質電極が電界効果トランジスタのゲート絶縁膜に接続されている、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項5】
前記ナノ多孔質電極は、超純水を5~10[μL]滴下したときの超純水に対する前記表面の接触角が60[°]未満である、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項6】
前記検出対象物質は、前記試料内に含まれる夾雑物と結合可能な物質であり、
前記検出対象物質を含有した前記試料内に前記夾雑物が添加された際に、前記試料内で前記夾雑物と結合していない前記検出対象物質が前記ナノ多孔質電極に結合することにより生じる前記ナノ多孔質電極の電荷密度の変化を測定する測定部を備え、
前記測定部は、
前記夾雑物の添加前後に測定した電荷密度の変化に基づいて、前記試料内の前記夾雑物の含有量を測定する、
請求項1に記載のバイオセンサ。
【請求項7】
前記夾雑物はアルブミンである、
請求項6に記載のバイオセンサ。
【請求項8】
試料内に浸漬され、前記試料内に含まれる検出対象物質が結合することにより生じる電荷密度の変化を検出するバイオセンサ用電極であって、
ナノ多孔質構造を表面に有するナノ多孔質電極である、バイオセンサ用電極。
【請求項9】
試料内に浸漬され、前記試料内に含まれる検出対象物質が結合することにより生じる電荷密度の変化を検出する、バイオセンサ用電極の製造方法であって、
基板上に導電性部材により平板状の電極層を形成する電極層形成工程と、
導電性部材によって、前記電極層上にナノ多孔質構造のナノ多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、
を含み、ナノ多孔質構造を表面に有するナノ多孔質電極を製造する、バイオセンサ用電極の製造方法。
【請求項10】
前記多孔質層形成工程は、
合金部材により前記電極層に合金層を形成する合金層形成ステップと、
前記合金層に対して脱合金化処理を行い、前記電極層上に前記ナノ多孔質層を形成する脱合金化処理工程と、
を含む、請求項9に記載のバイオセンサ用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサ、バイオセンサ用電極、及び、バイオセンサ用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電界効果トランジスタ(FET: Field Effect Transistor)を検出素子として用いるバイオセンサが知られている。このようなバイオセンサでは、検出対象物質と特異的に相互作用する部位を有するように基材表面を修飾することで、選択性を高める試みがなされている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5447716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、検出対象物質との選択性を高めた構成を採用した場合であっても、夾雑物を多数含む試料を対象とした測定では、夾雑物由来の応答ノイズの影響が大きいという問題があった。そのため、バイオセンサでは、試料内に含まれる夾雑物から検出対象物質を選択的に認識して、検出対象物質を高感度で検出することが望まれている。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みて創作されたもので、検出対象物質を従来よりも高感度で検出することができるバイオセンサ、バイオセンサ用電極、及び、バイオセンサ用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るバイオセンサは、試料内に浸漬される電極を備え、前記試料内に含まれる検出対象物質が前記電極に結合することにより生じる前記電極の電荷密度の変化を検出するバイオセンサであって、前記電極は、ナノ多孔質構造を表面に有するナノ多孔質電極である。
【0007】
本発明に係るバイオセンサ用電極は、試料内に浸漬され、前記試料内に含まれる検出対象物質が結合することにより生じる電荷密度の変化を検出するバイオセンサ用電極であって、ナノ多孔質構造を表面に有するナノ多孔質電極である。
【0008】
本発明に係るバイオセンサ用電極の製造方法は、試料内に浸漬され、前記試料内に含まれる検出対象物質が結合することにより生じる電荷密度の変化を検出する、バイオセンサ用電極の製造方法であって、基板上に導電性部材により平板状の電極層を形成する電極層形成工程と、導電性部材によって、前記電極層上にナノ多孔質構造のナノ多孔質層を形成する多孔質層形成工程と、
を含み、ナノ多孔質構造を表面に有するナノ多孔質電極を製造する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料内に浸漬させる電極をナノ多孔質電極とすることにより、当該試料内に含まれる夾雑物の、ナノ多孔質電極に対する非特異吸着が抑制され、検出対象物質を従来よりも高感度で検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係るバイオセンサの構成を示す概略図である。
図2】2Aは、ナノ多孔質電極の断面構成を示す断面図であり、2Bは、ナノ多孔質電極の表面のFE-SEM画像である。
図3】3Aは、ナノ多孔質電極の製造に用いる積層基板の断面構成を示す断面図であり、3Bは、積層基板の合金層を脱合金化処理して形成されたナノ多孔質電極の断面構成を示す断面図である。
図4】4Aは、Au‐Ag合金電極の表面のFE-SEM画像であり、4Bは、ナノ多孔質電極の表面のFE-SEM画像である。
図5】5Aは、平面金電極における電流-電位曲線と電極浸漬前後のHSAの測定結果とを示すグラフであり、5Bは、Au-Ag合金電極における電流-電位曲線と電極浸漬前後のHSAの測定結果とを示すグラフであり、5Cは、ナノ多孔質金電極における電流-電位曲線と電極浸漬前後のHSAの測定結果とを示すグラフである。
図6】6Aは、インピーダンスの虚数成分及び実数成分からプロットしたナイキスト線図を示すグラフであり、6Bは、平面金電極とナノ多孔質金電極とに関する電荷移動抵抗値Rctの測定結果を示すグラフである。
図7】7Aは、平面金電極の表面のFE-SEM画像であり、7Bは、7Aの平面金電極をアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間を変えて測定した、平面金電極の電流-電位曲線を示すグラフである。
