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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027776
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】化成処理装置および化成処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/14 20060101AFI20240222BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20240222BHJP
   B01D 69/02 20060101ALI20240222BHJP
   B01D 61/22 20060101ALI20240222BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20240222BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20240222BHJP
   C25D 11/04 20060101ALI20240222BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20240222BHJP
   C25D 21/16 20060101ALI20240222BHJP
   C25D 21/18 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
B01D61/14 500
B01D69/00
B01D69/02
B01D61/22
B01D71/34
B01D63/02
C25D11/04 G
C25D17/00 L
C25D21/16 B
C25D21/18 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130867
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 美佐
(72)【発明者】
【氏名】曽根 勲
(72)【発明者】
【氏名】白木 国広
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA07
4D006HA19
4D006JA25C
4D006JA53Z
4D006KA01
4D006KA31
4D006KB01
4D006KB30
4D006KC03
4D006KC14
4D006KE16R
4D006KE17R
4D006MA01
4D006MA22
4D006MA33
4D006MB02
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC23
4D006MC26
4D006MC28
4D006MC29
4D006MC30
4D006MC33
4D006MC39
4D006MC62
4D006MC63
4D006PA01
4D006PC21
4D006PC22
(57)【要約】
【課題】化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつアルミニウム材を化成処理できる装置および方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム材用の化成処理装置であって、化成処理液を貯留する化成処理槽と、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する膜モジュールとを備え、前記膜モジュールに使用される膜が中空糸膜である、化成処理装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材用の化成処理装置であって、
化成処理液を貯留する化成処理槽と、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する膜モジュールとを備え、
前記膜モジュールに使用される膜が中空糸膜である、化成処理装置。
【請求項2】
前記中空糸膜の分画粒子径が、0.001~0.45μmである、請求項1に記載の化成処理装置。
【請求項3】
前記中空糸膜の純水透過速度が500L/m・h・0.1MPa以上である、請求項1に記載の化成処理装置。
【請求項4】
前記膜モジュールにおける化成処理液の温度が40~95℃である、請求項1に記載の化成処理装置。
【請求項5】
前記膜モジュールにおいて、化成処理液に0.5~1000Vの化成電圧を印加した状態のままで化成スラッジを分離する、請求項1に記載の化成処理装置。
【請求項6】
前記中空糸膜が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜である、請求項1に記載の化成処理装置。
