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特開2024-29656感染拡大予測装置、感染拡大予測方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029656
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】感染拡大予測装置、感染拡大予測方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20240228BHJP
【FI】
G16H50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022132030
(22)【出願日】2022-08-22
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】川口 章
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA00
(57)【要約】
【課題】植物病害の感染拡大に特有の事情を考慮して、感染拡大のシミュレーションを行うことができるようにする
【解決手段】一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、植物の総個体数Nのうち、感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する予測部と、予測部による予測結果を表示する表示部とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、
SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、
前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する予測部と、
前記予測部による予測結果を表示する表示部とを備える
感染拡大予測装置。
【請求項2】
前記感染症は、媒介者を経由しない一次伝染、および媒介者を経由する二次伝染により伝染する
請求項1に記載の感染拡大予測装置。
【請求項3】
前記予測部は、
SEIRモデルに対して、さらに、前記一次伝染に対する防除方法および前記二次伝染に対する防除方法の少なくとも1つに応じて定まる感染制御因子をパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いる
請求項2に記載の感染拡大予測装置。
【請求項4】
前記予測部は、前記感染伝搬モデルにより、
前記感染症に感染していない健全な個体の数である健全株数S、前記感染症に感染しているが伝染能力を有しない個体の数である非伝染性感染株数E、前記感染症に感染しており伝染能力を有する個体の数である伝染性感染株数I、および前記感染症が発病して枯死した個体の数である枯死株数Rについて、時間の経過に伴う変化を予測し、
前記総個体数Nは、前記健全株数S、前記非伝染性感染株数E、前記伝染性感染株数I、および前記枯死株数Rの和で表される
請求項3に記載の感染拡大予測装置。
【請求項5】
前記感染伝搬モデルは、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
により表され、ここで
βは、二次伝染率であって、接触回数×1回の接触あたりの伝染率、
Dは、感染した個体が伝染能力を有する期間である伝染性期間、
eは、感染した個体が伝染能力を有さない期間である非伝染性期間、
Pは、一次伝染源量、
vは、一次伝染率、
C1は、一次伝染抑制効果のリスク比、
C2は、二次伝染抑制効果のリスク比
を表す
請求項4に記載の感染拡大予測装置。
【請求項6】
前記予測部は、さらに前記感染症の実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化を次式により演算し、
Rt=R0(S/N)
ここで、R0は、前記感染症の基本再生産数であって、
R0=(vC1+βC2)/(1/D)により算出される
請求項5に記載の感染拡大予測装置。
【請求項7】
前記表示部は、
前記健全株数S、前記非伝染性感染株数E、前記伝染性感染株数I、および前記枯死株数Rの時間の経過に伴う変化を、グラフとして表示する
請求項6に記載の感染拡大予測装置。
【請求項8】
前記表示部は、さらに
実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化を、前記グラフに重畳して表示する
請求項7に記載の感染拡大予測装置。
【請求項9】
一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、
SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、
前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測するステップと、
前記予測の結果を表示するステップとを含む
感染拡大予測方法。
【請求項10】
コンピュータを、
一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、
SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、
前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する予測部と、
