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特開2024-2811固溶限界算出方法、固溶限界算出装置、固溶限界算出システム、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024002811
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】固溶限界算出方法、固溶限界算出装置、固溶限界算出システム、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20231228BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022102240
(22)【出願日】2022-06-24
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 智大
(72)【発明者】
【氏名】前園 涼
(72)【発明者】
【氏名】本郷 研太
(57)【要約】
【課題】母物質への置換元素の固溶限界を算出できる固溶限界算出方法の提供。
【解決手段】対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、前記母物質と、前記母物質および前記置換元素の状態図とした場合に前記母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する相境界算出工程と、
前記相境界算出工程で得られた前記相境界から、前記置換元素による前記母物質への固溶限界を算出する固溶限界算出工程と、を含む固溶限界算出方法。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、前記母物質と、前記母物質および前記置換元素の状態図とした場合に前記母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する相境界算出工程と、
前記相境界算出工程で得られた前記相境界から、前記置換元素による前記母物質への固溶限界を算出する固溶限界算出工程と、を含む固溶限界算出方法。
【請求項2】
前記相境界算出工程は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記母物質と前記置換元素とを両端とする凸包を作成する凸包作成工程と、
前記凸包を用いて、前記母物質から最も近い結晶相を抽出する抽出工程と、
前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出する自由エネルギー算出工程と、
前記自由エネルギー算出工程で算出した前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、前記相境界を算出する算出工程と、を含む請求項1に記載の固溶限界算出方法。
【請求項3】
対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、前記母物質と、前記母物質および前記置換元素の状態図とした場合に前記母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する相境界算出部と、
前記相境界算出部で得られた前記相境界から、前記置換元素による前記母物質への固溶限界を算出する固溶限界算出部と、を含む固溶限界算出装置。
【請求項4】
前記相境界算出部は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記母物質と前記置換元素とを両端とする凸包を作成する凸包作成部と、
前記凸包を用いて、前記母物質から最も近い結晶相を抽出する抽出部と、
前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出する自由エネルギー算出部と、
前記自由エネルギー算出部で算出した前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、前記相境界を算出する算出部と、を含む請求項3に記載の固溶限界算出装置。
【請求項5】
過去に算出した固溶限界、または過去に作成した状態図を保存する保存部と、
少なくとも前記置換元素を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、前記保存部が保存している固溶限界または状態図のうち、類似したデータを提示するデータ提示部と、をさらに有する請求項3または請求項4に記載の固溶限界算出装置。
【請求項6】
対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、前記母物質と、前記母物質および前記置換元素の状態図とした場合に前記母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する相境界算出部と、
前記相境界算出部で得られた前記相境界から、前記置換元素による前記母物質への固溶限界を算出する固溶限界算出部と、を含む固溶限界算出システム。
【請求項7】
前記相境界算出部は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記母物質と前記置換元素とを両端とする凸包を作成する凸包作成部と、
前記凸包を用いて、前記母物質から最も近い結晶相を抽出する抽出部と、
前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出する自由エネルギー算出部と、
前記自由エネルギー算出部で算出した前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、前記相境界を算出する算出部と、を含む請求項6に記載の固溶限界算出システム。
【請求項8】
コンピュータを、
対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、前記母物質と、前記母物質および前記置換元素の状態図とした場合に前記母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する相境界算出部と、
前記相境界算出部で得られた前記相境界から、前記置換元素による前記母物質への固溶限界を算出する固溶限界算出部と、して機能させるプログラム。
【請求項9】
前記相境界算出部は、
遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、前記母物質と前記置換元素とを両端とする凸包を作成する凸包作成部と、
前記凸包を用いて、前記母物質から最も近い結晶相を抽出する抽出部と、
前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出する自由エネルギー算出部と、
前記自由エネルギー算出部で算出した前記母物質および前記母物質から最も近い結晶相について、前記置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、前記相境界を算出する算出部と、を含む請求項8に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固溶限界算出方法、固溶限界算出装置、固溶限界算出システム、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
母物質中に含まれるある元素を別の元素で置換した固溶体は、置換していない母物質よりも優れた特性を示すことがあり、構造材料や、触媒材料、超伝導材料等の機能性材料など様々な分野で重要となっている。
【0003】
ある元素が母物質に固溶するか否かは、状態図から判定することが可能である。図1に示すある物質Aと物質Bの2元状態図を例にとると、温度T´における物質Aへの物質Bの固溶限界はX%であることがわかる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】田中功、世古敦人、弓削是貴、小山幸典、大場史康、松永克志、まてりあ 48, 299-302 (2009).
