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  • 特開-線維化抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028682
(43)【公開日】2024-03-04
(54)【発明の名称】線維化抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/59 20060101AFI20240226BHJP
   A61K 36/481 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 36/725 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240226BHJP
   A61K 36/9068 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20240226BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20240226BHJP
【FI】
A61K36/59
A61K36/481
A61K36/284
A61K36/725
A61K36/484
A61K36/9068
A61P11/00
A61P17/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024011371
(22)【出願日】2024-01-29
(62)【分割の表示】P 2019236220の分割
【原出願日】2019-12-26
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 統星
(72)【発明者】
【氏名】赤木 淳二
(57)【要約】
【課題】本発明は、線維化抑制剤として有効な漢方を提供することを目的とする。
【解決手段】防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス及び/又は大柴胡湯エキスは、線維化抑制剤として有効である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
防已黄耆湯エキスを含有する、組織の線維化抑制剤。
【請求項2】
前記組織が脂肪組織である、請求項1に記載の線維化抑制剤。
【請求項3】
前記組織が更年期女性の脂肪組織である、請求項1又は2に記載の線維化抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維化抑制剤に関する。より具体的には、本発明は、防風通聖散、大柴胡湯及び防已黄耆湯の線維化抑制剤としての新たな用途に関する。
【背景技術】
【0002】
線維化とは、組織において結合組織が蓄積する現象をいう。例えば、肝臓において線維化が進むと肝硬変に至る。また、腎臓、肺、心臓、膵臓等の臓器においても、線維化に起因して各種疾患に至ることが知られている。
【0003】
線維化は健康被害を引き起こすだけでなく、外観に影響を与える場合もある。例えば脂肪組織が線維化するとセルライトを形成する。非特許文献1にも記載されているとおり、セルライトは、肥満とは異なり、脂肪組織に線維化が生じ変性を来たして皮膚に凸凹となって表れた皮膚の状態であり、臨床像や病態生理的観点からも肥満とは異なる症状である。
【0004】
線維化に関連する各種症状に対する予防又は改善を目的として、線維化を抑制する成分が報告されている。例えば、特許文献1には、Sema6ファミリーに属するタンパク質又は
その部分断片をコードするポリヌクレオチド;Sema6ファミリーに属するタンパク質又は
その部分断片;若しくは当該タンパク質又はその部分断片をリガンドとする受容体に対するアゴニストを有効成分として含有する線維化抑制剤が記載されている。非特許文献2には、生薬カンゾウの成分イソリクイリチゲニンが脂肪細胞に作用して線維化を抑制することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】臨床皮膚科、第69巻第5号、2015年4月10日、148-150頁
【非特許文献2】Scientific Reports、6:23097、DOI: 10.1038/srep23097
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-21026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
漢方や生薬製剤は、古来からの東洋医学に基づいた考えにより、体質改善や体全体を整えることを主眼した薬剤であり、自然の生薬を用いているため心理的に受け入れられやすく、副作用が少ないこと等で適用対象が広い。そこで、本発明者は、線維化を抑制する成分として報告されたイソリクイリチゲニンを含有する生薬であるカンゾウに着眼した。しかしながら、カンゾウの抽出エキスによる線維化抑制効果が不十分であるという課題に直面した。
【0008】
そこで、本発明は、線維化抑制剤として有効な漢方を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、カンゾウを構成生薬として含む防風通聖散及び防已黄耆湯のエキスに、カンゾウエキスをしのぐ優れた線維化抑制作用があることを予期せず見出した。さらに、本発明者は、大柴胡湯のエキスにも優れた線維化抑制作用があることを予期せず見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス及び/又は大柴胡湯エキスを含有する、組織の線維化抑制剤。
項2. 前記組織が脂肪組織である、項1に記載の線維化抑制剤。
