(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029026
(43)【公開日】2024-03-05
(54)【発明の名称】抗-LILRB1抗体およびその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240227BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240227BHJP
C07K 16/46 20060101ALI20240227BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240227BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240227BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240227BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240227BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240227BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240227BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240227BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/62 Z
C07K16/46
C07K16/28
C12N15/63 Z
C12P21/08
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023213950
(22)【出願日】2023-12-19
(62)【分割の表示】P 2022538832の分割
【原出願日】2020-12-22
(31)【優先権主張番号】10-2019-0173414
(32)【優先日】2019-12-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0061907
(32)【優先日】2020-05-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100122161
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 崇
(72)【発明者】
【氏名】ユン・ア・チェ
(72)【発明者】
【氏名】ジュン・ア・キム
(72)【発明者】
【氏名】セム・ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ジ・ヒョン・イ
(72)【発明者】
【氏名】キュボン・ナ
(72)【発明者】
【氏名】ヨンチュル・キム
(72)【発明者】
【氏名】ハン・ビョル・キム
(57)【要約】
【課題】LILRB1に対する特異性が増進した抗-LILRB1抗体およびその用途に関し、具体的には、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、およびその癌治療用途が提供される。
【解決手段】LILRB1に結合し、LILRB1を発現する免疫細胞に作用して免疫細胞の活性を調節して抗癌効能を示す抗体およびその癌治療用途が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の相補性決定領域(complementarity determining region;CDRs)を含む、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片:
配列番号37のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号38のアミノ酸配列を含むCDR-L2、
配列番号39のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
配列番号40のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号41のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
配列番号42のアミノ酸配列を含むCDR-H3
(前記CDRはKabat numberingを基準にして定義される。)
【請求項2】
配列番号231のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号232のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含む、請求項1に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
前記抗体は、ヒトIgG1またはIgG4抗体である、請求項1に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
前記抗原結合断片は、scFv、(scFv)2、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFvが免疫グロブリンのFcと融合した融合ポリペプチド、またはscFvが軽鎖の不変領域と融合した融合ポリペプチドである、請求項1に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片および薬学的に許容可能な担体を含む、癌の予防または治療用薬学組成物。
【請求項6】
前記癌は、MHCクラスIが過剰発現された特性を有する、請求項5に記載の薬学組成物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする、核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子を含む、組換えベクター。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸分子またはこれを含む組換えベクターを含む、組換え細胞。
【請求項10】
請求項9に記載の組換え細胞を培養する段階を含む、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2019年12月23日付の韓国特許出願第10-2019-0173414号および2020年5月22日付の韓国特許出願第10-2020-0061907号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、抗-LILRB1抗体およびその用途に関し、具体的には、抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、およびその癌治療用途に関する。
【背景技術】
【0003】
Leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1(LILRB1、またはILT2、CD85j、LIR-1)はB細胞、T細胞、NK細胞、樹状細胞、マクロファージおよびその他の免疫細胞などに発現する活性抑制受容体(inhibitory receptor)である。LILRB1は、classicalおよびnon-classical MHC class-Iと結合して、免疫細胞の活性を抑制させるシグナル伝達機構に関与する。
【0004】
一方、多様な癌細胞は免疫回避のために、HLA-GなどのMHCクラスI(MHC class I)を過剰発現することが知られている。LILRB1とMHCクラスIの結合を阻害する場合、抑制された免疫細胞の活性を回復させて抗癌効果を示すことが予想される。
【0005】
したがって、LILRB1に結合し、かつLILRB1のMHCクラスIへの結合を阻害および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用を阻害する新たな薬剤の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LILRB1に結合し、LILRB1を発現する免疫細胞に作用して免疫細胞の活性を調節して抗癌効能を示す抗体およびその癌治療用途が提供される。
【0007】
一実施形態は、LILRB1に結合する抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を提供する。前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1のMHCクラスIとの結合を阻害する活性および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用を阻害する活性を有し得る。前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有し得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は優れた抗癌活性を有し得る。前記癌は、表面にMHCクラスIを発現または過剰発現するものであり得る。
【0008】
他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む、癌の治療および/または予防用薬学組成物を提供する。
【0009】
他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含むLILRB1のMHCクラスIとの結合阻害用薬学組成物および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用阻害用薬学組成物を提供する。
【0010】
他の実施形態は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を含む癌細胞の免疫回避阻害用薬学組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一実施形態は、LILRB1に結合する抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を提供する。前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1のMHCクラスIとの結合を阻害および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用を阻害する活性を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は優れた抗癌活性を有するものであり得る。
