(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027916
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
(51)【国際特許分類】
B29C 43/52 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
B29C43/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131107
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】舘 範治
(72)【発明者】
【氏名】阿部 正登志
(72)【発明者】
【氏名】野村 真澄
(72)【発明者】
【氏名】淀川 正英
【テーマコード(参考)】
4F204
【Fターム(参考)】
4F204AA17
4F204AC04
4F204AJ05
4F204AK04
4F204AR06
4F204FA01
4F204FB01
4F204FN11
4F204FN15
4F204FQ15
(57)【要約】
【課題】樹脂中に赤外線吸収剤を添加しなくても、一度焼成されたポリテトラフルオロエチレン樹脂を再利用して成形体を得ることが可能なポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】懸濁重合により得られ融点が335℃未満であるポリテトラフルオロエチレンを主成分とする粉末材料を成形して成形体を得るポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、ゴム材料からなるゴム型10のキャビティ13内に、粉末材料を充填し、粉末材料を充填したゴム型10に赤外線照射装置41、赤外線照射装置42から赤外線を照射してゴム型10を加熱することにより、粉末材料を溶融させ、溶融した粉末材料を冷却して成形体を得ることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁重合により得られ融点が335℃未満であるポリテトラフルオロエチレンを主成分とする粉末材料を成形して成形体を得るポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、
ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、前記粉末材料を充填し、前記粉末材料を充填した前記ゴム型に赤外線を照射して前記ゴム型を加熱することにより、前記粉末材料を溶融させ、溶融した前記粉末材料を冷却して成形体を得ることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【請求項2】
前記ゴム材料が、赤外線吸収剤を含む、請求項1に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【請求項3】
減圧条件下で前記ゴム型を加熱する、請求項1又は2に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【請求項4】
前記粉末材料の嵩密度が300g/L以上である、請求項1又は2に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【請求項5】
前記粉末材料が無機充填材を含有する、請求項1又は2に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【請求項6】
前記粉末材料が、融点以上に加熱された熱履歴を一回以上有するポリテトラフルオロエチレンを含む、請求項1又は2に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラフルオロエチレンを懸濁重合して得られたポリテトラフルオロエチレン樹脂(モールディングパウダー)は、圧縮成形後、焼成することにより成形体とされている。焼成により得られた成形体は、切削加工等により所望の形状の成形品に加工される。
しかし、加工時に出る切削屑等の一度焼成されたポリテトラフルオロエチレン樹脂は硬く、粉砕後に圧縮しても一つに纏まらず、成形ができない。そのため、再利用が困難であった。
【0003】
特許文献1には、焼成後に粉砕されたフッ素樹脂を用いて、新たなフッ素樹脂成形体を製造する方法が開示されている。しかし、未焼成のフッ素樹脂と混合することが必須である。そのため、充分なリサイクル効率が得られなかった。
一方特許文献2には、ゴム型のキャビティ内に収容した熱可塑性樹脂を、ゴム型を通過させた赤外線で加熱溶融させた後に冷却して熱可塑性樹脂成形品を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2019/244433号
