(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028028
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】ワイヤレス給電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 50/90 20160101AFI20240222BHJP
H02J 50/12 20160101ALI20240222BHJP
B60M 7/00 20060101ALI20240222BHJP
B60L 5/00 20060101ALI20240222BHJP
B60L 53/122 20190101ALI20240222BHJP
【FI】
H02J50/90
H02J50/12
B60M7/00 X
B60L5/00 B
B60L53/122
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131331
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】居村 岳広
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 晃大
【テーマコード(参考)】
5H105
5H125
【Fターム(参考)】
5H105AA20
5H105BA09
5H105BB05
5H105CC04
5H105CC19
5H105DD10
5H105EE15
5H105GG03
5H125AA01
5H125AC04
5H125BE02
5H125EE52
5H125EE61
(57)【要約】
【課題】低コストで効率及び安全性を担保できる給電回路の切り替え制御を行うワイヤレス給電システムを提供する。
【解決手段】ワイヤレス給電システム10は、電気自動車1の走行方向に沿って所定の間隔で配置され、移動体へ非接触で給電する給電コイル14と、複数の給電コイル14のそれぞれに対応して設けられるスイッチ17A、17B、17Cと、給電コイル14に流れる電流値を測定する電流センサ16と、複数の給電コイル14のそれぞれから走行中の電気自動車1へ給電している際の電流値が所定の第1閾値を超えた期間と、該期間の間のインターバル期間との長さと、給電コイルの間隔と、を用いて電気自動車1の速度を推定し、電気自動車1の速度に基づいてスイッチ17A、17B、17Cのそれぞれのオン又はオフの切り替えタイミングを制御するDSP15と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の走行方向に沿って所定の間隔で配置され、前記移動体へ非接触で給電する複数の給電コイルを備える給電回路と、
前記複数の給電コイルのそれぞれに対応して設けられ、各前記給電コイルへの電流の供給及び遮断を切り替えるスイッチと、
前記給電回路に流れる電流値を測定する電流センサと、
前記複数の給電コイルのそれぞれから走行中の前記移動体へ給電している際の前記電流値が所定の第1閾値を超えた期間と、該期間の間のインターバル期間との長さと、前記給電コイルの間隔と、を用いて前記移動体の速度を推定し、推定した前記移動体の速度に基づいて前記スイッチのそれぞれのオン、オフの切り替えタイミングを制御する制御装置と、
を備える、ワイヤレス給電システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記複数の給電コイルの中の第1給電コイルから走行中の前記移動体へ給電している際に前記電流値が所定の第1閾値を超えた第1期間と、前記走行方向で前記第1給電コイルの先にある前記複数の給電コイルの中の第2給電コイルから走行中の前記移動体へ給電している際に前記電流値が前記第1閾値を超えた第2期間と、前記第1期間と前記第2期間との間の第1インターバル期間と、前記第1給電コイルと前記第2給電コイルとの間隔の情報と、に基づいて前記移動体の速度を推定する推定部と、
前記推定部が推定した前記移動体の速度に基づいて、前記走行方向で前記第2給電コイルの先にある前記複数の給電コイルの中の第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチのオン、オフの切り替えタイミングを制御する切替制御部と、
を備える、請求項1に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項3】
前記切替制御部は、推定した前記移動体の速度から、前記移動体が前記第3給電コイルに所定の距離まで近付く時間を算出し、算出した時間になった時点で前記第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチをオフからオンに切り替え、前記電流値が前記第2閾値未満となった時点で前記第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチをオフする、請求項2に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項4】
