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特開2024-27978混合方法及び低級オレフィン組成物の製造方法
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  • 特開-混合方法及び低級オレフィン組成物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024027978
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】混合方法及び低級オレフィン組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20240222BHJP
   C07C 11/06 20060101ALN20240222BHJP
   C07C 11/02 20060101ALN20240222BHJP
【FI】
C10L1/02
C07C11/06
C07C11/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131237
(22)【出願日】2022-08-19
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 聡
(72)【発明者】
【氏名】清水 俊克
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 雄祐
【テーマコード(参考)】
4H006
4H013
【Fターム(参考)】
4H006AA02
4H006AC26
4H013CD06
(57)【要約】
【課題】性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して低級オレフィン製造用ナフサとして用いる際に、メタノール生成濃度の低い低級オレフィンを、高いオレフィン収率で製造することが可能なナフサが得られるように混合する方法を提供する。
【解決手段】バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを、混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合する混合方法。性状の異なる2種類以上のナフサを、混合後のナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該混合後のナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上となり、且つ、混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合する混合方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する方法であって、
混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合することを含む、混合方法。
【請求項2】
前記混合後のナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該混合後のナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上となるように混合する、請求項1に記載の混合方法。
【請求項3】
性状の異なる2種類以上のナフサを混合する方法であって、
混合後のナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該混合後のナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上となり、且つ、
混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合することを含む、混合方法。
【請求項4】
前記2種類以上のナフサが、少なくともバイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含む、請求項3に記載の混合方法。
【請求項5】
前記混合後のナフサに含まれる前記エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下となるように混合する、請求項1又は3に記載の混合方法。
【請求項6】
前記混合後のナフサが硫黄含有化合物を含み、該混合後のナフサに含まれる該硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で180質量ppm以下となるように混合する、請求項5に記載の混合方法。
【請求項7】
前記混合後のナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上となるように混合する、請求項5に記載の混合方法。
【請求項8】
前記混合後のナフサの比重が、0.6640g/cm以上0.6700g/cm以下となるように混合する、請求項5に記載の混合方法。
【請求項9】
前記バイオ原料由来のナフサが、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである、請求項1又は4に記載の混合方法。
【請求項10】
前記混合後のナフサに含まれる前記エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で0.1質量ppm以上となるように混合する、請求項5に記載の混合方法。
【請求項11】
前記エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上である、請求項5に記載の混合方法。
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
【請求項12】
前記エーテルがモノエーテルである、請求項5に記載の混合方法。
【請求項13】
前記エーテルのエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基由来の炭素原子である、請求項5に記載の混合方法。
【請求項14】
請求項1又は3に記載の混合方法により得られた混合後のナフサを熱分解することを含む、低級オレフィン組成物の製造方法。
【請求項15】
前記低級オレフィンがプロピレンを含む、請求項14に記載の低級オレフィン組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する混合方法に関する。
さらに、本発明は前記混合方法により得られた混合後のナフサを熱分解することを含む低級オレフィン組成物の製造方法に関する。
【0002】
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味し、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
低級オレフィンの代表的な製造方法としては、化石燃料由来のナフサ(30~230℃程度の沸点範囲をもつ原油由来の炭化水素混合物)を水蒸気の存在下に熱分解(スチーム・クラッキング)する方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0004】
一方で、近年、持続可能な開発目標(SDGs)を達成すべく、化石燃料以外の再生可能な有機資源(植物など)を工業製品の原料に用いる取り組みが行われており、その一つの手段としてバイオマス由来原料の活用が提案されている。しかしながら、ナフサのクラッキングプロセスに、バイオマス由来原料、例えばバイオマス由来のナフサを用いる技術は詳細には知られていない。
また、スチーム・クラッキング法では、一度原料ナフサが選定されると、その原料ナフサの組成や性状、製品の要求に応じて、基本的に固有の熱分解条件と固有の熱分解装置が必要となる。このため、原料ナフサ及び製品の選択性が乏しく、融通性に欠けるという難点がある。
すなわち、バイオマス由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと、組成や性状が異なることから、既存の熱分解装置を用いてバイオマス由来のナフサをスチーム・クラッキング法で熱分解する場合、エネルギー原単位を改善する等の観点から、低級オレフィンの製造収率を向上することが要求されている。
【0005】
バイオマス由来のナフサは、その原料コストの観点から、エチレンやプロピレン等の石油化学製品を製造するエチレンプラントに供される前に、化石燃料由来のナフサと混合してから、エチレンプラントに供給し、各種石油化学製品の製造原料として用いるケースが想定される。
この場合において、バイオマス由来のナフサはその由来により、また、化石燃料由来のナフサはその産出地により、含有成分や性状に違いがあるため、上記の石油化学製品製造プロセスでは、バイオマス由来のナフサと化石燃料由来のナフサを適当な混合比率で混合する必要があると想定される。
【0006】