図8】8Aは、Au‐Ag合金電極を硝酸水溶液に5分間浸漬させて作製したナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、8Bは、8Aのナノ多孔質金電極をアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間を変えて測定した、ナノ多孔質金電極の電流-電位曲線を示すグラフである。
図9】9Aは、Au‐Ag合金電極を硝酸水溶液に15分間浸漬させて作製したナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、9Bは、9Aのナノ多孔質金電極をアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間を変えて測定した電流-電位曲線を示すグラフである。
図10】10Aは、Au‐Ag合金電極を硝酸水溶液に30分間浸漬させて作製したナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、10Bは、10Aのナノ多孔質金電極をアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間を変えて測定した電流-電位曲線を示すグラフである。
図11】11Aは、Au‐Ag合金電極を硝酸水溶液に60分間浸漬させて作製したナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、11Bは、11Aのナノ多孔質金電極をアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間を変えて測定した電流-電位曲線を示すグラフである。
図12】Au‐Ag合金電極の表面における接触角の測定結果と、5分間、15分間、30分間、60分間、硝酸水溶液に浸漬させて作製した各ナノ多孔質金電極の表面における接触角の測定結果とを示すグラフである。
図13】13Aは、IgG含有Fe(III)溶液に浸漬させた平面金電極に関して、CV測定によって得られた電流-電位曲線を示すグラフであり、13Bは、IgG含有Fe(III)溶液に浸漬させたナノ多孔質金電極に関して、CV測定によって得られた電流-電位曲線を示すグラフである。
図14】14Aは、ヘミン濃度を変えた溶液に浸漬させた平面金電極に関して電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフであり、14Bは、ヘミン濃度を変えた溶液に浸漬させたナノ多孔質金電極に関して電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
図15】15Aは、ヘミンを含有させていない溶液に平面金電極を浸漬し、当該溶液のHSA濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフであり、15Bは、ヘミンを含有させた溶液に平面金電極を浸漬し、当該溶液のHSA濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
図16】16Aは、ヘミンを含有させていない溶液にナノ多孔質金電極を浸漬し、当該溶液のHSA濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフであり、16Bは、ヘミンを含有させた溶液にナノ多孔質金電極を浸漬し、当該溶液のHSA濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
図17】17Aは、ヘミンを含有させていない溶液に平面金電極を浸漬し、当該溶液のIgG濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフであり、17Bは、ヘミンを含有させた溶液に平面金電極を浸漬し、当該溶液のIgG濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
図18】18Aは、ヘミンを含有させていない溶液にナノ多孔質金電極を浸漬し、当該溶液のIgG濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフであり、18Bは、ヘミンを含有させた溶液にナノ多孔質金電極を浸漬し、当該溶液のIgG濃度を変えたときの電位と電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面について本発明の一実施の形態を詳述する。以下の説明において、同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0012】
<第1実施形態>
<バイオセンサの全体構成>
図1に示すように、本実施形態に係るバイオセンサ10は、識別部12aと、検出部としての電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)14とを備える。バイオセンサ10は、識別部12aにおいて試料20a内に含まれる検出対象物質を識別し、識別された情報をFET14において電気的な信号に変換することにより、試料20a内に含まれる検出対象物質を検出する。
【0013】
検出対象物質は、ナノ多孔質電極16に結合してナノ多孔質電極16の電荷密度の変化を起こさせる物質であれば特に限定されないが、セロトニン、アスコルビン酸、尿酸、塩化銅、ヘミン等が挙げられる。試料20aとしては、検出対象物質を含有する疑いのある試料であれば特に限定されず、汗、涙、唾液、血液等の生体サンプルが挙げられる。これら試料20aには、検出対象物質の他、非検出対象物質となる、例えば、アルブミン(例えば、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウシ血清アルブミン(BSA))等のタンパク質が、夾雑物として含まれている。
【0014】
識別部12aには、ナノ多孔質構造でなるナノ多孔質電極16が設けられており、ナノ多孔質電極16を囲うようにして壁部を設けて容器18が形成されている。識別部12aは、容器18内に試料20aが貯留され、ナノ多孔質電極16が当該試料20aに浸漬される。
【0015】
FET14は、半導体基板22の表面に形成されたソース24及びドレイン26と、ソース24及びドレイン26の間の半導体基板22上に形成されたゲート絶縁膜28と、を備える。FET14は、nチャネル型MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)、pチャネル型MOSFETのいずれも使用することができる。ゲート絶縁膜28上には、金属電極30が形成されている。金属電極30は、配線31を介して、ナノ多孔質電極16と電気的に接続されている。金属電極30は、Au、Ag、Cu等で形成することができる。