前記予測部による予測結果を表示する表示部とを備える感染拡大予測装置として機能させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感染拡大予測装置、感染拡大予測方法、およびプログラムに関し、植物病害の感染拡大に特有の事情を考慮して、感染拡大のシミュレーションを行うことができる感染拡大予測装置、感染拡大予測方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトまたは動物の感染症における感染拡大のシミュレーションモデルとしてSIRモデル、SEIRモデルなどが広く用いられている。これらのモデルを用いれば、感染の各段階の個体数を時系列のグラフとして表現することで、感染が伝搬していく様子を視覚的にわかりやすく把握することができる。すなわち、これらのモデルは、感染拡大防止対策を立案する上で有用である。また、SEIRモデルは、我が国を含む世界中の先進国で、COVID-19の感染拡大防止対策の立案に用いられている。
【0003】
また、SIRモデルまたはSEIRモデルを用いて感染症の流行を予測し、感染症の流行の抑制に関する情報を生成する感染症対策を提示する技術も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、植物に発生する病害は全て微生物(糸状菌・細菌・ウイルス等)による感染症であり、ヒトの疫学モデルを植物に応用することは理論上可能と考えられる。例えば、SEIRモデルのような感染伝搬を植物病害にも応用すれば、これまで文章や数字だけで説明または理解しなければならなかった病害の発生拡大や防除効果を、時系列で視覚的に理解することが可能になる。
【0005】
SEIRモデルと同様の感染拡大のシミュレーションモデルを、植物病害に適用するための研究結果も報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015-38708号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Botanical epidemiology: some key advances and its continuing role in disease management, European Journal of Plant Pathology (2006) 115:3-23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の技術では、ヒトからヒトへの病原体の感染経路のみを想定していることから、植物病害の感染拡大に特有の一次伝染と二次伝染が考慮されていない。一次伝染は、複数・段階的な伝染であり、例えば、種子、苗木、土壌による伝染である。二次伝染は、例えば、風雨、虫媒、農家の管理作業、農機具等による伝染である。
【0009】
非特許文献1で用いられる感染伝搬モデルでは、二次伝染における媒介者(例えば、管理作業の作業者)を想定しておらず、例えば、媒介者が植物に接触する回数が考慮されていない。従って、非特許文献1の技術では、媒介者の接触による伝染経路をもつ病害には適応できない。また、非特許文献1の技術には、防除方法の効果を予測するパラメータが存在しないため、防除効果の予測ができない。
【0010】
このように従来の技術は、媒介者を経由しない一次伝染と、媒介者を経由する二次伝染とのそれぞれの伝染経路を考慮して、植物の感染症における感染の拡大のシミュレーションを実行することができないという問題があった。
【0011】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的の一例は、植物病害の感染拡大に特有の事情を考慮して、感染拡大のシミュレーションを行うことができるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る感染拡大予測装置は、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する予測部と、前記予測部による予測結果を表示する表示部とを備える。
【0013】
本発明の一態様に係る感染拡大予測方法は、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測するステップと、前記予測の結果を表示するステップとを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、植物病害の感染拡大に特有の事情を考慮して、感染拡大のシミュレーションを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】植物の感染症を説明する図である。
図2】感染拡大予測装置の機能的構成例を示すブロック図である。
図3】感染伝搬モデルを説明する図である。
図4】感染拡大予測装置による感染拡大予測処理の例を説明するフローチャートである。
図5】表示制御部により表示される予測結果の一例を示す図である。
図6】表示制御部により表示される予測結果の別の例を示す図である。
図7】表示制御部により表示される予測結果のさらに別の例を示す図である。
図8】表示制御部により表示される予測結果のさらに別の例を示す図である。
図9】各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係る植物の感染症を説明する図である。同図には、植物の感染症の伝染経路が示されている。
【0017】
