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特開2024-27788電流波形分析装置及び電流波形分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027788
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】電流波形分析装置及び電流波形分析方法
(51)【国際特許分類】
   G06V 10/82 20220101AFI20240222BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20240222BHJP
【FI】
G06V10/82
G06T7/00 350C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022130887
(22)【出願日】2022-08-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2018年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティングの技術開発/革新的AIエッジコンピューティング技術の開発/AIエッジデバイスの横断的なセキュリティ評価に必要な基盤技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】瀬河 浩司
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA06
5L096BA03
5L096CA01
5L096DA01
5L096EA16
5L096HA11
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】精度の高い異常判定を実現することができる電流波形分析装置及び電流波形分析方法を提供する。
【解決手段】
測定された電流波形を分析する電流波形分析装置1であって、測定された電流波形から二次元画像データを作成する画像データ作成部2と、上記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形に応じて画像データ作成部2により作成された二次元画像データを入力することによって、潜在変数データを算出する解析部3と、解析部3で算出された潜在変数データを表示する表示部4を備え、画像データ作成部2は、上記電流波形が正常な状態にあるときに算出される潜在変数データと、上記電流波形が異常な状態にあるときに算出される潜在変数データとの差異が最大となる手順により、上記二次元画像データを作成する、電流波形分析装置1を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定された電流波形を分析する電流波形分析装置であって、
測定された電流波形から二次元画像データを作成する画像データ作成手段と、
前記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形に応じて前記画像データ作成手段により作成された二次元画像データを入力することによって、潜在変数データを算出する解析手段と、
前記解析手段で算出された前記潜在変数データを表示する表示手段を備え、
前記画像データ作成手段は、前記電流波形が正常な状態であるときに算出される前記潜在変数データと、前記電流波形が異常な状態であるときに算出される前記潜在変数データとの差異が最大となる手順により、前記二次元画像データを作成する、電流波形分析装置。
【請求項2】
前記画像データ作成手段は、前記電流波形を構成する各電流値の大きさに対応した階調を持った複数画素を二次元平面上に所定の手順で配列することによって、回転や反転により互いに重ならない前記二次元画像データを作成する、請求項1に記載の電流波形分析装置。
【請求項3】
前記画像データ作成手段は、前記複数画素を縦横同数配列する、請求項2に記載の電流波形分析装置。
【請求項4】
前記ニューラルネットワークは、
上記二次元画像データを入力する第一の畳み込みニューラルネットワークと、
前記第一の畳み込みニューラルネットワークに接続されてエンコードを行う第一の変分自己符号化器と、
前記第一の変分自己符号化器に接続されてデコードを行う第二の変分自己符号化器と、
前記第二の変分自己符号化器に接続されて潜在変数データを出力する第二の畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項1に記載の電流波形分析装置。
【請求項5】
前記表示手段は、前記潜在変数データを二次元データに変換した上で表示する、請求項1に記載の電流波形分析装置。
【請求項6】
測定された電流波形を分析する電流波形分析方法であって、
測定された電流波形から二次元画像データを作成する第一のステップと、