【0012】
前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、以下の相補性決定領域(CDR)を含むものであり得る:
(1)Kabat numberingによるCDR定義(Kabat,E.A.,Wu,T.T.,Perry,H.,Gottesman,K.and Foeller,C.(1991)Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition.NIH Publication No.91-3242;http://www.abysis.org/)を基準にして、
配列番号1、7、13、19、25、31、37、43、49、55、61、67、73、79、85、91、97、103、109または115のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号2、8、14、20、26、32、38、44、50、56、62、68、74、80、86、92、98、104、110または116のアミノ酸配列を含むCDR-L2、
配列番号3、9、15、21、27、33、39、45、51、57、63、69、75、81、87、93、99、105、111または117のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
配列番号4、10、16、22、28、34、40、46、52、58、64、70、76、82、88、94、100、106、112または118のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号5、11、17、23、29、35、41、47、53、59、65、71、77、83、89、95、101、107、113または119のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
配列番号6、12、18、24、30、36、42、48、54、60、66、72、78、84、90、96、102、108、114または120のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むか、
(2)IMGT numberingによるCDR定義(http://www.imgt.org/)を基準にして、
配列番号121、126、131、136、141、146、151、156、161、166、171、176、181、186、191、196、201、206、211または216のアミノ酸配列を含むCDR-L1、
配列番号122、127、132、137、142、147、152、157、162、167、172、177、182、187、192、197、202、207、212または217のアミノ酸配列を含むCDR-L2、
配列番号3、9、15、21、27、33、39、45、51、57、63、69、75、81、87、93、99、105、111または117のアミノ酸配列を含むCDR-L3、
配列番号123、128、133、138、143、148、153、158、163、168、173、178、183、188、193、198、203、208、213または218のアミノ酸配列を含むCDR-H1、
配列番号124、129、134、139、144、149、154、159、164、169、174、179、184、189、194、199、204、209、214または219のアミノ酸配列を含むCDR-H2、および
配列番号125、130、135、140、145、150、155、160、165、170、175、180、185、190、195、200、205、210、215または220のアミノ酸配列を含むCDR-H3を含むものであり得る。
【0013】
一実施形態において、本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片に含むことが可能な6個のCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3)の組み合わせを下記の表1に示す:
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【0014】
一例において、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、前記のような、
CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域、並びに
CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域を含むものであり得る。
【0015】
実施形態において、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、
配列番号221、223、225、227、229、231、233、235、237、239、241、243、245、247、249、251、253、255、257、259または345のアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域、および
配列番号222、224、226、228、230、232、234、236、238、240、242、244、246、248、250、252、254、256、258または260のアミノ酸配列を含む重鎖可変領域を含むものであり得る。
【0016】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片に含むことが可能な軽鎖可変領域および重鎖可変領域の組み合わせを下記の表2に示す:
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0017】
本明細書において、抗体またはその抗原結合断片(例えば、CDR、可変領域、または重鎖/軽鎖)が「特定のアミノ酸配列を含むまたは特定のアミノ酸配列からなるか、または表現される」とは、前記アミノ酸配列を必ず含む場合、および前記アミノ酸配列に抗体活性に影響を与えない無意味な変異(例えば、アミノ酸残基の置換、欠失、および/または付加)が導入された場合を全て意味するものであり得る。
【0018】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1(例えば、ヒトLILRB1)に対する結合親和性(KD)は、例えば、表面プラズモン共鳴(Surface plasmon resonance、SPR)で測定したものを基準にして、10mM以下、5mM以下、1mM以下、0.5mM以下、0.2mM、または0.15mM以下であり得、例えば、0.001nM~10mM、0.005nM~10mM、0.01nM~10mM、0.05nM~10mM、0.1nM~10mM、0.5nM~10mM、1nM~10mM、0.001nM~5mM、0.005nM~5mM、0.01nM~5mM、0.05nM~5mM、0.1nM~5mM、0.5nM~5mM、1nM~5mM、0.001nM~1mM、0.005nM~1mM、0.01nM~1mM、0.05nM~1mM、0.1nM~1mM、0.5nM~1mM、1nM~1mM、0.001nM~0.5mM、0.005nM~0.5mM、0.01nM~0.5mM、0.05nM~0.5mM、0.1nM~0.5mM、0.5nM~0.5mM、1nM~0.5mM、0.001nM~0.2mM、0.005nM~0.2mM、0.01nM~0.2mM、0.05nM~0.2mM、0.1nM~0.2mM、0.5nM~0.2mM、1nM~0.2mM、0.001nM~0.15mM、0.005nM~0.15mM、0.01nM~0.15mM、0.05nM~0.15mM、0.1nM~0.15mM、0.5nM~0.15mM、または1nM~0.15であり得る。
【0019】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を有効性分として含む薬学組成物を提供する。例えば、前記薬学組成物は、癌の治療および/または予防のための薬学組成物であり得る。前記薬学組成物は、LILRB1のMHCクラスIとの結合および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用を阻害する活性を有するものであり得る。前記癌は、LILRB1とMHCクラスIとの相互作用に関連する癌であり得る。一例において、前記薬学組成物は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有するものであり得る。前記癌細胞は、表面にMHCクラスIを発現または過剰発現したものであり得る。
【0020】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を有効性分として含むLILRB1のMHCクラスIとの結合阻害用組成物および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用阻害用組成物を提供する。
【0021】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片を有効性分として含む癌細胞の免疫回避阻害用組成物を提供する。
【0022】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量を癌の治療および/または予防を必要とする対象(例えば、ヒトを含む哺乳類)に投与(経口または非経口投与)する段階を含む、癌を治療および/または予防する方法を提供する。
【0023】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量をLILRB1のMHCクラスIとの結合および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用阻害を必要とする対象(例えば、ヒトを含む哺乳類)に投与(経口または非経口投与)する段階を含む、LILRB1のMHCクラスIとの結合を阻害する方法および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用を阻害する方法を提供する。
【0024】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の薬学的有効量を癌細胞の免疫回避阻害を必要とする対象(例えば、ヒトを含む哺乳類)に投与(経口または非経口投与)する段階を含む、癌細胞の免疫回避を阻害する方法を提供する。