植物に発生する病害は、微生物(糸状菌・細菌・ウイルス等)による感染症である。植物の感染症には、一次伝染経路と二次伝染経路が存在する。
【0018】
一次伝染経路は、例えば、植物の種子に微生物が侵入して増殖することにより植物が感染症に感染する経路である。また、苗木に微生物が侵入して増殖することにより植物が感染症に感染する経路、汚染された土壌から植物に微生物が侵入して増殖することにより植物が感染症に感染する経路なども一次伝染経路に含まれる。
【0019】
二次伝染は、例えば、植物の剪定に用いられるハサミなどを介して感染症が伝染する経路である。より具体的には、例えば、既に感染した植物を剪定したハサミを使って別の植物を剪定することにより、ハサミに付着した微生物が健全な植物に侵入する経路である。なお、ここでは、ハサミを介して感染症が伝染する例について説明したが、これ以外にも、例えば、植物の管理作業に伴い、作業者の衣服、手袋、靴などが植物に接触することにより感染症が伝染する場合も二次伝染となる。
【0020】
また、感染した植物の枝、葉、幹などに接触した虫に微生物が付着し、その虫が別の植物に接触することで感染症が伝染する経路(虫媒伝染と称される)、農機具が植物に接触することで感染症が伝染する経路も二次伝染経路に含まれる。
【0021】
なお、感染した植物の葉などの表面に付着した微生物が、風、雨などにより運ばれて別の植物に付着して侵入する経路も二次伝染経路に含まれ得る。ただし、ここでは、媒介者(作業者、虫、農機具など)を介する二次伝染経路のみを考慮することにする。
【0022】
例えば、農家などは、感染の拡大を抑止すべく伝染を防除する対策を実施している。一次伝染の防除方法に関し、例えば、化学農薬を利用した種子消毒、土壌消毒などが対策として挙げられる。一方、二次伝染の防除方法に関し、例えば、虫よけネットの設置、ハサミ、衣服、手袋、靴などの消毒などが対策として挙げられる。
【0023】
(感染拡大予測装置の構成)
本実施形態によれば、植物の感染症の拡大を予測する技術として、感染拡大予測装置が提供される。図2は、本実施形態に係る感染拡大予測装置1の機能的構成例を示すブロック図である。一例として、感染拡大予測装置1は、汎用のコンピュータなどにより構成される。
【0024】
同図に示されるように、感染拡大予測装置1は、予測部11および表示制御部12を備えている。予測部11は、感染伝搬モデル31を用いた演算処理を実行することで、感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する。例えば、圃場に農作物として栽培される植物の総個体数の中で、時間の経過に伴ってどれだけの個体が感染症に感染するかが予測される。
【0025】
表示制御部12は、予測部11による予測結果の表示を制御する。予測結果は、例えば、感染拡大予測装置1のディスプレイなどの表示部(図示せず)に表示される。なお、表示制御部による予測結果の表示態様については後述する。
【0026】
(感染伝搬モデル)
図3は、感染伝搬モデル31を説明する図である。同図の感染伝搬モデル31は、SEIRモデルを基にした感染伝搬モデルである。SEIRモデルは、ヒトまたは動物の感染症における感染拡大のシミュレーションモデルとして広く用いられている。SEIRモデルでは、感染の段階を、S(Susceptible)、E(Exposed)、I(Infectious)、R(Recovered)に分類する。本実施形態における感染伝搬モデル31は植物の感染症を対象とするため、一度感染症に感染した植物が回復(recover)することを想定しない。このため、感染伝搬モデル31において「R」は、枯死して除去された個体を意味するRemovedを表すものとする。
【0027】
感染伝搬モデル31では、Sは、感染症に感染していない健全な個体の数である健全株数を表す。Eは、感染症に感染しているが伝染能力を有しない個体の数である非伝染性感染株数を表す。Iは、感染症に感染しており伝染能力を有する個体の数である伝染性感染株数を表す。Rは、感染症が発病して枯死した個体の数である枯死株数を表す。
【0028】
なお、非伝染性感染株数Eに分類される個体は、感染症に係る病害の症状が発症していない。一方、伝染性感染株数Iに分類される個体には、感染症に係る病害の症状が発症しているものと、発症していないものが含まれる。また、枯死株数Rに分類される個体は、伝染能力を有しない。
【0029】
図3に示されるように、感染伝搬モデル31では、さらに一次伝染源量としてP(Pathogen)、および感染制御因子としてC(Control)が含まれている。
【0030】
感染伝搬モデル31は、次の数式M1乃至数式M4により定義される。
【数1】
・・・(数式M1)
【数2】
・・・(数式M2)
【数3】
・・・(数式M3)
【数4】
・・・(数式M4)
数式M1乃至数式M4で用いられるパラメータS、E、I、およびRは、それぞれ上述した健全株数、非伝染性感染株数、伝染性感染株数、および枯死株数を表す。
【0031】
βは、二次伝染率であって、接触回数×1回の接触あたりの伝染率を表し、
Dは、感染した個体が伝染能力を有する期間である伝染性期間を表し、
eは、感染した個体が伝染能力を有さない期間である非伝染性期間を表し、
Pは、一次伝染源量を表し、
vは、一次伝染率を表し、
C1は、一次伝染抑制効果のリスク比を表し、
C2は、二次伝染抑制効果のリスク比を表す。
【0032】
