IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

特開2024-27734酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法
<>
  • 特開-酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法 図1
  • 特開-酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法 図2
  • 特開-酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法 図3
  • 特開-酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027734
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20240222BHJP
   C23C 16/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
H01L21/318 B
C23C16/04
【審査請求】有
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130787
(22)【出願日】2022-08-18
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼ 洋志
(72)【発明者】
【氏名】村田 逸人
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀治
(72)【発明者】
【氏名】水野 理規
【テーマコード(参考)】
4K030
5F058
【Fターム(参考)】
4K030AA03
4K030AA06
4K030AA13
4K030BA01
4K030BA02
4K030BA09
4K030BA10
4K030BA16
4K030BA17
4K030BA18
4K030BA20
4K030BA22
4K030BA38
4K030BA40
4K030BB14
4K030FA10
4K030HA01
4K030LA15
5F058BA20
5F058BB06
5F058BC08
5F058BC09
5F058BE10
5F058BF04
5F058BF24
5F058BF27
5F058BF30
5F058BF37
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤を提供する。
【解決手段】窒化膜形成の阻害剤は、酸化物表面に吸着させることで、その後、酸化物表面への窒化膜形成を阻害するための、以下の式[化1]に示す構造を有する。
[化1]

Mが、シリコン等から選択される1つで、R及びRが、水素、アルキル基、アリール基、及びアルキルシリル基の1つであり、RとRが環状基でもよく、R、R及びRが、水素、アルキル基、アリール基、及びアルキルシリル基の1つであり、R、R及びRのうち2つ以上が環状基になっていてもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体として酸化物表面に供給し、前記酸化物表面に吸着させることで、その後、前記酸化物表面への窒化膜形成を阻害するために用いられる阻害剤であって、
以下の式に示す構造を有し、
【化1】
Mが、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、
及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよく、
、R及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい
ことを特徴とする、酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【請求項2】
Mがシリコンであり、
及びRが、(i)直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であるか、(ii)Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、(iii)Nを含めてピロリジン環を形成しており、
、R及びRが、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基である、請求項1に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【請求項3】
ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上である、請求項1に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【請求項4】
前記酸化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【請求項5】
前記窒化膜が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜である、請求項1~3のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【請求項6】
以下の式に示す構造を有し、
【化2】
Mが、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、
及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよく、
、R及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい
一種以上の阻害剤を気体として酸化物表面に供給し、前記酸化物表面に吸着させることで、その後、前記酸化物表面への窒化膜形成を阻害することを特徴とする、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【請求項7】
Mがシリコンであり、
及びRが、(i)直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であるか、(ii)Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、(iii)Nを含めてピロリジン環を形成しており、