ナフサには、含酸素化合物が含まれており、ナフサを熱分解して各種低級オレフィンを製造する際、含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールを生成する場合がある。なお、ナフサに含まれる含酸素化合物は種々存在するが、それら含酸素化合物からメタノールが生成する割合は一定ではなく、その詳細は明らかにされていない。
含酸素化合物の熱分解物に由来するメタノールは、プロピレン等の製品低級オレフィンに混入すると、プロピレン等の低級オレフィンを重合する際に用いる触媒の性能を低下させるという問題があった。
【0007】
このため、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度がナフサの品質の良否の判断基準とされており、通常、ナフサの購入者は、購入した含酸素化合物含有量が多いナフサに、含酸素化合物含有濃度が低いナフサをブレンドし、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度を低減してから、低級オレフィンの製造に用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-40913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のとおり、従来、ナフサに含まれる含酸素化合物の種類と、該含酸素化合物の熱分解に由来するメタノールの生成量との関係についての詳細は明らかにされていなかった。
そのため、ナフサ中の含酸素化合物の含有濃度からナフサの良否を判定しても、必ずしもその含有濃度に、実際に熱分解により低級オレフィンを製造した際のメタノール生成濃度が比例するとは限らなかった。即ち、メタノール生成濃度の低い良質なナフサを的確に得る方法はこれまで知られていなかった。
【0010】
本発明はこれらの問題点を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合して低級オレフィン製造用ナフサとして用いる際に、メタノール生成濃度の低い低級オレフィンを、高いオレフィン収率で製造することが可能なナフサが得られるように混合する方法を提供することを課題とする。さらに、本発明は、該混合方法により得られたナフサを用いて、メタノール含有量の少ない低級オレフィン組成物を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、含酸素化合物の中でもエーテル結合の酸素原子に対して非対称構造を有する特定のエーテルが、ナフサの熱分解工程において分子中の特定の結合が選択的に分解し易く、特に、分解によりメタノールを生成し易いこと、該非対称構造を有する特定のエーテル、より好ましくは非対称構造を有する特定のエーテルの、エーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の値の差の絶対値ΔE[単位:e]が所定値以上であるエーテルに由来する酸素原子の含有量で低級オレフィン製造用ナフサとして良否を判定できること、更に、原料ナフサとして、バイオ原料由来のナフサを用いることにより、この効果はより顕著になるとの知見を得、この知見に基づき本発明を完成させた。
【0012】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する方法であって、
混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合することを含む、混合方法。
【0014】
[2] 前記混合後のナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該混合後のナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上となるように混合する、[1]に記載の混合方法。
【0015】
[3] 性状の異なる2種類以上のナフサを混合する方法であって、
混合後のナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該混合後のナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上となり、且つ、
混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合することを含む、混合方法。
【0016】
[4] 前記2種類以上のナフサが、少なくともバイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサを含む、[3]に記載の混合方法。
【0017】
[5] 前記混合後のナフサに含まれる前記エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下となるように混合する、[1]~[4]のいずれかに記載の混合方法。
【0018】
[6] 前記混合後のナフサが硫黄含有化合物を含み、該混合後のナフサに含まれる該硫黄含有化合物の含有量が、硫黄原子換算で180質量ppm以下となるように混合する、[1]~[5]のいずれかに記載の混合方法。
【0019】
[7] 前記混合後のナフサに含まれる炭化水素の平均分子量が、80.0g/mol以上となるように混合する、[1]~[6]のいずれかに記載の混合方法。
【0020】
[8] 前記混合後のナフサの比重が、0.6640g/cm以上0.6700g/cm以下となるように混合する、[1]~[7]のいずれかに記載の混合方法。
【0021】
[9] 前記バイオ原料由来のナフサが、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである、[1]、[2]又は[4]~[8]のいずれかに記載の混合方法。
【0022】
[10] 前記混合後のナフサに含まれる前記エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算で0.1質量ppm以上となるように混合する、[1]~[9]のいずれかに記載の混合方法。
【0023】
[11] 前記エーテルが、エーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の混合方法。
但し、eは電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
【0024】
[12] 前記エーテルがモノエーテルである、[1]~[11]のいずれかに記載の混合方法。
【0025】
[13] 前記エーテルのエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基由来の炭素原子である、[1]~[12]のいずれかに記載の混合方法。
【0026】
[14] [1]~[13]のいずれかに記載の混合方法により得られた混合後のナフサを熱分解することを含む、低級オレフィン組成物の製造方法。
【0027】
[15] 前記低級オレフィンがプロピレンを含む、[14]に記載の低級オレフィン組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとの混合により、熱分解におけるメタノール生成量の少ないナフサをより的確に得ることができ、このようなナフサを用いてメタノール含有濃度の低い低級オレフィンを、高いオレフィン収率で製造することができる。
即ち、ナフサ中の特定のエーテル、具体的には非対称構造を有するエーテルに由来する酸素原子の含有量が予め決めた閾値以下となるように、性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合することで、低級オレフィン製造用ナフサとして、メタノール生成濃度の低い良質な原料ナフサを的確に得ることができる。
【0029】
さらに、本発明によれば、原料ナフサとして、性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合してなる混合後のナフサにおいて、該混合後のナフサ中の特定のエーテル、具体的にはエーテル結合を構成している酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上であるエーテルに由来する酸素原子の含有量を制御することで、低級オレフィン製造用ナフサとして、メタノール生成濃度の低い良質な混合ナフサを、より的確に得ることができる。
このため、例えば、含酸素化合物の含有濃度が高いために安価なナフサの中から、ΔEが0.05[単位:e]以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量の低いナフサを選択して、安価な原料ナフサを用いた上でメタノール生成濃度を抑えて高純度の低級オレフィンを製造することができる。また、含酸素化合物の含有濃度が高いナフサであっても、ΔEが0.05e[単位:e]以上のエーテルに由来する酸素原子の含有量が低いものであれば、含酸素化合物含有濃度の低いナフサをブレンドすることなく、そのまま原料ナフサとして用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】各種エーテルのΔE[単位:e]とメタノール生成比率Bとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
