(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027974
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】藻類培養装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240222BHJP
C12M 1/04 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C12M1/00 E
C12M1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131215
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000151449
【氏名又は名称】株式会社東京久栄
(71)【出願人】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100166073
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】矢代 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】水町 海斗
(72)【発明者】
【氏名】片野 俊也
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029BB04
4B029CC01
4B029DB11
4B029DF01
4B029DF10
(57)【要約】
【課題】高密度培養に対応した藻類培養装置を提供する。
【解決手段】 正方形型の縦長形状の培養室50と、該培養室50の周囲に位置する水温調節室60と、両側面にLEDパネルによる照明70とを備え、木製の架台80に設置されている。培養室50内には、エアストーン51が、培養室50の底面との間に5ミリメートルの隙間が生じるように1個が設置されている。水温調節室60内の水は、水が一定方向に循環し、例えばキートセロスの場合は25℃から30℃程度に温度調節が行われている。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
培養室と、水温調節室と、照明とを備え、
培養室の周囲に、水温調節室を密接して設けると共に、
培養室内に、エア供給体を設置し、
水温調節室において、ポンプにより水が一定方向に循環し、水温調節手段により水温調節を行うことを特徴とする、藻類培養装置。
【請求項2】
内部に空間を有するロ型形状の培養室と、水温調節室と、照明とを備え、
培養室の外側4面に、ロ型形状の水温調節室を密接して設けると共に、
培養室内に、エア供給体を設置し、
水温調節室において、ポンプにより水が一定方向に循環し、水温調節手段により水温調節を行うことを特徴とする、藻類培養装置。
【請求項3】
前記エア供給体を、培養室の底面との間に隙間が生じるように設置したことを特徴とする、請求項1または2に記載の藻類培養装置。
【請求項4】
前記照明が、870~1000μmol photons/m2・sの白色光の光量のものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の藻類培養装置。
【請求項5】
二酸化炭素拡散器を更に備えたことを特徴とする、請求項1または2に記載の藻類培養装置。
【請求項6】
前記水温調節室における水温調節手段が、ヒーターとチラーによることを特徴とする、請求項1または2に記載の藻類培養装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類培養装置に関し、詳細には二枚貝、魚類稚仔等の餌料として需要増大が見込まれている珪藻やハプト藻等の微細藻類を対象とする藻類培養装置に関する。
【背景技術】
【0002】
藻類培養装置として、特許文献1に記載の技術が知られている。
該特許文献1には、微細藻類を培養液の循環及び光の照射の環境下で培養する培養装置であって、前記微細藻類及び前記培養液を貯留する四角柱状の貯留室をその内部に画成する培養槽と、前記貯留室の第1側面に沿って底面から水面へと向かう水流を生起することにより、前記培養液を前記第1側面、前記水面、前記第1側面の対面である第2側面、及び前記底面のそれぞれに沿って順に循環させる循環部と、前記貯留室内の循環する前記培養液の流れに沿うように配置され、前記貯留室内へ光を照射する照明部と、を備える、培養装置が記載されている。
