(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000029
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】デマンドレスポンスプラン演算装置、デマンドレスポンスプラン演算方法、及びデマンドレスポンスプラン演算プログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/06 20240101AFI20231225BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20231225BHJP
H02J 15/00 20060101ALI20231225BHJP
H02J 3/14 20060101ALI20231225BHJP
【FI】
G06Q50/06
H02J3/00 170
H02J15/00 H
H02J3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098539
(22)【出願日】2022-06-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り (1)2021年度β方式卒業研究論文梗概集,第7頁~第8頁,第87頁~第88頁,第125頁,第134頁,東京理科大学工学部建築学科,令和4年1月22日
(71)【出願人】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】久保井 大輔
(72)【発明者】
【氏名】横山 慶太
(72)【発明者】
【氏名】長井 達夫
【テーマコード(参考)】
5G066
5L049
【Fターム(参考)】
5G066AA03
5G066JB06
5G066KC01
5L049CC06
(57)【要約】
【課題】 需要家の建物の熱負荷を比較的正確に反映したDRプランを作成することが可能なDRプラン演算装置、DR演算方法、及びDRプラン演算プログラムが提供することを目的とする。
【解決手段】 DRプラン演算装置である事業者サーバ3は、電力需要家の建物2の設計図書に記載された第1諸項目345の情報と、建物2の近況の使用状況を示す第2諸項目346の情報とを記憶する記憶部34と、記憶部34に記憶された第1諸項目345の情報及び第2諸項目346の情報に基づいて、建物2の建物熱モデルを演算する第1演算部36と、第1演算部36で演算された建物熱モデルに基づいて、建物2の設備の電力需要調整を実施する時間と電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力P1,P2とによって定まるDRプランを選択するための演算をする第2演算部37と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力需要家の建物の設計図書に記載された第1諸項目の情報と、前記建物の近況の使用状況を示す第2諸項目の情報とを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記第1諸項目の情報及び前記第2諸項目の情報に基づいて、前記建物の建物熱モデルを演算する第1演算部と、
前記第1演算部で演算された建物熱モデルに基づいて、前記建物の設備の電力需要調整を実施する時間と前記電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるデマンドレスポンスプランを選択するための演算をする第2演算部と、
を備える
ことを特徴とするデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項2】
前記第2諸項目のうち少なくとも一部の所定項目の情報をより近況の使用状況を表す情報に更新する第3演算部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項3】
前記第3演算部は、前記所定項目に対して追加で入手される情報を基により合理的と考えられる推定値に修正する
ことを特徴とする請求項2に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項4】
前記第1諸項目には、前記建物の断熱材の厚さ、天井高、周辺建物の形状、庇の出の長さ、窓の種別、窓の高さ、及びブラインドの種別の少なくとも一部が含まれる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項5】
前記第2諸項目には、前記建物への外気導入量、前記建物に設けられた照明の発熱量、前記建物に設けられた機器の発熱量、前記建物内の隣室温度差、前記建物の外壁の材質、前記建物に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況、前記建物に設けられた機器の種別、前記建物の窓の開閉状況、前記建物内の人員密度の少なくとも一部が含まれる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項6】
前記第2諸項目には、前記建物に設けられているBEMS(Building and Energy Management System)から得られる項目が含まれる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項7】
前記建物に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び前記建物内の人員密度の少なくとも一方を検出可能な前記建物に設けられたセンサ群からの情報に基づいて、前記建物に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び前記建物内の人員密度の少なくとも一方を演算する第4演算部を備える
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項8】
前記第2演算部は、前記建物の所定の快適性を満足するデマンドレスポンスプランが得られるまで演算を繰り返す
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項9】
前記第2演算部は、複数の前記デマンドレスポンスプランの中から、所定のデマンドレスポンス発動条件を満足する前記デマンドレスポンスプランを選択する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のデマンドレスポンスプラン演算装置。
【請求項10】
デマンドレスポンスプラン演算装置を用いて実行するデマンドレスポンスプラン演算方法であって、
電力需要家の建物の設計図書に記載された第1諸項目の情報と、前記建物の近況の使用状況を示す第2諸項目の情報とを記憶する記憶ステップと、
記憶された前記第1諸項目の情報及び前記第2諸項目の情報に基づいて、前記建物の建物熱モデルを演算する第1演算ステップと、
前記第1演算ステップで演算された建物熱モデルに基づいて、前記建物の設備の電力需要調整を実施する時間と前記電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるデマンドレスポンスプランを選択するための演算をする第2演算ステップと、
を備える
ことを特徴とするデマンドレスポンスプラン演算方法。
【請求項11】