【0032】
なお、特に断らない限り、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味し、「A~B」は、A以上B以下であることを意味する。
【0033】
本発明において、「低級オレフィン」とは、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を意味し、具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン(1-ブテン、2-ブテン、イソブテン)、及びブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
【0034】
[混合方法]
本発明の一実施形態に係る混合方法は、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する方法であって、混合後のナフサに含まれる非対称構造を有するエーテル(以下、「非対称エーテル」と称す場合がある。)の含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値(以下、単に「閾値」と称す場合がある。)以下となるように混合することを含む混合方法である。
【0035】
また、本発明の別の実施形態に係る混合方法は、性状の異なる2種類以上のナフサを混合する方法であって、混合後のナフサに含まれる炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、該混合後のナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上となり、且つ、混合後のナフサに含まれる非対称構造を有する非対称エーテルの含有量が、エーテル酸素原子換算の含有量として、予め決めた閾値以下となるように混合することを含む混合方法である。
この混合方法においても、性状の異なる2種類以上のナフサとして、少なくともバイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合することが好ましい。
【0036】
なお、本発明において、「エーテル酸素原子」とは、エーテル中に含まれるエーテル結合に関与する酸素原子を指す。
以下において、本発明の混合方法を、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する態様を例示して説明するが、本発明の混合方法は、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する方法に何ら限定されるものではない。例えば、性状ないしは組成の異なるバイオ原料由来のナフサ同士、或いは、性状、組成、産地等の異なる化石燃料由来のナフサ同士を混合する方法であってもよい。
また、以下において、本発明の混合方法により混合することにより得られた混合後のナフサを、「本発明の混合ナフサ」と称す場合がある。また、非対称エーテルのエーテル酸素原子換算の含有量を「非対称エーテル酸素原子の含有量」と称す場合がある。
【0037】
本発明において、「バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合する」ことの実施形態は特に限定されるものではなく、例えば、運ばれてきたナフサを予めタンク内に貯蔵されたナフサに適当な混合比率で混合したり、或いは、2つ以上のタンク内に貯蔵されたナフサを適当な混合比率で混合する場合において、いずれか一方がバイオ原料由来のナフサである形態が挙げられる。
【0038】
<メカニズム>
エーテルは、ナフサに含まれる化合物である。
本発明において、非対称エーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する。
【0039】
前記非対称エーテルの中でも、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1[単位:e]と他方の炭素原子の電荷E2[単位:e]との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上であるものに対して前記閾値に基づく混合を行うことで、混合後のナフサを熱分解して得られた低級オレフィン組成物中のメタノールの含有量をより効果的に低減することができる。
なお、本明細書において、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記2つの炭素原子の電荷の値は、前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い算出される。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いることができる。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX」(TURBOMOLE社製)を使用できる。
【0040】
一般的に、前記ΔEが大きいエーテルは、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する、非対称エーテルである。本発明者らは、非対称エーテルは、熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
さらに本発明者らは、エーテルのΔEが大きいほど、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間に電荷の偏りがあるため、このようなエーテルは熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易い傾向があることを見出した。
【0041】
さらに、本発明者らは、前記エーテルとして、非対称エーテル、より好ましくは前記ΔE[単位:e]が0.05以上である非対称エーテルを用い、且つ、混合後のナフサに含まれる非対称エーテル酸素原子の含有量が所定値以下、好ましくは20,000質量ppm以下となるように混合することで、混合後のナフサを熱分解して得られた低級オレフィン中のメタノールの含有濃度を低減できることを見出した。
【0042】
例えば、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有する非対称エーテルとして、2-メトキシブタン(CHCHCH(CH)-O-CH)、メトキシシクロペンタン(C-O-CH)、1-メトキシプロパン(CHCHCH-O-CH)は、ΔE[単位:e]がそれぞれ0.181、0.151、0.084であり、ΔEが大きく、電荷の偏りが大きいため、分子中の特定の結合が選択的に分解され易い。その結果、これらのエーテルを含有するナフサの熱分解工程において、前記エーテルはメタノールを生成し易い。
【0043】
一方、エーテル酸素原子に対して対称構造を有するエーテル(以下、「対称エーテル」という。)として、ジメチルエーテル(CH-O-CH)、ジエチルエーテル(CH-CH-O-CH-CH)、ジイソプロピルエーテル((CHCH-O-CH(CH)、ジプロピルエーテル(CH-CH-CH-O-CH-CH-CH)は、ΔE[単位:e]がそれぞれ0.004、0.001、0.010、0.000であり、ΔEが小さく、電荷の偏りが小さいため、分子中の特定の結合が選択的に分解されるということが起こりにくい。その結果、これらの対称エーテルを含有するナフサの熱分解工程において、前記対称エーテルはメタノールを生成し難い。
【0044】
本発明の混合方法では、混合後のナフサ中の非対称エーテル酸素原子の含有量が所定値以下となるようにバイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合するため、この混合後の本発明の混合ナフサを熱分解する低級オレフィンの製造工程におけるメタノールの生成を抑制し、メタノールの含有量の少ない製品価値の高い低級オレフィン組成物を製造することができる。
【0045】
<バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとの混合>
本発明により、混合後のナフサの非対称エーテル酸素原子の含有量が閾値以下となるように混合する具体的な方法としては、以下のような方法が挙げられる。
(1) バイオ原料由来のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値を超える場合は、非対称エーテル酸素原子含有量が閾値未満の化石燃料由来のナフサを混合し、混合後のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下となるようにする。