、R及びRが、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基である、請求項6に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【請求項8】
前記阻害剤が、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上である、請求項6に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【請求項9】
前記酸化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物である、請求項6~8のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【請求項10】
前記窒化膜が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜である、請求項6~8のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【請求項11】
窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面を用意する工程と、
以下の式に示す構造を有し、
【化3】
Mが、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、
及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよく、
、R及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい
一種以上の阻害剤を気体として前記表面に供給し、前記阻害剤を前記酸化物表面に選択的に吸着させる工程と、
窒化膜原料を気体として前記表面に供給し、前記阻害剤の作用により、前記窒化膜原料を前記窒化物表面に選択的に作用させることで、前記窒化物表面に選択的に窒化膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法。
【請求項12】
Mがシリコンであり、
及びRが、(i)直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であるか、(ii)Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、(iii)Nを含めてピロリジン環を形成しており、
、R及びRが、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基である、請求項11に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項13】
前記阻害剤が、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上である、請求項11に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項14】
前記酸化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物である、請求項11~13のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項15】
前記窒化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物である、請求項11~13のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項16】
前記窒化膜を形成する工程は、
(A)前記窒化膜原料として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の塩化物を前記表面に供給して、前記阻害剤の作用により、前記窒化物表面に選択的に吸着させる工程と、
(B)引き続き、前記窒化膜原料としてNを含む分子を前記表面に供給して、前記窒化物表面に吸着した前記塩化物と反応させることで、前記窒化物表面に選択的に、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜を形成する工程と、
をくり返し行う、請求項11~13のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項17】
前記Nを含む分子が、アンモニア及びヒドラジンの一方又は両方である、請求項16に記載の窒化膜の形成方法。
【請求項18】
請求項11~13のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法に用いられる前記阻害剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法、及び、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法に関する。本発明は、特に、半導体製造プロセスにおいて絶縁膜や電荷捕獲膜を形成し、所定の構造を作製(パターニング)する際に好適に適用できる。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおいて、微細構造を作製する工程はパターニングと呼ばれる。パターニングでは、薄膜製膜、フォトリソグラフィーによるマスク構造の転写、現像、現像された箇所のエッチングといった工程を経て、所定の二次元構造を作製する。
【0003】
近年、微細化・三次元化が進展するに従い、パターニングプロセスにおける「ずれ」や物理的な「揺らぎ」がデバイス製造の歩留まりやデバイスの性能に大きな影響を与えている。ずれ上に影響を受けにくいプロセスとして、自己整合(Self-Aligned)プロセスや自己集積化(Self-Assembled)プロセスといったものが採用されてきた(特許文献1、2)。今なお多くの技術者・研究者が自己整合プロセスや自己集積化プロセスを開発・調査し続けている。
【0004】
自己整合技術のうち、とりわけ原子層堆積法(Atomic Layer Deposition)を用いた選択成長技術に対する注目が集まっている。
【0005】