【0025】
本明細書で提供される方法は、前記投与する段階前に、癌の治療および/または予防を必要とする対象、LILRB1のMHCクラスIとの結合阻害および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用阻害を必要とする対象、および/または癌細胞の免疫回避阻害を必要とする対象を確認する段階をさらに含み得る。
【0026】
他の例は、前記抗-LILRB1抗体のCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはCDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3の組み合わせ、またはCDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3の組み合わせ);CDR-L1、CDR-L2、およびCDR-L3を含む軽鎖可変領域;CDR-H1、CDR-H2、およびCDR-H3を含む重鎖可変領域;前記軽鎖可変領域を含む軽鎖;および前記重鎖可変領域を含む重鎖からなる群より選択される1つ以上のポリペプチドをコードする核酸分子(ポリヌクレオチド)を提供する。
【0027】
他の例は、前記核酸分子を含む組換えベクターを提供する。一例において、前記組換えベクターは、前記軽鎖可変領域または軽鎖コード核酸分子および前記重鎖可変領域または重鎖コード核酸分子を(例えば、2つのベクターに)をそれぞれ含むか、(例えば、1つのベクターに)共に含むものであり得る。前記組換えベクターは、発現ベクターとして用いることができる。
【0028】
他の例は、前記核酸分子または組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0029】
他の例は、前記核酸分子を細胞で発現させる段階を含む抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。前記核酸分子を発現させる段階は、前記組換え細胞を培養する段階を含み得る。
【0030】
本明細書に記載された抗-LILRB1抗体の抗原結合断片は、前記抗-LILRB1抗体に由来し、抗原(LILRB1)に対する結合力を保有する断片を意味し、前記抗-LILRB1抗体の6個のCDRを含む任意のポリペプチド、例えば、scFv、scFv-Fc、scFv-Ck(カッパ不変領域)、scFv-Cλ(ラムダ不変領域)、(scFv)2、Fab、Fab’またはF(ab’)2であり得るが、これらに限定されるものではない。一例において、前記抗原結合断片は、scFv、またはscFvが免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)のFc部位と融合した融合ポリペプチド(scFv-Fc)または軽鎖不変領域(例えば、カッパまたはラムダ)と融合した融合ポリペプチド(scFv-CkまたはscFv-Cλ)であり得る。
【0031】
前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1タンパク質に対して調節作用、例えば、拮抗作用(antagonism)またはアゴニズム(agonism)するものであり得る。前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、LILRB1のMHCクラスIとの結合および/またはLILRB1とMHCクラスIとの相互作用を阻害する活性を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避を阻害する活性を有するものであり得る。また、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、優れた抗癌活性を有するものであり得る。
【0032】
本明細書で提供される抗体または抗原結合断片の抗原として作用するLILRB1は哺乳類由来のものであり得、例えば、ヒト由来LILRB1(例えば、GenBank accession numbers AAH15731.1(配列番号348)、NP_001265328.2、NP_001265327.2、NP_001075108.2、NP_001075107.2、NP_001075106.2、NP_006660.4、NM_001081637.2、NM_001081638.3、NM_001081639.3、NM_001278398.2、NM_001278399.2など)であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0033】
本明細書に記載されたMHCクラスIは、major histocompatibility complex(MHC)分子の一分類である。一例において、前記MHCクラスIはヒト由来のものであり得、HLA(human leukocyte antigen)-A、HLA-B、HLA-C、HLA-E、HLA-F、およびHLA-Gからなる群より選択される1種以上であり得るが、これらに限定されるものではない。
【0034】
本明細書において「抗体」とは、特定の抗原に特異的に結合するタンパク質の総称であって、免疫系で抗原刺激によって作られるタンパク質またはこれを組換えまたは化学的合成で製造したタンパク質であり得、その種類は特に限定されない。前記抗体は非自然に生成されたもの、例えば、組換えまたは合成的に生成されたものであり得る。前記抗体は、動物抗体(例えば、マウス抗体など)、キメリック抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。前記抗体は、単クローン抗体または多クローン抗体であり得る。
【0035】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片で先に定義した重鎖CDRおよび軽鎖CDR部位、または重鎖可変領域および軽鎖可変領域を除いた残りの部位は、すべてのサブタイプの免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4)、IgMなど)に由来するものであり得、例えば、前記すべてのサブタイプの免疫グロブリンのフレームワーク部位、および/または軽鎖不変領域および/または重鎖不変領域に由来するものであり得る。一例において、本明細書で提供される抗-LILRB1抗体はヒトIgG型抗体、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4形態の抗体であり得るが、これらに限定されるものであはない。
【0036】
完全な抗体(例えば、IgG型)は、2本の全長(full length)軽鎖および2本の全長重鎖を有する構造であり、それぞれの軽鎖は、重鎖と二硫化結合で連結されている。抗体の不変領域は、重鎖不変領域と軽鎖不変領域に分けられ、重鎖不変領域は、ガンマ(γ)、ミュー(μ)、アルファ(α)、デルタ(δ)またはイプシロン(ε)タイプを有し、サブクラスとしてガンマ1(γ1)、ガンマ2(γ2)、ガンマ3(γ3)、ガンマ4(γ4)、アルファ1(α1)またはアルファ2(α2)を有する。軽鎖の不変領域は、カッパ(κ)およびラムダ(λ)タイプを有する。
【0037】
用語「重鎖(heavyc hain)」は、抗原に特異性を付与するために十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVHおよび3個の不変領域ドメインCH1、CH2およびCH3とヒンジ(hinge)を含む全長重鎖およびその断片を全て含む意味に解釈される。また、用語「軽鎖(light chain)」は、抗原に特異性を付与するための十分な可変領域配列を有するアミノ酸配列を含む可変領域ドメインVLおよび不変領域ドメインCLを含む全長軽鎖およびその断片を全て含む意味に解釈される。
【0038】
用語「CDR(complementarity determining region)」は、抗体の可変部位中で抗原との結合特異性を付与する部位を意味し、免疫グロブリン重鎖および軽鎖の高可変領域(hypervariable region)のアミノ酸配列を意味する。重鎖および軽鎖は、それぞれ3個のCDRを含み得る(CDRH1、CDRH2、CDRH3およびCDRL1、CDRL2、CDRL3)。前記CDRは、抗体が抗原またはエピトープに結合するにあたって主な接触残基を提供することができる。一方、本明細書において、用語「特異的に結合」または「特異的に認識」は、当業者に通常知られている意味と同じであり、抗原および抗体が特異的に相互作用して免疫学的に反応することを意味する。
【0039】
本明細書において、抗体は、特別な言及がない限り、完全な抗体だけでなく、抗原結合能を持った抗体の抗原結合断片を含むものとして理解され得る。
【0040】
用語「抗原結合断片」は、抗原と結合できる部分(例えば、本明細書において定義された6個のCDR)を含むすべての形態のポリペプチドを意味する。例えば、抗体のscFv、(scFv)2、scFvFc、Fab、Fab’またはF(ab’)2であり得るが、これらに限定されない。また、上述した通り、前記抗原結合断片はscFv、またはscFvが免疫グロブリン(例えば、IgA、IgD、IgE、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)、IgMなど)のFc部位または軽鎖不変領域(例えば、カッパまたはラムダ)と融合した融合ポリペプチドであり得る。
【0041】
前記抗原結合断片のうち、Fabは、軽鎖および重鎖の可変領域と軽鎖の不変領域および重鎖の最初の不変領域(CH1)を有する構造である。
【0042】
Fab’は、重鎖CH1ドメインのC-末端に1つ以上のシステイン残基を含むヒンジ領域(hinge region)を有するという点でFabと異なる。
【0043】
F(ab’)2抗体は、Fab’のヒンジ領域のシステイン残基がジスルフィド結合をなしながら生成される。Fvは、重鎖可変部位および軽鎖可変部位のみを有している最小の抗体断片であり、Fv断片を生成する組換え技術は当業界に幅広く知られている。
【0044】
二重鎖Fv(two-chain Fv)は、非共有結合で重鎖可変部位と軽鎖可変部位とが連結されており、単鎖Fv(single-chain Fv)は、一般にペプチドリンカーを介して重鎖の可変領域と軽鎖の可変領域とが共有結合で連結されるか、またはC-末端で直接連結されているので、二重鎖Fvと同様に、ダイマーのような構造をなすことができる。
【0045】