【請求項7】
前記膜モジュールが、外圧濾過式膜モジュールである、請求項1に記載の化成処理装置。
【請求項8】
さらに、前記化成処理槽から前記膜モジュールへと前記化成処理液を搬送するポンプを備える、請求項1~7のいずれかに記載の化成処理装置。
【請求項9】
アルミニウム材用の化成処理方法であって、
化成処理液を用いてアルミニウム材を化成処理する工程と、
前記化成処理液を膜モジュールへ搬送する工程と、
中空糸膜を備える膜モジュールを用いて、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する工程とを含む、化成処理方法。
【請求項10】
さらに、前記膜モジュールから、化成スラッジが除去された化成処理液を化成処理工程へ返送する工程を含む、請求項9に記載の化成処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアルミニウム材用の化成処理装置および化成処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム材は、自動車等の車両、船舶、機械など数多くの部品、並びに、アルミニウム電解コンデンサー等の電気製品、建築材料といった多くの分野で使用されている。アルミニウム材の製造工程では、表面積を拡大させるためにエッチング処理や、化成処理等の表面処理が行われる。
【0003】
例えば、アルミニウム電解コンデンサーは、多くの電気が蓄えられること、大小様々な形状の製品を作れること、幅広い用途があることなどから有用な電子部品とされているが、そのアルミニウム電解コンデンサーを製造する工程では、アルミニウム箔を酸等の処理液で表面積を拡大させるエッチング処理を行い、次いで陽極酸化にて酸化皮膜を形成させる化成処理を行う。この化成処理液中においては水酸化アルミニウム等の化成スラッジが形成され、これらが酸化皮膜表面に付着するとクラック、ピンホールなどが生じる原因となる。
【0004】
したがって、化成スラッジの量が多くなると化成処理液を更新する必要があるため、化成処理液から化成スラッジを除去する技術が必要となる。従来技術では一般的に遠心分離機を用いた沈降分離にて化成スラッジを除去する方法が用いられているが、粒子の小さい化成スラッジを除去することができず、化成処理液を頻繁に更新する必要があった。また、遠心分離機のメンテナンスの負担もある。その他に化成スラッジの分離方法として、水酸化アルミニウム含有溶液に種子として結晶性水酸化アルミニウムを添加して結晶性水酸化アルミニウムを析出させ分離する工程、及び/又は、分離液側をpH調整することにより結晶性水酸化アルミニウムを生成させ分離する工程が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5312127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、種子の添加やpH調整などの操作が必須工程として組み込まれており、かつ薬剤が必要であるためコストもかかり、工程操作も複雑である。したがって、アルミニウム材用の化成処理液から発生する化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつ、化成処理を行う技術が望まれている。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、化成処理液におけるpHなどの調整を必要とせず、化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつアルミニウム材を化成処理できる装置および方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討の結果、下記構成の化成処理装置によって上記課題が解消されることを見出し、当該知見に基づきさらに研究を重ねて本発明を完成した。
【0009】
本発明の一局面に係る化成処理装置は、アルミニウム材用の化成処理装置であって、化成処理液を貯留する化成処理槽と、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する膜モジュールとを備え、前記膜モジュールに使用される膜が中空糸膜であることを特徴とする。
【0010】
このような構成により、化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつアルミニウム材を化成処理する装置を提供することができる。
【0011】
また、前記化成処理装置において、前記中空糸膜の分画粒子径が、0.001~0.45μmであること、および/または、純水透過速度が500L/m・h・0.1MPa以上であることが好ましい。それにより、化成スラッジをより効率よく除去することが可能となると考えられる。
【0012】