前記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形に応じて前記第一のステップにより作成された二次元画像データを入力することによって、潜在変数データを算出する第二のステップと、
前記第二のステップで算出された前記潜在変数データを表示する第三のステップを有し、
前記第一のステップでは、前記電流波形が正常な状態であるときに算出される前記潜在変数データと、前記電流波形が異常な状態であるときに算出される前記潜在変数データとの差異が最大となる手順により、前記二次元画像データを作成する、電流波形分析方法。
【請求項7】
前記第一のステップでは、前記電流波形を構成する各電流値の大きさに対応した階調を持った複数画素を二次元平面上に所定の手順で配列することによって、回転や反転により互いに重ならない前記二次元画像データを作成する、請求項6に記載の電流波形分析方法。
【請求項8】
前記第一のステップでは、前記複数画素を縦横同数配列する、請求項7に記載の電流波形分析方法。
【請求項9】
前記ニューラルネットワークは、
上記二次元画像データを入力する第一の畳み込みニューラルネットワークと、
前記第一の畳み込みニューラルネットワークに接続されてエンコードを行う第一の変分自己符号化器と、
前記第一の変分自己符号化器に接続されてデコードを行う第二の変分自己符号化器と、
前記第二の変分自己符号化器に接続されて潜在変数データを出力する第二の畳み込みニューラルネットワークを含む、請求項6に記載の電流波形分析方法。
【請求項10】
前記第三のステップでは、前記潜在変数データを二次元データに変換した上で表示する、請求項6に記載の電流波形分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流波形を分析する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年においては、機械学習により得られた学習済みモデルを用いて異常を検知する技術が種々考案されているが、特許文献1の段落[0015]、段落[0017]、図7及び図10と、それらの説明部分等には、検査対象の動作に起因した音データ等を変換して得られる検査画像データを評価対象とすることによって、異常音等の発生を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-189039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記変換の方法、若しくは、上記検査画像データいかんによっては、十分な検知精度が得られないという課題がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたもので、精度の高い異常判定を実現することができる電流波形分析装置及び電流波形分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、測定された電流波形を分析する電流波形分析装置であって、測定された電流波形から二次元画像データを作成する画像データ作成手段と、上記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形に応じて画像データ作成手段により作成された二次元画像データを入力することによって、潜在変数データを算出する解析手段と、解析手段で算出された潜在変数データを表示する表示手段を備え、画像データ作成手段は、上記電流波形が正常な状態であるときに算出される潜在変数データと、上記電流波形が異常な状態であるときに算出される潜在変数データとの差異が最大となる手順により、上記二次元画像データを作成する、電流波形分析装置を提供する。
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、測定された電流波形を分析する電流波形分析方法であって、測定された電流波形から二次元画像データを作成する第一のステップと、上記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形に応じて第一のステップにより作成された二次元画像データを入力することによって、潜在変数データを算出する第二のステップと、第二のステップで算出された潜在変数データを表示する第三のステップを有し、第一のステップでは、上記電流波形が正常な状態であるときに算出される潜在変数データと、上記電流波形が異常な状態であるときに算出される潜在変数データとの差異が最大となる手順により、上記二次元画像データを作成する、電流波形分析方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、精度の高い異常判定を実現することができる電流波形分析装置及び電流波形分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1の構成を示すブロック図である。