デマンドレスポンスプラン演算装置に対して、
電力需要家の建物の設計図書に記載された第1諸項目の情報と、前記建物の近況の使用状況を示す第2諸項目の情報とを記憶させる記憶ステップと、
記憶された前記第1諸項目の情報及び前記第2諸項目の情報に基づいて、前記建物の建物熱モデルを演算させる第1演算ステップと、
前記第1演算ステップで演算された建物熱モデルに基づいて、前記建物の設備の電力需要調整を実施する時間と前記電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるデマンドレスポンスプランを選択するための演算をさせる第2演算ステップと、
を実行させる
ことを特徴とするデマンドレスポンスプラン演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デマンドレスポンスプラン演算装置、デマンドレスポンスプラン演算方法、及びデマンドレスポンスプラン演算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、東日本大震災に伴う電力需給のひっ迫を契機に、従来の省エネの強化だけでなく、電力の需給バランスを意識したエネルギー管理の重要性が強く認識されるようになっている。このような背景から、電力需要家(以下、単に「需要家」と記載する場合がある。)側のエネルギーリソースを電力システムの調整力として活用するデマンドレスポンス(以下、「DR」と記載する。)が注目されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
DRを実行するためには、需要家のエネルギーリソースを最大限に活用する仕組みを構築することが求められる。しかし、従来では、需要家の一次側設備(蓄電・蓄熱設備等)をDRに活用することが主な着目点となっており、需要家の建物の躯体を蓄熱体として捉えて、これをDRに活用する議論はあまりなされていない。需要家の建物の躯体を蓄熱体として捉えてDRを実行する場合、当該建物の熱負荷を把握することが重要である。
【0005】
そこで、本発明は、需要家の建物の熱負荷を比較的正確に反映したDRプランを作成することが可能なDRプラン演算装置、DRプラン演算方法、及びDRプラン演算プログラムを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的の達成のため、本発明のDRプラン演算装置は、電力需要家の建物の設計図書に記載された第1諸項目の情報と、前記建物の近況の使用状況を示す第2諸項目の情報とを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記第1諸項目の情報及び前記第2諸項目の情報に基づいて、前記建物の建物熱モデルを演算する第1演算部と、前記第1演算部で演算された前記建物熱モデルに基づいて、前記建物の設備の電力需要調整を実施する時間と前記電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるDRプランを選択するための演算をする第2演算部と、を備えるものである。
【0007】
なお、DRプラン演算装置は、前記第2諸項目のうち少なくとも一部の所定項目の情報をより近況の使用状況を表す情報に更新する第3演算部を備えてもよい。また、前記第3演算部は、前記所定項目に対して追加で入手される情報を基により合理的と考えられる推定値に修正するものであってもよい。
【0008】
また、前記第1諸項目には、前記建物の断熱材の厚さ、天井高、周辺建物の形状、庇の出の長さ、窓の種別、窓の高さ、及びブラインドの種別の少なくとも一部が含まれてもよい。
【0009】
また、前記第2諸項目には、前記建物への外気導入量、前記建物に設けられた照明の発熱量、前記建物に設けられた機器の発熱量、前記建物内の隣室温度差、前記建物の外壁の材質、前記建物に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況、前記建物に設けられた機器の種別、前記建物の窓の開閉状況、前記建物内の人員密度の少なくとも一部が含まれてもよい。また、前記第2諸項目には、前記建物に設けられているBEMS(Building and Energy Management System)から得られる項目が含まれてもよい。
【0010】
また、DRプラン演算装置は、前記建物に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び前記建物内の人員密度の少なくとも一方を検出可能な前記建物に設けられたセンサ群からの情報に基づいて、前記建物に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び前記建物内の人員密度の少なくとも一方を演算する第4演算部を備えてもよい。
【0011】
また、前記第2演算部は、前記建物の所定の快適性を満足するDRプランが得られるまで演算を繰り返してもよい。また、前記第2演算部は、複数のDRプランの中から、所定のDR発動条件を満足するDRプランを選択してもよい。
【0012】
また、上記目的の達成のため、本発明は、DRプラン演算装置を用いて実行するDRプラン演算方法であって、電力需要家の建物の設計図書に記載された第1諸項目の情報と、前記建物の近況の使用状況を示す第2諸項目の情報とを記憶する記憶ステップと、記憶された前記第1諸項目の情報及び前記第2諸項目の情報に基づいて、前記建物の建物熱モデルを演算する第1演算ステップと、前記第1演算ステップで演算された建物熱モデルに基づいて、前記建物の設備の電力需要調整を実施する時間と前記電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるDRプランを選択するための演算をする第2演算ステップと、を備えるものである。
【0013】
また、上記目的の達成のため、本発明のDRプラン演算プログラムは、DRプラン演算装置に対して、電力需要家の建物の設計図書に記載された第1諸項目の情報と、前記建物の近況の使用状況を示す第2諸項目の情報とを記憶させる記憶ステップと、記憶された前記第1諸項目の情報及び前記第2諸項目の情報に基づいて、前記建物の建物熱モデルを演算させる第1演算ステップと、前記第1演算ステップで演算された建物熱モデルに基づいて、前記建物の設備の電力需要調整を実施する時間と前記電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるDRプランを選択するための演算をさせる第2演算ステップと、を実行させるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、需要家の建物の熱負荷を比較的正確に反映したDRプランを作成することが可能なDRプラン演算装置、DR演算方法、及びDRプラン演算プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係るDRプラン演算システムの全体構成を示す略線図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る事業者サーバの構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る第1演算ステップを示すフロー図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る第2演算ステップを示すフロー図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るDRプランの一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係るDRプランの他の例を示す図である。