ここで、原子層堆積法は、製膜原料と反応剤を交互に供給し、製膜原料の飽和吸着を利用することで、三次元構造上へ均一(コンフォーマル)な薄膜形成を可能とする技術である。例えば、製膜原料としてクロロシラン類などのSi源、反応剤としてアンモニア、ヒドラジンなどの窒化剤を採用すれば、シリコン窒化膜(SiN膜)を形成し得る。
【0006】
選択成長技術は、複数種類の下地がある中で特定の下地の上にのみ薄膜を形成することである。選択成長の例としては、シリコン酸化膜からなる絶縁膜と金属膜が混在する中で、金属膜上にのみ金属膜を形成する方法(特許文献3)や、シリコン酸化膜上にのみアルミニウム酸化膜を形成する方法が発明されている。従来であれば、製膜、レジスト塗布、露光、現像、エッチング、アッシングという工程を経て、シリコン酸化膜上のシリコン酸化膜といった構造が形成されるが、選択成長技術ではこれを1工程で実現できる。露光時のずれによる不良形成の懸念を払しょくすることができるため、信頼性や歩留まりの向上に寄与すると期待されている。
【0007】
工程数の削減や歩留まり向上に加えて、半導体デバイスの立体化においても選択成長技術は有用なプロセスとみなされている。選択成長は三次元構造上へのパターニングを実現する方法の一つだからである。三次元構造上へのパターニングとは、例えば、エッチングで形成した溝の壁面上に、パターンを形成することである。これは、フォトリソグラフィーでは実現不可能である。選択成長以外の三次元構造上へのパターニング方法としては、等方性エッチングの利用(リセスプロセス)があるが(特許文献4)、深い部分と浅い部分でばらつきが生じてしまう。そのため、原子層堆積法を用いた選択成長技術がより好ましい。
【0008】
選択成長には、「下地に対する製膜原料の吸着しやすさの違い」や「吸着分子の反応のしやすさの違い」を利用する方法がある。下地への製膜原料の吸着しやすさの違いを利用する例としては、金属表面上には薄膜を形成せず、酸化膜上にのみ酸化膜を製膜する技術が挙げられる。これは、金属表面と酸化膜表面とが混在する表面上に、金属表面に凝集しやすい自己整合的性質を持つアルキルチオールを塗布し、これを製膜原料吸着の阻害剤として利用する。吸着分子の反応のしやすさの違いを利用する例としては、酸化膜上には連続した薄膜を形成させず、金属表面上にのみ金属膜を製膜する技術が挙げられる。ここでは、酸化膜上にも製膜原料が吸着するものの、エッチング種を製膜プロセス中に意図的に加えることで、酸化膜表面に吸着した製膜原料のみを除去する。これは、当該のエッチング反応においては、酸化膜表面の吸着分子の方が金属表面の吸着分子よりも反応しやすいことを利用する。
【0009】
このように選択成長に関する基礎的なアイデアは議論されており、下地と薄膜の様々な組合せにおいて用途が期待されている。その中でも、酸化膜と窒化膜が混在する中で窒化膜の上にのみ窒化膜を形成する方法は有用性が高いと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2010-114424号公報
【特許文献2】米国特許8349203号公報
【特許文献3】特開2011-18742号公報
【特許文献4】米国特許10312350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このように多くの期待が寄せられているにも関わらず、選択成長技術の例は限られている。とりわけ、酸化膜と窒化膜が混在する中で窒化膜の上にのみ窒化膜を形成する方法、特に、シリコン酸化膜とシリコン窒化膜が混在する中で、シリコン窒化膜の上にのみシリコン窒化膜や窒化チタン膜を形成する技術が実用上有望となりうるが、有効な発明は報告されていない。
【0012】
上記課題に鑑み、本発明は、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面において、窒化物表面上に選択的に窒化膜を形成することを可能とする、酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤及び酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面において、窒化物表面上に選択的に窒化膜を形成することが可能な、窒化膜の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決すべく、本発明者らは、酸化物表面に吸着しやすく窒化物表面に吸着しにくい分子(被覆分子)を阻害剤として用いることを着想した。このような被覆分子で酸化物表面を被覆して、酸化物表面への窒化膜用製膜原料の吸着を阻害し、適切な温度で反応する反応剤(窒化剤)を用いることで、窒化物表面上に選択的に窒化膜を形成することが可能となり、上述の選択成長を実現できる。本発明者らが鋭意検討したところ、特定構造を有するアミノシラン分子が、窒化物表面よりも酸化物表面に選択的に吸着しやすく、当該アミノシラン分子が吸着した酸化物表面には、窒化膜用製膜原料が吸着しにくいとの知見を得た。
【0015】
上記の知見に基づき完成された本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]気体として酸化物表面に供給し、前記酸化物表面に吸着させることで、その後、前記酸化物表面への窒化膜形成を阻害するために用いられる阻害剤であって、
以下の式に示す構造を有し、
【化1】
Mが、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、
及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよく、
、R及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい
ことを特徴とする、酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【0016】
[2]Mがシリコンであり、
及びRが、(i)直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であるか、(ii)Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、(iii)Nを含めてピロリジン環を形成しており、
、R及びRが、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基である、上記[1]に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【0017】