前記抗原結合断片は、タンパク質加水分解酵素を用いて得ることができ(例えば、全体抗体をパパインで制限切断すればFabを得ることができ、ペプシンで切断すればF(ab’)2断片を得ることができる。)、遺伝子組換え技術を用いて作られる。
【0046】
用語「ヒンジ領域(hinge region)」は、抗体の重鎖に含まれている領域であって、CH1とCH2領域の間に存在し、抗体内抗原結合部位の柔軟性(flexibility)を提供する機能を果たす領域を意味する。
【0047】
前記抗-LILRB1抗体は、単クローン抗体であり得る。単クローン抗体は、当業界で公知の方法により製造することができる。例えば、phage display技法を利用して製造することができる。または、抗-LILRB1抗体は、通常の方法によってマウス由来の単クローン抗体で製造することができる。
【0048】
一方、典型的なELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)フォーマットを利用してLILRB1との結合能に基づいて個別の単クローン抗体をスクリーニングすることができる。結合体に対して分子的相互作用を検定するための競合ELISA(Competitive ELISA)のような機能性分析またはセルベースアッセイ(cell-based assay)のような機能性分析により阻害活性に対して検定することができる。その後、強い阻害活性に基づいて選択された単クローン抗体メンバーに対してLILRB1に対するそれぞれの親和性(Kd values)を検定することができる。
【0049】
本明細書で提供される薬学組成物は、有効成分(抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片)に加えて、薬学的に許容可能な担体をさらに含み得る。前記薬学的に許容可能な担体は、製剤時に通常利用されるものであり、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアガム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、およびミネラルオイルなどからなる群より選択される1種以上であり得るが、これらに限定されるものではない。前記薬学組成物はまた、薬学組成物の製造に通常使用される希釈剤、賦形剤、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁剤、保存剤などからなる群より選択される1種以上をさらに含み得る。
【0050】
前記薬学組成物、または前記抗体またはその抗原結合断片の有効量は、経口または非経口で投与することができる。非経口投与の場合には、静脈内注入、皮下注入、筋肉注入、腹腔注入、内皮投与、鼻内投与、肺内投与、直腸内投与、または病変部位への局所投与などで投与可能である。経口投与時、タンパク質またはペプチドは消化されるため、経口用組成物は、活性薬剤をコーティングするか、胃での分解から保護されるように剤形化されなければならない。また、前記組成物は、活性物質が標的の細胞(例えば、癌細胞)に移動できる任意の装置により投与することができる。
【0051】
前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、薬学的有効量で前記薬学組成物内に含まれるか、患者に投与することができる。本明細書において「薬学的有効量」は、前記有効成分(抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片)が目的とする効果(例えば、抗癌効果)を発揮できる有効成分の量を意味する。前記薬学的有効量は、患者の年齢、体重、性別、病的状態、飲食、排泄速度、反応感応性、製剤化方法、投与時間、投与間隔、投与経路、投与方式などの要因によって多様に処方可能である。例えば、前記抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の1日投与量は、0.005ug/kg~1000mg/kg、0.005ug/kg~500mg/kg、0.005ug/kg~250mg/kg、0.005ug/kg~100mg/kg、0.005ug/kg~75mg/kg、0.005ug/kg~50mg/kg、0.01ug/kg~1000mg/kg、0.01ug/kg~500mg/kg、0.01ug/kg~250mg/kg、0.01ug/kg~100mg/kg、0.01ug/kg~75mg/kg、0.01ug/kg~50mg/kg、0.05ug/kg~1000mg/kg、0.05ug/kg~500mg/kg、0.05ug/kg~250mg/kg、0.05ug/kg~100mg/kg、0.05ug/kg~75mg/kg、または0.05ug/kg~50mg/kgの範囲であり得るが、これらに限定されるものではない。前記1日投与量は、単位容量形態で1つの製形で製剤化するか、または適切に分量して製剤化するか、または多用量容器内に入れ込んで製造することができる。
【0052】
前記薬学組成物は、オイルまたは水性媒質中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液形態であるか、エキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤などの形態に剤形化されてもよいし、剤形化のために分散剤または安定化剤をさらに含み得る。
【0053】
本発明の適用対象患者は、ヒト、サルなどを含む霊長類、マウス、ラットなどを含む齧歯類などを含む哺乳類であり得る。
【0054】
前記癌は、固形癌または血液癌であってもよく、これらに限定されないが、肺癌(例えば、小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌、肺扁平上皮癌など)、腹膜癌、皮膚癌、皮膚または眼内黒色腫、直膓癌、肛門部癌、食道癌、小腸癌、内分泌腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟組織肉腫、尿道癌、白血病(例えば、慢性または急性白血病)、リンパ腫、肝細胞癌、胃癌、膵臓癌、膠芽腫、頸部癌、卵巣ガン、肝癌、膀胱癌、肝腫瘍、乳癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜または子宮癌、唾液腺癌、腎細胞癌、腎臓癌、前立腺癌、外陰癌、甲状腺癌、頭頸部癌、脳癌、胆道癌、胆嚢癌、骨肉腫などからなる群より選択される1種以上であり得る。前記癌は、原発性癌または転移性癌であり得る。前記癌は、表面にMHCクラスIが発現または過剰発現されたものであり得、例えば、大腸癌(colon adenocarcinoma)、小細胞肺癌(small cell lung carcinoma)、乳癌(breast cancer)、膵臓癌(pancreatic cancer)、皮膚癌(malignant melanoma)、骨肉腫(bone osteosarcoma)、腎細胞癌(renal cell carcinoma)、胃癌(gastric cancer)であり得る。前記MHCクラスIの過剰発現は、正常細胞、または免疫治療、例えば、T-細胞(e.g.,cytotoxic T-cell)媒介免疫治療で抗癌効果が現れない(前記免疫治療で反応性がないかまたは抵抗性がある)癌細胞と比較して、前記抗体適用対象癌細胞で過剰発現されたものを意味する。
【0055】
本明細書において癌の治療は、癌細胞増殖の抑制、癌細胞死滅、転移抑制などの癌の症状の悪化を防止するか緩和または好転させるか、または癌を部分的または全部を消滅させるすべての抗癌作用を意味する。
【0056】
本明細書で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は他の薬物、例えば、通常使用可能な免疫治療剤、抗癌剤、細胞毒性製剤などからなる群より選択される1種以上と併用することができる。したがって、一例として、(1)抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、および(2)免疫治療剤、抗癌剤、細胞毒性製剤などからなる群より選択される1種以上の薬物を含む、癌の予防および/または治療のための併用投与用薬学組成物を提供する。他の例は、癌の予防および/または治療を必要とする患者に(1)抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片、および(2)免疫治療剤、抗癌剤、細胞毒性製剤などからなる群より選択される1種以上の薬物を投与する段階を含む、癌の予防および/または治療方法が提供される。前記免疫治療剤、抗癌剤および細胞毒性製剤は通常癌治療に使用されるか、および/または細胞毒性活性を有するすべての薬物を包括するもので、抗体などのタンパク質、siRNAなどの核酸分子、および/またはパクリタキセル、ドセタキセルなどの小分子化合物の中から1種以上選択されるが、これらに限定されるものではない。
【0057】
他の例として、先に説明した抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはこれらの組み合わせ)、軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、またはこれらの組み合わせ)、またはこれらの組み合わせ;または重鎖可変領域、軽鎖可変領域、またはこれらの組み合わせを含むポリペプチド分子が提供される。前記ポリペプチド分子は、抗体の前駆体として抗体作製に用いられるだけでなく、抗体と類似した構造を有するタンパク質骨格(protein scaffold;例えば、ペプチボディ)、二重特異抗体、多重特異抗体の構成成分として含まれる。さらに他の例として、前記ポリペプチド分子は、CAR-Tなどの標的細胞治療剤において標的(抗原)認識部、分泌される抗体、前記抗-LILRB1抗体を分泌するように作製された細胞治療剤などとして使用可能である。
【0058】
他の例として、抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域(CDR-H1、CDR-H2、CDR-H3、またはこれらの組み合わせ)、重鎖可変領域または重鎖をコードする核酸分子を提供する。
【0059】
他の例として、抗-LILRB1抗体の軽鎖相補性決定領域(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、またはこれらの組み合わせ)、軽鎖可変領域または軽鎖をコードする核酸分子を提供する。
【0060】