【
図7】
図5のDRプラン及び
図6のDRプラン以外のDRプランの例を示す表である。
【
図8】
図5のDRプラン、
図6のDRプラン、及び
図7のDRプラン以外のDRプランの例を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るDRプラン演算装置、DRプラン演算方法、及びDRプラン演算プログラムを実施するための形態が添付図面とともに例示される。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、以下の実施形態から変更、改良することができる。
【0017】
図1は、実施形態におけるDRプラン演算システムの全体構成を示す略線図である。
図1に示すように、DRプラン演算システム1は、電気事業者等の電力供給者(以下、単に「事業者」という場合がある。)が所有するDRプラン演算装置としての事業者サーバ3と、その事業者サーバ3とインターネット等の図示しない広域ネットワーク(WAN:Wide Area Network)を介して接続された需要家の建物2とを有している。なお、
図1では、事業者サーバ3が1つの建物2に接続された例が示されているが、事業者サーバ3が複数の建物に接続されていてもよい。
【0018】
後に詳細に説明するが、事業者サーバ3は、建物2の建物熱モデルを演算して、この建物熱モデルに基づいて、建物2の設備の電力需要調整を実施する時間と当該電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力(kW)とによって定まるDRプランを選択するための演算をすることができる。
【0019】
なお、一般的に、建物2の蓄電・蓄熱設備等が建物の一次側設備と呼ばれるのに対し、建物2の空調設備(AHU:Air Handling Unit)等が建物の二次側設備と呼ばれる。本実施形態における空調設備は、冷房装置や暖房装置を含んでおり、いわゆるセントラル空調式の空調設備やパッケージエアコンを指す。
【0020】
建物2は、通信部21と、空調設備22と、センサ群23と、操作部24と、制御部25と、記憶部26とを主な構成として備えている。
【0021】
建物2の通信部21は、事業者サーバ3及び建物2の制御部25等に接続されており、通信部21を介して、建物2と事業者サーバ3との間の情報のやり取りが行われる。
【0022】
建物2の空調設備22は、制御部25等に接続されており、制御部25からの制御信号に基づいて動作する。この空調設備22は、上記のように、複数の冷房装置を含んでいる。
【0023】
建物2のセンサ群23は、制御部25及び記憶部26などに接続されている。センサ群23は、例えば、カメラ、温湿度センサ、及び人探知センサなどを含んでいる。センサ群23は、建物の近況の使用状況を示す後述する第2諸項目の一種である、建物2に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び建物2内の人員密度の少なくとも一方を検出可能である。なお、ここで言う使用状況には、ブラインド・照明・機器の配置状況も含まれる。また、センサ群23によって検出される情報はこれらに限定されるものではなく、他の第2諸項目に関する情報を検出可能であってもよい。センサ群23によって取得された情報は、不図示の処理部で処理(例えば、画像処理)され、この処理された情報が記憶部26に記憶される。なお、ここで言う「群」には、1つも含まれ、上記のような機能を有するセンサが建物2内に1つしかない場合であっても、便宜上、センサ群23と呼ぶ。
【0024】
建物2の操作部24は、いわゆるキーボードやマウス等の入力手段と、情報を表示するためのディスプレイ等の表示部を含んでいる。操作部24は制御部25などに接続されており、建物2の例えばオーナーや管理者が上記入力手段を介して入力した電気信号が制御部25に伝達される。操作部24の表示部には、例えば事業者サーバ3から送信されたDRプランが表示される。例えば、上記オーナーや管理者等は、入力手段を操作することによって、表示部33に表示された上記DRプランを実施することができる。
【0025】
建物2の制御部25は、通信部21、空調設備22、センサ群23、操作部24、及び記憶部26などに接続されている。制御部25は、種々の演算処理を行うCPU(Central Processing Unit)を含んでいる。制御部25は、例えば、事業者サーバ3から送信されて記憶部26に格納されているDRプランに基づいて空調設備22を制御したり、センサ群23からの情報に基づいて空調設備22を制御したり、操作部24からの入力に基づいて空調設備22を制御したりする。これらのうち、制御部25がセンサ群23からの情報に基づいて空調設備22を制御するように構成されるシステムは、ビルエネルギーマネジメントシステム(BEMS:Building and Energy Management System)と呼ばれることがある。
【0026】
建物2の記憶部26は、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などを有している。記憶部26には、制御部25によって実行されるプログラムの他、センサ群23から送信された種々の情報や事業者サーバ3から送信されたDRプランの情報などが格納されている。また、記憶部26には、後述する第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39によって実行されるプログラムが格納されている。
【0027】
次に、DRプラン演算装置としての事業者サーバ3の構成について説明する。
【0028】
事業者サーバ3は、例えば、CPU、メモリ、及びインタフェースを含むコンピュータ等によって構成される。
図2は、事業者サーバ3の構成を示す機能ブロック図である。
図2に示すように、事業者サーバ3は、主な機能ブロックとして、通信部31、入力部32、表示部33、記憶部34、制御部35、第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39を含んでいる。
【0029】
事業者サーバ3の通信部31は、建物2の通信部21及びその他の端末との間での情報の入出力を行うインタフェース部であり、事業者サーバ3で演算されたDRプランを建物2に出力する等、需要家側との間で情報を授受する機能部である。また、通信部31は、外部のサーバ(図示せず)から外界気象情報342(外気温や天気等)を受信し、その外界気象情報342を記憶部34に格納する。
【0030】
事業者サーバ3の入力部32は、いわゆるキーボードやマウス等の入力手段である。事業者サーバ3の表示部33は、情報を表示するためのディスプレイである。表示部33には、第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39に演算をさせるための数値等を入力する画面が表示され、例えば電力供給側の担当者は、入力部32を介して、その画面の所定箇所に必要な数値等を入力することができる。
【0031】