【非特許文献2】A. van de Walle and M. Asta, Modelling and Simulation in Materials Science and Engineering, 10, 521 (2002).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
状態図から母物質への置換元素の固溶限界を読み取ることが可能である。しかし、作製しようとする固溶体が含有する母物質と置換元素との状態図が既に得られているとは限らない。そのような場合、固溶限界は不明であるため、実際は固溶しない濃度での試作が避けられず、材料開発に多大なコストが発生してしまっていた。
【0006】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、母物質への置換元素の固溶限界を算出できる固溶限界算出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、前記母物質と、前記母物質および前記置換元素の状態図とした場合に前記母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する相境界算出工程と、
前記相境界算出工程で得られた前記相境界から、前記置換元素による前記母物質への固溶限界を算出する固溶限界算出工程と、を含む固溶限界算出方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、母物質への置換元素の固溶限界を算出できる固溶限界算出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、状態図の一例である。
図2図2は、本開示の一態様に係る固溶限界算出方法のフローチャートである。
図3図3は、相境界算出工程のフローチャートである。
図4図4は、凸包のイメージ図である。
図5図5は、相境界算出工程における操作の説明図である。
図6図6は、本開示の一態様に係る固溶限界算出装置のハードウェア構成図である。
図7図7は、本開示の一態様に係る固溶限界算出装置の機能を示すブロック図である。
図8図8は、本開示の一態様に係る固溶限界算出装置の相境界算出部の構成の説明図である。
図9図9は、本開示の一態様に係る固溶限界算出システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る固溶限界算出方法、固溶限界算出装置、固溶限界算出システム、プログラムの具体例を、以下に図面を参照しながら説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
[固溶限界算出方法]
本実施形態の固溶限界算出方法は、図2に示したフローチャート20に沿って実施でき、以下の相境界算出工程(S21)と、固溶限界算出工程(S22)と、を含むことができる。
【0011】
なお、本明細書において、固溶体とは、母物質に置換元素を添加し、母物質から化学組成を変化させた場合において、結晶構造が母物質のまま保たれている固相を意味する。固溶限界とは、母物質に置換元素を添加した場合に、母物質が置換元素の添加前の結晶構造を保ったままで、上記置換元素を添加できる最大濃度(最大溶解度)を意味する。
【0012】
以下、各工程について説明する。
(1)相境界算出工程(S21)
相境界算出工程(S21)では、対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、母物質と、母物質および置換元素の状態図とした場合に母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する。
【0013】
相境界算出工程(S21)では、母物質と置換元素を両端とする状態図中において、母物質と、母物質から最も近い結晶相との相境界(以下、単に「相境界」とも記載する)を算出できる。母物質と置換元素を両端とする状態図とは、例えば図1に示す状態図10において、物質Aを母物質、物質Bを置換元素とした状態図を意味する。また、相境界とは、母物質と、母物質から最も近い結晶相との境界を意味する。相境界算出工程で取得する相境界とは、例えば状態図上における相境界の位置や、後述する図5に示した自由エネルギーのグラフにおける固溶限界を算出する際に用いることができる点等の相境界に関連する情報を意味する。このため、相境界算出工程で取得する相境界は相境界情報等と言い換えることもできる。
【0014】
既述のように固溶限界とは、母物質に置換元素を添加した場合に、母物質が置換元素の添加前の結晶構造を保ったままで、上記置換元素を添加できる最大濃度である。このため、相境界算出工程で相境界を算出し、後述する固溶限界算出工程で係る相境界に至るまでに固溶させることができる置換元素の濃度を算出することで固溶限界を求められる。なお、母物質から最も近い結晶相は、母物質とは異なる結晶構造となっている。
【0015】
相境界算出工程(S21)において、相境界を算出する具体的な方法は特に限定されない。相境界算出工程(S21)は、例えば図3に示したフローチャート30に沿って実施できる。相境界算出工程(S21)は、例えば以下の凸包作成工程(S31)と、抽出工程(S32)と、自由エネルギー算出工程(S33)と、算出工程(S34)と、を含むことができる。
