(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028524
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】画像表示装置およびARグラス
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20240226BHJP
G02B 5/18 20060101ALI20240226BHJP
G02F 1/13363 20060101ALI20240226BHJP
G02F 1/1335 20060101ALI20240226BHJP
G02B 27/02 20060101ALN20240226BHJP
【FI】
G02B5/30
G02B5/18
G02F1/13363
G02F1/1335 520
G02B27/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024005914
(22)【出願日】2024-01-18
(62)【分割の表示】P 2021567362の分割
【原出願日】2020-12-17
(31)【優先権主張番号】P 2019238202
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】篠田 克己
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
(57)【要約】
【課題】仮想映像の利用効率が高く、輝度均一性に優れる仮想映像を実画像に重ねて表示できる画像表示装置、および、これを利用するARグラスの提供を課題とする。
【解決手段】表示素子と、表示素子の表示画像を反射する、1層以上のコレステリック液晶層と、コレステリック液晶層が反射した画像をコレステリック液晶層に向かって反射する透明反射素子とを有し、コレステリック液晶層は、少なくとも1層が、厚さ方向で面ピッチが変化している領域が存在することにより、課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示素子と、
前記表示素子が表示した画像を反射する、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層と、
前記コレステリック液晶層が反射した前記表示素子の画像を、前記コレステリック液晶層に向かって反射する透明反射素子と、を有し、
前記コレステリック液晶層を1層以上有し、かつ、
前記コレステリック液晶層は、少なくとも1層が、走査型電子顕微鏡によって観察される前記コレステリック液晶層の断面において、前記コレステリック液晶相に由来する明部および暗部の間隔である面ピッチが変化している領域が存在する構造である、ピッチグラジエント構造を有し、
また、前記コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
さらに、前記液晶配向パターンの、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する前記一方向における、前記液晶化合物由来の光学軸の向きが180°回転する長さを1周期とした際に、前記1周期の長さが0.1~10μmであり、
前記コレステリック液晶層の法線と、前記コレステリック液晶層に入射する仮想映像の入射方向とが成す角度が45°よりも大きいことを特徴とする画像表示装置。
【請求項2】
選択反射中心波長が互いに異なる複数の前記コレステリック液晶層を有する、請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記選択反射中心波長が互いに異なる複数の前記コレステリック液晶層は、前記選択反射中心波長の長さの順列と、前記1周期の長さの順列とが、一致している、請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
全ての前記コレステリック液晶層が、前記ピッチグラジエント構造を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記ピッチグラジエント構造を有するコレステリック液晶層は、選択的な反射波長帯域が80nm以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項6】
選択的な反射波長帯域が80nm以上である、前記ピッチグラジエント構造を有する前記コレステリック液晶層を1層のみ有する、請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記表示素子と前記コレステリック液晶層との間に、位相差板を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記位相差板がλ/4波長板である、請求項7に記載の画像表示装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の画像表示装置を有するARグラス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ARグラス等に利用される画像表示装置、および、この画像表示装置を用いるARグラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、AR(Augmented Reality(拡張現実))グラスおよびヘッドアップディスプレイ(HUD(Head up Display))等のような、実際に見ている光景(実光景)に、各種の映像および各種の情報等の仮想映像を重ねて表示する、拡張現実を表示する表示装置が実用化されている。
なお、ARグラスは、スマートグラス、および、ARメガネ等とも呼ばれている。
【0003】
このような拡張現実を表示する画像表示装置の一例を、
図12に概念的に示す。
この画像表示装置100は、仮想映像A(仮想映像Aとなる画像)を表示する表示素子102と、レンズ104と、ビームスプリッター106と、カーブハーフミラー108とを有する。
画像表示装置100において、表示素子102が表示(投映)した仮想映像Aは、レンズ104によって集光され、ビームスプリッター106によってカーブハーフミラー108に反射され、カーブハーフミラー108によって反射されて、使用者Uによって観察される。
他方、実光景Rは、カーブハーフミラー108およびビームスプリッター106を透過して、使用者Uに観察される。
そのため、画像表示装置100では、使用者Uは、仮想映像Aと実光景Rとが重なった状態の拡張現実を観察できる。
【0004】
ここで、従来の拡張現実を表示ずる画像表示装置は、表示素子102が表示した仮想映像Aの利用効率が低いという問題点を有する。
上述のように、表示素子102が表示した仮想映像Aは、ビームスプリッター106で反射され、カーブハーフミラー108で反射され、ビームスプリッター106を透過して、使用者Uに観察される。従って、仮想映像Aは、ビームスプリッター106による反射の際に半減され、その後のビームスプリッター106を透過する際にも半減される。すなわち、画像表示装置100では、表示素子102が表示した仮想映像Aは、ビームスプリッター106によって1/4に減光される。
【0005】
加えて、仮想映像Aは、カーブハーフミラー108でも減光される。カーブハーフミラー108による仮想映像Aの反射率を高くすることで、カーブハーフミラー108による仮想映像Aの減光分は低減できる。
しかしながら、この場合には、実光景Rのカーブハーフミラー108の透過率が低くなるため、実光景Rが暗くなってしまう。
【0006】
これに対し、特許文献1には、
図12に示される画像表示装置100において、ビームスプリッター106に代えて、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層(コレステリック液晶素子)を用いることが記載されている。
特許文献1に記載される表示装置(光コリメート装置)は、コレステリック液晶層を用いることにより、表示素子102が表示した仮想映像Aの利用効率(像伝送性)を向上している。
【0007】
周知のように、コレステリック液晶層(コレステリック液晶相)は、特定の波長帯域の、右円偏光または左円偏光を選択的に反射する。
これに対応して、特許文献1に記載される画像表示装置では、表示素子102は、液晶ディスプレイなどの直線偏光を出射する表示部材と、λ/4板とを組み合わせて、右または左円偏光の仮想映像Aを表示する。
【0008】
一例として、仮想映像Aが右円偏光で、コレステリック液晶層が右円偏光を選択的に反射するものであるとする。
右円偏光である仮想映像Aは、ビームスプリッター106に代えて設けられるコレステリック液晶層によって反射される。
コレステリック液晶層で反射された右円偏光である仮想映像Aは、同様に、カーブハーフミラー108によってコレステリック液晶層に向けて反射される。ここで、このカーブハーフミラー108による反射によって、右円偏光である仮想映像Aは、左円偏光に変換される。
カーブハーフミラー108によって反射された左円偏光の仮想映像Aは、再度、コレステリック液晶層に入射する。ここで、コレステリック液晶層は、右円偏光を選択的に反射するものである。従って、左円偏光である仮想映像Aは、コレステリック液晶層で反射されることは無く、理想的には100%が透過する。
【0009】
従って、ビームスプリッター106に代えてコレステリック液晶層を用いる特許文献1に記載される画像表示装置では、理想的には、コレステリック液晶層では仮想映像Aを全く減光することなく、使用者Uによる観察位置に照射できる。
なお、この画像表示装置では、実光景Rは、選択的な反射波長帯域の右円偏光がコレステリック液晶層によって反射されるが、それ以外の光成分は透過する。従って、この画像表示装置でも、
図12に示される画像表示装置100と同様に、使用者Uは、仮想映像Aと実光景Rとが重なった仮想現実の画像を観察できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、コレステリック液晶層では、光が斜め方向から入射した場合に、選択的な反射波長帯域が短波長側に移動する、いわゆるブルーシフト(短波シフト)が生じることが知られている。光が斜め方向から入射するとは、具体的には、コレステリック液晶層の主面の法線に対して、角度を有する方向から光が入射することを示す。
すなわち、コレステリック液晶層の反射波長帯域の光であっても、光がコレステリック液晶層に斜め方向から入射した場合には、法線に対する入射角度によっては、ブルーシフトによって、反射されなくなってしまう。
【0012】
仮想映像を実光景に重ねた拡張現実を表示する画像表示装置では、コレステリック液晶層に対して斜め方向から仮想映像を入射せざるを得ないので、ブルーシフトの影響が大きい。
また、コレステリック液晶層を用いて拡張現実を表示する画像表示装置において、コレステリック液晶層への仮想映像の光の入射角度は、例えば、表示素子が液晶ディスプレイ等であれば表示画面中における位置によって異なり、また、光走査による表示素子の場合には、走査方向の位置によって異なる。
そのため、特許文献1に示されるような、コレステリック液晶層を用いて拡張現実を表示する画像表示装置では、コレステリック液晶層のブルーシフトによって、仮想映像の反射率が部分的に低下してしまい、仮想映像の輝度が不均一になってしまう。
【0013】
本発明の目的は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、実光景に仮想映像を重ねた拡張現実を表示する画像表示装置において、コレステリック液晶層を用いることで表示素子が表示した仮想映像の利用効率を向上し、かつ、仮想映像の輝度均一性に優れる画像表示装置、および、この画像表示装置を用いるARグラスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 表示素子と、
表示素子が表示した画像を反射する、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層と、
コレステリック液晶層が反射した表示素子の画像を、コレステリック液晶層に向かって反射する透明反射素子と、を有し、
コレステリック液晶層を1層以上有し、かつ、
コレステリック液晶層は、少なくとも1層が、走査型電子顕微鏡によって観察されるコレステリック液晶層の断面において、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部の間隔である面ピッチが変化している領域が存在する構造である、ピッチグラジエント構造を有し、
また、コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、
さらに、液晶配向パターンの、液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向における、液晶化合物由来の光学軸の向きが180°回転する長さを1周期とした際に、1周期の長さが0.1~10μmであり、
コレステリック液晶層の法線と、コレステリック液晶層に入射する仮想映像の入射方向とが成す角度が45°よりも大きいことを特徴とする画像表示装置。
[2] 選択反射中心波長が互いに異なる複数のコレステリック液晶層を有する、[1]に記載の画像表示装置。
[3] 選択反射中心波長が互いに異なる複数のコレステリック液晶層は、選択反射中心波長の長さの順列と、1周期の長さの順列とが、一致している、[2]に記載の画像表示装置。
[4] 全てのコレステリック液晶層が、ピッチグラジエント構造を有する、[1]~[3]のいずれかに記載の画像表示装置。
[5] ピッチグラジエント構造を有するコレステリック液晶層は、選択的な反射波長帯域が80nm以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の画像表示装置。
[6] 選択的な反射波長帯域が80nm以上である、ピッチグラジエント構造を有するコレステリック液晶層を1層のみ有する、[1]に記載の画像表示装置。