【特許文献2】国際公開第2009/123046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、特許文献2の方法を用いて、一度焼成されたポリテトラフルオロエチレン樹脂をリサイクルすることを検討したところ、ポリテトラフルオロエチレン樹脂は赤外線で加熱しても、融点以上の温度とすることが困難であった。
樹脂に赤外線吸収剤を添加すれば、ある程度の加熱が可能となるが、その場合、新たに製造する成形体が赤外線吸収剤を必要とするか否かに関わらず赤外線吸収剤を混入させることになり好ましくない。
本発明は上記事情に鑑みて、樹脂中に赤外線吸収剤を添加しなくても、焼成された熱履歴を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂を再利用して成形体を得ることが可能なポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用した。
[1]懸濁重合により得られ融点が335℃未満であるポリテトラフルオロエチレンを主成分とする粉末材料を成形して成形体を得るポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法であって、
ゴム材料からなるゴム型のキャビティ内に、前記粉末材料を充填し、前記粉末材料を充填した前記ゴム型に赤外線を照射して前記ゴム型を加熱することにより、前記粉末材料を溶融させ、溶融した前記粉末材料を冷却して成形体を得ることを特徴とするポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
[2]前記ゴム材料が、赤外線吸収剤を含む、[1]に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
[3]減圧条件下で前記ゴム型を加熱する、[1]又は[2]に記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
[4]前記粉末材料の嵩密度が300g/L以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
[5]前記粉末材料が無機充填材を含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
[6]前記粉末材料が、融点以上に加熱された熱履歴を一回以上有するポリテトラフルオロエチレンを含む、[1]~[5]のいずれかにに記載のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のポリテトラフルオロエチレン成形体の製造方法によれば、樹脂中に赤外線吸収剤を添加しなくても、焼成された熱履歴を有するポリテトラフルオロエチレン樹脂を再利用して成形体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製造方法を実施するための製造装置の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書及び特許請求の範囲における以下の用語の定義は以下のとおりである。
「単量体に基づく単位」は、単量体1分子が重合して直接形成される原子団と、前記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。本明細書において、単量体に基づく単位を、単に、単量体単位とも記す。
「単量体」とは、重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「融点」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定した融解ピークの最大値に対応する温度を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0010】
<粉末材料>
本発明の製造方法に使用する粉末材料は、ポリテトラフルオロエチレン(以下「PTFE」と称する場合がある。)、中でも、懸濁重合により得られ融点が335℃未満であるポリテトラフルオロエチレン(以下「低融点PTFE」いう。)を主成分とする。
ここで、「低融点PTFEを主成分とする」とは無機充填材を除く成分全体の質量に対する低融点PTFEの割合が50質量%以上であることを意味する。
低融点PTFEの代表例は、融点以上に加熱された熱履歴を一回以上有するPTFEである。
本発明の製造方法に使用する粉末材料は、無機充填材を含有していてもよい。
【0011】
[PTFE]
PTFEは、単量体であるテトラフルオロエチレンに基づく単位(以下「TFE単位」と称する場合がある。)を99質量%以上含む重合体である。本発明の製造方法を好適に適用できる観点から、PTFEは、TFE単位を99.5質量%以上含むことが好ましく、TFE単位が100質量%であってもよい。
【0012】