(1-1)凸包作成工程(S31)
凸包作成工程(S31)では、図4に示した様な、母物質と置換元素とを両端とする凸包を作成できる。凸包とは、母物質中の置換したい元素を置換元素で徐々に置換していった場合に現れる最も安定な結晶相を線で結んだものである。例えば図4に示す凸包では、母物質Aと、置換元素Bとの間にAB、AB、A、ABという結晶相があり、これらの最も生成エンタルピーの低い点間を線41により結んでいる。図4中に示した様に、図4中の左端の点は母物質Aを、右端の点は置換元素Bを示している。
【0016】
凸包は、例えば遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、母物質Aと置換元素Bとで構成される様々な組成の物質について生成エンタルピーを算出し、該計算結果を図示化することで作成できる。
【0017】
第一原理計算とは、量子力学のシュレディンガー方程式に則して、物質中の電子の運動をコンピュータにより計算する方法を示す。遺伝的アルゴリズムとは、染色体の交叉・突然変異・自然淘汰といった生物の進化を模したアルゴリズムを示す。
【0018】
凸包作成工程では、例えば結晶構造モデルを、遺伝的アルゴリズムを用いて作成、決定できる。そして、決定した結晶構造モデルについて、第一原理計算により生成エンタルピーを算出できる。結晶構造モデルの作成、決定は遺伝的アルゴリズムを用いる形態に限定されず、例えばベイズ最適化等を用いることもできる。
(1-2)抽出工程(S32)
抽出工程(S32)では、凸包作成工程で作成した凸包を用いて、母物質から最も近い結晶相を抽出できる。
【0019】
母物質から最も近い結晶相とは、母物質中の置換したい元素を置換元素で置換していった場合に、最初に現れる安定な結晶相である。図4を例にとると、母物質Aから最も近い結晶相はABである。従って、凸包作成工程(S31)で作成した母物質と置換元素とを両端とする凸包を用いることで、凸包中の母物質に最も近接した安定な結晶相を抽出、選択できる。
(1-3)自由エネルギー算出工程(S33)
自由エネルギー算出工程(S33)では、母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出できる。
【0020】
自由エネルギーの算出方法は特に限定されない。例えば非特許文献1、2に開示されているように、クラスター展開およびモンテカルロシミュレーションを好適に用いることができる。
【0021】
クラスター展開とは、結晶構造に含まれる原子のペアや三角形、四面体といった「クラスター」の数に従って物質のエネルギーを算出する方法である。
【0022】
モンテカルロシミュレーションとは、シミュレーションや数値計算を、乱数を用いて行う手法である。
【0023】
クラスター展開を用いることで様々な結晶構造のエネルギーを、第一原理計算を行うことなく求めることが可能となり、計算量や計算時間を抑制できる。加えてモンテカルロシミュレーションを用いることで様々な結晶構造のエネルギーの統計平均を効率よく求めることができ、エネルギーの統計平均の熱力学積分から自由エネルギーを算出可能である(非特許文献1を参照)。
【0024】
クラスター展開およびモンテカルロシミュレーションを用いることで、母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出できる。なお、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーは、母物質や、母物質から最も近い結晶相において、置換したい元素について、置換元素で置換させ、その置換量を変化させた際の自由エネルギーである。
【0025】
上記説明では、母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出する方法として、クラスター展開およびモンテカルロシミュレーションを用いた例を挙げて説明したが、係る形態に限定されない。上記自由エネルギーの算出には、例えば分子動力学計算、第一原理分子動力学計算、CALPHAD法、クラスター変分法を用いることができる。
【0026】
上記自由エネルギーの変化の算出結果を図示すると、図5に示した図が得られる。図5中、横軸が置換元素Bの濃度であり、縦軸が自由エネルギーとなる。そして、曲線51が、母物質Aについて、置換元素Bによる置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を意味する。曲線52が、母物質Aから最も近い結晶相であるABについて、置換元素Bによる置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化を意味する。
(1-4)算出工程(S34)
算出工程(S34)では、自由エネルギー算出工程(S33)で算出した母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、相境界を算出できる。
【0027】