事業者サーバ3の制御部35は、事業者サーバ3の全体を統括制御すると共に各種処理を実行するCPUである。制御部35は、例えば入力部32から電気信号を受信すると、その電気信号に応じて記憶部34に記憶されている情報を読み出し、第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39に演算を実行させる。
【0032】
事業者サーバ3の第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39は、後述する建物熱モデルを演算したり、DRプランを選択するための演算をしたりするために用いられる機能部であり、例えばDSP(Digital Signal Processor)を含んでもよい。これら第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39は、事業者サーバ3を構成するハードウェア資源が、当該事業者サーバ3に予めインストールされたアプリケーションソフトウェアである基本ソフトウェアやその他各種ソフトウェア(例えば、第1演算部36、第2演算部37、第3演算部38、及び第4演算部39のそれぞれによって実行される演算プログラムを含む各種ソフトウェア)と協働することによって実現される。事業者サーバ3を構成するハードウェア資源としては、例えば、制御部35を構成するCPU、記憶部34を構成するROMやRAM、入力部32を構成するキーボード、及び表示部33を構成するモニタ等を挙げることができる。
【0033】
事業者サーバ3の記憶部34は、ROMやRAMなどを有している。記憶部34には、上述の基本ソフトウェアやその他各種ソフトウェアが予めインストールされている。また、記憶部34には、需要家情報341、上述の外界気象情報342、DR発動条件344、第1諸項目345、第2諸項目346、環境情報347、及び空調設備情報348などの各種情報が記憶される。
【0034】
需要家情報341は、需要家(例えば、建物2の保有者や管理者)に関する基本的な情報であり、需要家情報341には、当該需要家の「名前」、「住所」、「電話番号」、及び電力受給契約(供給地点特定番号当)情報等の個人情報が含まれる。
【0035】
外界気象情報342には、地域、外気温度、湿度、及び天気等の気象庁等の外部のサーバから得られる気象に関する種々の情報が含まれる。
【0036】
DR発動条件344は、事業者が需要者に対して求めるDRの条件などに関する情報である。具体的には、DR発動条件344には、DRを実施する時間であるDR実施時間(すなわち、電力需要調整を実施する時間)、DRを実施する時間において調整(削減又は増加)されるべき電力(すなわち、電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力(kW))、及びDRを実施するまでの猶予時間などの情報が含まれる。このDR発動条件344は、DRプランを選択するための演算をする際、或いはその他所望のタイミングで、入力部32を介して事業者サーバ3に入力され、記憶部34に格納される。
【0037】
第1諸項目345は、建物2の設計図書(矩形図、平面詳細図、建具図、案内図、及び設備図面等)に記載されている建物2の設計上のパラメータであり、具体的には、例えば、建物2の断熱材の厚さ、天井高、周辺建物の形状、庇の出の長さ、窓の種別、窓の高さ、及びブラインドの種別などを挙げることができる。ただし、第1諸項目345は上記に限定されるものではない。この第1諸項目345は、DRプランを演算する際、或いはその他所望のタイミングで、入力部32を介して事業者サーバ3に入力され、記憶部34に記憶される。なお、第1諸項目345を記憶部34に記憶させる工程は、DRプランを選択するための演算をする工程における記憶ステップと考えることができる。
【0038】
第2諸項目346は、建物2の近況の使用状況を示すパラメータである。ここで、近況とは、現時点及び現時点に近いことを意味する。また、現時点に近いとは、建物2の築年数に応じて変化する。例えば、建物2の築年数が10年である場合、近況とは現時点から1年以内であってもよいし、6月以内であってもよいし、3月以内であってもよいし、1月以内であってもよい。
【0039】
具体的に、第2諸項目346には、建物2への外気導入量、建物2に設けられた照明の発熱量、建物2に設けられた機器の発熱量、建物2内の隣室温度差、建物2の外壁の材質、建物2に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況、建物2に設けられた機器の種別、建物2の窓の開閉状況、及び建物2内の人員密度などが含まれる。ただし、第2諸項目346はこれらの項目に限定されるものではない。この第2諸項目346は、DRプランを選択するための演算をする際、或いはその他所望のタイミングで、入力部32を介して事業者サーバ3に入力され、記憶部34に記憶される。なお、第2諸項目346を記憶部34に記憶させる工程は、DRプランを選択するための演算をする工程における記憶ステップと考えることができる。
【0040】
なお、上記の外気導入量、照明の発熱量、及び機器の発熱量などは例えば上述のBEMSによって取得することができる。また、上記の隣室温度差は例えば建物2に設置された温湿度レコーダーによって取得することができる。また、上記の外壁の材質、ブラインド・照明・機器の使用状況、及び機器の種別は実地調査(例えば目視)によって取得することができる。また、上記の窓の開閉状況及び人員密度は例えばヒアリング調査によって取得することができる。
【0041】
また、例えば、上記のブラインド・照明・機器の使用状況、及び人員密度の情報は、建物2のセンサ群23によって得られた情報を処理したものであってもよい。この処理は、例えば、事業者サーバ3の第4演算部39によって行われる。入力部32を介して制御部35に所定の入力がされると、制御部35は、第4演算部39を起動させる。そうすると、第4演算部39は、記憶部34から、例えば、画像処理プログラムと、建物2のセンサ群23から送信された建物2内の様子が写された画像情報とを読み出し、この画像処理プログラムに基づいて、建物2内のブラインド・照明・機器の使用状況、及び建物2内の人員密度の少なくとも一方を演算する。これらの演算によって得られた情報は記憶部34に格納され、その結果、建物2内のブラインド・照明・機器の使用状況、及び建物2内の人員密度の少なくとも一方の情報が更新される。
【0042】
ところで、第1諸項目345及び第2諸項目346は、未知パラメータとも呼ばれる。未知パラメータとは、設計上の数値が定まっていても、使用者の使用の仕方によって数値が設計上の数値と異なり得るパラメータである。第1諸項目345及び第2諸項目346については、例えば、建物2のBEMSによって得られた情報を使用した方が好ましい場合がある。
【0043】
環境情報347は、建物2の環境に関する情報であり、入出力値とも呼ばれる。環境情報347には、建物2の空調機負荷、建物2の外気温湿度、建物2内における潜熱顕熱分離割合、建物2の室内温湿度、及び建物2内の発熱条件などが含まれる。ただし、環境情報347はこれらの項目に限定されるものではない。この環境情報347は、DRプランを選択するための演算をする際、或いはその他所望のタイミングで、入力部32を介して事業者サーバ3に入力され、記憶部34に記憶される。
【0044】
