(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028168
(43)【公開日】2024-03-01
(54)【発明の名称】樹脂組成物、フィルム、カード、パスポート、及びレーザーマーキング方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240222BHJP
C08K 5/36 20060101ALI20240222BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240222BHJP
C08G 64/00 20060101ALI20240222BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20240222BHJP
B41M 5/26 20060101ALI20240222BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20240222BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20240222BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/36
C08L69/00
C08G64/00
C09K3/00 K
B41M5/26
B32B27/18 Z
B32B27/36 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023129440
(22)【出願日】2023-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2022130788
(32)【優先日】2022-08-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】手塚 理恵
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 和矢
【テーマコード(参考)】
2H111
4F100
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
2H111HA14
2H111HA23
2H111HA32
4F100AK01A
4F100AK01B
4F100AK03A
4F100AK03B
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK41A
4F100AK41B
4F100AK45A
4F100AK45B
4F100BA02
4F100CA30A
4F100CA30B
4F100EJ52
4F100GB71
4F100JA04A
4F100JB16A
4F100JB16B
4F100JN28A
4F100JN28B
4F100YY00A
4F100YY00B
4J002AA011
4J002CG001
4J002EV297
4J002FD096
4J002FD147
4J002GF00
4J002GP00
4J002GQ00
4J029AA09
4J029BD07A
4J029BF30
4J029HA01
4J029HC03
(57)【要約】
【課題】増感剤を配合したり、レーザー強度を高くしたりしなくても、優れた発色性を有する樹脂組成物を提供できる。
【解決手段】樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を含有する、樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を含有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記イオン系酸発生剤が、TG-DTAで測定される5%質量減少温度が80℃以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記イオン系酸発生剤の含有量が、樹脂100質量部に対して20質量以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記イオン系酸発生剤が、アニオン中心に対して結合する原子量合計が、100以上2000以下であるアニオンを有する、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記イオン系酸発生剤が、分子体積が20Å3以上800Å3以下であるアニオンを有する、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記イオン系酸発生剤が、スルホニウムカチオンを有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記イオン系酸発生剤が、トリアリールスルホニウムカチオンを有する、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記スルホニウムカチオンが、以下の式(A)で表される構造を有する、請求項6又は7に記載の樹脂組成物。
【化1】
式(A)において、R
11、R
12は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。R
13は、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基若しくはアルケニル基、-R
20-C(=O)-R
21で表される基、-R
22-C(=O)-O-R
23で表される基、及び上記式(B)で表される基のいずれかである。R
11~R
13は、相互に結合して、式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。R
20及びR
22は、炭素原子数1~11の二価の飽和脂肪族炭化水素基である。R
21、R
23は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、アルキル基、アルケニル基、又は-SO
2-含有環式基である。式(B)において、R
16、R
17は、それぞれ独立に、アリーレン基、アルキレン基またはアルケニレン基を表す。X
1及びX
2は、酸素原子又は硫黄原子のいずれかである。Wは、(x+1)価の連結基を表す。xは、1または2である。R
18、R
19は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。R
18、R
19は、相互に結合して、式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。
【請求項9】
前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記樹脂が、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含む、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【化2】
但し、前記式(1)で表される部位が-CH
2-O-Hの一部である場合を除く。
【請求項12】
前記発色剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して30質量部以下である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記発色剤がロイコ色素である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記発色剤のTG-DTAで測定される5%質量減少温度が80℃以上である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記発色剤の結晶融解温度が100℃以上である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
請求項1に記載される樹脂組成物からなる発色層を有するフィルム。
【請求項17】
互いに異なる色に発色する少なくとも2層を有し、前記少なくとも2層のうちのうち少なくとも1層が、前記発色層である、請求項16に記載のフィルム。
【請求項18】
前記異なる色が、シアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる少なくとも2つである請求項17に記載のフィルム。
【請求項19】
カード又はパスポートに用いる、請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項20】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムを備える、カード。
【請求項21】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムを備える、パスポート。
【請求項22】
請求項1に記載の樹脂組成物の製造方法であって、樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を少なくとも混練することで樹脂組成物を得る、樹脂組成物の製造方法。
【請求項23】
請求項22に記載の樹脂組成物の製造方法で得られた樹脂組成物をフィルム状にして単層フィルムを作製するか、又は少なくとも1つの前記樹脂組成物から形成された発色層を別の樹脂層に積層して積層フィルムを作製する、フィルムの製造方法。
【請求項24】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムにレーザー照射によりレーザーマーキングする、レーザーマーキング方法。
【請求項25】
請求項23に記載のフィルムの製造方法で作製されたフィルムに、レーザー照射によりレーザーマーキングする、レーザーマーキング方法。
【請求項26】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムにレーザーマーキングをしてカード又はパスポートに用いる方法。
【請求項27】
請求項23に記載のフィルムの製造方法で作製されたフィルムに、レーザーマーキングをしてカード又はパスポートに用いる方法。
【請求項28】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムのカード又はパスポートへの使用であって、前記フィルムにレーザーマーキングする、使用。
【請求項29】
請求項23に記載のフィルムの製造方法で作製されたフィルムのカード又はパスポートへの使用であって、前記フィルムにレーザーマーキングする、使用。
【請求項30】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムを備えたカードの製造方法であって、
該フィルムと他のフィルムとを積層し融着させる工程と、レーザー照射によりレーザーマーキングする工程とを少なくとも含む、カードの製造方法。
【請求項31】
請求項16~18のいずれか1項に記載のフィルムを備えたパスポートの製造方法であって、
該フィルムと他のフィルムとを積層し融着させる工程と、レーザー照射によりレーザーマーキングする工程とを少なくとも含む、パスポートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂組成物を含有するフィルム、カード、パスポート、及びレーザーマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカードなどの各種カード、パスポードなどは、レーザー照射により、文字、バーコード、記号、マークなどがマーキングされることがある。レーザーマーキングは、白黒で実用化されているが、近年、ロイコ色素などを利用したカラーレーザーマーキングが検討されている。カラーレーザーマーキングでは、例えば、熱可塑性樹脂、ロイコ色素などの発色成分、及び顕色剤を含有する樹脂組成物をマーキング用の組成物として使用することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の一般的な顕色剤を使用したカラーレーザーマーキングでは、発色性が不足する場合がある。そのため、鮮明に発色させるために、増感剤を配合したり、レーザー強度を高くしたりすることが検討されている。しかし、増感剤を配合すると、使用原料の種類が増えて、コスト面、製造面において不利である。また、レーザー強度を高くすると、樹脂への熱ダメージが蓄積され、劣化や物性低下が生じやすいという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、増感剤を配合したり、レーザー強度を高くしたりしなくても、優れた発色性を有する樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、樹脂組成物に特定の酸発生剤を配合させることで、上記課題を解決できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[31]を提供する。
[1]樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を含有する、樹脂組成物。
[2]前記イオン系酸発生剤が、TG-DTAで測定される5%質量減少温度が80℃以上である、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3]前記イオン系酸発生剤の含有量が、樹脂100質量部に対して20質量以下である、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4]前記イオン系酸発生剤が、アニオン中心に対して結合する原子量合計が、100以上2000以下であるアニオンを有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5]前記イオン系酸発生剤が、分子体積が20Å
3以上800Å
3以下であるアニオンを有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6]前記イオン系酸発生剤が、スルホニウムカチオンを有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[7]前記イオン系酸発生剤が、トリアリールスルホニウムカチオンを有する、上記[1]~[6]のいずれかにに記載の樹脂組成物。
[8]前記スルホニウムカチオンが、以下の式(A)で表される構造を有する、上記[6]又は[7]に記載の樹脂組成物。
【化1】
式(A)において、R
11、R
12は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。R
13は、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基若しくはアルケニル基、-R
20-C(=O)-R
21で表される基、-R
22-C(=O)-O-R
23で表される基、及び上記式(B)で表される基のいずれかである。R
11~R
13は、相互に結合して、式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。R
20及びR
22は、炭素原子数1~11の二価の飽和脂肪族炭化水素基である。R
21、R
23は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、アルキル基、アルケニル基、又は-SO
2-含有環式基である。式(B)において、R
16、R
17は、それぞれ独立に、アリーレン基、アルキレン基またはアルケニレン基を表す。X
1及びX
2は、酸素原子又は硫黄原子のいずれかである。Wは、(x+1)価の連結基を表す。xは、1または2である。R
18、R
19は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。R
18、R
19は、相互に結合して、式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。
[9]前記樹脂が、熱可塑性樹脂である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[10]前記樹脂が、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びアクリル樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11]前記樹脂が、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂を含む、上記[1]~[10]のいずれかに記載の樹脂組成物。
【化2】
但し、前記式(1)で表される部位が-CH
2-O-Hの一部である場合を除く。
[12]前記発色剤の含有量が、前記樹脂100質量部に対して30質量部以下である、上記[1]~[11]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[13]前記発色剤がロイコ色素である、上記[1]~[12]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[14]前記発色剤のTG-DTAで測定される5%質量減少温度が80℃以上である、上記[1]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15]前記発色剤の結晶融解温度が100℃以上である、上記[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16]上記[1]~[15]のいずれかに記載される樹脂組成物からなる発色層を有するフィルム。
[17]互いに異なる色に発色する少なくとも2層を有し、前記少なくとも2層のうちのうち少なくとも1層が、前記発色層である、上記[16]に記載のフィルム。
[18]前記異なる色が、シアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる少なくとも2つである上記[17]に記載のフィルム。
[19]カード又はパスポートに用いる、上記[16]~[18]のいずれかに記載のフィルム。
[20]上記[16]~[18]のいずれかに記載のフィルムを備える、カード。
[21]上記[16]~[18]のいずれかに記載のフィルムを備える、パスポート。
[22]上記[1]~[15]のいずれかにに記載の樹脂組成物の製造方法であって、樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を少なくとも混練することで樹脂組成物を得る、樹脂組成物の製造方法。
[23]上記[22]に記載の樹脂組成物の製造方法で得られた、樹脂組成物をフィルム状にして単層フィルムを作製するか、又は少なくとも1つの前記樹脂組成物から形成された発色層を別の樹脂層に積層して積層フィルムを作製する、フィルムの製造方法。
[24]上記[16]~[19]のいずれかに記載のフィルムにレーザー照射によりレーザーマーキングする、レーザーマーキング方法。
[25]上記[23]に記載のフィルムの製造方法で作製されたフィルムに、レーザー照射によりレーザーマーキングする、レーザーマーキング方法。
[26]上記[16]~[19]のいずれかに記載のフィルムにレーザーマーキングをしてカード又はパスポートに用いる方法。