他の例として、前記抗-LILRB1抗体の重鎖相補性決定領域、重鎖可変領域または重鎖をコードする核酸分子および抗-LILRB1抗体の軽鎖相補性決定領域、軽鎖可変領域または軽鎖をコードする核酸分子を1つのベクターに共に含むか、それぞれ別個のベクターに含む組換えベクターを提供する。
【0061】
他の例として、前記核酸分子または組換えベクターを含む組換え細胞を提供する。
【0062】
用語「ベクター(vector)」は、宿主細胞で目的遺伝子を発現させるための発現手段を意味する。例えば、プラスミドベクター、コスミドベクター、およびバクテリオファージベクター、レンチウイルスベクター、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびアデノ-関連ウイルスベクターなどのウイルスベクターを含む。前記組換えベクターに使用可能なベクターは、当業界で頻用されるプラスミド(例えば、pSC101、pGV1106、pACYC177、ColE1、pKT230、pME290、pBR322、pUC8/9、pUC6、pBD9、pHC79、pIJ61、pLAFR1、pHV14、pGEXシリーズ、pETシリーズおよびpUC19など)、ファージ(例えば、λgt4λB、λ-Charon、λΔz1およびM13など)またはウイルス(例えば、SV40など)を操作して作製することができる。
【0063】
前記組換えベクターで前記核酸分子は、プロモーターに作動的に連結され得る。用語「作動可能に連結された(operatively linked)」は、ヌクレオチド発現調節配列(例えば、プロモーター配列)と他のヌクレオチド配列との間の機能的な結合を意味する。前記調節配列は「作動可能に連結(operatively linked)」されることで他のヌクレオチド配列の転写および/または翻訳を調節することができる。
【0064】
前記組換えベクターは、典型的にクローニングのためのベクターまたは発現のためのベクターとして構築することができる。前記発現用ベクターは当業界において植物、動物または微生物で外来のタンパク質を発現するのに使用される通常のものを使用することができる。前記組換えベクターは、当業界に公知の多様な方法により構築することができる。
【0065】
前記組換えベクターは、原核細胞または真核細胞を宿主として構築することができる。例えば、使用されるベクターが発現ベクターであり、原核細胞を宿主とする場合には、転写を進行させる強力なプロモーター(例えば、pLλプロモーター、CMVプロモーター、trpプロモーター、lacプロモーター、tacプロモーター、T7プロモーターなど)、翻訳の開始のためのリボゾーム結合サイトおよび転写/翻訳終結配列を含むことが一般的である。真核細胞を宿主とする場合には、ベクターに含まれる真核細胞で作動する複製起点は、f1複製起点、SV40複製起点、pMB1複製起点、アデノ複製起点、AAV複製起点およびBBV複製起点などを含むが、これらに限定されるものではない。また、哺乳動物細胞のゲノムに由来するプロモーター(例えば、メタロチオニンプロモーター)、または哺乳動物ウイルスに由来するプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター、ワクチニアウイルス7.5Kプロモーター、SV40プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーター、HSVのtkプロモーターなど)が用いられ、転写終結配列としてポリアデニル化配列を一般的に有する。
【0066】
前記組換え細胞は、前記組換えベクターを適切な宿主細胞に導入させることによって得られたものであり得る。前記宿主細胞は、前記組換えベクターを安定的かつ連続的にクローニングまたは発現させる細胞であって当業界に公知されているいかなる宿主細胞も用いることができ、原核細胞としては、例えば、E.coli JM109,E.coli BL21,E.coli RR1,E.coli LE392,E.coli B,E.coli X1776,E.coli W3110などの大腸菌、バチルスサブティリス、バチルスチューリンゲンシスなどのバチルス属菌株、そしてサルモネラチフィリウム、セラチアマルセッセンスおよび多様なシュードモナス種などの腸内菌と菌株などがあり、真核細胞に形質転換させる場合には宿主細胞として、酵母(Saccharomyces cerevisiae)、昆虫細胞、植物細胞、および動物細胞、例えば、Sp2/0、CHO(Chinese hamster ovary)K1、CHO DG44、CHO S、CHO DXB11、CHO GS-KO、PER.C6、W138、BHK、COS-7、293、HepG2、Huh7、3T3、RIN、MDCK細胞株などが用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
前記核酸分子またはこれを含む組換えベクターの宿主細胞内への導入(トランスフェクション)は、当業界に広く知られた運搬方法を使用することができる。前記トランスフェクション方法は、例えば、宿主細胞が原核細胞の場合、CaCl2方法または電気穿孔方法などを使用することができ、宿主細胞が真核細胞の場合には、微細注入法、カルシウムホスフェート沈殿法、電気穿孔法、リポゾーム-媒介形質感染法および遺伝子ボンバードメントなどを使用することができるが、これらに限定されない。
【0068】
前記形質転換された宿主細胞を選別する方法は、選択標識によって発現する表現型を用いて、当業界に広く知られた方法により容易に実施可能である。例えば、前記選択標識が特定の抗生剤耐性遺伝子の場合には、前記抗生剤が含有された培地で形質転換体を培養することによって、形質転換体を容易に選別することができる。
【0069】
他の例として、前記核酸分子またはこれを含む組換えベクターを宿主細胞で発現させる段階を含む抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片の製造方法を提供する。前記発現させる段階は、前記核酸分子(例えば、組換えベクターに含まれる)を含む組換え細胞を前記核酸分子の発現を許容する条件下で培養することによって行うことができる。前記製造方法は、前記発現させる段階または培養する段階後に、培養培地から抗体または抗原結合断片を分離および/または精製する段階を含むものであり得る。
【発明の効果】
【0070】
本発明で提供される抗-LILRB1抗体またはその抗原結合断片は、癌細胞の免疫回避基作を阻害し、免疫細胞の抗癌効能を阻害せずによく発揮できるようにすることによって優れた抗癌活性を示すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【
図1】一実施形態において精製された抗-LILRB1抗体のSDS-PAGEゲル分析結果を示す電気泳動写真である。
【
図2】一実施形態による抗-LILRB1抗体B3に対するSPR(surface plasmon resonance)sensorgram結果を示す図である。
【
図3】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3に対するSPR sensorgram結果を示す図である。
【
図4a】一実施形態による抗-LILRB1抗体A10のヒトNK細胞であるKHYG-1細胞に対する結合力を示すグラフである。
【
図4b】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3のヒトNK細胞であるKHYG-1細胞に対する結合力を示すグラフである。
【
図4c】human IgG4 isotype control抗体のヒトNK細胞であるKHYG-1細胞に対する結合力を示すグラフである。
【
図5】一実施形態による抗-LILRB1抗体およびhuman IgG4 isotype control抗体をそれぞれ処理時の組換えLILRB1-Fcタンパク質のHLA-G過剰発現細胞表面に対する結合程度をiQue screenerで分析した結果を示すグラフである。
【
図6】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3およびB3のin vivo抗腫瘍効果を示すグラフである。
【
図7a】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図7b】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図7c】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図7d】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図8a】一実施形態による抗-LILRB1抗体H11が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図8b】一実施形態による抗-LILRB1抗体H11が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図8c】一実施形態による抗-LILRB1抗体H11が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図8d】一実施形態による抗-LILRB1抗体H11が多様なhuman LILR family過剰発現細胞に結合することを示すflow cytometry diagramである。
【
図9】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1またはH11の処理時のヒトNK細胞であるKHYG-1細胞でのグランザイムB分泌量を対照抗体(human IgG4 isotype)と比較して示すグラフである。
【
図10】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1またはH11の処理時のヒトNK細胞であるKHYG-1細胞でのパーフォリン分泌量を対照抗体(human IgG4 isotype)と比較して示すグラフである。
【
図11】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1またはH11のLILRB1シグナル伝達阻害能の評価のためのluciferase reporter assay結果を示すグラフである。
【
図12】一実施形態による抗-LILRB1抗体E3.1またはH11のin vivo抗腫瘍効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、これは例示的なものに過ぎず本発明の範囲を制限しようとするものではない。以下に記載された実施例は発明の本質的な要旨を逸脱しない範囲で変形できることは当業者にとって自明である。
