(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024029771
(43)【公開日】2024-03-06
(54)【発明の名称】発電装置、及び波力発電システム
(51)【国際特許分類】
F03B 13/14 20060101AFI20240228BHJP
【FI】
F03B13/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023134262
(22)【出願日】2023-08-21
(31)【優先権主張番号】P 2022131691
(32)【優先日】2022-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】503420833
【氏名又は名称】学校法人常翔学園
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100199347
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 泰士
(72)【発明者】
【氏名】脇本 辰郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 健司
(72)【発明者】
【氏名】重松 孝昌
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 真弥
(72)【発明者】
【氏名】平田 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】比嘉 謙太
(72)【発明者】
【氏名】植田 芳昭
【テーマコード(参考)】
3H074
【Fターム(参考)】
3H074AA02
3H074AA12
3H074BB11
3H074CC11
(57)【要約】
【課題】発電効率の向上を図ることができる発電装置、及び波力発電システムを提供する。
【解決手段】流体の流れを利用して発電する発電装置1であって、サボニウス型の構造を有する回動部10と、前記回動部10と離間して設けられ、前記回動部10と対向する第1主面20aを有する遮蔽板20と、を備える。前記回動部10は、前記流体の上流USから下流DSに沿って回動する送り部Aと、前記下流DSから前記上流USに沿って回動する戻り部Bと、を有し、前記遮蔽板20は、前記流体の流れる流路方向Yに対して傾斜し、前記上流USにおける前記戻り部DSに近接して設けられることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流れを利用して発電する発電装置であって、
サボニウス型の構造を有する回動部と、
前記回動部と離間して設けられ、前記回動部と対向する第1主面を有する遮蔽板と、
を備え、
前記回動部は、
前記流体の上流から下流に沿って回動する送り部と、
前記下流から前記上流に沿って回動する戻り部と、
を有し、
前記遮蔽板は、前記流体の流れる流路方向に対して傾斜し、前記上流における前記戻り部に近接して設けられること
を特徴とする発電装置。
【請求項2】
前記回動部の回動軸に沿った高さ方向において、前記遮蔽板の長さは、前記回動部の長さ以上であること
を特徴とする請求項1記載の発電装置。
【請求項3】
防波堤のスリットに侵入する水を利用して発電する波力発電システムであって、
請求項1又は2記載の発電装置を備え、
前記発電装置は、前記防波堤のスリット、又は前記防波堤の前記スリットと繋がる遊水室に設けられること
を特徴とする波力発電システム。
【請求項4】
前記遮蔽板は、前記流路方向に対して20°以上40°以下の角度を有して設けられること
を特徴とする請求項3記載の波力発電システム。
【請求項5】
前記流路方向から見て、前記遮蔽板は、前記回動部と重なって設けられること
を特徴とする請求項3記載の波力発電システム。
【請求項6】
前記流路方向と直行する幅手方向から見て、前記遮蔽板の前記第1主面は、前記回動部の回転軸と重なること
を特徴とする請求項3記載の波力発電システム。
【請求項7】
前記遮蔽板は、
前記上流における前記戻り部に近接して設けられた第1遮蔽板と、
前記下流における前記送り部に近接して設けられた第2遮蔽板と、
を含むこと
を特徴とする請求項3記載の波力発電システム。
【請求項8】
前記第1遮蔽板及び前記第2遮蔽板は、前記流路方向に対してそれぞれ異なる角度を有して設けられること
を特徴とする請求項7記載の波力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電装置、及び波力発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流れを利用して発電する発電装置として、例えば特許文献1の波力発電システム等が提案されている。
【0003】
