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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029735
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】人混み不調改善薬
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/076 20060101AFI20240228BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 3/02 20060101ALI20240228BHJP
   A61K 36/54 20060101ALI20240228BHJP
   A61K 36/284 20060101ALI20240228BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20240228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240228BHJP
【FI】
A61K36/076
A61P25/04
A61P25/00
A61P3/02
A61K36/54
A61K36/284
A61K36/484
A61P43/00 121
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2022201857
(22)【出願日】2022-12-19
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】植田 愛美
【テーマコード(参考)】
4C088
【Fターム(参考)】
4C088AA04
4C088AB26
4C088AB33
4C088AB60
4C088AC01
4C088BA08
4C088CA03
4C088MA07
4C088MA52
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZA02
4C088ZA08
4C088ZC22
4C088ZC75
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、人混み不調を改善できる内服薬を提供することである。
【解決手段】苓桂朮甘湯エキスは、人混み不調改善薬の有効成分となる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
苓桂朮甘湯エキスを含有する、人混み不調改善薬。
【請求項2】
人混み環境で誘発される、頭痛、めまい、倦怠感、及び/又は疲労感を改善するために用いられる、請求項1に記載の人混み不調改善薬。
【請求項3】
満員車両での乗車により誘発される不調を改善するために用いられる、請求項1に記載の人混み不調改善薬。
【請求項4】
人混み環境に晒される6時間以内に服用する、請求項1に記載の人混み不調改善薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人混み不調改善薬に関する。
【背景技術】
【0002】
満員電車、繁華街、イベント会場等の、人が密集している(以下において、「人混み」と記載する。)環境は、当該環境に特有の刺激を人にもたらす。そのような刺激は、感受性が高い等の特性を持つ人に対して様々な不調を誘発する。
【0003】
具体的には、人混み環境がもたらす刺激としては、自らのパーソナルスペース内に他人が接近し、場合によっては更に他人が行き交うことによる緊張刺激;多くの他人が視界に入り、且つ場合によっては更に他人が行き交うことで視線の動きを強要されることによる視界刺激;音及び/又はにおいの刺激;酸素濃度が薄くなることによる酸欠刺激等が挙げられ、これらの人混み環境特有の刺激が、頭痛、めまい、倦怠感、及び/又は疲労感等の不調(以下において、「人混み不調」と記載する。)を誘発する。
【0004】
通常、頓服薬として、頭痛に対しては鎮痛剤が用いられ、めまいに対しては鎮暈剤が用いられる。人混み不調は、人混み環境下に置かれるという所定の条件により誘発される、予測可能な不調であるため、有効な頓服薬があれば望ましい。しかしながら、人混み不調は、頭痛、めまい、倦怠感、疲労感等のうち複数の症状が複合的に生じやすいため、これまでの頓服薬では十分に対応できない。
【0005】