なお、上記の空調機負荷や外気温湿度は例えば建物2のBEMSから取得することができる。また、上記の潜熱及び顕熱の分離割合及び室内温湿度は例えば建物2の温湿度レコーダーによって取得することができる。
【0045】
空調設備情報348は、建物2の空調設備22全体の特性や能力、空調設備22を構成する個々の空調機の特性や能力を示す情報である。例えば、空調設備情報348には、所定の室内温度で所定の外気温のときに空調設備22(或いは、個々の空調機)がどの程度の熱量(kW)を室内から除去(或いは室内に付加)するかという空調設備22(或いは、個々の空調機)の能力の情報、及び、その熱量を処理する際の空調設備22(或いは、個々の空調機)の消費電力(kW)の情報が含まれる。
【0046】
次に、事業者サーバ3によってDRプランが演算される工程について説明する。
【0047】
DRプランが演算される工程では、まず、第1演算部36等において建物熱モデルを演算する第1演算ステップRT1が実行され、これによって、建物2の熱負荷の時系列である建物熱モデルが求められる。
図3は、第1演算ステップRT1のフロー図である。この第1演算ステップRT1は、例えば、建物熱モデルのシミュレーションプログラムであるHASPに基づいて行われてもよい。
【0048】
事業者サーバ3の入力部32を介して所定の入力がされると、制御部35は、制御信号を送信して、第1演算部36を起動させ、第1演算ステップRT1を開始させる。まず、
図3に示すように、第1演算部36は、記憶部34から、建物熱モデルのシミュレーションプログラムと、第1諸項目345及び第2諸項目346の情報とを読み出し、このシミュレーションプログラムに基づいて、暫定的な建物熱モデル(以下、「暫定建物熱モデル」と記載する。)を演算する(ステップSP11)。ここで、上記のように、第2諸項目346は建物2の近況の使用状況を示すものであるため、暫定建物熱モデルは、建物2の近況をある程度反映した建物熱モデルとなっている。この暫定建物熱モデルは、記憶部34に記憶される。
【0049】
次に、第1諸項目345及び第2諸項目346を更新するステップSP12を行う。ステップSP12では、まず、第1諸項目345及び第2諸項目346の各項目の中から固定パラメータを決定するステップSP121を行う。具体的に、このステップSP121では、第1諸項目345及び第2諸項目346の各項目のうち、連続関数として定式化可能な項目を以後の未知パラメータとして選択し、残りの項目を固定パラメータとして決定する。すなわち、ここで決定された固定パラメータは、第1諸項目345及び第2諸項目346の各項目のうち連続関数として定式化が難しい項目である。この固定パラメータは、上記の「以後の未知パラメータ」のように更新されずに、DR演算前に入力された値が保持される。なお、このステップSP12は、第1演算部36によって実行されてもよいし、第1演算部36とは異なる機能ブロックで実行されてもよい。
【0050】
次に、ステップSP12では、ステップSP121で選択した未知パラメータを更新するステップSP122が行われる。このステップSP122は、主に第3演算部38によって実行される。第3演算部38は、第2諸項目346のうち少なくとも一部の所定項目の情報を、より近況の使用状況を表す情報に更新する。さらに言えば、第3演算部38は、追加で入手された種々の情報を基にして、最初に構築された建物熱モデルである暫定建物熱モデルの未知パラメータの少なくとも一部を合理的に修正する。こうして、第3演算部38は、上記所定項目に対して追加で入手される情報を基にして、未知パラメータの少なくとも一部を、より合理的と考えられる推定値に修正して更新する。例えば、このステップSP122は、ベイズ推定に基づいて行われてもよい。そして、第3演算部38は、修正された未知パラメータの値の情報を記憶部34に格納して更新する。
【0051】
次に、ステップSP13を実行する。このステップSP13は、影響度の高いパラメータを感度解析によって抽出するステップである。ステップSP13は、第1演算部36によって行われる。ステップSP13において、入力部32を介して所定の入力がされると、制御部35は、制御信号を送信して、第1演算部36を再び起動させる。第1演算部36は、記憶部34から未知パラメータを読み出し、ステップSP122において更新された未知パラメータを加味した新たな建物熱モデルを演算する。その後、第1演算部36は、未知パラメータの各項目の中から1つを選択し、この選択した1つの項目についてのみ数値を変えて、上記新たな建物熱モデルの変化を演算する。次に、第1演算部36は、上記選択した項目を除く未知パラメータの各項目から1つを選択し、この選択した項目についてのみ数値を変えて、上記新たな建物熱モデルの変化を演算する。第1演算部36は、このプロセスを未知パラメータの各項目の全てに対して順次実行する。そしてその後、第1演算部36は、未知パラメータの各項目の中から、上記新たな建物熱モデルに対して所定の基準以上の大きな影響(変化)を与えた項目を抽出し、これら抽出した項目を記憶部34に格納する。
【0052】
なお、本実施形態では、便宜上、ステップSP12の後にステップSP13を実行するものとしたが、この順序を入れ替えてもよい。
【0053】
次に、ステップSP14を実行する。このステップは、ステップSP13で抽出された建物熱モデルに大きな影響を与える項目を実測するステップである。実測された情報は、入力部32を介して事業者サーバ3に入力され、記憶部34に格納される。こうして、建物熱モデルに大きな影響を与える項目の実測値が、新たな情報として上書きされる。
【0054】
次に、ステップSP15を実行する。このステップは、建物熱モデルを完成させるステップである。具体的には、入力部32を介して所定の入力がされると、制御部35は、第1演算部36を再び起動させる。第1演算部36は、記憶部34から、建物熱モデルのシミュレーションプログラムと、ステップSP121で決定された固定パラメータと、ステップSP122で更新された未知パラメータと、ステップSP14で得られた建物熱モデルに大きな影響を与える項目の実測値とを読み出し、上記シミュレーションプログラムに基づいて建物熱モデルを再び演算する。こうして、第1演算ステップRT1が終了する。本ステップで得られた建物熱モデルは、ステップSP12~ステップSP14で得られた情報に基づいて演算されたものであるため、ステップSP11で得られた暫定的な建物熱モデルに比べてより近況を反映した建物熱モデルと考えることができる。
【0055】
第1演算ステップRT1の後、第2演算部37等において、DRプランを選択するための演算をする第2演算ステップRT2が実行される。DRプランは、後に再び説明するが、建物2の設備(本実施形態では、建物2の二次側設備である空調設備22)の電力需要調整を実施する時間と電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力(kW)とによって定まる。
図4は、第2演算ステップRT2を示すフロー図である。
【0056】
