(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028041
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】SOIウェーハ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/02 20060101AFI20240222BHJP
【FI】
H01L27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022131353
(22)【出願日】2022-08-19
(71)【出願人】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】古賀 祥泰
(57)【要約】
【課題】反りを抑制しつつ、MEMSデバイスに用いて好適なSOIウェーハ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】支持基板用シリコンウェーハと、前記支持基板用シリコンウェーハ上の中間層と、前記中間層上の単結晶シリコン層と、を備えるSOIウェーハであって、前記中間層は、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層を有する、SOIウェーハ。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板用シリコンウェーハと、
前記支持基板用シリコンウェーハ上の中間層と、
前記中間層上の単結晶シリコン層と、を備えるSOIウェーハであって、
前記中間層は、SiOx(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層を有する、SOIウェーハ。
【請求項2】
前記中間層は、アモルファスシリコン又は酸化シリコンからなる接着層を有する、
請求項1に記載のSOIウェーハ。
【請求項3】
前記中間層は前記接着層を前記BOX層の直上に有し、
前記接着層は前記アモルファスシリコンからなる、
請求項2に記載のSOIウェーハ。
【請求項4】
前記中間層は前記接着層を前記BOX層の直下に有し、
前記接着層は前記アモルファスシリコンからなる、
請求項2に記載のSOIウェーハ。
【請求項5】
前記中間層は前記接着層を前記BOX層の直上に有し、
前記接着層は前記酸化シリコンからなる、
請求項2に記載のSOIウェーハ。
【請求項6】
前記中間層は前記接着層を前記BOX層の直下に有し、
前記接着層は前記酸化シリコンからなる、
請求項2に記載のSOIウェーハ。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のSOIウェーハの製造方法であって、
前記BOX層を、プラズマCVD法(PE-CVD)を用いて形成する、SOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SOIウェーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
SOIウェーハ(Silicon on Insulator)は、支持基板上に、酸化シリコン(SiO2)等の絶縁膜及びデバイス活性層として使用される単結晶シリコン層が順次形成された構造を有する。SOIウェーハの代表的な製造方法の一つに貼り合わせ法がある。この貼り合わせ法は、支持基板及び活性層用基板の少なくとも一方に酸化膜(BOX(Buried Oxide)層)を形成し、次いで、これらの基板を、酸化膜を介して重ね合わせた後、1200℃程度の高温にて接合熱処理を施すことにより、SOIウェーハを製造する方法である。(例えば特許文献1を参照)。近年、加速度センサとして用いられるMEMSデバイスの材料としてもSOIウェーハが用いられつつある。MEMSデバイス用途でSOIウェーハを用いる場合、BOX層には従来の絶縁層としての機能だけでなく、ハンドリング性が求められるなど、これまでにない取り組みが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のSOIウェーハに用いられるBOX層は酸化シリコン(SiO2)からなる。酸化シリコン(SiO2)は、隣接する単結晶シリコンと熱膨張係数が大きく異なる。そのため、MEMSデバイスを作製する際の加工及び加熱の工程で、その熱膨張係数の違いから、ウェーハとしては反りが生じてしまう。センサ用途の微細構造を形成したMEMSデバイスにおいては、この反りは検知信号に直接的な悪影響を与えてしまうため、SOIウェーハの反りを解消する必要がある。そこで本発明は、反りを抑制しつつ、MEMSデバイスに用いて好適なSOIウェーハ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決すべく検討し、SOIウェーハにおけるBOX層として一般的に用いられてきた酸化シリコンに替えて、シリコンリッチなSiOx(x<2)からなるBOX層を有する中間層の利用を検討した。隣接する支持基板や活性層の組成であるシリコン(Si)に近づければ、熱膨張係数の差は抑えられるため、反りの解消を期待できる。しかしながら、僅かの組成変更では十分に反りを解消できず、一方で、組成をシリコンに近づけすぎると酸に対するエッチングレートが著しく低下してしまい、MEMSデバイスの作製に適さない。そこで本発明者はBOX層におけるSiOxの組成xについてさらに鋭意検討し、MEMSデバイスに用いて好適なBOX層の組成を見出した。本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、その要旨構成は以下のとおりである。