【0016】
半導体基板22は、Si、Ga、As、ITO、IGZO、IZO等で形成してもよく、また、有機半導体、炭素半導体(例えば、カーボンナノチューブ、グラフェン半導体、ダイヤモンド半導体等)等を用いてもよい。ゲート絶縁膜28は、SiO、Si(SiN)、Ta、Al等の酸化物又は窒化物で形成することができる。
【0017】
ソース24及びドレイン26は、電源34及び電流計36が電気的に接続されており、ソース24からドレイン26へ流れるドレイン電流を計測するように形成されている。FET14は、ゲート絶縁膜28上の電荷密度が変化すると、ドレイン電流の大きさが変化する。すなわち、ドレイン電流を一定に保つためには、ゲート絶縁膜28上の電荷密度の変化に伴いゲート電圧を変化させる必要がある。FET14は、このゲート電圧の変化を計測することにより、ゲート絶縁膜28上の電荷密度の変化を電気的に計測する。
【0018】
この際、図1に示すように、参照電極32を用いてもよい。参照電極32は、FET14における基準電位となるナノ多孔質電極16と電気的に接続される。
【0019】
<ナノ多孔質電極の構成>
次に、バイオセンサ用電極としてのナノ多孔質電極16の構成について説明する。図2に示すように、本実施形態に係るナノ多孔質電極16は、表面に複数の微細な空孔20が形成されたナノ多孔質構造を有しており、当該ナノ多孔質構造を有することにより、表面の電極面積が増加され、液体に対する親水性が向上され得るように形成されている。ナノ多孔質電極16は、このようなナノ多孔質構造を有することで、試料20a内に含まれる、HSA等の夾雑物40の、表面に対する非特異吸着(ファウリング)が抑制されている。このように、ナノ多孔質電極16は、試料20a内に含まれる夾雑物40の表面に対する非特異吸着(ファウリング)が抑制されたアンチファウリング特性を有しており、その分、当該試料20a内の検出対象物質41が表面に結合し得、検出対象物質41を高感度で検出し得る。
【0020】
本実施形態に係るナノ多孔質電極16は、ガラス等でなる平板状の基板16aと、基板16a上に形成された電極層16b,16cと、電極層16c上に形成されたナノ多孔質層16dとで構成されている。電極層16b,16cは、例えば、Au、Pt、Cr、C等の導電性部材により基板16aの表面に沿って平板状に形成されている。
【0021】
なお、電極層16b,16cは、異なる導電性部材により形成された複数の層が積層された積層構造であってもよく、1層構造であってもよい。本実施形態に係る電極層16bは、例えば、Cr等の導電性部材により基板16a上に形成され、電極層16cは、例えば、第1層目の電極層16bとは異なるAu等の導電性材料により第1層目の電極層16b上に形成されている。
【0022】
ナノ多孔質層16dは、例えば、Au、Pt、C、Al、Ti等の導電性部材により電極層16cの表面に沿って形成されており、表面に複数の微細な空孔20が不規則に形成されたナノ多孔質構造を有している。本実施形態に係るナノ多孔質層16dは、裏面が接する電極層16cの導電性部材と同じ導電性部材により形成されている。
【0023】
図2の2Aは、ナノ多孔質電極16の表面のFE-SEM画像である。ナノ多孔質電極16の表面のナノ多孔質層16dには、ナノサイズ(100nm以下)でなる大小複数の微細な空孔20が不規則に形成されており、これら複数の空孔20によって表面が凹凸状に形成されることにより、試料20a内に露出する電極表面の電極面積が増加されている。
【0024】
<本実施形態に係るナノ多孔質電極の製造方法>
次に、上述したナノ多孔質電極の製造方法について説明する。図3の3Aに示すように、ガラス等でなる平板状の基板16aの表面に、スパッタリングによって、Cr等を成膜して第1層目の電極層16bを形成した後、同じくスパッタリングによって、第1層目の電極層16b上にAu等を成膜して第2層目の電極層16cを形成する。その後、Au-Ag合金等でなる合金部材をスパッタリングによって電極層16cの表面に成膜して合金層16eを形成して、電極層16b,16c及び合金層16eの順で基板16a上に積層した積層基板17を作製する。
【0025】
次いで、脱合金化処理として、積層基板17を硝酸水溶液に所定時間浸漬することによって、例えば、Au-Ag合金でなる合金層16eにおいて、電極層16cと同じ導電性部材であるAuを残存させてAgを腐食させることにより、図3の3Bに示すように、合金層16eから、複数の微細な空孔20が表面に形成されたナノ多孔質層16dを形成する。次いで、ナノ多孔質層16dを水酸化ナトリウム水溶液やエタノール等の洗浄液により洗浄する。このようにして、基板16a、電極層16b,16c及びナノ多孔質層16dが順次積層したナノ多孔質電極16を積層基板17から製造することができる。
【0026】
ここで、図4の4Aは、Au-Ag合金でなる合金層16eに対して硝酸水溶液を用いて脱合金化処理を行う前の積層基板17(Au-Ag合金電極と称する)の表面のFE-SEM画像である。図4の4Bは、図4の4Aに示したAu-Ag合金電極を硝酸水溶液内に15分間浸漬させて製造したナノ多孔質電極16(ナノ多孔質金電極とも称する)の表面のFE-SEM画像である。なお、図2の2Bに示すFE-SEM画像は、同じく図4の4Aに示したAu-Ag合金電極を硝酸水溶液内に15分間浸漬させて製造したナノ多孔質電極16の表面であるが、図4の4Aとは異なる長さの単位表示(スケールバー500[nm])のFE-SEM画像である。
【0027】
このように、脱合金化処理を行う前のAu-Ag合金電極は凹凸が抑制されて滑らかな表面を有しているが、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液内に浸漬させることにより表面に大小複数の微細な空孔20が形成されて凹凸状を有したナノ多孔質構造となることが分かる。
【0028】
本実施形態では、Au-Ag合金でなる合金層16eを硝酸水溶液に浸漬する時間を調整することで、ナノ多孔質層16dに形成される微細な空孔20の平均径や個数を調整することができる。そして、ナノ多孔質電極16は、ナノ多孔質層16dの表面に形成される空孔20の平均径や個数を調整することで表面の電極面積を調整することができる。
【0029】
<CV測定によるナノ多孔質電極のアンチファウリング特性の評価実験>