[3]ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上である、上記[1]に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【0018】
[4]前記酸化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【0019】
[5]前記窒化膜が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤。
【0020】
[6]以下の式に示す構造を有し、
【化2】
Mが、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、
及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよく、
、R及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい
一種以上の阻害剤を気体として酸化物表面に供給し、前記酸化物表面に吸着させることで、その後、前記酸化物表面への窒化膜形成を阻害することを特徴とする、酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【0021】
[7]Mがシリコンであり、
及びRが、(i)直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であるか、(ii)Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、(iii)Nを含めてピロリジン環を形成しており、
、R及びRが、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基である、上記[6]に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【0022】
[8]前記阻害剤が、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上である、上記[6]に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【0023】
[9]前記酸化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物である、上記[6]~[8]のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【0024】
[10]前記窒化膜が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜である、上記[6]~[9]のいずれか一項に記載の酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法。
【0025】
[11]窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面を用意する工程と、
以下の式に示す構造を有し、
【化3】
Mが、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、
及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよく、
、R及びRが、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい
一種以上の阻害剤を気体として前記表面に供給し、前記阻害剤を前記酸化物表面に選択的に吸着させる工程と、
窒化膜原料を気体として前記表面に供給し、前記阻害剤の作用により、前記窒化膜原料を前記窒化物表面に選択的に作用させることで、前記窒化物表面に選択的に窒化膜を形成する工程と、
を有することを特徴とする、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法。
【0026】
[12]Mがシリコンであり、
及びRが、(i)直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であるか、(ii)Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、(iii)Nを含めてピロリジン環を形成しており、
、R及びRが、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基である、上記[11]に記載の窒化膜の形成方法。
【0027】
[13]前記阻害剤が、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上である、上記[11]に記載の窒化膜の形成方法。
【0028】
[14]前記酸化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物である、上記[11]~[13]のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法。
【0029】
[15]前記窒化物が、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物である、上記[11]~[14]のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法。
【0030】
[16]前記窒化膜を形成する工程は、
(A)前記窒化膜原料として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の塩化物を前記表面に供給して、前記阻害剤の作用により、前記窒化物表面に選択的に吸着させる工程と、
(B)引き続き、前記窒化膜原料としてNを含む分子を前記表面に供給して、前記窒化物表面に吸着した前記塩化物と反応させることで、前記窒化物表面に選択的に、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜を形成する工程と、
をくり返し行う、上記[11]~[15]のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法。
【0031】
[17]前記Nを含む分子が、アンモニア及びヒドラジンの一方又は両方である、上記[16]に記載の窒化膜の形成方法。
