(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028463
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子
(51)【国際特許分類】
C01B 21/072 20060101AFI20240226BHJP
C08K 3/28 20060101ALI20240226BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
C01B21/072 R
C08K3/28
C08L83/05
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024002752
(22)【出願日】2024-01-11
(62)【分割の表示】P 2020066481の分割
【原出願日】2019-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2018157563
(32)【優先日】2018-08-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019095576
(32)【優先日】2019-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(72)【発明者】
【氏名】大塚 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英俊
(72)【発明者】
【氏名】御法川 直樹
(57)【要約】
【課題】窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性が向上した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有する放熱性樹脂組成物の製造方法および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム粒子と、窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、窒化アルミニウム粒子の表面を、特定構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程とを備え、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、
前記窒化アルミニウム粒子の表面を、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、
前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程と、を備え、
前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基である。)
【請求項2】
前記第2工程の加熱温度は300℃以上800℃以下であり、
前記珪素含有酸化物被膜がシリカ被膜であり、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子がシリカ被覆窒化アルミニウム粒子である請求項1に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程において、前記有機シリコーン化合物の被覆量は、前記窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たり、0.1mg以上1.0mg以下である請求項1または2に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項4】
前記第1工程が、乾式混合法または気相吸着法によって行われる請求項1~3のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項5】
前記第1工程が、酸素ガスを含まない雰囲気下で行われる請求項1~4のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項6】
前記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が、下記式(2)で示される化合物および下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方を含む請求項1~5のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化2】
(式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【化3】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【請求項7】
前記第1工程は、10℃以上200℃以下の温度条件下で行われる請求項1~6のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と、樹脂とを混合する混合工程を備える放熱性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
窒化アルミニウム粒子と前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子であって、
炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であり、
表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比は、0.29以上5.0以下である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【請求項10】
前記表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比は、0.33以上、2.50以下である請求項9に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【請求項11】
窒化アルミニウム粒子と前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子であって、
炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であり、
前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率は、15%以上100%以下である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【請求項12】
前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率が、25%以上40%以下である請求項11に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【請求項13】
炭素原子の含有量は50質量ppm以上である請求項9~12のいずれか1項に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子およびその製造方法並びに珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有する放熱性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは、熱伝導性が高く、優れた電気絶縁性を備えている。そのため、窒化アルミニウムは、放熱シートおよび電子部品の封止材などの製品に使用される樹脂組成物の充填剤として有望である。しかしながら、窒化アルミニウムは、水分との反応で加水分解を引き起こし、熱伝導性の低い水酸化アルミニウムに変性する。また、窒化アルミニウムは、加水分解の際に腐食性を持つアンモニアも発生する。
【0003】
窒化アルミニウムの加水分解は、大気中の水分によっても進行する。そのため、窒化アルミニウムを添加した製品は、高温、高湿の条件下において、耐湿性、熱伝導性の低下を引き起こすだけでなく、窒化アルミニウムの加水分解によって発生したアンモニアによる腐食を招くなど、性能の劣化が懸念される。
【0004】
窒化アルミニウムの耐湿性の向上を図る技術は、窒化アルミニウム粉末の表面にSi-Al-O-Nからなる層を形成する方法(例えば、特許文献1参照)、窒化アルミニウム粉末の表面にシリケート処理剤とカップリング剤とで被覆層を形成する方法(例えば、特許文献2参照)、シリケート処理剤で処理し窒化アルミニウム粉末の表面に有機基を残す方法(例えば、特許文献3参照)、窒化アルミニウム粒子の表面を特定の酸性リン酸エステルを用いて表面修飾する方法(例えば、特許文献4参照)などが、それぞれ提案されている。
【0005】
特許文献1の防湿性窒化アルミニウム粉末は、窒化アルミニウム粉末表面にケイ酸エステル層を塗布した後、350~1000℃の高温で焼成することにより、Si-Al-O-Nからなる層を表面に形成している。特許文献2の窒化アルミニウム系粉末は、シリケート処理剤とカップリング剤で表面処理後に高温加熱処理を行うことで、表面に被覆層を形成している。特許文献3の窒化アルミニウム粉末は、シリケート処理剤で表面処理後に90℃を超えない温度で加熱処理することにより、有機基を残すことで樹脂との馴染性を向上させている。特許文献4の表面修飾粒子は、特定の酸性リン酸エステルを用いて表面修飾した窒化アルミニウム粒子により耐湿性を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3446053号公報
【特許文献2】特許第4088768号公報
【特許文献3】特許第4804023号公報
【特許文献4】特開2015-71730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
上述した窒化アルミニウム粉末は、耐湿性の向上を図るため、Si-Al-O-Nの反応層、シリケート処理剤とカップリング剤とで形成する被覆層、表面修飾層などを有している。その結果、耐湿性の改善は、認められるが、まだ十分なレベルではなく、逆に耐湿の向上を図る手段として用いた被膜が、本来の窒化アルミニウムの熱伝導性を低下させる場合が多い。さらに、フィラーとして各種材料に高い充填率で配合することも困難になるという課題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性が向上した珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有する放熱性樹脂組成物の製造方法および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討した結果、特定の有機シリコーン化合物を用いて特定の方法により窒化アルミニウム粒子を被覆することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成を有するものである。
【0010】
[1] 窒化アルミニウム粒子と、前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法であって、
前記窒化アルミニウム粒子の表面を、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、
前記有機シリコーン化合物により覆われた前記窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満の温度で加熱する第2工程と、を備え、