[27]上記[23]に記載のフィルムの製造方法で作製されたフィルムに、レーザーマーキングをしてカード又はパスポートに用いる方法。
[28]上記[16]~[19]のいずれか1項に記載のフィルムのカード又はパスポートへの使用であって、前記フィルムにレーザーマーキングする、使用。
[29]上記[23]に記載のフィルムの製造方法で作製されたフィルムのカード又はパスポートへの使用であって、前記フィルムにレーザーマーキングする、使用。
[30]上記[16]~[19]のいずれかに記載のフィルムを備えたカードの製造方法であって、
該フィルムと他のフィルムとを積層し融着させる工程と、レーザー照射によりレーザーマーキングする工程とを少なくとも含む、カードの製造方法。
[31]上記[16]~[19]のいずれかに記載のフィルムを備えたパスポートの製造方法であって、
該フィルムと他のフィルムとを積層し融着させる工程と、レーザー照射によりレーザーマーキングする工程とを少なくとも含む、パスポートの製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、増感剤を配合したり、レーザー強度を高くしたりしなくても、優れた発色性を有する樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明について実施形態を参考に詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明において使用される用語「フィルム」と用語「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。
【0009】
<樹脂組成物>
本発明の樹脂組成物(以下、本樹脂組成物ということがある)は、樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を含有する。以下、各成分について詳細に説明する。
【0010】
[樹脂]
本発明に使用される樹脂は、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。本樹脂組成物は、樹脂として熱可塑性樹脂を使用することで、溶融製膜、押出成形などにより本樹脂組成物から後述する本フィルムを製造できるので、成形性、生産性を高めることができる。
さらに、熱可塑性樹脂を使用することで、後述する発色層は、塗料コーティングにより形成する必要がなくなるため、加工や実製品使用の際に、各発色層が削れたりはがれたりすることを防止できる。したがって、保存性が良好となり、セキュリティー(信頼性)の観点から、パスポートやカード用途に好適である。
【0011】
本樹脂組成物に使用される熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリアリールエテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、本樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、及びアクリル樹脂のいずれかを使用することが好ましい。これら樹脂を使用することで透明性の高いフィルムを得やすくなる。また、レーザー発色性を良好にする観点から、上記の中でもポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、及びアクリル樹脂のいずれかを使用することがより好ましい。
本樹脂組成物にポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂の少なくともいずれか、特にポリカーボネート樹脂を使用することで、一定以上の機械強度を確保しやすくなり、カード又はパスポート用として好適に用いることができる。また、フィルム製造時に、本樹脂組成物から形成される発色層が発色することを防止しやすくなる。一方で、本樹脂組成物にアクリル樹脂を使用することで、レーザー照射による発色性が高められやすくなる。
上記した熱可塑性樹脂は、本樹脂組成物において1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
なお、本樹脂組成物において、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、又はアクリル樹脂のいずれかが、主成分となることが好ましい。具体的には、本樹脂組成物は、本樹脂組成物に含有される樹脂全量基準で、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、又はアクリル樹脂のいずれかを好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下含有する。
【0013】
(ポリカーボネート樹脂)
本樹脂組成物において使用されるポリカーボネート樹脂は、特に限定されるものではないが、ビスフェノール系ポリカーボネートを好適に用いることができる。ビスフェノール系ポリカーボネートとは、ジオールに由来する構造単位中50モル%以上、好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上が、ビスフェノールであるものをいう。ビスフェノール系ポリカーボネートは、単独重合体または共重合体のいずれであってもよい。また、ビスフェノール系ポリカーボネートは、分岐構造を有してもよいし、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造を有する樹脂と直鎖構造のみの樹脂との混合物であってもよい。
【0014】
本発明において用いるビスフェノール系ポリカーボネートの製造方法は、例えば、ホスゲン法、エステル交換法およびピリジン法などの公知のいずれの方法を用いてもかまわない。以下一例として、エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造方法を説明する。
エステル交換法は、ビスフェノールと炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
【0015】
ビスフェノールの代表例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられるが、ビスフェノールAの一部又は全部を他のビスフェノールで置き換えてもよい。
【0016】
ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。
【0017】
一方、炭酸ジエステルの代表例としては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、及び、ジシクロヘキシルカーボネートなどが挙げられる。これらのうち、特にジフェニルカーボネートが好ましく用いられる。
【0018】
本発明において用いられるビスフェノール系ポリカーボネートの質量平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、10000以上100000以下、好ましくは30000以上80000以下の範囲である。なお、質量平均分子量の測定は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、ポリスチレンを標準物質として測定できる。
また、ビスフェノール系ポリカーボネートの粘度平均分子量は、力学特性と成形加工性のバランスから、通常、12000以上40000以下、好ましくは15000以上35000以下、より好ましくは20000以上30000以下、さらに好ましくは22000以上28000以下の範囲である。なお、粘度平均分子量の測定は、溶媒としてジクロロメタンを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:η=1.23×10-4M0.83の式から算出できる。
【0019】
本樹脂組成物において使用されるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂であることも好ましい。このようなポリカーボネート樹脂を使用することで、レーザー照射によって鮮明な文字、画像などをマーキングすることが可能で、表面硬度や耐熱性、さらには耐候性に優れ、植物由来の樹脂材料を用いたレーザーマーキング用の樹脂組成物を提供できる。
【0020】
【化3】
但し、前記式(1)で表される部位が-CH
2-O-Hの一部である場合を除く。すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、さらに前記式(1)の部位を少なくとも含むものをいう。
【0021】
構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子内に式(1)で表される構造を有していれば特に限定されるものではないが、具体的には、下記式(2)で表されるジヒドロキシ化合物および下記式(3)で表されるスピログリコール等で代表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0022】
【化4】
【化5】
式(3)において、R
1~R
4はそれぞれ独立に、炭素原子数1~3のアルキル基である。
【0023】
また、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)置換フェニル)フルオレン(なお、置換フェニルにおける置換基としては、炭素原子数1~6程度の直鎖又は分岐アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基などのアリール基などが挙げられる)などの側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物なども挙げられる。
上記の中では、環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、特に式(2)で表されるような無水糖アルコールが好ましい。より具体的には、式(2)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その構造単位以外の構造単位を含有してもよく、例えば、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含有することが好ましい。
【0025】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば炭素原子数2~12程度の脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられ、好ましくはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールから選択される少なくとも1種が挙げられる。また、脂肪族ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、例えば国際公開第2004/111106号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0026】
脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、5員環構造又6員環構造の少なくともいずれかを含むことが好ましく、特に6員環構造は共有結合によって椅子型又は舟型に固定されていてもよい。これら構造の脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むことによって、得られるポリカーボネート樹脂の耐熱性を高めることができる。
脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は、例えば5~70、好ましくは6~50、さらに好ましくは8~30である。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、好ましくは、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールから選択される少なくとも1種が挙げられ、経済性や耐熱性の観点から、シクロヘキサンジメタノール又はトリシクロデカンジメタノールがさらに好ましく、シクロヘキサンジメタノールがよりさらに好ましい。シクロヘキサンジメタノールは、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが好ましい。
また、脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位としては、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0027】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、上記した脂肪族ジヒドロキシ化合物又は脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位以外にも、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が含まれていてもよい。例えば2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール-A)等を、少量共重合させたりしてもよい。
【0028】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その構造単位の含有割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、よりさらに好ましくは50モル%以上であり、また好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは75モル%以下、よりさらに好ましくは70モル%以下である。
【0029】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、ホスゲン法、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法のいずれでも製造でき、中でも、重合触媒の存在下に、構造の一部に前記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物とその他のジヒドロキシ化合物とを、炭酸ジエステルと反応させるエステル交換法が好ましい。
炭酸ジエステルとしては、上記で列挙した化合物を使用でき、中でもジフェニルカーボネートが好適に用いられる。
【0030】
ポリカーボネート樹脂は、構造の一部に上記式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含む場合、その分子量は、還元粘度で表すことができ、還元粘度は、機械的強度を付与する観点から、例えば0.3dL/g以上であり、0.35dL/g以上が好ましく、また、成形する際の流動性を高めて、生産性及び成形性を向上させる観点から、例えば1.2dL/g以下であり、1dL/g以下が好ましく、0.8dL/g以下がさらに好ましい。
還元粘度は、溶媒としてジクロロメタンを用い、ポリカーボネート樹脂濃度を0.6g/dLに精密に調製し、温度20.0℃±0.1℃でウベローデ粘度管を用いて測定する。
本樹脂組成物においてポリカーボネート樹脂は、上記したものから1種を選択して使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0031】
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、例えば70℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、さらに好ましくは100℃以上であり、また、例えば200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは170℃以下、さらに好ましくは165℃以下である。ポリカーボネート樹脂は、通常、単一のガラス転移温度を有するとよい。ガラス転移温度を上記上限値以下とすることで、比較的低い温度で、発色剤を発色させることなく、本樹脂組成物を得ることができ、フィルムなども成形できる。また、上記下限値以上とすることで耐熱性を確保でき、パスポードやカード用として好適に使用できる。
ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、ポリカーボネート樹脂を構成する各構造単位の比を適宜選択することで、調整することが可能である。なお、ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、粘弾性スペクトロメーターを使用して、動的粘弾性の温度分散測定により得ることができる。例えば、粘弾性スペクトロメーター「DVA-200」(アイティー計測制御株式会社製)を用い、JIS K7244-4:1999を参考にして、歪み0.07%、周波数1Hz、昇温速度3℃/分にて動的粘弾性の温度分散測定を行い、損失正接(tanδ)の主分散のピークを示す温度をガラス転移温度とするとよい。
【0032】
ポリカーボネート樹脂としては、市販品も使用可能であり、具体的には、ビスフェノール系ポリカーボネートとして、三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ユーピロン」シリーズ、「ノバレックス」シリーズ、住化ポリカーボネート社製の「カリバー」シリーズなどが使用できる。また、式(1)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位を含むポリカーボネート樹脂として三菱ケミカル社製の「デュラビオ(DURABIO)」シリーズなどを使用できる。
ポリカーボネート樹脂は、上記したものから1種を選択して使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0033】
(ポリエステル樹脂)
ポリエステル樹脂は、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルは、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られる芳香族ポリエステルが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ブタンジオール及び1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸等が代表的であり、脂肪族グリコールとしてはエチレングリコール、ブタンジオール等が代表的であり、代表的なホモポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等が例示される。
【0034】
一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸及びオキシカルボン酸等の1種または2種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)及びネオペンチルグリコール等の1種または2種以上が挙げられる。
【0035】
ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステルであってもよいし、非晶性ポリエステルであってもよいが、非晶性ポリエステルが好ましい。非晶性ポリエステルを使用することで、他の発色層や後述する中間層に対する接着性が良好となりやすく、また、透明性も良好となりやすく好ましい。さらには、カードやパスポートとして使用される場合、後述するコア用シートや保護層などのカードやパスポートを構成する他の部材に対する接着性も良好となる。
非晶性ポリエステルは、実質的に非結晶性であるポリエステルであればよく、実質的に非結晶性(低結晶性のものも含む。)であるポリエステルとしては、示差走査熱量計(DSC)により、昇温時に明確な結晶融解ピークを示さないポリエステル、および、結晶性を有するものの結晶化速度が遅く、押出し製膜法などによる成形時に結晶性が高い状態とならないポリエステル、結晶性を有するものの示差走査熱量計(DSC)により、昇温時観測される結晶融解熱量(ΔHm)が10J/g以下と低い値であるものを使用することができる。すなわち、本発明における非晶性ポリエステルには、“非結晶状態である結晶性のポリエステル”をも包含する。
【0036】
非晶性ポリエステルとしては、テレフタル酸をジカルボン酸成分の主体とし、20モル%以上80モル%以下の1,4-CHDMと、20モル%以上80モル%以下のエチレングリコールをグリコール成分の主体とする共重合ポリエステルであることが、実用上十分な耐熱性と、低温での加工性を両立しやすい点や、原料入手の容易さから好ましい。このような共重合ポリエステルは、PETG樹脂(グリコール変性ポリエチレンテレフタレート)として知られている。
ここで、ジカルボン酸成分における「主体」とは、ジカルボン酸成分全体を基準(100モル%)として、テレフタル酸を70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは98モル%以上含むことをいう。また、ジオール成分における「主体」とは、ジオール成分の全体量を基準(100モル%)として、1,4-CHDMおよびエチレングリコールの合計量を好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含むことをいう。
ジオール成分における、1,4-CHDMの量が前記下限値以上であることにより、結晶性樹脂としての特徴が抑制され、結晶化に伴う透明性の低下を抑制しやすく、また他の層との接着性が良好となりやすい。また、1,4-CHDMの量が前記上限値以下であることにより、同様に結晶性樹脂としての特徴が抑制され、結晶化に伴う透明性の低下を抑制しやすく、また他の層との接着性が良好となりやすいことから好ましい。
【0037】
前記組成範囲にある共重合ポリエステルの中でも、1,4-CHDMがジオール成分の約30モル%付近の組成では、DSC(示差走査熱量計)測定においても結晶化挙動が認められず、完全に非晶性を示すことが知られている。完全に非晶性のポリエステルとしては、PETG樹脂として、例えば、イーストマンケミカル社製の「イースター GN001」等が挙げられる。
ただし、これに限定されるものではなく、結晶性の低いもの、例えば、ジエチレングリコールを共重合したPET系樹脂、イソフタル酸を共重合したPET系樹脂やPBT系樹脂で結晶性の低いもの等、各種共重合成分の導入により結晶化を阻害した構造を有する共重合ポリエステル樹脂も実質的に非晶性であるポリエステルとして用いることができる。また、これら例示したポリエステル樹脂において、テレフタル酸の一部又は全てをナフタレンジカルボン酸に置き換えたポリエステル樹脂も、非晶性であるものは同様に用いることができる。
ポリエステル樹脂は、上記したものから1種を選択して使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
(ポリオレフィン樹脂)
ポリオレフィン樹脂としては、エチレン、プロピレン、イソブチレン、ブテン、ポリ(4-メチルペンテン)、イソプレンなどの各種の鎖状オレフィンの重合体又はこれらの共重合体などが挙げられる。これらの中では、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂が好ましく、中でもポリエチレン樹脂がより好ましい。
【0039】
ポリエチレン樹脂としては、特に限定されず、高密度ポリエチレン(HDPE;密度0.942g/cm3以上)、中密度ポリエチレン(MDPE;密度0.930g/cm3以上0.942g/cm3未満)、低密度ポリエチレン(LDPE;密度0.930g/cm3未満)のいずれでもよいし、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)であってもよいが、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。
【0040】
また、ポリプロピレン樹脂としては、ホモポリプロピレンであってもよいし、プロピレンとエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネンもしくは1-デセンなどのα-オレフィンとのランダム共重合体(ランダムポリプロピレン)又はブロック共重合体(ブロックポリプロピレン)などであってもよい。
ポリオレフィン樹脂は、上記したものから1種を選択して使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
(アクリル樹脂)
アクリル樹脂として、各種の(メタ)アクリレートを重合又は共重合体して得られるアクリル重合体を使用できる。アクリル共重合体は、アルキル(メタ)アクリレートを主成分(例えば、全モノマーの50モル%以上、好ましくは70~100モル%)とするモノマーを重合したものを使用することが好ましい。
モノマーとしては、例えば、メタクリル酸メチル、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート、メタクリル酸、アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、コハク酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、マレイン酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、フタル酸2-(メタ)アクロイルオキシエチル、ヘキサヒドロフタル酸2-(メタ)アクリオイルオキシエチル、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート等が例示される。これらは、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。なかでも、例えば、アルキル基の炭素原子数が1~18程度のアルキル(メタ)アクリレートを使用するとよい。また、これらのアクリル系モノマーと重合され得る他のモノマー、例えばポリオレフィン系モノマー、ビニル系モノマー等を併用してもよい。
【0042】
アクリル樹脂のガラス転移温度(Tg)は、特に限定されないが、耐熱性と、短い印字時間でも十分な濃度の発色が得られやすい発色加工容易性のバランスの観点から120℃以下が好ましく、115℃以下がより好ましく、110℃以下がさらに好ましく、105℃以下がよりさらに好ましく、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、70℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることがよりさらに好ましく、90℃以上であることがよりさらに好ましい。なお、アクリル樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下の条件で、昇温速度10℃/分の条件で昇温を行い、再昇温の際に検出されるDSC曲線の融解ピークのピークトップ温度を測定することにより求めることができる。
【0043】
アクリル樹脂の水酸基価は、特に限定されないが、樹脂組成物の製膜安定性や得られるフィルムの熱安定性と発色性とのバランスの観点から、230mgKOH/g以下が好ましく、200mgKOH/g以下がより好ましく、150mgKOH/g以下がさらに好ましく、100mgKOH/g以下がよりさらに好ましく、50mgKOH/g以下がよりさらに好ましい。なお、水酸基価は、ビニル系重合体溶液の固形分1g中の水酸基を無水酢酸でアセチル化し、アセチル化に伴って生成した酢酸を中和するのに要した水酸化カリウムのmg数を滴定にて測定して、算出することができる。
【0044】
アクリル樹脂の固有粘度は、特に限定されないが、樹脂組成物体中の異物を低減して外観をより良好としたり、発色層の厚みムラを生じにくくしたりする観点から、0.3l/g以下が好ましく、0.15l/g以下がより好ましく、0.05l/g以上がより好ましく、0.06l/g以上がさらに好ましい。なお、固有粘度は、例えば、サン電子工業製AVL-2C自動粘度計等を使用して、溶媒にはクロロホルムを用い、25℃で測定することができる。
【0045】
アクリル樹脂の固有粘度を調節するには、例えば、メルカプタン等の重合調節剤を用いることができる。メルカプタンとしては、例えば、n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンが挙げられる。メルカプタンの含有量は、アクリル樹脂100質量部に対して、分散性を良好とする点で0.01質量部以上が好ましく、1質量部以下が好ましい。
【0046】
アクリル樹脂の質量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比であるMw/Mnは2.3以下が好ましく、2.2以下がより好ましい。このMw/Mnが小さいほど、アクリル樹脂の分子量分布は単分散に近くなるため、高分子量成分が減少し、樹脂組成物中の異物による外観不良の発生が抑制される。なお、Mw/Mnはゲルパーメーションクロマトグラフ(GPC)により以下の条件で測定して得られる値を示す。
【0047】
<GPC測定条件>
使用機器:東ソー社製「HLC-8320GPCシステム」
カラム:東ソー社製「TGKgel SupaerHZM-H」2本
溶離液:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
検出器:示差屈折率(RI)
【0048】
アクリル樹脂の質量平均分子量(Mw)は、機械特性、耐熱性の観点から、30000以上が好ましく、50000以上がより好ましく、300000以下が好ましく、250000以下がより好ましく、200000以下がさらに好ましい。
【0049】
アクリル樹脂のメルトフローレートは特に限定されないが、樹脂組成物中の異物を低減して外観をより良好としたり、発色層の厚みムラを生じにくくしたり、発色層製造時の樹脂圧の上昇をより抑制しやすい観点から、1g/10分以上が好ましく、3g/10分以上がより好ましく、5g/10分以上がさらに好ましく、20g/10分以下が好ましく、15g/10分以下がより好ましく、12g/10分以下がさらに好ましく、9g/10分以下がよりさらに好ましい。なお、メルトフローレートは、JIS K7210-1:2014に準拠し、温度230℃、荷重3.8kgの条件で測定される値である。
アクリル樹脂は、上記したものから1種を選択して使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
上記したポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂は、ガラス転移温度が、該樹脂組成物に含有されるイオン系酸発生剤の5%質量減少温度よりも低いことが好ましく、イオン系酸発生剤の5%質量減少温度よりも5℃以上低いことが好ましく、50℃以上低いことがより好ましく、100℃以上低いことがさらに好ましく、150℃以上低いことがよりさらに好ましく、170℃以上低いことがよりさらに好ましい。これら樹脂は、耐熱性が高くガラス転移温度が高い場合があるが、ガラス転移温度をイオン系酸発生剤の5%質量減少温度よりも低くすることで、樹脂組成物やフィルム製造時にこれら樹脂をガラス転移温度以上に加熱しても、イオン系酸発生剤が分解したりすることを防止できる。
また、製造工程において発色剤が分解したりすることを防止する観点から、ポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂は、ガラス転移温度が、該樹脂組成物に含有される発色剤の5%質量減少温度よりも低いことが好ましく、発色剤の5%質量減少温度よりも5℃以上低いことが好ましく、50℃以上低いことがより好ましく、80℃以上低いことがさらに好ましく、100℃以上低いことがよりさらに好ましい。
【0051】
また、上記したポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂のガラス転移温度は、特に限定されないが、該樹脂組成物に含有されるイオン系酸発生剤の結晶融解温度よりも高いことが好ましく、5℃以上高いことが好ましく、20℃以上高いことがより好ましく、30℃以上高くすることがよりさらに好ましい。このようにイオン系酸発生剤の結晶融解温度を低くすることで、樹脂としてポリカーボネート樹脂やアクリル樹脂を使用した場合であっても、後述する混練時にガラス転移温度以上に加熱することで、イオン系酸発生剤を樹脂中に十分に分散させることができる。
一方で、上記したポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂のガラス転移温度は、本樹脂組成物に含有される発色剤の結晶融解温度より低いことが好ましく、該発色剤の結晶融解温度より5℃以上低いことがより好ましい。ガラス転移温度を発色剤の結晶融解温度より低くすることで、樹脂を流動化させつつ発色剤を十分に融解させない状態で、樹脂組成物を混練したり、発色層を成形したりできるので、フィルム成形時、樹脂組成物作製時に発色剤が発色することを防止しやすくなる。
【0052】
[発色剤]
本樹脂組成物は、発色剤を含有する。発色剤は、後述するイオン系酸発生剤により発生した酸が作用されて発色することが可能なものが好ましい。
本樹脂組成物において、発色剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、30質量部以下であることが好ましい。含有量を30質量部以下とすることで、含有量に見合った発色が可能になる。また、樹脂組成物作製時やフィルム製造時などに発色層が誤って発色したり、発色層の機械強度が低下したりすることを抑制できる。そのため、パスポート又はカード用として好適に使用できる。
これら観点から、上記発色剤の含有量は、25質量部以下がより好ましく、19質量部以下がさらに好ましく、15質量部以下がよりさらに好ましく、10質量部以下がよりさらに好ましく、6質量部以下が特に好ましく、4質量部以下がとりわけ好ましく、2質量部以下が最も好ましい。
【0053】
また、本樹脂組成物における発色剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましい。上記含有量を0.01質量部以上とすることで、レーザー照射などの加熱によって発色剤を適切に発色させることが可能になる。発色性を高める観点から、上記発色剤の含有量は、0.05質量部以上がより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.3質量部以上が特に好ましく、0.5質量部以上がとりわけ好ましく、0.7質量部以上が最も好ましい。
【0054】
本発明で使用する発色剤は、色素であれば特に限定されないが、好ましくはロイコ色素が挙げられる。ロイコ色素は、通常、塩基性であり、感圧又は感熱記録紙分野で公知のものを使用することができる。ロイコ色素としては、発色前は無色ないし淡色であればよい。ロイコ色素はロイコ染料であることが好ましい。ロイコ色素は、後述するイオン系酸発生剤により発生した酸が作用されて発色することが可能である。
また、本樹脂組成物は、後述するとおり、レーザーが照射されることで発色するとよいが、レーザーにより加熱されることで発色剤の発色が促進されてもよい。
【0055】
発色剤は、TG-DTA(示差熱熱重量同時測定)で測定される5%質量減少温度が例えば80℃以上である。発色剤の5%質量減少温度を80℃以上とすると、本樹脂組成物や発色層を作製する際などに発色剤が揮発したり、熱分解したりせずに、後述する本フィルムにおいて発色剤を適切に発色させることが可能になる。発色剤の5%質量減少温度は、以上の観点から、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましくは、220℃以上がさらに好ましく、250℃以上がとりわけ好ましく、280℃以上が特に好ましい。
また、発色剤の5%質量減少温度は、上限値について特に限定されないが、後述する測定方法で350℃まで昇温しても質量の5%が減じない、すなわち、350℃超となるものであってもよい。
発色剤及び後述するイオン系酸発生剤の5%質量減少温度は、大気下で、昇温速度10℃/分で昇温しながら示差熱熱重量同時測定(TG-DTA)により測定を行った際の5%質量が減じる温度である。なお、5%質量減少温度は、後述する実施例に示すとおり、350℃まで昇温させて測定し、350℃において質量の5%が減じない場合は、5%質量減少温度は「350℃超」とする。
【0056】
また、発色剤の結晶融解温度は、100℃以上であることが好ましい。発色剤の結晶融解温度を100℃以上にすることで、フィルム成形時や、フィルムをカード、パスポートなどで使用する場合に高温環境下にさらされても、発色剤が表面にブリードすることを防止できる。また、樹脂組成物作製時やフィルム作製時などに発色剤が誤って発色することを防止しやすくなる。発色剤の結晶融解温度は、以上の観点から、120℃以上がより好ましく、140℃以上がさらに好ましく、150℃以上がよりさらに好ましく、160℃以上が特に好ましい。
発色剤の結晶融解温度は、300℃以下であることが好ましい。結晶融解温度を300℃以下とすると、発色層を成形する際に発色剤の分散性が良好となり、発色ムラや機械物性の低下がおこりにくくなる。以上の観点から、発色剤の結晶融解温度は、260℃以下がより好ましく、240℃以下がさらに好ましいく、220℃以下がよりさらに好ましく、200℃以下が特に好ましい。
なお、発色剤及び後述するイオン系酸発生剤の結晶融解温度は、示差走査熱量計(DSC)を用い、窒素雰囲気下の条件で、昇温速度10℃/分の条件で昇温を行い、検出されたDSC曲線の融解ピークのピークトップ温度を測定することにより求めることができる。
なお、樹脂組成物や発色層などにおいて、発色剤は、特に限定されないが、カプセルなどの別の材料に封入されず、例えば、発色剤を構成する後述する化合物そのものが、発色層を構成する樹脂中に分散又は相溶しているとよい。
【0057】
発色剤として好ましく使用されるロイコ色素は、後述するイオン系酸発生剤から発生した酸により、発色する性質を有する化合物が挙げられる。ロイコ色素としては、特に、ラクトン、ラクタム、サルトン、スピロピラン、エステル、アミド等の部分骨格を有し、イオン系酸発生剤から発生した酸と接触し、かつ必要に応じて適宜加熱された時に、速やかにこれらの部分骨格が開環若しくは開裂する等により共役域が変わる、無色ないし淡色の化合物が挙げられる。
【0058】
ロイコ色素として、具体的には、トリフェニルメタン系ロイコ染料、フルオラン系ロイコ染料、フルオレン系ロイコ染料、ジビニル系ロイコ染料、ピリジン系ロイコ染料等が挙げられる。以下に代表的な無色ないし淡色の染料(染料前駆体)の具体例を示すが、これらに限定されない。