【0032】
[18]上記[11]~[17]のいずれか一項に記載の窒化膜の形成方法に用いられる前記阻害剤。
【発明の効果】
【0033】
本発明による酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤及び酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法は、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面において、窒化物表面上に選択的に窒化膜を形成することを可能とする。
【0034】
本発明による窒化膜の形成方法は、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面において、窒化物表面上に選択的に窒化膜を形成することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明の一実施形態による、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法を説明する図であり、左側はフローチャートであり、右側は、フローチャートの各工程に対応する表面状態を示す模式図である。
図2】シリコン酸化膜及びシリコン窒化膜の各表面に対する、本発明の一実施形態による阻害剤(ジメチルアミノトリメチルシラン)の吸着反応の活性化エネルギーEa及びエンタルピー変化量ΔHを示す図である。
図3】シリルメチル修飾されたシリコン酸化膜(表面が-OSi(CHで修飾されたSiO膜)の表面に対する、シリコン窒化膜用製膜原料(Si源)であるジクロロシランの吸着反応の活性化エネルギーEa及びエンタルピー変化量ΔHを示す図である。
図4】シリルメチル修飾されたシリコン酸化膜(表面が-OSi(CHで修飾されたSiO膜)の表面に対する、シリコン窒化膜を形成するための反応剤(窒化剤)であるアンモニア及びヒドラジンの各種反応の活性化エネルギーEa及びエンタルピー変化量ΔHを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の一実施形態による酸化物表面への窒化膜形成の阻害剤は、これを気体として酸化物表面に供給し、前記酸化物表面に吸着させることで、その後、前記酸化物表面への窒化膜形成を阻害するために用いられる。
【0037】
本発明の一実施形態による酸化物表面への窒化膜形成の阻害方法は、上記阻害剤の一種以上を気体として酸化物表面に供給し、前記酸化物表面に吸着させることで、その後、前記酸化物表面への窒化膜形成を阻害することを特徴とする。
【0038】
本発明の一実施形態による、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面における窒化物表面への選択的な窒化膜の形成方法は、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面を用意する工程と、上記阻害剤の一種以上を気体として前記混在した表面に供給し、前記阻害剤を前記酸化物表面に選択的に吸着させる工程と、窒化膜原料を気体として前記混在した表面に供給し、前記阻害剤の作用により、前記窒化膜原料を前記窒化物表面に選択的に作用させることで、前記窒化物表面に選択的に窒化膜を形成する工程と、を有することを特徴とする。
【0039】
これら実施形態における阻害剤は、以下の式に示す構造を有する。
【化4】
【0040】
Mは、シリコン、アルミニウム、ホウ素、スズ、ゲルマニウム、及びガリウムからなる群から選択される1つであり、シリコンであることが好ましい。
【0041】
及びRは、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、RとRが環状基になっていてもよい。R及びRは、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましく、非置換で直鎖の炭素数が1~5のアルキル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが最も好ましい。アルキル基の分岐の態様は特に限定されない。また、RとRが環状基になっている場合、R及びRは、Nを含めてピペリジン環を形成するか、又は、Nを含めてピロリジン環を形成することが好ましい。
【0042】
、R及びRは、水素;直鎖又は分岐のアルキル基;アリール基;及びアルキルシリル基;からなる群から選択される1つであり、R、R及びRから選ばれる2つ以上が環状基になっていてもよい。R、R及びRは、直鎖又は分岐の、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましく、非置換で直鎖の炭素数が1~5のアルキル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが最も好ましい。アルキル基の分岐の態様は特に限定されない。
【0043】
具体的には、阻害剤は、ジメチルアミノトリメチルシラン、ジメチルアミノトリエチルシラン、ジエチルアミノトリメチルシラン、ジエチルアミノトリエチルシラン、トリメチルシリルピペリジン、トリエチルシリルピペリジン、トリメチルシリルピロリジン、及びトリエチルシリルピロリジンからなる群から選択される1つ以上であることが好ましい。
【0044】
下地の酸化物表面を構成する酸化物は、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の酸化物であることが好ましい。当該酸化物は、酸化シリコン(SiO)又は酸化アルミニウム(AlO)であることがより好ましい。SiOとしては、SiO及びSiOを挙げることができ、これらの一方又は両方が当該酸化物を構成することが好ましい。AlOとしては、AlO及びAlを挙げることができ、これらの一方又は両方が当該酸化物を構成することが好ましい。
【0045】
下地の窒化物表面を構成する窒化物は、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物であることが好ましい。当該窒化物は、窒化シリコン(SiN)であることがより好ましい。SiNとしては、SiN及びSiを挙げることができ、これらの一方又は両方が当該窒化物を構成することが好ましい。
【0046】
窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面を有する物体(下地)としては、半導体プロセスに用いられる、窒化膜と酸化膜とが混在した基板が挙げられる。
【0047】
本実施形態の阻害剤及び阻害方法において形成を阻害し得る窒化膜、及び、本実施形態における選択的な窒化膜の形成方法において形成し得る窒化膜は、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜であることが好ましく、シリコン窒化(SiN)膜又は窒化チタン(TiN)膜であることがより好ましい。
【0048】
本実施形態における選択的な窒化膜の形成方法において、窒化膜の形成工程は、(A)窒化膜原料(製膜原料)として、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の塩化物を前記混在した表面に供給して、前記阻害剤の作用により、前記窒化物表面に選択的に吸着させる工程と、(B)引き続き、窒化膜原料(反応剤;窒化剤)としてNを含む分子を前記混在した表面に供給して、前記窒化物表面に吸着した前記塩化物と反応させることで、前記窒化物表面に選択的に、シリコン、アルミニウム、ジルコニウム、ゲルマニウム、スズ、ハフニウム、銅、タングステン、チタン、及びタンタルからなる群から選択される1つ以上の窒化物からなる膜を形成する工程と、をくり返し行うことができる。
【0049】
窒化膜としてシリコン窒化(SiN)膜を形成する場合、窒化膜原料(製膜原料;Si源)としてはクロロシランを用いることができる。クロロシランとして、好適にはジクロロシラン、トリクロロシラン、テトラクロロシラン、及びヘキサクロロジシランを挙げることができ、これらの一種以上を用いることができる。窒化膜として、窒化チタン(TiN)膜を形成する場合、窒化膜原料(製膜原料;Ti源)としてはクロロチタンを用いることができる。クロロチタンとして、好適には四塩化チタンを挙げることができる。その他の窒化膜原料(製膜原料)として、クロロアルミニウム、クロロジルコニウム、クロロゲルマニウム、クロロハフニウム等を挙げることができる。
【0050】
Nを含む分子(窒化剤)は、アンモニア(NH)及びヒドラジン(N)の一方又は両方であることが好ましい。
【0051】
[阻害剤による作用・効果]
図1を参照して、本実施形態による選択的な窒化膜の形成方法における、本実施形態の阻害剤(R)-M-N-(R’)による作用効果を説明する。なお、ここでは、既述の構造式中、Nに結合するR及びRをR’と表記し、Mに結合するR、R及びRをRと表記した。以下では、M=Siである場合、すなわち、阻害剤(R)-Si-N-(R’)を用いる場合を例として説明する。また、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面として、窒化シリコン(SiN)と酸化シリコン(SiO)とが混在した表面を採用し、窒化膜としてシリコン窒化膜(SiN膜)を形成しようとする場合を例として説明する。
【0052】
製膜開始(ステップS1)の段階で、窒化シリコン(SiN)の表面には=NHと-NHが存在し、酸化シリコン(SiO)の表面には-OHが存在する。
【0053】
阻害剤暴露工程(ステップS2)では、本実施形態の阻害剤(R)-Si-N-(R’)を気体として、前記混在した表面に供給する。ここで、本実施形態の阻害剤(R)-Si-N-(R’)は、酸化シリコン(SiO)の表面に対する吸着の活性化エネルギーが、窒化シリコン(SiN)の表面に対する吸着の活性化エネルギーよりも低い。このため、阻害剤(R)-Si-N-(R’)は、窒化シリコン(SiN)の表面ではなく、酸化シリコン(SiO)の表面に選択的に吸着する。この際、酸化シリコン(SiO)の表面は、-Si-(R)で修飾された状態となる。R(すなわち、上記構造式のR、R及びR)がアルキル基の場合、酸化シリコン(SiO)の表面は「シリルアルキル化」される。なお、上記の活性化エネルギーの大小関係は、窒化シリコン(SiN)と酸化シリコン(SiO)との組合せに限らず、下地の窒化物及び酸化物として既述した任意の窒化物と酸化物との組合せに当てはまる。
【0054】
続いて、SiN用Si源曝露工程(ステップS3)では、窒化膜原料(製膜原料)としてクロロシラン(例えばジクロロシラン)を前記混在した表面に供給する。ここで、-Si-(R)で修飾された酸化シリコン(SiO)の表面に対するクロロシランの吸着反応の活性化エネルギーは高く、当該反応は起きにくい。これに対して、窒化シリコン(SiN)の表面に対するクロロシランの吸着反応の活性化エネルギーは低いため、当該反応は起きやすい。このため、クロロシランは、窒化シリコン(SiN)の表面に選択的に吸着する。この際、窒化シリコン(SiN)の表面は、=N-SiH-Clと-NH-SiH-Clが存在する状態となる。
【0055】
続いて、窒化剤暴露工程(ステップS4)では、窒化膜原料(窒化剤)としてNを含む分子(例えば、アンモニア、ヒドラジン)を前記混在した表面に供給する。ここで、図4に示すように、-Si-(R)で修飾された酸化シリコン(SiO)の表面に対するアンモニア及びヒドラジンの各種反応の活性化エネルギーは高く、これらの反応(アンモニア及びヒドラジンによる、吸着した阻害剤の除去反応)は起きにくい。このため、窒化剤は、窒化シリコン(SiN)の表面に選択的に吸着したクロロシランと反応し、その結果、窒化シリコン(SiN)の表面に選択的にシリコン窒化膜(SiN膜)が形成される。
【0056】
本実施形態の窒化膜の形成方法において、阻害剤暴露工程(ステップS2)、SiN用Si源曝露工程(ステップS3)、及び窒化剤暴露工程(ステップS4)を複数サイクルくり返す態様でもよいし、初回の阻害剤暴露工程(ステップS2)を行った後、SiN用Si源曝露工程(ステップS3)及び窒化剤暴露工程(ステップS4)を複数サイクルくり返し、その数サイクルごとに阻害剤暴露工程(ステップS2)を行う態様でもよい。
【0057】
製膜終了(ステップS5)の段階で、窒化シリコン(SiN)の表面にはシリコン窒化膜(SiN膜)が形成され、その表面には=NHと-NHが存在し、酸化シリコン(SiO)の表面は、-Si-(R)で修飾された状態のままである。
【0058】
以下、阻害剤暴露工程(ステップS2)、SiN用Si源曝露工程(ステップS3)、及び窒化剤暴露工程(ステップS4)を行う具体的な条件について説明する。
【0059】