例えば、図5において、自由エネルギー算出工程(S33)で算出した、母物質Aについて、置換元素Bによる置換量を変化させた際の自由エネルギー変化が曲線51になる。また、図5において、自由エネルギー算出工程(S33)で算出した、母物質Aから最も近い結晶相であるABについて、置換元素Bによる置換量を変化させた場合の自由エネルギー変化が曲線52になる。
【0028】
そして、曲線51と、曲線52との傾きが等しくなる、共通接線53と、曲線51との接点54における置換元素Bの濃度が固溶限界となる。このため、曲線51と曲線52との共通接線53を引き、曲線51との接点54を求めることで、固溶限界を算出する際に用いる点となる相境界を算出できる。
【0029】
相境界算出工程(S21)は、例えば温度等の条件を変更することで、繰り返し実施することもできる。例えば温度の条件を変更して繰り返し実施することで、温度変化に伴う相境界の変化を算出できる。
(2)固溶限界算出工程(S22)
固溶限界算出工程(S22)は、相境界算出工程(S21)で得られた相境界から、置換元素による母物質への固溶限界を算出する。
【0030】
具体的には、例えば相境界算出工程(S21)で得られた相境界における置換元素Bの濃度を固溶限界として出力できる。すなわち、図5に示した例の場合、点55での置換元素Bの濃度を固溶限界として出力できる。また相境界算出工程(S21)において、例えば温度等の条件を変更して相境界の算出を繰り返して実施した場合には、温度等の変化に伴う固溶限界の変化の状態図として出力することもできる。
【0031】
本実施形態の固溶限界算出方法は、上記相境界算出工程や、固溶限界算出工程以外に任意の工程を有することもできる。以下、任意の工程について説明する。
(3)任意の工程
(3-1)受付工程
受付工程では、対象とする母物質と置換元素の情報を受付、取得でき、例えば相境界算出工程(S21)の前に実施できる。受付工程では、母物質の結晶構造や、母物質中の置換元素により置換する元素、置換元素についての情報を取得できる。結晶構造は例えばCrystallographic Information File (CIF)形式を用いることができる。置換元素は特に制限されず、周期表に存在する元素とすることができる。
(3-2)判定工程
例えば過去に本実施形態の固溶限界算出方法により、固溶限界を算出していた場合や、状態図が既知の場合に、新たに計算については不要な場合がある。
【0032】
そこで、本実施形態の固溶限界算出方法は、母物質および母物質中の置換したい元素を置換元素で置換する際の固溶限界の算出や、状態図が既に計算されているかを判定する判定工程を有することもできる。
【0033】
具体的には、例えば相境界算出工程(S21)に供する母物質、置換元素についての情報を、状態図データベース等と照合して、判定を行うことができる。また、必要に応じて過去の計算結果と照合して、判定することもできる。また、後述するデータ提示工程のように、過去にユーザーが指定した母物質、置換元素の条件を状態図データベースに保持しておき、相境界算出工程に供する母物質、置換元素についての情報と比較することによって、類似した計算結果を提示してもよい。このため、判定工程は、相境界算出工程(S21)の前に実施でき、例えば受付工程の後に実施することもできる。
【0034】
状態図データベースとは、様々な物質を両端とする状態図が記録されたものである。状態図は実験・計算先行研究で報告されている結晶相間の境界の温度-濃度依存性から作成される。対象の状態図が状態図データベースに存在すれば、該状態図を用いて固溶限界算出工程を実施することもできる。状態図が存在しなければ相境界算出工程(S21)へ進むことができる。
(3-3)保存工程、データ提示工程
本実施形態の固溶限界算出方法や、他の方法により固溶限界や、状態図を算出、作成した場合には、該算出結果を保存しておくことが好ましい。また、既述の固溶限界算出工程で算出した固溶限界の値が適切であるかを判断するため、保存した固溶限界や、状態図のうち、固溶限界算出工程で用いた母物質や、置換元素について類似した条件での固溶限界や、状態図のデータが提示されることが好ましい。
【0035】
このため、本実施形態の固溶限界算出方法は、以下の保存工程、およびデータ提示工程と、を有することが好ましい。
【0036】
保存工程は、過去に算出した固溶限界、または過去に作成した状態図を保存できる。
【0037】
データ提示工程は、少なくとも置換元素を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、保存工程で保存した固溶限界または状態図のうち、類似したデータ提示できる。
【0038】
保存工程では、過去に行った本実施形態の固溶限界算出方法により、もしくは実験等の他の方法により測定、算出した固溶限界や、状態図のデータを保存できる。保存工程では、公知の状態図データベースのデータを取り込み、保存しても良い。なお、保存工程で保存したデータは、既述の判定工程で用いることもできる。
【0039】
保存工程を実施するタイミングは特に限定されず、例えば既述の固溶限界算出工程等の前に実施することができる。
【0040】
データ提示工程では、保存工程で保存した、固溶限界や、状態図のデータのうち、例えば既述の受付工程で、ユーザーが入力した母物質や置換元素について、類似したデータを提示できる。