【0006】
<1>支持基板用シリコンウェーハと、支持基板用シリコンウェーハ上の中間層と、中間層上の単結晶シリコン層と、を備えるSOIウェーハであって、中間層は、SiOx(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層を有する、SOIウェーハ。
【0007】
<2>中間層は、アモルファスシリコン又は酸化シリコンからなる接着層を有する、
<1>に記載のSOIウェーハ。
【0008】
<3>中間層は接着層をBOX層の直上に有し、接着層はアモルファスシリコンからなる、<2>に記載のSOIウェーハ。
【0009】
<4>中間層は接着層をBOX層の直下に有し、接着層はアモルファスシリコンからなる、<2>に記載のSOIウェーハ。
【0010】
<5>中間層は接着層をBOX層の直上に有し、接着層は酸化シリコンからなる、<2>に記載のSOIウェーハ。
【0011】
<6>中間層は接着層をBOX層の直下に有し、接着層は酸化シリコンからなる、<2>に記載のSOIウェーハ。
【0012】
<7>請求項<1>~<6>のいずれか1項に記載のSOIウェーハの製造方法であって、BOX層を、プラズマCVD法(PE-CVD)を用いて形成する、SOIウェーハの製造方法。
【0013】
以下では、上述の支持基板用シリコンウェーハ及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハのそれぞれに活性化領域を形成して、真空常温下で両者の活性化領域同士で貼り合せる方法を「真空常温接合法」と称する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、反りを抑制しつつ、MEMSデバイスに用いて好適なSOIウェーハ及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明による、SOIウェーハの概要を説明する模式断面図である。
【
図2】本発明によるSOIウェーハの第1実施形態を説明する模式断面図である。
【
図3】本発明によるSOIウェーハの第2実施形態を説明する模式断面図である。
【
図4】本発明によるSOIウェーハの第3実施形態を説明する模式断面図である。
【
図5】本発明によるSOIウェーハの第4実施形態を説明する模式断面図である。
【
図6】本発明によるSOIウェーハの第5実施形態を説明する模式断面図である。
【
図7】本発明による接合シリコンウェーハの製造方法の一実施形態において、真空常温接合を行う際に用いる装置の一例を示す概念図である。
【
図8】実施例及び比較例に係るSOIウェーハにおける反り量の評価結果を示すグラフである。
【
図9】実施例及び比較例に係るSOIウェーハにおけるエッチングレートの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を順次説明する。各図面では説明の便宜上、各構成の厚さを誇張して示す。そのため、各構成の厚さは、実際の厚さの割合とは異なる。
【0017】
(SOIウェーハ)
図1の模式断面図を参照し、本発明に従うSOIウェーハ1を説明する。SOIウェーハ1は支持基板用シリコンウェーハ10と、支持基板用シリコンウェーハ10上の中間層30と、中間層30上の単結晶シリコン層21とを備える。そして、中間層30は組成がSiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層を有する(
図1に図示せず)。また、このとき中間層30は、アモルファスシリコン又は酸化シリコンからなる接着層を有してもよい(
図1に図示せず)。中間層30が接着層を有することにより、BOX層がシリコンリッチなSiO
xからなる層であっても、支持基板用シリコンウェーハ10と、単結晶シリコン層21とを、BOX層を介して接合することが可能となる。
【0018】
<BOX層>
BOX層を構成するSiOxは、組成比xの違いによりその熱膨張係数が変化する。SiOxの組成比xの範囲を0.59以上0.78以下とすることで、BOX層の熱膨張係数を支持基板用シリコンウェーハ10及び単結晶シリコン層21の熱膨張係数に近づけることができる。組成比xが0.78よりも大きいと、隣接する支持基盤シリコンウェーハ10及び単結晶シリコン層21との熱膨張係数の差が大きくなるため、MEMSデバイスとして用いた場合に反りが発生してしまう。組成比xが小さいほど、上述した熱膨張係数の差を小さくすることができ、その結果反りの発生を抑制することができる。しかしながら、組成比xが0.59よりも小さいと、酸に対するエッチングレートが遅くなりすぎてしまい、MEMSデバイス作製の際に微細構造の形成に適さない。このような事情から、組成比xは、0.60以上0.75以下とすることが好ましく、0.65以上0.70以下とすることがより好ましい。
【0019】
<<BOX層の組成>>
BOX層の組成xは、EDX分析により同定することができる。本明細書の実施例では、ウェーハ中心の組成をEDX分析(OXFORD Instruments製INCA)により解析した。このとき、BOX層表面への電子線の加速電圧は1kVとし、電流値は10μAで加速して100μm×100μmの面積で深さ1μmの領域に照射して、BOX層表面で発生したX線を検出した。そして、検出したX線のSi元素成分とO元素成分に対して検出された最大量の比をSiOxにおけるxの値として採用することができる。