(2) バイオ原料由来のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下の場合、非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下の化石燃料由来のナフサを混合し、混合後のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下となるようにする。
(3) バイオ原料由来のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下の場合、非対称エーテル酸素原子含有量が閾値を超える化石燃料由来のナフサを、混合後のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下となるような量で混合する。
【0046】
なお、ナフサの非対称エーテル酸素原子含有量は、ナフサに含まれる非対称エーテルに基づき、一般的な分析機器であるGC及びGC/MS測定などで求めることができる。
【0047】
従って、バイオ原料由来のナフサ及び化石燃料由来のナフサそれぞれの非対称エーテル酸素原子含有量を測定する測定手段と、これらの測定値に基づいて、混合後のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下となるように、混合するバイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサの選択及びその混合比率を演算して調整する制御装置を設けておくことで、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとの混合を自動的に行うことも可能である。
【0048】
例えば、バイオ原料由来のナフサが複数種ある場合において、化石燃料由来のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量に基づいて、上記(1)~(3)のいずれかの方法で混合するように、化石燃料由来のナフサを投入する貯蔵タンクを選択し、混合後のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が閾値以下となるように投入量を制御することができる。
また、化石燃料由来のナフサが複数種ある場合において、各々の化石燃料由来のナフサの非対称エーテル酸素原子含有量から、混合すべきバイオ原料由来のナフサを選択してそれぞれの投入先の貯蔵タンクを切り換えるようにすることもできる。
【0049】
<原料ナフサ>
本発明の混合方法は、少なくともバイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサを混合して本発明の混合ナフサとすることが、不純物として含有する、非対称エーテルより生成するメタノールの生成を抑制でき、且つ、高い低級オレフィン収率を得ることができる観点から好ましい。
【0050】
ここで、バイオ原料由来のナフサとは、非可食性バイオマス及び/又は非化石燃料に由来するナフサである。
本発明において、非可食性バイオマスとは、非可食性の草や樹木を原料とした資源のことをいう。具体的には、針葉樹や広葉樹などの木質系バイオマスから得られるセルロース、ヘミセルロース、リグニン等や、トウモロコシやサトウキビの茎、ダイズやナタネなどの草本系バイオマスから得られるバイオエタノールやバイオディーゼル、植物由来の廃油等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明において、非化石燃料とは、例えば、水素、又は、化石燃料や非可食性バイオマスに由来しない動植物由来の有機物のことをいう。具体的には、薪、炭、乾燥した家畜糞等から得られる、メタン、糖エタノール等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明において、化石燃料由来のナフサとは、石油由来のナフサ、石炭由来のナフサ、天然ガス由来のナフサから選ばれる少なくとも1種のことをいう。
【0051】
<閾値>
本発明において、混合により得られる本発明の混合ナフサの非対称エーテル酸素原子含有量が予め決めた閾値以下となるように混合する。前記閾値は、特に限定されるものではないが、混合後のナフサを熱分解して得られた低級オレフィンにおけるメタノール生成量を抑制する観点から、エーテル酸素原子換算で20,000質量ppm以下が好ましく、1,000質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下がさらに好ましく、50質量ppm以下が特に好ましい。
【0052】
一方、前記閾値の下限は、特に限定されるものではないが、通常は、前記非対称エーテルを低減するための製造コストの観点や、一般的な分析機器であるGC及びGC/MS測定による定量精度の観点から、エーテル酸素原子換算で0.1質量ppm以上であり、0.2質量ppm以上が好ましく、0.5質量ppm以上であることがより好ましく、1質量ppm以上であることがさらに好ましく、10質量ppm以上であることが特に好ましく、20質量ppm以上であることが最も好ましい。
【0053】
<非対称エーテル>
前述の通り、本発明に係る非対称エーテルは、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子について、密度汎関数法によって求めた、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)が0.05[単位:e]以上であることが、本発明による混合後のナフサを熱分解して得られた低級オレフィン中のメタノールの含有量をより効果的に低減することができる観点から好ましい。
【0054】
本発明に係る非対称エーテルとしては、2-メトキシブタン(CHCHCH(CH)-O-CH)、メトキシシクロペンタン(C-O-CH)、1-メトキシプロパン(CHCHCH-O-CH)等が挙げられるが、何らこれらに限定されない。
【0055】
前記非対称エーテルは、本発明による混合後のナフサを熱分解して得られる低級オレフィン中の生成メタノールの含有量を効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルであることが好ましい。
【0056】
さらに、前記ΔE[単位:e]が0.05以上の非対称エーテルは、分子中の少なくとも1つのエーテル結合のΔEの値が0.05以上のものであるが、ΔEの値とメタノールの生成量との相関性が高いため、得られた低級オレフィン中の生成メタノールの含有量を効果的に低減できることから、分子中にエーテル酸素原子を1つのみ有するモノエーテルであることが好ましい。
【0057】
また、前記非対称エーテル、好ましくは、前記ΔEが0.05以上の非対称エーテルは、2-メトキシブタン、メトキシシクロペンタン、1-メトキシプロパンのように、エーテル酸素原子と結合する2つの炭素原子の一方がメチル基の炭素原子であることが、本発明による混合後のナフサを熱分解して得られる低級オレフィン組成物中の生成メタノールの含有量をより効果的に低減できることから、好ましい。
【0058】
なお、非対称エーテルが、1分子中に2以上のエーテル結合を有する場合には、各エーテル結合部のΔEは各々のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値として求められ、前記エーテルのΔEは、2以上のΔEの中で最も大きい値のことをいう。
【0059】
<炭素数7以上の炭化水素>
本発明において、混合により得られる本発明の混合ナフサの炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、本発明の混合ナフサの総質量100%に対して、14.0質量%以上であることが好ましい。
【0060】
炭素数7以上の炭化水素とは、主としてバイオマス由来のナフサに含まれるエチルベンゼン、スチレン等の芳香族炭化水素類、ノルマルヘプタン、ノルマルオクタン、ノルマルデカン等の脂肪族炭化水素類、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等のナフテン類等である。これらの炭化水素類の炭素数の上限には特に制限はないが、通常15以下である。
【0061】
本発明の混合ナフサは、これらの炭素数7以上の炭化水素の1種のみを含有するものであってもよく、2種以上を含有するものであってもよい。
【0062】
本発明の混合方法においては、これらの炭素数7以上の炭化水素の含有割合が、本発明の混合ナフサの総質量100%に対して14.0質量%以上となるように混合することが好ましい。炭素数7以上の炭化水素の含有割合が14.0質量%以上のナフサであれば、本発明により、本発明の混合ナフサ中の非対称エーテルの含有量を規定することによる効果をより有効に得ることができ、具体的には、メタノール含有濃度のより低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造することができる。