図2図1に示された電流波形分析装置1の実施例を示す図である。
図3】本発明の実施の形態に係る電流波形分析方法を示すフローチャートである。
図4図3に示された電流波形分析方法の実施例を示す図である。
図5図3に示されたステップS1において、図5(a)に示された電流波形から図5(b)に示された二次元画像データが作成された例を示す図である。
図6図3に示されたステップS1において、図6(a)に示された電流波形から図6(b)に示された二次元画像データが作成された例を示す図である。
図7図4のステップS13に示された整形処理を説明するための第一の図であり、図7(a)は電流値の大きさに対応した階調を有する画素をトリミングする場合の例、図7(b)は上記画素をパディングする場合の例を示す図である。
図8図4のステップS13に示された整形処理を説明するための第二の図であり、図8(a)は上記画素を矢印で示された向きに一列に配列する場合の例、図8(b)は二次元平面上に上記画素を矢印で示された手順で配列する第一の例、図8(c)は二次元平面上に上記画素を矢印で示された手順で配列する第二の例、図8(d)は二次元平面上に上記画素を矢印で示された手順で配列する第三の例を示す。
図9図4のステップS13に示された整形処理を説明するための第三の図であり、図9(a)は上記画素を矢印で示された手順で配列する場合の例、図9(b)は図9(a)に示された手順を時計回りに90度回転させた手順、図9(c)は図9(a)に示された手順を時計回りに180度回転させた手順、図9(d)は図9(a)に示された手順を時計回りに270度回転させた手順、図9(e)は図9(a)に示された手順を左右反転させた手順を示す。
図10図4のステップS17,S18による可視化処理の結果を示す第一の図であり、図10(a)は基準群及び分析対象群を形成する電流波形の例、図10(b)は上記基準群及び分析対象群からそれぞれ生成された潜在変数散布図の例を示す。
図11図4のステップS17,S18による可視化処理の結果を示す第二の図であり、図11(b)は図11(a)に示された上記潜在変数散布図を生成したニューラルネットワークにおいて畳み込み層の階層数を増やした場合に生成された潜在変数散布図の例を示す。
図12図3に示された電流波形の例を示すグラフである。
図13図3に示された電流波形の例を示すグラフであり、図13(a)は当該電子基板が正常状態にあるときに測定された電流波形を示し、図13(b)は当該電子基板へ温度負荷をかけて異常状態としたときに測定された電流波形を示す。
図14図4のステップS17,S18による可視化処理の結果を示す第三の図であり、図14(a)は図13(a)に示された電流波形に対応して生成された潜在変数散布図を示し、図14(b)は図13(b)に示された電流波形に対応して生成された潜在変数散布図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の実施の形態を、図面を参照しつつ詳しく説明する。なお、図中同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1の構成を示すブロック図である。図1に示されるように、本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1は、ノードNと、ノードNに接続されたバスBと、それぞれバスBに接続された画像データ作成部2、解析部3、表示部4、及び記憶部5を備える。
【0012】
ここで、画像データ作成部2は、IоT機器の端子や電子基板等で測定される電流波形が正常状態にあるときに算出される潜在変数データと、上記電流波形が異常状態にあるときに算出される潜在変数データの差異が最大となる手順により、測定された電流波形から二次元画像データを作成する。なお、上記手順による二次元画像データの作成方法については、後に詳しく説明する。
【0013】
解析部3は、各々の上記状態に対応して得られた上記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形から画像データ作成部2により作成された二次元画像データを入力することによって、多次元空間上の潜在変数データを算出する。
【0014】
表示部4は解析部3で算出された高次元の潜在変数データを二次元データへ次元圧縮した上でモニタ等に表示し、記憶部5は各種のプログラムやデータを記憶する。
【0015】
図2は、図1に示された電流波形分析装置1の実施例を示す図である。図2に示されるように、図1に示された画像データ作成部2、解析部3、及び表示部4は、例えば中央演算処理装置(CPU)10により実現される。なお、記憶部5は、メモリやハードディスク等により実現される。以下において、図2を参照しつつ、本実施例に係る電流波形分析装置1の動作の概要を説明する。
【0016】
図2に示されるように、ユーザは、ネットワークNWを介してCPU10に接続し、ブラウザ上に展開するウェブユーザインターフェイスIFを使用して、電流波形を示す波形データファイルを本電流波形分析装置1へ送信し、記憶部5は本ファイルを一時保存波形データファイルとして記憶する。