これらの工程は、窒化物表面と酸化物表面とが混在した表面を有する物体を反応炉内に収容し、当該物体を加熱しつつ、反応炉内を所定の圧力に制御し、各種ガス(阻害剤、Si源、及び窒化剤)を反応炉内に順次供給することにより、行うことができる。反応炉は、対象の物質を収容可能であり、炉内の加熱及び圧力制御が可能であり、かつ、各種ガスを供給可能に構成されていれば、特に限定されない。
【0060】
阻害剤暴露工程(ステップS2)では、阻害剤をガスとして反応炉内に供給する。キャリアガスとして、窒素などの不活性ガスを同時に供給してもよい。一般的に、酸化物表面に阻害剤を十分に吸着させるためには、阻害剤ガスの濃度が高ければガス供給時間は短くなり、阻害剤ガスの濃度が低ければガス供給時間は長くなる。この観点から、阻害剤ガスの流量は1~300sccm、ガス供給時間は1~180秒の範囲内で適宜選択することが好ましい。不活性ガスの流量は特に限定されないが、0.3~3slmの範囲内とすることができる。
【0061】
SiN用Si源曝露工程(ステップS3)では、成膜原料であるSi源をガスとして反応炉内に供給する。Si源の種類は既述のとおりである。キャリアガスとして、窒素などの不活性ガスを同時に供給してもよい。一般的に、窒化物表面にSi源を十分に吸着させるためには、Si源ガスの濃度が高ければガス供給時間は短くなり、Si源ガスの濃度が低ければガス供給時間は長くなる。この観点から、Si源ガスの流量は1~300sccm、ガス供給時間は1~180秒の範囲内で適宜選択することが好ましい。不活性ガスの流量は特に限定されないが、0.3~3slmの範囲内とすることができる。
【0062】
窒化剤暴露工程(ステップS4)では、窒化剤をガスとして反応炉内に供給する。窒化剤の種類は既述のとおりである。一般的に、窒化物表面に吸着したSi源と窒化剤とを十分に反応させるためには、窒化剤ガスの濃度が高ければガス供給時間は短くなり、窒化剤ガスの濃度が低ければガス供給時間は長くなる。この観点から、窒化剤ガスの流量は10sccm~10slm、ガス供給時間は1~180秒の範囲内で適宜選択することが好ましい。
【0063】
阻害剤暴露工程(ステップS2)、SiN用Si源曝露工程(ステップS3)、及び窒化剤暴露工程(ステップS4)の直後にパージ工程を行い、その後、次の工程を行うことが好ましい。パージ工程は、窒素などの不活性ガスを反応炉に供給することによって行う。不活性ガスの流量は特に限定されないが、10sccm~10slmの範囲内とすることができる。ガス供給時間は特に限定されないが、0.5~90秒の範囲内とすることができる。
【0064】
一連の工程中の反応炉内の圧力は、特に限定されないが、0.1~10Torrの範囲内とすることができる。
【0065】
一連の工程中の対象の物質の温度は、形成しようとする窒化膜の種類に応じて適切な温度を設定すればよい。例えば、シリコン窒化膜を形成する場合は、対象物質の温度を450~600℃の範囲内とすることが好ましく、窒化チタン膜を形成する場合には、対象物質の温度を300~500℃の範囲内とすることが好ましい。
【0066】
SiN用Si源曝露工程(ステップS3)及び窒化剤暴露工程(ステップS4)のサイクル数は、特に限定されず、製膜しようとする窒化膜の厚さに応じて適宜設定すればよい。阻害剤暴露工程(ステップS2)の実施頻度については、1~20サイクルに一度とすることが好ましく、2~5サイクルに一度とすることがより好ましい。
【実施例0067】
(実施例1)
シリコン酸化膜(SiO膜)、シリコン窒化膜(SiN膜)、及びシリルメチル修飾されたシリコン酸化膜(表面が-OSi(CHで修飾されたSiO膜)に対して、シリコン窒化膜用製膜原料(Si源)であるジクロロシランの吸着反応に関する活性化エネルギーを調べた結果を表1に示す。活性化エネルギーは、密度汎関数法B3LYPにてcc-pVDZ基底を用いた量子化学計算によって算出した。活性化エネルギーが小さいほど、反応が優先的に進行することを示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に加えて図3も参照して、シリルメチル修飾されたシリコン酸化膜表面に対するジクロロシランの吸着反応の活性化エネルギーは高く、当該反応は起きにくいこと、すなわち、シリルメチル修飾されたシリコン酸化膜表面には、ジクロロシランが吸着しにくいことが分かった。このことから、炭化水素-ケイ素結合(-Si(R))を有する分子を阻害剤として用いることで、シリコン酸化膜表面へのシリコン窒化膜の製膜を阻害できることが推定される。
【0070】
(実施例2)
シリコン酸化膜(SiO膜)、アルミニウム酸化膜(AlO膜)、及びシリコン窒化膜(SiN膜)に対して、ジメチルアミノトリメチルシランの吸着反応に関する活性化エネルギーを調べた結果を表2に示す。活性化エネルギーは、密度汎関数法B3LYPにてcc-pVDZ基底を用いた量子化学計算によって算出した。活性化エネルギーが小さいほど、反応が優先的に進行することを示す。
【0071】
【表2】
【0072】
表2に加えて図2も参照して、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜に対するジメチルアミノトリメチルシランの吸着反応の活性化エネルギーは、シリコン窒化膜に対するジメチルアミノトリメチルシランの吸着反応の活性化エネルギーよりも小さいこと、すなわち、ジメチルアミノトリメチルシランは、シリコン窒化膜よりもシリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜に優先的に吸着することが分かった。つまり、アミノ基を有し、かつ、炭化水素-ケイ素結合を有する分子は、シリコン窒化膜表面よりもシリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜の表面に優先的に吸着する。当該分子の吸着後は、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜の表面はシリルメチル基(-OSi(CH)によって修飾される。実施例1と合わせて、当該分子を用いることで、シリコン酸化膜上へのシリコン窒化膜の形成を抑止できることが確認できた。
【0073】
(実施例3)
シリルメチル修飾されたシリコン酸化膜(表面が-OSi(CHで修飾されたSiO膜)の表面に対する、シリコン窒化膜を形成するための反応剤(窒化剤)であるアンモニア及びヒドラジンの各種反応の活性化エネルギーEa及びエンタルピー変化量ΔHを図4に示す。図4より、これらの反応の活性化エネルギーは高く、これらの反応(アンモニア及びヒドラジンによる、吸着した阻害剤の除去反応)は起きにくいことが分かった。