次に、上述した「<本実施形態に係るナノ多孔質電極の製造方法>」に示した手順に従ってナノ多孔質電極16としてナノ多孔質金電極を製造し、得られたナノ多孔質金電極を実施例とし、平面金電極を比較例1とし、脱合金化処理前のAu-Ag合金電極を比較例2として、それぞれCV測定を行い、アンチファウリング特性の評価実験を行った。その結果、図5の5A、5B及び5Cに示すような結果が得られた。なお、CV測定は、電位を制御しながら電流を測定できるポテンショスタット装置に作用極、参照電極、対極を接続し、これら3つの電極を溶液に浸漬して一定の掃引速度で電位を増減させて電流値を測定するが、本実施形態では、作用電極として、ナノ多孔質金電極、平面金電極又はAu-Ag合金電極のいずれかを使用した。
【0030】
具体的には、本評価実験に用いたナノ多孔質金電極は以下のようにして製造した。始めに、基板16aとしてガラス基板を用意し、当該ガラス基板上にスパッタリングによってCrを160[nm]の厚さで成膜して電極層16bを第1層目として形成した後、当該第1層目の電極層16b上にスパッタリングによってAuを80[nm]の厚さで成膜して第2層目の電極層16cを形成した。
【0031】
そして、電極層16c上にスパッタリングによってAu-Ag合金(Au 36[at%]、Ag 64[at%])を600[nm]の厚さで成膜して合金層16eを形成して積層基板17となるAu-Ag合金電極を作製した。次いで、70重量%の硝酸水溶液に、55℃でAu-Ag合金電極を15分間浸漬することで脱合金化処理を行い、Au-Ag合金電極のAgのみを選択的に腐食させて、水酸化ナトリウム水溶液やエタノールに30分間浸漬して表面を洗浄し、ナノ多孔質構造を有する実施例のナノ多孔質金電極を製造した。
【0032】
また、ガラス基板上にスパッタリングによってCrを160[nm]の厚さで成膜して電極層16bを形成した後、当該電極層16b上にスパッタリングによってAuを80[nm]の厚さで成膜してAuでなる電極層16cを形成して、比較例1となる平板金電極を製造した。なお、上述したナノ多孔質金電極の製造過程で、脱合金化処理を行う前に得られたAu-Ag合金電極を比較例2とした。
【0033】
本評価実験では、CV測定に用いる試料として、10[mM]のFe(III)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)に含有させた、pH7.4のFe(III)溶液を用いた。
【0034】
そして、CV測定として、始めに、複数のFe(III)溶液を用意し、Fe(III)溶液のそれぞれに、比較例1の平面金電極、比較例2のAu-Ag合金電極、又は、実施例のナノ多孔質金電極を別々に配し、これら電極(平面金電極、Au-Ag合金電極及びナノ多孔質金電極を区別しない場合には単に電極と称する)に電位をくり返し掃引してその際に流れる電流を測定した。図5の5A、5B及び5Cでは、その結果を「Fe(III)」として示す。
【0035】
その後、各電極を配したFe(III)溶液に、それぞれ夾雑物として10[mg/ml]のHSAを添加してpH7.4のアルブミン含有Fe(III)溶液とし、当該電極をアルブミン含有Fe(III)溶液内に3分間浸漬させた後に電極に電位をくり返し掃引してその際に流れる電流を測定した。図5の5A、5B及び5Cでは、その結果を「Fe(III)+HSA」として示す。
【0036】
図5の5Aは、CV測定によって得られた、比較例1の平板金電極の電流-電位曲線であり、図5の5Bは、CV測定によって得られた、比較例2のAu-Ag合金電極の電流-電位曲線であり、図5の5Cは、CV測定によって得られた、実施例のナノ多孔質金電極の電流-電位曲線である。図中のnは、再現性を確認するために、同様に作製した異なる電極を用いて同様の実験を行った回数を示す。なお、図5の5A、5B及び5Cに示したCV測定の結果は、各電極をアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬した直後の測定結果である。
【0037】
また、図5の5A、5B及び5Cの左上に示す「HSA前」は、pH7.4のFe(III)溶液に各電極を浸漬してCV測定を行った測定結果を示し、「HSA後」は、pH7.4のアルブミン含有Fe(III)溶液に各電極を浸漬してCV測定を行った測定結果を示しており、いずれも縦軸はピーク電流値を示す。
【0038】
図5の5A及び5Bから、比較例1,2では、Fe(III)溶液とアルブミン含有Fe(III)溶液とでピーク幅が変わり電流-電位曲線が大きく変化していることが確認できた。また、図5の5A及び5Bの左上に示す「HSA前」及び「HSA後」から、ピーク電流値が大きく変化すること(0に近づくこと)が確認できた。以上から、平面金電極とAu-Ag合金電極では、表面にHSAが非特異吸着(ファウリング)されてしまい、アンチファウリング特性を有していないことが確認できた。
【0039】
一方、図5の5Cから、実施例1では、Fe(III)溶液とアルブミン含有Fe(III)溶液とでピーク幅が変わらず電流-電位曲線に大きな変化が生じないことが確認できた。また、図5の5Cの左上に示す「HSA前」及び「HSA後」から、ピーク電流値に変化が見られないことが確認できた。以上から、ナノ多孔質電極16では、表面に対するHSAの非特異吸着(ファウリング)が抑制されており、アンチファウリング特性を有することが確認できた。
【0040】
次に、比較例1の平板金電極と、実施例のナノ多孔質金電極とを用いて、Fe(III)溶液に10[mg/ml]のHSAを添加する前後における電荷移動抵抗値(Rct)を調べたところ、図6の6Bに示すような結果が得られた。6Bの横軸は時間を示し、縦軸は電荷移動抵抗値(Rct)を示す。電荷移動抵抗値(Rct)は、図6の6Aに示すように、各電極のインピーダンスを測定してインピーダンスの虚数成分及び実数成分からプロットしたナイキスト線図(6A中、縦軸のZ´´が虚数成分、横軸のZ´が実数成分)を基に求めた。
【0041】
各電極のインピーダンスを測定する際の測定条件は、測定周波数を1~10[Hz]、印加交流電圧を10[mV]とした。
【0042】
図6の結果から、平面金電極では、Fe(III)溶液にHSAを添加すると、電荷移動抵抗値Rctが大きく上昇した後、さらに時間経過とともに次第に上昇してゆき、電荷移動抵抗値Rctに大きな変化が生じることが確認できた。これは、HSAが添加されることにより、平面金電極にHSAが吸着し、吸着したHSAが電子のやり取りを阻害することにより、電荷移動抵抗値Rctが増大したと考えられる。