前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基である。)
【0011】
[2] 前記第2工程の加熱温度は300℃以上800℃以下であり、
前記珪素含有酸化物被膜がシリカ被膜であり、前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子がシリカ被覆窒化アルミニウム粒子である[1]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0012】
[3] 前記第1工程において、前記有機シリコーン化合物の被覆量は、前記窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たり、0.1mg以上1.0mg以下である[1]または[2]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0013】
[4] 前記第1工程が、乾式混合法または気相吸着法によって行われる[1]~[3]のいずれか1つに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0014】
[5] 前記第1工程が、酸素ガスを含まない雰囲気下で行われる[1]~[4]のいずれか1つに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0015】
[6] 前記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が、下記式(2)で示される化合物および下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方を含む[1]~[5]のいずれか1つに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【化2】
(式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【化3】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【0016】
[7] 前記第1工程は、10℃以上200℃以下の温度条件下で行われる[1]~[6]のいずれか1つに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法。
【0017】
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された前記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と、樹脂とを混合する混合工程を備える放熱性樹脂組成物の製造方法。
【0018】
[9] 窒化アルミニウム粒子と前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子であって、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であり、表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比は、0.29以上5.0以下である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【0019】
[10] 前記表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比は、0.33以上、2.50以下である[9]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【0020】
[11] 窒化アルミニウム粒子と前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子であって、
炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であり、
前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率は、15%以上100%以下である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【0021】
[12] 前記窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率が、25%以上40%以下である[11]に記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【0022】
[13] 炭素原子の含有量は50質量ppm以上である[9]~[12]のいずれか1つに記載の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、高い熱伝導性を維持し、耐湿性が向上したシリカ被覆窒化アルミニウム粒子等の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造することができる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有する放熱性樹脂組成物の製造方法並びに珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【
図2】実施例および比較例の粒子の耐湿性の評価結果を示す図である。
【
図3】実施例および比較例の粒子の熱伝導率の評価結果を示す図である。
【
図4】珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性と、AES分析によるSi/Al原子比との関係を示す図である。
【
図5】珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積と珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明について、詳細に説明する。
【0026】
<<珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法>>
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、窒化アルミニウム粒子と、この窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を製造するものである。珪素含有酸化物被膜や珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、詳しくは後述するが、シリカや、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物や、酸炭窒化物等が含まれる。
そして、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、窒化アルミニウム粒子の表面を、下記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う第1工程と、有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上800℃以下の温度で加熱する第2工程とを備え、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であることを特徴とする。
【化4】
(式(1)中、Rは炭素数が4以下のアルキル基である。)
【0027】
このような本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法について、
図1を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法の一例として、本発明のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【0028】
[窒化アルミニウム粒子]
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、原料として用いられる窒化アルミニウム粒子は、市販品など公知のものを使用することができる。窒化アルミニウム粒子の製法は、特に制限がなく、例えば、金属アルミニウム粉と窒素またはアンモニアとを直接反応させる直接窒化法、アルミナを炭素還元しながら窒素またはアンモニア雰囲気下で加熱して同時に窒化反応を行う還元窒化法などがある。
【0029】
また、窒化アルミニウム粒子として、窒化アルミニウム微粒子の凝集体を焼結により顆粒状にした粒子を用いることもできる。特に、体積累計のd50が1μm程度の高純度窒化アルミニウム微粒子を原料とした焼結顆粒は、窒化アルミニウム粒子として好適に用いることができる。
【0030】
ここで、高純度窒化アルミニウム微粒子とは、酸素の含有量が低く、金属不純物も少ない粒子のことである。具体的には、例えば、酸素の含有量が1質量%以下であり、金属不純物(すなわち、アルミニウム以外の金属原子)の総含有量が1000質量ppm以下である高純度窒化アルミニウムが、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子に含まれる窒化アルミニウム粒子のより高い熱伝導性を得るためには好適である。
窒化アルミニウム粒子は、単独または組み合わせて使用することができる。
【0031】
なお、上述した酸素の含有量は、酸素検出用赤外線検出器を付帯する、無機分析装置などで測定できる。具体的には、酸素の含有量は、酸素・窒素・水素分析装置(ONH836:LECOジャパン合同会社製)を使用することにより、測定することができる。
【0032】
また、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)質量分析装置などで測定できる。具体的には、アルミニウム以外の金属原子の総含有量は、ICP質量分析計(ICPMS-2030:株式会社島津製作所製)を使用することにより、測定することができる。
【0033】
なお、本明細書において、粒子の体積累計のd50とは、ある粒度分布に対して体積累計の積算値が50%となる粒径を示している。体積累計のd50は、レーザー回折散乱法による粒度分布から求められ、具体的には、体積累計のd50は、レーザー回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラックMT3300EX2:マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用することにより、測定することができる。
【0034】
本発明で用いられる窒化アルミニウム粒子の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、無定形(破砕状)、球形、楕円状、板状(鱗片状)などが挙げられる。また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、放熱材料用のフィラーとして放熱性樹脂組成物中に分散させて含有させる場合は、窒化アルミニウム粒子としては、同一の形状、構造を有する同じ種類の窒化アルミニウム粒子(単一物)のみを用いてもよいが、異なる形状、構造を持つ2種類以上の異種の窒化アルミニウム粒子を種々の割合で混合した窒化アルミニウム粒子の混合物の形で用いることもできる。
【0035】