【0059】
トリフェニルメタン系ロイコ染料としては、3,3-ビス(4-ジメチルアミノフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド(“クリスタルバイオレットラクトン”と称される)、3,3-ビス(4-ジメチルアミノフェニル)フタリド(“マラカイトグリーンラクトン”と称される)、3-(4-ジメチルアミノフェニル)-3-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)-6-ジメチルアミノフタリド等が挙げられる。
【0060】
フルオラン系ロイコ染料としては、2-メチル-6-(N-p-トリル-N-エチルアミノ)フルオラン、3-N-エチル-N-イソペンチルアミノ-7,8-ベンゾフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(o,p-ジメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(p-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(o-フルオロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-(m-メチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-オクチルアニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-オクチルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-ベンジルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-ジベンジルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-クロロ-7-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-クロロ-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-クロロ-7-p-メチルアニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-エトキシエチル-7-アニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-クロロフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(p-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-7-(o-フルオロアニリノ)フルオラン、3-ジエチルアミノ-ベンゾ[a]フルオラン、3-ジエチルアミノ-ベンゾ[c]フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-(o,p-ジメチルアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-(p-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-(o-フルオロアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-クロロフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-エトキシエチル-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-クロロ-7-アニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-6-メチル-7-p-メチルアニリノフルオラン、3-ジブチルアミノ-7-(o-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジブチルアミノ-7-(o-フルオロアニリノ)フルオラン、3-ジ-ペンチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ジ-ペンチルアミノ-6-メチル-7-(p-クロロアニリノ)フルオラン、3-ジ-ペンチルアミノ-7-(m-トリフルオロメチルアニリノ)フルオラン、3-ジ-ペンチルアミノ-6-クロロ-7-アニリノフルオラン、3-ジ-ペンチルアミノ-7-(p-クロロアニリノ)フルオラン、3-ピロリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-ピペリジノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-プロピルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-メチル-N-シクロヘキシルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-シクロヘキシルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-キシルアミノ)-6-メチル-7-(p-クロロアニリノ)フルオラン、3-(N-エチル-p-トルイジノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-イソアミルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-イソアミルアミノ)-6-クロロ-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-テトラヒドロフルフリルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-イソブチルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-(N-エチル-N-エトキシプロピルアミノ)-6-メチル-7-アニリノフルオラン、3-シクロヘキシルアミノ-6-クロロフルオラン、2-(4-オキサヘキシル)-3-ジメチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、2-(4-オキサヘキシル)-3-ジエチルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、2-(4-オキサヘキシル)-3-ジプロピルアミノ-6-メチル-7-アニリノフルオラン、2-メチル-6-p-(p-ジメチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-メトキシ-6-p-(p-ジメチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-クロロ-3-メチル-6-p-(p-フェニルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-クロロ-6-p-(p-ジメチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-ニトロ-6-p-(p-ジエチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-アミノ-6-p-(p-ジエチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-ジエチルアミノ-6-p-(p-ジエチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-フェニル-6-メチル-6-p-(p-フェニルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-ベンジル-6-p-(p-フェニルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2-ヒドロキシ-6-p-(p-フェニルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、3-メチル-6-p-(p-ジメチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-p-(p-ジエチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-p-(p-ジブチルアミノフェニル)アミノアニリノフルオラン、2,4-ジメチル-6-[(4-ジメチルアミノ)アニリノ]フルオラン、3,6-ジメトキシフルオラン、3-ジメチルアミノ-7-メトキシフルオラン、3-ジエチルアミノ-6-メトキシフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-メトキシフルオラン、3-ジエチルアミノ-6,7-ジメチルフルオラン、3-N-シクロヘキシル-N-n-ブチルアミノ-7-メチルフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-ジベンジルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-オクチルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-ジ-n-ヘキシルアミノフルオラン、3-ジエチルアミノ-7-アニリノフルオラン、3,6-ビス(ジエチルアミノ)フルオラン-γ-(3’-ニトロ)アニリノラクタム、3,6-ビス(ジエチルアミノ)フルオラン-γ-(4’-ニトロ)アニリノラクタムなどが挙げられる。
【0061】
フルオレン系ロイコ染料としては、3,6,6’-トリス(ジメチルアミノ)スピロ[フルオレン-9,3’-フタリド];3,6,6’-トリス(ジエチルアミノ)スピロ[フルオレン-9,3’-フタリド]等が挙げられる。
ジビニル系ロイコ染料としては、3,3-ビス[2-(p-ジメチルアミノフェニル)-2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,5,6,7-テトラブロモフタリド;3,3-ビス[2-(p-ジメチルアミノフェニル)-2-(p-メトキシフェニル)エテニル]-4,5,6,7-テトラクロロフタリド;3,3-ビス[1,1-ビス(4-ピロリジノフェニル)エチレン-2-イル]-4,5,6,7-テトラブロモフタリド;3,3-ビス[1-(4-メトキシフェニル)-1-(4-ピロリジノフェニル)エチレン-2-イル]-4,5,6,7-テトラクロロフタリド等が挙げられる。
ピリジン系ロイコ染料としては、ビリジン骨格を有するロイコ染料が挙げられ、具体的には、4-[2,6-ビス(2,4-ジエトキシフェニル)-4-ピリジル]-N,N-ジメチルアニリンなどが挙げられる。
【0062】
また、ロイコ染料としては、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-ジエチルアミノ-2-エトキシフェニル)-3-(1-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(4-シクロヘキシルエチルアミノ-2-メトキシフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(2-メチル-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(2-n-プロポキシカルボニルアミノ-4-ジ-n-プロピルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(2-メチルアミノ-4-ジ-n-プロピルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(2-メチル-4-ジn-ヘキシルアミノフェニル)-3-(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-4,7-ジアザフタリド、3,3-ビス(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-4-アザフタリド、3,3-ビス(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4-アザフタリド、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-4又は7-アザフタリド、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4又は7-アザフタリド、3-(2-ヘキシルオキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)-4又は7-アザフタリド、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-フェニルインドール-3-イル)-4又は7-アザフタリド、3-(2-ブトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-エチル-2-フェニルインドール-3-イル)-4又は7-アザフタリド3-メチル-スピロ-ジナフトピランなどのアザフタリド系ロイコ染料なども挙げられる。
【0063】
また、3-(4-ジメチルアミノフェニル)-3-(1,2-ジメチルインドール-3-イル)フタリド、3-(4-ジメチルアミノフェニル)-3-(2-メチルインドール-3-イル)フタリド、3,3-ビス(1,2-ジメチルインドール-3-イル)-5-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(1,2-ジメチルインドール-3-イル)-6-ジメチルアミノフタリド、3,3-ビス(2-フェニルインドール-3-イル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-〔1,1-ジ(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)エチレン-2-イル〕-3-(4-ジエチルアミノフェニル)フタリド、3-〔1,1-ジ(1-エチル-2-メチルインドール-3-イル)エチレン-2-イル〕-3-(4-N-エチル-N-フェニルアミノフェニル)フタリド、3-(2-エトキシ-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-フタリド、3,3-ビス(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-フタリド、3,3-ビス(1-ブチル-2-メチルインドール-3-イル)フタリド(3,3-ビス(1-n-ブチル-2-メチル-3-インドリル)フタリド)、3-(2-メチル-4-ジエチルアミノフェニル)-3-(1-n-オクチル-2-メチルインドール-3-イル)-フタリドなどのインドール環含有フタリド系ロイコ染料なども挙げられる。また、3,3-ビス(9-エチルカルバゾール-3-イル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-(4-ジメチルアミノフェニル)-3-(1-メチルピロール-3-イル)-6-ジメチルアミノフタリド、3-[2,2-ビス(4-ジエチルアミノフェニル)ビニル]-6-ジメチルアミノフタリドのフタリド系ロイコ染料なども挙げられる。
さらには、3-エチル-スピロ-ジナフトピラン、3-フェニル-スピロ-ジナフトピラン、3-ベンジル-スピロ-ジナフトピラン、3-メチル-ナフト-(3-メトキシベンゾ)スピロピラン、2’-アニリノ-6’-(N-エチル-N-イソペンチル)アミノ-3’-メチルスピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-(9H)キサンテン-3-オン、2’-アニリノ-6’-(N-エチル-N-(4-メチルフェニル))アミノ-3’-メチルスピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-(9H)キサンテン]-3-オン、3’-N,N-ジベンジルアミノ-6’-N,N-ジエチルアミノスピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-(9H)キサンテン]-3-オン、2’-(N-メチル-N-フェニル)アミノ-6’-(N-エチル-N-(4-メチルフェニル))アミノスピロ[イソベンゾフラン-1(3H),9’-(9H)キサンテン]-3-オンなども挙げられる。
本樹脂組成物に含有される発色剤は、上記のなかから1種単独で用いてもよいし、2種類以上の成分を組み合わせて使用することもできる。
本樹脂組成物の発色剤は、例えばシアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる色を発色するように適宜選択されればよい。
【0064】
シアン色を発色する発色剤(シアン系発色剤)としては、例えば、発色した際の最大吸光波長が580nm超780nm以下の範囲にある発色剤であればよい。シアン系発色剤として、山田化学工業社製「CVL」、「BLUE220」、「BLUE203」、東京化成工業社製「LCV」が好ましい。また、シアン系発色剤としては、山田化学工業社製の「H3035」なども挙げられる。マゼンタ色を発色する発色剤(マゼンタ系発色剤)は、例えば、発色した際の最大吸光波長が例えば480nm超580nm以下の範囲にある発色剤であればよい。マゼンタ系発色剤としては、山本化成社製「RED40」、山田化学工業社製「RED500」、「RED520」が好ましい。また、黄色を発色する発色剤(黄色系発色剤)は、例えば、発色した際の最大吸光波長域380nm以上480nm以下の範囲にある発色剤であればよい。黄色系発色剤としては、山田化学工業社製「H-29005」が好ましい。また、発色剤としては、例えば、特開2005-250451号公報に記載のものも、使用できる。
【0065】
[イオン系酸発生剤]
本樹脂組成物は、イオン系酸発生剤を含有する。本樹脂組成物は、イオン系酸発生剤を含有することで、優れた発色性を有することが可能である。したがって、増感剤を配合したり、レーザー強度を高くしたりしなくても、所望の色を鮮明に発色させることが可能である。
【0066】
本発明のイオン系酸発生剤は、TG-DTAで測定される5%質量減少温度が80℃以上であることが好ましい。5%質量減少温度が80℃以上であると、樹脂組成物やフィルムを作製する際などに加熱されても、イオン系酸発生剤が揮発したり、熱分解したりせず、適正な量のイオン系酸発生剤をフィルムなどに含有させることができる。
発色剤の5%質量減少温度は、以上の観点から、150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましくは、220℃以上がさらに好ましく、250℃以上がとりわけ好ましく、280℃以上が特に好ましく、320℃以上が最も好ましい。
また、イオン系酸発生剤の5%質量減少温度は、上限値について特に限定されないが、後述する測定方法で350℃まで昇温しても質量の5%が減じない、すなわち、350℃超となるものであってもよい。
【0067】
