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特開2024-28707有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、光電変換素子、塗料組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024028707
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、光電変換素子、塗料組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/16 20230101AFI20240227BHJP
   H10K 50/17 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 50/18 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 85/60 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 50/11 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240227BHJP
   C07D 471/04 20060101ALI20240227BHJP
   H10K 30/50 20230101ALI20240227BHJP
   H10K 30/85 20230101ALI20240227BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20240227BHJP
   H10K 10/46 20230101ALI20240227BHJP
【FI】
H10K50/16
H10K50/17
H10K50/18
H10K85/60
H10K50/11
H10K59/10
C07D471/04 112
H10K30/50
H10K30/85
H01L29/78 618B
H10K10/46
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023194392
(22)【出願日】2023-11-15
(62)【分割の表示】P 2021544041の分割
【原出願日】2020-09-04
(31)【優先権主張番号】P 2019163315
(32)【優先日】2019-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020067667
(32)【優先日】2020-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】深川 弘彦
(72)【発明者】
【氏名】清水 貴央
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翼
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 宗弘
(72)【発明者】
【氏名】森井 克行
(72)【発明者】
【氏名】福留 裕樹
(57)【要約】      (修正有)
【課題】有機EL素子の電子注入層に用いた場合に、優れた電子注入性、電子輸送性が得られる有機薄膜、この有機薄膜を製造する際に好適に用いることができる塗料組成物、およびこれらの有機薄膜や塗料組成物の原料となる有機EL素子用材料を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む単一の膜、又は、前記第1材料を含む膜と前記第2材料を含む膜との積層膜であることを特徴とする有機薄膜を提供する。(式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。)

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用電子注入性材料。
【化1】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【請求項2】
陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
前記陰極と前記陽極との間に請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用電子注入性材料を含む層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
前記陰極と前記発光層との間に請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用電子注入性材料を含む層を有することを特徴とする請求項2に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項4】
前記陰極と請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用電子注入性材料を含む層との間に、無機の酸化物層を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
【請求項6】
請求項2~4のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【請求項7】
下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池用電子注入性材料。
【化2】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【請求項8】
請求項7に記載の有機薄膜太陽電池用電子注入性材料を含む層を含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【請求項9】
下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする光電変換素子用電子注入性材料。
【化3】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【請求項10】
請求項9に記載の光電変換素子用電子注入性材料を含む層を含むことを特徴とする光電変換素子。
【請求項11】
下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ用電子注入性材料。
【化4】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【請求項12】
請求項11に記載の薄膜トランジスタ用電子注入性材料を含む層を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機薄膜および有機薄膜の製造方法、有機エレクトロルミネッセンス(以下、エレクトロルミネッセンス(電界発光)を「EL」と記す場合がある。)素子、表示装置、照明装置、有機薄膜太陽電池、薄膜トランジスタ、光電変換素子、塗料組成物、有機エレクトロルミネッセンス素子用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、薄く、柔軟でフレキシブルである。また、有機EL素子を用いた表示装置は、現在主流となっている液晶表示装置およびプラズマ表示装置と比べて、高輝度、高精細な表示が可能である。また、有機EL素子を用いた表示装置は、液晶表示装置に比べて視野角が広い。このため、有機EL素子を用いた表示装置は、今後、テレビや携帯電話のディスプレイ等としての利用の拡大が期待されている。
また、有機EL素子は、照明装置としての利用も期待されている。
【0003】
有機EL素子は、陰極と発光層と陽極とが積層されたものである。有機EL素子では、陽極の仕事関数と発光層の最高占有軌道(HOMO)エネルギー差は、陰極の仕事関数と発光層の最低非占有軌道(LUMO)エネルギー差と比較して小さい。したがって、発光層に、陽極から正孔を注入することと比較して、陰極から電子を注入することは困難である。このため、従来の有機EL素子では、陰極と発光層との間に、電子注入層を配置して、陰極から発光層への電子の注入を促進している。また、陰極と発光層との間に配置される層にドーパントをドーピングすることで、電子注入・輸送性を改善する取り組みもなされている(例えば、非特許文献1、非特許文献2参照。)。
【0004】
有機EL素子の電子注入層としては、無機の酸化物層が挙げられる(例えば、非特許文献3参照。)。しかし、無機の酸化物層は電子注入性が不十分である。
また、無機の酸化物層の上に、さらに電子注入層を成膜することにより、有機EL素子の電子注入性を改善する技術がある。例えば、非特許文献4には、ポリエチレンイミンからなる電子注入層を有する有機EL素子が記載されている。また、非特許文献5には、アミンが電子の注入速度の改善に有効であることが記載されている。非特許文献6、7、8、12には、電極と有機層との界面において、アミノ基が電子注入に及ぼす効果について記載されている。また、フェナントロリン誘導体について、その金属イオンとの高い配位能力により金属原子からの電子放出を促進し、電極・有機層界面で電子注入障壁を大きく下げることが非特許文献10~11に報告されており、電極と有機層の界面にフェナントロリン誘導体のみからなる有機薄膜を形成することが広く行われている。更に特許文献1には、フェナントロリン化合物を電子輸送性ホスト材料とし、該ホスト材料に不活性金属をドープさせることで電子輸送材料のLUMOのエネルギーレベルを低下させて電子注入を促し、素子の駆動電圧を低下させた有機EL素子が開示されている。また、電子注入層の材料として電子輸送性化合物由来の基に直接又は他の基を介してアミノ基が結合した構造の化合物や酸解離定数pKaが1以上の有機材料を用いた有機EL素子が開示されている(特許文献2~4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2017/211100号
【特許文献2】特開2017-157743号公報
【特許文献3】特開2019-176093号公報
【特許文献4】特開2019-179863号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】カーステン ワルツァー(Karsten Walzer)他3名「ケミカル レビュー(Chemical Review)」第107巻、2007年、p1233-1271
【非特許文献2】ペン ウェイ、外3名「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイエティ (Journal of the American Chemical Society)」、第132巻、2010年、p8852
【非特許文献3】ジャンシャン チェン(Jiangshan Chen)外6名「ジャーナル オブ マテリアルズ ケミストリー(Journal Of Materials Chemistry)」、第22巻、2012年、p5164-5170
【非特許文献4】ヒョサン チョイ(Hyosung Choi)外8名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第23巻、2011年、p2759
【非特許文献5】ウィンファ チョウ(Yinhua Zho)外21名「サイエンス(Science)」、第336巻、2012年、p327
【非特許文献6】ヨンフーン キム(Young-Hoon Kim)外5名「アドバンスト ファンクショナル マテリアルズ(Advanced Functional Materials)」、2014年、DOI:10.1002/adfm.201304163
【非特許文献7】ステファン フォーフル、外4名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、2014年、DOI:10.1002/adma.201304666
【非特許文献8】ステファン フォーフル、外5名「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第26巻、2014年、DOI:10.1002/adma.201400332
【非特許文献9】ペン ウェイ、外3名「ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミカル ソサイエティ(Journal of the American Chemical Society)」、第132巻、2010年、p8852
【非特許文献10】ヒロユキ ヨシダ「ジャーナル オブ フィジカル ケミストリー(J. Phys. Chem. C20151194324459-24464)」、第119巻、2015年、p24459
【非特許文献11】ゼンヤン ビン(Zhengyang Bin)、外7名「ネイチャー コミュニケーションズ(Nature Communications)」、第10巻、2019年、p866
【非特許文献12】ヒロヒコ フカガワ(Hirohiko Fukagawa)、外5名、「アドバンスト マテリアルズ(Advanced Materials)」、第31巻、2019年、p1904201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の電子注入層を含む有機EL素子では、電子注入性、電子輸送性をより一層向上させることが要求されていた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、有機EL素子の電子注入層に用いた場合に、優れた電子注入性、電子輸送性が得られる有機薄膜、この有機薄膜を製造する際に好適に用いることができる塗料組成物、およびこれらの有機薄膜や塗料組成物の原料となる有機EL素子用材料を提供することを課題とする。
また、本発明は、本発明の有機薄膜を用いた有機EL素子、この有機EL素子を備えた表示装置および照明装置、本発明の有機薄膜を含む有機薄膜太陽電池、光電変換素子および有機薄膜トランジスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、有機EL素子の電子注入層に用いる材料として、電子供与性の窒素原子を複素環内に有する多座配位可能な有機材料に着目して検討した。その結果、複数のピリジン環を骨格に含む特定の構造の化合物と、電子を輸送する材料とを含む有機薄膜を、有機EL素子の電子注入層として用いればよいことが分かった。
【0010】
すなわち、本発明の一般式(1)で表される化合物に含まれる窒素原子の高い電子供与性により、無機材料との配位相互作用による電子注入性向上効果に加えて、他の有機材料(電子を輸送する材料)が隣接する場合には、その有機材料と水素結合を形成して、微量の電荷を与えることができ、これにより、他の有機材料側にマイナス電荷が生じ、これもまた電子注入性が向上する要因であるものと推定される。
【0011】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
[1] 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む単一の膜、又は、前記第1材料を含む膜と前記第2材料を含む膜との積層膜であることを特徴とする有機薄膜。
【0012】
【化1】
(一般式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。nは、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m~mは、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0013】
[2] 第1材料は、一般式(1)におけるnが0の化合物であることを特徴とする[1]に記載の有機薄膜。
【0014】
[3] 酸化物層と、該酸化物層上に形成された[1]又は[2]に記載の有機薄膜の層とからなる積層膜。
【0015】
[4] 陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極と前記発光層との間に[1]又は[2]に記載の有機薄膜又は[3]に記載の積層膜を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0016】
[5] 前記陰極と前記有機薄膜との間に、無機の酸化物層を有することを特徴とする[4]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0017】
[6] 前記陰極と前記発光層との間に、前記第1材料と第2材料とを含む膜と前記第2材料を含む膜との積層膜を有することを特徴とする[4]又は[5]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0018】
[7] 前記発光層と前記第1材料と第2材料とを含む膜との間に、前記第2材料を含む層を有することを特徴とする[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0019】
[8] 前記陰極と前記第1材料と第2材料とを含む膜との間に、前記第2材料を含む層を有することを特徴とする[6]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0020】
[9] 前記陽極と前記発光層との間に、前記第2材料を含む層を有することを特徴とする[4]~[8]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0021】
[10] 前記発光層が、前記第2材料を含む、[4]~[9]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0022】
[11] 下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子用材料。
【0023】
【化2】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【0024】
[12] 陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、前記陰極と前記陽極との間に[11]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む層を有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0025】
[13] 前記陰極と前記発光層との間に[11]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む層を有することを特徴とする[12]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0026】
[14] 前記陰極と[11]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む層との間に、無機の酸化物層を有することを特徴とする[12]又は[13]に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【0027】
[15] [4]~[10]、[12]~[14]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする表示装置。
[16] [4]~[10]、[12]~[14]のいずれかに記載の有機エレクトロルミネッセンス素子を備えることを特徴とする照明装置。
【0028】
[17] 下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池用材料。
【0029】