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、放熱性樹脂組成物中に分散させて含有させる場合は、放熱性樹脂組成物に対する、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を構成する窒化アルミニウム粒子の体積比(充填量)が大きいほど、放熱性樹脂組成物の熱伝導率が高くなる。したがって、窒化アルミニウム粒子の形状は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の添加による放熱性樹脂組成物の粘度上昇の少ない球形に近いことが好ましい。
【0036】
窒化アルミニウム粒子の平均アスペクト比(粒子形状の指標)は、0.8以上1.0以下の範囲が好ましく、より好ましくは、0.85以上1.0以下の範囲であり、さらに好ましくは、0.9以上1.0以下の範囲である。ここで、窒化アルミニウム粒子の平均アスペクト比とは、任意に抽出した粒子100個の電子顕微鏡写真像について、それぞれ短径(D1)と長径(D2)とを測定し、その比(D1/D2)の相加平均値である。なお、短径(D1)とは、窒化アルミニウム粒子の電子顕微鏡写真像について、2本の平行線で挟まれた最小の長さであり、長径(D2)とは、電子顕微鏡写真像について、2本の平行線で挟まれた最大の長さである。
【0037】
本発明で用いる窒化アルミニウム粒子の体積累計のd50は、好ましくは0.2μm以上200μm以下であり、より好ましくは10μm以上100μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上50μm以下の範囲である。
【0038】
窒化アルミニウム粒子の体積累計のd50が、上述した範囲内であると、電力系電子部品を搭載する放熱材料に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を含有させた放熱性樹脂組成物を用いる場合でも、最小の厚みの薄い放熱材料の供給が可能になるとともに、被膜が窒化アルミニウム粒子の表面を均一に被覆しやすいためか、窒化アルミニウム粒子の耐湿性がより向上する。
【0039】
なお、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法は、厚みの薄い珪素含有酸化物の被覆層を形成できるためか、体積累計のd50が50μm以下の比較的細かい窒化アルミニウム粒子を用いた場合も熱伝導性に与える影響は小さい。
【0040】
[被覆に用いる有機シリコーン化合物]
本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を構成する珪素含有酸化物被膜の原料として用いられる有機シリコーン化合物は、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物であれば、直鎖状、環状または分岐鎖状の形態にかかわらず、特に制限なく使用できる。式(1)で表される構造は、珪素原子に直接水素が結合した、ハイドロジェンシロキサン単位である。
【0041】
上記式(1)において、炭素数が4以下のアルキル基であるRとしては、メチル基、エチル基、プロピル基、t-ブチル基などが好ましく、特に好ましいのはメチル基である。本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法において、原料として用いられる有機シリコーン化合物は、例えば、式(1)で示される構造を含むオリゴマまたはポリマーである。
【0042】
有機シリコーン化合物として、例えば、下記式(2)で示される化合物やおよび下記式(3)で示される化合物の少なくとも一方が好適である。
【化5】
(式(2)中、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、R1およびR2の少なくとも一方は水素原子であり、mは0~10の整数である。)
【化6】
(式(3)中、nは3~6の整数である。)
【0043】
特に、上記式(3)においてnが4の環状ハイドロジェンシロキサンオリゴマーが、窒化アルミニウム粒子表面に均一な被膜を形成できる点で優れている。式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物の重量平均分子量は、好ましくは100以上2000以下であり、より好ましくは150以上1000以下であり、さらに好ましくは180以上500以下の範囲である。この範囲の重量平均分子量の、式(1)で示す構造を含む有機シリコーン化合物を用いることで、窒化アルミニウム粒子表面に薄くて均一な被膜を形成しやすいと推測される。なお、式(2)において、mが1であることが好ましい。
【0044】
本明細書において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いたポリスチレン換算重量平均分子量であり、具体的には、カラム(ショウデックス (登録商標)LF-804:昭和電工株式会社製)と示差屈折率検出器(ショウデックス(登録商標) RI-71S:昭和電工株式会社製)との組み合わせで測定することができる。
【0045】
<第1工程>
第1工程では、上記窒化アルミニウム粒子の表面を、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆う。
第1工程では、上記窒化アルミニウム粒子の表面を、上記式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆うことができれば、特に方法は限定されない。第1工程の方法としては、一般的な粉体混合装置を用いて、原料の窒化アルミニウム粒子を攪拌しながら有機シリコーン化合物を噴霧などで添加して、乾式混合することで被覆する乾式混合法などが挙げられる。粉体混合装置としては、例えば、ヘンシェルミキサー、容器回転型のVブレンダー、ダブルコーン型ブレンダーなど、混合羽根を有するリボンブレンダー、スクリュー型ブレンダー、密閉型ロータリーキルン、マグネットカップリングを用いた密閉容器の攪拌子による攪拌などが挙げられる。この場合における温度条件は、式(1)で示される構造を含むシリコーン化合物の沸点、蒸気圧にもより、特に限定されないが、好ましい温度は10℃以上200℃以下であり、より好ましくは20℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上100℃以下の範囲である。
【0046】
また第1工程の方法として、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の蒸気単独もしくは窒素ガスなどの不活性ガスとの混合ガスを、静置した窒化アルミニウム粒子表面に付着または蒸着させる気相吸着法を用いることもできる。この場合の温度条件としては、式(1)で示される構造を含むシリコーン化合物の沸点、蒸気圧にもより、特に限定されないが、好ましい温度は10℃以上200℃以下であり、より好ましくは20℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは40℃以上100℃以下の範囲である。さらに必要な場合には、系内を加圧あるいは減圧させることもできる。この場合に使用できる装置としては、密閉系、かつ、系内の気体を容易に置換できる装置が好ましく、例えば、ガラス容器、デシケーター、CVD装置などを使用できる。窒化アルミニウム粒子を攪拌せずに有機シリコーン化合物で被覆する場合の処理時間は、長めに取る必要がある。しかしながら、処理容器を間歇的にバイブレーター上に置くことで、粉体同士が接触して陰になっている場所や、上の空気層部から遠い粉体に対しても、位置を動かすことにより効率よく処理できる。
【0047】
式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の第1工程での使用量は、特に限定されない。第1工程で得られる、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子において、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量が、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たり0.1mg以上1.0mg以下であることが好ましく、より好ましくは0.2mg以上0.8mg以下の範囲であり、さらに好ましくは0.3mg以上0.6mg以下の範囲である。この理由としては、0.1mg以上とすることで、詳しくは後述する第2工程を経て得られる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子において、被覆量が多い均一な珪素含有酸化物被膜を形成でき、また、1.0mg以下とすることで、得られる珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子における熱伝導率を低下させることの少ない薄い珪素含有酸化物被膜を形成できるためである。なお、上記窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの、式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、有機シリコーン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウム粒子の質量差を、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積(m2)で除すことで求めることができる。
【0048】
なお、BET法から求める比表面積は、ガス流動法による窒素吸着BET1点法から測定することができる。評価装置としては、Mountech社製Macsorb HM model-1210を用いることができる。
【0049】
<第2工程>
第2工程では、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上800℃以下の温度で加熱する。これにより、窒化アルミニウム粒子表面に珪素含有酸化物被膜を形成することができる。
この第2工程での加熱が低温の場合は、窒化アルミニウム粒子表面に、珪素含有酸化物被膜としてのシリカ被膜が形成され、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子が製造できる。また、この第2工程での加熱が高温の場合は、窒化アルミニウム粒子表面に、珪素含有酸化物被膜としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物の被膜が形成され、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子が製造できる。第2工程での温度が高くなると、窒化アルミニウム粒子を構成するアルミニウムが窒化アルミニウム粒子表面に出てくることで有機シリコーン化合物に由来する珪素とともに複合酸化物を形成して、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物の被膜が形成されると推測される。
第2工程では、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上800℃以下の温度で加熱することができれば、すなわち、第1工程で得られた有機シリコーン化合物により覆われた窒化アルミニウム粒子を、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上800℃以下の温度範囲に保持できるものであれば、一般の加熱炉を使用することができる。
【0050】