項3. 前記組織が更年期女性の脂肪組織である、項1又は2に記載の線維化抑制剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、線維化抑制剤として有効な漢方が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】更年期の脂肪線維化モデルマウスに対して、防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス、大柴胡湯エキス、又は甘草エキスを投与した場合の脂肪組織における線維化部分の面積を、コントロールと対比した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の線維化抑制剤は、防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス及び/又は大柴胡湯エキスを含有することを特徴とする。
【0014】
有効成分
防風通聖散としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、
日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、トウキ、シャクヤク、センキュウ、サンシシ、レンギョウ、ハッカ、ショウキョウ、ケイガイ、ボウフウ、マオウ、ダイオウ、ボウショウ、ビャクジュツ、キキョウ、オウゴン、カンゾウ、セッコウ、及びカッセキからなる混合生薬が挙げられる。書簡によっては、前記生薬の内、ビャクジュツを含まないもの(例えば「経験漢方処方分量集」、大塚敬節
・矢数道明監集、医道の日本社発行)や、オウゴンを含まないもの(例えば「続漢方あれこれ」大阪読売新聞社編、浪速社発行)がある。また、防風通聖散の処方によっては、ボウフウの代わりにハマボウフウを含むものや、ビャクジュツの代わりにソウジュツを含むものもある。
【0015】
防已黄耆湯としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、ボウイ、オウギ、ジュツ、ショウキョウ、タイソウ、カンゾウからなる混合生薬が挙げられる。また、防已黄耆湯には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている混合生薬(漢方処方)が包含される。
【0016】
大柴胡湯としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、サイコ、ハンゲ、オウゴン、キジツ、シャクヤク、ショウキョウ、タイソウ、ダイオウからなる混合生薬が挙げられる。また、大柴胡湯には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている混合生薬(漢方処方)が包含される。
【0017】
本発明における防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス、および大柴胡湯エキスは、それぞれ上記の混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することでエキス液として得てもよいし、エキス液を乾燥処理することでエキス末として得てもよい。
【0018】
防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス、大柴胡湯エキスの製造において、抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されないものの、一例として水又は含水エタノールが挙げられる。また、乾燥処理としても、特に限定されず、公知の方法、例えば、スプレードライ法や、エキス液の濃度を高めた軟エキスに対して適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0019】
本発明において用いられる防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス、大柴胡湯エキスとしては、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。例えば、防風通聖散のエキス末としては、「防風通聖散乾燥エキスA」、「防風通聖散乾燥エキスAM」、「防風通聖散乾燥エキスE」、「防風通聖散乾燥エキスEM」(いずれも日本粉末株式会社製)、および「防風通聖散料乾燥エキス-C」、「防風通聖散料乾燥エキス-F」(いずれもアルプス薬品工業株式会社製)等がそれぞれ商品として知られており、商業的に入手することもできる。防已黄耆湯のエキス末としては、防已黄耆湯乾燥エキスAおよび防已黄耆湯乾燥エキスAZ(いずれも日本粉末株式会社製)、並びに防已黄耆湯エキス末および防已黄耆湯乾燥エキス-F(いずれもアルプス薬品工業株式会社製)等がそれぞれ商品として知られており、商業的に入手することもできる。大柴胡湯のエキス末としては、大柴胡湯乾燥エキスAM、大柴胡湯乾燥エキスSN、及び大柴胡湯乾燥エキス粉末(いずれも日本粉末株式会社製)、並びに大柴胡湯乾燥エキスF、及び大柴胡湯乾燥エキス-F(いずれもアルプス薬品工業製)等がそれぞれ商品として知られており、商業的に入手することもできる。
【0020】
本発明の線維化抑制剤において、防風通聖散エキス、防已黄耆湯エキス、大柴胡湯エキス含有量としては、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、乾燥エキス量換算で、例えば1~100重量%が挙げられる。乾燥エキス量換算とは、乾燥エキス(エキス末)を使用する場合にはそれ自体の量でありエキス液や軟エキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0021】
他の含有成分
本発明の線維化抑制剤は、前述の漢方の他に、必要に応じて、他の薬理成分を含んでいてもよい。このような薬理成分の種類については、特に限定されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬、生薬エキス末、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの薬理成分の含有量については、使用する薬理成分の種類等に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0022】