[7] 表示素子とコレステリック液晶層との間に、位相差板を有する、[1]~[6]のいずれかに記載の画像表示装置。
[8] 位相差板がλ/4波長板である、[7]に記載の画像表示装置。
[9] [1]~[8]のいずれかに記載の画像表示装置を有するARグラス。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、実光景に仮想映像を重ねた拡張現実を表示する画像表示装置において、表示素子が表示した仮想映像の利用効率を向上し、かつ、輝度均一性に優れる仮想映像を表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の画像表示装置の一例を概念的に示す図である。
【
図2】
図2は、コレステリック液晶素子を概念的に示す図である。
【
図3】
図3は、コレステリック液晶素子の別の例を概念的に示す図である。
【
図4】
図4は、
図3に示すコレステリック液晶層を概念的に示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図3に示すコレステリック液晶層の断面の走査型電子顕微鏡画像を概念的に示す図である。
【
図6】
図6は、
図3に示すコレステリック液晶層の作用を説明するための概念図である。
【
図7】
図7は、コレステリック液晶素子の別の例を概念的に示す図である。
【
図8】
図8は、コレステリック液晶素子の別の例を概念的に示す図である。
【
図9】
図9は、配向膜を露光する露光装置の一例を概念的に示す図である。
【
図10】
図10は、本発明の画像表示装置の別の例を概念的に示す図である。
【
図11】
図11は、透明反射素子の一例を概念的に示す図である。
【
図12】
図12は、従来の画像表示装置の一例を概念的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の画像表示装置およびARグラスについて、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0018】
本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
本明細書において、「同一」は、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含むものとする。また、本明細書において、「全部」、「いずれも」および「全面」などというとき、100%である場合のほか、技術分野で一般的に許容される誤差範囲を含み、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合を含むものとする。
【0019】
本明細書において、可視光は、電磁波のうち、ヒトの目で見える波長の光であり、380~780nmの波長帯域の光を示す。非可視光は、380nm未満の波長帯域および780nmを超える波長帯域の光である。
また、これに限定されるものではないが、可視光のうち、420~490nmの波長帯域の光は青色光であり、495~570nmの波長帯域の光は緑色光であり、620~750nmの波長帯域の光は赤色光である。
【0020】
図1に、本発明の画像表示装置の一例を概念的に示す。
本発明の画像表示装置は、実光景Rに仮想映像Aを重ねた拡張現実を表示する、ARグラス、HUD、および、ヘッドマウントディスプレイ(HMD(Head Mounted Display))等に利用される画像表示装置である。
図1に示す画像表示装置10は、表示素子12と、レンズ14と、位相差板16と、コレステリック液晶素子18と、カーブハーフミラー20と、を有する。
【0021】
画像表示装置10において、実光景Rは、カーブハーフミラー20およびコレステリック液晶素子18を透過して、使用者Uによって観察される。
一方、後に詳述するが、表示素子12が表示した仮想映像A(投映像)は、レンズ14で集光され、位相差板16で所定の円偏光に変換され、コレステリック液晶素子18によってカーブハーフミラー20に向けて反射される。仮想映像Aは、次いで、カーブハーフミラー20によってコレステリック液晶素子18に向けて反射されると共に、逆の円偏光に変換され、コレステリック液晶素子18を透過して、使用者Uによって観察される。
画像表示装置10の使用者Uは、これにより、実光景Rに仮想映像Aを重ねた拡張現実を観察する。
図示例の画像表示装置10は、一例として、ARグラスである。従って、カーブハーフミラー20は、ARグラスにおける眼鏡レンズである。また、表示素子12は、ARグラスを装着した状態において、上方から仮想映像Aを表示(投映(投影))する。
【0022】
以下、本発明の画像表示装置を構成する各構成要素について説明する。
【0023】
[表示素子]
本発明の画像表示装置10において、表示素子12は、仮想映像Aを表示(投映)するものである。言い換えると、表示素子12は、仮想映像Aとなる画像を表示(投映)するものである。
【0024】
本発明において、表示素子12には制限はなく、ARグラス等に用いられる公知の表示素子(表示装置、プロジェクター)が、各種、利用可能である。
従って、表示素子12に用いるディスプレイには、制限はなく、例えば、ARグラスおよびHUD等に用いられる公知の表示素子12が、各種利用可能である。表示素子12としては、一例として、液晶ディスプレイ(LCD(Liquid Crystal Display))、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイ(OLED(Organic Light Emitting Diode))、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)ディスプレイ、レーザ光源とMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)素子とを用いる走査式のディスプレイ、および、DLP(Digital Light Processing)ディスプレイ等が例示される。
【0025】
本発明の画像表示装置10において、表示素子12は、直線偏光の仮想映像Aを表示するのが好ましい。
従って、ディスプレイとして、LCDのように直線偏光の画像を表示するものを用いる場合には、ディスプレイのみで表示素子12を構成することができる。
これに対して、ディスプレイとして、OLED等の無偏光の画像を表示するものを用いる場合には、ディスプレイと偏光子とを組み合わせて表示素子12を構成して、表示素子12が直線偏光の画像を表示するようにするのが好ましい。
偏光子には、制限はなく、公知の偏光子が、各種、利用可能である。従って、偏光子は、ヨウ素系偏光子、二色性染料を用いる染料系偏光子、ポリエン系偏光子、および、UV吸収で偏光化する素材を用いた偏光子の等のいずれを使用してもよい。
【0026】
[レンズ]
レンズ14は、表示素子12が表示した仮想映像Aを集光する、公知の集光レンズである。
【0027】
[位相差板]
位相差板16は、表示素子12が表示し、レンズ14が集光した直線偏光の仮想映像Aを、コレステリック液晶素子18に応じた所定の円偏光の仮想映像Aに変換するものである。図示例の画像表示装置10においては、位相差板16は、直線偏光の仮想映像Aを、右円偏光の仮想映像Aに変換する。
【0028】
位相差板16は、好ましくはλ/4板(1/4波長板)である。
周知のように、コレステリック液晶相は、右または左の円偏光を選択的に反射する。従って、位相差板16としてλ/4板を用いることにより、直線偏光の仮想映像Aを、好適に右円偏光の仮想映像Aに変換して、表示素子12が表示した仮想映像Aの利用効率を向上できる。
【0029】
位相差板16は、公知の位相差板が利用可能であり、例えば、ポリマー、液晶化合物の硬化層、および、構造複屈折層等、種々の公知の位相差板を用いることができる。
位相差板16は、複数の位相差板を積層し、実効的に目的とする作用を発現する位相差板とするのも好ましい。λ/4板であれば、複数の位相差板を積層し、実効的にλ/4板として機能する位相差板を用いるのも好ましい。例えば、国際公開第2013/137464号に記載される、λ/2板とλ/4板とを組み合わせて広帯域化したλ/4板は、広帯域の波長の入射光に対応でき、好ましく用いることができる。
さらに、位相差板16は、逆波長分散性を有するのが好ましい。位相差板16が逆波長分散性を有していることにより、広帯域の波長の入射光に対応できる。
【0030】
位相差板16は、表示素子12が表示する画像の直線偏光の偏光方向に応じて、この直線偏光を所望の旋回方向の円偏光にするように、遅相軸の方向を調節して配置される。
なお、
図1ではレンズ14の下流に位相差板16を配置した例を示したが、位相差板16はレンズ14の上流に配置してもよく、表示素子12と位相差板16とを一体化させて配置してもよい。
【0031】
[コレステリック液晶素子]
図2に、コレステリック液晶素子18の一例を概念的に示す。コレステリック液晶素子18は、支持体24と、配向膜26と、コレステリック液晶層28とを有する。
コレステリック液晶層28は、コレステリック液晶相を固定してなるものである。周知のように、コレステリック液晶相は、液晶化合物が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有し、所定の波長帯域の右円偏光または左円偏光を選択的に反射し、それ以外の光を透過する。
図示例のコレステリック液晶層28は、一例として、緑色の右円偏光を選択的に反射して、それ以外の光を透過する。従って、画像表示装置10において、表示素子12は、好ましくは緑色の単色画像を表示する。
【0032】
本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶層28は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)によって観察される断面において、厚さ方向でコレステリック液晶相に由来する明部および暗部の間隔である面ピッチが変化している領域が存在する構造である、ピッチグラジエント構造を有する。
【0033】
なお、
図2に示すコレステリック液晶素子18は、支持体24と、配向膜26と、コレステリック液晶層28とを有するが、本発明は、これに制限はされない。
例えば、コレステリック液晶素子18は、コレステリック液晶層28を形成した後に、支持体24を剥離した、配向膜26およびコレステリック液晶層28のみを有するものでもよい。または、コレステリック液晶素子18は、コレステリック液晶層28を形成した後に、支持体24および配向膜26を剥離した、コレステリック液晶層28のみを有するものでもよい。
【0034】
<支持体>
支持体24は、配向膜26およびコレステリック液晶層28を支持するものである。
支持体24は、配向膜26およびコレステリック液晶層28を支持できるものであれば、各種のシート状物(フィルム、板状物、層)が利用可能である。
なお、支持体24は、対応する光に対する透過率が50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、85%以上であるのがさらに好ましい。
【0035】
支持体24の厚さには、制限はなく、コレステリック液晶素子18の用途および支持体24の形成材料等に応じて、配向膜26、コレステリック液晶層28を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体24の厚さは、1~2000μmが好ましく、3~500μmがより好ましく、5~250μmがさらに好ましい。
【0036】
支持体24は単層であっても、多層であってもよい。
単層である場合の支持体24としては、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等からなる支持体24が例示される。多層である場合の支持体24の例としては、前述の単層の支持体のいずれかなどを基板として含み、この基板の表面に他の層を設けたもの等が例示される。
【0037】
<配向膜>
図示例のコレステリック液晶素子18において、支持体24の表面には配向膜26が形成される。
配向膜26は、コレステリック液晶層28を形成する際に、コレステリック液晶層28を構成する液晶化合物を所望の配向状態(液晶配向パターン)に配向するための配向膜である。
【0038】
配向膜26は、公知の各種のものが利用可能である。
例えば、ポリマーなどの有機化合物からなるラビング処理膜、無機化合物の斜方蒸着膜、マイクログルーブを有する膜、ならびに、ω-トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライドおよびステアリル酸メチルなどの有機化合物のラングミュア・ブロジェット法によるLB(Langmuir-Blodgett:ラングミュア・ブロジェット)膜を累積させた膜、等が例示される。
【0039】
ラビング処理による配向膜26は、ポリマー層の表面を紙または布で一定方向に数回こすることにより形成できる。
配向膜26に使用する材料としては、ポリイミド、ポリビニルアルコール、特開平9-152509号公報に記載された重合性基を有するポリマー、特開2005-097377号公報、特開2005-099228号公報、および、特開2005-128503号公報記載の配向膜26等の形成に用いられる材料が好ましい。
【0040】
コレステリック液晶素子18において、配向膜26は、光配向性の素材に偏光または非偏光を照射して配向膜26とした、いわゆる光配向膜も利用可能である。すなわち、コレステリック液晶素子18においては、配向膜26として、支持体24上に、光配向材料を塗布して形成した光配向膜も、利用可能である。
光配向膜は、後述する、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、面内の一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層を形成する場合に、特に好適に利用される。
偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向または斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。