第2工程の熱処理(300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上800℃以下の温度での加熱)では、熱処理の初期段階で窒化アルミニウム粒子表面を被覆している式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物が脱水素反応により、有機シリコーン化合物同士、または窒化アルミニウム粒子表面の水酸基などと結合し、被覆がさらに強固になると考えられる。そして、熱処理の終期では、有機シリコーン化合物の有機基(炭素数4以下のアルキル基)が分解して揮散する。したがって、形成される珪素含有酸化物被膜は炭素原子の含有量が少なくなり、ひいては、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量も少なくなる。よって炭素原子の含有量が1000質量ppm未満の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量が1000質量ppm未満であれば、耐湿性が良好であり、また、偏在した炭素粒子が絶縁性などへ影響を与えにくい。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量は、好ましくは500質量ppm未満であり、より好ましくは300質量ppm未満である。
【0051】
なお、シリカ被覆とは、シリカを主成分とする薄膜でコートされていることを意味する。ただし、コートされたシリカと窒化アルミニウム粒子との界面には、複数の無機複合物が存在する可能性があるので、ToF-SIMS(Time of Flight Secondary Ion Mass Spectrometry:飛行時間二次イオン質量分析、ION-TOF社、TOF.SIMS5)で分析した場合には、二次イオン同士の再結合やイオン化の際の分解なども重なり、AlSiO4イオン、SiNOイオンなどのセグメントが副成分として同時に検出される場合もある。このToF-SIMS分析で分析される複合セグメントも、窒化アルミニウムをシリカ化した場合の部分検出物と定義することができる。目安としては、シリカの2次電子量が、その他のフラクションより多い状態であれば、シリカが主成分であると見なすことができる。
【0052】
さらに精度を上げてシリカの純度を確認する実験として、窒化アルミニウム多結晶基板上に同様の方法でシリカ被膜を形成させた試料表面を、光電子分光測定装置(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy、アルバック・ファイ社、Quantera II)で測定し、検出されるSi由来の光電子の運動エネルギーがシリカの標準ピーク103.7eVとほぼ一致することから、ほとんどがSiO2構造になっていると推測される。なお、加熱温度によっては、有機成分が残るケースもありうる。本発明の効果を損なわない範囲であれば、有機シロキサン成分が混在することは十分ありうる。
【0053】
炭素原子の含有量は、管状電気炉方式による非分散赤外吸収法を用いた炭素・硫黄分析装置などで測定できる。具体的には、炭素・硫黄分析装置(Carbon Anlyzer EMIA-821:株式会社堀場製作所製)を使用することにより測定することができる。
【0054】
第2工程の加熱温度(熱処理温度)は、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上800℃以下である。この温度範囲で行うことで、耐湿性および熱伝導性の良好な珪素含有酸化物被膜が形成される。具体的には、300℃以上で加熱すると、珪素含有酸化物被膜が緻密化し水分を透過し難くなるためか、耐湿性が良好になる。また、1000℃未満、好ましくは950℃以下、より好ましくは800℃以下で加熱すると熱伝導性が良好になる。他方、1000℃以上であると、耐湿性や熱伝導性が悪くなる。また、加熱温度が、300℃以上1000℃未満、好ましくは300℃以上950℃以下、より好ましくは300℃以上800℃以下であれば窒化アルミニウム粒子の表面に均一に珪素含有酸化物被膜が形成される。また、加熱温度が300℃以上であれば、珪素含有酸化物被膜は絶縁性に優れたものになり、1000℃未満、好ましくは950℃以下、より好ましくは800℃以下であれば、エネルギーコスト的にも有効である。加熱温度は、好ましくは400℃以上であり、より好ましくは500℃以上であり、さらに好ましくは650℃以上である。
【0055】
加熱時間としては、30分以上12時間以下が好ましく、30分以上6時間以下がより好ましく、さらに好ましくは45分以上4時間以下の範囲である。熱処理時間は、30分以上であれば有機シリコーン化合物の有機基(炭素数4以下のアルキル基)の分解物の残存がなく、窒化アルミニウム粒子表面に炭素原子の含有量の非常に少ない珪素含有酸化物被膜が得られる点で好ましい。また、加熱時間を6時間以下とすることが、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を生産効率よく製造することができる点で好ましい。
【0056】
第2工程の熱処理の雰囲気は特に限定されず、例えば、N2、Ar、He等の不活性ガス雰囲気下や、H2、CO、CH4等の還元ガスを含む雰囲気下でもよいが、酸素ガスを含む雰囲気下、例えば大気中(空気中)で行うことが好ましい。
【0057】
第2工程の熱処理後に、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子同士が、部分的に融着することがある。その場合には、これを解砕することで、固着・凝集のない珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。なお、解砕に使用する装置は、特に限定されるものではないが、ローラーミル、ハンマーミル、ジェットミル、ボールミルなどの一般的な粉砕機を使用することができる。
【0058】
また、第2工程終了後に、さらに、第1工程および第2工程を順に行ってもよい。すなわち、第1工程および第2工程を順に行う工程を、繰り返し実行してもよい。
【0059】
第1工程において気相吸着法により窒化アルミニウム粒子の表面を有機シリコーン化合物により覆う場合、気相吸着法による被覆方法は、液体処理で行う被覆方法と比較して、均一で薄い珪素含有酸化物被膜を形成することが可能である。したがって、第1工程および第2工程を順に行う工程を複数回、例えば2~5回程度繰り返しても、窒化アルミニウム粒子の良好な熱伝導率を発揮させることができる。
【0060】
一方、耐湿性に関しては、第1工程および第2工程を順に行う工程の回数と耐湿性との間には、正の相関が認められる。したがって、実際の用途で求められる耐湿性のレベルに応じて、第1工程および第2工程を順に行う工程の回数を自由に選択することができる。
【0061】
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法で得られた、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子本来の高熱伝導性を維持し、かつ、耐湿性にも優れているため、電気・電子分野などで使用される放熱材料用途のフィラーとして広く適用できる。
【0062】
<<珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子>>
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、すなわち、窒化アルミニウム粒子と窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜とを備える珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子であって、炭素原子の含有量が1000質量ppm未満である珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を得ることができる。珪素含有酸化物被膜や珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、上記シリカや、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物や、酸炭窒化物等が含まれる。
【0063】
このような本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、後述する実施例に示すように、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性に優れる。
例えば、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、pH4に調整した塩酸水溶液に投入し、85℃で2時間の処理(すなわち、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、pH4に調整した塩酸水溶液に85℃で2時間浸漬)したとき、塩酸水溶液中に抽出されたアンモニアの濃度が20mg/L以下とすることができ、極めて耐湿性に優れる。なお、酸性溶液中では加水分解反応が空気中よりも促進されるため、粒子をpH4に調整した塩酸水溶液に晒すことで、耐湿性の加速試験ができる。したがって、pH4の塩酸水溶液を用いることで、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の耐湿性を評価することができ、上記アンモニアの濃度が20mg/L以下であれば、耐湿性が良いと言える。また、pH4の塩酸水溶液を用いることで合わせて耐薬品性の比較もできる。
上記抽出されたアンモニアの濃度は、10mg/L以下であることが好ましく、6mg/L以下であることがより好ましい。
耐湿性の観点から、炭素原子の含有量は低いほど好ましい。ここで、上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法では原料として式(1)で示される構造を有する有機シリコーン化合物を用いているため、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は炭素原子を含有する場合が多く、例えば50質量ppm以上、さらには60質量ppm以上含む場合がある。しかしながら、上記のとおり1000質量ppm未満であれば耐湿性が優れる。
【0064】
また、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、酸素原子の含有量は1.60質量%以下であることが好ましい。酸素原子の含有量が1.60質量%以下であると、熱伝導性により優れる。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量は、より好ましくは1.5質量%以下である。また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量は、0.01質量%以上であることが好ましい。
【0065】
窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜(SiO2)のLEIS分析による被覆率は、下記式で求められる。
(SAl(AlN)-SAl(AlN+SiO2))/SAl(AlN)×100(%)