【0020】
なお、BOX層の厚みは、MEMSデバイスの上下駆動領域を十分に確保する観点から、1μm以上とすることが好ましく、SOIウェーハ1を小型化する観点から、上限を20μmと設定することが好ましい。また、両目的を達成するため、2μm以上5μm以下であることが特に好ましい。もっとも、SOIウェーハ1の用途に応じて、単結晶シリコン層21の厚みを5μm以上としてもよいし、10μm以上としてもよいし、20μm以下としてもよいし、15μm以下としてもよい。
【0021】
以上説明したとおり、SOIウェーハ1は、上述したBOX層を有する中間層30を備えるため、反りを抑制できつつ、MEMSデバイスに用いて好適である。
【0022】
以下、本発明に従うSOIウェーハの具体的な実施形態を、
図2~
図6を参照して引き続き説明する。
【0023】
―第1実施形態―
図2を参照する。SOIウェーハ100は、支持基板用シリコンウェーハ110と、支持基板用シリコンウェーハ110上の中間層130と、中間層130上の単結晶シリコン層121とを備える。中間層130は、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層131を有する。ここで中間層130はアモルファスシリコンからなるアモルファスシリコン接着層132をBOX層131の直下に有する。SOIウェーハ100は以下のように製造することが出来る。
【0024】
まず、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120の表面上に、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層131を形成する。BOX層131は後述のPE-CVD法を用いて形成することができる。次に、支持基板用シリコンウェーハ110の表面に真空常温下で活性化処理を施して、支持基板用シリコンウェーハ110の表面に接着層としてのアモルファスシリコン接着層132を形成する。このアモルファスシリコン接着層132は接着層として機能すればよく、厚さは特に限定されないが、例えば5nm以下のアモルファスシリコンを形成できればよい。さらに、引き続き真空常温下で、支持基板用シリコンウェーハ110及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120をアモルファスシリコン接着層132及びBOX層131を接触させて、真空常温接合により接合する。そして最後に、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120を減厚して単結晶シリコン層121を得ることにより最終的な第1実施形態のSOIウェーハ100を得る。また、本発明で課題とする反り防止の観点からは、支持基板用シリコンウェーハの裏面に反り防止を目的とした反り防止膜150を設けてもよい。反り防止膜150の組成は特に限定されないが、SiO
y(0<y<0.6)の範囲であれば酸エッチング後にも溶出を免れて残存できるため、好ましい。反り防止膜150の厚みも特に限定されないが、反り防止の観点では厚い方が好ましく、1μm以上20μm以下を例示することができる。
図2に各構成とともに、実際に接合面となる個所を破線で示した。
【0025】
―第2実施形態―
図3を参照する。SOIウェーハ200は、支持基板用シリコンウェーハ210と、支持基板用シリコンウェーハ210上の中間層230と、中間層230上の単結晶シリコン層221とを備える。中間層230は、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層231を有する。ここで中間層230はアモルファスシリコンからなるアモルファスシリコン接着層232をBOX層231の直上に有する。SOIウェーハ200は第1実施形態においてBOX層を単結晶シリコン層用シリコンウェーハ220の表面上に形成するのに替えて、支持基板用シリコンウェーハ210上にBOX層231を形成し、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ220の表面にアモルファスシリコン接着層232を形成することで製造することが出来る。
図3に各構成とともに、実際に接合面となる個所を破線で示した。
【0026】
―第3実施形態―
図4を参照する。SOIウェーハ300は、支持基板用シリコンウェーハ310と、支持基板用シリコンウェーハ310上の中間層330と、中間層330上の単結晶シリコン層321とを備える。中間層330は、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層331を有する。また、BOX層331は、以下の製造プロセスを参照して説明するとおり、支持基板用シリコンウェーハ310直上の第1のBOX層331bと、単結晶シリコン層321直下の第2のBOX層331aとからなる。
【0027】
まず、支持基板用シリコンウェーハ310の表面にSiO
x(0.59≦x≦0.78)からなる第1のBOX層331bと、単結晶シリコン層321の表面にSiO