【0041】
データ提示工程では、具体的には例えば、保存工程で保存した、固溶限界や、状態図のデータのうち、ユーザーが入力した置換元素と、周期表において、同じ族や、近接位置に配置されている等、類似した特性を有する元素を置換元素として用いたデータを選択して提示できる。また、データ提示工程では、保存工程で保存した、固溶限界や、状態図のデータのうち、置換元素が同じで、母物質について結晶構造が同じ、または類似しているデータ等を選択して提示できる。類似していると判定する範囲は、予め定めておくことができ、特に限定されるものではない。
【0042】
データ提示工程で、少なくとも置換元素を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、類似したデータを提示し、既述の固溶限界算出工程で算出した固溶限界の値と比較することで、該固溶限界の値が適切であるか検討、判断できる。
【0043】
データ提示工程を実施するタイミングは特に限定されず、受付工程の後の任意のタイミングで実施できる。データ提示工程は、例えば相境界算出工程の前に実施しても良く、固溶限界算出工程の後に算出した固溶限界を出力する際にあわせて実施しても良い。
【0044】
以上に説明した本実施形態の固溶限界算出方法によれば、状態図が未知の場合であっても、母物質への置換元素の固溶限界を算出できる。
[固溶限界算出装置]
本実施形態の固溶限界算出装置について説明する。本実施形態の固溶限界算出装置によれば、既述の固溶限界算出方法を実施できる。このため、既に説明した事項は説明を一部省略する。
【0045】
本実施形態の固溶限界算出装置は、以下の相境界算出部と、固溶限界算出部とを有することができる。
【0046】
図6に示したハードウェア構成図に示すように、本実施形態の固溶限界算出装置60は、例えば、情報処理装置(コンピュータ)で構成される。固溶限界算出装置60は、物理的には、演算処理部であるプロセッサ61と、主記憶装置であるメモリ62と、補助記憶装置63と、入出力インタフェース64と、入力装置65と、出力装置66等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス67で相互に接続されている。なお、補助記憶装置63や、入力装置65、出力装置66は、外部に設けられていてもよい。
【0047】
プロセッサ61は、CPU(Central Processing Unit)や、GPU(Graphics Processing Unit)等から構成でき、固溶限界算出装置60の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。プロセッサ61は、メモリ62または補助記憶装置63に格納された、例えば既述の固溶限界算出方法や、プログラム(シュミレーションプログラム)を実行して、固溶限界等を算出できる。
【0048】
メモリ62は、プロセッサ61のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶できる。
【0049】
メモリ62は、プログラム(シュミレーションプログラム)等を記憶することができる。
【0050】
補助記憶装置63は、SSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、置換元素探索装置の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納できる。
【0051】
入出力インタフェース64は、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースを含む。
【0052】
入力装置65は、タッチパネル、キーボード、表示画面、操作ボタン等のユーザインタフェースである。
【0053】
出力装置66は、モニタディスプレイ等である。出力装置66では、解析画面が表示され、入力装置65等を介した入力操作に応じて画面が更新される。
【0054】
図6に示した固溶限界算出装置60の各機能は、例えばメモリ62等の主記憶装置または補助記憶装置63からプログラム(シミュレーションプログラム)等を読み込ませ、プロセッサ61により実行することにより、メモリ62等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェース64および出力装置66を動作させることで実現できる。
【0055】
図7に、本実施形態の固溶限界算出装置60の機能ブロック図を示す。
【0056】
図7に示す固溶限界算出装置60の各部は、固溶限界算出装置60が有するプロセッサ、記憶装置、各種インタフェース等を備えたパーソナルコンピュータ等の情報処理装置において、プロセッサに予め記憶されている例えば既述の固溶限界算出方法や、プログラムを実行することでソフトウェアおよびハードウェアが協働して実現される。
【0057】
各部の構成について以下に説明する。
(A)受付部
受付部71は、処理装置72で実行される処理に関係するユーザーからのコマンドやデータの入力を受け付ける。受付部71としてはユーザーが操作を行い、コマンド等を入力するキーボードやマウス、ネットワークを介して入力を行う通信装置、CD-ROM、DVD-ROM等の各種記憶媒体から入力を行う読み取り装置などが挙げられる。