前記切替制御部は、前記第2給電コイルと前記第3給電コイルとの間隔の情報に基づいて前記第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチのオン、オフの切り替えタイミングを制御する、請求項2に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項5】
前記推定部は、前記第3給電コイルから走行中の前記移動体へ給電している際に前記電流値が前記第1閾値を超えた第3期間と、前記第2期間と前記第3期間との間の第2インターバル期間と、前記第2給電コイルと前記第3給電コイルとの間隔の情報と、に基づいて前記移動体の速度を推定した結果、所定の閾値を超える又は下回る度に前記移動体の速度の再推定を行う、請求項2に記載のワイヤレス給電システム。
【請求項6】
前記切替制御部は、前記移動体へ給電を行っている前記給電コイル以外の前記給電コイルに対応するスイッチをオフする、請求項2に記載のワイヤレス給電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ワイヤレス給電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
走行中の電気自動車へ無線で電力伝送を行う、走行中ワイヤレス給電に関する技術が提案されている。
【0003】
非特許文献1は、送電側と受電側の双方に1つのコイルと2つのキャパシタとを備えた、LCC-LCC回路で構成された走行中ワイヤレス電力伝送システムにおいて、インバータからの出力電流を閾値とし、送電回路をセグメント毎に切り替え制御している技術を開示している。
【0004】
非特許文献2は、高速道路等での送電コイル上を短時間で通過することを考慮し、無線通信を利用しないコイルの検出方法を開示している。非特許文献2で開示する技術は、検出コイルに常に一定の電力を印加しており、受電コイルが近づいたことによる検出コイルの電圧の変化を閾値として、電力伝送用の回路の切り替えを行っている。
【0005】
非特許文献3は、車両側のコイルから検出用の信号を出力し、車両が道路にある送電用コイルを検出すると同時に、送電用コイルに流れる電流によって、送電用コイルも車両を検出し、電力の伝送を開始する技術を開示する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】K. Sasaki and T. Imura, "Combination of Sensorless Energized Section Switching System and Double-LCC for DWPT," 2020 IEEE PELS Workshop on Emerging Technologies: Wireless Power Transfer (WoW), 2020, pp. 62-67
【非特許文献2】D. Patil, J. M. Miller, B. Fahimi, P. T. Balsara and V. Galigekere, "A Coil Detection System for Dynamic Wireless Charging of Electric Vehicle," in IEEE Transactions on Transportation Electrification, vol. 5, no. 4, pp. 988-1003, Dec. 2019
【非特許文献3】T. Hamada, D. Shirasaki, T. Fujita and H. Fujimoto, "Proposal of Sensorless Vehicle Detection Method for Start-up Current Control in Dynamic Wireless Power Transfer System," IECON 2021 - 47th Annual Conference of the IEEE Industrial Electronics Society, 2021, pp. 1-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走行中の電気自動車へ無線で電力伝送を行う走行中ワイヤレス給電では、低コストで効率及び安全性を担保できる給電回路の切り替え制御が重要となる。しかし、受電コイル又車両を検出するための個別の回路又は信号、無線通信を行うと、走行中ワイヤレス給電のためのシステムのコストが増大してしまう。
【0008】
本開示は、上記の点に鑑みてなされたものであり、低コストで効率及び安全性を担保できる給電回路の切り替え制御を行うワイヤレス給電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1態様に係るワイヤレス給電システムは、移動体の走行方向に沿って所定の間隔で配置され、前記移動体へ非接触で給電する複数の給電コイルを備える給電回路と、前記複数の給電コイルのそれぞれに対応して設けられ、各前記給電コイルへの電流の供給及び遮断を切り替えるスイッチと、前記給電回路に流れる電流値を測定する電流センサと、前記複数の給電コイルのそれぞれから走行中の前記移動体へ給電している際の前記電流値が所定の第1閾値を超えた期間と、該期間の間のインターバル期間との長さと、前記給電コイルの間隔と、を用いて前記移動体の速度を推定し、推定した前記移動体の速度に基づいて前記スイッチのそれぞれのオン、オフの切り替えタイミングを制御する制御装置と、を備える。