この観点から、本発明の混合方法においては、混合ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の下限は、14.0質量%以上となるように混合することが好ましく、16.0質量%以上がより好ましく、18.0質量%以上がさらに好ましく、20.0質量%以上が特に好ましい。一方で、ナフサ中の高炭素数の割合が増加し過ぎるとエチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率が低下するという問題がある点から、本発明の混合方法においては、得られた混合ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の上限は、90.0質量%以下となるように混合することが好ましく、85.0質量%以下がより好ましく、80.0質量%以下がさらに好ましく、60.0質量%以下が特に好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の混合方法において、混合ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、14.0質量%~90.0質量%が好ましく、16.0質量%~85.0質量%がより好ましく、18.0質量%~80.0質量%がさらに好ましく、20.0質量%~60.0質量%が特に好ましい。
【0063】
混合ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を14.0質量%以上とすることにより、非対称エーテルの含有量が前記閾値以下の本発明の混合ナフサを用いて、メタノール含有濃度のより低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造できるという効果が顕著に奏される理由は定かではないが、以下のように推察される。
即ち、ナフサ中に炭素数7以上の炭化水素という、比較的分子量の大きい炭化水素を含むことで、この炭化水素の分圧が低くなる傾向がある。その結果として、非対称エーテルからメタノールを生成する副反応が抑制されるため、熱分解時のメタノールの生成量を低減することができると推察される。
【0064】
なお、本発明の混合ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0065】
さらに、本発明の混合方法において、得られた混合ナフサ中の炭化水素の平均分子量の下限は、特に限定されるものではないが、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造する観点から、80.0g/mol以上が好ましく、82.0g/mol以上がより好ましく、84.0g/molがさらに好ましい。一方、前記平均分子量の上限は、特に限定されるものではないが、ナフサ中の高炭素数の割合が増加し過ぎるとエチレンやプロピレン等の低級オレフィン収率が低下する傾向があることから、150.0g/mol以下が好ましく、130.0g/mol以下がより好ましく、100.0g/mol以下がさらに好ましい。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の混合方法において、混合ナフサ中の炭化水素の平均分子量は、特に限定されるものではないが、80.0~150.0g/molが好ましく、82.0~130.0g/molがより好ましく、84.0~100.0g/molがさらに好ましい。
【0066】
なお、混合ナフサ中の炭化水素の平均分子量は、後述の実施例の項に記載の方法で分析することができる。
【0067】
<硫黄含有化合物>
ナフサには、通常、ジスルフィド化合物、スルフィド化合物、チオール化合物等の硫黄含有化合物が含有されているが、本発明においては、得られる本発明の混合ナフサの硫黄含有化合物の含有量の上限は、特に限定されるものではないが、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、高いオレフィン収率で製造できることから、硫黄原子換算で180質量ppm以下となるように混合することが好ましく、150質量ppm以下がより好ましく、100質量ppm以下がさらに好ましく、30質量ppm以下が特に好ましく、10質量ppm以下が最も好ましい。硫黄含有化合物の含有量は少ない程好ましく、その下限には特に制限はないが、前記硫黄含有化合物を低減するための製造コストの観点観点から、通常1質量ppm以上である。
上記の上限及び下限は任意に組み合わせることができる。即ち、本発明の混合方法において、混合ナフサの硫黄含有化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、硫黄原子換算で1質量ppm~180質量ppmが好ましく、1質量ppm~150質量ppmがより好ましく、1質量ppm~100質量ppmがさらに好ましく、1質量ppm~30質量ppmが特に好ましく、1質量ppm~10質量ppmが最も好ましい。
【0068】
なお、上記ジスルフィド化合物としては、具体的にはジメチルジスルフィド、メチルエチルジスルフィド、ジエチルジスルフィド等が挙げられる。
また、スルフィド化合物としては、ジエチルスルフィド、ジプロピルスルフィド等が挙げられる。
また、チオール化合物としては、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール等の炭素数2~10のチオール化合物が挙げられる。
本発明の混合ナフサ中には、これらの硫黄含有化合物の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0069】
<比重>
本発明の混合方法において、得られる混合ナフサの比重は、特に限定されるものではないが、0.6640g/cm以上0.6700g/cm以下となるように混合することが好ましい。
ナフサ密度とナフサの組成には相関関係があることが知られており、本発明における低級オレフィン、すなわち、1分子中に不飽和結合を1個又は2個含む炭素数2~4の不飽和炭化水素を、副生成物の生成を抑制し、且つ、高い収率で製造することができる観点から、ナフサの比重は上記範囲内であることが好ましく、0.6650g/cm以上0.6700g/cm以下であることがより好ましい。
低級オレフィン製造用ナフサの比重が前記数値範囲内にあれば、メタノール含有濃度の低い低級オレフィン組成物を、より高いオレフィン収率で製造できる理由は、定かではないが、ナフサ密度が高いほど、ナフサ中に含まれる炭化水素の炭素数が増加する傾向にあり、その結果ナフサがオレフィンに効率的に分解されるためと推察される。
ナフサの比重は、JIS K2249-1:2011を用いて測定できる。
【0070】
[低級オレフィン組成物の製造方法]
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、本発明の混合方法により得られた本発明の混合ナフサを熱分解することを含む。ナフサを熱分解することで、低級オレフィン及びメタノールを含有する低級オレフィン組成物が製造されるが、本発明の混合ナフサを用いることで、前述の通り、メタノール生成量を著しく低減することができる。
【0071】
本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、本発明の混合ナフサを用いること以外は、常法に従って、低級オレフィン組成物を製造することができる。
即ち、本発明の混合ナフサ(以下、単に「ナフサ」と称す場合がある。)を、水蒸気の存在下、700~1000℃の温度において熱分解(スチーム・クラッキング)させることにより低級オレフィン組成物を得る。
【0072】
熱分解の条件のうち、ナフサと水蒸気との比率は、ナフサ100質量部に対して水蒸気20~100質量部であることが好ましく、30~70質量部であることが更に好ましく、35~60質量部であることが特に好ましい。水蒸気量が20質量部未満の場合には、熱分解炉内に設置された分解反応を行うための配管への炭素質物質の沈着が多くなる傾向にある。他方、水蒸気量が100質量部を超える場合には、水蒸気に与える熱量が増大し、装置にかかるエネルギー負荷が過大なものとなる。
【0073】
また、熱分解の反応温度は、通常700~1000℃であり、好ましくは750~950℃である。反応温度が700℃未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する。他方、反応温度が1000℃を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
【0074】
また、熱分解の反応時間は、好ましくは0.01~1秒、より好ましくは0.04~0.7秒である。反応時間が0.01秒未満の場合はナフサの熱分解が十分に進行せず、目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。他方、反応時間が1秒を超える場合には、ナフサの熱分解が過剰となり、メタン等の好ましくない副生成物の発生が増加して目的とする低級オレフィンの収率が低下する傾向となる。