【0003】
該特許文献1に記載の技術によると、微細藻類は貯留室内に貯留される培養液中において培養される。
貯留室内に配置された循環部によって生起された水流に伴い生起された貯留室内を循環する培養液の流れによって、微細藻類は、貯留室内を第1側面、水面、第1側面の対面である第2側面、及び底面のそれぞれに沿って順に循環する。
ここで、照明部が、循環する培養液の流れに沿って配置されている。
この場合、微細藻類が滞留している状態や照明部が一方側にのみ配置されている状態に比べて、多くの微細藻類は、照明部に近い位置を循環により通過することで、十分な光量を受光する機会を得ることができる。
よって、特許文献1に記載の培養装置は、微細藻類の個体間の受光量の偏りを抑えることができるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記特許文献1に記載の技術は、高密度培養の際に課題となる培養液の温度調節について全く開示されておらず、高密度培養には対応できないものと推測される。
また、本願発明者らの鋭意研究の結果、高密度培養の際には、気体を放出する放出管を底面との間に隙間が生じることなく設置すると、遊泳能力をもたないキートセロスをはじめとする珪藻類では、底面付近の藻類が沈殿してしまうことが確認されているので、この点においても、珪藻類では高密度培養には対応できないものと推測される。
したがって、本発明が解決しようとする課題は、高密度培養に対応した、藻類培養装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の課題を解決するための手段は、下記のとおりである。
【0007】
第1に、
培養室と、水温調節室と、照明とを備え、
培養室の周囲に、水温調節室を密接して設けると共に、
培養室内に、エア供給体を設置し、
水温調節室において、水流ポンプにより水が一定方向に循環し、水温調節手段により水温調節を行うことを特徴とする、藻類培養装置。
【0008】
ここで、培養室及び水温調節室の形状は、共に限定されることなく、円形状、正方形や長方形等の箱型形状等、各種形状が採用できる。
【0009】
第2に、
内部に空間を有するロ型形状の培養室と、水温調節室と、照明とを備え、
培養室の外側4面に、ロ型形状の水温調節室を密接して設けると共に、
培養室内に、エア供給体を設置し、
水温調節室の外側に、照明を設置し、
該水温調節室において、水流ポンプにより水が一定方向に循環し、水温調節手段により水温調節を行うことを特徴とする、藻類培養装置。
前記第1または第2に記載の藻類培養装置について、水温調節室を密接して設けるとは、水温調節機能を高めるために、培養室の外側もしくは内側周囲に水温調節室が位置していることである。
すなわち、密接して設けるとは、培養室と水温調節室との境界において、培養室を構成する部材と水温調節室を構成する部材が同一の部材であるか、もしくは各々が別部材の際は両者が面状に接触していることを示している。
ここで、照明の設置箇所は、内部に空間を有するロ型形状の培養室の場合には、水温調節室の外側4面に加え、培養室の内側にも、各々設置することが望ましい。
すなわち、水温調節室の外側4面及び培養室の内側4面に、各々照明を設置することが望ましいが、内側の対向する2面に設置することもできる。
【0010】
第3に、
前記エア供給体を、培養室の底面との間に隙間が生じるように設置したことを特徴とする、前記第1または第2に記載の培養装置。
【0011】
隙間は、1ミリメートル(プラスマイナス0.5ミリメートル)から10ミリメートル(プラスマイナス0.5ミリメートル)、望ましくは3ミリメートル(プラスマイナス0.5ミリメートル)から8ミリメートル(プラスマイナス0.5ミリメートル)、より望ましくは4ミリメートル(プラスマイナス0.5ミリメートル)から6ミリメートル(プラスマイナス0.5ミリメートル)である。
隙間が全くないと、遊泳能力をもたないキートセロスをはじめとする珪藻類は、底面付近に藻類が沈殿してしまい高密度培養をすることができず、また、隙間が10ミリメートルより大きいと、やはり底面付近の藻類が沈殿してしまい高密度培養をすることができないことが本願発明者らによって確認されている。
【0012】
また、前記第1または第2に記載の培養装置について、エア供給体とは、エアポンプから供給されるエアを放出できるものであれば良く、エアストーン等を採用することができる。
【0013】
第4に、