さらに、前記化成処理装置において、前記膜モジュールにおける化成処理液の温度が40~95℃であることが好ましい。それにより、幅広い温度での化成処理に対応することが可能となる。
【0013】
また、前記膜モジュールにおいて、化成処理液に0.5~1000Vの化成電圧を印加した状態のままで化成スラッジを分離することも好ましい。それにより、より効率よく化成スラッジを除去しつつ、化成処理を行うことができると考えられる。
【0014】
さらに、前記化成処理装置において、前記膜モジュールが外圧濾過式膜モジュールであることが好ましく、また、前記中空糸膜が、ポリフッ化ビニリデン系樹脂からなる中空糸膜であることも好ましい。それにより、上述したような効果をより確実に得ることができると考えられる。
【0015】
また、前記化成処理装置は、さらに、前記化成処理槽から前記膜モジュールへと前記化成処理液を搬送するポンプを備えていてもよい。
【0016】
本発明の他の局面に係るアルミニウム材用の化成処理方法は、化成処理液を用いてアルミニウム材を化成処理する工程と、前記化成処理液を膜モジュールへ搬送する工程と、中空糸膜を備える膜モジュールを用いて、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する工程とを含むことを特徴とする。このような構成により、化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつアルミニウム材を化成処理する装置を提供することができる。
【0017】
さらに、前記化成処理方法は、前記膜モジュールから、化成スラッジが除去された化成処理液を化成処理工程へ返送する工程を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化成処理によって生じる化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつ、アルミニウム材を化成処理できる装置および方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る化成処理装置の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係る膜モジュールの一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について図面などを参照して詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
<化成処理装置>
本実施形態の化成処理装置は、アルミニウム材用の化成処理装置である。本実施形態で化成処理の対象とするアルミニウム材は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム材であれば特に限定はなく、例えば、アルミニウム電解コンデンサー用のアルミニウム箔のように、その組成として、珪素(Si)、鉄(Fe)、銅(Cu)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、ガリウム(Ga)、ニッケル(Ni)、ホウ素(B)の少なくとも1種の合金元素を必要範囲内において添加したアルミニウム合金あるいは上記の不可避的不純物元素の含有量を限定したアルミニウムも含む。なお、前記アルミニウム箔の厚みは、特に限定されないが、5~100μm、特に10~50μmの範囲内とするのが好ましい。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態の化成処理装置1は、化成処理液を貯留する化成処理槽2と、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する膜モジュール3とを少なくとも備えること、並びに、前記膜モジュールで使用される膜が中空糸膜であることを特徴とする。さらに、化成処理装置1は、化成処理槽2から膜モジュール3へ化成処理液を搬送するためのポンプ4を備えていてもよい。
【0023】
本実施形態の化成処理装置は、アルミニウム材を化成処理する際に生じる化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつ、アルミニウム材を化成処理することができる。本実施形態の化成処理装置によれば、遠心分離機等を設置する必要もなく、また、化成処理槽内を洗浄したりする必要もないため、機器のメンテナンスの工数や費用、薬品コスト、薬液の廃棄費用等を抑えることができる。また、化成処理の稼働率を向上させることもでき、産業利用上、非常に有用である。
【0024】
(化成処理槽)
化成処理槽2では、アルミニウム材に対して化成処理が行われる。化成処理槽2に貯留されている化成処理液にアルミニウム材を接触させることによって、化成処理を行うことができる。例えば、アルミニウム電解コンデンサー用のアルミニウム箔の場合、化成処理槽において化成処理液に浸漬させ、電気を流すことによって、表面に水酸化アルミニウム皮膜を形成することができる。