【0043】
一方、ナノ多孔質金電極では、Fe(III)溶液にHSAを添加しても、電荷移動抵抗値Rctについて大きな変化はなかった。これは、HSAを添加しても、ナノ多孔質金電極にHSAが吸着しないことから、HSAによる電子のやり取りの阻害がなく、電荷移動抵抗値Rctに大きな変化がなかったと考えられる。よって、ナノ多孔質金電極では、HSAの非特異吸着(ファウリング)が抑制されており、アンチファウリング特性を有することが確認できた。
【0044】
<作用及び効果>
以上の構成において、バイオセンサ10では、試料20a内に浸漬する電極をナノ多孔質構造からなるナノ多孔質電極16とし、試料20a内に含まれる検出対象物質41がナノ多孔質電極16に結合することにより生じるナノ多孔質電極16の電荷密度の変化を検出する。バイオセンサ10は、試料20a内に浸漬させる電極をナノ多孔質電極16とすることにより、試料20a内に浸漬する電極表面において、試料20a内に含まれる夾雑物40の、ナノ多孔質電極16に対する非特異吸着が抑制され、検出対象物質41を従来よりも高感度で検出することができる。
【0045】
<ナノ多孔質電極のナノ多孔質構造について>
次に、上述した「<本実施形態に係るナノ多孔質電極の製造方法>」に示した手順に従ってナノ多孔質電極16を製造する際に、硝酸水溶液に浸漬する時間を変えて複数のナノ多孔質電極16を製造し、各ナノ多孔質電極16についてアンチファウリング特性の評価実験を行った。
【0046】
具体的には、上述した「<本実施形態に係るナノ多孔質電極の製造方法>」に示した手順に従って、基板16aとしてガラス基板を用意し、当該ガラス基板上に、スパッタリングによって、Crを160[nm]の厚さで成膜した後、Auを80[nm]の厚さで成膜してAuの電極層16cを形成し、さらに、電極層16c上にスパッタリングによってAu-Ag合金(Au 36[at%]、Ag 64[at%])を600[nm]の厚さで成膜して合金層16eを形成して積層基板17となるAu-Ag合金電極を作製した。
【0047】
次いで、Au-Ag合金電極を70重量%の硝酸水溶液に55℃で浸漬する時間を、5分、15分、30分、60分と変えてゆき、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬して脱合金化処理を行い、Au-Ag合金電極のAgのみを選択的に腐食させ、水酸化ナトリウム水溶液やエタノールに30分間浸漬して洗浄し、ナノ多孔質構造を有するナノ多孔質金電極をそれぞれ製造した。
【0048】
そして、硝酸水溶液に浸漬する時間を変えて製造したナノ多孔質金電極について、それぞれFE-SEM画像によるナノ多孔質構造の解析と、CV測定によるアンチファウリング特性の評価とを行った。また、比較例として上述した平面金電極についてもFE-SEM画像による表面解析と、CV測定によるアンチファウリング特性の評価とを行った。
【0049】
なお、平面金電極とナノ多孔質金電極とをそれぞれHSAに5分間浸漬したときのCV測定について下記のようにして行った。始めに、10[mM]のFe(III)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS:Phosphate buffered saline)に含有させたpH7.0のFe(III)溶液に、平面金電極又はナノ多孔質金電極を浸漬させてCV測定を4サイクル行った後、Fe(III)溶液から平面金電極とナノ多孔質金電極を取り出した。次いで、Fe(III)溶液から取り出した平面金電極とナノ多孔質金電極を、10[mg/ml]のHSAを添加したpH7.0のアルブミン含有Fe(III)溶液に、それぞれ5分間浸漬した後に取り出し、再びFe(III)溶液に浸漬してCV測定を4サイクル行い、そのときに得られる電流-電位曲線を、HSAに5分間浸漬したときのCV測定の測定結果として測定した。
【0050】
また、平面金電極とナノ多孔質金電極とをそれぞれHSAに15分間浸漬したときのCV測定については、上述したように、HSAに5分間浸漬したときのCV測定の測定結果を調べた後に、再び、平面金電極とナノ多孔質金電極とをアルブミン含有Fe(III)溶液に、それぞれ10分間浸漬して、既にHSAに5分間浸漬したときと合わせて総合で15分間浸漬させた後に取り出し、Fe(III)溶液に浸漬してCV測定を4サイクル行い、そのときに得られる電流-電位曲線を、HSAに15分間浸漬したときのCV測定の測定結果として測定した。
【0051】
同様にして、平面金電極とナノ多孔質金電極とをさらにアルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間を足してゆき、総合して30分間、60分間、アルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させた平面金電極とナノ多孔質金電極とについて、それぞれFe(III)溶液に浸漬してCV測定を4サイクル行い、そのときに得られる電流-電位曲線を、HSAに30分間浸漬したときのCV測定の測定結果、HSAに60分間浸漬したときのCV測定の測定結果として測定した。
【0052】
図7の7Aは、比較例である平面金電極の表面のFE-SEM画像であり、図7の7Bは、当該7Aに示した平面金電極について上述したCV測定で4サイクル目に得られた電流-電位曲線を示す。図7の7Aに示すように、表面に空孔がなく滑らかな表面を有する平面金電極は、図7の7Bに示すように、HSAが添加されたアルブミン含有Fe(III)溶液に5分間浸漬すると、ピーク電流値が大幅に小さくなり、HSAの非特異吸着(ファウリング)の影響を受けていることが確認できる。
【0053】
図8の8Aは、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に5分間浸漬させたときのナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、図8の8Bは、当該8Aに示したナノ多孔質金電極について上述したCV測定で4サイクル目に得られた電流-電位曲線を示す。また、図9の9Aは、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に15分間浸漬させたときのナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、図9の9Bは、上記の9Aに示したナノ多孔質金電極について上述したCV測定で4サイクル目に得られた電流-電位曲線を示す。
【0054】