(B)処理装置
図7に示すように、処理装置72は、相境界算出部721、固溶限界算出部722を有することができる。
(B-1)相境界算出部
相境界算出部721は、対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、母物質と、母物質および置換元素の状態図とした場合に母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する。
【0058】
相境界算出部721は、例えば図8に示すように凸包作成部81、抽出部82、自由エネルギー算出部83、および算出部84を有することができる。
【0059】
以下、各部について説明する。
(凸包作成部)
凸包作成部81は、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、母物質と置換元素とを両端とする凸包を作成できる。
【0060】
(抽出部)
抽出部82は、凸包を用いて、母物質から最も近い結晶相を抽出できる。
【0061】
(自由エネルギー算出部)
自由エネルギー算出部83は、母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出できる。
【0062】
(算出部)
算出部84は、自由エネルギー算出部83で算出した母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、相境界を算出できる。
【0063】
用語や、各部での操作手順等については、固溶限界算出方法において既に説明したので、説明を省略する。
(B-2)固溶限界算出部
固溶限界算出部722は、相境界算出部721で得られた相境界から、置換元素による母物質への固溶限界を算出する。
【0064】
固溶限界の算出方法については説明したため、説明を省略する。
(C)出力部
出力部73は、ディスプレイ等を有することができる。固溶限界算出部722で得られた結果を出力部73に出力できる。
【0065】
具体的には、例えば相境界算出部721で得られた相境界から、固溶限界算出部722が算出した置換元素の濃度を固溶限界として出力できる。また、相境界算出部721において、例えば温度等の条件を変更して相境界の算出を繰り返して実施した場合には、温度等の変化に伴う固溶限界の変化の状態図として出力することもできる。
(D)判定部
本実施形態の固溶限界算出装置は、必要に応じて判定部を有することもできる。
【0066】
判定部は、母物質および母物質中の置換したい元素を置換元素で置換する際の固溶限界や、状態図が既に計算されているかを判定できる。
【0067】
判定方法については固溶限界算出方法において既に説明したので、説明を省略する。
(E)保存部、データ提示部
本実施形態の固溶限界算出装置は、必要に応じて、保存部や、データ提示部を有することもできる。
【0068】
保存部は、過去に算出した固溶限界、または過去に作成した状態図を保存できる。
【0069】
データ提示部は、少なくとも置換元素を含む、ユーザーが指定した条件に基づいて、保存部が保存している固溶限界または状態図のうち、類似したデータを提示できる。
【0070】
保存部、データ提示部は、それぞれ既述の固溶限界算出方法において説明した保存工程、データ提示工程を実施でき、既に説明したため、説明を省略する。
【0071】
以上に説明した本実施形態の固溶限界算出装置によれば、状態図が未知の場合であっても、母物質への置換元素の固溶限界を算出できる。
[固溶限界算出システム]
本実施形態の固溶限界算出システムについて説明する。本実施形態の固溶限界算出システムによれば、既述の固溶限界算出方法を実施できる。このため、既に説明した事項は説明を一部省略する。
【0072】
固溶限界算出システムは、相境界算出部と、固溶限界算出部とを含むことができる。
【0073】
相境界算出部、固溶限界算出部は、既述の固溶限界算出装置と同様に構成することができる。
【0074】
すなわち、相境界算出部は、対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、母物質と、母物質および置換元素の状態図とした場合に母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する。
【0075】
固溶限界算出部は、相境界算出部で得られた相境界から、置換元素による母物質への固溶限界を算出する。
【0076】
また、相境界算出部は、例えば凸包作成部、抽出部、自由エネルギー算出部、および算出部を有することができる。
【0077】
凸包作成部は、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、母物質と置換元素とを両端とする凸包を作成できる。
【0078】
抽出部は、凸包を用いて、母物質から最も近い結晶相を抽出できる。
【0079】
自由エネルギー算出部は、母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出できる。
【0080】