感染率β、伝染性期間D、非伝染性期間e、一次伝染源量P、および一次伝染率vは、初期条件パラメータであり、例えば、感染症の種類に応じて各値が定まる。なお、感染率βにおける接触回数は、例えば、1日あたりに作業者が植物の管理作業(例えば、葉および枝の剪定、葉、花および果実の収穫)を行う回数としてもよい。また、例えば、1つの圃場における感染拡大のシミュレーションを行う場合、一次伝染源量Pの値は、感染症の種類によらず1.0とされてもよい。
【0033】
このように、感染伝搬モデル31は、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルである。
【0034】
感染伝搬モデル31で用いられる一次伝染抑制効果のリスク比C1は、感染制御因子の1つであって、防除方法の種類に応じて定まる値である。例えば、一次伝染の防除方法として種子の消毒を行った場合についての一次伝染抑制効果のリスク比C1は、数式M5により計算される。
【0035】
C1=(Pa/Ta)/(Pb/Tb)
・・・数式(M5)
ここで、Taは、種子の消毒が行われた植物の個体数であり、Paは、種子の消毒が行われた植物の中で感染が確認された個体数である。Tbは、種子の消毒が行われなかった植物の個体数であり、Pbは、種子の消毒が行われなかった植物の中で感染が確認された個体数である。なお、Ta、Pa、Pb、およびTbの値は、予め行われた実験などにより得られるものとする。
【0036】
すなわち、防除を実施しなかったグループ内での感染症の発症率と、防除を実施したグループ内での感染症の発症率との比が、当該防除方法による伝染抑制効果のリスク比として算出される。
【0037】
例えば、種子の消毒に薬品Aを用いた場合、若しくは薬品Bを用いた場合、または農薬による土壌消毒を行った場合、若しくは太陽光により土壌消毒を行った場合、のように防除方法の種類に応じて一次伝染抑制効果のリスク比C1の値が定まる。
【0038】
同様に、二次伝染抑制効果のリスク比C2も感染制御因子の1つであって、防除方法の種類に応じて定まる値である。例えば、二次伝染の防除方法としてハサミの消毒を行った場合、または二次伝染の防除方法として靴の消毒を行った場合、のように防除方法の種類に応じて二次伝染抑制効果のリスク比C2の値が定まる。
【0039】
なお、一次伝染および二次伝染に対する防除が実施されない場合、一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2の値は、それぞれ1.0となる。
【0040】
このように、本実施形態では、SEIRモデルに対して、一次伝染に対する防除方法および二次伝染に対する防除方法の少なくとも1つに応じて定まる感染制御因子をパラメータとして追加した感染伝搬モデル31が用いられる。
【0041】
SEIRモデルは、ヒトまたは動物の感染症における感染拡大のシミュレーションに用いられるモデルなので、感染症が媒介者との接触を経て伝染していくことを前提としている。このため、SEIRモデルでは、一次伝染、および二次伝染のそれぞれの経路での伝染を考慮したシミュレーションを実行することができない。
【0042】
これに対して、感染伝搬モデル31では、一次伝染経路における一次伝染源量Pおよび一次伝染率vとともに、二次伝染経路における媒介者との接触を前提とする感染率βがパラメータとして含まれている。すなわち、感染伝搬モデル31では、媒介者を経由しない一次伝染、および媒介者を経由する二次伝染のそれぞれの経路での伝染を考慮したシミュレーションを実行することができる。
【0043】
感染率β、伝染性期間D、非伝染性期間e、一次伝染源量P、および一次伝染率vを初期条件パラメータとして与えることにより、数式M1乃至数式M4による演算が可能となる。すなわち、数式M1により健全株数Sの時間の経過に伴う変化が演算される。数式M2により、非伝染性感染株数Eの時間の経過に伴う変化が演算される。数式M3により、伝染性感染株数Iの時間の経過に伴う変化が演算される。数式M4により、枯死株数Rの時間の経過に伴う変化が演算される。
【0044】
なお、シミュレーションの対象となる植物の個体の総数をNとした場合、全ての時刻において、N=S+E+I+Rが成立するものとする。
【0045】
このように、図1の感染拡大予測装置1の予測部11は、植物の総個体数Nのうち、感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する。
【0046】
さらに、初期条件パラメータに加えて、一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2を与えることで、基本再生産数R0および実行再生産数Rtが次の数式M6および数式M7により演算される。
【0047】
R0=(vC1+βC2)/(1/D)
・・・(数式M6)
Rt=R0(S/N)
・・・(数式M7)
このように、図1の感染拡大予測装置1の予測部11は、基本再生産数R0および実行再生産数Rtを演算する。なお、実行再生産数Rtは、各時刻で値が変化するので、予測部11は、実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化を演算する。
【0048】
実行再生産数Rtは、1つの伝染性感染株数から何個体の新たな非伝染性感染株数が発生するかを示し、感染の拡大の度合いを表す値として用いることができる。すなわち、実行再生産数Rtの値が1以下になると、感染の拡大は終了することになる。
【0049】
(感染拡大予測処理の流れ)
図4は、図1の感染拡大予測装置1による感染拡大予測処理の例を説明するフローチャートである。
【0050】