【化3】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【0030】
[18] [1]又は[2]に記載の有機薄膜、[3]に記載の積層膜又は[17]に記載の有機薄膜太陽電池用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする有機薄膜太陽電池。
【0031】
[19] 下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする光電変換素子用材料。
【0032】
【化4】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【0033】
[20] [1]又は[2]に記載の有機薄膜、[3]に記載の積層膜又は[19]に記載の光電変換素子用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする光電変換素子。
【0034】
[21] 下記一般式(2)で表される構造を有するフェナントロリン化合物を含むことを特徴とする薄膜トランジスタ用材料。
【0035】
【化5】
(一般式(2)中、R、Rは同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。m、mは、同一又は異なって、1又は2の数を表す。)
【0036】
[22] [1]又は[2]に記載の有機薄膜、[3]に記載の積層膜又は[21]に記載の薄膜トランジスタ用材料を含む層のいずれかを含むことを特徴とする薄膜トランジスタ。
【0037】
[23] 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含むことを特徴とする塗料組成物。
【0038】
【化6】
(一般式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。nは、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m~mは、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0039】
[24] 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料を含むことを特徴とする塗料組成物。
【0040】
【化7】
(一般式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。nは、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m~mは、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0041】
[25] 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む単一の膜を被形成面上に形成する工程、又は、前記第1材料を含む膜と前記第2材料を含む膜とを被形成面上に順に形成する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【0042】
【化8】
(一般式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。nは、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m~mは、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0043】
[26] 下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料を含む膜を被形成面上に形成する工程を含むことを特徴とする有機薄膜の製造方法。
【0044】
【化9】
(一般式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。nは、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m~mは、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0045】
[27] 前記被形成面が第2材料を含むことを特徴とする[26]に記載の有機薄膜の製造方法。
【発明の効果】
【0046】
本発明の有機薄膜は、電子供与性の特定の有機材料からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む。このため、本発明の有機薄膜を、例えば、有機EL素子の電子注入層に用いた場合、優れた電子注入性、電子輸送性が得られ、更に有機EL素子を長寿命化させる効果も得られる。
本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に本発明の有機薄膜を有するため、有機薄膜によって優れた電子注入性、電子輸送性が得られ、更に有機EL素子を長寿命化させる効果も得られる。
また電子供与性の窒素原子を複素環内に含む多座配位可能な有機材料である、複数のピリジン環を骨格に含む特定の構造の化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む本発明の有機薄膜は、塗布および蒸着のいずれの方法によっても形成することが可能であるため、本発明の有機薄膜を含む有機EL素子を製造する場合のプロセス上の制約が少なく、有機EL素子を構成する層の材料として使用しやすいものである。本発明の有機薄膜の製造方法は、このような本発明の有機薄膜を製造する方法である。
【0047】
本発明の塗料組成物は、電子供与性の窒素原子を複素環内に含む多座配位可能な特定の有機材料からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む。したがって、本発明の塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布することにより、有機EL素子の電子注入層に好適な有機薄膜が得られる。
【0048】
本発明の有機EL素子用材料は、有機EL素子等の作製に用いられる本発明の有機薄膜や塗料組成物に用いられる有用な材料である。また、本材料は、単独で電子注入層または電子輸送層として用いることが可能な点でも有用な材料である。
【0049】
本発明の表示装置および照明装置は、本発明の有機EL素子を備えているため、駆動電圧が低く、優れた特性を有する。
また、本発明の有機薄膜太陽電池、光電変換素子および有機薄膜トランジスタは、本発明の有機薄膜を含むものであるため、優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】量子化学計算を用いて算出されたフェナントロリン誘導体の静電ポテンシャルを示した図である。
図2】量子化学計算を用いて算出されたフェナントロリン誘導体とトリフェニルアミン2分子系における、最安定構造、最高占有軌道の分子軌道、イオン化エネルギーを示した図である。
図3】ホウ素化合物のみ、及び、ホウ素化合物とフェナントロリンが共存した状態のH-NMR測定結果を比較した図である。
図4】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図5】本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。
図6】本発明の有機EL素子の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図7】本発明の有機EL素子の積層構造の他の一例を示す概略断面図である。
図8-1】本発明の有機薄膜の一例を示す概略断面図である。
図8-2】本発明の有機薄膜の一例を示す概略断面図である。
図9-1】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図9-2】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図10-1】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図10-2】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図11-1】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図11-2】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図12-1】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図12-2】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図13-1】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図13-2】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図14-1】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図14-2】本発明の有機薄膜の積層構造の一例を示す概略断面図である。
図15】実施例1、2及び比較例1の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図16】実施例1、2及び比較例1の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図17】実施例1、2及び比較例1の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図18】実施例3~5及び比較例2の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図19】実施例3~5及び比較例2の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図20】実施例3~5及び比較例2の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図21】実施例6、7及び比較例2の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図22】実施例6、7及び比較例2の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図23】実施例6、7及び比較例2の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図24】実施例6、7の有機EL素子の連続駆動時間と輝度との関係を示したグラフである。
図25】実施例1、8の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図26】実施例1、8の有機EL素子の印加電圧と電流密度との関係を示したグラフである。
図27】実施例1、8の有機EL素子の電流密度と外部量子効率との関係を示したグラフである。
図28】実施例1、8の有機EL素子の連続駆動時間と輝度との関係を示したグラフである。
図29】実施例9~13及び比較例3の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図30】実施例12、13及び比較例3の有機EL素子を無封止で大気中に保管した際の発光面の顕微画像を示した図である。
図31】実施例14および比較例4の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図32】実施例14および比較例4の有機EL素子の連続駆動時間と輝度との関係を示したグラフである。
図33】実施例15および比較例5の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図34】実施例16および比較例6の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図35】実施例17~20および比較例7の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
図36】実施例21および比較例8の有機EL素子の印加電圧と輝度との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下に本発明を詳述する。
「有機薄膜、有機EL素子用材料」
本発明の有機薄膜は、下記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送し、第1材料とは異なる材料である第2材料とを含む。本発明の有機薄膜は、第1材料と第2材料とを含む単一層の膜であってもよく、第1材料を含む層と第2材料を含む層とが積層された積層膜であってもよい。
【0052】
【化10】
(一般式(1)中、X、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。Lは直接結合またはp価の連結基を表す。nは、0又は1の数を表し、pは、1~4の数を表す。qは、0又は1の数を表し、pが1のとき、qは0である。R~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。m~mは、同一又は異なって、0~3の数を表す。)
【0053】
本発明の有機薄膜を構成している第1材料は、電子供与性の窒素原子を複素環内に含む多座配位可能な材料であるため、第2材料との間で安定に水素結合を形成し、第2材料側にマイナス電荷を生じさせる能力を有する。第1材料は、電子供与部である窒素部位に大きな負の静電ポテンシャルを有していることが好ましい。第1材料は静電ポテンシャルが大きい材料である程、第2材料にマイナス電荷を生じさせる能力がより高いものとなる。更に、素子の寿命を向上させる効果があることも確認されている。
したがって、本発明の有機薄膜は、有機化合物のみから構成される素子だけではなく、特に、有機化合物と無機化合物とで構成される素子に対しても用いることができ、電子注入性や大気安定性を高め、更に素子を長寿命化させる効果を発揮することができる。
本発明の有機薄膜は、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を第1材料として含むことを特徴の1つとし、本発明の有機薄膜を電子注入層に用いた場合、優れた電子注入性、電子輸送性が得られる。このような上記一般式(1)で表される構造を有する化合物は、有機EL素子用材料として好適な化合物である。上記一般式(2)で表されるフェナントロリン化合物は上記一般式(1)に含まれ、このような上記一般式(2)で表されるフェナントロリン化合物を含む有機EL素子用材料も本発明の1つである。
なお、本発明において述べる、「静電ポテンシャル」は、例えばGAUSSIAN等の量子化学計算プログラムを用いて計算することができる。計算値の絶対量は計算に用いる基底関数などに依存して変化するものの、同じ計算手法を用いて計算された大小の相対値を用いて、マイナス電荷の発生量との相関を議論することが可能である。
本発明の第1の材料の例として、以下の条件で各種第一材料に含まれるフェナントロリン中の窒素部位の静電ポテンシャルを算出した。
フェナントロリン化合物の最安定化構造の計算に使用した関数
B3LYP/6-31+G(d)
フェナントロリン化合物の静電ポテンシャル計算に使用した関数
B3LYP/6-311++G(2df,2p)
【0054】
計算結果を図1に示す。最も基本的な骨格であるフェナントロリンの、点線で囲った配位性窒素原子が近接した部分の静電ポテンシャルの計算値を示している。他の化合物1~13についても、静電ポテンシャルの値はフェナントロリンと同じ部分の値である。図1に示す通り、静電ポテンシャルの値は、フェナントロリンにおいては付与する置換基に大きく依存する。
電子供与性の置換基である、ピロリジノ基を付与した化合物1、ジメチルアミン基を付与した化合物2、メトキシ基を付与した化合物3で、大きい静電ポテンシャルの値が得られており、これらは電子供与性の置換基がフェナントロリン骨格の電子密度を高めることで窒素原子の水素結合能力および無機化合物への配位能力を向上させることができるため、特に第1材料として好適である。
また、フェナントロリン以外の一般式(1)で表される化合物について、nが1の場合は水素結合や無機化合物への配位に関与する窒素原子の数が多いため、静電ポテンシャルの値が比較的大きいと考えられる。
【0055】
図1に示すフェナントロリンを一つだけ有する化合物に加え、下記式(3-1)~(3-4)に示すようなフェナントロリンを複数個有する化合物もマイナス電荷の発生に有効であると考えられ、第1材料として好適である。
【0056】
【化11】
【0057】
フェナントロリン誘導体が引き起こすマイナス電荷の発生についても、量子化学計算を用いてシミュレーションを行った。結果を図2に示す。第1材料として各種フェナントロリン誘導体を用い、第2材料として簡易な分子構造であるトリフェニルアミン(TPA)を用い、2分子の最適化構造を計算し、最適化構造におけるトリフェニルアミンのイオン化エネルギーを算出した。
【0058】
図2に示す通り、最適化構造においては、トリフェニルアミンの特定の水素がフェナントロリンの窒素と水素結合を形成し、イオン化エネルギーに変化が見られた。2分子の計算においても最高占有軌道の分布に変化はないものの、静電ポテンシャルの値がより大きいフェナントロリン誘導体を用いた場合、イオン化エネルギーがより小さくなっていることがわかる。
イオン化エネルギーが小さくなるということは、トリフェニルアミン分子から電子を取り出しやすい状態になっている、つまりトリフェニルアミンが負に帯電しやすい状態が引き起こされており、第1材料の静電ポテンシャルの値が大きいほど、第2材料にマイナス電荷を発生させることができる。
水素結合の存在については図3に示されるH-NMRの測定によって示唆される。
測定は単純化されたホウ素化合物を用い、ホウ素化合物のみのプロトンのピークと、フェナントロリンが共存した状態でのホウ素化合物のプロトンのピーク位置を比較した。
フェナントロリンの量はホウ素化合物に対し5モル等量加え、重クロロホルム中で測定した。図3から、枠内で囲んだプロトンのピーク位置が高磁場側にシフトしていることがわかる。これはホウ素化合物とフェナントロリンが水素結合で相互作用することにより、ホウ素化合物の水素原子の電子密度があがったためである。
【0059】
上記一般式(1)におけるX、Xは、同一又は異なって、置換基を有していてもよい窒素原子、酸素原子、硫黄原子又は2価の連結基を表す。
2価の連結基としては、2価の炭化水素基及び炭化水素基の炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかのヘテロ原子で置換された基が挙げられる。
炭化水素基としては、炭素数1~6のものが好ましく、炭素数1、2、または6のものがより好ましい。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状及びこれらを組み合わせたもののいずれのものであってもよい。
2価の炭化水素基は、飽和炭化水素基であるアルキレン基でもよく、アルケニレン基、アルキニレン基等の不飽和炭化水素基でもよい。
2価の炭化水素基として、具体的には下記式(4-1)~(4-4)で表されるものが好ましい。下記式における(4-1)~(4-4)におけるRは置換基を表す。(4-1)~(4-4)におけるRも含め、X、Xにおける置換基の具体例としては、後述するR~Rの1価の置換基と同様の基が挙げられる。
【0060】
【化12】
【0061】