算出部は、自由エネルギー算出部で算出した母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、相境界を算出できる。
【0081】
本実施形態の固溶限界算出システムは、必要に応じて、固溶限界算出装置等で説明した判定部や、保存部、データ提示部等を有することもできる。
【0082】
用語や、各部での操作手順等については、固溶限界算出方法、固溶限界算出装置で既に説明したため、説明を省略する。
【0083】
図9に示すように、本実施形態の固溶限界算出システム90は、例えば第1処理装置91や、第2処理装置92等複数の処理装置を含むことができ、各処理装置はネットワーク93を介してデータの受け渡しを行えるように構成できる。
【0084】
第1処理装置91や第2処理装置92は、例えば情報処理装置(コンピュータ)で構成できる。第1処理装置91、第2処理装置92は、携帯型、および据え置き型のいずれの形態の端末であってもよく、サーバ装置であってもよい。
【0085】
ネットワーク93の種類は特に限定されず、第1処理装置91と第2処理装置92との間でデータの受け渡しを行えるものであればよく、無線、有線を問わない。
【0086】
本実施形態の固溶限界算出システム90においては、例えば第1処理装置91を既述の相境界算出部および固溶限界算出部の一部として機能させ、残部を第2処理装置92により機能させることができる。また、本実施形態の固溶限界算出システム90が有する処理装置は第1処理装置91と、第2処理装置92のみに限定されず、さらに複数の処理装置により、その機能を分担させることもできる。
【0087】
以上に説明した本実施形態の固溶限界算出システムによれば、状態図が未知の場合であっても、母物質への置換元素の固溶限界を算出できる。
[プログラム]
次に、本実施形態のプログラムについて説明する。
【0088】
本実施形態のプログラムは、コンピュータを以下の相境界算出部、固溶限界算出部として機能させることができる。
【0089】
相境界算出部は、対象とする母物質と置換元素の情報に基づいて、母物質と、母物質および置換元素の状態図とした場合に母物質から最も近い結晶相と、の相境界を算出する。
【0090】
固溶限界算出部は、相境界算出部で得られた相境界から、置換元素による母物質への固溶限界を算出する。
【0091】
また、相境界算出部は、例えば凸包作成部、抽出部、自由エネルギー算出部、および算出部を有することができる。
【0092】
凸包作成部は、遺伝的アルゴリズムを用いた第一原理計算により、母物質と置換元素とを両端とする凸包を作成できる。
【0093】
抽出部は、凸包を用いて、母物質から最も近い結晶相を抽出できる。
【0094】
自由エネルギー算出部は、母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーを算出できる。
【0095】
算出部は、自由エネルギー算出部で算出した母物質および母物質から最も近い結晶相について、置換元素による置換量を変化させた際の自由エネルギーから、相境界を算出できる。
【0096】
本実施形態のプログラムは、必要に応じて、コンピュータを、固溶限界算出装置等で説明した判定部や、保存部、データ提示部として機能させることもできる。
【0097】
本実施形態のプログラムは、例えば既述の固溶限界算出装置のメモリ等の主記憶装置または補助記憶装置の各種記憶媒体に記憶させておくことができる。そして、係るプログラムを読み込ませ、プロセッサにより実行することにより、メモリ等におけるデータの読み出しおよび書き込みを行うと共に、入出力インタフェースおよび表示装置を動作させて実行できる。このため、固溶限界算出方法や、固溶限界算出装置等で既に説明した事項については説明を省略する。
【0098】
上述した本実施形態のプログラムは、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることで提供してもよい。また、本実施形態のプログラムをインターネットなどのネットワークを介して提供、配布するように構成してもよい。
【0099】
本実施形態のプログラムは、CD-ROM等の光ディスクや、半導体メモリ等の記録媒体に格納した状態で流通等させてもよい。
【0100】
以上に説明した本実施形態のプログラムによれば、状態図が未知の場合であっても、母物質への置換元素の固溶限界を算出できる。
【符号の説明】
【0101】
10 状態図
20 フローチャート
S21 相境界算出工程
S22 固溶限界算出工程
30 フローチャート
S31 凸包作成工程
S32 抽出工程
S33 自由エネルギー算出工程
S34 算出工程
41 線
51、52 曲線
53 共通接線
54 接点
55 点
60 固溶限界算出装置
61 プロセッサ
62 メモリ
63 補助記憶装置
64 入出力インタフェース
65 入力装置
66 出力装置
71 受付部
72 処理装置
721 相境界算出部
722 固溶限界算出部
73 出力部
81 凸包作成部
82 抽出部
83 自由エネルギー算出部
84 算出部
90 固溶限界算出システム
91 第1処理装置
92 第2処理装置
93 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9