【0041】
本発明に利用可能な配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-076839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-094071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報および特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/またはアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号公報および特許第4205198号公報に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報および特許第4162850号公報に記載の光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミドおよび光架橋性ポリエステル、ならびに、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、国際公開第2010/150748号、特開2013-177561号公報および特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物およびクマリン化合物等が、好ましい例として例示される。
中でも、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、光架橋性ポリアミド、光架橋性ポリエステル、シンナメート化合物、および、カルコン化合物は、好適に利用される。
【0042】
配向膜26の厚さには、制限はなく、配向膜26の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
配向膜26の厚さは、0.01~5μmが好ましく、0.05~2μmがより好ましい。
【0043】
なお、本発明において、配向膜26は、好ましい態様として設けられるものであり、必須の構成要件ではない。
例えば、支持体24をラビング処理する方法、支持体24をレーザ光などで加工する方法等によって、支持体24に配向パターンを形成することにより、支持体24を配向膜として作用させてもよい。
【0044】
<コレステリック液晶層>
コレステリック液晶素子18において、配向膜26の表面にはコレステリック液晶層28が形成される。
上述のように、コレステリック液晶層28は、コレステリック液晶相を固定してなる、コレステリック液晶層である。
【0045】
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。
一般的なコレステリック液晶相において、選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋ピッチに依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nと『λ=n×螺旋ピッチ』の関係に従う。そのため、この螺旋ピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節することができる。
コレステリック液晶相の選択反射中心波長は、螺旋ピッチが長いほど、長波長になる。
なお、螺旋ピッチとは、すなわち、コレステリック液晶相の螺旋構造1ピッチ分(螺旋の周期)である。螺旋ピッチとは、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分であり、すなわち、コレステリック液晶相を構成する液晶化合物のダイレクターが360°回転する螺旋軸方向の長さである(
図3参照)。液晶化合物のダイレクターは、例えば、棒状液晶化合物であれば長軸方向である。
【0046】
コレステリック液晶相の螺旋ピッチは、コレステリック液晶層を形成する際に、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、および、キラル剤の添加濃度に依存する。従って、これらを調節することによって、所望の螺旋ピッチを得ることができる。
なお、螺旋ピッチの調節については、富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよび螺旋ピッチの測定法については、「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載される方法を用いることができる。
【0047】
また、コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶層の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0048】
また、コレステリック液晶層28は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した断面において、コレステリック液晶相が有する螺旋構造に由来して、厚さ方向(
図2中上下方向)に、明部42(明線)および暗部44(暗線)を交互に積層した縞模様が観察される。
この明部42および暗部44の間隔(面ピッチP)は、基本的に、コレステリック液晶層の螺旋ピッチに依存する。
【0049】
ここで、本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶層28は、SEMによって観察される断面において、厚さ方向すなわち
図2の上下方向で、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部の間隔である面ピッチPが変化する、ピッチグラジエント構造を有する。
図示例において、コレステリック液晶層28は、図中上方に向かって、面ピッチPが、漸次、大きくなっている。すなわち、コレステリック液晶層28は、上方に向かって、選択反射中心波長すなわち選択的に反射する光の波長帯域が、漸次、長波長になる。
以下の説明では、コレステリック液晶層において、厚さ方向で面ピッチPが変化するピッチグラジエント構造を、PG構造(Pitch Gradient構造)とも言う。
【0050】
なお、本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶層28のPG構造は、一例として、厚さ方向の全域で面ピッチPが変化する。あるいは、本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶層28のPG構造は、厚さ方向の上側の一部または支持体24側の一部を除く領域で面ピッチPが変化するものでもよい。あるいは、本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶層28のPG構造は、厚さ方向の上部の一部および支持体側の一部を除く領域で面ピッチPが変化するものでもよい。厚さ方向の上部とは、支持体24と逆側である。
すなわち、本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶層28は、目的とする波長帯域での選択的な反射性を発現できれば、厚さ方向のどの領域で面ピッチPが変化するものてもよい。
【0051】
PG構造を有するコレステリック液晶層は、光の照射によって、戻り異性化、二量化、ならびに、異性化および二量化等を生じて、螺旋誘起力(HTP:Helical Twisting Power)が変化するキラル剤を用い、コレステリック液晶層を形成する液晶組成物の硬化前、または、液晶組成物の硬化時、キラル剤のHTPを変化させる波長の光を照射することで、形成できる。
例えば、光の照射によってHTPが小さくなるキラル剤を用いることにより、光の照射によってキラル剤のHTPが低下する。
ここで、照射される光は、コレステリック液晶層の形成材料によって吸収される。従って、例えば、上方すなわち支持体24と逆側から光を照射した場合には、光の照射量は、上方から下方に向かって、漸次、少なくなる。すなわち、キラル剤のHTPの低下量は、上方から下方に向かって、漸次、小さくなる。そのため、HTPが大きく低下した上方では、螺旋の誘起が小さいので螺旋ピッチが長くなり、その結果、面ピッチPが長くなる。これに対して、HTPの低下が小さい下方では、キラル剤が、本来、有するHTPで螺旋が誘起されるので、螺旋ピッチが短くなり、その結果、面ピッチPが短くなる。
すなわち、この場合には、コレステリック液晶層は、上方では長波長の光を選択的に反射し、下方では、上方に比して短波長の光を選択的に反射する。従って、厚さ方向で螺旋ピッチすなわち面ピッチPが変化するPG構造のコレステリック液晶層を用いることにより、広い波長帯域の光を選択的に反射できる。
【0052】
コレステリック液晶層では、明部42と暗部44の繰り返し2回分が、螺旋ピッチに相当する。従って、SEMで観察する断面において、隣接する明部42から明部42、または、暗部44から暗部44の、明部42または暗部44が成す線の法線方向(直交方向)における間隔が、面ピッチPの1/2ピッチに相当する。
すなわち、面ピッチPは、明部42から明部42、または、暗部44から暗部44の線に対する法線方向の間隔を1/2ピッチとして、測定すればよい。
なお、図示例のような通常のコレステリック液晶層では、面ピッチPは、コレステリック液晶相における螺旋構造1ピッチ分である螺旋ピッチと一致する。
【0053】
コレステリック液晶層28の厚さには、制限はなく、画像表示装置10の用途等に応じて、目的とする選択的な反射波長帯域において、コレステリック液晶層28が必要な反射率を発現できる厚さを、適宜、設定すればよい。
コレステリック液晶層28の厚さは、0.1~50μmが好ましく、0.2~30μmがより好ましく、0.3~20μmがさらに好ましい。
【0054】
本発明の画像表示装置10において、コレステリック液晶素子18のコレステリック液晶層28が選択的に反射する波長帯域には、制限はなく、画像表示装置の用途等に応じて、適宜、設定すればよい。
すなわち、図示例のコレステリック液晶層28は、緑色光を選択的に反射するものであるが、本発明は、これに制限はされず、コレステリック液晶層28は、赤色光を選択的に反射するものでも、青色光を選択的に反射するものでもよい。
【0055】
また、図示例のコレステリック液晶素子18は、コレステリック液晶層28を1層のみ有するものであるが、本発明は、これに制限はされない。すなわち、本発明においては、コレステリック液晶素子18が、複数のコレステリック液晶層を有するものでもよい。
例えば、コレステリック液晶素子18は、赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層と緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層との2層のコレステリック液晶層を有するものでもよい。または、コレステリック液晶素子18は、緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層と青色光を選択的に反射するコレステリック液晶層との2層のコレステリック液晶層を有するものでもよい。さらに、コレステリック液晶素子18は、赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層と、緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層と、青色光を選択的に反射するコレステリック液晶層との3層のコレステリック液晶層を有するものでもよい。
なお、コレステリック液晶素子18が、選択的な反射波長帯域が異なる複数のコレステリック液晶層を有する場合には、各コレステリック液晶層が反射する円偏光旋回方向は、同じでも異なってもよい。
また、コレステリック液晶素子18が、複数のコレステリック液晶層を有する場合には、少なくとも1層がPG構造を有していればよいが、全てのコレステリック液晶層が、PG構造を有するのが好ましい。
【0056】
コレステリック液晶層の上にコレステリック液晶層を形成すると、上層のコレステリック液晶層は、下層のコレステリック液晶層の表面の配向状態を踏襲する。
従って、コレステリック液晶素子18が、複数のコレステリック液晶層を有する場合に、下層のコレステリック液晶層と上層のコレステリック液晶層とで、配向状態が同じで良い場合には、コレステリック液晶層毎に配向膜26を設ける必要は無く、コレステリック液晶層の上に、直接、コレステリック液晶層を形成すればよい。
ただし、後述する、液晶化合物に由来する光学軸の向きが、面内の一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層の場合には、コレステリック液晶層による選択的な波長帯域に応じて、液晶配向パターンにおける光学軸の回転周期(回折構造の周期)の長さを変えるのが好ましい。従って、この場合には、1層のコレステリック液晶層毎に、配向膜26を形成するのが好ましい。
【0057】
なお、コレステリック液晶素子18が、複数のコレステリック液晶層を有する場合には、表示素子12も、これに応じて、2色での画像表示、または、3色でのフルカラー画像の表示を行う物を用いるのが好ましい。
言い換えれば、表示素子12が、2色での画像表示、または、3色でのフルカラー画像の表示を行う場合には、コレステリック液晶素子18も、これに応じて、2層または3層のコレステリック液晶層を有するのが好ましい。
【0058】
図2に示すコレステリック液晶素子18は、コレステリック液晶層28のPG構造は、共に、上方に向かって面ピッチPが、漸次、長くなっているが、本発明は、これに制限はされない。
すなわち、コレステリック液晶層28のPG構造は、支持体24に向かって面ピッチPが、漸次、長くなっていてもよい。
【0059】
上述のように、コレステリック液晶層28は、PG構造を有することにより、PG構造を有さない通常のコレステリック液晶層に対して、広い反射波長帯域を実現できる。