上記一般式(1)におけるLは直接結合またはp価の連結基を表す。なお、Lが直接結合となるのは、pが2の場合のみである。
p価の連結基としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、炭素原子の他、炭化水素基や炭化水素基の炭素原子の一部が窒素原子、酸素原子、硫黄原子のいずれかのヘテロ原子で置換された基から水素原子をp個除いてできる基が挙げられる。
p価の連結基が炭素原子を有するものである場合、炭素数1~30のものが好ましい。より好ましくは、炭素数1~20のものである。
炭化水素基は、直鎖状、分岐鎖状、環状及びこれらを組み合わせたもののいずれのものであってもよい。
炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基のいずれのものであってもよい。
芳香族炭化水素基としては、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、テトラセン環、ペンタセン環、トリフェニレン環、ピレン環、フルオレン環、インデン環等の芳香族化合物から水素原子を除いてできる基が挙げられる。
【0062】
上記一般式(1)におけるR~Rは、同一又は異なって、1価の置換基を表す。
1価の置換基としては、フッ素原子;フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等の炭素数5~7の環状アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基等の炭素数1~20の直鎖状又は分岐鎖状アルコキシ基;ニトロ基;シアノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基等の炭素数1~10のアルキル基を有するアルキルアミノ基;ピロリジノ基、ピペリジノ基、モルホリノ基等の環状アミノ基;ジフェニルアミノ基、カルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等のアシル基;スチリル基等の炭素数2~30のアルケニル基;フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数5~20のアリール基(アリール基の具体例は、上記芳香族炭化水素基と同様);フッ素原子等のハロゲン原子や炭素数1~20のアルキル基、アルコキシ基、アミノ基等で置換されていてもよい炭素数4~20の窒素原子、硫黄原子、酸素原子のいずれか1つ以上を含む複素環基(複素環基は、1つの環のみからなるものであってもよく、1つの芳香族複素環のみからなる化合物が1つの炭素原子同士で複数直接結合した化合物であってもよく、縮合複素環基であってもよい。複素環基の具体例には、チオフェン環、フラン環、ピロール環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、インドール環、ジベンゾチオフェン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、トリアジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、ベンゾチアジアゾール環、フェナントリジン環等の芳香族複素環基の具体例が含まれる。);エステル基、チオエーテル基等が挙げられる。なお、これらの基は、ハロゲン原子やヘテロ元素、アルキル基、芳香環等で置換されていてもよい。
【0063】
上記一般(2)におけるR、Rは、同一又は異なって、ジアルキルアミノ基又はアルコキシ基を表す。
ジアルキルアミノ基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1~20のアルキル基を有するものが好ましい。より好ましくは、炭素数1~10のアルキル基を有するものである。また、ジアルキルアミノ基が有する2つのアルキル基は、炭素数が同じであってもよく、異なっていてもよい。また、2つのアルキル基が連結したアミノ基、例えばピペリジノ基やピロリジノ基、モルホリノ基のような環状アミノ基も好ましい。
アルコキシ基としては、上記一般式(1)におけるR~Rがアルコキシ基である場合と同様のものが挙げられる。
【0064】
上記一般式(1)におけるpは、1~4の数を表すが、1~3の数であることが好ましい。一般式(1)のpが1である化合物の具体例としては、例えば、下記式(5-1)~(5-9)で表される化合物が挙げられる。
【0065】
【化13】
【0066】
上記一般式(1)におけるnは、0又は1の数を表すが、上記一般式(1)で表される化合物が、nが0の化合物であることは本発明の好適な実施形態の1つである。一般式(1)のnが0の化合物の具体例としては、例えば、上記式(5-1)~(5-6)で表される化合物が挙げられる。
【0067】
本発明における第2材料は、電子を輸送する材料であればよく、有機材料であることが好ましい。より好ましくは、最低非占有軌道(LUMO)準位が2.0eV~4.0eVまでの有機材料、その中でも、LUMO準位が2.5eV~3.5eVのn型有機半導体材料である。例えば、有機EL素子の電子輸送層の材料として、下記に示す従来公知のいずれの材料を用いてもよいが、これらの中でも、上記LUMO準位の要件を満たす材料が好ましい。
第2材料としては、具体的には、フェニル-ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)や1,3,5-トリス(6-(3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ピリジン-2-イル)ベンゼン、8,9-ジフェニル-7,10-(3-(ピリジン-3-イル))フルオランテンのようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)や2-メチル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン、9-(4-(4,6-ジフェニルピリミジン-2-イル)フェニル)-9H-カルバゾールのようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)や2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)トリアジン(TmPhPyTz)、トリス-1,3,5-([1,1’-ビフェニル]-3-イル)トリアジン、2-(3-(4,6-ジ(ピリジン-3-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)-1-フェニル-1H-ベンゾ[d]イミダゾール、9-(4-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)-9H-3,9’-ビカルバゾール、9-(4-(4,6-ジフェニル―1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)-9H-カルバゾール、11-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-12-フェニル-11,12-ジヒドロインドロ[2,3-a]カルバゾール、12-(2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)-12H-ベンゾフロ[2,3,a]-カルバゾール、9-((4-(4,6-ジピリジン-3-イル)-1,3,5-トリアジン-2-イル)フェニル)-9H-カルバゾールのようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物等の芳香環カルボン酸無水物、N,N’-ジメチル-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボンサンジイミドのような芳香環イミド化合物、イソインジゴ誘導体や2,5-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-1,4-ジオン誘導体(ジケトピロロピロール)、トルキセノンのようなカルボニル基を有する化合物、ナフト[1,2-c:5,6-c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール、ベンゾ[c][1,2,5]チアジアゾールのような1,2,5-チアジアゾール誘導体、後述する式(30)で示す化合物のようなカルボニル基を含む複素環を有する化合物、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)や特願2012-228460、特願2015-503053、特願2015-053872、特願2015-081108および特願2015-081109に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
また、後述する発光層の材料も第2材料として用いることができる。
【0068】
これらの第2材料の中でも、POPyのようなホスフィンオキサイド誘導体、下記式(6)~(9)で表される化合物のようなホウ素含有化合物、Alqのような金属錯体、TmPhPyBのようなピリジン誘導体、TmPhPyTzのようなトリアジン誘導体を用いることがより好ましい。これらの第2材料の中でも、特に、第2材料が、ホウ素含有化合物、トリアジン誘導体であることが好ましい。なお、式(8)のnは、1以上の整数を表す。
【0069】
【化14】
【0070】
ホウ素含有化合物を、電子輸送性を有する第2材料として用いた場合、第1材料と第2材料とを含む塗料組成物を塗布する方法により容易に均一な有機薄膜が得られる。このような、上記一般式(1)で表される電子供与性の第1材料と電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物もまた、本発明の1つである。また、上記一般式(1)で表される電子供与性の第1材料を含み、第2材料を含まない塗料組成物も有用である。このような上記一般式(1)で表される電子供与性の第1材料を含む塗料組成物もまた、本発明の1つである。
また、ホウ素含有化合物、トリアジン誘導体は、最低非占有軌道(LUMO)エネルギーが深いため、有機EL素子の電子注入層としての材料として好適である。したがって、ホウ素含有化合物を第2材料として含む有機薄膜は、特に有機EL素子の電子注入層として好適である。
【0071】
本発明の有機薄膜に含まれる第1材料と第2材料との比率は、特に限定されるものではなく、第1材料および第2材料それぞれに使用する化合物の種類に応じて適宜決定できる。第1材料と第2材料との比率は、質量比(第1材料:第2材料)で0.1:99.9~20:1であることが好ましい。より好ましくは、0.5:99.5~10:1である。上記比率である場合、有機薄膜に第1材料と第2材料とが含まれていることによる電子輸送性および電子注入性の向上効果が顕著となる。
【0072】
本発明における有機薄膜は、第1材料と第2材料とを含む単一の膜であってもよく、第1材料を少なくとも含む膜と第2材料を少なくとも含む膜との積層膜であってもよい。積層膜である場合、第1材料のみを含む膜と第2材料のみを含む膜との積層膜であってもよく、第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜との積層膜であってもよい。第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜との積層膜である場合、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜は、第1材料、第2材料のいずれを含むものであってもよいが、第2材料を含むものであることが好ましい。
また、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する層としてこのような有機薄膜を使用する場合、第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜のいずれが陰極側にあってもよいが、第1材料と第2材料のいずれか一方のみを含む膜が陰極側にあるほうが好ましい。
【0073】
本発明における有機薄膜が、第1材料と第2材料とを含む膜と、第1材料のみを含む膜との積層膜である場合、積層された2つの膜の両方に第1材料が含まれることになるが、2つの膜に含まれる第1材料は同一であってもよく、異なっていてもよい。
同様に、本発明における有機薄膜が、第1材料と第2材料とを含む膜と、第2材料のみを含む膜との積層膜である場合、積層された2つの膜の両方に第2材料が含まれることになるが、2つの膜に含まれる第2材料は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0074】
本発明における有機薄膜は、第1材料と第2材料とを少なくとも含むものである限り、その他の成分を含んでいてもよいが、第1材料と第2材料の合計割合が有機薄膜全体に対して、95質量%より多いことが好ましい。より好ましくは、99質量%より多いことであり、最も好ましくは、100質量%、すなわち、有機薄膜が第1材料と第2材料のみから構成されることである。
【0075】
また本発明における有機薄膜が金属酸化物を含むことは本発明の好適な実施形態の1つである。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、金属酸化物層を含むことがある。そして後述するように、有機薄膜に金属を成膜した場合、また、陰極上に有機薄膜を成膜した場合のどちらにおいても、有機薄膜側へ金属が数ナノメートルの距離拡散することが報告されているため、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子が金属酸化物を陰極または金属酸化物層の材料として用い、該金属酸化物の層に隣接して本発明の有機薄膜が形成された場合、該有機薄膜は金属酸化物を含むものとなる。このように有機薄膜が金属酸化物を含むことは本発明の好適な実施形態の1つである。
【0076】
上記第1材料は、単独でも優れた電子注入性を発揮することができる。このような第1材料を含み、第2材料を含まない有機薄膜もまた本発明の1つである。
このため、少なくとも第1材料を含む有機薄膜が本発明の有機薄膜であり、更に第2材料を含み、第1材料と第2材料とを含む単一の膜、又は、第1材料を含む膜と第2材料を含む膜との積層膜となっているものは、本発明の有機薄膜の好適な実施形態の1つであるということもできる。
第1材料を含み、第2材料を含まない本発明の有機薄膜も、第1材料の割合が有機薄膜全体に対して、95質量%より多いことが好ましい。より好ましくは、99質量%より多いことであり、最も好ましくは、100質量%、すなわち、有機薄膜が第1材料のみから構成されることである。
以下においては、第1材料と第2材料とを含む単一の膜、又は、第1材料を含む膜と第2材料を含む膜との積層膜である有機薄膜について製造方法を説明するが、第2材料を含まないこと以外、第1材料のみを含み、第2材料を含まない有機薄膜も製造方法や原料等は同様である。
【0077】
「有機薄膜の製造方法」
次に、本発明の有機薄膜の製造方法について、例を挙げて説明する。
本発明の有機薄膜は、上記一般式(1)で表される構造を有する電子供与性の化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含むものである。第1材料、第2材料ともに分子量が比較的大きいことに起因して、本発明の有機薄膜は塗布だけでなく、蒸着によっても形成することが可能である。このため、本発明の有機薄膜を含む有機EL素子を製造する場合のプロセス上の制約が少なく、有機EL素子を構成する層の材料として使用しやすいものである。
有機薄膜を蒸着により製造する場合、有機EL素子を構成する他の層を蒸着により製造する場合と同様の方法により行うことができ、第1材料、第2材料を同時に蒸着してもよく、順に蒸着してもよい。順に蒸着する場合、第1材料、第2材料のいずれを先に蒸着してもよい。また、いずれか一方を先に蒸着した後に、これら両方を共蒸着してもよく、両方を共蒸着した後に、いずれか一方を蒸着してもよい。このような、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを同時に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程含む有機薄膜の製造方法は、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。また、第1材料又は第2材料のいずれかを先に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程と、その後にもう一方又は両方の材料を蒸着する工程とを含む有機薄膜の製造方法、又は、第1材料と第2材料とを同時に有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程と、その後に第1材料又は第2材料のいずれかを有機薄膜の被形成面上に蒸着する工程とを含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
【0078】
また、本発明の有機薄膜は塗布により製造することも可能であり、この場合も、第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物を作成して、該塗料組成物を塗布するか、又は、第1材料を含む塗料組成物、第2材料を含む塗料組成物をそれぞれ作成して、これらを順に塗布することで有機薄膜を製造することができる。順に塗布する場合、第1材料を含む塗料組成物、第2材料を含む塗料組成物のいずれを先に塗布してもよい。また、いずれか一方の材料のみを含む塗料組成物を塗布した後に、これら両方の材料を含む塗料組成物を塗布してもよく、これら両方の材料を含む塗料組成物を塗布した後に、いずれか一方の材料のみを含む塗料組成物を塗布してもよい。このような、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物を有機薄膜の被形成面上に塗布する工程含む有機薄膜の製造方法は、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。また、第1材料のみを含む塗料組成物又は第2材料のみを含む塗料組成物のいずれかを先に有機薄膜の被形成面上に塗布する工程と、該工程によって形成された塗膜の上にもう一方又は両方の材料を含む塗料組成物を塗布する工程とを含む有機薄膜の製造方法、又は、第1材料と第2材料の両方の材料を含む塗料組成物を塗布する工程と、該工程によって形成された塗膜の上に第1材料又は第2材料のいずれか一方のみを含む塗料組成物を塗布する工程とを含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
以下においては、一般式(1)で表される構造を有する化合物からなる第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む塗料組成物を作成して、該塗料組成物を塗布することで有機薄膜を製造する方法について説明する。
【0079】
塗料組成物は、例えば、容器に入れた溶媒中に第1材料と第2材料をそれぞれ所定量供給して撹拌し、溶解させる方法により得られる。
第1材料および第2材料を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、無機溶媒や有機溶媒、またはこれらを含む混合溶媒等を用いることができる。
無機溶媒としては、例えば、硝酸、硫酸、アンモニア、過酸化水素、水、二硫化炭素、四塩化炭素、エチレンカーボネイト等が挙げられる。
【0080】