【0010】
本開示の第2態様に係るワイヤレス給電システムは、第1態様に係るワイヤレス給電システムであって、前記制御装置は、前記複数の給電コイルの中の第1給電コイルから走行中の前記移動体へ給電している際に前記電流値が所定の第1閾値を超えた第1期間と、前記走行方向で前記第1給電コイルの先にある前記複数の給電コイルの中の第2給電コイルから走行中の前記移動体へ給電している際に前記電流値が前記第1閾値を超えた第2期間と、前記第1期間と前記第2期間との間の第1インターバル期間と、前記第1給電コイルと前記第2給電コイルとの間隔の情報と、に基づいて前記移動体の速度を推定する推定部と、前記推定部が推定した前記移動体の速度に基づいて、前記走行方向で前記第2給電コイルの先にある前記複数の給電コイルの中の第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチのオン、オフの切り替えタイミングを制御する切替制御部と、を備える。
【0011】
本開示の第3態様に係るワイヤレス給電システムは、第2態様に係るワイヤレス給電システムであって、前記切替制御部は、推定した前記移動体の速度から、前記移動体が前記第3給電コイルに所定の距離まで近付く時間を算出し、算出した時間になった時点で前記第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチをオフからオンに切り替え、前記電流値が前記第2閾値未満となった時点で前記第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチをオフする。
【0012】
本開示の第4態様に係るワイヤレス給電システムは、第2態様に係るワイヤレス給電システムであって、前記切替制御部は、前記第2給電コイルと前記第3給電コイルとの間隔の情報に基づいて前記第3給電コイルへ電流を供給するためのスイッチのオン、オフの切り替えタイミングを制御する。
【0013】
本開示の第5態様に係るワイヤレス給電システムは、第2態様に係るワイヤレス給電システムであって、前記推定部は、前記第3給電コイルから走行中の前記移動体へ給電している際に前記電流値が前記第1閾値を超えた第3期間と、前記第2期間と前記第3期間との間の第2インターバル期間と、前記第2給電コイルと前記第3給電コイルとの間隔の情報と、に基づいて前記移動体の速度を推定した結果、所定の閾値を超える又は下回る度に前記移動体の速度の再推定を行う。
【0014】
本開示の第6態様に係るワイヤレス給電システムは、第2態様に係るワイヤレス給電システムであって、前記切替制御部は、前記移動体へ給電を行っている前記給電コイル以外の前記給電コイルに対応するスイッチをオフする。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、低コストで効率及び安全性を担保できる給電回路の切り替え制御を行う給電制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本実施形態に係るワイヤレス給電システムの概略構成を示す図である。
【
図2】電気自動車及びワイヤレス給電システムが有するコイル及び共振回路を示す図である。
【
図3】本実施形態に係るワイヤレス給電システムの構成例を示す図である。
【
図4】DSP(Digital Signal Processor)の機能構成の例を示すブロック図である。
【
図5】入力電流Iinと結合係数kとの関係例を示すグラフである。
【
図6】ワイヤレス給電システムによる制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図7】実験条件と実験に用いた回路のパラメータを示す図である。
【
図9】給電コイルの個数に応じた電力量と効率換算結果を示す図である。
【
図10】給電コイルの個数に応じた電力量と効率換算結果のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0018】
図1は、本実施形態に係るワイヤレス給電システムの概略構成を示す図である。
【0019】
図1に示したワイヤレス給電システム10は、走行中の電気自動車1へ無線で電力伝送を行うことを目的としたシステムである。電気自動車1は、本開示の移動体の一例である。ワイヤレス給電システム10は、DC(直流)電源11、インバータ12、複数の共振回路13及び複数の給電コイル14を有する。
【0020】
DC電源11は、共振回路13を通じて給電コイル14に流す電流を供給する電源である。DC電源11からの直流電流は、DCバス21を通じてインバータ12に送られる。
【0021】
インバータ12は、DC電源11からの直流電流を交流電流に変換する。インバータ12によって変換された交流電流は、ACバス22を通じて共振回路13に送られる。
【0022】
共振回路13及び給電コイル14は、電気自動車1が走行する道路に備えられ、電気自動車1が備えるコイル及び共振回路(図示せず)へ電力を供給する。本実施形態では、共振回路13は1つのコイルと2つのキャパシタとを備えたLCC回路で構成されている。なお、給電コイル14の間隔は一定であってもよく、給電コイル14間で異なっていてもよい。
