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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028339
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】施術用袋状体
(51)【国際特許分類】
   A61B 46/20 20160101AFI20240226BHJP
   A61G 13/12 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A61B46/20
A61G13/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023221292
(22)【出願日】2023-12-27
(62)【分割の表示】P 2020165492の分割
【原出願日】2020-09-30
(71)【出願人】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】松本 美沙
(72)【発明者】
【氏名】宮川 克也
(72)【発明者】
【氏名】白数 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】林 真平
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 佳代
(72)【発明者】
【氏名】内田 寛治
(72)【発明者】
【氏名】梅津 信二郎
(57)【要約】
【課題】施術の際における医療従事者への感染を抑えることができる、簡便で新規な施術用袋状体を提供する。
【解決手段】人体Pの頭部Hを収容可能な内部空間20を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体10であって、頭部Hが通過可能な大きさの開口部分18を有しており、開口部分18の少なくとも一部には開口量を狭めるための狭窄用封止部として第一の狭窄用封止部22a,22bと第二の狭窄用封止部24bが設けられることにより二段階での封止操作が可能とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、
前記頭部が通過可能な大きさで形成された開口部分には、仰臥位の人体頭部の前方に位置する上側シート状部において、該上側シート状部が開口幅方向の中間部分で山折り状に折り曲げられて表面側へ突出する形状に保持されるように、該上側シート状部の開口側端部を開口幅方向の両側で重ね合わせ状態に保持する固着部が設けられている施術用袋状体。
【請求項2】
前記固着部には面ファスナーが設けられている請求項1に記載の施術用袋状体。
【請求項3】
前記頭部が通過可能な大きさの開口部分において、周方向に延びる開口端縁から袋底部に向かって延びるスリット状の切込みが設けられていると共に、
該切込みの形成部分には、該切込みを挟んだ周方向両側縁部を相互に固着することで該切込みを閉じる閉止用封止部が設けられている請求項1又は2に記載の施術用袋状体。
【請求項4】
前記閉止用封止部が、
繰り返しの固着が可能な仮止部からなる第一の閉止用封止部と、
該第一の閉止用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部からなる第二の閉止用封止部と
を、含んでいる請求項3に記載の施術用袋状体。
【請求項5】
互いに重なり合う下側シート状部と上側シート状部とが前記開口部分を除く周囲においてつながった構造の袋状本体を有しており、
該下側シート状部における前記開口端縁には、開口幅方向の中央から一方の端部側へ離れた位置に前記切込みが設けられている請求項3又は4に記載の施術用袋状体。
【請求項6】
前記頭部が通過可能な大きさの開口部分を有する袋状本体を構成する下側シート状部と上側シート状部とを有しており、
該上側シート状部には該袋状本体の表面から前記内部空間へ向かって延びるように手袋状部が設けられている一方、
該上側シート状部における該手袋状部の開口部よりも底部側と、該下側シート状部における前記頭部の収容領域よりも底部側とにおいて、それぞれ下方に向かって折れ曲がって垂れ下がる垂れ下がり予定部が設定されており、これら上側シート状部及び下側シート状部の垂れ下がり予定部によって、該手袋状部へ施術者が手を差し入れた施術状態において該袋状本体の底部側に位置して該内部空間内にポケット状部が形成されるようになっている請求項1~5の何れか1項に記載の施術用袋状体。
【請求項7】
前記内部空間に収容される人体の頭部の体軸中心の設定位置が、該内部空間の幅方向において中央から一方の側に偏倚して指示されており、該内部空間における幅方向の中央から他方の側には、収容される人体の頭部の側方に位置してサービススペースが設けられるようになっている請求項1~6の何れか1項に記載の施術用袋状体。
【請求項8】
前記頭部が通過可能な大きさの開口部分を有する袋状本体には、チューブ挿通用部分が設けられていると共に、該チューブ挿通用部分の外周には補強部材が装着されており、該チューブ挿通用部分を突き破るようにしてチューブが挿通可能とされている請求項1~7の何れか1項に記載の施術用袋状体。
【請求項9】
前記補強部材が、挿通用孔を備えていると共に、
該挿通用孔には、前記袋状本体及び/又は別体シートからなる前記チューブ挿通用部分が覆うように重ね合わされており、
該チューブ挿通用部分には、ミシン目などの脆弱部が形成されている請求項8に記載の施術用袋状体。
【請求項10】
前記頭部が通過可能な大きさで形成された開口部分には、人体の表面へ固着可能な位置決め粘着面が設けられている請求項1~9の何れか1項に記載の施術用袋状体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば感染症に罹患した患者等に装着して施術を行う施術用袋状体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、菌体やウィルスに感染した患者に接触すること等によって発生する二次感染を防止することを目的として、様々な対策が講じられている。例えば、特開2010-269121号公報(特許文献1)には、感染した又は感染が疑われる患者から放出される浮遊菌体や浮遊ウィルスのような浮遊微生物による院内感染の防止等を目的とした換気ブースが提案されている。
【0003】
特許文献1に記載の換気ブースは、患者の頭側領域を覆う包囲体と、包囲体を支持するフレーム組立体と、ブース内の空気を吸引することのできる送風装置と、を備えている。この送風装置は、空気を浄化するフィルタを備えており、ブース内の空気の換気に伴って、患者から放出される浮遊菌体や浮遊ウィルスがフィルタにより捕捉されて、二次感染(院内感染)が防止されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-269121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に記載の換気ブースでは、他の入院患者への二次感染を防止することはできるが、患者を施術する医師や看護士はブース内に入らざるを得ず、医療従事者への二次感染を防止できるものではなかった。特に、患者の気管への挿管や抜管等の施術の際には、医療従事者が、患者が保有する菌体やウィルスに感染するリスクが大きくなり易かった。
【0006】
また、特許文献1に記載の換気ブースは、包囲体やフレーム組立体、送風装置等を備えていることから、比較的大型となり易く、輸送や保管、取扱性、コスト等の面でより優れたものが求められていた。
【0007】
本発明の解決課題は、施術の際における医療従事者への感染を抑えることができる、簡便で新規な施術用袋状体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第1の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、前記頭部が通過可能な大きさの開口部分を有しており、該開口部分の少なくとも一部には開口量を狭めるための狭窄用封止部として第一の狭窄用封止部と第二の狭窄用封止部が設けられることにより二段階での封止操作が可能とされているものである。
【0010】
本態様の施術用袋状体によれば、施術に際して患者の頭部に被せて開口部分を狭めることで、患者が保有する菌体やウィルスの外部への拡散を抑えて、医療従事者の感染を防止できる。特に、本態様では、人体の頭部を収容する程度の大きさがあれば良いことから、従来構造の換気ブースのように大型化することがなく、輸送や保管、取扱いが容易であり、製造コストも抑えられる。また、開口部分における二段階の封止構造を利用することにより、例えば開口部分において仮止めと本止めを行ったり、開口部分をより確実に封止することも可能になる。
【0011】
第2の態様は、前記第1の態様に係る施術用袋状体において、前記第一の狭窄用封止部が繰り返しの固着が可能な仮止部とされている一方、前記第二の狭窄用封止部が該第一の狭窄用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部とされているものである。