有機溶媒としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒等が挙げられ、これらの中でもメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン等のケトン系溶媒が好ましい。
【0081】
第1材料および第2材料を含む塗料組成物を塗布する方法としては、例えば、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。
【0082】
このようにして塗料組成物を塗布した後、アニール処理を施すことが好ましい。アニール処理の条件は、70~200℃で0.1~5時間、窒素雰囲気または大気下で行うことが好ましい。このようなアニール処理を施すことにより、溶媒を気化させて有機薄膜を成膜できる。
【0083】
また、上記一般式(1)で表される電子供与性の第1材料を含み、第2材料を含まない有機薄膜も有機EL素子等の材料として有用である。このような上記一般式(1)で表される電子供与性の第1材料を含む膜を被形成面上に形成する工程を含む有機薄膜の製造方法もまた、本発明の1つであり、上記一般式(1)で表される電子供与性の第1材料を含む膜を、第2材料を含む被形成面上に形成する工程を含むことは、該有機薄膜の製造方法の好適な実施形態の1つである。
【0084】
「有機EL素子」
本発明はまた、陰極と陽極との間に発光層を有し、更に本発明の有機薄膜の層、該有機薄膜の層と金属酸化物層との積層膜の層、又は、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む層のいずれかを含む有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子でもある。
上記有機薄膜の層、該有機薄膜の層と金属酸化物層との積層膜の層、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む層はいずれも本発明の有機EL素子中において、陰極と発光層との間にあってもよく、陽極と発光層との間にあってもよいが、陰極と発光層との間にあることが好ましい。
また、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料を含む層は、上述した一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む限り、その他の成分を含んでいてもよいが、一般式(1)で表される構造を有する化合物のみからなる層であることが好ましい。
【0085】
本発明はまた、陰極と陽極との間に発光層を有する有機エレクトロルミネッセンス素子であって、陰極と陽極との間に本発明の有機薄膜の層、又は、該有機薄膜の層と金属酸化物層との積層膜の層を含み、発光層が第2材料を含む有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子でもある。更に本発明は、陰極と陽極との間に本発明の有機薄膜の層、又は、該有機薄膜の層と金属酸化物層との積層膜の層を含み、有機薄膜又は積層膜が発光層に隣接し且つ第2材料として発光層に用いられる材料を含むか、又は、有機薄膜又は積層膜のうち第2材料を含む膜が発光層である有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子でもある。
本発明の第1材料である上記一般式(1)で表される化合物は、電子注入性に極めて優れているため、発光層に用いる発光材料やホスト材料に対しても直接電子を注入することが可能である。このため、本発明の第1材料を電子注入層に用いることで、使用する材料の数を減らしたり、積層する層の数を減らしてより単純な構造の有機EL素子とすることが可能となる。
すなわち、本発明の有機薄膜又は積層膜を用いた素子を、第1材料を含む層と第2材料を含む層と発光層とが隣接した素子とし、第2材料を含む層の材料として発光層に用いられる発光材料やホスト材料を用いた場合でも、第1材料を含む層から電子を注入することが可能であり、このようにすることで第2材料を含む層と発光層とを共通の材料を用いて形成することができるため、使用する材料の数を減らすことができる。この場合、第2材料は、発光材料、発光層のホスト材料のいずれであってもよい。また、第2材料を含む層を発光材料又は発光層のホスト材料を用いて形成し、これを発光層として用いると、別に発光層を設ける必要がなくなるため、積層する層の数を減らしてより単純な構造の有機EL素子とすることが可能となる。更に、発光層の陽極側に隣接する層の材料として第2材料を使用すれば、積層する層の数を更に減らして更に単純な構造の有機EL素子とすることが可能となる。したがって、発光層が第2材料を含むことや、陽極と前記発光層との間に、前記第2材料を含む層を有することは、いずれも本発明の有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の好適な実施形態の1つである。
【0086】
次に、本発明の有機EL素子について、例を挙げて詳細に説明する。
図4は、本発明の有機EL素子の一例を説明するための概略断面図である。図4に示す本実施形態の有機EL素子1は、陰極3と陽極9との間に発光層6を有する。図4に示す有機EL素子1では、陰極3と発光層6との間に、本発明の有機薄膜又は本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料からなる電子注入層5を有している。また、陰極3と本発明の有機薄膜又は本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料からなる電子注入層5との間に、酸化物層4を有しており、酸化物層4は電子注入層5と隣接している。これらはいずれも本発明の有機EL素子の好適な実施形態である。
本実施形態の有機EL素子1は、基板2上に、陰極3と、無機の酸化物層4と、電子注入層5と、電子輸送層10と、発光層6と、正孔輸送層7と、正孔注入層8と、陽極9とがこの順に形成された積層構造を有する。このように、陰極と有機薄膜の層又は本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子用材料の層との間に、無機の酸化物層を有することは本発明の有機EL素子の好適な実施形態の1つである。
【0087】
図4に示す有機EL素子1は、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造の有機EL素子である。また、図4に示す有機EL素子1は、有機EL素子を構成する層の一部(少なくとも無機の酸化物層4)を、無機化合物を用いて形成した有機無機ハイブリッド型の有機電界発光素子(HOILED素子)である。
図4に示す有機EL素子1は、基板2と反対側に光を取り出すトップエミッション型のものであってもよいし、基板2側に光を取り出すボトムエミッション型のものであってもよい。
【0088】
図5は、本発明の有機EL素子が、基板2と陰極3との間に発光層6が配置された順構造の有機EL素子である場合の素子構成の一例を示した図である。
上述したとおり、本発明の一般式(1)で表される化合物は、電子注入性に極めて優れているため、発光層に用いる材料に対しても直接電子を注入することが可能である。したがって、本発明の一般式(1)で表される化合物を含む有機EL素子用材料を用いる場合、例えば図6に示すように、発光層に用いられる材料で電子輸送層10を形成し、発光層6及び電子輸送層10に同じ材料を用いた単純構造の有機EL素子とした場合にも、電子注入層5に一般式(1)で表される化合物を用いることで、低い駆動電圧で動作することが可能となる。この場合、典型的な有機EL素子に比べると少なくとも1つ使用する材料を減らすことが可能となる。ここで、電子輸送層10が本発明の第2材料を含むものであれば、該有機EL素子は本発明の有機薄膜を用いているともいうことができる。
更に、正孔注入層8から発光層に用いる材料へは比較的容易に正孔が注入できるため、本発明の一般式(1)で表される化合物を含む有機EL素子用材料を電子注入層5に用いた場合には、図7に示すように、発光層に用いる材料を正孔輸送層7に用いても低い駆動電圧で動作することが可能である。この場合、典型的な有機EL素子に比べると少なくとも2つ使用する材料を減らすことが可能となる。ここで、電子輸送層10が本発明の第2材料を含むものであれば、該有機EL素子は本発明の有機薄膜を用いているともいうことができる。
なお、ここでは順構造の有機EL素子の図を用いて説明したが、本発明の発光層が第2材料を含む有機EL素子は順構造のものに限られず、逆構造のものであってもよい。
【0089】
以下の本実施形態においては、逆構造の有機EL素子1を例に挙げて説明するが、本発明の有機EL素子は、基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものであってもよい。本発明の有機EL素子が順構造である場合も、逆構造の場合と同様に、陰極と発光層との間に上記有機薄膜を有する。また逆構造の場合、該電子注入層を有機バッファ層と呼ぶこともある。以下に説明する有機EL素子1を構成する各層の材料や厚さ及び封止は、後述する陰極、陽極の材料を除き、順構造の有機EL素子についても同様である。以下に記載の内容は、全て順構造の有機EL素子にも適用することができる。
【0090】
「基板」
基板2の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等が挙げられる。
基板2に用いられる樹脂材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。基板2の材料として、樹脂材料を用いた場合、柔軟性に優れた有機EL素子1が得られるため好ましい。
基板2に用いられるガラス材料としては、石英ガラス、ソーダガラス等が挙げられる。
【0091】
有機EL素子1がボトムエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板を用いる。
有機EL素子1がトップエミッション型のものである場合には、基板2の材料として、透明基板だけでなく、不透明基板を用いてもよい。不透明基板としては、例えば、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板、樹脂材料で構成された基板等が挙げられる。
【0092】
基板2の平均厚さは、基板2の材料等に応じて決定でき、0.1~30mmであることが好ましく、0.1~10mmであることがより好ましい。基板2の平均厚さは、デジタルマルチメーター、ノギスにより測定できる。
【0093】
「陰極」
陰極3は、基板2上に直接接触して形成されている。
陰極3の材料としては、ITO(インジウム酸化錫)、IZO(インジウム酸化亜鉛)、FTO(フッ素酸化錫)、In、SnO、Sb含有SnO、Al含有ZnO等の酸化物や、Al、Au、Pt、Ag、Cu又はこれらを含む合金の導電材料が挙げられる。この中でも、陰極3の材料として、ITO、IZO、FTOや、Alを用いることが好ましい。
陰極3の平均厚さは、特に制限されないが、10~500nmであることが好ましく、100~200nmであることがより好ましい。
陰極3の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
これらの材料は、本発明の有機EL素子が基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものである場合には陽極の材料として使用することができる。その場合の陽極の平均厚さは上記陰極3と同様であることが好ましい。
【0094】
「酸化物層」
無機の酸化物層4は、電子注入層としての機能および/または陰極としての機能を備えている。
酸化物層4は、半導体もしくは絶縁体積層薄膜の層である。具体的には、酸化物層4は、単体の金属酸化物からなる層、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、二種類以上の金属酸化物を混合した層のいずれであってもよい。
酸化物層4を形成する金属酸化物を構成する金属元素としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、マンガン、インジウム、ガリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、カドミウム、アルミニウム、ケイ素が挙げられる。
【0095】
酸化物層4が、二種類以上の金属酸化物を混合した層を含む場合、金属酸化物を構成する金属元素の少なくとも一つが、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、ジルコニウム、ハフニウム、ケイ素、チタン、亜鉛からなる層であることが好ましい。
酸化物層4が、単体の金属酸化物からなる層である場合、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化亜鉛からなる群から選ばれる金属酸化物からなる層であることが好ましい。
【0096】
酸化物層4が、二種類以上の金属酸化物を混合した層と単体の金属酸化物からなる層のいずれか一方または両方を積層した層、または二種類以上の金属酸化物を混合した層である場合、酸化チタン/酸化亜鉛、酸化チタン/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化ケイ素、酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化カルシウム/酸化アルミニウムから選ばれる二種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したもの、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化マグネシウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ジルコニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ハフニウム、酸化チタン/酸化亜鉛/酸化ケイ素、酸化インジウム/酸化ガリウム/酸化亜鉛から選ばれる三種の金属酸化物の組合せを積層及び/又は混合したものなどが挙げられる。
【0097】
酸化物層4は、特殊な組成として良好な特性を示す酸化物半導体であるIGZO(酸化インジウムガリウム亜鉛)および/またはエレクトライドである12CaO・7Alを含むものであってもよい。
酸化物層4の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、2~100nmであることがより好ましい。
酸化物層4の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0098】
「電子注入層」
電子注入層5は、陰極から発光層6への電子の注入の速度・電子輸送性を改善するものである。電子注入層5は、上記有機薄膜からなる。
電子注入層5の平均厚さは、0.5~100nmであることが好ましく、1~100nmであることがより好ましく、5~100nmであることが更に好ましく、10~50nmであることが特に好ましい。電子注入層5の平均厚さが0.5nm以上である場合、第1材料と第2材料とを含む塗料組成物を塗布する方法、第1材料を含む塗料組成物と第2材料と含む塗料組成物とを順に塗布する方法のいずれかを用いて、電子注入層5を形成することにより、表面の平滑な電子注入層5が得られる。もしくは、真空蒸着法を用いて共蒸着することにより、第1材料と第2材料からなる電子注入層5が得られる。また、電子注入層5の平均厚さが100nm以下である場合、電子注入層5を設けることによる有機EL素子1の駆動電圧の上昇を十分に抑制できる。
なお、上記第1材料と第2材料とを含む膜を製膜する場合、図8-1~14-1(順構造の場合は図8-2~14-2)に示すいずれの構造であってもよい。例えば、当該一層の膜からなり、当該膜全体が電子注入層を構成するものであってもよく(図8-1、8-2)、第1材料のみからなる膜、第2材料のみからなる膜のいずれか一方が陰極や酸化物に隣接して製膜され、その膜に隣接して他方が製膜されてもよい(図9-1、9-2、図10-1、10-2)。また、第1材料と第2材料とを含む膜が陰極や酸化物に隣接して製膜され、その膜に隣接して第2材料のみから成る膜が製膜されてもよく(図11-1、11-2)、第1材料を含まない、第2材料のみから成る膜が陰極や酸化物に隣接して製膜され、上記第1材料と第2材料とを含む膜がその膜に隣接して製膜されていてもよい(図12-1、12-2)。更に、第1材料のみからなる膜や第1材料と第2材料とを含む膜が、第2材料のみからなる膜に挟まれた三層構造の膜(図13-1、13-2、図14-1、14-2)の構造となるように製膜されてもよい。
図8-1~14-1、図8-2~14-2に示すいずれの構造の膜も本発明に含まれる。なお、図11-1~14-1や、図11-2~14-2のように、隣接する2つの膜、又は、三層構造の膜の2つ以上の膜に第2材料が含まれる場合、これら2つ以上の膜に含まれる第2材料は同一であってもよく、異なっていてもよい。
また、これらの構造のうち、第1材料のみからなる層を含む図9-1、9-2、図10-1、10-2、及び、図13-1、13-2の構造については、当該第1材料のみからなる層を本発明の有機薄膜(第1材料のみを含み、第2材料を含まない有機薄膜)から形成された層とみなすこともできる。
電子注入層5の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0099】
上述したとおり、電子供与性の有機材料である第1材料は、他の材料にマイナス電荷を発生させる能力を有する材料であることから、陰極3や酸化物層4からの電子注入を十分に進めるため、第1材料は陰極3や酸化物層4側により多く存在することが好ましい。しかし、このマイナスの電荷は酸化物や陰極と直接接していなくても、電子注入の促進に寄与することが可能であるため、図9-1、9-2、図12-1、12-2、図13-1、13-2、図14-1、14-2に示すような積層構造であっても、第1材料の存在による電子注入の効果を得ることができる。
有機薄膜に金属を蒸着した場合、また、陰極上に有機薄膜を蒸着した場合のどちらにおいても、有機薄膜側へ金属が数ナノメートルの距離拡散することが報告されている(Lee, J. H., Yi, Y. & Moon, D. W. Direct evidence of Al diffusion into tris-(8-hydroquinoline) aluminum layer: medium energy ion scattering analysis. Applied Physics Letters 93, doi:10.1063/1.3002290 (2008)及び非特許文献12参照)。従って、陰極3側に第2材料が存在するような積層構造であっても、金属の拡散により第1材料との配位反応による電子注入の効果を得ることができる。つまり、第1材料を陰極3や酸化物層4上に直接形成しなくても、本発明の効果を得ることができる。
【0100】
上記のとおり、電子供与性の有機材料である第1材料は、他の材料にマイナス電荷を発生させる能力を有する材料であり、本発明の有機薄膜の効果を十分に発揮する点から、本発明の有機薄膜は、陰極又は酸化物層に隣接して第1材料を含む層を形成することが好ましいものの(図8-1、8-2、図10-1、10-2、図11-1、11-2)、図9-1、9-2、図12-1、12-2、図13-1、13-2、図14-1、14-2に示す通り陰極又は酸化物層に隣接して第1材料を含む層が直接形成されなくても、効果を得ることができる。そのようにして得られるいずれの積層構造の膜、すなわち、酸化物層と、該酸化物層に隣接して形成された本発明の有機薄膜の層とからなる積層膜、及び、陰極と、該陰極に隣接して形成された本発明の有機薄膜の層とからなる積層膜もまた本発明の1つである。