特許文献1では、防波堤と、防波堤に設けられた水車と、水車の回転と連動して回転する回転軸と、回転軸の回転に伴って発電を行う発電機とを備える波力発電システムが開示されている。特許文献1の波力発電システムは、防波堤には、スリットおよびスリットと連絡した遊水室が設けられており、水車はスリットおよび遊水室の少なくとも一方に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、水車としてサボニウス型のほか、ダリウス型またはジャイロミル型の構造を用いることができる旨が開示されている。ここで、サボニウス型の構造を用いた発電装置において、発電効率の向上が課題として挙げられている。この点、特許文献1の開示技術では、サボニウス型の構造に着目した発電効率の向上については、記載も示唆もされていない。
【0006】
そこで本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、発電効率の向上を図ることができる発電装置、及び波力発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明に係る発電装置は、流体の流れを利用して発電する発電装置であって、サボニウス型の構造を有する回動部と、前記回動部と離間して設けられ、前記回動部と対向する第1主面を有する遮蔽板と、を備え、前記回動部は、前記流体の上流から下流に沿って回動する送り部と、前記下流から前記上流に沿って回動する戻り部と、を有し、前記遮蔽板は、前記流体の流れる流路方向に対して傾斜し、前記上流における前記戻り部に近接して設けられることを特徴とする。
【0008】
第2発明に係る発電装置は、第1発明において、前記回動部の回動軸に沿った高さ方向において、前記遮蔽板の長さは、前記回動部の長さ以上であることを特徴とする。
【0009】
第3発明に係る波力発電システムは、防波堤のスリットに侵入する水を利用して発電する波力発電システムであって、第1発明又は第2発明記載の発電装置を備え、前記発電装置は、前記防波堤のスリット、又は前記防波堤の前記スリットと繋がる遊水室に設けられることを特徴とする。
【0010】
第4発明に係る波力発電システムは、第3発明において、前記遮蔽板は、前記流路方向に対して20°以上40°以下の角度を有して設けられることを特徴とする。
【0011】
第5発明に係る波力発電システムは、第3発明において、前記流路方向から見て、前記遮蔽板は、前記回動部と重なって設けられることを特徴とする。
【0012】
第6発明に係る波力発電システムは、第3発明において、前記流路方向と直行する幅手方向から見て、前記遮蔽板の前記第1主面は、前記回動部の回転軸と重なることを特徴とする。
【0013】
第7発明に係る波力発電システムは、第3発明において、前記遮蔽板は、前記上流における前記戻り部に近接して設けられた第1遮蔽板と、前記下流における前記送り部に近接して設けられた第2遮蔽板と、を含むことを特徴とする。
【0014】
第8発明に係る波力発電システムは、第7発明において、前記第1遮蔽板及び前記第2遮蔽板は、前記流路方向に対してそれぞれ異なる角度を有して設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明~第8発明によれば、遮蔽板は、流路方向に対して傾斜し、上流における戻り部に近接して設けられる。このため、回動部の回動に伴い、下流における戻り部付近に発生する渦を抑制することができる。これにより、渦の発生に起因する回動部の駆動力低下を防ぐことができる。従って、発電効率の向上を実現することが可能となる。
【0016】
特に、第2発明によれば、遮蔽板の長さは、回動部の長さ以上である。このため、回動部の下端から上端までに発生し得る渦の発生を抑制することができる。これにより、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0017】
特に、第3発明によれば、発電装置は、防波堤のスリット、又は遊水室に設けられる。このため、回動部に作用する水の流れる向きの変動を、スリットにより抑制することができる。これにより、効率的に渦の抑制を実現することが可能となる。
【0018】
特に、第4発明によれば、遮蔽板は、流路方向に対して20°以上40°以下の角度を有して設けられる。このため、渦の発生抑制に加え、遮蔽板が回動部に接触する可能性を低減することができる。これにより、発電装置の劣化を抑制することが可能となる。
【0019】
特に、第5発明によれば、流路方向から見て、遮蔽板は、回動部と重なって設けられる。このため、戻り部の回動に影響する水の作用を抑制することができる。これにより、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0020】
特に、第6発明によれば、幅手方向から見て、遮蔽板の第1主面は、回動部の回転軸と重なる。このため、戻り部の回動に影響する水の作用を抑制することができる。これにより、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0021】