また、イオン系酸発生剤の結晶融解温度は、特に限定されず、例えば240℃以下であるが、200℃以下であることが好ましく、180℃以下がより好ましく、150℃以下がさらに好ましく、130℃以下がよりさらに好ましい。イオン系酸発生剤は、結晶融解温度が一定温度以下であると、加熱して樹脂組成物を混練する際に樹脂中に十分に分散させることができる。また、イオン系酸発生剤の結晶融解温度は、特に限定されないが、例えば40℃以上が好ましく、50℃以上がより好ましく、60℃以上がさらに好ましく、70℃以上がよりさらに好ましい。
【0068】
本樹脂組成物におけるイオン系酸発生剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましい。イオン系酸発生剤の含有量を20質量部以下とすることで、発色層を成形する際や樹脂組成物を調製する際に意図しない発色が生じることを防止しやすくなる。さらに、含有量に見合った発色が可能になり、また、樹脂組成物の機械強度が低下したりすることも防止でき、パスポート又はカード用として好適に使用できる。これら観点から、本樹脂組成物におけるイオン系酸発生剤の含有量は、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、6質量部以下がよりさらに好ましく、4質量部以下がよりさらに好ましく、2質量部以下がとりわけ好ましく、1質量部以下が特に好ましい。
【0069】
また、本樹脂組成物におけるイオン系酸発生剤の含有量は、樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましい。上記含有量を0.01質量部以上とすることで、レーザー照射などによってマーキングする際、発色剤をイオン系酸発生剤によって適切に発色させることが可能になる。イオン系酸発生剤の含有量は、0.05質量部以上であることがより好ましく、0.1質量部以上がさらに好ましく、0.2質量部以上が特に好ましく、0.3質量部以上がとりわけ好ましく、0.4質量部以上が最も好ましい。
【0070】
本樹脂組成物における発色剤の含有量に対する、イオン系酸発生剤の含有量の比は、質量基準で、0.01以上15以下が好ましく、0.05以上8以下がさらに好ましく、0.1以上3以下がさらに好ましく、0.2以上2以下がよりさらに好ましく、0.25以上1以下がよりさらに好ましい。このような含有量比にすることで、樹脂の性能を損ねにくく、レーザー照射などによりマーキングする際に樹脂組成物から形成される発色層などを高い発色性で適切に発色させやすくなる。
【0071】
イオン系酸発生剤は、イオンにより構成される化合物である。また、イオン系酸発生剤は、例えばレーザー照射などの光照射により、酸を発生させる光酸発生剤であるとよい。イオン系酸発生剤は、熱により酸を発生させるものであってもよいが、樹脂組成物を調製したり発色層を形成したりする際に加熱されても発色剤を発色させにくいものがよい。このような観点から、光照射により酸を発生させる光酸発生剤であることが好ましい。イオン系酸発生剤は、カチオンとアニオンにより構成されるイオンであるとよい。
カチオンは、主に光吸収部としての機能を有る。カチオンは特に限定されないが、スルホニウムカチオン及びヨードニウムカチオンのいずれかが好ましく、中でもスルホニウムカチオンがより好ましい。スルホニウムカチオンは、熱安定性が高く、5%質量減少温度を高くしやすくなる。また、樹脂組成物を調製したり、発色層を形成したりする際に加熱されても、発色剤を誤って発色させることを防止しやすくなる。
【0072】
スルホニウムカチオンは、具体的には、以下の式(A)で表される構造を有することが好ましい。
【化6】
【0073】
式(A)において、R11、R12は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。R13は、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基若しくはアルケニル基、-R20-C(=O)-R21で表される基、-R22-C(=O)-O-R23で表される基、及び上記式(B)で表される基のいずれかである。R11~R13は、相互に結合して、式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。R20及びR22は、炭素原子数1~11の二価の飽和脂肪族炭化水素基である。R21、R23は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、アルキル基、アルケニル基、又は-SO2-含有環式基である。
式(B)において、R16、R17は、それぞれ独立に、アリーレン基、アルキレン基またはアルケニレン基を表す。X1及びX2は、酸素原子又は硫黄原子のいずれかである。Wは、(x+1)価の連結基を表す。xは、1または2である。R18、R19は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。R18、R19は、相互に結合して、式中の硫黄原子と共に環を形成してもよい。
【0074】
また、ヨードニウムカチオンは、具体的には、以下の式(C)で表される構造を有することが好ましい。
【化7】
式(C)において、R
14、R
15は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはアルケニル基を表す。
【0075】
式(A)~(C)において、R11~R15、R18、R19、およびR21、R23におけるアリール基としては、炭素原子数6~20の無置換のアリール基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
R11~R15、R18、R19、およびR21、R23におけるヘテロアリール基としては、前記アリール基を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換されたものが挙げられる。ヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。このヘテロアリール基として、9H-チオキサンテンから水素原子を1つ除いた基;置換ヘテロアリール基として、9H-チオキサンテン-9-オンから水素原子を1つ除いた基などが挙げられる。
R11~R15、R18、R19、およびR21、R23におけるアルキル基としては、鎖状又は環状のアルキル基であって、炭素原子数1~30のものが好ましい。
R11~R15、R18、R19、R21、およびR23のアルケニル基は、炭素原子数が2~10であることが好ましい。
R11~R15、R18、R19、およびR21、R23が有していてもよい置換基としては、例えば、アルキル基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、カルボニル基、シアノ基、アミノ基、オキソ基(=O)、アリール基、下記式(D-1)~(D-10)でそれぞれ表される基が挙げられる。
【0076】
上記置換基としてのアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよい。アルキル基としては、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10がさらに好ましい。ここで、アルキル基としては、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デカニル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、イソヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、1-メチルエチル基、1-メチルプロピル基、2-メチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基などが挙げられる。
また、ハロゲン化アルキル基としては、上記アルキル基の1又は2以上の水素原子がハロゲン原子で置換されたものが挙げられる。
上記置換基としてのアリール基は、炭素原子数6~20の無置換のアリール基が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0077】
【化8】
[式中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい環式基、置換基を有していてもよい鎖状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい鎖状のアルケニル基である。]
【0078】
式(D-1)~(D-10)において、Rは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい環式基、置換基を有していてもよい鎖状のアルキル基、又は置換基を有していてもよい鎖状のアルケニル基である。
上記の置換基を有していてもよい環式基における環式基は、環状の炭化水素基であることが好ましく、該環状の炭化水素基は、芳香族炭化水素基であってもよいし、環状の脂肪族炭化水素基であってもよい。脂肪族炭化水素基は、芳香族性を持たない炭化水素基を意味する。また、脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよく、通常は飽和であることが好ましい。
Rにおける芳香族炭化水素基は、芳香環を有する炭化水素基である。該芳香族炭化水素基の炭素原子数は3~30であることが好ましく、5~30であることがより好ましく、5~20がさらに好ましく、6~15が特に好ましく、6~10が最も好ましい。ただし、該炭素原子数には、置換基における炭素原子数を含まないものとする。
【0079】
Rにおける芳香族炭化水素基が有する芳香環として具体的には、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ビフェニル、もしくはこれらの芳香環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環、又は、これらの芳香環もしくは芳香族複素環を構成する水素原子の一部がオキソ基などで置換された環が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。具体的には、9H-チオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
【0080】
Rにおける芳香族炭化水素基として具体的には、前記芳香環から水素原子を1つ除いた基(アリール基:例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基など)、前記芳香環の水素原子の1つがアルキレン基で置換された基(例えば、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-ナフチルエチル基、2-ナフチルエチル基等のアリールアルキル基など)、前記芳香環を構成する水素原子の一部がオキソ基などで置換された環(例えばアントラキノン等)から水素原子を1つ除いた基、芳香族複素環(例えば9H-チオキサンテン、9H-チオキサンテン-9-オンなど)から水素原子を1つ除いた基等が挙げられる。前記アルキレン基(アリールアルキル基中のアルキル鎖)の炭素原子数は、1~4であることが好ましく、1~2であることがより好ましく、1であることが特に好ましい。
【0081】
Rにおける環状の脂肪族炭化水素基は、構造中に環を含む脂肪族炭化水素基が挙げられる。この構造中に環を含む脂肪族炭化水素基としては、脂環式炭化水素基(脂肪族炭化水素環から水素原子を1個除いた基)、脂環式炭化水素基が直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の末端に結合した基、脂環式炭化水素基が直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の途中に介在する基などが挙げられる。
前記脂環式炭化水素基は、炭素原子数が3~20であることが好ましく、3~12であることがより好ましい。
前記脂環式炭化水素基は、多環式基であってもよく、単環式基であってもよい。単環式の脂環式炭化水素基としては、モノシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましい。該モノシクロアルカンとしては、炭素原子数3~6のものが好ましく、具体的にはシクロペンタン、シクロヘキサン等が挙げられる。多環式の脂環式炭化水素基としては、ポリシクロアルカンから1個以上の水素原子を除いた基が好ましく、該ポリシクロアルカンとしては、炭素原子数7~30のものが好ましい。中でも、該ポリシクロアルカンとしては、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカン等の架橋環系の多環式骨格を有するポリシクロアルカン;ステロイド骨格を有する環式基等の縮合環系の多環式骨格を有するポリシクロアルカンがより好ましい。
【0082】
なかでも、Rにおける環状の脂肪族炭化水素基としては、モノシクロアルカンまたはポリシクロアルカンから水素原子を1つ以上除いた基が好ましく、ポリシクロアルカンから水素原子を1つ除いた基がより好ましく、アダマンチル基、ノルボルニル基が特に好ましく、アダマンチル基が最も好ましい。
脂環式炭化水素基に結合してもよい、直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数が1~10であることが好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が最も好ましい。
直鎖状の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状のアルキレン基が好ましく、また、分岐鎖状の脂肪族炭化水素基としては、分岐鎖状のアルキレン基が好ましい。
【0083】
Rの置換基を有していてもよい鎖状のアルキル基におけるアルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよい。アルキル基としては、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10が最も好ましい。
Rの置換基を有していてもよい鎖状のアルケニル基における鎖状のアルケニル基としては、直鎖状又は分岐鎖状のいずれでもよく、炭素原子数が2~10であることが好ましく、2~5がより好ましく、2~4がさらに好ましく、3が特に好ましい。
【0084】
Rの環式基、鎖状のアルキル基またはアルケニル基における置換基としては、例えば、アルコキシ基、ハロゲン原子、ハロゲン化アルキル基、水酸基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基、オキソ基、上記Rにおける環式基、アルキルカルボニル基、チエニルカルボニル基等が挙げられる。
上記のなかでもRは、置換基を有していてもよい環式基、置換基を有していてもよい鎖状のアルキル基が好ましい。
【0085】
上記の通り、R11~R13、R18~R19は、相互に結合して式中のイオウ原子と共に環を形成する場合、硫黄原子、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子や、カルボニル基、-SO-、-SO2-、-SO3-、-COO-、-CONH-または-N(RN)-(該RNは炭素原子数1~5のアルキル基である。)等の官能基を介して結合してもよい。形成される環としては、式中のイオウ原子をその環骨格に含む1つの環が、イオウ原子を含めて、3~10員環であることが好ましく、5~7員環であることが特に好ましい。形成される環の具体例としては、例えばチオフェン環、チアゾール環、ベンゾチオフェン環、チアントレン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、9H-チオキサンテン環、チオキサントン環、チアントレン環、フェノキサチイン環、テトラヒドロチオフェニウム環、テトラヒドロチオピラニウム環等が挙げられる。
R20、R22は、それぞれ独立に-CR25R26-で表される基であればよい。R25、R26は、それぞれ独立に、水素原子または炭素原子数1~5のアルキル基を表し、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基が好ましく、アルキル基となる場合、相互に結合して環を形成してもよい。
【0086】
式(B)中、R16、R17は、それぞれ独立に、アリーレン基、アルキレン基又はアルケニレン基を表す。R16におけるアリーレン基は、Rにおける芳香族炭化水素基として例示したアリール基から水素原子を1つ除いた基が挙げられる。ただし、R16、R17におけるアリーレン基は、置換基としてアルキル基を有してもよい。なお、置換基としてのアルキル基は、上述した通りである。
R16におけるアルキレン基、アルケニレン基は、Rにおける鎖状のアルキル基、鎖状のアルケニル基として例示した基から水素原子を1つ除いた基が挙げられる。
式(B)において、xは、1または2である。
式(B)において、X1、X2は、酸素原子又は硫黄原子であり、一方が酸素原子であれば他方も酸素原子であればよく、また、一方が硫黄原子であれば他方も硫黄原子であればよい。
【0087】
Wは、(x+1)価、すなわち2価または3価の連結基である。Wにおける2価の連結基としては、置換基を有していてもよい2価の炭化水素基が好ましい。ここで、置換基としては、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素原子数1~5のフッ素化アルキル基、カルボニル基等が挙げられる。
2価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。2価の炭化水素基における脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよく、不飽和であってもよいが飽和であることが好ましい。該脂肪族炭化水素基として、より具体的には、直鎖状若しくは分岐鎖状の脂肪族炭化水素基、又は構造中に環を含む脂肪族炭化水素基等が挙げられる。前記直鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数が1~10であることが好ましく、1~6がより好ましく、1~4がさらに好ましく、1~3が最も好ましい。直鎖状の脂肪族炭化水素基は、直鎖状のアルキレン基が好ましい。また、分岐鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数が2~10であることが好ましく、2~6がより好ましく、2~4がさらに好ましく、2又は3が最も好ましい。分岐鎖状の脂肪族炭化水素基は、飽和の脂肪族炭化水素基が好ましい。
前記構造中に環を含む脂肪族炭化水素基としては、脂環式炭化水素基、脂環式炭化水素基が直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の末端に結合した基、脂環式炭化水素基が直鎖状または分岐鎖状の脂肪族炭化水素基の途中に介在する基などが挙げられる。脂環式炭化水素基は、炭素原子数が3~20であることが好ましく、3~12であることがより好ましい。前記脂環式炭化水素基は、多環式基であってもよく、単環式基であってもよい。2価の炭化水素基における芳香族炭化水素基は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基である。この芳香環は、(4n+2)個のπ電子をもつ環状共役系であれば特に限定されず、単環式でも多環式でもよい。芳香環の炭素原子数は、5~30であることが好ましく、5~20がより好ましく、6~15がさらに好ましく、6~12が特に好ましい。