x(0.59≦x≦0.78)からなる第2のBOX層331aをPE-CVD法を用いてそれぞれ形成する。その後、真空常温下で、各BOX層表面の第1のBOX層331bと第2のBOX層331aにシリコンターゲットをスパッタリングして両BOX層を接着するための原子サイズレベルのシリコンを蒸着させる。次いで、この蒸着したシリコンを介して第1のBOX層331bと第2のBOX層331aを重ね合わせて真空常温接合することによりSOIウェーハ300を製造することができる。ここで、各BOX層の表面に蒸着させたシリコンは、各BOX層同士の接合には寄与するものの、実質的に厚みが無視できるほど薄いため、SOIウェーハ300を透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いて評価してもその存在を観察することができない。すなわち、SOIウェーハ300において、第1のBOX層331bと第2のBOX層331aの間にはシリコン層が観察されない。なお、この理由により、
図4においても接合面のシリコンは図示しない。単結晶シリコン層321を減厚する点や、支持基板用シリコンウェーハ310の裏面に反り防止膜350を任意に形成してよい点はその他の実施形態と同様である。
図4に、各構成とともに、実際に接合面となる個所を点線で示した。
【0028】
―第4実施形態―
図5を参照する。SOIウェーハ400は、支持基板用シリコンウェーハ410と、支持基板用シリコンウェーハ410上の中間層430と、中間層430上の単結晶シリコン層421とを備える。中間層430は、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層431を有する。ここで中間層430は酸化シリコン(SiO
2)からなる酸化シリコン接着層435をBOX層431の直下に有する。ここで、SOIウェーハ400は以下のように製造することが出来る。
【0029】
まず、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ420の表面上に、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層431をPE-CVD法で形成すればよい。次に、支持基板用シリコンウェーハ410に熱酸化処理を施して、支持基板用シリコンウェーハ410の片面に接着層として機能する酸化シリコン接着層435aを形成する。このとき、一般的には反対側の面も酸化されて酸化シリコン層435bが形成される。酸化シリコン接着層435aは接着層として機能すればよく、厚さは特に限定されないが、例えば20nm以下とすることができる。そして、支持基板用シリコンウェーハ410及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ420を酸化シリコン接着層435a及びBOX層431を接触させて、貼り合わせ熱処理により接合する。最後に、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ420を減厚して単結晶シリコン層421を得ることにより最終的な第4実施形態のSOIウェーハ400を得ることができる。また、本実施形態において、支持基板用シリコンウェーハ410裏面側に形成された酸化シリコン層435bの表面に反り防止を目的とした反り防止膜450を設けてもよい。あるいは支持基板用シリコンウェーハ410裏面側の酸化シリコン層435bをエッチングなどで除去した後、支持基板用シリコンウェーハ410の裏面に反り防止膜450を設けてもよい。
図5に各構成とともに、実際に接合面となる個所を破線で示した。
【0030】
―第5実施形態―
図6を参照する。SOIウェーハ500は、支持基板用シリコンウェーハ510と、支持基板用シリコンウェーハ510上の中間層530と、中間層530上の単結晶シリコン層521とを備える。中間層530は、SiO
x(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層531を有する。中間層530は酸化シリコンからなる酸化シリコン接着層532をBOX層531の直上に有する。ここで、SOIウェーハ500は第4実施形態においてBOX層を単結晶シリコン層用シリコンウェーハ520の表面上に形成するのに替えて、支持基板用シリコンウェーハ510上に形成し、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ521の表面に酸化シリコン接着層535bを形成することで製造することが出来る。本実施形態において、支持基板用シリコンウェーハ410裏面側に反り防止を目的とした反り防止膜550を設けてもよい。
図6に各構成とともに、実際に接合面となる個所を破線で示した。
【0031】
<具体的態様>
以下では、本発明において用いることができる支持基板用シリコンウェーハ、単結晶シリコン層に適用可能なシリコンウェーハの具体的態様を説明する。
【0032】
シリコンウェーハの面方位は任意であり、(100)面のウェーハを用いてもよいし、(110)面のウェーハなどを用いてもよい。
【0033】
シリコンウェーハの厚さは、用いる用途に応じて適宜決定することができ、300μm~1.5mmとすることができる。単結晶シリコン層用シリコンウェーハから得られる単結晶シリコンからなる単結晶シリコン層の膜厚を100nm~1mmの範囲で適宜定めることは既に述べたとおりである。
【0034】
また、シリコンウェーハにボロン(B)、リン(P)、ヒ素(As)、アンチモン(Sb)などのドーパントがドープされていてもよいし、所望の特性を得るため炭素(C)又は窒素(N)などがドープされていてもよい。
【0035】