図10の10Aは、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に30分間浸漬させたときのナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、図10の10Bは、当該10Aに示したナノ多孔質金電極について上述したCV測定で4サイクル目に得られた電流-電位曲線を示す。図11の11Aは、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に60分間浸漬させたときのナノ多孔質金電極の表面のFE-SEM画像であり、図11の11Bは、上記の11Aに示したナノ多孔質金電極について上述したCV測定で4サイクル目に得られた電流-電位曲線を示す。
【0055】
図8の8A、図9の9A、図10の10A及び図11の11AのFE-SEM画像から、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液内に浸漬させることにより表面に大小複数の微細な空孔20が不規則に形成されて凹凸状を有したナノ多孔質構造となることが確認できた。また、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液内に浸漬させる時間を長くすることで、表面に形成される空孔20の平均径が次第に大きくなり、空孔20の数も次第に減ってゆくことが確認できた。
【0056】
さらに、図8の8B、図9の9B、図10の10B及び図11の11Bから、硝酸水溶液に浸漬させたときのナノ多孔質金電極では、アルブミン含有Fe(III)溶液に浸漬させる時間が長くなるにつれてピーク電流値が次第に小さくなってゆくものの、平面金電極のCV測定の結果よりもピーク電流値の変化が小さいことが確認できた。このことは、平面金電極に比してナノ多孔質金電極は、平面金電極よりもHSAの非特異吸着が抑制されており、アンチファウリング特性を有することが確認できた。特に、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に5分超30分未満の間浸漬させて製造したナノ多孔質金電極は、ピーク電流値が比較的維持されており、ナノ多孔質化による最適なアンチファウリング特性を有していることが分かった。
【0057】
<ナノ多孔質電極の接触角>
次に、Au-Ag合金電極を70重量%の硝酸水溶液に55℃で浸漬する時間を、5分、15分、30分、60分と変えて作製した各ナノ多孔質金電極について、それぞれ表面の接触角を測定した。また、比較例として、硝酸水溶液に浸漬していないAu-Ag合金電極(硝酸水溶液に浸漬する時間が0[min])についても表面の接触角を測定した。その結果、図12に示すような結果が得られた。図12では、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬する時間を横軸(「Surface treatment time(min)」)に示し、表面での接触角を縦軸(「Contact angle(°)」)に示す。
【0058】
接触角は、接触角測定装置として、KRUSS社製の製品名DSA25Sを使い、静的接触角を測定した。具体的には、上記の接触角測定装置DSA25Sを使用して、各電極の表面に対して、5~10[μL]の超純水を滴下し、大気中常圧下(25[℃])における滴下後の静的接触角を測定した。
【0059】
図12に示すように、硝酸水溶液に浸漬させなかった、ナノ多孔質構造を有しないAu-Ag合金電極では、超純水に対する表面の接触角が約62[°]程度となった。また、図12に示すように、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬する時間を5分にすると、ナノ多孔質金電極の表面の接触角は約45[°]となり、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬する時間を15分にすると、ナノ多孔質金電極の表面の接触角は約40[°]となり最も小さくなった。そして、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬する時間を30分にすると、ナノ多孔質金電極の表面の接触角は約45[°]になり再び大きくなることが確認できた。なお、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬する時間を60分にすると、ナノ多孔質金電極の表面の接触角は約55[°]になることが確認できた。
【0060】
以上、図12の結果から、ナノ多孔質金電極は、ナノ多孔質構造を有しないAu-Ag合金電極よりも接触角が小さくなることが確認できた。すなわち、ナノ多孔質金電極は、Au-Ag合金電極よりも、単位面積当たりの表面自由エネルギーが小さくなることが確認できた。Au-Ag合金電極の接触角が約62[°]程度であったことから、ナノ多孔質金電極の表面の接触角は、60[°]以下になっていることが好ましいことが確認できた。また、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に浸漬する時間を5分超30分未満にすることで、ナノ多孔質金電極の表面の接触角は45[°]以下にできることが確認できた。
【0061】
以上より、ナノ多孔質電極16は、Au-Ag合金電極よりもアンチファウリング特性を有することを考慮すると、超純水に対する表面の接触角が、Au-Ag合金電極の表面の接触角よりも小さい60[°]以下にすることが望ましい。
【0062】
また、ナノ多孔質電極16は、上述した図7から図11の結果から製造時に硝酸水溶液に浸漬させる時間を5分超30分未満にすると、アンチファウリング特性がより好ましいことを考慮すると、超純水に対する表面の接触角が50[°]以下がより好ましく、さらには45[°]以下にすることが最も好ましいことが確認できた。
【0063】
<ナノ多孔質電極に形成される空孔の平均径及び平均個数>
次にナノ多孔質電極に形成される空孔の平均径、平均個数について説明する。図8の8A、図9の9A、図10の10A及び図11の11Aの各FE-SEM画像において、縦1500[nm]、横2000[nm]四方内に存在する空孔20の平均径を、画像ソフトであるImage Jにより求めた。また、図8の8A、図9の9A、図10の10A及び図11の11Aの各FE-SEM画像において、縦1500[nm]、横2000[nm]四方内に存在する空孔20の平均個数を、画像ソフトであるImage Jにより求めた。その結果、表1に示すような結果が得られた。