Wにおける2価の連結基は、環状であることが好ましく、なかでも、アリーレン基の両端に2個のカルボニル基が組み合わされた基、又はアリーレン基のみからなる基が好ましい。アリーレン基としては、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられ、フェニレン基が特に好ましい。
Wにおける3価の連結基としては、前記Wにおける2価の連結基から水素原子を1個除いた基、前記2価の連結基にさらに前記2価の連結基が結合した基などが挙げられる。W11における3価の連結基としては、アリーレン基に2個のカルボニル基が結合した基が好ましい。
【0088】
スルホニウムカチオンとしては、トリアリールスルホニウムカチオンが好ましい。トリアリールスルホニウムカチオンとは、硫黄原子で構成されるカチオン中心に、3つの芳香族環が結合されるものをいう。トリアリールスルホニウムカチオンを使用することで、熱安定性がより一層高くなり、5%質量減少温度を高くしやすくなり、樹脂組成物を調製したり、発色層を形成したりする際の熱で分解しにくい傾向となる。
【0089】
したがって、スルホニウムカチオンは、上記式(A)においては、R11、R12のいずれもが置換基を有していてもよいアリール基若しくはヘテロアリール基のいずれかであり、R13が置換基を有していてもよいアリール基若しくはヘテロアリール基、又は式(B)で表される基(ただし、R16がアリーレン基である)であることが好ましい。これらの中でも、R11、R12、R13がいずれも、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基又はヘテロアリール基のいずれかであることがより好ましい。
【0090】
トリアリールスルホニウムカチオンの具体例としては、以下の(A-1)で表される化合物が好ましくは挙げられる。
【化9】
式(A-1)において、R
30は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基である。ここで、アルキル基は、置換基としてのアルキル基として例示されたものであればよく、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10がさらに好ましい。
【0091】
また、トリアリールスルホニウムカチオンの具体例としては、上記(A-1)で示される化合物以外にも以下の化合物が挙げられる。
【0092】
【0093】
【0094】
【0095】
【0096】
上記各式において、R31はアルキル基、R32はアルキル基又は水素原子である。Yはハロゲン原子である。R31、R32におけるアルキル基は置換基としてのアルキル基であり、炭素原子数が1~20であることが好ましく、1~15であることがより好ましく、1~10がさらに好ましい。
【0097】
イオン系酸発生剤におけるアニオンは、主に酸発生部としての機能を有する。アニオンは、アニオン中心にリン原子(P-)、ホウ素原子(B-)、アンチモン原子(Sb-)、ヒ素原子(As-)、スルホン酸(SO3
-)、オキシカルボキシル(CO2
-)などを使用したものが挙げられ、中でも、リン原子をアニオン中心とするリン系アニオン、及びホウ素原子をアニオン中心とするホウ素アニオンが好ましい。なお、アニオン中心とは、アニオンが電荷される原子(P,B,Sb,Asなど)又は原子団(SO3、CO2など)である。
【0098】
リン系アニオンは特に限定はされないが、具体的には以下の式(E)に示す構造を有するものが挙げられる。
【化14】
【0099】
式(E)においてR41は、置換基を有していてもよいフッ素化アルキル基、又はフッ素原子である。複数のR41は、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。フッ素化アルキル基は、アルキル基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基である。フッ素化アルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。置換基を有していてもよいフッ素化アルキル基は、炭素原子数が1~10であることが好ましく、1~8がより好ましく、1~5がさらに好ましい。中でも、R41としては、フッ素原子又は炭素原子数1~5のフッ素化アルキル基が好ましく、フッ素原子又は炭素原子数1~5のパーフルオロアルキル基がより好ましく、フッ素原子、トリフルオロメチル基又はペンタフルオロエチル基がさらに好ましい。
フッ素化アルキル基が有してもよい置換基としては、水酸基、オキソ基、アリール基、ラクトン含有環式基、エーテル結合、エステル結合、これらを組合せたもの、又は、これらとアルキル基を組み合わせたものなどが挙げられる。
式(E)において、複数のR41のうち、少なくとも1つが置換基を有してもよいフッ素化アルキル基であることが好ましく、より好ましくは2つ以上、さらに好ましくは3つ以上が置換基を有してもよいフッ素化アルキル基であるとよい。また、複数のR41のうち、少なくとも1つがフッ素原子であることが好ましく、2つ以上がフッ素原子であることがより好ましい。
【0100】
リン系アニオンは、置換基を有していてもよいフッ素化アルキル基を複数含有させることで、嵩高くなって立体障害が生じて、酸が発生しても発色剤との反応を抑制しやすくなる。そのため、樹脂組成物やフィルムなどを製造する過程において、イオン系酸発生剤による発色剤の発色を防止することができる。一方で、R41にフッ素原子やフッ素化アルキル基を使用することで、レーザーが照射されると、酸を十分に発生させることができるので、発色性を優れたものにできる。
リン系アニオンの具体例としては、ヘキサフルオロホスフェートアニオン(PF6
-)、パーフルオロアルキルフルオロホスフェートアニオン(RfnPF6-n
-:Rfがパーフルオロアルキル基、nが1~5の整数)などが挙げられ、中でもパーフルオロアルキルフルオロホスフェートアニオンが好ましい。
【0101】
ホウ素系アニオンは、具体的には以下の式(F)に示す構造を有するものが挙げられる。
【化15】
式(F)において、R
42は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基、又はフッ素原子である。
R
42におけるアリール基は、置換基を有していてもよい。この置換基としては、特に限定されるものではないが、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基(直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基が好ましく、炭素原子数は1~5が好ましい)、ハロゲン化アルキル基が好ましく、ハロゲン原子又は炭素原子数1~5のハロゲン化アルキル基がより好ましく、フッ素原子又は炭素原子数1~5のフッ素化アルキル基が特に好ましい。アリール基がフッ素原子を有することにより、アニオンの極性が高まり好ましい。
【0102】
R42におけるアリール基は、炭素原子数が5~30であることが好ましく、5~20がより好ましく、6~15がさらに好ましく、6~12が特に好ましい。具体的には、ナフチル基、フェニル基、アントラセニル基などが挙げられ、入手が容易であることからフェニル基が好ましい。
式(F)のR42としては、それぞれ、フッ素化されたフェニル基が好ましく、パーフルオロフェニル基が特に好ましい。
式(F)において、4つのR42のうち、少なくとも1つがフッ素原子を有するアリール基であることが好ましく、少なくとも2つがフッ素原子を有するアリール基であることがより好ましく、全てがフッ素原子を有するアリール基であることがさらに好ましい。
ホウ素系アニオンは、アリール基を1つ又は複数含有することで、嵩高くなって立体障害が大きくなり、加熱されたときに酸が発生しても発色剤との反応を抑制しやすくなる。そのため、樹脂組成物やフィルムを製造する過程において、イオン系酸発生剤による発色剤の発色を防止することができる。一方で、ホウ素系アニオンは、フッ素原子やフッ素化されたフェニル基を有することで、レーザーが照射されると、酸を十分に発生させることができるので、発色性を優れたものにできる。
ホウ素系アニオンの具体例としては、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートアニオン(B(C6F5)4
-)が挙げられる。
【0103】
イオン系酸発生剤のアニオンは、アニオン中心に対して結合する原子量合計が、100以上2000以下であることが好ましく、200以上1200以下がより好ましく、300以上1000以下がさらに好ましく、400以上800以下がよりさらに好ましい。
上記原子量合計が高くなると、嵩高くなって立体障害が大きくなり、加熱されたときに酸が発生しても発色剤との反応を抑制しやすくなる。そのため、樹脂組成物や発色層を製造する過程等において、イオン系酸発生剤による意図しない発色剤の発色を防止することができる。一方、上記原子量合計を一定値以下とすることで、発色剤と反応させるために大きなエネルギーが必要とならないため、レーザー強度を高くすることなく発色が可能で、レーザー照射によって樹脂が劣化したり発泡隆起が多くなったりすることを防止できる。そのため、上記原子量合計は上記上限値以下であることが好ましい。
なお、アニオン中心に対して結合する原子量合計とは、アニオン中心に対して直接又は間接的に結合する原子の全ての原子量合計を意味し、式(E)では、リン原子(P)に結合する、全てのR41の原子量合計である。また、式(F)では、ホウ素原子(B)に結合する、全てのR42の原子量合計である。
【0104】
イオン系酸発生剤のアニオンは、分子体積が20Å3以上800Å3以下であることが好ましく、50Å3以上750Å3以下であることがより好ましく、80Å3以上700Å以下であることがさらに好ましく、100Å3以上650Å3以下であることがよりさらに好ましく、150Å3以上600Å3以下であることがよりさらに好ましく、200Å3以上550Å3以下であることがよりさらに好ましい。
上記分子体積が大きくなると、嵩高くなって立体障害が大きくなり、加熱されたときに酸が発生しても発色剤との反応を抑制しやすくなる。そのため、樹脂組成物や発色層を製造する過程等において、イオン系酸発生剤による意図しない発色剤の発色を防止することができる。一方、上記原子の数を一定値以下とすると、発色剤と反応させるために大きなエネルギーが必要とならないため、レーザー強度を高くすることなく発色か可能で、レーザー照射によって樹脂が劣化したり発泡隆起が多くなったりすることを防止できる。そのため、上記分子体積は上記上限値以下であることが好ましい。
【0105】
なお、アニオンの分子体積は密度汎関数理論における交換相関ポテンシャルとしてωB97XD(J.-D.Chai and M. Head-Gordon,Phys.Chem.Chem.Phys.,10(2008)6615)、基底関数としてDef2SVP(F.Weigend and R.Ahlrichs Phys.Chem.Chem.Phys.,7(2005)3297 及び F.Weigend,Phys.Chem.Chem.Phys.,8(2006)1057)を用いて構造最適化を行った後、電子密度が0.001電子/(Bohr3)となる等高線の内側の体積を算出した。これらの計算は、例えば、Gaussian16(Gaussian 16, Revision C.01, M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, X. Li, M. Caricato, A. V. Marenich, J. Bloino, B. G. Janesko, R. Gomperts, B. Mennucci, H. P. Hratchian, J. V. Ortiz, A. F. Izmaylov, J. L. Sonnenberg, D. Williams-Young, F. Ding, F. Lipparini, F. Egidi, J. Goings, B. Peng, A. Petrone, T. Henderson, D. Ranasinghe, V. G. Zakrzewski, J. Gao, N. Rega, G. Zheng, W. Liang, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, K. Throssell, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. J. Bearpark, J. J. Heyd, E. N. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, T. A. Keith, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. P. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, J. M. Millam, M. Klene, C. Adamo, R. Cammi, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, O. Farkas, J. B. Foresman, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2016.)のVolumeキーワードを用いて実施することができる。
【0106】
上記の手法で計算されるアニオンの分子体積は、例えば、PF6
-は94.2Å3、PF3(C2F5)3-は277Å3、BF4
-は62.1Å3、B(C6F5)4
-は502Å3、CF3SO3-は110Å3、C4F9SO3
-は異性体によって異なり197~212Å3、SbF6
-は116Å3となる。
【0107】
イオン系酸発生剤は、上記したカチオンのうちいずれかのカチオンと、上記したアニオンのうちいずれかのアニオンからなるものであるとよい。イオン系酸発生剤としては、上記したものの中では、スルホニウムカチオンとリン系アニオンからなるもの、スルホニウムカチオンとホウ素系アニオンからなるものが好ましく、中でもスルホニウムカチオンとリン系アニオンからなるものが好ましい。特に、トリアリールスルホニウムカチオンとリン系アニオンからなるものが好ましく、中でも、式(A-1)に示すトリアリールスルホニウムカチオンと、式(E)に示すリン系アニオンの組み合わせがより好ましい。
【0108】
イオン系酸発生剤におけるアニオンは、H+が脱離しやすく強い酸であることが好ましい。なお、例えば、RHという分子について下記式(Z)の反応エネルギーが負に大きいものがH+が脱離しやすく強い酸である。
RH → R- + H+ (Z)
式(Z)の反応エネルギーは密度汎関数理論における交換相関ポテンシャルとしてωB97XD(J.-D.Chai and M. Head-Gordon,Phys.Chem.Chem.Phys.,10(2008)6615),基底関数としてDef2SVP(F.Weigend and R.Ahlrichs Phys.Chem.Chem.Phys.,7(2005)3297、及びF.Weigend,Phys.Chem.Chem.Phys.,8(2006)1057)を用いて式(Z)に現れるそれぞれの分子について構造最適化を行った結果のエネルギー差から算出できる。
この計算は例えばGaussian16(Gaussian 16, Revision C.01, M. J. Frisch, G. W. Trucks, H. B. Schlegel, G. E. Scuseria, M. A. Robb, J. R. Cheeseman, G. Scalmani, V. Barone, G. A. Petersson, H. Nakatsuji, X. Li, M. Caricato, A. V. Marenich, J. Bloino, B. G. Janesko, R. Gomperts, B. Mennucci, H. P. Hratchian, J. V. Ortiz, A. F. Izmaylov, J. L. Sonnenberg, D. Williams-Young, F. Ding, F. Lipparini, F. Egidi, J. Goings, B. Peng, A. Petrone, T. Henderson, D. Ranasinghe, V. G. Zakrzewski, J. Gao, N. Rega, G. Zheng, W. Liang, M. Hada, M. Ehara, K. Toyota, R. Fukuda, J. Hasegawa, M. Ishida, T. Nakajima, Y. Honda, O. Kitao, H. Nakai, T. Vreven, K. Throssell, J. A. Montgomery, Jr., J. E. Peralta, F. Ogliaro, M. J. Bearpark, J. J. Heyd, E. N. Brothers, K. N. Kudin, V. N. Staroverov, T. A. Keith, R. Kobayashi, J. Normand, K. Raghavachari, A. P. Rendell, J. C. Burant, S. S. Iyengar, J. Tomasi, M. Cossi, J. M. Millam, M. Klene, C. Adamo, R. Cammi, J. W. Ochterski, R. L. Martin, K. Morokuma, O. Farkas, J. B. Foresman, and D. J. Fox, Gaussian, Inc., Wallingford CT, 2016.)を用いて実施することができる。
【0109】
上記の手法で計算されるRHという分子の反応エネルギーは、例えば、RHがH2SO4は330kcal/mol、CF3SO3Hは309kcal/mol、HBF4は304kcal/mol、HPF6は286kcal/mol、H(C2F5)3PF3は、283kcal/mol、HSbF6は277kcal/mol、HB(C6F5)4は250kcal/molとなる。
【0110】
イオン系酸発生剤は、酸を発生させやすく発色性を良好にしやすい観点から、酸解離定数(pKa)が4以下の酸を発生するものであることが好ましい。pKaは1以下であることがより好ましく、-2以下であることがさらに好ましく、-5以下であることがよりさらに好ましく、-8以下であることがよりさらに好ましい。また、イオン系酸発生剤は、強い酸が発生しにくく、樹脂組成物を調製したり発色層を形成したりする際等の取扱性や装置の金属腐食を抑制しやすい観点から、pKaが-15以上の酸を発生するものであることが好ましい。pKaは-13以上であることがより好ましく、-11以上であることがさらに好ましく、-10以上であることがよりさらに好ましい。
ここで酸解離定数(pKa)とは、対象物質の酸強度を示す指標として一般的に用いられているものをいい、25℃の温度条件における値である。pKa値は、公知の手法により測定して求めることができる。また、「ACD/Labs」(Advanced Chemistry Development社製)等の公知のソフトウェアを用いた計算値を用いることもできる。