【0025】
化成処理槽2で使用される化成処理液としては、アルミニウム材に使用される処理液であれば特に限定はないが、例えば、アジピン酸、リン酸、ホウ酸等を含む処理液が用いられ、アルミニウムとその酸化物が溶解しないようにアルカリとしてアンモニア水、苛性ソーダ、ホウ砂などで中和し使用することができる。また、上記酸のアンモニウム塩を用いて調整を行うこともある。
【0026】
化成処理が進むにつれ、化成スラッジが発生する。これは化成処理装置を稼働し続けることによって、アルミニウム材の表面が離脱し、水酸化アルミニウムが化成処理槽内の化成処理液中に析出してくるためである。
【0027】
(ポンプ)
本実施形態の化成処理装置は、上述したように、化成処理槽2から膜モジュール3へ化成処理液を搬送するためのポンプ4を、化成処理槽2と膜モジュール3の間に備えていてもよい。ポンプ4は、前記化成処理槽2から、化成スラッジを含む化成処理液を、膜モジュール3へ搬送する。ポンプ4の流量は特に限定されず、膜モジュールの実容量に応じて、適宜設定することができる。
【0028】
(膜モジュール)
本実施形態における膜モジュール3は、化成処理槽2から搬送された化成処理液から、化成スラッジを分離、濾過して、化成処理液に含まれる化成スラッジを除去する。膜モジュール3で化成スラッジが除去された化成処理液は、化成処理槽2へ返送され、再び化成処理に使用することができる。
【0029】
本実施形態の膜モジュール3は、化成スラッジを分離、濾過できる中空糸膜を備えており、その形態は特に限定はされないが、複数の中空糸膜(濾過膜)がハウジング(ハウジング)内に収納されている膜モジュールであってもよい。
【0030】
具体的な膜モジュールとしては、例えば、外圧濾過式の中空糸膜モジュールを使用することができる。「外圧濾過式の中空糸膜モジュール」とは、中空糸膜の外表面側に原水を供給し、中空糸膜の膜壁を通過することにより濾過された濾液を内表面側から取り出す構造のモジュールである。
【0031】
より具体的には、例えば、複数の中空糸膜をそれぞれ前記ハウジングに、封止剤等で封止した膜モジュール等が挙げられる。このような膜モジュールは、中空糸膜をハウジングに封止されているので、中空糸膜がハウジングに液密に固定されている。また、本実施形態の膜モジュールは、前記各中空糸膜と前記ハウジングとが封止剤によって直接接着されて封止されていてもよいし、前記各中空糸膜が封止剤によって筒状ケースに接着され、この筒状ケースがハウジングに固定されることによって、前記各中空糸膜と前記ハウジングとが封止されていてもよい。さらには、本実施形態の膜モジュールは、例えば、中空糸膜を所定本数束ねて、この膜束を、所定長さに切断し、所定形状のハウジングに収容(充填)し、その端部を、ポリウレタン樹脂やエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂を含む封止剤で、前記ハウジングに固定することによって、得られる膜モジュールであってもよい。
【0032】
本実施形態の膜モジュール3について、図2を参照しながらより詳しく説明する。
【0033】
膜モジュール3は、図2に示すように、ハウジング31と、複数の中空糸膜32と、導入口35と、導出口36とを備える。ハウジング31は、中空糸膜モジュールのハウジングとして用いることができるものであれば、特に限定されない。具体的には、円筒状等の筒状体等が挙げられる。また、複数の中空糸膜32は、上端部33が、中空部を開口した状態で、下端部34が、中空部を封止した状態で、前記ハウジング31に、上端部33が固定される。そして、ハウジング31には、複数の中空糸膜32の下端部34側に、化成処理槽2から搬送されてくる化成処理液をハウジング31内に導入する導入口35を備える。また、ハウジング31には、複数の中空糸膜32の上端部33側に、化成処理液が各中空糸膜32を透過した濾過済液を導出する導出口36を備える。膜モジュール3は、化成処理装置に組み込まれ、導入口35から、化成処理液が導入されることによって、中空糸膜32によって濾過された濾過済液が導出口36から導出される。また、膜モジュール3は、ハウジング31内に導入された空気をハウジング31外に排出するための、空気抜き口37を備えていてもよい。また、このような中空糸膜モジュールを用いた膜濾過法では、中空糸膜の外表面から内表面にむかって、被処理液が透過されることによって、化成処理液が濾過され、化成処理液に含まれていた化成スラッジが分離される。
【0034】
また、図2に示す膜モジュールでは、上述したように、中空糸膜32の一端が開口固定され、他端が密封されているが、これに限定されず、例えば、中空糸膜の両端が開口固定されていてもよい。
【0035】