TFE単位以外の単量体単位としては、例えば、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PFAVE)、ペルフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)、ペルフルオロ(4-メトキシ-1,3-ジオキソール)、クロロトリフルオロエチレン、ペルフルオロアルキルエチレン等に基づく単量体単位が挙げられる。TFE単位以外の単量体単位は、一種でも二種以上でもよい。TFE単位以外の単量体単位を含むことにより、PTFEの結晶化がある程度抑制され、引張強度、引張伸度、耐絶縁破壊性、耐クリープ性等が向上する。
【0013】
[懸濁重合により得られたPTFE]
懸濁重合により得られたPTFEは、溶融粘度が極めて高く、例えば押出成形、射出成形のような一般的な熱可塑性樹脂の成形方法では成形できない非溶融成形性を呈する。そのため、懸濁重合により得られたPTFE(モールディングパウダーと呼ばれる。)を成形する場合には金型に充填して圧縮成形し、ついで、加熱して焼結させる方法等が採用される。
【0014】
具体的には、まず、常温でモールディングパウダーを金型に充填して圧縮成形した後、PTFEの融点以上に加熱して焼結させ、成形体とする。モールディングパウダーは、必要に応じて造粒して造粒物として使用してもよい。なお、造粒の際、無機充填材や、その他の任意成分を配合してもよい。
その後、成形体に対して切削加工などの機械加工を施し、所望の形状の成形品に加工する。成形品としては、ガスケット、ライニング、絶縁性フィルム等の工業用部材、半導体産業において強酸、強アルカリを受ける角槽等が挙げられる。
【0015】
[低融点PTFE]
上記のように、懸濁重合により得られたPTFEの成形体は、焼結の際に融点以上に加熱される熱履歴を経る。斯かる熱履歴を経ると、PTFEの融点は、熱履歴を受けないPTFEの融点(例えば340℃)より低下し、例えば327℃程度となる。
【0016】
成形体から所望の形状の成形品に加工する際に発生する切削片や、不要となった成形品が、この融点以上に加熱された熱履歴を有するPTFEに該当する。
この熱履歴を有するPTFEは硬く、粉砕後に圧縮しても一つに纏まらず、圧縮成形後に焼結する通常の方法では、新たな成形体とすることができない。
【0017】
本発明における低融点PTFEは、この融点以上に加熱された熱履歴を一回以上有し、通常の方法では成形体とすることができないPTFEを主たる対象とするが、対象となるPTFEの範囲を明確に規定する観点で、融点によりその範囲を画することとした。
なお、TFE単位以外の単量体単位をある程度以上含むPTFEは、融点以上に加熱された熱履歴を有さなくても、融点が335℃未満となり得る。このようなPTFEは、本発明の製造方法を適用するメリットが小さいものの、本発明の低融点PTFEの範囲に含まれる。熱履歴を有さなくても、本発明の適用が可能だからである。
【0018】
無機充填材を除く粉末材料全体の質量(無機充填材を含まない場合は粉末材料全体の質量、無機充填材を含む場合は粉末材料全体の質量から無機充填材の質量を除いた質量)に対する低融点PTFEの割合は50質量%以上であり、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、100質量%であってもよい。低融点PTFEの割合が高いほど、特に融点以上に加熱された熱履歴を一回以上有する低融点PTFEの割合が高いほど、リサイクル効率が高まるので好ましい。
【0019】
[任意成分]
本発明の製造方法に使用する粉末材料は、無機充填材を含有していてもよい。無機充填材を含有していても、本発明の製造方法により成形体が得られる。
無機充填材としては、ガラス繊維、カーボン繊維等の強化繊維、ブロンズ、グラファイト等の粉末の無機充填材等が挙げられる。
粉末材料全体の質量に占める無機充填材の含有量は、0~70質量%であることが好ましく、0.1~70質量%であることがより好ましく、1~60質量%であることがさらに好ましい。
【0020】
無機充填材以外の任意成分としては、低融点PTFE以外のPTFE、溶融成形可能な他のフッ素樹脂や耐熱性樹脂、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、TFE/PPVE共重合体(PFA)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。
無機充填材を除く粉末材料全体の質量(無機充填材を含まない場合は粉末材料全体の質量、無機充填材を含む場合は粉末材料全体の質量から無機充填材の質量を除いた質量)に対する無機充填材以外の任意成分の割合は50質量%以下であり、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0021】
無機充填材等の任意成分は、リサイクル対象とされた切削片等に予め含まれていたものでもよいし、ゴム型に充填する際に、新たに配合したものでもよい。上述のように、モールディングパウダー造粒の際に無機充填材や、その他の任意成分を配合する場合があるが、リサイクルにあたり、それらを特に除く必要はない。