特に、第7発明によれば、遮蔽板は、下流における送り部に近接して設けられた第2遮蔽板を含む。このため、防波堤の内部から外部に流れる水により回動部が回動する際、上流における送り部付近に発生する渦を抑制することができる。これにより、経時に伴い水の流れる向きが変動した場合においても、回動部の駆動力低下を防ぐことができる。従って、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0022】
特に、第8発明によれば、第1遮蔽板及び第2遮蔽板は、流路方向に対してそれぞれ異なる角度を有して設けられる。このため、水の流れる向きによって流速が異なる場合においても、流速に適した渦の抑制を実施することができる。これにより、安定した発電効率の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1(a)は、実施形態における発電装置の一例を示す模式斜視図であり、
図1(b)は、
図1(a)における1B-1Bに対応する模式断面図である。
【
図2】
図2(a)は、本実施形態における波力発電システムの一例を示す模式断面図であり、
図2(b)は、本実施形態における波力発電システムの一例を示す模式正面図であり、
図2(c)は、本実施形態における波力発電システムの一例を示す模式上面図である。
【
図3】
図3(a)は、本実施形態における波力発電システムの一例を示す模式正面図であり、
図3(b)は、本実施形態における波力発電システムの一例を示す模式側面図である。
【
図4】
図4は、遮蔽板の一例を示す模式断面図である。
【
図5】
図5は、評価装置の一例を示す模式図である。
【
図6】
図6(a)及び
図6(b)は、評価対象となる発電装置の一例を示す模式断面図である。
【
図7】
図7は、比較例における粒子画像流速測定法の結果を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例1における粒子画像流速測定法の結果を示す図である。
【
図9】
図9は、比較例、及び実施例1~2の計測結果を示すグラフである。
【
図10】
図10は、比較例、及び実施例3~5の計測結果を示すグラフである。
【
図11】
図11は、比較例、及び実施例6~8の計測結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、比較例、及び実施例9~10の計測結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態における発電装置、及び波力発電システムの一例について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明では、発電装置の回転軸に沿った方向を高さ方向Zとし、発電装置の回動を促進する流体の主経路を流路方向Yとし、高さ方向Z及び流路方向Yと交わる方向を幅手方向Xとする。また、流体の流れる向きに対し、発電装置の回動軸の位置を境に、上流USと下流DSとを分類して説明する。
【0025】
(実施形態:発電装置1)
図1(a)は、実施形態における発電装置1の一例を示す模式図であり、
図1(b)は、
図1(a)における1B-1Bに対応する模式断面図である。
【0026】
発電装置1は、流体の流れを利用して発電するために用いられる。発電装置1は、例えば水や空気等の流体が一定の方向から流れ易い場所に設置される。
【0027】
発電装置1は、例えば
図1(a)に示すように、回動部10と、遮蔽板20とを備える。発電装置1は、例えば図示しない公知の発電機等のような、運動エネルギーを電気エネルギーに変換する装置に接続される。発電装置1は、例えば流体の向きを整えるための整流機構を備えてもよい。
【0028】
<回動部10>
回動部10は、サボニウス型の構造を有する。回動部10は、例えば翼11と、支持部12と、軸13とを含む。回動部10は、流体による負荷が翼11に作用し、支持部12を介して軸13が回動することで、発電に繋げることができる。なお、回動部10は公知のサボニウス型の水車または風車を用いることができる。
【0029】
翼11は、例えば
図1(b)に示すように、円弧状を示す断面の構造を有する。翼11は、例えば高さ方向Zから見て、回転軸Cに対して点対称に2つ設けられる(
図1(b)の11a、11b)。上記のほか、翼11の数は、用途に応じて任意に設けることができる。
【0030】
支持部12は、翼11を支持し、軸13と接続される。支持部12は、例えば高さ方向Zに沿って、翼11を挟んで支持する一対の支持部12a、12bを含む。支持部12は、例えば軸13の位置を中心とした円状を示す。
【0031】
軸13は、高さ方向Zに延在し、回動部10の回転軸Cに相当する。軸13は、例えば発電機等と接続される。例えば、流体が上流USから下流DSへと流れる際、翼11に負荷を与えることで、軸13が回動する。なお、
図1(b)では、流体の流れる向きを、白抜き矢印で示す。
【0032】