【0012】
本態様の施術用袋状体によれば、開口部分の開口量を狭めた状態で、第一の狭窄用封止部により仮止めした後、第二の狭窄用封止部により本止めすることができる。特に、第一の狭窄用封止部による仮止めは繰り返しの固着が可能であることから、例えば仮止めを適宜にやり直して正確に位置等を決めた後に本止めによって確実な狭窄や封止などを行うことができる。
【0013】
第3の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、前記頭部が通過可能な大きさの開口部分において、周方向に延びる開口端縁から袋底部に向かって延びるスリット状の切込みが設けられていると共に、該切込みの形成部分には、該切込みを挟んだ周方向両側縁部を相互に固着することで該切込みを閉じる閉止用封止部が設けられているものである。
【0014】
本態様の施術用袋状体によれば、人体の頭部を収容する際に、スリット状の切込みにより開口部分を大きく開くことができる。また、袋状体の内部に人体の頭部を収容した後には、施術に必要な器具等を切込みを通じて袋状体に対して容易に出し入れすることもできる。
【0015】
第4の態様は、前記第3の態様に係る施術用袋状体において、前記閉止用封止部が、繰り返しの固着が可能な仮止部からなる第一の閉止用封止部と、該第一の閉止用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部からなる第二の閉止用封止部とを、含んでいるものである。
【0016】
本態様の施術用袋状体によれば、例えば第一の閉止用封止部による仮止めを必要に応じてやり直して正確に位置決めした状態で本止めすることにより、切込みを確実に閉じることができる。また、例えば第一の閉止用封止部による仮止め状態では、切込みを繰り返し開いて、必要な措置用器具などを都度に袋内に入れることも可能となる。
【0017】
第5の態様は、前記第3又は第4の態様に係る施術用袋状体において、互いに重なり合う下側シート状部と上側シート状部とが前記開口部分を除く周囲においてつながった構造の袋状本体を有しており、該下側シート状部における前記開口端縁には、開口幅方向の中央から一方の端部側へ離れた位置に前記切込みが設けられているものである。
【0018】
本態様の施術用袋状体によれば、開口部分における開口幅方向の中央から一方の端部側へ離れた位置に切込みが設けられていることから、例えば袋状体において人体の頭部の収容箇所から一方の端部側に外れた位置に切込みを設けることもできる。
【0019】
第6の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、前記頭部が通過可能な大きさで形成された開口部分には、仰臥位の人体頭部の前方に位置する上側シート状部において、該上側シート状部が開口幅方向の中間部分で山折り状に折り曲げられて表面側へ突出する形状に保持されるように、該上側シート状部の開口側端部を開口幅方向の両側で重ね合わせ状態に保持する固着部が設けられているものである。
【0020】
本態様の施術用袋状体によれば、固着部によって上側シート状部が重ね合わせ状態に保持された部位において袋状体の強度が大きくされて表面側への突出形状に保持されることにより、仰臥位とされた患者の顔前においてテント状の袋内空間を形成することが可能となる。それ故、かかる袋内空間を利用して、例えば患者の気管へチューブ等を挿管したり抜管したりする際の施術用の領域を確保することができる。
【0021】
第7の態様は、前記第6の態様に係る施術用袋状体において、前記固着部には面ファスナーが設けられているものである。
【0022】
本態様の施術用袋状体によれば、面ファスナーによる固着を必要に応じてやり直すことができて、患者の顔前に形成される袋状空間を目的とする形状等に整える作業なども可能となる。また、面ファスナーの部材強度を利用して袋状体を補強することができ、折り曲げ操作の作業性の向上や山折り状態の安定した維持なども達成され得る。
【0023】
第8の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、袋状本体の表面から前記内部空間へ向かって延びるように手袋状部が設けられており、該手袋状部への腕の差入口となる、該袋状本体の表面に開口して設けられた腕入用開口部には、該袋状本体よりも硬質のリング体が周囲に設置されているものである。
【0024】
本態様の施術用袋状体によれば、軟質の袋状本体であっても、腕入用開口部がリング状に維持されて、手袋状部へ施術者の腕を差し入れ易くすることができる。
【0025】
第9の態様は、前記第8の態様に係る施術用袋状体において、前記袋状本体の前記腕入用開口部には前記リング体が固定的に設けられており、該袋状本体とは別体形成された前記手袋状部が、腕を差し入れる開口端において該リング体に取り付けられているものである。
【0026】
本態様の施術用袋状体によれば、袋状本体とは別体形成された手袋状部を採用することができて、製造が容易とされる。また、袋状本体及び手袋状部の設計自由度を向上することができる。
【0027】
第10の態様は、前記第9の態様に係る施術用袋状体において、前記手袋状部の前記開口端が、前記リング体の大きさよりも小さな大きさまで開口が弾性的に絞られた弾性開口端とされており、該弾性開口端が該リング体へ弾性的に引っ掛けられて取り付けられているものである。
【0028】
本態様の施術用袋状体によれば、袋状本体のリング体へ手袋状部を容易に取り付けることができる。
【0029】
第11の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、前記頭部が通過可能な大きさの開口部分を有する袋状本体を構成する下側シート状部と上側シート状部とを有しており、該上側シート状部には該袋状本体の表面から前記内部空間へ向かって延びるように手袋状部が設けられている一方、該上側シート状部における該手袋状部の開口部よりも底部側と、該下側シート状部における前記頭部の収容領域よりも底部側とにおいて、それぞれ下方に向かって折れ曲がって垂れ下がる垂れ下がり予定部が設定されており、これら上側シート状部及び下側シート状部の垂れ下がり予定部によって、該手袋状部へ施術者が手を差し入れた施術状態において該袋状本体の底部側に位置して該内部空間内にポケット状部が形成されるようになっているものである。
【0030】
本態様の施術用袋状体によれば、例えば施術に必要な器具等をポケット状部へ予め収容することができて、施術の際にかかる器具等をポケット状部から取り出して使用することもできる。また、施術中に一時的又は最終的に不要となった物をポケット状部へ収容することにより、当該物が施術に邪魔になりづらくすることもできる。
【0031】
第12の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、前記内部空間に収容される人体の頭部の体軸中心の設定位置が、該内部空間の幅方向において中央から一方の側に偏倚して指示されており、該内部空間における幅方向の中央から他方の側には、収容される人体の頭部の側方に位置してサービススペースが設けられるようになっているものである。
【0032】
本態様の施術用袋状体によれば、サービススペースを設けることにより、例えば患者を処置するための各種装置が患者の左右一方の側に配置されるような場合に、患者と装置との接続用チューブなどの取り回し用スペースを確保したり、当該サービススペースを利用して施術用の用具などを置いたり、施術者の施術作業用のスペースを効率的に確保したりすることも可能になる。
【0033】
第13の態様は、人体の頭部を収容可能な内部空間を形成する、内部を観察可能な施術用袋状体であって、前記頭部が通過可能な大きさの開口部分を有する袋状本体には、チューブ挿通用部分が設けられていると共に、該チューブ挿通用部分の外周には補強部材が装着されており、該チューブ挿通用部分を突き破るようにしてチューブが挿通可能とされているものである。
【0034】
本態様の施術用袋状体によれば、補強部材によりチューブ挿通用部分の外周の強度を向上させることができて、袋状本体におけるチューブ挿通用部分にチューブを挿通し易くしたり、チューブ挿通箇所の周囲が裂けて開口してしまうような不具合を防止することも可能になる。
【0035】
第14の態様は、前記第13の態様に係る施術用袋状体において、前記補強部材が、挿通用孔を備えていると共に、該挿通用孔には、前記袋状本体及び/又は別体シートからなる前記チューブ挿通用部分が覆うように重ね合わされており、該チューブ挿通用部分には、ミシン目などの脆弱部が形成されているものである。
【0036】
本態様の施術用袋状体によれば、チューブ挿通用部分に脆弱部を設けることで、チューブを一層挿通し易くすることができる。特に、脆弱部がミシン目などから構成されていることから、チューブを挿通した後のチューブ挿通用部分がヒダ状となって残存してチューブ表面に接することで、チューブ挿通用部分の閉鎖性の維持や向上も図られ得る。
【0037】