本発明の画像表示装置においては、PG構造のコレステリック液晶層28を用いることにより、表示素子12が表示した仮想映像の利用効率を向上し、かつ、表示素子12(ディスプレイ)の表示の全面に渡って、輝度均一性が高い仮想映像Aを表示できる。
【0060】
周知のように、コレステリック液晶層は、法線に対して角度を有する方向から光が入射した場合に、反射波長帯域が短波長側に移動する、いわゆるブルーシフト(短波シフト)を生じる。
なお、法線方向とは、シート状物(フィルム、板状物、層)の主面に対して直交する方向である。また、主面とは、シート状物の最大面である。
従って、光がコレステリック液晶層に斜め方向から入射した場合には、コレステリック液晶層が、螺旋ピッチに応じて、本来、反射する帯域の光であっても、法線に対する入射角度によっては、ブルーシフトによって、反射されなくなってしまう。
【0061】
ARグラスおよびHUDのように、実光景に仮想映像を重ねた拡張現実を表示する画像表示装置では、コレステリック液晶層に対して斜め方向から仮想映像を入射せざるを得ない。そのため、コレステリック液晶層を用いて拡張現実を表示する画像表示装置では、ブルーシフトによる影響が大きい。
また、コレステリック液晶層を用いて拡張現実を表示する画像表示装置において、コレステリック液晶層への仮想映像の光の入射角度は、表示素子の液晶ディスプレイ等であれば表示画面中における位置によって異なり、また、光走査によるディスプレイの場合には、走査方向の位置によって異なる。
そのため、特許文献1に示されるような、通常のコレステリック液晶層を用いて仮想映像を表示する画像表示装置では、コレステリック液晶層のブルーシフトによって、部分的に反射率が低下してしまい、仮想映像の輝度が部分的に低下してしまう。
【0062】
これに対して、本発明の画像表示装置10は、コレステリック液晶層28がPG構造を有する。そのため、コレステリック液晶層28の選択反射波長帯域が広く、斜め入射によってブルーシフトが生じた場合でも、表示素子12が表示(投映)した緑色の仮想映像Aを、好適に反射できる。
そのため、本発明の画像表示装置10によれば、後に詳述するように、コレステリック液晶層28を用いて仮想映像Aを効率よく表示できると共に、輝度均一性の高い仮想映像Aを表示できる。
【0063】
コレステリック液晶層28の反射波長帯域には、制限はないが、80nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、150nm以上がさらに好ましく、200nm以上が特に好ましい。
コレステリック液晶層28の選択的な反射波長帯域を80nm以上とすることにより、上述したPG構造を有することの利点を十分に発現して、より安定して輝度均一性の高い仮想映像Aの表示が可能になる。
【0064】
なお、コレステリック液晶層の選択的な反射波長帯域の測定は、画像表示装置における配置を想定して、光源(表示素子12)に対し、コレステリック液晶層28を斜めに配置し、光源から出射して、コレステリック液晶層28で反射した光を分光器で測定することによって行えばよい。一例として、コレステリック液晶層28は、光源からの光の出射方向と、コレステリック液晶層の主面に対する法線方向とがなす角度が45°となるように、配置すればよい。
【0065】
<液晶組成物>
このようなPG構造を有するコレステリック液晶層28は、液晶化合物およびキラル剤を含有する液晶組成物を用いて形成できる。
【0066】
(液晶化合物)
コレステリック液晶層の形成に用いられる液晶化合物は、重合性基を2つ以上有することが好ましい。つまり、コレステリック液晶層の形成に用いられる液晶化合物は、重合性液晶化合物が好ましい。また、コレステリック液晶層の形成に用いられる液晶化合物は、300~400nmにおける平均モル吸光係数が5000未満であるのが好ましい。
液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよいが、棒状液晶化合物が好ましい。
コレステリック液晶構造を形成する棒状の液晶化合物としては、棒状ネマチック液晶化合物が例示される。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0067】
重合性基の例には、不飽和重合性基、エポキシ基、および、アジリジニル基が含まれ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。液晶化合物が有する重合性基の個数は、1分子中に1~6個が好ましく、1~3個がより好ましい。
液晶化合物としては、Makromol.Chem.,190巻、2255頁(1989年)、Advanced Materials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4683327号、米国特許第5622648号および米国特許第5770107号の各明細書、国際公開第1995/022586号、国際公開第1995/024455号、国際公開第1997/000600号、国際公開第1998/023580号、国際公開第1998/052905号、国際公開第2016/194327号および国際公開第2016/052367号公報、特開平1-272551号公報、特開平6-016616号公報、特開平7-110469号公報および特開平11-080081号公報、ならびに、特開2001-328973号公報等に記載されている各化合物が例示される。
液晶組成物すなわちコレステリック液晶層には、2種類以上の液晶化合物を併用してもよい。2種類以上の液晶化合物を併用すると、配向温度を低下させることができる場合がある。
【0068】
また、液晶組成物中の液晶化合物の添加量には制限はないが、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、80~99.9質量%が好ましく、85~99.5質量%がより好ましく、90~99質量%がさらに好ましい。
【0069】
(キラル剤(カイラル剤):光学活性化合物)
コレステリック液晶層の形成に用いられるキラル剤は、光の照射によってHTPが変化するキラル剤であれば、公知の各種のキラル剤が利用可能である。中でも、波長313nmにおけるモル吸光係数が30000以上のキラル剤が好ましく利用される。
キラル剤はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル化合物は、化合物によって、誘起する螺旋のセンスまたは螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、公知の化合物を用いることができるが、シンナモイル基を有することが好ましい。キラル剤の例としては、液晶デバイスハンドブック(第3章4-3項、TN、STN用キラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989)、ならびに、特開2003-287623号公報、特開2002-302487号公報、特開2002-080478号公報、特開2002-080851号公報、特開2010-181852号公報、および、特開2014-034581号公報等に記載される化合物が例示される。
【0070】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体等が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。
キラル剤と液晶化合物とが、いずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であることが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であることが好ましく、不飽和重合性基であることがさらに好ましく、エチレン性不飽和重合性基であることが特に好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0071】
キラル剤としては、イソソルビド誘導体、イソマンニド誘導体、および、ビナフチル誘導体等を好ましく用いることができる。イソソルビド誘導体は、BASF社製のLC-756等の市販品を用いてもよい。
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、液晶化合物量の0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0072】
(重合開始剤)
液晶組成物は、重合開始剤を含有するのが好ましい。紫外線照射により重合反応を進行させる態様では、使用する重合開始剤は、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であるのが好ましい。
光重合開始剤の例には、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジンおよびフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)、アシルフォスフィンオキシド化合物(特公昭63-040799号公報、特公平5-029234号公報、特開平10-095788号公報、特開平10-029997号公報、特開2001-233842号公報、特開2000-080068号公報、特開2006-342166号公報、特開2013-114249号公報、特開2014-137466号公報、特許4223071号公報、特開2010-262028号公報、特表2014-500852号公報記載)、オキシム化合物(特開2000-066385号公報、日本特許第4454067号公報記載)、ならびに、オキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。重合開始剤は、例えば、特開2012-208494号公報の段落0500~0547の記載も参酌できる。
【0073】
利用可能な重合開始剤としては、アシルフォスフィンオキシド化合物、および、オキシム化合物も例示される。
アシルフォスフィンオキシド化合物としては、例えば、市販品のIRGACURE810(BASF社製、化合物名:ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド)を用いることができる。オキシム化合物としては、例えば、IRGACURE OXE01(BASF社製)、IRGACURE OXE02(BASF社製)、TR-PBG-304(常州強力電子新材料有限公司製)、アデカアークルズNCI-831、アデカアークルズNCI-930(ADEKA社製)、および、アデカアークルズNCI-831(ADEKA社製)等の市販品を用いることができる。
重合開始剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
コレステリック液晶層28を形成する際に、キラル剤のHTPを変化させるための光照射を行った後に、反射層を硬化するための光照射を行う場合には、キラル剤のHTPを変化させるための光照射で重合が進行しにくい光重合開始剤を用いるのが好ましい。この場合には、液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して0.05~3質量%が好ましく、0.3~1.5質量%がより好ましい。また、キラル剤のHTPを変化させるための光照射と、コレステリック液晶層28を硬化するための光照射とを同時に行う場合には、液晶組成物中の光重合開始剤の含有量は、液晶化合物の含有量に対して0.01~0.3質量%が好ましく、0.01~0.2質量%がより好ましい。
【0074】
(架橋剤)
液晶組成物は、硬化後の膜強度向上、耐久性向上のため、任意に架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、紫外線、熱、および、湿気等で硬化するものが好適に使用できる。
架橋剤には、制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートおよびペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等の多官能アクリレート化合物;グリシジル(メタ)アクリレートおよびエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエポキシ化合物;2,2-ビスヒドロキシメチルブタノール-トリス[3-(1-アジリジニル)プロピオネート]および4,4-ビス(エチレンイミノカルボニルアミノ)ジフェニルメタン等のアジリジン化合物;ヘキサメチレンジイソシアネートおよびビウレット型イソシアネート等のイソシアネート化合物;オキサゾリン基を側鎖に有するポリオキサゾリン化合物;ならびに、ビニルトリメトキシシランおよびN-(2-アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアルコキシシラン化合物などが例示される。
また、架橋剤の反応性に応じて公知の触媒を用いることができ、膜強度および耐久性向上に加えて生産性を向上させることができる。触媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
液晶組成物中の架橋剤の含有量は、液晶組成物の固形分に対して、3~20質量%が好ましく、5~15質量%がより好ましい。
【0075】
(配向制御剤)
液晶組成物には、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック液晶構造とするために寄与する配向制御剤を添加してもよい。
配向制御剤としては、例えば、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載されるフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー、および、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]等に記載される式(I)~(IV)で表される化合物等が例示される。