【0075】
また、熱分解の反応圧力は、好ましくは0.01~1.5MPa(ゲージ圧力)、より好ましくは0.05~0.5MPa(ゲージ圧力)、さらに好ましくは0.07~0.2MPa(ゲージ圧力)である。
【0076】
熱分解の反応域を出た反応生成物は、急冷することによって、過剰な分解の進行を抑制することができる。冷却温度は、特に限定されないが、例えば、工業的スケールで実施する場合は、好ましくは200~700℃、より好ましくは250~650℃とすることができ、パイロットや実験室等の小スケールで実施する場合は、好ましくは0~100℃、より好ましくは3~40℃とすることができる。
【0077】
このようにして得られる低級オレフィンを含む反応生成物については、常法に従って、精製、分画等の処理を行うことができる。これにより、エチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン等の低級オレフィン、芳香族炭化水素類、その他の炭化水素類がそれぞれ得られる。また、エタン、プロパン等の飽和炭化水素は、回収して再び熱分解に供することができる。なお、低級オレフィンのうちブテン及びブタジエンは、通常、ブタンとの混合物として得られる。そのため、別工程にてブタジエンを溶媒抽出により単離し、抽出残であるブテン及びブタンの混合物については別工程で重合、精留等により利用、分画することが好ましい。
【0078】
なお、本発明の低級オレフィン組成物の製造方法において、前記ΔE[単位:e]、及び、得られた低級オレフィン組成物におけるメタノール生成比率Bが、下記式(1)及び(2)を満たすことで、本発明の混合ナフサの熱分解で、メタノールの含有量がより低減された低級オレフィン組成物を得ることができ、好ましい。
0.05≦ΔE 式(1)
B≦1.25×ΔE+0.10 式(2)
【0079】
前述のとおり、メタノールは、低級オレフィンを重合する際の重合触媒に悪影響を与える。前記式(1)及び(2)を満たす条件で、ナフサを熱分解して得られた低級オレフィン組成物は、メタノールの含有量が低減されているため、プロピレン等の低級オレフィンを製造する場合に有効である。
【0080】
前記式(2)は、B≦1.25×ΔE+0.05を満たす条件であることがより好ましい。
【0081】
なお、前記メタノール生成比率Bは、ナフサを熱分解する際に生成するメタノールの生成割合を示す指標であり、「ナフサに含まれるエーテル中の酸素原子数」に対する、「凝縮水に含まれるメタノール中の酸素原子数」の比率を意味する。メタノール生成比率Bの具体的な測定方法は後述の実施例の項に記載される通りである。
【0082】
本発明の混合ナフサを用いた低級オレフィン組成物の製造方法によれば、低級オレフィンを含有し、さらにメタノールの生成が抑えられた、即ち、メタノール含有量の少ない低級オレフィン組成物を製造することができる。
【0083】
さらに、本発明の低級オレフィン組成物の製造方法を用いることで、プロピレン及びメタノールを含有するプロピレン組成物を製造することができる。
より詳しくは、本発明の低級オレフィン組成物の製造方法を用いることで、プロピレンを含有し、さらにメタノールの生成が抑えられた、即ち、メタノール含有量の少ないプロピレン組成物を製造することができる。
【0084】
前述のとおり、メタノールは、低級オレフィン又はプロピレンを重合する際の重合触媒に悪影響を与えることから、本発明の低級オレフィン組成物の製造方法は、プロピレン等の低級オレフィンを製造する場合に有効である。
【0085】
本発明の低級オレフィンの組成物の製造方法により製造された低級オレフィン組成物中の低級オレフィンの含有割合は、特に限定されないが、前記低級オレフィン組成物の総質量100%に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95%質量%以上、とりわけ好ましくは98質量%以上である。前記低級オレフィン組成物中の低級オレフィンの含有割合は、100質量%であってもよい。
【0086】
本発明の低級オレフィンの組成物の製造方法により製造された低級オレフィン組成物中のメタノールの含有量は、特に限定されないが、前記低級オレフィン組成物の総質量に対して、好ましくは10,000質量ppm以下であり、より好ましくは1,000質量ppm以下、さらに好ましくは100質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下、とりわけ好ましくは5質量ppm以下であり、最も好ましくは1質量ppm以下である。ここで、低級オレフィン中のメタノールの含有量はガスクロマトグラフィー法によって測定することができる。
【0087】
このような低級オレフィン組成物は、本発明の混合ナフサのクラッキングを行うことにより、得ることができる。
【実施例0088】
以下に実施例に代わる実験例、参考実験例及び比較実験例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、これらは単に説明のためであって本発明を何ら制限するものではない。
【0089】
実験例、参考実験例及び比較実験例で使用した化合物の名称は以下のとおりである。
2-メトキシブタン(東京化成工業(株)製)
メトキシシクロペンタン(東京化成工業(株)製)
1-メトキシプロパン(東京化成工業(株)製)
ジメチルエーテル(小池化学(株)製)
ジエチルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジイソプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
ジプロピルエーテル(東京化成工業(株)製)
【0090】
(1) ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合の測定
ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合は、ガスクロマトグラフ測定装置(GC装置)を用いて、以下の条件で測定した。
<GC測定条件>
GC装置:GC-2010 Plus(装置名、島津製作所社製)
検出器:水素炎イオン化検出器(FID)
キャリアガス:窒素(流量0.8ml/分)
カラム:キャピラリーカラム CBP1-M50-025(島津製作所社製、サイズ:0.22mmφ×50m、膜厚:0.25μm)
カラム温度:0℃(保持時間5分)→3℃/分で昇温→200℃(保持時間なし)→10℃/分で昇温→250℃(保持時間10分)
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
サンプル量:0.5μL(スプリット比:1/60)
定量方法:絶対検量線法
【0091】
なお、GC測定用試料としては、ナフサを前処理せずそのまま使用した。
また、ガスクロマトグラムのピーク面積から、炭化水素の含有割合を算出するための検量線は、ガスクロマトグラムから同定された炭素数1~15の炭化水素の各成分として、予めナフサから分取・精製した化合物、市販品の化合物、及び予め合成した化合物を、正確に秤量、希釈したものを標準溶液に用いて作成した。
【0092】
ナフサのガスクロマトグラムの一例として、実験例C-1で使用した石油由来ナフサとバイオ原料由来ナフサの混合物について、ガスクロマトグラムから同定された、当該ナフサ中に含まれる炭化水素の各成分のリテンションタイム(分)と種類、炭素数を、表Aに示した。
表Aに示されるように、炭化水素の各成分は全て、リテンションタイム3.570~39.021分の間に観察され、当該炭化水素の炭素数は3~10の範囲内であった。なお、ここでは実験例C-1のナフサ混合物を例にして説明しているため、表Aに示される結果となっているが、ナフサの由来や産地、若しくは製造条件等によって、ナフサ中に含まれる炭化水素の各成分の種類や炭素数が異なることは言うまでもない。
【0093】
【表A】
【0094】
以下の手順に従って、ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を算出した。
まず、上記のGC測定条件を用いて得られたガスクロマトグラムにおいて、リテンションタイム1分~100分の間に観察されたピークから、炭素数1~15の炭化水素の各成分について、ピーク面積を読み取り、絶対検量線法により、前記各成分の含有割合(単位:質量%)を算出した。
次いで、炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値をB1、及び、炭素数7~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値をA1として、下記式からナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合を算出した。
【0095】
炭素数7以上の炭化水素の含有割合(質量%)=A1/B1×100
A1:炭素数7~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