図4に示すように、第2演算ステップRT2では、まず、ステップSP21を実行する。本ステップは、第1演算ステップRT1で得られた建物熱モデル(本実施形態では、ステップSP15で得られた建物熱モデル)に、上述の環境情報347及び外界気象情報342を付与して、建物2の顕熱・潜熱処理熱量の時系列を演算するステップである。本ステップにおいて、制御部35は第2演算部37を起動させる。そうすると、第2演算部37は、記憶部26から、第1演算ステップRT1で得られた建物熱モデルと、環境情報347及び外界気象情報342と、所定のプラグラム(例えば、上述のHASP)とを読み出して、当該プログラムを実行することにより上記建物熱モデルに環境情報347及び外界気象情報342を付与する。その結果、付与される様々な環境情報347及び外界気象情報342に応じて、建物2の様々な顕熱・潜熱処理熱量(W)の時系列が演算される。なお、顕熱・潜熱処理熱量とは、室内を所定温度および所定湿度に維持するために空調設備が室内の空気から除去あるいは室内の空気に供給する必要のある熱量をいう。第2演算部37は、建物2の様々な顕熱・潜熱処理熱量の時系列の情報を記憶部34に格納する。
【0057】
次にステップSP22を実行する。本ステップにおいて、第2演算部37は、記憶部34から、空調設備情報348と、ステップSP21で演算された建物2の様々な顕熱・潜熱処理熱量の時系列の情報と、所定のプログラムとを読み出して、当該プログラムに基づいて、様々なDRプランを導き出す。本ステップにおいて実行されるプログラムは、建物2の顕熱・潜熱処理熱量の時系列の情報に空調設備情報348(特に、空調設備22(或いは、個々の空調機)の能力情報、及び、空調設備22(或いは、個々の空調機)の消費電力)を合成するとともに、その合成して得られた情報から室内温度を演算するように構成されている。本ステップが実行されることにより、様々なDRプランが演算される。これらのDRプランは、例えば
図5及び
図6に示されており、空調設備22の電力需要調整を実施する時間(DR実施時間Δt
32)と電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力P1,P2とによって定まるものである。第2演算部37は、得られた様々なDRプランを記憶部34に格納する。
【0058】
次に、ステップSP23を実行する。本ステップにおいて、第2演算部37は、記憶部34からDR発動条件344を読み出し、様々なDRプランの中から、DR発動条件344(すなわち、DR実施時間、DR実施時間において調整(削減又は増加)されるべき電力(上述の調整力)、及び猶予時間など)を満足するDRプランを選択する。本実施形態では、第2演算部37は、DR実施時間及び猶予時間を満たし、かつ、DR実施時間における電力の削減量が最大(すなわち、DR実施時間における調整力が最大)であるDRプランを選択する。第2演算部37は、この選択したDRプランを、記憶部34の所定の領域に移し替える。
【0059】
次に、ステップSP24を実行する。本ステップでは、制御部35の制御により、ステップSP23において選択されたDRプランの情報が事業者サーバ3から建物2に送信され、建物2において実際にこの選択されたDRプランが実行される。そして、この選択されたDRプランを実際に実施することによって、少なくとも所定の時間の間、建物2内の温度が所望の許容範囲(例えば、25℃~28℃)に収まるか否か、すなわち、快適性が担保されるか否かを確認する。そして、この選択されたDRプランによって快適性が損なれないことを確認した場合、このDRプランを保持する。なお、このような快適性は、例えば、PMV(Predicted Mean Vote)、PPD(Predicted Percentage of Dissatisfied)、あるいは人体温冷感によって確認されるものであってもよい。
【0060】
一方、本ステップでDRプランが建物2内の快適性が損なわれる場合(例えば、当該DRプランを実施した場合に許容され得る室内環境が提供されない場合)、ステップSP25を実行する。本ステップにおいて、第2演算部37は、例えば、異なる環境情報347や外界気象情報342に基づいて上記ステップSP21~ステップSP23と同様の処理を行い、例えばDR実施時間において予想される温度範囲の最高温度がより低くなるような新たなDRプランを選択する。こうして、ステップSP23において既に選択されていたDRプランが、本ステップで選択されたDRプランに修正される。本ステップで選択されたDRプランは、快適性をより考慮したDRプランである。本ステップにおいて、第2演算部37は、建物2の所定の快適性を満足するDRプランが得られるまで演算を繰り返す。
【0061】
このようなステップSP21~ステップSP25を経て、新たなDRプランが選択される。このように、第2演算部37は、第1演算部36で演算された建物熱モデルに基づいて、空調設備22の電力需要調整を実施する時間と電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力とによって定まるDRプランを選択するための演算をする。事業者サーバ3は、この新たなDRプランを記憶部34の所定の領域に格納する。また、この新たなDRプランは、建物2の記憶部26へと送られて記憶部26に格納されてもよい。
【0062】
図5及び
図6は、ステップSP21~ステップSP25を経て選択されたDRプランの例を表している。
図5のDRプラン及び
図6のDRプランはいずれも、ステップSP23において、DR実施時間を除いて、同一の情報を付与して得られたDRプランである。すなわち、
図5のDRプラン及び
図6のDRプランのいずれにおいても、DR制御開始は同一時刻t
1であり、DRは同一時刻t
2に開始される。ここで、DR制御開始とは、DRを実際に実行する前に建物2の躯体を予冷し始めることであり、DR制御開始t
1からDR開始t
2までの期間である猶予時間Δt
21が、躯体を予冷するための予冷時間に相当する。すなわち、
図5のDRプラン及び
図6のDRプランでは、同一の予冷が実行される。本実施形態において、建物2の空調装置22は、同一の消費電力ψ(kW)で同一の能力μ(kW)を発揮する4台の冷房装置を備えている。
図5のDRプラン及び
図6のDRプランでは、猶予時間Δt
21の間に4台の冷房装置を動作させ(すなわち、4μ(kW)の空調能力を建物2に付与して)、予冷を行っている。その結果、
図5のDRプラン及び
図6のDRプランのいずれにおいても、猶予時間Δt
21の間に建物2内の温度はθ
1℃に保たれている。ここで、θ
1℃は、建物2内の人間が快適と感じる温度の許容範囲Δθ
21の下限温度であり、例えば25℃であってもよい。一方、θ
2℃は許容範囲Δθ
21の上限温度であり、例えば28℃であってもよい。本実施形態では、猶予時間Δt
21の間に建物2内の温度が許容範囲Δθ
21の下限温度θ
1℃に保たれ、その結果、建物2の躯体が冷やされている。
【0063】
上記のような猶予時間Δt
21を経て、DR開始t
2からDR終了t
3までの時間であるDR実施時間Δt
32にDRが実施される。
図5のDRプランでは、DR実施時間Δt
32において建物2内の冷房装置の全て(4台)を停止させる。したがって、
図5のDRプランでは、DR実施時間Δt
32において4μ(kW)の空調能力が失われるが、その反面、4ψ(kW)の消費電力が抑制されると予想される。すなわち、
図5のDRプランを実施する場合、DR実施時間Δt
32において空調設備22の電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力P1は4ψ(kW)である。
図5のDRプランでは、全ての冷房装置を停止させるため、DR開始t
2以後の建物2内の温度上昇が比較的急峻になっている。具体的には、DR開始t