配向制御剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0076】
液晶組成物における、配向制御剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましい。
【0077】
(界面活性剤)
液晶組成物は界面活性剤を含んでいてもよい。
界面活性剤は、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック構造とするために寄与する配向制御剤として機能できる化合物が好ましい。界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましい。
【0078】
界面活性剤の具体例としては、特開2014-119605号公報の段落[0082]~[0090]に記載される化合物、特開2012-203237号公報の段落[0031]~[0034]に記載される化合物、特開2005-099248号公報の段落[0092]および[0093]中に例示されている化合物、特開2002-129162号公報の段落[0076]~[0078]および段落[0082]~[0085]中に例示されている化合物、ならびに、特開2007-272185号公報の段落[0018]~[0043]等に記載されるフッ素(メタ)アクリレート系ポリマー等が例示される。
【0079】
(その他の添加剤)
その他、液晶組成物は、重合性モノマー等の種々の添加剤から選ばれる少なくとも1種を含有していてもよい。また、液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学性能を低下させない範囲で添加することができる。
【0080】
(溶媒)
液晶組成物の調製に使用する溶媒には、制限はなく、組成物に添加する液晶化合物等に応じて、適宜、選択すればよい。
溶媒としては、有機溶媒が好ましく用いられる。有機溶媒には、制限はなく、組成物に添加する液晶化合物等に応じて、適宜、選択することができ、例えば、ケトン類、アルキルハライド類、アミド類、スルホキシド類、ヘテロ環化合物、炭化水素類、エステル類、および、エーテル類等が例示される。これらの中でも、環境への負荷を考慮した場合にはケトン類が特に好ましい。
溶媒は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0081】
<コレステリック液晶層の形成>
コレステリック液晶層28は、液晶化合物、キラル剤および重合開始剤、さらに必要に応じて添加される界面活性剤等を溶媒に溶解させた液晶組成物を、配向膜26に塗布し、乾燥させて塗膜を得、この塗膜に活性光線を照射して液晶組成物を硬化することで、形成できる。これにより、コレステリック規則性が固定化されたコレステリック液晶構造を有するコレステリック液晶層28を形成できる。
液晶組成物の硬化に先立ち、または、液晶組成物の硬化と同時に、キラル剤のHTPを変化させる光を照射することにより、PG構造を有するコレステリック液晶層28を形成できる。
【0082】
なお、コレステリック液晶相を固定した構造は、液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている構造であればよい。典型的には、重合性液晶化合物を所定の液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射および加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化した構造が好ましい。
なお、液晶相を固定した構造においては、液晶相の光学的性質が保持されていれば十分であり、液晶層において、液晶化合物40は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0083】
(塗布および配向)
液晶組成物の塗布方法には、制限はなく、塗布組成物の性状、ならびに、配向膜26および支持体24の形成材料等に応じて、適宜、選択すればよい。
液晶組成物の塗布方法としては、例えば、ワイヤーバーコーティング法、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、ダイコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、スプレーコーティング法、および、スライドコーティング法等が例示される。
また、別途、支持体上に塗設した液晶組成物を転写することによって、配向膜26(コレステリック液晶層28)に、液晶組成物を塗布してもよい。また、液晶組成物を打滴することも可能である。打滴方法としては、インクジェット法が例示される。
塗布した液晶組成物を加熱することにより、液晶分子を配向させる。加熱温度は、200℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。この配向処理により、液晶化合物が、螺旋軸を有するようにねじれ配向する構造が得られる。
【0084】
(液晶組成物の硬化)
次いで、配向させた液晶化合物を重合させることにより、液晶組成物を硬化して、コレステリック液晶層28を形成する。多官能性液晶化合物の重合は、熱重合および光重合のいずれでもよいが、光重合が好ましい。
液晶組成物の硬化のための光照射は、紫外線照射によって行うのが好ましい。紫外線の照度は、15~1500mW/cm2が好ましく、100~600mW/cm2がより好ましい。また、紫外線の照射エネルギーは、20mJ/cm2~50J/cm2が好ましく、100~1500mJ/cm2がより好ましい。
照射する紫外線の波長は、液晶組成物が含有する液晶化合物等に応じて、適宜、選択すればよい。液晶組成物の硬化には、200~430nmに発光を有する光源を用いるのが好ましく、300~430nmに発光を有する光源を用いるのがより好ましい。また、紫外線を照射する際には、使用する素材の分解および副反応等を防止する観点で、波長300nm以下の光の透過率を20%以下に抑えるために、短波長カットフィルター等を使用してもよい。
【0085】
PG構造を有するコレステリック液晶層28を形成する際には、液晶組成物の硬化に先立ち、キラル剤のHTPを変化させる光を照射する。または、PG構造を有するコレステリック液晶層28の形成において、キラル剤のHTPを変化させるための光照射と、液晶組成物を硬化させるための光照射とを、同時に行ってもよい。
ここで、上述したように、PG構造は、コレステリック液晶層28の形成時に、キラル剤が吸収する波長の光を照射することで、厚さ方向の光の照射量すなわちHTPの変化量を変えることで得られる。従って、コレステリック液晶層を形成する際の光の照射量の差が、厚さ方向で大きいほど、選択的な反射波長帯域を広くできる。
【0086】
コレステリック液晶層28の形成においては、キラル剤のHTPの変化を促進するために、紫外線の照射を加熱して行ってもよい。キラル剤のHTPの変化を促進するための紫外線照射時における酸素濃度には、制限はない。従って、この紫外線照射は、酸素雰囲気下で行ってもよく、低酸素雰囲気下で行ってもよい。さらに、液晶化合物の光重合反応を促進するための紫外線の照射は、加熱下および/または低酸素雰囲気下で行うのが好ましい。
紫外線照射時の温度は、コレステリック液晶層が乱れないように、コレステリック液晶相を呈する温度範囲に維持するのが好ましい。具体的には、紫外線照射時の温度は、25~140℃が好ましく、30~100℃がより好ましい。
また、紫外線照射時の低酸素雰囲気は、窒素置換等の公知の方法により、雰囲気中の酸素濃度を低下させることで形成すればよい。酸素濃度は、5000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、50ppm以下がさらに好ましい。
【0087】
液晶組成物を硬化した後の重合反応率は、安定性の観点から、高い方が好ましく、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましい。重合反応率は、重合性の官能基の消費割合をIR吸収スペクトルを用いて測定することにより、知見できる。
【0088】
[カーブハーフミラー]
コレステリック液晶素子18(コレステリック液晶層28)が反射した仮想映像Aは、カーブハーフミラー20に入射する。カーブハーフミラー20は、本発明における透明反射素子である。
カーブハーフミラー20は、コレステリック液晶素子18(コレステリック液晶層28)が反射した仮想映像Aを、集光してコレステリック液晶層28に向けて反射して、使用者Uによる観察位置に出射する。また、実光景Rは、カーブハーフミラー20およびコレステリック液晶素子18を透過して、使用者Uによる観察位置に至る。
これにより、使用者Uは、実光景Rに仮想映像Aが重ねられた拡張現実を観察できる。
【0089】
図示例においては、好ましい態様として、カーブハーフミラー20は、仮想映像Aを集光して反射する、反射レンズ機能を有する。しかしながら、本発明はこれに制限はされず、カーブハーフミラー20に変えて、通常のハーフミラーを用いてもよい。
なお、カーブハーフミラー20およびハーフミラーは、公知のものが、各種、利用可能である。
【0090】
画像表示装置10において、仮想映像Aを明るくしたい場合には、カーブハーフミラー20の反射率を高くすればよい。逆に、実光景Rを明るくしたい場合には、カーブハーフミラー20の反射率を低くすればよい。
後述するが、本発明の画像表示装置10は、コレステリック液晶層28を用いているので、表示素子12が表示した仮想映像Aの利用効率が高い。従って、カーブハーフミラー20の反射率を低くして、実画像を明るくした場合でも、使用者Uは、十分に明るい仮想映像Aを観察することができる。
【0091】
本発明の画像表示装置10において、透明反射素子は、カーブハーフミラーおよびハーフミラーに制限はされず、回折素子も利用可能である。
また、透明反射素子としては、後述する液晶配向パターンを有する、反射型の回折素子として作用するコレステリック液晶層も、利用可能である。コレステリック液晶層を用いる透明反射素子に関しては、後に詳述する。
【0092】
[画像表示装置の作用]
以下、画像表示装置10の作用を説明することにより、本発明について、より詳細に説明する。
上述のように、画像表示装置10の表示素子12は、仮想映像Aとして、緑色光の直線偏光右円偏光の画像を表示(投映)する。
表示素子12が表示した直線偏光の仮想映像Aは、レンズ14によって集光されて、位相差板16によって右円偏光に変換される。
【0093】
位相差板16によって変換された右円偏光の仮想映像Aは、コレステリック液晶素子18のコレステリック液晶層28によってカーブハーフミラー20に向けて反射される。
カーブハーフミラー20に入射した、右円偏光の仮想映像Aは、カーブハーフミラー20によって、集光されつつ、コレステリック液晶素子18に戻るように反射される。この反射によって、右円偏光の仮想映像Aは、左円偏光に変換される。
【0094】
左円偏光の仮想映像Aは、コレステリック液晶素子18に入射する。ここで、コレステリック液晶素子18のコレステリック液晶層28は、緑色の右円偏光を選択的に反射するものであり、それ以外の光を透過する。
従って、左円偏光の仮想映像Aは、コレステリック液晶層28では反射されずに、コレステリック液晶素子18を透過して、使用者Uによる観察位置に照射される。
【0095】
他方、画像表示装置10において、実光景Rは、カーブハーフミラー20を透過し、さらにコレステリック液晶層28が選択的に反射する緑色光の右円偏光以外がコレステリック液晶素子18を透過して、使用者Uによって観察される。
画像表示装置10の使用者Uは、これにより、実光景Rに仮想映像Aを重ねた拡張現実を観察できる。
【0096】
上述したように、
図12に示す従来の画像表示装置100では、表示素子102が表示した仮想映像Aは、ビームスプリッター106で反射される際に光量が半分になる。加えて、仮想映像Aは、カーブハーフミラー108で反射されてビームスプリッター106を透過する際に、さらに光量が半分になる。しかも、仮想映像Aは、カーブハーフミラー108でも、光量を低減される。
これに対して、本発明の画像表示装置10では、理想的には、コレステリック液晶素子18による仮想映像Aの光量低減を、ほぼ無くすことができる。そのため、本発明の画像表示装置10によれば、表示素子12が表示した仮想映像Aの利用効率を大幅に向上できる。その結果、例えば、カーブハーフミラー20の透過率を向上して、実光景Rを明るくしても、十分に明るい仮想映像Aを表示できる。しかも、本発明の画像表示装置10は、コレステリック液晶層28がPG構造を有しているので、仮想映像Aの斜め入射によってコレステリック液晶層28がブルーシフトを生じても、上述のように、表示素子12が表示した仮想映像Aを好適に反射して、輝度均一性が良好な仮想映像Aを表示できる。
【0097】
[コレステリック液晶層の別の例]
図3に、本発明の画像表示装置10に利用可能なコレステリック液晶層の別の例を概念的に示す。
図2に示すコレステリック液晶層28は、PG構造を有する以外は、通常のコレステリック液晶層であり、入射した選択反射波長帯域の光を鏡面反射する。
これに対して、
図3に示すコレステリック液晶素子30のコレステリック液晶層34は、PG構造を有すると共に、所定の液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層である。所定の液晶配向パターンとは、液晶化合物に由来する光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンである。
なお、このコレステリック液晶層34も、好ましい態様として、法線に対して傾斜した方向(例えば60°)から光を入射した場合における選択的な反射波長帯域が80nm以上である、
また、
図3に示すコレステリック液晶素子30も、
図2に示すコレステリック液晶層28と同様、支持体24と配向膜26とを有し、配向膜26の上にコレステリック液晶層34が形成される。
【0098】