【0022】
[嵩密度]
粉末材料の嵩密度は、300g/L以上であることが好ましく、400g/L以上であることがより好ましく、500g/L以上であることがさらに好ましい。嵩密度が好ましい範囲の下限値以上であることにより、成形時の持ち込みエアーが少なく脱気性に優れ、粉末粒子間の融着性が良好となる。また、得られる成形体に空隙が残りにくく、成形体の均一性も向上する。
【0023】
嵩密度を高くするためには、リサイクル対象とされた切削片等を適切に粉砕して粉末材料とすることが好ましい。
粉砕後の粉末材料の粒子径が小さい方が嵩密度を高くしやすい。D50は、1~500μmであることが好ましく、1~100μmであることがより好ましい。
また、粉砕後の粉末材料の粒径の分布が広い方が嵩密度を高くしやすい。具体的には、D10に対するD90の比率が2~10であることが好ましく、3~5であることがより好ましい。
なお、D10、D50、D90は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置で求めた個数基準の粒子径分布において、各々10%積算値、50%積算値、90%積算値を意味する。
【0024】
<成形装置>
図1に本発明の製造方法を実施するための製造装置の一例を示す。
図1に示す製造装置1は、ゴム型10と、ゴム型10を内部に収容するチャンバ20と、チャンバ20内を減圧するための真空ポンプ30と、ゴム型10にチャンバ20の外から赤外線を照射する赤外線照射装置41、赤外線照射装置42とを備えている。
【0025】
[ゴム型]
ゴム型10は、上面に凹部11aが形成されたゴム下型11と、下面に凸部12aが形成されたゴム上型12からなる。ゴム下型11とゴム上型12とを合わせた際、凸部12aは凹部11aに嵌合するようになっている。また、図示のように、ゴム下型11とゴム上型12とを、凹部11aと凸部12aとがある程度離間する状態で合わせると、凹部11aと凸部12aとの間にキャビティ13が形成されるようになっている。
【0026】
このキャビティ13内に粉末材料が充填されるようになっている。キャビティ13の具体的形状や大きさは、成形体の形状や大きさに合わせて、適宜設定すればよい。
粉末材料を直接赤外線で加熱するのではないため、赤外線が粉末材料中を透過する必要はない。
【0027】
但し、キャビティ13が大きすぎると、加熱されたゴム型10による粉末材料の加熱が進行しにくくなる。キャビティ13の赤外線照射装置41と赤外線照射装置42の照射方向(
図1の左右方向)に沿う長さは、30cm以下が好ましく、3~30cmがより好ましく、3~15cmがさらに好ましい。
【0028】
ゴム弾性を有するゴム材料からなるゴム型10を用いることにより、キャビティ13内に充填した粉末材料を加圧しやすい。
ゴム型10は、耐熱性のあるゴム材料(熱硬化性エラストマー)で形成することが好ましい。このようなゴム材料としては、例えば、シリコーンゴム、アクリルゴム、水素化NBRが挙げられる。中でも、シリコーンゴムは、耐熱性が特に高いので好ましい。
また、ゴム型10は赤外線を吸収して充分に加熱される組成であることが好ましい。赤外線の吸収を促進するため、ゴム型10には、赤外線吸収剤を含有させることが好ましい。
【0029】
赤外線吸収剤としては、無機系赤外線吸収剤又は有機系赤外線吸収剤のいずれを用いてもよい。
無機系赤外線吸収剤としては、酸化錫、酸化亜鉛、酸化銅等の金属酸化物、アンチモンドープ酸化錫、インジウムドープ酸化錫、In、Ga、Al及びSbよりなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含有する酸化亜鉛等の金属錯体化合物などが挙げられる。
【0030】
有機系赤外線吸収剤としては、アントラキノン系色素、シアニン系色素、ポリメチン系色素、アゾメチン系色素、アゾ系色素、ポリアゾ系色素、ジイモニウム系色素、アミニウム系色素、フタロシアニン系色素、ナフタロシアニン系色素、インドシアニン系色素、ナフトキノン系色素、インドールフェノール系色素、トリアリルメタン系色素、金属錯体系色素、ジチオールニッケル錯体系色素、アゾコバルト錯体系色素、スクワリリウム系色素などが挙げられる。
【0031】
ゴム型における赤外線吸収剤の配合量は、ゴム材料を構成する熱硬化性エラストマー100質量部に対して、0.0005~1質量部であることが好ましく、0.001~0.5質量部であることがより好ましい。
赤外線吸収剤の配合量が好ましい範囲の下限値以上であれば、充分な温度上昇を得やすい。上限値以下であればゴム型の耐久性に悪影響を与えない。
【0032】
チャンバ20は、赤外線を透過する材質で製造される。また、内部を減圧可能な強度も必要である。
真空ポンプ30は、チャンバ20の排気孔21に接続されている。
【0033】