有機EL素子が積層構造中に酸化物層と、該酸化物層に隣接して形成された本発明の有機薄膜の層とを含む場合や、積層構造中に陰極と、該陰極に隣接して形成された本発明の有機薄膜の層を含む場合は、該有機EL素子は、本発明の積層膜を含んで構成されているということができる。このような本発明の積層膜を含んで構成される有機EL素子もまた、本発明の1つである。
【0101】
本発明の有機EL素子は、電子注入層として、図11-1、11-2、図12-1、12-2又は図14-1、14-2のような積層膜を有するものであってもよい。すなわち、陰極と前記発光層との間に、前記第1材料と第2材料とを含む膜と前記第2材料を含む膜との積層膜を有することは、本発明の有機EL素子の好適な実施形態の1つである。
この場合、発光層と、第1材料と第2材料とを含む膜との間に、第2材料を含む層を有する有機EL素子、及び、陰極と、第1材料と第2材料とを含む膜との間に、第2材料を含む層を有する有機EL素子のいずれも本発明の有機EL素子の好適な実施形態の1つである。
【0102】
「電子輸送材料」
電子輸送層10としては、電子輸送層の材料として通常用いることができるいずれの材料を用いてもよい。
具体的には、電子輸送層10の材料として、フェニル-ディピレニルホスフィンオキサイド(POPy)のようなホスフィンオキサイド誘導体、トリス-1,3,5-(3’-(ピリジン-3’’-イル)フェニル)ベンゼン(TmPhPyB)のようなピリジン誘導体、(2-(3-(9-カルバゾリル)フェニル)キノリン(mCQ))のようなキノリン誘導体、2-フェニル-4,6-ビス(3,5-ジピリジルフェニル)ピリミジン(BPyPPM)のようなピリミジン誘導体、ピラジン誘導体、バソフェナントロリン(BPhen)のようなフェナントロリン誘導体、2,4-ビス(4-ビフェニル)-6-(4’-(2-ピリジニル)-4-ビフェニル)-[1,3,5]トリアジン(MPT)のようなトリアジン誘導体、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)のようなトリアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル-1,3,4-オキサジアゾール)(PBD)のようなオキサジアゾール誘導体、2,2’,2’’-(1,3,5-ベントリイル)-トリス(1-フェニル-1-H-ベンズイミダゾール)(TPBI)のようなイミダゾール誘導体、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物等の芳香環カルボン酸無水物、N,N’-ジメチル-3,4,9,10-ペリレンテトラカルボンサンジイミドのような芳香環イミド化合物、イソインジゴ誘導体や2,5-ジヒドロピロロ[3,4-c]ピロール-1,4-ジオン誘導体(ジケトピロロピロール)、トルキセノンのようなカルボニル基を有する化合物、ナフト[1,2-c:5,6-c’]ビス[1,2,5]チアジアゾール、ベンゾ[c][1,2,5]チアジアゾールのような1,2,5-チアジアゾール誘導体、ビス[2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾチアゾラト]亜鉛(Zn(BTZ))、トリス(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq)などに代表される各種金属錯体、2,5-ビス(6’-(2’,2’’-ビピリジル))-1,1-ジメチル-3,4-ジフェニルシロール(PyPySPyPy)等のシロール誘導体に代表される有機シラン誘導体、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)や特願2012-228460、特願2015-503053、特願2015-053872、特願2015-081108および特願2015-081109に記載のホウ素含有化合物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
これらの電子輸送層10の材料の中でも、特に、POPyのようなホスフィンオキサイド誘導体、Alqのような金属錯体、TmPhPyBのようなピリジン誘導体を用いることが好ましい。
なお、上述した第2材料を含む層を発光層に用いられる発光材料やホスト材料を用いて形成した有機EL素子のように、有機EL素子が機能を発揮する限り、本発明の有機EL素子は積層構造の中に上記のような電子輸送材料を用いた電子輸送層を有さなくてもよい。
【0103】
本発明の有機EL素子が電子注入層として第1材料のみを含む有機薄膜を用いる場合、本発明の有機薄膜の第2材料を電子輸送層10の材料として用いることができる。
本発明の有機EL素子が電子注入層5として第1材料と第2材料とを含む単一の膜を用いる場合、電子輸送層10はなくてもよい。
【0104】
電子輸送層10の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることが、より好ましい。
電子輸送層10の平均厚さは、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定できる。
【0105】
「発光層」
発光層6を形成する材料としては、発光層6の材料として通常用いることのできるいずれの材料を用いてもよく、これらを混合して用いてもよい。具体的には、例えば、発光層6として、ビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ))と、トリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq))とを含むものとすることができる。
また、発光層6を形成する材料は、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。なお、本発明において低分子材料とは、高分子材料(重合体)ではない材料を意味し、分子量が低い有機化合物を必ずしも意味するものではない。
【0106】
発光層6を形成する高分子材料としては、例えば、トランス型ポリアセチレン、シス型ポリアセチレン、ポリ(ジ-フェニルアセチレン)(PDPA)、ポリ(アルキルフェニルアセチレン)(PAPA)のようなポリアセチレン系化合物;ポリ(パラ-フェンビニレン)(PPV)、ポリ(2,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレンビニレン)(RO-PPV)、シアノ-置換-ポリ(パラ-フェンビニレン)(CN-PPV)、ポリ(2-ジメチルオクチルシリル-パラ-フェニレンビニレン)(DMOS-PPV)、ポリ(2-メトキシ,5-(2’-エチルヘキソキシ)-パラ-フェニレンビニレン)(MEH-PPV)のようなポリパラフェニレンビニレン系化合物;ポリ(3-アルキルチオフェン)(PAT)、ポリ(オキシプロピレン)トリオール(POPT)のようなポリチオフェン系化合物;ポリ(9,9-ジアルキルフルオレン)(PDAF)、ポリ(ジオクチルフルオレン-アルト-ベンゾチアジアゾール)(F8BT)、α,ω-ビス[N,N’-ジ(メチルフェニル)アミノフェニル]-ポリ[9,9-ビス(2-エチルヘキシル)フルオレン-2,7-ジル](PF2/6am4)、ポリ(9,9-ジオクチル-2,7-ジビニレンフルオレニル-オルト-コ(アントラセン-9,10-ジイル)のようなポリフルオレン系化合物;ポリ(パラ-フェニレン)(PPP)、ポリ(1,5-ジアルコキシ-パラ-フェニレン)(RO-PPP)のようなポリパラフェニレン系化合物;ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)のようなポリカルバゾール系化合物;ポリ(メチルフェニルシラン)(PMPS)、ポリ(ナフチルフェニルシラン)(PNPS)、ポリ(ビフェニリルフェニルシラン)(PBPS)のようなポリシラン系化合物;更には特願2010-230995号、特願2011-6457号に記載のホウ素化合物系高分子材料等が挙げられる。
【0107】
発光層6を形成する低分子材料としては、例えば、配位子に2,2’-ビピリジン-4,4’-ジカルボン酸を持つ、3配位のイリジウム錯体、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム(Ir(ppy))、fac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジナト-N,C2’-)イリジウム(III)(Ir(mppy))、8-ヒドロキシキノリンアルミニウム(Alq)、トリス(4-メチル-8キノリノレート)アルミニウム(III)(Almq)、8-ヒドロキシキノリン亜鉛(Znq)、(1,10-フェナントロリン)-トリス-(4,4,4-トリフルオロ-1-(2-チエニル)-ブタン-1,3-ジオネート)ユーロピウム(III)(Eu(TTA)(phen))、2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィンプラチナム(II)のような各種金属錯体;ジスチリルベンゼン(DSB)、ジアミノジスチリルベンゼン(DADSB)のようなベンゼン系化合物;ナフタレン、ナイルレッドのようなナフタレン系化合物;フェナントレンのようなフェナントレン系化合物;クリセン、6-ニトロクリセンのようなクリセン系化合物;ペリレン、N,N’-ビス(2,5-ジ-t-ブチルフェニル)-3,4,9,10-ペリレン-ジ-カルボキシイミド(BPPC)のようなペリレン系化合物;コロネンのようなコロネン系化合物;アントラセン、ビススチリルアントラセン、後述する式(31)で示される(9,10-ビス(4-(9Hカルバゾール-9-イル)-2,6-ジメチルフェニル))-9,10-ジボラアントラセン(CzDBA)のようなアントラセン系化合物;ピレンのようなピレン系化合物;4-(ジ-シアノメチレン)-2-メチル-6-(パラ-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)のようなピラン系化合物;アクリジンのようなアクリジン系化合物;スチルベンのようなスチルベン系化合物;2,5-ジベンゾオキサゾールチオフェンのようなチオフェン系化合物;ベンゾオキサゾールのようなベンゾオキサゾール系化合物;ベンゾイミダゾールのようなベンゾイミダゾール系化合物;2,2’-(パラ-フェニレンジビニレン)-ビスベンゾチアゾールのようなベンゾチアゾール系化合物;ビスチリル(1,4-ジフェニル-1,3-ブタジエン)、テトラフェニルブタジエンのようなブタジエン系化合物;ナフタルイミドのようなナフタルイミド系化合物;クマリンのようなクマリン系化合物;ペリノンのようなペリノン系化合物;オキサジアゾールのようなオキサジアゾール系化合物;アルダジン系化合物;1,2,3,4,5-ペンタフェニル-1,3-シクロペンタジエン(PPCP)のようなシクロペンタジエン系化合物;キナクリドン、キナクリドンレッドのようなキナクリドン系化合物;ピロロピリジン、チアジアゾロピリジンのようなピリジン系化合物;後述する式(26)で示される2,4-ジフェニル-6-ビス((12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)のようなトリアジン系化合物;2,2’,7,7’-テトラフェニル-9,9’-スピロビフルオレンのようなスピロ化合物;フタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニンのような金属または無金属のフタロシアニン系化合物;更には特開2009-155325号公報、特開2011-184430号公報および特願2011-6458号に記載のホウ素化合物材料等が挙げられる。
また、発光層のホスト材料として4,4’-ビス(9H-カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CPB)のようなカルバゾール化合物;ケイ素化合物;フェナントロリン化合物;トリフェニレン化合物等が挙げられる。
【0108】
発光層6の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
発光層6の平均厚さは、触針式段差計により測定してもよいし、水晶振動子膜厚計により発光層6の成膜時に測定してもよい。
【0109】
「正孔輸送層」
正孔輸送層7に用いる正孔輸送性有機材料としては、各種p型の高分子材料(有機ポリマー)、各種p型の低分子材料を単独または組み合わせて用いることができる。
具体的には、正孔輸送層7の材料として、例えば、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、N4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニルー4,4’-ジアミン(DBTPB)、N3,N3'''-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N3,N3'''-ジフェニル-[1,1':2',1'':2'',1'''-クアテルフェニル]-3,3'''-ジアミン(4DBTP3Q)、ポリアリールアミン、フルオレン-アリールアミン共重合体、フルオレン-ビチオフェン共重合体、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリビニルピレン、ポリビニルアントラセン、ポリチオフェン、ポリアルキルチオフェン、ポリヘキシルチオフェン、ポリ(p-フェニレンビニレン)、ポリチニレンビニレン、ピレンホルムアルデヒド樹脂、エチルカルバゾールホルムアルデヒド樹脂またはその誘導体等が挙げられる。これらの正孔輸送層7の材料は、他の化合物との混合物として用いることもできる。一例として、正孔輸送層7の材料として用いられるポリチオフェンを含有する混合物として、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン/スチレンスルホン酸)(PEDOT/PSS)等が挙げられる。
なお、上述したように、正孔注入層から発光層に用いる材料へは比較的容易に正孔が注入できるため、発光層に用いる材料を正孔輸送層に用いても低い駆動電圧で動作することが可能である。このため、本発明の有機EL素子は、上記のような正孔輸送材料を用いた正孔輸送層を有さなくてもよい。
【0110】
正孔輸送層7の平均厚さは、特に限定されないが、10~150nmであることが好ましく、20~100nmであることがより好ましい。
正孔輸送層7の平均厚さは、例えば、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより測定することができる。
【0111】
「正孔注入層」
正孔注入層8は、無機材料からなるものであってもよいし、有機材料からなるものであってもよい。無機材料は、有機材料と比較して安定であるため、有機材料を用いた場合と比較して、酸素や水に対する高い耐性が得られやすい。
無機材料としては、特に制限されないが、例えば、酸化バナジウム(V)、酸化モリブテン(MoO)、酸化ルテニウム(RuO)等の金属酸化物を1種又は2種以上を用いることができる。
有機材料としては、ジピラジノ[2,3-f:2’,3’-h]キノキサリン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)や2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノ-キノジメタン(F4-TCNQ)、フラーレン等の低分子材料や、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)等を用いることができる。
【0112】
正孔注入層8の平均厚さは、特に限定されないが、1~1000nmであることが好ましく、5~50nmであることがより好ましい。
正孔注入層8の平均厚さは、水晶振動子膜厚計、触針式段差計、分光エリプソメトリーにより成膜時に測定することができる。
【0113】
「陽極」
陽極9に用いられる材料としては、ITO、IZO、Au、Pt、Ag、Cu、Alまたはこれらを含む合金等が挙げられる。この中でも、陽極9の材料として、ITO、IZO、Au、Ag、Alを用いることが好ましい。
陽極9の平均厚さは、特に限定されないが、10~1000nmであることが好ましく、30~150nmであることがより好ましい。また、陽極9の材料として不透過な材料を用いる場合でも、例えば、平均厚さを10~30nm程度にすることで、トップエミッション型の有機EL素子における透明な陽極として使用できる。
陽極9の平均厚さは、水晶振動子膜厚計により陽極9の成膜時に測定できる。
これらの材料にMgを加えたものは、本発明の有機EL素子が順構造のものである場合には陰極の材料として使用することができる。その場合の陰極の平均厚さは上記陽極9と同様であることが好ましい。
【0114】
「封止」
図4に示す有機EL素子1は、必要に応じて、封止されていてもよい。
例えば、図4に示す有機EL素子1は、有機EL素子1を収容する凹状の空間を有する封止容器(不図示)と、封止容器の縁部と基板2とを接着する接着剤とによって封止されていてもよい。また、封止容器に有機EL素子1を収容し、紫外線(UV)硬化樹脂などからなるシール材を充填することにより封止してもよい。また、例えば、図4に示す有機EL素子1は、陽極9上に配置された板部材(不図示)と、板部材の陽極9と対向する側の縁部に沿って配置された枠部材(不図示)とからなる封止部材と、板部材と枠部材との間および枠部材と基板2との間とを接着する接着剤とを用いて封止されていてもよい。
【0115】
封止容器または封止部材を用いて有機EL素子1を封止する場合、封止容器内または封止部材の内側に、水分を吸収する乾燥材を配置してもよい。また、封止容器または封止部材として、水分を吸収する材料を用いてもよい。また、封止された封止容器内または封止部材の内側には、空間が形成されていてもよい。
【0116】
図4に示す有機EL素子1を封止する場合に用いる封止容器または封止部材の材料としては、樹脂材料、ガラス材料等を用いることができる。封止容器または封止部材に用いられる樹脂材料およびガラス材料としては、基板2に用いる材料と同様のものが挙げられる。
【0117】
本実施形態の有機EL素子1において、有機薄膜として、上記一般式(1)で表される電子供与性の有機材料である第1材料と、上記式(6)で示されるホウ素含有化合物からなる第2材料とからなるものを用いて電子注入層を形成した場合には、例えば、電子注入層として大気中で不安定な材料であるアルカリ金属を用いた場合と比較して、優れた耐久性が得られる。このため、封止容器または封止部材の水蒸気透過率が10-4~10-3オーダー(g/m/day)程度であれば、有機EL素子1の劣化を十分に抑制できる。したがって、封止容器または封止部材の材料として、水蒸気透過率が10-3オーダー(g/m/day)程度以下の樹脂材料を用いることが可能であり、柔軟性に優れた有機EL素子1を実現できる。
【0118】
「有機EL素子の製造方法」
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、図4に示す逆構造の有機EL素子1の製造方法を説明する。
図4に示す有機EL素子1を製造するには、まず、基板2上に陰極3を形成する。
陰極3は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陰極3の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0119】
次に、陰極3上に無機の酸化物層4を形成する。