上記式中、SAl(AlN)は、窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積であり、SAl(AlN+SiO2)は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積である。Alピークの面積は、イオン源と希ガスとをプローブにする測定方法である低エネルギーイオン散乱(LEIS:Low Energy Ion Scattering)による分析から求めることができる。LEISは、数keVの希ガスを入射イオンとする分析手法で、最表面の組成分析を可能とする評価手法である(参考文献:The TRC News 201610-04(October2016))。
【0066】
また、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、後述する第2工程の焼成温度を650℃とした表1を見ると、窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率は、例えば15%以上100%以下であり、70%以上100%以下が好ましく、より好ましくは95%以下であり、さらに好ましくは72%以上90%以下であり、特に好ましくは74%以上85%以下の範囲である。70%以上100%以下であると、より耐湿性に優れる。また、95%超えであると、熱伝導率が低下する場合があることが分った。さらに、第2工程の焼成温度を検討したところ、後述する表4に示すとおり、より高い焼成温度においては、予想外に熱伝導率と、耐湿性のバランスが向上していることを見出した。つまり、焼成温度を上げていくと、実施例11から実施例16の熱伝導率が、表1の第2工程を650℃で焼成したものより、高いことが分かり、さらに驚くべきことに、この実施例の上記LEIS分析による被覆率の値は、表1の第2工程の650℃で焼成したもの(実施例3,5,6)と比較して、珪素含有量がほぼ変わらないにもかかわらず、上記LEIS分析による被覆率が30%以下程度まで下がっていることが分る。LEISの測定の原理から表面1層の元素の分析値を反映していることから、650℃で焼成した表1の窒化アルミニウム表面を覆う珪素含有酸化物と、表4で高い温度で焼成した表4にある窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物は、結晶構造や化学構造が変化していることが推測される。本発明のシリカ被覆窒化アルミニウム粒子等の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、表面にシリカやその他の焼成により化学構造の変化した珪素原子の酸化物、他の元素との複合酸化物等も含まれると推測される。したがって、シリカ被覆窒化アルミニウム粒子等の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の上記LEIS分析による被覆率は、好ましくは、15%以上、より好ましくは、20%以上、さらに好ましくは、25%以上、さらにより好ましくは、30%以上である。15%以上であれば、耐湿性が優れる。また、好ましくは、100%以下、より好ましくは、95%以下、さらに好ましくは、90%以下、さらにより好ましくは85%以下である。100%以下であれば熱伝導性に優れる。組合せとしては、好ましくは15%以上100%以下、より好ましくは15%以上90%以下、さらに好ましくは、15%以上45%以下、よりさらに好ましくは25%以上45%以下、最も好ましくは30%以上40%以下である。
【0067】
また、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積をx(m2/g)とし、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量をy(質量ppm)としたとき、下記式(4)および(5)を満たすことが好ましく、下記式(6)を満たすことがより好ましい。
y≦1000x+500 ・・・(4)
y≧100 ・・・(5)
0.03≦x≦5 ・・・(6)
【0068】
なお、珪素原子の含有量は、ICP法で測定することができる。また、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積xは、上述の窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積と同様に、ガス流動法による窒素吸着BET1点法から測定することができる。評価装置としては、Mountech社製Macsorb HM model-1210を用いることができる。
【0069】
また、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量は、特に限定されないが、例えば5000質量ppm以下であり、3000質量ppm以下が好ましく、より好ましくは2800質量ppm以下であり、さらに好ましくは2600質量ppm以下である。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量は、例えば100質量ppm以上である。
【0070】
また、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、表面のAES(オージェ電子分光法:Auger Electron Spectroscopy)分析により測定されるSi/Al原子比は、0.29以上であり、0.30以上であることが好ましく、0.32以上であることがより好ましい。このように、AES分析によるSi/Al原子比が0.29以上であると、耐湿性に優れる。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比の上限は特に限定されないが、例えば、5.0以下である。
【0071】
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の、表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比は、オージェ電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、PHI-680)を使用して、測定することができる。
【0072】
<<放熱性樹脂組成物の製造方法>>
上記本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を用いて、放熱性樹脂組成物を製造することができる。すなわち、本発明の放熱性樹脂組成物の製造方法は、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と、樹脂とを混合する混合工程を備える。珪素含有酸化物被膜や珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の「珪素含有酸化物」として、上記シリカや、珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物が挙げられる。酸化物としては、酸化物、酸窒化物や、酸炭窒化物等が含まれる。
上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子は、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、耐湿性が向上するため、本発明の放熱性樹脂組成物の製造方法で得られる放熱性樹脂組成物は、耐湿性および熱伝導性に優れる。
【0073】
混合工程では、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法によって製造された珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子と、樹脂とを混合する。
【0074】
混合工程で混合する樹脂は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂または熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の混合物であることが、得られる放熱性樹脂組成物が耐熱性に優れる点で好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリビニールアルコールアセタール樹脂などが挙げられ、単独または二種類以上を混ぜ合わせて使用することができる。さらに、熱硬化性樹脂に硬化剤や、硬化促進剤を加えた混合物を使用してもよい。特に、硬化後の耐熱性、接着性、電気特性の良い点でエポキシ樹脂が好ましく、柔軟密着性を重視する用途ではシリコーン樹脂が好ましい。
【0075】
なお、シリコーン樹脂には、付加反応硬化型シリコーン樹脂、縮合反応硬化型シリコーン樹脂、有機過酸化物硬化型シリコーン樹脂などがあり、単独または粘度の異なる2種類以上を組み合わせても使用することができる。特に、得られる放熱性樹脂組成物が柔軟密着性を重視する用途において使用される場合には、シリコーン樹脂として、例えば、気泡などの原因物質となり得る副生成物の生成がない付加反応硬化型液状シリコーン樹脂が挙げられ、ベースポリマーであるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと架橋剤であるSi-H基を有するオルガノポリシロキサンとを硬化剤の存在下で、常温または加熱により反応させることでシリコーン樹脂硬化物を得ることができる。なお、ベースポリマーであるオルガノポリシロキサンの具体例としては、例えば、アルケニル基として、ビニル基、アリル基、プロペニル基、ヘキセニル基などを有するものがある。特に、ビニル基は、オルガノポリシロキサンとして好ましい。また、硬化触媒は、例えば、白金金属系の硬化触媒を用いることができ、目的とする樹脂硬化物の硬さを実現するため、添加量を調整して使用することもできる。
【0076】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂などの2官能グルシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステルなどのグルシジルエステル型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエン、およびエポキシ化大豆油などの線状脂肪族エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートなどの複素環型エポキシ樹脂、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-1,3-ベンゼンジ(メタンアミン)、4-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリン、3-(グリシジロキシ)-N,N-ジグリシジルアニリンなどのグルシジルアミン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレンアラルキル型エポキシ樹脂、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂などの多官能グリシジルエーテル型エポキシ樹脂などが挙げられる。上述したエポキシ樹脂は、単独でまたは二種類以上を混合して使用することができる。
【0077】