赤外線照射装置41、赤外線照射装置42は、反射板と反射板のチャンバ20側に配置された複数の赤外線の光源で構成されている。光源の光強度のピーク波長は、0.78~2μmが好ましい。光強度のピーク波長が好ましい範囲であれば、加熱速度が大きすぎて粉末材料またはその溶融物が焦げるなどの不具合を抑制しながら、効率的に加熱できるため好ましい。
【0034】
光源としては、例えば、近赤外線領域内の約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いることができる。
なお、赤外線照射装置41、赤外線照射装置42とゴム型10との間のいずれかの位置にフィルターを配置して、上記好ましい範囲外の光の一部又は全部を遮蔽するようにしてもよい。
【0035】
<PTFE成形体の製造方法>
以下、上記製造装置1を用いてポリテトラフルオロエチレン成形体(以下「PTFE成形体」と称する場合がある。)を製造する一実施形態について説明する。
本実施形態のPTFE成形体の製造方法は、ゴム型10のキャビティ13内に、粉末材料を充填する充填工程と、粉末材料を充填したゴム型10に赤外線を照射して加熱することにより、粉末材料を溶融させる溶融工程と、溶融した粉末材料を冷却して成形体を得る冷却工程とを含む。
【0036】
[充填工程]
充填工程では、まず、ゴム下型11の凹部11aに粉末材料を充填する。そして、凸部12aを凹部11aに嵌合させるようにゴム上型12をかぶせ、凸部12aで粉末材料を凹部11aの底面に押しつけるようにして、凹部11aと凸部12aとの間に粉末材料を密な状態(できるだけエアを含まない状態)で配置する。これにより、粉末材料がゴム型10のキャビティ13に充填される。
このとき、キャビティ13内の粉末材料を充分に加圧できるよう、ゴム上型12の上面側が膨らむ程度に凸部12aを押し込むことも好ましい。
【0037】
[溶融工程]
溶融工程では、粉末材料を充填したゴム型10に赤外線を照射して加熱する。そして、加熱されたゴム型10から粉末材料に熱を伝えることにより粉末材料を加熱し、溶融させる。
【0038】
ゴム型10の加熱温度は、粉末材料中の樹脂成分の融点(粉末材料が低融点PTFEより融点の高い樹脂を含まない場合は低融点PTFEの融点、樹脂成分が低融点PTFEより高い融点の樹脂を含む場合は、当該樹脂の融点)より高くする必要がある。
具体的には、粉末材料中の樹脂成分の融点より10~100℃高い温度まで加熱することが好ましく、20~80℃高い温度までに加熱することがより好ましく、30~70℃高い温度まで加熱することがさらに好ましい。
例えば、340~430℃まで加熱することができ、350~420℃まで加熱することができ、360~410℃まで加熱することができる。
【0039】
昇温速度は、10~1000℃/時が好ましく、20~500℃/時が好ましい。昇温速度を好ましい範囲とすることにより、成形品表面と内面の温度差が軽減される。
赤外線照射装置41、赤外線照射装置42からの赤外線の照射強度は、充填する粉末材料の量により、適宜調整すればよい。
【0040】
ゴム型10を粉末材料中の樹脂成分の融点より高い温度に保つ保持時間は、充填する粉末材料の量と照射強度にもよるが、1~60分が好ましく、2~50分がより好ましく、3~30分がさらに好ましい。
ゴム型10を最高温度に保つ保持時間は、充填する粉末材料の量と照射強度にもよるが、2~50時間が好ましく、3~30時間がより好ましい。最高温度に保つ保持時間を好ましい範囲とすることにより、成形品内部も融点以上の温度になりやすい。
【0041】
溶融工程は、真空ポンプ30を用いて減圧条件下で行うことが好ましい。これにより、キャビティ13内での粉末材料の充填密度が高まり、気泡を含まない成形体を得ることができる。
粉末材料が溶融してしまった後で減圧しても、粉末材料中の空気は抜けないので、ゴム型10型の加熱を開始する時点で、充分に減圧されていることが好ましい。また、ゴム型10の加熱中も、真空ポンプ30による減圧を継続することが好ましい。
【0042】
減圧と粉末材料の溶融が進行するにつれて、粉末材料乃至その溶融物の嵩密度が上昇する。これにつれてゴム上型12が、粉末材料乃至その溶融物に未着した状態を保ちながら、ゴム下型11側に沈み込みキャビティ13の体積が減少する。また、充填工程でゴム上型12の上面側が膨らむ程度までゴム上型12を押し込んでいた場合は、その上面側が平坦化し、キャビティ13の体積が減少する。そのため、キャビティ13内の粉末材料乃至その溶融物は、ゴム型10に加圧された状態を維持できる。
減圧の程度は、0.01~10kPaとすることが好ましく、0.01~5kPaとすることよりが好ましく、0.01~1kPaとすることがさらに好ましい。
【0043】
[冷却工程]
粉末材料が充分に溶融したら、ゴム型10をチャンバ20から取り出し、ゴム型10ごとキャビティ13内の溶融物を、室温程度まで冷却する。冷却速度は、100~1000℃/時が好ましく、200~500℃/時が好ましい。冷却速度を好ましい範囲とすることにより、成形品に歪が少なくなる。冷却方法に特に限定はないが、例えば、空冷、水冷、冷プレス等により冷却することができる。