本実施形態の膜モジュールで使用される中空糸膜は、化成スラッジを分離・濾過できるものであれば限定はされないが、好ましくは、分画粒子径が、0.001~0.45μmである中空糸膜を使用することが好ましい。それにより、効率の良い分離が可能となり、また清澄な化成処理ろ液を得ることができるといった利点がある。より好ましい分画粒子径の下限値は、0.005μm以上であり、さらに好ましくは、0.01μm以上であり、より好ましい上限値は0.2μm以下であり、さらに好ましくは0.1μm以下である。
【0036】
また、前記中空糸膜の純水透過速度は500L/m・h・0.1MPa以上であることが好ましい。本実施形態において、純水透過速度とは、膜間差圧0.1MPaにおける透水量である単糸透水量を意味し、例えば、以下の方法によって測定することができる。まず、中空糸膜(長さ20cm)を用い、かつ、原水として純水を使用し、濾過圧力が0.1MPa、温度が25℃の条件で外圧濾過して、時間あたりの透水量を測定する。この測定した透水量から、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算して、膜間差圧0.1MPaにおける透水量(L/m・h)を得る。
【0037】
前記純水透過速度は、より好ましくは、550L/m・h・0.1MPa以上であり、さらに好ましくは、600L/m・h・0.1MPa以上である。上限値は特に限定されないが、分画性保持という観点から、40000L/m・h・0.1MPa以下であることが好ましく、30000L/m・h・0.1MPa以下であることがより好ましい。
【0038】
純水透過速度が500L/m・h・0.1MPa以上であれば、分画特性に優れるだけでなく、より長期にわたって優れた透過性能を維持できると考えられる。
【0039】
膜モジュールに使用する中空糸膜には、種々の素材を用いることが可能であり、特に限定されない。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリロニトリル、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルフルオライド、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン(PVDF:Poly Vinylidene DiFluoride)、ポリスルホン、酢酸セルロース、ポリビニルアルコール及びポリエーテルスルホンからなる群より選ばれる少なくとも1種類を含むことが好ましい。特に、膜強度や耐薬品性の観点から、フッ化ビニリデン系樹脂が中空糸膜の素材として好ましい。
【0040】
フッ化ビニリデン系樹脂は、中空糸膜を構成することができるフッ化ビニリデン系樹脂であれば、特に限定されない。このフッ化ビニリデン系樹脂としては、具体的には、フッ化ビニリデンのホモポリマーや、フッ化ビニリデン共重合体等が挙げられる。このフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデンに基づく繰り返し単位を有する共重合体であれば、特に限定されない。フッ化ビニリデン共重合体としては、具体的には、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体等が挙げられる。フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の中でも、フッ化ビニリデンのホモポリマーであるポリフッ化ビニリデンが好ましい。また、フッ化ビニリデン系樹脂としては、上記例示の樹脂を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
中空糸膜は、親水化処理されたものであることが好ましい。本実施形態では、中空糸膜は、0.1重量%以上10重量%以下の親水性樹脂を含有することにより親水化処理されている。なお、中空糸膜としては、親水化処理されていないものを用いることもできる。
【0042】
また、前記中空糸膜の外径は、800~5000μm(0.8~5mm)であることが好ましく、1000~2000μm(1~2mm)であることがより好ましく、1000~1800μmであることがさらに好ましく、1000~1600μmであることが特に好ましい。中空糸膜の外径が大きすぎる場合、筐体に収容する中空糸膜の本数が少なくなくので、中空糸膜の膜面積が減少し、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。また、中空糸膜の外径が小さすぎる場合、中空糸膜の強度が不足して、中空糸膜が破断する等、実用上の運転が困難になる傾向がある。中空糸膜の外径が、上記のような外径であれば、中空糸膜を用いた分離技術を実現する装置に備える中空糸膜として、好適な大きさである。
【0043】