上述したエポキシ樹脂を使用した場合には、硬化剤、硬化促進剤を配合していてもよい。硬化剤としては、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸および無水ハイミック酸などの脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸などの脂肪族酸無水物、無水フタル酸および無水トリメリット酸などの芳香族酸無水物、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールSなどのビスフェノール類、フェノール・ホルムアルデヒド樹脂、フェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、フェノール-ジシクロペンタジエン共重合体樹脂などのフェノール樹脂類、ジシアンジアミドおよびアジピン酸ジヒドラジドなどの有機ジヒドラジドが挙げられ、硬化触媒としては、例えば、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセンおよびその誘導体などのアミン類、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾールおよび2-フェニルイミダゾールなどのイミダゾール類およびその誘導体が挙げられる。これらは、単独または二種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
混合工程では、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外に通常使用される窒化硼素、アルミナ、シリカ、酸化亜鉛などのフィラーを併用してもよい。
【0079】
混合工程において、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子や上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーは、所望の放熱性樹脂組成物になる量を混合すればよい。
得られる放熱性樹脂組成物における上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子および上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーの総含有量は、50体積%以上95体積%以下が好ましく、より好ましくは60体積%以上90体積%以下であり、さらに好ましくは70体積%以上90体積%以下の範囲である。総含有量が、50体積%以上であれば良好な放熱性を発揮でき、95体積%以下であれば放熱性樹脂組成物の使用時に良好な作業性が得られる。
【0080】
また、得られる放熱性樹脂組成物における珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の含有量は、上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子および上記珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子以外のフィラーの総含有量の30体積%以上100体積%以下が好ましく、より好ましくは40体積%以上100体積%以下であり、さらに好ましくは50体積%以上100体積%以下の範囲である。総含有量は、30体積%以上で良好な放熱性を発揮できる。
【0081】
混合工程では、さらに、必要に応じてシリコーン、ウレタンアクリレート、ブチラール樹脂、アクリルゴム、ジエン系ゴムおよびその共重合体などの可撓性付与剤、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤、無機イオン補足剤、顔料、染料、希釈剤、溶剤などを適宜添加することができる。
【0082】
混合工程における混合方法は、特に限定されず、例えば珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、樹脂、その他添加剤などを、一括または分割して、らいかい器、プラネタリーミキサー、自転・公転ミキサー、ニーダー、ロールミルなどの分散・溶解装置を単独または適宜組み合わせ、必要に応じて加熱して混合、溶解、混練する方法が挙げられる。
【0083】
また、得られた放熱性樹脂組成物は、シート状に成形、必要に応じて反応させて、放熱シートとすることもできる。上述した放熱性樹脂組成物および放熱シートは、半導体パワーデバイス、パワーモジュールなどの接着用途などに好適に使用することができる。
【0084】
放熱シートの製造方法としては、基材フィルムで両面を挟む形で放熱性樹脂組成物を圧縮プレスなどで成形する方法、基材フィルム上に放熱性樹脂組成物をバーコーター、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーター、コンマコーターなどの装置を用いて塗布する方法などが挙げられる。さらに、成形・塗布後の放熱シートは、溶剤を除去する工程、加熱などによるBステージ化、完全硬化などの処理工程を追加することもできる。上述したように、工程により様々な形態の放熱シートを得ることができ、対象となる用途分野、使用方法に広く対応することが可能となる。
【0085】
放熱性樹脂組成物を基材フィルム上に塗布または形成する際に、作業性をよくするために溶剤を用いることができる。溶剤としては、特に限定するものではないが、ケトン系溶剤のアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、エーテル系溶剤の1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、グリコールエーテル系溶剤のメチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、その他ベンジルアルコール、N-メチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、酢酸エチル、N,N-ジメチルホルムアミドなどを単独あるいは二種類以上混合して使用することができる。
【0086】
放熱性樹脂組成物をシート状に形成するためには、シート形状を保持するシート形成性が必要になる。シート形成性を得るために、放熱性樹脂組成物に、高分子量成分を添加することができる。例えば、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカルボジイミド樹脂、シアネートエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ウレタン樹脂、アクリルゴム等が挙げられ、その中でも、耐熱性およびフィルム形成性に優れる観点から、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴム、シアネートエステル樹脂、ポリカルボジイミド樹脂などが好ましく、フェノキシ樹脂、ポリイミド樹脂、(メタ)アクリル樹脂、アクリルゴムがより好ましい。それらは、単独または二種類以上の混合物、共重合体として使用することができる。
【0087】
高分子量成分の分子量は、10000重量平均分子量以上100000の重量平均分子量以下が好ましく、さらに好ましくは20000重量平均分子量50000重量平均分子量以下の範囲である。
【0088】
なお、取扱い性のよい良好なシート形状は、上述したような範囲の重量平均分子量成分を添加することで、保持することができる。
【0089】
高分子量成分の添加量は、特に限定されないが、シート性状を保持するためには、放熱性樹脂組成物に対し、0.1質量%以上20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上15質量%以下であり、さらに好ましくは2質量%以上10質量%以下の範囲である。なお、0.1質量%以上20質量%以下の添加量で、取り扱い性もよく、良好なシート、膜の形成が図られる。
【0090】
放熱シートの製造時に使用する基材フィルムは、製造時の加熱、乾燥などの工程条件に耐えるものであれば、特に限定するものではなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などの芳香環を有するポリエステルからなるフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリイミドフィルム、ポリエーテルイミドフィルムなどが挙げられる。上述したフィルムは、二種類以上を組み合わせた多層フィルムであってもよく、表面がシリコーン系などの離型剤処理されたものであってもよい。なお、基材フィルムの厚さは、10μm以上100μm以下が好ましい。
【0091】
基材フィルム上に形成された放熱シートの厚さは、20μm以上500μm以下が好ましく、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。放熱シートの厚さは、20μm以上では均一な組成の放熱シートを得ることができ、500μm以下では良好な放熱性を得ることができる。
【実施例0092】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0093】
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量の測定]
窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量は、[有機シリコーン化合物で被覆した窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]、[窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]および後述する方法で求められる[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)]から、以下の式で求めた(重量変化法)。結果を、表において「有機シリコーン化合物の被覆量」欄に記載した。
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積1m2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量(mg/m2)]
=[有機シリコーン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウム粒子の質量差(mg)]/[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積(m2)]
(式中、[有機シリコーン化合物で被覆する前後の窒化アルミニウム粒子の質量差(mg)]=[有機シリコーン化合物で被覆した窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]-[窒化アルミニウム粒子の質量(mg)]であり、
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)から算出した表面積(m2)]=[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m2/g)]×[窒化アルミニウム粒子の質量(g)]である。
【0094】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量の測定]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量は、管状電気炉方式による非分散赤外吸収法を用いた炭素・硫黄分析装置(Carbon Anlyzer EMIA-821:株式会社堀場製作所製)により測定した。
【0095】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量の測定]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、大気中で、105℃で2時間加熱した後に、酸素・窒素・水素分析装置(ONH836:LECOジャパン合同会社製)により測定した。