ステップS21において、予測部11は、初期条件パラメータの入力を受け付ける。このとき、上述した初期条件パラメータである感染率β、伝染性期間D、非伝染性期間e、一次伝染源量P、および一次伝染率vが、例えば、感染拡大予測装置1のユーザにより入力される。
【0051】
ステップS22において、予測部11は、感染伝搬モデル31による演算処理を実行する。
【0052】
このとき、ステップS21で入力が受け付けられた初期条件パラメータを用いて、上述した数式M1乃至数式M4の演算が行われる。これにより、各時刻における健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rが算出される。
【0053】
また、初期条件パラメータと、数式M1乃至数式M4の演算結果とに基づいて数式M6および数式M7の演算が行われる。なお、ここでの一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2の値は、それぞれ1.0として数式M6および数式M7の演算が行われる。これにより、各時刻における実行再生産数Rtが算出される。
【0054】
ステップS23において、表示制御部12は、ステップS22での演算結果に基づいて、健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rの予測結果を図示せぬ表示部に表示させる。予測結果の表示は、例えば、指定された時刻での健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rの表示であってもよい。また、健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rの時間の経過に伴う変化が認識できるような態様での表示であってもよい。
【0055】
ステップS24において、表示制御部12は、ステップS22での演算結果に基づいて、実行再生産数Rtの予測結果を図示せぬ表示部に表示させる。予測結果の表示は、例えば、指定された時刻での実行再生産数Rtの表示であってもよいし、実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化が認識できるような態様での表示であってもよい。
【0056】
なお、健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rの予測結果および実行再生産数Rtの予測結果は、例えば、同じ画面に重畳されて表示されるようにしてもよい。この場合、ステップS23の処理とステップS24の処理は、同時に実行されるようにしてもよい。
【0057】
ステップS25において、予測部11は、防除方法の情報があるか否かを判定する。このとき、予測部11は、例えば、防除方法の有無の表示を表示制御部12に指令し、表示制御部12は、例えば、防除方法の有無の選択を促す画面を図示せぬ表示部に表示させる。例えば、ユーザが防除方法ありを選択した場合、ステップS26の処理が実行される。例えば、ユーザが防除方法なしを選択した場合、感染拡大予測処理は終了する。
【0058】
ステップS26において、予測部11は、感染抑制因子の入力を受け付ける。このとき、例えば、一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2がユーザにより入力される。
【0059】
あるいはまた、ステップS26では、例えば、一次伝染を抑制するための防除方法および二次伝染を抑制するための防除方法の入力を促す画面が図示せぬ表示部に表示されるようにしてもよい。
【0060】
ユーザは、例えば、一次伝染の防除方法であって、例えば、薬品Aによる種子の消毒、薬品Bによる種子の消毒、農薬による土壌の消毒、太陽光による土壌の消毒などの防除方法を特定する情報を入力する。また、ユーザは、例えば、二次伝染の防除方法であって、ハサミの消毒、靴の消毒などの防除方法を特定する情報を入力する。なお、一次伝染の防除方法および二次伝染の防除方法がない場合、「防除方法なし」がそれぞれ入力される。
【0061】
この場合、予測部11は、例えば、感染拡大予測装置1に予め記憶されているテーブルを用いて入力された防除方法に対応する一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2の値をそれぞれ特定する。このように、ステップS26では、感染抑制因子の入力に代えて、具体的な防除方法を特定される情報の入力が受け付けられるようにしてもよい。
【0062】
なお、上述した感染抑制因子または防除方法を特定する情報の入力は、一例であってこれに限られるものではない。要は、一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2の値が特定できればよい。
【0063】
ステップS27において、予測部11は、感染伝搬モデル31による演算処理を実行する。
【0064】
このとき、ステップS26で入力が受け付けられた感染抑制因子と、ステップS21で入力が受け付けられた初期条件パラメータとを用いて、上述した数式M1乃至数式M4の演算が行われる。これにより、各時刻における健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rが算出される。
【0065】
また、感染抑制因子、初期条件パラメータ、および数式M1乃至数式M4の演算結果に基づいて数式M6および数式M7の演算が行われる。なお、ここでの一次伝染抑制効果のリスク比C1および二次伝染抑制効果のリスク比C2の値は、ステップS26での入力に基づいて特定される。これにより、各時刻における実行再生産数Rtが算出される。