また、前記中空糸膜の内径は、500~3000μm(0.5~3mm)であることが好ましく、600~1500μm(0.6~1.5mm)であることがより好ましく、600~1100μmであることがさらに好ましく、600~1000μmであることが特に好ましい。中空糸膜の内径が小さすぎると、透過液の抵抗(管内圧損)が大きくなり、流れが不良になる傾向がある。すなわち、高い透過流束を実現する際、中空糸膜の中空部分を通過する際の圧力損失が大きくなり、モジュール透過係数を低下させる要因となりうる。また、中空糸膜の内径が大きすぎると、中空糸膜の形状を維持できず、膜の潰れやゆがみ等が発生しやすくなる傾向がある。すなわち、中空糸膜が濾過圧力によりつぶれてしまい、中空糸膜の破断等の問題が発生しやすくなる傾向がある。
【0044】
本実施形態の膜モジュールとしては、上述の通り、中空糸膜を所定本数束ねて、この膜束を所定長さに切断したものを使用できるが、このような中空糸膜束は、中空糸膜の本数が多くなるに従って単位モジュール当たりの膜面積が広くなるため、高い濾過流量で運転することができる。しかし、中空糸膜の本数が多くなり過ぎると、中空糸膜の洗浄時における浮遊汚濁物質の排出効率が低下する。そのため、中空糸膜の外径をdi(m)、中空糸膜束における中空糸膜の本数をn(本)、ハウジングの断面積をS(m)とした場合において、100πndi/4S、により算出される膜充填率(%)が10%以上65%以下であることが好ましく、20%以上55%以下であることがより好ましい。
【0045】
中空糸膜の長さについては特に限定はなく、用途に応じて、適宜設定することができるが、例えば、有効長が0.3~2m程度であることが好ましい。長さがそのような範囲であれば、十分な流量を確保しつつ、圧力損失も抑えることができると考えられる。
【0046】
また、前記膜モジュール3に備えられるハウジング31は、上述したように、中空糸膜モジュールの筐体として用いることができるものであれば、特に限定されない。また、前記ハウジング31の内径は、10~200cmであることが好ましく、10~100cmであることがより好ましく、10~50cmであることがさらに好ましい。また、前記ハウジング31の高さは、0.3~3mであることが好ましく、0.3~2mであることがより好ましく、0.5~1.5mであることがさらに好ましい。このハウジング31が大きすぎる場合、取扱性が悪く、メンテナンス時にかかるコストが大きくなる傾向がある。また、このハウジング31が小さすぎる場合、実用上、充分な流量を確保することができず、結果として、中空糸膜モジュールを多数用意することになり、設備上でも運転上でもかかるコストが大きくなる傾向がある。
【0047】
ハウジング31の材質としては、SUS(JIS規格)、変性PPE(Poly Phenylene Ether)、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリオレフィン又はABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂などを用いることができる。
【0048】
本実施形態の化成処理装置1において、膜モジュール3中の化成処理液の温度は、40~95℃の範囲にあることが好ましい。化成処理槽2における化成処理の反応温度が通常は前記範囲であるため、40~95℃の温度範囲で膜モジュール3を使用できれば、化成処理槽から膜モジュールへ搬送する際に化成処理液を冷却する必要がないため、冷却手段等にかかる費用や手間を省くことができると考えられる。よって、本実施形態の膜モジュールに使用される膜は、前記温度範囲に耐え得る程度の耐熱性を備えていることが好ましい。一方で、化成処理液の温度が40℃未満となると、化成スラッジが析出し始めるおそれがあるため、40℃以上とすることが好ましい。
【0049】
さらに、化成処理槽2における化成処理は、通電状態で行われることも多いことから、前記膜モジュール3においても、化成処理液に通電したまま、化成スラッジを分離・濾過してもよい。すなわち、前記化成処理液に、0.5~1000V程度の化成電圧を印加した状態のまま化成スラッジを分離してもよい。それにより、化成処理槽2から通電した状態でそのままオンラインで(つまり、電圧印加を停止することなく)、化成スラッジの分離・濾過を行うことができるため、効率的に化成処理液から化成スラッジを除去することができると考えられる。
【0050】
一方で、化成電化を印加した状態のままだと、化成処理液の種類によっては、膜モジュールの濾過性が劣化する場合もある。そのような場合は、膜モジュールにおける運転条件を調節することによっても対応可能であるが、膜モジュール3においては電圧印加をしない状態で(オフラインで)分離・濾過を行うこともできる。
【0051】
(洗浄部)
本実施形態の化成処理装置は、上記構成に加え、さらに、前記膜モジュールの純水透水性能が低下した際に、中空糸膜の洗浄を実施する洗浄部(図示せず)をさらに備えていてもよい。
【0052】