【0074】
[実施例1~3の考察]
実施例1より、下地のシリコン酸化膜をシリルメチル化することで、シリコン窒化膜の製膜原料であるジクロロシランが吸着しにくくなることが明らかとなった。また、実施例2より、シリルメチル化を行うための原料の一つであるジメチルアミノトリメチルシランと下地(シリコン酸化膜、アルミニウム酸化膜、及びシリコン窒化膜)との反応性を検証したところ、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜に対して優先的にシリルメチル化が進行することが明らかとなった。また、実施例3より、シリルメチル化されたシリコン酸化膜は、シリコン窒化膜を形成するための反応剤(窒化剤)であるアンモニア及びヒドラジンと反応しにくいことが明らかとなった。以上のことから、酸化膜を選択的にシリルメチル化することが可能となり、酸化膜上に窒化膜を形成することを抑止できる効果が期待できる。
【0075】
(実験例1)
シリコン酸化膜で被覆された基板及びアルミニウム酸化膜で被覆された基板をそれぞれ反応炉に導入し、所定の基板温度に加熱した。反応炉内の圧力を133Paに制御し、表3及び表4に示す工程1~6のガス条件で各種ガスを反応炉に順次供給することを70回くり返した。シリコン窒化膜を製膜しようとする発明例1及び比較例1,3では基板を600℃に加熱し、窒化チタン膜を製膜しようとする発明例2及び比較例2,4では基板を350℃に加熱した。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
発明例1,2では、ジメチルアミノトリメチルシランが阻害剤として作用したため、シリコン窒化膜又は窒化チタン膜は製膜されなかった。これに対して、比較例1~4ではシリコン窒化膜又は窒化チタン膜が形成された。このように、アミノ基を有し、かつ、炭化水素-ケイ素結合を有する分子を用いることで、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜上で、シリコン窒化膜又は窒化チタン膜の製膜が阻害されることを確認した。なお、シリコン窒化膜及び窒化チタン膜の同定・確認は、エリプソメーターを用いた屈折率測定により行った。シリコン窒化膜の屈折率は1.8~2.2程度、窒化チタン膜の屈折率は1.5~1.8程度である。
【0079】
(実験例2)
シリコン酸化膜で被覆された基板、アルミニウム酸化膜で被覆された基板、及びシリコン窒化膜で被覆された基板をそれぞれ反応炉に導入し、500℃、550℃、600℃、650℃、及び700℃の5水準に加熱した。反応炉内の圧力は133Paに制御し、表5に示す工程1~6のガス条件で各種ガスを反応炉に順次供給することを70回くり返した。
【0080】
【表5】
【0081】
表6に各基板への各基板温度における製膜可否を示す。×はシリコン窒化膜が形成されなかったことを示し、○はシリコン窒化膜が形成されたことを示す。△はシリコン窒化膜が形成されるものの、膜密度が小さく、膜中不純物の多い薄膜が形成されたことを示す。なお、シリコン窒化膜の同定・確認は、実験例1と同様に、エリプソメーターを用いた屈折率測定により行った。膜密度及び不純物については、FTIRの膜中結合状態により確認した。具体的には、膜密度の大小は、製膜した膜厚を所定厚み(例えば100nm)に規格化し、その時のメインピーク強度を比較することで、把握することができる。メインピーク強度が小さいほど、膜密度が小さいことを意味する。また、不純物については、純粋のシリコン窒化膜のピークトップ位置が既知であるため、それに対するピークシフトの有無により、不純物の有無を確認することができる。
【0082】
【表6】
【0083】
表6に示すように、製膜原料(Si源)、窒化剤、阻害剤及び基板温度の組合せによって、シリコン酸化膜上やアルミニウム酸化膜上には窒化膜の形成を阻害し、窒化膜上にのみ窒素膜を形成することができることを確認した。
【0084】
[実験例1,2の考察]
発明例1,2では、ジメチルアミノトリメチルシランによりシリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜の表面がシリルメチル化されたため、シリコン窒化膜及び窒化チタン膜の形成が促進されなかった。これに対し、比較例1,2では、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜の表面がシリルメチル化されていないため、シリコン窒化膜及び窒化チタン膜の形成が促進された。
【0085】
比較例3,4では、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜の表面をシリルメチル化することができないアミノシランを用いたところ、比較例1,2と同様に、シリコン窒化膜及び窒化チタン膜の形成が促進された。
【0086】
発明例3と発明例4の比較により、窒化剤としてアンモニアに替えてヒドラジンを用いることで、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜上への窒化膜の形成を妨害させつつ、基板温度550~650℃の範囲でシリコン窒化膜上にシリコン窒化膜を形成することができた。
【0087】
発明例4と発明例5の比較により、製膜原料としてジクロロシランに替えてヘキサクロロジシランを用いることで、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜上への窒化膜形成を妨害させつ、基板温度500~650℃の範囲でシリコン窒化膜上にシリコン窒化膜を形成することができた。
【0088】
発明例5と発明例6の比較により、シリコン酸化膜及びアルミニウム酸化膜の表面に対するジメチルアミノトリメチルシランの吸着量を増大させることで、これら酸化膜上への窒化膜の形成を妨害させつつ、基板温度500~650℃の範囲でシリコン窒化膜上にシリコン窒化膜を形成することができた。
【0089】
発明例3~6は、製膜原料、窒化剤、及び阻害剤の供給条件を変更することで、様々な温度領域で選択的な成長が可能であることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、絶縁膜や電荷捕獲膜を形成し、所定の構造を作製(パターニング)する半導体製造プロセスに好適に適用できる。
図1
図2
図3
図4