【0023】
図2は、電気自動車1及びワイヤレス給電システム10が有するコイル及び共振回路の例を示す図である。電源v1はワイヤレス給電システム10の交流電源に対応し、コイルL0、キャパシタC1p、C1sは、ワイヤレス給電システム10の共振回路13に対応し、コイルL1はワイヤレス給電システムの給電コイル14に対応する。また、L2は電気自動車1の受電コイルに対応し、コイルL’0、キャパシタC2p、C2sは、電気自動車1の共振回路に対応し、負荷RLは電気自動車1の負荷、電圧v2は負荷RLの両端の電圧に対応する。
【0024】
図2に示したLCC-LCC回路では、電源の角周波数をω0として数式(1)のような共振条件を満たす。
【0025】
【0026】
また本実施形態に係るLCC-LCC回路を用いたワイヤレス電力伝送方式では、結合係数kに依存する形で共振回路13への入力電流Iinが変動する。すなわち、LCC-LCC回路を用いたワイヤレス電力伝送方式は、給電側のコイルと受電側のコイルとの間の結合係数kが低い状況では、給電側の回路に過大な電流が流れない。
【0027】
共振回路13への入力電流Iinが結合係数kに依存するということは、電気自動車1の位置に対して入力電流Iinが変化するともいえる。そこで本実施形態に係るワイヤレス電力伝送システム10は、電気自動車1の位置によって変動する入力電流Iinの特性を利用して電気自動車1の速度を推定し、推定した電気自動車1の速度を用いて、電流を供給する共振回路の切り替えタイミングを制御することを特徴とする。
【0028】
図3は、本実施形態に係るワイヤレス給電システムの構成例を示す図である。
図3に示したワイヤレス給電システム10は、DC(直流)電源11、インバータ12、第1共振回路13A、第2共振回路13B、第3共振回路13C、第1給電コイル14A、第2給電コイル14B、第3給電コイル14C、DSP(Digital Signal Processor)15、電流センサ16、第1スイッチ17A、第2スイッチ17B、第3スイッチ17Cを有する。ここでは、
図1に示されていない構成であるDSP15、電流センサ16及びスイッチ17A、17B、17Cについて説明する。
【0029】
DSP15は、本開示の制御装置の一例である。DSP15は、電流センサ16が測定した第1共振回路13A、第2共振回路13B、第3共振回路13Cのいずれかに流れる入力電流Iinの値の情報を用いて、第1給電コイル14A、第2給電コイル14B、第3給電コイル14Cの上(以下「上部」ともいう)を走行する電気自動車1の速度を推定する。そして、DSP15は、入力電流Iinの値又は推定した電気自動車1の速度に基づいて、第1スイッチ17A、第2スイッチ17B、第3スイッチ17Cのオン又はオフの切り替えタイミングを制御する。
【0030】
つまり、DSP15は、電気自動車1の速度を推定し、電気自動車1が上部を通過し始めようとするタイミングで第1給電コイル14A、第2給電コイル14B、第3給電コイル14Cにそれぞれ対応して設けられる第1スイッチ17A、第2スイッチ17B、第3スイッチ17Cをオンする。そしてDSP15は、電気自動車1が上部を通過し終えようとするタイミングで第1給電コイル14A、第2給電コイル14B、第3給電コイル14Cにそれぞれ対応して設けられる第1スイッチ17A、第2スイッチ17B、第3スイッチ17Cをオフする。
【0031】
電流センサ16は、入力電流Iinの値を測定するセンサである。入力電流Iinの値はDSP15に送られて、電気自動車1の速度の推定に用いられる。
【0032】
第1スイッチ17A、第2スイッチ17B、第3スイッチ17Cは、上述したように第1給電コイル14A、第2給電コイル14B、第3給電コイル14Cにそれぞれ対応して設けられている。なお本実施形態では、第1スイッチ17A、第2スイッチ17B、第3スイッチ17CはそれぞれN型MOS(Metal-Oxide Semiconductor)トランジスタが直列に接続された構成となっているが、本開示では各スイッチの構成は係る例に限定されるものでは無い。
【0033】
図4は、DSP15の機能構成の例を示すブロック図である。
【0034】
図4に示すように、DSP15は、機能構成として、推定部101、及び切替制御部102を有する。各機能構成は、DSP15が内部のROMに記憶された制御プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0035】
推定部101は、電流センサ16が測定した第1共振回路13A、第2共振回路13B、第3共振回路13Cのいずれかに流れる電流の電流値の情報を用いて、第1給電コイル14A、第2給電コイル14B、第3給電コイル14Cの上を走行する電気自動車1の速度を推定する。
【0036】
ここで、推定部101による電気自動車1の速度の推定処理の具体例を説明する。
【0037】
図5は、複数の給電コイル14の上を、受電コイルを備えた電気自動車1が順次通過する際の、入力電流Iinと結合係数(Coupling coefficient)kとの関係例を示すグラフである。