このコレステリック液晶層34は、入射した選択反射波長帯域の光を鏡面反射するのではなく、入射光を回折して、鏡面反射とは異なる方向に反射する。例えば、光が法線方移行から入射した場合には、法線方向に戻すように反射するのではなく、法線に対して角度を有する方向に反射する。すなわち、このコレステリック液晶層34は、反射型の回折素子(反射型の液晶回折素子)である。
【0099】
以下、コレステリック液晶層34ついて、
図3に加え、
図4および
図5を参照して、説明する。なお、上述のように、コレステリック液晶層34もPG構造を有する。従って、面ピッチP(傾斜面ピッチ)は、一例として、上方すなわち支持体24と離間する方向に向かって、漸次、長くなる。
以下の説明では、コレステリック液晶層34の主面をX-Y面とし、このX-Y面に対して垂直な断面をX-Z面として説明する。つまり、
図3は、コレステリック液晶層34のX-Z面の模式図に相当し、
図4は、コレステリック液晶層34のX-Y面の模式図に相当する。
図3~
図5に概念的に示すように、コレステリック液晶層34も、液晶化合物がコレステリック配向された層である。また、
図3~
図5は、コレステリック液晶層を構成する液晶化合物が、棒状液晶化合物の場合の例である。
【0100】
図4に示すように、コレステリック液晶層34のX-Y面において、液晶化合物40は、X-Y面内の互いに平行な複数の配列軸Dに沿って配列しており、それぞれの配列軸D上において、液晶化合物40の光学軸40Aの向きは、配列軸Dに沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している。ここでは、説明のため、配列軸DがX方向に向いているとする。また、Y方向においては、光学軸40Aの向きが等しい液晶化合物40が等間隔で配向している。
なお、「液晶化合物40の光学軸40Aの向きが配列軸Dに沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している」とは、液晶化合物40の光学軸40Aと配列軸Dとのなす角度が、配列軸D方向の位置により異なっており、配列軸Dに沿って光学軸40Aと配列軸Dとのなす角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで徐々に変化していることを意味する。つまり、配列軸Dに沿って配列する複数の液晶化合物40は、
図4に示すように、光学軸40Aが配列軸Dに沿って一定の角度ずつ回転しながら変化する。
なお、配列軸D方向に互いに隣接する液晶化合物40の光学軸40Aの角度の差は、45°以下が好ましく、15°以下がより好ましく、より小さい角度がさらに好ましい。
また、本明細書において、液晶化合物40が棒状液晶化合物である場合、液晶化合物40の光学軸40Aは、棒状液晶化合物の分子長軸を意図する。一方、液晶化合物40が円盤状液晶化合物である場合、液晶化合物40の光学軸40Aは、円盤状液晶化合物の円盤面に対する法線方向に平行な軸を意図する。
【0101】
コレステリック液晶層34においては、このような液晶化合物40の液晶配向パターンにおいて、面内で光学軸40Aが連続的に回転して変化する配列軸D方向において、液晶化合物40の光学軸40Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。
すなわち、配列軸D方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物40の、配列軸D方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。具体的には、
図4に示すように、配列軸D方向と光学軸40Aの方向とが一致する2つの液晶化合物40の、配列軸D方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを『1周期Λ』とも言う。
コレステリック液晶層34の液晶配向パターンは、この1周期Λを、配列軸D方向すなわち光学軸40Aの向きが連続的に回転して変化する一方向に繰り返す。コレステリック液晶素子30においては、この1周期Λが、回折素子における回折構造の周期となる。
【0102】
一方、コレステリック液晶層34を形成する液晶化合物40は、配列軸D方向と直交する方向(
図4においてはY方向)、すなわち、光学軸40Aが連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光学軸40Aの向きが等しい。
言い換えれば、コレステリック液晶層34を形成する液晶化合物40は、Y方向では、液晶化合物40の光学軸40Aと配列軸D(X方向)とが成す角度が等しい。
【0103】
図3に示すコレステリック液晶層34のX-Z面をSEMで観察すると、
図5に示すような明部42と暗部44とが交互に配列された配列方向が、主面(X-Y面)に対して所定角度で傾斜している縞模様が観察される。このようなSEM断面において、所定角度で傾斜している縞模様における、隣接する明部42から明部42、または、暗部44から暗部44の、明部42または暗部44が成す線の法線方向(直交方向)における間隔が、面ピッチPの1/2に相当する。
すなわち、
図3~
図5に示す、明部42および暗部44が主面に対して傾斜している構成においても、面ピッチP(傾斜面ピッチP)は、隣接する明部42から明部42、または、暗部44から暗部44の線に対する法線方向の間隔を1/2ピッチとして、測定すればよい。
【0104】
コレステリック液晶素子30において、このような液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34を形成するためには、配向膜26が、この液晶配向パターンに対応する配向パターンを有する必要がある。
このような配向パターンを有する配向膜26の形成方法としては、上述した光配向材料を配向膜26として用い、配向膜26を支持体24の表面に塗布して乾燥させた後、配向膜26をレーザ光によって露光して、配向パターンを形成する方法が例示される。
【0105】
図9に、配向膜26を露光して、配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。
図9に示す露光装置60は、レーザ62を備えた光源64と、レーザ62が出射したレーザ光Mの偏光方向を変えるλ/2板65と、レーザ62が出射したレーザ光Mを光線MAおよびMBの2つに分離する偏光ビームスプリッター68と、分離された2つの光線MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、λ/4板72Aおよび72Bと、を備える。
なお、光源64は直線偏光P0を出射する。λ/4板72Aは、直線偏光P
0(光線MA)を右円偏光P
Rに、λ/4板72Bは直線偏光P
0(光線MB)を左円偏光P
Lに、それぞれ変換する。
【0106】
配向パターンを形成される前の配向膜26を有する支持体24が露光部に配置され、2つの光線MAと光線MBとを配向膜26上において交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜26に照射して露光する。
この際の干渉により、配向膜26に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、配向状態が周期的に変化する配向パターンを有する配向膜が得られる。以下の説明では、この配向パターンを有する配向膜を『パターン配向膜』ともいう。
露光装置60においては、2つの光線MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置60においては、交差角αを調節することにより、液晶化合物40に由来する光学軸40Aが一方向に沿って連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸40Aが回転する1方向における、光学軸40Aが180°回転する1周期の長さを調節できる。
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する配向膜26上に、コレステリック液晶層を形成することにより、後述するように、液晶化合物40に由来する光学軸40Aが一方向に沿って連続的に回転する液晶配向パターンを有する、コレステリック液晶層34を形成できる。
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を、それぞれ、90°回転することにより、光学軸40Aの回転方向を逆にすることができる。
【0107】
上述のとおり、パターン配向膜は、パターン配向膜の上に形成されるコレステリック液晶層中の液晶化合物40の光学軸40Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンとなるように、液晶化合物40を配向させる配向パターンを有する。
パターン配向膜が、液晶化合物を配向させる向きに沿った軸を配向軸とすると、パターン配向膜は、配向軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している配向パターンを有するといえる。パターン配向膜の配向軸は、吸収異方性を測定することで検出することができる。例えば、パターン配向膜に直線偏光を回転させながら照射して、パターン配向膜を透過する光の光量を測定した際に、光量が最大または最小となる向きが、面内の一方向に沿って漸次変化して観測される。
【0108】
以下、このような液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34による回折の作用について説明する。
従来のコレステリック液晶層において、コレステリック液晶相由来の螺旋軸は、主面(X-Y面)に対して垂直であり、その反射面は主面(X-Y面)と平行な面である。また、液晶化合物の光学軸は、主面(X-Y面)に対して傾斜していない。言い換えると、光学軸は主面(X-Y面)に対して平行である。したがって、従来のコレステリック液晶層のX-Z面をSEMにて観察すると、
図2でも示したが、明部と暗部とが交互に配列された配列方向は主面(X-Y面)と垂直となる。
コレステリック液晶相は鏡面反射性であるため、例えば、コレステリック液晶層に法線方向から光が入射した場合、法線方向に光が反射される。
【0109】
これに対して、コレステリック液晶層34は、入射した光を、鏡面反射に対して配列軸D方向に傾けて反射する。コレステリック液晶層34は、面内において、配列軸D方向(所定の一方向)に沿って光学軸40Aが連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有するものである。以下、
図6の概念図を参照して説明する。
【0110】
一例として、コレステリック液晶層34は、先と同様に緑色光の右円偏光GRを選択的に反射するコレステリック液晶層であるとする。従って、コレステリック液晶層34に光が入射すると、コレステリック液晶層34は、緑色光の右円偏光GRのみを反射し、それ以外の光を透過する。
【0111】
コレステリック液晶層34では、液晶化合物40の光学軸40Aが配列軸D方向(一方向)に沿って回転しながら変化している。
コレステリック液晶層34に形成された液晶配向パターンは、配列軸D方向に周期的なパターンである。そのため、コレステリック液晶層34に入射した緑色光の右円偏光G
Rは、
図6に概念的に示すように、液晶配向パターンの周期に応じた方向に反射(回折)され、反射された緑色光の右円偏光G
Rは、XY面(コレステリック液晶層の主面)に対して配列軸D方向に傾いた方向に反射(回折)される。
【0112】
この結果として、後述するように、コレステリック液晶層34を有するコレステリック液晶素子30を用いることにより、コレステリック液晶素子30の配置スペースを大幅に小さくして、画像表示装置10の小型化(薄型化)を図ることができる。
【0113】
コレステリック液晶層34において、光学軸40Aが回転する一方向である配列軸Dの方向を、適宜、設定することで、光の反射方向(回折角度)を調節できる。
【0114】
また、同じ波長で、同じ旋回方向の円偏光を反射する場合に、配列軸D方向に向かう液晶化合物40の光学軸40Aの回転方向を逆にすることで、円偏光の反射方向を逆にできる。
例えば、
図3および
図4においては、配列軸D方向に向かう光学軸40Aの回転方向は時計回りで、ある円偏光が配列軸D方向に傾けて反射されるが、これを反時計回りとすることで、ある円偏光が配列軸D方向とは逆方向に傾けて反射される。
【0115】
さらに、同じ液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層では、液晶化合物40の螺旋の旋回方向すなわち反射する円偏光の旋回方向によって、反射方向が逆になる。
例えば、螺旋の旋回方向が右捩じれの場合、右円偏光を選択的に反射するものであり、配列軸D方向に沿って光学軸40Aが時計回りに回転する液晶配向パターンを有することにより、右円偏光を配列軸D方向に傾けて反射する。
また、例えば、螺旋の旋回方向が左捩じれの場合、左円偏光を選択的に反射するものであり、配列軸D方向に沿って光学軸40Aが時計回りに回転する液晶配向パターンを有する液晶層は、左円偏光を配列軸D方向と逆方向に傾けて反射する。
【0116】
従って、コレステリック液晶素子30のコレステリック液晶層34は、選択的に反射する円偏光の旋回方向すなわち螺旋の旋回方向に応じて、入射した光が適正にカーブハーフミラー20に向かうように、配列軸Dの方向および液晶配向パターンにおける光学軸40Aの回転方向を設定する。
【0117】
図2に示す、液晶配向パターンを有さないコレステリック液晶層28は、入射した光を鏡面反射する。そのため、このコレステリック液晶層を有するコレステリック液晶素子18は、カーブハーフミラー20に仮想映像Aを入射させるためには、
図1に示すように、表示素子12からの仮想映像Aの入射方向に対して、45°程度の角度を有して配置する必要がある。すなわち、コレステリック液晶素子18は、光の入射方向および反射方向に対して、法線が45°となるように、配置する必要がある。
これに対して、反射型の回折素子であるコレステリック液晶層34は、入射光を回折して反射できる。そのため、