酸化物層4は、例えば、スプレー熱分解法、ゾルゲル法、スパッタ法、真空蒸着法等の方法を用いて形成する。このようにして形成された酸化物層4の表面は、平滑ではなく凹凸を有するものとなる場合がある。
【0120】
次に、酸化物層4上に電子注入層5を形成する。
電子注入層5は、上述した有機薄膜の製造方法により形成できる。
【0121】
次に、電子注入層5上に、電子輸送層10、発光層6と、正孔輸送層7とをこの順で形成する。
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の形成方法は、特に限定されず、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7それぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
【0122】
具体的には、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の各層を形成する方法として、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法などが挙げられる。これらの電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7の形成方法の中でも特に、塗布法を用いることが好ましい。なお、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物の溶媒溶解性が低い場合には、真空蒸着法、ESDUS法を用いることが好ましい。
【0123】
塗布法を用いて電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7を形成する場合には、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物をそれぞれ溶媒に溶解することにより、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物をそれぞれ含む有機化合物溶液を形成する。
【0124】
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、キシレン、トルエン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒等が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
【0125】
電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。これらの塗布法の中でも、膜厚をより制御しやすいという点で、スピンコート法やスリットコート法を用いることが好ましい。
【0126】
次に、正孔輸送層7上に正孔注入層8と、陽極9とをこの順に形成する。
正孔注入層8が無機材料からなるものである場合、正孔注入層8は、例えば、酸化物層4と同様にして形成できる。
正孔輸送層9が有機材料からなるものである場合、正孔注入層8は、例えば、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7と同様にして形成できる。
陽極9は、例えば、陰極3と同様にして形成できる。
以上の工程により、図4に示す有機EL素子1が得られる。
【0127】
次に、本発明の有機EL素子の製造方法の一例として、図5に示す順構造の有機EL素子2の製造方法を説明する。
図5に示す有機EL素子2を製造するには、まず、基板2上に陽極9を形成する。
陽極9は、スパッタ法、真空蒸着法、ゾルゲル法、スプレー熱分解(SPD)法、原子層堆積(ALD)法、気相成膜法、液相成膜法等により形成することができる。陽極9の形成には、金属箔を接合する方法を用いてもよい。
【0128】
次に、陽極9上に正孔注入層8を形成する。
正孔注入層8は、上述した有機薄膜の製造方法により形成できる。
【0129】
次に、正孔注入層8上に、正孔輸送層7と、発光層6と、電子輸送層10と、電子注入層5と、をこの順で形成する。
正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5の形成方法は、特に限定されず、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5のそれぞれに用いられる材料の特性に合わせて、従来公知の種々の形成方法を適宜用いることができる。
【0130】
具体的には、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5の各層を形成する方法として、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する塗布法、真空蒸着法、ESDUS(Evaporative Spray Deposition from Ultra-dilute Solution)法等が挙げられる。
【0131】
塗布法を用いて正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5を形成する場合には、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5となる有機化合物をそれぞれ溶媒に溶解することにより、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5となる有機化合物をそれぞれ含む有機化合物溶液を形成する。
【0132】
正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5となる有機化合物を溶解するために用いる溶媒としては、例えば、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール(DEG)、グリセリン等のアルコール系溶媒、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、テトラヒドロピラン(THP)、アニソール、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)、ジエチレングリコールエチルエーテル(カルビトール)等のエーテル系溶媒、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、フェニルセロソルブ等のセロソルブ系溶媒、ヘキサン、ペンタン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、ピリジン、ピラジン、フラン、ピロール、チオフェン、メチルピロリドン等の芳香族複素環化合物系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMA)等のアミド系溶媒、クロロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化合物系溶媒、酢酸エチル、酢酸メチル、ギ酸エチル等のエステル系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン等の硫黄化合物系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、アクリロニトリル等のニトリル系溶媒、ギ酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸系溶媒のような各種有機溶媒等が挙げられ、これらの中でもメチルエチルケトン(MEK)、アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン、3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、シクロペンタノン等のケトン系溶媒等が好ましく、これらを単独または混合して用いることができる。
【0133】
正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5となる有機化合物を含む有機化合物溶液を塗布する方法としては、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法等の各種塗布法を用いることができる。これらの塗布法の中でも、膜厚をより制御し易いという点で、スピンコート法やスリットコート法を用いることが好ましい。
【0134】
次に、陰極3を形成する。
陰極3は、例えば、陽極9と同様にして形成できる。
以上の工程により、図5に示す有機EL素子2が得られる。
【0135】
「封止方法」
図4に示す有機EL素子1、図5に示す有機EL素子2を封止する場合には、有機EL素子の封止に用いられる通常の方法を使用して封止できる。
【0136】
図4に示す実施形態の有機EL素子1は、上述した電子供与性の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む有機薄膜からなる電子注入層5を有しているため、第1材料が第2材料との間で水素結合を形成することにより、マイナス電荷が生じ、優れた電子注入性が得られる。したがって、陰極3から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
また、上述したように、上述した電子供与性の有機材料である第1材料と、電子を輸送する第2材料とを含む有機薄膜が積層膜であって、第2材料によって形成される層が第1材料によって形成される電子注入層とは異なる層である有機EL素子1も本発明の有機EL素子の別の実施形態である。このような実施形態の有機EL素子においても、陰極3から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子1となる。
【0137】
また、図5に示す実施形態の有機EL素子2は、上述した電子供与性の有機材料である第1材料と隣接する陰極材料とが配位結合を形成することにより、マイナス電荷が生じ、優れた電子注入性が得られる。従って、陰極3から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子2となる。
また、上述したように、上述した電子供与性の有機材料である第1材料と、アルカリ金属を添加しても陰極からの電子注入が困難な化合物である第2材料と、を含む有機薄膜が積層膜であって、第2材料によって形成される層が第1材料によって形成される電子注入層とは異なる層である有機EL素子2も、本発明の有機EL素子の別の実施形態である。このような実施形態の有機EL素子においても、陰極3から発光層6への電子注入・電子輸送の速度が速く、駆動電圧の低い有機EL素子2となる。
【0138】
「他の例」
本発明の有機EL素子は、上述した実施形態において説明した有機EL素子に限定されるものではない。
具体的には、上述した実施形態においては、有機薄膜が電子注入層として機能する場合を例に挙げて説明したが、本発明の有機EL素子は、陰極と発光層との間に有機薄膜を有していればよい。したがって、有機薄膜は、電子注入層に限定されるものではなく、電子注入層と電子輸送層とを兼ねる層として設けられていてもよいし、電子輸送層として設けられていてもよい。
【0139】
また、図4に示す有機EL素子1においては、無機の酸化物層4、電子輸送層10、正孔輸送層7、正孔注入層8は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陰極3、酸化物層4、電子注入層5、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0140】
また、図4に示す有機EL素子1においては、図4に示す各層の間に他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性をさらに向上させる等の理由から、必要に応じて、電子阻止層などを有していてもよい。
【0141】
また、上述した実施形態では、基板2と発光層6との間に陰極3が配置された逆構造の有機EL素子を例に挙げて説明したが、基板と発光層との間に陽極が配置された順構造のものであってもよい。
図5に示す順構造の有機EL素子2においては、電子輸送層10、正孔輸送層7、正孔注入層8は、必要に応じて形成すればよく、設けられていなくてもよい。
また、陽極9、正孔注入層8、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5、陰極3の各層は、1層で形成されているものであってもよいし、2層以上からなるものであってもよい。
【0142】
また、図5に示す有機EL素子2においては、図5に示す各層の間に他の層を有するものであってもよい。具体的には、有機EL素子の特性を更に向上させる等の理由から、必要に応じて、正孔阻止層等を有していてもよい。
【0143】
本発明の有機EL素子は、発光層などの材料を適宜選択することによって発光色を変化させることができるし、カラーフィルター等を併用して所望の発光色を得ることもできる。そのため、表示装置の発光部位や照明装置として好適に用いることができる。
【0144】
本発明の表示装置は、陰極と発光層との間に有機薄膜を有し、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を備える。このため、表示装置として好ましいものである。
また、本発明の照明装置は、生産性に優れ、駆動電圧が低い本発明の有機EL素子を備える。このため、照明装置として好ましいものである。
【0145】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の有機薄膜は、例えば、有機薄膜太陽電池、光電変換素子、薄膜トランジスタなどのデバイスに用いることができる。
本発明の有機薄膜太陽電池や光電変換素子は、有機薄膜を含む。例えば、有機薄膜を有機薄膜太陽電池や光電変換素子の電子注入層に用いた場合、有機薄膜の第1材料と第2材料の間で水素結合を形成することにより、マイナス電荷が生じるため、電子輸送の速度が速く、高い発電効率が得られる。したがって、本発明の有機薄膜を含む有機薄膜太陽電池や光電変換素子は、有機薄膜太陽電池や光電変換素子として好ましいものである。
また、本発明の薄膜トランジスタは、有機薄膜を含む。例えば、薄膜トランジスタのチャネル層を有機薄膜で形成した場合、電子移動度の高いチャネル層が得られる。
また、電極上に該有機薄膜を形成した場合、接触抵抗の低減が期待できる。
このように本発明の有機薄膜は、有機薄膜太陽電池、光電変換素子や薄膜トランジスタの材料として好適なものであり、したがって、該有機薄膜を構成する上記一般式(1)で表される構造を有する化合物もまた、これらの材料として好適なものである。このような、上記一般式(1)で表される構造を有する化合物を含む有機薄膜太陽電池用材料、光電変換素子用材料や薄膜トランジスタ用材料もまた、本発明の1つである。
【実施例0146】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「モル%」を意味するものとする。
【0147】
合成例1
下記式(11)で表されるホウ素含有化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0148】
【化15】
【0149】
アルゴン雰囲気下で、式(10)で表される5-ブロモ-2-(4-ブロモフェニル)ピリジン(94mg、0.30mmol)を含むジクロロメタン溶液(0.3ml)に、エチルジイソプロピルアミン(39mg、0.30mmol)を加えた。その後、0℃で三臭化ホウ素(1.0Mジクロロメタン溶液、0.9ml、0.9mmol)を加え、室温で9時間攪拌して反応させた。その後、反応溶液を0℃まで冷却し、飽和炭酸カリウム水溶液を加え、クロロホルムで抽出した。そして、有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過した。その後、濾液をロータリーエバポレーターで濃縮し、生成した白色固体を濾取し、ヘキサンで洗浄して、上記式(11)で表されるホウ素含有化合物(40mg、0.082mmol)を収率28%で得た。
得られたホウ素含有化合物の同定はH-NMRを用いて行った。
H-NMR(CDCl):7.57-7.59(m,2H),7.80(dd,J=8.4,0.6Hz,1H),7.99(s,1H),8.27(dd,J=8.4,2.1Hz,1H),9.01(d,J=1.5Hz,1H).
【0150】
合成例2
上記式(11)で表されるホウ素含有化合物を用いて、下記式(12)で表されるホウ素含有化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0151】
【化16】
【0152】
50mLの2口フラスコにマグネシウム(561mg,23.1mmol)を入れ、反応容器内を窒素雰囲気にした。その後、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)(10mL)を入れ、ヨウ素をひとかけら投入し、着色がなくなるまで攪拌した。次いで、反応容器内に2,2’-ジブロモビフェニル(3.0g,9.6mmol)のシクロペンチルメチルエーテル溶液(9mL)を滴下し、室温で12時間、50℃で1時間攪拌し、Grignard試薬を調製した。
別の200mLの3つ口フラスコに、上記式(11)で表されるホウ素含有化合物(3.71g,7.7mmol)を入れて窒素雰囲気下にし、トルエン(77mL)を入れた。これを-78℃にて攪拌しながら上記Grignard試薬をキャヌラーで一度に加えた。10分間攪拌した後、室温まで昇温し、さらに12時間攪拌した。この反応溶液に水を加え、トルエンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させて濾過した。その後、ろ液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することにより上記式(12)で表されるホウ素含有化合物3.0gを(収率82%)得た。
得られたホウ素含有化合物の同定はH-NMRを用いて行った。
H-NMR(CDCl):6.85(d,J=7.04Hz,2H),7.05(t,J=7.19Hz,2H),7.32(t,J=7.48Hz,2H),7.47(s、1H)7.49-7.57(m、1H),7.74-7.84(m,3H),7.90-8.00(m,2H),8.07-8.20(m,1H).
【0153】
合成例3
上記式(12)で表されるホウ素含有化合物を用いて、下記式(14)で表されるホウ素化合物Aを、以下に示す方法により合成した。
【0154】
【化17】
【0155】
50mLの二口フラスコに、式(12)で表されるホウ素含有化合物(2.50g,5.26mmol)、式(13)で表される6-トリ(n-ブチルスタニル)-2,2’-ビピリジン(5.62g,12.6mmol)、Pd(PPh(610mg,0.53mmol)、トルエン(26mL)を入れた。その後、フラスコ内を窒素雰囲気とし、120℃で24時間攪拌し、反応させた。その後、反応溶液を室温まで冷却して濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製することにより式(14)で表されるホウ素化合物Aを2.0g(収率60%)得た。
得られたホウ素化合物Aの同定はH-NMRを用いて行った。
H-NMR(CDCl):6.6.96(d,J=6.8Hz,2H),7.04(t,J=7.2Hz,2H),7.29-7.35(m,4H),7.49(d,J=7.8Hz,1H),7.73-7.85(m,7H),8.01(d,J=0.8Hz,1H),8.16(d,J=8.4Hz,1H),8.23(d,J=8.6Hz,1H),8.30-8.42(m,5H),8.60(d,J=8.0Hz,1H),8.66-8.67(m,2H),8.89(d,J=8.0Hz,1H).