【0096】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量の測定]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量は、以下の手順で測定した。
(1)20ccのテフロン(登録商標)容器に、97質量%の硫酸(超特級、和光純薬製)とイオン交換水とを1:2(体積比)で混合した溶液10ccと、サンプル(珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子)0.5gとを投入した。
(2)テフロン(登録商標)容器ごとステンレスの耐圧容器に入れ、230℃で15時間維持し、投入したサンプルを溶解させた。
(3)(1)で混合した溶液を取り出し、ICP(島津製作所製、ICPS-7510)を用いて測定した珪素原子の濃度から、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量を算出した。
【0097】
[窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率の測定]
窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜の被覆率は、イオン源と希ガスとをプローブにする低エネルギーイオン散乱(LEIS:Low Energy Ion Scattering)による分析から求めた。LEISは、IONTOF社製Qtac100の装置を用いた。入射イオンは、ヘリウムが3keVおよび6keV、ネオンが5keVである。なお、酸素クリーニング後に、後方散乱粒子のエネルギースペクトルを得た。そして、エネルギースペクトルの窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積の値に基づいて、下記式により、窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜の被覆率を算出した。
(SAl(AlN)-SAl(AlN+SiO2))/SAl(AlN)×100(%)
上記式中、SAl(AlN)は、窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積であり、SAl(AlN+SiO2)は、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のAlピークの面積である。
【0098】
[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積xの測定]
窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積および珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積xは、それぞれMountech社製Macsorb HM model-1210を用いて測定した。なお、吸着ガスとして、He70体積%とN230体積%の混合ガスを用いた。珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積xを、表において「BET比表面積x(m2/g)」欄に記載した。
【0099】
[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の、表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比の測定]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の、表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比は、オージェ電子分光分析法を用いて、以下の方法で測定した。
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を、ハンドプレスを用いてインジウム箔に埋め込み固定し、オージェ電子分光分析装置(アルバック・ファイ社製、PHI-680)を使用し、電子線の加速電圧2kV、電流1nAで測定し、スペクトルを取得した。取得したスペクトルを一次微分し各元素のピーク高さから、Si原子、O原子、Al原子、N原子およびC原子の合計数に対するSi原子数の割合と、Si原子、O原子、Al原子、N原子およびC原子の合計数に対するAl原子数の割合を求めた。求めたSi原子、O原子、Al原子、N原子およびC原子の合計数に対するSi原子数の割合と、Si原子、O原子、Al原子、N原子およびC原子の合計数に対するAl原子数の割合から、さらにSi/Al原子比を算出した。スペクトルの取得を、1視野あたり3箇所で4視野の合計12測定点において行い、それぞれ算出したSi/Al原子比の平均値を「珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の、表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比」とし、表において「AES分析によるSi/Al原子比」欄に記載した。
【0100】
[粒子の耐湿性の評価]
珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子等の粒子の耐湿性は、50mlのサンプル管にpH4に調整した塩酸水溶液を17gと珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子3gとを投入して密封した後、振とう式恒温槽で60℃または85℃、80rpm、2時間の条件で振とうし、静置後、室温(25℃)まで冷却し、上澄み液中のアンモニア濃度を、25℃の温度条件でアンモニア電極(アンモニア電極5002A:株式会社堀場製作所製)を用いて測定した。表において「耐湿性アンモニア濃度」欄に記載し、測定温度も併記した。
【0101】
[樹脂シート(放熱シート)の熱伝導率の測定]
25℃にて、レーザーフラッシュ法熱拡散率測定装置(LFA447 NanoFlash:NETZSCH社製)により樹脂シートの熱拡散率を測定した。また、各成分について単純に加成性が成り立つと仮定して、各成分の配合量を考慮した加重平均により、樹脂シートの理論比熱と理論密度とを求めた。そして、熱拡散率に理論比熱と理論密度を掛けることにより算出した値を、樹脂シートの厚み方向の熱伝導率とした。
【0102】
熱拡散率測定用のサンプルは、樹脂シートを10mm×10mmで厚さ300μmのサイズに切り出し、イオンコーター(IB-3:株式会社エイコー製)を用いて両面に金コーティングを施した後、さらに両面をグラファイトコーティングしたものを使用した。
【0103】
なお、各実施例および比較例の樹脂シートの理論比熱は、窒化アルミニウムの理論比熱を0.73J/g・K、樹脂成分の理論比熱を1.80J/g・K、高分子量成分の理論比熱を1.80J/g・Kとして計算した。また、各実施例および比較例の樹脂シートの理論密度は、窒化アルミニウムの理論密度を3.26g/cm3、樹脂成分の理論密度を1.17g/cm3、高分子量成分の理論密度を1.17g/cm3として計算した。なお、溶剤はすべて揮発したものとみなし、また、硬化剤は微量のため、無視した。
【0104】
[粒子の作製]
(実施例1)
第1工程は、板厚20mmのアクリル樹脂製で内寸法が260mm×260mm×100mmであり、貫通孔を有する仕切りで上下二段に分けられた構造の真空デシケーターを使用して、窒化アルミニウム粒子の表面被覆を行った。真空デシケーターの上段に、体積累計のd50が3μm、BET法から求めた比表面積が2.4m2/gの窒化アルミニウム粒子-A(JM:東洋アルミニウム社製)約30gをステンレストレーに均一に広げて静置した。次に、真空デシケーターの下段には、式(3)においてn=4である有機シリコーン化合物-A(環状メチルハイドロジェンシロキサン4量体:東京化成工業社製)を10g、ガラス製シャーレに入れて静置した。その後、真空デシケーターを閉じ、80℃のオーブンで30時間の加熱を行った。なお、反応により発生する水素ガスは、真空デシケーターに付随する開放弁から逃がすなどの安全対策を取って操作を行った。第1工程終了後に、窒化アルミニウム粒子表面を被覆した式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積から算出した表面積1m2当たり0.33mgであった。第1工程を終了した後、デシケーターから取り出したサンプルをアルミナ製のるつぼに入れ、大気中で、サンプルを650℃、1.5時間の条件で第2工程の熱処理を行うことで、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を得た。
【0105】
(実施例2)
実施例1の原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Aを体積累計のd50が16μm、BET法から求めた比表面積が0.5m2/gの窒化アルミニウム粒子-B(TFZ-N15P:東洋アルミニウム社製)に置換えた以外は、実施例1と同様に作製した。なお、第1工程終了後に、窒化アルミニウム粒子表面を被覆した式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積から算出した表面積1m2当たり0.70mgであった。
【0106】
(実施例3)
実施例1の原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Aを体積累計のd50が50μm、BET法から求めた比表面積が0.07m2/gの窒化アルミニウム粒子-C(FAN-f50-A1:古河電子株式会社製)に置換えた以外は、実施例1と同様に作製した。なお、第1工程終了後に、窒化アルミニウム粒子表面を被覆した式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積から算出した表面積1m2当たり0.71mgであった。
【0107】
(実施例4)
実施例2の原料に用いた有機シリコーン化合物-Aを、式(2)で示されるR1がメチル基であり、R2が水素であり、mが1である有機シリコーン化合物-B(製品名LS-8150:信越化学工業株式会社製)に置換えた以外は、実施例2と同様に作製した。なお、第1工程終了後に窒化アルミニウム粒子表面を被覆した式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積から算出した表面積1m2当たり0.56mgであった。
【0108】
(比較例1)
実施例1と原材料、および工程条件も同じにして、第1工程までの処理を行い、その後の第2工程の熱処理は行わなかった。なお、第1工程終了後に、窒化アルミニウム粒子表面を被覆した式(1)で示される構造を含む有機シリコーン化合物の被覆量は、窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積から算出した表面積1m2当たり0.35mgであった。
【0109】
(比較例2)
実施例2に原料として用いた窒化アルミニウム粒子-Bであり、実施例の全ての工程を経ていない未処理品を、比較例2に粒子とした。
【0110】
(実施例5)
第1工程において、真空デシケーターを閉じ、80℃のオーブンで30時間の加熱を行ったときに、1時間ごとにデシケーターをバイブレーターで振動させたこと以外は実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0111】