図5の上段は、複数の給電コイル14の上を、受電コイルを備えた電気自動車1が順次通過する際の入力電流Iinの時間変化のグラフであり、
図5の下段は、複数の給電コイル14の上を、受電コイルを備えた電気自動車1が順次通過する際の結合係数kの時間変化のグラフである。
【0038】
図5に示したように、結合係数kの値の変化に応じて、入力電流Iinが変動していることがわかる。推定部101は、電気自動車1の速度の推定に際し、速度推定用電流閾値Ith_spを超えた期間t1、及びその次のIth_spを超えた期間t3、期間t1とt3との間の期間t2、及びそれぞれに対応する給電コイル14間の間隔の情報を用いる。速度推定用電流閾値Ith_spは本開示の第1閾値の一例、期間t1は本開示の第1期間の一例、期間t3は本開示の第2期間の一例、期間t2は本開示の第1インターバル期間の一例である。
【0039】
推定部101は、期間t1、t2、t3から時間tを計測し、給電コイル14間の間隔Lを時間tで割ることで電気自動車1の推定速度vestを求める。なお、時間tは以下の数式(2)で求めることが出来る。
t=t1/2+t3/2+t2 (2)
【0040】
なお、本実施形態では入力電流Iinの値の測定に電流センサ16が測定した電流値を用いているが、電流センサ16での測定値にノイズが乗る可能性を考慮し、速度推定用電流閾値Ith_spには所定の幅を設けてもよい。
【0041】
切替制御部102は、推定部101が推定した電気自動車1の速度に基づいて、電気自動車1の走行方向で、電気自動車1の速度の推定に用いた第2給電コイルの先にある給電コイルへ電流を供給するためのスイッチのオン、オフの切り替えタイミングを制御する。例えば、推定部101が第1給電コイル14A及び第2給電コイル14Bを用いて電気自動車1の速度を推定した場合、切替制御部102は、電気自動車1の進行方向で第2給電コイル14Bの先にある第3給電コイル14Cに対応するスイッチ17Cのオン、オフの切り替えタイミングを制御する。
【0042】
切替制御部102は、切り替えのタイミングを決める基準として、
図5に示すように、速度推定と同様に入力電流Iinの値を利用する。切替制御部102は、入力電流Iinが回路切り替えの閾値Ith_swを下回ったタイミングで給電コイルに対応するスイッチをオフにする。また、切替制御部102は、閾値Ith_swを超える電流が流れる位置に電気自動車1が来るまでのスイッチオフ時間twaitを計算してスイッチをオンにするタイミングを決定する。具体的には、切替制御部102は、twaitの計算終了時にスイッチオフ時間toffの計測を開始し、スイッチオフ時間toffがtwaitを超えたら次の共振回路のスイッチをオンにする。すなわち、切替制御部102は、電気自動車1の速度に基づいて、電気自動車1が第3給電コイル14Cまで所定の距離まで近付くまでの時間を算出し、算出した時間に達するとスイッチ17Cをオフからオンに切り替え、入力電流Iinが回路切り替えの閾値Ith_swを下回ったタイミングでスイッチ17Cをオンからオフに切り替える。
【0043】
DSP15は、係る機能構成を有することで、電気自動車1との無線通信を行ったり、追加のセンサコイル等を利用したりすることなく、電流センサ16のみで電気自動車1の速度の推定を行うことができる。そして、DSP15は、電気自動車1の速度の推定を行うことで、電気自動車1への給電に必要なタイミングにおいてのみ、電気自動車1へ給電する給電コイルに対応するスイッチをオンすることができる。
【0044】
DSP15は、各給電コイルから電気自動車1へ給電する度に、電気自動車1の速度を再計算し、更新することができるため、直前の給電コイル14からの給電時に計算した速度と、現在の給電コイル14からの給電時に計算した速度とを比較することで、電気自動車1に加速度が生じているかどうかを算出することもできる。
【0045】
なお、本実施形態では、電気自動車1の進行方向において最も前に位置する第1スイッチ17Aはオン状態で待機し、電気自動車1の通過によってオフ状態になり、その後またオン状態で待機する。切替制御部102は、電気自動車1が第1給電コイル14Aを通過した時点(すなわち電流値が閾値Ith_swを下回った時点)で、第1スイッチ17Aを再びオン状態に切り替えてもよい。また切替制御部102は、法定速度等を基に最短の車間距離を推定し、第1スイッチ17Aを再びオン状態に切り替えて待機状態に遷移するまでのタイミングを調整してもよい。また切替制御部102は、過去に通過した電気自動車1の速度から最短の車間距離を推定し、第1スイッチ17Aを再びオン状態に切り替えて待機状態に遷移するまでのタイミングを調整してもよい。また切替制御部102は、過去に通過した電気自動車1の間隔を推定し、第1スイッチ17Aを再びオン状態に切り替えて待機状態に遷移するまでのタイミングを調整してもよい。また切替制御部102は、上述した調整を組み合わせて第1スイッチ17Aをオフ状態からオン状態へ切り替えてもよい。さらには、第1給電コイル14Aの手前に、電気自動車1の接近を検知するためのセンサを備えておき、切替制御部102は、電気自動車1が接近するまでは第1スイッチ17Aをオフ状態に維持し、電気自動車1が接近すると第1スイッチ17Aをオフ状態からオン状態に切り替える制御を行ってもよい。