【0156】
合成例4
下記式(15)で表される化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0157】
【化18】
【0158】
100mLなすフラスコ中、4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン(3.00g)とピロリジン(19.5mL)の混合物をオイルバス100℃にて1時間加熱還流した。室温に戻した混合物を減圧濃縮し、水を加えてから超音波処理することで析出した固体を濾取した。得られた固体を減圧乾燥後、メタノール(100mL)に溶解させた。混合物に活性炭を加えて室温にて1時間撹拌後、不溶物を濾別した。濾液を減圧濃縮し、得られた固体をメタノール(9mL)にて再結晶した。得られた固体を少量のメタノールにて洗浄後、減圧乾燥することで式(15)で表される化合物(1.69g,44%)を白色固体として得た。
【0159】
合成例5
<ホウ素含有重合体合成用モノマーの合成>
300mLの反応容器に下記式(16)で表される化合物(3.96g)、4-ピリジンボロン酸(1.03g)、Pd(PPh(0.24g)、炭酸ナトリウム(2.24g)、トルエン(40mL)、蒸留水(40mL)、エタノール(20mL)を加えた。得られた懸濁液を、アルゴンバブリングしながら10分間撹拌後、オイルバスにて95℃に昇温し、同温で18時間加熱撹拌した。得られた黄色溶液に、水(100mL)、トルエン(100mL)を加え2層に分けた。有機層を水、飽和食塩水で順次洗浄後、濃縮した。得られた残渣をカラムクロマトグラフィーおよび分取GPCによる精製によって無色の固体を得た。これをエタノール/ヘキサンによって再結晶を行い、下記式(17)で表される化合物(0.69g)を得た。
【0160】
【化19】
【0161】
<ホウ素含有重合体の合成>
アルゴン雰囲気下、50mLの耐圧試験管に、上記式(17)で表される化合物(0.5g)、下記式(18)で表される化合物(0.57g)、Pd(PPh(0.1g)、炭酸ナトリウム(0.472g)、Aliquat336(0.2g)、トルエン(10mL)、蒸留水(10mL)を加えた。この懸濁液を約15分間アルゴンバブリングした後、オイルバスにて100℃で加熱しながら24時間撹拌した。これにヨードベンゼン(0.181g)を加え18時間同温で18時間撹拌後、フェニルボロン酸(0.217g)を加え、18時間撹拌した。得られた黒褐色懸濁液の有機層をセライト濾過し、ろ液を濃縮した。得られた残渣をカラム精製し、薄い茶色の粉末を得た。これにヘプタン、エタノールを加え、加熱分散洗浄し、放冷後固体を濾過してエタノールで洗浄しすることで、ホウ素含有重合体(9)を0.61g得た。
【0162】
【化20】
【0163】
合成例6
下記式(19)で表される化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0164】
【化21】
【0165】
300mLなすフラスコ中、4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン(3.00g)とピペリジン(47mL)の混合物をオイルバス120℃にて3時間加熱撹拌した。室温に戻した混合物に水(250mL)を加え1時間撹拌後、析出物をろ取することで式(19)で表される化合物をベージュ色固体として4.47g得た。
【0166】
合成例7
下記式(20)で表される化合物を、以下に示す方法により合成した。
【0167】
【化22】
【0168】
200mLなすフラスコ中、4,7-ジクロロ-1,10-フェナントロリン(1.99g)とモルホリン(27.6mL)の混合物をオイルバス120℃にて3時間加熱撹拌した。室温に戻した混合物に水を加え、クロロホルムで抽出した。分離した有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥し、不要物を濾別した。ろ液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチルで洗浄することで式(20)で表される化合物(2.03g,72%)を薄桃色固体として得た。
【0169】
実施例1、2
以下に示す方法により、図4に示す有機EL素子1を製造し、評価した。
[工程1]
基板2として、厚さ150nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陰極3)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陰極3を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陰極3を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0170】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陰極3の形成されている基板2を、亜鉛金属ターゲットを持つミラトロンスパッタ装置の基板ホルダーに固定した。スパッタ装置のチャンバー内を、約1×10-4Paの圧力となるまで減圧した後、アルゴンと酸素を導入した状態でスパッタし、基板2の陰極3上に膜厚約7nmの酸化亜鉛層(酸化物層4)を作製した。なお、酸化亜鉛層を作製する際には、電極取り出しのために、ITO電極(陰極3)上の一部に酸化亜鉛が成膜されないようにした。酸化物層4を成膜した基板2に、大気下で400℃、1時間のアニールを行った。
【0171】
[工程3]
次に、酸化物層4上に電子注入層5として、以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を形成した。
まず、合成例1~3で合成したホウ素化合物Aとフェナントロリン誘導体(重量比1:0:05)をシクロペンタノンに溶解し(濃度は1重量%)、塗料組成物を得た。次に、[工程2]で作製した陰極3および酸化物層4の形成されている基板2をスピンコーターに設置した。そして、塗料組成物を酸化物層4上に滴下しながら、基板2を毎分3000回転で30秒間回転させて塗膜を形成した。その後、ホットプレートを用いて窒素雰囲気下で120℃、2時間のアニール処理を施し、電子注入層5を形成した。得られた電子注入層5の平均厚さは20nmであった。
第1材料であるフェナントロリン誘導体として、実施例1では下記化合物1を、実施例2では下記化合物2を用いた。
化合物1はEuropean Journal of Organic Chemistry (2017), 2017, (14), 1902-1910に記載の既知の化合物を参考に合成した。化合物2は市販品を用いた。
【0172】
【化23】
【0173】
[工程4]
次に、電子注入層5までの各層が形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。また、下記式(24)で示されるビス[2-(2-ベンゾチアゾリル)フェノラト]亜鉛(II)(Zn(BTZ))と、下記式(23)で示されるトリス[1-フェニルイソキノリン]イリジウム(III)(Ir(piq))と、下記式(22)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、下記式(21)で示されるN4,N4’-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N4,N4’-ジフェニルビフェニルー4,4’-ジアミン(DBTPB)と、下記式(25)で示される1,4,5,8,9,12-ヘキサアザトリフェニレン-2,3,6,7,10,11-ヘキサカルボニトリル(HAT-CN)と、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0174】
【化24】
【0175】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、電子輸送層10、発光層6、正孔輸送層7、正孔注入層8、陽極9を連続して形成した。
【0176】
まず、Zn(BTZ)からなる厚み10nmの電子輸送層10を形成した。続いて、Zn(BTZ)をホスト、Ir(piq)をドーパントとして30nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(piq)が発光層6全体に対して6質量%となるようにした。次に、発光層6まで形成した基板2上に、DBTPBを10nm、α-NPDを30nm成膜し、正孔輸送層7を形成した。さらに、HAT-CNを10nm成膜し、正孔注入層8を形成した。次に、正孔注入層8まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陽極9を成膜した。
【0177】
なお、陽極9は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mmとした。
【0178】
[工程5]
次に、陽極9までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し、実施例1、2の有機EL素子を得た。
【0179】
比較例1
フェナントロリン誘導体を用いないこと以外は実施例1、2と同様にして、比較例1の有機EL素子を作製した。
【0180】
このようにして得られた実施例1、2および比較例1の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、印加電圧と電流密度の関係を調べた。更に得られた輝度-電圧-電流値の相関より、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。これらの結果を図15~17に示す。
【0181】
図15~17からわかるとおり、フェナントロリン誘導体を電子注入層にドープした実施例1、2の素子では、比較例1の素子に比べ、低い印加電圧で高い輝度が得られており、外部量子効率も高い。また、実施例1と実施例2を比較した場合、静電ポテンシャルが大きいフェナントロリン誘導体を用いた実施例1の方が、実施例2に比べ良好な特性が得られている。これは、フェナントロリン誘導体がホウ素化合物にマイナス電荷の発生させるn型のドーパントとして働いた結果、電子注入性・輸送性が改善した結果であると考えられる。
【0182】
実施例3~5
以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、酸化物層4上に電子注入層5として形成した。酸化物4までが形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。そして、ホウ素化合物Aとフェナントロリン誘導体(重量比1:0:05)を含む膜厚が10nmの有機薄膜を、共蒸着により形成した。それ以外は、実施例1と同じ方法で実施例3~5の有機EL素子を作製した。
第1材料であるフェナントロリン誘導体として、実施例3では下記化合物3を、実施例4では下記化合物4を、実施例5では上記化合物2を用いた。化合物3、4はいずれも市販品を用いた。
【0183】
【化25】
【0184】
比較例2
フェナントロリン誘導体を用いないこと以外は実施例3~5と同様にして、比較例2の有機EL素子を作製した。
【0185】
このようにして得られた実施例3~5および比較例2の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、印加電圧と電流密度の関係を調べた。更に得られた輝度-電圧-電流値の相関より、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。これらの結果を図18~20に示す。
【0186】
図18~20からわかるとおり、フェナントロリン誘導体を電子注入層にドープした実施例3~5の素子では、比較例2の素子に比べ、低い印加電圧で高い輝度が得られており、外部量子効率も高い。また、実施例3~5を比較した場合、静電ポテンシャルが大きいフェナントロリン誘導体を用いた実施例の方が、良好な特性が得られている。これは、フェナントロリン誘導体がホウ素化合物にマイナス電荷の発生させるn型のドーパントとして働いた結果、電子注入性・輸送性が改善した結果であると考えられる。
【0187】
実施例6
以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、酸化物層4上に電子注入層5として形成した。酸化物4までが形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。そして、ホウ素化合物Aと上記化合物2(重量比1:0:05)を含む膜厚が5nmの有機薄膜を、共蒸着により形成した。さらに、ホウ素化合物のみからなる膜厚が5nmの有機薄膜を形成し、合計10nmの電子注入層5を形成した。それ以外は、実施例1と同じ方法で実施例6の有機EL素子を作製した。
【0188】
実施例7
以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、酸化物層4上に電子注入層5として形成した。酸化物4までが形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。ホウ素化合物Aのみからなる膜厚が5nmの有機薄膜を形成し、そして、ホウ素化合物と上記化合物2(重量比1:0:05)を含む膜厚が5nmの有機薄膜を共蒸着により形成し、合計10nmの電子注入層5を形成した。それ以外は、実施例1と同じ方法で実施例7の有機EL素子を作製した。
【0189】
このようにして得られた実施例6、7の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、印加電圧と電流密度の関係を調べた。更に得られた輝度-電圧-電流値の相関より、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。これらの結果を比較例2と比較した。結果を図21~23に示す。また、実施例6、7の素子を連続駆動しながら輝度を測定した。結果を図24に示す。
【0190】
図21~23からわかるとおり、実施例6と7を比較した場合、酸化物層4に近い層側に電子注入層に化合物2がドープされた実施例6の方が、わずかながら良好な特性が得られている。これは、非特許文献10、11で報告されている通り、フェナントロリンと酸化物層の相互作用に起因すると考えられる。一方、酸化物層4近傍に化合物2を含まない実施例7でも、比較例2に比べ顕著な低電圧化が観測されている。これは、フェナントロリン誘導体がホウ素化合物にマイナス電荷の発生させるn型のドーパントとして働いた結果、電子注入性・輸送性が改善した結果であると考えられる。実施例1~6では、フェナントロリンと酸化物層4の相互作用の効果も低電圧化に含まれると考えられるが、実施例7に示す通り、基板と相互作用しない系においても、フェナントロリン誘導体による顕著な低電圧化が観測された。このことは、本発明で提唱する水素結合の形成に起因する電子注入促進の妥当性を示す結果である。
また、実施例6、7の素子を連続駆動した際の輝度減衰を示した図24から、基板とフェナントロリン誘導体が相互作用している実施例6に比べ、基板とフェナントロリン誘導体が相互作用していない実施例7の方が長寿命であることが確認できる。この結果から、基板とフェナントロリン誘導体が相互作用する際、材料の安定性が損なわれるのに対し、水素結合を利用した実施例6は、より長寿命化に適していると言える。
【0191】
実施例8
以下に示す方法により、第1材料と第2材料とを含む有機薄膜を、酸化物層4上にその他の材料と合わせて電子注入層5として形成した。まず、上記合成例5で合成したホウ素含重合体(9)をDMFに溶解し(濃度は0.1重量%)、塗料組成物を得た。次に、酸化物4までが形成された基板2をスピンコーターに設置した。そして、塗料組成物を酸化物層4上に滴下しながら、基板2を毎分3000回転で30秒間回転させて5nmの塗膜を形成した。その後、ホットプレートを用いて窒素雰囲気下で120℃、2時間のアニール処理を施した基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。そして、ホウ素化合物Aと上記化合物1(重量比1:0:05)を含む膜厚が5nmの有機薄膜を、共蒸着により形成し、合計10nmの電子注入層5を形成した。それ以外は、実施例1と同じ方法で実施例8の有機EL素子を作製した。
【0192】
このようにして得られた実施例8の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。また、印加電圧と電流密度の関係を調べた。更に得られた輝度-電圧-電流値の相関より、電流密度と外部量子効率との関係を算出した。これらの結果を実施例1と比較した。結果を図25~27に示す。更に、実施例8の素子を連続駆動しながら輝度を測定し、実施例1の素子と比較した結果を図28に示す。
【0193】
図25~27からわかるとおり、実施例1と8を比較した場合、酸化物層4に近い層側に電子注入層に化合物1がドープされた実施例1の方が、良好な特性が得られている。これは、非特許文献10、11で報告されている通り、フェナントロリンと酸化物層の相互作用に起因すると考えられる。一方、酸化物層4近傍に化合物1を含まない実施例8でも、比較例2に比べ顕著な低電圧化が観測されている。これは、フェナントロリン誘導体がホウ素化合物にマイナス電荷の発生させるn型のドーパントとして働いた結果、電子注入性・輸送性が改善した結果であると考えられる。実施例7同様、基板と相互作用しない系においても、フェナントロリン誘導体による顕著な低電圧化が観測された。このことは、本発明で提唱する水素結合の形成に起因する電子注入促進の妥当性を示す結果である。