【0066】
ステップS28において、表示制御部12は、ステップS27での演算結果に基づいて、健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rの予測結果を図示せぬ表示部に表示させる。
【0067】
ステップS29において、表示制御部12は、ステップS26での演算結果に基づいて、実行再生産数Rtの予測結果を図示せぬ表示部に表示させる。
【0068】
なお、健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rの予測結果および実行再生産数Rtの予測結果は、例えば、同じ画面に重畳されて表示されるようにしてもよい。この場合、ステップS28の処理とステップS29の処理は、同時に実行されるようにしてもよい。
【0069】
このようにして、感染拡大予測処理が実行される。
【0070】
(実施形態1の効果)
上述したように、本実施形態では、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデル31を用いることで、植物の総個体数Nのうち、感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化が予測され、予測結果が表示される。
【0071】
従って、植物病害の感染拡大に特有の一次伝染と二次伝染を考慮した予測であって、特に、媒介者を経由しない一次伝染、および媒介者を経由する二次伝染により伝染する感染症の感染拡大を、正確に予測することが可能となる。
【0072】
また、感染伝搬モデル31は、SEIRモデルに対して、さらに、一次伝染に対する防除方法に応じて定まる一次伝染抑制因子C1、および二次伝染に対する防除方法に応じて定まる二次伝染抑制因子C2をパラメータとして含んでいる。従って、一次伝染および二次伝染のそれぞれに対する防除の実施による感染拡大の抑止効果を予測することが可能となる。
【0073】
〔実施形態2〕
次に、表示制御部12による予測結果の表示態様の例について説明する。
【0074】
図5は、表示制御部12により表示される予測結果の一例を示す図である。同図には、横軸が経過日数、左側縦軸が植物株(個体)の総個体数Nに対する割合として、健全株数S、非伝染性感染株数E、伝染性感染株数I、および枯死株数Rのそれぞれの割合が曲線によって示されている。このように、S,E,I,およびRのそれぞれの時間の経過に伴う変化が、曲線で示されたグラフが表示されている。
【0075】
また、図5のグラフには、さらに実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化が重畳されて表示されている。すなわち、図5おいて、右側縦軸は、実行再生産数Rtの値とされ、実行再生産数Rtの各日における値が棒状に表示されている。
【0076】
図5に示されるグラフは、一次伝染に対する防除および二次伝染に対する防除のいずれも実施しない場合の予測結果を表示するものであり、図4のステップS23およびステップS24で表示されるものである。
【0077】
図5の例では、実行再生産数Rtの最大値は7に近く、値が1を下回るのは、おおよそ80日を経過した後である。約50日経過後には、健全株数Sの総個体数Nに対する割合は50%を下回り、110日経過後では、健全株数Sの割合は10%を下回り、枯死株数Rの割合は、ほぼ90%に達している。
【0078】
図6は、表示制御部12により表示される予測結果の別の例を示す図である。同図には、図5の場合と同じ表示態様で予測結果が表示されているが、図6に示されるグラフは、図5の場合とは異なり、一次伝染に対する防除として土壌消毒を実施した場合の予測結果を表示するものである。図6に示されるグラフは、例えば、図4のステップS28およびステップS29で表示されるものである。
【0079】
図6の例では、実行再生産数Rtの最大値は5未満であり、値が1を下回るのは、おおよそ90日を経過した後である。約60日経過後の健全株数Sの総個体数Nに対する割合は、50%を下回り、110日経過後では、健全株数Sの割合は10%を上回り、枯死株数Rの割合は80%をやや上回っている。
【0080】
図6では、図5の場合と比較して健全株数Sの割合の減少速度が低下していることが分かる。これは、一次伝染に対する防除として土壌消毒を実施したことによる効果と考えられる。また、一方で図6からは、一次伝染に対する防除の実施のみでは、あまり大きな効果は期待できないことが分かる。
【0081】
図7は、表示制御部12により表示される予測結果のさらに別の例を示す図である。同図には、図5の場合と同じ表示態様で予測結果が表示されているが、図7に示されるグラフは、図5の場合とは異なり、二次次伝染に対する防除としてハサミの消毒を実施した場合の予測結果を表示するものである。図7に示されるグラフは、例えば、図4のステップS28およびステップS29で表示されるものである。
【0082】
図7の例では、実行再生産数Rtの最大値は5未満であり、表示される範囲では、値が1を下回ることはない。また、表示される範囲では、健全株数Sの総個体数Nに対する割合が50%を下回ることはなく、110日経過後では、健全株数Sの割合は60%を上回り、枯死株数Rの割合は40%を下回っている。
【0083】
図7では、図5および図6の場合と比較して健全株数Sの割合の減少速度が大幅に低下していることが分かる。これは、二次次伝染に対する防除としてハサミの消毒を実施したことによる効果と考えられる。また、図7からは、この感染症には、一次伝染に対する防除より、二次伝染に対する防除を実施した方が、効果が大きいことが分かる。