【0073】
実施例1:LILRB1に対するヒト抗体の生産
1.1.ファージディスプレイ(phage display)を用いたLILRB1に対するヒト抗体の選別
ヒトLILRB1を特異的に認識する抗体を選別するために、ヒトscFv抗体からなるライブラリーを用いてファージディスプレイ選別法を行った。抗原は、RnD systems社製のhuman LILRB1-His(Cat.No.8989-T2)とhuman LILRB1-Fc(Cat.No.2017-T2)をそれぞれ用いた。また、各抗原は、EZ-Link Sulfo-NHS-Biotin kit(ThermoFisher Scientific)を用いてbiotinをconjugationした。
【0074】
ファージディスプレイ選別は、固相(solid-phase)と液相(solution-phase)選別法により総4つの形態のLILRB1抗原(LILRB1-His、LILRB1-Fc、LILRB1-His-Biotin、LILRB1-Fc-Biotin)を用いて行った。追加的な選別は、使用する抗原濃度を漸次減らすか、LILRB1に対するcontrol抗体を用いて競争的に溶出するか、LILRB1-Fcが抗原として用いられた場合、Fcに対する陰性選別を実施するなどの方法で行った。選別された産出物は、多クローンファージELISAによって抗原に対する結合を確認した。
【0075】
1.2.単クローンsoluble scFvスクリーニングおよび分析
前記実施例1.1で抗原に対する結合が確認されたscFvをコーディングする遺伝子をPCRで増幅して発現ベクターを作製した。各選別群に対するスクリーニングのために、一定数のtransformantを96 well culture plateに移した。Autoinduction media(Studier,F.W.(2005)Protein Expression and Purification 41,207-34)を用いてscFv形態の抗体を発現した後、DELFIA immune assay(PerkinElmer)を行い、抗原に対する結合を確認した。また、表面に一定量のscFv抗体がコーティングされるようにした後、抗原に対するDELFIAを行い、抗原-抗体結合力に対する順位を決めた。
【0076】
1.3.選別されたscFv抗体のIgG抗体への変換
前記実施例1.2で抗原に対する結合が確認されたクローンの中から総376個を選別し、前記選別されたscFvをコーディングする遺伝子の核酸配列を一般的なDNA配列分析方法で分析して重複するクローンを除去した。また、前記実施例1.2で定められた抗原-抗体結合力に対する順位に基づいて総93個のクローンを選別した。前記選別されたscFvをコーディングする遺伝子からそれぞれの重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)に相当する配列をPCRで増幅してIgG4形態のヒト抗体(IgG4 Fc:配列番号341、Kappa不変領域:配列番号342、Lambda不変領域:配列番号343)をコーディングするように作製された発現ベクター(pTRIOZ-hIgG4;InvivoGen、その他にもCMV promoter、またはCMV/CHO beta-actin融合プロモーター(KR10-1038126B1)を有し、human IgG4のheavy chain constant regionとkappaまたはlambda light chainのconstant region配列を含むベクターの中でどちらを用いても構わない)に挿入した。前記発現ベクターは、sequencingによってそのDNA配列を確認した。
【0077】
1.4.選別された抗体の製造
前記実施例1.3で構築されたベクターは、Plasmid Plus Maxi kit(Qiagen)を用いて精製した。このように精製されたベクターを、ExpiCHO-STM細胞またはExpi293TM細胞を用いて抗体発現に使用した。
【0078】
具体的には、前記実施例1.3で構築されたベクターをExpiCHO-STM細胞(Gibco)(1.5×108cells/Culture Volume25mL)にExpiFectamineTM CHO reagent(Thermo Fisher)80ulを添加してトランスフェクション(transfection)した。Transfection1日後、ExpiCHOTM Enhancer(Thermo Fisher)150ulとExpiCHOTM Feed(Thermo Fisher)4mLを添加した。5日目にExpiCHOTM Feed 4mLを添加した。トランスフェクションした細胞は32℃、5%CO2の条件下で総7~11日間培養した。
【0079】
また、前記実施例1.3で構築されたベクターをExpi293FTM細胞(Gibco)(3×108cells/Culture Volume 100mL)にExpiFectamineTM 293 Reagent(Gibco)320ulを添加して製造会社の説明書に従ってトランスフェクションした。Transfection1日後、ExpiFectamineTM 293 Enhancer1(Thermo Fisher)をCulture Volume100mL当たり0.6mL、ExpiFectamineTM Enhancer2(Thermo Fisher)をCulture Volume100mL当たり6mL、glucoseを1リットル当たり3.6gずつ添加した。トランスフェクションした細胞は36.5℃、5%CO2の条件下で総5日間培養した。
【0080】
前記培養した2つの細胞を4℃で4000rpmで20分間遠心分離した後、0.22umのbottle-top filter system(Corning)を用いてろ過した。回収した培養液をAKTA Pure L(GE healthcare)を用いて精製した。AKTA Pure LにHitrap MabSelectSure 1mLカラム(GE healthcare)を装着し、培養液を1mL/minの流速で流した後、1X PBSで20 column volume(CV)で洗浄した。溶出バッファー(0.1M sodium citrate pH3.4 buffer)を流して目的タンパク質を溶出させた。溶出液はAmicon Ultra Filter Device(MWCO 10K、Merck)と遠心分離機を用いて濃縮を行った後、1xPBS緩衝溶液でバッファー交換を実施した。
【0081】
精製した抗体試料は、1X PBSで希釈して約1mg/mLとなるように用意した。Reducing Loading Buffer(3X)またはNon-reducing Loading Buffer(3X)10ulと精製した抗体試料20ulを混合した後、95℃のheating bathに2分間静置した後、取り出して冷却させた。SDS-PAGE Gradient Gel(4~20%または4~12%)を電気泳動装置に装着した後、well当たり10μgの試料を注入し、gelを展開した。試料の分子量分析のためにPrecision Plus ProteinTM Dual Color Standards(BIO-RAD)を別途のwellに注入した。Coomassie staining solutionでgelをstainingし、destainingした後、gel写真を撮影した。
【0082】
これらの93個の抗体中でA10、B3、E3、G1、G9およびH2抗体のゲル電気泳動写真を代表として
図1に示す。
図1に示すように、二硫化結合を有する抗体生成を確認することができた。
【0083】
1.5.選別された抗体の結合親和性の分析
前記実施例1.3で選別された93種の抗体のLILRB1抗原に対する親和力をBiacore T200(GE healthcare)を用いて測定した。Series S Sensor Chip CM5(GE healthcare、Cat.No.BR-1005-30)上にAmine Coupling Kit(GE healthcare、Cat.No.BR-1000-508)を用いてanti-human IgG(Fc)抗体(GE healthcare、Cat.No.BR-1008-39、最終濃度25ug/mL)を5ul/minで360秒間流して約5000~7000RUで固定させた。抗原であるヒトLILRB1タンパク質(LILRB1-His、RnD systems Cat.No.8989-T2)を3.13nMから1600nMまでの濃度範囲内で互いに異なる4~9個の濃度で30ul/minの速度で注入して、下記の表の通りkaとkd値を求め、これからKD値を計算した。
【0084】
前記93種の抗体の中で優れた結合力(K
D値)を示す20種の抗体を選別して、その結果を下記の表3に記載し、その中でLILRB1抗原に対して約99.8nMの結合力を示したB3およびLILRB1抗原に対して約101.2nMの結合力を示したE3のSPR sensorgramをそれぞれ
図2および
図3に示す(
図2:B3に対するSPR sensorgram、
図3:E3に対するSPR sensorgram)。
【表3】
【0085】
1.6.選別された抗体の配列分析
前記実施例1.5で抗原に対する結合力が確認された20種の抗体のKabat numberingに基づいたCDR definitionにより定義されたCDRと軽鎖可変領域、重鎖可変領域、軽鎖、および重鎖のアミノ酸配列と前記軽鎖可変領域および重鎖可変領域のコード遺伝子の核酸配列を一般的なアミノ酸配列分析およびDNA配列分析方法で分析して、下記表4~表23に整理した:
【表4】
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】
【表17】
【表18】
【表19】
【表20】
【表21】
【表22】
【表23】
【0086】
実施例2:選別された抗体のインビトロ(in vitro)生物学的活性分析
2.1.NK細胞表面結合分析(NK cell surface binding assay)
前記実施例1.4で選別された93種抗体が免疫細胞表面に発現したLILRB1とも結合するかどうかを確認するために、NK細胞表面結合分析(NK cell surface binding assay)を行った。ヒトNK細胞であるKHYG-1細胞(JCRB)を10%(w/v)のFBS(Gibco)と100U/mL interleukin-2(Novartis)を含むRPMI 1640培地(Gibco)で培養した。KHYG-1細胞を5×104cells/wellとなるようにU-bottom 96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。各well当たりの最終濃度が50μg/mLの試験抗体を加え、4℃で1時間静置した。