洗浄部における洗浄手段は特に限定はないが、機械的な洗浄手段や酸性薬品による薬品洗浄などが挙げられる。本実施形態の化成処理処理装置では、運転継続に伴い、化成スラッジによる膜目詰まりが徐々に進行していくため、定期的に洗浄を行うことが好ましい。具体的には、膜モジュールにおける分離・濾過を開始してから一定時間が経過した後に、濾過運転を一時中断し、洗浄を行う。この洗浄によって、中空糸膜の外表面に付着した化成スラッジ等が除去され、中空糸膜の濾過能力を回復させることができ、長期間にわたって安定した濾過運転が可能になると考えられる。
【0053】
好ましくは、膜モジュールに対し逆洗を行うことによって、洗浄を行う。逆洗の方法としては、特に限定されないが、以下のような気体を用いた逆洗であることが好ましい。具体的には、図2に示すような中空糸膜モジュールでは、導出口36から、圧縮した空気を供給し、中空糸膜モジュール30を構成する各中空糸膜32に空気を供給し、膜表面の濁質成分を剥離させた後に、導入口35より空気を供給し、スクラビング(バブリング)洗浄をする。そうすることによって、中空糸膜モジュール30を構成する各中空糸膜32を逆洗することができる。
【0054】
上述したような本実施形態の化成処理装置によれば、化成処理液を頻繁に更新する必要がないため、薬品使用量、洗浄費用、産廃物にかかる費用を削減することができるという利点がある。また、化成処理液を長期間清浄に保つことができるため、得られるアルミニウム材の収率、品質が向上すると考えられる。さらに、本実施形態のように中空糸膜を用いることによって、化成処理液が高温であっても、そのまま膜モジュールで化成スラッジを除去することができる。また、化成スラッジの濃度が比較的低い(固形分濃度で100ppm未満)場合、従来の遠心分離法では除去することが困難であったが、本実施形態の膜モジュールを使用すれば、除去可能であるという利点もある。さらに、化成スラッジの固形分濃度で数百~数千ppmで使用する場合等では、従来は遠心分離機のメンテ回数が増えるという問題点もあったが、本実施形態ではそのような問題も生じない。
【0055】
<化成処理方法>
次に、上記化成処理装置を使用する化成処理方法について説明する。
【0056】
本実施形態の化成処理方法は、アルミニウム材用の化成処理方法であり、化成処理液を用いてアルミニウム材を化成処理する工程と、前記化成処理液を膜モジュールへ搬送する工程と、中空糸膜を備える膜モジュールを用いて、前記化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する工程とを、少なくとも含む。
【0057】
化成処理工程では、アルミニウム材に対して化成処理が行われる。具体的には、化成処理液にアルミニウム材を接触させることによって、化成処理を行うことができる。例えば、アルミニウム電解コンデンサー用のアルミニウム箔の場合、化成処理槽において化成処理液に浸漬させ、電気を流すことによって、表面に水酸化アルミニウム皮膜を形成することができる。
【0058】
化成処理工程で使用される化成処理液としては、上述したようなアルミニウム材に使用される処理液であれば特に限定はない。
【0059】
化成処理液を膜モジュールへ搬送する工程における搬送手段には特に限定はないが、例えば、上述したようなポンプを使用することができる。
【0060】
化成処理液に含まれる化成スラッジを分離して濾過する工程では、上述したような膜モジュールを使用する。本工程は、上述した膜モジュールを用いた分離・濾過工程であれば特に限定はされない。
【0061】
前記分離・濾過工程における化成処理液の温度は、40~95℃であることが好ましい。また、前記分離・濾過工程において、化成処理液に、0.5~1000V程度の化成電圧を印加した状態のまま化成スラッジを分離することもできる。
【0062】
前記分離・濾過工程における透過流束は、0.2~10m/日であることが好ましく、0.5~8m/日であることがより好ましい。透過流束が低すぎる場合には、中空糸膜モジュールとして、透過流束向上による、省スペース化等のコスト削減効果を充分に得られなくなる傾向がある。また、透過流束が高すぎる場合には、膜間差圧の上昇速度が早まり、頻繁に膜の薬品洗浄が必要になるという傾向がある。
【0063】
また、前記濾過工程における膜間差圧は、150kPa未満であることが好ましく、100kPa未満であることがより好ましく、50kPa未満であることがさらに好ましい。膜間差圧が低すぎる場合には、中空糸膜モジュールとして、実用上、充分な流量を確保することができない傾向がある。また、膜間差圧が高すぎる場合には、膜間差圧の上昇速度も相対的に早く、頻繁に膜の薬品洗浄が必要という傾向がある。
【0064】