(比較例3)
実施例3に原料として用いた窒化アルミニウム粒子-Cであり、実施例3の全ての工程を経ていない未処理品を、比較例3の粒子とした。
【0112】
(実施例6)
第2工程後に、さらに第1工程および第2工程をこの順に行ったこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。なお、1回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量および2回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量は、いずれも0.65mg/m2であった。
【0113】
(実施例7)
実施例3の原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Cを体積累計のd50が10μm、BET法から求めた比表面積が1.1m2/gの窒化アルミニウム粒子-D(TFZ-N10P:東洋アルミニウム社製)に置換えた以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0114】
(実施例8)
実施例3の原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Cを体積累計のd50が30μm、BET法から求めた比表面積が0.11m2/gの窒化アルミニウム粒子-E(FAN-f30-A1:古河電子社製)に置換えた以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0115】
(実施例9)
実施例3の原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Cを体積累計のd50が80μm、BET法から求めた比表面積が0.05m2/gの窒化アルミニウム粒子-F(FAN-f80-A1:古河電子社製)に置換えた以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0116】
(実施例10)
実施例3の原料に用いた窒化アルミニウム粒子-Cを体積累計のd50が1μm、BET法から求めた比表面積が3.3m2/gの窒化アルミニウム粒子-G(TFZ-N01P:東洋アルミニウム社製)に置換えた以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0117】
(実施例11)
第2工程での熱処理の条件を、800℃、3.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0118】
(実施例12)
第2工程での熱処理の条件を、800℃、10.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0119】
(実施例13)
第2工程での熱処理の条件を、800℃、6.0時間にし、かつ、第2工程後に、さらに第1工程および第2工程をこの順に行ったこと以外は、実施例11と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。なお、1回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量および2回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量は、いずれも0.67mg/m2であった。
【0120】
(実施例14)
第2工程での熱処理の条件を、850℃、3.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0121】
(実施例15)
第2工程での熱処理の条件を、900℃、3.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0122】
(実施例16)
第2工程での熱処理の条件を、950℃、3.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0123】
(比較例4)
第2工程での熱処理の条件を、1000℃、3.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0124】
(比較例5)
第2工程での熱処理の条件を、1100℃、3.0時間にしたこと以外は、実施例3と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としての珪素元素およびアルミニウム元素との複合酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。
【0125】
(実施例17)
第2工程後に、さらに第1工程および第2工程をこの順に2回行ったこと以外は、実施例1と同様にして、珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子としてのシリカ被覆窒化アルミニウム粒子を作製した。なお、1回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量、2回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量および3回目の第1工程後の有機シリコーン化合物の被覆量は、いずれも0.34mg/m2であった。
【0126】
[樹脂シートの製造]
実施例1~17、比較例1、4および5の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子、比較例2~3の窒化アルミニウム粒子、樹脂成分として、エポキシ当量189のビスフェノールA型エポキシ樹脂(YD128:新日鉄住金化学株式会社製)、高分子量成分として、ポリスチレン換算重量平均分子量40000のビスフェノールA型フェノキシ樹脂(YP50S:新日鉄住金化学株式会社製)を1-メトキシ-2-プロパノール(溶剤)に30質量%溶解したもの、硬化剤として2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ:四国化成工業株式会社製)を表1~表4に記載の質量部で配合し、以下の手順で樹脂シートを得た。実施例および比較例の配合物を、自公転ミキサーに投入して2000rpm、30秒の条件で混合物を調整した。次に、実施例および比較例の混合物を、コーターを用いて450μm厚さのシートにした。その後、乾燥機で常圧60℃、1時間乾燥し、さらに減圧下60℃、10分間の乾燥を行った。そして、得られたシートを温度90℃の等速熱ロールに通過させた。等速熱ロールでは450μm、400μm、350μmの三段階の間隙を通過させてシート厚さを均一にした。最後に、樹脂シートを熱硬化させるために、加熱プレスを用いて10MPa、120℃、30分間の条件で加熱圧縮成形を行い樹脂シートの硬化物を得た。
【0127】
なお、実施例および比較例の樹脂シートの粒子の含有量(体積%)は、窒化アルミニウムの理論密度を3.26g/cm3、樹脂成分の理論密度を1.17g/cm3、高分子量成分の理論密度を1.17g/cm3とし、各成分について単純に加成性が成り立つと仮定して計算した。なお、溶剤は、すべて揮発したとみなし、また、硬化剤は微量のため、無視した。
【0128】
用いた窒化アルミニウム粒子、および、実施例および比較例で得られた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子について、[窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積(m
2/g)から算出した表面積1m
2当たりの有機シリコーン化合物の被覆量の測定]、[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の炭素原子の含有量の測定]、[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の酸素原子の含有量の測定]、[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の珪素原子の含有量の測定]、[窒化アルミニウム粒子の表面を覆う珪素含有酸化物被膜のLEIS分析による被覆率の測定]、[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子のBET法から求めた比表面積xの測定]、[珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の、表面のAES分析により測定されるSi/Al原子比の測定]、[粒子の耐湿性の評価]および[樹脂シート(放熱シート)の熱伝導率の測定]の結果を、表1~表4および
図2~5に示す。また、表1~4の「式(4)および(5)」欄に、式(4)および(5)を満たす場合は〇、式(4)および(5)を満たさない場合は×と記載した。
【0129】
これらの結果から、本発明の珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子の製造方法により得られた珪素含有酸化物被覆窒化アルミニウム粒子を用いた実施例1~17は、それぞれ、珪素含有酸化物被覆処理を行わなかった比較例2または3と比較して、窒化アルミニウム粒子の高い熱伝導性を維持し、かつ、窒化アルミニウム粒子の耐湿性を各段に向上できることが分かる。
熱伝導率について詳述すると、特に実施例2および実施例4は比較例2の窒化アルミニウム粒子に珪素含有酸化物被覆処理を行ったものであるが、実施例2および実施例4の熱伝導率は珪素含有酸化物被覆未処理の比較例2の90%近い良好な値を示した。また、実施例3、5および6は比較例3の窒化アルミニウム粒子に珪素含有酸化物被覆処理を行ったものであるが、実施例3、5、6の熱伝導率は珪素含有酸化物被覆未処理の比較例3の95%以上の良好な値を示した。
実施例について、良好な耐湿性と高熱伝導性を両立できた理由として、被覆に用いた有機シリコーン化合物を最少量の使用で有効な無機被膜(シリカ被膜等の珪素含有酸化物)を効率的に生成できたことによると考えられる。
また、第1工程および第2工程を順に行う工程を2回行った実施例6では、該工程が1回であること以外は同じである実施例3と比較して、耐湿性が向上し、かつ、熱伝導率はほとんど変わらなかった。
また、式(4)を満たさない実施例17は、式(4)および(5)を満たす実施例1と比べて、熱伝導率が低下した。
【0130】
一方、実施例1と原材料、および工程条件も同じにして第1工程までの処理を行い、第2工程の熱処理は行わなかった比較例1は、実施例1と比較するとアンモニア濃度が、一桁悪い値となっている。このことから、窒化アルミニウム粒子を有機シリコーン被覆したものに関して、耐湿性と炭素原子の含有量との間に密接な関係があると考えられる。すなわち、炭素原子の含有量が低いことは、有機シリコーン化合物の被膜が無機の珪素含有酸化物被膜に変化したことによるため、この被覆の膜質の違いが耐湿性を大幅に向上させたと推察できる。
なお、比較例2や3の耐湿性評価において、60℃よりも厳しい条件である85℃のほうが60℃よりもアンモニア濃度が低くなっている理由は、珪素含有酸化物被膜が形成されていない場合は85℃では60℃と比べて加水分解反応の進行が非常に速く、そのため塩酸水溶液に粒子を投入した直後に酸化被膜が形成されて該酸化被膜よりも内側での加水分解反応が60℃の場合よりも生じにくくなったためと推測される。
【0131】
【0132】
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