第15の態様は、前記第1~第14の態様に係る施術用袋状体において、前記頭部が通過可能な大きさで形成された開口部分には、人体の表面へ固着可能な位置決め粘着面が設けられているものである。
【0038】
本態様の施術用袋状体によれば、位置決め粘着面において袋状体における開口部分と人体との表面とを固着することで、人体と袋状体との位置ずれを防止することができたり、開口部分と人体との隙間を小さく抑えることができて、当該隙間からの菌体やウィルスの外部への拡散が防止され得る。なお、本態様の位置決め粘着面は、例えば前記第1の態様における第二の狭窄用封止部を構成することも可能である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、施術の際における医療従事者への感染を抑えることができる、簡便で新規な施術用袋状体が提供可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】本発明の1実施形態としての施術用袋状体を示す平面図
図2図1に示された施術用袋状体を構成する上側シート状部と下側シート状部を示す図であって、(a)が上側シート状部の外面を示す平面図、(b)が下側シート状部の内面を示す平面図
図3図1に示された施術用袋状体におけるチューブ挿通用部分を拡大して示す平面図
図4図1に示された施術用袋状体を構成する手袋状部を単品状態で示す斜視図
図5図1に示された施術用袋状体により施術される患者の具体的な一例を説明するための説明図
図6図1に示された施術用袋状体に対して図5に示された患者の頭部を収容する途中の状態を説明するための説明図
図7図1に示された施術用袋状体に対して図5に示された患者の頭部を収容した状態を説明するための説明図
図8図1に示された施術用袋状体に設けられるポケット状部を説明するための説明図
図9図5に示された患者に挿管された人工呼吸器管が図1に示された施術用袋状体におけるチューブ挿通用部分に挿通されている状態を説明するための説明図
図10図5に示された患者から人工呼吸器管を抜管する状態を説明するための説明図
図11】本発明の別の態様における施術用袋状体を構成するチューブ挿通用部分を示す平面図であって、図3に対応する図
図12図11に示されたチューブ挿通用部分にチューブが挿通された状態を説明するための説明図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0042】
先ず、図1には、本発明の1実施形態としての施術用袋状体10が示されている。この施術用袋状体10は、例えば感染症等に罹患した、又は罹患が疑われる患者に対する、人工呼吸器管や気管チューブの挿管や抜管等の施術の際に用いられて、患者から医療従事者への二次感染を防止するためのものである。なお、以下の説明において、前後方向とは図1中の下上方向であり、前方とは、施術用袋状体10に対して患者が位置する側となる図1中の下方をいうと共に、後方とは、施術用袋状体10に対して医療従事者が位置する側となる図1中の上方をいう。また、左右方向とは、図1中の左右方向をいう。
【0043】
より詳細には、施術用袋状体10は、全体として平面視が矩形とされた袋状の袋状本体12を有している。即ち、袋状本体12は、図2(a),(b)に示すように、互いに重なり合う上側シート状部14と下側シート状部16とを有している。これら上側シート状部14と下側シート状部16とは、開口部分18を除く周囲の3方でつながっている。本実施形態では、施術用袋状体10(袋状本体12)の前方に開口部分18が設けられており、上側シート状部14と下側シート状部16とは、後方及び左右両側の3方でつながっている。したがって、施術用袋状体10(袋状本体12)の後側が、袋の底部側である。なお、図2(a)には、上側シート状部14の外面側(袋状本体12を構成した際に外面となる側)が示されていると共に、図2(b)には、下側シート状部16の内面側(袋状本体12を構成した際に内面となる側)が示されている。
【0044】
この施術用袋状体10(袋状本体12)は、ポリエチレンなどの軟質の樹脂であって、好適には全体が透明な合成樹脂シートにより形成されている。なお、施術用袋状体10(袋状本体12)は、無色透明又は有色透明であってもよく、例えば可視光線透過率が80%以上とされて、内部が観察可能であればよい。また、後述する図8にも示されるように、施術用袋状体10(袋状本体12)における内部空間20(袋を膨らませた状態における上側シート状部14と下側シート状部16の上下方向間)は、人体(患者)の頭部が収容可能な大きさとされている。開口部分18は、患者の頭部が通過可能な大きさを有しており、開口部分18を通じて患者の頭部が内部空間20に収容されるようになっている。
【0045】
また、施術用袋状体10(袋状本体12)の開口部分18の内面には、面ファスナー22と両面テープ24とが設けられている。これら面ファスナー22及び両面テープ24は従来公知のものが採用され得て、即ち面ファスナー22は、例えば相互に固着するフック状に起毛する第1面ファスナー22aと、ループ状に起毛する第2面ファスナー22bとを有している。また、両面テープ24は、粘着層の両面に袋状本体12の内面と剥離シートが貼り付けられた構成とされており、要するに剥離シートが、粘着層を介して袋状本体12の内面に貼付されている。そして、剥離シートが剥がされることで、粘着面が露出するようになっている。なお、粘着層には、剥離シートに代えて、粘着性を有する片面に剥離シートが貼り付けられた構成の粘着包帯が、非粘着性の面において当該粘着層へ貼り付けられてもよく、剥離シートが剥がされることで粘着包帯の粘着面が露出するようになっていてもよい。これにより、通気性を向上させたり、患者の皮膚のかぶれ等を防止することができる。尤も、両面テープ24に代えて、両面に粘着性を有する粘着包帯を採用することも可能であり、かかる粘着包帯に対して剥離シートが貼り付けられてもよい。
【0046】
本実施形態では、後述するように、複数の両面テープ24、即ち複数の剥離シートが設けられており、これら複数の剥離シートには、例えば、一方の端部に、剥がす順番を示す数字や剥がす方向を示す矢印が記載されていてもよい。また、これら剥離シートを剥がし易いように、一方の端部に摘み部を設けてもよい。
【0047】
さらに、本実施形態では、上側シート状部14の内面側において、開口端縁となる前端縁からある程度後方に離隔した位置に、相互に固着される第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとが、接着等により固着されている。特に、本実施形態では、これら第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとが、それぞれ袋状本体12(上側シート状部14)の左右方向寸法の1/2には満たない左右方向寸法をもって形成されており、左右方向で隣接して設けられている。
【0048】
そして、これら第1及び第2面ファスナー22a,22bの配設領域における左右方向中央は、上側シート状部14の左右方向中央よりも右方に偏倚して設定されている。要するに、上側シート状部14において、第1面ファスナー22aが右側の領域に設けられていると共に、第2面ファスナー22bが左右方向中央の領域に設けられており、第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bの何れもが設けられていない領域が左側に設けられている。なお、これら第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとは、何れも略矩形の帯状として形成されているが、本実施形態では、第2面ファスナー22bの幅寸法(前後方向寸法)に比して、第1面ファスナー22aの幅寸法が、小さくされている。これにより、後述する第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとの固着時に、第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとの位置ずれがある程度許容されると共に、第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとを剥がし易くすることができる。更に、フック状に起毛する第1面ファスナー22aが狭幅に形成されることから、第1面ファスナー22aと患者とが接触して患者が痛みを感じるおそれが低減され得る。
【0049】
また、本実施形態では、袋状本体12の開口部分18において、周上に3つの両面テープ24(即ち、第1~第3両面テープ24a~24c)が設けられている。これら第1~第3両面テープ24a~24cは、下側シート状部16の内面側に設けられている。また、第2両面テープ24bは、袋状本体12の右端で折り返されるようにして、上側シート状部14と下側シート状部16とに跨って設けられており、下側シート状部16の右方部分及び上側シート状部14の左右方向略全長に亘って設けられている。
【0050】