冷却後にゴム型10を開くことにより、PTFE成形体を得ることができる。
【0044】
<成形体>
得られた成形体は、切削加工等により所望の形状の成形品に加工される。成形品の用途としては、例えば、シール、パッキン、ローラー、ソケット、継手等が挙げられる。
【実施例0045】
以下に本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されない。実施例および比較例中の試験および評価は以下の方法で行った。
【0046】
<測定方法>
[融点]
走査型示差熱分析器(SII社製、DSC7200)を用いて、空気雰囲気下に300℃まで10℃/分で加熱した際の吸熱ピークから求めた。なお、吸熱ピークが複数ある場合は、最も大きい吸熱ピークのピーク温度とした。
【0047】
[粉体の平均粒径およびD90]
堀場製作所社製のレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(LA-920測定器)を用い、粉体を水中に分散させ、個数基準で粒度分布を測定し、平均粒径D50(μm)D10(μm)、およびD90(μm)を算出した。
【0048】
[疎充填嵩密度および密充填嵩密度]
粉体の疎充填嵩密度、密充填嵩密度は、国際公開第2016/017801号の[0117]、[0118]に記載の方法を用いて測定した。
[降伏強度、破断強度、伸度、比重]
JIS K6891に準じて測定した。
【0049】
<参考例1>
懸濁重合により得られた未焼成のPTFEホモポリマーからなる粉末材料(融点:341℃、嵩密度:390g/L、D10:15.3μm、D50:35.4μm、D90:85.0μm)を、圧縮成形法により厚さ1mmのシート状に成形し、参考例1の成形体を得た。
成形条件は、予備成形時の成形圧:29.4MPa、成形速度:100mm/分、最高圧力まで20mm/分、最高圧力での保持時間:2分であった。焼成時の焼成最高温度:370℃、最高温度での保持時間:4時間、昇温及び冷却速度:70℃/時であった。
【0050】
<参考例2>
懸濁重合により得られた未焼成のPTFEホモポリマーからなる粉末材料(融点:341℃、嵩密度:390g/L、D10:15.3μm、D50:35.4μm、D90:85.0μm)を、赤外線吸収剤を配合したシリコーンゴムからなるシート状のゴム型のキャビティ(70mm×70mm)内に、成形後の厚さが1mmとなるように充填した。
【0051】
粉末材料を充填したゴム型を、チャンバ内にいれ、真空ポンプにより、チャンバ内を5kPaまで減圧した。その後、この減圧状態を保ちながら、約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いて赤外線を30分間照射した。ゴム型の温度は、照射開始20分後に融点に達し、照射開始25分後に最高温度である400℃に達し、当該最高温度を5分間保持した。
その後、粉末材料の溶融物をゴム型に充填したままチャンバ内から取り出し、室温まで2時間かけて冷却して参考例2のシート状の成形体を得た。
【0052】
<比較例1>
参考例1の成形体を切削し、粉砕した粉末材料(融点:327℃、嵩密度:0.63g/L、D10:8.61μm、D50:13.1μm、D90:19.5μm)を、圧縮成形法により厚さ1mmのシート状に成形することを試みたが、予備成形終了時に団塊化をしておらず、シートの作製はできなかった。
予備成形の条件は、成形圧:29.4MPa、成形速度:100mm/分、最高圧力まで20mm/分、最高圧力での保持時間:2分であった。
【0053】
<実施例1>
参考例1の成形体を切削し、粉砕した粉末材料(融点:327℃、嵩密度:0.63g/L、D10:8.61μm、D50:13.1μm、D90:19.5μm)を、赤外線吸収剤を配合したシリコーンゴムからなるシート状のゴム型のキャビティ(70mm×70mm)内に、成形後の厚さが1mmとなるように充填した。
【0054】
粉末材料を充填したゴム型を、チャンバ内にいれ、真空ポンプにより、チャンバ内を5kPaまで減圧した。その後、この減圧状態を保ちながら、約1.2μmの付近に光強度のピークを有する近赤外線ハロゲンヒータを用いて赤外線を30分間照射した。ゴム型の温度は、照射開始20分後に融点に達し、照射開始25分後に最高温度である400℃に達し、当該最高温度を5分間保持した。
その後、粉末材料の溶融物をゴム型に充填したままチャンバ内から取り出し、室温まで120分かけて冷却して実施例1のシート状の成形体を得た。
【0055】
<評価>
各例で得られた成形体の降伏強度、破断強度、伸度、比重を表1に示す。なお、比較例1は成形体が得られなかったため、評価していない。
表1に示すとおり、実施例1と参考例2の成形体は、いずれの特性においても、参考例1の成形体と比較して遜色がなかった。
【0056】