さらに、膜モジュールにおける膜目詰まりを解消するために、逆洗工程を行うことが好ましい。逆洗工程では、前記中空糸膜モジュールに備えられる中空糸膜を逆流洗浄する。前記濾過工程と前記逆洗工程とは交互に行うことが好ましい。前記逆洗工程では、例えば、前記濾過工程における排出側(導出口36)に、圧縮空気等の気体や濾過液等の液体を供給することによって、前記中空糸膜を透過した気体又は液体で、前記中空糸膜を洗浄することができる。また、この洗浄の際又はその後に、図2における導入口35から空気を導入して、中空糸膜上等で気泡を発生させて、その気泡によるスクラビング(バブリング)洗浄を行ってもよい。
【0065】
また、本実施形態の化成処理方法は、前記膜モジュールから、化成スラッジが除去された化成処理液を化成処理工程へ返送する工程を含んでいてもよい。返送する手段は特に限定はなく、通常は、モジュール濾液側から圧がかかった状態で排出されるため、ポンプなどは必要なく、そのまま槽へ返送されるため、化成スラッジが低減・除去された化成処理液を化成処理工程に戻すことができる。
【0066】
このような液体処理方法であれば、中空糸膜を用いた濾過工程による液体処理を、長期間にわたって好適に行うことができる。具体的には、まず、濾過工程と濾過工程との間に行う逆洗工程で、優れた洗浄効率を発揮できる。このため、このような逆洗工程を、濾過工程と濾過工程との間に定期的に行うことによって、中空糸膜を用いた濾過工程における濾過効率の低下を充分に抑制できる。よって、中空糸膜を用いた濾過工程による液体処理を、長期間にわたって好適に行うことができる。
【0067】
このような化成処理方法によって、化成スラッジを効率よく簡便に除去しつつアルミニウム材を化成処理できる。
【実施例0068】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例により制限されるものではなく、前後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0069】
(実施例1)
中空糸膜として、親水化処理されたポリフッ化ビニリデン系樹脂からなり、分画粒子径が0.02μmであり、有効長が970mmである片端フリータイプのものを用いた。
【0070】
リン酸系化成処理液として、0.15重量%のリン酸アンモニウム水溶液を用いた。
【0071】
まず、前記化成処理液を用いて、アルミニウム電解コンデンサー用のアルミニウム箔に、85℃にて20Vで印加しながら、化成処理を行った。
【0072】
その後、前記化成処理により発生した化成スラッジを含む前記化成処理液を、前記中空糸膜を備えた膜モジュールを用いて、以下の条件で濾過を30分間行った。
試験温度:水浴を85℃に設定
逆洗間隔:エア逆洗とエアバブリングを行う(ろ過30分毎に実施)
初期膜間差圧:0.02MPa
通電:20V
前記化成処理と前記濾過処理を繰り返し行い、化成処理槽内液の濁度を1度未満に保持可能な時間(日数)を測定した。
【0073】
(実施例2)
濾過処理の際の温度を45℃に変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0074】
(実施例3)
化成処理液として、8重量%ホウ酸水溶液と0.1重量%ホウ酸アンモニウム水溶液の混合液を用いたこと、並びに、濾過処理の際の電圧を600Vに変更した以外は、実施例1と同様に試験を行った。
【0075】
(実施例4)
化成処理液として、5重量%のアジピン酸アンモニウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして試験を行った。
【0076】
(実施例5)
濾過処理の際の温度を65℃に、電圧を150Vに変更した以外は、実施例4と同様にして試験を行った。
【0077】
(比較例1)
リン酸系化成処理液として、0.15重量%のリン酸アンモニウム水溶液を用い、遠心分離(5000G)によって、化成スラッジを除去した。
【0078】
以上の実施例および比較例の試験条件と、その結果を表1にまとめる。
【0079】
【表1】
【0080】
(考察)
実施例の結果から、本発明に係る化成処理装置であれば、1ヶ月もの間、化成処理液の交換が必要ないことが確認できた。
【0081】
一方で、従来法(遠心分離)による化成スラッジの除去を適用した比較例1では、1週間で化成処理液の交換が必要となった。
【0082】
以上より、本発明によれば、長期間、化成処理液を交換する必要なく化成処理を行うことができる。ひいては、薬品使用量、洗浄費用、産廃物にかかる費用を削減することができると考えられる。また、化成処理液を長期間清浄に保つことができるため、得られるアルミニウム材の収率、品質が向上する。さらに、化成処理液が高温(45~85℃)の場合であっても、膜モジュールにより化成スラッジを除去することができることも確認できた。
【符号の説明】
【0083】
1 化成処理装置
2 化成処理槽
3 膜モジュール
4 ポンプ
31 ハウジング
32 中空糸膜
33 上端部
34 下端部
35 導入口
36 導出口
37 空気抜き口
図1
図2