特に、本実施形態では、下側シート状部16において、第1~第3両面テープ24a~24cの配設領域の左右方向中央が、下側シート状部16の左右方向中央よりも右方に偏倚して設定されていると共に、第3両面テープ24cよりも左方には、何れの両面テープも設けられていない領域が存在している。更に、第1~第3両面テープ24a~24cは、袋状本体12において前後方向で略等しい位置に設けられている。
【0051】
また、下側シート状部16において、第3両面テープ24cよりも左方には、開口端縁である前端縁から袋の底部側となる後方に向かって延びるスリット状の切込み28が設けられている。本実施形態では、切込み28が、袋状本体12の開口部分18において、開口幅方向の一方の端部である左端部と左右方向中央との間に設けられている。即ち、切込み28は、左右方向中央から左端部側に離れた位置、且つ左端部から中央側に離れた位置に設けられている。この切込み28は、前後方向にある程度の寸法をもって略ストレートに延びており、例えば下側シート状部16の前後方向寸法の1/3程度の前後方向寸法をもって形成されている。
【0052】
そして、下側シート状部16において、切込み28を挟んだ左右方向両側には、相互に固着される第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとが設けられている。これら第1及び第2面ファスナー30a,30bは、下側シート状部16の前端縁付近から切込み28よりも後方まで延びており、第1及び第2面ファスナー30a,30bの後端部分において左右方向に延びる部分を有している。本実施形態では、フック状に起毛する第1面ファスナー30aが、切込み28の左側にある程度の離隔距離をもって設けられていると共に、ループ状に起毛する第2面ファスナー30bが、切込み28の右側にある程度の離隔距離をもって設けられている。特に、本実施形態では、図1に示される使用前の状態において、上側シート状部14に設けられた第2面ファスナー22bと下側シート状部16に設けられた第2面ファスナー30bとが上下方向で部分的に重なるようになっている。ここで、上下方向で重なる面ファスナーが何れもループ状に起毛する第2面ファスナー22b,30bとされていることから、使用前の状態において、上下の面ファスナー(第2面ファスナー22b,30b)同士が意図せず相互に固着することが防止され得る。
【0053】
また、本実施形態では、第1面ファスナー30aが、第2面ファスナー30bに比して、小さい幅寸法をもって形成されている。これにより、後述する第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとの固着時に、第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとの位置ずれがある程度許容されると共に、第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとを剥がし易くすることができる。更に、フック状に起毛する第1面ファスナー30aが狭幅に形成されることから、第1面ファスナー30aと患者とが接触して患者が痛みを感じるおそれが低減され得る。特に、フック状に起毛する第1面ファスナー30aを外側(左側)に設けると共にループ状に起毛する第2面ファスナー30bを患者側(中央側)に設けることで、第1面ファスナー30aと患者とが接触して患者が痛みを感じるおそれが一層低減され得る。
【0054】
さらに、切込み28と第2面ファスナー30bとの左右方向間には、前後方向に延びる両面テープ32が設けられている。両面テープ32は、切込み28と略等しい前後方向寸法を有している。なお、前述の両面テープ24と同様に、両面テープ32には剥離シートに代えて粘着包帯が貼り付けられてもよいし、両面テープ32に代えて、両面に粘着性を有する粘着包帯が採用されてもよい。
【0055】
更にまた、袋状本体12において、前後方向中間部分には、チューブが挿通されるチューブ挿通用部分34が設けられている。チューブ挿通用部分34に挿通されるチューブは、例えば患者の気管に挿管される又は気管から抜管される人工呼吸器管や気管チューブであったり、施術用袋状体10内の空気を吸引する吸引チューブである。
【0056】
本実施形態では、上側シート状部14の前後方向中間部分において、3つのチューブ挿通用部分34が設けられており、上側シート状部14の左右方向中央よりも右方に偏倚した位置に1つの気管用挿通部分34aが設けられていると共に、上側シート状部14の左右方向中央よりも僅かに左方に偏倚した位置に2つの吸引用挿通部分34b,34cが設けられている。2つの吸引用挿通部分34b,34cは前後方向で相互に離隔しており、本実施形態では、後方側の吸引用挿通部分34bが、前方側の吸引用挿通部分34cに比して、大径の吸引チューブ用とされている。この前方側の吸引用挿通部分34cは、下側シート状部16に設けられた第1及び第2面ファスナー30a,30bよりも後方に設けられており、気管用挿通部分34aが、後方側の吸引用挿通部分34bよりも後方に設けられている。なお、3つのチューブ挿通用部分34(気管用挿通部分34a、吸引用挿通部分34b,34c)は、何れも略同様の構造とされていることから、図3を示して気管用挿通部分34aの説明をすると共に、吸引用挿通部分34b,34cの具体的な説明は省略する。
【0057】
本実施形態の気管用挿通部分34aは、上側シート状部14を厚さ方向で貫通する円形孔36と、上側シート状部14の外面側に重ね合わされる別体シート38とを含んで構成されている。別体シート38は、略矩形のシートであり、上側シート状部14と同様の軟質の合成樹脂により形成されている。そして、別体シート38には、十字のミシン目により構成される脆弱部40が形成されており、当該脆弱部40が円形孔36内に位置するように、上側シート状部14と別体シート38とが重ね合わされている。これにより、人工呼吸器管や気管チューブが気管用挿通部分34aに挿通される際には、人工呼吸器管や気管チューブが脆弱部40を突き破り挿通されるようになっている。
【0058】
そして、これら上側シート状部14と別体シート38とからなるチューブ挿通用部分34(気管用挿通部分34a)において、脆弱部40の外周を覆うように補強部材42が装着されている。即ち、補強部材42は、厚さ方向で貫通する挿通用孔44を備えたプレート状とされており、例えば上側シート状部14や別体シート38よりも強度の大きいポリプロピレンなどの合成樹脂により形成されている。かかる補強部材42は、上側シート状部14と別体シート38との間に設けられており、且つ挿通用孔44内に脆弱部40が位置するように配置されている。即ち、本実施形態のチューブ挿通用部分34は、内側から上側シート状部14、補強部材42、別体シート38からなる3層構造により構成されている。
【0059】
本実施形態では、補強部材42が、別体シート38と略同じ大きさの矩形状とされており、補強部材42と別体シート38とが相互に熱溶着によって固着されている。特に、本実施形態では、補強部材42と別体シート38とが、挿通用孔44よりも外周側において、周上の8箇所(図3中の灰色で示す箇所)で熱溶着によって固着されている。かかる溶着箇所は、十字のミシン目の端部である4点を含んでいることが好ましい。そして、これら相互に固着された補強部材42及び別体シート38が、上側シート状部14の外面において、円形孔36を覆うように固着されている。なお、補強部材42及び別体シート38と上側シート状部14との固着方法は限定されるものではなく、例えば溶着や接着等であってもよいが、本実施形態では、別体シート38の上側からテープ46を貼付することで、補強部材42及び別体シート38が上側シート状部14に固着されている。なお、図3では、図面の見易さ等の観点から、テープ46を二点鎖線で示す。
【0060】
なお、円形孔36や挿通用孔44の径寸法、脆弱部40の大きさ(ミシン目の長さ寸法)は限定されるものではないが、本実施形態では、挿通用孔44の径寸法が、脆弱部40の大きさ(ミシン目の長さ寸法)よりも僅かに大きくされていると共に、円形孔36の径寸法が、挿通用孔44の径寸法よりも僅かに大きくされている。また、気管用挿通部分34aにおいて、円形孔36や挿通用孔44の径寸法、脆弱部40の大きさは、挿通される人工呼吸器管や気管チューブの外径寸法によって限定されるものではなく、人工呼吸器管や気管チューブの外径寸法に比して大きくされても小さくされてもよい。なお、吸引用挿通部分34b,34cについても同様であり、円形孔36や挿通用孔44の径寸法、脆弱部40の大きさは、吸引用挿通部分34b,34cに挿通される吸引チューブの外径寸法によって限定されるものではない。また、かかるチューブ挿通用部分34(気管用挿通部分34a、吸引用挿通部分34b,34c)は、後述するチューブ(人工呼吸器管56や吸引チューブ64)の挿通前の状態において、例えば脆弱部40を覆うように外側からテープ等が貼付されて封止されていてもよく、これにより意図せずチューブ等がチューブ挿通用部分(脆弱部分)を突き破り袋状本体12の内部と外部が連通することが回避され得る。
【0061】