【0084】
図8は、表示制御部12により表示される予測結果のさらに別の例を示す図である。同図には、図5の場合と同じ表示態様で予測結果が表示されているが、図8に示されるグラフは、図5の場合とは異なり、一次伝染に対する防除として土壌消毒を実施し、かつ二次次伝染に対する防除としてハサミの消毒を実施した場合の予測結果を表示するものである。図8に示されるグラフは、例えば、図4のステップS28およびステップS29で表示されるものである。
【0085】
図8の例では、実行再生産数Rtの最大値は2未満であり、表示される範囲では、値が1を下回ることはない。また、表示される範囲では、健全株数Sの総個体数Nに対する割合が50%を下回ることはなく、110日経過後では、健全株数Sの割合は約80%であり、枯死株数Rの割合は20%を下回っている。
【0086】
図8では、図5および図6の場合と比較して健全株数Sの割合の減少速度が大幅に低下し、さらに図7の場合と比較しても健全株数Sの割合の減少速度が低下していることが分かる。これは、一次伝染に対する防除として土壌消毒を実施し、かつ二次次伝染に対する防除としてハサミの消毒を実施したことによる効果と考えられる。また、図8と、図5乃至図7とを比較することで、この感染症には、一次伝染に対する防除とともに、二次伝染に対する防除を実施することが最も効果的であることが分かる。
【0087】
(実施形態2の効果)
このように、予測部11による予測結果を、表示制御部12がグラフとして表示させることにより、感染拡大のシミュレーションを視覚的に提供することが可能となる。また、防除方法による感染拡大の抑制効果を視覚的に認識することができるので、例えば、農業生産者への防除指導の際に、このような表示を行うことで指導の効果の向上が期待できる。
【0088】
〔実施形態3〕
実施形態2では、S,E,I,およびRのそれぞれの時間の経過に伴う変化が、曲線で示されたグラフの例について説明したが、他の態様で表示されるようにしてもよい。
【0089】
例えば、S,E,I,およびRのそれぞれが棒状に示され、時間の経過に伴って棒が伸び縮みする動画として表示されるようにしてもよい。また、S,E,I,およびRの全てを同じ画面で表示する必要はなく、これらの中から選択されたものだけが表示されるようにしてもよい。
【0090】
さらに、実施形態2では、各日におけるRtの値が棒状に表示されるグラフの例について説明したが、他の態様で表示されるようにしてもよい。また、Rtは、必ずしもS,E,I,およびRに重畳されて表示される必要はなく、例えば、S,E,I,およびRのそれぞれの時間の経過に伴う変化を示すグラフと、Rtの時間の経過に伴う変化を示すグラフとが、別々に表示されるようにしてもよい。
【0091】
〔実施形態4〕
感染拡大予測装置1は、例えば、農業生産者に防除指導を行う県の公設試験場などで、生産者に防除指導を行う時に使用するツールとして利用されてもよい。これにより効果的な指導が期待できる。
【0092】
また、感染拡大予測装置1は、例えば、スマートフォンなどのモバイル機器として構成されるようにしてもよい。例えば、スマートフォン等により感染拡大予測装置1が構成されるようにすれば、例えば、農業生産者が手軽に感染拡大の予測を行うこともできる。
【0093】
さらに、情報処理に詳しい専門家、企業などが開発したアプリケーションプログラムを、防除指導者や農業生産者が自身のパーソナルコンピュータなどにインストールすることにより、感染拡大予測装置1として利用されるようにしてもよい。
【0094】
〔ハードウェア構成例〕
図9は、感染拡大予測装置1として用いられるコンピュータの物理的構成を例示したブロック図である。感染拡大予測装置1は、図9に示すように、バス510と、プロセッサ501と、主メモリ502と、補助メモリ503と、通信インタフェース504と、入出力インタフェース505とを備えたコンピュータによって構成可能である。プロセッサ501、主メモリ502、補助メモリ503、通信インタフェース504、及び入出力インタフェース505は、バス510を介して互いに接続されている。入出力インタフェース505には、入力装置506および出力装置507が接続されている。
【0095】
プロセッサ501としては、例えば、CPU(Central Processing Unit)、マイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、マイクロコントローラ、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。
【0096】
主メモリ502としては、例えば、半導体RAM(random access memory)等が用いられる。
【0097】
補助メモリ503としては、例えば、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、またはこれらの組み合わせ等が用いられる。補助メモリ503には、上述した感染拡大予測装置1の動作をプロセッサ501に実行させるためのプログラムが格納されている。プロセッサ501は、補助メモリ503に格納されたプログラムを主メモリ502上に展開し、展開したプログラムに含まれる各命令を実行する。
【0098】
通信インタフェース504は、ネットワークNに接続するインタフェースである。
【0099】
入出力インタフェース505としては、例えば、USBインタフェース、赤外線やBluetooth(登録商標)等の近距離通信インタフェース、またはこれらの組み合わせが用いられる。