【0046】
次に、ワイヤレス給電システム10の作用について説明する。
【0047】
図6は、ワイヤレス給電システム10による制御処理の流れを示すフローチャートである。DSP15が内部のROMから制御プログラムを読み出して、内部のRAMに展開して実行することにより、制御処理が行われる。なお、
図6に示した制御処理は、N個の給電コイルを備えたワイヤレス給電システム10による制御処理であるとして説明する。
【0048】
DSP15は、ステップS101において、変数nを1に初期化する。
【0049】
ステップS101に続いて、DSP15は、ステップS102において、第nスイッチをオンにする。変数nが1であれば、DSP15は第1スイッチ17Aをオンにする。スイッチがMOSトランジスタで構成されている場合は、DSP15は、MOSトランジスタをオンにするための電位をゲート端子に与える。
【0050】
ステップS102に続いて、DSP15は、ステップS103において、電流センサ16が測定した入力電流Iinが回路切り替え用電流閾値Ith_sw未満になったかどうか判断する。
【0051】
ステップS103の判断の結果、入力電流Iinが回路切り替え用電流閾値Ith_sw未満でなければ(ステップS103;No)、DSP15は、入力電流Iinが回路切り替え用電流閾値Ith_sw未満になるまでステップS103の判断を繰り返す。
【0052】
一方、ステップS103の判断の結果、入力電流Iinが回路切り替え用電流閾値Ith_sw未満であれば(ステップS103;Yes)、DSP15は、ステップS104において、第nスイッチをオフにする。
【0053】
ステップS104に続いて、DSP15は、ステップS105において、変数nが1であるかどうか判断する。
【0054】
ステップS105の判断の結果、変数nが1でなければ(ステップS105;No)、続いてDSP15は、ステップS106において電気自動車1の推定速度vest及び閾値Ith_swを超える電流が流れる位置に電気自動車1が来るまでのスイッチオフ時間twaitを計算し、またスイッチオフ時間toffの計測を開始する。
【0055】
ステップS106に続いて、DSP15は、ステップS107において、スイッチオフ時間toffがtwaitを超えたかどうか判断する。
【0056】
ステップS107の判断の結果、スイッチオフ時間toffがtwaitを超えてなければ(ステップS107;No)、DSP15は、スイッチオフ時間toffがtwaitを超えるまでステップS107の判断を繰り返す。
【0057】
一方、ステップS107の判断の結果、スイッチオフ時間toffがtwaitを超えれば(ステップS107;Yes)、DSP15は、続いてステップS108において変数nを1つ増加させる。
【0058】
また、ステップS105の判断の結果、変数nが1でなければ(ステップS105;No)、DSP15は、続いてステップS108において変数nを1つ増加させる。
【0059】
変数nが1かどうかで処理を変えているのは、DSP15は、電気自動車1の速度を推定する際に、少なくとも2つの給電コイルからの給電時の入力電流Iinを用いているので、2番目の給電コイルからの給電時には電気自動車1の速度の推定が完了していないからである。
【0060】
ステップS108に続いて、DSP15は、ステップS109において、変数nが給電コイルの数Nと一致しているかどうか判断する。
【0061】
ステップS109の判断の結果、変数nがNでなければ(ステップS109;No)、DSP15は、ステップS102に戻り、処理を継続する。
【0062】
一方、ステップS109の判断の結果、変数nがNであれば(ステップS109;Yes)、DSP15は、一連の処理を終了する。
【0063】
DSP15は、一連の処理を実行することで、電気自動車1との無線通信を行ったり、追加のセンサコイル等を利用したりすることなく、電流センサ16のみで電気自動車1の速度の推定を行うことができる。そして、DSP15は、電気自動車1の速度の推定を行うことで、電気自動車1への給電に必要なタイミングにおいてのみ、電気自動車1へ給電する給電コイルに対応するスイッチをオンすることができる。
【0064】
DSP15は、スイッチの切り替えタイミングを決定するための電気自動車1の速度推定に、電気自動車1へ給電している際の電流情報を利用するため、電力伝送を行う回路以外に電力を消費することが無く、待機損失を抑えてワイヤレス給電システム1の全体の効率を高めることができる。さらにDSP15は、電気自動車1が給電コイル上に無い場合には給電コイルからの給電を停止させることができるため、給電を行わない給電コイルから発生する漏洩磁界を抑制することができる。
【0065】
DSP15による電気自動車1の速度推定法を用いたスイッチの切り替えシステムの実験結果を3個の給電コイルを用いて検証する。給電コイルのサイズはすべて500mm×250mmであり、受電コイルのサイズは250mm×250mmとした。給電コイルの中心から中心の距離は1000mm、給電コイルと受電コイルとの間のエアギャップは80mmとした。