【0087】
LILRB1に特異的な結合のために、human IgG4 isotype control抗体(Biolegend)も同様に処理した。FACS bufferでwashingした後、各wellにanti-human Fc-biotin抗体(life technologies)を加え、4℃で1時間静置した。FACS bufferでwashingした後、各wellにstreptavidin PE(BD Pharmigen)を加え、4℃で30分間静置した。FACS bufferでwashingした後、懸濁してiQue screener(Sartorius)で分析した。
【0088】
前記得られた結果のうち、代表的にA10、E3、E4、F12、G1、G9、G11、H2、およびH11の結果をhuman IgG4 isotype(control)と比較して表24に示し、A10、E3およびhuman IgG4 isotype(control)のflow cytometry diagramをそれぞれ
図4a(A10)、
図4b(E3)、および
図4c(isotypeIg G4)に示す:
【表24】
【0089】
表24および
図4a~
図4cに示したように、試験抗体はhuman IgG4 isotype control抗体に比べて、ヒトNK細胞(表面)に対する高い結合程度を示した。
【0090】
2.2.選別された抗体のLILRB1/HLA-G結合阻害能分析
前記実施例1.5で選択した抗体がLILRB1とそのリガンドであるHLA-Gの結合を阻害するかどうかを確認するために、LILRB1/HLA-G結合阻害能分析を行った。
【0091】
そのためにHLA-Gを過剰発現するものとして知られているJEG-3(ATCC cat# HTB-36)を用いた。JEG-3は、10%(v/v)のFBS(Gibco)および1%(v/v)のpen-strep(Gibco)を含むMEM培地(Gibco)で培養した。JEG-3細胞を5×104cells/wellとなるようにU-bottom 96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。前記ウォールプレートを1X PBS bufferでwashingした。FACS buffer(1X PBS+1%BSA+1mM EDTA)に前記実施例1.5で選別された試験抗体(A10、E3、F12、G1、G9、H2、H11)とLILRB1-Fc(RnD systems)をそれぞれ最終濃度が10μg/mL、5μg/mLとなるように混合してwell当たり100ulを細胞に処理した後、iceに2時間静置した。陽性対照群としてanti-LILRB1抗体(clone HP-F1、Abcam)、陰性対照群としてanti-lysozyme IgG4抗体(clone D1.3)を前記と同様に処理して用意した。FACS bufferで2回washingした後、各wellにPE-anti-huIgG-Fc抗体(Biolegend、10μg/mL)を加え、iceに1時間静置した。FACS bufferで2回washingした後、同じbuffer 100ulに懸濁してiQue screener(Sartorius)で分析した。
【0092】
前記得られた結果を
図5に示す。
図5からわかるように、試験抗体A10、E3、F12、G1、G9、H2、およびH11は、いずれもLILRB1-FcがHLA-G過剰発現細胞株に結合することを効果的に阻害した。
【0093】
2.3.NK細胞による癌細胞死滅能分析
選別された抗体がNK細胞による癌細胞死滅能を増加させるかどうかを確認するために、NK細胞KHYG-1によるHLA-G過剰発現HEK293細胞の死滅率を分析した。KHYG-1細胞(JCRB)を2×104cells/well(4×104cells/mL、総体積50ul)となるように96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。試験抗体(表25)を各well当たりの最終濃度が20μg/mLとなるように加え、37℃で1時間静置した。
【0094】
陰性対照群としてhuman IgG4 isotype control抗体(Biolegend)もそれぞれ同様に処理した。
【0095】
HLA-G過剰発現HEK293細胞(HEK293細胞(American Type Culture Collection)をHLA-G1を発現するように作製されたlentivirusでtransductionしてHLA-G過剰発現細胞株を作製)をIncuCyte CytoLight Rapid Red Reagent(Sartorius)を用いて製造会社の説明書に従って染色した。1時間後、HLA-G過剰発現HEK293細胞を1×10
4cells/well(2×10
4cells/mL、総体積50ul)となるように前記plateに加えた。プレートを37℃、5%CO
2培養器に設けられたIncuCyte S3(Sartorius)に入れ、72時間イメージを撮影し、生きているHLA-G過剰発現HEK293の密集度を示すRed area confluenceを測定して、細胞生存率を求めた。細胞生存率を下記の表25(対照抗体を1にして相対値で表す)に示す:
【数1】
【表25】
【0096】
表25からわかるように、試験抗体A10、B9、D3、E1、E3、F12、G1、G6、G9、G11、H2、H11は、human IgG4 isotype controlに比べてKHYG-1によるHLA-G過剰発現HEK293細胞の死滅を増加させた。
【0097】
実施例3:選別された抗体の生体内(in vivo)での生物学的活性分析
前記実施例1.5で選別された抗体の中で2種の試験抗体(E3、B3)の抗癌効能の改善要否を生体内で確認した。そのために、Bioware Brite Cell Line HCT116 Red-Fluc大腸癌細胞(PerkinElmer)およびTHP-1由来マクロファージ(THP-1 derived macrophage)と、抗体を投与した異種移植大腸癌マウス動物モデルを対象として生体内(invivo)で前記2種の抗体投与によって腫瘍の大きさが減少するかどうかを確認した。陰性対照群としてhuman IgG1 isotype control抗体(BioXcell、Cat.No.BP0297)を前記と同様に投与した異種移植大腸癌マウス動物モデルを用意した。以下、前記過程をより具体的に記載する:
【0098】
THP-1由来マクロファージ(THP-1 derived macrophage)の用意
【0099】
上記で使用されたTHP-1由来マクロファージは、THP-1細胞(ATCC)に150nM phorbol 12-myristate 13-acetate(PMA、Sigma)および20ng/mL interferon gamma(Peprotech)、10pg/mL lipopolysaccharide(LPS、Sigma)を加えて分化させて用意した。
【0100】
マウス動物モデルでの抗癌効能分析
5週齢の雌性CIEA NOG Mouse[NOG免疫不全マウス](公益財団法人実験動物中央研究所)に3×10
6個のHCT116 Red-Fluc大腸癌細胞と3×10
6個のTHP-1由来マクロファージ、および2種の試験抗体(E3またはB3抗体;1匹当たり20μgを投与)それぞれの混合物を皮下注射して使用した。腫瘍移植後、4日目から、抗体を腹腔注射によって5mg/kgの濃度に週2回投与し、移植された腫瘍の大きさ(mm
3)を測定して、その結果を
図6に示す。
図6に示したように、HCT116大腸癌およびTHP-1由来マクロファージを移植したマウス動物モデルで試験したすべての抗体、特に、E3抗体は統計学的に有意水準の明確な腫瘍成長抑制効能を示した。
【0101】
実施例4:抗-LILRB1抗体(E3.1)の作製
前記実施例3で特に優れた効果が確認されたE3抗体の重鎖(配列番号302)に相当する全体核酸配列をPCR増幅し、E3抗体の軽鎖可変領域(VL)(配列番号:221)のSer1からLeu110に相当する核酸配列をPCR増幅した後、Lambda不変領域(Lambda CL.1、配列番号344)核酸配列と連結してLambda軽鎖領域コード核酸配列をPCR増幅した。増幅された配列は、IgG4形態のヒト抗体をコーディングするように作製された発現ベクター(pTRIOZ-hIgG4;InvivoGen、それ以外にもCMV promoter、またはCMV/CHO beta-actin融合プロモーター(KR10-1038126B1)を有し、human IgG4のheavy chain constant regionとlambda light chainのconstant regionをコードする配列を含むベクターの中でどれを使用しても構わない)に挿入した。前記発現ベクターは、sequencingによってそのDNA配列を確認した。
【0102】
前記構築された発現ベクターを用いて実施例1.4を参照して抗体(E3.1)を作製し、実施例1.6を参照して抗体配列を分析して、その結果を表26に示す:
【表26】
【0103】
実施例5:Human LILRを過剰発現する細胞株の作製
ヒトLILR familyタンパク質の全体配列(下記の表27参照)をコードする核酸配列をPCRで増幅し、増幅された配列をコーディングするように作製された発現ベクター(pTRIOZ-hIgG4;InvivoGen、それ以外にもCMV promoter、またはCMV/CHO beta-actin融合プロモーター(KR10-1038126B1)を有し、human IgG4のheavy chain constant regionとlambda light chainのconstant region配列を含むベクターの中でどれを使用しても構わない)に挿入した。前記発現ベクターは、sequencingによってその配列を確認した。構築されたベクターは、CHO細胞にトランスフェクション(Transfection)し、各LILRタンパク質を細胞表面に過剰発現する11種の安定した細胞株を作製した。
【表27-1】
【表27-2】
【表27-3】
【表27-4】
【0104】
実施例6:選別された抗体のLILRB1過剰発現細胞表面結合に対するEC
50測定
前記実施例1および実施例4で用意した抗体のhuman LILRB1過剰発現細胞株結合に対するEC
50値を測定するために、細胞表面結合分析(cell surface binding assay)を行った。前記用意された抗体を代表としてE3.1およびH11抗体のEC