2以後、建物2内の温度の温度がθ
1℃から急峻に上昇している。
【0064】
次に、
図6のDRプランについて説明する。
図6のDRプランにおけるDR実施時間Δt
32は、
図5のDRプランにおけるDR実施時間Δt
32よりも長い。すなわち、
図6のDRプランは、ステップSP23において、より長いDR実施時間Δt
32を含むDR発動条件を付与して得られたDRプランである。
図6のDRプランでは、建物2内の冷房装置の一部を停止させる。なお、ここで言う「一部を停止させる」には、DR実施時間Δt
32において停止する冷房装置が不変である場合、及び、停止する冷房装置が時間に応じて順に変わる場合(いわゆる輪番制御)の両方が含まれる。本実施形態において、
図6のDRプランは、上記の4台のうち不変の2台を停止させる場合のDRプランである。この
図6のDRプランでは、DR実施時間Δt
32において2μ(kW)の空調能力が失われるが、その反面、2ψ(kW)の消費電力が抑制されると予想される。すなわち、
図6のDRプランを実施する場合、DR実施時間Δt
32において空調設備22の電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力P2は2ψ(kW)である。
図6のDRプランでは、このようにして一部の冷房装置を停止させる(すなわち、他の冷房装置は動作している)ため、DR開始t
2以後の建物2内の温度上昇が
図5のDRプランに比べて緩やかになっている。具体的には、DR開始t
2以後、建物2内の温度の温度がθ
1℃から緩やかに上昇している。その結果、
図6のDRプランでは、DR開始t
2後に建物2内の温度が許容範囲Δθ
21の上限温度θ
2℃を越える時刻t
fが、DR終了t
3の後となっている。このため、
図6のDRプランでは、DR実施時間Δt
32の終了後においても、快適性を損なわないDRを実行することが可能である。
【0065】
なお、例えば、大きな人員密度を示す建物2内の領域が経時的に変化したり、機器を多く使用する建物2内の領域が経時的に変化したりする等の理由によって、大きな熱負荷を示す領域が経時的に変化するような建物熱モデルが作成される場合がある。このような場合には、大きな熱負荷を示す領域の冷房を停止させると快適性が損なわれやすいため、大きな熱負荷を示す領域の経時的な変化に応じて停止させる冷房装置を変える(つまり、大きな熱負荷を示す領域の冷房装置を動作させつつ、他の領域の冷房装置を停止させる)輪番制御を実行するDRプランを選択するようにしてもよい。
【0066】
また、
図5のDRプラン及び
図6のDRプランの他にも、DR実施時間Δt
32において様々な空調装置22の運転パターンを実施するDRプランが存在することは言うまでもない。例えば、
図7の表に示すような空調装置22の運転パターンが考えられる。
図7のケースでは、建物2の空調装置22が、同一の消費電力ψ(kW)で同一の能力μ(kW)を発揮する4台の空調機A,B,C,Dを備えている。また、
図7では、空調機A,Bのそれぞれを全開能力(100%)に対して80%で運転し、かつ、空調機C,Dを停止させる運転パターンが空調装置22の基準の運転パターンとなっている場合における、DRプランの種々の例が示されている。
図7の全台停止プランVでは、DR実施時間Δt
32において空調機C,Dに加えて空調機A,Bを停止させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を抑制して、調整力を得ている。
図7の一部停止プランWでは、DR実施時間Δt
32において空調機C,Dに加えて空調機Bを停止させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を抑制して、調整力を得ている。
図7の全台出力抑制プランXでは、DR実施時間Δt
32において空調機A,Bのそれぞれの能力を80%から50%に抑制することによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を抑制して、調整力を得ている。
図7の一部出力抑制プランYでは、DR実施時間Δt
32において空調機Bの能力を80%から20%に抑制することによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を抑制して、調整力を得ている。
図7の一部出力抑制かつ一部停止プランZでは、DR実施時間Δt
32において空調機C,Dに加えて空調機Bを停止させかつ空調機Aの能力を80%から60%に抑制することによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を抑制して、調整力を得ている。また、DR実施時間Δt
32において、上述のプランV,W,X,Y,Zの少なくとも2つを組み合わせた運転パターンを採用してもよい。
【0067】
なお、
図7の表に示すような空調装置22の運転パターンは、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を抑制して調整力を得るいわゆる下げDRに関するものであるが、例えば
図8の表に示すような、いわゆる上げDRの運転パターンを実施してもよい。
図8のケースでは、建物2の空調装置22が、同一の消費電力ψ(kW)で同一の能力μ(kW)を発揮する4台の空調機A,B,C,Dを備えている。また、
図8では、空調機A,Bのそれぞれを全開能力(100%)に対して80%で運転し、かつ、空調機C,Dを停止させる運転パターンが空調装置22の基準の運転パターンとなっている場合における、DRプランの種々の例が示されている。
図8の全台稼働プランV´では、DR実施時間Δt
32において空調機A,Bに加えて空調機C,Dを全開能力の80%で稼働させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を増加させて、調整力を得ている。
図8の一部稼働プランW´では、DR実施時間Δt
32において空調機A,Bに加えて空調機Cを全開能力の80%で稼働させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を増加させて、調整力を得ている。
図8の全台出力増加プランX´では、DR実施時間Δt
32において空調機A,Bのそれぞれの能力を80%から100%に増加させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を増加させて、調整力を得ている。
図8の一部出力増加プランY´では、DR実施時間Δt
32において空調機Bの能力を80%から100%に増加させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を増加させて、調整力を得ている。
図8の一部出力増加かつ一部稼働プランZ´では、DR実施時間Δt
32において、空調機A,Bに加えて空調機Cを全開能力の80%で稼働させかつ空調機Aの能力を80%から100%に増加させることによって、基準の運転パターンに対して空調装置22の消費電力を増加させて、調整力を得ている。また、DR実施時間Δt
32において、上述のプランV´,W´,X´,Y´,Z´の少なくとも2つを組み合わせた運転パターンを採用してもよい。
【0068】