図7は、実験条件と実験に用いた回路のパラメータを示す図である。回路のパラメータは
図2に示したものにそれぞれ対応する。そして実験において、受電コイルの速度vは500mm/s(Case1)、1000mm/s(Case2)、2000mm/s(Case3)の3通りの速度で給電コイルの上を通過させた。
【0066】
図8は、
図7の条件で実験を行った際の、DSP15による速度推定結果を示す図である。
図8に示したように、DSP15による推定速度vestの推定結果の速度vとの誤差εは、Case1~Case3のどの速度域でも0.6%以内に収まっている。すなわち、本実施形態に係るDSP15による速度推定処理の正確性が示されている。従って、DSP15による電気自動車1の速度推定結果は、スイッチのオン、オフの切り替えタイミングの制御に用いることが可能である。
【0067】
本実施形態に係るDSP15による速度推定処理は、1台の電気自動車1に対してオンにするスイッチを常に1つとすることができるため、電気自動車1が給電コイル上に無い場合の待機損失の低減効果が期待できる。そこで、給電コイルを全て待機させた待機システムと、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1との比較を行った。本実施形態に係るワイヤレス給電システム1では、給電及び受電の総電力量と、給電コイルが設けられた区間内のDC間効率とにおいて、3個の給電コイルで行った実験結果を換算する形で、3個から10個の給電コイルが実験と同じ間隔で存在する場合を示した。なお、待機システムの給電側の総給電電力量をEin_stand、受電側の総受電電力量をEout_standとする。同様に、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1の総給電電力量をEin_prop、受電側の総受電電力量をEout_propとする。さらに、待機システムのDC間効率をηstand、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1のDC間効率をηpropとする。
【0068】
図9は、給電コイルの個数に応じた電力量と効率換算結果を示す図である。
図10は、給電コイルの個数に応じた電力量と効率換算結果のグラフである。
図9、10により、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、待機システムにおける待機期間中に発生する無駄な電力を削減することができており、その効果はコイルの個数が増えるごとに現れることが分かる。本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、給電コイルが増えた場合でも78%程度の効率を達成しており、待機損失の影響を殆ど受けていない。なお、受電コイルが1個の給電コイル上を通過した際の効率は約80%である。
【0069】
さらに、本実施形態に係るワイヤレス給電システム1の受電電力量も待機システムと殆ど変わらず、十分に給電を行えていることが分かる。また本実施形態に係るワイヤレス給電システム1は、共振回路のスイッチをオフにすることで給電コイルに流れる電流も遮断できるため、待機時に給電コイルから発生する漏洩磁界を抑制する効果も期待できる。
【0070】
以上、添付図面を参照しながら本開示の実施形態について詳細に説明したが、本開示の技術的範囲はかかる例に限定されない。本開示の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらの変更例または修正例についても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0071】
例えば、上記実施形態では給電側及び受電側にLCC共振回路を備えたワイヤレス給電システムを示したが、本実施形態は係る例に限定されるものではなく、その他の共振回路を備えたワイヤレス給電システムにおいても同様に電気自動車1の速度を推定可能である。
【0072】
また、上記実施形態において記載された効果は、説明的又は例示的なものであり、上記実施形態において記載されたものに限定されない。つまり、本開示に係る技術は、上記実施形態において記載された効果とともに、又は上記実施形態において記載された効果に代えて、上記実施形態における記載から、本開示の技術分野における通常の知識を有する者には明らかな他の効果を奏しうる。
【0073】
なお、上記各実施形態でDSPがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した制御処理を、DSP以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、制御処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0074】
また、上記各実施形態では、制御処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1 電気自動車
10 ワイヤレス給電システム
11 DC電源
12 インバータ
13 共振回路
14 給電コイル
15 DSP
16 電流センサ
17A、17B、17C スイッチ