【0017】
CPU10は、記憶部5に記憶された上記一時保存波形データファイルに対応する二次元画像データを作成してニューラルネットワークに学習させ、その結果得られた重みファイルを記憶部5に記憶させる。ここで、上記ニューラルネットワークは、上記二次元画像データを入力する第一の畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network:CNN)と、第一のCNNに接続されてエンコードを行う第一の変分自己符号化器(Variational Auto Encoder:VAE)と、第一のVAEに接続されてデコードを行う第二のVAEと、第二のVAEに接続されて潜在変数データを出力する第二のCNNから構成される。
【0018】
そして、CPU10は、分析対象とする電流波形を示す波形データファイルに対応した二次元画像データを作成し、作成された二次元画像データを上記重みファイルで規定される学習済みニューラルネットワークへ入力することにより潜在変数データを算出して、算出された潜在変数データをモニタ等へ表示する可視化データファイルを作成する。
【0019】
このようにして作成された可視化データファイルは、ネットワークNW及びウェブユーザインターフェイスIFを介してユーザが有するモニタ等へ送信され、上記潜在変数データが可視化される。
【0020】
図3は、本発明の実施の形態に係る電流波形分析方法を示すフローチャートである。図3に示されるように、本発明の実施の形態に係る電流波形分析方法では、ステップS1において、測定された電流波形が正常な状態であるときに算出される潜在変数データと、上記電流波形が異常な状態にあるときに算出される潜在変数データとの差異が最大となる手順により、測定された電流波形から二次元画像データを作成する。
【0021】
次に、ステップS2において、上記二次元画像データを学習させた学習済みニューラルネットワークへ、分析対象とする電流波形に応じてステップS1により作成された二次元画像データを入力することによって、潜在変数データを算出する。
【0022】
次に、ステップS3において、ステップS2で算出された潜在変数データを表示する。
【0023】
図4は、図3に示された電流波形分析方法の実施例を示す図である。以下においては、図4に示された電流波形分析方法を、図1及び図2に示された電流波形分析装置1により実施する場合を例に挙げて説明するが、本電流波形分析方法は他の手段により実施してもよいことは言うまでもない。
【0024】
図4に示された電流波形分析方法は、ステップS11からステップS15からなる前処理段階、ステップS16による主処理段階、及びステップS17及びステップS18からなる可視化段階により構成され、図2に示されたCPU10が、図4に示された手順を規定し、記憶部5に記憶されたプログラムを実行することにより実現される。なお、それぞれ、上記前処理段階は図3に示されたステップS1、上記主処理段階は同ステップS2、上記可視化段階は同ステップS3の具体例に相当する。
【0025】
前処理段階では、上記電流波形に相当する一次元配列の集合である対象データを時系列系統毎に二次元画像化し、上記正常状態において得られるデータに相当する基準用データと、上記異常状態において得られるデータに相当する比較対象用データを分割格納する。具体的には、図5(a)、及び図6(a)に示されるような電流波形から、図5(b)及び図6(b)に示されるような二次元画像データを生成して、記憶部5に記憶させる。なお、図5(a)、及び図6(a)に示される電流波形において、それぞれ横軸は時間、縦軸は電流の大きさを示す。
【0026】
ステップS13では、上記電流波形を構成する各電流値を、その大きさに応じた階調を有する画素に変換することにより生成された複数の画素を対象として整形処理を行う。ここで、これら複数の画素における階調値は、例えば、各電流値を測定された電流値における最大値で除した値に定数を乗じた値とすることができる。
【0027】
なお、上記対象データの形態によっては、図4に示されるように、ステップS13の前にステップS11及びステップS12における斜線で示された各種のオプション処理、ステップS13の後にステップS14及びステップS15における斜線で示された各種のオプション処理を実行することも可能である。以下において、本整形処理について説明する。
【0028】
図7は、ステップS13に示された整形処理を説明するための第一の図であり、図7(a)は電流値の大きさに対応した階調を有する画素をトリミングする場合の例、図7(b)は上記画素をパディングする場合の例を示す図である。図7に示されるように、画素の数を自然数の二乗として上記二次元画像データを正方形の画像にするため、図7(a)における矢印の前後に示されるように画素を削除し(トリミング)、若しくは、図7(b)における矢印で示されるような0値など定数の階調を有する画素の追加(パディング)を行う。