さらに、袋状本体12における後方部分には、袋状本体12の表面から内部空間20に向かって延びる手袋状部48が設けられている。即ち、本実施形態では、上側シート状部14の内面に手袋状部48が設けられていると共に、袋状本体12の表面となる上側シート状部14の外面には、手袋状部48への腕の差入口となる腕入用開口部50が、上側シート状部14を厚さ方向で貫通して形成されている。本実施形態では、気管用挿通部分34aよりも後方において、一対の腕入用開口部50,50が、左右方向で相互に離隔して形成されている。特に、本実施形態では、一対の腕入用開口部50,50間の左右方向中央が、上側シート状部14における左右方向中央よりも右方に偏倚している。
【0062】
かかる一対の腕入用開口部50,50のそれぞれに対して、手袋状部48,48が設けられている。この手袋状部48は、前後方向である程度の長さを有しており、先端部分において五指が差し入れられるだけでなく、少なくとも前腕部をある程度覆い得る長さ寸法をもって形成されている。本実施形態では、図4に示されるように、手袋状部48が、上側シート状部14とは別体形成されており、手袋状部48において腕を差し入れる開口端(図4における上端開口部)が、上側シート状部14に設けられた腕入用開口部50に取り付けられるようになっている。
【0063】
具体的には、上側シート状部14における腕入用開口部50の周囲には、上側シート状部14よりも硬質のリング体52が設置されている。本実施形態では、上側シート状部14における外面側にリング体52が固定されている。なお、リング体52を上側シート状部14の外面側に固定する方法は限定されるものではないが、例えば上側シート状部14においてリング体52の内周側に位置する部分に切込みを入れて上側シート状部14の外面側に折り返し、リング体52を挟んだ状態で上側シート状部14同士を熱溶着することで、上側シート状部14の外面側にリング体52を固定することができる。
【0064】
また、手袋状部48の開口端(図4における上端開口部)には、例えば輪ゴム等の弾性環状部材54が設けられている。これにより、手袋状部48の開口端は、開口の大きさが、弾性的に絞られた弾性開口端とされている。そして、例えば自然状態の弾性環状部材54の内径寸法φA(図4参照)は、リング体52の外径寸法φB(図1参照)よりも小さくされている。これにより、手袋状部48の開口端における弾性環状部材54を弾性的に拡径変形させて、リング体52に引っ掛けて変形を解除することで、弾性環状部材54が弾性的に復元変形して、手袋状部48が開口端においてリング体52に取り付けられるようになっている。特に、リング体52を上側シート状部14の外面側に設けることで、弾性環状部材54(手袋状部48)をリング体52に取り付け易くすることができると共に、医療従事者が手袋状部48に腕を差し入れた際に、弾性環状部材54(手袋状部48)が内部空間20に脱落しにくくなっている。
【0065】
さらに、本実施形態では、施術用袋状体10の後端部における左右両側部分が上側に折り返されており、折り返された先端部分が上側シート状部14に溶着されることで、略筒状の収納空間55が形成されている。この収納空間55には、例えば後述する図12(a),(b)に示される輪ゴム78を収納することができる。なお、図1において、上側に折り返された部分と上側シート状部14における溶着箇所を灰色で示すと共に、図2(a)における上側シート状部14において、上側に折り返されて収納空間55を構成する部分を二点鎖線で示す。
【0066】
以下、図5図9を示して、本実施形態の施術用袋状体10の使用方法について説明する。図5には、施術用袋状体10が装着される人体としての患者Pが示されている。なお、患者Pは、感染症に罹患しているか、罹患が疑われており、患者Pに人工呼吸器管56と点滴等のチューブ58とが接続されている。患者Pは、例えばベッドB上に仰臥位の状態で横たわっており、患者Pから人工呼吸器管56が、頭上の方向に延び出していると共に、チューブ58が側方に延び出している。
【0067】
かかる患者Pの頭部Hを施術用袋状体10の内部空間20に収容して、患者Pに施術用袋状体10を装着する。即ち、患者Pの頭部Hを持ち上げて、頭部Hの下に下側シート状部16を差し入れる。その際、図6に示されるように、施術用袋状体10の開口部分18に切込み28が設けられていることから、切込み28の部分で開口部分18を大きく広げることが可能となり、患者Pの頭部Hを内部空間20に容易に収容することができる。また、患者Pの頭部Hは、下側シート状部16における第1両面テープ24a上に位置することとなり、患者Pの首の裏側が第1両面テープ24aに重ね合わされることとなる。ここで、例えば患者Pの頭部Hの下に下側シート状部16を差し入れる前に、第1両面テープ24aの剥離シートを剥がしておくことで、下側シート状部16の差し入れ時に、患者Pの首の裏側に第1両面テープ24aが貼り付けられるようになっていてもよい。
【0068】
すなわち、患者Pの頭部Hの体軸中心である首の裏側が、下側シート状部16における第1両面テープ24aに重ね合わされるようになっており、この第1両面テープ24aの左右方向中央が、内部空間20の幅方向(左右方向)の中央よりも一方の側(右側)に偏倚している。したがって、本実施形態では、袋状本体12内に収容される患者Pの頭部Hにおける体軸中心の位置が、内部空間20の幅方向の中央よりも一方の側(右側)に偏倚して設定されるように指示されている。
【0069】
以上のように、本実施形態では、施術用袋状体10において、袋の幅方向中央よりも一方の側(右側)に偏倚して、患者Pの頭部Hにおける体軸中心が位置することとなる。換言すれば、施術用袋状体10において、袋の幅方向中央よりも他方の側(左側)には、患者Pの頭部Hの側方に位置するサービススペース60(図7参照)が設けられている。かかるサービススペース60を設けることにより、施術者と施術用袋状体10との干渉が抑制されて、気管への挿管や抜管等の施術を容易に行うことができる。なお、図1において、使用時にサービススペース60となるサービススペース形成領域62を仮想的に二点鎖線で示すが、サービススペース60となる領域を限定するものではない。
【0070】
次に、図7に示されるように、開口部分18を封止する。その際、上側シート状部14の開口部分18は、仰臥位の患者Pの前方で山折り状に折り曲げられる。具体的には、上側シート状部14の開口部分18において患者Pの前方に位置する部分を山折り状に折り曲げて、第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとを相互に固着する。かかる固着は、面ファスナーでなされることから解除可能であり、繰り返しの固着が可能である。
【0071】
上側シート状部14の開口部分18において第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとが固着されることで、上側シート状部14の左方部分が右方に引っ張られる。その結果、上側シート状部14の左方部分から連続する下側シート状部16の左方部分も引っ張られて、下側シート状部16において切込み28の左方に位置していた部分が、袋状本体12の上側に移動して、切込み28の左右方向で位置していた第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとが上下方向で対向すると共に、切込み28が袋状本体12の左方に位置する。
【0072】
ここで、袋状本体12に患者Pの頭部Hが収容された状態では、手袋状部48に施術者の腕が差し入れられたり、後述するようにチューブ挿通用部分34(気管用挿通部分34a)に人工呼吸器管56が挿通されることによって、図7,8にも示されるように、手袋状部48の開口部である腕入用開口部50や気管用挿通部分34aの部分が上方に持ち上げられることとなる。その結果、袋状本体12の内部空間20において、腕入用開口部50よりも袋の底部側(後側)では、下方に向かって折れ曲がって垂れ下がるポケット状部63が形成されるようになっている。即ち、本実施形態では、上側シート状部14における腕入用開口部50よりも底部側にポケット状部63を構成する上側の垂れ下がり予定部63aが設定されていると共に、下側シート状部16における頭部Hの収容領域よりも底部側にポケット状部63を構成する下側の垂れ下がり予定部63bが設定されている。なお、図1において、使用時にポケット状部63となるポケット状部形成領域63cを仮想的に二点鎖線で示すが、ポケット状部63となる領域を限定するものではない。
【0073】
そして、切込み28を通じて、袋状本体12におけるサービススペース60やポケット状部63に、マスクやシリンジ等の施術に必要な器具を収容する。本実施形態では、袋状本体12においてサービススペース60が形成される部分に切込み28が設けられることとなり、切込み28を通じてサービススペース60やポケット状部63への施術用の器具等の出し入れを容易に行うことができるし、サービススペース60に施術用の器具等を収容したとしても、施術の際にこれらの器具が施術者に干渉するおそれが低減され得る。また、ポケット状部63が設けられることにより、切込み28及びサービススペース60を通じて出し入れされる施術用の器具等を、例えば施術前にポケット状部63に予め収容したり、施術中にポケット状部63から取り出すことができる。なお、図8には、ポケット状部63にマスクが収容されている状態が示されている。