シリコンウェーハの直径は何ら制限されない。一般的な直径300mm又は200mmなどのシリコンウェーハに本発明を適用することができる。もちろん、直径300mmよりも直径の大きいシリコンウェーハに対しても、直径の小さいシリコンウェーハに対しても本発明を適用することができる。
【0036】
シリコンウェーハとしてエピタキシャルシリコンウェーハを用いても構わない。なお、シリコンウェーハの表面には数Å程度の膜厚の自然酸化膜が形成されうるが、こうした自然酸化膜があってもよいし、必要に応じて公知の洗浄方法等を用いて除去してもよい。
【0037】
次に、
図2~
図6を参照して説明した本発明に係るSOIウェーハ100~500の作製に適用可能な製造プロセスの具体的態様を説明する。
【0038】
<<PE-CVD法によるBOX層の形成>>
SiOx(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層は、プラズマCVD法(PE-CVD)などのCVD法を用いて、支持基板用シリコンウェーハ又は単結晶シリコン層用シリコンウェーハの表面上に成膜することができる。プラズマCVD法では、まず単結晶シリコン層用シリコンウェーハを1×10-4Pa以下の真空度で、300℃以上700℃以下の温度で保持する。そして、プラズマパワーを500W以上としたうえで、導入するソースガスとしてはテトラメチルシランガス(Si(CH3)4)等のシランガスと酸素ガスの混合ガスを用いることが出来る。そしてこの混合ガスの混合比を形成するBOX層の所望のSiOx(0.59≦x≦0.78)の比となるように調整して成膜すれば、SiOx(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層を形成することができる。
【0039】
<<真空常温接合法による貼り合わせ>>
図2及び
図7を参照しつつ、上記活性化処理及び接合を行うための、真空常温接合法による貼合せ方法を説明する。真空常温接合法とは、支持基板用シリコンウェーハ110と、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120を加熱することなく、両者を常温で貼り合わせる方法である。一例として例示する実施形態1においては、単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120に形成したBOX層131の表面と、支持基板用シリコンウェーハ110の表面とのそれぞれに、真空常温下でイオンビームまたは中性原子ビームを照射する活性化処理をして、上記両方の表面をそれぞれ活性化領域とする。これにより、支持基板用シリコンウェーハ110の表面にはごく薄いアモルファスシリコンの領域が形成されるとともにダングリングボンドが現れる。そのため、引き続き真空常温下で上記両方のウェーハを接触させると、瞬時に接合力が働き、上記活性化領域を貼合せ面として、支持基板用シリコンウェーハ110と単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120とが強固に貼り合い、両者を接合できる。
【0040】
活性化処理の方法としては、プラズマ雰囲気でイオン化した元素を基板表面へ加速させる方法と、イオンビーム装置から加速したイオン化した元素を基板表面へ加速させる方法が挙げられる。
図7を参照しつつ、この方法を実現する装置の一例を示す概念図を用いて活性化処理方法を説明する。真空常温接合装置930は、プラズマチャンバー931と、ガス導入口932と、真空ポンプ933と、パルス電圧印加装置934と、ウェーハ固定台935a,935bと、を有する。
【0041】
まず、プラズマチャンバー931内のウェーハ固定台935a,935bにそれぞれ支持基板用シリコンウェーハ110及び表面にBOX層131を形成した単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120を載置して、固定する。次に、真空ポンプ933によりプラズマチャンバー931内を減圧し、ついで、ガス導入口932からプラズマチャンバー931内に原料ガスを導入する。続いて、パルス電圧印加装置934によりウェーハ固定台935a,935b(併せて支持基板用シリコンウェーハ110,単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120)に負電圧をパルス状に印加する。これにより、原料ガスのプラズマを生成するとともに、生成したプラズマに含まれる原料ガスのイオンを支持基板用シリコンウェーハ110及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120表面に形成されたBOX層131の表面に向けて加速、照射することができる。
【0042】
なお、照射する元素は、Ar、Ne、Xe、H、He及びSiから選択される少なくとも一種から選択すればよい。
【0043】
図2を参照する。先に述べたとおり、真空常温接合法における活性化処理によって、支持基板用シリコンウェーハ110の表面において、ビームを照射した側の表面から概ね1nmの深さ位置にまで、アモルファスシリコンの領域が形成されるとともに、ダングリングボンドが形成される。本実施形態では支持基板用シリコンウェーハ110には、接着層としてのアモルファスシリコン接着層132が形成される。なお、支持基板用シリコンウェーハ110に形成されたこのアモルファスシリコン接着層132は、ゲッタリング層としても機能する。例えば、アモルファスシリコンからなるアモルファスシリコン接着層132は、支持基板用シリコンウェーハ110中の酸素や不純物が単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120に外方拡散するのを抑制することができる点で有用である。