また、実施例1と8の素子を連続駆動した際の輝度減衰を示した図28から、基板とフェナントロリン誘導体が相互作用している実施例1に比べ、高分子の存在により基板とフェナントロリン誘導体が相互作用していない実施例8の方が長寿命であることが確認できる。この結果から、基板とフェナントロリン誘導体が相互作用する際、材料の安定性が損なわれるのに対し、水素結合を利用した実施例8は、より長寿命化に適していると言える。このように、電極(酸化物)とドープ層の間には、ドープ層のホスト材料以外の材料を用いても、素子の長寿命化が可能である。
【0194】
実施例9~13、比較例3
次に、フェナントロリン誘導体のみからも電子注入が可能であることを検証するため、酸化物層4上に電子注入層5として、以下に示す方法により、第1材料のみからなる有機薄膜を形成した。実施例9~13、比較例3のいずれも、酸化物層4を形成するまでの[工程1]、[工程2]及び電子注入層5形成後の工程[工程4]、[工程5]は実施例1と同様に行い、有機EL素子を作製した。
実施例9:真空蒸着法により化合物3を10nm蒸着した。
実施例10:真空蒸着法により化合物2を10nm蒸着した。
実施例11:真空蒸着法により化合物1を10nm蒸着した。
実施例12:真空蒸着法により式(15)で表される化合物を10nm蒸着した。
実施例13:式(15)で表される化合物をシクロペンタノンに溶解し(濃度は0.5重量%)、塗料組成物を得た。次に、[工程2]で作製した陰極3および酸化物層4の形成されている基板2をスピンコーターに設置した。そして、塗料組成物を酸化物層4上に滴下しながら、基板2を毎分3000回転で30秒間回転させて塗膜を形成した。その後、ホットプレートを用いて窒素雰囲気下で120℃、2時間のアニール処理を施し、電子注入層5を形成した。得られた電子注入層5の平均厚さは10nmであった。
比較例3:真空蒸着法によりフッ素化リチウムを1nm、式(14)で表される化合物を10nm蒸着した。
【0195】
このようにして得られた実施例9~13、比較例3の素子に対して、ケースレー社製の「2400型ソースメーター」を用いて電圧を印加し、コニカミノルタ社製の「LS-100」を用いて輝度を測定し、印加電圧と輝度の関係を調べた。結果を図29に示す。また、実施例12、13及び比較例3の素子を無封止で大気中に保管した際の発光面の顕微画像を図30に示す。
【0196】
図29に示す結果より、フェナントロリン誘導体を電子注入層5に用いた実施例9~13において、フッ素化リチウムおよび電子輸送材料を電子注入層5に用いた比較例3よりも低い駆動電圧で高い輝度が得られている。したがって、フェナントロリン誘導体単体を電子注入層に用いた場合でも、高い電子注入性が得られることがわかる。また、実施例12と実施例13の特性の比較より、電子注入層を塗布で製膜した方が良好な電子注入性が得られている。これは、非特許文献12記載の通り、電子注入層5の下に位置する酸化物が電子注入層5の塗布により溶けだし、フェナントロリンとの配位数が増えたことに起因すると考えられる。
また図30に示す結果より、実施例12および13の素子は、フッ素化リチウムを使った比較例3の素子に比べ、酸素・水分存在下で発光面の劣化速度が遅く、酸素・水分耐性が高いことがわかる。これは、不安定なアルカリ金属を使わずに電子注入可能なフェナントロリン誘導体を用いた電子注入層の優位性であると考えられる。
【0197】
実施例14~16、比較例4~6
第1材料であるフェナントロリン誘導体として、式(15)で表される化合物及び市販の化合物2を用い、以下に示す方法により、図5に示す順構造の有機EL素子2を製造し、評価した。
[工程1]
基板2として、厚さ100nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極9)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極9を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極9を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0198】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極9の形成されている基板2を、スピンコーターにセットし、正孔注入層8として、へレウス社製正孔注入材料「Clevios HIL1.3N」を膜厚10nmとなるように製膜した。その後、180℃に熱したホットプレート上で一時間加熱した。
【0199】
[工程3]
次に、正孔注入層8まで形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、下記式(26)で示される2,4-ジフェニル-6-ビス((12-フェニルインドロ)[2,3-a]カルバゾール-11-イル)-1,3,5-トリアジン(DIC-TRZ)と、下記式(27)で示されるfac-トリス(3-メチル-2-フェニルピリジナト-N,C2’-)イリジウム(III)(Ir(mppy))と、上述した式(22)で示されるN,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)と、下記式(28)で示されるN3,N3'''-ビス(ジベンゾ[b,d]チオフェン-4-イル)-N3,N3'''-ジフェニル-[1,1':2',1'':2'',1'''-クアテルフェニル]-3,3'''-ジアミン(4DBTP3Q)と、第1材料となる式(15)で表される化合物及び市販の化合物2、下記に示す第2材料となる各種材料と、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0200】
【化26】
【0201】
第2材料については、ホウ素含有化合物の例として、上記式(14)で示される化合物を、ピリジン含有化合物の例として、下記式(29)で示される化合物を、カルボニル基を含む複素環を有する化合物として、下記式(30)(市販品)で示される化合物をそれぞれ用いた。
【0202】
【化27】
【0203】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5、陰極3を連続して形成した。
【0204】
具体的には、まず、20nmのα-NPDと、10nmの4DBTP3Qからなる厚み30nmの正孔輸送層7を形成した。
続いて、DIC-TRZをホスト、Ir(mppy)をドーパントとして25nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(mppy)が発光層6全体に対して3質量%となるようにした。
次に、発光層6まで形成した基板2上に、40nmの電子輸送層10および1nmの電子注入層5を形成した。
次に、電子注入層5まで形成した基板2上に、真空蒸着法によりアルミニウムからなる膜厚100nmの陰極3を成膜した。なお、陰極3は、ステンレス製の蒸着マスクを用いて蒸着面が幅3mmの帯状になるように形成し、作製した有機EL素子の発光面積を9mmとした。
【0205】
各実施例において、第2材料(電子輸送層)および第1材料(電子注入層)として使用した化合物は、以下のとおりである。
実施例14:第2材料として式(14)の化合物を、第1材料として式(15)の化合物を用いた。
実施例15:第2材料として式(29)の化合物を、第1材料として式(15)の化合物を用いた。
実施例16:第2材料として式(30)の化合物を、第1材料として式(15)の化合物を用いた。
【0206】
また、各比較例において、第2材料(電子輸送層)および第1材料(電子注入層)として使用した化合物は、以下のとおりである。
比較例4:第2材料として式(14)の化合物を、第1材料としてフッ素化リチウムを用いた。
比較例5:第2材料として式(29)の化合物を、第1材料としてフッ素化リチウムを用いた。
比較例6:第2材料として式(30)の化合物を、第1材料としてフッ素化リチウムを用いた。
【0207】
[工程4]
次に、陰極3までの各層を形成した基板2を、凹状の空間を有するガラスキャップ(封止容器)に収容し、紫外線(UV)硬化樹脂からなるシール材を充填することにより封止し各有機EL素子を得た。
【0208】
実施例14~16、比較例4~6の素子に対して、他の実施例、比較例と同様の方法により輝度-電圧特性を測定した結果を図31、33、34に、実施例14、比較例4の素子を連続駆動しながら輝度を測定した結果を図32に示す。
【0209】
第2材料にホウ素含有化合物を用いた例として、式(14)の化合物を用いた結果である実施例14について、図31に注目すると、式(15)で示すフェナントロリン誘導体を電子注入層8に用いた実施例14とフッ素化リチウムを電子注入層8に用いた比較例4で同等の輝度-電圧特性が得られている。式(15)で示すフェナントロリン誘導体を順構造の有機EL素子に用いた場合、フッ素化リチウムと同等の電子注入性が得られるといえる。また、図32に示す駆動安定に注目すると、こちらもフッ素化リチウムと同様の安定性が得られている。したがって、フェナントロリン誘導体を用いることで、アルカリ金属を用いずに低い駆動で動作可能な、駆動安定性に優れた有機EL素子を実現することができる。
【0210】
第2材料にピリジン含有化合物を用いた例として、式(29)の化合物を用いた結果である実施例15について、図33に注目すると、ここでも構造式(15)で示すフェナントロリン誘導体を電子注入層8に用いた実施例15とフッ素化リチウムを電子注入層8に用いた比較例5で同等の輝度-電圧特性が得られている。
次に、カルボニル基を含む複素環を有する化合物の例として、式(30)の化合物を用いた実施例16に注目する。この図34においては図31、33と異なり、LiFを用いた比較例6に比べ、実施例16の方が低い印加電圧で高い輝度が得られている。これは、フェナントロリン誘導体の優れた電子注入性を反映した結果であるといえる。
【0211】
実施例17~20、比較例7
以下に示す方法により、順構造の有機EL素子を作製し、評価した。実施例17、19、20、比較例7の素子は、図6に示す積層構造の有機EL素子であり、実施例18の素子は図7に示す積層構造の有機EL素子である。
[工程1]
基板2として、厚さ100nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極9)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極9を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極9を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0212】
[工程2]
[工程1]において洗浄した陽極9の形成されている基板2を、スピンコーターにセットし、正孔注入層8として、へレウス社製正孔注入材料「Clevios HIL1.3N」を膜厚10nmとなるように製膜した。その後、180℃に熱したホットプレート上で一時間加熱した。
【0213】
[工程3]
次に、正孔注入層8まで形成された基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、DIC-TRZ、Ir(mppy)と、α-NPDと、4DBTP3Qと、第1材料となる式(15)で表される化合物、フッ素化リチウム(LiF)と、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。
【0214】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、正孔輸送層7、発光層6、電子輸送層10、電子注入層5、陰極3を連続して形成した。
【0215】
具体的には、まず、20nmのα-NPDと、10nmの4DBTP3Qからなる厚み30nmの正孔輸送層7を形成した。
続いて、DIC-TRZをホスト、Ir(mppy)をドーパントとして25nm共蒸着し、発光層6を成膜した。この時、ドープ濃度は、Ir(mppy)が発光層6全体に対して3質量%となるようにした。
次に、発光層6まで形成した基板2上に、厚み40nmのDIC-TRZからなる電子輸送層10および厚み1nmの電子注入層5を形成した。
実施例17では電子注入層5に式(15)で表される化合物を、比較例7では電子注入層5に一般的な電子注入材料であるLiFを用いた。
実施例18においては、厚み30nmの正孔輸送層7にDIC-TRZを用い、その他の層は実施例17と同じとした。
実施例19では電子注入層に式(19)で表される化合物を、実施例20では電子注入層に式(20)で表される化合物を用い、その他は実施例17と同じとした。
【0216】
実施例17~20、比較例7の素子に対して、他の実施例、比較例と同様の方法により輝度-電圧特性を測定した結果を図35に示す。
【0217】
電子注入層として本発明の一般式(1)で表される化合物を用いた実施例17、19、20では、比較例7で用いたLiFと同等以上の駆動電圧で動作しており、本発明の一般式(1)で表される化合物が電子注入層として有効に用いられることを表している。実施例17、19では電子が特に効率的に注入できており、LiFを用いた電子注入層に比べて低い駆動電圧で動作できていることが分かる。さらに、正孔輸送層が発光層ホストであるDIC-TRZである実施例18においても、実施例17と同等の駆動電圧で動作していることがわかる。このように、電子注入性に優れた材料を用いることで、有機EL素子の構造を簡素化し、必要な材料の数を減らすことが可能となる。
【0218】
実施例21、比較例8
実施例18は発光層がホストとドーパントの2種類の材料からなる構成であったが、発光層が1種類の材料から構成される有機EL素子でも図7に示す簡易な構造が実現可能であることを実証するため、実施例21、比較例8の素子を作製した。
[工程1]
基板2として、厚さ100nmのITOからなる幅3mmにパターニングされた電極(陽極9)を有する平均厚さ0.7mmの市販の透明ガラス基板を用意した。
そして、陽極9を有する基板2を、アセトン中、イソプロパノール中でそれぞれ10分間ずつ超音波洗浄し、イソプロパノール中で5分間煮沸した。その後、陽極9を有する基板2を、イソプロパノール中から取り出し、窒素ブローにより乾燥させ、UVオゾン洗浄を20分間行った。
【0219】
[工程2]
次に、基板2を、真空蒸着装置の基板ホルダーに固定した。
また、正孔注入層8として用いるフラーレンと、下記式(31)で示される(9,10-ビス(4-(9Hカルバゾール-9-イル)-2,6-ジメチルフェニル))-9,10-ジボラアントラセン(CzDBA)と、第1材料となる式(15)で表される化合物と、リチウムキノリンと、Alとを、それぞれアルミナルツボに入れて蒸着源としてセットした。また、正孔注入層8に用いる三酸化モリブデンは、タングステンボードに入れてセットした。
【0220】
【化28】
【0221】
そして、真空蒸着装置のチャンバー内を1×10-5Paの圧力となるまで減圧して、抵抗加熱による真空蒸着法により、各層を蒸着した。正孔注入層8として、三酸化モリブデン・フラーレンをそれぞれ5nmの厚みで蒸着し、正孔輸送層7と発光層6と電子輸送層10とを合わせた層としてCzDBAのみを75nmの厚みで蒸着し、その後、1nm膜厚の電子注入層5、陰極3を連続して形成した。実施例21では電子注入層5に式(15)で表される化合物を、比較例8では電子注入層5に一般的な電子注入材料であるリチウムキノリンを用いた。
【0222】
実施例21、比較例8の素子に対して、他の実施例、比較例と同様の方法により輝度-電圧特性を測定した結果を図36に示す。
【0223】
比較例8においてはリチウムキノリンからCzDBAへの電子注入が困難であるため駆動電圧が高いのに対し、実施例21においては電子が効率的に注入できており、低い駆動電圧で動作できていることが分かる。このように、電子注入性に優れた材料を用いることで、有機EL素子の構造を簡素化し、必要な材料の数を減らすことが可能となる。
【符号の説明】
【0224】
1:有機EL素子、2:基板、3:陰極、4:酸化物層、5:電子注入層、6:発光層、7:正孔輸送層、8:正孔注入層、9:陽極、10:電子輸送層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図8-2】
図9-1】
図9-2】
図10-1】
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図11-1】
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図12-1】
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図13-1】
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図14-2】
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