【0029】
なお、縦横同数の画素を配列することにより、上記のように二次元画像データを正方形の画像にすれば、データセットとして使用するデータ数が少ない場合にデータ拡張しやすく、また、ニューラルネットワークの畳み込み層を増やした場合にもデータ処理がしやすいという点で好適である。
【0030】
図8は、ステップS13に示された整形処理を説明するための第二の図であり、図8(a)は上記画素を矢印で示された向きに一列に配列する場合の例、図8(b)は二次元平面上に上記画素を矢印で示された手順で配列する第一の例、図8(c)は二次元平面上に上記画素を矢印で示された手順で配列する第二の例、図8(d)は二次元平面上に上記画素を矢印で示された手順で配列する第三の例を示す。
【0031】
本整形処理では、図8(a)に示されるように、上記のようにして作成された画素を矢印で示されるように一列に配列するが、その手順は例えば、図8(b)から図8(d)の矢印で示されるような向きとすることができる。
【0032】
ここで、それぞれ図8(b)から図8(d)で示された手順で画素を配列することにより生成された三つの二次元画像データは回転や反転によって互いに重ならないため、これらを上記ニューラルネットワークへ入力した場合に上記VAEから出力される潜在変数データは異なるものとなる。従って、これら三つの二次元画像データの中で、上記電流波形が正常な状態であるときに算出される潜在変数データと、上記電流波形が異常な状態であるときに算出される潜在変数データとの差異が最大となる手順を選択する。ここで、上記差異の大きさは、例えば、表示部4に表示される上記正常状態に対応した潜在変数のクラスタと上記異常状態に対応した潜在変数のクラスタの分離度を指標とすることができる。
【0033】
なお、図8(b)から図8(d)で示された手順については、生成される二次元画像データが互いに重ならない手順であれば、これら以外の手順を採用してもよい。
【0034】
図9は、ステップS13に示された整形処理を説明するための第三の図であり、図9(a)は上記画素を矢印で示された手順で配列する場合の例、図9(b)は図9(a)に示された手順を時計回りに90度回転させた手順、図9(c)は図9(a)に示された手順を時計回りに180度回転させた手順、図9(d)は図9(a)に示された手順を時計回りに270度回転させた手順、図9(e)は図9(a)に示された手順を左右反転させた手順を示す。
【0035】
ここで、例えば図9(a)に示された二次元画像データを基準とすれば、図9(b)から図9(e)に示された二次元画像データは回転や反転によって互いに重なるため、上記VAEから出力される潜在変数データは同じものになる。従って、図9(b)から図9(e)に示された手順は、図9(a)に示された手順と異なる処理として採用することはできない。
【0036】
なお、上記整形処理においては、画素を直線状に配列する場合について説明したが、螺旋状に配置する場合等についても同様に考えられる。
【0037】
次に、ステップS16による主処理段階について説明する。本主処理では、前処理段階で作成された二次元画像データが上記第一のCNNへ入力されて上記第一のVAEによりエンコードされ、第一のVAEから出力されたデータは上記第二のVAEによりデコードされて、上記第二のCNNから潜在変数データが出力される。なお、本ニューラルネットワークの学習フェーズにおいては、本主処理により本ニューラルネットワークにおける各種パラメータが最適化される。
【0038】
次に、ステップS17及びステップS18による可視化段階について説明する。可視化段階では、ステップS16で得られた潜在変数データが高次元のデータである場合、潜在変数データを二次元(若しくは三次元)データへ次元圧縮するための可視化オプション処理を実行する。
【0039】
ここで例えば、ステップS18においては、t-分布型確率的近傍埋め込み法(t-distributed Stochastic Neighbor Embedding :t-SNE)による次元削減アルゴリズムが実行されるが、斜線で示されるように他のオプション処理を実行してもよい。
【0040】
図10は、ステップS17,S18による可視化処理の結果を示す第一の図であり、図10(a)は基準群及び分析対象群を形成する電流波形の例、図10(b)は上記基準群及び分析対象群からそれぞれ生成された潜在変数散布図の例を示す。ここで、図10(b)に示された二つの潜在変数散布図は、上記基準群を構成する電流波形と上記分析対象群を構成する電流波形との間で特徴を比較し、潜在変数の分布状態によりそれらの異同を可視化したものである。
【0041】