図10に概念的に示す画像表示装置10Aのように、コレステリック液晶素子18の法線と仮想映像Aの入射方向とが成す角度を、45°よりも、大きくできる。なお、仮想映像Aの入射方向は、通常、レンズ14の光軸の方向である。
その結果、
図10に示すように、コレステリック液晶素子18の配置に必要なスペースを大幅に小さくして、画像表示装置10Aを小型化(薄型化)することができる。
なお、
図2に示した例では表示素子12の法線方向およびレンズ14の光軸の方向とカーブハーフミラー20の光軸方向が直交するように配置している。そのため、液晶配向パターンを有さないコレステリック液晶層28(コレステリック液晶素子18)は光の入射方向および反射方向に対して、法線が45°となるように配置している。表示素子12の法線方向およびレンズ14の光軸の方向とカーブハーフミラー20の光軸方向が傾斜して交差するように配置した場合は、液晶配向パターンを有さないコレステリック液晶層28は光の入射方向および反射方向に対して、法線が45°とは異なる角度に配置してもよい。このような場合でも、反射型の回折素子であるコレステリック液晶層34を用いることで、コレステリック液晶素子18の配置に必要なスペースを小さくして、画像表示装置10Aを小型化(薄型化)することができる。
【0118】
このような液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34(コレステリック液晶素子18)は、上述したように、反射型の回折素子として作用する。
液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34では、液晶化合物40の光学軸40Aが180°回転する長さである1周期Λが、回折素子としての回折構造の周期(1周期)である。また、コレステリック液晶層34において、液晶化合物40の光学軸40Aが回転しながら変化している一方向(配列軸D方向)が回折構造の周期方向である。
本発明において、回折素子の1周期Λの長さには、制限はなく、カーブハーフミラー20への入射方向等に応じて、適宜、設定すればよい。
コレステリック液晶層34の1周期の長さは、0.1~10μmが好ましく、0.2~3μmがより好ましい。コレステリック液晶層34の1周期の長さは、入射する光の波長λに応じて、適宜、設定するのが好ましい。
【0119】
液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34では、1周期Λが短いほど、入射光に対する反射光の回折角度が大きくなる。すなわち、1周期Λが短いほど、鏡面反射に対する反射光の角度の違いが大きくなる。
また、この液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34では、光の反射角度(回折角)は、反射する光の波長によって、角度が異なる。具体的には、長波長の光ほど、入射光に対する反射光の回折角度が大きくなる。
【0120】
従って、上述したように、コレステリック液晶素子30が、この液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層34を、複数層、有する場合には、複数層のコレステリック液晶層34において、選択反射中心波長の順列と、1周期Λの順列とが、一致しているのが好ましい。
【0121】
例えば、コレステリック液晶素子30が、赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層と、緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層と、青色光を選択的に反射するコレステリック液晶層との、3層のコレステリック液晶層34を有しているとする。
この場合には、赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層の選択反射中心波長が最も長く、緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層の選択反射中心波長が次に長く、青色光を選択的に反射するコレステリック液晶層の選択反射中心波長が最も短い。
従って、この際には、各コレステリック液晶層の液晶配向パターンにおける1周期Λは、最も選択反射中心波長が長い赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層の1周期Λが最も長く、2番目に選択反射中心波長が長い緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層の1周期Λが2番目に長く、最も選択反射中心波長が短い青色光を選択的に反射するコレステリック液晶層の1周期Λが最も短いのが、好ましい。
【0122】
このような構成とすることにより、コレステリック液晶素子30がカーブハーフミラー20に向かって反射する各色の仮想映像Aの反射方向を、同方向にできる。
その結果、仮想映像Aとして、色ズレのないカラー画像を、使用者Uによる観察位置に出射できる。
【0123】
図3に示す例は、コレステリック液晶層34のX-Z面において、液晶化合物40が、主面(X-Y面)に対して、その光学軸40Aが平行に配向している構成である。
しかしながら、本発明は、これに制限はされない。例えば、
図7に概念的に示すように、コレステリック液晶層34のX-Z面において、液晶化合物40が、主面(X-Y面)に対して、その光学軸40Aが傾斜して配向している構成であってもよい。
【0124】
また、
図7に示す例では、コレステリック液晶層34のX-Z面において、液晶化合物40の主面(X-Y面)に対する傾斜角度(チルト角)は厚さ方向(Z方向)に一様としたが、本発明は、これに限定はされない。コレステリック液晶層34において、液晶化合物40のチルト角が厚さ方向で異なっている領域を有していてもよい。
例えば、
図8に示す例は、液晶層の、配向膜26側の界面において液晶化合物40の光学軸40Aが主面に平行であり(プレチルト角が0であり)、配向膜26側の界面から厚さ方向に離間するにしたがって、液晶化合物40のチルト角が大きくなって、その後、他方の界面(空気界面)側まで一定のチルト角で液晶化合物が配向されている構成である。
【0125】
このように、コレステリック液晶層34においては、上下界面の一方の界面において、液晶化合物の光学軸がプレチルト角を有している構成であってもよく、両方の界面でプレチルト角を有する構成であってもよい。また、両界面でプレチルト角が異なっていてもよい。
このように液晶化合物がチルト角を有して(傾斜して)いることにより、光が回折する際に実効的な液晶化合物の複屈折率が高くなり、回折効率を高めることができる。
【0126】
液晶化合物40の光学軸40Aと主面(X-Y面)とのなす平均角度(平均チルト角)は、5~80°が好ましく、10~50°がより好ましい。なお、平均チルト角は、コレステリック液晶層34のX-Z面を偏光顕微鏡観察することにより測定できる。なかでも、コレステリック液晶層34のX-Z面において、液晶化合物40は、主面(X-Y面)に対して、その光学軸40Aが同一の方向に傾斜配向することが好ましい。
なお、上記チルト角は、コレステリック液晶層の断面の偏光顕微鏡観察において、液晶化合物40の光学軸40Aと主面とのなす角度を任意の5か所以上で測定して、それらを算術平均した値である。
【0127】
コレステリック液晶層34(回折素子)に垂直に入射した光は、液晶層内において斜め方向に屈曲力が加わり、斜めに進む。液晶層内において光が進むと、本来は垂直入射に対して所望の回折角が得られるように設定されている回折周期等の条件とのずれが生じるために、回折ロスが生じる。
液晶化合物をチルトさせた場合、チルトさせない場合と比較して、光が回折する方位に対してより高い複屈折率が生じる方位が存在する。この方向では実効的な異常光屈折率が大きくなるため、異常光屈折率と常光屈折率の差である複屈折率が高くなる。
狙った回折する方位に合わせて、チルト角の方位を設定することによって、その方位での本来の回折条件とのずれを抑制することができる。その結果、チルト角を持たせた液晶化合物を用いた場合の方が、より高い回折効率を得ることができると考えられる。
【0128】
また、チルト角はコレステリック液晶層34の界面の処理によって制御されるのが好ましい。
支持体側の界面においては、配向膜にプレチルト処理をおこなうことにより液晶化合物のチルト角を制御することが出来る。例えば、配向膜の形成の際に配向膜に紫外線を正面から露光した後に斜めから露光することにより、配向膜上に形成する液晶層中の液晶化合物にプレチルト角を生じさせることが出来る。この場合には、2回目の照射方向に対して液晶化合物の単軸側が見える方向にプレチルトする。ただし、2回目の照射方向に対して垂直方向の方位の液晶化合物はプレチルトしないため、面内でプレチルトする領域とプレチルトしない領域が存在する。このことは、狙った方位に光を回折させるときにその方向に最も複屈折を高めることに寄与するので回折効率を高めるのに適している。
さらに、液晶層中または配向膜中にプレチルト角を助長する添加剤を加えることも出来る。この場合、回折効率を更に高める因子として添加剤を利用できる。
この添加剤は空気側の界面のプレチルト角の制御にも利用できる。
【0129】
ここで、コレステリック液晶層34は、SEMで観察した断面において、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部が、主面に対して傾斜している。液晶層は、法線方向および法線に対して傾斜した方向から面内レタデーションReを測定した際に、遅相軸面内および進相軸面内のいずれかにおいて、面内レタデーションReが最小となる方向が法線方向から傾斜しているのが好ましい。具体的には、面内レタデーションReが最小となる方向が法線と成す測定角の絶対値が5°以上であることが好ましい。言い換えると、液晶層の液晶化合物が主面に対して傾斜し、かつ、傾斜方向が液晶層の明部および暗部に略一致していることが好ましい。
コレステリック液晶層34がこのような構成を有することにより、液晶化合物が主面に平行である液晶層に比して、高い回折効率で円偏光を回折できる。
【0130】
コレステリック液晶層34の液晶化合物40が主面に対して傾斜し、かつ、傾斜方向が明部および暗部に略一致している構成では、反射面に相当する明部および暗部と、液晶化合物40の光学軸とが一致している。そのため、光の反射(回折)に対する液晶化合物の作用が大きくなり、回折効率を向上できる。その結果、入射光に対する反射光の光量をより向上できる。
【0131】
コレステリック液晶層34の進相軸面または遅相軸面において、コレステリック液晶層34の光学軸傾斜角の絶対値は5°以上が好ましく、10°以上がより好ましく、15°以上がさらに好ましい。
光学軸傾斜角の絶対値を10°以上とすることにより、より好適に、液晶化合物40の方向を明部および暗部に一致させ、回折効率を向上できる点で好ましい。
【0132】
このような液晶配向パターンおよびPG構造を有するコレステリック液晶層34は、上述のようにして配向パターンを形成した配向膜26に、先と同様にしてコレステリック液晶層を形成することで、形成できる。
【0133】
上述したように、このような液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層は、カーブハーフミラー20に変えて、本発明における透明反射素子として利用することも可能である。
【0134】
一例として、
図11の平面図に概念的に示すような、液晶配向パターンが、液晶化合物40の光軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状の液晶配向パターンであるコレステリック液晶層を有する透明反射素子20Aが例示される。
なお、
図11においても、
図4と同様、配向膜の表面の液晶化合物40のみを示す。しかしながら、このコレステリック液晶層においても、
図3に示されるように、この配向膜の表面の液晶化合物40から、液晶化合物40が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有するのは、前述のとおりである。ただし、透明反射素子20A(透明反射素子)として用いられるコレステリック液晶層は、PG構造を有さなくてもよい。
【0135】
透明反射素子20Aに利用されるコレステリック液晶層では、液晶化合物40の光軸の向きは、コレステリック液晶層の中心から外側に向かう多数の方向、例えば、矢印A1で示す方向、矢印A2で示す方向、矢印A3で示す方向…に沿って、連続的に回転しながら変化している。
また、矢印A1、A2およびA3に沿う光軸の回転方向は、コレステリック液晶層の中心を境に、逆転している。
【0136】
このような、同心円状の液晶配向パターン、すなわち、放射状に光軸が連続的に回転して変化する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層は、液晶化合物40の光軸の回転方向および反射する円偏光の方向に応じて、入射光を、集束光として反射できる。
また、コレステリック液晶層は、選択的に反射する波長帯域および旋回方向の光以外は、透過する。
すなわち、この同心円状の液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層を有する透明反射素子20Aは、反射波長に選択性を有する光透過性の凹面鏡としての機能を発現するので、カーブハーフミラー20に変えて用いることで、本発明の画像表示装置が構成できる。
【0137】
[画像表示装置の別の態様]
上述した画像表示装置は、コレステリック液晶層のPG構造における面ピッチPの変化が、比較的、小さいもので、例えば、1層のコレステリック液晶層が赤色光、緑色光および青色光の、いずれか1つの色の光に対応するものである。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、PG構造における面ピッチPの変化が大きく、1層のコレステリック液晶層が、例えば、赤色光および緑色光、緑色光および青色光、ならびに、赤色光、緑色光および青色光など、複数色の波長帯域(複数色分の波長帯域の広さ)に対応するものであってもよい。