回動部10は、送り部Aと、戻り部Bとを有する。送り部Aは、流体の上流USから下流DSに沿って回動する部分を示す。戻り部Bは、流体の下流DSから上流USに沿って回動する部分を示す。即ち、送り部A及び戻り部Bは、回動部10における特定の領域を示す。なお、送り部A及び戻り部Bは、回転軸Cを境に、幅手方向Xに分割して示すことができる。
【0033】
<遮蔽板20>
遮蔽板20は、回動部10と離間して設けられる。遮蔽板20は、例えば
図1(b)に示すように、回動部10と対向する第1主面20aを有する。遮蔽板20は、流路方向Yに対して傾斜し、上流USにおける戻り部Bに近接して設けられる。
【0034】
ここで、回動部10の回動に伴い、下流DSにおける戻り部B付近に流体の渦が発生し得る。この渦により、回動部10の駆動力(回動速度)の低下を引き起こす懸念があることを、発明者らは見出した(
図7の領域P)。また、発明者らは、遮蔽板20を、流路方向Yに対して傾斜し、上流USにおける戻り部Bに設けることで、上記渦の発生を抑制することを確認した(
図8の領域P)。これにより、渦の発生に起因する回動部10の駆動力低下を防ぐことができる。なお、
図7及び
図8の詳細については、後述する。
【0035】
遮蔽板20として、例えば鉄板等の鉄鋼材料が用いられ、風力や水力に耐え得る公知の材料が用いられる。遮蔽板20の形状は任意であり、例えば少なくとも一部が湾曲してもよい。特に、遮蔽板20の形状として、第1主面20aが平坦な板状とした場合、風力や水力等の負荷が集中する部分を少なくすることができ、劣化を抑制することが可能となる。
【0036】
例えば高さ方向Zにおいて、遮蔽板20の長さは、回動部10の長さ以上である。この場合、回動部10の下端から上端までに発生し得る渦の発生を抑制することができる。
【0037】
(実施形態:波力発電システム100)
次に、本実施形態における波力発電システム100の一例について説明する。
図2(a)は、本実施形態における波力発電システム100の一例を示す模式断面図であり、
図2(b)は、本実施形態における波力発電システム100の一例を示す模式正面図であり、
図2(c)は、本実施形態における波力発電システム100の一例を示す模式上面図である。
【0038】
波力発電システム100は、海中に設置された防波堤5に設けられる。防波堤5は、例えば
図2(a)~
図2(c)に示すように、複数のスリット51を含み、例えばスリット51に連設された遊水室52を含んでもよい。なお、波力発電システム100は、防波堤5の特徴に応じて任意に設けることができる。
【0039】
波力発電システム100は、防波堤5のスリット51に侵入する水を利用して発電するために用いられる。波力発電システム100は、上述した発電装置1を備え、例えば発電機30をさらに備える。発電装置1は、例えば
図2(a)に示すように、遊水室52に設けられるほか、例えばスリット51に設けられてもよい。
【0040】
ここで、防波堤5に向かってくる波がスリット51に到達すると、スリット51において水流の方向が流路方向Yに整えられる。このため、発電装置1をスリット51、又は遊水室52に設けることで、回動部10に作用する水の流れる向きの変動を抑制することができる。この場合、水流の方向に対して遮蔽板20が傾斜する位置関係を維持し易くなる。これにより、効率的な渦の抑制を実現することが可能となる。
【0041】
また、海上に波力発電装置を設けた場合、装置の一部が破損すると甚大な被害を及ぼす恐れがある。このため、安全性向上という観点から、波力発電を構成する材料を少なくすることが望まれている。特に、発電装置に作用する水の向きを整えるための整流機構を設けた場合、整流機構の破損に伴う被害が懸念として挙げられる。
【0042】
この点、本実施形態における波力発電システム100では、発電装置1がスリット51、又は遊水室52に設けられる。このため、回動部10の周辺に、水を整流するための整流機構を設ける必要がない。これにより、波力発電システム100の設置に伴う安全性の向上を図ることが可能となる。
【0043】
回動部10及び遮蔽板20は、例えば防波堤5の底面に固定される。回動部10及び遮蔽板20を固定する方法は、任意である。
【0044】
回動部10は、例えば
図2(c)に示すように、軸13を介して発電機30に接続される。発電機30は、例えば遊水室52又はスリット51の上部に設けられる。発電機30は、用途に応じて公知の装置を用いることができる。
【0045】
遮蔽板20は、例えば流路方向Yに対して20°以上40°以下の角度を有して設けられる。例えば遮蔽板を20°未満の角度を有して設けた場合、渦の発生を抑制できない懸念が挙げられる。また、例えば遮蔽板を40°よりも大きい角度を有して設けた場合、遮蔽板が回動部に接触する懸念が挙げられる。これらにより、遮蔽板20を20°以上40°以下の角度を有して設けることで、渦の発生抑制に加え、遮蔽板20が回動部10に接触する可能性を低減することができる。
【0046】
例えば