B1:炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
【0096】
(2) ナフサ中の炭化水素の平均分子量の算出
上述した「(1)ナフサ中の炭素数7以上の炭化水素の含有割合」の測定方法を用いて算出した、B1、並びに、炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合Sn及び相対分子質量Mnを用いて、ナフサ中の炭化水素の平均分子量を、下記式から算出した。
【0097】
ナフサ中の炭化水素の平均分子量=(S1×M1+S2×M2+・・・・・S15×M15)/B1
Sn(nは1~15の整数):炭素数nの炭化水素の含有割合(質量%)
Mn(nは1~15の整数):炭素数nの炭化水素の相対分子質量
B1:炭素数1~15の炭化水素の各成分の含有割合の合計値(質量%)
【0098】
なお、相対分子質量とは、物質1分子の質量の統一原子質量単位に対する比であり、分子中に含まれる原子量の総和のことをいう。
また、ある炭素数を有する炭化水素は、相対分子質量が異なる複数の炭化水素成分から構成されることもある。例えば、炭素数5の炭化水素は、イソペンタン、2-メチル-1-ブテン、ノルマルペンタン、2-ペンテン、2-メチル-2-ブテン、及びシクロペンタンの6種類の炭化水素から構成される。
【0099】
(3) ナフサ中の硫黄含有化合物の含有量の分析
ナフサ中の硫黄含有化合物の硫黄含有量として、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP-OES)を用いて、硫黄原子に換算した硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算の含有量)を測定した。
まず、ICP-OES測定用試料を、以下の手順に従って作成した。
テフロン製容器中で、前記ナフサ1mlと硝酸8mlを混合した後、マイクロ波分解装置(装置名:MultiwavePRO、アントンパール社製)を用いて、下記の条件で加熱分解処理した後、超純水で25mlに定容し、これをICP-OES測定用試料とした。
マイクロ波分解条件:Ramp(500W/10分)→Hold(500W/10分)→Ramp(1300W/10分)→Hold(1300W/30分)
前記測定用試料について、ICP-OES(装置名:iCAP6500型、サーモフィッシャー社製、波長:S=180.731nm)を用いて、ナフサ中の硫黄原子の含有濃度(単位:質量ppm)を測定し、これを硫黄原子換算の硫黄含有化合物の含有量とした。なお、検量線の作成は、Sulfur Stndard for ICP(製品名、アルドリッチ製)を用いて絶対検量線法で行った。
【0100】
(4) ΔEの計算方法
実験例、参考実験例及び比較実験例に用いたエーテルについて、該エーテル中のエーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子の電荷の差の絶対値ΔE[単位:e]を下記の手順に従って計算した。
前記エーテルの分子構造について、密度汎関数法(DFT)計算を行い、前記2つの炭素原子の電荷の値を算出した。DFTの計算条件には、基底関数系としてdef-TZVPを使用し、溶媒効果としてCOSMO溶媒和モデル(COnductor like Screening MOdel)を採用し、解析方法としてMullikenの電荷密度解析法(Population Analysis)を用いた。
次いで、前記エーテル中のエーテル結合の酸素原子に結合する2つの炭素原子について、一方の炭素原子の電荷E1と他方の炭素原子の電荷E2との差の絶対値ΔE(ΔE=|E1-E2|)(単位:e)を算出した。なお、「e」は電子素量を意味し、e=1.602176634×10-19[単位:C]である。例えば、ΔEが0.05[単位:e]である場合、これをSI系単位で表すと、ΔE=0.05×1.602176634×10-19[単位:C]である。
前記ΔEの計算には、量子化学計算ソフト「TURBOMOLE ver7.2」(TURBOMOLE社製)及びTURBOMOLE用のグラフィカルユーザーインターフェイス「TmoleX ver4.4.1」(TURBOMOLE社製)を使用した。
【0101】
(5) メタノール生成比率Bの算出
ナフサの熱分解に由来して生成したメタノールは、実質的に、実験例、参考実験例及び比較実験例で得られた凝縮水に含まれ、ガス成分及び油分には含まれないことから、実験例、参考実験例及び比較実験例で得られた凝縮水のメタノール生成比率Bを、ガスクロマトグラフィー質量分析測定装置(GC/MS装置)(装置名:GCMS-QP2010Ultra、(株)島津製作所製)を用いて、下記の条件で測定した。
なお、実験例、参考実験例及び比較実験例に用いたブランクナフサからはメタノールが生成しないことを事前に確認した。
<GC/MS測定条件>
キャリアガス: ヘリウム、線速40cm/sec
カラム: SUPELCOWAX-10(Supelco社製、内径0.32mm×長さ60m×膜厚0.25μm)
温度(昇温条件): 50℃(保持時間5分)→20℃/分で昇温→200℃(保持時間2.5分)
注入口温度: 200℃
MSインターフェース温度: 200℃
イオン源温度: 200℃
サンプル量: 0.5μL
スプリット比: 1:5
測定モード: SIM(m/z=31)
【0102】
実験例、参考実験例及び比較実験例で得られた凝縮水から熱分解生成物であるメタノールの生成量を定量し、濃度既知のメタノールの標準溶液を用いて予め作成した検量線に基づいて、下記式より添加したエーテルに対するメタノール生成比率Bを求めた。
【0103】
[メタノール生成比率B]=[凝縮水中のメタノール中の酸素原子数]÷[ブランクナフサに添加したエーテル中の酸素原子数]
【0104】
つまり、メタノール生成比率Bが1.00の場合は、添加したエーテルがすべてメタノールとして定量されたことを意味する。なお、ここで添加したエーテル中に含まれる酸素原子の数は、エーテル化合物1分子当たり1酸素原子である。
【0105】
(6) 低級オレフィン収率の測定
原料ナフサを熱分解したときの低級オレフィン収率を、SUS310S製反応管を備えたナフサ流通評価装置を用いて、以下の方法で測定した。
なお「低級オレフィン」とは、上述したようにエチレン,プロピレン,ブテン(1-ブテン,2-ブテン及びイソブテン),ブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
前記反応管(内径4mm×外径6mm)に、後述する実験例、参考実験例及び比較実験例のナフサ及びスチームを、前記反応管の下部から供給し、反応温度810℃、反応圧力0.1MPaG、滞留時間0.6秒、スチーム/ナフサの質量比率(S/O比率)を0.4の条件で、ナフサを熱分解させ、前記反応管の上部から生成物を抜き出した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPaG下、5℃の条件で気液分離して、分離ガスと分離液を得た。
【0106】
得られた分離ガスについて、ナフサの熱分解生成物である水素、一酸化炭素、及び二酸化炭素、並びに炭化水素として、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、プロパジエン、イソブタン、ノルマルブタン、アレン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、1,2-ブタジエン、1,3-ブタジエン、メチルアセチレン、イソペンタン、ノルマルペンタン、1-ペンテン、2-ペンテン、シクロペンタン、2-メチルー1―ブテン、2-メチル-2-ブテン、シクロペンテン、イソプレン、ペンタジエン、シクロペンタジエン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサン、エチルベンゼン、スチレン、ノルマルヘプタン及びノルマルオクタン(以下、「炭化水素類」という。)のそれぞれを個別のガスクロマトグラフ測定装置を用いて定量した。
具体的には、水素の定量にはガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-8A、島津製作所社製)を用いた。また、一酸化炭素、二酸化炭素、及び前記炭化水素類の定量にはガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-2014、島津製作所社製)を用いた。このように測定した水素、一酸化炭素、二酸化炭素、炭化水素類、及び低級オレフィンの定量値を、それぞれX(水素)、X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)、X(炭化水素類)、X(低級オレフィン)(単位:g)とした。
【0107】