【0074】
続いて、人工呼吸器管56を、例えばコネクタの部分で切断して、患者Pの気管からつながっている部分を、上側シート状部14における気管用挿通部分34aに対して内面側から挿通させる。具体的には、図9に示されるように、人工呼吸器管56によって上側シート状部14の内面側から脆弱部40を突き破ることにより、人工呼吸器管56が気管用挿通部分34aに挿通される。その後、施術用袋状体10の外部で、人工呼吸器管56を再接続することにより、患者Pへの酸素の供給が再開される。
【0075】
そして、人工呼吸器管56を気管用挿通部分34aに挿通した後、第2両面テープ24bの剥離シートを剥がして、山折り状に折り曲げられることで重ね合わされた第2両面テープ24b同士を固着する。これにより、袋状本体12の開口部分18が、第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22bとの固着よりも高い固着度又は密着度をもって封止される。このように、袋状本体12の開口部分18を第1及び第2面ファスナー22a,22bと第2両面テープ24bで封止するに際して、上側シート状部14の開口部分18を山折り状に折り曲げることから、開口部分18の開口量が狭められる。そして、開口量を狭めた状態で封止するための狭窄用封止部が、面ファスナー22(第1及び第2面ファスナー22a,22b)と両面テープ24の特に第2両面テープ24bとから構成されている。
【0076】
すなわち、本実施形態では、第1及び第2面ファスナー22a,22bからなる第一の狭窄用封止部による封止と、両面テープ24の特に第2両面テープ24bからなる第二の狭窄用封止部による封止の二段階での封止操作が可能とされている。特に、本実施形態では、第一の狭窄用封止部(第1及び第2面ファスナー22a,22b)が繰り返しの固着が可能な仮止部とされていると共に、第二の狭窄用封止部(第2両面テープ24b)が第一の狭窄用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部とされており、第二の狭窄用封止部が第一の狭窄用封止部よりも開口側、即ち下方に設けられていることから、第一の狭窄用封止部により開口部分18を仮止めした状態で、第二の狭窄用封止部により開口部分18を本止めすることができる。
【0077】
また、上側シート状部14において、患者Pの頭部Hの前方部分を開口幅方向の中間部分で山折り状に折り曲げて表面側に突出する形状に保持した際に、上側シート状部14の開口側端部を開口幅方向(左右方向)の両側で重ね合わせ状態に保持する固着部が、第1及び第2面ファスナー22a,22bと第2両面テープ24bとを含んで構成されている。
【0078】
なお、かかる山折り状態を保持する第1及び第2面ファスナー22a,22bと第2両面テープ24bとの配設領域の左右方向中央部分は、内部空間20の幅方向(左右方向)の中央よりも一方の側(右側)に偏倚している。また、患者Pから頭上の方向に延びる人工呼吸器管56が挿通される気管用挿通部分34aが、上側シート状部14の左右方向中央よりも一方の側(右側)に偏倚していると共に、一対の腕入用開口部50,50の配設領域も上側シート状部14の左右方向中央よりも一方の側(右側)に偏倚している。本実施形態では、これらのことによっても、袋状本体12内に収容される患者Pの頭部Hにおける体軸中心の位置が、内部空間20の幅方向中央よりも一方の側(右側)に偏倚して設定されるように指示されている。
【0079】
さらに、患者Pから側方に延びるチューブ58を切込み28の上下両側で挟み込んで、切込み28を通じて外部へ延び出させる。かかるチューブ58を切込み28における適切な位置に合わせた後、第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとを相互に固着することで、切込み28を閉じることができる。かかる固着は、面ファスナーでなされることから解除可能であり、繰り返しの固着が可能である。
【0080】
その後、下側シート状部16における第3両面テープ24cの剥離シートを剥がして、上側シート状部14における第2両面テープ24bと重ね合わせて固着する。なお、第3両面テープ24cは、例えば上側シート状部14における第2両面テープ24bよりも後方の部分等に固着されてもよい。
【0081】
また、上記のように、上側シート状部14の開口部分18における右側部分を山折り状に折り曲げることで、上側シート状部14の開口部分18における左側部分が右側に引っ張られると共に、下側シート状部16の左側部分が袋状本体12における上側に位置することとなる。これにより、袋状本体12の内部空間20に患者Pの頭部Hが収容された際には、患者Pの体格や施術用袋状体10をどの程度患者Pに被せるかにもよるが、袋状本体12の左側に位置することとなる第3両面テープ24cを、患者Pの肩部の後面に貼り付けることもできる。また、第2両面テープ24bにおいても、山折り状に折り曲げられて相互に固着される以外の部分は、例えば患者Pの肩部の前面や後面に貼り付けることも可能である。即ち、本実施形態では、袋状本体12の開口部分18に設けられて、人体(患者P)の表面へ固着可能な位置決め粘着面が、第1~第3両面テープ24a~24cの少なくとも1つを含んで構成されている。
【0082】
更にまた、必要に応じて、切込み28の右方に位置する両面テープ32の剥離シートを剥がして、両面テープ32の上方に位置する上側シート状部14に固着させる。これにより、切込み28が、第1面ファスナー30aと第2面ファスナー30bとの固着よりも高い固着度又は密着度をもって閉じられる。即ち、本実施形態では、切込み28を挟んだ周方向両側縁部を相互に固着することで切込み28を閉じる閉止用封止部が、第1及び第2面ファスナー30a,30bと両面テープ32とから構成されている。
【0083】
特に、本実施形態では、繰り返しの固着が可能な仮止部からなる第一の閉止用封止部が第1及び第2面ファスナー30a,30bにより構成されていると共に、第一の閉止用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部からなる第二の閉止用封止部が、両面テープ32により構成されている。そして、切込み28が袋状本体12において最も左側に位置する状態において、第一の閉止用封止部(第1及び第2面ファスナー30a,30b)よりも切込み28側(左側)に第二の閉止用封止部(両面テープ32)が設けられることから、第一の閉止用封止部により切込み28を仮止めした状態で、第二の閉止用封止部により切込み28を本止めすることができる。
【0084】
その後、図10に示されるように、例えば袋状本体12に設けられた吸引用挿通部分34b,34cの何れか一方に吸引チューブ64を挿通する。この吸引チューブ64は負圧源に接続されており、吸引チューブ64を通じて施術用袋状体10の内部空間20の空気を吸引することができる。かかる吸引チューブ64の挿通により、適切なタイミングで施術用袋状体10の内部空間20の空気を吸引することができる。吸引チューブ64を通じて内部空間20の空気を吸引するタイミングは限定されるものではないが、例えば人工呼吸器管や気管チューブの挿管や抜管の際に行われることが好ましい。即ち、人工呼吸器管や気管チューブの抜管後は、これら人工呼吸器管や気管チューブに患者Pが保有する菌体やウィルス等が付着していることが考えられる。また、人工呼吸器管や気管チューブを挿管や抜管する際には、反射反応による嘔吐や咳が生じるおそれがあり、嘔吐物や飛沫に菌体やウィルス等が付着していることが考えられる。特に、抜管時には、患者Pの意識がある場合があることから、患者が咳き込んだりすることも考えられる。それ故、これらのタイミングで施術用袋状体10の内部空間20の空気を吸引することで、施術用袋状体10の内部空間20に拡散した菌体やウィルスを捕捉することができて、医療従事者の二次感染のおそれが低減され得る。
【0085】
特に、本実施形態では、吸引チューブ64が挿通される吸引用挿通部分34b,34cが、袋状本体12の左右方向中央よりも左側に偏倚した位置に設けられており、即ちサービススペース60か、サービススペース60に比較的近い位置に吸引チューブ64が挿通される。それ故、吸引チューブ64を袋状本体12に挿通した状態であっても、施術者による施術への影響が小さく抑えられる。
【0086】
以上の如き構造とされた本実施形態の施術用袋状体10では、開口部分18が、開口量を狭められた状態で第一狭窄用封止部(第1及び第2面ファスナー22a,22b)と第二狭窄用封止部(第2両面テープ24b)とにより二段階で封止されることから、開口部分18がより確実に封止されて、患者Pが保有する菌体やウィルスが外部に拡散することが防止される。また、施術用袋状体10は、菌体やウィルスの外部への拡散を防止しつつ、従来構造のように大型化することも回避されて、輸送や保管が行い易くなると共に、取扱性の向上や製造コストの削減が達成される。