以上説明したように、実施形態のDR演算装置(事業者サーバ3)は、電力需要家の建物2の設計図書に記載された第1諸項目345の情報と、建物2の近況の使用状況を示す第2諸項目346の情報とを記憶する記憶部34と、記憶部34に記憶された第1諸項目345の情報及び第2諸項目346の情報に基づいて、建物2の建物熱モデルを演算する第1演算部36と、第1演算部36で演算された建物熱モデルに基づいて、建物2の空調設備22の電力需要調整を実施する時間(DR実施時間Δt32)と電力需要調整を実施したときに予想される電力の調整力P1,P2とによって定まるDRプランを選択するための演算をする第2演算部37と、を備えている。
【0069】
また、実施形態のDR演算装置(事業者サーバ3)を用いて実行するDRプラン演算方法では、電力需要家の建物2の設計図書に記載された第1諸項目345の情報と、建物2の近況の使用状況を示す第2諸項目346の情報とを記憶する記憶ステップと、記憶された第1諸項目345の情報及び第2諸項目346の情報に基づいて、建物2の建物熱モデルを演算する第1演算ステップRT1と、第1演算ステップRT1で演算された建物熱モデルに基づいて、建物2の空調設備22の電力需要調整を実施する時間(DR実施時間Δt32)と電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力P1,P2ととによって定まるDRプランを選択するための演算をする第2演算ステップRT2と、を備えている。
【0070】
また、実施形態のDRプラン演算プログラムは、DRプラン演算装置(事業者サーバ3)に対して、電力需要家の建物2の設計図書に記載された第1諸項目345の情報と、建物2の近況の使用状況を示す第2諸項目346の情報とを記憶する記憶ステップと、記憶された第1諸項目345の情報及び第2諸項目346の情報に基づいて、建物2の建物熱モデルを演算する第1演算ステップRT1と、第1演算ステップRT1で演算された建物熱モデルに基づいて、建物2の空調設備22の電力需要調整を実施する時間(DR実施時間Δt32)と電力需要調整を実施したときに得られると予想される電力の調整力P1,P2とによって定まるDRプランを選択するための演算をする第2演算ステップRT2とを実行させる。
【0071】
建物熱モデルのシミュレーションを行う際、当該建物の設計時点のパラメータに基づいて作成された建物熱モデルは、近況の建物の熱負荷から逸脱する傾向がある。なぜならば、例えば、建物が築後数十年経つと断熱性能が設計時から劣化する傾向にあるが、設計時点のパラメータではこの断熱性能の相違を反映させることが難しいためである。しかし、上記のDR演算装置(事業者サーバ3)、DR演算装置を用いて実行するDR演算方法、及び当該DR演算方法を実行させるDRプラン演算プログラムによれば、建物の近況の使用状況を示す第2諸項目346の情報を加味した建物熱モデルが作成されるため、より近況に即した、すなわち、需要家の建物の熱負荷を比較的正確に反映した建物熱モデル(建物の熱負荷の時系列)を作成することができる。そして、これらのDRプラン演算装置、DRプラン演算方法、及びDRプラン演算プログラムでは、この近況に即した建物熱モデルに基づいてDRプランが選択されるため、より近況に即した、すなわち、需要家の建物の熱負荷を比較的正確に反映したDRを実施することが可能となる。
【0072】
ところで、上記のように、人員密度や機器密度が大きい領域は、他の領域に比べて熱負荷が大きくなる傾向がある。そのため、このような人員密度や機器密度が大きい領域に着目してDRプランを選択することによって、さらに近況に即したDRを実施することが可能となる。また、上記のように、DR中、人員密度が大きい領域の空調装置を停止すると快適性が損なわれ易いため、快適性を考慮する場合、人員密度が大きい領域の空調装置を停止することは好ましくない。本実施形態によれば、建物2に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び建物2内の人員密度の少なくとも一方を検出可能な建物2に設けられたセンサ群23からの情報に基づいて、建物2に設けられたブラインド・照明・機器の使用状況及び建物2内の人員密度の少なくとも一方を演算する第4演算部39を備える。このため、本実施形態によれば、センサ群23からの情報に基づいて、リアルタイムな人員密度及び機器密度等を把握することが可能であり、さらに近況に即した建物熱モデルを作成し得る。具体的には、大きな熱負荷を示す領域の経時的変化が反映された建物熱モデルが得られ易い。したがって、このような建物熱モデルに基づいて選択されたDRプラン(すなわち、大きな熱負荷を示す領域の経時的変化が反映されたDRプラン)に基づいて、上記のように空調設備22を輪番制御することによって、より好ましい快適性とより大きな調整力とが得られるDRを実施し得る。
【0073】
以上、本発明について上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0074】
例えば、上述の実施形態では、第1演算ステップRT1においてステップSP12~SP15が実行される例を説明した。しかし、ステップSP12~SP15の少なくとも一つのステップを省略してもよい。ステップSP12~SP15の全てを省略する場合、ステップSP11で得られた建物熱モデルが第2演算ステップRT2に供される。
【0075】
また、上述の実施形態では、第2演算ステップRT2においてステップSP21~ステップSP25が実行される例を説明した。しかし、ステップSP24,25を省略してもよい。すなわち、建物2内の快適性を考慮することは必須ではない。
【0076】
また、上述の実施形態では、事業者サーバ3の第2演算部37が、複数のDRプランの中から所定のDR発動条件344を満足するDRプランを選択する例を説明した。しかし、例えば、事業者サーバ3が、演算した全てのDRプランを建物2の記憶部26に格納した上、建物2の制御部25が、記憶部26に格納されたDRプランから所定のDR発動条件344を満足するDRプランを選択するようにしてもよい。
【0077】
また、上述の実施形態では、DRに供される建物2の設備が二次側設備である空調設備22である例を説明した。しかし、空調設備22に代えて又は空調設備22に加えて、建物2の照明や建物2の一次側設備としての熱源機器(例えば、冷凍機、ボイラー)等、電力を消費しかつその電力消費を制御可能な建物2の機器や設備に対して、本発明を適用してもよい。
【0078】
また、上述の第1演算ステップRT1において、電気料金の市場価格を考慮して建物熱モデルを作成するようにしてもよい。将来的には、電気の需要が高いときには電気料金を上げる等して、電気消費を抑えることが想定される。このように電気消費が抑えられる結果、機器の発熱量が減るため、建物の熱負荷が低下することが考えられる。したがって、電気料金の市場価格を考慮して建物熱モデルを演算することによって、電気料金の市場価格が変動する場合に、より近況に即した建物熱モデルを作成することが可能になり得る。電気料金の市場価格を考慮した建物熱モデルの演算として、例えば、電気料金の基準値からの逸脱の程度に応じて、所定の定数を乗ずることが考えられる。
【符号の説明】
【0079】
1…DRプラン演算システム、2…建物、3…事業者サーバ(DRプラン演算装置)、23…センサ群、34…記憶部、36…第1演算部、37…第2演算部、38…第3演算部、39…第4演算部、344…DR発動条件、345…第1諸項目、346…第2諸項目、P1,P2…調整力