本樹脂組成物において、イオン系酸発生剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
[その他の添加剤]
本樹脂組成物は、上記以外にも、増感剤、光熱変換剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、プロセス安定剤、艶消し剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、抗ウィルス剤、帯電防止剤、滑剤、難燃剤等を挙げることができる。これらに関しても使用される目的に応じて、通常使用される量を添加すればよい。これら添加剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0112】
[樹脂組成物の製造方法]
本樹脂組成物は、例えば、樹脂、発色剤、イオン系酸発生剤及びその他の添加剤などの本樹脂組成物を構成する原料を混合して得るとよい。原料の混合は、押出機、プラストミルなどにおいて加熱しながら混練して行うとよい。
ここで、混練する際の温度(混練温度)は、樹脂が溶融ないし軟化する温度であるとよく、例えば、非晶性樹脂の場合はガラス転移温度以上の温度とすればよく、ガラス転移温度より10℃以上高い温度とすることが好ましく、30℃以上高い温度とすることがより好ましく、50℃以上高い温度とすることがさらに好ましい。結晶性樹脂の場合は結晶融解温度以上の温度とすればよく、結晶融解温度より10℃以上高い温度とすることが好ましく、20℃以上高い温度とすることがより好ましく、30℃以上高い温度とすることがさらに好ましい。
混練温度は、イオン系酸発生剤の5%質量減少温度未満の温度であることが好ましく、5%質量減少温度よりも5℃以上低い温度であることがより好ましく、5%質量減少温度よりも50℃以上低い温度であることがさらに好ましく、70℃以上低い温度であることがさらに好ましく、90℃以上低い温度であることがよりさらに好ましい。混練温度をイオン系酸発生剤の5%質量減少温度未満の温度とすることで、本樹脂組成物を製造する工程において、イオン系酸発生剤が分解したりすることなどを防止することができる。
一方で、上記混練温度は、イオン系酸発生剤の結晶融解温度以上であることが好ましく、結晶融解温度よりも5℃以上高い温度であることがより好ましく、結晶融解温度よりも50℃以上高い温度であることがより好ましく、70℃以上高い温度であることがさらに好ましく、90℃以上高い温度であることがよりさらに好ましい。混練温度をイオン系酸発生剤の結晶融解温度以上の温度とすることで、本樹脂組成物を製造する工程において、イオン系酸発生剤を樹脂に十分に混合させることができる。
【0113】
同様に、上記混練温度は、発色剤の5%質量減少温度未満の温度であることが好ましく、発色剤の5%質量減少温度よりも5℃以上低い温度であることがより好ましく、発色剤の5%質量減少温度よりも30℃以上低い温度であることがさらに好ましく、50℃以上低い温度であることがよりさらに好ましい。混練温度を発色剤の5%質量減少温度未満の温度とすることで、本樹脂組成物を製造する工程において、発色剤が分解したりすることなどを防止することができる。
また、上記混練温度は、発色剤の結晶融解温度以上であることが好ましく、発色剤の結晶融解温度よりも5℃以上高い温度であることがより好ましく、発色剤の結晶融解温度よりも30℃以上高い温度であることがより好ましく、50℃以上高い温度であることがよりさらに好ましい。混練温度を発色剤の結晶融解温度以上の温度とすることで、本樹脂組成物を製造する工程において、発色剤を樹脂に十分に混合させることができる。
【0114】
混練温度は、樹脂の性状(例えば、ガラス転移温度)に応じて適宜選択すればよく、例えば50℃以上320℃以下の範囲から適宜選択すればよい。また、例えば、樹脂がポリカーボネート樹脂の場合には、混練温度は、例えば180℃以上320℃以下、好ましくは200℃以上310℃以下、より好ましくは220℃以上300℃以下である。
【0115】
<フィルム>
本発明のフィルム(以下、「本フィルム」ともいう)は、上記した本樹脂組成物からなる発色層を有する。本樹脂組成物からなる発色層は、上記の通り、発色層及びイオン系酸発生剤を含有することで、レーザー発色性を有するとよく、すなわち、レーザー光が照射されることで発色する層であるとよい。したがって、本フィルムは、レーザーが照射されることで発色するレーザーマーキングシートとして使用できる。
本フィルムは、発色層単層からなる単層構造のフィルムであってもよいし、発色層を少なくとも1層有する多層構造の積層フィルム(積層体)であってもよい。
発色層単層からなる単層構造のフィルムにおいては、発色層が上記した本樹脂組成物からなるものであればよい。
【0116】
積層フィルム(積層体)は、2層以上の樹脂層を有するものであればその層数は特に限定されない。積層体は、例えば発色層を2以上有してもよく、全ての樹脂層が発色層であってもよい。
積層体における各発色層が発色する色は、互いに異なる色を発色するとよい。積層体における各発色層は、例えば、シアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれることが好ましく、上記の互いに異なる色とは、シアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる少なくとも2つであることがより好ましい。また、積層体の発色層は、シアン色、マゼンタ色、及び黄色それぞれを発色する発色層を含むことがより好ましい。この3色それぞれを発色する発色層を有することで、より高品質なフルカラー発色が可能となる。
各発色層は、例えば、各発色層にシアン系発色剤、マゼンタ系発色剤、又は黄色系発色剤をそれぞれ含有させることで、シアン色、マゼンタ色、又は黄色それぞれを発色することができる。
積層体において、発色層が2層以上有する場合、発色層は少なくとも1層が上記した本樹脂組成物からなる発色層であればよいが、全ての発色層が本樹脂組成物からなるものであってもよい。
なお、発色層は、上記本樹脂組成物から構成されない場合であっても、レーザー発色性を有するとよく、発色剤と熱可塑性樹脂を含有することが好ましく、発色剤及び熱可塑性樹脂としては、本樹脂組成物に使用したものを適宜選択して使用してもよい。また、発色剤及び熱可塑性樹脂に加えて、顕色剤を含有してもよく、その場合、顕色剤としては、上記イオン系酸発生剤以外の顕色剤を使用するとよい。
【0117】
積層体における各発色層は、上記の通りレーザー発色性を有するとよく、すなわち、レーザー光が照射されることで発色する層であるとよい。上記した積層体は、各発色層がレーザー発色性を有することで、レーザー照射により多色、さらにはフルカラー発色も可能となる。
発色層は、好ましくは200~1500nmの範囲(波長域)のいずれか1つの波長を有するレーザー光の照射により発色可能であることが好ましい。上記波長域は、250~1200nmが好ましく、300~900nmがより好ましく、320~600nmがよりさらに好ましい。例えば、発色層が単層であれば、その単層の発色層が上記波長域のいずれかのレーザー光により発色されればよい。
また、発色層が2層以上ある場合、複数の発色層は、それぞれ別の波長域のレーザー光により発色するものであってもよいし、同じ波長域のレーザー光により発色するものであってもよい。
複数の発色層は、それぞれ別の波長域のレーザー光により発色する場合、積層体において、異なる波長域のレーザー光を照射することで、各発色層を選択的に発色させることができ、上記の通り、フルカラー発色も容易となる。
なお、各発色層は、上記の通り、所定の波長域の光により発色可能とするためには、各発色層に含有される発色剤や、イオン系酸発生剤などの顕色剤の種類を適宜選択したりするとよい。
【0118】
積層フィルム(積層体)は、上記の通り、少なくとも2層の発色層を有することが好ましいが、少なくとも2層の発色層は、互いに直接積層されてもよい。すなわち、積層体は、少なくとも一対の発色層が、他の層を介さずに直接積層されることが好ましい。本発明では、そのような構成により、積層体の層数を少なくしても多色やフルカラー発色が可能になる。したがって、比較的薄い厚みで、かつ簡単な層構成により多色やフルカラー発色が可能になる。
また、積層体は、一対の発色層の間に中間層を含有する態様も好ましい。ここで、一対の発色層とは、積層体に設けられた複数の発色層のうち、互いに隣接する任意の一対の発色層である。一対の発色層の間に中間層が設けられる場合は、一対の発色層は、中間層を介して互いに接着されればよい。
積層体は、中間層を含有することで、各発色層の発色剤などが他の発色層に移行することを防止できる。また、発色層同士を離間させることができるので、後述するようにインナーマーキングにより所定の発色層を発色させる場合には、レーザー照射などした場合に、そのレーザー照射により他の発色層が発色することが防止できる。したがって、所望のレーザー印字を正確に行いやすくなる。
【0119】
中間層は、樹脂より形成される樹脂層であり、中間層に使用される樹脂は、熱硬化性樹脂などの硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。すなわち、中間層、及び各発色層に含有される樹脂のいずれもが熱可塑性樹脂であることが好ましい。
中間層に熱可塑性樹脂を使用することで、混練や押出成形などが容易となり、中間層の成形性が良好となる。また、中間層及び発色層のいずれも熱可塑性樹脂とすることで、発色層及び中間層を容易に積層して積層体を製造できる。
なお、中間層に使用される熱可塑性樹脂の具体例や好ましい態様は、上記した本樹脂組成物において使用される熱可塑性樹脂と同様であり、その詳細は上記の通りである。
また、中間層に使用される樹脂は、隣接する一対の発色層において、一方の発色層の発色剤や顕色剤が他方の発色層に移行することを防止する観点から、バリア性の高い樹脂を使用することも好ましい。
なお、中間層には、中間層を設けた効果を適切に発揮できる限り、発色剤や顕色剤などが少量配合されてもよいが、レーザー照射時や発色層成形時などに誤って発色することを防止する観点から、発色剤及び顕色剤が配合されないことが好ましい。
【0120】
積層体の具体的な層構成は、例えば以下のものが挙げられ、発色層が2層設けられる場合には、発色層/発色層の2層構造であってもよいし、発色層/中間層/発色層の3層構造であってもよいし、4層以上の層構造であってもよい。発色層が2層設けられる積層体では、2つの発色層は互いに別の色を発色すればよく、一方の発色層が発する色が好ましくはシアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる1つであり、他方の発色層が発色する色は、シアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる別の1つであるとよい。
【0121】
発色層が3層設けられる場合には、発色層/発色層/発色層の3層構造であってもよいし、発色層/中間層/発色層/中間層/発色層の5層構造であってもよいが、その他の層構造であってもよい。発色層は、3層設けられる場合にも、互いに異なる色を発色するとよい。例えば、1つの発色層が発色する色がシアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる1つであり、別の発色層が発色する色がシアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる別の1つであり、さらに別の発色層が発色する色がシアン色、マゼンタ色、及び黄色から選ばれる残りの1つであることが好ましい。
【0122】
積層体において発色層の数は、2又は3層に限定されず、4層以上であってもよい。4層以上の発色層は、いずれも互いに異なる色を発色してもよい。例えば、発色層が4層である場合、4層の発色層のうち3層が、シアン色、マゼンタ色、及び黄色それぞれを発色し、残りの1層がシアン色、マゼンタ色、及び黄色以外の色(黒色、グレー色など)を発色させてもよい。なお、積層体に4層以上の発色層が設けられる場合、隣接する一対の発色層の間には、中間層が設けられてもよいし、中間層が設けられなくてもよい。
また、積層体は、同じ色を発色する発色層を2層以上有してもよい。例えば4層以上の場合には、積層体は、シアン色を発色する層、マゼンタ色を発色する層、及び黄色を発色する層を有するとともに、これらのうち少なくとも1つが2層以上であってもよい。
【0123】
[厚み]
本フィルムの厚みは、特に限定されず、使用される目的によって適宜調整すればよいが、例えば4μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上、さらに好ましくは20μm以上、よりさらに好ましくは50μm以上であり、よりさらに好ましくは100μm以上であり、また、例えば2000μm以下、好ましくは1500μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは800μm以下、よりさらに好ましくは500μm以下である。本フィルムの厚みを一定以上とすることで、本フィルムの発色性などを適切に確保しやすくなる。一方で、一定以下の厚みとすることで、カードやパスポートを薄型化しやすくなる。
【0124】
本発明において、発色層の厚みは、4μm以上であることが好ましい。発色層の厚みを4μm以上とすることで、所望の発色性が得られやすくなる。発色層の厚みは、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましく、35μm以上であることがよりさらに好ましく、50μm以上であることが最も好ましい。
また、発色層の厚みは、1000μm以下であることが好ましく、800μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましく、400μm以下であることがよりさらに好ましく、200μm以下であることが特に好ましい。発色層の厚みを上記上限値以下とすることで、フィルムを必要以上に厚くすることなく発色性を良好にできる。
積層体に発色層が複数設けられる場合には、各発色層の厚みが上記述べた通りであればよい。また、積層体に設けられる複数の発色層の厚みは、互いに同一であってもよいが、互いに異なっていてもよい。
【0125】
また、中間層が設けられる場合、中間層の厚みは、特に限定されないが、1μm以上200μm以下であることが好ましい。中間層の厚み上記範囲内とすることで、積層体を必要以上に厚くすることを防止できる。また、発色層の発色剤及び顕色剤(イオン系酸発生剤)が、他の発色層に移行することを防止しやすくなる。以上の観点から、中間層の厚みは、5μm以上150μm以下であることがより好ましく、10μm以上100μm以下であることがさらに好ましく、15μm以上80μm以下であることが特に好ましい。
積層体に中間層が複数設けられる場合には、各中間層の厚みが上記述べた通りであればよい。また、積層体に設けられる複数の中間層の厚みは、互いに同一であってもよいが、互いに異なっていてもよい。
【0126】
[面積]
フィルムの大きさは、用途によって異なるが、例えばパスポートに用いる場合は、フィルムの面積は400cm2以下であることが好ましく、350cm2以下であることがより好ましく、300cm2以下であることがさらに好ましく、250cm2以下であることがよりさらに好ましく、200cm2以下であることがよりさらに好ましく、150cm2以下であることが特に好ましく、また、好ましくは50cm2以上、より好ましくは65cm2以上、さらに好ましくは80cm2以上である。
例えばパスポートに用いる場合は、形状は矩形などの四角形であることが好ましく、その一辺の長さが20cm以下であることが好ましく、18cm以下であることがより好ましく、16cm以下であることがさらに好ましく、14cm以下であることが特に好ましく、また、8cm以上であることが好ましく、10cm以上であることがより好ましく、11cm以上であることがさらに好ましい。他の一辺の長さは、15cm以下であることが好ましく、13cm以下であることがより好ましく、11cm以下であることがさらに好ましく、10cm以下であることがよりさらに好ましく、また、6cm以上であることが好ましく、7cm以上であることがより好ましく、8cm以上であることがさらに好ましい。このような大きさ、形状のフィルムとすることにより、パスポート、さらには電子パスポート、特にこれらのデータページとして好適に使用することができる。
【0127】
フィルムの面積は、例えばカードに用いる場合は、200cm2以下であることが好ましく、150cm2以下であることがより好ましく、100cm2以下であることがさらに好ましく、80cm2以下であることがよりさらに好ましく、60cm2以下であることが特に好ましく、また、好ましくは20cm2以上、より好ましくは30cm2以上である。
また、形状は矩形などの四角形であることが好ましく、その一辺の長さが17cm以下であることが好ましく、15cm以下であることがより好ましく、13cm以下であることがさらに好ましく、11cm以下であることがよりさらに好ましく、また、6cm以上であることが好ましく、7.5cm以上であることがより好ましい。
他の一辺の長さは、14cm以下であることが好ましく、12cm以下であることがより好ましく、10cm以下であることがさらに好ましく、8cm以下であることがよりさらに好ましく、また、4cm以上であることが好ましく、4.5cm以上であることがより好ましい。
このような大きさ、形状のフィルムとすることにより、カードとして好適に使用することができる。
【0128】
[フィルムの光学特性]
本フィルムは、レーザー光照射前においては、無色又は無色に近い色であることが好ましい。無色又は無色に近い色とすることで、カード又はパスポートなど、各種用途のレーザーマーキングシートに好適に使用できる。
したがって、本フィルムは、a*及びb*の絶対値が、低ければ低いほどよく、具体的には、a*及びb*の絶対値はいずれも、15以下であることが好ましく、10以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましく、4以下であることがよりさらに好ましい。a*及びb*の絶対値は、低ければ低いほどよく、0以上であればよい。
【0129】
また、本フィルムは、透明性が高いことが好ましく、例えば波長540nmにおける透過率が、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましく、75%以上がよりさらに好ましい。フィルムの透明性を高くすることにより、マーキングされた部分とそれ以外の部分のコントラストを高くすることが可能となる。また、各発色層の発色を外部から視認しやすくなり、2つの発色層の発色による混色なども容易に視認できるようになる。フィルムの波長540nmにおける透過率は、高ければ高いほどよく、100%以下であればよいが、実用的には99%以下程度である。
【0130】
本フィルムは、レーザー光が照射されることで、発色性に優れるものである。したがって、本フィルムのレーザー光を照射した後のa*及びb*は、少なくともいずれかが、レーザー光照射前のa*及びb*との差が大きくなるとよい。具体的には、レーザー照射前と照射後のa*の差の絶対値、及びb*の差の絶対値の少なくともいずれかが、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましく、40以上であることがよりさらに好ましい。