以下の説明では、複数色の波長帯域に対応するコレステリック液晶層を、広反射波長帯域のコレステリック液晶層とも言う。
【0138】
すなわち、広反射波長帯域のコレステリック液晶層は、PG構造における面ピッチPの変化、言い換えれば、面ピッチPの差が、非常に大きい物であり、選択的な反射波長帯域が非常に広い。そのため、広反射波長帯域のコレステリック液晶層は、1層で、赤色光、緑色光および青色光の右円偏光または左円偏光を、選択的に反射することができる。
また、赤色光から青色光まで、可視光の波長帯域が、全て反射可能であるので、表示素子12が表示した仮想映像Aが斜め入射して、コレステリック液晶層のブルーシフトが生じても、仮想映像Aを好適に反射できる。従って、広反射波長帯域のコレステリック液晶層を用いた場合でも、輝度均一性が高い仮想映像Aを表示できる。
【0139】
なお、選択的な反射波長帯域の広さは、PG構造を形成する際における、厚さ方向の光の照射量の差を調節する方法等、上述した方法で調節可能である。
【0140】
広反射波長帯域のコレステリック液晶層を用いる本発明の画像表示装置としては、一例として、コレステリック液晶素子18において、コレステリック液晶層28に代えて、この広反射波長帯域のコレステリック液晶層を用いる以外は、
図1に示される画像表示装置10と、全く同様の構成の画像表示装置が例示される。
なお、上述したように、広反射波長帯域のコレステリック液晶層は、1層で可視光全域の右円偏光または左円偏光を反射可能である。従って、表示素子12としては、赤色画像、緑色画像および青色画像による、フルカラー画像を表示する表示素子(ディスプレイ)を用いるのが好ましい。
また、広反射波長帯域のコレステリック液晶層を用いる本発明の画像表示装置は、コレステリック液晶層は、1層のみとするのが好ましい。
なお、広反射波長帯域のコレステリック液晶層は、複数層を用いることに制限はなく、広反射波長帯域のコレステリック液晶層を用いる本発明の画像表示装置は、コレステリック液晶層を2層以上有していてもよい。
【0141】
以上、本発明の画像表示装置およびARグラスについて詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例0142】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0143】
[比較例1]
(配向膜の形成)
支持体としてガラス基板を用意した。支持体上に、下記の配向膜形成用塗布液をスピンコートで塗布した。この配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し、配向膜を形成した。
【0144】
配向膜形成用塗布液
―――――――――――――――――――――――――――――――――
下記光配向用素材 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0145】
【0146】
(配向膜の露光)
得られた配向膜P-1に偏光紫外線を照射(50mJ/cm2、超高圧水銀ランプ使用)することで、配向膜P-1の露光を行った。
【0147】
(コレステリック液晶層の形成)
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物として、下記の組成物A-1を調製した。この組成物A-1は、右円偏光を反射するコレステリック液晶層(コレステリック液晶相)を形成する、液晶組成物である。
組成物A-1
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(BASF社製、Irgacure(登録商標)907)
3.00質量部
光増感剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
キラル剤Ch-1 4.98質量部
レベリング剤T-1 0.08質量部
メチルエチルケトン 203.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
配向膜P-1上に、上記の組成物A-1を塗布した。
組成物A-1の塗膜をホットプレート上で80℃にて3分間(180sec)加熱した。その後、80℃にて、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を600mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、組成物A-1を硬化して液晶化合物の配向を固定化し、コレステリック液晶層を形成した。
【0152】
コレステリック液晶層の断面をSEMで観察した。
その結果、明部と暗部はコレステリック液晶層の主面に対して平行で、厚さ方向の明部と暗部の間隔である面ピッチは、ほぼ一定であった。明部および暗部から測定したコレステリック液晶相の面ピッチは0.4μmであった。なお、面ピッチは、明部から明部、または、暗部から暗部の線に対する法線方向の間隔を1/2ピッチとして、測定した。
ここで言う明部および暗部とは、上述のように、コレステリック液晶層の断面をSEMで観察した際に見られる、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部である。
【0153】
[実施例1]
比較例1と同様にして、支持体に配向膜P-1を形成し、露光を行った。
【0154】
(コレステリック液晶層の形成)
コレステリック液晶層する液晶組成物として、下記の組成物A-2を調製した。この組成物A-2は、右円偏光を反射するコレステリック液晶層(コレステリック液晶相)を形成する、液晶組成物である。
組成物A-2
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
キラル剤Ch-1 3.55質量部
キラル剤Ch-2 1.00質量部
メチルエチルケトン 203.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0155】
【0156】
配向膜P-1上に、上記の組成物A-2を塗布した。
組成物A-2の塗膜をホットプレート上で80℃にて3分間加熱した。
その後、80℃にて、大気雰囲気下で高圧水銀灯を用いて、300nmのロングバスフィルタ、および350nmのショートパスフィルタを介して、キラル剤のHTPを変化させるための1回目の露光を行った。1回目の露光は、波長315nmで測定される光の照射量が10mJ/cm2となるように行った。
さらに、80℃にて、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を600mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶組成物を硬化するための2回目の露光を行った。これにより、組成物A-2を硬化して液晶化合物の配向を固定化し、コレステリック液晶層を形成した。
【0157】
コレステリック液晶層の断面をSEMで観察した。
その結果、明部と暗部はコレステリック液晶層の主面に対して平行で、厚さ方向の明部と暗部の間隔すなわち面ピッチは、配向膜側から配向膜と離間する側に向かって、厚さ方向に連続的に増大している様子が観察された。また、面ピッチの平均値は0.4μmであった。
【0158】
[実施例2]
比較例1と同様にして、支持体に配向膜P-1を形成し、露光を行った。
【0159】
(コレステリック液晶層の形成)
コレステリック液晶層する液晶組成物として、下記の組成物A-3を調製した。この組成物A-3は、右円偏光を反射するコレステリック液晶層(コレステリック液晶相)を形成する、液晶組成物である。
組成物A-3
―――――――――――――――――――――――――――――――――
棒状液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤(日本化薬製、KAYACURE DETX-S)
1.00質量部
キラル剤Ch-3 3.4質量部
メチルエチルケトン 142.00質量部
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【0160】
【0161】
配向膜P-1上に、上記の組成物A-3を塗布した。
組成物A-3の塗膜をホットプレート上で100℃にて3分間加熱した。
その後、100℃にて、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて、300nmのロングバスフィルタ、および350nmのショートパスフィルタを介して、キラル剤のHTPを変化させるための1回目の露光を行った。1回目の露光は、波長315nmで測定される光の照射量が9mJ/cm2となるように行った。
さらに、100℃にて、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を1000mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより、液晶組成物を硬化するための2回目の露光を行った。これにより、組成物A-3を硬化して液晶化合物の配向を固定化し、コレステリック液晶層を形成した。
【0162】
コレステリック液晶層の断面をSEMで観察した。
その結果、明部と暗部はコレステリック液晶層の主面に対して平行で、厚さ方向の明部と暗部の間隔すなわち面ピッチは、配向膜側から配向膜と離間する側に向かって、厚さ方向に連続的に増大している様子が観察された。なお、実施例1に比して、配向膜側から配向膜と離間する側に向かう面ピッチの変化が大きかった。また、面ピッチの平均値は0.4μmであった。
【0163】
[実施例3]
比較例1と同様にして、支持体に配向膜P-1を形成した。
【0164】
(配向膜の露光)
図9に示す露光装置を用いて配向膜を露光して、配向パターンを有する配向膜PG-1を形成した。
露光装置において、レーザとして波長(325nm)のレーザ光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を300mJ/cm
2とした。なお、2つのレーザ光およびの干渉により形成される配向パターンの1周期(光学軸が180°回転する長さ)は、2つの光の交差角(交差角α)を変化させることによって制御した。
【0165】
(コレステリック液晶層の形成)
実施例1において、コレステリック液晶層を形成する組成物A-2において、キラル剤Ch-1の量を3.9質量部に変更した以外は、同様に組成物A-4を調製した。
この組成物A-4を用いた以外は、実施例1と同様にして、コレステリック液晶層を形成した。
【0166】
コレステリック液晶層は、
図4に示すような、液晶化合物の光学軸が一方向に向かって回転する、周期的な液晶配向パターンを有していることを偏光顕微鏡で確認した。
コレステリック液晶層を液晶化合物の光学軸の回転方向に沿う方向に切削し、断面をSEMで観察した。
その結果、明部と暗部は、コレステリック液晶相の主面に対して傾斜していた。また、配向膜側から配向膜と離間する側に向かって、明部と暗部との間隔すなわち傾斜する面ピッチが厚さ方向に連続的に増大し、かつ、明部と暗部の傾斜角も連続的に増大する形状が見られた。なお、主面に対して傾斜する明部および暗部の面ピッチは、明部から明部、または、暗部から暗部の傾斜面に対する法線方向の間隔を1/2ピッチとした。傾斜角(明部/暗部の傾斜角)とは、明部および暗部がコレステリック液晶層の主面に対して成す角度である。
【0167】
断面をSEMで観察した結果、主面に対して傾斜する明部および暗部の面ピッチ(傾斜面ピッチ)の厚さ方向の平均値は0.37μmであった。また、コレステリック液晶層の液晶配向パターンにおいて、液晶化合物の光学軸が180°回転する1周期は、0.61μmであった。
【0168】
[評価]
(反射波長帯域)
変角分光光度計(村上色彩技術研究所製、GSP-1B型)を用い、上述した方法によって、コレステリック液晶層の反射波長帯域を測定した。
なお、反射波長帯域の測定は、比較例1、実施例1および実施例2では、コレステリック液晶層の法線に対して45°傾いた方向から光を入射して行い、実施例3では、コレステリック液晶層の法線に対して60°傾いた方向から光を入射して行った。なお、実施例3は波長によって反射角度が異なるため、受光部の角度を変えて測定を行った。
【0169】
(明るさの均一性)
作製したコレステリック液晶層(コレステリック液晶素子)を用いて、
図1に示すような画像表示装置を作製した。
表示素子(光源)は、波長532nmのレーザーを用い、光源の前面に円偏光板を配置し、コレステリック液晶層に対して右円偏光の光を入射するようにした。
コレステリック液晶層は、比較例1、実施例1および実施例2では、レンズの光軸とコレステリック液晶層の法線とが成す角度が45°となるように、実施例3では、同角度が60°となるように、配置した。
表示素子からコレステリック液晶素子への入射光の光路を、レンズの光軸と一致した状態を中心として、±20°の範囲で変化させて光を入射して、カーブミラーからの反射光をパワーメータで測定した。すなわち、比較例1、実施例1および実施例2では、コレステリック液晶層の法線に対して25~65°の範囲で光を入射し、実施例3では、コレステリック液晶層の法線に対して40~80°の範囲で光を入射した。
【0170】
パワーメータの測定結果から、±20°の範囲の入射角に対するカーブミラーからの反射光量の平均値によって、輝度均一性を評価した。
その結果、実施例2の輝度均一性が最も高く(評価A)、次いで、実施例1および実施例3の輝度均一性が高く(評価B)、比較例の輝度均一性が最も低かった(評価C)。
なお、実施例1と実施例3とは、輝度均一性の評価は同等であったが、実施例3は、レンズの光軸に対して、法線が60°となるようにコレステリック液晶層を配置しているため、装置全体を薄型にできた。
結果を下記の表に示す。
【0171】
【表1】
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。