漢方薬の中には、精神科領域において用いられるものがあり、例えば、非特許文献1には、不安及び抑うつに用いられる漢方薬として、ストレスなどで緊張が持続する症状等に対して用いられる、柴胡加竜骨牡蛎湯、四逆散、抑肝散;虚弱で、イライラ、不安、動悸等に対して用いられる桂枝加竜骨牡蛎湯等が記載されており、非特許文献2には、心因性要素が症状を悪化させているめまい等の症状に対して用いられる加味帰脾湯及び加味逍遙散が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Phil 漢方 2018; 70: 3-8. 医中誌
【非特許文献2】Phil 漢方 2014; 47: 20-2. 医中誌
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
漢方薬は多成分系であることから、生体側の複数の作用点に作用することによる複合的な効果が期待できる。しかしながら、一般的に漢方薬は遅効性で、体質改善を目指す目的で用いられるため、人混み不調の症状に対して頓服的に用いられることは想定されていない。また、上述の通り、これまでの頓服薬(西洋薬)では、人混み不調の改善には十分に対応できない。
【0008】
そこで、本発明は、人混み不調を改善できる内服薬を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討を行ったところ、苓桂朮甘湯が、人混み不調を改善できることを新たに見出した。本発明は、この知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 苓桂朮甘湯エキスを含有する、人混み不調改善薬。
項2. 人混み環境で誘発される、頭痛、めまい、倦怠感、及び/又は疲労感を改善するために用いられる、項1に記載の人混み不調改善薬。
項3. 満員車両での乗車により誘発される不調を改善するために用いられる、項1又は2に記載の人混み不調改善薬。
項4. 人混み環境に晒される6時間以内に服用する、項1~3のいずれかに記載の人混み不調改善薬。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、人混み不調を改善できる内服薬が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示の人混み不調改善薬は、苓桂朮甘湯エキスを含有し、人混み不調の改善に用いられることを特徴とする。以下、本開示の人混み不調改善薬について詳述する。本明細書において、2つの数値と「~」とにより示される数値範囲は、当該2つの数値を下限値及び上限値として含むものとする。例えば、2~15重量%との表記は、2重量%以上15重量%以下を意味する。
【0013】
苓桂朮甘湯エキス
苓桂朮甘湯の漢方処方としては、「新 一般用漢方処方の手引き」(合田 幸広・袴塚 高志監修、日本漢方生薬製剤協会編集、株式会社じほう発行)に記載されている漢方処方が好ましく、具体的には、ブクリョウ、ビャクジュツ(ソウジュツも可)、ケイヒ、及びカンゾウからなる混合生薬が挙げられ、好ましくは、ブクリョウ、ソウジュツ、ケイヒ、及びカンゾウからなる混合生薬が挙げられる。また、苓桂朮甘湯には、漢方生薬調査会により定められた「漢方製剤の基本的取扱い方針」に規定されるように、現在繁用されている漢方関係の書簡に記載されている混合生薬(漢方処方)が包含される。
【0014】
また、苓桂朮甘湯を構成する各生薬の分量としては、ブクリョウ2~6重量部、好ましくは3~6重量部;ビャクジュツ(ソウジュツも可)1~4重量部、好ましくは2~3.5重量部;ケイヒ1~4重量部、好ましくは2~4重量部;カンゾウ0.5~3重量部、好ましくは1~2重量部が挙げられる。
【0015】
本開示で使用される苓桂朮甘湯エキスの製造に供される生薬調合物の好適な例としては、ブクリョウ6重量部、ビャクジュツ(好ましくはソウジュツ)3重量部、ケイヒ4重量部、及びカンゾウ2重量部が挙げられる。
【0016】
苓桂朮甘湯のエキスの形態としては、軟エキス等の液状のエキス、及び固形状の乾燥エキス末のいずれであってもよい。
【0017】
苓桂朮甘湯の液状のエキスは、苓桂朮甘湯処方に従った混合生薬を抽出処理し、得られた抽出液を必要に応じて濃縮することにより得ることができる。また、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末は、液状のエキスを乾燥処理することにより得ることができる。
【0018】
苓桂朮甘湯のエキスの製造において、抽出処理に使用される抽出溶媒としては、特に限定されず、水又は含水エタノールが挙げられる。苓桂朮甘湯の抽出処理としては、特に限定されないが、例えば、苓桂朮甘湯に含まれる生薬の総重量(乾燥重量換算)に対して、5~15倍量程度の抽出溶媒で抽出した後、1/2容量になるまで濃縮し、固形分を除いたものを、苓桂朮甘湯の液状エキスとして得る方法が挙げられる。また、この液状エキスを乾燥処理に供することにより、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末が得られる。乾燥処理としては、特に限定されず、公知の方法を用いればよく、例えば、スプレードライ法、及びエキスの濃度を高めた軟エキスに適当な吸着剤(例えば無水ケイ酸、デンプン等)を加えて吸着末とする方法等が挙げられる。