本発明の線維化抑制剤には、所望の剤型に調製するために、必要に応じて、薬学的に許容される基剤や添加剤等が含まれていてもよい。このような基剤及び添加剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの基剤や添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの基剤や添加剤の含有量については、使用する添加成分の種類や剤型等に応じて公知のものから適宜設定すればよい。
【0023】
剤型
本発明の線維化抑制剤の剤型については、特に制限されず、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤、フィルム剤、液剤(ドリンク剤)等のいずれであってもよい。これらの剤型の中でも、服用簡易性等の観点から、好ましくは錠剤、顆粒剤、フィルム剤が挙げられる。これらの剤型は、薬学的に許容される基材や添加剤を用いて調製することができ、当該基材や添加剤の種類や配合量についても、製剤技術の分野で公知である。
【0024】
用途
本発明の線維化抑制剤は、組織における線維化を抑制する目的で使用される。本発明の線維化抑制剤が適用対象とする組織としては特に限定されず脂肪組織、肝臓組織、腎臓組織、肺組織、心臓組織、膵臓組織等が挙げられる。本発明の線維化抑制剤は、これら組織における線維化の抑制作用を利用して、線維化によって引き起こされる各種症状の予防又は改善の目的でも使用される。そのような症状としては、セルライト、肝線維化・肝硬変、間質性肺炎・肺線維症、心筋線維化、膵線維化等が挙げられる。
【0025】
上記の用途の中でも、より一層優れた線維化抑制効果を得る観点から、脂肪組織の線維化を抑制する目的で使用されること、具体的には脂肪組織の線維化によって引き起こされるセルライトの予防又は改善の目的で使用されること(つまり、セルライトの予防又は改善剤として使用されること)が好ましい。
【0026】
更に、本発明の線維化抑制剤は線維化抑制能に優れているため、本発明の線維化抑制剤が対象とする組織は、線維化が起きやすくなる中年期(例えば45歳~55歳)の人の脂肪組織であることが好ましく、脂肪の線維化によるセルライトが生じやすい更年期の女性の脂肪組織であることがより好ましい。
【0027】
用量・用法
本発明の線維化抑制剤は、経口投与によって投与される。本発明の線維化抑制剤の投与量については、線維化に関連する症状及び年齢等に応じて適宜設定される。例えば、1日当たりの摂取量として、乾燥エキス量換算(総量)で400~10000mgが挙げられ、防風通聖散エキスの乾燥エキス量換算量で、1000~10000mg、好ましくは2000~8000mg、より好ましくは3000~7000mg、さらに好ましくは4500~6000mgが挙げられ、防已黄耆湯エキスの乾燥エキス量換算量で、1300~6000mg、好ましくは2000~4800mg、より好ましくは3000~4000mgが挙げられ、大柴胡湯エキスの乾燥エキス量換算量で、1300~6000mg、好ましくは1700~5800mg、より好ましくは2000~3000mgが挙げられる。
【0028】
本発明の線維化抑制剤の服用タイミングについては特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよいが、好ましくは食前又は食間が挙げられる。また、本発明の効果をより良好に得るために、3週間以上、好ましくは5週間以上、より好ましくは7週間以上連続服用することが好ましい。
【実施例0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
1.エキス末の調製
原料生薬として、表1に示す生薬を用意した。表1中の各エキス末の量(mg)は1日当たりの量であり、各生薬の量(g)は1日あたりの原生薬換算量であるが、エキス末の調製においては、原料生薬を表1と同じ比率で、抽出液のスプレードライが可能な程度の十分な量用意して用いた。生薬を刻んだ後混合し、約20倍量の水を用いて約100℃で30分間抽出し、遠心分離して抽出液を得た。抽出液を減圧下で濃縮し、スプレードライヤーを用いて乾燥し、防風通聖散エキス末、防已黄耆湯エキス末、大柴胡湯エキス末、甘草エキス末を得た。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給することによって行った。
【0031】
【表1】
【0032】
2.実験方法
マウス(C57BL/6Jマウス、6週齢、雌)に対して、閉経期を再現する両側卵巣摘出処置(OVX)を行い、手術後1週間の回復期間は普通食で飼育を行った。その後、高脂肪食(HFD32、日本クレア株式会社)を10日間自由摂食させて飼育し、更年期の脂肪線維化モデルマウスを作製した。
【0033】
更年期の脂肪線維化モデルマウスを、非投与群(コントロール)、防風通聖散群、防已黄耆湯群、大柴胡湯群、及び甘草群の計5群(1群当たり7匹)に分けた。非投与群(コントロール)では、エキス末を配合していない高脂肪食を7週間自由摂取させた。防風通聖散群、防已黄耆湯群、大柴胡湯群、及び甘草群では、前記高脂肪食に、上記項目1で製造したエキス末が4重量%となるように配合した飼料を7週間給餌した。なお、群間において摂餌量に差は見られなかった。7週間の飼育後、脂肪組織を摘出し、HE染色を行った。HE染色組織を顕微鏡画像で撮影し、各群について、1画面(649,000μm2
)中のエオジン色素で染色された線維組織の面積の平均値を線維化面積として導出した。線維化面積の解析結果を図1に示す。
【0034】
図1から明らかなとおり、甘草エキスによる線維化抑制効果は1割程度と不十分である一方で、甘草を構成生薬の1つとして含む防風通聖散及び防已黄耆湯と、大柴胡湯とに、甘草エキスのみ(それも生薬換算で5g)の効果の倍以上という顕著な線維化抑制効果が認められた。
図1