【0044】
―真空常温接合法の具体的態様―
プラズマチャンバー931内のチャンバー圧力は1×10-5Pa以下とすることができる。1×10-5Pa以下であれば、スパッタされた元素が基板表面に再付着することによってダングリングボンドの形成率が低下するおそれがないからである。
【0045】
支持基板用シリコンウェーハ110及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120に印加するパルス電圧は、基板表面に対する照射元素の加速エネルギーが100eV以上10keV以下となるように設定すればよい。100eV以上であれば、照射した元素が基板表面に堆積するおそれがなく、10keV以下であれば、照射した元素が基板内部へ注入するおそれがないので、ダングリングボンドを安定的に形成することができる。
【0046】
パルス電圧の周波数は、支持基板用シリコンウェーハ110及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120にイオンまたは中性原子が照射される回数を決定する。パルス電圧の周波数は、10Hz以上10kHz以下とすればよい。パルス電圧の周波数が10Hz以上であれば、イオンまたは中性原子の照射ばらつきを吸収することができるので、イオンまたは中性原子の照射量が安定する。パルス電圧の周波数が10kHz以下であれば、グロー放電によるプラズマ形成が安定する。
【0047】
パルス電圧のパルス幅は、支持基板用シリコンウェーハ110及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120にイオンまたは中性原子が照射される時間を決定する。パルス幅は、1μ秒以上10m秒以下とすることが好ましい。パルス幅が1μ秒以上であれば、イオンまたは中性原子を支持基板用シリコンウェーハ及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハに安定的に照射することができる。パルス幅が10m秒以下であれば、グロー放電によるプラズマ形成が安定する。
【0048】
なお、前述のとおり、支持基板用シリコンウェーハ110及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハ120は加熱されない。そのため、各ウェーハの温度は常温(通常、30℃~90℃)となる。
【実施例0049】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0050】
(発明例1)
支持基板用シリコンウェーハ及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハとして、直径:4インチ(101.6mm)、厚み:525μmのp型CZシリコンウェーハ(ドーパント:ボロン)を用意した。次いで、単結晶シリコン層用シリコンウェーハをプラズマCVD装置に導入し、装置内の真空度を1×10-5Pa以下に保持した。そして、ステージ温度を500℃に維持した状態で、プラズマパワーを700Wでソースガスとしてテトラメチルシランガス(Si(CH3)4)を25sccmと酸素ガスを50sccm流し、さらにキャリアガスとしてArガスを40sccm流して、プラズマCVD法により単結晶シリコン層用シリコンウェーハの表面に膜厚2.5μmのBOX層を形成した。
【0051】
そして、形成されたBOX層の表面粗さを低減するために、BOX層が形成され単結晶層用シリコンウェーハのBOX層表面に対して500nmの研磨代となるCMP法による研磨を行った。
【0052】
次いで、支持基板用シリコンウェーハ及び単結晶シリコン層用シリコンウェーハの両方をチャンバー内に導入し、真空度を1×10-5Pa以下に保持した。その後、支持基板用シリコンウェーハの表面に対し、アルゴンイオンを1.4keVで照射することで活性化処理を施し、支持基板用シリコンウェーハの表面に接着層としての活性化領域(アモルファスシリコン)を形成した。そして、両基板を真空常温環境下で支持基板用シリコンウェーハの活性化領域と単結晶シリコン層用シリコンウェーハの表面のBOX層とを貼り合わせて接合した。
【0053】
単結晶シリコン層用シリコンウェーハの厚みを10μm残すよう、貼り合せ面とは反対側から、研削及び研磨を行い、発明例1に係るSOIウェーハを得た。
【0054】
また、BOX層形成直後の単結晶シリコン層用シリコンウェーハのウェーハ中心の組成を、先に述べたのと同様、EDX分析(OXFORD Instruments製INCA)により解析した。このとき、BOX層表面への電子線の加速電圧は1kVとし、電流値は10μAで加速して100μm×100μmの面積で深さ1μmの領域に照射して、BOX層表面で発生したX線を検出した。そして、検出したX線のSi元素成分とO元素成分に対して検出された最大量の比をSiOxにおけるxの値としたところ、発明例1におけるxの値は0.78であった。評価結果を表1に示す。
【0055】
(発明例2)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、発明例2においては、酸素ガスを25sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で発明例2に係るSOIウェーハを作製した。