以上のような本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1及び電流波形分析方法によれば、一次元の時系列データを二次元画像に変換したうえでディープラーニングを行うことで、上記二次元画像データに対してCNN本来の機能を活用することができる。これにより、VAEの前後で行うCNNの階層数を深くすることによって、図11に例示されるように、これまで分離できなかった状態(この場合は個体差)が分離できるようになる。
【0042】
図11は、図4のステップS17,S18による可視化処理の結果を示す潜在変数散布図の例であるが、二つの電子基板の個体差をみるために、これらの電子基板において測定した電流波形群から生成したものである。図11(a)に示されるように、上記二つの電子基板でそれぞれ測定された電流波形から得られる潜在変数が混在表示される場合であっても、VAEの前後に入れるCNNの階層数を倍にして特徴抽出の感度を上げることで、図11(b)に示されるように、矢印で示す点を境に両者の潜在変数を分離表示させることができる。なお、図11における潜在変数の分布の形自体の差異は、使用するVAEの性質によるもので、異常判定とは無関係なものである。
【0043】
また、本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1及び電流波形分析方法によれば、従来のガウス分布に従うデータ群に加えて、ディラック測度空間に収束するデータ群についても異常分析を行うことができる。
【0044】
一般的に、正常データと異常データの識別には、正常データの強化学習型の知識ベースをもとに異常データを識別するという方法が有効とされている。これは、確率論の中心極限定理の考え方を背景として、無作為採取して平均化したデータはガウス分布に従うことを前提としている。時系列データが、ディラック測度がなす確率空間に収束(以下、ディラック測度空間と呼ぶ)するような場合、無作為採取して平均化したデータは、正常異常を問わず平均と分散が一点に収束して、標本データ数の増加とともに、その特徴は減衰して、やがて滅失する。このような場合、従来のデータ分析手法では、不十分な量のデータでは特徴を捉え切れず、十分な量のデータでは特徴が滅失してしまう。
【0045】
ここで、図12に示された三つの電流波形は、ある電子基板において測定された電流波形の例であり、各波形の電流値は右に示された平均値avr及び分散varを有する。図12に示されるように、これらの波形で示される電流値の分散は非常に小さなものとなっている。
【0046】
図12に示される電流波形においては、電源投入直後は動作環境の違いによる特徴が表れているものの、従来の方法では、異常判定の誤検知率は高くなる。また、当該電子基板の状態が安定化すると、電流データの特徴は平準化されて特徴を捉えきれない。本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1及び電流波形分析方法によれば、このような場合であっても、ディラック測度空間に収束するような時系列データを対象として、高い精度で異常判定を行うことが可能である。
【0047】
ここで、図13(a)は当該電子基板が正常状態にあるときに測定された電流波形を示し、図13(b)は当該電子基板へ温度負荷をかけて異常状態としたときに測定された電流波形を示す。また、図14(a)は図13(a)に示された電流波形に対応して生成された潜在変数散布図を示し、図14(b)は図13(b)に示された電流波形に対応して生成された潜在変数散布図を示す。
【0048】
図13(b)に示されるように、当該電子基板へ温度負荷をかけて異常状態としたときに得られる電流波形においては途中にギャップが生じているが、電流値全体の分散は小さなものとなっている。また、図14(a)に示された潜在変数は図の中心部に円状に分布しているが、図14(b)に示された潜在変数は図14(a)と同様に図の中心部に円状に分布しているだけでなく、その外縁部にも分布が広がっていることがわかる。
【0049】
このことから、本発明の実施の形態に係る電流波形分析装置1及び電流波形分析方法によれば、このような正常状態と異常状態との間においても潜在変数散布図に明確な差異を生じさせることができるため、高精度な異常判定を実現することができる。
【0050】
以上のように、本発明の実施の形態に係る異常判定では、時系列データの収束、非収束に依らず、上記正常状態でのデータに対応する参照データをCNNで特徴抽出したデータをもとに、VAEによる位相変換をする。そして、潜在変数空間にマッピングされた入力データの次元圧縮処理を行い、上記参照データとの相似距離(similarity distance)という独自の距離概念により正常異常の識別を行う。これにより、従来技術もカバーしつつ、従来技術を適用しがたい対象に対しても判定可能な電流波形分析装置及び電流波形分析方法を実現している。
【符号の説明】
【0051】
1 電流波形分析装置、2 画像データ作成部、3 解析部、4 表示部。
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