また、本フィルムは、上記の通り、レーザー光が照射されることで、発色され、印字後のコントラストも高くなることが好ましい。したがって、本フィルムのレーザー光を照射した後と照射する前の色差ΔEは、高くなればよく、10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましく、30以上であることがさらに好ましく、40以上であることがよりさらに好ましく、50以上であることがよりさらに好ましい。
なお、以上のa*の差の絶対値、b*の差の絶対値、ΔEを測定する際に行うレーザー光の照射は、後述する実施例に記載の条件に従って行えばよいが、レーザー光の波長は、発色性が良好となるように、使用される発色剤、及びイオン系酸発生剤の種類に応じて適宜変更してもよい。
【0131】
[フィルムの製造方法]
本フィルムは、公知の方法で製造できるが、単層フィルムである場合、上記のとおり本フィルムを形成するための本樹脂組成物を得て、本樹脂組成物をフィルム状にするとよい。本樹脂組成物をフィルム状にする方法は、特に限定されないが、溶融して製膜(溶融製膜)することが好ましく、また、プレス成形などでもよいし、押出成形などでもよいが、生産性、コストの面からは押出成形が好ましい。
【0132】
また、積層フィルムの場合には、少なくとも1つの上記した本樹脂組成物から形成された発色層を別の樹脂層に積層して積層フィルムを作製するとよい。
より具体的には、各層を形成するための樹脂組成物を作製して、溶融製膜などにより各樹脂組成物から各樹脂層を形成しつつ、公知のラミネート法により複数の樹脂層を積層して形成してもよい。ラミネート法では、例えばロールtоロールで搬送しながら、1対のロール間を通して複数の樹脂層を積層してもよいし、プレス機などにより複数の樹脂層をプレスして積層してもよい。プレスは、加圧プレス、真空熱プレスなどいずれであってもよいが、真空熱プレスが好ましい。
また、いずれかの樹脂組成物から形成された樹脂層の上に、別の樹脂層を形成するための組成物を溶融して製膜して形成することが好ましく、例えば押し出して積層してもよい。また、共押出により多層構造としてもよい。生産性、コスト等の観点から共押出法を採用することが好ましい。
積層フィルムにおいて、各層を形成するための樹脂組成物は、各層の組成に応じて、各層を形成するための成分を混合して得るとよいが、少なくとも1つが上記した本樹脂組成物であればよい。
【0133】
本樹脂組成物は、フィルム以外の形状の成形品とすることも好ましい。例えば、板状、繊維状、棒状、ボトル状、チューブ状等の各種形状の成形品や、射出成形等によって様々な形状の成形品とすることも可能である。
【0134】
本製造方法では、発色層同士を直接積層して積層体を得てもよいし、1対の発色層の間に中間層を積層して、中間層を有する積層体を得てもよい。中間層を積層する場合には、中間層を構成する樹脂組成物を用意して、その樹脂組成物を用いて、ラミネート法、押出法などの発色層と同様の手法により中間層を積層するとよい。
【0135】
本製造方法では、各成分を混練して本樹脂組成物を得て、該本樹脂組成物から、フィルム又は積層体を得る一連の工程において、本樹脂組成物に対する加熱温度は、発色剤及びイオン系酸発生剤の5%質量減少温度未満となるように制御することが好ましく、5%質量減少温度よりも5℃以上低い温度に制御されることがより好ましく、5%質量減少温度よりも50℃以上低い温度に制御されることがさらに好ましく、70℃以上低い温度に制御されることがよりさらに好ましく、90℃以上低い温度に制御されることがよりさらに好ましい。このように加熱温度を調整することで、製造工程において本樹脂組成物により構成される各発色層に含有される発色剤やイオン系酸発生剤が分解したりすることを抑制することができる。
【0136】
したがって、樹脂組成物を得るために各成分を混練する際の温度(混練温度)は、上記で説明したとおりに制御するとよい。
また、得られた樹脂組成物を押出成形やプレス成形などによりフィルム状の発色層にする際の加熱温度や、複数の発色層、又は発色層と中間層を積層する際の加熱温度も上記の通りに制御されるとよい。具体的には、例えば70℃以上300℃以下、好ましくは100℃以上270℃以下、より好ましくは150℃以上250℃以下に加熱されるとよい。
【0137】
<フィルムの使用方法>
本フィルムは、上記のとおり、レーザー発色性を有することが好ましく、したがって、レーザーマーキングシートとして使用されることが好ましい。すなわち、本フィルムは、レーザーが照射されてレーザーマーキングされることが好ましい。
【0138】
本フィルムは、公知の方法によりレーザーを照射して発色させるとよい。例えば、単層の発色層を有するフィルムにおいては、その発色層が発色する波長域のレーザー光を照射することでフィルムを発色させるとよい。
また、本フィルムは、複数の発色層を有し、かつそれぞれ別の波長域のレーザー光により発色する場合には、各層が発色する波長域のレーザー光を積層体に照射させて、各発色層を選択的に発色させるとよい。
【0139】
また、本フィルムは、いわゆるインナーマーキングにより、複数の発色層のうち、少なくとも1つの発色層を選択的に発色させてもよい。
ここで、インナーマーキングとは、積層体の内部にレーザー光を集光させて、その集光された部分及びその周辺部をレーザー光により加熱などさせて、発色層を発色させる手法である。インナーマーキングでは、レーザー光の集光位置(「侵入深さ」ともいう)を、フィルム又は積層体の厚み方向(z方向)に沿って調整することで、複数の発色層のうち、少なくとも1つの発色層を選択的に発色させることができる。
【0140】
例えば、積層体が、発色層として、シアン色を発色する層(便宜上、(A)層とする)、マゼンタ色を発色する層(便宜上、(B)層とする)、及び黄色を発色する層(便宜上、(C)層とする)を有する場合には、例えば、集光位置を(A)層に一致させてレーザー光を照射させることで、シアン色を発色させることができる。また、集光位置を(B)層に一致させてレーザー光を照射させことで、マゼンタ色を発色させることができ、さらに、集光位置を(C)層に一致させてレーザー光を照射させることで、黄色を発色させることができる。
【0141】
また、例えば、集光位置を発色層のいずれか1つの発色層に一致させレーザー光を照射させ、かつ集光位置を別の1つの発色層に一致させレーザー光を照射させることで、2色発色が可能である。同様のレーザー光照射を繰り返し行うことで3色以上の発色も可能である。なお、2色以上発色させる場合、積層体のxy面(すなわち、厚み方向に対して垂直な面)における同じ位置にレーザー光を照射することで、2色以上を混色させることも可能である。
このように、インナーマーキングの手法を用いることで、各発色層が互いに同じ波長域のレーザー光により発色するものであっても、各発色層を選択的に発色させることが可能である。
【0142】
本フィルムは、パスポート、又は、ICカード、磁気カード、運転免許証、保険証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、銀行カード、クレジットカード、SIMカード、ETCカード、識別カード、情報担持カード、スマートカード、B-CASカード、メモリーカードなどの各種のカードに用いることができる。各種のカード、パスポートにおいて、本フィルムは、各種情報が印刷される記録層として使用される。また、本フィルムは、パスポートにおいてはデータページに使用される。
【0143】
本フィルムは、例えば、他のフィルムとさらに積層され、熱プレス成形やラミネート成形等により融着一体化され、パスポート用やカード用の積層物(以下、二次成形体という)となる。得られた二次成形体を所望の大きさに打ち抜き加工等することによりパスポート用データシート、特に電子パスポート用データシートやカードとなる。そして、二次成形体、好ましく二次成形体のうち本フィルムにより構成される部分にレーザー光を照射しレーザーマーキングすることにより、個人名、記号、文字、写真等がマーキングされ、個人情報等が印字されたパスポート、電子パスポートやカードとすることができる。
なお、上記した他のフィルムとしては、例えばポリカーボネート樹脂やポリエステル樹脂などから形成される樹脂フィルムが使用される。他のフィルムは、後述するコア用シート、保護層を形成するための樹脂フィルム、インレットシート、ヒンジシートなどである。
【0144】
例えばカードは、本発明のフィルムに加え、コア用シートを備え、コア用シートの一方又は両方の面に本発明のフィルムを積層するとよい。また、カードは、保護層を備え、フィルムの表面にはフィルムを保護するために、樹脂フィルムなどから形成される保護層がさらに積層されてもよい。
コア用シートとしては、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂などを樹脂材料として用いる樹脂シートであることが好ましく、また、白色顔料などの着色剤を適宜含有させたシートであることが好ましい。コア用シートの厚さは例えば400~700μm程度である。
【0145】
パスポート(パスポートのデータページ)は、特に電子パスポートの場合は、上記フィルムに加えて、ヒンジシートと、ヒンジシートの両面それぞれに設けられたコア用シートとを備え、そのコア用シートの表面に本発明のフィルムが積層されるとよい。また、パスポートは、ICチップ等の記憶媒体に各種の情報を記憶させて配設したシート、いわゆるインレットシートを有してもよい。インレットシートは、例えばヒンジシートと、コア用シートの間に設けるとよい。
ヒンジシートは、記録層、コア用シート、インレットシートなどを保持し、パスポートの表紙と他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。そのため、堅固な加熱融着性、適度な柔軟性、加熱融着工程での耐熱性等を有するものが好ましい。
ヒンジシートは、公知のものが使用可能であり、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどにより構成される樹脂シートであってもよいし、織物、編物、または不織布などで構成されてもよいし、織物、編物、または不織布と、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどとの複合材料であってもよい。また、パスポートにおけるコア用シートは、厚さ50~200μmであることが好ましい以外は、上記と同様である。
【実施例0146】
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
【0147】
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
PC:三菱エンジニアリングプラスチックス社製、商品名「ユーピロンH-3000」(ガラス転移温度:158℃)、ビスフェノール系ポリカーボネート
ISP:ヒドロキシ化合物として、イソソルバイドと1,4-シクロヘキサンジメタノールを用い、イソソルバイドに由来する構造単位:1,4-シクロヘキサンジメタノールに由来する構造単位=50:50(モル%)となるように溶融重合法により得たポリカーボネート樹脂(ガラス転移温度:108℃)
PE:プライムポリマ-社製「ULTZEX2021L」、LLDPE
PMMA:三菱ケミカル社製「ACRYPET MD001」、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ガラス転移温度:101℃、メルトフローレート(温度230℃×荷重3.8kg):6.0g/10分、密度(JIS K7112(1999)A法):1.19g/cm3
【0148】
発色剤1:ロイコ色素、商品名「RED40」、山本化成社製、結晶融解温度:164℃、5%質量減少温度:291℃、3,3-ビス(1-n-ブチル-2-メチル-3-インドリル)フタリド、マゼンタ系
発色剤2:ロイコ色素、商品名「H-29005」、山田化学工業社製、結晶融解温度:151℃、5%質量減少温度:347℃、4-[2,6-ビス(2,4-ジエトキシフェニル)-4-ピリジル]-N,N-ジメチルアニリン、黄色系
発色剤3:ロイコ色素、商品名「CVL」、山田化学工業社製、結晶融解温度:186℃、5%質量減少温度:346℃、6-(ジメチルアミノ)―3,3-ビス[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1(3H)-イソベンゾフラノン、シアン系
発色剤4:ロイコ色素、商品名「H3035」、山田化学工業社製、シアン系、結晶融解温度:150℃、5%質量減少温度:303℃
【0149】
イオン系酸発生剤1:商品名「CPI-100P」、サンアプロ社製、ジフェニル[(フェニルスルファニル)フェニル]スルホニウム=ヘキサフルオロホスファート、プロピレンカーボネート溶液(濃度50質量%)、結晶融解温度:120℃(無溶剤の場合)、5%質量減少温度:350℃超(無溶剤の場合)、アニオン中心に対して結合する原子量合計=114、アニオン(PF6
-)の分子体積=94.2Å3
イオン系酸発生剤2:商品名「CPI-200K」、サンアプロ社製、ジフェニル[4-(フェニルスルファニル)フェニル]スルホニウム=トリフルオリドトリス(ペンタフルオロエタン-1-イド)ホスファート、プロピレンカーボネート溶液(濃度50質量%)結晶融解温度:72℃(無溶剤の場合)、5%質量減少温度:346℃(無溶剤の場合)、アニオン中心に対して結合する原子量合計=414、アニオン(PF3(C2F5)3
-)の分子体積=277Å3
イオン系酸発生剤3:商品名「CPI-210S」、サンアプロ社製、トリアリールスルホニウム塩、結晶融解温度:72℃、5%質量減少温度:346℃、アニオン中心に対して結合する原子量合計=414、アニオン(PF3(C2F5)3
-)の分子体積=277Å3
イオン系酸発生剤4:商品名「CPI-310B」、サンアプロ社製、トリアリールスルホニウム塩、ホウ素系アニオン、結晶融解温度:162℃、5%質量減少温度:350℃<、アニオン中心に対して結合する原子量合計=668、アニオン(B(C6F5)4
-)の分子体積=502Å3
イオン系酸発生剤5:商品名「CPI-410B」、サンアプロ社製、トリアリールスルホニウム塩、リン系アニオン、結晶融解温度:233℃、5%質量減少温度:350℃<、アニオン中心に対して結合する原子量合計=668、アニオン(B(C6F5)4
-)の分子体積=502Å3
顕色剤1:2,3,4,5,6-ペンタブロモトルエン、試薬、結晶融解温度:290℃、5%質量減少温度:350℃超
顕色剤2:商品名「TOMILAC-KN」、三菱ケミカル社製、結晶融解温度:156℃、5%質量減少温度:295℃
【0150】
各物性の測定方法、評価方法は、以下の通りである。
[5%質量減少温度]
5%質量減少温度は、示差熱熱重量同時測定(TG-DTA)(装置名:NEXTA STA200RV、日立ハイテクサイエンス社製)を用いて、窒素雰囲気下(流量100ml/分)、昇温速度10℃/分で35℃から350℃昇温させた際に5%質量が減じる温度を読み取って測定した。測定は、試料約5mgで行った。なお、350℃において、質量の5%が減じない場合には、「350℃超」とした。
[結晶融解温度及びガラス転移温度]
結晶融解温度及びガラス転移温度は、明細書記載の方法により測定した。
【0151】
[評価方法]
各実施例、比較例のフィルムに対して、後述する条件でレーザー光を照射し、以下の測定条件により、レーザー光照射前、照射後の色差及び分光光度測定を行った。レーザー光照射前のa*値、b*値と、波長430nm、540nm、600nm、650nmにおける透過率(T)を表1に示す。さらに、照射後のa*値、b*値から照射前のa*値、b*値を減じたものをΔa*、Δb*として表1に示す。なお、例えば、Δa*は、マゼンタ系発色剤が発色することで値が大きくなり、Δa*が大きいほどマゼンタ系発色剤の発色性に優れることを示す。
また、照射後と照射前の色差ΔEを算出するとともに、照射前の波長430nm、540nm、600nm、650nmにおける透過率(T)それぞれから、照射後の波長430nm、540nm、600nm、650nmそれぞれにおける透過率(T)を減じたものをΔTとして表1に示す。ΔE、ΔTが大きいほど印字部と非印字部とのコントラストが大きく、レーザー発色性に優れることを示す。なお、ΔTに関しては、発色剤の最大吸光波長域に合わせて、ΔTを測定した波長を選択した。ただし、発色剤を含有しない樹脂組成物については、波長430nm、540nm、600nm、650nmの全てのΔTを測定した。
【0152】
(色差測定)
装置名:「カラーメーターSC-T」、スガ試験機社製
測定波長範囲:380~780nm、光源:C、2度視野、反射法・φ5mm(白標準板バック)
(分光光度測定)
装置名:「Cary7000」、アジレント・テクノロジー社製
光線透過率測定、測定波長範囲:200~800nm
(レーザー照射条件)
KEYENCE社製「3-Axis UVレーザマーカ MD-U1000C」を用いて、波長355nm、パワー0.5W、走査速度1000mm/s、周波数40kHz、ハンチングピッチ40μm、走査方向交差(0°/90°)、熱量2.64J/pcsの条件で、各フィルムに対して大きさ10mm×10mmのレーザー照射を行った。
【0153】
[実施例1、2、比較例1~4]
東洋精機製作所社製のラボプラストミル「4C150」に、表に記載の通り所定の割合で原料を投入して、230℃、60rpm、窒素雰囲気下で5分溶融混練して、得られた樹脂組成物を井元製作所社製加熱プレス「IMC-18DA型」を用いて230℃でプレス成形し、厚み約300μmのフィルムを作製した。
【0154】
[実施例3~12、比較例5~9]
混練時の温度及びプレス時の温度を240℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。
[実施例13、比較例10、11]
混練時の温度及びプレス時の温度を200℃に変更し、かつ得られたフィルムの厚みを50μmにした以外は実施例1と同様に実施した。
[実施例14、比較例12、13]
混練時の温度及びプレス時の温度を200℃に変更した以外は実施例1と同様に実施した。
【表1】
※表1において、配合における各成分の質量部は、製品ベースの量であり、溶剤で希釈されているものは、溶剤も含めた質量部である。
【0155】
各実施例の樹脂組成物は、樹脂、発色剤、及びイオン系酸発生剤を含有することで、Δa*又はΔb*の少なくともいずれか、ΔE、及びΔTが大きくなり、レーザー照射により十分に発色させることができ、コントラストも高くすることができた。また、各実施例の樹脂組成物は、レーザー光照射前においては、透過率も一定値以上であり、一定の透明性を有していた。
それに対して、比較例1、2の樹脂組成物は、a*、b*が低くなり無色又は無色に近い色を有し、かつ透明性も高いものの、イオン系酸発生剤、又は発色剤及びイオン系酸発生剤を含有しないため、Δa*、ΔE、ΔTを大きくできず発色性が不十分であった。また、比較例3、4の樹脂組成物は、発色剤に加えて顕色剤を含有するものの、イオン系酸発生剤以外であったため、Δa*、ΔE、ΔTがいずれも小さくなり、発色性を十分に高くすることができなかった。