図3(a)に示すように、流路方向Yから見て、遮蔽板20は、回動部10と重なって設けられる。この場合、戻り部Bに位置する翼11に対し、上流USから下流DSに流れる水の作用を抑制することができる。なお、例えば流路方向Yから見て、遮蔽板20が、戻り部Bから回転軸Cを超える位置まで重なって設けられた場合、送り部Aに流れる水を妨げる懸念が挙げられる。このため、流路方向Yから見て、遮蔽板20が、戻り部Bと、回転軸Cとの間の位置まで重なって設けられることが好ましい。
【0047】
例えば
図3(b)に示すように、幅手方向Xから見て、遮蔽板20の第1主面20aは、回転軸Cと重なる。この場合、戻り部Bに位置する翼11に対し、上流USから遮蔽板20に沿って下流DSに流れる水の作用を抑制することができる。
【0048】
例えば
図4に示すように、遮蔽板20は、上述した位置に設けられた第1遮蔽板20fに加え、下流DSにおける送り部Aに近接して設けられた第2遮蔽板20sを含んでもよい。この場合、防波堤5の内部から外部に向かって流れる水により回動部10が回動する際、上流USにおける送り部A付近に発生する渦を抑制することができる。これにより、経時に伴い水の流れる向きが変動した場合においても、回動部10の駆動力低下を防ぐことができる。なお、各遮蔽板20f、20sの材料及び形状は、同一であるほか、用途に応じて異なる材料又は形状としてもよい。
【0049】
例えば第1遮蔽板20f及び第2遮蔽板20sは、流路方向Yに対してそれぞれ異なる角度を有して設けられる。この場合、水の流れる向きによって流速が異なる場合においても、流速に適した渦の抑制を実施することができる。
【0050】
例えば、防波堤5の外から遊水室52に流れる水流の向きは、スリット51により流路方向Yに整えられる。これに対し、遊水室52から防波堤5の外に流れる水流のうち、スリット51を通過する前の水流の向きは、遊水室52の構造等の特徴により流路方向Yに整えることが難しい。この場合、第2遮蔽板20sの有する第2角度θsが、第1遮蔽板20fの有する第1角度θfとは異なる角度とすることで、遊水室52の特徴に適した第2遮蔽板20sの設置を実現することが可能となる。
【0051】
本実施形態によれば、遮蔽板20は、流路方向Yに対して傾斜し、上流USにおける戻り部Bに近接して設けられる。このため、回動部10の回動に伴い、下流DSにおける戻り部B付近に発生する渦を抑制することができる。これにより、渦の発生に起因する回動部10の駆動力低下を防ぐことができる。従って、発電効率の向上を実現することが可能となる。
【0052】
また、本実施形態によれば、遮蔽板20の高さ方向Zの長さは、回動部10の高さ方向Zの長さ以上である。このため、回動部10の下端から上端までに発生し得る渦の発生を抑制することができる。これにより、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0053】
また、本実施形態によれば、発電装置1は、防波堤5のスリット51、又は遊水室52に設けられる。このため、回動部10に作用する水の流れる向きの変動を、スリット51により抑制することができる。これにより、効率的に渦の抑制を実現することが可能となる。
【0054】
また、本実施形態によれば、遮蔽板20は、流路方向Yに対して20°以上40°以下の角度を有して設けられる。このため、渦の発生抑制に加え、遮蔽板20が回動部10に接触する可能性を低減することができる。これにより、発電装置1の劣化を抑制することが可能となる。
【0055】
また、本実施形態によれば、流路方向Yから見て、遮蔽板20は、回動部10と重なって設けられる。このため、戻り部Bの回動に影響する水の作用を抑制することができる。これにより、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0056】
また、本実施形態によれば、幅手方向Xから見て、遮蔽板20の第1主面20aは、回動部10の回転軸C(例えば軸13)と重なる。このため、戻り部Bの回動に影響する水の作用を抑制することができる。これにより、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0057】
また、本実施形態によれば、遮蔽板20は、下流DSにおける送り部Aに近接して設けられた第2遮蔽板20sを含む。このため、防波堤5の内部から外部に流れる水により回動部10が回動する際、上流USにおける送り部A付近に発生する渦を抑制することができる。これにより、経時に伴い水の流れる向きが変動した場合においても、回動部10の駆動力低下を防ぐことができる。従って、発電効率のさらなる向上を図ることが可能となる。
【0058】
また、本実施形態によれば、第1遮蔽板20f及び第2遮蔽板20sは、流路方向Yに対してそれぞれ異なる角度を有して設けられる。このため、水の流れる向きによって流速が異なる場合においても、流速に適した渦の抑制を実施することができる。これにより、安定した発電効率の向上を図ることが可能となる。
【実施例0059】
次に、本実施形態における波力発電システム100の実施例について説明する。