また、油水分離で油分として分離された分離液について、ガスクロマトグラフ測定装置(型番:GC-2014、島津製作所社製)を用いて、油分側の分離液中に含まれる、ナフサの熱分解生成物として、低級オレフィンを定量し、その定量値をY(低級オレフィン)(単位:g)とした。また、前記炭化水素類及び沸点150℃以上280℃以下の炭化水素を定量し、これらの定量値を合わせてY(炭化水素化合物)(単位:g)とした。
【0108】
低級オレフィン収率(単位:質量%)は、ナフサの熱分解開始後60~420分の間に上述した方法で測定したX(水素)、X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)、X(低級オレフィン)、X(炭化水素類)、Y(低級オレフィン)及びY(炭化水素化合物)を用いて、下記式により算出した。
低級オレフィン収率(単位:重量%)=(X(低級オレフィン)+Y(低級オレフィン))/(X(水素)+X(一酸化炭素)、X(二酸化炭素)+X(炭化水素類)+Y(炭化水素化合物))×100
【0109】
[参考実験例A-1-1]
原料として使用する石油由来のナフサ(サウジアラビア産オープンスペックナフサ、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:13.1質量%、炭化水素の平均分子量:79.20g/mol、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):190質量ppm、比重:0.6636g/cm)に対し、2-メトキシブタンをエーテル由来の酸素原子の含有量として50質量ppmとなるように添加し、次いで、水蒸気の存在下に熱分解炉を用いて下記熱分解条件で熱分解した。得られた熱分解生成物を5℃で急冷し、気液分離器を用いて0.1MPa(ゲージ圧力)下、5℃の条件で気液分離して、ガス成分と分離液を得た。さらに前記分離液を、分液ロートを用いて大気圧下、室温の条件で油分と凝縮水とに油水分離した。
【0110】
<熱分解条件>
ナフサ流量:83.1g/hr
水蒸気/ナフサ質量比:0.4
滞留時間:0.6秒
熱分解温度:810℃
熱分解圧力:0.1MPa(ゲージ圧力)
【0111】
上述した方法により前記凝縮水のメタノール生成比率Bを測定し、ΔEの値と共に、表1に示した。また、ΔEとメタノール生成比率Bの関係を図1に示した。
【0112】
[参考実験例A-1-2~A-1-3]
エーテル酸素原子換算の含有量を表1記載のとおりに変更した以外は、比較実験例A-1-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0113】
[参考実験例A-0]
2-メトキシブタンを不使用とした以外は、参考実験例A-1-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0114】
[参考実験例A-2~A-3、比較実験例A-4~A-7]
エーテルの種類及び該エーテルのエーテル酸素原子換算の含有量を表1記載のとおりに変更した以外は、参考実験例A-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表1に示した。
【0115】
なお、参考実験例A-1とは表1記載の参考実験例A-1-1乃至参考実験例A-1-3のことをいう。参考実験例A-2とは表1記載の参考実験例A-2-1乃至参考実験例A-2-3のことをいう。参考実験例A-3は表1記載の参考実験例A-3-1乃至参考実験例A-3-3のことをいう。
以下の表1~表3において、添加エーテルのエーテル酸素原子換算の含有量を「酸素原子濃度」と記載する。
【0116】
【表1】
【0117】
[参考実験例B-1~B-3、比較実験例B-4及びB-7]
参考実験例A-1における石油由来のナフサのかわりにバイオ原料由来ナフサ(AltAir Paramount社製、炭素数7以上の炭化水素の含有割合:43.9質量%、炭化水素の平均モル分子量:88.28g/mol、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):1質量ppm、比重:0.6700g/cm)を用い、且つ、エーテルの種類及び該エーテル由来のエーテル酸素原子換算の含有量を表2記載のとおりに変更した以外は、参考実験例A-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表2に示した。
なお、参考実験例B-2とは表1記載の参考実験例-2-1乃至参考実験例B-2-3のことをいう。
【0118】
[参考実験例B-0]
2-メトキシブタンを不使用とした以外は、参考実験例B-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表2に示した。
【0119】
【表2】
【0120】
[実験例C-1]
参考実験例A-1における石油由来ナフサのかわりに、該石油由来ナフサと前記バイオ原料由来ナフサの混合物(質量比1:1)(炭素数7以上の炭化水素の含有割合:30.6質量%、炭化水素の平均モル分子量:84.14g/mol、硫黄含有化合物の含有量(硫黄原子換算):100質量ppm、比重:0.6667g/cm)を用い、且つ、エーテルの種類及び該エーテル由来のエーテル酸素原子換算の含有量を表3記載のとおりに変更した以外は、参考実験例A-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0121】
[実験例C-0]
2-メトキシブタンを不使用とした以外は、実験例C-1と同様の条件で、ガス成分、油分及び凝縮水を得、同様に評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0122】
【表3】
【0123】
図1には、実験例C-1、並びに、参考実験例A-1-1、A-2-1、A-3-1、B-1、B-2-1、及びB-3、比較実験例A-4、A-7、B-4及びB-7をプロットした。
【0124】
参考実験例B-1~B-3及び比較実験例B-4及びB-7と、参考実験例A-1~A-3及び比較実験例A-4~A-7との対比から、バイオ原料由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと比較すると、メタノール生成比率Bが低く、メタノールを生成し難いことが分かる。その理由は、定かではないが、バイオ原料由来のナフサは、化石燃料由来のナフサと比較すると、ナフサ中に含まれる炭化水素の分子量が全体的に大きく、該炭化水素の分圧が低くなる傾向がある。その結果として、バイオ原料由来のナフサでは、非対称エーテルからメタノールを生成する副反応が抑制されるため、化石燃料由来のナフサと比べると、熱分解条件下で熱分解してもメタノールが生成し難いためと推察される。
さらに、いずれのナフサにおいても、ΔEが0.05以上のエーテルは、ΔEの値が大きいほどメタノールを多く生成する傾向があることが分かる。
【0125】
参考実験例B-1~B-3及び比較実験例B-4及びB-7の対比、並びに、参考実験例A-1~A-3及び比較実験例A-4~A-7の対比から、エーテルのΔEの値とメタノール生成比率Bとには相関があり、エーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルは、メタノール生成比率Bが高く、メタノールを生成し易いことが分かる。さらに、ΔEが0.05以上のエーテルは、ΔEの値が大きいほどメタノールを多く生成する傾向があることが分かる。
【0126】
また、表2の参考実験例B-2より、エーテル結合を構成している酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルは、エーテル酸素原子換算の濃度が20,000質量ppm以下の条件において、エーテル酸素原子換算の濃度を50質量ppm、500質量ppm、5,000質量ppmとしたところ、メタノール生成比率がほぼ同等の値であった。その理由として、非対称構造を有するエーテルは、ΔEが大きいため、エーテル酸素原子に結合する2つの炭素原子間において電荷の偏りが大きく、熱分解条件下で熱分解してメタノールを生成し易いためと推察される。
【0127】
参考実験例A-0、参考実験例B-0及び実験例C-0の低級オレフィン収率の内訳を表4に示す。低級オレフィンとは、エチレン,プロピレン,ブテン(1-ブテン,2-ブテン及びイソブテン),ブタジエン(1,2-ブタジエン及び1,3-ブタジエン)のことをいう。
【0128】
【表4】
【0129】
表4から、エチレン,プロピレン,ブテン,ブタジエンいずれの低級オレフィンもナフサ中のバイオ由来ナフサの含有割合の増加とともに、収率が高くなることが分かる。
従って、低級オレフィン製造用の原料ナフサとして、性状の異なる2種類以上のナフサ、例えば、バイオ原料由来のナフサと化石燃料由来のナフサとを混合するに当たり、エーテルの中でもエーテル酸素原子に対して非対称構造を有するエーテルの含有濃度が所定値以下となるように混合することで、更には炭素数7以上の炭化水素の含有量が所定値以上となるように混合することで、この混合ナフサを用いてメタノールの生成が抑制された製品価値の高い低級オレフィンを製造することができることが分かる。
図1