50値を測定した。実施例5で用意したLILRB1を細胞表面に過剰発現させたCHO細胞を1×10
5cells/wellとなるようにU-bottom 96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。各well当たりの最終濃度が、E3.1は600ug/mLから1/3ずつ、H11は27ug/mLから1/3ずつ連続稀釈した後、細胞に処理して4℃で60分間静置した。FACS bufferでwashingした後、anti-human Fc-biotin抗体(Invitrogen)を細胞に処理して4℃で30分間静置した。FACS bufferでwashingした後、PE蛍光が標識されたstreptavidin(BD Pharmigen)を細胞に処理して4℃で30分間静置した。FACS bufferでwashingした後、細胞を懸濁してiQue screener(Sartorius)で分析した。EC
50は、GraphPad Prism softwareのnonlinear regression式を用いて計算し、得られた結果を表28に示す:
【表28】
【0105】
実施例7:選別された抗体のHuman LILR family過剰発現細胞株に対するcross-reactivity評価
選別された抗体がLILRB1以外の他のhuman LILR familyとも結合するかどうかを確認するために細胞表面結合分析(cell surface binding assay)を行った。実施例5で用意した多様なLILR系タンパク質を細胞表面に過剰発現させたCHO細胞をそれぞれ1×105cells/wellとなるようにU-bottom 96-well tissue culture plate(BD Falcon)に分注した。最終濃度20ug/mLの抗体を各wellの細胞に処理して4℃で60分間静置した。FACS bufferでwashingした後、anti-human Fc-biotin抗体(Invitrogen)を細胞に処理して4℃で30分間静置した。FACS bufferでwashingした後、PEまたはFITC蛍光が標識されたstreptavidin(BD Pharmigen)を細胞に処理して4℃で30分間静置した。FACS bufferでwashingした後、懸濁してiQue screener(Sartorius)で分析した。各LILRタンパク質に特異的な抗体(表27参照)を処理した細胞はpositive controlとして、human IgG4 isotype control抗体(Biolegend)を処理した細胞はnegative controlとして用いた。
【0106】
E3.1抗体を使用して得られた結果を
図7a~
図7dに示し(E3.1:red;LILR-specific antibody:blue;Isotype(hIgG4)control:gray)、H11抗体を使用して得られた結果を
図8a~
図8dに示す(H11:red;LILR-specific antibody:blue;Isotype(hIgG4)control:gray)。
図7a~
図7dおよび
図8a~
図8dに示したように、試験したE3.1およびH11抗体は全てLILRB1以外の他のLILRsには全く結合しないか、ほとんど結合しないことを確認した。このような結果は、本実施形態で提供された抗体がLILRB1に対して特異的な結合能を有することを示す。
【0107】
実施例8:固着化酵素抗体法(ELISPOT、the enzyme-linked immune absorbent spot)によるグランザイム(Granzyme B)およびパーフォリン(Perforin)分泌測定
E3.1とH11抗体がNK細胞の細胞毒性能を増加させるかどうかを確認するために固着化酵素抗体法(ELISPOT)を行った。前記細胞毒性能は、NK細胞での細胞毒性物質であるグランザイム(granzyme B)とパーフォリン(perforin)の発現量で確認した。
【0108】
LILRB1を発現するKHYG-1細胞株(JCRB)5×103個をU-bottom 96-well tissue culture plateに5×103個のHLA-Gを過剰発現させたK562細胞(K562細胞(American Type Culture Collection)を、HLA-Gを発現するように作製されたlentivirusでtransductionしてHLA-G過剰発現細胞株を作製)と同時培養した。このとき、各well当たりの最終濃度が50ug/mLとなるようにE3.1、H11、human IgG4 isotype control抗体をそれぞれ加え、37℃で30分間培養した。Anti-perforin抗体およびanti-granzyme B抗体がそれぞれcoatingされたELISPOT用96 well plate(Immunospot、Cat.HGZBPFN-2M)(PVDF membrane)に同時培養した細胞を移してさらに37℃で8時間培養した。Washing溶液(0.05% tween 20 in PBS)でPVDF membraneを洗浄した後、anti-granzyme B-HRPとanti-perforin-biotinを順次加え、その後、製造会社のマニュアルによってdetection過程を進行した。PVDF membraneを常温で24時間乾燥させた後、Immunospot社製のELISPOT analyzerを用いてグランザイムBとパーフォリンspotの個数を測定した。
【0109】
前記得られた結果を
図9(granzyme b;Gzmb)および
図10(perforin;Prf)にそれぞれ示した(Y軸は総spot数を示す)。
図9および
図10に示したように、グランザイムBとパーフォリンの場合、いずれもhuman IgG4 isotype control抗体処理時に比べて、E3.1またはH11抗体処理時に分泌量が統計学的に有意に増加したことを確認することができる。統計分析は、unpaired T-testで行い、実験の信頼性のためにすべての実験は同じ条件で3回行い、結果は平均値で表した。
【0110】
実施例9:Chimeric GHI/75抗体の製造
本実施例で提供された抗体の既存抗体に対して優れた効能を確認するために、マウス由来anti-human LILRB1抗体であるGHI/75抗体(Biolegend、cat#333721)の可変領域とヒト由来抗体不変領域を有するchimeric GHI/75を作製した。
【0111】
具体的には、Peptide mappingによってGHI/75抗体のアミノ酸配列を分析した後、マウスGHI/75抗体可変領域(VH、VL domain)に相当する核酸配列をヒトIgG4抗体の可変領域(VH、VL domain)核酸配列に置換したベクターを作製した。ヒトIgG4のupper hingeに相当する部分はヒトIgG1 upper hingeのアミノ酸配列(EPKSCDKTHT;配列番号359)に置換した。当該ベクターを実施例1.4と同様の過程によって発現、精製して得られた抗体を下記試験で比較抗体として使用した。
【0112】
実施例10:IL-2 promoter luciferase assayを用いた選別された抗体のLILRB1 signaling阻害能測定
実施例1および実施例4で作製された抗体がLILRB1によるシグナル伝達を阻害するかを確認するためにluciferase reporter assayを行った。実施例1および実施例4で作製された抗体の中で代表的にE3.1およびH11抗体に対して試験を行い、比較抗体として実施例9で用意したchimeric GHI/75抗体を使用した。LILRB1とinterleukin 2(IL-2)promoter luciferaseを発現するJurkat細胞株(Jurkat細胞株(American Type Culture Collection)にIL-2 promoter luciferase vector(Promega)を挿入した後、LILRB1を発現するように作製されたlentivirusをtransductionして作製)とHLA-Gを過剰発現するK562細胞株を用いた。96-well plateにanti-CD3抗体(Biolegend)を加えた後、4℃で一晩コーティングした。翌日、U-bottom 96-well plateにLILRB1とIL-2 promoter luciferaseを発現するJurkat細胞1×105個/wellに加え、最終濃度が20ug/mLとなるようにE3.1、H11、chimeric GHI/75、およびhuman IgG4 isotype(対照群)抗体をそれぞれ処理した後、37℃で1時間静置した。その後、該plateに1×105個のHLA-Gを過剰発現させたK562細胞を加え、37℃で30分間静置した。その後、該懸濁液をanti-CD3でcoatingされたplateに移し、anti-CD28抗体(Biolegend)を最終濃度が10ug/mLとなるように加えた。該plateを37℃で6時間静置した後、各wellにSteady-Glo(登録商標)(Promega)溶液を加えた後、luminometer(Envision、PerkinElmer)を用いて分析した。
【0113】
上記で得られた結果を
図11に示す。
図11に示したように、本実施例によるE3.1抗体とH11抗体は、human IgG4 isotype control抗体およびchimeric GHI/75比較抗体に比べて、顕著に増加したLILRB1 signaling阻害活性を示した。
【0114】
実施例11:選別された抗体のマウス動物モデルでの抗癌効能分析
選別された抗体の抗癌効能分析のために、実施例3を参照して5週齢の雌性CIEA NOG Mouse(NOG免疫不全マウス、公益財団法人実験動物中央研究所)に3×10
6個のHCT116 Red-Fluc大腸癌細胞と3×10
6個のTHP-1由来マクロファージおよび2種の試験抗体(匹当たり20ugを投与)を皮下注射して、マウス動物モデルを用意した。使用された試験抗体はE3.1、H11であり、比較のためにhuman IgG4 isotype対照抗体を使用した。腫瘍細胞移植後、4日目から前記抗体をそれぞれ5mg/kgの容量で腹腔注射で週2回投与し、腫瘍体積を測定してその結果を
図12に示す。
図12に示したように、HCT116大腸癌細胞およびTHP-1由来マクロファージを移植したマウス動物モデルでE3.1およびH11抗体はいずれも対照抗体に対して優れた腫瘍成長抑制効能を示した。
【配列表】
【外国語明細書】