【0056】
(発明例3)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、発明例3においては、酸素ガスを16sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で発明例3に係るSOIウェーハを作製した。
【0057】
(従来例1)
発明例1ではSiOx(0.59≦x≦0.78)からなるBOX層を形成すべくプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしていたところ、従来例1においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを100sccm流すことにより酸化膜(SiO2膜)からなるBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で従来例1に係るSOIウェーハを作製した。
【0058】
(比較例1)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、比較例1においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを68sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で比較例1に係るSOIウェーハを作製した。
【0059】
(比較例2)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、比較例2においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを57sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で比較例2に係るSOIウェーハを作製した。
【0060】
(比較例3)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、比較例3においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを7sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で比較例3に係るSOIウェーハを作製した。
【0061】
(比較例4)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、比較例4においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを5sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で比較例4に係るSOIウェーハを作製した。
【0062】
(比較例5)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、比較例5においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを2sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で比較例5に係るSOIウェーハを作製した。
【0063】
(比較例6)
発明例1ではプラズマCVD法における酸素ガス流量を50sccmとしてBOX層を形成していたところ、比較例6においては、Arガスをキャリアガスとし、酸素ガスを1sccm流すことによりBOX層を形成した以外は、発明例1と同じ条件で比較例6に係るSOIウェーハを作製した。
【0064】
(評価:ウェーハ反り量の評価)
ウェーハ反り量を評価するため、薄膜ストレス測定装置(FLX-2320-S:東朋テクノロジー社製)を用いて、レーザーを単結晶シリコン層表面へ照射して反射光を評価した。評価には各実施例におけるBOX層形成直後の単結晶シリコン層用シリコンウェーハを用いた。反射光を測定して入射光から変位した距離を測定することでウェーハの当該測定箇所における反り量を算出した。そして、各実施例におけるウェーハ中心部とウェーハエッジ部における反り量の差に対し、BOX層の厚みで除することでウェーハ反り量の評価結果とした。
【0065】
(評価:エッチングレートの評価)
BOX層のエッチングレートを正確に評価するため、評価には各実施例におけるBOX層形成直後の単結晶シリコン層用シリコンウェーハを用いた。ウェーハをチップ状にへき開し、そのチップにおけるエッチングレートを評価した。まず、ウェーハ中心部からサンプリングしたチップ表面の一部を耐酸テープでマスキングしてフッ酸30%水溶液に含侵させた。そして、10分経過後に耐酸テープを剥がし、段差計でBOX層の膜厚を測定することにより、BOX層のエッチングレートを評価した。
【0066】
結果を下記表1に記載し、ウェーハ反り量及びエッチングレートについてはSiO
xの組成比xに対する挙動を示すグラフを
図8及び
図9に示す。本評価結果から、発明例1~3ではSiO
xの組成比xが小さくなることでウェーハ反り量が十分に低減されていることが分かる。一方で、比較品3~6では、組成比xが小さくなるにつれてウェーハ反り量が低減されることが確認できる一方で、エッチングレートが著しく低下し、MEMSデバイス用途としては用いることが出来ないことが分かった。
【0067】