【0060】
本実施例では、
図5に示す評価装置8を用いて、上述した波力発電システム100の評価を実施した。以下、評価条件及び評価結果について説明する。
【0061】
本実施例では、
図5に示す評価部81内に、回動部10及び遮蔽板20を設置した。回動部10は、軸13を介して計測器7に接続した。評価部81には、経路82を介してポンプ83を接続し、一方向(
図5の矢印の方向)に水が流れる条件を設定した。
【0062】
評価部81は、流路方向Yにおける長さが1,000mm、高さ方向Zにおける高さが300mm、幅手方向Xにおける奥行きが140mmの水槽を用いた。水の流速は、周期が5秒、及び波高が0.5mの波浪による水流と相似する0.078m/sとした。
【0063】
回動部10は、高さが230mm、直径が80mmのサボニウス型の水車を用いた。計測器7に含まれるトルク負荷装置を用いて、回動部10には所定のトルクT[mNm]を与えた。また、計測器7に含まれるロータリーエンコーダを用いて、回転角度を時間の関数として記録し、平均回転数fとトルクTに基づき、回動部10の獲得動力P[mW]=2×π×f×Tを求めた。
【0064】
遮蔽板20は、
図6(a)及び
図6(b)に示す厚さ20tが5mmのアクリル板を用いた。遮蔽板20は、設置枚数、設置角度、長さ20L、設置位置のそれぞれを条件として用い、実施例1~10を設定した。また、比較例として、遮蔽板20を設置しない条件を設定した。
【0065】
【表1】
[表1]は、遮蔽板20の条件毎に、獲得最大動力(動力[mW])、及びその時の負荷トルク[mNm]を評価した結果を示す。[表1]の各条件及び評価結果は、それぞれ
図9~
図12のグラフに対応する。また、比較例1及び実施例1については、粒子画像流速測定法(PIV:Particle Image Velocimetry)を実施した。なお、遮蔽板20の設置位置の条件については、遮蔽板20の下流側の端部を、下流DSの領域に約6mm突出した状態で設置した場合(
図6(a)参照)を「位置A」とした。即ち、幅手方向Xから見て、遮蔽板20の第1主面20aが、回転軸Cと重なる場合を「位置A」とした。また、遮蔽板20の下流側の端部を、上流USの領域に設置した場合(
図6(b)参照)を「位置B」とした。
【0066】
先ず、粒子画像流速測定法の結果として、比較例1が
図7に対応し、実施例1が
図8に対応する。測定結果は、特定の時間における局所流速ベクトルを矢印で示し、渦度強度を色の濃淡で示しており、色が濃くなるほど渦強度が強い状態を示す。なお、
図8における回動部10や遮蔽板20の位置関係は、
図6(a)と同様であり、目安として翼11及び遮蔽板20を付与した。
【0067】
比較例1については、
図7に示す通り、下流DSの領域Pに、渦強度が強い結果を示した。これに対し、実施例1については、
図8に示す通り、下流DSの領域Pには比較例1に比べて渦強度が弱い結果を示した。このため、遮蔽板20の設置に伴い、領域Pの渦強度が弱まり、渦の発生が抑制されることを確認した。
【0068】
次に、実施例1~2、及び比較例1については、遮蔽板20の設置枚数に対する動力を評価した。なお、枚数1の条件は、上述した第1遮蔽板20fの設置位置に相当し、枚数2の条件は、
図4に示す第1遮蔽板20f及び第2遮蔽板20sの設置位置に相当する。結果として、実施例2、実施例1、比較例1の順に高い動力を示した。即ち、遮蔽板20の設置枚数の増加に伴い、得られる動力が高くなる傾向を示した。
【0069】
次に、実施例3~5については、遮蔽板20の設置角度[θ]に対する動力を評価した。結果として、実施例5、実施例4、実施例3、比較例1の順に高い動力を示した。即ち、設置角度が高くなるに伴い、得られる動力が高くなる傾向を示した。
【0070】
次に、実施例6~8については、遮蔽板20の長さ20L[mm]に対する動力を評価した。なお、遮蔽板20の下流側の端部は、「位置A」に統一した。結果として、実施例8、実施例7、実施例6、比較例1の順に高い動力を示した。即ち、遮蔽板20の長さ20Lの増加に伴い、得られる動力が高くなる傾向を示した。
【0071】
次に、実施例9~10については、遮蔽板20の設置位置に対する動力を評価した。結果として、実施例10、実施例9、比較例1の順に高い動力を示した。即ち、遮蔽板20の下流側の端部を「位置B」とした場合に比べて、「位置A」とした場合のほうが、得られる動力が高くなる傾向を示した。
【0072】
上記に示した通り、実施例1における粒子画像流速測定法の結果より、遮蔽板20を設けることで、渦の発生を抑制することを確認した。また、実施例1~10の評価結果は、何れも比較例1に比べて高い動力が得られることを示した。
【0073】
本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。このような新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。