前記照明が、強光阻害が起きにくい870~1000μmol photons/m2・sの白色光の光量のものであることを特徴とする、前記第1または第2に記載の藻類培養装置。
ここで、光量とは、可視光、あるいは光合成有効放射の光量を示している。
第5に、
二酸化炭素拡散器を更に備えたことを特徴とする、前記第1または第2に記載の藻類培養装置。
【0014】
第6に、
前記水温調節室における水温調節手段が、ヒーターとチラーによることを特徴とする、前記第1または第2に記載の藻類培養装置。
該水温調節手段は、ヒーターとチラーを備えることで、温めと冷却を共に行うことができるが、環境によって温めが不要の場合には、チラーだけで水温調節手段を構成することもできる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下の効果を奏することができる。
【0016】
本発明に係る藻類培養装置は、培養室の周囲に水温調節室を密接して設け、循環水流によって培養室とは別の水槽室によって間接的に温度調節をするので、冷却・発熱部との接触や周辺の温度むらによる藻類の死滅を防止することができ、高密度培養を行うことができる。
また、本発明に係る藻類培養装置は、培養液を滞留させることなく流れを生じさせ、かつ培養液の流れを乱さないよう、エア供給体を底面との間に隙間が生じるように設置することで、遊泳能力をもたないキートセロスをはじめとする珪藻類を培養する場合であっても、藻類の沈殿が生じることなく、高密度培養を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例の藻類培養装置の斜視図である。
【
図2】
図1の藻類培養装置から架台と照明を取り除いた説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示している。
【
図3】
図1の藻類培養装置の説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示している。
【
図4】本発明の他の実施例の藻類培養装置の斜視図である。
【
図5】
図4の藻類培養装置から照明を取り除いた説明図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ具体的に説明する。
ここで、添付図面において同一の部材には同一符号を付しており、また重複した説明は省略されている。
なお、ここでの説明は本発明が実施される一形態であることから、本発明は当該形態に限定されるものではない。
【実施例0019】
本実施例の藻類培養装置は、
図1~
図3に示すように、内部に空間を有するロ型形状の培養室10と、水温調節室20と、照明30とを備え、鉄製の架台40に設定されている。
なお、図中41は、膨らみ防止枠である。
図示は省略するが、ロ型形状の培養室10の内部空間について、開口部の下方から上向きにファンを設置することで、暖かい空気の滞留を防ぎ、中の空気が温まることを防ぐことができる。
同様に、図示は省略するが、水温調節室10の外側に向けて送風可能なファンを設置することで、水温の上昇を防ぐこともできる。
【0020】
[培養室]
【0021】
培養室10は、培養液を溜めて藻類を培養する水槽であり、内寸法が1230×630×562(ミリメートル)、中空部分の寸法が800×300×562(ミリメートル)の容量250リットルのロ型形状のもので、透明なアクリル板によって形成されている。
【0022】
培養室10内には、直径250ミリメートルで長さ50cmのエアストーン11が、培養室10の底面との間に5ミリメートルの隙間が生じるように
図2では2個が設置されているが、実際には左側面側に1個、右側側面側に1個、正面側に2個、背面側に2個の合計6個設置されている。
該エアストーン11は、毎分80リットルの吐出量のエアポンプAに通じている。
これらのエアストーン11の設置及び設置の仕方により、培養室10内の藻類が十分に撹拌され、藻類の沈殿を防ぐことが可能となる。
なお、本願発明者らは、藻類の沈殿を防ぐため、培養槽10内にプロペラを設置し、撹拌することを試みたが、プロペラの回転が藻類の細胞を傷付け、藻類の成長に悪影響を与えることを確認した。
【0023】
[水温調節室]
【0024】
水温調節室20は、培養液の温度調節を行うために培養室10の隣接部分に位置する水槽であり、内寸法が1400×800×562(ミリメートル)、中空部分の寸法が1260×660×562(ミリメートル)の容量160リットルのロ型形状のもので、透明なアクリル板によって形成されている。