【0019】
本開示において苓桂朮甘湯としてエキスを使用する場合、前述の方法で調製したエキスを使用してもよいし、市販されるものを使用してもよい。
【0020】
本開示の人混み不調改善薬において、苓桂朮甘湯エキスの含有量としては、本開示の効果を奏する限り特に限定されないが、苓桂朮甘湯エキスの乾燥エキス末量換算で、通常5~100重量%、好ましくは10~90重量%、より好ましくは20~80重量%、更に好ましくは30~70重量%が挙げられる。なお、本開示において、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末量換算とは、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末を使用する場合にはそれ自体の量であり苓桂朮甘湯の液状のエキスを使用する場合には、溶媒を除去した残量に換算した量である。また、苓桂朮甘湯の乾燥エキス末が、製造時に添加される吸着剤等の添加剤を含む場合は、当該添加剤を除いた量である。
【0021】
その他の成分
本開示の人混み不調改善薬は、苓桂朮甘湯エキス単独からなるものであってもよく、製剤形態に応じた添加剤及び/又は基剤を含んでいてもよい。このような添加剤及び基剤としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、等張化剤、可塑剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、湿潤化剤、安定化剤、懸濁化剤、粘着剤、コーティング剤、光沢化剤、水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、低級アルコール類、多価アルコール、pH調整剤、緩衝剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、防腐剤、矯味剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの添加剤及び基剤の含有量については、使用する添加剤及び基剤の種類、人混み不調改善薬の製剤形態等に応じて適宜設定される。
【0022】
また、本開示の人混み不調改善薬は、苓桂朮甘湯エキスの他に、必要に応じて、他の栄養成分及び/又は薬理成分を含有していてもよいし、含有していなくてもよい。このような栄養成分及び薬理成分としては、薬学的に許容されることを限度として特に制限されないが、例えば、制酸剤、健胃剤、消化剤、整腸剤、鎮痙剤、粘膜修復剤、抗炎症剤、収れん剤、鎮吐剤、鎮咳剤、去痰剤、消炎酵素剤、鎮静催眠剤、抗ヒスタミン剤、カフェイン類、強心利尿剤、抗菌剤、血管収縮剤、血管拡張剤、局所麻酔剤、生薬エキス(苓桂朮甘湯エキス以外)、ビタミン類、メントール類等が挙げられる。これらの栄養成分及び/又は薬理成分は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの成分の含有量については、使用する成分の種類、人混み不調改善薬の製剤形態等に応じて適宜設定される。好ましくは、本開示の人混み不調改善剤は、苓桂朮甘湯エキスの他に、栄養成分及び薬理成分を含有しない。
【0023】
製剤形態
本開示の人混み不調改善薬の製剤形態については、経口投与が可能であることを限度として特に制限されないが、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤(ドライシロップを含む)、錠剤、丸剤、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)等の固形状製剤;ゼリー剤等の半固形状製剤;液剤、懸濁剤、シロップ剤等の液状製剤が挙げられる。これらの製剤形態の中でも、含有成分の安定性及び携帯性等の観点から、好ましくは固形状製剤が挙げられる。
【0024】
本開示の人混み不調改善薬を前記製剤形態に調製するには、苓桂朮甘湯エキス、並びに必要に応じて添加される添加剤、基剤、栄養成分及び/又は薬理成分を用いて、医薬分野で採用されている通常の製剤化手法に従って製剤化すればよい。
【0025】
用途
本開示の人混み不調改善薬は、人混み不調の改善を目的として用いられる。人混み不調は、満員車両(例えば、満員電車、満員バス等)内、繁華街、イベント会場等の、人が密集している環境に晒されることによって誘発される不調である。
【0026】