【表1】
【0064】
上述したように、特に、Au-Ag合金電極を硝酸水溶液に5分超30分未満の間浸漬させて製造したナノ多孔質金電極がナノ多孔質化による最適なアンチファウリング特性を有していたことを考慮すると、表1から、FE-SEM画像において、縦1500[nm]、横2000[nm]四方内に存在する空孔20の平均径は11.5[nm]超29.2[nm]未満であることが望ましく、縦1500[nm]、横2000[nm]四方内に存在する空孔20の平均個数は221個超317個未満であることが望ましいことが推測できた。
【0065】
<ナノ多孔質電極の反応表面積>
次にナノ多孔質電極の反応表面積について調べたところ、表2のような結果が得られた。なお、ここでは、pH7.4のFe(III)溶液でのCV測定における金の還元量を計算した。
Au+3HO+6e → 2Au+6OH
【0066】
計算式は下記の通りである。
・計算式:反応表面積(表2中、「面積」) = (∫I dt )/測定面積 [A/cm
・I:電流値(A)
・dt = 0.001/0.05 = 0.02 (S)
(スキャン速度:0.05(V/s)、サンプル間隔:0.001(V))
・測定面積:電極の測定溶液(Fe(III)溶液)に浸漬している面積(cm
なお、還元の範囲についてはCV測定の電流値が0以下の所とした。
【表2】
【0067】
以上より、ナノ多孔質電極16は、Au-Ag合金電極よりもアンチファウリング特性を有することを考慮すると、反応表面積がAu-Ag合金電極(表2中、時間0分)の反応表面積よりも大きい1070[μA/cm]超が好ましい。また、ナノ多孔質電極16は、上述した図7から図11の結果から製造時に硝酸水溶液に浸漬させる時間を5分超30分未満にすると、アンチファウリング特性がより好ましいことを考慮すると、反応表面積が11000[μA/cm]以上がより好ましいことが確認できた。
【0068】
<IgGのナノ多孔質電極に対するアンチファウリング特性について>
次に、上述した「<本実施形態に係るナノ多孔質電極の製造方法>」に示した手順に従ってナノ多孔質電極16として、70重量%の硝酸水溶液に、55℃でAu-Ag合金電極を15分間浸漬することで脱合金化処理等を行ってナノ多孔質金電極を製造し、得られたナノ多孔質金電極を実施例とした。また、ここでは、上述した平面金電極を比較例とした。そして、各電極を、それぞれ異なるFe(III)溶液に浸漬させた後に、それぞれの電極に電位をくり返し掃引してその際に流れる電流を測定した。
【0069】
さらに、各電極を配したFe(III)溶液に、それぞれ夾雑物として0.1[mg/ml]のIgGを添加してpH7.4のIgG含有Fe(III)溶液とし、当該電極をIgG含有Fe(III)溶液内に3分間浸漬させた後に電極に電位をくり返し掃引してその際に流れる電流を測定した。
【0070】
その結果、図13の13A及び13Bに示すような結果が得られた。図13の13Aは、CV測定によって得られた、比較例の平板金電極の電流-電位曲線であり、図13の13Bは、CV測定によって得られた、実施例のナノ多孔質金電極の電流-電位曲線である。なお、電極に電位をくり返し掃引して流れる電流を測定した回数は、4回である。
【0071】
図13の13Aから、比較例の平板金電極では、ピーク電流値が大きく変化することが確認できた。このことから、平面金電極では、表面にIgGが非特異吸着(ファウリング)されてしまい、アンチファウリング特性を有していないことが確認できた。一方、図13の13Bから、実施例のナノ多孔質金電極では、ピーク電流値に変化がほぼ見られないことが確認できた。以上から、ナノ多孔質金電極では、表面に対するIgGの非特異吸着(ファウリング)が抑制されており、アンチファウリング特性を有することが確認できた。
【0072】
<第2実施形態>
<試料内に含まれる夾雑物を測定可能なバイオセンサ>
次に、上述したバイオセンサ10を利用して、試料内に含有する夾雑物を測定する場合について以下説明する。夾雑物としては、例えば、タンパク質、ペプチド等を適用することができる。タンパク質としては、アルブミン、グリコアルブミン等を適用することができる。アルブミンとしては、HSA(ヒト血清アルブミン)、BSA(ウシ血清アルブミン)等を適用することができる。
【0073】
本実施形態では、一例として、試料20a内に含有するHSAを測定するバイオセンサ10について以下説明する。なお本実施形態に係るバイオセンサ10の構成としては、図1に示した構成において、電流計36に替えて、HSAの含有量を測定可能な測定部を設ける点と、試料20aにはHSAと結合可能なヘミンが添加されている点と、で相違しており、ここでは図1を用いて説明する。
【0074】
バイオセンサ10によって試料20a内のHSAの含有量を測定する場合には、始めに、HSA及びナノ多孔質電極16の両方に結合可能なヘミンを検出対象物質として含有した試料20aを準備する。なお、この試料20aには、測定対象物であるHSAが含有されていない。容器18には、試料20aが貯留され、ナノ多孔質電極16が当該試料20aに浸漬される。
【0075】
バイオセンサ10は、試料20a内のヘミンがナノ多孔質電極16に結合することにより生じる、ナノ多孔質電極16での電荷密度の変化を測定部によって測定する。
【0076】
次いで、容器18に貯留した試料20aに、測定対象物質であるHSAを含有した溶液を添加し、HSAを試料20aに含有させる。これにより、バイオセンサ10は、試料20a内に添加されたHSAがヘミンと結合することにより試料20a内でナノ多孔質電極16と結合しているヘミンが減少し、その分、ナノ多孔質電極16での電荷密度が変化する。測定部は、HSAの添加前後に生じたナノ多孔質電極16での電荷密度の変化を測定する。これにより、測定部は、試料20aにHSAを添加する前に測定した電荷密度と、試料20aにHSAを添加した後に測定した電荷密度と、の変化に基づいて、試料20a内のHSAの含有量を測定することができる。
【0077】
なお、HSAの添加前後に測定部で測定した電荷密度の変化に基づいて試料20a内のHSAの含有量を測定する手法としては、例えば、電荷密度の変化とHSAの含有量との関係を予め示した検量線などを用いることができる。
【0078】
なお、本実施形態では、HSA及びナノ多孔質電極16の両方に結合可能な検出対象物質としてヘミンを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、HSA及びナノ多孔質電極16の両方に結合可能な検出対象物質であればその他(例えば、ヘマチン、アルカリヘマチン、塩化銅(CuCl2)、銅塩(Cu(II))、メチレンブルー)の物質を適用してもよい。