【0087】
特に、第一狭窄用封止部は第1及び第2面ファスナー22a,22bにより構成されており、繰り返しの固着が可能な仮止部とされていることから、例えば開口部分18の封止に問題がある場合には、第1及び第2面ファスナー22a,22bの固着を解除して、開口部分18の封止を再度行うことができる。また、第二狭窄用封止部(第2両面テープ24b)は、第一狭窄用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部とされていることから、第一狭窄用封止部により開口部分18の仮止めを行った後に、第二狭窄用封止部により開口部分18の本止めを行うことができる。
【0088】
また、本実施形態では、使用時に施術用袋状体10の側方に位置する切込み28が設けられており、当該切込み28を挟んだ周方向両側縁部を相互に固着することで切込み28を閉じる閉止用封止部(第1及び第2面ファスナー30a,30bと両面テープ32)が設けられている。これにより、切込み28を通じて施術用袋状体10内に施術に必要な器具を出し入れしたり、患者Pに接続されたチューブ58等を施術用袋状体10の外部へ側方に向かって延び出させることができる。この結果、切込み28におけるチューブ58の位置を適切に設定することができて、施術用袋状体10から外部に送出されるチューブ58の位置をより自由度をもって設定することができる。そして、器具の出し入れやチューブ58等を側方へ延出させた後は、閉止用封止部により切込み28を閉止することで、外部への菌体やウィルスの拡散が防止され得る。
【0089】
さらに、上記閉止用封止部が、繰り返しの固着が可能な仮止部からなる第一の閉止用封止部としての第1及び第2面ファスナー30a,30bと、第一の閉止用封止部よりも固着度又は密着度の高い本止部からなる第二の閉止用封止部としての両面テープ32とを含んでいることから、第一の閉止用封止部により切込み28の閉止状態を保持して、かかる閉止に問題がなければ、第二の閉止用封止部によって切込み28の一層高度な閉止が達成され得る。
【0090】
かかる切込み28は、使用前には下側シート状部16に設けられている。即ち、上側シート状部14の開口部分18は、患者Pの前方に位置する部分が山折り状に折り曲げられることで左右方向幅寸法が小さくなるが、切込み28を下側シート状部16に設けることで、上側シート状部14における開口部分18の左右方向幅寸法を充分に確保することができて、患者Pの前方に安定して山折り状の部分を設けることができる。特に、本実施形態の切込み28は、袋状本体12の左端部及び左右方向中央を避けて設けられていることから、患者Pの頭部Hを袋状本体12の内部空間20に収容した際に、頭部Hの下に切込み28が位置することが回避される。また、上側シート状部14に山折り状の部分を設けた際に、切込み28を袋状本体12の側方に安定して位置させることができる。
【0091】
また、本実施形態では、上側シート状部14の開口部分18において、患者Pの前方に位置する部分には、第1及び第2面ファスナー22a,22bと第2両面テープ24bが設けられており、山折り状に折り曲げられた際に重ね合わされて固着されて、表面側に突出する形状に保持されるようになっている。これにより、患者Pの前方において、気管への人工呼吸器管56や図示しない気管チューブ等の挿管や、気管からの抜管等の施術が安定して実施され得る。特に、第1及び第2面ファスナー22a,22bは、ある程度の強度を有していることから、山折り状の折り曲げ、及び折り曲げ状態の維持が、安定して実現され得る。また、テント状の袋内空間を形成することで、患者の圧迫感を最小限に抑えられると共に、袋が広がることで内部空間20を外部から視認し易くすることができる。更にまた、第1面ファスナー22aと第2面ファスナー22b、及び第2両面テープ24b同士の固着量を調節することで、患者Pの体型や手術位置等に合わせて開口部分18の開口量や配置を適切に設定することも可能となる。
【0092】
さらに、本実施形態では、袋状本体12に、内部空間20に延びる手袋状部48が設けられていると共に、当該手袋状部48における腕の差入口(腕入用開口部50)には、袋状本体12よりも硬質のリング体52が設けられている。これにより、使用時にも腕入用開口部50が潰れることがなく、円形孔として維持されて、腕の差入れが容易とされ得る。また、本実施形態では、手袋状部48が袋状本体12とは別体として形成されて、リング体52に取り付けられていることから、袋状本体12及び手袋状部48を容易に形成することができると共に、袋状本体12及び手袋状部48の設計自由度が向上され得る。
【0093】
特に、本実施形態では、手袋状部48の開口端に弾性環状部材54が設けられており、手袋状部48の開口端が弾性開口端とされている。これにより、手袋状部48をリング体52に引っ掛けるようにして容易に取り付けることができる。
【0094】
更にまた、本実施形態では、上側シート状部14と下側シート状部16の底部側において、それぞれ使用時に下方に向かって垂れ下がる垂れ下がり予定部63a,63bが設けられており、これら垂れ下がり予定部63a,63bにより、袋状本体12の内部において上方に向かって開口するポケット状部63が袋状本体12の底部分を利用して形成されるようになっている。それ故、ポケット状部63に、施術に必要な器具等を予め収容しておくこともできて、施術中にポケット状部63から必要な器具等を適宜取り出して使用したり、取り外したり不要となった器具などを袋外に取り出す必要なく措置作業の邪魔にならないように収容しておくことができる。
【0095】
また、本実施形態では、施術用袋状体10の内部空間20において、左右方向中央よりも一方の側(右側)に偏倚して患者Pの頭部Hの体軸中心が位置すると共に、左右方向中央よりも他方の側(左側)にサービススペース60が設けられるようになっている。かかるサービススペース60を設けることにより、患者Pの気管への挿管や抜管等の施術を、施術用袋状体10への干渉を抑制しつつ行うことができる。
【0096】
さらに、本実施形態の袋状本体12には、人工呼吸器管56や吸引チューブ64が挿通されるチューブ挿通用部分34(気管用挿通部分34a、吸引用挿通部分34b,34c)が設けられており、このチューブ挿通用部分34における円形孔36の外周には補強部材42が設けられている。これにより、人工呼吸器管56や吸引チューブ64を挿通する際にも円形孔36の形状が安定して維持されて、チューブ挿通用部分34への人工呼吸器管56や吸引チューブ64の挿通を容易に行うことができる。
【0097】
かかるチューブ挿通用部分34には、脆弱部40が設けられており、人工呼吸器管56や吸引チューブ64等のチューブが脆弱部40を突き破ることにより、チューブ挿通用部分34にチューブを挿通することが可能とされている。特に、本実施形態では、脆弱部40がミシン目状とされており、チューブが挿通された後の脆弱部40をチューブの外周面に接触させることも可能であり、チューブ挿通用部分34を通じての菌体やウィルスの放出を抑制することもできる。
【0098】
あるいは、チューブ挿通用部分34における挿通用孔44の内径寸法を、挿通されるチューブ(人工呼吸器管56や吸引チューブ64)の外径寸法よりも小さくして、チューブを挿通用孔44の内周縁部に接触させつつ押し込むことで、チューブ挿通用部分34における密閉性を確保することも可能である。特に、そのような場合にも、挿通用孔44の外周側における周上の複数箇所において、別体シート38と補強部材42とが熱溶着により固着されていることから、挿通用孔44が押し広げられることが効果的に防止され得る。また、脆弱部40として十字のミシン目形状が採用される場合、ミシン目端部の4点を溶着することで、チューブが挿通された際に、挿通に伴う裂け目が溶着箇所よりも外部まで延びることを防止することができる。なお、チューブ挿通用部分34における円形孔36の内径寸法は、挿通されるチューブの外径寸法よりも大きく設定されることが好ましい。これにより、円形孔36にチューブが挿通された際に、上側シート状部14がチューブの引張りや重み等で破れて円形孔36が広がり、上側シート状部14に大きな孔が開くことが防止される。
【0099】
また、本実施形態では、袋状本体12の開口部分18において、両面テープ24(第1~第3両面テープ24a~24c)が設けられている。この第1~第3両面テープ24a~24cのうち、第2両面テープ24bは、少なくとも一部が患者Pの前方において山折り状に折り曲げられた部分の固着に用いられるが、第1,第3両面テープ24a,24c及び第2両面テープ24bの残りの部分は、袋状本体12の開口部分18において上下方向で対向する部分や患者Pの表面に貼り付けられ得る。これにより、患者Pと袋状本体12との位置ずれを抑制することができたり、患者Pと袋状本体12との隙間を小さく抑えることができて、菌体やウィルスの外部への拡散が防止され得る。
【0100】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0101】