人混み不調の例としては、例えば、自らのパーソナルスペース内に他人が接近し、場合によっては更に他人が行き交うことによる緊張刺激;多くの他人が視界に入り、且つ場合によっては更に他人が行き交うことで視線の動きを強要されることによる視界刺激;音及び/又はにおいの刺激;並びに/若しくは、酸素濃度が薄くなることによる酸欠刺激等の、人混み環境に特有の刺激により誘発される不調が挙げられる。
【0027】
人混み不調のより具体的な例としては、頭痛、めまい、倦怠感、及び/又は疲労感等が挙げられる。
【0028】
これらの人混み不調の中でも、人混み不調の改善効果をより一層高める観点から、好ましくは、満員車両内の環境に特有の刺激によってもたらされる不調が挙げられ、より好ましくは、満員車両内の環境に特有の刺激によってもたらされる、頭痛、めまい、倦怠感、及び/又は疲労感が挙げられる。
【0029】
人混み不調に晒される時間帯については特に限定されず、例えば、6時以降12時経過前(朝の満員電車に乗車する時間帯を含む。)、12時以降17時経過前、17時以降20時経過前(夕方の満員電車に乗車する時間帯を含む。)、20時以降24時経過前等が挙げられ、好ましくは17時以降20時経過前が挙げられる。
【0030】
用量・用法
本開示の人混み不調改善薬は経口投与によって使用される。本開示の人混み不調改善薬の用量については、投与対象者の年齢、性別、体質、症状の程度等に応じて適宜設定される。例えば、ヒト1人に対して1日当たり、苓桂朮甘湯エキスの乾燥エキス末量換算で0.3~2g、好ましくは0.6~1.5gとなる量で、1日1~3回、人混み環境に晒される回数に応じて服用できる。また、例えば、ヒト1人に対して1回当たり、苓桂朮甘湯エキスの乾燥エキス末量換算で0.1~1g程度、好ましくは0.2~0.75g、より好ましくは0.3~0.5gとなる量で、1日1~3回、好ましくは2回服用できる。
【0031】
服用タイミングについては、特に制限されず、食前、食後、又は食間のいずれであってもよい。本開示の人混み不調改善薬は即効性があるため、頓服薬として用いることができ、例えば、人混み不調を予防することを目的として、人混み環境に晒される6時間以内、好ましくは5時間以内、より好ましくは4時間以内、さらに好ましくは3時間以内に服用できる。
【実施例0032】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0033】
苓桂朮甘湯エキス顆粒の製造
原料生薬を、ブクリョウ6重量部、ソウジュツ3重量部、ケイヒ4重量部、及びカンゾウ2重量部の割合で用い、これらを刻んだ後、水12倍重量を用いて約100℃で1時間抽出し、遠心分離して抽出液を得、減圧下で濃縮してスプレードライヤーを用いて乾燥し、苓桂朮甘湯エキス末を得た。得られた苓桂朮甘湯エキス末は、原料生薬混合物15g当たり1.5gであった。なお、スプレードライヤーによる乾燥は、抽出液を回転数10000rpmのアトマイザーに落下させ、150℃の空気の熱風を供給して行った。さらに、得られた苓桂朮甘湯エキス末を用いて顆粒製剤を調製した。1日当たりの苓桂朮甘湯エキス末の服用量は0.75g、1回当たりの苓桂朮甘湯エキス末の服用量は0.325gとした。
【0034】
試験例
人混み不調を訴える男女8名を被験対象とした。これらの被験対象は、満員電車に乗車した時に、頭痛、めまい、倦怠感、及び/又は疲労感の不調(パニック発作は含まない)を感じていた。
【0035】
朝の満員電車及び夕方の満員電車(いずれも混雑度が同程度となる時間帯を選択した。)それぞれに乗車する3時間前(食前又は食間)に、苓桂朮甘湯エキス0.375g(乾燥エキス換算量)となる用量の顆粒剤を服用した。
【0036】
1回の服用による人混み不調の改善効果について、人混み不調の総合的な改善効果、並びに、人混み不調のうち訴えがある各々の不調(具体的には、頭痛、倦怠感、疲労感、めまい)の改善効果について、「感じた」「どちらかといえば感じた」「どちらともいえない」「どちらかといえば感じなかった」「感じなかった」のいずれかの評価にて回答を得た。それぞれの評価で回答した人数の比率(%)を表1に示す。また、表1では、「感じた」「どちらかといえば感じた」と評価した人数の合計の比率(%)を有効ポイントとして併せて示した。
【0037】
【表1】
【0038】
表1に示す通り、苓桂朮甘湯エキスを乗車前に服用することで、満員電車に乗った時に誘発される人混み不調の様々な症状が改善され、人混み不調の総合的な改善効果について、高い有効ポイントが得られた。特に、当該不調の中でも、夕方における満員電車に乗った時に誘発される人混み不調については、人混み不調の総合的な改善効果について有効ポイント100%が達成され、極めて高い改善効果が得られた。