【0079】
また、本実施形態では、バイオセンサ10において検出対象物質に基づいてナノ多孔質電極の電荷密度の変化から試料20a内の含有量を測定する測定対象物質としてHSAを適用した場合について説明したが、本発明はこれに限らず、ナノ多孔質電極16に結合可能な検出対象物質と結合可能な物質であれば、例えば、BSAでもよく、また、その他のタンパク質や試料内の夾雑物を測定対象物質としてもよい。
【0080】
以上の構成において、バイオセンサ10は、電極をナノ多孔質電極16とすることで、試料20a内に含まれる夾雑物としてのHSAの、ナノ多孔質電極16に対する非特異吸着が抑制され、検出対象物質であるヘミンを高感度で検出することができる。よって、バイオセンサ10では、HSAのナノ多孔質電極16に対する非特異吸着が抑制される分、検出対象物質であるヘミンとの結合が可能であり、当該ヘミンがナノ多孔質電極16へ結合することにより生じるナノ多孔質電極16での電荷密度の変化を測定することで、HSAの含有量を測定することができる。
【0081】
<バイオセンサを用いたHSAの測定に関する検証試験について>
次に、平面金電極とナノ多孔質金電極とを用いて、それぞれHSAを測定できるか否かについて検証試験を行った。ここでは、上述した「<本実施形態に係るナノ多孔質電極の製造方法>」に示した手順に従ってナノ多孔質電極16として、70重量%の硝酸水溶液に、55℃でAu-Ag合金電極を15分間浸漬することで脱合金化処理等を行ってナノ多孔質金電極を製造し、得られたナノ多孔質金電極を実施例とした。また、上述した平面金電極を比較例とした。
【0082】
まず初めに、pH7.4のリン酸緩衝溶液(以下、単に溶液と称する)を作成し、当該溶液にヘミンの含有量を変えてヘミンの濃度が異なる複数の溶液を作成した。次いで、上述した各電極を、これらへミンの濃度を変えた溶液に浸漬させたときの電位と電流との関係を調べたところ、図14の14A及び14Bに示すような結果が得られた。
【0083】
図14から、例えば、-0.1[V]等の電位によっては、いずれの電極についても、ヘミンの濃度変化に応じて電流が変化しており、所定の電位に着目することで、ヘミンの濃度測定が可能であることが確認できた。
【0084】
次に、ヘミンを含有していない溶液に対して、HSAの含有量を変えて添加し、HSAの濃度が異なる溶液に、上述した比較例の平面金電極を浸漬したときの電位と電流との関係を調べたところ、図15の15Aに示すような結果が得られた。15Aの結果から、比較例では、HSAの非特異吸着が強いこと、電流値が極端に小さくなってしまうことが確認できた。
【0085】
また、ヘミンを700[nM]含有させた溶液に対して、HSAの含有量を変えて添加し、HSAの濃度が異なる溶液に、上述した比較例の平面金電極を浸漬したときの電位と電流との関係を調べたところ、図15の15Bに示すような結果が得られた。15Bの結果から、比較例では、HSAの非特異吸着が強いことから、HSAの非特異吸着によりピーク電流値が小さくなってしまい、HSAの測定感度は低いことが確認できた。
【0086】
次に、ヘミンを含有していない溶液に対して、HSAの含有量を変えて添加し、HSAの濃度が異なる溶液に、上述した実施例のナノ多孔質金電極を浸漬したときの電位と電流との関係を調べたところ、図16の16Aに示すような結果が得られた。なお、16Aのグラフは、上述した比較例の図15のグラフとは電流値を示す縦軸のスケールが異なっている。16Aの結果から、実施例では、HSAの非特異吸着が抑制されているため、上述した比較例のように、HSAの非特異吸着による電流値の減少がほとんどないことが確認できた。但し、この検証試験では、溶液内にヘミンを含有させていないため、ピーク電流の明確な変化は確認できなかった。
【0087】
また、ヘミンを700[nM]含有させた溶液に対して、HSAの含有量を変えて添加し、HSAの濃度が異なる溶液に、上述した実施例のナノ多孔質金電極を浸漬したときの電位と電流との関係を調べたところ、図16の16Bに示すような結果が得られた。なお、16Bのグラフは、上述した比較例の図15のグラフとは電流値を示す縦軸のスケールが異なっている。16Bの結果から、実施例では、HSAの濃度に依存して発生するピーク電流値が、比較例よりも大きくなることが確認できた。このことから、実施例では、HSAの非特異吸着が抑制されている分、HSAがヘミンと反応し易くなり、ヘミンのピーク電流値がHSAの濃度に依存して大きく変化することが確認でき、比較例よりもHSAの測定感度が高くなることが確認できた。
【0088】
次に、ヘミンを含有していない溶液と、ヘミンを700[nM]含有させた溶液とにそれぞれ比較例の平面金電極を浸漬し、それぞれの溶液に対して、IgGの含有量を変えて濃度を変化させていったときの、比較例の平面金電極で生じる電位と電流の変化を調べたところ、図17の17A及び17Bに示すような結果が得られた。
【0089】
また、ヘミンを含有していない溶液と、ヘミンを700[nM]含有させた溶液とにそれぞれ実施例のナノ多孔質金電極を浸漬し、それぞれの溶液に対して、IgGの含有量を変えて濃度を変化させていったときの、実施例のナノ多孔質金電極で生じる電位と電流の変化を調べたところ、図18の18A及び18Bに示すような結果が得られた。
【0090】
図17及び図18の結果から、IgGはヘミンと反応しないことが確認でき、また、比較例及び実施例のいずれも、IgG濃度が変化してもヘミンによるピーク電流値はほとんど変わっていないことから、IgGの濃度に依存してピーク電流値は変わらないことが確認できた。以上より、IgG及びHSAの両方を含む溶液に実施例のナノ多孔質金電極を浸漬しても、IgGの濃度に依存せずに、当該ナノ多孔質金電極により測定されたピーク電流値に基づいてHSAの濃度測定を行えることが確認できた。
【0091】
以上、上述した検証試験の結果から、実施例のナノ多孔質金電極では、HSAと結合可能なヘミンを含有させた溶液内において、HSAの濃度変化に対してヘミン由来のピーク電流が変化したことから、当該電流値の変化に基づいて、HSA濃度の測定が可能であることが確認できた。
【符号の説明】
【0092】
10 バイオセンサ
14 FET(電界効果トランジスタ)
16 ナノ多孔質電極(バイオセンサ用電極)
20a 試料

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