前記実施形態では、患者の右側(図1中の左側)に治療用の装置などが設置された状況を想定しており、施術用袋状体10における図1中の右側に偏倚して患者Pの頭部Hを位置させると共に、図1中の左側にサービススペース60を設けて、装置に接続される配管などの取り回しのスペースなどが確保されるようになっていたが、装置の設置場所や患者の状況、措置の種類などに応じて、サービススペース60を左右反対側に設けてもよい。即ち、施術用袋状体における図1中の左側に偏倚して患者Pの頭部Hを位置させると共に、図1中の右側にサービススペースを設けてもよい。その際、袋状本体の開口部分において、山折り状に折り曲げる部分は図1中の左側に設けられると共に、開口部分から袋底部に向かって延びる切込みは、下側シート状部において図1中の右側に設けられることが好適である。尤も、開口部分から袋底部に向かって延びる切込みは、本発明において、必須なものではないし、開口部分の周方向で異なる位置に複数の切込みを設けてもよい。
【0102】
また、前記実施形態では、チューブ挿通用部分34が、上側シート状部14、補強部材42、別体シート38からなる3層構造とされて、ミシン目状の脆弱部40が別体シート38に設けられていたが、このような態様に限定されるものではない。例えば、図11には、本発明の別の態様におけるチューブ挿通用部分70が示されている。図11に示される態様では、上側シート状部14のチューブ挿通用部分70に十字のミシン目状の脆弱部40が形成されていると共に、この脆弱部40の外周側にリング状の補強部材72が装着されている。即ち、補強部材72は、中央に挿通用孔74を備えており、この挿通用孔74の内周側にミシン目状の脆弱部40が形成されている。本態様では、補強部材72が、上側シート状部14の内面側に固着されており、要するに、上側シート状部14からなるチューブ挿通用部分70が挿通用孔74を覆うように重ね合わされている。
【0103】
なお、補強部材72を上側シート状部14の内面に固着する方法は限定されるものではなく、例えば接着剤による固着や熱溶着であってもよいが、本態様では、補強部材72が、上側シート状部14の内面に対して略矩形状の両面テープ76により固着されている。また、補強部材72において、両面テープ76が設けられる位置は限定されるものではないが、本態様のように十字のミシン目状の脆弱部40が採用される場合、例えば両面テープ76は、図11中に二点鎖線で示すように、十字のミシン目の4つの端部に設けられることが好ましい。これにより、チューブ挿通用部分70にチューブが挿通される際にも、挿通に伴う裂け目が固着位置よりも外側まで延びることが防止され得る。尤も、両面テープ76の形状は矩形状に限定されるものではなく、補強部材72と対応するリング状であってもよい。また、ミシン目の長さは、例えば補強部材72の内径寸法(挿通用孔74の径寸法)に対して、略1/2倍の長さ~略等しい長さの範囲内に設定されることが好適である。
【0104】
図12(a),(b)には、チューブ挿通用部分70にチューブ(吸引チューブ64)が挿通された状態が示されている。即ち、図12(a)に示されるように、吸引チューブ64に対して予め輪ゴム78を外挿しておき、図12(b)に示されるように、吸引チューブ64をチューブ挿通用部分70に挿通させた後、輪ゴム78を吸引チューブ64の挿通方向先端側に移動させて、補強部材72を乗り越えさせてもよい。これにより、補強部材72を乗り越えた輪ゴム78の弾性が上側シート状部14に及ぼされて、チューブ挿通用部分70から内方へ挿し入れられた吸引チューブ64の外周面に対して上側シート状部14が輪ゴム78により環状に締め付けられて、吸引チューブ64と上側シート状部14との隙間が小さくされている。これにより、袋状本体12の内部空間20における菌体やウィルスが、チューブ挿通用部分70を通じて外部空間に拡散することが防止され得る。かかる輪ゴム78は、例えば施術用袋状体10に形成される収納空間55に、予め収納しておくことができる。なお、チューブ挿通用部分と挿通されるチューブとの隙間は、例えば使用前にチューブ挿通用部分を封止していたテープを、チューブの挿通後においてチューブの外周面とチューブ挿通用部分とに跨って貼付することによって小さくしてもよい。これにより、袋状本体12の内部空間20における菌体やウィルスの外部への拡散が一層防止され得る。これら輪ゴムやテープにより、チューブ挿通用部分と挿通されるチューブとの隙間を小さくする構成は、前記第1の実施形態にも採用することができる。
【0105】
したがって、図11,12に示される態様のように、脆弱部は上側シート状部に設けられてもよく、チューブ挿通用部分は、上側シート状部と補強部材からなる2層構造とされてもよい。即ち、上側シート状部に設けられた脆弱部の外周に補強部材が設けられてもよく、換言すれば補強部材の挿通用孔内に、上側シート状部に設けられた脆弱部が位置していてもよい。なお、補強部材は、上側シート状部の外面側に設けられてもよいし、図11,12に示される態様のように内面側に設けられてもよい。また、チューブ挿通用部分は、上側シート状部に、スリットを有するゴム弁が固着されることで構成されてもよく、人工呼吸器管や気管チューブがゴム弁のスリットを押し開いて挿通されるようになっていてもよい。
【0106】
さらに、前記実施形態では、袋状本体12の開口部分18において、面ファスナー22(第1及び第2面ファスナー22a,22b)と両面テープ24(第1~第3両面テープ24a~24c)が周上で部分的に設けられていたが、これら面ファスナーや両面テープは開口部分において周方向の全周に亘って形成されてもよい。また、前記実施形態では、第1~第3両面テープ24a~24cが、袋状本体12の前後方向において略等しい位置に設けられていたが、例えば第1両面テープを、第2及び第3両面テープに比して、後方に設けてもよい。これにより、例えば第1両面テープを患者の首の裏側に貼り付けると共に、第3両面テープを患者の肩部の後面に貼り付ける際には、位置合わせが容易となる。
【0107】
更にまた、前記実施形態では、手袋状部48が袋状本体12とは別体として形成されてリング体52に取り付けられていたが、手袋状部は、袋状本体に対して両面テープや溶着、接着などで固着されていてもよいし、一体形成されてもよく、本発明において、腕入用開口部に設けられるリング体は、必須なものではない。
【0108】
また、袋状本体12は、措置に必要な領域が外部から目視可能であればよく、部分的に透明であってもよい。例えば下側シート状部16を不透明としてもよいし、有色として措置用器具などを見易くすることもできる。また、特定の箇所、例えば頭部が置かれるべき箇所や開口部分の端縁部などだけに、特定の色を設定することも可能であり、それによって、全体を透明とする場合に比して、特定の部位を認識し易くして作業を容易とすることもできる。
【0109】
さらに、袋状本体12の開口部分18の端縁は、周方向で部分的に開口方向に突出して長くなっていたり底部側に短くなっていてもよい。例えば患者の背部側は短くすることで、患者の背側に入れ込む長さを短くして患者の上半身を持ち上げる量を少なくしてもよいし、患者の胸側は長くすることで前垂れ状に胸部分まで覆って貼り付けることで密封性の向上を図ることも可能である。
【0110】
更にまた、治療や措置の方法や患者の状態などによっては、袋状本体の内部に硬質のフレーム部材を入れて設置することも可能であり、それによって、袋状本体の内部の必要な箇所に適切な大きさのスペースを確実に安定して確保したり、配管などを安定して支持させたりすることもできる。
【符号の説明】
【0111】
10 施術用袋状体
12 袋状本体
14 上側シート状部
16 下側シート状部
18 開口部分
20 内部空間
22 面ファスナー
22a 第1面ファスナー(狭窄用封止部、第一の狭窄用封止部、仮止部、固着部)
22b 第2面ファスナー(狭窄用封止部、第一の狭窄用封止部、仮止部、固着部)
24 両面テープ
24a 第1両面テープ(位置決め粘着面)
24b 第2両面テープ(狭窄用封止部、第二の狭窄用封止部、本止部、固着部、位置決め粘着面)
24c 第3両面テープ(位置決め粘着面)
28 切込み
30a 第1面ファスナー(閉止用封止部、第一の閉止用封止部、仮止部)
30b 第2面ファスナー(閉止用封止部、第一の閉止用封止部、仮止部)
32 両面テープ(閉止用封止部、第二の閉止用封止部、本止部)
34 チューブ挿通用部分
34a 気管用挿通部分
34b,34c 吸引用挿通部分
36 円形孔
38 別体シート
40 脆弱部
42 補強部材
44 挿通用孔
46 テープ
48 手袋状部
50 腕入用開口部
52 リング体
54 弾性環状部材
55 収納空間
56 人工呼吸器管
58 チューブ
60 サービススペース
62 サービススペース形成領域
63 ポケット状部
63a (上側)垂れ下がり予定部
63b (下側)垂れ下がり予定部
63c ポケット状部形成領域
64 吸引チューブ
70 チューブ挿通用部分
72 補強部材
74 挿通用孔
76 両面テープ
78 輪ゴム
P 患者
H 頭部
B ベッド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12