【0100】
入力装置506としては、例えば、キーボード、マウス、タッチパッド、マイク、又はこれらの組み合わせ等が用いられる。出力装置507としては、例えば、ディスプレイ、プリンタ、スピーカ、又はこれらの組み合わせが用いられる。
【0101】
〔ソフトウェアによる実現例〕
感染拡大予測装置1の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各ブロックとしてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0102】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0103】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0104】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。
【0105】
また、上記各ブロックの機能の一部または全部は、上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ(cloud server)等)で動作するものであってもよい。
【0106】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る感染拡大予測装置は、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する予測部と、前記予測部による予測結果を表示する表示部とを備える。
【0107】
本発明の態様2に係る感染拡大予測装置は、上記の態様1において、前記感染症が、媒介者を経由しない一次伝染、および媒介者を経由する二次伝染により伝染する感染拡大予測装置としてもよい。
【0108】
本発明の態様3に係る感染拡大予測装置は、上記の態様1または2において、前記予測部が、SEIRモデルに対して、さらに、前記一次伝染に対する防除方法に応じて定まる一次伝染抑制因子C1、および前記二次伝染に対する防除方法に応じて定まる二次伝染抑制因子C2をパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いるようにしてもよい。
【0109】
本発明の態様4に係る感染拡大予測装置は、上記の態様1から3のいずれかにおいて、前記予測部が、前記感染伝搬モデルにより、前記感染症に感染していない健全な個体の数である健全株数S、前記感染症に感染しているが伝染能力を有しない個体の数である非伝染性感染株数E、前記感染症に感染しており伝染能力を有する個体の数である伝染性感染株数I、および前記感染症が発病して枯死した個体の数である枯死株数Rについて、時間の経過に伴う変化を予測し、前記総個体数Nは、前記健全株数S、前記非伝染性感染株数E、前記伝染性感染株数I、および前記枯死株数Rの和で表されるようにしてもよい。
【0110】
本発明の態様5に係る感染拡大予測装置は、上記の態様4において、前記感染伝搬モデルが、
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
により表され、ここでβは、二次伝染率であって、接触回数×1回の接触あたりの伝染率、Dは、感染した個体が伝染能力を有する期間である伝染性期間、eは、感染した個体が伝染能力を有さない期間である非伝染性期間、Pは、一次伝染源量、vは、一次伝染率、C1は、一次伝染抑制効果のリスク比、C2は、二次伝染抑制効果のリスク比を表すようにしてもよい。
【0111】
本発明の態様6に係る感染拡大予測装置は、上記の態様5において、前記予測部が、さらに前記感染症の実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化を次式により演算し、
Rt=R0(S/N)
ここで、R0は、前記感染症の基本再生産数であって、
R0=(vC1+βC2)/(1/D)により算出されるようにしてもよい。
【0112】
本発明の態様7に係る感染拡大予測装置は、上記の態様4から6のいずれかにおいて、前記表示部が、前記健全株数S、前記非伝染性感染株数E、前記伝染性感染株数I、および前記枯死株数Rの時間の経過に伴う変化を、グラフとして表示するようにしてもよい。
【0113】
本発明の態様8に係る感染拡大予測装置は、上記の態様7において、前記表示部が、さらに実行再生産数Rtの時間の経過に伴う変化を、前記グラフに重畳して表示するようにしてもよい。
【0114】
本発明の態様9に係る感染拡大予測方法は、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測するステップと、前記予測部による予測結果を表示する表示部とを含む。
【0115】
本発明の態様10に係るプログラムは、コンピュータを、一次伝染および二次伝染により伝染する植物の感染症における感染伝搬モデルであって、SEIRモデルに対して、一次伝染源量Pおよび一次伝染率vをパラメータとして追加した感染伝搬モデルを用いることで、前記植物の総個体数Nのうち、前記感染症に感染した植物の個体数の時間の経過に伴う変化を予測する予測部と、前記予測部による予測結果を表示する表示部とを備える感染拡大予測装置として機能させる。
【符号の説明】
【0116】
1 感染拡大予測装置
11 予測部
12 表示制御部
31 感染伝搬モデル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9