本実施例においては、培養室10の外側面を構成するアクリル板と、水温調節室20の内側面を構成するアクリル板とは、同じ部材によって構成されている。
すなわち、培養室10の外側4面と、ロ型形状の水温調節室20の内側4面とを、共通の部材で形成することで、両者が4面で面接触することにより、密接して設けられている。
【0025】
該水温調節室20の両側には、
図2中の(b)に示すように、右側に第1吸込管21が、左側に第2吸込管23が設置されている。
第1吸込管21及び第2吸込管23は、共に、塩ビ製のパイプを立設したもので、上端側の吸込口が、水温調節室20を満たす水面付近に位置している。
このように、水面付近に吸込口を設けることで、温度が上昇した水を効率よく取り入れることが可能となる。
【0026】
図2中の(c)に示すように、水温調節室20の右側面には、直立した第1吸込管21に隣接して、塩ビ製のパイプによるL型形状の第1吹出管22が設置されている。
該第1吹出管22の先端は、水温調節室20の中間付近に位置している。
このように、中間付近に吹出口を設けることで、良好な循環水流を作り出すことが可能となる。
【0027】
図2中の(b)に示すように、水温調節室20の左側面には、直立した第2吸込管23の前方に、塩ビ製のパイプによるL型形状の第2吹出管24が設置されている。
該第2吹出管24の先端は、水温調節室20の中間付近より、やや高く位置している。
このように、右側の第1吹出管22の位置より、左側の第2吹出管24の位置を高く形成することで、水温調節室20全体について、より良好な循環水流を作り出すことが可能となる。
本実施例のロ型形状の水温調節室20内では、水流が循環することで回廊式に温度調節を行うことができるので、水温調節の効率を高めることが可能である。
【0028】
水温調節室20内の水は、水が一定方向に循環し、ヒーターHとチラーCにより例えばキートセロスの場合には25℃から30℃程度に温度調節が行われている。
すなわち、水温調節室20内の水は、第1吸込管21及び第2吸込管23を通じて外部に取り出され、ヒーターHやチラーCにより温度調節が行われた後に、水流ポンプPの揚力により、第1吹出管22及び第2吹出管24を通じて内部に戻ることで、一定方向に循環することになる。
【0029】
培養室10の中に、直接、ヒーターHやチラーCを設置すると、冷却・発熱部と藻類が接し、藻類が死滅してしまう。
よって、高密度で藻類を培養するためには、ヒーターやチラーを設置した水温調節室20を介して間接的に培養室10の温度を調節することが必要となる。
【0030】
[照明]
【0031】
照明30は、横長形状のLEDベースライト31を上下に5本配置することで、パネル面を構成している。
各LEDベースライト31は、強光阻害が起きにくい1000μmol photons/m2・sの白色光の光量のものである。
本実施例では、照明30を、水温調節室20の外側の4面及び培養室10の内側で対向する2面に各々設置している。
このように、培養室10の内外から、白色光を照射することで、藻類の培養が進行し、光の減衰が知られている高密度状態になっても、培養室10全体に強い光が行き渡るので、藻類に充分な光を届けることが可能となる。
このように構成することで、培養に強い光を必要とするキートセロスの培養を可能としている。
【0032】
[二酸化炭素拡散器]
【0033】
本実施例では、図示は省略するが、培養室10内に、縦1cm、横1cm、長さ3.5cmの角型の二酸化炭素拡散器が2つ設置されている。
該二酸化炭素撹拌器は、二酸化炭素ガスボンベに通じており、培養の際に二酸化炭素の添加を可能としている。
培養室50は、培養液を溜めて藻類を培養する水槽であり、内寸法が幅130×奥行130×高さ270(ミリメートルの容量4.5リットルの正方形型の縦長形状のもので、透明なアクリル板によって形成されている。
培養室50内には、直径23ミリメートルで長さ10cmのエアストーン51が、培養室50の底面との間に5ミリメートルの隙間が生じるように、1個が設置されている。
該エアストーン51は、毎分3.5リットルの吐出量のエアポンプAに通じている。
水温調節室60は、培養液の温度調節を行うために培養室50の隣接部分に位置する水槽であり、内寸法が幅230×奥行230×高さ270(ミリメートル)の容量8.2リットルの正方形型の縦長形状のもので、透明なアクリル板によって形成されている。
すなわち、培養室50の周囲に水温調節室60が位置することで、培養室50の外側4面に、水温調節室60の内側の4面が面接触するように密接して設けることが可能となる。